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パネルディスカッション及び質疑応答要旨

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パネルディスカッション及び質疑応答要旨
キヤノングローバル戦略研究所 シンポジウム
「医療改革と経済成長」
2010 年 7 月 13 日 13:00~17:40
国立がんセンター国際研究交流会館 3F 国際会議場
【パネルディスカッション】
パネリスト:西澤延宏氏、神野正博氏、Mr. Howard P. Kern、Dr. Jeffrey Braithwaite
コーディネーター:松山幸弘
(以下、敬称略)
(松山)パネルディスカッションの最初のテーマとして、医療サービスの競争政策を取り
上げてみたいと思います。例えば、センタラのように当該地域医療圏で圧倒的優位にたっ
た医療事業体と独禁法の関係はどうなっているのでしょうか。
(カーン)米国では連邦政府と州政府により独禁法に基づく規制が行われています。これは、
医療に限ったことではなく全ての事業体に適用される仕組みです。医療では当該地域医療
市場において過度なパワーを持っているかどうかの判断基準として病床数が使われていま
す。連邦レベルでは、この規制に連邦裁判所と連邦取引委員会が関係しています。IHN の規
模が大きくなるにつれて連邦取引委員会の医療に対する関心が高くなっています。病院と
医師が一緒に合弁事業に参加することについても規制があります。
(松山)オーストラリアでは医療公営企業の間で競争があるのでしょうか。
(ブライスウェイト)オーストラリアの医療提供体制が公立 3 分の 2、民間 3 分の1となってい
るとはいっても、一般医や病院を健全な形で競争させることが必要だという考えがとられ
ています。患者側はどこで医療を受けてもよい仕組みです。病院が州内で競争することも
あります。例えば、特別な資金提供とか、ケースミックスという仕組みがあり、どのよう
な医療を提供するかによって、また何人患者をみたか、PET とか CT を使ったか、新しい IT
を導入しているかどうか、で資金を取り合っています。公立病院であっても民間病院であ
っても一定の基準を満たさなければならない。そのためのインセンティブもあり、それを
満たせなかった場合の罰則もあります。
(松山)長野厚生連が高度医療センター建設により地域完結型医療システムを創ることで、
他の公立病院や民間病院との関係で何か課題が生じますか。
(西澤)4km離れた所に公立病院があり、そことの競合関係にあります。当方は 3 次救急・
医療を行い、先方は 2 次医療を行うという棲み分けになっています。当方は地域支援の役
割、紹介型の医療を担う。そうはいってもかなり競合しています。
(神野)まず公立病院との競争関係についてですが、能登北部の公立病院とは完全な協力関
係にあります。具体的には、公立病院が手術を行う時などに当方から医師を派遣している。
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一方、車で 15 分くらいの所にある公的病院とはライバル関係にあるかもしれません。地域
医療再生基金は各県に 2 医療圏を選定し 25 億円ずつ合計 50 億円を配布するというもので
す。多くの県は大学に寄付講座を作ってその見返りとして医師を派遣してもらうという仕
組みを作りました。その結果、公立病院に優先的に医師が派遣されるという現象が実際に
起きようとしています。
(松山)会場から「日本では IHN は普及しない」という意見が多く寄せられています。しか
し、長野厚生連は地域完結型の垂直統合した仕組みを創る方向に動いており、神野先生の
“けいじゅヘルスケアシステム”は規模は小さいながらも既に IHN の形ができている。
(神野)あえて言わせてもらえば、これは力関係です。佐久総合病院のように当該医療圏で
強い医療機関が存在すれば、他の病院はいずれ吸収されていきます。したがって、日本の
場合、都道府県がリーダーシップを発揮して市町村立病院の統廃合を進めることで、IHN 化
を図るという方法が考えられます。
(西澤)神野先生の仰るとおりです。各地で医師不足が生じていますので、医師派遣を通じ
てそれまで敵対関係にあった病院間の協力関係ができてくるということがあります。人間
関係ができると患者さんに医療を提供する際の役割分担の協議もできるようになります。
(カーン)米国で IHN 化が進んだのは、医療破壊を招く 2 つの力が働いたからです。ひとつは
医療のために支払うドルが削減されたからです。もうひとつはカイザーパーマネンテのよ
うに力の強い所が牽引者となったからです。
(松山)日本では医師の地域偏在と診療科別ミスマッチが大きい。オーストラリアでは医師
の偏在を解決する政策がとられているのでしょうか。
(ブライスウェイト)非常に興味深い質問です。というのもオーストラリアでは医療提供が均等
になっていないからです。規模が大きく機能がたくさんある病院もあれば、過疎地の病院
には機能がほとんどない状況です。そこで、我々の医学部でも過疎地出身の学生をとるこ
とに力を入れています。
(松山)オーストラリアでは全体の医師配置を決めるのは州政府が行っているのでしょうか、
それとも医療公営企業が行っているのでしょうか。
(ブライスウェイト)一般的には、連邦政府と州政府が医療人材をコントロールしています。人
材配分については医療公営企業、Area Health Service といった地域が行っているのではあ
りません。
(松山)医療施設の配置、設備投資について地域住民がどのようにかかわっているのでしょ
うか。日本では、地域住民は大きな病院を建ててもらうことを希望しがちです。地方議会
も病院建設を政治問題化します。センタラの場合、100 以上のサテライト施設がありますが、
その配置をどのようにして決めているのでしょうか。
(カーン)米国では色々な方法で地域住民の意見を聞いています。例えば、500 万ドル以上の
大きな設備投資、それからハイテク医療機器の投資については州の規制があります。病床
数を増やしてよいのか、病棟を建ててもよいのか、先進的な医療機器を買ってもよいのか、
は州政府が決めます。医療事業体の理事会には地域住民代表やマスコミが入っています。
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(松山)オーストラリアでは施設配置を決めるのは誰ですか、州政府ですか。
(ブライスウェイト)公的資金を使って建設する場合は州政府です。しかし民間の場合は、市場
分析を使って立地はどこがよいのか、ROE がどのくらいか、を見て自分たちで決めています。
(松山)会場からご質問をお願いします。
(会場)日本においても医療機関が地域で垂直統合して協力し合うことが必要ということに
は賛成です。しかし、日本の悲劇は、医療機関があまりにも多くの異なった経営母体によ
って運営されており、しかもそのうち多くが公立であるということです。カーン氏の説明
にあったように米国の場合は経済的なインセンティブが原動力になった。日本の場合は、
経済的なインセンティブで統合が起こるということはありえない。したがって、このよう
な話は絵に描いた餅になってしまうのではないか。この問題をどのように考えるのかを質
問したい。それから、神野先生が「県にリーダーシップをとらせる」ということを言われ
たが、これも反対です。地域医療再生基金もそうですが、官にお金をもたせると官のため
にお金を使う方向に動いてしまうからです。
(松山)ご指摘には 100%賛成です。しかし、日本にも経済的インセンティブのメカニズムが
働く時代がきつつあります。なぜなら、日本の財政はギリシアより遥かに大きなリスクを
抱えていますから、近い将来公立病院に流れている公費を止めることができるからです。
だから、日本は別の理由から垂直統合せざるを得なくなる。後は政治の問題です。社会保
険病院を残すか残さないかという議論はおかしい。そこにある医療資源をどのように最有
効活用するかという視点で議論すれば色々なことが見えてくる。それを国が財政危機で本
当に壊れてしまうまで持っているのでは大変なことになる。
(神野)首長さんたちを説得して町立病院、市立病院や県立病院を統廃合できるのは県しか
ないと考えています。統廃合してできた病院の指定管理者を県が選ぶという形がありうる
のではないかと考えています。ただし、公に任していると民間病院がつらい思いをさせら
れるというのも事実です。
(松山)続きまして医療 IT 投資について追加コメントをお願いしたいと思います。
(カーン)センタラでは医療 IT プロジェクトを eCare と呼んでいます。患者が自分の PC で医
療情報にアクセスできる仕組みです。患者の主治医や医療スタッフが医療情報を共有でき
ます。このプロジェクトのハード面の投資額は 10 年間で 160 百万ドルです。訓練費用等も
含めた全ての投資額は 280 百万ドルです。我々の経済的ベネフィットは、設備投資や経常
経費に対して 30%と計算されています。
(ブライスウェイト)オーストラリアの医療 IT 投資では、ヘルスボールトのマイクロソフトや
そのライバルであるグーグルとも提携しようと検討しています。患者のカルテを患者が管
理する、そして医療事業者にもこの情報を提供できるようなシステムを構築しようとして
います。ここで質問をしてもよいですか。日本はこれまで協力しあうことで色々なことを
実現してきました。日本は医療以外の分野ではうまくできたのに、なぜ医療改革では協力
ができないのですか。
(会場)柔軟性をもって変革を行うことができれば、日本にはこれまでの歴史がありますの
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で、できると思います。しかし、変革するということは、以前の制度であった恩恵をすて
なくてはならない。そのため利害関係者の多くは、現状の制度のままでやっていきたいと
考える。新しい制度に柔軟に対応しようとしないわけです。
(松山)日本の産業の中で医療ほど改革が遅れている分野はないと思います。それは医療技
術の問題ではなく医療のマネジメントに原因があります。そこを改革するには経済的プレ
ッシャーを何らかの形でかける必要がある。わが国の医療提供体制の最大の問題は、税金
で多額の補助を受けている国・公立病院のマネジメントがおかしいということに尽きる。
(会場)日本には国立病院機構、日赤、済生会、社会保険病院といった公立病院があるが、
いずれも北海道から九州までの水平統合である。それ以外に病床数で全体の6割、7割を
占める民間病院があるわけです。そこで、どのようにすれば各地域で色々な機能を持った
医療機関により継ぎ目のない医療を提供するようになるかが問題なのです。一方、財政危
機により県立病院や市町村立病院が存続不能になることは目に見えている。そこで、第一
段階として社会保険病院と厚生年金病院を残して地域医療推進機構という独立行政法人に
することを提案したい。要するに、地域毎に医療経営を考える仕組みを創ることが先決だ。
(松山)次に、癌医療ネットワークについて意見交換したいと思います。例えば、長野厚生
連で高度医療センターを創られますけれども、今の時点で癌医療がどのようになっていて、
将来どのようになるのか、お話をお願いします。
(西澤)日本には癌診療拠点病院という制度があります。先ほど説明した佐久病院の東信地
域、これは神奈川県と同じ面積の地域ですが、ここには癌診療拠点病院は当院しかない。
そこで、主な癌である、肺癌、肝臓がん、乳癌、血液癌の専門医は当院にしかいないので、
そういった疾患は全部当院にきます。今、連携パスといった考え方が出てきているけれど
も、現実にはつながる相手の医療機関がないという問題があります。
(松山)神野先生、石川県はどのようになっているのでしょうか。
(神野)石川県は縦に長い県でして上から下まで 300km近くあります。それが 4 つの医療圏
に分かれており、真ん中の金沢のある石川中央医療圏に癌診療拠点病院が 4 つある。その
上下の医療圏には拠点病院がないわけです。しかも、能登地域は金沢から 100km以上の距
離があり、一番遠い所は 200km離れている。そこから癌拠点病院にどのようにして行くの
か、どのようにフォローしてもらえるのか、という問題があります。
(ブライスウェイト)オーストラリアでは癌ケアの統合を真剣に考えています。癌は心理的、社
会的問題でもあります。患者のメンタルヘルス、家族、友人にとっても重要な問題です。
そこでオーストラリアではよりホリスティック(全身治療)な形で対応している。癌と診
断されたら一般医もしくは家庭医に診てもらう。放射線科医、化学療法専門医にも診ても
らうし、加えてカウンセリング、メンタルヘルスも受けてもらう。また、NPO が癌患者に色々
なサポートを提供しています。つまり、医学的治療だけではないということです。
(松山)本日のテーマが経済成長ですので、次に医療専門人材の育成について議論させて頂
きたいと思います。会場に日本の医療経営人材の育成に取り組んでいる大学の方がおられ
ますので、現状と課題についてコメントを頂きたいと存じます。
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(会場)やはり一挙に地域の経営統合するのは難しい。しかし、その前段として地域で協力
して行うことのできる事業があるのではないか。その一つとして人材育成があるように思
う。地域で研修を一緒に行う。また、医療情報の共有もある。地域連携加算がある。また、
地域における共同購入も考えられる。今後、地域の保険者の統合が始まります。そこに大
きな地域統合のきっかけがあるように思います。
(カーン)センタラは、看護師や医療関連人材育成のカレッジを持っています。センタラ内部
で人材育成を図ることが効率的なのですが、他の大学、教育機関からも人材の提供を受け
ています。
(松山)医師、看護師以外のスタッフの育成に関して長野厚生連ではどうでしょうか。
(西澤)それがないのが最大の課題です。医療経営人材の育成というのはほとんどできてい
ないのが現状です。
(神野)以前に経済産業省がテキストを作った中でいくつか生き残ったものがあります。ま
た、病院団体の方で医療経営人材育成プログラムを作っている。これらを活用することぐ
らいしかできていない。職員を大きな病院に派遣して勉強をしてもらうことぐらいしかな
いのが現状です。
(ブライスウェイト)オーストラリアでは医師・看護師の訓練、その他医療スタッフの訓練、経
営人材の訓練が行われています。この政策は連邦政府が作っています。
(会場)ブライスウェイトさんにお尋ねします。オーストラリアでは働く場所と診療科目に
ついて 100%医師の選択に任されているのでしょうか、それとも行政がある程度強制力をも
って決めているのでしょうか。
(ブライスウェイト)政府は医師の行き先について影響力を行使しようとはしていますが、政府
に強制力はなく、医学生自身が決めることです。一方、大学として入学生の一部は過疎地
からとりましょう、例えば、先住民であるアボリジニ人を何%いれましょう、ということ
をしています。こうして医師になった者の中には過疎地赴任を選ぶ人が現われてくる。
(カーン)米国には規制はありません。米国にも過疎地や医師不足の地域があり、そういう所
から来た学生には授業料を免除するといった仕組みがあります。そのかわりにその過疎地
で働いて下さい、ということを行う。あとは学会などが育成する医師数などを決めている。
(会場)米国やオーストラリアにおける医師セクレタリー、メディカルセクレタリーの給与
水準を教えて下さい。
(カーン)メディカルセクレタリーの給与水準は看護師の半分くらいです。年収ベースで約 2
万 5 千ドルから 3 万ドルですので、給与は高いとは言えません。
(ブライスウェイト)オーストラリアのメディカルセクレタリーの給与水準は看護師の約7割
です。今後、電子カルテが普及し、スタッフが直接それらを使うようになれば、今いる人
たちは必要なくなるでしょう。
(会場)松山先生が日本の医療提供体制の問題は公立病院にあるとされている一方で、病院
数では民間病院が圧倒的に多い。全て公立病院に問題があるというのは極論ではないでし
ょうか。一方、オーストラリアは人口が日本の 5 分の 1 くらいなのに、人口あたり病院数
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は多いように思える。たぶん、国土が広いので小さな病院が多いのではと想像しています。
(ブライスウェイト)そのとおりです。大型病院もあります。米国やヨーロッパの病院と同じく
らいの病院です。しかし、遠隔地には非常に小さな病院があります。
(松山)わが国でなぜ公立病院改革が重要なのかという理由ですが、民間病院は所詮オーナ
ー経営であり、持分有りの営利目的病院に対して強制はできません。彼らの財産権を侵害
することになるからです。健全経営のセーフティネット医療事業体を構築するために公立
病院にもっとお金をつぎ込むべきだと考えています。しかし、今の体制のまま資金をつぎ
込むのは無駄が多い。だから、日本版 IHN の体制を作れる所から支援することを行うべき
と申し上げたわけです。
以上
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