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3 - 中部大学

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3 - 中部大学
中部大学工学部情報工学科
卒業論文
3D 物体の移動操作におけるユーザビリティの評価
中川哲志
2005 年 3 月
A Graduation Thesis of College of Engineering, Chubu University
Evaluation of Usability in Movement Operation for 3D Object
Tetsushi Nakagawa
目次
第 1 章 はじめに
1
第 2 章 空間認識能力
3
2.1 方向性に対する認知の発達的要因 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
3
2.2 方向性に対する認知の発達的段階 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
4
第 3 章 クミタテ Zoo システムの概要
7
3.1 クミタテ Zoo システム . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
7
3.2 クミタテ Zoo の遊び方 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
7
第 4 章 Processing を使用した評価用
アプリケーションの作成
9
4.1 Processing . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
9
4.2 Processing の起動と実行 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
9
4.3 クミタテ Cube . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14
第 5 章 3D 物体の移動操作
15
5.1 3D ボタンによる移動操作 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15
5.2 仮想平面による移動操作 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16
5.3 三面図による移動操作 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17
第 6 章 ユーザビリティの評価
19
6.1 ユーザビリティの定義 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 19
6.2 評価方法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21
6.3 評価結果 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 22
第 7 章 おわりに
27
iii
謝 辞
29
参考文献
31
iv
図目次
2.1 方向性に対する認知の発達的要因 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
3
2.2 方向性に対する認知の発達的段階 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
4
3.1 クミタテ Zoo システムの概要 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
8
3.2 クミタテ Zoo の画面 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
8
4.1 Processing 起動時 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10
4.2 Processing サンプル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12
4.3 Java での描画 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12
4.4 Processing での描画 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12
4.5 クミタテ Cube . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14
5.1 2D ボタンの例 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15
5.2 3D ボタンの例 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16
5.3 視点変更による 3D ボタンの回転 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16
5.4 回転による移動方向の変化 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17
5.5 三面図の例 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17
5.6 三面図による移動 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18
6.1 組み立てるモデル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21
6.2 4 種類のモデル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 22
6.3 習熟度による組み立て時間 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 23
6.4 利便性の良い操作法の結果 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 23
6.5 アンケートによる 5 段階評価の平均 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 24
6.6 5 歳児による 3D ボタンの移動操作 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 25
v
第 1 章 はじめに
子供の空間認識能力が大人の認知水準に達するには,7 歳から長期の過程を必要とし,10
歳前後で完全な空間概念が形成されると報告されている.しかし,適切な経験や訓練を一
定の学習に基づいて与えることにより,年齢的に早い段階で空間概念が獲得できることが
認められている.
藤吉研究室では,子供の空間認識を助長する目的として,知的エンターテイメントコン
テンツ「クミタテ Zoo」が試作された.クミタテ Zoo とは,画面上に表示された動物のモ
デルの分解や組み立てを行なう事で,空間認識能力を遊びながら身に付けてゆく知育ソフ
トである.
このような知育ソフト上で,三次元である物体の移動操作を画面上の二次元操作 (マウ
ス) で行うには限界があり,ユーザの意図する操作が困難な場合がある.また,コンテン
ツ自体は子供を対象としているため,簡単かつ直感的に理解できる物体の移動操作法が必
要となる.そこで本研究では,子供を対象としたコンテンツ上での 3D 物体の移動操作法
の検討と評価を目的とする.
本論文では第 2 章と第 3 章で空間認識とクミタテ Zoo について述べる.また,第 4 章で
評価用アプリケーションであるクミタテ Cube について述べ,第 5 章と第 6 章でユーザビ
リティの評価を示す.
1
第 2 章 空間認識能力
方向性に対する認知は各種様々な要因によって発達的に形成される.また,その発達過程
における発達段階は各実験により大まかに把握することができる [4].発達的要因と発達
的段階について簡単にまとめる.
2.1
方向性に対する認知の発達的要因
方向性に対する認知の発達的要因を図 2.1 に示す.
図 2.1: 方向性に対する認知の発達的要因
これらの各要因は独立して働くものでなく,相互に密接な関連性をもち機能的な働きをな
3
第2章
空間認識能力
すものである.したがって,基本的要因,行動的・経験的要因,知的・概念的要因も厳密
に区別することは困難で,各要因の特性から便宜的に区別したに過ぎない.
方向性に対する認知の発達は「基本的には知覚機能における神経生理学的成熟と知覚
的弁別力の発達を基礎とし,さらに行動空間における感覚・運動的経験や知覚的経験に基
づく自己身体的な方向基準が形成され,さらに思考の発達に基づく言語概念や空間座標,
空間概念の形成によってより高次の認知水準に達する」ということができる.
2.2
方向性に対する認知の発達的段階
方向性に対する認知の発達的段階は図 2.2 に示すように 4 つの段階に分けて考える事が
出来る [4].
図 2.2: 方向性に対する認知の発達的段階
■ 第一段階
乳児期を中心とした発達の初期においては子供の視空間は一定の広がりはもつが空間
自体の上方向,下方向,左右方向等は未分化で分節化された構造をもたず等質的な性格
をもつと予想される.対象自体の上下,左右等の方向の差異を弁別することは困難で,明
確な形態の差異は感覚・運動的経験によって知覚しえても方向性に対する認知は不可能で
ある.
■ 第二段階
歩行が可能となり,立体的行動空間における視覚的経験と運動感覚的経験が豊かになっ
てくると,視空間における上方向と下方向が知覚的に分化されてくる.しかし,視空間自
4
2.2. 方向性に対する認知の発達的段階
体は分化してきても具体的対象物の方向の差異を弁別することは困難で発達的にもおそ
く,これが可能となるのは満 2 歳以降ではないかと思われる.幼児の視空間そのものは年
齢的にかなり早くから,おそらく満 2 歳ないし満 3 歳において,あるていど分化した構造
をもつようになるが,視的対象の方向の差異を弁別し,正しく認知しうるようになるのは
一定の発達過程を必要とするといいうる.そして,発達過程においてその方向間に,垂直
上下 → 水平左右 → 斜方向,といった発達的順位が存在することが明らかになっている.
ここで重要なことは,このような対象方向の認知における方向分化の過程が視空間構造
の分化や知覚的弁別力の発達にのみ存在するものでなく,行動空間における経験と学習に
基づく知的要因の発達によって規定される点である.
■ 第三段階
前段階の半ば,すなわち 3 歳から 4 歳にかけて幼児は自己自身における重力感覚的経験
と視覚的経験を基礎とし,さらに “うえ”“した” 等の言語的 label が自己身体の上下や空間
内事物の上下方向と連合することによって自己身体的な方向基準が形成されてくる.この
段階における方向基準は自己中心的なもので,物理的上下方向と一致せず “上は頭の方,
下は足の方” といった判断をもち,正常な立脚姿勢においては空間方向に対して正しく判
断しうるが,傾斜姿勢や寝位においては誤ることが多い.
いずれにしてもこのような自己身体的な方向基準が形成され,対象方向の判断において
手がかりとなりうることによって,まず対象の垂直上下方向が認知され上方向と下方向の
弁別は正確となる.さらに水平方向が垂直方向との対応において認知されるようになる
が,左方向と右方向の弁別はその対称的特質性から弁別困難で多くの誤りを示すように
なる.
もちろん,このような方向認知の過程はすべて自己身体的基準の形成に帰因するもので
はなく,これらと共に行動空間における具体的対象の知覚的経験と言語的 label の連合に
基づく “うえ”“した” 等の具体的な方向概念が形成され,対象認知において働くことにも
よるものである点を無視することはできない.そして,ここに思考の発達が重要な意味を
もってくるわけである.
以上のような段階は 3,4 歳から 7,8 歳の児童期のはじめにかけて比較的長期の過程を
必要とするように思われる.
5
第2章
空間認識能力
■ 第四段階
前段階においては空間の垂直,水平軸を基準とした座標系がその空間概念において形成
されておらず,自己と空間,自己と対象物との位置・方向の関係系が形成されえない段階
にある.
第四段階に入り操作的思考が発達するとともに,まず自己身体や空間内の枠組のいかん
にかかわらず物理的な垂直・水平方向は不変であることが一定の過程をへて理解されるよ
うになる.そしてこの垂直・水平軸がその空間概念において形成されることにより,対象
方向の認知や orientation が客観的に正確となる.
また一方,空間内における自己と対象および対象相互の前後,左右の位置・方向関係は
固定的なものではなく,視点の移動によって相対的に変化するものであることが理解され
るようになり,空間内事物の位置や方向に対する認知はより正確な水準へと到達する.
さらに,このような垂直・水平軸の形成と左右・前後関係の理解に基づく空間座標が視
覚や運動感覚による感性的経験から独立し,1 つの表象としてまとめられ,思考的に操作
されるようになって真の空間概念が形成され,これに基づく高次の思考的な認知が可能と
なるといえよう.
このように,高次の空間認知水準に達するには, 長期の過程を必要とする. しかし,適
切な経験や訓練を一定の学習に基づいて与えることにより,年齢的に早い段階で空間概念
が獲得できることが認められている. そこで, 以下のような空間概念を助長する目的とし
て, WebToy「クミタテ Zoo」は作成されている.
• 空間概念の理解(空間の垂直, 水平軸を基準とした座標系位置)
• 自己と空間, 自己と対象物との位置・方向の関係系の理解
• 視点の移動によって空間内における自己と対象の位置関係は相互的に変化
• 動物の知識・興味の向上
クミタテ Zoo の詳細は第 3 章にて解説する.
6
第 3 章 クミタテ Zoo システムの概要
3.1
クミタテ Zoo システム
クミタテ Zoo とは,Web 上からさまざまな動物モデルをダウンロードし,コンテンツ
上で動物を組み立て,自分の動物図鑑に保管できるシステムである(図 3.1 参照).また,
保管した動物の情報として,世界中の協力者(動物園・カメラマン)からその動物の動
画・静止画・詳細などを記したテキスト等のデータが提供される.動物を組み立てる遊び
を通じて空間認識の発達と動物知識の向上を目的としたシステムを目指している.
3.2
クミタテ Zoo の遊び方
クミタテ Zoo の動作画面を図 3.2 に示す.
右側にあるパーツ選択ボタンを押すことで移動したいパーツを選択し,モデル移動ボタン
やカメラスライダを併用して動物を組み立てる.組み立てが完成したとき,その動物のな
き声アクションが生じる.また,オプションとしてテクスチャパレットをクリックするこ
とで選択されたパーツのテクスチャを変化することができる.
現在クミタテ Zoo に搭載されたブロックの移動方法は (1) パーツの選択,(2) 移動ボタ
ンが押された分ブロックを移動,という順となっている.このブロックの移動方法も踏ま
えて、子供に対して有効な 3D 物体の移動操作方法を検討していく.
7
第3章
クミタテ Zoo システムの概要
動物園の飼育係
カメラマン
動物の解説文を図鑑に
動物の写真 や 動物の動画 を
投票する
図鑑に投票する
子どもたち
積木職人
子どもたちが遊ぶ3D動物
Webサーバ
データをつくる
積木を 組み立てる
動物図鑑を見る
自分の図鑑に登録する
F
BOY
図 3.1: クミタテ Zoo システムの概要
http://www.vision.cs.chubu.ac.jp/kumitateZoo2001/
テクスチャパレット
パーツ選択ボタン
モデル移動ボタン
カメラスライダ
図 3.2: クミタテ Zoo の画面
8
第 4 章 Processing を使用した評価用
アプリケーションの作成
3D 物体の移動操作方法の評価を行うために評価用アプリケーション「クミタテ Cube」を
作成した.クミタテ Cube の作成には Processing を使用した.
4.1
Processing
Processing とはプログラムにより,インタラクティブなデザインが作成できるアプリ
ケーションであり,以下のような特徴がある.
• Java Applet への出力
• マウス動作に対応
• イメージ・音声・動画などの外部データの取り扱いが可能
4.2
Processing の起動と実行
Processing は Processing のサイトからダウンロードして実行する必要がある. 入手時期
に合った最新バージョンをインストールし, Java アプリケーションとしてコンピュータ上
で起動させる. 図 4.1 に起動した Proce55ing のインタフェイスを示す. 左上に並ぶボタン
の使用方法は以下にまとめて記載する.
9
第4章
Processing を使用した評価用
アプリケーションの作成
• 実行ボタン : プログラムを実行する際に使用.
• 停止ボタン : プログラムを停止する際に使用.
• 新規作成ボタン : 新しいスケッチを用意する際に使用.
• 読込みボタン : ファイルを読み込む際に使用.
• 保存ボタン : ファイルに保存する際に使用.
• 出力ボタン : Java アプレットに出力する際に使用.
(出力結果は Java アプレット表示のための簡単な html ファイルとして出力される)
図 4.1: Processing 起動時
■ 描画モード選択
Processing はプログラムエディタに記載されたプログラムの記述に応じ, 以下の 3 種類
のモードで描画を行う.
• Basic Mode : 静的な描画を行う際に使用.
• Standard Mode : 動的な描画, インタラクティブアクションを取り扱う際に使用.
10
4.2. Processing の起動と実行
• Advanced Mode : 通常の JAVA を用いてプログラミングを行う.
初心者は Basic Mode よりプログラミングを学び, Standard Mode へと移行していく. 先
に DBN を学んだものであれば Standard Mode より開始することも可能であると Processing
のサイトでは記載されている. モードの変更はプログラムの記述方法により自動的に決定
される. Basic Mode を用いて円を描いたプログラムサンプル, 並びに Standard Mode を
用いたマウスドラッグ時に線が描かれるプログラムサンプルを以下に, また実行結果を図
4.2 に示す.
//Basic Mode sample
//Standard Mode sample
size(200, 200);
background(255);
noStroke();
void setup() {
size(200, 200);
noBackground();
refresh();
}
color inside = color(143, 149, 229);
color middle = color(90, 102, 242);
color outside = color(12, 17, 76);
fill(inside);
ellipse(0, 0, 200, 200);
fill(middle);
ellipse(0, 0, 100, 100);
fill(outside);
ellipse(0, 0, 55, 55);
void refresh(){
fill(251, 182, 218);
noStroke();
rect(0, 0, width, height);
}
void loop() {
stroke(255, 0, 0);
if(mousePressed && pmouseX != 0
&& pmouseY != 0) {
line(mouseX,mouseY,pmouseX,pmouseY);
}
■ プログラムの記述方法の比較
次に Java と Processing で同じイメージを描画した際のプログラムを比較する. Process-
ing では Java の import ファイルの宣言等ユーザが記述しなければならない部分を記述し
なくても良い様に, ユーザが直感的に図形を描画することが出来る様にシステムが構築さ
れている. 比較することにより Processing のプログラムが Java のプログラムよりも簡潔
で直感的あるかを見て取ることができる. また, Processing の方が直感的に何の図形を描
画しているかをプログラムより見ることができる.
11
第4章
Processing を使用した評価用
アプリケーションの作成
図 4.2: Processing サンプル
図 4.3: Java での描画
12
図 4.4: Processing での描画
4.2. Processing の起動と実行
//programmed by JAVA
//object.java
import java.applet.Applet;
import java.awt.*;
import java.lang.Object;
public class objects extends Applet{
public void init(){
createImage(150,100);
setBackground(Color.gray);
}
public void paint(Graphics g){
int line_x[] = {12,120,125};
int line_y[] = {50,15,60};
g.setColor(Color.white);
g.fillRect(10,10,60,60);
g.setColor(Color.black);
g.drawRect(10,10,60,60);
g.setColor(Color.white);
g.fillOval(80,10,60,60);
g.setColor(Color.black);
g.drawOval(80,10,60,60);
g.setColor(Color.white);
g.fillPolygon(line_x, line_y, 3);
g.setColor(Color.black);
g.drawPolygon(line_x, line_y, 3);
}
}
//programmed by Processing
size(150,100);
rect(10,10,60,60);
ellipse(80,10,60,60);
triangle(12,50, 120,15, 125,60);
13
第4章
Processing を使用した評価用
4.3
クミタテ Cube
アプリケーションの作成
Processing を使用し,評価用アプリケーションとしてクミタテ Cube を作成した.クミ
タテ Cube は画面上で 3D 表示された 12 個のキューブをキューブを移動させ,モデルを組
み立てるアプリケーションである(図 4.5 参照).
図 4.5: クミタテ Cube
14
第 5 章 3D 物体の移動操作
PC 上の仮想 3 次元空間における対象物の移動操作は 6 方向であるのに対し,マウスによ
る操作は 4 方向であるため,次元数の違いからユーザの意図する操作が困難な場合があ
る.また,子供を対象としてるため直感的に理解できる操作法が必要である.そこで,簡
単かつ直感的に理解できる 3 種類の移動操作法を以下に示す.
5.1
3D ボタンによる移動操作
一般的に図 5.1 のような移動方向を表示した移動ボタンが多く用いられる.
図 5.1: 2D ボタンの例
しかし,図 5.1 のような 2D の移動ボタンでは視点の変更などによる移動方向の変化によ
りユーザの意図する方向に移動させることが難しくなる場合がある.そこで,対象物体を
移動させるボタンを 3D で表現した 3D ボタンによる移動操作を提案する(図 5.2 参照).
移動方向(6 方向)に合わせてボタンを配置し,ボタンを押すことによってその移動方向
15
第5章
3D 物体の移動操作
に対象物体が移動する.
図 5.2: 3D ボタンの例
3D ボタンをクミタテ Cube に実装した結果を図 5.3 に示す.視点変更によりステージが回
転するとそれに応じて 3D ボタンも回転する.
図 5.3: 視点変更による 3D ボタンの回転
5.2
仮想平面による移動操作
マウスの操作としてクリック以外にドラッグがある.そこで,ドラッグを利用した方法
として仮想平面による移動操作法を提案する.対象物体の移動操作は三次元(6 方向)で
あるのに対し,マウスによる操作は二次元(4 方向)であるので,画面上の二次元方向と
平行な面を仮想的に設定し,ドラッグすることでその仮想平面に沿って移動する仕様にし
た.視点変更に対応して移動可能な仮想平面が変更されることによって 6 方向に移動する
ことができる (図 5.4 参照).
16
5.3. 三面図による移動操作
図 5.4: 回転による移動方向の変化
5.3
三面図による移動操作
モデルの作成において最も多く使われている方法として三面図がある.三面図とは対象
を正面,上面,側面の三方向から投影した図面である(図 5.5).
図 5.5: 三面図の例
三面図は特別に製図等を学んだ人でなくても扱い易く,イメージが立て易い.そこで,モ
デルを組み立てる空間を上面,正面,側面の三方向から投影した三面図 (図 5.6 参照) を用
いた操作法を提案する(図 5.6).三面図の任意の位置を指定することにより対象物を移
動する.
17
第5章
3D 物体の移動操作
図 5.6: 三面図による移動
18
第 6 章 ユーザビリティの評価
6.1
ユーザビリティの定義
ユーザビリティとは「あるシステムの機能をユーザーがどのくらい便利に使えるか」と
いう問題を意味している. ユーザーインターフェースのユーザビリティは, 以下の 5 つの
ユーザビリティ特性からなる多角的な構成要素を持っている.
• 学習のしやすさ―システムはユーザーがそれを使って作業をすぐに始められるよう,
簡単に学習できるようにしなければならない
• 効率性―システムは一度ユーザーがそれについて学習すれば, 後は高い生産性を上
げられるよう, 効率的な使用を可能にすべきである
• 記憶のしやすさ―システムは不定期利用のユーザーがしばらく使わなくても, 再び
使うときに覚え直さないで使えるよう, 覚えやすくしなければならない
• エラー発生率―システムはエラー発生率を低くし、ユーザーがシステム使用中にエ
ラーを起こしにくく, もしエラーが発生しても簡単に回復できるようにしなければ
ならない
• 主観的満足度―システムはユーザーが個人的に満足できるよう, また好きになるよ
う, 楽しく利用できるようにしなければならない
以上のようなユーザビリティの定義に基づいて問題点を明確にする方法として, 定性的
手法と定量的手法がある.
19
第6章
ユーザビリティの評価
定性的手法には, ヒューリスティック評価やユーザビリティテストがある. これらの手法
は, ユーザーが実際にシステムを使用し, ユーザーがどのようにシステムを使用するかを
観察することができ, ユーザーのシステム使用時の具体的な意見を得ることが可能である.
定量的手法とは, アンケート調査などである. 定量的手法では, ユーザーの評価を数値に
よって裏付けることができることが最も大きな特徴である. これにより, 複数のシステムと
の比較が可能になる.
以下では, 上述したユーザビリティ評価の各方法について概要を説明する.
■ ヒューリスティック評価
ヒューリスティック評価とはガイドラインに照らし合わせて評価する方法である. この
評価法は, 極めて初期のプロトタイプの段階で評価を行うことが可能であるため, インター
フェース開発の多くの場面で活用されている. しかし, ガイドラインの総数は約 1000 項目
にも及ぶので通常の開発現場では, 独自の経験と感性による評価を実施し, 開発を進めて
いるのが現状である. また, 簡単にまとめた「ニールセンのユーザビリティ10 原則」など
を使用する場合もある.
■ ユーザビリティテスト
ユーザビリティテストとは実際のユーザーによって行われる評価で, 最も基本的で不可
欠なユーザビリティ手法である. この評価を行うことによって, ユーザーがどのようにシス
テムを使用するか, システムにどのような問題が存在するかについて具体的な情報を得る
ことが可能となる.
ユーザビリティテストの方法には, 思考発話法や構成的対話法, 回顧的テスト法, コーチ
ング法等の種類があり, 特に思考発話法は, 最も価値のあるユーザビリティエンジニアリン
グ手法といわれている. 基本的には被験者がシステムを試用しながら, 常に考えたことを
声に出していく方法である. これによって, テストユーザーがどのようにシステムを使うの
か, どこで誤解が生じるのかなどを明確にすることができる.
20
6.2. 評価方法
6.2
評価方法
提案した 3 種類の移動操作法に対し,複数の評価対象を比較することができるユーザビ
リティテストとアンケートによる評価を行った.ユーザビリティテストには評価用アプリ
ケーション「クミタテ Cube」を利用し,モデルの組み立てを行う.
■ アンケート内容
各操作法に対して以下のアンケート項目(a)(b)について 5 段階評価を行った.5 段
階評価は,5 =そのとおりだと思う,4 =多分そう思う,3 =どちらでもない,2 =あまり
そう思わない,1 =全然そう思わない,とした.
(a)操作方法はすぐに理解できた
(b)操作方法は非常に簡単だ
また,各操作法を比較するアンケート項目(c)の調査を行った.
(c)利便性の順位付け
■ ユーザビリティテストの手順
直感的な操作のユーザビリティを評価するために被験者には操作法についての説明は行
わず,モデル(図 6.1 参照)の組み立てを行い,終了後にアンケートの項目(a)(b)の
調査を行う.
図 6.1: 組み立てるモデル
21
第6章
ユーザビリティの評価
これを提案した 3 種類の操作法について行う.各操作法による組み立てが終了した後に
アンケート項目(c)の調査を行う.
次に,習熟度による各操作法のユーザビリティの変化を評価するために連続で 4 種類の
モデル(図 6.2 参照)を組み立てるタスクを行う.
図 6.2: 4 種類のモデル
各タスクが終了した後,再度アンケートの項目(c)の調査を行う.各モデルの組み立
てに費やした完成時間を計測する.
6.3
評価結果
20 歳から 24 歳の 25 人を被験者として評価を行った.図 6.3 に習熟度によるモデル組み
立て時間の平均を示す.また,図 6.4 に初回組み立て時と最終組み立て時における最も利
便性の良い操作法の集計結果を示す.
22
6.3. 評価結果
図 6.3: 習熟度による組み立て時間
図 6.4: 利便性の良い操作法の結果
図 6.3 と図 6.4 より習熟度が上がるにつれて各操作法によるモデルの組み立て時間の差は
なくなり,利便性の結果も偏りがなくなる.初回組み立て時では,三面図を用いた操作は
モデルの完成時間が他の操作法よりも多くかかり,利便性が良いと感じる人が少ないこと
がわかる.一方,3D ボタンと仮想平面は,モデルの完成時間に差はないが,利便性にお
いては 3D ボタンの方が高評価である.初回組み立て時の 3D ボタンと仮想平面のユーザ
ビリティの比較として,アンケート項目 (a)(b) の結果を図 6.5 に示す.
23
第6章
ユーザビリティの評価
図 6.5: アンケートによる 5 段階評価の平均
図 6.5 における 3D ボタンと仮想平面のアンケート評価の有意性を検討するために,分散
を考慮した平均値の差の検定である t 検定を用いた.有意水準 1%で検定した結果,アン
ケート項目 (a) は有意差なしであるが,項目 (b) では有意差ありとなる.つまり,理解の
しやすさは同等であるが,仮想平面よりも 3D ボタンの方が簡単な操作であると被験者が
感じているといえる.
これらの評価の結果から,初回利用時においては 3D ボタンが最もユーザビリティが高
いと評価でき,簡単かつ直感的に理解できることが求められる子供のための 3D 物体移動
操作方法に最も適しているといえる.
■ 子供による 3D ボタンの操作
5 歳児の子供により 3D ボタンの移動操作でモデルの組み立てを行った(図 6.6 参照).
ユーザが意図している操作ができていることが確認できた.
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6.3. 評価結果
図 6.6: 5 歳児による 3D ボタンの移動操作
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第 7 章 おわりに
本研究では,3D 物体の移動操作における評価を行うために,3D 物体でモデルを組み立て
るアプリケーション「クミタテ Cube」を作成した.そして,3D 物体の移動操作につい
て 3 種類の方法を提案し,その有効性をユーザビリティの面から評価した.初回利用時に
おいては 3D ボタンが最もユーザビリティが高いと評価でき,簡単かつ直感的に理解でき
ることが求められる子供のための 3D 物体移動操作方法に最も適しているといえる.今後
は,子供による操作方法の有効性を評価する必要がある.
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謝 辞
本研究を行うにあたり,終始懇切なるご指導を頂きました中部大学工学部 藤吉弘亘 助教
授に謹んで深謝します.
最後に,本研究で行ったアンケート評価において協力して頂いた被験者の皆様及び,藤
吉研究室の皆様に感謝致します.
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参考文献
[1] “医薬学データ用統計解析プログラム” URL:
http://www.gen-info.osaka-u.ac.jp/testdocs/tomocom/
[2] Jakob Nielsen,“ユーザビリティエンジニアリング原論”, 東京電機大学出版局,2002
[3] J.C.Miller,“統計学の基礎”, 培風館,2000
[4] 勝井晃,“方向の認知に関する発達的研究”, 風間書房,1971
[5] “Processing” URL: http://processing.org/
[6] 鈴木忠,“子どもの視点から見た空間的世界”, 東京大学出版社,1996
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3D 物体の移動操作におけるユーザビリティの評価
中川哲志
(中部大学工学部情報工学科)
2005 年 3 月
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