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平成 22 年度 修士論文
エラスチン材料
エラスチン材料の
材料の分解特性に
分解特性に関する研究
する研究
三重大学大学院 工学研究科 博士前期課程
分子素材工学専攻
石田 尚志
1
目次
1 章:序論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
序論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
1-1 再生医療
細胞外マトリックス
1-2 細胞外
マトリックス
1-3 エラスチン
1-4 エラスチン分解酵素
エラスチン分解酵素
1-5 再生医療用人工血管の
再生医療用人工血管の作製
1-6 酵素反応速度論
エラスチン分解酵素阻害剤
1-7 エラスチン
分解酵素阻害剤
本研究の
1-8 本研究
の目的
2 章:実験方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13
・・・・・・・・・・・・・・・13
2-1 水溶性エラスチン
水溶性エラスチンの
エラスチンの調整法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・13
・・・・・・・・・・・・・・・・・・13
不溶性エラスチン
エラスチンの
2-1-1 不溶性
エラスチン
の抽出
水溶性エラスチン
エラスチンの
2-1-2 水溶性
エラスチン
の調整
2-1-3 水溶性エラスチン
水溶性エラスチンの
エラスチンの分画(
分画(凝集温度測定)
凝集温度測定)
エラスチンハイドロゲルの
作成と
2-2 エラスチンハイドロゲル
の作成
と弾性率測定法 ・・・・・・・・・・16
・・・・・・・・・・16
エラスチンハイドロゲルの
2-2-1 エラスチンハイドロゲル
の作成法
2-2-2 弾性率測定法
エラスチン材料
材料の
2-3 エラスチン
材料
の分解特性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20
2-3-1 エラスチンゲルの
エラスチンゲルの分解時間測定法
2-3-2 分子量測定法
アミノ酸分析
2-3-3 アミノ
酸分析
2-3-4 N末端分析
2-3-5 酵素反応時の
酵素反応時の弾性率測定法
2-4 阻害剤添加時の
阻害剤添加時のゲル分解特性
ゲル分解特性・・・・・・・・・・・・・・・・・・
分解特性・・・・・・・・・・・・・・・・・・23
・・・・・・・・・・・・・・・・・・23
阻害剤の
2-4-1 阻害剤
の阻害定数測定法
阻害剤入りの
りの酵素溶液
酵素溶液で
反応時の
エラスチンゲルの
分解率測定法
2-4-2 阻害剤入
りの
酵素溶液
で反応時
のエラスチンゲル
の分解率測定
法
2-4-3 阻害剤入
阻害剤入りの
りの酵素溶液
りの酵素溶液で
酵素溶液で反応時の
反応時のエラスチンゲルの
エラスチンゲルの弾性率測定法
2-4-4 阻害剤を
阻害剤を添加した
添加したエラスチンゲル
したエラスチンゲルの
エラスチンゲルの分解率測定法
分解率測定法
阻害剤を
添加した
したエ
ラスチンゲルの
弾性率測定法
2-4-5 阻害剤
を添加
した
エラスチンゲル
の弾性率測定
法
3 章:実験結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27
3-1 エラスチン
エラスチン材料
スチン材料の
材料の分解特性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
分解特性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27
エラスチンゲルの
3-1-1 エラスチンゲル
の分解時間測定
2
3-1-2 分子量測定
3-1-3 アミノ酸分析
アミノ酸分析
3-1-4 N末端分析
3-1-5 酵素反応時の
酵素反応時の弾性率測定
害剤添加時の
ゲルの
分解特性・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・37
3-2 阻害剤添加時
のゲル
の分解特性
・・・・・・・・・・・・・・・・・
37
3-2-1 阻害剤
阻害剤の
の阻害定数測定
阻害定数測定
3-2-2 阻害剤入りの
阻害剤入りの酵素溶液
りの酵素溶液で
酵素溶液で反応時の
反応時のエラスチンゲルの
エラスチンゲルの分解率測定
3-2-3 阻害剤入りの
阻害剤入りの酵素溶液
りの酵素溶液で
酵素溶液で反応時の
反応時のエラスチンゲル
エラスチンゲルの弾性率測定
3-2-4 ゲルの
ゲルの中に阻害剤を
阻害剤を添加した
添加したエラスチンゲル
したエラスチンゲルの
エラスチンゲルの分解率測定
ゲルの
阻害剤を
添加した
したエラスチンゲル
エラスチンゲルの
3-2-5 ゲル
の中に阻害剤
を添加
した
エラスチンゲル
の弾性率測定
4 章:考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・46
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・46
5 章:結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・58
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・58
6 章:謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・59
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・59
7 章:参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・60
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・60
付録・
付録・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・61
○クロマトグラフィー
クロマトグラフィープロトコル
クロマトグラフィー
プロトコル
3
1 章 序論
1-1 再生医療
再生能力が追いつけないような重篤な疾患の場合、従来は移植などの治療法
に頼ってきた。しかし、移植療法ではドナー不足や免疫的拒絶などの問題があ
る。
そこで、そのような問題を解決する方法として、患者本人の組織から細胞を
取り出し、生体外で増殖・活性化した後再び生体に戻すという、細胞を用いた
再生医療が着目され、今日では研究が行われている。
細胞を生体内に戻す際に、機能を発現できる足場と一緒に移植する方法が検
討されているが、材料工学などの工学的要素が含まれており、組織工学とも呼
ばれている。1)
1-2 細胞外マトリックス
細胞外マトリックス
細胞外マトリックス(ECM:Extra Cellular Matrix)は生物において細胞の
外に存在する分子群のことである。細胞外マトリックスは、様々な増殖因子や
分化誘導因子と同様、細胞の増殖・分解の制御に直接かかわっていることが明
らかにされている組織工学においても、細胞の増殖・分化を人為的に制御する
ために、細胞外マトリックスの機能解明は不可欠である。
細胞外マトリックスは主にコラーゲンやエラスチンといった繊維性タンパク
質、フィブロネクチンやラミニンなどの接着性糖タンパク、プロテオグリカン
やグリコサミノグリカンなどの複合糖質に分類される。
4
1-3 エラスチン
エラスチンは細胞外マトリックスの一つであり、組織の弾性を生み出す繊維
状のタンパク質で動脈や靱帯、肺など弾力性が必要とされる組織に多く発現し
ている。
エラスチンは主にアミノ酸のグリシン、バリン、アラニン、プロリンから成
り、分子量が 64~66kDa である。また、特徴として 4 つのリシンからなるデス
モシン・イソデスモシン等による架橋構造をもつ。4 点架橋という強固な構造で
ある。(Fig.1-1)これらの構造を有する為、エラスチンは弾性に富み、熱や酸・
アルカリ、プロテアーゼに対して抵抗性を持つ。2)
O
H
H
-N-
-C-
-C-
-
O
(CH2)3
C
HC
(CH2)2
HN
C O
(CH2)2
CH
NH
+
N
(CH2)4
-N-
-C-
-C-
-
H H
O
4つのリシン基が結合した形
Fig.1-1
デスモシンの構造
5
1-4 エラスチン分解酵素
エラスチン分解酵素
エラスチンは生体内にある酵素によって分解される。エラスチンを分解する
酵素にはセリンプロテアーゼに属するものとマトリックスメタロプロテアーゼ
(以下MMPと略)に属するものの 2 種類存在する。前者に属する酵素について
述べると以下のような性質がある。(Table 1-1)3)
Table 1-1 エラスチンを分解するセリンプロテアーゼの特徴
酵素名
膵臓エラスターゼ
起源
膵液
膵臓
好中球
白血球エラスターゼ 血小板
脾臓
測定基質
至適pH
エラスチン
Suc-(L-Ala) 3-MCA
Suc-Ala-Pro-Ala-MCA
エラスチン
ヘモグロビン
Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ型コラーゲ
ン
フィブリノーゲン
ヒストン
フィブロネクチン
アゾカゼイン
プロテオグリカン
Meo-Suc-Ala-Ala-Pro-Val-MCA
3-Carboxypropionyl-Ala-Ala-Val-pNA
インヒビター
分子数
DFP
α-プロテアーゼイ
pH7.8~9.0
ンヒビター
25.9KDa
α-マクログロブリン
エラスタチナール
pH8.0
DFP、PMSF
α-プロテアーゼイ
ンヒビター
30KDa
α-マクログロブリン
卵白インヒビター
DFP・・・ジイソプロピルフルオロリン酸
PMSF・・・フッ化フェニルメタンスルホニル
膵臓エラスターゼは膵臓および膵液に局在していて、白血球エラスターゼは
好中球、血小板、脾臓に局在している。両者のエラスターゼは一次構造ならび
に、酵素学的性質が異なる。膵臓エラスターゼは膵臓の分泌顆粒および膵液に
は Pro 酵素として存在し、分泌後トリプシンによって活性型に変換される。一
方白血球エラスターゼは好中球、血小板、脾臓細胞で活性型として顆粒中に蓄
えられ、分泌後エラスチン、各種コラーゲン、フィブロネクチンなどを分解し
肺気腫、リウマチ性関節炎および炎症疾患の病態に深く関与すると考えられる。
6
セリンプロテアーゼは、触媒残基として基質に求核攻撃を行うセリン残基を
持つプロテアーゼのことである。ヒスチジン、アスパラギン酸、セリンの 3 つ
のアミノ酸が触媒活性の発現に関与している。これらの 3 つのアミノ酸配列上
は、隣接していないが、空間的に、Ser-His-Asp の順に水素結合で結ばれるよう
に配置されていて、セリン残基側鎖のγ位の酸素原子の求核性が高められる。
このγ位の酸素原子が基質ペプチドの主鎖のカルボニル炭素に求核攻撃をする
ことから加水分解反応が始まる。また、一般的に活性基のセリン残基を化学修
飾するジイソプロピルホスホフルオリデート(DIPF)によって不可逆に不活
性化される。4)
Table 1-2
セリンプロテアーゼの基質特異性
白血球エラスターゼ
膵臓エラスターゼ
Km
Kcat Kcat/Km
Km
Kcat Kcat/Km
(mM) (S^-1) ({M^-1}{S^-1}) (mM) (S^-1) ({M^-1}{S^Suc-Ala-Ala-Ala-pNA
3.7
2.1
570
5.9
37
6300
Meo-Suc-Ala-Ala-Pro-Val-pNA
0.14
17
120,000
6.2
17
2700
Meo-Suc-Ala-Ala-Pro-Met-pNA
2.4 0.72
300 -
-
-
Meo-Suc-Ala-Ile-Pro-Met-pNA
1.7
6.8
4000 -
-
-
Table 1-2 は白血球エラスターゼと膵臓エラスターゼの基質特異性を示したも
のである。膵臓エラスターゼの最も測定しやすい基質は Suc-Ala-Ala-Ala-pNA
であり、一方白血球エラスターゼは Meo-Suc-Ala-Ala-Pro-Val-pNA をよく加水
分解する。また、これらは Ala や Val の後を加水分解するだけでなく、弱いな
がら Gly、Leu、Ile、Ser の後も加水分解する。また、エラスチンを基質とした
ときの白血球型のエラスターゼの比活性は膵臓型エラスターゼの約 25~40%で、
膵臓型エラスターゼの方がよく分解する。3)
7
一方、エラスチン分解酵素でMMPに属するものは、以下のような性質があ
る。(Table 1-3)
Table 1-3
エラスチンを分解するMMPの特徴
酵素名
産生組織
基質
ゼラチナーゼA
(MMP-2)
線維芽細胞
骨芽細胞
血管内皮細胞
軟骨細胞
単球
平滑筋細胞
がん細胞
ゼラチン、ラミニン
Ⅳ、Ⅴ、Ⅶ、XI型
コラーゲン
フィブロネクチン
エラスチン
ゼラチナーゼB
(MMP-9)
好中球
マクロファージ
がん細胞
Tリンパ球
メトリリシン
(MMP-7)
がん細胞
マクロファージ
メサンギウム細胞
メタロエラスターゼ
(MMP-12)
マクロファージ
ゼラチン
Ⅳ、Ⅴ、Ⅶ、Ⅷ型
コラーゲン
フィブロネクチン
エラスチン
プロテオグリカン
ゼラチン
フィブロネクチン
テネイシン
エラスチン
Ⅳ型コラーゲン
ラミニン
MMP-1の活性
エラスチン
分子量
プロ型
活性型
72KDa
66KDa
92KDa
84KDa
28KDa
19KDa
54KDa
45KDa
MMPは結合組織性細胞、上皮細胞、食細胞、がん細胞などから産出され、
細胞外マトリックスの構成タンパク質を分解する酵素である。基本的な一次構
造は、アミノ酸約 20 残基のシグナルペプチド、互いに相同性を有するプロペプ
チド、触媒ドメイン、C末端ドメインから成る。5)
また、MMPの特徴として、
① 活性中心部にZn2+を有する
② 非活性な前駆体(プロMMP)として細胞より放出される
③ プロペプチドのPRCG[V/N]PD配列をもつ
④ プロMMPは活性化に伴い分子量が減少(約 10kDa)する。
⑤ TIMP(tissue inhibitor of metalloproteinases)により阻害される
⑥ 細胞外か細胞表面で作用する
以上のことがある。
プロMMPはプロペプチドに共通して存在するアミノ酸配列PRCG[V/N]
8
H
PD中のシステイン残基のSH基が活性中心部のZn2+と第 4 番目のリガント
として結合し、Zn2+と水分子との結合を妨げることにより非活性型を維持し
ている。これらの前駆体は、in vitro ではプロテアーゼ系と非プロテアーゼ系
による二つの経路により活性化を受ける。両経路とも最終ステップにはMMP
H
が関与するのが特徴である。(Fig.1-2)
H
S
C
C S
2+
プロテアーゼ
Zn
O
2+
Zn
H
H
H
2+
Zn
MMP
(活性型)
N
S C
H
O
MMP
MMP
MMP中間体
N
プロMMP
(潜在型)
X
C S
2+
Zn
APMA、
尿素、HOCl
O
H
X
H
X
C S
2+
Zn
O
C S
H
2+
Zn
O C
N
MMP 中間体
H
N
N
活性型プロMMP
AMPA:p-アミノフェニル水銀酢酸塩
Fig.1-2
プロMMPの活性化機構
1-5 再生医療用人工血管の
再生医療用人工血管の作製
再生医療用人工血管の考え方を以下のように示す。(Fig.1-3)
分解され、細胞が産生した
ECMにより再生した血管
人工血管
生体内血管
新たに血管ができる
Fig.1-3
再生医療用人工血管
9
Fig.1-3 より、人工血管材料を生体内に入れると、生体内にある酵素が人工血
管材料を分解しようとするが、それと同時に人工血管材料にいる細胞が基質を
つくり、徐々に血管が再生し、最終的に新たな血管ができる。そのことより、
人工血管材料が分解される前に、血管の再生が行われることが重要になってく
る。
1-6 酵素反応速度論
酵素活性の評価は反応速度の測定で行われる。酵素の触媒作用では,酵素 E
と基質 S が酵素基質複合体 ES の形成後,ES から E と S に戻るか、生成物 P が放
出される。それぞれの反応の速度定数を k1 、k2、 kcat とすれば Fig.1-4 の式で
表される。7)
E + S
k1
k2
Fig.1-4
ES
kcat
E + P
酵素の触媒作用
酵素反応速度と基質濃度の関係を表す式として、以下のような式がある。
(Fig.1-5)
(v;反応速度、Km:ミカエリス定数、[S]:基質濃度、Vmax:最大反応速度)
Fig.1-5 ミカエリスメンテンの式
これを一般にミカエリスメンテン(Michaelis-Menten)の式と呼び、Km 値はミ
カエリス定数と呼ばれる。ミカエリス定数は、Km=(k2+kcat)/(k1)と定義され、
酵素-基質複合体の解離定数を示す。Km 値は同一条件であれば、各酵素につき一
定の値となる。Km 値が小さいほど基質が低濃度でも反応が起こることになるの
で、Km 値はその酵素反応が起こりやすいかどうかの目安となる。
Vmax と Km を求める方法としてミカエリスメンテン式の逆数を用いる方法があ
る。(Fig.1-6)
Fig.1-6 ラインウィーバーバークの式
Fig.1-6 はラインウィーバー・バーク(Lineweaver-Burk)の式と呼ばれ、基質
濃度の逆数 1/[S]を横軸に、そのときの反応速度の逆数 1/vを縦軸に図示する
10
と、以下のようになる。(Fig.1-7)
1
v
−
1
Km
1
V max
0
Fig.1-7
1
(S )
ラインウィーバー・バークプロット
再生医療用材料には、分解と再生のバランスの取れた材料の設計が必要とな
る。この分解を抑える方法として、阻害剤を用いる方法がある。阻害とは酵素
反応の速度が抑えられることであり、また、阻害作用をもった化合物を阻害剤
という。酵素活性の阻害は細胞活動を調節する主な要因の1つであり、また阻
害実験は酵素の反応機構を理解するのに役立つ。
阻害剤には非可逆的阻害剤と可逆的阻害剤がある。前者は酵素の活性中心に
一度結合すると離れない物質で、活性中心を変化させて作用を抑える。後者は
酵素と結合するが、条件を変えればまた離れる阻害剤である。可逆的阻害剤の
阻害様式は、競合阻害、非競合阻害、不競合阻害の 3 種類に分けられ、以下の
特徴をもつ。7)(Table 1-4)
Table 1-4
阻害様式とその特徴
ラインウィーバー・
阻害物質が取り込ま
バークプロット
れる酵素分子の形
の変化
縦軸上で交わり、
競合阻害 酵素
勾配が変化する
酵素および
横軸上で交わり、
非競合阻害
酵素基質複合体
勾配が変化する
不競合阻害 酵素基質複合体
平行な線となる
阻害形式
Vmaxの変化 Kmの変化
なし
増大
減少
なし
減少
減少
また、阻害剤の効果を示す定数として、阻害定数 Ki というものがあり、酵素
阻害剤複合体の解離定数のことを示し、Ki の値が小さいほど、阻害効果がある。
11
1-7 エラスチン分解酵素阻害剤
エラスチン分解酵素阻害剤
エラスチン酵素阻害剤の一つとしてアプロチニンが知られている。アプロチ
ンとはセリンプロテアーゼラスチン分解酵素を阻害する物質であり、58 のアミ
ノ酸配列を持つポリペプチドである。(Fig.1-8)
8)
RPDFCLEPPY
TGPCKARIIR
YFYNAKAGLC
QTFVYGGCRA
KRNNFKSAEN
CMRTCGGA
Fig.1-8 アプロチニンのアミノ酸配列
3つのジスルフィド結合 Cys5-Cys55, Cys14-Cys38 ,Cys30-Cys51 によって 3 次元
構造を維持する物質であり、また以下の特徴をもつ。(Table 1-5)
Table 1-5
アプロチニンの特徴
分子量
6512
等電点
10.5
溶解性
水やトリス塩酸といった
buffer に溶解する
アプロチニンに含まれる Lys15,Ala16,Arg17,Arg39 が酵素の活性中心と結合
することにより、基質との酵素反応を阻害する。9)10)11)
1-8 本研究の
本研究の目的
我々の研究室ではエラスチンの組織工学用足場材料としての応用を目指し、ゲル
シート化やファイバーなどの材料にすることができたが、エラスチン材料の分解挙動に
ついては、不明な点が多い。また、再生医療において、組織の再生と足場材料の分解
のバランスが重要である。そこで、本研究ではそのための知見として、足場材料のエラ
スチンがどのように分解されるのかを調べ、さらに分解を制御する方法の調査を目的と
した。
12
2.実験
2-1 水溶性エラスチン
水溶性エラスチンの
エラスチンの調整法
2-1-1 不溶性エラスチン
不溶性エラスチンの
エラスチンの抽出
○試薬
・豚大動脈 (三重県松阪食肉センター)
・塩化ナトリウム (Wako)
・エタノール(99.5%) (Wako)
○機器
・ハサミ
・ポリプロピレン手付きビーカー(5L)
・圧力鍋 (Pearl Plus)
(NIKKO)
・ミキサー(TESCOM)
・プロフィットフィルターS(コトブキ工芸)
・電気バケツ (National)
・電気衣類乾燥機
・洗濯用メッシュ
(TOSHIBA)
(ダイソー)
・アク取りシート
(リード)
○実験操作
① ブタ大動脈血管組織を水道水で洗浄し、血塊や脂質、余分な組織をハサミで
切り取り、さらに、水道水で洗浄した。
② 10%食塩水に浸け、冷蔵庫で一日静置した。
③ ハサミを使い、透明に浮き上がった脂肪やコラーゲン、血塊を除去した。
④ 10%食塩水に浸け、冷蔵庫内にて一日静置した。
⑤ 水道水で洗浄後、圧力鍋に入れ、アク取りシートを被せ加圧加熱を開始し、
沸騰後 1h 煮込んだ。
⑥ 水道水で洗浄し、不純物を除去した後、ミキサーに入れ、一片が 5~10mm 程
度の破片にした。
⑦ 圧力鍋に移し、そこに脱イオン水を加え、加圧加熱を開始。沸騰後 1h 煮込
んだ。
⑧ 圧を抜き、圧力鍋に水道水を入れて洗い、メッシュの袋に血管を移し入れ、
水槽内で水道水を用いて浸し洗いを行った。
⑨ 水槽の水を換え、簡易の水循環装置を取り付け、流し洗いを 24h 行った。
⑩ エラスチンの水をよく切ったらメッシュの袋ごと 5L 手付きビーカーに入れ、
脱イオン水で洗浄した。
13
⑪ 更に水を切り、電気バケツに移し入れ脱イオン水を加え洗浄(10 min×4 回)
した。
⑫ メッシュの袋から出して水をよく切ったエラスチンを 5L 手付きビーカーに
移し、50%エタノール水溶液を入れ、冷蔵庫内で 30 分間静置した。
⑬ 50%エタノール水溶液をよく切った後、70%エタノール水溶液に浸け、冷蔵
庫内で 90 間分静置した。
⑭ 70%エタノール水溶液をよく切った後、90%エタノール水溶液に浸け、冷蔵
庫内で 1 日静置した。
⑮ 90%エタノール水溶液をよく切った後、エラスチンをメッシュの袋に入れて
電気衣類乾燥機で完全に乾燥させた。
2-1-2 水溶性エラスチン
水溶性エラスチンの
エラスチンの調整
○試薬
・不溶性エラスチン粉末
・シュウ酸
○機器
(Wako)
・50ml 遠沈管 (BIOLOGIX)
・500ml 耐圧瓶 (APPROX)
・透析用セルロースチューブ
(三光純薬株式会社)
・遠心分離器 CT 6D (HITACHI)
・pH メーターD-50 (HORIBA)
・膜フィルター(0.45μm)
(ADVANTEC)
・吸引瓶 (VIDREX)
・アスピレーター
・凍結乾燥機 FZ-4.5 (LABCONCO)
・ミキサー (TESCOM)
・茶葉粉砕機 EU6820
(National)
・網ふるい(目開き:600μm)
○実験操作
①
(TOKYO SCREEN CO.LTD.)
乾燥した不溶性エラスチンをミキサーにかけ、粒径が 1mm 程になるまで砕
いた。
② 粗く砕いた不溶性エラスチンを茶葉粉砕機で更に砕き、ふるいにかけて粒径
が 600μm 以下になるまで繰り返した。
③ 耐圧瓶に不溶性エラスチン粉末と 0.25M のシュウ酸水溶液を加え、冷蔵庫で
一晩保存した。
14
④ 一晩シュウ酸に浸け込んだ不溶性エラスチンを耐圧瓶ごと 100℃の浴槽で 1h
加熱した。
⑤ 氷水で十分に冷やした瓶の中身を 50ml 遠沈管に移し、遠心分離(3000rpm・
6min)にかけた。
⑥ 上澄み液を透析用セルロースチューブ(除去分子量 10000~14000)に入れた。
⑦ 残った沈殿は耐圧瓶に戻し、同濃度のシュウ酸を加えて再度 100℃で 1h 加熱
した。
⑧ ⑤~⑦の行程を全てのエラスチンが溶け切るまで繰り返した。この際、採
取された上澄み液は加熱回数に従って区分けした。
⑨ 上澄み液を入れた透析チューブは、水道水で 2~3 日流し洗いをしてから、
脱イオン水で透析を行った。
⑩ 外液の pH が 5~6 程度になったら、内液の pH を測定し、それも 5~6 程度な
ら 50ml 遠沈管に詰めて遠心分離(3000rpm・6min)にかけた。
⑪ その上澄み液を膜フィルター・ガラスフィルターで吸引ろ過し、ろ液を耐圧
瓶に入れ、2~3 日凍結乾燥することで水溶性エラスチンの粉末を得た。
2-1-3 水溶性エラスチン
水溶性エラスチンの
エラスチンの分画(
分画(凝集温度測定)
凝集温度測定)
○試薬
・水溶性エラスチン
○機器
・フォトメーター(Industrial Fiber Optics)
・ヘリウムネオンガスレーザー(Uniphase)
・恒温槽(和科盛商会)
・透過光測定装置
・ディスポセル
・ネジ口試験管(マルエム)
○実験操作
① ねじ口試験管で、水溶性エラスチンが濃度 1%(v/v)になるように脱イオン水
を加え調整した。
② 溶液 3ml をディスポセルに移し変え透過光測定装置にセットした。
③ 恒温槽で溶液の温度を 10 分で 1℃ずつ温度を上昇させ、その時の透過光強度
を測定した。
④ 水溶性エラスチンのクラスを凝集温度によって以下のように定義し、測定し
た水溶性エラスチンの分画を行った。
クラス
A
凝集温度(
凝集温度(℃) ~22.5
B
C
D
E
22.5~
22.5~25
25~
25~30
30~
30~35
35~
35~
15
以上の過程で作製・分画された水溶性エラスチンの内、クラス A と判定され
た物をこれ以降の全ての実験において用いた。
2-2 エラスチンハイドロゲルの
エラスチンハイドロゲルの作成と
作成と弾性率測定法
2-2-1 エラスチンハイドロゲルの
エラスチンハイドロゲルの作成法
○試薬
・水溶性エラスチン
・1,12-dodecanedicarboxylic 4-hydroxyphenyl dimethylsulfonium
methylsulfat
e
/Dode-DSP
・Ethylene Glycol Diglycidyl Ether/EGDE
・Repel-Silane SE
(Wako)
(Pharmacia Biotech)
・塩化アルミニウム六水和物(Wako)
○機器
・試験管 (マルエム)
・キャピラリーチューブ(内径 1mm
・シリコンチューブ(内径 1mm)
外径 1.55mm)
(テフロン)
(AS ONE)
・1.0ml シリンジ (TERUMO)
・遠心分離器 CT 6D (HITACHI)
・ネジ口試験管
(マルエム)
・恒温槽 RE104 (LAUDA)
・高圧蒸気滅菌装置 (アルプ)
○実験操作
① エラスチン濃度が 40%、任意の架橋倍率(エラスチン中のアミノ基数に対する
架橋剤の仕込み比)になるように水溶性エラスチン、架橋剤、脱イオン水を
混合し、遠心分離器(2000rpm・3min)にかけて脱気した。
② 脱気したエラスチン溶液を 3cm の長さに切り、Repel-Silane SE でシリコン
コーティングを行ったキャピラリーに詰め、栓をして密封した後、ネジ口試
験管に入れて、再び遠心分離器(1500rpm・3min)にかけて脱気した。
③ 遠心後、キャピラリーの入ったネジ口試験管を脱イオン水で満たし、70℃に
した恒温槽に入れて 30 分加熱した。
④ その後、キャピラリーを脱イオン水で満たされたネジ口試験管に入れたまま
遠心分離(1500rpm・3min)にかけ、その後、試験管をアルミホイルで包み、
直立させた状態で高圧蒸気滅菌装置に設置し、121℃で 30 分加熱した。
16
⑤ 加熱後、キャピラリーを室温になるまで冷却し、エラスチンゲルをキャピラ
リーから取り出し、0.1M の AlCl3 溶液で、(37℃)18h洗浄した。
疎水性架橋剤 Dode-DSP の構造 2)
Fig.2-2-1
CH3
CH3
S+ CH3SO4-
~N
H
CH3
Dode-DSP
~NH2
NH2~
C
N~
H
架橋構造
+
CH3
2
S+ CH3SO4-
HO
CH3
DSP部分
エラスチン分子鎖
Fig.2-2-2
O
C
=
―――K――
―――K――
+
O
―――K――
C O
O C
―――K――
O
O
CH3
CH3SO4- S+
Dode-DSP とエラスチン鎖の架橋反応 12)
Dode-DSP は Fig.2-2-1 のような構造をもち、Fig.2-2-2 のように、エラスチ
ン分子鎖の NH2 と反応し、架橋構造を作る架橋剤である。
EGDE は Fig.2-2-3 のような構造をもち、Fig.2-2-4 のように、エラスチン分
子鎖の NH2 と反応し、架橋構造を作る架橋剤である。
Fig.2-2-3
親水性架橋剤 EGDE の構造
17
NH2~
=
~N
H
OH
CH2
O
O
OH
架橋構造
エラスチン分子鎖
Fig.3-2-2
EGDE とエラスチン鎖の架橋反応
2-2-2 弾性率測定法
○試薬
・エラスチンハイドロゲル
○機器
・弾性率測定装置
・アナログ計測計算機(アズワン)
18
CH2
―――K―――
~NH2
―――K――
―――K――
+
―――K―――
EGDE
N~
H
動歪み測定器
エラスチンゲル
リニアアクチュエーター
Fig2-1 弾性率測定器
[弾性率(ヤング率)の求め方]12)
断面積 A(㎡)の物体を一軸方向に力 F(N)で引き伸ばし、物体の長さが Io(m)か
ら I(m)へと変形した時、その時の応力 σ(Pa)と歪 γ は次の式で求められる。
σ = F /A
γ=(I
=(Io-I)/Io
フックの法則より、応力の大きさが限界内にあるときは、応力と歪は比例関
係にあるので、弾性率 E(Pa)は次の式で求められる。
E=σ/
E=σ/γ
○実験操作
① 1.5cm 程度に切ったエラスチンゲルの両端にスペーサーを付け、弾性率測定
器で挟み、固定した。
② ゲルが常に脱イオン水(37℃)に浸るようにし、また、測定前のゲルに力が
かからないよう調整し、その時のスペーサー間のゲルの長さを自然長とした。
③ ゲルを一秒間に 0.5mm ずつリニアアクチュエーターで引っ張り、その際、動
歪み計測器に表示される張力をアナログ計測計算機に読み取らせた。
④ ゲルが破断するまで測定を続け、計測値から応力と歪を計算し、弾性率を求
めた。また、自然長と破断時のゲル長から伸びを求め、そこから伸張率以下
の式より求めた。
19
破断時の
=伸張率(%)
破断時の伸び(m)/自然長
(m)/自然長(m)
自然長(m)×100=
(m)
伸張率(%)
2-3 エラスチン材料
エラスチン材料の
材料の分解特性
2-3-1 エラスチンゲルの
エラスチンゲルの分解時間測定法
試薬・
試薬
・機器
○試薬
・DSP 架橋エラスチンゲル(質量 16mg
直径 1mm、高さ 20mm
円柱型)
・PBS[Phosphate Buffered Saline](D8537/SIGMA 500ml)
・ブタ膵臓由来エラスターゼ(コスモ・バイオ)
○機器
・ネジ口試験管 (マルエム)
・インキュベータ IC-450PC(AS ONE)
○実験操作
① 脱イオン水で18時間洗浄したエラスチンゲルを作製した。(2-2-1 参照)
② PBS を溶媒とした 40、10、4、1、0.4、0.1、0.04、0.01U/ml のエラスターゼ
溶液をそれぞれ 6mlずつネジ口試験管の中に入れた。
② その後、DSP 架橋エラスチンゲルをそれぞれの溶液に入れた。
③ 肉眼でゲルが完全になくなるまでの時間を測定した。
2-3-2 分子量測定法
試薬・
試薬・機器
○試薬
・エラスチン A
・DSP 架橋エラスチンゲル
・EGDE 架橋エラスチンゲル
・PBS[Phosphate Buffered Saline](D8537/SIGMA 500ml)
○機器
・紫外吸光度検出器
・高圧溶液ポンプ
・セントリカット(クラボウ)
・遠心分離器 CT 6D (HITACHI)
・Tsk-gelG3000sw(東ソー)
○実験操作
① 16mg のエラスチン A と DSP ゲルと EGDE ゲルを、PBS を溶媒とした酵素溶液
反応させた。(酵素溶液を加えて、37℃インキュベート)
20
② 反応溶液 6mlをセントリカットの中に入れ、2000r.p.mで 1 時間遠心分離
させた。3 層に分離させ、最下層の溶液(分子量 1 万以下)の溶液を取り出し、
これを分解サンプルとした。
③ Gel Filtration Standard を分子量マーカーとしてクロマトグラフィーを行
い、検量線の作成をした。
④ 各々の分解サンプルを展開溶媒 PBS、流速 1ml/min でクロマトグラフィーを
行い、検量線との比較で数平均分子量、重量平均分子量、多分散度の調査を
行った。
クロマトグラフィーの詳細は、付録に記述する。
高分子中に分子量 Mi の分子が Ni 個存在する場合、数平均分子量は、Mn=∑
MiNi/∑Ni で定義され、分子の個数についての平均であり、低分子化合物の影
響を敏感に受ける。重量平均分子量は、Mw=∑Mi2Ni/∑MiNi で定義され、、高
分子量化合物の平均分子量への寄与を重視した重量分率による分子量の平均で
ある。多分散度とは、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で定義され、分
子量分布を示す数値である。もし、全ての分子の分子量が同じ場合、多分散度は、
Mw/Mn=1となり、逆に分布が広いときには Mw/Mn の値は大きくなる。13)
2-3-3 アミノ酸分析
アミノ酸分析
○試薬
・塩酸(Wako)
・エラスチン A
・DSP エラスチンゲル
・EGDE エラスチンゲル
・ニンヒドリン(Wako)
○機器
・全自動アミノ酸分析機
JLC-500/V(日本電子)
○実験操作
① エラスチン A、DSP エラスチンゲル、EGDE エラスチンゲルを膵臓エラスター
ゼで酵素分解させた後に、塩酸で、24 時間反応させ、アミノ酸単体に分解した。
② ニンヒドリン反応で、アミノ酸を呈色させ、全自動アミノ酸分析機にて、サンプルに
含まれるアミノ酸の量を測定した。
2-3-4 N末端分析
○試薬
・エラスチン A
・DSP エラスチンゲル
21
・EGDE エラスチンゲル
○機器
・プロテインシークエンサーProcise 492(PERKIN ELMER)
○実験操作
① エラスチン A、DSP エラスチンゲル、EGDE エラスチンゲルを膵臓エラスターゼ
で酵素分解させた。
② プロテインシークエンサーで、エドマン分解法 14)によるN末端分析を行った。
Fig.2-3-1
エドマン分解法
エドマン分解法とは、N 末端アミノ基と PhenylIsothiocyanate との標識反応
を用いる方法で、標識されたポリペプチドを酸で処理すると、N 末端アミノ酸だ
け取り残される。(Fig.2-3-1) 得られた Phenylthiohydantoin と標準アミノ酸か
ら合成された Phenylthiohydantoin を比較して N-末端アミノ酸を同定する。残
ったポリペプチドに対してもう一度、分解反応を行うこともできる。この反応
は自動化もされている。
2-3-5 酵素反応時の
酵素反応時の弾性率測定法
○試薬
・エラスチンゲル
・膵臓エラスターゼ(コスモ・バイオ)
・PBS[Phosphate Buffered Saline](D8537/SIGMA 500ml)
・塩化アルミニウム 6 水和物(Wako)
○機器
・弾性率測定装置
・アナログ計測計算機(アズワン)
○実験操作
① エラスチンゲルを作製した(2-2-1 参照)
22
② エラスチンゲルを 4U/ml 膵臓エラスターゼ溶液の中に入れ、反応させ、その後弾
性率測定装置で、弾性率・伸張率の測定を行った。(2-2-2 参照)
2-
-4 阻害剤添加時の
阻害剤添加時のゲル分解特性
ゲル分解特性
2-4-1 阻害剤の
阻害剤の阻害定数測定法
○試薬
・合成基質 N-Suc-Ala-Ala-Ala-pNA(ペプチド研究所)
・1-methyl-2-pyrrolidinone(Sigma)
・2-Amino-2-hydroxymethyl-1,3-propanediol(Tris) (Wako)
・塩酸(Wako)
・NaCl(Wako)
・膵臓エラスターゼ(コスモ・バイオ)
・アプロチニン(バイエル)
○機器
・UV-160A(島津)
○実験操作
① 合成基質を 1ml の 1-methyl-2-pyrrolidinone と 0.5MNaCl を含むpH7.5 ト
リス塩酸 100ml に溶解させ、合成基質溶液を作成した。
② 合成基質溶液に、酵素溶液を入れ反応させた後に、吸光光度計で、410nm の波
長の吸収を測定し、ミカエリス定数 Km、最大速度 Vmax を算出した。
③ 基質溶液にアプロチニンを添加した時も同様に②の操作を行い、阻害定数を算出
した。
2-4-2 阻害剤入りの
阻害剤入りの酵素溶液
りの酵素溶液で
酵素溶液で反応時の
反応時のエラスチンゲルの
エラスチンゲルの分解率測定法
○試薬
・PBS[Phosphate Buffered Saline](D8537/SIGMA 500ml)
・膵臓エラスターゼ(コスモ・バイオ)
・アプロチニン(バイエル)
・エラスチンゲル
○機器
・UV-160A(島津)
○実験操作
① PBS を溶媒とした 1、0.5、0.25、0.13mg/ml の濃度のエラスチン溶液を作製
した。
② 分光光度計 UV-160A で 270、275nm の波長での吸光度を測定した。
23
③ 吸光度と濃度のグラフを作製し、検量線を引いた。
④ エラスチンゲルを作製した。(2-2-1 参照)
⑤ エラスチンゲルを、40、20、12、10mg/ml の濃度のアプロチニン溶液入り酵
素溶液(4U/ml)の中に入れ、分解反応後、分解溶液を取り出し、②の操作を
行い、分解溶液の吸光度を求めた。
⑥ 検量線と分解溶液の吸光度より、エラスチンの定量を行い、その後分解率を
求めた。
2-4-3 阻害剤入りの
阻害剤入りの酵素溶液
りの酵素溶液で
酵素溶液で反応時の
反応時のエラスチンゲルの
エラスチンゲルの弾性率測定法
○試薬
・PBS[Phosphate Buffered Saline](D8537/SIGMA 500ml)
・膵臓エラスターゼ(コスモ・バイオ)
・アプロチニン(バイエル)
・エラスチンゲル
○機器
・弾性率測定装置
・アナログ計測計算機(アズワン)
○実験操作
① エラスチンゲルを作製した(2-2-1 参照)
② エラスチンゲルをアプロチニン溶液入り酵素溶液の中に入れ、分解反応後、
エラスチンゲルを取り出し、ゲルの直径を測定し体積変化率を算出した後、
弾性率測定装置で、弾性率・伸張率の測定を行った。(2-2-2 参照)
2-4-4 阻害剤を
阻害剤を添加した
添加したエラスチンゲル
したエラスチンゲルの
エラスチンゲルの分解率測定法
分解率測定法
○試薬
・PBS[Phosphate Buffered Saline](D8537/SIGMA 500ml)
・膵臓エラスターゼ(コスモ・バイオ)
・アプロチニン(バイエル)
・エラスチンゲル
・1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide hydrochloride
/EDC(ペプチド研究所)
○機器
・UV-160A(島津)
○実験操作
① 以下の方法で阻害剤であるアプロチニンを添加したエラスチンゲルを作製
した。
24
条件名
ゲル添加
洗浄添加
ゲル添加+
洗浄添加
内容
2-2-1 の実験操作①の段階でエラスチン質量の 10%の
アプロチニンを添加したゲル
2-2-1 の⑤の段階で、0.1M の AlCl3 洗浄溶液に
40mg/ml のアプロチニンを添加したゲル
2-2-1 の実験操作①の段階でエラスチン質量の 10%のアプロチニン
を添加し、さらに、2-2-1 の実験操作⑤の段階で、0.1M の AlCl3 洗
浄溶液に 40mg/ml のアプロチニンを添加したゲル
2-2-1 の実験操作⑤の段階で、0.1M の AlCl3 洗浄溶液(pH8.5)に
EDC 添加
80mg/ml のアプロチニンを添加し、さらに 80mg/ml の EDC を
添加したゲル
添加なし
アプロチニン添加なし
② 各々のエラスチンゲルを 4U/ml の酵素溶液の中に入れ、分解反応後、溶液を
取り出し、分光光度計 UV-160A で 270、275nm の波長での吸光度を測定した。
③ 検量線と分解溶液の吸光度より、分解溶液中のエラスチンの定量を行い、そ
の後,分解率を求めた。
EDC は以下の構造を持つ。(Fig.2-4-1)
Fig.2-4-1
EDC の構造
EDC とは水に可溶なカルボジイミド基を含む、分子量 191.7 の化合物であり、カルボ
ン酸に対するアミド結合といった脱水縮合剤として用いられる。15)
2-4-5 阻害剤を
阻害剤を添加した
添加したエ
したエラスチンゲルの
ラスチンゲルの弾性率測定法
弾性率測定法
○試薬
・PBS[Phosphate Buffered Saline](D8537/SIGMA 500ml)
・膵臓エラスターゼ(コスモ・バイオ)
・アプロチニン(バイエル)
・架橋倍率 DSP2 倍 EGDE5 倍エラスチンゲル
・1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide hydrochloride
/EDC(ペプチド研究所)
○機器
25
・弾性率測定装置
・アナログ計測計算機(アズワン)
○実験操作
① 2-4-4 の①と同様のエラスチンゲルを作製した。
② エラスチンゲルを酵素溶液の中に入れ、分解反応後、エラスチンゲルを取り
出し、ゲルの直径を測定し体積変化率を算出した後、弾性率測定装置で、弾性
率・伸張率の測定を行った。(2-2-2 参照)
26
3 章 実験結果
3-1 エラスチン材料
エラスチン材料の
材料の分解特性
3-1-1 エラスチンゲルの
エラスチンゲルの分解時間測定
測定した結果以下の通りになった。
濃度と分解時間
80
時間(hour)
60
40
4U/ml のとき
20
7 時間で分解
0
0.01
Fig.3-1-1
0.1
1
濃度(U/ml)
10
100
エラスタ-ゼ濃度と完全にゲルが溶解するまでの時間
Fig3-1-1 より、40U/ml のとき分解時間が 3 時間で、4U/ml のとき分解時間
が 7 時間で、濃度が 0.01U/ml のとき 79 時間という結果になった。
また、このグラフの横軸、縦軸に対数をとると次のようになった。
log時間(hour)
2
1.5
y = -0.40x + 1.09
R2 = 0.99
1
0.5
0
-3
Fig.3-1-2
-2
-1
0
log濃度(U/ml)
1
2
エラスタ-ゼ濃度と完全にゲルが溶解するまでの時間の関係
生体内のエラスタ-ゼ濃度は 0.1mU/ml である。16)ゲルを実際に生体内に入れ
たとき、log(生体内のエラスタ-ゼ濃度)=-4(U/ml)で、
Fig3-1-2 より、y=-0.40×(-4)+1.09
27
=2.69=log(溶ける時間)(hour)
(溶ける時間)=478.9 (hour) なので、約 480 時間(約 20 日)か
かることが分かった。これらの結果より、短時間の実験モデルとして、4U/ml
のものを酵素濃度として使用した。またこのときの 1 時間の分解は生体内に
おいて考えたとき、約 68 時間(約 3 日)であると仮定した。
3-1-2 分子量測定
エラスチンAと DSP 架橋倍率 2 倍エラスチンゲル(以下 DSP ゲルと呼ぶ)と
EGDE 架橋倍率 2 倍エラスチンゲル(以下 EGDE ゲルと呼ぶ)の分解物のクロマト
グラフィーを行い、その溶出曲線から、数平均分子量、重量平均分子量、多
分散度を調査し、エラスターゼがどのようにエラスチンを分解するのか調査
した。エラスチンAのクロマトグラフィーの結果は以下の通りになった。
エラスチンA
0hA
1hA反応
4hA反応
7hA反応
25
20
mV
15
10
5
0
-5 0
5
10
15
20
25
30
時間(分)
Fig.3-1-3
エラスチンAの分解物のクロマトグラム
1hゲル反応
4hゲル反応
7hゲル反応
DSPゲル
25
mV
20
15
10
5
0
-5 0
5
10
15
20
時間(分)
Fig.3-1-4
DSP ゲルの分解物のクロマトグラム
28
25
mV
8
7
6
5
4
3
2
1
0
-1 0
7hゲル反応
補正線
EGDEゲル
y = 0.35x - 2.40
5
10
15
20
時間(分)
Fig.3-1-5
EGDE ゲルの分解物のクロマトグラム
EGDE ゲルの場合、ピークが 0mVまで下がっていないために、補正線を描き、
補正線より、下方の値を削除した結果以下のようなグラフになった。
6
補正したクロマトグラフィー
7hゲル反応補正
mV
5
4
3
2
1
0
-1 0
5
Fig.3-1-6
10
時間[分]
15
20
EGDE ゲルの分解物の補正クロマトグラム
また、分解物分子量測定のための分子量と検出時間の関係は以下の通りにな
った。
分子量と検出時間
1000000
1.0×106
10000 4
1.0×10
1000 3
1.0×10
100 2
1.0×10
分子量
分子量
100000 5
1.0×10
y = 2E+08e -0.91x
R2 = 0.98
10 1
1.0×10
10
1.0×10
0
Fig.3-1-7
5
検出時間(分)
10
分子量と検出時間
29
15
Fig.3-1-7 とそれぞれのクロマトグラム(Fig.3-1-3、4、6)から、数平均分
子量、重量平均分子量、多分散度を求めた結果は以下の通りになった。
(Fig.3-1-8~10)
A数平均
DSPゲル数平均
EGDEゲル数平均
数平均分子量
30003
3.0×10
20003
2.0×10
分子量
分子量
40003
4.0×10
10003
1.0×10
00
0h
1h
4h
7h
反応時間
Fig.3-1-8
数平均分子量と反応時間
A重量平均
DSPゲル重量平均
EGDEゲル重量平均
6.0×10
60003
5.0×10
50003
4.0×10
40003
3.0×10
30003
2.0×10
20003
10003
1.0×10
00
分子量
分子量
重量平均分子量
0h
1h
4h
7h
反応時間
Fig.3-1-9
重量平均分子量と反応時間
A多分散度
DSPゲル多分散度
EGDE多分散度
多分散度
多分散度
6
5
4
3
2
1
0
0h
1h
4h
反応時間
Fig.3-1-10
多分散度と反応時間
30
7h
Fig.3-1-8~10 より、エラスチンAの場合、数平均、重量平均分子量を比較
すると、ともに 0~1h の間で、かなり減少し、その後は、徐々に減少した結
果となった。多分散度は 0~7h に、徐々に増加する結果となった。DSP ゲルの
場合、数平均、重量平均分子量を見ると、4~7h の間で、かなり減少し、多分
散度も 7 時間後には5付近になった。EGDE ゲルの場合、7 時間後には数平均
分子量が 2.0×103、重量平均分子量が 4.0×103 付近になり、多分散度が 2 付
近となった。
3-1-3 アミノ酸分析
アミノ酸分析
今回使用したブタトロポエラスチンは以下のようなアミノ酸配列をもつ。
GGVPGAVPGG VPGGVFFPGA GLGGLG(←
40
27 から 88 に、6P,22G,18A,4V, 7L, 2F,1D, 1K が含まれる
80
→)KA AKAGAGLGGV GGVGGLGVST GAVVPQLQLG
120
AGPGAGAKAP KVPGVGLPGV YPGVTVLPGT GARFPGVGVL
160
PGVPTGYGVL APGGGGAFAG IAGVGPFGGQ QPGVPLGYPI
200
LAPGLLPYGF PGGVAGAAGL AGYPTGTGVG TEAAAAAAAA
240
GAGAAGVLPG VGGAGVPGVP GAIPGIGGIA GVGTPAAAAA
280
KAAAKYGAPG AGVLPGVGVG GVGVPGGAGA IVGIGGIAGA
320
GAVAAAVAAA KAAKYGAAGG LVPGAPGFGP GVGVPGVVGV
360
PGVGVPGVGV PGVGVPGVSV PGVGVPAGGF PGFGVGVGGV
400
PGAALSPAGA VPGPLAAGGA AAAAKAAKLG AAGAGALGGL
440
GGLVVGAGGA VPGVPGAGAV PGVGAPAAAA AKAAAKAAQF
480
GLGPGIGVAP GVGVAPGVGV APGVGVAPGV GVAPGIGIGP
520
GGVIGAGAPA AALSAKAAAK AEFEAAAGLP AGVPGFGVGA
560
GVPGFGVGAG VPGFGAGAVV GPLAAAKAAKYGAA-Gal-ALGGV600
GDLGGAGIPG GVAGVGPAAK AAAKAAQQFG VGGVGGLGVG
640
GLGAVPGAGA FGGVAPAAAK AAK
680
赤文字:架橋領域(KAAK 配列)
Fig.3-1-11
青文字:接着領域(VGVAPG 配列)
ブタトロポエラスチンのアミノ酸配列 15)
また、タンパク質を構成する 20 種のアミノ酸は、以下の通りになる。(Table
3-1-1)
31
Table 3-1-1 タンパク質を構成する 20 種のアミノ酸
アミノ酸
3文字表記 1文字表記 アミノ酸
3文字表記 1文字表記
セリン
Ser
S
グリシン
Gly
G
スレオニン
Thr
T
アラニン
Ala
A
アスパラギン Asn
N
バリン
Val
V
グルタミン
Gln
Q
ロイシン
Leu
L
アスパラギン酸Asp
D
プロリン
Pro
P
グルタミン酸 Glu
E
イソロイシン
Ile
I
アルギニン
Arg
R
システイン
Cys
C
リシン
Lys
K
メチオニン
Met
M
ヒスチジン
His
H
チロシン
Tyr
Y
フェニルアラニンPhe
F
トリプトファン Trp
W
Fig.3-1-11 のブタトロポエラスチン組成比と、エラスチンAと DSP ゲルの
アミノ酸組成分析の結果を比較したとき、以下の通りになった。
アミノ酸分析組成比
エラスチンA
DSPゲル
トロポエラスチン(文献値)
モル比率(%)
30
20
10
0
Asp Thr Ser Glu Gly Ala Cys Val Met Ile Leu Tyr Phe Lys His Arg Pro Gln
Fig.3-1-12
エラスチンAと DSP ゲルのアミノ酸組成比
Fig.3-1-12 のエラスチンAと DSP ゲル両者とトロポエラスチンを比較した
とき、Lys の比率に差がある結果となった。また、エラスチンAをゲル化して
も組成比はほぼ変わらない結果となった。
32
3-1-4 N末端分析
エラスチンAのN末端分析した結果以下の通りになった。(Fig.3-1-13)
エラスチンA (RESIDUE2-1)
RESIDUE2
増加量(pmol)
100
50
0
Asp Asn Ser Gln Thr Gly Glu His Ala Arg Tyr Pro Met Val Trp Phe Ile Lys Leu
-50
-100
Fig.3-1-13 エラスチンAの分解物の前後の末端のアミノ酸の物質量の差を
とり、そのときの増加量を示したグラフの例(末端第 2 残基から第1残基の差
をとったもの)
アミノ酸の種類によりバックグラウンドの高さが違うため、絶対値ではな
く、前後のピークの増加量で評価し、増加量がプラスになるものを可能性と
して考えられるアミノ残基とした。(例えば、第 2 残基から第1残基の差をと
り、Val が+になった場合、サンプルの第2残基に Val が含まれるのではない
かと考えられる)
これらの方法で算出した結果から、エラスチンAと DSP ゲルと EGDE ゲルの
可能性として挙げられる残基は以下の通りになった。
Table 3-1-2 エラスチンAの可能性として挙げられるアミノ残基
RESIDUE2 RESIDUE3 RESIDUE4 RESIDUE5
Val
Pro
Gly
Phe
Tyr
Asp
Trp
Val
Pro
Glu
Gln
Leu
RESIDUE6 RESIDUE7
Phe
Pro
His
Leu
Asp
Table 3-1-3 DSP ゲルの可能性として挙げられるアミノ残基
RESIDUE2
Val
Leu
Tyr
Glu
Gln
Pro
Ile
RESIDUE3 RESIDUE4 RESIDUE5
Pro
Gly
Val
His
Cys
Phe
Asp
33
RESIDUE6 RESIDUE7
Pro
Pro
His
Leu
Asp
Table 3-1-4
EGDE ゲルの可能性として挙げられるアミノ残基
RESIDUE2
Gln
Pro
Asn
RESIDUE3
Pro
Gln
Trp
Table 3-1-2 よりエラスチンAの場合、例えばX-V-P-Gといった配列を
もつのではないかと考えられる。Table 3-1-2 と Table 3-1-3 より、DSPゲ
ルとエラスチンAはほぼ同じような末端配列をもつのではないかと考えられ
るが、Table.3-1-4 より EGDE ゲルはそれらとは異なる配列をもつのではない
かと考えられる。
3-1-5 酵素反応時の
酵素反応時の弾性率測定法
DSP、EGDE 架橋倍率を 2 倍~6 倍にしたエラスチンゲルを酵素分解させたと
きの弾性率、伸張率は以下のとおりになった。
弾性率(kPa)
EGDEの弾性率(kPa)
150
100
50
0
0h
Fig.3-1-14
1h
4h
酵素反応時間
7h
EGDE の架橋倍率を変えたゲルの弾性率と酵素反応時間
EGDE伸張率(%)
80.0
伸張率(%)
×2EGDE
×3EGDE
×4EGDE
×5EGDE
×6EGDE
×2EGDE
×3EGDE
×4EGDE
×5EGDE
×6EGDE
60.0
40.0
20.0
0.0
0h
Fig.3-1-15
1h
4h
酵素反応時間
7h
EGDE の架橋倍率を変えたゲルの伸張率と酵素反応時間
34
弾性率(kPa)
DSPの弾性率(kPa)
×3DSP
×5DSP
150
100
50
0
0h
Fig.3-1-16
1h
4h
酵素反応時間
7h
DSP の架橋倍率を変えたゲルの伸張率と酵素反応時間
DSP伸張率(%)
400
伸張率(%)
×2DSP
×4DSP
×6DSP
×2DSP
×4DSP
×6DSP
×3DSP
×5DSP
300
200
100
0
0h
Fig.3-1-17
1h
4h
酵素反応時間
7h
DSP の架橋倍率を変えたゲルの伸張率と酵素反応時間
それぞれ単体の架橋剤を使用したとき、Fig.3-1-14 と Fig.3-1-15 より EGDE
のゲルはどの架橋倍率にしても、4h 後には完全に分解してしまい、測定が不
可 能 で 弾 性 率 ・ 伸 張 率 の 測 定 が 不 可 能 で あ っ た 。 一 方 、 Fig.3-1-16 と
Fig.3-1-17 より、DSP のゲルは反応時間が7h 経過しても 0h の弾性率・伸張
率を維持していた結果となった。
DSP 架橋倍率5倍+EGDE 架橋倍率2倍のエラスチンゲルと DSP 架橋倍率2倍
+EGDE 架橋倍率5倍のエラスチンゲルを弾性率・伸張率測定した結果は以下
のとおりになった。
35
弾性率(kPa)
×2DSP ×5EGDE
×5DSP ×2EGDE
弾性率(kPa)
300
250
200
150
100
50
0
0h
Fig.3-1-18
1h
4h
酵素反応時間
混合架橋剤ゲルの弾性率(kPa)と酵素反応時間
伸張率(%)
伸張率(%)
×2DSP ×5EGDE
×5DSP ×2EGDE
300
250
200
150
100
50
0
0h
Fig.3-1-19
7h
1h
4h
酵素反応時間
7h
混合架橋剤ゲルの伸張率(%)と酵素反応時間
Fig.3-1-18 と 19 より、混合架橋剤ゲルは反応時間が7h 経過しても 0h の
弾性率・伸張率を維持していた結果となった。
また、
(体積変化率)=
体積変化率)={
)={(酵素反応後の
酵素反応後のゲルの
ゲルの直径)
直径)/(酵素反応前の
酵素反応前のゲルの
ゲルの直
径)}3×100 %
と定義し、体積変化率とは、反応前と反応後のゲルの体積の減少比率を示
し、値が小さいほどゲルが減少していることを示す。(Fig.3-1-20)
36
×2DSP ×5EGDE
×5DSP ×2EGDE
体積変化率(%)
体積変化率(%)と分解時間のグラフ
120
100
80
60
40
20
0
0h
1h
4h
7h
反応時間
Fig.3-1-20
混合架橋剤ゲルの体積変化率(%)と酵素反応時間
Fig.3-1-20 より 0~1h までは 100%であったが、混合架橋剤ゲルの体積は
1h~7h の間に減少する結果となった。
Fig.3-1-18 と 19 と 20 より、混合架橋剤ゲルの体積は減少していても、高
弾性率・高伸張率を維持する結果となった。
3-2 阻害剤添加時
阻害剤添加時の
剤添加時のゲルの
ゲルの分解特性
3-2-1 阻害剤の
阻害剤の阻害定数測定
合成基質濃度1mM~0.125mM に 37.5U/ml の酵素溶液を添加したときの吸光
度の変化量(任意の時間のときの吸光度から 0 分のときの吸光度の差をとった
もの)と濃度の関係は以下の通りになった。(Fig.3-2-1)
吸光度の変化量と時間の関係
吸光度の変化量
0.25
y = 2.31×10 -2 x
R2 = 0.99
0.2
0.15
0.1
y = 1.91×10 -2 x
R2 = 1
y = 1.37×10 -2x
R2 = 0.99
1mM
0.5mM
0.25mM
0.125mM
y = 8.00×10 -3x
R2 = 0.99
0.05
0
0
Fig.3-2-1
5
10
時間(分)
15
合成基質の吸光度の変化量と時間
37
一方、合成基質に含まれる pNA の濃度(mM)と吸光度の関係は以下の通りに
なった。
pNAの吸光度と濃度の関係
0.14
濃度(mM)
0.12
y = 0.12x
R2 = 0.99
0.10
0.08
0.06
0.04
0.02
0.00
0
0.2
Fig.3-2-2
0.4
0.6
吸光度
0.8
1
1.2
pNA の吸光度と濃度
Fig.3-2-1 と Fig.3-2-2 の結果より、合成基質濃度(mM)と反応速度(μM/min)
の関係は以下の通りになった。(Fig.3-2-3)
基質濃度と反応速度のグラフ
反応速度(μM/min)
3
2.5
2
1.5
1
0.5
0
0
0.2
Fig.3-2-3
0.4
0.6
0.8
基質濃度(mM)
基質濃度と反応速度
38
1
1.2
また、合成基質濃度(mM)の逆数と反応速度(μM/min)の逆数の関係は以下
の通りになった。(Fig.3-2-4)
基質濃度の逆数と反応速度の逆数
1/(反応速度)
(min/μM)
1.2
1
0.8
0.6
y = 0.10x + 0.24
R2 = 0.99
0.4
0.2
0
5
-0.2 0
1/(基質濃度) (1/mM)
-5
Fig.3-2-4
10
基質濃度の逆数と反応速度の逆数
(ラインウィーバー・バークプロット)
Fig.3-2-4 の勾配が{ミカエリス定数(Km)/最大速度(Vmax)}で、ミカエリス
定数(Km 値)と最大速度(Vmax)を算出した結果、
Km=4.03×10-4 M
Vmax=4.22μM/min
となった。
一方、酵素阻害剤のアプロチニンを濃度 10mg/ml、つまり 1.53M 添加したと
きの吸光度の変化量は以下の通りになった。(Fig.3-2-5)
吸光度
阻害剤添加時の吸光度と時間の関係
0.25
y = 2.11×10 -2x
R2 = 0.99
0.2
y = 1.42×10 -2x
R2 = 0.99
0.15
y = 9.10×10 -3x
R2 = 0.99
y = 4.90×10 -3x
R2 = 0.97
0.1
0.05
0
0
Fig.3-2-5
1mM
0.5mM
0.25mM
0.125mM
5 時間(分) 10
15
阻害剤添加時の合成基質の吸光度の変化量と時間
39
Fig.3-2-2 と Fig.3-2-5 の結果より、合成基質濃度(mM)と反応速度(μ
M/min)の関係は以下の通りになった。(Fig.3-2-6)
基質濃度と反応速度のグラフ
反応速度(μM/min)
3
2.5
2
阻害剤なし
阻害剤あり
1.5
1
0.5
0
0
0.2
Fig.3-2-6
0.4
0.6
0.8
基質濃度(mM)
1
1.2
阻害剤添加ありとなしの
基質濃度と反応速度の関係のグラフ
また、合成基質濃度(mM)の逆数と反応速度(μM/min)の逆数の関係は以下
の通りになった。(Fig.3-2-7)
阻害剤なし
阻害剤あり
基質濃度の逆数と反応速度の逆数
2
1/(反応速度)
(min/μM)
1.5
y = 0.18x + 0.19
R2 = 0.99
1
y = 0.10x + 0.24
R2 = 0.99
0.5
0
-5
0
5
-0.5
1/(基質濃度) (1/mM)
10
Fig.3-2-7 阻害剤添加ありと添加なしの
基質濃度の逆数と反応速度の逆数の関係
(ラインウィーバー・バークプロット)
Fig.3-2-7 よりアプロチニンの阻害様式は、競合阻害となった。
また阻害定数 Ki は、(Fig3-2-7 の阻害剤ありのグラフの勾配)=Km/Vmax
40
×(1+{I}/Ki)より
Ki=1.91×10-3 M となった。
3-2-2 阻害剤入りの
阻害剤入りの酵素溶液
りの酵素溶液で
酵素溶液で反応時の
反応時のエラスチンゲルの
エラスチンゲルの分解率測定
275nm、270nm のときのエラスチンAの吸光度と濃度の関係は以下の通りに
なった。(Fig.3-2-8)
275nm
270nm
エラスチンA 吸光度
1.2
y = 1.11x
R2 = 0.99
275nm
吸光度
1
0.8
0.6
0.4
y = 1.05x
R2 = 0.99
270nm
0.2
0
0.0
0.5
1.0
エラスチン濃度(mg/ml)
1.5
Fig.3-2-8 エラスチンA濃度と吸光度の関係
275nm、270nm のときのアプロチニンの吸光度と濃度の関係は以下の通り
吸光度
になった。(Fig.3-2-9)
アプロチニン濃度と吸光度
1.2
y = 0.12x
1
R2 = 0.99
0.8
275nm
0.6
y = 0.11x
0.4
R2 = 0.99
270nm
0.2
0
0
2
4
6
8
アプロチニン濃度(mg/ml)
Fig.3-2-9
275nm
270nm
アプロチニン濃度と吸光度の関係
41
10
アプロチニンの吸光度を Blank としたときに、それぞれのサンプルに含ま
れるエラスチン濃度は以下の通りになった。(Fig.3-2-10)
アプロチニン濃度と検出エラスチン濃度
エラスチン濃度
(mg/ml)
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
0
10
Fig.3-2-10
20
30
アプロチニン濃度(mg/ml)
40
50
アプロチニン濃度と検出エラスチン濃度
Fig.3-2-10 よりアプロチニン濃度が 40mg/ml のときエラスチン濃度が
0.4mg/ml に対し、10mg/ml のときエラスチン濃度が 1.7mg/ml という結果とな
り、アプロチニンの濃度を高くすることで、エラスチンの分解が抑えられた
という結果になった。
分解率は以下の通りに定義した。
(分解率)=
分解率)=(
)=(検出された
検出されたエラスチン
されたエラスチン濃度
エラスチン濃度)
濃度)/(ゲルが
ゲルが完全に
完全に分解したときの
分解したときのエ
したときのエ
ラスチン溶液
溶液の
濃度)
ラスチン
溶液
の濃度
)×100 %
Fig.3-2-10 よりアプロチニン濃度と分解率の関係は以下の通りになった。
分解率(%)
(Fig.3-2-11)
アプロチニン濃度と分解率
70
60
50
40
30
20
10
0
0
10
20
30
アプロチニン濃度(mg/ml)
40
50
Fig.3-2-11 アプロチニン濃度と分解率
Fig.3-2-11 からも、アプロチニン濃度を上げることにより、分解率が下が
る結果となり、分解が抑えられたのではないかと考えられる。
42
3-2-3 阻害剤入りの
阻害剤入りの酵素溶液
りの酵素溶液で
酵素溶液で反応時の
反応時のエラスチンゲルの
エラスチンゲルの弾性率測定
ゲルの弾性率・伸張率・体積変化率とアプロチニン濃度の関係は以下の通り
になった。
弾性率(kPa)
80
アプロチニン濃度と弾性率
60
40
20
0
0
10
20
30
アプロチニン濃度(mg/ml)
40
50
40
50
40
50
Fig.3-2-12 弾性率とアプロチニン濃度
アプロチニン濃度と伸張率
伸張率(%)
100
80
60
40
20
0
0
10
20
30
アプロチニン濃度(mg/ml)
体積変化率(%)
Fig.3-2-13 伸張率とアプロチニン濃度
70
60
50
40
30
20
10
0
アプロチニン濃度と体積変化率
0
10
20
30
アプロチニン濃度(mg/ml)
Fig.3-2-14 体積変化率とアプロチニン濃度
43
Fig.3-2-12~14 の結果より弾性率・伸張率はどのアプロチニン濃度もあま
り変わらない結果となったのに対し、体積変化率は、アプロチニン濃度
40mg/ml のものが最も高い結果となり、ゲルの体積が反応前と後であまり変わ
らない結果となり、逆に 10mg/ml のものが最も体積変化率が低い結果となり、
ゲルの体積が一番減少した結果となった。
3-2-4 ゲルの
ゲルの中に阻害剤添加時の
阻害剤添加時のエラスチンゲルの
エラスチンゲルの分解率測定
5 種類のゲル(①添加ゲル②洗浄添加③添加+洗浄添加ゲル④EDC 添加⑤添加
60.0
50.0
40.0
30.0
20.0
10.0
0.0
添加なし
EDC添加
洗浄添加
ゲル添加+
洗浄添加
分解率(%)
ゲル添加
分解率(%)
なし)の分解率は以下の通りになった
Fig.3-2-15 各種サンプルの分解率
Fig.3-2-15 より、EDC 添加が最も分解率が低い結果となったのに対し、添
加なしとゲル添加が最も高い分解率の値をとった。
350
300
250
200
150
100
50
0
Fig.3-2-16 各種サンプルの弾性率
44
添加なし
EDC添加
洗浄添加
ゲル添加+
洗浄添加
弾性率(kPa)
ゲル添加
弾性率(kPa)
3-2-5 ゲルの
ゲルの中に阻害剤を
阻害剤を添加した
添加したエラスチンゲル
したエラスチンゲルの
エラスチンゲルの弾性率測定
5 種類のゲル(①添加ゲル②洗浄添加③添加+洗浄添加ゲル④EDC 添加⑤添加
なし)の弾性率・伸張率・体積変化率は以下の通りになった。
添加なし
EDC添加
洗浄添加
ゲル添加+
洗浄添加
伸張率(%)
ゲル添加
伸張率(%)
350.0
300.0
250.0
200.0
150.0
100.0
50.0
0.0
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
添加なし
EDC添加
洗浄添加
ゲル添加+
洗浄添加
体積変化率(%)
ゲル添加
体積変化率(%)
Fig.3-2-17 各種サンプルの伸張率(%)
Fig.3-2-18 各種サンプルの体積変化率(%)
Fig.3-1-18 より 0 時間酵素反応ゲルの弾性率は 2.44×102kPa、伸張率は
58.4%であった。
Fig.3-2-16 よりゲル作製時にアプロチニンを添加することによって 0h 酵素
反応ゲルより弾性率が下がる結果となったのに対し、洗浄時に添加したもの
や EDC とアプロチニンを添加したものは 0h 酵素反応ゲルの弾性率を維持した。
一方、Fig.3-2-17 よりどのサンプルの伸張率も、0h 酵素反応ゲルの伸張率と
あまり変わらない結果となった。Fig.3-2-18 より EDC 添加の体積変化率が一
番高く、ゲルの体積があまり変化していない結果となった。
すなわち、Fig.3-2-15 と Fig.3-2-18 より、EDC 添加が最も分解されにくい
結果となった。
45
4 章 考察
○架橋剤を
架橋剤を変えたゲル
えたゲル分解
ゲル分解における
分解における力学強度
における力学強度の
力学強度の差に関する考察
する考察
Fig3-1-14~17 の結果から DSP 架橋のものは酵素反応時間が 7 時間経過しても
弾性率・伸張率ともに 0 時間弾性率・伸張率を維持していた結果となったのに、
対し EGDE 架橋は 4 時間後には分解される結果となった。これは、架橋剤の性質
が影響しているのではないかと考えられる。
DSP 架橋の場合、疎水性の架橋剤である為、エラスチン溶液中で、ある程度密
集した状態で、架橋反応が行われ、エラスチン鎖に対し、局所的に架橋し、ゴ
ムのような分子構造になる為に、伸張率が高いゲルが作製されたのではないか
と考えられる。また、その架橋反応部位がエラスチン鎖の分解されにくい場所
を局所的に架橋することにより、分解されても高伸張なゲルができたのではな
いかと考えられる。(Fig.4-1)
分解されにくい場所を架橋し、
かつ局在的に架橋する
↓
分解されても高伸張なゲル
ElastinA
Fig.4-1
Dode-DSP
Dode-DSP エラスチンゲルの構造
これに対し、EGDE は親水性の架橋剤である。そのために、エラスチン溶液中
で、均一に分散していくと考えられ、その状態で架橋反応が進行すると、エラ
スチン鎖に対しても均一に架橋し、プラスチックのような構造になる為、弾性
率が高いゲルができたのではないかと予想される。その架橋反応部位がエラス
チン鎖の分解されにくい、分解されやすい場所に関わらず架橋することにより、
分解されると、高伸張なゲルができたのではないかと考えられる。(Fig.4-2)
均一に架橋し、高強度を維持するが、
分解されやすい。
↓
分解されると弱いゲル
ElastinA
EGDE
Fig.4-2
EGDE エラスチンゲルの構造
一方、Fig.3-1-18,19 の結果より、混合架橋エラスチンゲルにおいては、反応
46
時間が0時間のとき、両者の特徴をもったゲルが出来たのではないかと考えら
れる。混合架橋エラスチンゲルは、Dode-DSP 架橋剤と EGDE 架橋剤ともにエラス
チン中に含まれるアミノ基を反応点としている為、競合的に架橋反応が起きた
為に両方の架橋の特徴を持ったゲルが作製できたのだと考えられる。
また、Fig.3-1-18,19 の結果より、混合架橋エラスチンゲルは、酵素反応を 7
時間させても、弾性率・伸張率ともに、0 時間とあまり変わらない結果となった。
このことは、ゲルの表面上にある EGDE 架橋部位か架橋のない部位から分解され、
DSP 架橋部位は分解されにくい、そのためゲルの内側に含まれる EGDE 架橋や DSP
架橋は分解されず、高弾性率、高伸張率を維持しているゲルができたのではな
いかと考えられる。(Fig.4-3)
ElastinA
Dode-DSP+EGDE
二種類の架橋剤が競合的に架橋
EGDEのみ分解され、DSPはされにくい
Fig.4-3
Dode-DSP
EGDE
混合架橋エラスチンゲルの構造
実際に Fig.3-1-20 でも見られるように、体積変化率は時間が経つごとに減少
をしているが、弾性率・伸張率はあまり変わらない結果となった。このことか
らも、ゲルは強度とあまり関係のない外側から分解、つまり架橋部位以外のと
ころから分解されているのではないかと考えられる。
ゲルは、外側から分解される。
強度とあまり関係のない所か
ら分解が始まる
架橋以外の所から分解が始
まる。
Fig.4-4
エラスチンゲルの分解のされ方
47
○数平均分子量、
数平均分子量、重量平均分子量、
重量平均分子量、多分散度に
多分散度に関する考察
する考察
Fig.3-1-8,9 の結果より、エラスチン A の酵素分解において、0 時間から 1 時
間の間に大きく分子量が減少する結果となった。このことは、0時間から 1 時
間の間に、主な分解反応(高分子のものから低分子のものになる反応)が起こり、
その後、徐々に低分子のものの分解反応がおこっているのではないかと考えら
れる。また、Fig.3-1-10 の反応時間が長くなるにつれて、多分散度が上昇する
結果からも同様のことが考えられる。
一方、Fig.3-1-8 と 9 の DSP ゲルの結果より、数平均分子量、重量平均分子量
が 4 時間~7 時間の間で、かなり減少する結果となった。このことより、0 時間
~4 時間の間に、主にゲル構造を壊す分解が起こり、4 時間~7 時間の間に、主
にエラスチン A そのものが分解されているのではないかと考えられる。これは
Dode-DSP の架橋構造による影響で、エラスチン A よりも、分解が起こりにくい
ためではないかと考えられる。また、実際に 1 時間ごとに体積変化率を測定し
たところ Fig.4-5 のようになり、0 時間~4 時間の間に、体積変化率が 100%か
体積変化率(%)
ら 20%になったことからも同様なことが考えられる。
分解時間(時間)と体積変化率(%)
120
100
80
60
40
20
0
0
2
4
分解時間(時間)
6
8
Fig.4-5 DSP ゲルの分解時間(時間)と体積変化率(%)
48
○N 末端分析の
末端分析の結果より
結果より、
より、ゲルの
ゲルの実際の
実際の切断部位に
切断部位に関する考察
する考察
Table3-1-1~3-1-3 実際にN末端分析を行った結果、可能性として考えら
れる酵素の切断部位は、以下のようになった(Fig.4-6、Fig.4-7)
GGVPGAVPGG VPGGVFFPGA GLGGLG(←
40
27 から 88 に、6P,22G,18A,4V, 7L, 2F,1D, 1K が含まれる
80
→)KA AKAGAGLGGV GGVGGLGVST GAVVPQLQLG
120
AGPGAGAKAP KVPGVGLPGV YPGVTVLPGT GARFPGVGVL
160
PGVPTGYGVL APGGGGAFAG IAGVGPFGGQ QPGVPLGYPI
200
LAPGLLPYGF PGGVAGAAGL AGYPTGTGVG TEAAAAAAAA
240
GAGAAGVLPG VGGAGVPGVP GAIPGIGGIA GVGTPAAAAA
280
KAAAKYGAPG AGVLPGVGVG GVGVPGGAGA IVGIGGIAGA
320
GAVAAAVAAA KAAKYGAAGG LVPGAPGFGP GVGVPGVVGV
360
PGVGVPGVGV PGVGVPGVSV PGVGVPAGGF PGFGVGVGGV
400
PGAALSPAGA VPGPLAAGGA AAAAKAAKLG AAGAGALGGL
440
GGLVVGAGGA VPGVPGAGAV PGVGAPAAAA AKAAAKAAQF
480
GLGPGIGVAP GVGVAPGVGV APGVGVAPGV GVAPGIGIGP
520
GGVIGAGAPA AALSAKAAAK AEFEAAAGLP AGVPGFGVGA
560
GVPGFGVGAG VPGFGAGAVV GPLAAAKAAKYGAA-Gal-ALGGV600
GDLGGAGIPG GVAGVGPAAK AAAKAAQQFG VGGVGGLGVG
640
GLGAVPGAGA FGGVAPAAAK AAK
680
赤文字:N 末端の次の残基から始まるアミノ酸の結果(DSP ゲルとエラスチン A)
網掛け文字:N 末端の次の残基から始まるアミノ酸の結果(EGDE ゲル)
青文字:デスモシン架橋領域配列
Fig.4-6
ブタエラスチンのアミノ酸配列 17)より、
可能性として考えられる末端
―――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ― ―――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ― ―――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ― ―――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ―
―――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ― ―――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ― ―――― ―――
赤塗り:N 末端の次の残基から始まるアミノ酸の結果(DSP ゲルとエラスチン A)
黒塗り:N 末端の次の残基から始まるアミノ酸の結果(EGDE ゲル)
青塗り:デスモシン架橋領域配列
Fig.4-7
切断部位と架橋部位の横図
Fig.4-6 より、可能性として考えられる N 末端が、DSP とエラスチン A の場
合、23 ヶ所あるのに対し、EGDE ゲルの場合、3 ヶ所ある結果となった。一方、
エラスチンを基質としたとき、膵臓エラスターゼが切断する部位の N 末端と
49
して、Gly、Ala、Val があるという報告がある。その報告と今回の結果を比較
したときに、23 ヶ所ある DSP ゲルとエラスチン A の N 末端のうち、19 ヶ所一
致する結果となり、また、3 ヶ所ある EGDE ゲルの N 末端のうち、3 ヶ所すべ
て一致する結果となった。
また、Fig.4-6 と 7 の結果より、デスモシン架橋領域配列付近以外にエラス
チン A と DSP 架橋エラスチンゲルと EGDE 架橋エラスチンゲルのN末端が存在
するのではないかと考えられる。これらのことよりエラスチンAは、Fig.4-8
のように、デスモシン架橋があるために、架橋付近は立体障害的に分解しに
くく、架橋付近以外に分解部位が存在しているのではないかと考えられる。
デスモシン架橋
分解部位
Fig.4-8
エラスチン A モデル図
Fig.4-8 の よ う な 構 造 を も つ エ ラ ス チ ン A の デ ス モ シ ン 架 橋 付 近 を
Dode-DSP が Fig.4-9 のように架橋することにより、架橋密度が高くなるため
にエラスチン A そのものの分解部位は同じになるが、材料の分解をしにくく
するゲルができたのではないかと考えられる。
デスモシン架橋
分解部位
DSP架橋
Fig.4-9
DSP エラスチンゲルモデル図
50
実際の N 末端分析の増加量の変化について注目したとき、以下のような結
果となった(Fig.4-10)
増加量(pmol)
150
エラスチンA
DSP架橋ゲル
100
50
0
V-2
Fig.4-10
V-5
P-3
G-4
F-5
アミノ酸名-残基名
L-2
エラスチン A と DSP ゲルの末端の増加量
Fig.4-10 より、エラスチン A の方が末端の増加量が大きいという結果とな
った。このことよりも、エラスチン A の方が分解されやすいことが考えられ
る。
一方、Fig.4-5 と Fig.4-6 の結果より、EGDE ゲルについて Fig.4-11 のよう
な構造をもつのではないかと考えられる。
デスモシン架橋
分解部位
EGDE架橋
Fig.4-11
EGDE エラスチンゲルモデル図
Fig.4-11 のように均一に架橋されているために、架橋密度が DSP よりも低
く、分解部位も至る所に存在している構造を持つのではないかと考えられる。
51
○エラスチン分解酵素
エラスチン分解酵素に
分解酵素に関する考察
する考察
生体内のエラスチン分解酵素は、今回の実験で使用した膵臓エラスターゼ
以外にも存在する。例えば、白血球エラスターゼや MMP-12 というものがある。
序論でも述べたが、エラスチンを基質としたときの白血球型のエラスターゼ
の比活性は膵臓型エラスターゼの約 25~40%であり、Ala、Val、Gly、Leu、
Ile、Ser の後を加水分解する酵素である。このことから白血球エラスターゼ
の場合も、膵臓エラスターゼの分解機構とほぼ同様の作用があるのではない
かと考えられる、また、MMP-12 の場合、Leu、Gly、Ala の N 末端を加水分解
し、その中でも Leu を最も分解する酵素であり、切断部位はもっと多くなる
可能性がある。以上のことから、実際に生体内にエラスチン材料を入れたと
き今回の実験モデルよりも分解時間が早くなる可能性が考えられる。3)18)
○アプロチニンを
アプロチニンを添加したときの
添加したときのゲル
したときのゲルの
ゲルの分解のされ
分解のされ方
のされ方に関する考察
する考察
Fig.3-2-16 の結果より、ゲルの中にアプロチニンを添加することにより、
弾性率が下がる結果となった。このことは、Fig.4-12 のように、本来ならば、
エラスチン同士で結合する架橋部位がアプロチンに結合することにより、架
橋密度が下がり、弾性率がさがったのではないかと考えられる。
デスモシン架橋
エラスチン分子鎖
アプロチニン分子鎖
本来の架橋
実際の架橋
Fig.4-12
アプロチニンとエラスチンの結合
一方、洗浄時にアプロチニンを添加したものについては、エラスチンと架
橋剤の反応が終わった後に、アプロチニンが Fig4-13 のように、新たにエラ
スチン鎖とイオン架橋をしているために、力学強度を維持する結果となった
のではないかと考えられる。
52
DAAAAYKAAK
(CH2)2
+
NH3
COO-
+
アプロチニン
NH3
+
NH3
OH
CH2
イオン架橋 COO-
(CH2)2
SPRVRGA
DAAAAY
Fig.4-13
イオン架橋するアプロチニンとエラスチン
Fig.3-2-15 の結果よりゲル添加と洗浄添加を比較したとき、洗浄添加の分
解率が低い結果となった。このことは、ゲル添加したときのアプロチニン量
よりもイオン架橋したアプロチニン量が多いからではないかと考えられる。
○EDC とアプロチニンを
アプロチニンを添加した
添加したゲル
したゲルに
ゲルに関する考察
する考察
Fig.3-2-15、Fig.3-2-16、Fig.3-2-18 の結果より、EDC を添加したゲルは、
他のゲルに比べ弾性率が高く、体積変化率が高く、分解率は低い結果となった。
エラスチン鎖に含まれるカルボキシル基とアプロチニンまたはエラスチン鎖に
含まれるアミノ基が縮合反応をおこなうことで、新たに架橋し、ゲルの中に酵
素が入りにくい構造を作ったためにこのような結果になったのではないかと考
えられる。15)(Fig.4-14、Fig.4-15)
アプロチニン
アプロチニン
+
エラスチン分子鎖
or
エラスチン分子鎖 EDCによる縮合反応
エラスチン分子鎖
or
エラスチン分子鎖
エラスチン分子鎖
Fig.4-14
EDC による縮合反応
53
R
R
R:エラスチン
R:エラスチン鎖
エラスチン鎖
エラスチン鎖
R’:エラスチン
鎖
Fig.4-15
またはアプロチニン
またはアプロチニン
EDC による縮合反応の反応機構
○アプロチニンの
アプロチニンの阻害定数に
阻害定数に関する考察
する考察
序論 1-6 でも述べたが、ミカエリス定数(Km 値)とは、酵素-基質複合体の解
離定数を示し、Km 値が小さいほど酵素と基質の親和性が高いのに対し、阻害
定数(Ki 値)とは、酵素-阻害剤複合体の解離定数を示し、Ki 値が小さいほど
酵素と阻害剤の親和性が高い。
Fig.3-2-4 と Fig.3-2-7 より、ミカエリス定数は Km=4.03×10-4M になり、(同
じ合成基質と同じ酵素を用いた場合のミカエリス定数が 1.15×10-3M であると
いう報告 19)があり、その値と近い値をとった)阻害定数は、Ki=1.91×10-3M の
競合阻害であるという結果となったことから以下のことが考えられる。
(Fig.4-16)
阻害剤
基質
酵素
阻害
活性中心
剤
基質
阻害剤
酵素
酵素
Fig.4-16 競合阻害剤の作用模型図
54
基質
阻害定数とミカエリス定数を比較したときに、阻害定数は、ミカエリス定
数の約 5 倍という結果になった。このことより、基質と酵素の親和性が酵素
と阻害剤の親和性よりも高く、Fig.4-16 の左側の反応が起こりやすいことが
考えられる。
○人工血管の
人工血管の分解・
分解・血管新生に
血管新生に関する考察
する考察
エラスチン材料を人工血管素材として実際の生体内で用いたとき、今回の
研究より、以下のようなことが考えられる。(Fig.4-17、18、19)
ゲルの体積変化率(%)
100
85
EGDEゲルの
体積変化率
阻害剤添加時の
ゲルの体積変化率
60
混合架橋ゲルの
体積変化率
40
20
DSPゲルの
体積変化率
約3300h
約1900h
68h 274h 480h
(約80日)
(約138日)
(3日) (12日)(20日)
約1000h
約100h
(約40日)
時間経過
(約4日)
・DSP ゲル(阻害剤を添加せず架橋倍率 2 倍の DSP をエラスチンに添加した)
・EGDE ゲル(阻害剤を添加せず架橋倍率 2 倍の EGDE をエラスチンに添加した)
・混合架橋ゲル(阻害剤を添加せず架橋倍率 2 倍の DSP と架橋倍率 5 倍の EGDE
をエラスチンに添加した)
・阻害剤添加時のゲル(架橋倍率 2 倍の DSP と架橋倍率 5 倍の EGDE をエラスチ
ンに添加した作製したゲルに EDC を用いてアプロチニン阻害剤を添加した)
Fig.4-17 人工血管の分解時間と体積変化率の関係
Fig.3-1-1 と Fig.3-2-18 の結果より、酵素濃度4U/ml で、7 時間反応させ
たとき、完全に分解し、体積変化率が 0%になったのに対し、阻害剤添加時の
ゲルは、あまり分解されず、体積変化率は 85%という結果になった。
DSP ゲルの分解時間に置き換えたとき、体積変化率 85%という結果は、分
解時間1時間のときとほぼ一致する。このことから DSP ゲルの 7 時間の分解
時間が、阻害剤添加時のゲルの 1 時間に相当するのではないかと考えられる。
よって Fig.3-1-1 でも述べたが、実際の生体内の DSP ゲルの分解時間が 480
時間(20 日)であるときに、阻害剤添加時のゲルの分解時間は 480×7≒
55
3300(時間)(約 138 日)になるのではないかと考えられ、体積変化率が 20%に
なるとき(酵素濃度 4U/ml のとき分解時間4時間)の DSP ゲルの分解時間が 274
時間(12 日)であるときに、阻害剤添加時のゲルの分解時間は約 1900 時間(約
80 日)になるのではないかと考えられる。EGDE ゲルや混合架橋ゲルも同様に
考えた場合、EGDE ゲルの分解時間は約 100 時間(約 4 日)で、混合架橋ゲルの
分解時間は約 1000 時間(約 40 日)ではないかと考えられる。(Fig.4-17)
ゲルの弾性率(kPa)
240
混合架橋ゲル
の弾性率
200
阻害剤添加時の
ゲルの弾性率
100
80
DSPゲルの
弾性率
20
18
EGDEゲルの
弾性率
約1900h
約3300h
68h 274h 480h
(約80日) 時間経過 (約138日)
(3日) (12日)(20日)
約1000h
約100h
(約40日)
(約4日)
・DSP ゲル(阻害剤を添加せず架橋倍率 2 倍の DSP をエラスチンに添加した)
・EGDE ゲル(阻害剤を添加せず架橋倍率 2 倍の EGDE をエラスチンに添加した)
・混合架橋ゲル(阻害剤を添加せず架橋倍率 2 倍の DSP と架橋倍率 5 倍の EGDE
をエラスチンに添加した)
・阻害剤添加時のゲル(架橋倍率 2 倍の DSP と架橋倍率 5 倍の EGDE をエラスチ
ンに添加した作製したゲルに EDC を用いてアプロチニン阻害剤を添加した)
Fig.4-18 人工血管の分解時間と弾性率の関係
Fig.3-1-1 と Fig.3-1-14 と Fig.3-1-16 と Fig.3-1-18 と Fig.3-2-16 の結果
より、Fig.4-17 のようになるのではないかと考えられる。EGDE ゲルの場合、
68 時間後(3 日後)まで 0 時間後とほぼ同じ弾性率を維持するが、そこから弾
性率が下がり始め、100 時間後(約 4 日後)には弾性率が限りなく 0kPa になる
のではないかと考えられる。DSP ゲルの場合、68 時間後(3 日後)までは0時間
とほぼ同じ弾性率になり、100kPa になるが、そこからゆるやかに弾性率が下
がり始め、274 時間後(12 日後)には 80kPa になる。274 時間後(12 日後)から
は弾性率がより下がり始め、480 時間後(20 日後)には弾性率が限りなく 0kPa
に近づくのではないかと考えられる。混合架橋ゲルの場合、0 時間後から 480
時間後(20 日後)までは、200kPa の弾性率を維持するが、480 時間後(20 日後)
56
から弾性率が下がり始め、1000 時間後(約 40 日後)には弾性率が限りなく 0kPa
に近づくのではないかと考えられる。
最後に、阻害剤添加時のゲルの場合、1900 時間後(約 80 日後)まで 0 時間と
ほぼ同じ弾性率を維持し、1900 時間後(約 80 日後)から弾性率が下がり始め、
3300 時間後(約 138 日後)に弾性率が限りなく 0kPa に近づくのではないかと
考えられる。(Fig.4-18)
Fig.4-17 と 18 より、再生医療用人工血管として阻害剤添加時のゲルを用い
た場合、以下のようなことが考えられる。(Fig.4-19)
全体の体積
全体の強度
体積変化率(%)
ゲルの弾性率(kPa)
100
240
80
産生基質の力学強度
細胞数
細胞の産生基質量
阻害剤添加時の
ゲルの弾性率
阻害剤添加時の
ゲルの体積変化率
20
68h 274h 480h
(3日) (12日)(20日)
約1900h
(約80日)
時間経過
約3300h
(約138日)
Fig.4-19 人工血管の分解と再生における弾性率と体積変化率の関係
Fig.4-19 より組織の再生と全体の体積について考えたとき、時間が経過す
ることにより人工血管が分解され、480 時間後のとき体積が 80%、1900 時間
後には、体積が 20%まで減少し、3300 時間後には 0%になるが、人工血管上
にいる細胞が時間経過とともに増殖し、480 時間後には全体の 20%の基質を
出し、1900 時間後には、全体の 80%の基質を出し、3300 時間後には最終的に、
全体の 100%の基質を出すために、全体の体積が変わらないといったモデルが
理想の再生医療用の人工血管ではないかと考えられる。
力学強度に関して、人工血管の場合 1900 時間後まで 0 時間とほぼ同じ弾性
率を維持し、1900 時間後から弾性率が下がり始め、3300 時間後に弾性率が 0kPa
になるが、新たに産生した基質の弾性率が、1900 時間から 3300 時間の間に上
昇することにより全体の力学強度は変わらないといったモデルが理想の再生
医療用の人工血管ではないかと考えられる。
57
5 章 結論
①
Dode-DSP の架橋剤単体は、分解制御できるゲルの作製できるのに対し、
EGDE の架橋剤単体は、分解されやすいゲルの作製ができることが分かっ
た。
②
EGDE・Dode-DSP の架橋剤を混合で使用することで、分解されても、高
伸張・高弾性率のゲルの作製ができた。
③
エラスチンゲル作成後にアプロチニン処理することにより、力学強度の維
持および分解を制御するゲルの作製ができた。
58
6 章 謝辞
本研究のみならず普段の生活において、ご指導・ご助言を頂きました堀内孝教授・
宮本啓一准教授に深く感謝の意を表します。特に宮本先生には実験に関して多くの
助言を頂くなど、様々な面で助けて頂き、本当に有難う御座いました。また、修士論文
の副査をして頂いた湊元幹太講師にも深く感謝の意を表します。
同じエラスチンという分野を学んだ羽多野由季子さん、石原千明さん、前田
裕子さんといった同期の皆様には、公私ともに大変お世話になりました。来年度から
会える機会が少なくなると寂しく感じます。
また、同じテーマの先輩でもある水谷直紀先輩には、先輩としていろいろと実験に関
するアドバイスをいただくなど大変お世話になりました。来年度からも博士号取得でき
るよう頑張ってください。応援しています。
血管処理などの実験補助を行ってくれた ECM グループの熊澤雄基くん、佐々木剛
くん、中村雅広くん、神谷歩くん、境淳志くんを始めとした後輩の皆には苦労や迷惑ば
かりをかけてしまいました。それでも、私と仲良くしてくださりありがとうございました。来
年度からも残りの学生生活を悔いのないように頑張ってください。
最後になりましたが三年間、このような貴重な時間を提供して頂き、本当に
ありがとうございました。生体材料化学研究室が、今後より一層繁栄していく
ことを心より願っています。
平成 23 年 2 月
石田尚志
59
7 章 参考文献
1)中林 宣男・石原 一彦・岩崎 泰彦:共著/バイオマテリアル/コロナ社
2)柴田 昌和/水溶性エラスチンの凝集特性とマトリックス形成/
平成 18 年度修士論文(2006)
3)鶴 大典・船津 勝 著/生物化学実験法 30 31 蛋白質分解酵素Ⅰ Ⅱ/
学会出版センター
4)田宮 信雄・村松 正実・八木 達彦・吉田 浩・遠藤 斗志也訳/ヴォード生化学
(上)/東京化学同人
5)鈴木 紘一 著/プロテアーゼと生体機能 分子から病態まで/ 東京化学同人
6)林 典夫・廣野 治子 著/シンプル生化学【改訂第5版】/南江堂
7)大西正健 著/生物化学実験法 21 酵素反応速度論実験入門/
学会出版センター
8)Anderer, F.A. & Hörnle, S. J. Biol. Chem. (1965) 241,
241 1966.
9)Dietl, T. et al. Hoppe-Seyler’s Z. Physiol. Chem. (1979) 360,
360 67.
18, 255.
10)Kassel, B. et al. Biochem. Biophys. Res. Commun. (1965) 18
11)Chauvet, J. et al. Biochem. Biophys. Acta. (1964) 92,
92 200.
12)岡井 正典/エラスチンゲルの力学特性の制御/平成 19 年度修士論文(2007)
13)山下 雄也
監修/物質工学講座高分子合成化学/東京電機大学出版局
14)堀尾武一 著/蛋白質・酵素の基礎実験法/南江堂
15)Nakajima, N.; Ikada, Y. Bioconjug Chem. (1995), 6(1), 123-130.
16)http://www.srl.info/srlinfo/kensa_ref_CD/KENSA/SRL0599.htm
17)Zena Indic, et al:Alternative splicing of human elastin mRNA indicated
by sequence Analysis of cloned genomic and complementry DNA.Bichemistry
(1987);84:5680-5684
18) Mecham, R. P.et al: Elastin Degradation by Matrix Metalloproteinases.
J Biol Chem (1997);272;18071-18076
19)J.Beith,B.Spiess. et al: Biochem.Med.(1974) 11, 350-357
60
付属 クロマトグラフィープロトコル
○ 実験装置
(装置図)
分析・解析
カラム
インジェクター
廃液
溶離液
紫外吸光度検出器
高圧送液ポンプ
図1.装置図
*
*
高圧送液ポンプ:流速は 1.0ml/min に設定した。
インジェクター:
・Load
→通常はこの状態。流れがサンプルループに関係なく繋がっているために
自由にサンプルをループに充填することができる。
・ inject
→サンプルをループに充填後、サンプルを流すときこの状態とする。流れ
がサンプルループを経由するようになり、サンプルがカラムへと流れる。
*
検出器
;紫外吸光度検出器を用いた。波長は 210nm で測定した。
(手順)
1.溶離液を調整し、装置を組んだ
2.カラムに PBS
buffer を流し、十分に洗浄、平衡化を行った。
3.Gel Filtration Standard を流路に流し、測定を行った。
その分子量分布から検量線を作成した。
4.サンプル溶液を流路に注し、測定を行った。
5.カラムを十分に洗浄し、測定を繰り返した。
6.解析ソフトにより、データを分析した。
61
①
溶離液の調整
Buffrt(溶離液)を以下のように調整した。
PBS buffer (pH 7.0)
→0.1mol/l リン酸緩衝液
・リン酸二水素ナトリウム二水和物 3.042g とリン酸水素二ナトリウム十二水和
物 10.923gを脱イオン水で 500ml に調整した。
・リン酸緩衝液をアスピレーターにて気泡がなくなるまで脱気を行った。
②
カラムの洗浄、平衡化
・インジェクターを Load にし、ポンプを作動させた。
・パソコン画面のmV 値が一定になるまでカラムを洗浄、平衡化させた。
・mV 値が一定になったら ZERO ボタンを押し、ゼロ点補正を行った。
③
検量線の作成
〈Gel Filtration Standard〉
Component
Molecular Weight
Thyrogloblin(bovine)
670,000
γ-globulin(bovine)
158,000
Ovalbumin(chicken)
44,000
Myoglobin(horse)
17,000
VitaminB12
1,350
(分子量マーカー)
Gel Filtration Standard を
分子量マーカーとして用いた。
④
サンプルの注入
(Sample)
サンプルをそれぞれ PBS で調整したものをサンプル溶液とした。
(溶離液は流したままにする)
・サンプル溶液をシリンジで採取し、インジェクターにつないであるサンプル
ループ(20μl)に満たした。
・mV 値が一定になって、カラムが平衡化していることを確認後、インジェク
ターを inject に切り替える。それと同時に屈折計の MARKER ボタンを押
した。(測定開始)
⑤検出後
・インジェクターを Load に戻し、カラムの洗浄を十分に行った。
・データ管理・データ解析ソフトで、測定したデータの解析を行った。
62
Fly UP