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見知らぬ人との出会い ―CMC

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見知らぬ人との出会い ―CMC
見知らぬ人との出会い
―CMC サービスがもたらすさまざまなコミュニティの形成と
各コミュニティ間の新たなコミュニケーション機会―
群馬大学社会情報学部情報社会科学科
澁川 健太
2010 年 1 月 19 日提出
目次
はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
1.インターネット上の情報流通・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
1.1.インターネットの特徴・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
1.1.1.プルメディア ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
1.1.2.パーソナライゼーション ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
1.1.3.共通の興味・関心 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
1.2.楽観論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
1.3.悲観論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
1.3.1.集団分極化 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
1.3.2.電子まゆ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
1.3.3.インターネット上におけるコミュニティ ・・・・・・・・・・・・・・8
2.各 CMC サービスの特徴 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9
2.1.ブログ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9
2.1.1.ブログ主と閲覧者によるコミュニティ ・・・・・・・・・・・・・・・9
2.1.2.コメント欄におけるコミュニティ・・・・・・・・・・・・・・・・・10
2.2.SNS ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11
2.2.1.記事を書いた人と閲覧者によるコミュニティ・・・・・・・・・・・・11
2.2.2.コメント欄におけるコミュニティ・・・・・・・・・・・・・・・・・12
2.2.3.メッセージ機能を用いたコミュニティ・・・・・・・・・・・・・・・12
2.2.4.友人機能によるコミュニティ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13
2.2.5.友人の友人機能によるコミュニティ・・・・・・・・・・・・・・・・13
2.2.6.コミュニティ機能の掲示板におけるコミュニティ・・・・・・・・・・14
2.3.掲示板 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14
2.3.1.書き込みを行う人と閲覧者によるコミュニティ・・・・・・・・・・・15
2.3.2.書き込みを行う人同士のコミュニティ・・・・・・・・・・・・・・・15
2.4.メタバース ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16
2.4.1.仮想タウンにおけるコミュニティ・・・・・・・・・・・・・・・・・17
2.4.2.部屋におけるコミュニティ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18
2.4.3.コミュニティ機能によるコミュニティ・・・・・・・・・・・・・・・19
2.5.各コミュニティの特徴と違い ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21
3.アメーバ!総合 CMC サービスサイト ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26
3.1.アメーバブログ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26
3.1.1.ユーザー間の交流を活発にする仕組み・・・・・・・・・・・・・・・26
3.1.2.横方向のつながりを促進する足跡システム・・・・・・・・・・・・・27
3.1.3.共通点を持つ人同士をつなげる仕組み・・・・・・・・・・・・・・・27
3.1.4.交流するユーザーを見定める仕組み・・・・・・・・・・・・・・・・28
3.1.5.アメーバブログのシステム設計・・・・・・・・・・・・・・・・・・29
3.2.アメーバピグ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30
3.2.1.外出を促す仕組み・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30
3.2.2.ユーザー間の会話を促進する仕組み・・・・・・・・・・・・・・・・30
3.2.3.継続的なコミュニティの形成を促す仕組み・・・・・・・・・・・・・31
3.2.4.共通点を持つ人同士をつなげる仕組み・・・・・・・・・・・・・・・32
-1-
3.2.5.開放的なコミュニケーションを促す仕組み・・・・・・・・・・・・・33
3.2.6.アメーバピグのシステム設計・・・・・・・・・・・・・・・・・・・35
3.3.アメーバサービス以外の CMC サービスにおけるシステム分析 ・・・・・・35
3.3.1.ミクシィ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・36
3.3.2.2 ちゃんねる・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・37
3.3.3.ニコッとタウン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・37
3.4.アーキテクチャという議論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・38
3.4.1.つくられるコミュニティ(オンライン)
・・・・・・・・・・・・・・ 40
3.4.2.つくられるコミュニティ(オフライン)
・・・・・・・・・・・・・・ 40
3.5.オンラインとオフラインにおける共通点を持つ人同士のつながり方 ・・・・41
3.5.1.オフラインにおける共通点を持つ人同士のコミュニティ・・・・・・・41
3.5.2.オンラインにおける共通点を持つ人同士のコミュニティ・・・・・・・41
3.5.3.アーキテクチャの違いが生み出す社会のつながり方・・・・・・・・・42
4.社会全体のつながり ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・43
4.1.楽観論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・43
4.2.集団分極化議論に対する指摘 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・43
4.2.1.集団分極化が起こりやすいテーマ・・・・・・・・・・・・・・・・・44
4.2.2.人に集う性質が強いコミュニティ・・・・・・・・・・・・・・・・・44
4.2.3.共通点の 1 つでしかない共通の主義主張・・・・・・・・・・・・・・46
4.2.4.人に張られるリンク・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・46
4.2.5.2 種類のコミュニティ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・46
4.2.6.インターネット上における集団分極化議論の修正・・・・・・・・・・47
4.3.社会全体の結びつき ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・47
4.3.1.人と人のつながり・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・47
4.3.2.複数のコミュニティへの参加・・・・・・・・・・・・・・・・・・・48
4.3.3.重層的につながり合う電子まゆのモデル・・・・・・・・・・・・・・48
4.4.局地的な分裂、一時的な分裂への危惧 ・・・・・・・・・・・・・・・・・49
終わりに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・51
引用・参考文献一覧 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・52
-2-
はじめに
私がオンライン上における重層的なコミュニティモデル(各コミュニティ間のつなが
り方)の提示、オフラインにおけるコミュニティモデルとの比較を卒業論文のテーマに
決めたのは、以下の理由からである。
まず、就職先が IT 企業に決まったことで、インターネットに関する研究を大学生活
の集大成として行いたいと考えた。
そして、インターネットについてどのような研究を行いたいかを考えたときに、私
が専攻している政治学から大きく離れないテーマにしたいと考えた。今までの勉強の
成果を少しでも組み込みたいと考えたためだ。
そこで、以前からブログというサービスに興味があったこともあり、ブログが社会
に与える影響について研究したいと考え、この漠然とした興味を足がかりに本論文を
執筆した。
本論文では、インターネットによって局地的、一時的に社会は分裂させられ、その
分裂はオフラインにおける分裂よりも深刻なものであると主張する。しかし、インタ
ーネットによって、社会全体の結びつきはむしろ強くなるということを主張する。
この結論を導くために、1 章では、インターネットの特徴を概観し、インターネッ
トによる社会の結びつきについての楽観的な見方と悲観的な見方を紹介する。
2 章では、インターネット上のコミュニティを細かく分類してそれぞれの特徴を明
らかにする。そして、これによりインターネット上におけるコミュニティを一括りで
論じる楽観的、悲観的な見方の両者から距離を置く。
3 章では、本論文の結論を支える要となる議論を行う。具体的には、私がインター
ネット上のいくつかのサービスを利用する中で得た仮説を提示し、それを足がかりに、
オンラインとオフラインにおけるコミュニティの異なる点を明らかにする。また、イ
ンターネット上のコミュニティが、それぞれどのようにつくられるのかについて考え、
インターネット上のコミュニティの共通点を明らかにする。
そして、4 章で楽観的な見方の不十分な点を指摘し、悲観的な見方を支える集団分
極化という考え方に修正を迫る。その上で、オンライン上における重層的なコミュニ
ティモデルの提示を行い、オフラインにおけるコミュニティモデルとの比較を行い、
先に示した主張を結論とする。
-3-
1.イ ン ター ネッ ト 上の 情報 流 通
インターネット 1の登場によって、私たちは、膨大な量の情報と多様な意見に触れる
ことができるようになった。また、私たちは、わずかなコスト 2で不特定多数の人びと
に情報を発信することができるようになった(梅田,2006,pp. 19-20, 85)。
インターネットの登場によってもたらされた、これら情報流通の変化は、紛れもな
い事実である。
しかし、私たちが取得「できる」情報と、私たちが取得「する」情報は異なる。また、
情報を不特定多数の人びとに「発信する」ことができるようになったことと、情報を不
特定多数の人びとに「届ける」ことができるようになったことは同義ではない。
では、私たちが取得「できる」情報ではなく、私たちが取得「する」情報は、インタ
ーネットの登場によってどのように変化したのか。私たちが、情報を「発信する」こと
ができる範囲ではなく、情報を「届ける」ことができる範囲は、どのように変化したの
か。
これらについて考えた上で、その情報流通の変化による 1 つの帰結として危惧され
る、社会の分裂という現象を考える。
1.1 .イ ン ター ネッ トの 特 徴
インターネットは、私たちが膨大な量の情報と多様な意見を得ることを可能にして
くれた。
しかし、プルメディア 3、パーソナライズ 4機能というインターネットの特徴は、私
たちに自分好みの情報ばかりを取得させる仕組みでもある(森,2006,p. 183)。
本節では、これらインターネットの特徴が、インターネット上における情報流通に
どのような影響を及ぼすのかを考える。そして、インターネット上では、共通の興
味・関心を持つ人同士が結ばれやすいことを論じる。
1.1.1.プルメディア
インターネット以前のメディアが、プッシュメディアとしての性質を持っているの
に対して、インターネットはプルメディアとしての性質を持つ。すなわち、インター
ネットは、テレビやラジオ、新聞などのメディアよりも、相対的に自分の欲しい情報
を自分で引き出す性質が強いメディアである。
テレビやラジオは、スイッチをつければ情報が飛び込んでくる。新聞の場合も、契
約さえしていれば毎朝情報が届けられる(逢坂,2006,pp. 146, 162)。一方、インタ
1
本論文では、インターネットを、WWW を用いたウェブ上において、有料・無料を問わ
ず、何らかのサービスが提供されている空間と定義する。
2 ここでいうコストとは、単にパーソナルコンピュータを購入し、プロバイダと契約する
費用だけではない。情報を発信するためにかかる時間、あるいは情報を発信するための知
識・技術を取得するための費用と時間をも含む。
3 相対的に、情報が送られてくるというよりも、情報を自分で引き出し取得する性質が強
いメディアのことである。詳しくは後述する。
4「顧客のさまざまな情報(…)を基に、顧客に最適な情報を提供するという戦略、あるい
はそのための技術」
〔株式会社朝日新聞社.Kotobank.jp パーソナライゼーション.(http://k
otobank.jp/word/%E3%83%91%E3%83%BC%E3%82%BD%E3%83%8A%E3%83%A9%E
3%82%A4%E3%82%BC%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3).2009.
12.11 取得〕.いわば、一人一人に適した情報をオーダーメイドで提供するサービスだ。
詳しくは後述する。
-4-
ーネットは、URL を直接入力するか、検索エンジン 5のクエリーに自分が欲しい情報
のキーワードを打ち込み、検索結果の中から欲しい情報を自分で引き出さなくてはな
らない(森,2006,p. 16)。
そのため、インターネットを利用する際には、自分が興味・関心を持たない情報を
目にする機会は、テレビや新聞のそれと比べて少なくなる。
そして、パーソナライゼーションの発展により、インターネット上で私たちは、ま
すます自分好みの情報ばかりを取得するようになってきている。
1.1.2.パーソナライゼーション
パーソナライゼーションとは、「顧客のさまざまな情報(…)を基に、顧客に最適な
情報を提供するという戦略、あるいはそのための技術」のことである。いわば、一人一
人に適した情報をオーダーメイドで提供するサービスだ6。
このパーソナライゼーションは、今や多くのサイトで用いられている。その最も古
い代表例としてヤフー 7が挙げられる。ヤフーは、1998 年から「マイ・ヤフー 8」とい
うサービスを開始している。
マイ・ヤフーとは、ヤフーが持つニュース情報をはじめ、旅行情報、音楽情報、株
価情報など、モジュール化された情報を自分好みに整理し、優先的に表示できるよう
にするサービスだ。
ニュースに関していえば、国内(全般)、経済、エンターテイメント、市況と細かく
分類されており、そのカテゴリーごとに、好みで選択することができる。すると、そ
のカテゴリーのニュースを優先的に読めるようになる。
また、グーグル 9やグー 10では、ニュースに対して自動的なパーソナライズが適用さ
れている。どちらのサイトでも、ニュースページで日々ニュースをクリックしていく
と、そのユーザーデータが蓄積され、嗜好が絞り込まれる。その結果、次第にユーザ
ーに合うと思われるニュースが、自動的に選ばれていく11。
さらに、グーグルでは、パーソナライズド検索という検索でのチューニングも行わ
れている。それまでの検索履歴から、ユーザーの嗜好に沿ったかたちの検索結果を導
いてくれるというものだ(森,2006,pp. 184-186)。
インターネットは、ただでさえプルメディアであるがゆえに、自分が興味・関心を
持っている情報を取得しやすいメディアだ。しかし、そうとはいえども、ポータルサ
WWW などで「公開されている情報をキーワードなどを使って検索できる Web サイトの
こと」。多くのユーザーは、この検索エンジンを使って、インターネット上の情報を探し
ている。代表例として、グーグルやヤフーを挙げることができる〔株式会社インセプト.
(2002.7.19)
.IT 用語辞典<検索エンジン>.(http://e-words.jp/w/E6A49CE7B4A2E
382A8E383 B3E382B8E383B3.html).2009.12.12 取得〕。
6 株式会社朝日新聞社.Kotobank.jp パーソナライゼーション.(http://kotobank.jp/word/
%E3%83%91%E3%83%BC%E3%82%BD%E3%83%8A%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%
82%BC%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3).2009.12.11 取得。
7 YAHOO!JAPAN.(http://www.yahoo.co.jp/).日本で最も利用者が多い検索エンジン
(森,2006,p. 33 )。
8 MY YAHOO!.
(http://my.yahoo.co.jp/#).利用には、ユーザー登録・ログインが必要。
9 Google.(http://www.google.co.jp/).世界で最も利用者が多い検索エンジン(森,2006,
p. 33)
10 goo.(http://www.goo.ne.jp/).NTT レゾナントが運営する日本の検索エンジン。
11 グーグル、グーのいずれも、パーソナライズが適用されるためには、ログインが必要。
5
-5-
イト 12でニュースを読むときには、配信されるニュースの中から自分好みのニュース
を選ぶ作業を行う。その作業の中で、自分が興味・関心を持っていないニュースに触
れることも多々ある。
しかし、近年のパーソナライズ機能の発展は、その自分好みのニュースをその都度
選ぶことすら、不必要にしているのだ。
1.1.3.共通の興味・関心
以上、述べてきたインターネットの特徴は、インターネット上において情報の発信
者と受信者の間に共通の興味・関心が存在することが多いことを意味する。
インターネット上では、自分好みの情報が取得されやすいので、発信した情報はそ
の情報に興味・関心を持たない人よりも、興味・関心を持つ人に取得されやすいから
だ。情報の発信者側から考えれば、インターネット上で発信した情報は、インターネ
ットユーザーすべてに発信してはいるが、その情報に興味・関心を持つ人に届きやす
いからである。
このインターネット上では、共通の興味・関心を持つ人同士がつながりやすいとい
うことに関して、それを肯定的に捉える考え方と、否定的に捉える考え方がある。次
節以降では、両者の考え方を紹介する。
1.2 .総 表 現時 代と 強化 さ れる 社会 の 連帯
梅田望夫は、「ウェブ進化論」の中で、ブログなどの登場により、私たちがわずかな
コストで「不特定多数無限大」に情報発信できるようになったことから、私たちは「総
表現時代時代13」を向かえ、新しい社会の連帯が生まれるとしている。
深い関心を共有する見ず知らずの書き手と読み手が、グーグルをはじめとする検索
エンジンの圧倒的進歩によって、出会うことが可能となった。また、気に入ったブロ
グの更新を知らせてくれる仕組み、読み手の関心領域に近いブログを見つける仕組み
などがそれを後押ししてくれるとしている。
さらに、パーソナライゼーションなどによって、個人の嗜好をインプットして、常
時世の中の変化にあわせて、個人にぴったりの情報を探し続けるシステムの構築に期
待している。
そして、圧倒的な数の人びとが情報を発信し、その中の 1%はいるであろう優れた
情報を発信する人たちと、その優れた情報を見つけ出す、あるいはその優れた情報が
自動的に取得される技術によって、インターネット上の知の向上がもたらされる。ま
た、優れた情報を発信する 1%の人たちが、なんとなく連帯することが、総表現時代
の新たな可能性であるとしている(梅田,2006,pp. 136-142, 148-150, 153-156)。
確かに、インターネット登場以前には出会うことができなかった、深い関心を共有
する人たちと出会うことを、インターネットは可能にしてくれた。それによって、私
たちの知識や教養が向上する機会は増え、深い関心を共有する人たちとの連帯が強ま
Web サイト。検索エンジンやリンク集を核と」
する[株式会社インセプト.(2001.11.20).IT 用語辞典<ポータルサイト>.(http://ewords.jp/w/E3839DE383BCE382BFE383ABE382B5E382A4E38388.html).2009.12.
15 取得]。インターネットの玄関としての機能を持ち、多くのユーザーがインターネット
を始める際に訪れる。代表例として Yahoo!や goo などが挙げられる。
13 総表現時代とは、メディア組織が握っていた「不特定多数無限大」に対して情報を発信
する機会が、ブログなどの登場により、私たちのほとんどに与えられる時代(すなわち、
インターネットが普及している今日)のことである(梅田,2006,p. 146)。
12「インターネットの入り口となる巨大な
-6-
ることになるだろう。
それは一見、社会全体の連帯が強化されるように思える。しかし、インターネット
が共通の興味・関心を持つ人同士をつなげやすいということは、社会全体のむすびつ
きを弱めることになるとも考えられる。それはどういうことか。次節では、共通の興
味・関心を持つ人同士がつながることによって、社会が分裂化するのではないか、とい
うを紹介する。
1.3 .社 会 の分 裂
オンライン 14上では、オフライン以上に共通の興味・関心を持つ人同士が結びつく。
そのことから、以下の帰結を論じることができる。
同じ考え方の人とばかりコミュニケーションをとり、違う意見を持つ人とは一切関
わらない。そのようなことを可能にしてくれるインターネット上では、私たちは元々
持っていた考え方の延長線上にある極端な考え方を持つようになる(サンスティーン,
2003,pp. 80-82)。
あるいは、共通の興味・関心を持つ人同士で、閉鎖的なまゆ 15を形成し、異なる興
味・関心を持つ人も同様にまゆを形成してそこに閉じこもってしまう。そして、社会
全体の結びつきは弱まるのである。
1.3.1.集団分極化
インターネットの特徴により、インターネット上では、私たちは本来持っていた考
え方をより強化し、極端な考え方を持つようになる。これは、オンライン上において、
オフライン以上に集団分極化が起こりやすいのではないかという危惧である。
キャス・サンスティーンは集団分極化を「グループで議論をすれば、メンバーはもと
もとの方向の延長線上にある極端な立場へとシフトする可能性が高い」という非常に単
純な現象であるとしている。
また、その実例としてサンスティーンは「討議後には、穏健派フェミニストの女性が
もっと過激になる」「討議後には、フランス国民は米国とその経済援助の意図に対して
より批判的になった」「討議後には、もともと人種差別の傾向があった白人は、人種差
別主義が全米の都市でアフリカ系アメリカ人が直面する状況を生み出しているかとい
う問いに対して、より否定的な回答をする」といった現象を挙げている。
そして、サンスティーンは、インターネットは集団分極化の温床であるとしている。
インターネットは、同じ考え方を持つ人たちの意見を拾いやすくし、競合する意見に
は耳を貸さなくてもすむ文化を生むとしているためだ(サンスティーン,2003,pp.
80-82)。
1.3.2.電子まゆ
インターネット上では、自分と同じ意見の人とだけコミュニケーションをとり、自
分の意見に反対する人とは一切関わらない。
そうであるならば、私たちは電子まゆ 16の中に閉じこもり、その反対側にいる人た
ちと相容れることはないのだろうか。すべてのテーマに関して、二項対立の構図が成
14
本論文では、インターネットにつながっている状態、インターネットを利用している状
態をオンライン、インターネットにつながっていない、インターネットを利用していない
状態のことをオフラインとする。
15 本論文では、共通の興味・関心などによって構成される集団をまゆと呼ぶ。
16 インターネット上で形成されるまゆのこと。
-7-
立し、その両極を形成する電子まゆは閉鎖的であり、社会は分裂してしまうのだろう
か。
1.3.3.インターネット上におけるコミュニティ
本章で論じてきたように、確かにインターネットは共通の興味・関心を持つ人同士
を結び付けやすいメディアであるといえる。そのために、自分と反対意見を持つ人と
の歩み寄りが難しくなったり、似た者同士で閉鎖的なまゆを形成してしまうのではな
いか、という主張がなされるのである。
しかし、インターネット上のコミュニティと言っても、ブログや Social Network Se-
rvice(以下、SNS とする)、電子掲示板(以下、掲示板とする)、メタバース17では
コミュニティのあり方は異なる。それぞれのサービスによって、システムの設計が異
なり、そのシステムによって、コミュニケーションの仕方が変わってくるからだ18。
例えば、ブログでは、各々のユーザーのページを中心にコミュニティが形成される
のに対して、掲示板では、テーマに沿った板やスレッドを中心にコミュニティが形成
されている。また、ブログが記事の公開範囲を限定できないのに対して、SNS ではそ
れができる。SNS のコミュニティ機能における掲示板では、ユーザーはハンドルネー
ムを持つのに対して、匿名掲示板では、それを強制されない。
インターネット上におけるコミュニティといっても、利用する Computer-Mediated
Communication
(以下、CMC とする)サービス19によって、そのあり方は様々である。
したがって、社会全体のむすびつきについて論じる前に、次章で各 CMC サービスの特
徴と違いについて考える。
17
これらのサービスについての説明は、次章で詳しく行う。
システム設計の違いによるコミュニティ、コミュニケーションへの影響については、3
章で詳しく論じる。
19 CMC とは、「コンピュータを介して行うコンピュータコミュニケーション」のことであ
る。本論文では、ブログや SNS、掲示板、メタバースなどの、インターネット上における
コミュニケーションサービスを CMC サービスと呼ぶ〔同志社大学.(2005.10.23).
Intelligent Systems Design Laboratory Research Reports<【IT 用語】Computer-Mediated Communication アバターを利用したコミュニケーション>.(http://mikilab.doshisha.
ac.jp/dia/research/report/2008/).2009.12.23 取得〕。
18
-8-
2. 各 CM C サー ビス の特 徴
1 章では、インターネット上におけるコミュニティ、あるいはコミュニケーション
のあり方を、インターネット全体の大まかな傾向として考えた。
本章ではもっと具体的に、インターネット上におけるコミュニケーションの分析を
行いたい。そこで、ブログ、SNS、掲示板、メタバースの特徴を考え、各 CMC サー
ビスにおけるコミュニティの分類を行う。その上で、各コミュニティの共通点と違い
を明らかにする。
なお、本論文においてはコミュニティを、コミュニケーションを行う場所・空間、
あるいはコミュニケーションを行っている人同士と定義する。したがって、本論文に
おいては、2 人によるコミュニケーションであっても、コミュニケーションが行われ
ている場所や空間、あるいはコミュニケーションを行っている 2 人をコミュニティと
呼ぶこととする。
また、コミュニティの分類を行うことによって、インターネット上におけるコミュ
ニケーションのあり方や社会全体のつながり方を考える。
2.1 .ブ ロ グ ブログとは、「個人や数人のグループで運営され、日々更新される日記的な Web サ
イトの総称」である。ウェブ上で公開される日記のようなものだといえる。ブログには
多くの場合、ブログ主の記事に対してコメントを付ける、コメント機能が用意されて
いる。また、トラックバック機能によって、別のブログ記事へリンク20を張り、その
リンク先の記事に自分の記事へ逆リンクを付けることができる。ブログでは、この 2
つの機能を中心に、コミュニティが形成されている21。
なお、ブログの記事を検索するには、検索エンジンやブログサービスサイトのサイ
ト内検索機能を用いるか、新着ブログを時系列で表示する機能を用いる。
『インターネット白書』によると、インターネットユーザー全体におけるブログの利
用者率は、2009 年の調査で 52%となっているが、前年から 2.4 ポイント減少し、利用
者数の増加は、頭打ちとなっている。また、ブログ利用者のうち、自分のブログを公
開している人の割合は、24.9%とブログ利用者全体の半数以下にとどまっている。純
粋なブログサービスとは言えないが、最も利用者が多いサービスとして「アメーバブロ
グ22」が挙げられる23。
以上を踏まえ、ブログにおけるコミュニティを(1)ブログ主と閲覧者によるコミュ
ニティ、(2)コメント欄におけるコミュニティの 2 つのコミュニティに分類する。
2.1.1.ブログ主と閲覧者によるコミュニティ
ブログ主と閲覧者によるコミュニティの情報流通は、ブログ主が発信した情報を閲
覧者が受けるという単一方向のものなっている。閲覧者がブログ主に対して情報を発
20「文書内に打ち込まれた、他の文書や画像などの位置情報」のこと。リンクをクリックす
ることによって、リンク先のサイト・ページに移動することができる[株式会社インセプ
ト.(1999.10.6).IT 用語辞典 <リンク>.
(http://e-words.jp/w/E383AAE383B3E382
AF.ht ml).2009.12.16 取得]。
21 株式会社インセプト.
(2005.5.27).IT 用語辞典 ブログ.(http://e-words.jp/w/E38
396E383ADE382B0.html).2009.10.30 取得
22 Ameba(アメーバ).(http://www.ameba.jp/).「ブログを中心とした登録無料サイ
ト」
(ホームページより引用)。
23『インターネット白書 2009』
(インプレス R&D 発行),2009 ,pp. 175, 195 参照
-9-
信した場合は、コメント欄におけ
るコミュニティに分類されるため
だ。
また、このコミュニティには潜
在的に知り合いと知り合いでない
人が含まれる。ただし、知り合い
でない人同士でコミュニティを形
成することはできるが、知り合い
だけでコミュニティを形成するこ
とはできない。SNS24のように、
記事の公開範囲を選択できないか
らだ。
そして、ブログ主と閲覧者によ
るコミュニティは、共通の興味・
関心を持つ人同士で形成されやす
い。1 章で論じたように、インタ
ーネット上では、自分好みの情報
が取得されやすいからだ。キーワ
ードによる記事検索がそれを後押しする。
図 1.ブログの記事
筆者のアメーバブログから引用
アメーバブログ、筆者の記事から引用
2.1.2.コメント欄におけるコミュニティ
コメント欄におけるコミュニティの
図 2.ブログのコメント欄
情報流通は、ブログ主とコメント投
稿者による双方向のものとなってい
る。また、コメント投稿者同士での
会話もあり得るために、横方向のつ
ながり 25を有することもある。ただし、
ブログ主とコメント投稿者という関
係であることから、情報の流れは縦
方向が主流となる。
また、ブログを始める以前から 面識がある人とそうでない人の存在
については、ブログ主と閲覧者によ
るコミュニティと同様である。
つながり方についても、ブログ主
と閲覧者によるコミュニティと同様
アメーバブログ、筆者のコメント欄から引用
に、ブログ主が発信した情報に興味・
関心を持つ人とつながりやすいといえ
る。
SNS の特徴については、次節で詳しく説明を行う。
本論文では、縦方向のつながりを、情報の第一発信者とその発信した情報の受け手によ
るコミュニケーションとする。また、横のつながりを、情報の第一発信者が発信した情報
の受け手同士によるコミュニケーションとする。また、コミュニケーションを行っている
人同士の関係のことを「つながり」と表現する。
24
25
-10-
2.2 .S NS
SNS とは、「人と人とのつながりを促進・サポートする、コミュニティ型の Web サ
イト。友人・知人間のコミュニケーションを円滑にする手段や場を提供したり、趣味
や嗜好、居住地域、出身校、あるいは『友人の友人』といったつながりを通じて新たな
人間関係を構築する場を提供する、会員制のサービスのこと。人のつながりを重視し
て『既存の参加者からの招待がないと参加できない』というシステムになっているサー
ビスが多いが、最近では誰も自由に登録できるサービスも増えている。
SNS には、自分のプロフィールや写真を会員に公開する機能や、お互いにメールア
ドレスを知られること無く別の会員にメッセージを送る機能、新しくできた『友人』を
登録するアドレス帳、友人に別の友人を紹介する機能、会員や友人のみに公開範囲を
制限できる日記帳、趣味や地域などテーマを決めて掲示板などで交流できるコミュニ
ティ機能、予定や友人の誕生日などを書き込めるカレンダーなどの機能で構成される
26」。
すなわち、SNS とは、ブログにコミュニティ機能や足跡機能、メッセージ機能、公
開範囲を限定する機能などが加え、ユーザー同士の交流をより活発にするように設計
された CMC サービスであるといえる。
『インターネット白書』によると、インターネットユーザー全体における SNS の利
用者率は、2009 年調査で 23.5%となっており、前年とほぼ同水準であり、SNS もブ
ログと同様に頭打ちの状態となっている。最も利用者が多いサービスは、「mixi27」で
ある28。
以上を踏まえ、SNS におけるコミュニティを(1)記事を書いた人と閲覧者によるコ
ミュニティ、(2)コメント欄におけるコミュニティ、(3)友人機能によるコミュニテ
ィ、(4)友人の友人機能によるコミュニティ、(5)コミュニティ機能の掲示板におけ
るコミュニティに分類する。
2.2.1.記事を書いた人と閲覧者によるコミュニティ
SNS における、記事を書いた人と閲覧者によるコミュニティは、一見ブログにおけ
るブログ主と閲覧者によるコミュニティと同じように思える。しかし、「足跡機能」に
よって、ブログのそれとは異なる。
ブログにおける、ブログ主と閲覧者によるコミュニティにおいて、閲覧者がブログ
主に対して訪問したことを伝えるためには、コメント欄にコメントを残す必要がある。
一方、SNS において、閲覧者が記事を書いたユーザーに訪問を知らせるには、コメン
トを残す他に、足跡をつけるという方法がある。
足跡機能とは、文字通り訪問したことを訪問先のユーザーに知らせる機能である。
各 SNS サービスによってその方法は異なるが、トップページを閲覧したときに強制的
に足跡が残される場合(mixi、ニコッとタウン29)と、自ら足跡をつける場合(アメー
バブログ)の 2 通りの方法がある。
26
株式会社インセプト.(2006.10.13).IT 用語辞典<SNS>.(http://e-words.jp/w/S
NS.html).2009.10.30 取得
27 mixi(ミクシィ).(http://mixi.jp/).「ソーシャル・ネットワーキング サービス」
(ホ
ームページより引用)。
28『インターネット白書』
(インプレス R&D 発行),2009,pp. 175, 195 参照
29 Niccoto Town(ニコッとタウン).(http://www.nicotto.jp/).「新・仮想生活つきコ
ミュニティ」
(ホームページより引用)。
-11-
ただ、いずれにせよ、コメ
図 3.SNS の記事
ント欄にコメントを残すより
は、手間はかからず、気軽に
訪問を訪問先のユーザーに知
らせることができる。
そして、この足跡機能によ
り、記事を書いた人と閲覧者
によるコミュニティの情報流
通は、単一方向だけでなく、
双方向のものとなっている。
記事を閲覧したことを、コメ
筆者のミクシィから引用
ントを残さず、足跡という形
で、記事を書いた人に知らせ
ることができるからだ。また、
詳しいことは後述するが、ア
メーバブログ、ニコッとタウ
ンの場合は、足跡が他のユー
ザーに対して可視化されるた
めに、横方向のつながりも有
する。
また、このコミュニティに
ミクシィ、筆者の記事から引用
おいても、潜在的に知り合い
と知り合いでない人が存在す
る。ただし、後述する友人機能を用いれば、記事の閲覧を知り合いだけに限ることも
できる。
つながり方については、ブログにおけるコミュニティよりも、同じ興味・関心を持
つ人同士でコミュニティが形成されやすいといえる。記事の検索機能に加えて、プロ
フィールの設定やコミュニティ機能などにより、共通の興味・関心を持つ人を容易に
探すことができるからだ。ただし、後述する「友人機能」と「友人の友人機能」によっ
て、ブログのコミュニティよりもオフラインにおける交友関係に依存する。
2.2.2.コメント欄におけるコミュニティ SNS のコメント欄における
図 4.SNS のコメント欄
コミュニティの情報流通は、
ブログにおけるそれと基本的
に変わらない。
面識については、記事を書
いた人と閲覧者によるコミュ
ニティと同様である。 ミクシィ、筆者のコメント欄から引用
つながり方についても、記事
を書いた人と閲覧者によるコミ
ュニティと同様に、共通の興味・関心を持つ人同士でコミュニティが形成されやすく、
ブログのコミュニティよりも、オフラインにおける交友関係に依存しやすい。
2.2.3.メッセージ機能を用いたコミュニティ メッセージ機能を用いたコミュニティの情報流通は、双方向のものとなっている。た
-12-
図 5.メッセージ機能の受信箱
だし、メッセー
ジ機能による
コミュニケー
ションは、他
のユーザーに
対して可視化
されないため、
横方向のつな
がりはない。
面識につい
ては、2 人に
よる 1 対 1 の
コミュニティ
なので、コミ
アメーバブログ、筆者の受信箱から引用
ュニケーション
の相手によって知り合い同士、知り合いでない人同士の 2 通りとなる。したがって、
このコミュニティにおいて、知り合いと知り合いでない人が混在することはない。
つながり方については、記事を書いた人と閲覧者によるコミュニティと同様であ
る。
2.2.4.友人機能によるコミュニティ
SNS において、他のユーザーと友人関係になるためには、他のユーザーに対して、
友人になってほしいという申請を出して、それが承認されることが必要となる。友人
になると、友人の記事更新を自分のトップページで確認したり、記事の公開範囲を友
人に限定することが可能になる。
友人機能によるコミュニティの情報流通については、記事を書いた人と閲覧者によ
るコミュニティと基本的には変わらない。ただ、先に述べたとおり、紹介制の SNS は
オフラインでの知り合いをベースに友人機能による友人が形成されるため、横のつな
がりが形成されやすいといえる。
面識については、潜在的に知り合いと知り合いでない人が混在するが、紹介制の
SNS については、やはり知り合いがベースとなる。また、SNS では、記事の公開範囲
を「特定の友人」
「友人まで」
「友人の友人まで」
「SNS 全体」などと選択できるため、
ブログにおけるブログ主とコメント投稿者によるコミュニティとは異なり、オフライ
ンでの知り合いだけに情報を届けることも可能である。
つながり方についても、基本的に共通の興味・関心を持つ人によってコミュニティ
が形成されやすいが、友人の認証をオフラインでの知り合いに限定すれば、その限り
ではない。また、SNS の大きな魅力の 1 つは、旧友と気軽に連絡を取ることができる
ことなので、共通の興味・関心だけでなく、オフラインでの交友関係をベースにコミ
ュニティが形成される。
2.2.5.友人の友人によるコミュニティ
友人の友人機能によるコミュニティの情報流通については、友人機能によるコミュ
ニティと基本的に変わらない。ただし、友人の友人ともなれば、もはや関わりがない
人も出てくるので、横のつながりは友人機能によるコミュニティより弱いと考えられ
る。
-13-
面識についても、友人機能によるコミュニティと同じく、知り合いをベースに形成さ
れる。
つながり方についても、共通の興味・関心を持つ人によってコミュニティが形成さ
れやすい。また、オフラインの交友関係の影響を受ける。
2.2.6.コミュニティ機能の掲示板におけるコミュニティ
SNS では、趣味や出身地、出身 図 6.コミュニティ掲示板
校ごとにコミュニティを立ち上げ
たり、誰かが作ったコミュニティ
に参加することができる。また、
コミュニティ参加者は、そのコミ
ュニティの中で、あるテーマのス
レッドを立てたり、そこに書き込
みをすることができる。
したがって、コミュニティ機能
の掲示板におけるコミュニティの
情報流通は、横のつながりが強い。
あるテーマに沿って、複数人のコ
ミュニティ参加者で会話を行うた
めだ。
面識については、やはり潜在的
に知り合いと知り合いでない人が
混在する。ただし、出身校コミュ ニティというようなオフラインで
所属していた組織ごとのコミュニ
ティにおいては、他の CMC サービ
スにおけるコミュニティよりも知
り合いがいる割合が圧倒的に高い
筆者のアメーバブログから引用
と考えられる。
つながり方については、そもそも興味・関心のあるコミュニティに参加するわけな
ので、共通の興味・関心の影響を大きく受ける。ただし、前述した出身校コミュニテ
ィなどは、その限りではない。
2.3 .掲 示 板
掲示板とは、「参加者が自由に文章などを投稿し、書き込みを連ねていくことでコミ
ュニケーションできる Web ページ。掲示板の開設者がタイトルやテーマなどを決め、
参加者が内容に沿った書き込みをしていく。投稿は時系列あるいは記事の参照関係を
元に並べられ、参加者が一覧できるように表示される30」。テーマごとに分かれた、イ
ンターネット上におけるしゃべり場のようなものである31。
『インターネット白書』によると、インターネットユーザー全体における掲示板の利
用者率は、2009 年調査で 29.5%となっており、前年から 2.8 ポイントの減少となって
30
株式会社インセプト.(2006.11.29).IT 用語辞典<BBS>(http://e-words.jp/w/BB
S.html)
31 本論文において、特に断りがない場合、掲示板にはブログ内や SNS 内などの他の CMC
サービスに付随して提供される掲示板は含めない。
-14-
おり、掲示板の利用者率も頭打ちの状態にある。最も利用されている掲示板として、
「2 ちゃんねる32」が挙げられる33。
以上を踏まえ、掲示板におけるコミュニティを(1)書き込みを行う人と閲覧者によ
るコミュニティ、(2)書き込みを行う人同士のコミュニティに分類する。
なお、掲示板には匿名(2ch など)のものと、決まったユーザー名(知恵袋など)を
用いるものとがある。匿名の場合は、ハンドルネームをつけている場合を除いて、誰
が誰かはわからない。パート化したスレッドの場合は、ハンドルネームをつけていな
くても、ある程度誰が誰であるかが分かる場合もあるが、あくまでそのスレッド内で
のことである。
決まったユーザー名を用いるものは、そのユーザーの特徴をプロフィールなどで知
ることができる。また、ユーザー名を覚えていれば、違うスレッドで出会っても、そ
の人をその人と認識できる。
2.3.1.書き込みを行う人と閲覧者によるコミュニティ 書き込みを行う人と閲覧者によるコミュニティの情報流通は、ブログ主と閲覧者に
よるコミュニティと同様に、書き込みを行う人から、閲覧を行う人への単一方向とな
っている。閲覧者がスレッドに書き込みを行った場合は、書き込みを行う人同士のコ
ミュニティに分類されるためだ。また、スレッドが長期にパート化する場合やお互い
がハンドルネームをつけている場合を除き、継続的なコミュニティは形成されない。
面識については、潜在的
図 7.掲示板のスレッド
に知り合いと知り合いで
ない人が混在するが、匿
名掲示板の場合は、ハン
ドルネームをつけない限
り、知り合いを知り合い
と認識するのは不可能に
近い。
つながり方は、共通
の興味・関心を持つ人に
よってコミュニティが形
成されやすい。興味のあ
るスレッドの下にユーザ
ーが集まるからだ。スレ
ッド検索機能がそれを後
押しする。ただし、学校
や会社ごとのスレッドに
おいてはその限りでは
い。
2 ちゃんねるから引用
2.3.2.書き込みを行う人同士のコミュニティ
http://changi.2ch.net/test/read.
書き込みを行う人同士のコミュニティの情報流通は、双方向であり、横方向のつな
cgi/student/1245934899/101-20
がりが強い。基本的に、情報の第一発信者が立てたスレッドのテーマに沿って、ユー
0
32
ちゃんねる.(http://www.2ch.net/).「『ハッキング』から『夜のおかず』までを手広
くカバーする巨大掲示板群」(HP より引用)。
33『インターネット白書』
(インプレス R&D 発行)@impressR&D,2009, p. 193 参照
-15-
ザー同士で会話を行うためである。
面識、つながり方については、書き込みを行う人と閲覧者によるコミュニティと同
様である。
2. 4. メ タバ ース
メタバースとは、「多人数で参加可能で、参加者がその中で自由に行動できる、通信
ネットワーク上に作成された仮想空間のことである。[…]メタバース内のユーザーは
アバターと呼ばれる。メタバース内でアバターを操作することにより、様々な行動を
することが可能である。メタバース上では、これといった行動シナリオによる制約は
無く、アバターの行動は基本的に自由である34」。仮想空間を舞台に、自分の分身とも
いえるアバターを用いて、自由に会話や行動を行えるサービスであるといえる。
『インターネット白書』によると、インターネットユーザー全体におけるメタバース
の利用者率は、2009 年の調査で 1.5%となっており、前年から 0.5 ポイントの伸び
にとどまっている。最も利用者が多いメタバースとして、「ニコッとタウン」が挙げら
れる35。
ただし、詳しくは次章で説明するが、メタバースと一口に言っても、アメーバピグ
36 の場合は、ブログとある程度独立する形でメタバースが提供されている。一方、ニ
コッとタウンの場合は、メタバースと SNS のサービスが一体的に提供されている。
そのため、アメーバピグでは、他のユーザーのブログ、あるいは SNS のトップペー
ジから、メタバースの部屋へと移動することはできないが、ニコッとタウンの場合は
それができる。また、アメーバピグの場合は、メタバースのコミュニティ機能と SNS
のコミュニティ機能の 2 種類のコミュニティ機能があるが、ニコッとタウンの場合は、
コミュニティ機能はメタバースと SNS の共用のコミュニティ機能となっている。
このように、現在提供されているメタバースサービスは、そのサービスごとに内容
が大きく異なるので、本節では、私が研究において最も利用したアメーバピグを念頭
にメタバースを論じる。
メタバース内でのコミュニケーションは、主にふきだしを用いた会話によって行わ
れる。そのため、会話の内容は他のユーザーに対して可視化される。何か発言をした
際には、一見誰に対して発言しているのかわからないが、メタバース上での地理的な
近接性によっておおよその判断はできる。例えば、向かい合っているアバターや隣に
いるアバターが何らかの発言を行った時には、自分に対して発言していると判断でき
る。
また、他のユーザーに対して「『拍手』的37」な感覚で「ステキ」(ニコッとタウン)
や「グッピグ」(アメーバブログ)という機能で、他のユーザーに仮想通貨 38をプレゼ
ントすることができる。正確には、自分の仮想通貨をプレゼントするわけではなく、
ステキやグッピグを受けた人は、仮想通貨をサービス提供者から付与されるのだが、
株式会社ウェブリオ.IT 用語辞典バイナリ<メタバース>.
(http://www.sophia-it.com/
content/%E3%83%A1%E3%82%BF%E3%83%90%E3%83%BC%E3%82%B9).2009.
12.7.取得
35『インターネット白書 2009』
(インプレス R&D 発行),2009,p. 200 参照
36 アメーバピグ.(http://pigg.ameba.jp/).詳しくは後述する。
37 スマイルラボ.ニコッとタウン<ヘルプ「ステキ」ボタンの履歴リスト機能はないので
すか?>.(http://www.nicotto.jp/user/helptop/index).2009.12.7 取得
38 メタバース上で利用することができる通貨のこと。メタバース上では、オフラインにお
ける通貨ではなく、メタバースサービスごとの仮想通貨を用いて買い物などをする。
34
-16-
意味合いとすれば、よろしくといったあいさつ代わりに仮想通貨をどうぞ、といった
ものである。
ステキやグッピグを受けると、アバターや部屋のカスタマイズをする際に必要な仮
想通貨を獲得できるので、これらの機能はメタバース上でのコミュニケーションを活
発にしたり、メタバース上の仮想タウンへの外出を促す仕組みであるといえる。なお、
ステキやグッピグのような機能を本論文では「拍手機能」と呼ぶことにする。
ステキには、拍手をしてくれた人の履歴を見る機能はないが、グッピグには、履歴
機能がある。その履歴機能を頼りに、拍手を返したり、相手の部屋に訪問することが
できる。
相手の部屋というのは、メタバースにおける部屋のことである。メタバースを利用
する際には、自分の部屋を作る必要がある。また、部屋を訪れた場合は、足跡が残さ
れる。メタバースにおける足跡機能も、強制的に残されるもの(ニコッとタウン)と自
分の意思で残すもの(アメーバピグ)の 2 通りある。
さらに、メタバースにもコミュニティ機能が備えられている。
以上を踏まえ、メタバースにおけるコミュニティを(1)仮想タウンにおけるコミュ
ニティ、(2)部屋におけるコミュニティ、(3)コミュニティ機能によるコミュニティ
に分類する39。
2.4.1.仮想タウンにおけるコミュニティ 仮想タウンにおけるコミュニティの情報流通は、双方向のものとなっている。ただ
し、メタバースにおける会話は、メタバース上において近くにいるアバターを操作す
る人たちに対して可視化される。そのため、会話をしている人以外も、その会話の内
容を見ることができるので、会話に参加していない人と参加している人の情報流通は、
単一方向のものとなっている。
また、複数人による会話も行えるため、横のつながりを有することもある。
面識については、潜在的に知り合いと知り合いでない人が存在する。ただし、完全
に知り合いでない人を排するためには、知り合い同士で場所と時間を指定して集合し
なくてはならない。ブログや SNS では、ログインしていない時にも、マイページや記
事、コメントは存在し続ける。一方、メタバースでは、ログインしている時でなけれ
ば、アバターはメタバース上に存在しない。さらに、吹き出しによる発言はすぐに消
えてしまう。すなわち、メタバースは他の CMC サービスとは異なり、時間的制約を超
えることはできない。
それに加えて、知り合い同士で集まったとしても、メタバース上での会話は、メタ
バース上において近くにいるアバターを操作する人たちに対して開放的であるために、
完全に知り合いでない人を排した会話は難しいといえる。
つながり方については、メタバース上の仮想タウンにおいて、近くにいる人とつな
がる。ただ、話しかける前に、相手のアバターをクリックすることで、相手のプロフ
ィールを読むことができる。また、そのプロフィール画面から相手が書いている記事
などを別ウィンドウ40で見ることもできるので、共通の興味・関心を持つ人同士がつ
39
メタバースにおけるコミュニティは、仮想タウン、部屋、あるいはコミュニティ機能の
コミュニティにおける会話によって形成されるコミュニティを主眼とする。
40 ウィンドウとは、「パソコンの操作画面内にそれぞれ独立した小さな画面を用意し
て、その中に画像や文書を表示する機能」のことである。見ているサイトやページとは
異なるサイトやページを見たいときに、別ウィンドウを開いて表示させることができ
る〔株式会社インセプト.(2000.6.11).IT 用語辞典<ウィンドウ>.(http://e-wor
-17-
ながりやすいといえる。
図 8.仮想タウン
アメーバピグから引用
それでも、ブログや SNS のようにキーワード検索によって、自分と共通の興味・関心
を持つユーザーを探すことはできず、仮想タウン上でプロフィールを確認したり、実
際に話しをしたりしながらユーザーはつながっていく。したがって、共通のタウンに
いて、しかも近くにいる人同士がつながるという、偶発的な出会いが必要となる。
2.4.2.部屋におけるコミュニティ 部屋におけるコミュニティの情報流通は、双方向のものとなっている。ただし、同
じ部屋にいる人に対しては、会話の内容が可視化されるため、部屋の中に会話をせず
に居座っているだけの人がいれば、その人と会話をしている人との情報の流れは、単
一方向となる。また、複数人による会話の場合は、横方向のつながりを有する。
面識については、やはり、このコミュニティについても、潜在的に知り合いと知り
合いでない人が混在する。
ただし、メタバースにおける部屋についても、鍵をかけることができるもの(ニコッ
とタウン)と鍵をかけることができないもの(アメーバピグ)の 2 通りがある。そのた
め、部屋に鍵をかけることができないメタバースに関しては、知り合いでない人を完
全に排して会話をすることはできない。一方、鍵をかけることができるメタバースに
ds.jp/w/E3 82A6E382 A3E383B3E38389E382A6.html).2009.12.26 取得〕。
-18-
図 9.メタバースにおける自分の部屋
アメーバピグ、筆者の部屋から引用
ついては、知り合いだけで会話をすることも可能である。
つながり方については、拍手機能・足跡機能に依存する。なぜなら、メタバースで
はキーワード検索やユーザー名検索という方法で部屋に辿り着くことはできないから
だ。メタバース上で誰かの部屋に行くためには、拍手機能・足跡機能によって得られ
る、他ユーザーのプロフィール画面に表示される相手の部屋のアイコンをクリックす
るしか方法はないからだ。
そして、拍手機能・足跡機能を利用するためには、仮想タウンに出て、そこにいる
アバターをクリックする方法や拍手・足跡をつけられたユーザーの履歴機能を利用す
る方法しかない。
そのため、部屋におけるコミュニティを形成するためには、コミュニティ形成の前
に、コミュニティ構成員同士が、仮想タウンにおいて同じ時間に、同じ場所にいなけ
ればならない。その意味で、部屋におけるコミュニティは、仮想タウンにおいて、自
分のアバターの近くにいる、あるいは近くにいたユーザーによって形成されるコミュ
ニティであるといえる。
2.4.3.コミュニティ機能によるコミュニティ
メタバースにおけるコミュニティ機能は、伝言板機能が用意された各コミュニティ
-19-
の広場上で形成される。伝言板機能とは、コミュニティ機能によるコミュニティ構成
員のみが読むことができる伝言を残す機能である。コミュニティの広場に伝言が残さ
れた場合、コミュニティ構成員は、自分の部屋で伝言が残されたことを知ることがで
き、自分の部屋からコミュニティ広場へ出かけると、その伝言の内容を読むことがで
きる。
図 10.コミュニティ広場
アメーバブログ、筆者の部室から引用
コミュニティ広場とは、コミュニティ機能によるコミュニティ構成員のみが入るこ
とができる、コミュニティごとの部屋のような場所である。
そして、コミュニティ機能によるコミュニティの情報流通は、双方向であり、横の
つながりを有することもある。ただし、伝言板機能による伝言に返答がない場合、コ
ミュニティ広場に 2 人しかいない場合はその限りではない。
面識については、潜在的に知り合いと知り合いでない人が混在するが、コミュニテ
ィ参加者を知り合いだけに限れば、知り合いだけでのコミュニティを形成することが
できる。
つながり方については、SNS のコミュニティ機能の掲示板におけるコミュニティと
同様に、興味・関心を持つコミュニティに参加するわけなので、共通の興味・関心の
影響を大きく受ける。ただし、オフラインでの知り合いとの雑談などに使う場合など、
コミュニティ参加の認証を知り合いだけにすればその限りではない。
-20-
2.5 .各 コ ミュ ニテ ィの 特 徴と 違い
本章で分析してきた各コミュニティの特徴と違いをまとめたものが、pp. 27-29 に示
した表 1 である。
○、△、 という性質の分類は、絶対的なものではなく、本章での議論を踏まえ、他
のコミュニティとの相対的な分類である。
この表 1 を見ると、各 CMC サービス、あるいは同じ CMC サービスにおける各コミ
ュニティによって、その性質が各々異なることがわかる。
情報流通に関しては、完全に単一方向のものが想定されるのは、ブログ主と閲覧者
によるコミュニティと掲示板の書き込みを行う人と閲覧者によるコミュニティだけで
ある。それ以外のコミュニティは、双方向の情報の流れが想定される。ただし、双方
向の情報の流れを持つコミュニティの中でも、強い横の関係が想定されるのは、SNS
のコミュニティ機能の掲示板におけるコミュニティ、掲示板の書き込みを行う人同士
のコミュニティ、メタバースのコミュニティ機能によるコミュニティだけとなってい
る。
面識に関しては、知り合いのみでコミュニティが形成され得るのは、SNS の友人の
友人機能によるコミュニティを除く、すべてのコミュニティとメタバースのコミュニ
ティ機能によるコミュニティとなっている。
一方、知り合いでない人のみでコミュニティを形成しようとする場合、いかなるコ
ミュニティにおいても、知り合いが混在する可能性を完全に排することはできない。
したがって、多くのコミュニティにおいて、面識に関しては、知り合いと知り合いで
ない人が潜在的に混在すると考えられる。
つながり方については、メタバースの仮想タウンにおけるコミュニティと部屋にお
けるコミュニティ以外は、共通の興味・関心によってつながりやすいといえる。特に、
SNS やメタバースにおけるコミュニティ機能や掲示板では、コミュニティやスレッド
のテーマに興味・関心を持つ人によってコミュニティが形成されるので、その傾向が
強い。
オフラインの交友関係については、紹介制の SNS の各コミュニティにおいて、オフ
ラインでの知り合いを完全に排してコミュニティを形成ことはできない。
一方、掲示板とメタバースの仮想タウンにおけるコミュニティでは、オフラインの
交友関係の影響を受けることは想定し難い。
では、各 CMC サービスのコミュニティごとに、情報流通や面識、つながり方などの
性質が異なるのはなぜか。また、同じ CMC サービス同士でも、そのコミュニティの性
質が異ななるのはなぜか。
それは、各 CMC サービス、あるいは同じ CMC サービスであっても、そのシステム
設計の違いが、コミュニティごとの性質をある程度規定しているからだ。
SNS の説明において、足跡機能には、トップページを見ると強制的につけられるも
のと、自分で足跡をつけることを選択してつける場合の 2 通りがあると述べた。また、
SNS には紹介制のものと登録制のものがあると述べた。
これらの違いは、コミュニティの形成や性質にどのような影響を及ぼすのか。例え
ば、足跡が強制的に残される場合は、他のユーザーとのつながりを強く促される。足
跡が残されれば、残した相手のトップページに行って、その人がどのような人かを確
認することが多い。それを繰り返しているうちに、段々と他のユーザーとの交流が始
まる。
また、紹介制の SNS の場合は、オフラインの友人などに紹介してもらい、サービス
の利用を開始する必要がある。したがって、登録制の SNS の場合では、オフラインの
交友関係を気にせず、もっといえば、オフラインの友人に聞かれたくないようなこと
-21-
を記事に書くことができるが、紹介制の SNS の場合はそれがしにくい。さらに、紹介
制の SNS では、各ユーザーが友人の紹介を受けてサービスを利用するために、SNS に
おける友人の友人もオフラインでの友人であることが多く、登録制の SNS とは異なり、
オフラインでの交友関係に大きな影響を受ける。
機能別に見れば、コメント機能は双方向で縦方向のつながりを形成しやすいシステ
ムであるといえる。また、掲示板機能は、横方向のつながりを促すシステムであると
いえる。強制的な足跡機能は、ユーザー同士の交流を活発にする。
CMC サービス別に見れば、ブログ、SNS、掲示板は共通の興味・関心を持つ人同士
でコミュニティが形成されやすく、SNS、掲示板ではその傾向がより強い。その一方
で、SNS は、オフラインにおける交友関係をベースにコミュニティが形成されやすい
という一面も持つ。
メタバースでは、仮想タウンにおいて、偶然出会った人の中からコミュニティが形
成されていく。
このように、各 CMC サービスにおけるコミュニティは、サービスごとのシステム設
計の影響を強く受けるのだ。したがって、次章では、CMC サービスの研究において、
私が主に利用したアメーバブログのシステムを紹介し、その分析を行う。
そして、今までインターネット上では、共通の興味・関心を持つ人がつながりやす
いと論じてきた。本章においては、メタバースの仮想タウンにおけるコミュニティや
部屋におけるコミュニティなどを除いて、多くのコミュニティは共通の興味・関心を
持つ人同士で形成されやすいことを論じてきた。
しかし、オフラインにおいても、共通の興味・関心をもとにコミュニティが形成さ
れやすいといえる。そもそも、コミュニティとは同じ趣味を持つものや気が合う人に
よって形成されやすいものだ。
では、インターネット上のコミュニティ、あるいは CMC サービスごとのコミュニテ
ィにおいて、共通の興味・関心を持つ人同士がつながりやすいことは、オフラインの
場合とどのように異なるのか。
次章では、各 CMC サービスのシステムを考えたうえで、インターネット上では、共
通の興味・関心によって、どのようにコミュニティが形成されるのかを考える。
-22-
表 1(2 章で行った分析を基に筆者が作成)
情報流通
縦(単
一方
向)
ブログ
ブログ
主と閲
覧者
におけ
るコミ
ュニテ
ィ
コメン
ト欄に
おける
コミュ
ニティ
記事を
書い
た人と
閲覧
者によ
るコミ
ュニテ
ィ
○
△(強
制的
に足
跡が
付く場
合は
)
△(強
制的
に足
跡が
つく場
合は
○)
○
メッセ
ージ機
能を用
いたコ
ミュニ
ティ
友人
機能
による
コミュ
ニティ
横
知り合
いの
み
○
コメン
ト欄に
おける
コミュ
ニティ
SNS
縦(双
方向)
△
(足 △(友
跡が
人機
可視 能を用
化され いれ
る場合 ば○も
は△) 可能)
△
○
△
○
△
-23-
△(友
人機
能を用
いれ
ば○も
可能)
△(2
人の
関係
なの
で、使
い方
次第)
△(○
も可
能)
面識
知り合
いでな
い人
のみ
混在
つながり方
共通
オフラ
の興 インの
味・関
交友
心
関係
△
○
△
△
△
○
△
△
△(紹
介制
の場
合は
)
○
△
△
△(紹
介制
の場
合は
)
○
△
△
△
△
△
○
△(2
人の
関係
なの
で、使
い方
次第)
△(紹
介制
の場
合は
)
△
SNS
掲示板
友人
の友
人機
能によ
るコミ
ュニテ
ィ
コミュ
ニティ
機能
の掲
示板
におけ
るコミ
ュニテ
ィ
書き込
みを行
う人と
閲覧
者によ
るコミ
ュニテ
ィ
書き込
みを行
う人同
士のコ
ミュニ
ティ
仮想タ
ウンに
おける
コミュ
ニティ
メタバー
ス
部屋
におけ
るコミ
ュニテ
ィ
△
△
△
○
△
○
△(○
も可
能)
○
○
○
○
○
△
△
-24-
△(紹
介制
の場
合は
)
○
△
△
△
○
○
△
△
○
○
△
○
○
○
(継
続的
な関
係の
場合
は△)
○
(継
続的
な関
係の
場合
は△)
△
△(部
屋の
鍵を閉
めるこ
とがで
きれば
○も可
能)
△
メタバー
ス
コミュ
ニティ
機能
による
コミュ
ニティ
○
○
△(承
認を知
り合い
だけに
限れ
ば○も
可能)
△
○
○
"は、項目の性質を強く持つ場合。
は、項目の性質を持つが、それほど強くない場合。
#は、項目の性質を持たない場合。
-25-
3.ア メ ーバ 総 合 C M C サ ービ ス サイ ト
本章では、私が研究の際に、主に利用した各アメーバサービス 41の紹介と分析、そこか
ら得た仮説を足がかりに、各 CMC サービスおけるシステム設計の違いとはどういうこと
なのかを考える。その上で、オンラインとオフラインにおける、共通点 42によってつなが
りやすいということの違いについて考える。
具体的には、1 章 2 章で、オンライン上では共通の興味・関心を持つ人同士がつながり
やすいとしてきたが、共通の興味・関心だけでなく、もっと広い意味で共通点が人びとを
つなげるということを論じる。また、オフラインにおいても、共通点によって、人びとは
つながるということを論じる。
その上で、オンラインにおいて共通点によってつながりやすいということが、オフライ
ンにおけるそれとどのように異なるのかを考える。
なお、私が、アメーバサービスを研究の中軸に置いたのは、アメーバブログが最も利用
者の多いブログサービスである43ことと、各 CMC サービスが 1 つのパッケージとして提供
されている総合的な CMC サービスサイトであるためだ。
3.1 .ア メ ーバ ブロ グ
アメーバブログとは、株式会社サイバーエージェントが運営する日本で最も利用者の多
いブログサービスである 44。ただ、アメーバブログという名称ではあるが、そのサービス
内容は SNS にかなり近いものとなっている。2 章で示したブログ機能のほかに、ペタ機能
(足跡機能)、グルっぽ機能(コミュニティ機能)、メッセージ機能、アメンバー機能(友
人機能)といった SNS の機能も有しているためだ。
私はこのアメーバブログでほぼ毎日記事を更新し、ペタをつけられた場合はそれを返し、
いくつかのグルっぽに参加している。また、自分が参加するグルっぽ内の掲示板に書き込
みをし、参加者一覧からさまざまなユーザーのページを訪問した。その中で、私のページ
にペタをつけてくれるユーザーや、記事にコメントを残してくれるユーザーにペタやコメ
ントを返し、ペタやコメントを付け合うユーザーの読者となり記事更新を自分のページで
確認できるようにしてさまざまなユーザーとの交流を図った。
アメンバーという機能の内容を知るために、アメンバー申請を行い、メッセージ機能を
利用して会話を行ったりもした。
本節では、このような調査の中で得たアメーバブログのシステム分析を行い、アメーバ
ブログがどのようなコミュニティの形成を念頭にシステムを構築しているのかを考える。
3.1.1.ユーザー間の交流を活発にする仕組み
アメーバブログは、登録制となっている。そのため、アメーバブログを利用するために
は、アメーバサービスに会員登録をしなくてはならない。そして、各ユーザーは会員登録
の際に、自分のユーザー名を決めなくてはならないシステムになっている。
決ったユーザー名を用いなければならないシステムにより、記事を書いたら、自分のユ
ーザー名とともに記事が更新される。他のユーザーの記事にコメントを書くときにもユー
ザー名が強制的に残される。グルっぽ機能により、何らかのグルっぽに参加すれば、グル
っぽメンバー一覧において、自分のユーザー名がそのグルっぽ参加者に公開され、グルっ
ぽ内の掲示板に書き込みを行う際にも、ユーザー名を公開して書き込みを行わなくてはな
アメーバブログ、アメーバピグなどによって構成される CMC サービスサイト。
本論文では、年齢や性別、居住地、出身地、出身校、職業、そして興味・関心、主義主張な
どを、共通点の要素と考えている。
43 『インターネット白書』
(インプレス R&D 発行),2009,p. 175 参照
44 『インターネット白書』
(インプレス R&D 発行),2009,p. 175 参照
-2641
42
らない。
図 11.アメーバブログのペタ帳
ペタをける際にも、アメーバブログでは、
ユ ー ザ ー 名 が 相 手 の ペ タ 帳 45 で 公 開 さ れ
る。
そして、ユーザー名が張り巡らされるこ
とは、自分のページへのリンクが張り巡ら
されることであるといえる。張り巡らされ
たユーザー名をクリックすれば、そのユー
ザーのページに移動することができるから
だ。
すなわち、アメーバブログは、登録制と
いうシステムに加え、ペタ機能、グルっぽ
機能といった SNS のシステムによって、そ
の都度ユーザー名というリンクを張り巡ら
せ、ユーザー間の交流を活発にするように
方向づけているといえる。
筆者のペタ帳から引用
3.1.2.横方向のつながりを促進する足跡システム
アメーバブログでペタをつけた場合、ペタをつけたユーザーのペタ帳で、そのユーザー
がつけられたペタの一覧を見ることができる。すなわち、アメーバブログにおける足跡機
能であるペタ機能は、他のユーザーに対して可視化されるシステムになっているのだ。
先に述べたように、足跡機能とは、そもそもユーザー間の交流を活発にする仕組みであ
るといえる。それに加え、アメーバブログは、足跡を他のユーザーに対して可視化させる
ことにより、横方向のつながりを促す。
足跡が可視化されないシステムにおける足跡による交流は、自分のページに足跡がつけ
られ、それを返すという縦方向の交流だけとなる。しかし、その足跡を可視化させること
によって、足跡をつけたユーザー同士が足跡をつけ合うことが可能になり、横方向の交流
が促進される。
3.1.3.共通点を持つ人同士をつなげる仕組み
アメーバブログは、記事検索機能やグルっぽ機能、プロフィール機能などのシステムに
よって、共通点を持つ人同士でコミュニティを形成するように促す。
2 章で述べたように、記事検索機能は、キーワードによって共通点を持つ人同士をつな
げ、コミュニティ機能は共通点のもとに各ユーザーが集まることを可能にしてくれるから
だ。プロフィール機能は、他のユーザーに対して、自分がどういった属性 46を持ち、何に
対して興味・関心を持っているのかを示す旗印の役割を持つ。
45
つけられたペタの一覧表。自分のペタ帳に限り、つけたペタの一覧も見ることができる。
また、アメーバブログは、ペタ帳が表示されるページで「ペタとも」という概念を提示してい
る。ペタともとは、ペタを付け合うユーザー間の関係のことをいう。このペタともという概念
をユーザーに提示することによって、ペタをつけられたらペタをつけ返すという文化を、アメ
ーバブログはつくろうとしていると考えられる。さらに、ペタをつけられた数に応じて、ペタ
帳の生き物が次々と変わっていくシステム、つけられたペタ数を毎日報告するメールマガジン
サービス、ペタを他のユーザーに可視化することによって、ペタをつけることに対してインセ
ンティブが与えられている。
46 本論文において、属性とは年齢、性別、職業、居住地、出身校を指す。
-27-
アメーバブログ、筆者のプロフィールから引用
図 12.プロフィール
アメーバブログ、筆者のプロフィールから引用
3.1.4.交流するユーザーを見定める仕組み
アメーバブログのペタ機能は、足跡を可視化させるだけでなく、あえて自らが足跡をつ
けるという選択をして、足跡をつけるというシステムになっている。しかし、強制的に足
跡が残される仕組みを採用した方が、よりリンクが張り巡らされ、ユーザー同士の交流が
活発になるとも考えられる。
また、アメーバブログには、あるユーザーの記事更新をマイページで確認できるように
する読者機能というシステムがある。そして、アメーバブログでは、読者機能によって、
あるユーザーの読者にな
る場合、相手にそれを知らせることも、知らせないこともできる。
この読者機能においても、強制的に読者になったことを相手のユーザーに知らせるシス
テムにすれば、相手のページと自分のページにお互いのリンクが張られることになるので、
ユーザー同士の交流が活発になるとも考えられる。
では、なぜアメーバブログは、強制的に足跡をつけ、強制的に読者になったことを知ら
せるシステムを採用しないのか。それは、相手に知られることなく読者になれる機能と、
強制的に足跡が残されないペタ機能の 2 つの機能を利用できるようにすることで、気の合
うユーザーを見定めてコミュニティを形成することを促すためだと考えられる。
-28-
図 13.読者機能
アメーバブログ、筆者のページから引用
3.1.5.アメーバブログのシステム設計
以上の分析と SNS の特徴を踏まえ、アメーバブログがどのようなコミュニティの形成
を念頭におき、そのサービスを提供しているのかについて、簡単にまとめておく。
アメーバブログは、登録制、ペタ機能、グルっぽ機能によって共通点を持つユーザー等
の(横方向のつながりも含む)交流を促す仕組みとなっている。また、足跡を自分でつけ
るペタシステム、相手に知られずに読者登録できる読者登録システムによって、仲良くし
たいユーザーを見定める仕組みを採用し、それを促している。
以上から、アメーバブログは、多くのユーザーとの交流を促しつつも、仲良くするユー
ザーをある程度時間をかけて見定め、より気の合う人同士によるコミュニティ形成を目指
していると考えられる。
ここで、注意しておきたいのは、アメーバブログは、あえて以上分析してきたシステム
を採用しているということだ。例えば、ミクシィでは、足跡は強制的に残されるシステム
であり、相手に知られずに読者登録することもできないが、アメーバブログでは、あえて
足跡をつける選択肢をユーザーに与え、相手に知られずに読者登録できるシステムを構築
した。それに、そもそも足跡機能、読者機能というシステムをアメーバブログに組み込ま
ないという選択肢もあったはずだ。
グルっぽ機能、記事検索機能、プロフィール機能も、アメーバブログに組み込まないと
いう選択肢があったにもかかわらず、アメーバブログではあえてこれらのシステムを、そ
のサービスに組み込んでいる。ミクシィのように紹介制のシステムも採用できたはずなの
に、あえて登録制を採用している。
-29-
このように、CMC サービスにおけるシステムは、偶然できたものではない。サービス
提供者がユーザーの行動を方向付けるために、あえて設計しているのだ。これについては、
本章の 5 節で改めて議論する。
3.2 .ア メ ーバ ピグ
アメーバピグは株式会社サイバーエージェントが提供するメタバースサービスである。
ユーザーは、アバターを操作し、仮想タウンで会話やミニゲームを楽しむ。各ユーザーに
は、自分の部屋が用意され、部屋の模様替えをしたり、部屋で他のユーザーとの会話を楽
しむこともできる。
ただ、アバターや部屋は、自分の好きなようにカスタマイズすることができるが、各パ
ーツを選択して組み合わせることによるカスタマイズしかできない。自分でプログラム 47
を書き、プログラミング 48が許す限り自由な服装や家具を作ったりすることができるわけ
ではない(レシッグ、2007,p. 18)。
私は、このアメーバピグで、仮想タウンに出かけてその場にいる人にグッピグ(拍手機
能)をしたり、近くにいる人と会話をしたりしている。また、他ユーザーの部屋を訪れ、
きたよ(足跡)を残し、何人かのユーザーとピグとも49にもなっている。
本節では、このアメーバピグを利用した中で得たシステムの分析を紹介し、アメーバピ
グがどのようなコミュニティの形成を念頭にシステムを構築しているのかを考える。
3.2.1.外出を促す仕組み
アメーバピグは、グッピグ・きたよ機能によって頻繁に仮想タウンや他のユーザーの部
屋へ出かけることを促進する。アメーバピグでは、グッピグ・きたよを 1 回つけられるた
び、「アメ」という仮想通貨を 1 個獲得できるからだ。この仮想通過で、ゲームやスクラ
ッチにチャレンジすることができ、それによってアバターの衣装や部屋の家具・家電を手
に入れることができる。
しかも、グッピグ、きたよによって得られるアメの数は、それぞれ 1 日 20 個までとなっ
ていて、0 時になると、カウントはリセットされる。そのため、アメーバピグでは、毎日
仮想タウンや他のユーザーの部屋へ出かけることにインセンティブが与えられ、外出を促
す仕組みとなっているのだ。
3.2.2.ユーザー間の会話を促進する仕組み
ブログや SNS には、記事を日記的に書く仕組みがあり、それを読むことで記事を書い
た人の属性や、記事を書いた人がどのようなことに興味・関心を持っているのかがおおよ
そわかる。したがって、その属性や興味・関心を足がかりに他のユーザーと会話を行うこ
とができる。
一方、メタバースには記事というものは存在せず、相手のアバターを見ても、相手の部
屋を見ても、相手がどういう属性で何に興味・関心を持っているのかは、ほとんどわから
ない50。そのため、他のユーザーとの会話の話題に困ることが多々ある。
プログラムとは、「コンピュータが行うべき処理を順序立てて記述したもの」[株式会社イン
セプト.(2009.10.20.IT 用語辞典<プログラム>.(http://e-words.jp/w/E38397E383
ADE382B0E383A9E383A0.html).2010.1.3 取得]。
48 プログラミングとは、「コンピュータに人間が意図した動作を行わせるための指示の集まり
(プログラム)を作成すること」[株式会社インセプト.(2009.10.7).IT 用語辞典<プロ
グラミング>.(http://e-words.jp/w/E38397E383ADE382B0E383A9E3839FE383B3E382
B0.html).2010.1.3 取得]。
49 ピグとも機能のシステムについては、後述する。
50 アメーバピグのアバターは、およその年齢すら判断することは難しい。
-3047
図 14.メタバースにおけるプロ
そこで、アメーバピグでは、プロフィール機能、部活 フィール
機能、テーマ設定がされた広場というシステムで、ユー
ザー間の会話を支援している。
プロフィール機能は、アメーバブログにおけるプロ
フィール機能のように自分がどういう属性を持ってい
て、自分が何に興味・関心を持っているのかを紹介す
る機能である。このプロフィールは、他のユーザーの
アバターをクリックすると読むことができる 51。これに
より、他のユーザーとの会話における話題づくりが楽
になる。
さらに、部活というアメーバピグ上でのコミュニテ
ィ機能が、会話を促進させる。部活に入部すると自分
が入部した部活のロゴと名称が、プロフィール画面に
表示される。これによってプロフィールに書かれてい
な
い、相手の属性や興味・関心を知ることができ、さら
アメーバピグ、筆者のプ
に話題づくりが楽になる52。
ロフィールから引用
次に、テーマ設定がされた広場というのは、出身地、
10 代の広場、男の広場、主婦の広場、スポーツ好きの広場というように、それぞれ属性
や興味・関心ごとに分類された広場のことである。
アメーバピグでは、いくつもの広場があるがそれぞれはつながっていない。また、広場
には、現実世界に実在する街(渋谷、京都、北海道など)の名称がつけられた広場もある。
あえて、それぞれの広場を独立した空間にして、あえてテーマを設定しない広場も提供し
ている。
これにより、あるテーマについて話したい人をテーマごとの広場に誘導することができ、
そうでない人はテーマが決っていない広場に誘導することができる。そして、その両者を
分断することによって、テーマが設定された広場において、そのテーマを会話の話題にす
るように促し、会話を支援しているのだ。
3.2.3.継続的なコミュニティの形成を促す仕組み
アメーバピグが、ただ好きな広場へ出かけて
図 15.手紙機能
その場にいる人と話すだけの機能しかなければ、
アメーバピグにおいて、継続的なコミュニティ
の形成は考えにくい。他のユーザーへのリンク
がない場合、そのユーザーとまた会うためには、
お互いが同じ広場に同じ時間にいなければなら
ず、それを継続的に行っていくのは難しいから
だ。
アメーバピグ、筆者のポスト(手紙一覧)
しかし、アメーバピグには、グッピグ・きた
から引用
よ機能によって他のユーザーにリンクを張る仕
組みがある53。また、グッピグ・きたよを残してもらった人に対しては、手紙機能54を用
51
先に、グッピグ・きたよ機能には、アメというインセンティブが与えられていると述べたが、
このグッピグ・きたよを相手につけるためには、プロフィール画面を開かなくてはならない。
そのため、グッピグ・きたよ機能は、他のユーザーのプロフィールを読ませるように促す仕組
みでもあるといえる。
52 部活機能の詳しいシステムは後述する。
53 グッピグ・きたよ機能によって、グッピグ・きたよの履歴一覧から、グッピグ・きたよを
つけられたユーザーの部屋に移動することができる。そのため、グッピグ・きたよ機能は、他
-31-
図 16.テーマごとの広場
アメーバピグから引用
いて時間的制約を解除し、相手がログインしていないときであってもメッセージを送るこ
とができる。
さらに、部活機能によって、共通点を持つ人同士でコミュニティを形成することを促し、
部員に部員のみが入室できる部室を提供することによって、継続的なコミュニティの形成
を促進させる55。
それだけではない。ピグとも機能における、ピグともになれば、ピグともが現在ログイ
ンしているかどうかが分かるようになる。また、ログインしている場合は、ピグとものい
る広場や部屋へ瞬時に移動することができるのだ。
メタバースは、時間的な制約を受け、メタバース上の地理的な制約も受ける。アメーバ
ピグは、これらの制約を解除するシステムを構築することによって、時間的・地理的な制
約を無視して、他のユーザーと交流するような仕組みを構築しているのだ。
3.2.4.共通点を持つ人同士をつなげる仕組み
アメーバピグでは、プロフィール機能、部活機能、テーマ設定がされた広場というシス
テムを用いて、ユーザー間の会話を促進する仕組みを構築しているとしたが、これは共通
点を持つ人同士をつなげる仕組みともいえる。
自分が何に興味・関心を持っているのかを、自分のアバターをクリックすることができ
る範囲のユーザーに対して可視化することによって、ユーザーは話しかけるユーザーを吟
のユーザーのページに行くことができるという意味で、3.1.1.で論じたように、リンクと
しての役割を持っているといえる。
54 グッピグ・きたよをつけられたユーザーに対してのみ、手紙機能を用いてメッセージを送
ることができる。このメッセージは、それが送られた時に、受け手がログイン状態になくても、
ログインした時に、そのメッセージを読むことができるため、時間的制約を解除したメッセー
ジを送ることができるといえる。
55 部活機能は、SNS のコミュニティ機能のように、自分が参加したい部活に入部届けを出し、
それが承認されれば、その部活のメンバーになることができる。
-32-
味することができるので、共通点を持つ人同士がつながりやすくなる56。
また、部活機能は、共通点を持つ人の集まりに参加することができる機能である。それ
だけではない。私たちが日常で、コミュニティという言葉を使う機会は少ないが、部活に
所属していた人は多いだろう。そのため、コミュニティを私たちに親しみがありイメージ
しやすい部活という言葉で呼ぶことは、メンバー間の仲間意識を強くすると考えられる。
さらに、テーマ設定がされた広場は、共通点を持つ人を集める仕組みである。その中に
は年齢や性別などのテーマを持つ広場もあるが、
「部員募集広場」という広場もある。それ
によって、共通点を持った人たちを広場に集め、さらに何らかの部活に入部したい人には、
部員を募集する広場を提供することによって、共通点を持つ人同士がつながるような仕組
みを構築していると考えられる。
3.2.5.開放的なコミュニケーションを促す仕組み
図 17.大規模な広場
アメーバピグから引用
アメーバピグでは、SNS におけるメッセージ機能のように、1 対 1 で閉鎖的なコミュニ
ティを形成することはできない。ふきだしによる会話は、そのふきだしが見える位置にい
るユーザーに対して、必ず可視化される。話をしようという取り決めを行った後に、その
取り決めに参加したメンバーのみが、ふきだしを見ることができるようなシステムも選択
できただろうが、アメーバピグはそのようなシステムではない。
広場の隅っこへ行って会話を行おうとしても、1 つ 1 つの広場はそれほど大きくなく、
ほとんどの場合、誰かにふきだしを見られてしまう57。
56
アメーバピグにおいて、私はプロフィール画面に野球と大学生というキーワードを載せて
いる。そのため、他のユーザーが話しかけてくる場合は「私も野球好きですよ」
「僕も大学生で
す。何年生ですか」といった形で話かけられることが多い。
57 ただし、広場の大きさはさまざまあり、一概には言えない。それでも、ほとんどの広場では、
10 人程度のユーザーがいれば、誰かしらのパソコンの画面に、自分のアバターが映ってしまう
と考えられる。
-33-
図 18.小規模な広場
アメーバピグから引用
図 19.中程度の大きさの広場
アメーバピグから引用
-34-
また、2 章で述べたように、自分の部屋で会話を行う場合でも、訪問者を完全に排して
会話を行うことはできない。SNS の記事の公開範囲を限定する機能のように、自分の部
屋の訪問をピグともに限定するシステム。あるいは、後に紹介するニコッとタウンのよう
に、自分の部屋に鍵をかけるシステムを構築すれば、閉鎖的なコミュニティを形成できる。
だが、アメーバピグはあえてそうしたシステムは選択しなかったので、それはできないの
だ。
そのため、ふきだしによって会話を行うシステム、訪問者を限定できないシステム、部
屋にかぎをかけることができないシステムによって、アメーバピグは、開放的なコミュニ
ケーションを促す仕組みを構築しているといえる。
3.2.6.アメーバピグのシステム設計
以上の分析とメタバースの特徴を踏まえ、アメーバピグがどのようなコミュニティの形
成を念頭におき、そのサービスを提供しているのかについて、簡単にまとめておく。
アメーバピグは、グッピグ・きたよにアメというインセンティブを与えることによって、
ユーザーが外出することを促す。また、グッピグ・きたよをつけあうことによって、ユー
ザー間にリンクを張らせている。
そのリンクと部活機能、ピグとも機能によって、メタバース上では解除できないはずの
時間的な制約とメタバース上における地理的な制約を解除し、継続的なコミュニティの形
成を促す。そして、部活機能、テーマ設定がされた広場、プロフィール機能によって、共
通点を持つ人同士をつなげようとする。
アメーバブログと同様に、この仕組みは偶然できたものではない。グッピグ・きたよ機
能をシステムに組み込まないこともできたし、誰からグッピグ・きたよをつけられたのか
をわからなくすれば、グッピグ・きたよにリンクの役割を持たせないこともできた。
広場にテーマを持たせないこともできたし、ピグとも機能、部活機能もシステムに組み
込まないという選択肢もあったのである。
3.3 .ア メ ーバ サー ビス 以 外 の C M C サー ビ スに おけ る シス テム 分析
ここまでは、アメーバサービスにおけるシステムの分析を行ってきた。そして、アメー
バサービスの各システムは、アメーバサービスがあえて構築した仕組みであるとした。
では、アメーバサービス以外の CMC サービスでは、どのようなシステムを設計してい
るのか。また、あえてさまざまな行動を促進する仕組みを構築するとはどういうことなの
か。共通点を持つ人同士をつなげる仕組みは、オフラインにおいては存在しないのか。
これらについて考えるために、本節では私が利用した CMC サービスのうち、ミクシィ、
2 ちゃんねる、ニコッとタウンにおけるシステムの分析58を行う。
アメーバサービス以外のサービスにおけるシステム設計とアメーバサービスのシステム
設計の違いと共通点はあるのか。それを明らかにすることによって、オンラインにおいて、
共通点を持つ人同士がつながりやすいということはどういうかについて考える。
そして、インターネット上では、アーキテクチャ59によってその振る舞いが規定される。
また、アーキテクチャによってコミュニティの性質が規定されるということを論じる。
58
ミクシィ、2 ちゃんねる、ニコッとタウンについては、アメーバブログ、アメーバピグと大
きく異なるシステムや仕組みを中心に、簡単な分析を行う。また、共通点を持つ人同士をつな
げる仕組みは、今後の議論において非常に重要な仕組みであるので、いずれのサービスにおい
ても、分析を行う。
59 「環境技術的な力」。構築する環境の違いによって、人びとの行動を方向付けることができ
るという概念のことである(荻上,2007,pp. 86-87)。詳しい議論は本章の最後、並びに 4
章で行う。
-35-
3.3.1.ミクシィ
ミクシィにおいて、アメーバブログと大きく異なるシステムは、紹介制、強制的な足跡
機能、可視化されない足跡機能、相手に読者になることを知らせなくては、相手の記事更
新を自分のページで確認できないシステムなどが挙げられる。
まず、ミクシィでは紹介制という仕組みによって、オフラインにおける知人との交流を
促している。紹介制は、サービスを始めるには、既存のミクシィユーザーから招待状を受
け取らなくてはならないというシステムである。
このシステムは、オフラインにおける知人からの招待を促す。既存のミクシィユーザー
からミクシィの招待状を受け取るといっても、招待状を受け取る前にミクシィにアクセス
することはもちろんできない。そのため、既存のミクシィユーザーと仲良くなってから紹
介状を受け取ることはできず、既に仲がいい知人でミクシィを利用している人から紹介を
受けるのが最も効率的になるからだ。
さて、紹介を受けてようやく利用を開始できるのだが、ミクシィでは紹介をしてくれた
人はサービス利用開始時に強制的にマイミク(友人機能)とされるシステムになっている。
もちろん、ミクシィのシステムを構築するときに、紹介制でなく登録制という選択肢もあ
ったはずだ。それだけではなく、紹介者を強制的にマイミクにしない選択肢もあったはず
である。
したがって、ミクシィはあえて紹介制のサービスを提供していて、あえて紹介者を強制
的にマイミクするシステムを採用しているのだ。これにより、ミクシィは、オフラインに
おける知人をベースにコミュニティが形成されていくように促す。2 章で SNS の友人機能、
あるいは友人の友人機能によるコミュニティで論じたとおりである。
また、ミクシィでは他のユーザーと交流することを強く促される。足跡が強制的に残さ
れる上に、あるユーザーの記事更新を、内密にチェックする機能は存在しない。すなわち、
他のユーザーのページを閲覧するたびに強制的に自分のページへのリンクが張られる上に、
興味のあるユーザーの記事を定期的に閲覧しようと思えば、相手に自分の存在を知らし、
相手のページに自分のページへのリンクを張りつけるか、毎回自分のページへのリンクを
相手のページに貼りつけなくてはならないからだ。
一方、ミクシィでは閉鎖的なコミュニティを形成することも可能である。マイミクまで、
あるいはマイミクのマイミク(友人の友人機能)までといった記事の公開範囲は選択でき
るが、記事を会員以外に公開するという選択肢は選べない。そもそも、会員でない人はミ
クシィのサービスに入ることはできず、プロフィール、記事等を見ることはできない。
しかも、記事の公開範囲外の人には、記事を書いているのか、書いていないのかさえわ
からない。
共通点を持つ人同士をつなげる仕組みについては、アメーバブログで挙げたシステムと
ほとんど変わりはない。ただし、記事検索に加えて、プロフィール検索を行うことができ
る。例えば、好きな食べ物や趣味、年齢、居住地といったキーワードをもとに、自分と共
通点を持つ人を検索することができる。
以上をまとめると、ミクシィは紹介制、マイミクというシステムによって、オフライン
における知人をベースにコミュニティを形成することを強く促す。また、他のユーザーの
ページを閲覧するたびに、自分のページへのリンクが強制的に張られていくシステムによ
って、他のユーザーと仲良くするために、相手の属性や興味・関心などを調べる過程で、
相手ユーザーとの交流を強制的に始める仕組みとなっている。そのため、他のユーザーと
積極的に交流させられる60。
一方で、閉鎖的なコミュニティを形成することも可能な仕組みとなっている。
コミュニティ機能、記事検索機能、プロフィール機能、プロフィール検索機能によって、
60
自分の行動が足跡などによって残されることにより、閉鎖的なコミュニティへの参加を躊
躇わせる仕組みであるとも考えられる。
-36-
共通点を持つ人同士をつなげる仕組みも有している。
図 20.アンカ
3.3.2.2 ちゃんねる
2 ちゃんねるは、今まで分
析してきた CMC サービスの
システムとは大きく異な
る。
まず、2 ちゃんねるは会員
登録をしなくても、利用す
ることができる。そのため、
各ユーザーに決ったユーザ
ー名というものは存在しな
い。スレッドに書き込みを
行う際に、ハンドルネーム
2 ちゃんねるから引用
をつけることはできる。ただ
し、それを強制されるシステムではない。
加えて、各ユーザーは自分のページを持つことができない。そのため、各ユーザーに自
分のページを持たせ、各ユーザーのページをリンクでつなげることは当然できない。
また、2 ちゃんねるでは、SNS におけるメッセージ機能のように、1 対 1 で閉鎖的なコ
ミュニティを形成することはできない。アンカ61をつけあって、1 対 1 で会話を行うことも
できるが、その会話の内容は他のユーザーに対して必ず可視化されるシステムとなってい
る。これにより、2 ちゃんねるは横のつながりを強く促すシステムであるといえる。
2 ちゃんねるにおいては、スレッドごとにコミュニティが形成される。ハンドルネーム
をつけている場合や、長期にパート化したスレッドである場合を除き、そのスレッドで誰
と会話をしているのかはわからない。もちろん、そのスレッドにいる人と会話をしている
2 ちゃんねるから引用
わけだが、ブログや SNS、メタバースのように特定の名前を持つ人と話をするわけでは
http://gimpo.2ch.net/t
ない。
est/read.cgi/jfoods/125
したがって、2 ちゃんねるにおけるコミュニティとは、コミュニケーションを行う人同
6731127/101-200
士というより、コミュニケーションを行う場であるといえる。そして、コミュニケーショ
ンの場所としてのコミュニティを形成するのは、誰でも自由に閲覧や書き込みを行えるシ
ステム、特定のユーザー名を強制しないシステム、各ユーザーが自分のページを持てない
システムなどの、2 ちゃんねるの仕組みがそれを形成するのである。
共通点を持つ人同士をつなげる仕組みは、スレッド検索システムとテーマごとにスレッ
ドを分けるシステムによって形成される。
なぜなら、スレッド検索システムは、まさに情報を引き出すシステムであり、自分の興
味・関心のあるキーワードを打ち込むシステムなので、共通点を持つ人同士をつなげやす
い。また、スレッドごとにテーマが分かれていることは、アメーバピグのテーマ設定がさ
れた広場のように、共通点を持つ人同士がつながりやすいシステムである。
3.3.3.ニコッとタウン
ニコッとタウンにおいて、アメーバピグと大きく異なるシステムは、SNS のマイペー
ジと共用のメタバースにおける部屋、履歴が表示されないステキ(拍手機能)システム、
強制的につけられる足跡システム、他のユーザーに対して、お気に入り機能(読者機能)
によるお気に入りが強制的に公開されるシステムなどが挙げられる。
2 章で少し触れたが、ニコッとタウンは、メタバースと SNS のシステムを融合させた
61
>>レスポンス番号という形を用いて、特定の順番にレスポンスをしたユーザーに対して、
レスポンスを返すことができる。
-37-
CMC サービスであるといえる。アメーバブログとアメーバピグは、ある程度、分離され
ている。あるユーザーのアメーバブログから、そのユーザーのアメーバピグにおける部屋
に移動することはできない62。
一方、ニコッとタウンでは、メタバースにおける自分の部屋と SNS における自分のペ
ージが共用となっている。メタバースにおける部屋に入れば、SNS のページも表示され、
そこから記事を読むこともできるし、足跡の一覧や参加しているコミュニティ、お気に入
り登録しているユーザーの一覧も見ることができる。また、自分の書いた記事にコメント
をつけたユーザーのユーザー名をクリックすれば、そのユーザーのメタバースにおける部
屋に行くこともできる。
そのため、ニコッとタウンのメタバースサービスは、アメーバピグよりも時間的制約を
解除できる仕組みを構築しているといえる。
また、ニコッとタウンにおける拍手機能であるステキには、履歴機能がない 63。そのた
め、ステキは他のユーザーに対して自分のページへのリンクを張る役割は持たないので、
ニコッとタウンでは、ステキは単に仮想タウンへ出かけることを促す仕組みであるといえ
る。
一方、足跡はリンクを張り巡らせる仕組みであるといえる。ニコッとタウンの足跡は、
強制的につけられるシステムであり、他のユーザーに対して可視化されるシステムである。
そのため、アメーバブログ、ミクシィの足跡システム分析から、ニコッとタウンは、強制
的に足跡をつけるシステムによって、強制的にリンクを張り巡らせ、足跡を可視化される
ことによって、ユーザーの横のつながりを促進する仕組みを構築しているといえる。
さらに、お気に入り機能によるお気に入りが強制的に公開されるシステムによって、お
気に入り登録されているユーザーのリンクが張り巡らされ、ユーザー間の交流が促され
る。
共通点を持つ人同士をつなげるシステムは、プロフィール機能、記事検索機能、コミュ
ニティ機能によって形成されている。
3.4 .ア ー キテ クチ ャと い う議 論
以上、アメーバブログ・アメーバピグのシステム分析を行い、ミクシィ、2 ちゃんねる、
ニコッとタウンのシステム分析を簡単に紹介してきた。
システムの分析を行ってみると、各 CMC サービスにおけるユーザーの行動やコミュニ
ティの性質は、各システムの影響を受けることがわかる。
ローレンス・レシッグは、このように人びとの行動をある特定の方向に導く環境の力を
アーキテクチャと呼び、アーキテクチャは決して自然と出てくるものではないとしている。
アーキテクチャは、誰かが意図して作り上げているということだ(レシッグ,2007,p.
8)。
もちろん、今まで分析してきた CMC サービスは、民間の会社によって提供されている
ので、特定の行動を促したり、コミュニティの性質を方向付けたりするのは、あくまで利
益のためだといえる。また、サービスを提供する会社の技術力によって、実現できないシ
ステムもありうるだろう。
62
ただし、あるユーザーのアバターをクリックしたり、あるユーザーにグッピグ・きたよを
つけてもらえば、その人のアメーバブログに移動することができる。また、あるユーザーのア
メーバブログから、そのユーザーのアメーバピグにおける部屋に移動できないのは、アメーバ
ピグが、アメーバブログにおいて仲のいいユーザーとの交流の場になることを防ぐためである
と考えられる。つまり、アメーバピグではアメーバピグでのコミュニティ形成を促す仕組みで
あると考えられる。
63 履歴機能がないということは、つけたステキが帰ってくる見込みがかなり低くなる。私の
場合、ニコッとタウンでステキをつけられる数は、アメーバブログでグッピグをつけられる数
と比べると圧倒的に少ない。
-38-
図 21.SNS のマイページと共用の、メタバースにおける部屋
ニコッとタウン、自分のページから引用
-39-
しかし、どのような目的であれ、各 CMC サービスのアーキテクチャが、各サービス上
でのユーザーの行動やコミュニティの性質を方向付けているのは間違いないうえに、ある
アーキテクチャのもとでは形成し得るコミュニティも、違うアーキテクチャのもとでは形
成できないということもある。
これまで分析してきたように、強制的な足跡システムは、ユーザー間にリンクを張り巡
らせ、そのリンクをもとにユーザーが交流することを促している。また、アメーバピグ上
では、訪問者を完全に排して自分の部屋で閉鎖的なコミュニティを形成するのは不可能で
ある。
このように考えると、コミュニティは「つくる」という側面だけでなく、「つくられる」
という側面もあるように考えられる。つくられるコミュニティ、それはどういうことか。
3.4.1.つくられるコミュニティ(オンライン)
アメーバピグのスポーツ広場を例に、コミュニティがつくられるとはどういうことかを
考えてみる。
アメーバピグでは、スポーツ広場に入るために、スポーツに関する記事を 1 度は書いた
ことがある、プロフィールに好きなスポーツを書いているというような条件は課していな
い64。
しかし、スポーツ広場という名前の広場に、特にスポーツに関心を持っていない人が大
挙して押し押せることは考えにくい。他に選択肢がなければ、それも考えられるが、アメ
ーバピグには、スポーツ広場以外にもたくさんの広場がある。たくさんの選択肢があるに
もかかわらず、あえてスポーツ広場にいるという人は、ほとんどの場合、スポーツに関心
がある人だろう。そのため、スポーツ広場には、スポーツに関心のある人が集められ、そ
れによってコミュニティがつくられているともいえる。
違う考え方もできる。アメーバピグの広場には、例えば、アニメ広場というような広場
はない。つまり、アニメに関心のある人のコミュニティは、アニメ広場ではつくれない。
広場をつくることができるのは、アメーバピグを運営するサイバーエージェント社であっ
て、アメーバピグを利用するユーザーは広場をつくることはできないからだ。
では、スポーツに関心のある人のコミュニティはどうだろうか。もちろん、スポーツに
関心のある人のコミュニティは、スポーツ広場でつくることができる。では、スポーツ広
場がなかったらどうか。当然、スポーツ広場ではスポーツに関心のある人のコミュニティ
はつくれない。
すなわち、アメーバピグでは、スポーツ広場というシステムが、スポーツ広場において、
スポーツに関心のある人のコミュニティをつくらせているのだ。スポーツ広場というアー
キテクチャがなければ、このコミュニティがつくられることはない。
3.4.2.つくられるコミュニティ(オフライン)
コミュニティがつくられるという側面を持つということは、オフラインについてもいえ
る。大学のゼミにおけるコミュニティを例に考えてみる。
大学のゼミにおけるコミュニティは、当然各ゼミのゼミ生によってつくられる。しかし、
ゼミが必修の大学であれば、いずれかのゼミに入らなければならない。ゼミに入らないと
いう選択をすれば、卒業することができないからだ。
その意味で、ゼミが必修の大学では、ゼミに入るという見方もできるが、ゼミに入らさ
れているという見方もできる。つまり、入らされているゼミにおいてコミュニティを形成
しているので、そのコミュニティはつくられているという側面を持つ。
一方、ゼミが必修ではない大学のゼミにおけるコミュニティはどうか。もちろん、ゼミ
に入らないという選択ができるため、ゼミが必修の大学のような論じ方はできない。
64
このような条件を課さないことには、技術的な問題も関係していると考えられる。
-40-
しかし、大学というアーキテクチャ、あるいはゼミというアーキテクチャがなければ、
大学のゼミにおけるコミュニティは存在し得ない。つまり、ゼミが必修でない大学におけ
るゼミのコミュニティにも、つくられる側面があるのだ。
このように、コミュニティとは、つくるという側面だけでなく、つくらされるという側
面を持つ。そして、コミュニティは必ずアーキテクチャの影響を受ける。
3.5 .オ ン ライ ンと オフ ラ イン にお け る共 通 点を 持つ 人 同士 のつ なが り 方
コミュニティは必ずアーキテクチャの影響を受けるということは、オンラインとオフラ
インにおける、共通点によるつながり方の違いも、アーキテクチャの違いであると考えら
れる。
3.5.1.オフラインにおける共通点を持つ人同士のコミュニティ
オフラインにおけるコミュニティは、多くの場合複数の共通点を持つ人同士で形成され
る。例えば、大学生のコミュニティは、同じ大学の学生で、同じ興味・関心を持つ人同士
でつくられたりする。同じ大学の学生ということは、同じ地域に住んでいることも多く、
同世代であることが多い。
また、同じ大学の学生でコミュニティが形成される場合は、同じ学部であることが多く、
あるいは同じ学科かもしれない。同じサークルや同じゼミに所属している場合は、よりコ
ミュニティを形成しやすい。
このように、オフラインにおけるコミュニティは、いくつもの共通点を要することが多
い。地理的な制約を受け、年齢によってある程度コミュニティをつくれる人が限られ 65、
所属する組織の人以外の人とコミュニティを形成することが難しいからだ。
3.5.2.オンラインにおける共通点を持つ人同士のコミュニティ
しかし、オンラインにおけるコミュニティでは、共通点はいくつもいらない。いや、少
ない共通点でつながることができる。
アメーバブログにおいて、共通点を持つ人同士をつなげる仕組みは、記事検索機能、グ
ルっぽ機能、プロフィール機能であると分析した。
そして、これらは 1 つのキーワードによって、ユーザーをつなげる機能である。
例えば、何気なく昨日観たテレビ番組が面白かったという記事を書いても、キーワードに
よる記事検索を用いて、そのテレビ番組の熱狂的なファンが訪れることができる。また、
SNS やメタバースのコミュニティ機能によるコミュニティは、ほとんどの場合、「中学
生」
「1986 年生まれ」
「テイルズ好き66」
「ウイスキー好き」といった単一のテーマのコミュ
ニティとなっている。
中学生というテーマのコミュニティは、居住地、性別、趣味、あるいは国籍といった属
性は何でも構わない。ただ、中学生であればいい。
ウイスキー好きというコミュニティであっても、居住地、性別、趣味、年齢(20 歳以上
という限定はあるが)といった属性は何でも構わない。ウイスキーが好きという 1 つの共
通点によって、ユーザーはつながれる。
オフラインでのアーキテクチャ、地理的な制約を受け、年齢によってある程度コミュニ
ティをつくれる人が限られ、所属する組織の人以外の人と交流する機会が少ないという環
境では、1 つの共通点で誰かとつながることは難しいが、オンラインでのアーキテクチャ
ではそれが容易い。
このように、CMC サービス上では、少ない共通点でも人びとはつながれるのだ。
65
例えば、中学校までは、年齢によって学年が強制的に決まる。高校、大学は、強制的に決
められるわけではないが、オフラインのアーキテクチャによって、高校生はおおよそ 15 歳か
ら 18 歳、大学生は 18 歳から 24 歳くらいまでの年齢の人であることが多い。
66 ゲームソフトのことである。
-41-
3.5.3.アーキテクチャの違いが生み出す社会のつながり方
本章では、アメーバサービスのアーキテクチャ分析を通して、コミュニティの形成や性
質は、アーキテクチャの影響を受けるということを論じてきた。
そして、コミュニティとは、共通点を持った人たちで形成されるが、オンラインとオフ
ラインにおけるアーキテクチャの違いが、共通点を持った人たちのつながり方の違いを生
むとした。
では、この違いから、オフラインとオンラインにおけるコミュニティ間の関係について
どのようなことがいえるだろうか。
そして、その関係から、1 章で結論を先送りした、集団分極化や電子まゆの問題、ある
いは社会全体のつながり方という問題をどのように論じることができるのか。最後に、次
章でこれらの問題について考えたい。
-42-
4.社 会 全体 のつ な がり
1 章で述べたように、梅田は、インターネットの登場と進化による総表現時代を高く評
価する(梅田,2006,pp. 136-142)。
一方、サンスティーンは、「多くの人々を自作のエコーチェンバー(…)に閉じ込めて
しまうようなシステム 67が集団分極化現象の原因」であるとしている。また、サンスティ
ーンは、多くの人々を自作のエコーチェンバーに閉じこめるインターネットによって、社
会が分裂化する危険があるとしている(サンスティーン,2003,pp. 80, 86)。
本章では、CMC サービスを利用した上での私の仮説、今まで論じてきた CMC サービス
上のコミュニティの特徴やシステムの分析、オンラインとオフラインにおける共通点によ
るつながり方の違い、アーキテクチャという議論を踏まえて、楽観論、集団分極化、さら
に社会が分裂化する危険性について考える。
4.1 .楽 観 論
先にも述べたが、梅田は、インターネットの登場と進化が「総表現時代」の到来を可能に
し、それによって共通の興味・関心を持つ人同士に連帯が生まれ、1000 万人単位の新た
な連帯が生まれるとしている(梅田,2006,pp. 136-142, 148-150)。
しかし、梅田はインターネットによるコミュニティ形成を楽観的に捉えすぎている。1
章でも述べ、これから議論する集団分極化、エコーチェンバーという問題に対する視点が
欠如している。
梅田は、インターネットが共通の興味・関心を持つ人同士をつなげることから、興味・
関心を共有する人たちの連帯が生まれ、社会全体の連帯が強化されるとしている。だが、
サンスティーンは、興味・関心(主義主張)を共有する人たちの連帯が、社会を分裂化さ
せると危惧している。
つまり、サンスティーンが社会の分裂化を危惧するのと同じ理由で、社会全体の連帯が
強化されるとしているが、サンスティーンが危惧している集団分極化、エコーチェンバー
という危険性については論じられていない。
また、共通の興味・関心を持つ人同士の連帯が生まれることで、なぜ社会全体の連帯が
強化されるのかについて論じられていない。
したがって、インターネットによって社会全体の連帯が強化されると主張するためには、
集団分極化や電子まゆといった問題に対する議論と共通の興味・関心を持つ人同士の連帯
が社会全体の連帯を強化させる理由を述べなければならない。
次節では、まず集団分極化について考える。
なお、本章ではサンスティーンと私の議論の違いを明確にするため、共通の主義主張に
よって集まり、他のコミュニティとのつながりがないコミュニティをエコーチェンバー68
と呼び、共通の主義主張以外の共通点のもとに集まるか、人に集う性質が強いコミュニテ
ィをまゆ(オンラインの場合は電子まゆ)と呼ぶ。
4.2 .集 団 分極 化議 論に 対 する 指摘
私が、CMC サービスを利用した中では、集団分極化現象を目にすることはあまりなか
った。なぜか。それには以下の理由が考えられる。
(1)集団分極化が起こりやすいのは、政治的テーマなど、主義主張によってスタンスが大
きく異なるテーマである 69。しかし、オフラインにおいても同じことがいえるが、2 ちゃ
んねるを除く CMC サービス上で政治的なテーマなどを議論する人をほとんど見たことが
67
インターネット、とりわけパーソナライゼーションが特に発達したインターネットのこ
と。
68 「音の反響効果を人工的に作り出す部屋や装置」という意味である(荻上,2007,p. 68)
。
69 典型例としては、憲法 9 条、支持政党、ジェンダー問題などが挙げられる。
-43-
ない70。
(2)CMC サービス上には、場所に集う性質が強いコミュニティだけでなく、人に集う性
質が強いコミュニティが数多く存在する。場所に集う性質が強いコミュニティとは、何ら
かのテーマが与えられた場所ごとにコミュニティが形成される場合を指す。人に集う性質
が強いコミュニティとは、場所ごとにではなく、人ごとにコミュニティが形成される場合
を指す71。
(3)CMC サービス上では共通の主義主張だけではなく、年齢や居住地、性別といった共
通点でもつながることができる。
(4)2 ちゃんねるを除く CMC サービス上では、何らかの主義主張を持ったテーマを持つ
ページに対してリンクが張られるのではなく、「人」に対してリンクが張られる。
4.2.1.集団分極化が起こりやすいテーマ
1 章でも述べたように、集団分極化とは「グループで議論をすれば、メンバーはもとも
との方向の延長線上にある極端な立場へとシフトする可能性が高い」という現象のことで
ある(サンスティーン,2003,p. 80)。
したがって、集団分極化は政治的なテーマなど、主義主張によってスタンスが大きく分
かれるテーマにおいて起こりやすい現象である。例えば、憲法 9 条というテーマにおいて
は、賛成派と反対派の対立が生まれやすく、集団分極化が起こりやすい。一方、今日の夕
食は何を食べておいしかった、というようなテーマにおいては、賛成派と反対派の対立が
生まれにくく、集団分極化は起こりにくいといえる。
すなわち、前者は各人によって考え方が異なるテーマである。憲法 9 条を維持すべきか、
憲法 9 条を改正して軍隊を持つべきかは各人の考え方によって異なり、議論の余地がある
テーマだといえる。
一方、後者は好みの違いである。好き嫌いは各人によって異なるが、議論の余地はあま
りない。なぜなら、どんなに議論をしたところで、人の食べ物の好みは変わらないからだ。
また、夕食にどんなものを食べたかということは事実であり、議論をしたところでそれは
変わらない。
もちろん、集団分極化が起こりやすいテーマと起こりにくいテーマの明確な境界線はな
い。ただし、議論の余地があまりないテーマにおいては、議論を行うことはできず、相対
的に集団分極化は起こりにくいといえる。また、政治的で主義主張によってスタンスが大
きく分かれるテーマにおいては、当然大いに議論を行えるので、集団分極化が起こりやす
いといえる。
そのため、集団分極化は、私のアメンバーや私が読者登録しているブログ主のページで
は起こっていない。どういうことか。それは、日々の何気ない出来事が綴られることが多
いブログや SNS の記事、日常の他愛のないことについての雑談を楽しむことが多いメタ
バースでは、政治的な主義主張によってスタンスが異なるようなテーマについて議論する
ユーザーを見ることはなかったということだ。
すなわち、サンスティーンは、インターネット上における政治的なテーマについて会話
を行うコミュニティだけを念頭に集団分極化について論じているが、ブログや SNS、メタ
バースというアーキテクチャのもとでは、そのようなコミュニティはあまり存在しないと
いうことだ。
4.2.2.人に集う性質が強いコミュニティ
70
詳しくは後述するが、2 ちゃんねるは場所に集う性質が強いコミュニティであるために集団
分極化が起こりやすいといえる。また、2 ちゃんねるは、場所に集う性質が強いコミュニティ
であるために、議論を行う場であるという文化を生み、政治的なテーマなど主義主張によって
スタンスが大きく異なるテーマが、議論されることが多いと考えられる。
71 この 2 つのコミュニティの違いは相対的なものである。詳しくは後述する。
-44-
2 章で、コミュニティをコミュニケーションを行う場所・空間、あるいはコミュニケー
ションを行っている人同士と定義したが、厳密にはコミュニケーションを行う場所として
のコミュニティと、コミュニケーションを行っている人同士によるコミュニティの意味は
異なる。それには、3 章で紹介したアーキテクチャの議論が大きく関わってくる。
例えば、2 ちゃんねるは、何らかのテーマのもとにユーザーがスレッドに集まり議論を
行う。プロフィール機能はなく、スレッドに参加するユーザーは、基本的に他のユーザー
がそのスレッドのテーマ以外に、何に興味・関心を持っているのかはわからない。そのた
め、例外はあるだろうが、ユーザーたちは、参加するスレッドのテーマに沿って議論を行
う。
このように、2 ちゃんねるでは、特定のユーザーがいるからコミュニティに参加すると
いうよりは、自分の興味・関心のあるテーマのスレッドだからコミュニティに参加する仕
組みとなっている。
したがって、2 ちゃんねる、あるいは掲示板のようなシステムにおいては、ある特定の
テーマの場所(スレッド)にコミュニティが形成されるので、そのコミュニティは、場所
に集う性質が強いコミュニティであるといえる。
一方、アメーバブログには、登録制、ペタというシステムによって、ユーザー間にリン
クを張り巡らせ、ユーザー間の交流を活発にする仕組みがある。この仕組みによって、形
成されるコミュニティは、場所に集う性質よりも、人に集う性質が強いコミュニティであ
る。
リンクは、各ユーザーのトップページにつながっており、コミュニケーションを行う場
所は記事、ペタ、コメント、メッセージとさまざまある。したがって、特定のコミュニケ
ーションの場所がコミュニティを形成しているのではなく、特定のユーザー同士がコミュ
ニティを形成している性質が強い。
すなわち、コミュニティには、大きく分けて、あるテーマを持つ場所に集う性質が強い
コミュニティと、特定の人に集う性質が強いコミュニティの 2 種類があるといえる72。
しかし、サンスティーンの集団分極化の議論では、あるテーマの場所に集う性質が強い
コミュニティについてのみ論じられている。人に集う性質が強いコミュニティについては、
論じられていないのだ。
そして、人に集う性質が強いコミュニティの場合、集団分極化が起こる可能性は、場所
に集う性質が強いコミュニティのそれと比べて低くなる。なぜなら、人に集う性質が強い
コミュニティは、ある決まったテーマについて会話を行うように促されていないだけでな
く、仲良くなることが大きな目的であるからだ。
まず、私たちの興味・関心は 1 つではない。スポーツ、食べ物、お酒、TV 番組、映画、
ゲーム、雑誌等、さまざまな領域において興味・関心を持っている。さらに、それぞれの
領域における興味・関心の大きさは人それぞれである。
そのため、人に集う性質が強いコミュニティでは、ある特定のテーマについて議論を行
いたい人だけが集まるのではない。それよりも、特定のユーザーと何らかのテーマについ
て話したい人が集まるのだ。
さらに、人のもとに集う性質が強いコミュニティは、何らかのテーマについて話をする
のは、手段であるとすら考えられる。ある特定のユーザーと仲良くなりたいから、あるい
は仲良くしたいから会話を行うのだ73。
72
メタバースは、場所に集う性質が強いコミュニティを形成しやすいようにも考えられるが、
リンクが張られるのは、テーマごとに分けられた場所ではなく、特定のユーザーに対してであ
るために、人に集う性質が強いコミュニティを形成しやすいと考えられる。ただし、アメーバ
ピグの部活システムやテーマ設定された広場というシステムは、場所に集う性質が強いコミュ
ニティの形成を促すシステムであるともいえる。
73 アメーバブログにおいて、私は今日のおもしろかった、あるいはつらかった出来事、好き
なスポーツ、好きな食べ物、欲しいゲーム、読もうと思っている本など、とても多岐にわたる
-45-
つまり、人に集う性質が強いコミュニティでは、共通の主義主張を持つ人同士で、その
考え方を極端にさせるとは考えにくいのだ。
4.2.3.共通点の 1 つでしかない共通の主義主張
3 章で述べたように、CMC サービス上では少ない共通点でつながることができる。そし
て、CMC サービス上では、共通の主義主張を持つという共通点は、あくまでさまざまな
共通点の中の 1 つでしかない。
共通点の中には、居住地、年齢、性別、職業、学校、趣味、特技、共通の興味・関心等、
共通の主義主張以外にもたくさんのものが含まれる。
サンスティーンは、自作のエコーチェンバーの中に閉じこもらせるシステムが集団分極
化の原因としている。すなわち、サンスティーンは、インターネット上においては主義主
張によって人々がつながりエコーチェンバーに閉じこもると想定しているのだが、実際は
3 章で述べたように、CMC サービス上では人々はさまざま共通点によってつながり、電子
まゆを形成しているのである。
したがって、CMC サービス上では、集団分極化が起こりにくいテーマの電子まゆに閉
じこもることのほうが圧倒的に多いのである。
4.2.4.人に張られるリンク
サンスティーンは、自らが参加した調査の結果を次のように述べている。「無作為に選
んだ 60 の政治系ウェブサイトのうち、たった 9 つ(15%)が反対意見のウェブサイトに
リンクがあり、一方 35 のウェブサイト(約 60%)が同意見のサイトにリンクしていた。
反対意見へのリンクがある場合でも、相手の見方がいかに危険で、愚かで、卑劣であるか
を明らかにするのが目的になっている」(サンスティーン,2003,pp. 74-75)。
サンスティーンは、場所に集う性質が強いコミュニティについてのみ議論を行っている
ので、リンクを張るということも、何らかのテーマについて議論を行う「場所」に張られ
る場合だけを論じ、インターネットは集団分極化の温床であるとしている(サンスティー
ン,2003,p. 82)。
しかし、先にも述べたように、インターネットには人に集う性質が強いコミュニティも
多く存在する。そして、足跡やコメント、拍手機能などによって残されるリンクは「人」
に対するリンクであるといえる。足跡やコメント、拍手機能によるリンクはユーザーのト
ップページ、あるいはテーマごとではなく、ユーザーごとの部屋につながるからだ。
したがって、人に集う性質の強いコミュニティに対して張られるリンクに、反対意見も
賛成意見もない。意見ではなく、人に対するリンクだからだ。
4.2.5.2 種類のコミュニティ
以上、集団分極化について論じてきたことをまとめると、インターネット上において集
団分極化は、場所に集う性質が強いコミュニティにおいて起こりやすい。また、政治的な
テーマなど、主義主張によってスタンスが大きく異なるテーマが設定された場所において
は、その可能性がさらに高まる。
そして、場所に集う性質が強いコミュニティは、掲示板のようにテーマごとの場所に人
びとを集める仕組みによって形成される。すなわち、場所に集う性質が強いコミュニティ
を形成させるようなアーキテクチャのもとにおいて、賛成派と反対派が対立しやすいテー
マでは、集団分極化が起こりやすいといえる。
テーマのブログを書いている。しかし、それでも特定のユーザーが毎日コメントを書いてくれ
たり、足跡をつけてくれたりしている。私も、仲良くするユーザーに対しては、ほとんどの記
事にコメントを残す。それは、仲がいいからだ。オフラインにおいて、友達とあらゆるテーマ
について話をするのと同じだ。友達と、1 つのテーマだけを話す人などいないのと同じ理由で
ある。
-46-
したがって、アーキテクチャなどの違いによって、インターネット上では、大きく分け
て、集団分極化が起こりやすいコミュニティ(エコーチェンバー)と起こりにくいコミュニ
ティ(まゆ)の 2 種類のコミュニティが存在する。
インターネットは集団分極化が起こりやすいコミュニティの形成をオフラインのそれと
比べて、格段に容易にしてくれる。インターネットは、地理的な制約を解除することがで
き、共通の主義主張を持つ人と容易につながることができるからだ。
しかし、一方で、集団分極化が起こりやすいコミュニティの形成を容易にしてくれるの
と同じ理由で、インターネットは、集団分極化が起こりにくいコミュニティの形成も容易
にしてくれる。
4.2.6.インターネット上における集団分極化議論の修正
これまでの議論を踏まえ、サンスティーンの集団分極化論に、以下の修正を迫りたい。
まず、インターネット上には、集団分極化を起こしやすいコミュニティだけでなく、起
こしにくいコミュニティも多く存在する。また、共通の主義主張は、私が今まで述べてき
た共通点の 1 つでしかない。
さらに、リンクは特定のサイトやページだけでなく、特定の人に張られるものもある。
そして、インターネットは、集団分極化を起こしやすいコミュニティの形成だけでなく、
起こしにくいコミュニティの形成も容易にするので、インターネットが集団分極化の温床
であるとは、一概には言えないのである。
4.3 .社 会 全体 の結 びつ き
次に、インターネットが社会全体の結びつきをどのように変えるのかについて考えた
い。
サンスティーンは、多くの人々をエコーチェンバーに閉じこめるインターネットによっ
て、社会が分裂化する危険があるとしている。
私は、少しの共通点で他者とつながることができるインターネットによって、私たちは、
あらゆる共通点ごとの電子まゆとつながり、社会全体の結びつきは強化される可能性があ
ることを主張する。
そして、ここで「社会全体の結びつき」についての定義を提示したい。
本論文では、社会全体のコミュニティ間における「つながりの糸」の総数が多く、なお
かつそれが複雑に張り巡らされる状態を、社会全体のむすびつきが強いとする。
また、コミュニティ間のコミュニケーションが存在する場合、つながりの糸が双方のコ
ミュニティをつないでいるとする。したがって、コミュニケーションが行われないコミュ
ニティ間においては、つながりの糸がないとする。
そのため、サンスティーンが述べる社会の分裂化と社会全体の結びつきが強くなるとい
うことは、かならずしも真逆の概念ではない。ただ、サンスティーンがいう社会の分裂化
は、少なくとも、インターネットが本論文で定義する社会全体の結びつきを強くするとい
うことは示していない。
なぜなら、サンスティーンは、インターネット上において、賛成派と反対派のつながり
の糸が断たれることのみを論じているからだ。そして、サンスティーンが想定しないつな
がりの糸が、インターネット上に存在することを本節で論じる。
4.3.1.人と人のつながり
前節で、インターネット上のコミュニティを、場所に集う性質が強いコミュニティと人
に集う性質が強いコミュニティに分類したが、サンスティーンは、場所に集う性質が強い
コミュニティだけを念頭においているので、社会の分裂化を危惧するのである。
ある争点について反対派と賛成派が異なる場所でコミュニティを形成し、集団分極化に
よって、両者の歩み寄りが難しくなるからだ。
-47-
しかし、人に集う性質が強いコミュニティは、人と人のつながりそのものである。この
コミュニティは、社会全体の結びつきを強くする。人と人の間にリンクが張られ、形成さ
れるコミュニティであるからだ。
サンスティーンは、インターネット上において、人に集う性質が強いコミュニティを念
頭においていないので、社会の分裂化を危惧するのである。
4.3.2.複数のコミュニティへの参加
さらに、サンスティーンは、私たちが参加するコミュニティが複数あることを念頭にお
いて、議論をしていない。どういうことか。
確かに、場所に集う性質が強いコミュニティでは、ある争点について反対派と賛成派の
歩み寄りが難しくなる。したがって、インターネット上において、1 つのテーマだけでコ
ミュニティが形成されるのなら、社会の分裂化の危険は限りなく高くなる。また、社会全
体の結びつきは弱まる。
ただし、インターネット上にある争点は 1 つではない。また、何度も述べているが、場
所に集う性質が強いコミュニティにおいても、インターネット上では少ない共通点でつな
がれる。
私たちは 1 つのコミュニティに参加しているわけではなく、複数のコミュニティに参加
できる。そして、インターネット上では、少ない共通点で人びとはつながることができる
ので、オフラインよりも多くのコミュニティに参加することができる。
すなわち、場所に集う性質が強いコミュニティは、インターネット上である 1 つの争点
によって 2 項対立をしているわけではない。また、反対派、賛成派と分かれることが考え
にくいテーマのコミュニティも多く存在する。
そのため、場所に集う性質が強いコミュニティにおける電子まゆ同士は、さまざまな領
域において重層的につながっているのだ。インターネット上では、少ない共通点でもつな
がることができるので、1 人 1 人が閉じこもる電子まゆの数は、オフラインにおけるそれ
よりも、格段に多くなる。
したがって、1 人 1 人がさまざまな電子まゆと糸をつなげることによって、社会全体の
結びつきが強くなる可能性があるのだ。
4.3.3.重層的につながり合う電子まゆのモデル
以上述べてきたことをまとめ、本論文の結論としたい。
インターネット上には、属性や興味・関心、主義主張ごとに、さまざまな電子まゆが存
在する。それだけではなく、インターネット上には、特定の人を中心にして共通点によっ
て形成された電子まゆも存在する。
属性や興味・関心、主義主張ごとに分かれた電子まゆの中には、あるテーマについて賛
成派と反対派にわかれやすい領域の電子まゆと、賛成派と反対派にわかれにくい領域の電
子まゆが存在する。
あるテーマについて賛成派と反対派にわかれやすい領域の電子まゆについては、集団分
極化現象が起こり、お互いの歩み寄りが難しくなり、賛成派と反対派の電子まゆをつなげ
る糸が断たれてしまう。ただし、どちらの電子まゆでも、他の争点、あるいは属性や興
味・関心の領域においては、敵対する電子まゆを含め、さまざまな電子まゆとつながって
いる。
電子まゆの中にいるそれぞれの人が、さまざまな属性、興味・関心、主義主張を持って
いるので、他の領域におけるさまざまな電子まゆとつながっているからだ。
賛成派と反対派にわかれにくい領域の電子まゆについては、敵対する電子まゆが存在す
ることは少なく、さまざまな属性や興味・関心によって、他の領域にある電子まゆとつな
がっている。
この 2 つの性質を持つ電子まゆに、特定の人を中心にして共通点によって形成される電
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子まゆが加わることによって、電子まゆ同士のつながりの糸はより重層的で複雑なものと
なる。なぜなら、特定の人を中心にして共通点によって形成される電子まゆ!人に集う性
質が強いコミュニティは、共通の知り合い、あるいは友人という共通点でも、人びとをつ
なげるからだ。
これにより、特定の人を中心にして共通点によって形成される電子まゆは、その中にい
る人びとの知り合い、あるいは友人がいる電子まゆともつながることができるからだ。
そして、この電子まゆの重層的なモデルは、オフラインにおけるまゆ同士のつながりと
比べて、つながりの糸の数が圧倒的に多く、複雑に張り巡らされていると考えられる。な
ぜなら、今まで論じてきたように、オンラインにおいて人々は、少ない共通点でつながる
ことができるからだ。年が近いという共通点で誰かとつながり、好きな食べ物が同じとい
う共通点でまた違う人とつながる。同じ趣味を持っているという共通点でもつながり、同
じ人のページをよく訪れるという共通点でもつながれる。
オフラインでつながるためには、いくつもの共通点を要するので、つながれる人の数は
オンラインにおけるそれと比べて少なくなる。
したがって、インターネットによって、社会全体の結びつきは強くなるといえるのだ。
4.4 .局 地 的な 分裂 、一 時 的な 分裂 へ の危 惧
本論文で提示した電子まゆのモデルは、インターネットが社会「全体」の結びつきを強
くすることを示しているが、裏を返せば局地的な分裂は確実に存在することも示している
74 。また、これまで議論してきたインターネットの特徴は、その局地的な分裂をより深刻
にすることを示している。
サンスティーンが考える集団分極化への危惧は、この領域については当てはまるからだ。
この領域のエコーチェンバーにどれほどの人が閉じこもっているのかはわからない。ただ
し、共通の主義主張のもとにエコーチェンバーが形成されるこの領域では、両者の歩みよ
りは難しい。
オフラインにおいても、共通の主義主張のもとにエコーチェンバーが形成されることが
ある。しかし、オンラインでは、オフラインよりも容易に共通の主義主張を持つ人を見つ
けることができる。また、地理的な制約、時間的な制約を受けることなく、共通の主義主
張を持つ人同士で議論を行うことができる。
そのため、局地的な分裂とはいえ、それを楽観的に捉えることはできない。賛成派と反
対派を形成しやすいあるテーマに、社会の大多数の人びとが非常に大きな関心を持つよう
になったとき、その争点をめぐって社会は一時的に分裂化する可能性も考えられる。
一時的な分裂ならまだいい。もっと危険なのは、局地的な分裂が社会全体に波及したと
きに、賛成派と反対派の対立がインターネットによってかなり深刻になれば、両者の歩み
よりは難しくなるので、いつまでもその分裂が解消されない可能性もあるのだ。
ただ、やはりそう悲観的になりすぎることもない。なぜなら、私たちはオンライン上だ
けでコミュニティを形成しているわけではないからだ。それに、今まで議論してきたよう
に、インターネット上でも、人に集う性質が強いコミュニティが多く存在する。
これにより、共通の主義主張を持つ人とだけ会話をするようなことは考えにくい。社会
の大多数の人びとが非常に大きな関心を持つようなテーマであれば尚更だ。したがって、
インターネットによる社会全体の結びつきの変化について、過度に楽観的に考える必要も
なく、過度に悲観的に考える必要もない。
オンラインはオフライン以上に社会全体の結びつきを強くする。一方で、オンラインは
本論文で紹介した CMC サービスやそのシステムの中では、2 ちゃんねる、アメーバブログ
やミクシィにおけるコミュニティ機能の掲示板、アメーバピグの部活、テーマ設定がされた広
場などが、このコミュニティを形成しやすいアーキテクチャであるといえる。もちろん、賛成
派と反対派を形成しにくいテーマによってコミュニティが形成される場合は、その限りではな
い。
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オフライン以上に局地的な分裂、一時的な分裂のリスクを伴う。しかし、いずれにせよ社
会が完全に分裂してしまうことはないのである。
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終わりに
これまで論じてきたように、本論文は、オンライン上では重層的で複雑なコミュニティ
間のつながりが形成されることを示した。また、それによって、社会全体の結びつきが強
くなるとした。
1 章では、インターネットは自分好みの情報ばかりを取得させ、それによって社会全体
のむすびつきが強化されるという考え方と、それによって社会が分裂化するという考え方
を紹介した。
2 章では、インターネット上のコミュニティを細かく分類し、インターネット上にはさ
まざまな性質を持ったコミュニティが存在することを示した。
3 章では、実際に CMC サービスを利用して得た仮説をもとに、オンラインはオフライン
よりも少ない共通点で、コミュニティを形成することができるということを示した。
そして、4 章ではインターネットによる社会のつながり方について、楽観的な考え方に
欠けている議論を示し、悲観的な考え方の根拠ともいえる集団分極化論に修正を迫った。
また、社会全体の結びつきの定義を示し、インターネットがもたらす重層的で複雑なコミ
ュニティ間のつながりが、社会全体の結びつきを強くするという結論を示した。
本文の最後に示したが、本論文の結論はインターネットによって社会全体では結びつき
が強くなるが、局地的な分裂や一時的な分裂は、むしろより深刻なものになることを示し
ている。ただし、新たな可能性は新たなリスクを伴う。何事にも、メリットの裏側にはデ
メリットが存在する。
問題は、そのメリットを最大限生かし、デメリットを最小限に抑える方法を模索するこ
とである。本論文では、集団分極化を起こしやすいテーマの場所に集うコミュニティは、
社会の結びつきを弱めるとした。そして、そのコミュニティを形成は、アーキテクチャの
影響を強く受けるとした。
しかし、集団分極化を起こしやすいテーマの場所に集うコミュニティをアーキテクチャ
によって、極力減らすことには賛同できない。なぜなら、インターネット上で形成される
そのコミュニティには、新たな議論の場としての可能性があるからだ。
本論文は、インターネット上のコミュニティを一括りで論じてしまっては、本来あるは
ずの問題を考えることができないということも、1 つの主眼となっている。
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