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逆光電子分光・・・・・米田忠弘
放射光第 4 巻第 3 号 (1991 年〉 3 4 7 〉77φ C 70 及び、 Kx C 60 の光電子?逆光電子分光 C60 , 米田忠弘 日本テキサス・インスツルメンツ(槻 P h o t o e m i s s i o na n dI n v e r s ep註ot問削ssion s t u d yo fC 6句 C 7B, a n dKxC60 TadahiroKomeda e s e a r c handDevelopmentC e n t e r TexasInstruments , TsukubaR S y n c h r o t r o n・ radiation a n d X -r a yp h o t o e m i s s i o ns t u d i e so ft h ev a l e n c eb a n da n di n v e r s e i l m p h o t o e m i s s i o ns t u d yo ft h eu n o c c u p i e ds t a t e so fc o n d e n s e dp h a s e-p u r eC拘 C叫 and K-dopedC6Q f w i l lbed i s c u s s e d . Cω , Buckminsterfullerene は炭素原子 60 個か 化学工業への応用という面ではすでに Ref.l で議 ら成る非常に美しい対称性をもったクラスターで 論されている。生産コストは最終的に電気代だけ ある。その構造は 6 員環が 20 個, 5 員環が 12 偲 で,値段もアルミのようなところまで低下すると から成る 32 面体で,まさにサッカーボールの形を みられている。具体的な応用例としてはクラス している。ちょうど 12 個の 5 員環ム様々な数の ター関の相互作用が極めて弱いと予想されること 6 員環によって作られる炭素の立体的なかご状の から潤滑剤として期待されている。また,このか クラスターの一族, ごの中に金属原子を入れる試みもなされて,その fullerene の中の一つである。 Cω の存在は数年前より知られており,例えば 1985 年 Kroto らはグラファイトをレーザーで蒸発 理論的計算も進んでおり 5) ,また触媒への応用も見 逃せない 6) 。 させて得られた物質のなかにこの特徴的なクラス ター Cω を発見している九彼らの研究動機の一つ が炭素 r ich な星の周辺での宇宙環境の研究で しかしながら,この物質が炭素原子が取る基本 構造としてはダイアモンド,グラファイトに続く 3 番目の構造であり,また非常に特殊な対称性を あったことは興味深い九この物質の物性的研究, 持ったクラスターであることから,その基礎的な あるいは化学工業的応用の研究が爆発的に開始さ 物性は大変興味のある対象である。しかもこの Cω れたのは Krätschmer らによって macroscopic な が形成する格子の中へアルカリ金属をドープした 量の Cω の合成が発表された後のことである 3}o そ 系が伝導性さらに超伝導を示すことが観測され の後,合成方法に関する様々な発表がなされてい た 7) 。分子状物質としては非常に高い T c が測定さ る 4) 。 れ,グラファイトに層間物質としてアルカリ金扇 1 4 9 - (C) 1991 The Japanese Society for Synchrotron Radiation Research 3 4 8 放射光第 4 巻第 3 号 (1991 年) をドープした系で得られる Tc とは桁違いに高いも リンダーの器壁に“すす"を形成する効率を高め のである。いったいこのサッカ…ボールがこのよ ようとしている。その“すす"は溶剤にトルエン うな超伝導を示すメカニズムは何であり , 等を用いて溶かされ,クロマトグラフによって Cω Tc はど こまで上昇するのかといったエキサイチイングな の精製が行なわれている。 興味を含めて,今後多くの基礎的な研究が進めら 希ガスの存在がキーポイントで,蒸発された炭素 れると予想される。 原子が希ガス雰囲気中で凝集する時 fullerene を形 シンクロトロン放射光を用いた光電子分光 Smalley によるとこの 成する確立が非常に高くなっている。また生成の (PES) はこの物質の電子構造に対する総合的な情報 初期過程で存在したと思われる 5 員環, を与えてくれる。後述するように PES で得られた 2 次元的なシートから立体的にカールしてこのよ スペクトルは鋭く明瞭なピークを多数示し,ダイ うな立体的なかご状の構造を取るには,かなり大 アモンド きなアクチィベーションエネルギーが必要で,そ グラファイトとはまったく異なった, 6 員環の 分子状の物質に見られるスペクトルを示した。他 のためにはこのようなシートを高温でアニールす 方スペクトル全体の構造はダイアモンド グラフ る必要があるとしている。そのため局所的に加熱 ァイトと共通性を示すことから,この物質を原子 するようなレーザー加熱のタイプではアーク放電 と国体の閣に位置づけることが可能であり,鋭い によるものよりかなり Cω の生成効率は低いとして ピークは間体電子状態の理論計算の妥当性を議論 いる。 する試金石となり得る。そしてアルカリ金属を ドープしたときのフェルミレベル付近の電子状態 精製後の試料についてもその色彩や質感も“す す"である。 PES および IPES , STM の実験には の変化から超伝導のメカニズム解明へ一歩踏みだ Cω の蒸着薄膜を用いた。基盤に GaAs(llO) , すことができる。 InP(llO) 真空へき開面を用いている。これは PES 本稿は筆者がミネソタ大ウイーパ…教授らと行 なった, 等に実験ヂータの蓄積があることと基盤が原子レ シンクロトロン放射光を用いた Cω の光電 ベルでの表面再配列が少ないため STM の観測が容 子分光実験の結果を示すと共に,同グループで行 易であるという理由による。試料はタングステン なわれている Cω , C70 についての逆光電子分光 あるいはタンタノレポートにのせこれを通電加熱し (IPES) ,走査型トンネル顕微鏡 (STM) の測定結果 て蒸着させた。ボートの温度はオプテイカルパイ を紹介したい。また Cω 膜にアルカリ金属をドープ ロメータによってそニターされており,約 500 C した場合の PES 実験も紹介する。 で容易に昇華させることができるヘまた基盤近傍 0 に中a抗z crystal の膜厚計をおいたがこれも動作し 実験 相対的な膜厚をモニターすることもできた。実際 o fHouston , Smalley 教授らの の蒸着に先立つて 300-400 C で脱ガスを十分に行 グループで合成されたものである 4} 。 He ガスを約 なったが,脱ガスの主成分は水であり溶剤のトル lOOtorr に保ったチェンバー内で,水冷された 2 本 エンからとおもわれるピークはごくわずかしか観 の炭素棒を lmm 程度に接近させ溶接用電源を用い 測されなかった。 てアーク放電させ,放電開始後は任意のスピード 響のないことが確認できる。 Cω 試料は Univ. 0 PES のピークからも何ら影 接近させる。その上部には煙突のような格好で水 冷された鋸のシリンダーが突き出しており,この シリンダーの内援に“すす"がくっつく形とな る。チェンパー内部にガスの流れを作り,このシ シンクロトロン放射光, 光電子分光実験は Univ. XPS による PES o fW i s c o n s i nSRC Aladin で行なった。 CMA を用いた角度積分型の -150- 放射光第 4 巻第 3 号 (1991 年〉 3 4 9 も均一であることがわかる。結合エネルギーは hν H i g h e s tO c c u p i e dM o l e c u l a rOrbital(HOMO) C ( e V ) を 60 基準にとってあるがフェルミレベルは 2.6eV だけ 1486.6 HOMO よりも低エネルギー側に存在する。図の ピークにつけられた番号は説明の便宜のためであ ( . . . I 170 る。 C 各ピークを構成する C の原子軌道を同定するた コ ぷコ L帽 め抗 ν の関数として各ど…クの強度変化を見てみ 。 、‘・' 〉、 ・31651 る。ピーク 1 , C 2 は hν が低エネルギーのとき明瞭 Q) +四 であるが hν の増加と共に相対強度が減少すること c ト叶 がわかる。対照的にピーク 9 , 10 は hν= 1 4 8 6 . 6 eV で dominant なピークとなっている。この強度 T h e o r y 変化は C の 2p および 2s の cross section の抗 ν 依 (008) 存性から理解できる。 hν ご 125eV で I(2p) は I(2s) とほぼ閉じ他方 hν ご 1486.6eV では I(2s) 1 0 Energy( e V ) は I(2p) の 13 倍の強度を持つ 8) 。ピーク 9 , 10 は s F i g . 1 .Valencebandp h o t o e m i s s i o ns p e c t r af o rCωfilm w i t ht h r e er e p r e s e n t a t i v e h v . E n e r g i e sa r e r e f e r e e dt ot h eh i g h e s toccupiedm o l e c u l a ro r b i t a l (HOMO). Theb o t t o mcurvecorrespondst ot h e d e n s i t yo fs t a t e sc a l c u l a t e dw i t hp s e u d o p o t e n t i a l l o c a l d e n s i t ya p p r o x i m a t i o n and shown w i t h e a t u r e s i n t e n t i o n a l Gaussian broadening.γhe f between 正 F a nd -5eV correspond t o p 花 level , t h o s ebetween-5and-12t os-Pσcharacter and t h o s ebelow-12eVa r em a i n l ysc h a r a c t e r . の寄与が大きいことがすぐに分かる。興味深いこ とに McFeely9) ,Bianconi 10) のグラファイトおよび ダイアモンドにたいする PES 測定結果でも同様の 入射光エネルギ…依存性がみられている。両者の 共通したピークの同定として E F - 5eV の構造は 2plt , 5-10eV の領域では 2pσ それより高い結合エ ネルギー側のピークは s からの寄与が多いとして いる。 Cω とダイアモンド グラファイトは結合角 が大きく異なっているにもかかわらず 3 つの結合 測定によってトータル分解能 150- 300meV を得て エネルギー領域への炭素の原子軌道の寄与はほぼ いる。また XPS にはそノクロ化した X 線源を使用 同じ傾向を持っていると考えられる。さらに詳し している。 いピークの同定には理論計算と比較する必要があ 図 1 は代表的な 3 つの入射光エネルギ -hν コ 65 , 170 , る。 1486.6eV に対する価電子帯のスペク それでは理論計算結果と実験結果の一致はどう トルを示したものである。非常に明瞭な鋭いどー であろうか。関 2 の低部には,偽ポテンシャル局 クが約 23eV の価電子帯に 17 個観測される。約 5 所状態密度近似をもちいて計算された結果そ示し 個のブロードなピークが観測されるダイアモン である 11) 。図での各線の高さは状態の縮重度に対応 ド\グラファイトとは大きく違ったスペクトルで している。計算には実験から得られたデータは一 ある。スモールクラスターに関する多くの実験に 切もちいられず炭素原子関距離もトータルエネル おいてもこのような鋭いピークは見られていな ギー計算より得られた値をもちいている。図 2 の い。このことから Cω クラスターの構造が安定で各 上部には分解能を 100meV 程度にまで高めたスペ クラスターの構造にばらつきがなく電子構造的に クトルを示した。計算結果と実験結果は良く一致 -151 放射光第 4 巻第 3 号 (1991 年〉 3 5 0 Bucky B a l l hv Dependence u> c コ 吾川__., ¥ ./ ¥ f J4 I II I 〉、 4刷・ u> C Q . ) 4四・ ~ ITheory(r) 1 0 5 A ' ft t ~ hv ( e V ) {判定.コ 』 W一 )cSEcgHO一ω。H A M丘 ω 。oza o O=HOMO E n e r g y( e V ) F i g . 2H i g hr e s o l u t i o nv a l e n c ebands p e c t r ao fCωfilm w i t h hv =50eV. The r e s u l t so ft h e o r e t i c a l c a l c u l a t i o nf o re l e c t r o nl e v e l sa tp o i n t ro f B r i l l o u i n zone a r e shown a tt h eb o t t o m . T h e h e i g h t so feachl i n ecorrespondt ot h edegeneracy o f each s t a t e . The peak 1 c o n t a i n s 3 and 2 o rexample. degeneratedstates , f 100 90 80 65 50 40 -由 nυ z』 F r ''I、 白M V V E - 円U vy C」 n H e n H omGM 段以 -d していて,例えばピーク 2 はピーク l に比べて明 らかに広いピーク幅をもっているが計算でこの ピークが大きく分けて 2 つの状態からなることが 分かる。さらに実験との比較を容易にするために F i g . 3The v a r i a t i o no fv a l e n c e band s p e c t r aw i t h 40 ::;;hν 三; 1 00eV. N o t i c et h eo s c i l l a t i o n o f peak i n t e n s i t yr a t i obetweenpea試 1 and2, andpeak2 and4w i t ht h ev a r i a t i o no fhν. G a u s s i a nbroadening を考慮に入れて計算結果から スペクトルを再現したものが図 1 の底に示しであ る。約 0.5eV のシフトが見られる以外は広い範囲 さて各ピークの強度変化の hν 依存性を詳細にし ですばらしく一致していることが分かる。これは らべる事によってもこのクラスターの電子構造が 計算が第一原理から求められた事を考えれば驚く 強く分子軌道的性格を残していることが分かる。 べきことである。これで各ピークの同定を計算結 図 3 は 40< hν< 100eV でのスペクトルを示した 果に基づいて行なうことができる。その結果は先 ものである。各ピークの強度が入射エネルギーに 程の各ピークの強度変化から推定されたものと矛 よって敏感に変化することが分かる。例えば共に 盾することなく説明でき, 2仏の性格を持つピーク 1 , ピーク 1 , 2p lt iJ、らの寄与で、それぞ、れれ, 2 は大部分 れの対称性を持っ 2 を比較してみると入 射光が 40eV では両者の強度はほぼ同じであるが, ていると確認された。ピーク 3 はだと σ の性格を 90eV ではピーク 2 はピーク 1 の 2 倍の強度を持っ 合わせ持っており, ピーク 4-7 は主として σ であ ている。これは光電子の強度に終状態の影響が強 る。ピーク 8 以下はおもに s 的である。以上のよ く及んでいることを示している。これを系統的に うに計算結果は実験結果を非常によく再現し分子 調べるためにピーク 2 とピーク 4 の強度比 軌道的性格を持つ各ピークの同定を行なうことが 1(2)江(4) を入射光のエネルギーの関数として示した できた。 HOMO 準位はれの性格を持つ o のが図 4 である。それぞれのピークが Pu -152- p" に由 放射光第 4 巻第 3 号 (1991 年) 3 5 1 8 75 7 65 喝。ë 6 55 3 ー主5主 45 4 35 3 20 40 60 80 100 120 1 4 0 1 6 0 1 8 0 200 220 P h o t o nE n e r g y( e V ) F i g. 4T h ep l o to ft h er a t i oo f1 ( 2 ) / 1 ( 4 }a st h ef u n c t i o no ft h ep h o t o ne n e r g i e s40 三三hν:::;200eV. 来するから,この比は ( T C-final)/(σ- final) に相 IPES STM による測定 当し,グラファイトで McFeely が議論しているよ Jost らは高分解能 IPES を用いて Cω の非占有準 うに 9) ,終状態が π か σ かによって極小極大をと 位の測定を行なっている問。 PES 同様鋭いピーク る。グラファイトではこの比が hν コ 90eV までに が多数観測され Lowest 小さな構造を持つが 90eV以上では全く一定で,終 O 巾 ital(LUMO) から 15eV 上の領域までに,鋭い 状態がこの領域で自由電子的であると解釈されて 10 個のピークを見いだしている。 いる。関 4 からも明らかなように Cω では大きな構 介した方法で非占有状態におけるエネルギー準位 造を持ちしかもこの強度の振動は 200eV まで継続 が計算されており, している。これはこの領域においても終状態は自 は素晴らしく LUMO より 10eV 上のエネルギー領 由電子では近似できず discrete な分子軌道的レベル 域においてはほぼ完全に両者は一致する。そのた を保っていると考えられる。このような高いエネ め図 5 に示したように実験データの 2ndLUMO が ルギーの continuum において電子状態が自由電子 B r i l l o o u i nzone の r 点での理論計算僚と著しく違 的でないというのは興味深い点である。 いを見せ,他方 X 点付近での計算値は実験値との シンクロトロン放射光をもちいた PES によって U n o c c u p i e dM o l e c u l a r PES の部分で紹 IPES で得られた結果との一致 一致を見ることから, Jost らはこの準位がエネル Cω の価電子帯に分子軌道的な多数の明瞭なピ…ク ギーの k-分散を示すとしている。 k-分散の有無 が観測され,計算結果と非常によく一致した。非 は Cω クラスター間の相互作用と関係して非常に興 占有状態の連続状態においてもグラファイトにく 味深いが, らべて非常に高いエネルギーに至るまで,自由電 も言える。非局所的な規則構造を持った Cω膜を形 子近似のできない discrete な状態が保たれている事 成し角度分解光電子分光を実施することが望まれ がピークの強度解析により分かつた。 HOMO 準位 る。なお, は πu の対称性を持ち EF より 2.6eV高エネルギー側 付けられている。 に位置する。 このデータだけで判断するのは困難と LUMO は仏の性格をもつことが結論 もう一つ,注目しなければならないのは入射電 -153- 放射光第 4 巻第 3 号 (1991 年) 3 5 2 造を持って膜が成長することが明らかにされた。 D e n s i t yo fS t a t e s しかし筆者が観測したかぎり低速電子回折像では a tr( k=O) 超格子構造は観測されなかったことから,局所的 ωA cω )← h一 ←c日 (ωZ コC .O 心』 な規則構造と思われる。 C70 の予 ES , IP 正 S Experlment E ,ロ 15.25 Jost らは Cω と C70 にたいする PES 及び IPES の eV 測定を行なっている 14) 。そのスペクトルを図 6 に示 す。 C 70 は細長いラグビーボールの様な形をしてい る。 Cω との相違は主として炭素間の結合角だけで D e n s l t yo fS t a t e s あるが図に示すように特に HOMO 近傍の構造が大 ( d l s p e r s l o nI n c l u d e d ) きく変化している。電子状態が構造のわずかな違 いにとても敏感であり PES 及び IPES ともにその o 変化を十分捕えることができることを示してい 2 る。 Energy( e V ) F i g . 5M i d d l e c u r v e c o r r e s p o n d s t o t h e i n v e r s e p h o t o e m i s s i o nspectrumo fC80 w i t ht h ei n c i d e n t e l e c t r o nenergyo f1 5 . 2 5 e V .Thet o pandbottom s p e c t r ac o r r e s p o n dt ot h ec a l c u l a t e dr e s u l t so f unoccupieds t a t e sa tt h e rp o i n t( t o p )anda tan s p e c i a lp o i n t( b o t t o m )o ft h eB r i l l o u i nz o n e . iくXC60 の P 芭 S Haddon らは Cω の格子関にアルカリ金属をドー プすることによって, Cω の国体は超伝導を示す事 を初めて観測した九 K x C 60 は 18K, Rb 6 0~ま 28K xC に Tc を持つ。これらの倍はグラファイトの層間化 合物である C 8 K において 0.128- 0.55K , C 8Rb に 子によって作り出されたプラズモンの消滅によっ おいては 0.03K であることを考えると異常に高い て発光されたと思われるピークが光のエネルギー 値と言える。 が 27.6eV に観測されることである。このエネル ギーのプラズモン励起は, Benning らは前述のようにして蒸着した Cω膜に XPS においても炭素の K を SAES ゲッターソースより蒸着させて価電子 Is のメインピークの高結合エネルギー側にロス バンドの変化を K のドープ量の関数として示して ピークとして観測されている 1 九このプラズモンの いる問。その様子を国 7 に示す。これは 300K での 由来としては Cω が形成する格子においての集団励 蒸着でその後のアニールは行なっていない。大変 起か,あるいは Cω のかご、を回るような電子の集団 興味深いことには K のドーフ。と共に大変ブロード 励起が考えられる。 XPS において,他のスモール なピークがフェルミ面近傍に現われる。フェルミ クラスタ…についての実験例ではプラズモン口ス 面付近を拡大するとフェルミエッジが確認され, は観測されていないので後者の可能性も捨てきれ この状態が金属的であるとしている。このブロー ない。そのような励起モードが可能かどうかさら ドなピークは K をド…プしない状態での LUMO 準 に検討を要すると思われる。 位が断続的に占有されてゆくことに対応している Li らは同様の方法で得られた GaAs(110) 基盤上 の Cω 膜の成長を UHV-STM で観測している問。 としている。このピ…クは K のドープ量とともに 断続的にシフトしてゆき最終的に一番上のスペク アイランド状に基盤とコメンシュレートに規則構 トルに到達する。この準位が LUMO 由来のもので -154- 放射光第 4 巻第 3 号 (1991 年) 3 5 3 I n v e r s ep h o t o e m i s s i o n ω (ωt c{) コ・ 亡K 。 AZ ← C Mcω C60- - ュ C 70 一一 8 ξner包 y 0 4 8 正 nergy ( e V ) 4 ( e V ) F i g . 6Comparison o f Cωand C70 w i t hp h o t o e m i s s i o n spectroscopy (Ie託) and i n v e r s ephotoemissions p e c t r o s c o p y( r i g h t ) . Oashedl i n e scorrespondt o Cωand s o l i dl i n e scorrespondt oC 70 ・ Energies a r er e f e r e e dt oHOMOf o r photoemis剖 on a ndr e f e r e e dt oLUMOf o ri n v e r s ep h o t o e m i s s i o n . ある理由として最終のスペクトルで HOMO 準位と 要であるとしている 17) 。グラファイトにおけるフェ この準位は 1.6eV 離れているがこれはガス相の ルミ面付近の電子状態は,やはり π 的な性格を持 Cι について得られた PES での値と一致してい ち炭素の原子軌道の pz に由来している。これらの る崎。また両者の強度比は縮重度の比と一致する 軌道は対称性によってフォノンの single (5 対 3) 。このように断続的に LUMO が占有さ center としては寄与しない。 s c a t t e r i n g Cω で、はこの電子軌道 れていく様子は rigid -ba註d model では説明でき の対称性が異なっているため,それが放射状の原 ず, K の位置が disorder であることを反映してい 子の変位に相当するようなフォノンの single ると考えられる。最終のスペクトルはフェルミレ s c a t t e r i n gcenter となることができ,分子内フォノ ベル付近の状態から絶縁状態にあると判断され K6 ンと強い electron p h o n o ncoupling が実現し高い Cω の絶縁相に対応すると思われる。 Tc に結びついたとしている。この場合アルカリ金 以上の結果より金属的な状態で起こる超伝導 は, 属原子の位置は重要でなくそれらがかごの中に入 Plt 的な分子軌道の性質をもっ LUMO がアル った状態でも超伝導を起こすであろうとしてい カリ金属をドープするすることによって断続的に る。他方 Rosseinsky らは仏が占有されることによ 占有され出現した準位が関与しているであろうと って Cω クラスター聞の結合は強くなり,その結果 考えられる。それではなぜグラファイトの層間に 分子関フォノンと電子の結合が強まった可能性も Rb 等をドープした場合に比較してこの あるとしている九両者ともこの高い Tc をもっ超伝 K , CS , ような高いすc を実現するのであろうか。 Martins らはグラファイトの場合仏の相対的な軌道の形状 が互いに平行であり c 軸に沿っているが, Cω では それらは球の中心より放射状に伸びている事が重 p h o n o nc o u p l i n g 導のメカニズムは強い electron にあるとしている点では一致している。 今後の課題として Rosseinsky が指摘しているよ うに, -155- Cω膜にアルカリ金属をドープした系は固体 3 5 4 放射光 第 4 巻第 3 号 (1991 年) かつて見られたことのないような鋭いピークを示 K xCeo すことが明らかにされた。 これはこのクラスター が原子と固体の中聞に位置しその電子状態に分子 軌道的性格を残すと共に,クラスターが安定して 均一な構造を持つことを証明している。超伝導を Ke x p o s u r e 示す KxCω についての測定ではアルカリ金属のドー 100 プで P It的な性格を持つ LUMO が断続的に占有さ 宮Z2.ah 企S 溺CSE れこの状態がフェルミ面での電子準位そして超伝 70 導に関与している事実が明らかにされている。 40 の p 徳的な準位が分子内あるいは分子関フォノンと 、, ~ 強く結びつくことが超伝導機構のひとつと考えら 20 れる。 10 C60 謝辞 M .Jost, Y.Chen , T . R .Ohno , G .H .Kroll , N .Troullier, J .L .Martin , Y.Z.Li昔そしてJ. H. Weaver に感謝し 本稿を書くにあたって P. J. Benning , HOMO LUMO ~)\f . 6 . 4 . 2 EF 2 4 ます。 Energy (,V) F i g . 7Valencebands p e c t r af o rCe h ef u n c t i o no fK oast . t exposurewhichi sn o r m a l i z e dbyt i m e dincremen Thebottomcorrespondst ot h eo c c u p i e ds t a t e so f o g e t h e rw i t hr e s u l t sf o rt h e t h e pure fullerene , t I I empty s t a t e s from i n v e r s ep h o t o e m i s s i o n .A s p e c t r a are a l i g n e d t o t h e Fermi l e v e . lK i n c o r p o r a t i o nr e s u l t si nt h e non- r i g i d band e r i v e ds t a t e s . The occupancy o ft h e LUMO d F m e t a l l i cs t a t ei sc h a r a c t e r i z e dbyt h el o c a t i o no fE w i t h i n the し UMO d e r i v e db a n d . Top spectrum correspondst ot h ei n s u l a t i n gs t a t e . 文献 1 ) H.W.Kroto , 1 .R.Heath , S.C.Q'Brien , R.F.Curl , 6 2 and R.E. Smallley , Nature (London) 318 , 1 ( 1 9 8 5 ) . 1 3 9( 1 9 8 8 ) . 2 ) H.Kroto , Science242, 1 3 ) W.Krätschmer, L.D.Lamb , K.Fostiropoulos , and D.R.Huffman, Nature347 , 354 ( 1 9 9 0 ) . .Chai , L.P.F.Chibante, 4 ) R.E.Hau日 er, Y で得られたような超伝導特性は得られていない。 超伝導を示す膜を形成した上での正確な測定が望 1 . Conceicao , C.- M. Jin ,し- S . Wang, まれる。 Maruyama, andR.E.Smalley , J .Chem.P h y s .94 , 結 一一昌 8634( 19 9 0 ) . 5 )S .Saito , M a t e r .R e s .S o c .Symp.P r o c .2 06( t obe ミネソタ大ウイバー教授のグループを中心に Cω , S . C初蒸着膜および、アルカリ金属をドープした 系についての PES , I~ES , p u b l i s h e d ) . 6 ) P. J . Fagan , J . C . Calabrese , B . Malone, S c i e n c e 252 , 1160 ( 1 9 9 1 ) . STM測定結果を紹介 IPES の測定では 7 ) R.C. Haddon , A . F . Hebard , M.J . Rosseinsky , このクラスターがスモールクラスターの測定では D.W.Murphy , S. J .Duclos , K.B.Lyons , B .Miller, した。 Cω , C加に対する PES , -156- 3 5 5 放射光第 4 巻第 3 号 (1991 年〉 J .M.Rosamilia, R .M.Fleming, A . R .Kortan , S . H . J .H .Weaver, J .P . F .Chibante, a n dR . E .Smal1 ey , . V . Makhija, A. J . Muller, R . H . Eick , Glarum , A P h y s .R e v .B. S . M . Zahurak, R .Tycko , G .Dabbagh , a n dF . A . 1 9 9 1 ) . et αl. N a t u r e 350 , 6∞ (1991); Commun( t oa p p e a rJ u l y15 , 1 3 )Y . Z . Li , J .C . Patrin, M. Chander, J . H . Weaver, Thiel , N a t u r e( L o n d o n ) 350, 3 2 0( 19 9 1 ) ;A . F . Hebard , 弐apid L . P . F .Chibante, a n dR . E .Smalley, S c i e n c e252 , M. J . 547( 1 9 9 1 ) . Rosseinsky , et αl. P h y s .R e v .L e t . t66 , 2830( 1 9 9 1 ) . . Gelius , i nE l e c t r o n Spectroscopy, e d i t e d by 8 )U J . Benning, D .M. Poirier, J .H . 1 4 )M.B. Jost, P. D . A .S h i r l e y( N o r t h-Holland , Amsterdam , 1972), Weaver, L . P . F .Chibante, a n dR . E .Smal1 ey , P h y s . p . 3 1 1 . R e v .B .( t ob ep u b l i s h e d ) . . P . Kowalczyk , L . Ley , R . G . 9 )F . R . McFeeley , S 日) P. J . Benning, J . L . Martins , J .H . Weaver, L . P . F . Cavell , R . A .Pollak, a n dD . A .Shirley, P h y s .R e v . Chibante,and R . E . Smalley, S c i e n c e 252 , 1417 89 , 5268( 1 9 7 4 ) . ( 1 9 9 1 ) . 1 0 ) A . Bianconi , S . B . M . Hagstrom , a n d R . Z . 1 6 )S . H . Yang , C .L . Pettiette, J . Conceicao , O . Bachrach, P h y s .R e v .B16, 5543( 1 9 7 7 ) Cheshnovsky , a n dR .E . Smalley, Chem. P h y s . .H .Weavar, J . L .Martins , T .Komeda, Y .Chen , 1 1 )J L e t t .139, 233( 1 9 8 7 ) ;R . F .C u r la n dR . E .Smalley, T . R .Ohno , G . H .Kroll , N .Troullier, R . E .Haufler, S c i e n c e242 , 1017 ( 1 9 8 8 ) . a n dR . E . Smalley, P h y s .R e v .L e t . 66 , 1 t 7 4 ] .L . Martins , N . Troullier, a n d M.C. Schabel , 1 7 )J P h y s .R e v .L e t . t( s u b m i t t e d ) . ( 1 9 9 1 ) . 1 2 )M.B.Jost, N .Troullier, D.M.Poirier, J . L .Martins , 円,e hu 円 -