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シナジーを活かせる 関連事業に進出しよう

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シナジーを活かせる 関連事業に進出しよう
レポート No.602979
No .602979
シナジーを活かせる
関連事業に進出しよう
■ C・O・N・T・E・N・T・S
はじめに
1章 新規事業として関連事業を考える
2章 関連事業を考えるヒント
3章 中小企業における関連事業の進め方
・・・・・1ページ
・・・・・2ページ
・・・・・4ページ
はじめに
本レポートは、
中小企業経営者の方を対象として、
関連事業への進出を考える際のポイントをご紹介する
という目的で作成したものです。
1章 新規事業として関連事業を考える
既存事業の市場の成長が止まり、現状の事業では将来性が見込めない状況では、新た な
事業、新たな市場を開拓していくことが求められます。しかし、
かつての右肩上がりの経済成長期のように次々と新規事業に手をつけることは、
現在では既存事業を揺るがす失敗につながることも多くなってきています。
かつては、大企業だけでなく中小企業も、2本の足より3本の足で立ったほうが安定 す
るという理由で、「多角化」が自社変革の代表的な方法のひとつとされていました。しかし、
1990年代に入って以来、多角化には、そのデメリットの大きさが指摘されています。
多角化によって自らの基本事業を危うくした例も見られます。コピー機の世界企業である
ゼロックスも、1980年代に当時の成長分野であった金融サービス分野へと多角化した
結果、1992年には7億7800万ドルの損失を出して、事業から撤退しました。自動
車メーカーのクライスラーも、宇宙開発、金融などの事業の多角化を進める持ち株会社構
想を1985年に発表しましたが、多角化は業績不振の原因になっただけでした。一時は
多角化によって急成長を遂げていた英国のバージンアトランティック社の経営も、見直し
の時期にあるといわれています。国内企業でも、現在「不良債権」化しているリゾート開
発の失敗など数多くの例があります。
今後の成長が期待できない分野にありながら何も手を打たないのでは、企業の成長は あ
り得ませんが、まったく新しい事業を一から立ち上げるのでは、リスクが大き過ぎます。
経営者としては、新規事業に取り組むべきか、取り組まないほうが安全か、悩ましい問題
でしょう。
大きな成長分野を発見しにくい時代の新規事業は、
既存事業の核となる技術や製品・サービスと関連する事業に展開していくことが、
リスクの少ない方法です。
かつては、鉄鋼会社が工場の遊休地対策として遊園地を経営したり、化学メーカーが 飲
料事業や住宅事業に取り組むなど、自社の事業領域とあまり関係のない分野に挑戦する例
が少なくありませんでした。新たに取り組む市場が成長の期待できる市場であれば自社の
既存事業にあまり関係がない分野でも成功するという時代背景があったといえます。残念
ながら、成熟社会となった現在では、まったく新しい市場自体を発見しにくくなってきて
います(もちろん、インターネット上のショッピングモールを立ち上げた「楽天」のよう
に、新たな発想で市場を創造している例もあります)。そのため、新規市場でいわゆる創業
者利益を得ることが難しくなってきています。
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現在の新規事業展開のキーワードは、「まったくの新規でない、関連分野」ということが
できるでしょう。過去にも、既存事業から新たな分野を開拓した例は少なくありません。
重厚長大産業の代表である鉄鋼産業が、高炉のコンピューターコントロール技術を活かし
て銀行のATM関連制御ネットワークソフトを開発したり、技術者の工学的なノウハウを
活かした金融工学で金融ビジネスに参入したりするなど、思いもよらない新規事業が展開
されています。ベンチャーの新規創業においても、まったく新しい市場や製品・サービス
で勝負するのではなく、既存の製品・サービスにひねりを加えた新規参入のほうが成功の
確率は高くなります。
新規事業の展開では、従来のように既存の事業とは関係のないまったく新しい事業を 展
開するのではなく、現在の事業の核となる部分と関連した事業を探ることが成功の要因と
なってきています。つまり、
自社のもっている経営資源を分析しながら、
関連する事業領域に進出することが求められているのです。
2章 関連事業を考えるヒント
自社の経営資源の関連分野といっても、どのように見つければよいのか見出しにくいか
もしれません。ただ闇雲に考えているのでは、この分野が成長市場だから挑戦していこう
といった、過去の新規事業の展開と同じになってしまう可能性があります。関連事業を見
つけるには、それなりの分析ツールを利用することが大切です。
そのひとつが製品・技術/市場マトリックスです。自社のもっている経営資源について、
製品・技術と市場の2つの視点から分析して新たな関連事業を探る方法です。一般に縦軸
に市場を、横軸に製品・技術をとり、それぞれ既存と新規に区分した4つのマトリックス
を利用して関連事業を検討していきます。すなわち、
(1)既存製品・技術を既存市場に持ち込む
(2)既存製品・技術を新規市場に持ち込む
(3)新規製品・技術を既存市場に持ち込む
(4)新規製品・技術を新規市場に持ち込む
の4つのマトリックスについての分析を行ないます。
【製品・技術/市場マトリックス】
製品・技術
新規製品・技術
既存市場
(1)市場浸透
(3)製品・技術開発
新規市場
市 場
既存製品・技術
(2)市場開拓
(4)多角化
4つのマトリックスについては、それぞれ事業の開発方向が異なりますので、(1)市場
浸透、(2)市場開拓、(3)製品・技術開発、(4)多角化と名づけます。
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(1)市場浸透
市場浸透は、現在ある製品・技術を現在の市場により広めていく考え方です。新規事業
という派手さはありませんが、基本を固める意味で重要です。一般に市場浸透の方法には
さらに細かな3つの方向性が挙げられます。
1番目はヘビーユーザー化です。現在のお客さまにより多く使ってもらう方法を考えて
いきます。たとえば、飲料メーカーが個人向けサイズだけでなくファミリーユースを意識
したサイズを売り出す、時計メーカーが「時計も着替えましょう」とうたって仕事のとき
とデートのときには違う時計を使用する提案を行なう、といった例が挙げられます。容器
の穴を大きくして1回あたりの使用量を増やした化学調味料もヘビーユーザー化でしょう。
2番目は競合顧客の奪取です。同じ市場で競合企業が明確な場合は、競合企業を意識し
た戦略がとられます。競合メーカーであるA社が「ブランド」で売っているのであれば、
ブランドよりも品質を訴えてお客さまを奪取することがひとつの戦略となります。炭酸飲
料市場で圧倒的なブランド力と流通力をもつコカコーラに対して、「飲み比べ」によって競
争を挑むペプシコーラの図式が参考になるのではないでしょうか。
3番目は既存市場の非ユーザーへの販売です。既存市場でも自社製品をまだ使ったこと
がないお客さまをターゲットとしていく方法です。たとえば、個人向け引っ越し業者が、
主婦層のお互いの紹介情報、口コミ情報によって新たなお客さまを獲得していくというシ
ステムを重視しているのは、ターゲットとする顧客層のうちまだ顕在化していない層への
浸透を目的とした戦略です。
(2)市場開拓
市場開拓も大きく2つに区分されます。
1番目は新地域の開拓です。従来、関東地方だけで販売していたメーカーが東北地方に
販売ルートを広げていく、あるいは国際化の動きに対応して、従来は国内だけで販売して
いたものをアジア市場で展開するなど、地理的に市場を拡大していく方法です。
2番目は、従来とは異なった特徴をもつお客さまを開拓する方法です。たとえば、従来
は大人を対象にしていた製品を子供向けに販売して市場を開拓する方法です。大人向け、
子供向けといった区分や、一般企業向け、官庁向けといった区分を「セグメント」と呼び
ますが、従来と違うセグメントを開拓していくのです。たとえば、ストッキングは、昔は
成人女性向きの製品でしたが、これをハイティーン、ローティーンにも使用してもらうと
いう方法が挙げられます。あるいは、企業向けに開発されている製品を個人消費者向けに
売り込むという方法もあります。企業向けに開発された食器洗い機を家庭向けに投入した
例や、軍事用に開発されたGPS(全地球測位システム)の民生用への展開などの例が挙
げられます。企業向け製品を一般消費者向けに展開する方法は、中小企業にとっても大き
なヒントとなるはずです。
(3)製品・技術開発
製品・技術開発は製造業によく見られるものです。先ほどのストッキングの例で考える
と、カラーストッキングやシームレスストッキング、パンストなどの製品・技術開発が行
なわれています。素材技術では、従来以上に強度を高めた鋼板や、しなやかさをもった鋼
板、さらに腐食しにくい加工を行なった製品など、さまざまな技術開発が行なわれていま
す。
技術だけでなく、ネーミングやパッケージの変更も製品・技術開発に含まれます。
「フレ
ッシュ・ライフ」というネーミングを「通勤快足」へと変更することで売上高を拡大させ
たレナウンの製品などが、わかりやすい例として挙げられます。
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(4)多角化
多角化は名称のとおり、現在もっている製品や技術、市場と関係のない新しい製品・市
場分野に取り組もうという考え方で、いわゆる新規事業の方向です。
かつては多角化が企業経営の大きな方向性であった時代もありました。繊維メーカーが
アパレルを展開するといった川下戦略や、化学メーカーが石油事業に乗り出すといった垂
直的多角化、自動車メーカーが宇宙開発を行なうなどほとんど関係のない分野に進出する
複合的多角化などがありました。しかし、1章で見たとおり、高成長が期待できる分野が
少ない現代では、リスクが大きく取り組みが難しい分野です。
以上4つのマトリックスを参考に、自社の関連事業をどのように進めるかを検討して い
きます。その際に注目すべきことは、自社の強みです。たとえば、自社の強みが「営業力」
である会社は、一般に市場開拓をすることで関連事業を展開していきます。自社の弱みで
ある「製品開発」に時間とコストをかけるよりも、すでにある製品・技術を利用して、自
社の強みである営業力を活かす方法をとることが望ましい選択です。一方、「技術開発力」
に力のある企業は、当然、技術力を活かして製品・技術開発を展開することが得策です。
このように、自社の強みを知ることによって、どのような関連事業の展開に可能性がある
かを検討していくのです。
ちなみに、自社のもっている強みを活かし、それをうまく利用することによって展開 す
る方法を、「シナジーを活かす方法」と呼びます。技術力が強みの会社はその技術シナジー
を活かした展開に、生産設備を関連事業で利用できる場合は生産シナジーを活かした展開
に、販売ルートなどが関連事業で活用できる場合は販売シナジーを活かした展開に、強み
を見出すことができるでしょう。
自社のもっている経営資源の強みを知り、
どのようにシナジーを活かした関連事業を展開するかを考えることが重要です。
3章 中小企業における関連事業の進め方
中小企業がどのようにして関連事業を展開していけばよいのかを、事例を参考に考え て
みましょう。一般的な例としては、現在の製品・技術を活かし、新たな市場を開発する関
連事業展開が多いようです。
フットマークは、おむつカバーなどを中心としたゴム布製品の製造・販売からスター ト
しました。当時、家庭で使われていたおむつは着物などを縫い直して使われたものが多く、
安心して使うためのカバーが必要とされていたのです。このアイデアは当たったものの、
おむつカバーは「赤ちゃんのお尻がむれる」として夏場に売れ行きが伸び悩みます。そこ
で、「夏にかならず売れるものを」と着目したのが、ゴム布製品の製造技術を活かせる水泳
帽でした。以来同社は、水泳帽をはじめ水着、タオル、ビート板などの水泳用品と、高齢
者用おむつカバーをはじめとした介護用品の販売を柱として、事業を拡大していきました。
さらに2001年には、世界初の小型流水プールの製造・販売を開始しています(「WEB
マガジン・エヌ・オー」2003年5月21日号)。
一方、既存のお客さまを相手にしながら、新たな製品で市場を創造した例としては、 京
都市のエイラクヤがあります。同社はもともと着物の裏地や帯芯、手ぬぐいなどを扱う綿
織物問屋でしたが、戦後、生活の洋風化にともないタオルを扱うようになりました。とく
に企業が販促用に顧客に配る名入れタオル用の無地のタオルを主力商品としていましたが、
企業の販促費削減や販売単価の下落により、ここ数年は売上高が大きく落ち込んでいまし
た。そんなとき、明治から昭和初期に製作された数万本の手ぬぐいを倉庫で発見。カラフ
ルな色合いと斬新なデザインから「これは商売になる」(細辻社長)と判断し、復刻版の商
品化を決めたのです。自社ビルの一角で販売を始め、
「現代にも通じる粋な商品を作る京都
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の老舗」というイメージをうまく訴求したところ、和風回帰のブームもあってマスコミに
取り上げられるようになり、人気に火がつきました。現在では四条と祇園にも直営店を開
設し、手ぬぐい事業の売上高は全社売上高の7割を占めています(「WEBマガジン・エヌ・
オー」2003年4月2日号)。
このような例を見ていくと、成功している中小企業の関連事業の進め方にはいくつか の
特徴があります。
第一は、まったく新しい分野の多角化は難しいということです。資金力や人材に限り の
ある中小企業では、既存の製品・技術や既存の市場に関連する事業を推進することがリス
クの少ない懸命な対応です。大企業が成功したから、あるいは世間的な成長分野だからと
いう理由で参入すると、思わぬ大怪我をすることがあります。自社の製品・技術と現在の
お客さまをしっかりと見つめることが重要です。
2つ目の特徴は、限定的なニーズに対応した市場を狙うことです。大企業が参入して も
規模のメリットが生まれない限られた市場で関連事業を進めていくのです。
現在の製品・技術の特徴を活かしながら、
限定的なニーズに対応する関連事業を推進することが、
中小企業の関連新規事業推進のポイントです。
―以 上―
(文:有限会社デジミューズ)
■筆者プロフィール
【有限会社デジミューズ】
e-learning コ ンテ ンツ の 開発 ・販 売と マ ーケ テ ィ ン グ 情 報提 供 を 中心 に 事 業 を 展 開 。
e-learning コンテンツとしては自動車メーカー、金融機関、研修サービス会社に提供。マ
ーケティング情報は、おもに官庁やIT産業全般および通信業界、化粧品業界、健康食品
業界などに提供。その他、公立職業専門学校のPCスキル研修の講習を担当。
所在地:〒168-0074 東京都杉並区上高井戸 2-1-15-205
電話番号:03-3303-3612
電子メール:[email protected]
ホームページ:http://www.digimuse.biz
2003年7月発行
●本レポートの作成につきましては万全を期しておりますが、ご利用者のご活動の結果に
ついてはいかなる責任をも負いかねます。何卒、ご了承下さい。
●本レポートの無断複製・転載を禁じます。
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