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平成 26 年度 戦略的イノベーション創造プログラム (自動
平成 26 年度 成果報告書 平成 26 年度 戦略的イノベーション創造プログラム (自動走行システム): 全天候型白線識別技術の開発及び実証 平成 27 年 3 月 (委託先) 一般財団法人 日本自動車研究所 戦略的イノベーション創造プログラム(自動走行システム) 全天候型白線識別技術の開発及び実証 - 目 次 - はじめに ........................................................................................................................... 1 章 .............................................................................................................................. 2 序 1 事業全体の実施概要 ................................................................................................ 2 2 開発目標 .................................................................................................................. 6 第Ⅰ章 センシングシステムの開発 ................................................................................. 8 Ⅰ-1 車線維持制御用白線識別技術の要求仕様の策定 .................................................. 8 Ⅰ-2 測距イメージ方式白線識別技術の開発 .............................................................. 15 Ⅰ-3 UWB ミリ波レーダ方式白線識別技術の開発 ..................................................... 44 第Ⅱ章 白線識別用高輝度白線材料の開発 ................................................................... 110 Ⅱ-1 高輝度白線材料の開発 .................................................................................... 110 Ⅱ-2 白線識別用高輝度白線のリブ形状の最適化の検討 .......................................... 117 Ⅱ-3 高輝度白線のリブ形成技術の開発 ................................................................... 127 第Ⅲ章 白線識別技術の実証 ....................................................................................... 147 Ⅲ-1 白線識別センシング性能評価用実験システムの開発 ....................................... 147 Ⅲ-2 車線識別用白線識別センシングシステムの標準化案作成 ................................ 165 Ⅲ-3 まとめと今後の課題 ........................................................................................ 169 第Ⅳ章 委員会の実施 .................................................................................................. 170 おわりに ....................................................................................................................... 171 はじめに ドライバの漫然運転や居眠り運転等による車線逸脱が原因と思われる交通死亡事故は、 平成25年の全交通死亡事故(4,278件)のうち、847 件と大きな割合(約20%)を占めてい る。市場では既に、車載カメラを用いて路上の白線を認識し、車線維持を支援するシステ ムが開発されている。しかし、車載カメラを用いて車輌前方の白線を検知する既存システ ムでは、降雪、濃霧、豪雨等の悪天候時や、トンネル出入り口付近等の照度が急激に変化 する環境下において、白線識別性能が大幅に低下し、車線維持支援が困難となるという課 題がある。 次世代高度運転支援システムについて想定すると、システム側に主権がある自動運転中 に何らかの原因で車線維持支援が困難となった場合には、システムから人間のドライバに 運転を交代する必要があるが、必ずしも短時間内に交代は出来るとは限らず、そのまま事 故につながる恐れがある。このため、次世代高度運転支援システムの実現にむけて、走行 環境の急変によって引き起こされる白線識別性能の急激な低下への対策が必要である。 これまでにも白線識別性能を向上させる研究がなされており、車線に磁気マーカを設置 し、車載磁気センサにて磁気マーカとの距離を検出して車線維持に活用する技術等が検討 されてきたが、整備コストや保守コストが高く、実用化には至っていない。また、エネル ギーITSプロジェクトにおいては直下白線画像及びレーザレーダを用いた白線識別技術の 開発が実施されたが、豪雨時や降雪時での検知に課題を残している。 そこで平成 26 年度「戦略的イノベーション創造プログラム(以下、SIP と称す)(自動 走行システム):全天候型白線識別技術の開発及び実証」(以下 、本事業と称す)では、 車載センサと白線の工夫によりどこまで白線認識の性能向上が期待でき、次世代高度運転 支援システムへの活用が出来るのかを見極めることを目的として、 悪天候時や照度が急激 に変化する環境下においても正確に白線を識別でき、かつコスト面にも優れた技術を開発 する。 1 序 章 次世代高度運転支援システムにおいて、特に SAE インターナショナル(SAE:Society of Automotive Engineers)で定義されている自動運転レベル 3 以上では、ドライバに代わりシ ステムが走行環境認識を行う必要があるため、通常の自然環境に加えて様々な自然環境や 道路環境においてきわめて高い走行環境認識性能が必要である。この内白線識別情報は、 車線維持制御や、前方車のレーン判別、レーンチェンジのためのレーン番号の判別などに 利用出来る重要な情報であるため、高い白線識別性能が要求される。しかし、既存カメラ 画像を用いた白線画像認識技術には、耐環境性という点で課題を残している。このため現 行のままだと、たとえば自動運転中にトンネルを抜けた先に雪があった場合に白線を検知 できず、システム側からドライバに主権を渡すことが必要となるが、運転をしていない状 態の人間に主権を渡すまでには時間が必要となるため、事故につながる恐れがある。次世 代高度運転支援システムの実現に向けたステップとして、対象を雪寒地以外の高速道路上 に限定したとしても、環境による検出精度の低下は発生しており、大きな課題の一つとな っている。 そこで本事業では、車載センサと白線の工夫によりどこまで白線認識の性能向上が期待 でき、次世代高度運転支援システムへの活用が出来るのかを見極めることを目的として、 全天候型の白線識別技術を開発する。 事業全体の実施概要 1 1.1 従来技術の問題点 白線識別のためのセンサとして、車輌に設置したカメラで撮像された画像により白線 を検出する画像認識方式が広く開発され、現在市販されている車線維持支援システムに 採用されているが、既存の画像認識方式では路側構造物の影や夜間の降雨、西日等の逆 光時などの自然環境に加えて、トンネルの出入り口付近など照度が急変する区間等では、 取得される画像中の白線画像が劣化するため、白線認識性能や離隔距離検出精度が大幅 に低下する問題があり、さらに積雪時には白線識別が全くできなくなるという問題もあ る。太陽光の照度に影響されない白線識別技術として、レーザ光を用いて白線と排水性 アスファルトとの反射率の違いにより白線識別を行うレーザ方式が研究開発されたが、 レーザ方式では降雪時や降雨時に白線を検出するのが困難で実用化に至っていない。一 方、レーントレースを目的とした車線維持制御のレーンマーカとして、これまで永久磁 石を利用した磁気ネイル方式や電線からの交流電界を利用した誘導ケーブル方式及び 区画白線を利用した白線マーカが開発されている。磁気マーカ方式や誘導ケーブル方式 は様々な自然環境において確実に車輌とマーカ間の横偏差を検出できる一方、マーカの 設置費や保守費用が高価である点から研究段階にとどまり実用化に至っていない。 2 1.2 提案する白線識別技術 本事業では、小型で低コスト化が可能な白線識別センシングシステムとして、容易に 敷設可能なリブ形状を有する高輝度白線(以下、リブ式標示と称す)と白線識別センシ ングシステムを組み合わせた白線識別技術を開発する。 リブ式標示とは、雪寒地以外の 高速道路上一部区間の外側白線で実用化されている平坦部と凸部からなる白線であり、 雨天でも凸部が冠水しないことにより、通常の白線では視認性が低下する雨天(夜間) でも視認性を保つことが可能となる技術である。本事業では上記既存の用途に加えて白 線識別センシングシステムの検知性能の向上も図るためにリブ式標示の開発を行う。 白線識別センシングシステムとして、電波と光の 2 種類のメディアを用いて白線リブ からの反射量を検出して車輌と白線との離隔距離を直接検出することにより様々な自 然環境下においても高い認識正答率が得られるアクティブ式全天候白線識別技術を開 発する。 具体的には電波として、極めて高分解能な距離・方位検出が可能な 79GHz ミリ波レー ダ方式と、リブ式標示のリブ高さを検出することにより白線を認識する測距イメージ方 式を組み合わせて白線識別を行う。 79GHz ミリ波帯はレーザ光と比較して水分に対する減衰が少ないため、降雨や積雪時 におけるセンシングに有利である半面、白線周辺に存在する道路縁石等の道路構造物か らの反射も同時に検出するため認識正答率が低下する課題がある。 一方、測距イメージ方式は対象物までの距離情報に相当する信号を得られるイメージ センサであるため、積雪時や豪雨時以外において白線検出ができると同時に、白線と道 路構造物の識別が容易なため、測距イメージ方式からの情報とミリ波レーダを組み合わ せることによりミリ波レーダの白線識別正答率を向上することが期待出来る。また、積 雪時において、測距イメージ方式では白線が認識できない半面、縁石等の道路構造物は 識別することが可能であるため、積雪時のミリ波レーダの正答率向上に寄与できる。 3 1.2.1 UWB ミリ波レーダ方式白線識別技術の開発 ミリ波レーダは障害物検出用として 76GHz 帯を用いたミリ波レーダが開発され、約 150[m]前方の障害物までの距離が検出できるが、方位角度分解能が低く、物体の形状認 識がほとんどできない。一方、検出距離は 10[m]であるが距離分解能と方位角度分解能 が極めて高く反射物体の形状認識が可能な 79GHzUWB ミリ波レーダ(UWB:Ultra Wide Band)が開発されている。本方式では 79GHzUWB ミリ波レーダを用いて、高輝度白線上 に一定間隔で配置されたリブをブラッグ反射現象を利用して検出する UWB ミリ波レー ダ方式白線識別技術を開発する。79GHz のミリ波はレーザ光と比較して水成分に吸収さ れにくいため、白線上のある程度の積雪に対しても白線面にて電波が反射することで白 線認識が可能となる。 ブラッグ反射は一定間隔に配置された電波反射体に電波が照射された時の反射波に 発生する電波の共振現象で、周辺の物体からの反射波強度より高くなるため検出が可能 となる。ブラッグ反射では送信される電波の周波数と反射体の間隔長さの間に図 A.1.2.1-1 に示す関係式が成立するため、79GHz のミリ波レーダの変調前の搬送周波数に 合 わ せ リ ブ 間 隔 を 設 定 す る 。 こ の ブ ラ ッ グ 反 射 現 象 を 利 用 し て 反 射 波 強 度 よ り FFT ( FFT: Fast Fourier Transform)にて 白線を認 識するととも に FMCW 変調( FMCW: Frequency Modulated Continuous Wave)を用いて白線までの距離を検出する。なお、白線 の周辺には全波反射物体として、ガードレールや道路縁石など様々な道路構造物がある ため、白線との誤認識が発生する可能性がある。そこで、後述する投光型距離検出方式 と組み合わせることで白線認識性能を向上する。 白線リブ ミリ波レーダ 図 A.1.2.1-1: ミリ波レーダ式白線識別技術とブラッグ反射式 4 1.2.2 測距イメージ方式白線識別技術 外部に投光した光源の反射光により反射物体と光源との距離を検出する測距イメー ジ素子を図 A.1.2.2-1 のように車輌のドアミラー部に設置し、イメージ上の高さ情報を用 いて白線を認識する。 イメージ上の距離情報には道路構造物及び路面平面と白線 のリブが含まれており、こ れらの情報から路面とリブを抽出し、白線を認識するとともに測距イメージ上の白線位 置より白線と車輌間の離隔距離を検出する。 また、イメージ上の距離情報により道路縁石等の道路構造物位置を認識することが可 能なため、この道路構造物位置情報により、ミリ波レーダによる白線識別の誤認識防止 を行う。 一方、測距イメージ方式白線識別技術では積雪時には、路面とリブ高さが判別できな いため、白線識別は困難であるが、ある程度の積雪までは路面(白線を含む)と縁石等 の切り分けは可能であるため、積雪時のミリ波レーダによる白線識別の誤認識防止に利 用可能である。図 A.1.2.2-2 に投光型距離検出装置の白線検出原理を示す。 測距イメージセンサ 検出距離 道路縁石 白線リブ 図 A.1.2.2-1: 投光方式白線識別システムの構成 図 A.1.2.2-2: 投光方式白線識別システムの原理 5 1.2.3 白線識別用高輝度白線の開発 UWB ミリ波レーダ方式白線識別技術及び測距イメージ方式白線識別技術の識別正答 率を向上するために、電波及び光を効率的に反射することが可能な白線識別用高輝度白 線の開発を行う。既存のリブ式標示はリブ高さが 6[mm]程度、主材料が炭酸カルシウム、 石油樹脂、ガラスビーズ等であるが、白線材料・リブ形状の開発を行うことで反射率の 向上を目指す。また、白線コストの内、敷設のためのコストが約 1/2 を占めるため、最 適な白線敷設技術も合わせて開発する。なお、既存のリブ形状を有する白線の機能と道 路インフラとしての要件である、白線上を走行した際の安全性や騒音、ドライバからの 視認性などの点も同時に満たすべき項目として開発を行う。 1.2.4 白線識別技術の実証 本事業では 5 年後を目処に、走行速度 100[km/h]の実走行にて白線識別システムの認識 性能の実証評価を行うことを目指している。そのため、白線識別技術の性能評価手法の 検討及び、開発する白線識別システムを搭載し、実証評価が可能な車線維持制御実験車 を構築する。 また、白線識別システムから得られた白線位置情報を用いて車線維持制御を行う場合、 白線認識性能は車線維持制御に大きく影響するため、白線認識性能と車線維持制御性能 の関係を明らかにするとともに白線識別技術に関する標準化案を策定する。 開発目標 2 2.1 事業全体の最終目標 本事業における最終開発目標は、以下の通りである。 雨天日中時、雨天夜間時、晴天時、逆光時(夕日または朝日)及び道路構造物による 照度変化時を含む環境下において、 ア.サンプリング周期 0.05 秒で 1 時間の累積作動した場合の認識正当率は 99[%]以上と する。 イ.連続未検出時間は 0.3 秒以内とする。 ウ.白線 ― センサ間離隔距離検出範囲は±0.4[m](幅:0.8[m])以上とする。 エ.白線 ― センサ間離隔距離検出分解能は 0.02[m]以下とする。 オ.白線 ― センサ間離隔距離精度:上記アの評価条件において以下とする。 1.平均誤差:0.02[m]以下 2.最大検出誤差(3σ):0.05[m]以下 また、雪の降り始めにおいて直ちに運転支援が継続できなくなる事態を防 ぐことで、 ドライバに主権を渡すまでの時間を稼ぐことを可能とするために、 上記環境に加えて積 雪においても検知をめざす。認識性能の確保が可能な範囲の 予測値から、目標として積 雪 10[mm]以下においての認識正当率 99[%]の検知も対象とする。 6 なお、上記開発目標の達成を 2 段階とし、3 年後を目処に台上・静止状態において上 記目標を達成、5 年後を目処に 100[km/h]の走行によって実証評価を行い、上記目標を達 成することを目指す。 2.2 平成 26 年度の開発目標 平成 26 年度の成果目標及び開発目標は、以下の通りである。 <センサ要求仕様> ・白線識別センシングシステムの要求仕様の策定 <測距イメージ方式白線識別技術> ・投光同期 3 次元測距イメージセンサの検証装置の開発と基本性能評価 ・プロトタイプ設計仕様の作成 ・基本認識アルゴリズムの開発 ・プロトタイプ装置の設計及び製作 <ミリ波レーダ方式白線識別技術> ・シミュレーションと実機によるミリ波レーダ方式の基礎データ解析 ・各レーダ方式の特徴、リブ形状の反射特性の基礎検討 ・レーダ方式を検討するための動作原理機の開発 ・レーダの小型化、方位計測の高精度化のためのアンテナ方式の調査 ・基本認識アルゴリズム開発のためのデータ取得及び解析 <高輝度白線> ・高輝度白線の材料・リブ形状・敷設技術の検討 <白線識別技術の実証> ・白線識別センシング性能評価用実験システムの開発 ・車線識別用白線識別センシングシステムの標準化案作成のための調査 7 第Ⅰ章 Ⅰ-1 センシングシステムの開発 車線維持制御用白線識別技術の要求仕様の策定 白線識別センシングシステムを開発するに当たり、性能要求仕様を策定する。白線識 別センシングシステムは車線維持制御や、前方車のレーン判別、レーンチェンジのため のレーン番号の判別などに利用出来る重要な情報であり、特に車線維持制御には高い白 線識別性能が要求される。しかし、車線維持制御に必要な白線識別性能は定められてお らず、白線識別性能、車両の制御性能や道路が複雑に関係している。そこで車線維持制 御シミュレーションモデルを用いて、白線識別センシングシステムにおける制御精度、 検出遅れ時間、未検出時間、検出周期を変化した場合の各パラメータと車線維持制御性 の関係を解析し、解析結果を基に白線識別センシングシステムの要求仕様 を策 定す る。 Ⅰ-1.1 車線維持制御シミュレーションモデルの製作 市販の車両運動シミュレーションソフトウェアである TruckSim を用いて車両運動モ デル、制御モデル、道路モデルから構成される車線維持制御シミュレーショ ンモデルを 製作した。車両モデルとしては、乗用車と比較して車線維持制御が困難である大型車両 とした。 今回はテストコースを想定したオーバルコース(図 1.1.1-1)でのシミュレーションを 行った。TruckSim は MATLAB/Simulink で製作した制御モデル(図 1.1.1-2)と結合され ており、車両運動モデル、道路モデルから車両挙動のシミュレートを行い、その結果か ら制御モデルを用いて操舵角度の算出を行い、その結果から車両挙動のシミュレートを 行うというループ処理を行う。なお、シミュレーション結果をアニメーシ ョン表示が可 能であり、上空からや車内からなど、自由に視点を変更することが可能である。 図 1.1.1-1: 走行イメージ(Trucksim) 指示舵角演算 入力データ調整 更新周期・遅れ時間など 車両挙動の シミュレート 図 1.1.1-2: シミュレーションモデル(Matlab/Simulink) 8 シミュレーション条件については、車両速度は 100[km/h]とし、道路モデルには設計速 度 90[km/h]以上の道路を想定して、直線のコース・最小曲線半径 1,000[m](以下、1,000R と称す)のコース・最小曲線半径 300[m](以下、300R と称す)のコースの 3 通りで実 施 し た 。 道 路 構 造 令 第 15 条 よ り 道 路 の 設 計 速 度 100[km/h]に お け る 最 小 曲 線 半 径 は 460[m]、80[km/h]では 280[m]とされていることから、今回は 300R を最小としてシミュ レーションを行った。 また、過去に国土交通省による技術開発指針において、操舵支援を行うことが出来る 走行路のカーブ径を 1,000R 以上とされていたことから、1,000R についてもシミュレー ションを行うこととした。 白線認識装置については下記の条件を変更してシミュレーションを行った。 ① 更新周期 (0.02 [s]~) ② 検出遅れ時間 ③ 白線 ― センサ間離隔距離検出分解能(0.010 [m]~) 「①更新周期」、「③分解能」については、既存の研究結果から実車にて走行に成功し た値を基準とし、制御が困難となる方向に値を変化させた。なお、誤認識及び未検出に ついては考慮に入れていない。 制御結果としては、目標走行ライン(車線中心=車両中心)に対して、左右問わず何 [m]外れたか(以下、横偏差量と称す)を制御結果の判断基準とした。センサ間離隔距離 検出範囲は±0.40[m](幅:0.80[m])として、横偏差量が 0.40[m]を超えた場合を制御不 可と判定した。高速道路の車線幅が狭いもので 3.25[m]、車幅が広いもので 2.50[m]であ ること、及び 100[km/h]で 300R を走行中に 0.30 秒間の未検出による空走をした場合で 0.116[m]余分に目標走行ラインからはずれることから、横偏差量が 0.15[m]以内となった 場合を制御可能とする。シミュレーションした結果(図 1.1.1-3)を、条件ごとにまとめ た。 図 1.1.1-3: シミュレーション結果の例(横偏差量-時間) 9 Ⅰ-1.2 要求仕様の策定 前項Ⅰ-1.1 で製作した車線維持制御シミュレーションモデルを用いて、白線識別セン シングシステムにおける制御精度、検出遅れ時間、未検出時間、検出周期を変化した場 合の各パラメータと車線維持制御性の関係を解析し、解析結果を基に白線識別センシン グシステムの要求仕様を策定する。 Ⅰ-1.2.1 直線のコース 直線のコースを時速 100[km/h]で白線識別センシングシステムの分解能 0.010[m]、検出 周期 0.02[s]として走行 した際の検出 遅れ時間 ごとの横偏差 量(平均 値・最大値) は表 1.1.2-1 のようになった。なお、検出遅れ時間 0.16[s]以上については制御不可となった。 検出遅れ時間以外の条件は今回設定する中で最も制御しやすい条件としているため、以 降のシミュレーションでは検出遅れ時間を 0~0.10[s]の範囲で行う。 表 1.1.2-1: 横偏差量一覧_100[km/h]_直線_分解能 0.01[m]_周期 0.02[s] 0 平均 横偏差[m] 最大 横偏差[m] 0.02 0.04 0.06 遅れ時間[s] 0.08 0.1 0.12 0.14 0.16 0.18 0.2 0.0038 0.0037 0.0039 0.0037 0.0037 0.0032 0.0034 0.0032 × × × 0.0172 0.0219 0.0297 0.0313 0.0312 0.0337 0.0399 0.0594 × × × ×:制御不可 Ⅰ-1.2.2 1,000R のコース 1,000R のコースを走行した場合について、分解能を 0.010[m]としてシミュレーション した結果を図 1.1.2-1 に、分解能を 0.015[m]としてシミュレーションした結果を図 1.1.2-2 に、分解能を 0.020[m]としてシミュレーションした結果を図 1.1.2-3 に示す。更新周期と 遅れ時間の増加に伴い、横偏差量が単調増加ではないものの増加傾向にあるのがわかる。 0.160 最大横偏差量[m] 0.140 0.120 更新周期: 0.10[s] 0.100 更新周期: 0.08[s] 0.080 更新周期: 0.06[s] 0.060 更新周期: 0.04[s] 0.040 更新周期: 0.02[s] 0.020 0.000 0.00 0.02 0.04 0.06 0.08 0.10 遅れ時間[s] 図 1.1.2-1: 時速 100[km]_1000R_分解能 0.010[m] 10 0.160 0.140 更新周期: 0.10[s] 最大横偏差量[m] 0.120 更新周期: 0.08[s] 0.100 更新周期: 0.06[s] 0.080 0.060 更新周期: 0.04[s] 0.040 更新周期: 0.02[s] 0.020 0.000 0.00 0.02 0.04 0.06 0.08 0.10 遅れ時間[s] 図 1.1.2-2: 時速 100[km]_1000R_分解能 0.015[m] 0.160 0.140 更新周期: 0.10[s] 最大横偏差量[m] 0.120 更新周期: 0.08[s] 0.100 更新周期: 0.06[s] 0.080 0.060 更新周期: 0.04[s] 0.040 更新周期: 0.02[s] 0.020 0.000 0.00 0.02 0.04 0.06 0.08 0.10 遅れ時間[s] 図 1.1.2-3: 時速 100[km]_1000R_分解能 0.020[m] 11 1,000R のコースを走行した場合について、分解能を 0.010、0.015、0.020、0.025、0.030[m] の 5 パターンでシミュレーションした結果をまとめたものを表 1.1.2-2、表 1.1.2-3 に示 す。 表 1.1.2-2: 時速 100[km]_1000R_平均横偏差量[m]一覧 0.04 0.0075 0.0082 0.0075 0.0081 0.0088 0.0104 更新周期[s] 0.06 0.08 0.0086 0.0095 0.0092 0.0097 0.0089 0.0105 0.0095 0.0109 0.0114 0.0129 0.0121 0.0160 0.10 0.0110 0.0103 0.0118 0.0132 0.0155 0.0224 分解能 0.015[m] 遅 0.00 れ 0.02 時 間 0.04 0.06 s 0.08 0.10 ] 0.02 0.0138 0.0137 0.0142 0.0131 0.0148 0.0146 0.04 0.0121 0.0133 0.0148 0.0151 0.0164 0.0212 更新周期[s] 0.06 0.08 0.0125 0.0149 0.0128 0.0156 0.0127 0.0178 0.0156 0.0198 0.0172 0.0236 0.0251 0.0293 0.10 0.0150 0.0159 0.0189 0.0206 0.0337 × 分解能 0.020[m] 遅 0.00 れ 0.02 時 0.04 間 0.06 s 0.08 0.10 ] 0.02 0.0199 0.0202 0.0195 0.0199 0.0210 0.0239 0.04 0.0163 0.0178 0.0185 0.0196 0.0209 0.0237 更新周期[s] 0.06 0.08 0.0200 0.0194 0.0206 0.0196 0.0217 0.0217 0.0238 0.0258 0.0259 0.0391 × × 0.10 0.0240 0.0249 0.0274 0.0342 × × 分解能 0.025[m] 遅 0.00 れ 0.02 時 0.04 間 0.06 s 0.08 0.10 0.02 0.0258 0.0259 0.0261 0.0257 0.0265 × 0.04 0.0244 0.0232 0.0251 0.0265 0.0290 × 更新周期[s] 0.06 0.08 0.0265 0.0289 0.0250 × 0.0264 0.0312 × × 0.0343 × × × 0.10 0.0321 × × × × × 分解能 0.030[m] 遅 0.00 れ 0.02 時 間 0.04 0.06 s 0.08 0.10 0.02 0.0292 0.0284 0.0308 0.0313 0.0344 × 0.04 0.0281 0.0296 0.0311 0.0345 × × 更新周期[s] 0.06 0.08 0.0287 × × 0.2061 × × × × × × × × 0.10 × × × × × × [ ] 0.02 0.0071 0.0073 0.0079 0.0074 0.0078 0.0081 [ 分解能 0.010[m] 遅 0.00 れ 0.02 時 間 0.04 0.06 s 0.08 0.10 [ [ ] [ ] 表 1.1.2-3: 時速 100[km]_1000R_最大横偏差量[m]一覧 0.04 0.0277 0.0266 0.0279 0.0370 0.0318 0.0441 更新周期[s] 0.06 0.08 0.0444 0.0464 0.0361 0.0382 0.0455 0.0378 0.0462 0.0436 0.0412 0.0764 0.0510 0.0672 0.10 0.0443 0.0409 0.0531 0.0577 0.0791 0.0891 分解能 0.015[m] 遅 0.00 れ 0.02 時 間 0.04 0.06 s 0.08 0.10 ] 0.02 0.0362 0.0377 0.0416 0.0452 0.0489 0.0473 0.04 0.0451 0.0522 0.0478 0.0566 0.0626 0.0757 更新周期[s] 0.06 0.08 0.0488 0.0501 0.0484 0.0620 0.0500 0.0644 0.0736 0.0817 0.0715 0.0784 0.1203 0.1149 0.10 0.0580 0.0692 0.0774 0.0962 0.1495 × 分解能 0.020[m] 遅 0.00 れ 0.02 時 0.04 間 0.06 s 0.08 0.10 ] 0.02 0.0592 0.0581 0.0558 0.0618 0.0765 0.1144 0.04 0.0629 0.0702 0.0659 0.0732 0.0840 0.0964 更新周期[s] 0.06 0.08 0.0841 0.0752 0.0744 0.0803 0.0925 0.0836 0.0915 0.0959 0.0984 0.1766 × × 0.10 0.0822 0.0851 0.1025 0.1702 × × 分解能 0.025[m] 遅 0.00 れ 0.02 時 0.04 間 0.06 s 0.08 0.10 0.02 0.0667 0.0645 0.0789 0.0807 0.0967 × 0.04 0.0752 0.0767 0.0816 0.0872 0.0985 × 更新周期[s] 0.06 0.08 0.0891 0.1002 0.0849 × 0.0935 0.1529 × × 0.1545 × × × 0.10 0.1109 × × × × × 分解能 0.030[m] 遅 0.00 れ 0.02 時 間 0.04 0.06 s 0.08 0.10 0.02 0.1048 0.0990 0.1173 0.1001 0.1247 × 0.04 0.1034 0.1097 0.0985 0.1436 × × 更新周期[s] 0.06 0.1131 × × × × × [ [ ] [ ] 0.08 × × × × × × [ ] 0.02 0.0275 0.0303 0.0310 0.0260 0.0279 0.0310 [ 分解能 0.010[m] 遅 0.00 れ 0.02 時 間 0.04 0.06 s 0.08 0.10 0.10 × × × × × × 12 Ⅰ-1.2.3 300R のコース 300R のコースを走行した場合について、分解能を 0.010、0.015、0.020、0.025、0.030[m] の 5 パターンでシミュレーションした結果をまとめたものを表 1.1.2-4、表 1.1.2-5 に示 す。 表 1.1.2-4: 時速 100[km]_300R_平均横偏差量[m]一覧 0.04 0.0180 0.0176 0.0177 0.0178 0.0187 0.0203 更新周期[s] 0.06 0.08 0.0182 0.0187 0.0195 0.0193 0.0194 0.0200 0.0186 0.0223 0.0205 0.0217 0.0222 0.0243 0.10 0.0201 0.0204 0.0191 0.0229 0.0240 0.0330 分解能 0.015[m] 遅 0.00 れ 0.02 時 間 0.04 0.06 s 0.08 0.10 ] 0.02 0.0110 0.0114 0.0130 0.0179 0.0204 0.0270 0.04 0.0129 0.0140 0.0158 0.0211 0.0254 0.0310 更新周期[s] 0.06 0.08 0.0119 0.0135 0.0124 0.0162 0.0134 0.0187 0.0175 0.0241 0.0242 0.0308 × × 0.10 0.0150 0.0163 0.0200 0.0198 × × 分解能 0.020[m] 遅 0.00 れ 0.02 時 0.04 間 0.06 s 0.08 0.10 ] 0.02 0.0219 0.0222 0.0231 0.0228 0.0248 0.0292 0.04 0.0220 0.0231 0.0243 0.0242 0.0262 0.0315 更新周期[s] 0.06 0.08 0.0253 0.0258 0.0278 0.0275 0.0315 0.0294 0.0298 0.0337 0.0370 0.0362 × × 0.10 0.0341 0.0301 × 0.0393 × × 分解能 0.025[m] 遅 0.00 れ 0.02 時 0.04 間 0.06 s 0.08 0.10 0.02 0.0277 0.0300 0.0302 0.0297 0.0316 × 0.04 0.0278 0.0281 0.0309 0.0297 0.0363 × 更新周期[s] 0.06 0.08 0.0311 0.0343 0.0297 0.0374 0.0370 × 0.0433 × × × × × 0.10 × × × × × × 分解能 0.030[m] 遅 0.00 れ 0.02 時 間 0.04 0.06 s 0.08 0.10 0.02 0.0300 0.0319 0.0298 0.0312 0.0359 × 0.04 0.0291 0.0317 0.0335 0.0391 × × 更新周期[s] 0.06 0.08 0.0388 0.0420 0.0387 0.0443 × × × × × × × × 0.10 0.0489 × × × × × [ ] 0.02 0.0161 0.0168 0.0166 0.0174 0.0178 0.0199 [ 分解能 0.010[m] 遅 0.00 れ 0.02 時 間 0.04 0.06 s 0.08 0.10 [ [ ] [ ] 表 1.1.2-5: 時速 100[km]_300R_最大横偏差量[m]一覧 0.04 0.0721 0.0622 0.0699 0.0595 0.0801 0.0767 更新周期[s] 0.06 0.08 0.0661 0.0679 0.0890 0.0632 0.0898 0.0826 0.0731 0.0864 0.1021 0.0736 0.0781 0.0848 0.10 0.0576 0.0685 0.0760 0.0958 0.1149 0.1133 分解能 0.015[m] 遅 0.00 れ 0.02 時 間 0.04 0.06 s 0.08 0.10 ] 0.02 0.0416 0.0395 0.0480 0.0643 0.0629 0.0933 0.04 0.0474 0.0530 0.0707 0.0670 0.0705 0.0918 更新周期[s] 0.06 0.08 0.0520 0.0533 0.0513 0.0646 0.0565 0.0641 0.0586 0.0713 0.0719 0.1235 × × 0.10 0.0657 0.0715 0.0991 0.0792 × × 分解能 0.020[m] 遅 0.00 れ 0.02 時 0.04 間 0.06 s 0.08 0.10 ] 0.02 0.1064 0.0918 0.1485 0.0849 0.1022 0.1048 0.04 0.0823 0.0776 0.0820 0.1027 0.0958 0.1283 更新周期[s] 0.06 0.08 0.1029 0.1020 0.1458 0.1518 0.1085 0.1204 0.1315 0.1459 0.1321 0.1439 × × 0.10 0.1169 0.1298 × 0.1511 × × 分解能 0.025[m] 遅 0.00 れ 0.02 時 0.04 間 0.06 s 0.08 0.10 0.02 0.1397 0.1262 0.1375 0.1374 0.1531 × 0.04 0.1299 0.1466 0.1298 0.1216 0.1407 × 更新周期[s] 0.06 0.08 0.1190 0.2836 0.1160 0.2086 0.2259 × 0.2473 × × × × × 0.10 × × × × × × 分解能 0.030[m] 遅 0.00 れ 0.02 時 間 0.04 0.06 s 0.08 0.10 0.02 0.1727 0.1527 0.1620 0.1495 0.1795 × 0.04 0.1420 0.1643 0.1512 0.1791 × × 更新周期[s] 0.06 0.08 0.1912 0.1985 0.1511 0.2014 × × × × × × × × 0.10 0.3047 × × × × × [ ] 0.02 0.0596 0.0715 0.0596 0.0669 0.0822 0.0802 [ 分解能 0.010[m] 遅 0.00 れ 0.02 時 間 0.04 0.06 s 0.08 0.10 [ [ ] [ ] 13 Ⅰ-1.3 まとめと今後の課題 前項Ⅰ-1.2 で行った 1,000R のコース、300R のコースのシミュレーション結果から、 横偏差量を 0.150[m]以内とするためには、下記の条件が必要という結果となった。 分解能 0.010[m]の場合は更新周期 0.10[s]以内、遅れ時間 0.10[s]以内 分解能 0.015[m]の場合は更新周期 0.08[s]以内、遅れ時間 0.08[s]以内 分解能 0.020[m]の場合は更新周期 0.06[s]以内、遅れ時間 0.08[s]以内 分解能 0.025[m]の場合は更新周期 0.04[s]以内、遅れ時間 0.06[s]以内 分解能 0.030[m]は不適 また、300R のコースで横偏差 0.150[m]以内となった条件は 1,000R のコースでも横偏 差 0.150[m]以内となった。 以上の結果から、白線識別センシングシステムに対する基本性能要求仕様としては 「序章 2.1 事業全体の最終目標」に「カ」、「キ」の項を追加した下記となる。 100[km/h]以下の走行について、雨天日中時、雨天夜間時、晴天時、逆光時(夕日また は朝日)及び道路構造物による照度変化時を含む環境下において、 ア.サンプリング周期 0.05 秒で 1 時間の累積作動した場合の認識正当率は 99%以上と する。 イ.連続未検出時間は 0.30 秒以内とする。 ウ.白線 ― センサ間離隔距離検出範囲は±0.400[m](幅:0.800[m])以上とする。 エ.白線 ― センサ間離隔距離検出分解能は 0.020[m]以下とする。 オ.白線 ― センサ間離隔距離精度:上記アの評価条件において以下とする。 1.平均誤差 :0.020[m]以下 2.最大検出誤差(3σ):0.050[m]以下 カ.センサ更新周期は、エ.白線 ― センサ間離隔距離検出分解能に応じて以下とする。 ・分解能 0.010[m]以内の場合:更新周期 0.10[s]以内 ・分解能 0.015[m]以内の場合:更新周期 0.08[s]以内 ・分解能 0.020[m]以内の場合:更新周期 0.06[s]以内 キ.センサ検出遅れ時間は 1 更新周期以内とする。 しかし、実車においては、シミュレーションのできない外乱要素(車両や路面の個体 差・経年劣化などの要素)が加わるため、上記条件は少なくとも満たす必要がある条件 としてみなければならず、今後実車による試験が必要である。 14 Ⅰ-2 測距イメージ方式白線識別技術の開発 測距イメージセンサは対象物までの距離情報に相当する信号を得られるイメージセ ン サ で あ る 。 計 測 方 式 は 、 計 時 回 路 に よ る 遅 れ る 時 間 の 計 測 に 基 づ く 直 接 TOF 方 式 (TOF:Time of Flight)及び、反射光の到達位相差の検出に基づく間接 TOF 方式がある。 本開発は、近距離の計測において、比較的に容易に 3 次元の距離検出のできる間接 TOF 方式を用いた測距イメージ方式の白線識別技術の確立を目的とする。開発は基本性能評 価・アルゴリズム設計・プロトタイプ装置製作という 3 つの内容で実施し、測距イメー ジ方式の可能性について検討した。 Ⅰ-2.1 投光同期 3 次元測距イメージセンサの信号処理技術の開発 本項目は、測距イメージ機能確認装置を用いて投光同期 3 次元測距イメージセンサの 基本原理の確認及び基本性能の評価を行ったうえ、評価結果を基に測距イメージ方式の 白線識別装置の設計仕様を策定した。 図1.2.1-1: 測距イメージセンサの間接TOF方式 図1.2.1-1に測距イメージセンサの間接TOF方式の基本原理を示すように、測距イメー ジセンサと光源はタイミング発生回路により時刻同期を取るとともに、光源から信号光 を発光し、対象物に到達してから、反射光は受光光学系を通して、受光される。発光パ ルスに対する位相差の0°と180°である反射光量光量を蓄積電荷として保存する。さら に、電荷電圧変化により受光量に反映する電圧として出力する。つまり、測距イメージ センサに到達するまでの遅れ時間に相当する情報を電圧値として取得する。これを用い、 対象物との距離を算出する。 15 図1.2.1-2: 間接TOF方式による距離計測の説明 図1.2.1-2は間接TOF方式による距離計測の説明図を示す。受光V 1 、V 2 は画素内の位相 差0°と180°の変調クロックパルスである。受光パルスと発光パルスはタイミング発生 回路による時刻同期のために、受光V 1 の反射光蓄積電荷をQ 1 とし、受光V 1 の反射光蓄 積電荷をQ 2 とすると、下記の関係式が成り立つ。 (式1.2.1-1) (式1.2.1-2) ここで、Q 1 、Q 2 は蓄積電荷、C 1 、C 2 はそれぞれの積分容量であり、V 1 、V 2 は蓄積電荷 から変換された電圧値である。Nは単位フレーム内の回数、I ph は光電流であり、T 0 はパ ルス幅、T d は反射光の遅延時間である。式(式1.2.1-1)と(式1.2.1-2)において、C 1 = C 2 とした時に、T d は下記の(式1.2.1-3)で解くことができる。 (式1.2.1-3) 従って、光速をcとすれば、対象物までの距離Dは下記の(式1.2.1-4)で算出すること ができる。 (式1.2.1-4) この方式は、V 1 、V 2 の比率から信号光の到達位相差を算出し、距離情報を演算する。 一方で、測定可能な距離範囲はパルス幅T 0 に依存する。つまり、測定範囲をLとすれば、 測定範囲は(式1.2.1-5)で表される。 16 (式1.2.1-5) 本項目の開発目的は上記の間接TOF方式を基本原理として、測距イメージセンサにお いて、到達する遅れ時間に相当する情報を電圧信号として取得し、それらを用いた距離 測定方式の確立であった。 Ⅰ-2.1.1 検証装置の製作 測距イメージセンサの基本性能を検証するために、市販の測距イメージセンサ用評価 キット1式及び制御装置1台を購入し、測距イメージ検証装置を製作した。 図1.2.1-3: 測距イメージ検証装置の構成 図1.2.1-3に示すように、測距イメージ検証装置は測距イメージセンサ用評価キットや 制御装置より構成されている。制御装置において、測距イメージセンサの駆動・制御す る各パラメータ(発光パルス幅・蓄積時間・遅延時間調整・計測周期・電圧オフセット・ 距離オフセット等)の設定をするとともに、データ処理を行う。測距イメージセンサ用 評価キットにおいて、デモ光源より信号光を発光し、カメラに受光する。図 1.2.1-2に示 した距離計測のための蓄積電圧V 1 、V 2 はA/D変換を通し、デジタル信号として、制御装 置へ転送する。 17 一方、測距イメージ検証装置の製作において、様々な調整信号を入力したり、出力を 確認したりするために、信号発生器(ファンクションジェネレータ)及びオシロスコー プ(デジタルストレージオシロスコープ)それぞれ1台を購入した。また、各入出力は アナログ/デジタルに互換性のために、市販のA/D変換装置1式を購入した。 図1.2.1-4: オシロスコープ・信号発生器・A/D変換装置 18 Ⅰ-2.1.2 測距イメージセンサの基本性能評価 製作した測距イメージセンサ検証装置を用い、基本性能評価実験を行った 。こ こで 、 発光パルス幅:30[ns]、駆動周期:1[μs]、最大光量(ピーク値):10[W]、投光角度17° ×17°をデモ光源として使用した。表1.2.1-1に検証装置の主なパラメータを示す。 表1.2.1-1: 測距イメージセンサ検証装置の主なパラメータ No. パラメータ Mi Max. Step 説明 n 1 V r [mV] 0 5,000 100 画素リセット電位を設定する電圧 2 V pg [mV] 0 5,000 100 受光部に印加する電圧 V ref [mV] 0 5,000 100 4 pixels(H) ― ― ― 水平画素数 168(有効:160) 5 pixels(V) ― ― ― 垂直画素数 128(有効:120) 6 T acc [μs] 200 1,000,000 100 蓄積時間 7 MCLK[MHz] 1 10 1 8 Ext_res width 100 100000 100 画素リセットパルス幅 10 1,000 10 発光パルス幅 0 10,000 5 光源の駆動回路による遅延時間 3 出 力 電 圧 (V out1 ,V out2 )の オ フ セ ッ ト レ ベルの基準電圧 クロック 10MHz [μs] 9 Light pluse width [ns] 10 Light pluse delay [ns] 11 V TX1 Width [ns] 10 1,000 10 位相 0°の変調クロックパルス 12 V TX2 Width [ns] 10 1,000 10 位相 180°の変調クロックパルス 13 V TX3 Width [ns] 0 50,000 10 Light pluse width /(V TX1 + V TX2 + V TX3 )= 発行パルス幅 14 Num. of MA 1 100 1 移動平均のデータ数 frame 15 Night 16 D ofs =T acc /V tx=T acc /( V TX1 + V TX2 + V TX3 ) 発光回数 0 ― 0 距離計算オフセット 検証装置のパラメータを用いれば、測距イメージ方式における距離計測は(式 1.2.1-6) より求められる。 (式1.2.1-6) 19 上記の各パラメータと距離測定の関係を解析したうえ、測距イメージの検証装置を用 いた基本性能評価実験を行った。 被測対象:リブ式標示(リブ高さ10[mm])・ブロック(高さ100[mm]) 図1.2.1-5: リブ式標示 測定対象のリブ式標示は図1.2.1-5に示す。リブ高さは10[mm]、幅20[mm]であり、リブ 間隔は100[mm]である。また、反射率向上のために、白線全体にアルミ粉は約 5[%]が混 入している。 図1.2.1-6:テストコース(出典:Google Map) 20 評価実験は、産業総合技術研究所の北サイトにあるテストコース(図1.2.1-6 テスト コース(出典:Google Map))において、光源より白線へ垂直照射で行った。つまり、光 源は自動車のドアミラーに設置すると想定し、計測実験を行った。ここは周囲の場所が 広く、早朝・正午・西日等のすべての環境が反映される。 図1.2.1-7: 計測実験 計測時の天候:晴天 計測時刻:13:12 実験内容:評価実験の設置パターンは図1.2.1-7に示す。リブ式標示と測距イメージ検証 装置が1[m]のところに離れ、デモ光源から信号光を照射し、白線までの距離 像を保存する。 図1.2.1-8: 計測画像 21 画素上の中心ラインにおける計測結果 1100 1050 1000 画素中心点 925.59 距離計測値[mm] 950 900 850 800 750 700 650 600 0 10 20 30 40 50 60 70 データ数 距離計測値の差分値 400 最大値 387.97 350 300 差分値[mm] 250 200 150 最小値 122.992 平均値 2.57 ave 100 50 0 0 10 20 30 40 50 最小値 2.57 60 70 データ数 図1.2.1-9: 計測結果 結果考察: ① 評価実験結果として、白線中心点までの距離はほぼ正確に計測できたが、それ以外 に、計測誤差のバラツキが生じた。これは、太陽光等の強い外乱光により、SNRが低 22 下し、計測精度に影響を与えたと考えられる。また、発光パルス幅が狭い( 3[%])た めに、最大光量が10[W]であるデモ光源に光量不足というのも原因の一つだと考えら れる。 ② 距離計測の差分値は同じライン上における距離計測値の前後データの差分である。 計測誤差が大きいため、差分結果の誤差も 増大している。一方、画素上のリブが存 在する位置において、差分が大きくなっており、リブ形状を経過する際に、計測距 離が大きく変化したことを示している。 ③ 基本性能評価実験により、測距イメージ方式の距離計測に、蓄積時間・発光パルス 幅、遅延時間等のパラメータの関係の解析ができた。つまり、発光パルス幅の設定 により測定可能範囲の変更ができた。また、投光時刻同期の遅延時間や電荷の蓄積 時間の調整設定による、強光量による飽和状態を避けるとともに、測定精度が向上 することが検証できた。しかし、実車に搭載した際に、環境の変化に合わせて、随 時にパラメータの自動調整が要されると考えられる。つまり、シャッタータイム等 の自動制御は、今後、課題になると想定される。 ④ 基本性能評価実験をまとめると、デモ光源の用いた測距イメージ検証装置は、強い 外乱光の影響や光量不足等の原因で、白線認識に至らなかった。対策として、測距 イメージセンサのデータ処理に外乱光の除去の処理を加え、SNRの向上したデータを 用いることと、高光量発光光源を用いれば、より正確で安定な計測が可能になると 考えられる。 Ⅰ-2.1.3 LED 投光器(LED 発光器)の設計・試作 測距イメージ検証装置を用い、基本性能の評価の結果を踏まえて、より高精度かつ広 範囲での計測が可能となるように、LED投光器の設計・試作を実施した。 図1.2.1-10: 測距イメージセンサ分光感度特性(出典:浜松ホトニクス株式会社) 23 測距イメージセンサの分光感度特性(図1.2.1-10)に合わせ、感度最良の850[nm]波長 のLED(OSRAM:SFH4750)を選定し、LED発光器の基本仕様を策定した。 表1.2.1-2: LED発光器の主な仕様 No. 仕 様 説 明 1 LED 配置 4×4 2 LED 中心波長 850±20[nm] 3 最大周波数 200kHz 4 供給電源 +12[V] ,5[A]以下 5 LED 駆動 PWM トリガ駆動 6 点灯パルス トリガ入力、10[ns]以上 7 トリガレベル +1.5±0.2[V] 8 入力インピーダンス 1[kΩ] 9 入力パルス幅 10]ns]以上 10 遅延時間 100[ns]以下 11 照射角度 850 : 30°×60°850M: 45°×75° 12 出力パワー 200[W](パルス点灯時発光全出力,出力可 変) 13 パルス幅パターン 30、45、60[ns] 表1.2.1-2にLED発光器の主要仕様を示している。測距イメージセンサの分光感度特性 に合わせ、中心波長の850±20[nm]のLEDを選定し、十分な光量を発光できるように、LED を縦4×横4に配置した。次に、送・受光時刻同期のために、タイミング発生回路による トリガ入力の点灯方式を用いた。また、高速な計測を図るために、トリガ入力の発光パ ルス幅は10[ns]以上とした。また、垂直照射や水平照射の計測パターンに応じて、発光 パルス幅は30[ns]、40[ns]、60[ns]に設定できるようにしている。つまり、計測パターン に対応して、それぞれの最大計測距離は 4.5[m]、6[m]、9[m]と設計した。それから、リ ブ式標示・縁石・障害物検出の含めた最適な照射角度を検証するため、照射角度の 30° × 60°(仕様番号:850)、と45°× 75°(仕様番号:850M)の2台の発光器を試作した。 24 図1.2.1-11: LED発光器 図1.2.1-11に示すように、光源の光量を絞るために、LED発光器本体の各LEDにレンズ をつけ、照射角度を設定する。コントローラーには、30[ns]、40[ns]、60[ns]の3パターン のパルス幅をスイッチで切り換える。また、出力パワーは 0[W]~200[W]で調整可能であ る。測距イメージセンサからのタイミング発生回路のトリガ発光パルスは BNC端子を通 して、本体に入力する。なお、コントローラーと本体の制御はRS232C通信方式を用いて いる。 25 図1.2.1-12: LED発光器のパルス幅特性 LED発光器の発光パルス幅特性についての検査結果を図1.2.1-12に示す。これは、パル スのカウンタ数を使用して、発光パルス幅の応答特性を計測したものである。この結果、 30[ns]、40[ns]、60[ns]の発光パルス幅は正確に応答することが確認できた。 製作したLED発光器と測距イメージ検証装置の組み合わせで、性能確認の計測試験を 行った。 計測場所:テストコース(図1.2.1-6に示した) 計測対象:リブ式標示と高さ100[mm]のブロック 計測内容:A.垂直照射の場合のリブ式標示の計測 B.垂直照射の場合の高さ100[mm]のブロックの計測 26 A:垂直照射の場合のリブ式標示の計測 リブ・白線の距離計測 1150 リブ 白線 1100 計測距離[mm] 1050 リブ平均距離 1001.81 1000 986.29 白線平均距離 950 900 850 0 5 10 15 20 図1.2.1-13: 計測結果A-① 27 25 30 図1.2.1-12に示すのは、リブ式標示が測距イメージ検証装置より1,000[mm] 離れたとこ ろに配置して計測した時のリブ形状部分とその近隣部分の計測距離平均値の比較であ る。リブ形状部分の平均距離986.29[mm]に対し、近隣の白線部分の計測距離が 1,030.66[mm]であった。 距離計測値の差分値(10フレームの平均計測) 150 最大値144.86 差分値[mm] 100 平均値60.283 50 最小値5.29 0 0 5 10 15 20 データ数 25 図1.2.1-14: 計測結果A-② 28 30 35 40 距離画像における白線を縦断したラインの距離計測値の差分結果を図1.2.1-13に示す。 計測結果は、最大値が144.86[mm]、最小値が5.26[mm]、平均値が60.283[mm]であった。 以上により、測距イメージ検証装置では路面とリブの差10[mm]を判別することができな かった。 B:垂直照射の場合の高さ100[mm]のブロックの計測 次に、リブ式標示のかわりに、高さ100[mm]のブロックを被測対象として計測を行っ た。ブロックは道路の縁石の代替を考え、図1.2.1-14に示すように設置した。 図1.2.1-15: ブロックの設置様子と距離像 3つのブロックの中心部分(図1.2.1-15に図示する1,2,3のライン)の平均距離を比較 した(図1.2.1-16)。また、3つのブロックを縦断するライン(図1.2.1-15に図示する4の ライン)の上の画素点の偏差差分についても求めた(図 1.2.1-17)。 29 各ブロックの計測距離比較 1400 ①ブロック ②ブロック ③ブロック 1300 計測距離[mm] 1200 1094.46 1100 1085.33 1049.61 1000 900 800 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 データ数 図1.2.1-16: 3つのブロックの距離計測結果 距離計測値の差分値(10フレームの平均計測) 250 最大値 231.7 200 差分値[mm] 150 100 平均値 88.3954 50 0 0 最小値 0.02 20 40 60 データ数 80 100 図1.2.1-17: 3つのブロックの距離及び差分結果 30 120 高光量発光器と測距イメージ検証装置を用いた評価実験結果により、製作した光源の 各パラメータの調整が可能なことを検証でき、時刻同期についても検証することができ た。また、光源の光量が増加したことから、デモ光源の場合と比較して計測精度が上が った。しかし、10[mm]のリブの認識には至らなかった。一方、高さ100[mm]のブロック の計測において、計測の平均距離を用いれば、認識が可能だったが、計測誤差のバラツ キが存在しているために、差分による認識は不可能だった。これは、太陽光等の強い外 乱光により、受光信号のSNRは低下し、測定が不安定になるためと思われる。SNRの向 上のために、外乱光除去手法の検討及び、高速な距離計算アルゴリズムの開発が必要と なる。外乱光除去の対策として、発光パルスがONの際に、光源の信号光と外乱光の混在 の受光信号を計測する以外に、発光パルスがOFFの際に外乱光のみの受光信号を取り、2 つの信号の差分演算により、外乱光を除去することが可能になると想定している。また、 高速な距離計算には、時刻同期の高精度性が要求され、時刻同期による生じた時刻遅 延・蓄積電荷の電圧換算の電圧オフセット・距離オフセット等のパラ メータ調整による キャリブレーションも要求される。 31 Ⅰ-2.1.4 測距イメージ方式の白線認識装置の設計仕様の作成 上記の評価結果を踏まえ、測距イメージ方式の白線認識装置の設計仕様は下記の表 1.2.1-3のように策定した。 表1.2.1-3: 測距イメージ方式の白線認識装置の設計仕様 構 成 詳 細 発光器 光源 測距イメージセ ンサ装置 照射角度 仕 様 発光パワー200[W]、出力制御可能 垂直設置:30°× 30° (3[m]) 前方設置:45°× 60° (10[m]) パルス駆動 10ns 駆動可能 パルス幅 20ns~70ns、パルス幅制御可能 時刻同期 パルス信号のタイミング発生回路( 10n 以上) 受光光系 レンズ、受光フィルタ(赤外透過フィルタ) 読み出し回路 5 回以上 クロックパルス 周波数 10[MHz] 外乱光除去 光源の信号光の有り無しの差分による除去 A/D 変換 16 ビット以上の分解能 データ通信 CAN 通信 電荷蓄積時間(シャッタータイミング制御) データ処理装置 距離計測 発光パルス幅制御 外乱光除去の差分演算 5 フレームの距離計測値の平均 白線認識 ハフ変換・微分処理によるエッジ検出 表1.2.1-3に測距イメージ方式の白線認識装置の設計仕様を示す。光源について、車体 のドアミラーに設置する場合に、自動車が車線内を走行する際にシフトする距離を考慮 し、随時に縁石の検出も可能となるように、最大測定距離3[m]、照射角度を30°× 30° とする。一方、車体の前方に設置した場合に、白線・縁石以外に、障害物も検知できる ようにするためには、最大測定距離10[m]、照射角度は45°×60°程度が必要となる。ま た、精密な計測のためには、 10[ns]で駆動可能な光源が必要となる。さらに、SNR向上 のため、最大出力200[W]で設計し、また、飽和状態を避けるために、出力を随時に制御 できるような仕様も要求される。 具体的に、発光パルスに対応し、10[ns]の時刻同期のタイミング発生回路は重要な条 件の一つである。次に、ノイズや外乱光を除去するために、受光フィルタを加えたうえ、 1フレームに「外乱光+光源の信号光」(以下、light dataと称す)と「外乱光のみ」(以 32 下、dark dataと称す)の2種類の受光データの差分演算回路を設ける。また、1フレーム の時間T frame はクロックパルス周波数Fclk 及び読み出し回数Nで(式1.2.1-7)で表される。 (式1.2.1-7) ここで、 は電荷の蓄積時間、 は水平タイミングクロック数、 は垂直画素数で ある。使用する測距イメージセンサの水平・垂直画素はそれぞれ168×128であり、水平タ イミングクロック数は208となる。仕様策定では、10[MHz]のクロックパルス周波数(Fclk ) 及び5回 の読 み出し 回数 を設計 するこ とと する 。以上 の条件 から 、 1フ レーム の時間T frame を計算すると、 (式1.2.1-8) ここで、Taccは電荷の蓄積時間であり、測定状況により変化するが、基本的に 10[ms]~ 30[ms]の範囲に収まる。つまり、ワンサイクルの距離測定に必要な時間は 30[ms]~40[ms] となる。 一方、蓄積した電荷は電圧に換算し、16ビット以上の高精度なA/D変換装置を用い、デ ジタルデータに変換して、CAN通信を通し、データ処理装置に転送する。また、データ処 理装置は距離測定装置及び白線認識装置から構成される。距離測定に必要な各パラメータ 間の関係を解析した距離計測アルゴリズムを搭載する。ここで、様々な天候状況に対応で きるように、蓄積時間や発光パルス幅のリアルタイム制御が必要となる。また、外乱光除 去のための差分演算アルゴリズムによる処理も必要となる。最後に、距離データを用い、 微分処理による白線のリブ形状のエッジの検出及び、ハフ変換による白線ラインの検出の 組み合わせで、白線を認識する仕様とした。 33 Ⅰ-2.2 測距イメージ方式の白線認識アルゴリズム開発 前項Ⅰ-2.1の測距イメージセンサ検証装置の製作及び基本性能評価結果を踏まえ、測 距イメージセンサを用いた距離測定アルゴリズム及び白線認識のアルゴリズムの設計 を実施した。 Ⅰ-2.2.1 距離測定アルゴリズムの提案 前項の(式1.2.1-4)に測距イメージセンサの距離測定基本原理式を示したが、実際に、 測距イメージセンサを用いたモジュール化をする際に、距離計測に重要な 180°位相差の 持つ二つの蓄積電荷(電圧)には様々なパラメータが関わっている。以下に測距イメー ジセンサに入射光量・蓄積電荷と各パラメータの関係について記す。 まず、対象物上のスポット光量をP spot [W/m 2 ]とし、Lは対象物までの距離とする。また、 、 はそれぞれLED発光器の水平・垂直角度[°]とすれば、P spot は下記の式で求められ る。 (式1.2.2-1) ここで、P:光源出力[W/sr]、E p :投光効率[%]、[sr]:投光の立体角。 積であり、aは半径Lの球面のうち、任意角度 はスポット面 がなす角度で切り取った面積である。 つまり、それぞれは下記の式で表される。 (式1.2.2-2) (式1.2.2-3) 次に、受光レンズの直径をD[m]とすると、対象物上のある点と受光レンズの直径の端 がなす角度 とその立体角 は(式1.2.2-4)になる。 [sr] (式1.2.2-4) また、受光レンズを通して、対象物からの反射光を画像平面上に投影するため、画素 面積 とその投影面積 ′ とすると、両者の関係は下式で表される。 34 ′ (式1.2.2-5) ここで、fは受光レンズの焦点距離[m]とする。 最後に、光源の信号光と外乱光は対象物に照射して反射し、受光レンズ・受光フィル タを通して入射する光量を 、 とすると、それぞれは下式で求められる。 信号光の入射光量について ′ (式1.2.2-6) 外乱光の入射光量について ′ ここで、 と (式1.2.2-7) は光源の信号光と外乱光による対象物上のスポット光量であり、 E R [%]は 受 光レ ン ズ 効率 で ある 。 ま た、 FFは 測 距 イメ ー ジ セン サ の 開 口 率 [%]で あ り、 と はそれぞれ光源の信号光と外乱光に対するバンドパスフィルタの透過 率[%]である。 上記の信号光と外乱光の入射光量は測距イメージセンサにおいて、電荷として蓄積さ れる。そして、蓄積された電荷を電圧へ換算する。従って、測距イメージセンサ画素内 における電圧値として取り出される光源の信号光量 [V]と外乱光量 [V]は次 式で表すことができる。 (式1.2.2-8) (式1.2.2-9) 以上が測距イメージ方式の対象物までの距離計測のための電荷蓄積のアルゴリズム である。蓄積した位相差180°の二つ電荷V pix1 とV pix2 を第1項の式1.2.1-6のTOF間接方式 の距離測定基本原理に代入すれば、対象物までの距離を算出することができる。図 1.2.2-1 に、測距イメージ方式の距離測定アルゴリズムのフローチャートを示す。 35 図1.2.2-1: 距離測定のフローチャート 図1.2.2-1に示すように、光源と測距イメージセンサは時刻同期を通して、発光と受光 を同時にスタートする。設定されたデフォルト値のパラメータで、位相差が 180°を持つ 二つの受光光量を電荷として蓄積し、蓄積した電荷を電圧に変化し、 A/D変換を用いデ ジタル値に変換する。ここで、受光光量の内、位相0°に相当する蓄積電圧V 1 が0の時は、 対象物が測定範囲外( )にある場合に起きるため、光源のパルスを調整す ることにより、測定範囲を拡大する必要がある。また、 V 1 の蓄積電圧が0の時ではない 時に、位相が180°であるV 2 の蓄積電圧を判別する。V 2 が0の時、つまり、対象物が極め て近いもしくは電荷の蓄積時間が長すぎるため、受光光量が飽和状態になってしまう。 この場合に、飽和状態を解消するように、電荷の蓄積時間を減らす。一方、 V 2 が0でな い時は通常の計測になるため、V 1 、V 2 の蓄積電圧を用い、差分演算による外乱光を除去 し、距離を計測する。 しかし、実際に、V 1 とV 2 に電荷を蓄積する場合、光源からの信号光以外の外乱光(太 陽光等)も蓄積されてしまう。より正確に距離計測を行うためには、受光カメラの受光 36 系にバンドパスフィルタを付けたうえ、外乱光を除去するアルゴリズムが必要とされる。 これについては、今年度での実施は至らなかったが、今後の課題として下記のように検 討した。 図1.2.2-2に示すように、1フレームの受光データ構成に、light dataとdark dataの2種類の データが含まれている。light dataは信号光(光源)の受光データと外乱光の受光データ より構成される。一方、dark dataは信号光が発光しない時の外乱光のみ構成されるデー タである。図1.2.2-2に示すように、1フレームに受光したこの2種類のデータの差分演算 により、外乱光の除去が可能と想定している。 図1.2.2-2: 外乱光除去 Ⅰ-2.2.2 白線認識アルゴリズムの提案 測距イメージセンサによる距離測定を踏まえ、測距イメージ方式白線認識アルゴリズ ムの設計を検討した。計測した二次元距離データを基に、リブ形状部分とリブ形状部分 以外の境界は、画素の距離値の変化が大きいため、画素値の変化に対して、微分演算を 行うことにより、リブ形状部分のエッジを検出することができる。但し、微分演算によ るリブ形状部分のエッジ検出を行う際に、計測データに含まれるノイズ成分も反応して しまう。その影響を除去するために、アルゴリズムにSobel(ゾーベル)フィルタを入れ て、処理を行う。 リブ形状部分が認識された後、ハフ変換を用い、白線のエッジラインを認識する。図 1.2.2-3にハフ変換式白線認識アルゴリズムの基本原理を示している。画素空間 X-Yにお いて、白線のエッジの上にあるd 11 、d 12 、d 13 …点が同一ラインに存在する場合、そのラ インは(式1.2.2-10)で表される。 37 (式1.2.2-10) ここで、 、 は画素上の計測点の画素平面X-Yに対する座標であり、 頂点からそのラインの垂線の長さであり、 は画素空間の はその垂線とX軸に交わる角度である。 図1.2.2-3: ハフ変換式白線認識アルゴリズム基本原理 一方、(式1.2.2-10)で表したラインは、ハフ平面 -Rにおいては共有点の存在する 多数の曲線になる。つまり、白線のサイドライン(白線のエッジに沿ったライン)はハ フ平面における多数の曲線に共有点( )が存在する。言い換えれば、ハフ平面にお ける複数の曲線に共有点が存在することから、これらの点は画素平面においての直線に なる。これを基本原理として、ハフ変換により、白線のエッジラインが検出されると想 定される。 図1.2.2-4に提案する測距イメージ方式の白線認識アルゴリズムのフローチャートを示 す。まず、計測した距離画像を読み込み、フィルタリングした後に、微分処理を用い、 リブ形状の境界の変化率から判断することにより、白線リブ形状部分を検出する。ここ で、認識不可となった場合は、その回数Nをカウントする。もし連続的に認識不可とな った回数が閾値N th を超えた場合に、エラーメッセージを告知する。一方、白線リブ形状 部分が検出された場合は、リブ形状の認識不可の連続回数Nをリセットするとともに、 ハフ変換による白線のエッジラインを検出する。これは、パラメータ R、 を用いたハフ 変換空間における、R、 に通過する曲線を投票(M)する。精度向上のために、通過票 数の閾値M th を設定し、閾値M th より多い場合に、それを白線のエッジラインとして検出 する。一方、閾値M th より少ない場合に、リブ形状の検出と同様に、連続認識不可の回数 38 Kをカウントし、設定された回数閾値Kth より超えた場合に、エラーメッセージを告知す る。閾値Kth より超えない場合に、次のデータを検出する。検出が可能となった時に、出 力すると共に、回数Kをリセットする。 図1.2.2-4: 測距イメージ方式の白線認識アルゴリズムのフローチャート 39 Ⅰ-2.3 車載型白線識別装置の開発 測距イメージ検証装置の評価結果及び測距イメージ方式の白線認識アルゴリズムの 検討を踏まえて、車載型白線識別装置の設計に向けて、リアルタイムに白線識別を行い、 性能を検証するために、測距イメージ方式白線識別性能検証用プロトタイプを試作した。 Ⅰ-2.3.1 高速 3D データ処理装置の購入 車載用白線識別装置製作するにあたり、データ処理・解析・制御アルゴリズム等の組 みこむための高速 3D データ処理装置を購入した。 図 1.2.3-1: 高速 3D データ処理装置(dSPACE 社) 測距イメージセンサと外部発光器で構成される測距イメージ方式白線識別装置は高 速かつ高精度なデータ処理・通信等仕様要求により、高性能で、豊富な自動車用入出力 インタフェースが搭載され、車載型データ処理システムのデファクトスタンダードとし ての地位を確立している dSPACE 社の車載用処理システムである AutoBox を選定した。 測距イメージセンサよりの受光データは A/D 変換ボードによる入力し、40[MHz]の高速 デジタル通信ボードで通信をする。また、アルゴリズム及び制御プログラム等の入出力 はシリアル通信や CAN 通信を通して行い、ホスト PC との通信は LAN で行う。 Ⅰ-2.3.2 プロトタイプ装置の試作 上記のデータ処理システムを用い、プロトタイプの車載型測距イメージセンサ方式の 白線識別装置を試作した。製作した装置の模様は図 1.2.3-2 に示す。光源の LED 発光器 と受光カメラは自動車に付けるため、プロタイプ装置と別体として、時刻同期信号は通 信ケーブルを用いて行う。プロトタイプ装置の主体は AutoBox と測距イメージ検証装置 40 から構成される。AutoBox において、制御プログラムで測距イメージ検証装置の制御パ ラメータを調整すると同時に、受光データを処理し、距離計算アルゴリズムを用いて、 距離を測定する。また、認識した白線データを自動車制御システムへ出力という仕組み である。 図 1.2.3-2: プロトタイプ装置 41 Ⅰ-2.4 まとめと今後の課題 本報告は「測距イメージ方式白線識別技術の開発」プロジェクトの実施内容について 述べた。まず、提案する測距イメージ方式の基本原理である測距イメージの TOF 間接方 式について、原理調査をするとともに、市販の測距イメージ用評価キットを購入した。 次に、評価キットを用い、測距イメージの TOF 間接方式の計測可能性を検証したうえ、 測定精度・測定範囲等の基本性能を評価するとともに、測距イメージ方式の各制御パラ メータと測定対象の関係を解析し、信号処理技術を確立した。そして、基本性能評価結 果を踏まえ、光源としての必要なスペックを調査したうえ、測距イメージセンサに対応 するレーダ方式の発光器を設計し、製作した。それから、製作した LED は発光器と測距 イメージセンサを合わせて、検証装置を製作し、評価実験により、LED 発光器照射角度・ 発光パワー・時刻同期等の性能を評価するとともに、測距イメージ方式の白線認識装置 の設計仕様を策定した。また、測距イメージセンサの用いた信号処理技術を確立し、距 離測定アルゴリズムの開発と同時に、微分処理及びハフ変換による測距イメージ方式の 白線認識アルゴリズムを提案した。以上の調査・検討・技術の確立等を踏まえ、最後に、 車載型の測距イメージ方式の白線識別装置のプロトタイプ装置の試作を実施した。 一方、実施過程で、いくつかの問題点が抽出された。まず、評価試験では、垂直 照射 した場合でも白線と白線リブ形状の識別には至らなかった。これは、光源との時刻同期 によって生じた遅れ時間・光量不足及び外乱光の影響と考えられる。他にも、光源の最 大光量に応じて、測距イメージセンサで計測可能な距離が制限される問題がある。光量 不足については、計測周期の高速化のために、発光パルス幅を狭くしていることが原因 で、実効光量が不足するためであり、対策として考えられる光量を増やす方法は、光源 装置が過度に大きくなり、非現実的である。また、太陽による外乱光が強すぎるため、 測定精度が低下し、白線までの距離を正確に 測定できなくなる可能性があることが分か った。また、測距イメージ方式は受信した反射光量を用いて距離計測を行う方式のため、 検知対象以外の物との区別をするために、受光光量が飽和しないよう蓄積時間を制御す ることが要求される。 今後の課題として、抽出された問題点に対して、対策を立て、問題を解決するととも に、測距イメージ方式白線識別技術の実用化に伴う課題を進める。詳細は 以下 に記 す。 ア.問題解決対策について 光源について、最良な必要光量を確定し、光源の中心に測距イメージセンサを搭載 することにより、センサの小型化を図る。 外乱光の影響の除去手法として、前項Ⅰ-2.2.1 で述べたように、イメージセンサで 2 種類の信号を受信する。一つは発光パルス ON の時に、光源の信号光及び外乱光の混 在する信号を受信し、もう一つは発光パルス OFF の時に、外乱光のみ信号を受信する。 2 種類受信信号の差分演算された信号を受光信号として、距離を計測する。 42 現状ではリブ形状が認識できない問題に対して、上記の方法で認識装置を改善し、 時刻同期の精度向上、ノイズ対策、パラメータの精密設定等による測定精度を向上さ せ、リブ形状認識の可能性についてより深く検討する。 イ.縁石・障害物の認識の展開 測距イメージセンサ方式白線識別装置の性能展開として、同時に白線と道路縁石の 認識をするとともに、周囲の障害物の認識についての有用性を評価する。 43 Ⅰ-3 UWB ミリ波レーダ方式白線識別技術の開発 Ⅰ-3.1 Ⅰ-3.1.1 ミリ波レーダ方式の開発 Bragg の法則の原理に基づく高輝度白線 ア. Bragg の法則 高輝度白線には夜間や降雨時における視認性を上げるために、周期的にリブが設置さ れている。しかし、リブ自体は高さが 10[mm]以下と非常に小さいため、リブからの反射 波強度は非常に小さく、そのままでは認識することが難しい。そこで、本事業では電磁 波の共鳴散乱である Bragg の法則における Bragg 散乱の原理に基づく高輝度白線認識の 実現可能性について検証する。 Bragg の法則は元来、結晶格子からの X 線回折現象を説明するもので、英国の物理学 者 W.L.Bragg によって 1913 年に提唱された。その後、海洋波からの共鳴散乱である Bragg 散乱は Crombie によって見つけられた [1] 。このような電磁波の散乱は共鳴散乱(resonance scattering)と呼ばれる。後方散乱された電磁波の中で Bragg 条件 2Bragg sin i n (式 1.3.1.1-1) を満たす各々の点からの後方散乱波は、位相が整数倍異なる(n は整数)。したがって、 受信信号はこれらの同位相を持つ波動の和となり、大きな振幅を持つ合成波動となる。 (式 1.3.1.1-1)を満たす Bragg 波長 を持った海洋波は Bragg 波(Bragg wave)と呼 ばれる。以上のことから、Bragg 波長 を持つ周期的な構造物から反射があれば、そ れらは共鳴現象により大振幅を持つ合成波動となる。 本事業では、Bragg 散乱を周期的 に配置されたリブの認識に応用する。図 1.3.1.1-1 に周期的に配置されたリブの Bragg 反 射モデルのイメージを示す。ここで とし、以降 d をリブ間隔とする。 Bragg反射モデル d n 2 sin ※この条件を満たせば同位相で合成される nλ θ θ d 図 1.3.1.1-1: Bragg 散乱(Bragg 反射モデル)のイメージ図 44 イ. Bragg 散乱を活用した高輝度白線認識 本事業では、図 1.3.1.1-2 に示すように車両のバンター付近に設置されたレーダで高輝 度白線を認識する。そのため、レーダアンテナまでの高さは路面からおおよそ 0.6[m]程 度となる。近傍の 3[m]から 15[m]付近までの高輝度白線を認識しようとすると、レーダ アンテナは下方向に俯角 程度傾ける必要がある。ここで、波長をλ (中心周波数は 79[GHz])、入射角を として、以下の式に代入すると 2d sin i n d n 2 sin i (式 1.3.1.1-2) リブ間隔は d=2n[mm]となり、最小 Bragg 波長 d=2[mm]の整数倍(n 倍)で配置されてい れば理論的に Bragg 散乱の効果を得られることになる。ここで、現在敷設されているリ ブ高さ 6[mm]の高輝度白線のリブ間隔は 300[mm]で、最小 Bragg 波長の 150 倍となる配 置 に な っ て い る 。 本 事 業 で は 、 リ ブ 間 隔 d を 最 小 Bragg 波 長 の 整 数 倍 と な る d=300,200,150,100[mm]の 4 種類でその効果を検証している。 リブ 10mm 俯角φ -6dBビーム幅 アンテナ高 入射角 θ 200[mm] 図 1.3.1.1-2: シミュレーション環境①(距離特性) ウ.シミュレーションによる検討 ウ-1 シミュレーション内容 高輝度白線認識における Bragg 散乱の効果を検証するためシミュレーションを行った。 シミュレーションでは、リブ間隔を d=200[mm]に設定し、距離と帯域幅が Bragg 散乱に 及ぼす影響について、2 種類の後方散乱モデル(リブ有り:高輝度白線と路面、リブ無 し:路面のみ)と 2 種類のシミュレーション環境(環境①:距離特性、環境②:複数目 標との分離・識別特性)で Bragg 散乱の利得を調査した。 45 バイク ガードレール バイブラライン 図 1.3.1.1-3: シミュレーション環境②(複数目標との分離・識別特性) ウ-1.1 シミュレーションモデルと環境 図 1.3.1.1-2 にシミュレーションモデルを示す。リブで構成される高輝度白線はレーダ アンテナ正面に設置し、アンテナ仰角指向性(アンテナビーム幅)内に含まれるリブと 路面からの反射を得るシミュレーション環境を構築した。なお、アンテナからの水平方 向距離(グランドレンジ)に応じてアンテナ俯角を変えている。すなわち、アンテナ高 さと対象(リブ)までのグランドレンジによって俯角 φ が決定する。 またシミュレーション環境は、図 1.3.1.1-2 に示す距離特性を評価するシミュレーショ ン環境①と、図 1.3.1.1-3 に示す複数目標との分離・識別特性を評価するシミュレーショ ン環境②の 2 種類の環境を構築し実施した。 ウ-1.2 電波伝搬モデル 表面散乱による後方散乱断面積の値は、境界面の「粗さ(ラフネス)」に強く依存す る。本事業で使用するアスファルトは、既に高速道路等で使用されている透水性舗装さ れたアスファルトである。このアスファルトはラフネスが大きく表面は荒い面となる。 一般的にある角度を持って表面に入射するマイクロ波は、表面が荒くなると、鏡面成分 がなくなり、拡散性分のみになる。このような粗い散乱面はランベルト面と呼ばれる [1] 。 したがって、シミュレーションではアスファルト路面をランベルト面と仮定しラフネス 3[mm]のランベルト反射を電波散乱モデルとした。一方でリブはマイクロ波が入射する 面が比較的滑らかな鏡面と仮定し、マイクロ波が入射する表面の面積に対応する平板の レーダ反射断面積(RCS:Radar Cross Section)を電波散乱モデルとした。その他、シミ ュレーション環境②におけるバイクは自転車の RCS、ガードレールは円柱の RCS をそ れぞれ電波散乱モデルとし、各反射物からの反射波受信強度の算出には以下に示すレー ダ方程式を用いた [1] 。 46 Pr PtGt 2 2 4 3 R 4 (式 1.3.1.1-3) ここで、Pr は各反射物からの受信強度、Pt は送信出力、Gt はアンテナゲイン、 は波長、 は RCS、R は距離を表す。 ウ-1.3 シミュレーション諸元 表 1.3.1.1-1 にシミュレーション諸元を示す。 表 1.3.1.1-1: シミュレーション諸元 モデルパラメータ シミュレーションモデル リブ有り、リブ無し シミュレーション環境 環境 ①:距離特性 環境②:複数目標との分離・識別特性 電波伝搬モデル 受信強度:レーダ方程式 リブ:平板 RCS バイク:自転車 RCS ガードレール:円柱 RCS 路面:ランベルト反射(ラフネス:3[mm]) アンテナ高 さ 0.6[m] グランドレンジ 3, 5, 10[m] 俯角 リブ間隔 d =200[mm] シミュレーションパラメータ 中心周波数 79[GHz] レーダ帯域幅 4000, 500, 100 [MHz] 送信出力 1 [dBm] アンテナゲイン 25[dBi] 47 ウ-2 シミュレーション結果 本節では、シミュレーション結果を示す。シミュレーションは Mathworks 社の MATLAB を用いて実施した。シミュレーション結果は、Bragg 散乱利得を検証するため帯域幅や 距離を変えた場合の反射特性(シミュレーション環境①)と、複数目標物との分離・識 別特性(シミュレーション環境②)を示す。 ウ-2.1 距離による反射特性 図 1.3.1.1-4~図 1.3.1.1-6 に、帯域幅 4,000[MHz]、500[MHz]、100[MHz]におけるリブ の反射信号強度分布と路面反射のシミュレーション結果を示す。青線は 200[mm]で等間 隔で配置したリブからの反射信号強度分布、赤線はリブがない路面からの反射信号強度 分布をそれぞれ示す。なお、青で網掛けしたエリアは、等間隔で配置したリブで構成さ れる高輝度白線を表している。 ウ-2.1.1 帯域幅 4,000[MHz] 図 1.3.1.1-4 に帯域幅 4,000[MHz]で実施したシミュレーション結果を示す。図からわか るように、リブからの反射強度は路面反射に対して大きく、距離が遠方になるにつれ減 衰するが距離方向に広がりをもつことがわかる。また、距離が 3[m]と 5[m]では高輝度白 線エリアでは複数の反射がみられるが、これは帯域幅 4,000[MHz]の距離分解能がリブ間 隔の 200[mm]よりも小さい 37.5[mm]であるため、各リブからの反射波を分離できている ためである。なお、距離分解能は以下の式で求められる。 距離分解能 ウ-2.1.2 光速 2 帯域幅 (式 1.3.1.1-4) 帯域幅 500[MHz] 図 1.3.1.1-5 に 帯 域 幅 500[MHz]で 実 施 し た シ ミ ュ レ ー シ ョ ン 結 果 を 示 す 。 帯 域 幅 4,000[MHz]と同様に、リブからの反射強度は路面反射に対して大きく、距離が遠方にな るにつれ減衰するが距離方向に広がりをもつことがわかる。一方、帯域幅 4,000[MHz] とは対照的に、高輝度白線エリアでは複数反射はみられない。これは帯域幅 500[MHz] の距離分解能がリブ間隔の 200[mm]よりも大きい 300[mm]であるため、各リブからの反 射波を分離できないためである。ここで、高輝度白線エリアのピーク電力に着目すると、 帯域幅 4,000[MHz]と比べるとピーク電力は大きいことがわかる。これは、複数の反射が Bragg 反射となり合成されているためである。すなわち、Bragg 散乱の効果(利得)を 得ていることになる。 ウ-2.1.3 帯域幅 100[MHz] 図 1.3.1.1-6 に帯域幅 100[MHz]で実施したシミュレーション結果を示す。図より帯域 幅 500[MHz]と概ね同様の結果を示していることがわかる。 48 高輝度白線エリア リブ間隔200mm リブ無し(路面反射) (a) リブ-レーダ間距離 3[m] 高輝度白線エリア (b) リブ-レーダ間距離 5[m] 高輝度白線エリア (c) リブ-レーダ間距離 10[m] 図 1.3.1.1-4: リブの反射信号強度分布と路面反射(シミュレーション環境①) 49 高輝度白線エリア リブ間隔200mm リブ無し(路面反射) (a) リブ-レーダ間距離 3[m] 高輝度白線エリア (b) リブ-レーダ間距離 5[m] 高輝度白線エリア (c) リブ-レーダ間距離 10[m] 図 1.3.1.1-5: リブの反射信号強度分布と路面反射(シミュレーション環境①) 50 高輝度白線エリア リブ間隔200mm リブ無し(路面クラッタ) (a) リブ-レーダ間距離 3[m] 高輝度白線エリア (b) リブ-レーダ間距離 5[m] 高輝度白線エリア (c) リブ-レーダ間距離 10[m] 図 1.3.1.1-6: リブの反射信号強度分布と路面反射(シミュレーション環境①) ウ-2.2 複数目標との分離・識別特性 図 1.3.1.1-7 に帯域幅 500[MHz]における複数目標物との分離・識別特性のシミュレー ション結果を示す。反射物として、アスファルト路面とリブ以外に、バイクとガードレ ールを設置している。まず、右上図は、アスファルト路面、 200[mm]で等間隔で配置し たリブ、相対速度 20[km/h]で走行するバイク、ガードレールからの反射信号強度分布、 右下図は、リブがない路面、バイク、ガードレールからの反射信号強度分布をそれぞれ 示す。次に、左図は、右上図を時系列で並べたレーダ画像である。 51 左図からわかるように、各反射物はそれぞれ分離できていることがわかる。しかしな がら、帯域幅 100[MHz]になると各反射物を時間領域で分離することは難しくなる。その ため、Bragg 反射によりリブからの反射利得が大きいとしても高輝度白線の認識は困難 になる。したがって、道路上構造物の幾何学的な配置に依存するものの、時間領 域で各 反射物を分離・識別するには帯域幅は概ね 500[MHz]以上あることが望ましいといえる。 リブ リブ 高輝度白線 バイク Bragg反射あり ガ ー ド レー ル ガードレール バイク ガードレール バイク Bragg反射なし ガードレール ガ ー ド レー ル BW=500MHz 図 1.3.1.1-7: リブの反射信号強度分布と路面反射(シミュレーション環境②) ウ-3 考察 2 つのシミュレーションより、リブを最小 Bragg 波長の整数倍で配置することで Bragg 散乱利得を得ることを確認した。また、帯域幅を狭くすることで複数の反射が共振によ り合成されることで、より大きな利得を得ることも確認した。但し、帯域幅が狭くなる につれ、各反射物の分離・識別効果は低くなる。 52 エ.ミリ波計測器による白線認識 ミリ波レーダで高輝度白線の認識が可能であるか、ミリ波計測器を用いて高輝度白線 からの反射信号の基本特性を調査し、リブ間隔による反射特性、距離による反射特性を 3 つの帯域幅で検証する。 エ-1 実験内容 エ-1.1 実験システム 実 験 は福 岡 県 直 方 市に あ る直 鞍 産 業 振 興セ ン タ ー ADOX 福岡 [2] の 大 型 電波 暗 室 (図 1.3.1.1-8)で実施した。表 1.3.1.1-2 に使用する暗室の仕様を示す。 次に図 1.3.1.1-9 に実験システムを示す。回転台上にアスファルトブロックを配置し、 アスファルトブロック上の等間隔でリブを配置した。図 1.3.1.1-10 に詳細を示す。計測 はベクトルネットワークアナライザ(Agilent PNA 8363B)にミリ波拡張ヘッド(OML V12VNA2)とミリ波レンズアンテナを取り付け解析用 PC から制御を行った。 アスファルトブロックは厚みが 50[mm]あるためミリ波帯との波長の関係から強いブ ロックと床面が作り出す直角面から非常に強い反射が帰ってくる。したがって、図 1.3.1.1-11 に示すようにブロックの前方に電波吸収体を配置し、ブロックからの反射を抑 圧する工夫をしている。 図 1.3.1.1-8: ADOX 福岡での実験風景 表 1.3.1.1-2: 暗室仕様 暗室内寸法 15×24×9.2[m] 搬入口寸法 W 3×H 2.48 [m] ターンテーブル 直径 5 [m]、耐荷重 5[t] 53 解析用PC リブ アスファルトブロック 3m VNA 電波吸収体 ミリ波ヘッド・アンテナ 15m 回転台 5m ~12m(計測可能距離) 搬入口 24m 図 1.3.1.1-9: 実験システム 3m~12m ミリ波アンテナ φ リブ アスファルトブロック 600mm 100~300mm 6,10mm 50mm 3000mm アスファルトブロック 300mm 300mm 2400mm リブ 2400mm 200mm 6,10mm 20mm 図 1.3.1.1-10: 実験システムの詳細 54 図 1.3.1.1-11: レーダから見たアスファルトブロックとリブ エ-1.2 実験諸元 表 1.3.1.1-3 に実験諸元を示す。 表 1.3.1.1-3: 実験諸元 計測システム 計測器 ・Vector Network Analyzer (Agilent PNA 8363B) ・ミリ波拡張ヘッド (OML V12VNA2) アンテナ Standard Gain Horn Conical Lens Antenna (ELVA-1 model No.SLHA-V) リブ-レーダ間距離 3 ~12[m]@⊿1[m] アンテナ高 さ 600 [mm] リブ間隔 100, 150, 200, 300 [mm] 回転角 0 ~10°@⊿1° 計測パラメータ 中心周波数 79 [GHz] レーダ帯域幅 4000, 500, 100 [MHz] 送信出力 5 [dBm] 偏波 H-H 55 エ-1.3 実験評価項目 エ-1.3.1 リブ間隔による反射特性 リブ間隔を変化させ反射信号強度を取得し、リブ間隔による反射利得を解析すること で、高輝度白線認識の実現可能性を検証するための基礎データを取得する。リブ間隔は 既存の高輝度白線で実用されている 300 [mm]を最大とし、200 [mm]、150 [mm]、100 [mm] の 4 種類で検証を実施した。 エ-1.3.2 距離による反射特性 図 1.3.1.4-1 に示すようにリブとミリ波アンテナ間距離(以後、リブ -レーダ間距離)を 変化させ反射信号強度を取得し、距離によるリブからの反射減衰特性、認識特性を解析 することで、高輝度白線の最大認識距離を検証するための基礎データを取得する。距離 は最小距離 3[m]から 1[m]刻みで 12[m]までで検証を実施した。 エ-2 実験結果 エ-2.1 リブ間隔による反射特性 図 1.3.1.1-12~図 1.3.1.1-19 に、帯域幅 4,000[MHz]、500[MHz]、100[MHz]におけるリ ブ間隔 d=300 [mm]、200 [mm]、150 [mm]、100 [mm]の反射信号強度分布を示す。青線と 赤線は各リブ間隔で配置したリブからの反射信号強度分布、黒線はリブがないアスファ ルトのみからの反射信号強度分布をそれぞれ示す。 エ-2.1.1 帯域幅 4000[MHz] まず、図 1.3.1.1-12、図 1.3.1.1-13 に帯域幅 4,000[MHz]におけるリブ間隔 d=100 [mm]、 150 [mm]の反射信号強度分布の結果を示す。図からわかるように、d=100 [mm]、150 [mm] ともにリブからの反射強度はアスファルトからの反射に対して最大で約 25[dB]と非常 に大きく、また複数のリブからの反射も確認できる。これは、シミュレーション結果と 同様に、帯域幅 4,000[MHz]の距離分解能がリブ間隔のよりも小さく、各リブからの反射 波を分離できているためである。 次に、図 1.3.1.1-14、図 1.3.1.1-15 に帯域幅 4,000[MHz]におけるリブ間隔 d=200 [mm]、 300 [mm]の反射信号強度分布の結果を示す。図より、リブ間隔 d=100 [mm]、150 [mm] とほぼ同 様の 結果を 示 している が、 リブ間 隔 が広いた め、各 リブ か らの反射 が d=100 [mm]、150 [mm]よりも離れていることが大きな特徴である。また、リブによる最大利得 は約 23[dB]と非常に大きい。 一方、全てのリブ間隔において、リブからの各反射強度にばらつきがある理由として は、完全な等間隔ではない、若干傾いている等があげられるが、これらは手作業での設 置による人為的誤差であると考えられる。 56 リブ間隔100mm リブ間隔150mm リブ無し 図 1.3.1.1-12: リブ間隔 100[mm]と 150[mm]の反射信号強度分布と路面クラッタ 57 図 1.3.1.1-13: 図 3.3.1.1-12 の拡大図(上:100[mm],下:150[mm]) 58 リブ間隔200mm リブ間隔300mm リブ無し 図 1.3.1.1-14: リブ間隔 200[mm]と 300[mm]の反射信号強度分布と路面クラッタ 59 図 1.3.1.1-15: 図 3.3.1.1-14 の拡大図(上:200[mm],下:300[mm]) 60 エ-2.1.2 帯域幅 500[MHz] 図 1.3.1.1-16、図 1.3.1.1-17 に帯域幅 500[MHz]におけるリブ間隔 d=100 [mm]、150 [mm]、 200 [mm]、300 [mm]の反射信号強度分布の結果を示す。帯域幅 4,000[MHz]と同様にリブ からの反射強度はアスファルトからの反射に対して最大で約 25dB と非常に大きい。し かしながら、帯域幅 4,000[MHz]に対して距離分解能が劣化しているため、各リブからの 反射波を分離できていないことも確認できる。一方で、帯域幅 4,000[MHz]と比べるとピ ーク電力は比較的大きいことがわかる。これは、シミュレーション同様に、複数の反射 波が共振により合成され Bragg 散乱利得を得たからだと考えられる。但し、その効果は さほど大きくはないこともわかる。仮に 2 つのリブからの反射波が同じ受信強度で帰っ てきた場合、2 つの反射波を合成すると電力で 3[dB]利得が生じる。帯域幅 500[MHz]の 距離分解能は 4,000[MHz]に対して 8 倍であるため、帯域幅 4,000[MHz]で分離されたリ ブからの反射波が単純計算で 8 つ合成されることになる。すなわち、電力で約 9dB の合 成利得(4,000[MHz]に対する Bragg 散乱利得)を得ることになるが、結果から見ると最 大値で Bragg 散乱利得は 4dB 程度である。この原因としては、前述したように表面の粗 さやリブの配列誤差、リブ間干渉によるものであると考えられる。 リブ間隔100mm リブ間隔150mm リブ無し 図 1.3.1.1-16: リブ間隔 100[mm]と 150[mm]の反射信号強度分布と路面クラッタ 61 リブ間隔200mm リブ間隔300mm リブ無し 図 1.3.1.1-17: リブ間隔 200[mm]と 300[mm]の反射信号強度分布と路面クラッタ エ-2.1.3 帯域幅 100[MHz] 図 1.3.1.1-18、図 1.3.1.1-19 に帯域幅 100[MHz]におけるリブ間隔 d=100 [mm]、150 [mm]、 200 [mm]、300 [mm]の反射信号強度分布の結果を示す。帯域幅 4,000[MHz]、500[MHz] と同様にリブからの反射強度はアスファルトからの反射に対して最大で約 23dB と非常 に大きい。しかしながら、距離分解能が 1.5[m]と非常に低いため、各リブからの反射波 を全く分離できていないことも確認できる。一方で、帯域幅 4,000[MHz]と比べるとピー ク電力は大きく Bragg 散乱の効果は確認できるが、帯域幅 500[MHz]と同様にその効果 はさほど大きくはない。但し、シミュレーション結果でも問題提起したように、高輝度 白線近傍を走行するバイクや、路肩、ガードレール等の反射物との分離・識別は困難で あると予想される。 62 リブ間隔100mm リブ間隔150mm リブ無し 図 1.3.1.1-18: リブ間隔 100[mm]と 150[mm]の反射信号強度分布と路面クラッタ リブ間隔200mm リブ間隔300mm リブ無し 図 1.3.1.1-19: リブ間隔 200[mm]と 300[mm]の反射信号強度分布と路面クラッタ 63 エ-2.2 距離による反射特性 図 1.3.1.1-20~図 1.3.1.1-22 に、リブ-レーダ間距離を変えたときの帯域幅 4,000[MHz]、 500[MHz]、100[MHz]における反射信号強度分布を示す。ここでは、一例としてリブ間隔 d=200 [mm]での結果を示している。赤線はリブからの反射信号強度分布、黒線はリブが ないアスファルトのみからの反射信号強度分布をそれぞれ示す。なお、青で網掛けした エリアは、等間隔で配置したリブで構成される高輝度白線エリアを表している。 まず、全ての帯域幅において、リブ-レーダ間距離が大きくなるにつれリブからの反 射強度は路面反射に対して大きく、距離が遠方になるにつれ減衰するが距離方向に広が りをもつことがわかる。これはシミュレーションと概ね同様の結果である。また、帯域 幅が広い方が距離分解能が高いため各リブからの反射波を分離できていることも確認 できる。 次に、Bragg 散乱による共振利得に関しては帯域幅が狭くなるにつれその効果が大き いことが確認できる。しかしながら、帯域幅 100[MHz]になると各反射物を時間領域で分 離することは難しくなる。したがって、時間領域で各反射物を分離・識別するには帯域 幅は概ね 500[MHz]以上あることが望ましいといえる。 64 リブ間隔200mm リブ無し(路面クラッタ) 高輝度白線エリア (a) リブ-レーダ間距離 3[m] 高輝度白線エリア (b) リブ-レーダ間距離 5[m] 高輝度白線エリア (c) リブ-レーダ間距離 10[m] 高輝度白線エリア (d) リブ-レーダ間距離 12[m] 図 1.3.1.1-20: リブの反射信号強度分布と路面クラッタ 65 高輝度白線エリア リブ間隔200mm リブ無し(路面クラッタ) (a) リブ-レーダ間距離 3[m] 高輝度白線エリア (b) リブ-レーダ間距離 5[m] 高輝度白線エリア (c) リブ-レーダ間距離 10[m] 高輝度白線エリア (d) リブ-レーダ間距離 12[m] 図 1.3.1.1-21: リブの反射信号強度分布と路面クラッタ 66 高輝度白線エリア リブ間隔200mm リブ無し(路面クラッタ) (a) リブ-レーダ間距離 3[m] 高輝度白線エリア (b) リブ-レーダ間距離 5[m] 高輝度白線エリア (c) リブ-レーダ間距離 10[m] 高輝度白線エリア (d) リブ-レーダ間距離 12[m] 図 1.3.1.1-22: リブの反射信号強度分布と路面クラッタ 67 エ-3 考察 リ ブ を 最 小Bragg波 長 の 整 数 倍 で 配 置 する こ と でBragg散 乱利 得 を 得 る こ と を 実 験に より確認した。また、帯域幅を狭くすることで複数の反射が共振により合成されること で、より大きな利得を得ることも確認した。但し、帯域幅が狭くなるにつれ、各反射物 の分離・識別効果は低くなる。以下に実験で得られた結果をまとめる。 リブ間隔によって Bragg 散乱利得は異なるが 500[MHz]で Bragg 利得が得られるが、 4[GHz]では Bragg 共振は行われず各リブからの散乱波は分離される。 リブ間隔が狭くなると Bragg 利得は増加する傾向にあるが狭くなりすぎるとリブが 手前のリブによって直接波が遮断されるため利得が減少する。 距離と共にリブからの反射信号強度が減衰している。これは距離減衰に加えてリブ 形状(台形)による正規反射からのオフセットによる減衰である。 4[GHz]帯域幅では各リブからの反射信号強度にばらつきが見られる。これはリブ表 面の粗さやリブの配列誤差、リブ間干渉によるものと考えられる。 距離と共にレーダ照射面からの路面クラッタが小さくなる。これは路面が粗く、ラ ンベルト面であるためである。従って、距離が 3[m]と近傍の場合には信号対クラッ タ比は比較的小さい。 以上の結果から、ミリ波レーダによる高輝度白線認識の可能性は十分にあることを実 験的に検証することができた。 エ-4 今後の課題 今後の課題を以下に列挙する。高輝度白線認識アルゴリズムに関しては、今回の実験 でBragg散乱利得の効果を確認することができたため、その特性を活かしたアルゴリズ ムを現在開発中である。また、帯域幅が広くなるとBragg利得が減少することへの対策 として、前述したように、等利得合成などのRake合成で対応することを検討中である。 リブ高さ10[mm]と現行のリブ高さ6[mm]の比較 リブの入射角における反射波強度の計測 アスファルトのRCS計測 高輝度白線認識アルゴリズムの開発と原理実証実験 雪による影響の調査 参考文献 [1] 大内和夫(2004)『リモートセンシングのための合成開口レーダの基礎』東京電機大学 出版局 [2] 「直鞍産業振興センター ADOX福岡」<http://www.adox-fukuoka.jp/> 68 Ⅰ-3.1.2 レーダ方式の検討 本事業では、高輝度白線に設置されたリブにより生じる Bragg 反射現象を利用して、 ミリ波レーダを用いて白線識別を行う。但し、高輝度白線に配置されたリブは非常に小 さく、また路面との距離が近いことから、路面クラッタ等の影響により高輝度白線の識 別が困難であると考えられる。そのため、高利得で高輝度白線の反射信号を取得可能な 変調方式を選定する必要がある。 本項では、高輝度白線を感度良く検出し、かつ高精度で高輝度白線を検出可能な変調 方式を選定する。また、シミュレーションと実機により白線識別を行い、高輝度白線の 反射特性を明らかにする。 ア. レーダ方式の調査 本項目では、レーダ変調方式の技術調査を行い、各変調方式の特徴から高輝度白線の 識別に適した変調方式の選定を行う。そして、シミュレーションと実機により白線識別 を行い、高輝度白線の反射特性を明らかにする。 ア-1 レーダ方式の検討 本項目では、高輝度白線の識別に適した変調方式を選定する。まず各変調方式の特徴 を述べ、その後高輝度白線の識別に適した変調方式を抽出する ア-1.1 パルスドップラ方式 パルスドップラ方式とは、図 1.3.1.2-1 のようなパルス信号を図 1.3.1.2-2 のように一定 間隔で送信し、反射パルスの時間遅れを計測することによって物標までの距離を測定す る方式である。 図 1.3.1.2-1: パルスドップラ方式における送信波形の例 図 1.3.1.2-2: パルスドップラ方式におけるパルスの送信例 69 パルスドップラ方式では距離ビンと周波数ビンのそれぞれの領域において信号の弁 別処理が施されるため、CW 方式(CW:Continuous Wave)に比べて干渉に強く、信号 の分離性能が高くなる [1] 。しかし、パルスドップラ方式で高い距離分解能を確保するた めには広帯域受信機を必要とし、高速の信号処理が必要となる。また、距離分解能と占 有帯域幅は反比例しているため、同じ電力を使う場合には、帯域幅が広くなるとそれだ け S/N 比が小さくなり、探知距離が減少してしまう。したがって、パルスドップラ方式 は高利得を必要とする白線識別には適さないと考えられる。 ア-1.2 パルス圧縮方式 パルスドップラ方式で述べたように、パルスドップラ方式では距離分解能と検知距離 がトレードオフの関係となる。そこで、図 1.3.1.2-3 のように時間によって周波数が偏移 する信号(FM チャープ信号)を送り、受信側では周波数によって遅延を持たせる処理 (圧縮)を行うことで、距離分解能を向上させる方式がパルス圧縮方式である 。 図 1.3.1.2-3: パルス圧縮方式における送信波形の例 図 1.3.1.2-3: パルス圧縮方式における送信波形の例 パルス圧縮方式はクラッタ抑圧性能や干渉抑圧性能に優れるが、高速の相関処理演算 が必要であり、高い距離分解能を必要とする場合には信号処理系の規模が大きくなると いう問題がある [2] 。 ア-1.3 インパルス方式 インパルス方式は、搬送波を用いずにインパルス信号を放射する方式である。インパ ルス方式は搬送波を用いないため、装置の小型化、及び低消費電力化が可能である。ま た、電力スペクトル密度が低く、既存の無線機器との与干渉、及び被干渉が少ないこと 70 が挙げられる。しかし、インパルス方式は送信パルスの時間幅が非常に短いため、近距 離に存在する障害物から多くのマルチパスが観測される [3] 。また、電力スペクトル密度 が低いことから、得られる利得が低くなるため、白線識別には適さないと 考え られ る。 ア-1.4 FMCW 方式 FMCW 方式は、図 1.3.1.2-4 に示すように周波数が線形に増加する信号(up-sweep 信号) と周波数が線形に減少する信号(down-sweep 信号)を交互に送信し、受信波とミキシン グすることでビート信号を取得し、周波数の偏移(ドップラー)から位置を推定する方 式である。 図 1.3.1.2-4: FMCW 方式の送信信号とビート信号波形の例 FMCW 方式は、比較的低速の信号処理で高い精度を出すことが可能であり [3] 、ハード ウェア構成が簡易である。しかし、送信波が CW であるがゆえに、あらゆる時刻にあら ゆる距離からの反射波が同時に観測され、特に近距離に反射率の大きい不要反射体が存 在する場合や、送信波の受信系への干渉、他レーダからの干渉などの影響を受けやすい という問題がある [4] 。また、FMCW 方式はペアリング誤検知が問題となる [5] 。但し、Bragg 反射取得に関しては、複数のリブを一つの物標として認識することから、ペアリング誤 検知の影響はないと考えられる。 ア-1.5 2 周波 CW 方式 2 周波 CW 方式は、図 1.3.1.2-5 に示すように 2 つの異なる周波数の信号を交互に送信 し、位相差から物標の位置を推定する方法である。 71 図 1.3.1.2-5: 2 周波 CW 方式の送信信号の例 この方式では周波数占有帯域が狭いため他レーダとの干渉が発生しにくく [6] 、低速の A/D 変換器で距離計測が可能となる [7] 。しかし、位相差から物標位置を推定するため、 複数の等速目標が存在する場合に誤った距離値が算出され [7] 、静止物を検知できない。 高輝度白線におけるリブは静止物であり、車両停止時にリブを検知できないため、 2 周 波 CW 方式は白線識別に適さないと考えられる。 ア-1.6 多周波 CW 方式 多周波 CW 方式は、図 1.3.1.2-6 に示すように、ある帯域ステップ幅毎に周波数が変化 する信号を多数回送信する方式である。 図 1.3.1.2-6: 多周波 CW 方式の送信信号の例 この方式では等速複数目標の分離が可能となり、高分解能を実現可能である。 但し、 限られた観測時間・占有周波数帯域幅かつ実用的な低サンプリング周波数にて、要求さ れる速度分解能、距離分解能、速度視野・距離視野のすべてを満足させることが困難で ある [8] 。 ア-1.7 FCM 方式 FCM 方式(FCM:Fast Chirp Modulation)の呼び方は、FCM の他に Fast FM-CW、Rapid 72 Ramp など様々な表現があるが、本稿では本方式の名称を FCM 方式で統一して説明する。 FCM 方式はチャープの傾きが急峻な up-sweep 信号を送信し、受信波とミキシングする ことでビート信号を取得する方式である。 FCM 方式では、ペアリングが不要となるが、 速度折り返しが発生することが問題である。 ア-1.8 FMICW 方式 FMICW 方式(FMICW:Frequency Modulated Interrupted Continuous Wave)は、FMCW 方式と同様に up-sweep 信号と down-sweep 信号を交互に送信するが、図 1.3.1.2-7 に示す ように送信信号をパルス化し、間欠的に信号を送信する方式である。 図 1.3.1.2-7: FMICW 方式の送信信号の例 FMICW 方式では送信波をパルス化することで、送受信のアイソレーション向上、近 距離クラッタの影響を低減することが可能となる [9] 。 ア-1.9 ステップド FM 方式 ステップド FM 方式は、図 1.3.1.2-8 に示すようにステップ毎に周波数を偏移させ、か つ送信信号をパルス化し、間欠的に信号を送信する方式である。 図 1.3.1.2-8: ステップド FM 方式の送信信号の例 73 ステップド FM 方式は比較的低速でかつ狭帯域な信号処理で広帯域、及び高分解能測 距を実現でき、またクラッタを抑圧可能である [10] 。 ア-1.10 レーダ方式についてのまとめ 各変調方式における特徴と白線識別における適否評価結果を表 1.3.1.2-1 に示す。 表 1.3.1.2-1: 変調方式一覧表 Bragg 方式 特徴 反射 応答性 取得適否 パルス ドップラ 回路 処理 構成 負荷 干渉に強い 距離分解能と探知距離が × ○ ○ ○ ○ ○ × × × ○ × ○ ○ ○ ○ ○ × ○ ○ ○ ○ × ○ △ ○ ○ ○ △ ○ ○ ○ × ○ ○ ○ ○ トレードオフの関係 パルス クラッタ抑圧 圧縮 干渉抑圧 装置の小型化・低消費電力 インパル 化が可能 ス 電力スペクトル密度が低 く利得が小さい 低速の信号処理で高い距 FMCW 離分解能が得られる ペアリング誤作動 2 周波 CW 干渉が発生しにくい 静止物の検出ができない 周波数占有帯域が狭い 多周波 CW 等速複数目標の分離が可 能 ペアリングが不要 FCM 速度折り返しの発生 近距離クラッタ抑圧 FMICW ステップ ド FM アイソレーション向上 狭帯域の信号処理で広帯 域・高分解能を実現可能 クラッタ抑圧 ここで、Bragg 反射取得適否の項目については、各変調方式の特徴に基づいて高輝度 白線の識別に適しているかを評価している。また応答性の項目については、物標検知に 掛かる時間が短く、応答性に優れているかを評価している。そして回路構成の項目につ 74 いては、回路やハードウェア構成が簡易であるかを評価している。また、処理負荷に関 しては、各変調方式における処理負荷の小ささを評価している。 表 1.3.1.2-1 において、全項目で低い評価がない方式として、FMCW 方式、ステップド FM 方式、FCM 方式が挙げられ、これらの方式が白線識別に適していると考えられる。 ステップド FM 方式の送信波は FMCW 方式の up-sweep 信号をパルス化した信号であ り、FCM 方式の送信波は FMCW 方式の up-sweep 信号の傾きを急峻にした信号である。 つまり、ステップド FM 方式と FCM 方式における白線の検出可否については、 FMCW 方式の結果から判断可能である。 次に、FMCW 方式を用いてシミュレーション、及び実機による白線識別を行い、高輝 度白線の反射特性を明らかにする。 75 ア-2 シミュレーションによる白線識別 本項目では、シミュレーションによりレーダから高輝度白線へ信号を指向した場合を 想定し、FMCW 方式における高輝度白線の反射特性を明らかにする。シミュレーショ ンを行うにあたり、妥当なシミュレーション条件を選定する必要がある。そのため、ま ずは各シミュレーション条件における信号再帰リブ個数を算出し、妥当なシミュレーシ ョン条件を抽出する。次に、妥当なシミュレーション条件においてリブ形状の変化によ る反射断面積を算出する。そして、算出した反射断面積を用いてシミュレーションを行 い、高輝度白線の反射特性を評価する。 ア-2.1 信号が再帰するリブの個数についての検討 Bragg 反射は同相化される反射信号数(=リブの個数)が増えることで反射信号を強め るため、レーダビーム範囲内に多数のリブが存在する場合には効果を発揮し、少数のリ ブのみ存在する場合には効果が小さいと考えられる。そのため本項目では、レーダから 高輝度白線へ信号を指向した場合に、信号が再帰するリブの個数を幾何学的に明らかに する。そして、各シミュレーション条件における信号再帰リブ個数を算出することで、 妥当なシミュレーション条件を抽出する。 図 1.3.1.2-9 に示すように、レーダビーム範囲内のリブの個数は、高輝度白線のリブ間 隔、リブ高さ、レーダ高さ、レーダ俯角、レーダビーム幅、リブ幅により変化する。 図 1.3.1.2-9: 信号が再帰するリブの個数の要因 レーダビーム範囲内のリブ個数に関してはリブ幅の影響は小さいため、本項目ではリブ 間隔、リブ高さ、レーダ高さ、レーダ俯角、レーダビーム幅を変化させたときの信号再 帰リブ個数を算出する。 各パラメータにおける信号再帰リブ個数を算出するために、まずは信号が再帰するリ ブの条件を定義する。そして計算条件を述べ、各パラメータにおける信号再帰リブ個数 を算出する。 ア-2.1.1 信号が再帰するリブの条件 本項目では、信号が再帰するリブの条件を定義する。信号再帰モデルを図 1.3.1.2-10 に示す。 76 図 1.3.1.2-10: 信号再帰モデル 信号再帰リブの条件としては、信号が手前のリブに阻まれることなく全反射する場合 とする。つまり、図 1.3.1.2-10 で表されるように、手前のリブに阻まれることなく A 点 を指向可能な場合に信号が再帰すると仮定する。 ア-2.1.2 信号再帰リブ個数の計算条件 本項目では、信号再帰リブ個数算出のための計算条件を定義する。前述 した とお り、 信号が再帰するリブ個数はリブ間隔、リブ高 さ、レーダ高さ、レーダ俯角、レーダビー ム幅によって変化する。そのため、信号再帰リブ個数を算出するための想定環境は図 1.3.1.2-11 のようになる。 図 1.3.1.2-11: 信号再帰リブ個数を算出するための想定環境 ここで、 はレーダ俯角、 はレーダビーム幅、 はレーダ高さ、 はリブ高さ、 はリブ間隔を表す。信号再帰リブ個数を求める際には、上記パラメータを変更する。 但し、全てのパラメータを可変とすると膨大な計算量となる。そのため、あらかじめ適 当なパラメータを定め、可変とするパラメータを一つに絞って妥当なシミュレーション 条件を抽出する。 次に、信号再帰リブ個数を算出するためのシミュレーション条件を表 1.3.1.2-2 に示す。 77 表 1.3.1.2-2: 信号再帰リブ個数を計算する際のシミュレーション条件 ここで表 1.3.1.2-2 において、レーダ高さは一般的な自動車のフロントバンパーの高さ を想定し、500 [mm]とした。そしてそのレーダ高さにおいて前方 5[m]程度にレーダを指 向できる角度として、レーダ俯角を 5°に設定した。そしてリブ高さについては、想定 するリブ高さが 6~10 [mm]であるため、中間値として 8 [mm]を採用した。 ア-2.1.3 信号再帰リブ個数の計算結果 本項目では、レーダから高輝度白線へ信号を指向した場合を想定し、各シミュレーシ ョン条件における信号再帰リブ個数を算出する。計算に関しては表 1.3.1.2-2 の条件にお いて、レーダ俯角、レーダビーム幅、レーダ高さ、リブ高さ、リブ間隔をそれぞれ変更 した場合の信号再帰リブ個数を算出する。 a. レーダ俯角の検討 図 1.3.1.2-12 にレーダ俯角を変更したときの信号再帰リブ個数を示す。 図 1.3.1.2-12: レーダ俯角を変更したときの信号再帰リブ個数 ここで、横軸はレーダ俯角、縦軸は信号再帰リブ個数を表し、破線の交点は 表 1.3.1.2-2 で示した計算条件における結果を表す。図 1.3.1.2-12 より、俯角が 0°、及び 2 度の際には、信号再帰リブがとなる。これはレーダ俯角が小さい場合には、手前の リブに信号が阻まれてしまうためである。また、俯角がある一定値を超えると、信号 78 再帰リブ個数が減少することが分かる。これは俯角が大きくなることでレーダビーム 範囲内に存在するリブ個数が減少するためである。 b. レーダビーム幅の検討 図 1.3.1.2-13 に、レーダビーム幅を変更したときの信号再帰リブ個数を示す。 図 1.3.1.2-13: レーダビーム幅を変更したときの信号再帰リブ個数 ここで、横軸はレーダビーム幅、縦軸は信号再帰リブ個数を表し、破線の交点は表 1.3.1.2-2 で示したシミュレーション条件における結果を表す。図 1.3.1.2-13 より、レ ーダビーム幅が増えるにつれ、信号再帰リブ個数が増加することが分かる。これはレ ーダビーム幅が増えるにつれてレーダビーム範囲内に存在するリブ個数が増えるため である。 c. レーダ高さの検討 図 1.3.1.2-14 に、レーダ高さを変更したときの信号再帰リブ個数を示す。 79 図 1.3.1.2-14: レーダ高さを変更したときの信号再帰リブ個数 ここで、横軸はレーダ高さ、縦軸は信号再帰リブ個数を表し、破線の交点は 表 1.3.1.2-2 で示したシミュレーション条件における結果を表す。図 1.3.1.2-14 より、レ ーダ高さの増加に伴い信号再帰リブ個数が増加することがわかる。これはレーダ高 さ が増加することによりレーダ照射範囲が広がり、レーダビーム範囲内に存在するリブ 個数が増加するためである。また、レーダ高 さを高くすることで手前のリブに阻まれ ることなく信号が再帰するためである。したがって、レーダ高 さを増加させることで、 信号再帰リブ個数が増加することが明らかと なった。 d. リブ高さの検討 図 1.3.1.2-15 に、リブ高さを変更したときの信号再帰リブ個数を示す。 図 1.3.1.2-15: リブ高さを変更したときの信号再帰リブ個数 80 ここで、横軸はリブ高さ、縦軸は信号再帰リブ個数を表し、破線の交点は表 1.3.1.2-2 で示したシミュレーション条件における結果を表す。図 1.3.1.2-15 より、リブ高さの 増加に伴い信号再帰リブ個数が減少することが分かる。これはリブ高 さの増加に伴い 手前のリブに阻まれる割合が高まるためである。 e. リブ間隔の検討 図 1.3.1.2-16 に、リブ間隔を変更したときの信号再帰リブ個数を示す。 図 1.3.1.2-16: リブ間隔を変更した際の信号再帰リブ個数 ここで、横軸はリブ間隔、縦軸は信号再帰リブ個数を表し、破線の交点は表 1.3.1.2-2 で示したシミュレーション条件における結果を表す。図 1.3.1.2-16 より、リブ間隔が 狭い場合には信号再帰リブ個数が少ないことが分かる。これは、リブ間隔が狭くなる ことで手前のリブに阻まれる割合が高まるためである。また、リブ間隔が一定値を超 えると信号再帰リブ個数が減少する。これは 、リブ間隔が広くなることでレーダビー ム範囲内に存在するリブ個数が減少するためである。 ア-2.1.4 信号が再帰するリブの個数についてのまとめ 本項目では、レーダを高輝度白線に向けて指向した場合における信号再帰リブ個数を 幾何学的に試算した。結果として、レーダ俯角、レーダビーム幅、レーダ高 さ、リブ高 さ、リブ間隔による信号再帰リブ個数の変化を明らかにすることができ、妥当なシミュ レーション条件を抽出することができた。次項目では、本シミュレーション条件を用い てリブの反射断面積を計算する。 81 ア-2.2 リブ形状の検討 本項目では、リブ形状による反射特性を明らかにする。ミリ波レーダによる物標検出 では、レーダから物標に対して信号を放射し、物標で反射した信号をアンテナで取得す ることで物標を検知可能となる。そのため、物標の形状によっては信号が再帰せず、物 標検知が困難となる。或いは反射信号強度が小さくなり、ノイズに埋もれて物標検知が 困難になることが考えられる。そのため、本項目では、様々な形状のリブを検討し、各 形状における反射特性を明らかにする。 ア-2.2.1 二面反射と三面反射 本項目では、リブの反射断面積を試算するにあたって、二面反射と三面反射について 説明する。ここでは簡単化のため、反射については鏡面反射を仮定する。 図 1.3.1.2-17 に、二面反射モデル図を示す。 図 1.3.1.2-17: 二面反射モデル図 ここで と は、図 1.3.1.2-17 中の反射面の各 1 辺の長さを表す。図 1.3.1.2-17 で表され るように、二面反射では入射した信号が二面を通って再帰する。ここで、信号の波長を λとすると、二面反射の最大の反射断面積は π で与えられる。二面反射では反 射面が 2 面しか存在しないため、水平、或いは垂直方向に入射角度が変化すると信号が 再帰しない。 次に、三面反射について説明する。図 1.3.1.2-18 に三面反射モデル図を示す。 図 1.3.1.2-18: 三面反射モデル図 ここでは、一辺の長さが a の正方形が三面ある場合を考える。図 1.3.1.2-18 で表され るように、三面反射では入射した信号が三面を通って再帰する。そのため、仮に一辺の 長さが a 以上の面が存在しても、最小辺の長さでしか三面反射は発生しな い。 ここ で、 信号の波長をλとすると、三面反射の最大の反射断面積は π で与えられる。三面 反射では二面反射と異なり、水平、及び垂直方向に入射角度が変化する場合にも信号が 再帰する。 82 ア-2.2.2 リブ形状と反射断面積 前述の通り、二面反射では入射角度がずれた場合に反射が発生しないことがある。つ まり、現行のリブ形状、及び配置においては、レーダが高輝度白線上に存在する場合で のみ反射が生じる。そのため、本項目では現行のリブ形状以外のリブ形状を検討し、そ の反射断面積を試算する。 各リブ形状とその反射断面積を計算した結果を表 1.3.1.2-3 に示す。 表 1.3.1.2-3: 各リブ形状と反射断面積一覧 ここで φ は垂直方向の入射角度、θ は水平方向の入射角度を表す。計算条件として、 周波数 79 [GHz]でリブ間隔が 100 [mm]のときに Bragg 反射が生じる角度である 9.1°を レーダ俯角としたため、φ は-35.9°となる。また、θ は 0°のときと 45°の 2 パターン を計算した。 結果として、二面反射ではある程度反射断面積が高いものの、水平方向 θ が変化する と信号が再帰せず、反射信号の取得が限定的となる。これに対して三面反射では、水平 方向の変化が生じても信号が再帰するが、反射断面積が小さくなる結果となった。これ はリブ高さが小さく、三面反射における反射断面積は最小辺であるリブ高 さに依存する ためである。 ア-2.2.3 リブ形状についてのまとめ 本項目では、様々なリブ形状における反射断面積を試算した。結果として、二面反射 では水平方向での変化に弱く、三面反射では反射断面積が小さいことが明らかとなった。 83 ア-2.3 シミュレーションによる反射信号の算出 本項目では、シミュレーションによりリブの反射信号を算出し、高輝度白線の特性を 明らかにする。 ア-2.3.1 Bragg 反射発生角度の計算 ここでは、Bragg 反射が発生する角度でシミュレーションを実施するため、Bragg 反射 が発生する角度を算出する。送信信号の周波数を 79 [GHz]、リブ間隔を 100 [mm]とした ときの Bragg 反射の発生角度を図 1.3.1.2-19 に示す。 図 1.3.1.2-19: 周波数 79GHz、リブ間隔 100mm における Bragg 反射発生角度 ここで横軸は Bragg 条件における正の整数 n、縦軸は天頂角を表す。ここで、最小俯 角となるのは n=52 のときであり、俯角は 9.1°となる。今後はこの値を用いてシミュレ ーションを行う。 84 ア-2.3.2 シミュレーション条件 シミュレーション環境図を図 1.3.1.2-20 に、シミュレーション条件を表 1.3.1.2-4 に示 す。 図 1.3.1.2-20: シミュレーション環境図 表 1.3.1.2-4: シミュレーション条件 シミュレーションでは FMCW 方式を使用し、帯域幅を 125 [MHz]~4 [GHz]の間で変 化させた。 85 ア-2.3.3 シミュレーション結果 シミュレーション結果を図 1.3.1.2-21 に示す。 図 1.3.1.2-21: 各帯域における受信電力 ここで縦軸は受信電力、横軸は距離を表す。また、図中の破線はレーダビーム範囲内 に存在するリブ位置を表す。シミュレーション結果より、帯域幅 4 [GHz]ではそれぞれの リブを検知している。帯域幅 4 [GHz]のように広帯域では分解能が高く、それぞれのリブ を検知してしまうため、Bragg 反射が発生しないと考えられる。但し、Bragg 反射が生じ るはずの狭帯域(125 [MHz])では広帯域に比べて受信電力が減少している。そのため、 次に狭帯域で受信電力が低下する原因を明らかにする。 図 1.3.1.2-22 に各リブにおける信号入射角度を示す。 86 図 1.3.1.2-22: 各リブにおける信号入射角度 ここで横軸はリブ番号(レーダから地面に垂線を下ろしたときの地面との交点をリブ 番号 0 として計算)、縦軸は信号入射角度を表す。図 1.3.1.2-22 で示されるように、リブ 番号が増加するにつれて信号入射角度が減少している。Bragg 反射の条件式では平面波 を仮定しており、信号入射角度が等しい場合に Bragg 条件が成立する。つまり、図 1.3.1.2-22 のように信号入射角度が異なる場合には、原理的に Bragg 反射が発生しない。 また、図 1.3.1.2-23 に各リブにおける反射信号の位相差を示す。 図 1.3.1.2-23: 各リブにおける反射信号の位相差 ここで、横軸はリブ番号、縦軸は位相差を表し、位相については周波数 79 [GHz]にお ける位相差を示す。図 1.3.1.2-23 から分かるように、各リブにおける反射信号に位相差 が生じており、各反射信号を加算しても同相化されない。そのため、図 1.3.1.2-21 中の 125 [MHz]の結果では、位相の異なる反射信号を加算することで信号を打ち消し合い、受 信電力が低下したと考えられる。 87 ア-2.3.4 シミュレーション結果の考察 Bragg 条件は平面波を仮定しているが、実環境において平面波として計算できる場合 としては、遠方解の場合と構造物の周期間隔が短い場合が挙げられる。図 1.3.1.2-24 に、 遠方と近傍における信号の入射角度の違いを表す。 図 1.3.1.2-24: 遠方と近傍における信号の入射角度について ここで、遠方とはレーダからリブまでの距離が十分離れている場合を表し、近傍とは レーダからリブまでの距離が近い場合を表す。遠方ではレーダからリブまでの距離が十 分離れているため、隣り合うリブの入射角度は近似的に等しくなる。これに対して近傍 では、レーダからリブまでの距離が近いため、隣り合うリブの入射角度は異なる。この 入射角度の違いが誤差となり、Bragg 反射に影響すると考えられる。 また、図 1.3.1.2-25 に周期構造の間隔が短い場合と長い場合での入射角度の違いを示 す。 図 1.3.1.2-25: 周期構造物の間隔が短い場合と長い場合における 信号の入射角度について 図 1.3.1.2-25 のように、周期構造物の間隔(リブ間隔)が短い場合には隣り合うリブ の入射角度が近似的に等しくなる。これに対して、周期構造物の間隔が長 い場 合に は、 隣り合うリブの入射角度が異なり、この入射角度の違いが誤差となり、 Bragg 反射に影 響を与えると考えられる。 88 つまり、Bragg 反射は遠方、もしくは周期構造物の間隔が短い場合に発生する。本シ ミュレーションではレーダからリブまでの距離が近く、リブ間隔も長いため、 Bragg 反 射が発生しなかったと考えられる。 ここで、レーダから各リブへの信号が平面波で到達する場合について考える。実験条 件については図 1.3.1.2-20、表 1.3.1.2-4 と同様とし、信号の到達を平面波と仮定して計 算する。図 1.3.1.2-26 に、平面波を仮定した場合の各帯域における受信電力を示す。 図 1.3.1.2-26: 平面波を仮定した場合の各帯域における受信電力 図 1.3.1.2-26 から分かるように、広帯域に比べて狭帯域においてパワーが増加してい ることがわかる。つまり、Bragg 反射により信号が同相化され、受信電力が増加したと 考えられる。 89 図 1.3.1.2-27 に、平面波を仮定した場合の各リブにおける反射信号の位相差を示す。 図 1.3.1.2-27: 平面波を仮定した場合の各リブにおける反射信号の位相差 図 1.3.1.2-27 から分かるように、平面波を仮定した場合には各リブにおける反射信号 の位相差がないことがわかる。したがって、狭帯域では Bragg 反射現象により信号が同 相化され、受信電力が増加したと考えられる。 ア-2.3.5 シミュレーションによる反射信号算出についてのまとめ 本項目では、数値シミュレーションを用いてレーダから高輝度白線へ信号を指向した 場合の反射特性を幾何学的に明らかにした。数値計算により、各シミュレーション条件 における信号再帰リブ個数の変化を明らかにした。また、各リブ形状における反射断面 積を明らかにした。さらに、帯域毎の高輝度白線の反射特性を明らかにし、 Bragg 反射 の発生条件を明確にした。 90 ア-3 実機による白線識別 本項目では、最適レーダ方式を抽出するための基礎データを取得するため、実機レー ダからリブに向けて信号を指向した場合のリブの反射特 性を検証する。 ア-3.1 実験内容 本項目では、実機レーダを用いた白線識別の実験条件と評価内容について 説明 する 。 ア-3.1.1 実験条件 実施した実験構成を図 1.3.1.2-28 に示す。 図 1.3.1.2-28: 実機による白線識別の実験構成 図 1.3.1.2-28 に示されるように、回転台上にアスファルトブロックを配置した。使用 したアスファルトブロックを図 1.3.1.2-29 に示す。 91 図 1.3.1.2-29: 浸透アスファルトブロック アスファルトブロック 1 枚は縦 300 [mm]、横 300 [mm]、高さ 50 [mm]の大きさである。 そして、図 1.3.1.2-30 に示されるように、アスファルトブロック上に等間隔でリブを配 置した。 図 1.3.1.2-30: リブの設置状況 ここで、リブの設置間隔は 100 [mm]であり、リブ 1 つの大きさは縦 20 [mm]、横 200 [mm]、 高さ 10 [mm]である。また、リブは 19 個配置した。使用したリブを図 1.3.1.2-31 に示す。 92 図 1.3.1.2-31: リブブロック 使用したリブの表面には凹凸があり、それぞれのリブで若干形が異なる。 そして、図 1.3.1.2-32 に示されるように、アンテナ中央面を起点とした法線軸が回転 台の中心と交わるようレーダ搭載角度を設定した。 図 1.3.1.2-32: レーダ搭載角度 そのため、周波数 79 [GHz]でリブ間隔が 100 [mm]のときに Bragg 反射が発生するレー ダ俯角 9.1°の場合には、レーダから回転台の中心までの距離が 3.1 [m]となる。 そして、レーダについては弊社の製品レーダを基にした調査用レーダ 2 機種を使用し、 下記の 2 種類の測定機器系を用いて測定した。 93 ■ 測定機器系 1(図 1.3.1.2-33 参照) ・製品レーダとして動作するためパラメータは固定 ・受信データ(AD 値)を記録可能 図 1.3.1.2-33: 測定機器系 1 のレーダ構成 測定機器系 2(図 1.3.1.2-34 参照) ・送信パラメータを調整可能 ・内蔵受信系は使用せず、外部測定器でスペクトラムを記録 図 1.3.1.2-34: 測定機器系 2 のレーダ構成 ア-3.1.2 評価内容 本項目では、パラメータによる影響を調査するための評価内容を説明する。変調パラ メータの変化によるリブの反射特性を明らかにするため、帯域幅を変化させたときの受 信電力を測定した。実験では測定機器系 2 を使用し、帯域幅を 100 [MHz]、480 [MHz]、 3 [GHz]と変更して測定を行った。 また、角度によるリブの反射特性を明らかにするため、測定機器系 1 において、回転 台を回転させた場合の受信電力を測定した。 ア-3.2 実験結果 本項目では、パラメータを変更させた場合に得られた受信電力を記載する。図 1.3.1.2-35 に、測定機器系 2 において帯域幅を変化させたときの受信電力を示す。 94 図 1.3.1.2-35: 測定機器系 2 における帯域幅を変更したときの受信電力 ここで、図 1.3.1.2-35 の横軸はレーダからの距離、縦軸は受信電力を表す。また、図 中の 1.41~4.95 [m]の灰色の塗りつぶしはアスファルトが存在する範囲を、 2.28~4.15 [m]のピンクの塗りつぶしはリブが存在する範囲を表す。そして、青色の線は帯域幅 100 [MHz]、▲(三角印)のマーカーの入った赤色の線は帯域幅 480 [MHz]、+(十字印)の マーカーの入った緑色の線は帯域幅 3 [GHz]での結果を表す。また、図 1.3.1.2-35 は水平 偏波での結果である。図 1.3.1.2-35 より、帯域幅が 100 [MHz]のときに受信電力が低いこ とがわかる。これはシミュレーション結果と同様に、Bragg 反射が発生しておらず、ず れた位相の重ね合わせにより受信電力が低下していると考えられる。 また、図 1.3.1.2-36~1.3.1.2-38 に、各帯域におけるリブの反射信号と路面クラッタの 受信電力を示す 95 図 1.3.1.2-36: 100[MHz]におけるリブの反射信号と路面クラッタの受信電力 図 1.3.1.2-37: 480[MHz]におけるリブの反射信号と路面クラッタの受信電力 96 図 1.3.1.2-38: 3[GHz]におけるリブの反射信号と路面クラッタの受信電力 ここで、●(丸印)のマーカーが入った黒色の線は、それぞれの帯域における路面ク ラッタを表す。そして、それぞれの帯域におけるリブの反射信号と路面クラッタとの差 を図 1.3.1.2-39 に示す。 97 図 1.3.1.2-39: 各帯域におけるリブの反射信号と路面クラッタとの比 ここで縦軸は SCR(SCR:Signal to Clutter Ratio)値とし、図 1.3.1.2-36~2.3.1.2-38 でそ れぞれ表されるリブの反射信号と路面クラッタとの差を表す。また、グラフ内における 灰色の縦線は、それぞれのリブが存在する距離を表し、計算上 2.28、2.38、2.47、2.57、 2.67、2.77、2.87、2.96、3.06、3.16、3.26、3.36、3.46、3.56、3.66、3.76、3.85、3.95、 4.05、4.15 [m]の距離にリブが存在する。図 1.3.1.2-39 より、狭帯域に比べて広帯域で SCR 値が高いことが分かる。また、帯域幅 3 [GHz]では全てのリブではないが、リブ単体を 検知できており、リブの存在する距離で高い SCR 値となっている。そのため、白線識別 を実現するためには、狭帯域を用いるより、広帯域でそれぞれのリブを検知するほうが 利得は高く、それぞれのリブを検知することで白線を識別し易いと考えられる。 次に、角度の変化による影響を検証する。図 1.3.1.2-40 に、測定機器系 1 において回 転台の角度を変化させた場合のピーク電力を示す。 98 図 1.3.1.2-40: 測定機器系 1 における回転台の角度とピーク電力 ここで図 1.3.1.2-40 の縦軸はピーク電力値を、横軸は回転台の角度を表し、ピーク電 力とは物標が存在する範囲 1~5 [m]内における最大の受信電力である。また、回転台の 角度は 0°、1°、2°、3°、4°、5°、6°、10°、20°、30°と変化させた。また、ア ンテナの偏波は斜め 45°である。図 1.3.1.2-40 から分かるように、回転台の角度が大き くなるにつれて、受信電力のピーク値が減少していることが わかる。特に、1°程度の微 小な角度変化でも大幅に受信電力が減少していることが わかる。これはリブ形状が直線 であるため、斜め方向からの反射が小さいことが原因であると考えられる。 ア-3.3 実験結果の考察 帯域幅の違いによる受信電力の変化を検証した結果、帯域幅が増加するにつれて、受 信電力が増加することが明らかとなった。つまり、狭帯域で発生する Bragg 反射の効果 が小さいと考えられる。これは前項Ⅰ-3.1.2-ア-2.3.4 で述べたように、Bragg 反射は遠方、 もしくは周期構造物の間隔が短い場合に発生するため、今回の実験のように近傍かつ周 期構造物の間隔が長い場合には Bragg 反射が発生しないためであると考えられる。また、 リブによって形や表面にばらつきがあることや、リブ間隔が厳密な等間隔でないことも 同相化していない原因として考えられる。但し、実際にリブを設置する際にもリブ 形状 やリブ間隔にはばらつきが生じる。そのため、白線識別を実現するためには、 Bragg 反 射を期待して狭帯域を使用することはせず、広帯域を用いて 1 つ 1 つのリブを検知する べきであると考えられる。 99 ア-3.4 実機による白線識別についてのまとめ 実機を用いた白線識別実験の結果、79GHz 帯のレーダを用いてリブに対して信号を照 射しても、Bragg 反射の効果を得られないことが明らかとなった。これは今回の実験環 境では信号が平面波とならないことや、リブ形状や リブ間隔のばらつきが原因と考えら れる。そのため、白線識別を実現するためには、広帯域を用いて 1 つ 1 つのリブを検知 するべきであると考えられる。さらに、広帯域を用いて複数のリブを検出することがで きれば、反射信号の特徴から周囲の構造物と白線を識別可能であると考えられる。 参考文献 [1] 桐本哲郎, “自動車レーダの基礎”, 2007 Microwave Workshops and Exhibition, 2007 [2] 稲葉敬之, 福島冬樹, “多周波ステップ ICW レーダによる距離・角度の超分解能推定法”, 電気情報通信学会論文誌 B, Vol.J91-B, No.7, pp.756-767, 2008 [3] 羽多野裕之, 山里敬也, 岡田啓, 片山正昭, “IPCP を複数段用いた UWB Impulse Radar 受 信機の特性評価”, 電気情報通信学会論文誌 A, Vol.J89-A, No.6, pp.544-556, 2006 [4] 稲葉敬之, “FMICW レーダにおけるスタガ PRI を用いた干渉抑圧の検討”, 電気情報通 信学会論文誌 B, Vol.J88-B, No.12, pp.2358-2371, 2005 [5] 神保郁充, 小河昇平,稲葉敬之, “2 周波 ICW 方式の安全運転支援システムへの適用検 討”, 電子情報通信学会東京支部学生会研究発表会, B-2-136, 2013 [6] 稲葉敬之, “多周波ステップ ICW レーダによる多目標分離法”, 電気情報通信学会論文 誌 B, Vol.J89-B, No.3, pp.373-383, 2006 [7] 川西淳介, 稲葉敬之, “2 周波 CW レーダを用いた近接複数目標状況下での距離推定に関 する実験的評価”, 電子情報通信学会総合大会, B-2-23, 2011 [8] 山下遼, 渡邉俊人,稲葉敬之, “複合シーケンス多周波 CW による速度視野拡張の検討”, 電子情報通信学会東京支部学生会研究発表会, B-2-135, 2013 [9] 稲葉敬之, 平井俊之, “FMICW レーダにおける移動目標検出法”, 電気情報通信学会論 文誌 B, Vol.J88-B, No.4, pp.795-803, 2005 [10] 梶原昭博, 山口裕之, “ステップド FM レーダによる路面クラッタ抑圧”, 電気情報通信 学会論文誌 B, Vol.J84-B, No.10, pp.1848-1856, 2001 100 Ⅰ-3.2 Ⅰ-3.2.1 小型 UWB ミリ波レーダの開発 動作原理機の製作 バイブラ白線からの散乱反射波を効果的に増幅し(Bragg 散乱)、路上散乱波などを抑 圧するためのミリ波レーダ方式を検討する。そこで Bragg 散乱の動作原理及び散乱波取 得に適したレーダ変復調方式(以下、レーダ方式)を検討するために FMCW 方式やステ ップド FM 方式、チャープ方式、インパルス方式など様々なレーダ方式の動作原理が可 能な評価用ミリ波レーダ装置を試作し、路上で基本性能評価を行う。また、白線の各リ ブからの散乱波の特徴波形を利用して、路肩からの不要散乱波を分離識別し、SC 比が優 れたレーダ方式についても検討する。 動作原理機のブロック図を図 1.3.2.1-1 に示す。ソフトウェアにより DDS(Tektronix 7121B:12[GS/s],10[bit])(DDS:Direct Digital Synthesizer)で合成した任意のベースバ ンド帯超広帯域信号(0.5~3.5[GHz])を 0.5~3.5[GHz] の 1st-IF 帯 と 7~10[GHz] の 2nd-IF 帯の 2 段コンバータ(スーパヘテロダイン)を用いてで 77~80[GHz]の RF 帯長 広帯域レーダ波に変換し、アンテナから送信する。一方、受信した信号は 2 段のコンバ ータを通して IQ のベースバンド帯(0~3.5[GHz])に戻される。次にこの信号は 2ch の 高速デジタイザ(Acqiris DC252:8[GS/s],10[bit])でデジタル信号に変換され、PC で信 号処理される。このように本装置は、ソフトウェアで作成した任意のベースバンド帯超 広帯域信号をミリ波信号に up-convert 及び down-convert することで各種レーダ変復調方 式について実験することを可能としたミリ波レーダ装置である。本装置の概観図を図 1.3.2.1-2 に示す。 図 1.3.2.1-1: 動作原理機のブロック図 101 検討するレーダ方式は下記のとおりである。 高速 FMCW 方式 高速チャープ方式 ステップド FMCW 方式(多周波 CW 方式) ステップド FM 方式 符号化ステップド FM 方式 また前項Ⅰ-3.1.1 の結果から 500[MHz]の帯域幅では Bragg 利得が得られ、また 4[GHz] では各リブからの散乱波を分離識別できることを確認した。今後、動作原理機では各レ ーダ方式について 500[MHz]と 3[GHz]について検討していきたい。 図 1.3.2.1-2: 評価用ミリ波レーダ装置の概観図 102 Ⅰ-3.2.2 小型 UWB ミリ波レーダの設計、試作 ミリ波レーダ構成を図 1.3.2.2-1 に示す。ミリ波レーダは図 1.3.2.2-1 に示すように構成 され、ミリ波送信回路で送信波が生成され、アンテナを介してターゲットに向けて送信 される。ターゲットにより反射したミリ波は再びアンテナを介して受信され、ミリ波受 信回路及びアナログ回路を通ってデジタル信号処理部にてターゲットの位置、速度など が演算によって求められる。その結果が外部インターフェイスを介してパソコンや測定 機に出力されデータが取得される。 ミリ波 送信回路 アンテナ アナログ デジタル 外部 回路 信号処理部 インターフェイス ミリ波 受信回路 図 1.3.2.2-1: ミリ波レーダ構成 本事業で設計・試作する白線識別可能な車載レーダにおいて、小型化及び高精度な方 位計測は不可欠である。図 1.3.2.2-1 の構成の中で小型化及び高精度な方位計測に最も寄 与するものとして、アンテナが挙げられる。本節では小型化及び方位計測の高精度化を 実現するための最適なアンテナ技術を調査し、シミュレーションにより、実現性の確認 を行う。 ア. アンテナ技術調査 以下に小型化及び方位計測の高精度化の観点で代表的なアンテナ技術を列挙する。ア ンテナ技術の概要、利点、欠点を表 1.3.2.2-1 に示し、小型化及び方位計測の高精度化へ の適合性を表 1.3.2.2-2 に示す。それぞれのアンテナ技術について適用性を評価し、それ らについて検証する。 103 表 1.3.2.2-1: 一般的なアンテナ技術 名称 概要 利点 欠点 誘電体を使った 誘電体の表面又は内部に 誘電体の比誘電率に Q 値が高いため エレメント形成 エレメントを形成する よっては、相当な 広帯域には向かない 小型化が可能 エレメントの 3 次元的にエレメントを 平面アンテナ時の 立体的なスペースが 立体化 構成する 面積を縮小可能 必要 メアンダライン 右図のような スペースを無駄なく 高周波帯では加工が の採用 エレメントを 利用することが 難しい、電磁結合が 構成する できる 起きやすく利得が 劣化する ヘリカル構造の 右図のような スペースを無駄なく 高周波帯では加工が 採用 エレメントを 利用することが 難しい、電磁結合が 構成する できる 起きやすく利得が 劣化する ビバルディ 右図のような 広帯域に対応可能で 十分なスペースが アンテナの採用 エレメントを 構造も簡易である 必要で周囲への 構成する 電界の影響が大きい フェイズド アンテナエレメントを 任意の方向にビーム 仕組みが複雑で アレイアンテナ 電気的に動作させる が向けられる コストが高い メカスキャン 可動部にアンテナ 容易にスキャニング 可動部の保守が必要 方式の採用 エレメントを搭載させる を実現できる 電子スキャン 信号処理でアンテナ 短い計測時間で 方式の採用 ビームを形成する スキャニングが の採用 仕組みが複雑 可能 仮想エレメント 数学的手法などで処理す エレメントの増加に 実際にエレメントが の想定 ることでエレメントを より、ビームが鋭く 増加するわけでは 見かけ上増加させる なる ないので放射電力は 変わらない 104 表 1.3.2.2-2: 小型化及び方位計測の高精度化への適合性 名称 小型化への適合性 高精度化への適合性 誘電体を使ったエレメント形成 ○ × エレメントの立体化 △ △ メアンダラインの採用 ○ × ヘリカル構造の採用 ○ × ビバルディアンテナの採用 △ △ フェイズドアレイアンテナの採用 × ○ メカスキャン方式の採用 × △ 電子スキャン方式の採用 △ △ 仮想エレメントの想定 ○ ○ ※ 表中は従来のレーダに搭載されたアンテナと比較して○は適合性あり、△は同等、 ×は不適合 表 1.3.2.2-2 より小型化、方位計測の高精度化という観点で優れているアンテナ技術と して本節では仮想エレメントを想定した方式について検討を行う。 ア-1 仮想エレメントについて 【 1 】 仮想エレメントは図 1.3.2.2-2 のように数学的手法などでレーダが検知したデータに信 号処理を施すことにより、実際のエレメント数よりも多い見かけ上のエレメントを想定 する方法である。エレメント数が多くなることにより、方位計測が高精度 化さ れる 上、 増加したエレメントは見かけ上のものなので実装スペースを必要としない。但し、実際 にエレメント数が増加するわけではないため、アンテナによる送受信の電力は変わらな い。 実エレメント 検知データを 数学的手法で データ処理 仮想エレメント 図 1.3.2.2-2: 仮想エレメント 次節ではこの仮想エレメントを想定した手法についてシミュレーションを行う。 105 イ. アンテナシミュレーションによる実現性検討 仮想エレメントの適用有無についてシミュレーションを実施した。表 1.3.2.2-3 に主な シミュレーション条件を挙げる。 表 1.3.2.2-3: シミュレーション条件 周波数 79[GHz] 変調方式 FMCW 変調周波数帯域幅 480[MHz] 実アンテナ数 4 仮想エレメント数 7 レーダ高さ 0.5[m] 受信アンテナ間隔 3.8[mm](1λ相当) ターゲット数 ターゲット距離 3 30[m](図 1.3.2.2-3 参照) 測角方式 DBF ターゲット 2[m] 2[m] 30[m] ミリ波レーダ 図 1.3.2.2-3: ミリ波レーダとターゲットの位置 106 仮想エレメントの適用有無によるシミュレーション結果を図 1.3.2.2-4、図 1.3.2.2-5 に 示す。 図 1.3.2.2-4: 仮想エレメント適用時のシミュレーション結果 図 1.3.2.2-5: 仮想エレメント適用なしのシミュレーション結果 図 1.3.2.2-4 及び図 1.3.2.2-5 より仮想エレメントを適用することで 3 つのターゲットを 識別することが可能となっている。 以上の結果より、ターゲット検知の高精度化とレーダ小型化の観点で仮想エレメント の適用は有用と考えられる。 107 ウ. 実機による偏波の検討 本項目では、アンテナの偏波による影響を調査するため、偏波を変更した場合のリブ の反射特性を検証する。 ウ-1 偏波の違いによる影響について 一般的に反射は路面やリブの誘電率と屈折率に依存するが、垂直偏波の送受信の場合、 反射しない角度が存在する。水平偏波では反射しない角度が存在しないことから、白線 識別には水平偏波を使用することが適切と考えられる。 対路面の入射角だけを考えれば、レーダはかなり浅い入射角と推定でき、その場合垂 直偏波も水平偏波もほぼ同じ反射率であるため、どちらも大差はない。但し、近傍のリ ブは入射角が深くなることも考えられるため、その点では水平偏波を使う方が、問題が 少ないと考えられる。 本項目では、実機を用いては白線識別を行い、偏波を変化させた場合の受信電力を測 定することで、偏波の影響を明らかにする。 ウ-2 偏波評価の内容 偏波変化によるリブの反射特性を明らかにするため、偏波を変化させたときの受信電 力を測定した。実験は図 1.3.1.2-28 の実験構成で行い、測定には図 1.3.1.2-33 の測定機器 系 1 を使用した。また、レーダ距離は 3.1 [m]として実験を行った。偏波は水平、垂直、 斜め 45°について評価を行い、図 1.3.1.2-32 で示される法線軸で 45°毎に回転させ、偏 波を変更した。 ウ-3 偏波評価の結果 図 1.3.2.2-6 に、測定機器系 1 において偏波を変化させたときの受信電力を示す。 108 図 1.3.2.2-6: 測定機器系 1 における偏波を変更したときの受信電力 ここで、図 1.3.2.2-6 の横軸はレーダからの距離、縦軸は受信電力を表す。また、図中 の 1.41~4.95 [m]の灰色の塗りつぶしはアスファルトが存在する範囲を、2.28~4.15 [m] のピンクの塗りつぶしはリブが存在する範囲を表す。そして、青色の線は水平偏波、▲ (三角印)のマーカーが入った赤色の線は垂直偏波、+(十字印)のマーカーが入った 緑色の線は斜め 45°偏波を表し、●(丸印)のマーカーが入った黒色の線は吸収体に向 けてレーダを放出した際の結果であり、レーダのフロアノイズを表す。図 1.3.2.2-6 中の リブが存在する範囲内での受信電力を比較すると、垂直偏波の受信電力が低く、水平偏 波と斜め 45°偏波の受信電力が高い事が分かる。これは前述したとおり、垂直偏波の送 受信の場合、反射しない角度が存在するためであると考えられる。そのため、高輝度白 線の識別、つまりリブによる反射では垂直偏波は不適であることが明らかとなった。 また、斜め 45°偏波については水平偏波と同程度の受信電力が観測された。そのため、 白線識別に適する偏波として、水平偏波と斜め 45°偏波のどちらを採用するかについて は、今後明らかにする必要があると考えられる。 参考文献 [1] B.J.Donnet, I.D.Longstaff, “MIMO Radar techniques and Opportunities”, European Radar Conference, Proceedings of the 3rd, pp.112—115, 2006 109 第Ⅱ章 Ⅱ-1 白線識別用高輝度白線材料の開発 高輝度白線材料の開発 本事業では、悪天候時や照度が急激に変化する環境下においても正確に白線を識別で き、かつコスト面にも優れた技術を開発することを目的とする。本技術によって車線維 持支援システムの性能を向上することにより、ドライバの運転負担を軽減し、車線逸脱 事故の大幅な削減に貢献することのできる高反射で認識が可能な素材並びにリブ形状 の最適化の検討、検証を行った。 Ⅱ-1.1 安定的に高反射で識別できる素材の検討 高輝度白線材料に含有させ、ミリ波レーダを安定的に高反射で識別できる金属素材を 検討する。 ミリ波レーダを安定的に高反射で識別できる素材として金属素材を検討したが、アル ミニウムが、電気伝導性が良く最も効果的であると考えられ、尚且つ金属素材としては 鉄や銅に比べ比較的安定な素材である事から高輝度白線材料中にアルミニウム粉を含 有させることで検討した。 但し、アルミニウムを含む金属粉は消防法で危険物に該当するため、危険物から除外 される粒度に限定して検討した。 Ⅱ-1.1.1 含有させるアルミニウム粉の粒度の検討 ミリ波レーダを高反射させるため、高輝度白線材料中に含有させるアルミニウム粉 の 粒度の検討を実施した。 但し、消防法では、150[µm]の網ふるいを通過する量が 50[%]を超えるアルミニウム粉 を第 2 類危険物と定めており、粉末状のアルミニウム粉は使用できない。よって市場で 流通しておりなおかつ消防法の危険物として除外される最少粒径の粒状のアルミニウ ム顆粒を検討することとした。 Ⅱ-1.1.2 含有させるアルミニウム粉の粒度の選定 市場で販売されアルミニウム顆粒の粒度が安定しており、入手できたアルミニウム顆 粒で最少粒径のものは下記の表 2.1.1-1 のものであった。 表 2.1.1-1: アルミニウム顆粒の商品名及び粒径 製造会社 商品名 粒径[mm] アトマイズアルミニウム#208SP 0.5~2.0 アトマイズアルミニウム#220SP 0.2~1.0 ミナルコ社 110 Ⅱ-1.1.3 入手したアルミニウム顆粒の状態 図 2.1.1-1 から図 2.1.1-4 が入手したアルミニウム顆粒である。 入手したアルミニウム顆粒は粒状ではあるが、拡大写真にあるように球 形で はな い。 現時点で危険物から除外される最少の粒度はこの 2 種類であった。 図 2.1.1-1: #208SP(粒径 0.5~2.0[mm]) 図 2.1.1-2: #208SP 拡大写真 111 図 2.1.1-3: #220SP(粒径 0.2~1.0[mm]) 図 2.1.1-4: #220SP 拡大写真 上記のアトマイズアルミニウム#208SP(粒径 0.5~2.0[mm])とアトマイズアルミニウ ム#220SP(粒径 0.5~2.0[mm])を高輝度白線材料に配合し検討、検証した。 112 Ⅱ-1.2 素材を配合しての高輝度白線材料の検討、設計 Ⅱ-1.2.1 塗料への含有量の検討 入手したアルミニウム顆粒を高輝度白線材料へ含有させる 素材として検討し、含有さ せることによる材料の流動性、施工性の確認を行った。 ア. 素材を高輝度白線材料へ含有させた際の影響の検討 入手したアルミニウム顆粒は粒状ではあるが、前項の通り、球形ではないため高輝度 白線材料の素材としてアルミニウム顆粒を含有させることで、材料の流動性や施工性に 影響するものと予測された。 ア-1 アルミニウム顆粒を含有させたことによる施工性、流動性への影響の確認試験方法 現時点でミリ波レーダを安定的に高反射で識別すると考えられるアルミニウム顆粒 の含有量が決定されていないため、既存のリブ標示材へのアルミニウム顆粒の含有量を 5[%]とした。 アルミニウム顆粒を 5[%]含有させ溶解した材料を 170[℃]で高さからアルミニウム板 上に流し、材料の最大の長さを計測する。 流動性が良いと流れ出た材料の長さは長くなる傾向にある。 ア-2 試験結果 下記の写真のように流れ出た材料の最大の長さをノギスで計測する。 #208SP が最大長さ 100[mm]程度であったのに対し、#220SP は 120[mm]程度と長く、 #220SP を含有させた材料の方が、流動性が良いことが分かった。 図 2.1.2-1: #208SP 含有材料 図 2.1.2-2: #220SP 含有材料 また、写真の材料の盛り上がり方からも 170[℃]で流した材料のチクソトロピ-性も #208SP の方が大きく#220SP は盛り上がり方が低いことから、#220SP を含有させた材料 の方が、流動性が良いことが分かった。 113 イ. 粒径の検討、確認 上記、2 種類の粒径のアルミニウム顆粒を既存リブ標示材に 5[%]させ含有させ施工性 の確認を行った。 イ-1 試験方法 現在施工されている既存リブ標示材のフラット部分が塗膜厚さ 2[mm]であることから 試験用アプリケーターの塗膜厚さを 2[mm]に設定し、アルミ板上に材料を塗布した時の 塗膜表面の観察を行う。 イ-2 試験結果 試 験 用 ア プ リ ケ ー タ ー で ア ル ミ 板 上 に 材 料 を 塗 布 し た 結 果 、 #208SP ( 粒 径 0.5 ~ 2.0[mm])は図 1.1.2-4 のように塗膜上にスジ引きが見られ、#220SP( 粒径 は図 1.1.2-6 のようにスジ引きが見られなかった。 図 1.1.2-3: #208SP 5%含有の塗膜上 114 0.2~1.0[mm]) 図 1.1.2-4: #208SP スジ引きの状態 図 1.1.2-5: #220SP 5%含有の塗膜上 115 図 1.1.2-6: #220SP スジ引きが無い状態 Ⅱ-1.3 まとめと今後の検討項目及び課題 本項では、既存リブ標示材にアルミニウム顆粒を含有させた際の流動性に対する影響 を検証した。 また、アルミニウム顆粒の粒度による差はアルミ板上の塗布状態から #208SP(粒径 0.5 ~2.0[mm])は、塗膜上にスジ引きが見られた結果となった。 但し、今回の検証では#220SP(粒径 0.2~1.0[mm])では塗膜上のスジ引きは見られ ないが含有量次第ではスジ引きが発生する恐れも考えられる。 今後の検討課題としては、アルミニウム顆粒を含有させることにより流動性、施工性 に対して影響のある配合設計について、既存リブ標示材の配合設計を高反射率白線材料 用に見直す必要がある。 しかし上記は、ミリ波レーダを安定的かつ高反射で識別できるアルミニウム顆粒の含 有量とのトレードオフ関係にあるため、ミリ波レーダを安定的かつ高反射させるために 必要なアルミニウム顆粒の含有量の検討と並行して材料の配合設計の検討を今後も進 める必要がある。 116 Ⅱ-2 白線識別用高輝度白線のリブ形状の最適化の検討 本事業で検討、検証している高視認性白線材料において、模擬的に作成したサンプル 試験板や、構内で施工機による本施工に近い状態でアルミ板上やアスファルトフェルト 紙上に施工したサンプル試験板において夜間における視認性を検討、検証した。 Ⅱ-2.1 リブ形状(幅、高さ、間隔)の検討 ミリ波レーダを安定的に高反射で識別する高輝度白線材料において、視認性において も最適な視認性を得るためにリブ形状、リブ間隔、リブ高さを既存リブ標示材の視認性 の確認と比較を行い、検討、検証を行う。 現在、施工されている既存のリブ標示材を含め路面標示には夜間の視認性向上、維持 のために塗膜表面に微細なガラスビーズを散布している。 このガラスビーズが車のヘッドライトの光を人間に目に反射させることで夜間でも路 面標示が視認できる構造となっている。 図 2.2.1-1: ガラスビーズの再起反射原理 Ⅱ-2.1.1 既存リブ標示の視認性確認と高輝度白線材料の視認性の検証 アルミ板上に塗布した既存リブ標示と通常標示材の視認性確認と高輝度白線材料サ ンプル試験板にリブの設置間隔や設置形状変え暗室にて夜間の視認性を検証した。 ア. 試験方法 今回の検証ではアルミ板上に塗布したサンプル試験片を暗室に持ち込み、ライトを照 射し撮影を行い、また反射輝度測定を行った。 暗室内での目視での視認性確認の方法と使用した反射輝度測定器及び測定機構は下 記の通りである。 表 2.2.1-1: 暗室でのサンプル板の撮影状況 撮影位置 高さ 1.25[m] ライトの位置 高さ 0.9[m] 撮影位置から 5[m] サンプル板までの距離 117 1.25[m] 0.9[m] サンプル板 5[m] 図 2.2.1-2: 暗室内での撮影略図 図 2.2.1-3: サンプル板を照射するライト 表 2.2.1-2: 反射輝度測定機材 製造会社 ポッターズ・バロティーニ社 名称 MX‐7 平成 25 年 5 月購入 図 2.2.1-4: 反射輝度測定器 MX‐7 測定器の反射輝度の単位:mcd/m2 lx(ミリカンデラ/平方メートル・ルックス) 反射輝度は、簡易測定器を用いてそれぞれのレーンマークに対して、乾燥状態の反射 輝度を測定する。 測定評価:測定の数値が高いほど、再帰反射の状態が良く、夜間の視認性が高い。 118 受光センサー 受光センサー LED光源 LED光源 測定器 入射角 観測角 測定機構 図 2.2.1-5: 反射輝度の測定原理 イ. 既存リブ式標示の視認性と反射輝度測定結果 既存のリブ式標示材を実施工機で長さ 600[mm]アルミ板上に 3 枚施工し、サンプル試 験片を暗室でライトを照射し視認性を確認した。 図 2.2.1-6: 暗室内で撮影した既存リブ標示材サンプル試験片(塗布幅 200[mm]) 図 2.2.1-7: 暗室内で撮影した通常標示材サンプル試験片(塗布幅 150[mm]) 119 既存の施工幅 200[mm]リブ式標示はフラット部分の塗膜厚さ 2[mm]、リブ高さ 6[mm] で施工されており、リブが設置される事により通常の路面標示と比較し、光と影のコン トラストがあるため視認性は非常に良いのが分かる。 また、反射輝度の測定結果は下記の通りである。 表 2.2.1-3: 反射輝度の測定結果 単位:mcd/m2 lx 種別 測点No.1 測点No.2 測点No.3 平均 既存リブ標示材 353 325 341 340 通常標示材 279 285 261 272 通常の路面標示は 200~300[mcd/m2 lx]であり、今回測定したサンプル板は 300~350 [mcd/m2 lx]程度であることから非常に良い視認性であることが確認できた。 Ⅱ-2.1.2 高輝度白線材 料のリブ形状とリブ間 隔の違いによる視認性 と反射輝度の検討 と検証 現時点でミリ波レーダを安定的に高反射で識別する高輝度白線材料のリブ高さ、リブ 形状、リブ間隔は決定されていないが、試験用に作製したリブ試験片を用いて、リブ間 隔、リブ形状による視認性及び反射輝度の検討、検証を実施した。 ア. 試験方法 既存リブ標示材と通常標示材の視認性及び反射輝度と同様の試験方法で行った。 リブ形状とリブ間隔は表 2.2.1-4 に示す。 表 2.2.1-4: リブ試験片のリブ間隔とリブ形状 試験状況 リブ間隔 100[mm]、300[mm] リブ形状 リブを平行設置、斜め 45°設置 ※リブ高さは 10[mm]で統一 120 イ. 既存リブ式標示の視認性と反射輝度測定結果 図 2.2.1-8: 暗室内で撮影した高輝度白線試作材料サンプル試験片(塗布幅 150[mm]) リブ間隔 300[mm]並行に設置 図 2.2.1-9: 暗室内で撮影した高輝度白線試作材料サンプル試験片(塗布幅 150[mm]) リブ間隔 100[mm]並行に設置 121 図 2.2.1-10: 暗室内で撮影した高輝度白線試作材料サンプル試験片(塗布幅 150[mm]) リブ間隔 300[mm]斜め 45°に設置 図 2.2.1-11: 暗室内で撮影した高輝度白線試作材料サンプル試験片(塗布幅 150[mm]) リブ間隔 100[mm]斜め 45°に設置 122 表 2.2.1-5: 反射輝度測定:1 試験片につき 3 カ所測定 リブ間隔と設置状態 リブ間隔 300[mm] 平行設置 リブ間隔 100[mm] 平行設置 リブ間隔 300 [mm] 斜め 45°設置 リブ間隔 100[mm] 斜め 45°設置 反射輝度測定結果 単位:mcd/m2 lx 平均 405 432 412 416 447 421 451 440 302 324 335 320 353 364 390 369 ウ. 考察 本項ではリブに見立てたサンプル試験片を設置間隔、設置方向を変え暗室内において、 夜間を想定したリブ式標示の視認性確認と反射輝度測定を実施した。 それぞれの写真より、既存リブ標示材に比べリブ高さが 10[mm]あるため、反射光と影 のコントラストがはっきりしており視認性は向上していると言える。 しかし、リブ間隔については、写真を見る限りではリブ間隔が 300[mm]に比べ 100[mm] が良いと感じるが、車道に設置し車で走行した場合にはリブが連続してコントラストが はっきりせずリブが連続して見えることも考えられるため、リブ間隔は 300[mm]程度が 適当ではないかと思われるが、ドライバ目線での視認性確認は今回の試験片では短すぎ るので、実路面での試験施工を実施した上での確認が必要である 。 反射輝度測定の結果は、平行設置の方が斜め 45°にリブを設置した結果に比べ、反射 輝度値が高く、リブ表面に散布されたガラスビーズの再起反射性能の効果が大きい結果 となっている。 以上の事より、夜間の視認性は、リブは平行に設置した方が視認性は良い と言 える 。 但し、ミリ波レーダを安定的に高反射で識別する高輝度白線材料のリブ高さ、リブ形 状、リブ間隔は決定されていないため改めての検討と検証は必要である。 Ⅱ-2.1.3 現行施工機によるリブの成形性の確認及びリブ間隔の検討 現行のリブ式施工機を用い、現行塗料でのリブの成形性の確認及び、リブ間隔の異な るサンプルを作成し、より視認性の良いリブ間隔の確認を行った。 ア. 試験内容 現行のリブ式標示用塗料を用いて、リブ標示用施工機にてリブ間隔を 100[mm]及び 300[mm]のサンプルを作成し、暗室にて夜間視認性の確認を行った。 123 施工機は、現行の 2 個リブを、1 本リブに改造し、リブ高さを現行の 6[mm]から 10[mm] とするためにアプリケーターのシャッター部分を改造した物を使用した。リブ長さは 20[mm]とした。表 2.2.1-6 に作成したサンプル内容を示す。 表 2.2.1-6: リブ間隔サンプル内容[mm] リブ間隔 リブ長さ リブ高さ(理論値) サンプル 1 100 20 10 サンプル 2 300 20 10 現行リブ式標示 300 50 6 イ. 施工成形性試験結果 現行塗料での施工の結果、リブは少しダレて、膨らんでしまった。リブ長さは、膨ら んだ部分で 25[mm]~30[mm]程あり、リブ高さは 8[mm]であった。サンプル 1、2 の写真 を図 2.2.1-12~図 2.2.1-15 に示す。現行塗料では、10[mm]の高さのリブの作成は難しく、 塗料の改良が必要である。 図 2.2.1-12: サンプル 1 成形状況 図 2.2.1-13: サンプル 1 リブ接写 図 2.2.1-14: サンプル 2 成形状況 図 2.2.1-15: サンプル 2 リブ接写 124 ウ. 夜間視認性試験結果 暗室での視認性試験の結果、サンプル 1 の方が視認性は良好であった。また、リブ間 隔が同じであれば、リブ長さの長い現行リブの方が、目立った。視認性試験結果を図 2.2.1-16~図 2.2.1-18 に示す。 図 2.2.1-16: サンプル 1 視認性試験写真 図 2.2.1-17: サンプル 2 視認性試験写真 125 図 2.2.1-18: 現行リブ材 視認性試験写真 エ. 考察 本項では実際の施工機により、リブ高さが現行の 6[mm]で施工されているバイブララ イン材を使用し、10[mm]のリブ高さを維持出来るか、また現行の 2 個リブを 1 本リブに 改造し、施工した試験片と現行の 2 個リブで暗室において視認性確認を実施した。 上記試験結果より、10[mm]のリブの形成には、塗料配合の検討が必要であり、今後 10[mm]の高さが形成、維持出来る配合について検討していく。 また、夜間視認性については、今回の試験では、間隔が狭く、リブ長さが長い方が視 認性は良かった。しかし、実際の走行時の視認性については、速度により異なる可能性 があり、確認が必要である Ⅱ-2.1.4 今後の検討項目及び課題 暗室内での視認性確認では、リブが高く、リブ間隔が狭いほどライトの反射光とリブ の影のコントラストのため視認性は良くなる結果となった。 しかし、車道での実施工や車を走行させての視認性検証ではリブ間隔が広い方が、視 認性が良い結果となる傾向にあるため、走行時の視認性検証試験を今後実施する必要が あり、同時にミリ波レーダを安定的に高反射で識別できるリブ高さ、リブ間隔、リブ形 状の判明が必要であり、ミリ波レーダの研究と高輝度白線試作材料研究の両者による検 証及び検討が必要であり、そこで出た問題点を解消する事が今後の課題である。 126 Ⅱ-3 高輝度白線のリブ形成技術の開発 既存リブ式標示の形状においてはフラット部の厚み 2[mm]、リブ高さ 6[mm]が標準 となっている。 79GHz 帯のミリ波レーダによる安定した高反射レベルを得るためのリブ高さが要 求される事から 10[mm]程度のリブ高さで形成可能となる施工機開発の検討を行う。 Ⅱ-3.1 リブ形成技術の検討 既存のリブ整形は専用の施工機によって施工されており、エンジン等の動力によっ て走行する駆動部と熱可塑性の路面標示材を溶融、保温する溶融釜、リブ式標示を形 成するリブシャッターを備えたスリッター部、リブ長さ及び間隔を設定する制御部か ら構成される。 リブ長さ及び、間隔の施工設定については制御部の設定入力により可変が容易に行 え、リブ高さの設定はスリッターのリブシャッターの開口高さ調整により可能となる。 図 2.3.1-1: リブ式標示施工イメージ Ⅱ-3.1.1 リブ形状形成の検討 従来のリブ式標示のリブ形状は 2 本リブ形状が主流となっており、既存の施工機に 装着されているスリッターにおいても 2 本のリブを形成する構造となっている。(図 2.3.1-2) しかしながら、ミリ波レーダの安定した高反射レベルを得ることを考慮すると投影 上の面積は、より広い方が良いと考えられる為、1 本リブ形状を形成するスリッター 構造に改造試作する事とした。(図 2.3.1-3) リブ高さの設定については既存のスリッターにて 10[mm]までの開度に調整可能で ある為、現段階においては開度調整によって対応する。 127 20 50 2 6 10 80 200 80 10 300 図 2.3.1-2: 従来 2 本リブ形状 180 20 2 10 10 200 10 300 図 2.3.1-3: 1 本リブ形状 128 Ⅱ-3.1.2 リブ長さ及びリブ間隔の設定について リブ長さ及びリブ間隔の形成においては施工機の走行車輪の回転をロータリーエ ンコーダーにより走行距離を計測し、任意に設定したリブ長さ及びリブ間隔を施工で きる制御器を製作した。 制御器開発状況を(図 2.3.1-4)に制御器の写真を(図 2.3.1-5)に示す。 図 2.3.1-4: 制御器開発状況 図 2.3.1-5: 制御器拡大 高速道路におけるリブ式標示の工法の中には Ⅱ-3.1.1 で挙げた工法以外にもに一部の フラット部分を別施工する工法も存在し、これについても対応可能にするため、「通常 リブ」及び、「スキップ」と名付けた別パターンの工種も選択により施工可能な制御と した。 本制御器における、工種「通常リブ」の施工断面イメージを(図 2.3.1-6)に、設定可 能な項目を(表 2.3.1-1)に示す。 スタートフラット リブピッチ リブ長さ リブ長さ スタート ストップ 施工方向 図 2.3.1-6: 工種「通常リブ」の施工断面イメージ 129 表 2.3.1-1: 「通常リブ」設定項目 設定項目 最小値[mm] 最大値[mm] スタートフラット設定 1 999 リブ長さ設定 5 90 リブピッチ設定 100 9,999 リブピッチ補正設定値 1 10 本制御機における工種「スキップ」の施工断面イメージを(図 2.3.1-7)、設定可能 な項目を(表 2.3.1-2)に示す。 ピッチ 前フラット 後フラット リブ リブ スタート ストップ 施工方向 図 2.3.1-7: 工種「スキップ」の施工断面イメージ 表 2.3.1-2: 工種「スキップ」設定項目 Ⅱ-3.1.3 設定項目 最小値[mm] 最大値[mm] 前フラット 0 50 リブ 5 70 後フラット 38 50 ピッチ 200 9,999 ピッチ補正設定値 1 10 リブ形状形成のまとめ 専用施工機の製作とスリッター部の改良試作及び制御器の製作により、リブ高さ 10[mm]のリブ形成の基礎段階は確立した。 課題としては 79GHz 帯のミリ波レーダによる安定した高反射レベルを得ることを前 提とした路面標示材料との施工性及び安定したリブ形成状態の確認を行いながら改良 調整を行い、スリッター部及び制御器の仕様を確定させることが必要である。 130 Ⅱ- 3.2 高輝度白線標示材によるリブ形成技術の検討 既存のリブ整形は専用の施工機とリブ用標示材によって施工されている。 前項Ⅱ-3.1 では専用の施工機によるリブ形成技術の検討、検証を実施したが、本項で はリブを形成するための白線用材料の配合を検討する。 Ⅱ- 3.2.1 白線識別用高輝度白線用材料の配合検討 ミリ波レーダの反射効率を高めるために既存のリブ高さ 6[mm]より高い高さ 10[mm] のリブを形成するための白線用材料の配合を検討した。 ア. 試験内容 現行のリブ式標示は、標準のリブ高さが 6[mm]である。そのため、現行リブ用塗料の 配合では、高さ 10[mm]のリブの形成、維持をするのは難しく、本試験では、高さ 10[mm] のリブを形成出来る配合について検討した。試験配合内容を、表 2.3.2-1 に示す。 表 2.3.2-1: 白線用材料試作配合内容(単位[%]) 原材料名 現行配合 試作 1 試作 2 試作 3 試作 4 C5 系石油樹脂 12.5 15.0 14.0 13.5 12.0 ゴム 0.5 - - 0.5 0.6 顔料(酸化チタン) 4.0 3.5 4 3.5 5 炭酸カルシウム粉末 32.0 30.0 31.0 30.0 30.0 炭酸カルシウム顆粒 28.0 27.0 27.5 24.5 27.0 ガラスビーズ 20.0 20.5 20.5 20.5 20.5 可塑剤 2.0 2.0 2.0 2.0 1.8 沈降防止剤 0.2 0.5 0.5 2.0 2.0 硬化性樹脂 - 1.0 1.0 1.0 0.4 その他添加剤 0.8 0.5 0.5 0.5 0.4 イ. 試験方法 表 2.3.2-1 の配合について、総量 1[kg]分を蒸発皿に混合、溶融し、施工適性温度を確 認する。各配合を施工適性温度にて、図 2.3.2-1、図 2.3.2-2 のアプリケーター(フラッ ト 2[mm],リブ 10[mm])を用いてアルミ板上へ塗装し、塗膜の固化後リブ高さをディプ スゲージにて計測し、リブ高さ及びリブの成形性の確認を行った。試験結果を表 2.3.2-2 に示す。 131 図 2.3.2-1: 試験用アプリケーター 図 2.3.2-2: 試験用アプリケーター正面 表 2.3.2-2: 白線用材料試作配合試験結果 現行配合 試作 1 試作 2 試作 3 試作 4 160 160 160 160 160 リブ高さ[mm] 8 8 8 8 10 成形性 × × × △ △ 施工適性温度[℃] 上記結果より、試作 4 が高さ 10[mm]を形成、維持出来た。次項目でこの配合について、 施工機で施工試験を行い、10[mm]のリブを形成出来るか確認を行う。 Ⅱ- 3.2.2 現行施工機によるリブの成形性の確認及びリブ間隔の検討 前項Ⅱ-3.2.1 で検証した試作材料 4 を現行のリブ式施工機を用い、リブの成形性の確 認及び、リブ間隔の異なるサンプルを作成した。 ア. 試験内容 リブ式標示用施工機にてリブ間隔を 100[mm]及び 300[mm]のサンプルを作成し、リブ 高さ 10[mm]でのリブの成形性を確認すると同時に、そのサンプルを暗室にて夜間視認性 の確認を行った。 施工機は、現行の 2 個リブを、1 本リブにし、リブの高さを現行の 6[mm]から 10[mm] とするためにアプリケーターのシャッター部分を改造した物を使用した。リブ長さは 20[mm]とした。表 2.3.2-3 に作成したサンプル内容を示す。 表 2.3.2-3: リブ間隔サンプル内容[mm] リブ間隔 リブ長さ リブ高さ(理論値) サンプル 1 100 20 10 サンプル 2 300 20 10 現行リブ式標示 300 50 6 132 イ. 施工成形性試験結果 現行塗料では前項Ⅱ-2.1.3-イの結果で示すようにリブダレは起こってしまったが、表 2.3.2-1 の試作 4 の配合での施工を実施した結果、現行塗料ほどのリブダレやリブの膨ら みは発生せず、リブ高さも 10[mm]を維持できた。 図 2.3.2-3: リブ間隔 100[mm] 図 2.3.2-4: リブ間隔 300[mm] 133 図 2.3.2-5: リブ長さの確認 図 2.3.2-6: リブ幅の確認 図 2.3.2-7: リブ高さの確認 134 エ. 夜間視認性試験結果及び反射輝度測定結果 前項Ⅱ-2.1.3 と同じ方法で暗室内での視認席の確認と反射輝度測定を行った。 図 2.3.2-8: リブ間隔 100[mm] 図 2.3.2-9: リブ間隔 300[mm] 表 2.3.2-4: 反射輝度の測定結果 単位:mcd/m2 lx リブ間隔 測点No.1 測点No.2 測点No.3 測点No.4 測点No.5 平均 300[mm] 480 415 472 441 472 456 100[mm] 476 452 511 517 525 496 135 エ. 考察 本項では白線識別用高輝度白線用試作材料のリブ の高さ、形状、間隔の確認、及びア スファルトフェルト紙上に施工を行い暗室内での視認性確認、反射輝度測定を実施した。 表 2.3.2-4 反射輝度の測定結果よりリブが 100[mm]間隔の方が高い反射輝度値を示して おり、前項の表 2.2.1-5 と同様の結果であった。 写真ではリブ個数が多い 100[mm]間隔の方が良いが、走行状態での視認性では、100[m m]間隔はリブが連続して見え、リブ式標示として認識できないことも考えられる。 Ⅱ-3.2.3 白線識別用高輝度白線用試作材料の実路面での試験施工 前項Ⅱ-3.2.1 で白線識別用高輝度白線用試作材料を配合検討し、前項Ⅱ -3.2.2 で現行施 工機によるリブの成形性の確認及びリブ間隔の検討した試作材を、福島工場にて生産を 行い実路面での試験施工を実施した。 ア. 試験施工実施内容 日時:平成 27 年 2 月 27 日(金) 場所:テストコース 8:00~16:00 約 800[m] 図 2.3.2-10 試験施工場所概略図 136 図 2.3.2-11: 試験施工場所の状況 表 2.3.2-5: リブ式標示のリブ形状とリブ高さ、リブ間隔[mm] ※施工幅 150[mm] 施工パターン フラット部分 の塗膜厚さ リブ形状 リブ高さ リブ間隔 6 300 10 300 10 200 パターン① パターン② 2 50×40×2 個 パターン③ ※施工パターン①は現行バイブララインの標準施工仕様 図 2.3.2-12: 施工パターン① 137 図 2.3.2-13: 施工パターン② 図 2.3.2-14: 施工パターン③ 上記 3 種類の施工パターンを其々240[m]ずつの施工を行う。 138 イ. 施工フロー及び施工状況写真 路面の清掃 施工路面のゴミ、砂塵、泥、水分、油分等、材料と路面の接着を阻害するものをホウキ、 デッキブラシ等で取り除く。 路面が濡れている場合はガスバーナーで乾燥させる。 図 2.3.2-15: 施工路面の清掃状況 作図 施工箇所の路面に墨糸で作図線をマーキングする。 図 2.3.2-16: 墨糸を使用しての作図作業 139 プライマー塗布 路面と材料の接着性向上のため、路面に接着剤(プライマー)を散布する。 図 2.3.2-17: プライマーの散布状況 材料溶解 材料溶解車での溶解温度は 170~190[℃]に設定・管理する。 図 2.3.2-18: 使用したリブ標示材 図 2.3.2-19: 材料の溶解状況 140 施 工 材料溶解車から溶解した材料を施工機釜に入れ、準備が整い次第、機械を走らせ、始点 手前から施工する。 図 2.3.2-20: 施工状況 図 2.3.2-21: スリッター部の拡大 141 養生⋰完成 施工直後、塗装上を踏まないよう、必要に応じカラーコーンを設置する。 図 2.3.2-22: 完成状況 図 2.3.2-23: 完成状況 142 出来形の確認 リブ式標示の施工幅、リブ形状、リブ高さ、リブ間隔を確認する。 図 2.3.2-24: 施工幅の確認 図 2.3.2-25: リブ形状の確認 143 図 2.3.2-26: リブ間隔の確認 図 2.3.2-27: リブ高さの確認(リブ高さ設定:10[mm]) 144 ウ. リブ式標示のリブ形状、リブ高さ、リブ間隔等の計測結果 試験設置した施工パターン①~③のリブ式標示のリブ形状(縦、横)、リブ高さ、リブ 間隔を 1 施工パターンにつき 3 カ所ずつ計測を行った。 表 2.3.2-5: 施行パターン 施工パターン リブ形状 設計値[mm] リブ高さ 実測値[mm] 設計値 実測値 設計値 実測値 [mm] [mm] [mm] [mm] 52×40×2 個 施工パターン① 50×40×2 個 52×40×2 個 6.5 6 51×40×2 個 設計値[mm] 施工パターン② 実測値[mm] 51×40×2 個 実測値[mm] 50×40×2 個 52×40×2 個 301 300 実測値 設計値 実測値 [mm] [mm] [mm] [mm] 9.1 10 10.1 300 300 11.0 300 301 設計値 実測値 設計値 実測値 [mm] [mm] [mm] [mm] 52×40×2 個 施工パターン③ 300 設計値 52×40×2 個 設計値[mm] 6.2 300 6.2 52×40×2 個 50×40×2 個 リブ間隔 10.2 10 51×40×2 個 9.3 9.8 201 200 200 200 エ. 考察 本項では、前項の構内試験施工において使用した白線識別用高輝度白線用試作材料を工 場で生産し、路面上に施工において試作材の施工性、リブの高さ、形状、間隔の実証を行 った。 上記のリブ形状の計測結果より、今回の試験施工の目標であったリブ高さ 10[mm]は、全 てのリブではないが維持は出来た。 しかし、全てのリブにおいてリブ高さ 10[mm]を維持は出来ず、中には 9[mm]台前半の高 さになったリブもあり、流動性のある材料で、全てを 10[mm]のリブ高さに維持するのは難 しいと思われる。 また、今回試作したリブ標示材はリブ高さ 10[mm]を維持するべく、材料の流動性を極力 抑えた配合設計にしたため、施工速度が現行バイブララインの半分以下となり、将来的に 採用された場合には施工に支障が出てしまう。 今回、施工した試作材を現行バイブララインと同等に近い速度で施工するとフラット部 分が掠れ、またリブ形状が維持できないものと思われる。 145 Ⅱ-3.2.4 今後の検討項目及び課題 前項Ⅱ-2.1.3-イにおいて現行リブ材料で施工試験した結果、リブダレを起してしまった が、配合設計を変更する事により、本社構内において手作りによる試作材での試験施工で はリブ高さ 10[mm]を維持する事が出来た。 しかし前項Ⅱ-2.1.4 にも記したように、ミリ波レーダを安定的に高反射で識別できるリ ブ間隔、リブ高さ、リブ形状等とアルミニウム等の金属素材の含有の有無が決定しておら ず、場合によっては配合変更の必要が生じると考えられる。 また、今回のリブ試作材の配合設計に使用した硬化性樹脂はベッコウ色に近い黄味で白 材に使用した際には色相に影響を与える(黄味の強い塗料になる。)ため、今後の課題とし て、色相に影響を与えない透明か淡黄色の硬化性樹脂の検討が必要である。 テストコースへの試験施工実施のために工場での試験生産を行うにあたり、事前確認と して、手作りで作製した試作材で構内での試験施工を行った。その結果から、施工速度は 現行バイブララインには劣るものの、ある程度は確保出来るものと想定していた。しかし、 工場で生産した試作材を用いてテストコースに施工した結果、リブ高さは、全てではない が目標の 10[mm]程度を維持出来たものの、予想以上に施工速度の低下があった。施工速度 は実用化可能かどうかの重要な要素のため、リブ標示施工機の速度に対する追従性の改良 と、リブ高さの維持の両立を可能にする試作材の配合設計の改良が今後の課題である。 146 第Ⅲ章 白線識別技術の実証 本事業では、これまで白線識別が困難であった雨や霧、雪や西日などの状況での識別 を可能とする、新たなセンシングシステムや新たな白線などの開発を目指している。対 象としている状況においても、雨の状況の一つをとっても、強い雨なのか弱い雨なのか、 路面には水幕ができているのかなど、様々な状態が考えられる。白線識別性能評価を行 うには、まず、環境や識別状況に対する指標が必要であり、性能を評価するための基準 が必要となる。環境や識別状況に対する指標としては、天候、気温、湿度、降雨量、積 雪量、視程、照度などがあげられる。また、センシングシステムの性能としては、検出 処理時間、未検出時間、検出精度、分解能、検出範囲などがあげられる。さらに、今回、 リブ式標示などの利用が想定されているが、白線に対する評価としては、視認性、騒音、 振動、耐久性などがあげられる。すでに車線逸脱防止支援システム( LKAS:Lane Keeping Assistance System)のシステム搭載車が市販されているが、対象としている環境や識別 状況は限られており、今回想定するような厳しい環境条件は、排除されて支援の対象外 とされ、指標や評価基準などが明確となっていない のが現状である。 本事業では、5 年後を目処に、走行速度 100[km/h]の実走行にて白線識別システムの認 識性能の実証評価を行うことを目指している。白線識別技術の実証には、白線識別セン サシステムと高輝度白線の試作装置や試作材料が必要である。しかし、平成 26 年度は まだ開発中となるため、白線識別センシングシステムを実走行により評価するための車 線維持制御実験車の構築を行い、車線維持制御アルゴリズムを検討し、基礎検証を行っ た。また、想定される白線としては、リブ式のものがあるため、パターンを変えたリブ 式標示の性能評価のための予備試験を行った。白線識別技術の性能評価手法の調査と、 白線識別技術を用いた運転支援システムの基準等の調査を行った。 Ⅲ-1 白線識別センシング性能評価用実験システムの開発 白線識別センシング性能を評価するための実験システムとして、白線識別センシング システムを搭載し、実走行により性能評価を実施するための車線維持制御実験車を製作 した。白線識別センシングシステムが適用される車両による制御性能の違いなどを模擬 して評価できるようにするため、応答性や制御周期を可変制御できる特殊な仕様として いる。これにより、白線識別性能(未検出時間、検出精度、分解能、検出範囲、環境状 態等)と車線維持制御性能の関係の定量化を可能としていくことを目指している。まず、 車線維持制御実験車の仕様作成と設計について述べ、次に車線維持制御実験車の構築に ついて説明する。また、実験車にセンサを搭載して実走行における性能評価するために 車線維持制御実験車に組み込む車線維持制御アルゴリズムの検討と基礎検証について 述べる。さらに、リブ式標示の性能評価のための予備試験について述べる。 147 Ⅲ-1.1 車線維持制御実験車の仕様作成と設計 白線識別センシングシステム単体に対する性能評価としては、車線維持制御を可能と する実験車両を用いなくても、識別の可否を計測できれば良いと考えられる。しかし、 白線識別センシングシステムの主たる用途の1つとして、車線維持制御に用いることが あげられる。実用途を考慮した性能評価としては、車線維持制御に用いることができる 白線識別能力を持っているかを判断する必要がある。すなわち、実環境での車線維持の 実走行が実現できるか否かの評価が不可欠と考えられる。図 3.1.1-1 には、白線識別性能 と車線維持制御性能の関係性の例を示す。この図のように、センサ の検出範囲が長いが 検出周期が遅いセンシングシステムと、センサの検出範囲が短いが検出周期が速いセン シングシステムでは、車線維持制御性能への影響はどうなるのか明確ではない。そのた め、これらの関係を定量化していくことを目指している。そこで、白線識別センシング システムを搭載し、実走行により性能評価を実施するための車線維持制御実験車を製作 した。 車線維持制御は、当然、白線識別センシングシステムが適用される車両による制御性 能の違いにより、求められるセンシング能力も異なる可能性がある。そのため、適用さ れる車両による制御性能の違いなどを模擬して評価できるようにするため、応答性や制 御周期を可変とすることができ、操舵角の分解能を細かく計測と制御ができる特殊な仕 様とした。また、速度に対する影響も評価する必要があり、再現性を確保するために、 操舵、速度の自動制御が可能である実験車両を製作することとした。車線維持制御実験 車に対する制御機能の要求仕様を表 3.1.1-1 に示す。 センサ検出範囲:長,検出周期:遅 車線維持制御性能への影響は? センサ検出範囲:短,検出周期:速 図 3.1.1-1: 白線識別性能と車線維持制御性能の関係性の例 148 表 3.1.1-1: 車線維持制御実験車に対する制御機能の要求仕様 【操舵制御特性】 制御回転速度 制御回転速度:1[rps]以上 制御分解能 操舵トルク 1000 段階 操舵角制御 0.5° 最大トルク 電動パワーステアリングシステムの最大トルク オーバーライド 可 【速度制御特性】 加減速制御範囲 制御分解能 ギアチェンジ 一定速度制御特性 速度制御範囲 オーバーライド フルスロットル~フルブレーキ アクセルペダルストローク最大量に対して 2000 段階,ブレーキ ペダルストローク最大量に対して 640 段階 PRND 目標速度に対して 0.3[m/s](RMS) 0~30[m/s](0~108[km/h]) 可 【計測状態量】 操舵角,操舵トルク,4輪車輪速,操舵,速度のオーバーライ 出力状態量 ド検知,ギア位置,ブレーキペダルストローク,アクセルペダ ルストローク,ブレーキランプ状態 車線維持制御実験車の設計計画としては、ベースとなる車両に対し、実験車両用自動 運転装置の搭載改造によって製作することとした。まず、実験車両としては、今後の白 線識別センシングシステムの搭載を考慮して、ワンボックスカー、車内電源( 1500[W]) を標準装備としているハイブリット車両を選定した。また、市販製品の比較を行うこと ができるように、レーンキープアシ スト(LKA)、アダプティブクルーズコントロール (ACC)を装備する車両とした(エスティマハイブリッド 2011 年式 グレード G オ プション装備付)。 次に、表 3.1.1-1 の要求仕様に基づいた実験車両用自動運転装置を搭載する改造を外注 にて行った。実験車両のシステム概要図を図 3.1.1-2 に示す。実験車両は、スイッチパネ ルの状態により、全く実験車両用自動運転装置を介さず、センサと直結した改造前と同 じ状態となる。また、実験車両用自動運転装置をつないだ状態にした場合にも、PC から の制御信号がない場合は、センサと直結した状態と疑似的に同じ信号を出すようにして いる。 149 スイッチパネル PC 加 算 回 路 マイコン ステアリングト ルクセンサ DA ブレーキペダ ルストローク センサ 7芯コネクタ 直結リ レー パワーステ アリング ECU 直結リ レー ブレーキ ECU 直結リ レー アクセルペダ ルストローク センサ 直結リ レー リレー シフトレバー ポジション センサ ハイブリッド システム ECU ブレーキ ECU ブレーキス イッチ 実験車両用自動運転装置 実験車両 図 3.1.1-2: 実験車両のシステム概要図 Ⅲ-1.2 車線維持制御実験車の構築 ベースとなる車両に対し、実験車両用自動運転装置の搭載改造によって製作した車線 維持制御実験車の外観を図 3.1.2-1 に示す。さらに、図 3.1.2-2 に実験車両用自動運転装 置におけるマイコンの制御ユニット部、図 3.1.2-3 には ハンドル上部のロータリーエン コーダ部を示す。 図 3.1.2-1: 車線維持制御実験車の外観 150 図 3.1.2-2: マイコンの制御ユニット部(運転席下) 図 3.1.2-3: ハンドル上部のロータリーエンコーダ部(図中赤丸内) 実験車両は、PC による制御を可能としており、性能検証のため、テストコース( 1 周 3.2[km]のオーバルコース)を用いて、操舵及び速度に関する PC 制御の予備的な走行実 験を行っている。これにより、要求仕様を満たしていることを確認している。 さらに、この車線維持制御実験車には、開発する白線識別センシングシステムとの比 較や検証のために、従来技術の白線検知のビジョンシステムの搭載を行っている。以下 に比較対象として、搭載したビジョンシステムについて述べる。 今回、従来技術のビジョンシステムの 1 つとして、ZMP 製 RoboVision シリーズを搭 載した。図 3.1.2-4 に RoboVision for Car2 のカメラ部分と車載例を示す。この装置は、基 線長 350[mm]のステレオビジョンシステムであり、約 6~70[m]の距離画像の取得と白線 検知機能を有している。白線検知機能は、画像の二値化やハフ変換による直線検出を可 能としており、基礎的な検出の検証が可能となっている。図 3.1.2-5 に白線検知の例を示 す。白線識別センシングシステムを評価するためには、白線以外の構造物など、例えば、 ガードレールや縁石、他車両などを誤検出していないかなどを確認する必要がある。そ のため、周囲の構造物位置を路面と区別して検知するために、ステレオ視による距離画 像を用い、路面の白線と高さのある構造物などとの分離を行い、検出個所による誤検出 の判定を可能としている。車両検出には、単眼カメラによる汎用画像認識システムであ 151 る RoboVision Single や 、 夜 間 で の 検 知 を 想 定 し て 、 FLIR 製 の 車 載 用 赤 外 線 カ メ ラ PathFindIR の併用使用と搭載を検討し、予備的な計測検証を行っている。図 3.1.2-6 に距 離画像と車両検知の例を示し、図 3.1.2-7 には車載用赤外線カメラと夜間人検知の例を示 す。これにより、これらのビジョンシステムが、追従時や夜間の環境状況によって障害 の検知に優位性あり、比較や検証に使用できることを確認している。 図 3.1.2-4: RoboVision for Car2 のカメラ部分と車載例 図 3.1.2-5: 白線検知の例 152 図 3.1.2-6: 距離画像と車両検知の例 図 3.1.2-7: 車載用赤外線カメラと夜間人検知の例 153 新規に開発されるセンシングシステム等を含めた車線維持制御実験車の構成を図 3.1.2-8 に示す。正弦波インバータ電源は、特に交流 100V 電源を使用する試験装置を使 用する場合に、疑似正弦波のインバータ電源では、高周波回路などで影響が出る可能性 があるために用意している。また、車線維持制御実験車上の装置配置を、図 3.1.2-9 に示 す。 今後、この車線維持制御実験車を用いることで、白線識別センシングシステムの評価 が行えるように、車両制御用 PC とセンシングシステムとのインターフェースのプロト コルを統一していく必要がある。 ステレオビジョン、 シングルビジョン 仮)新ビジョン センサ 仮)新開発センサ モニタ 車両制御 用PC 画像処理装置他 赤外線カメラ 仮)新開発 システム 用モニタ 仮)新開発センシ ングシステム 実験車両用 自動運転装置 正弦波インバータ電源 実験車両 図 3.1.2-8: 新規開発センシングシステム等を含めた車線維持制御実験車の構成 仮)新ビジョン センサ 仮)新開発 ステレオビジョン、 システム シングルビジョン 用モニタ 仮)新開発センサ モニタ 画像処理装置他 仮)新開発センシ ングシステム 正弦波インバータ 車両制御用PC 赤外線カメラ 実験車両用 自動運転装置 ドライビングレコーダ (GPS、カメラ4、マイク) 図 3.1.2-9: 車線維持制御実験車上の装置配置 154 Ⅲ-1.3 車線維持制御アルゴリズムの検討 これまでに述べてきたように白線識別センシングシステムの性能を評価するには、実 走行状態での識別性能の検証が必要であり、これは前述した車線逸脱警報システムや車 線逸脱防止支援システムなどの車線維持制御に有用であるかを検証することにつなが る。そのため、検証のために車線維持制御実験車に組み込む車線維持制御アルゴリズム の検討を行った。車線維持制御アルゴリズムは、各自動車メーカなどで様々に開発され ている。しかし、開発される白線識別センシングシステムの検出範囲や分解能などが未 知である。このことから、検出範囲や分解能の影響 が少なく、簡易な計算処理で車線追 従のための操舵角を算出可能な地点追従法 [1] を応用した車線追従制御アルゴリズムを用 いることとした。図 3.1.3-1 に地点追従法によるステアリング角の算出方法について示す。 図 3.1.3-1 に示す目標点に対する三次曲線を算出することで、その係数から操舵角を求め る方式である。この地点追従法を応用し、図 3.1.3-2 に示すように、ビジョンシステムな どを用いて白線を検出し、3 次曲線を近似しても操舵角の算出が可能となり、車線に追 従した制御が可能である。地点追従法は急操舵の制御が困難である が、車線追従などに は向いているといえる。カメラを用いた車線維持制御に対する基礎検証として、図 3.1.3-3 に白線識別と三次曲線近似による車線追従の様子を示す。白線上に示した十字は、 周辺との輝度差により白線を識別した位置を示している。路面を平面と仮定して車両の 近傍から遠方にかけて、1[m]毎に位置する走査線上の画素値の輝度差で白線を検出した ものである。また、この位置から仮想参照点として、右に 1.2[m]に車両中央が位置する ように移動し、三次曲線近似したものを画面中央部分に点線表示している。さらに、こ の三次曲線近似の係数を用いて、操舵角を算出して車線追従制御が可能であることを確 認している。これにより、車線維持制御アルゴリズムが有用であるといえる。 今後は、前述したステレオビジョンシステムなどを用いて、白線識別性能(未検出時 間、検出精度、分解能、検出範囲、環境状態等)と車線維持制御性能の関係の定量化を 目指す。 Y Y1 y1 S Y0 0 0 1 目標点 y X0 2 Q0 Q1 三次曲線 : x1 a = x1 tan13 2y1 x1 追従車両 X1 ステアリング角(実舵角): y ax 3 bx 2 b 3y1 x12tan1 x1 X arctan 2lb ( ホイールベース : l ) 図 3.1.3-1: 地点追従法によるステアリング角の算出 155 Y y (仮想) 参照線 白線 レーンマーカ 三次曲線 x 視野(平面上) 自律車両 車線維持制御車両 0 X 図 3.1.3-2: ビジョンを用いた経路の三次曲線近似 図 3.1.3-3: 白線識別(白線上の十字)と三次曲線近似(車両中央に点線表示) による車線追従の様子 156 Ⅲ-1.4 リブ式標示の性能評価のための予備試験 想定する新しいセンサシステムでは、リブ式標示を使用することが検討されている。 そのため、パターンの異なるリブ式標示をテストコースに塗布し、視認性や実験車両を 用いた騒音測定の簡易的な予備試験を実施した。図 3.1.4-1 にリブ式標示の塗布場所を示 す。 図 3.1.4-1: リブ式標示の塗布場所(赤い直線:テストコース直線部分) 図 3.1.4-1 で示したテストコースの外側線の直線部分(約 760[m])に 3 パターンのリ ブ式標示を、前項Ⅲ-3.2.3 にあるように試験的に塗布した。塗布のパターンと距離等を 図 3.1.4-2 に示す。実際の塗布後の状況としてパターンの境界部分を図 3.1.4-3 に、高さ の違いなどを図 3.1.4-4 に示す。さらにリブ式標示の施工精度を含めた寸法詳細図を図 3.1.4-5 に示す。 157 テストコース外側 単位:mm 40 200 300 40 300 40 150 260m テストコース内側 240m 260m 10 10 パターン③:200mm間隔 パターン②:10mm高 6 パターン①:標準;6mm高 図 3.1.4-2: リブ式標示の塗布のパターンと距離等 パターン②とパターン①の境界 パターン③とパターン②の境界 図 3.1.4-3: 実際の塗布後の状況(パターンの境界) 158 2 パターン①6[mm]高,300[mm]間隔 パターン②10[mm]高,300[mm]間隔 パターン③10[mm]高,200[mm]間隔 図 3.1.4-4: 実際の塗布後の状況 159 パターン①寸法詳細 パターン②寸法詳細 パターン③寸法詳細 図 3.1.4-5: リブ式標示の施工精度を含めた寸法詳細図 160 Ⅲ-1.4.1 リブ式標示の騒音予備試験と結果 リブ式標示の評価検証については、評価書:雨天(夜間)に視認できる区画線の開発 (建技評第 90412 号、平成 3 年 8 月 9 日)を参考とした。 騒音測定は、リブ式標示を右タイヤ踏んで走行したときに、路面上計測点 とし ては 、 左側 7[m]、地上高 1.5[m]に騒音計(リオン NL-52)を設置して計測した。走行車両は、 車線維持制御実験車(ワンボックス車)を用い、車内の計測は、運転席と助手席の間に 設置した。路面上の計測点は、本来、右側 7[m]の位置に設置したかったが、場所の制約 から、車両通過時に車両が音源にかぶる位置となっている。今回は 予備試験であること と、アスファルト走行時との相対的な比較を行う上では、問題ないと考えている。図 3.1.4-6 に騒音計と設置状況を示す。図 3.1.4-7 にパターン③の走行時の騒音記録例を示 す。 図 3.1.4-6: 騒音計と設置状況 図 3.1.4-7: パターン③の走行時の騒音記録例 (下グラフ左からアスファルト 60[km/h]走行、1 つ飛ばしてリブ式標示上 60[km/h]走行、 1 つ飛ばしてアスファルト 80[km/h]走行、1 つ飛ばしてリブ式標示上 80[km/h]走行、 1 つ飛ばしてアスファルト 100[km/h]走行、1 つ飛ばしてリブ式標示上 100[km/h]走行) 161 今回の騒音測定は、速度を 60[km/h]、80[km/h]、100[km/h]で、アスファルト路面を走 行した時及び 3 つのリブ式標示上を走行した時を計測した。表 3.1.4-1 に測定結果として、 アスファルトとリブ式標示上の走行時の等価騒音レベルを示す。騒音測定の結果は、主 要幹線道路周辺(昼間)が 70[dB]を超える程度であることから、車線逸脱時にリブ式標 示上を走行して発生する騒音は、さほど大きくはないと考えられる。路面上計測方法と して、先に述べたように車両が音源にかぶる位置となっているが、著しい騒音ではない と思われる。今後、測定方法については、騒音に係る環境基準の評価マニュアル Ⅱ.地 域評価編(道路に面する地域)等を参照し、計測の信頼性の向上を図る必要がある。 表 3.1.4-1: アスファルトとリブ式標示上の走行時の等価騒音レベル 等価騒音レベル:LAeq(dB) 路面上計測 車内計測 Ⅲ-1.4.2 速度 アスファルト パターン① パターン② パターン③ 60km/h 65.6 68.8 65.9 65.6 80km/h 67.3 69.4 66.9 67.8 100km/h 73.0 70.9 71.9 71.9 60km/h 61.3 70.6 73.5 69.6 80km/h 62.2 71.5 72.6 70.9 100km/h 64.3 70.7 74.4 72.6 リブ式標示の視認性予備試験と結果 路面標示用塗料の規格 JIS K 5665 や前述の評価書などを参照したが、サンプル片など での測定となっていることや従来品との目視による比較などであったことから、今回は 簡易的に輝度計による測定での相対比較を行った。 テストコースにおいて、夕方の自然 外光中での、アスファルト路面、通常白線(テストコース上白線)、3 つのパターンのリ ブ式標示に対し、25[m]先、50[m]先の反射輝度を測定した。輝度計(TOPCON BM-9A) の測定角は 1 度、車線中央で、測定高さは 1.5[m]とした。図 3.1.4-8 に反射輝度測定の様 子を示す。 図 3.1.4-8: 反射輝度測定の様子 162 表 3.1.4-2 にリブ式標示上(25[m]、50[m])とアスファルト、通常白線の輝度測定結果 を示す。これらの結果より、全てのパターンで比較した通常白線の 2 倍程度の輝度を示 しており、視認性は従来品よりも良いといえる。 表 3.1.4-2: リブ式標示上とアスファルト等の輝度測定結果 パターン① パターン② パターン③ 外光(lx) 20700 12800 3950 25m先(cd/m2) 3730 (3.0) 2540 (2.3) 783 (2.9) 50m先(cd/m2) 3550 2181 504 アスファルト25m先 1223 1109 273 通常白線25m先 1740 (1.4) 1420 (1.2) 402 (1.5) 括弧内は,アスファルトを基準とした輝度比率 また、夜間のロービームでの視認性について、運転席位置から写真撮影比較を行った。 カメラの撮影条件は、同じとしている。図 3.1.4-9 に撮影結果を示す。ほぼ同等であるが パターン③のリブ式標示が、若干ではあるが遠くまで見え、目立つ 結果と なっ てい る。 今後、西日、雨、夜間等での既存や新規のビジョンシステムやレーザーシステムを用 いて、通常白線やリブ式標示の認識について、実験検証を行うことで、白線との組み合 わせで、認識率の違いなどを明らかにしていく必要がある。さらに、振動試験や乗り心 地などのほかに、安全性としてすべり試験についても、二輪車などを含めて様々な車種 で行う必要がある。 163 パターン① パターン② パターン③ 図 3.1.4-9: 夜間ロービームでの撮影結果 164 Ⅲ-2 車線識別用白線識別センシングシステムの標準化案作成 車線識別用白線識別センシングシステムの標準化案作成を目指して、本年度は、現在 市販されている車線逸脱防止支援システム等に用いられている白線識別センサの性能 と評価手法の調査を行った。また、国連機関や ISO、JIS などにおける運転支援システム のガイドラインや基準等の検討状況を調査した。 Ⅲ-2.1 従来白線識別センサの性能及び評価手法の調査 従来の白線識別センサには、カメラを用いるビジョンシステム(シングルビジョン、 ステレオビジョン)とレーザーレーダによる システムに大別される。ビジョンシステム は、距離に応じて誤差が大きくなる特性を持っているが、解像度の制約から 40 から 60[m] 程度までの中距離の白線識別には適しているといわれる。また、シングルビジョンより も距離計測が可能なステレオビジョンの方が識別精度は高いといわれている。さらに、 レーザーレーダでは、発したレーザー光による白線からの反射を検知することによる認 識となるため、反射に対する俯角が大きいほど良く、10 から 20[m]程度までの近距離の 白線識別に適しているといわれる。表 3.2.1-1 に白線識別に対する 2 つのセンシング方式 の一般的な性能の相対比較を示す。表 3.2.1-1 はあくまで一般的なセンサ性能として述べ ているため、高ダイナミックレンジのカメラを使用することなどは除外している。ビジ ョンシステムは、受動型の素子を用いるために、白線の特徴をとらえにくい状況が、照 度や素子の特性により多いことがわかる。レーザーレーダは、能動型の センサであるた め、白線の特徴を反射でとらえやすいといえる。但し、これは近距離の白線識別に対し てであり、ビジョンシステムも近距離の場合には、夜間に対しては識別可能である。 表 3.2.1-1: 白線識別のセンシング方式に性能比較 自然環境 ビジョンシステム(中距離) レーザーレーダ(近距離) 通常環境 ○ ○ 雨 △:降雨量によって悪化 △:降雨量によって悪化 霧 △:視程距離により悪化 △:視程距離により悪化 雪 × × 夜間 △:照度により悪化 ○ 西日 ×:ダイナミックレンジ不足 ○ ×:ダイナミックレンジ不足 ○ 照度変化 (トンネル出口等) 次に、白線識別センサの評価手法に対する調査を行った。白線識別センサを評価する 手法を見つけ出すことはできなかったが、白線識別センサを使ったシステムである「車 線逸脱警報システム(LDWS:Lane Departure Warning Systems)」に対する国際規格 ISO/DIS 17361 を基にした、日本工業規格 JIS D 0804:2007 高度道路交通システム−車線逸脱警報 165 システム− 性能要件及びその試験方法において、評価の参考となる記述があった。なお、 この規格では、センサを特に規定しておらず、光学式、磁石式、衛星測位方式、他のセ ンサ方式でも良いこととなっている。この規格文章の「 4.3.2」に 作動要件が書かれて おり、さらに「5」に試験方法が書かれている。以下に抜粋する。 日本工業規格 JIS D 0804:2007 高度道路交通システム−車線逸脱警報システム− 性能要件及びその試験方法 4.3.2 作動要件 作動要件は,次による。 a) 条件が満たされた場合,システムは運転者に警報を発しなければならない。 b) 外側警報境界線は,車線境界から外側で測定し,乗用車については 0.3 m,ト ラック及びバスについては 1 m の位置に配置する。 c) 内側警報境界線は,車線境界内側の最大 0.75 m の位置(0 m/s<逸脱速度≦0.5 m/s) ,TTLC 1.5 秒×逸脱速度(0.5 m/s<逸脱速度≦1.0 m/s),及び 1.5 m(逸 脱速度>1.0 m/s)の位置に配置する。 d) 警報は,警報設定点の周囲で一貫して発しなければならない。試験方法は,5.5.2 による。 e) 誤警報は,最小限度でなければならない。試験方法は,5.5.2 による。 f) システムは,クラスⅠについては 20 m/s 以上の速度で,クラスⅡについては 17 m/s 以上の速度で作動可能でなければならない。システムは,これらの速度 以下で作動してもよい。 5 試験方法 5.1 試験環境条件 試験環境条件は,次による。 a) 試験場所は,平らで乾燥したアスファルト又はコンクリート舗装面とする。 b) 外気温度範囲は,−20 ℃∼ +40 ℃とする。 c) 試験場所の車線区分線は,良好な状態でなければならない。 d) 視程は,1 000 m 以上とする。 5.2 テストコースの条件 テストコースは,各クラスについて表 1 で分類する最小値の±10 %の曲率に設 定する。コースは,最低運転速度(最低 17 m/s 又は 20 m/s)を維持できる長さ であり,逸脱速度 0.0 m/s<V≦0.8 m/s で車線から外れることができる。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 以下、5.3 試験車両の条件 以降は略する。5.5 には試験手順として試験条件や試行回 数などが記載されている。 「5.1」の試験環境条件を見ると、この規格で扱う「車線逸脱警報システム」は、路面 が乾燥した状態、すなわち晴天や曇りで、車線区分線が良好な状態であり、霧などのな 166 い視程が 1,000[m]以上である非常に良好な環境条件を想定していることがわかる。今回 の想定は、全天候型であるため、この試験環境条件を明確にできることが重要である。 しかし、「4.3.2 作動要件」や、ここでは示していないが、「5.5.2 手順」は、白線識別セ ンサが車線逸脱警報システムに用いられることを想定すれば、この試験方法をそのまま 活用することも可能である。 環境条件の指標として、視程距離に関して、現在はコントラストの差で判断される視 程計が用いられている。走行中などの動画に対しても、白線の見え方をコントラストに より視程距離を算出 す ることが考えられる 。 さらにコントラスト だ けではなく、 WIPS (Weighted intensity of power spectrum)による視程距離を算出する方法 [2] が、北大の萩原 教授より提案されており、環境条件の指標として用いることを考えている。 今後、全天候型としての試験環境条件を規定し、基準を策定していく必要がある。 Ⅲ-2.2 運転支援システムの基準等の調査 白線識別を用いた運転支援システムには、前述した車線逸脱警報システムや車線逸脱 防止支援システム(LKAS:Lane Keeping Assistance System)などがある。車線逸脱警報 システムについては、国連欧州経済委員会の協定規則第 130 号車線逸脱警報装置(LDWS: Lane Departure Warning System)に係る統一規定があり、中には、JIS と同様に試験手順 などが記載されている。その内容は、前述している JIS が準拠しているため、ほぼ同等 である。 車線逸脱防止支援システムにおいて、現行の国際基準では技術要件の具体的規定が無 い。そのため、国連自動車基準調和フォーラム( WP29)のブレーキ・走行装置分科会 (GRRF)に日本から提案を行い、必要要件のインフォーマルドキュメントが提出され ている(2014.9)。 日本では、国土交通省の定める「車線維持支援装置の技術指針」に適合する必要があ る。以下に示すような技術要件がある [3] 。 1. ドライバが機能をオン/オフできるスイッチを備えていなければならない。また、 エンジンをかけた直後はオフでなければならない。 2. システムの作動下限速度が 65[km/h]以上であること。これは、高速道路・自動車 専用道路を対象であることにより、一般道の法定速度 60[km/h]より高い数値に定 められている。各社の下限速度は 65[km/h]で統一されている。 3. 機能の作動状態がメータなどで常に表示されること。各社ともにメータ内のディ スプレイ上に、白線やハンドルのデザインの表示を行っている。 4. カーブ半径が 1,000[m]よりも急な道路まで作動可能な機能は、ハンドルから手を 離した場合に機能を停止させること。トヨタ・ホンダ・フォルクスワーゲンでは これに該当する。 また、交通安全環境研究所では、車線逸脱防止支援システムの試験方法の検討がなさ れている [4] 。表 3.2.1-2 に実車で検証した項目を示す。性能確認評価に関しては、車線逸 167 脱警報システムの JIS 規格の試験方法に準じている。しかし、車線逸脱警報システムと 同様に、環境条件は、雨や霧、雪、夜間などを考慮していない。さらに、日本自動車研 究所では、プリクラッシュブレーキシステムなどの予防安全技術に対するアセ スメント 試験を行っている。今後、交通安全環境研究所などと連携協力しながら、評価、試験方 法を検討する必要がある。 表 3.2.1-1 車線逸脱防止支援システムの試験方法として実車で検証した項目(交安研) 平成 27 年 1 月 21 日に、国交省では、バス・トラックへの車線逸脱警報装置( LDWS) の装備義務付け(新型車:平成 29 年 11 月 1 日以降順次、継続生産車:平成 31 年 11 月 1 日以降順次)を発表している。新たなセンシング技術の開発などにより、適用可能な 環境条件も拡がっていくものと考えられ、環境条件の指標や評価基準の策定を急ぐ必要 があると考える。また、今後、国際的な関連する動向に配慮して、環境条件の指標策定 や評価検証方法、試験方法などの検討を進める必要がある。 168 Ⅲ-3 まとめと今後の課題 本年度は、白線識別技術の性能評価のための車線維持制御実験車両を制作し、従来の ビジョン技術の調査に基づきステレオビジョンや赤外線カメラなどのシステムを実験 車両用に搭載し、基礎的な機能検証を行った。また、試験的にリブ式標示をテストコー スに塗布し、視認性や騒音に関する評価の予備試験を行った。さらに、白線識別技術を 用いた車線逸脱防止装置(LDWS:レーンデパーチャーワーニングシステム)や車線逸 脱防止支援装置(LKAS:レーンキープアシストシステム)等に関して、国際基準や国 際動向、試験法の調査を実施した。 白線識別の情報は、車線維持制御のほかに、車間距離制御装置( ACC:アダプティブ クルーズコントロール)及び衝突防止制御のための前方自車車線の検出や、自動運転シ ステムでは車線変更制御などでの車線位置の把握に利用されることが考えられる。車線 維持制御よりも広い範囲の白線識別能力が求められる可能性があり、これらの制御への 情報提供なども考慮した白線識別センシングシステムとしての要求仕様を、今後さらに 精査する必要がある。また、本文中で述べているが、評価検証に対しては、妥当性、信 頼性の向上が今後の課題である。さらに、測定方法を含めた環境状況を表す指標の策定 が不可欠であり、それらに基づき、評価基準や試験方法の開発、標準化案作成などを行 っていく必要がある。 参考資料 [1] 加藤晋、津川完之:自律車両におけるビジョンによる車線変更のためのラテラル制御、 電気学会論文誌 D 編、Vol.120、No.5、pp.634~641、2000. [2] Hagiwara, T., Ota, Y., Kaneda, Y., Nagata, Y.,Araki, K.: A Method of Processing CCTV Digital Images for Poor Visibility. In Transportation Research Record: Journal of the Transportation Research Board, No.1973, TRB, National Research Council, Washington, D.C., pp.95 -104, 2006. [3] 車線逸脱防止支援システム:wikipedia、2015. [4] 平成25年度国土交通省受託調査報告書、-平成25年度 車線逸脱防止システムの 国際基準に関する調査-、独立行政法人交通安全環境研究所、2013. 169 第Ⅳ章 委員会の実施 ・年度中に 4 回開催された次世代高度運転支援システム推進委員会のうち、第 2 回~第 4 回に出席し、本事業の開発内容や実施内容の概要を説明し、アドバイスやコメントを頂 き、実施計画に反映した。 第 2 回(H27 年 1 月 27 日):事業概要について 第 3 回(H27 年 2 月 24 日):事業の進め方について 第 4 回(H27 年 3 月 4 日):今年度の成果・課題について ・開発検討会を 2 回開催し、OEM よりアドバイスやコメントを頂き、有識者より技術的知 見を伺い、研究開発に反映した。 第 1 回(H26 年 12 月 25 日):事業概要について、及び進捗状況(実験結果など) 第 2 回(H27 年 2 月 27 日):事業の進め方について、及び進捗状況(実験結果など) ・SIP 実用化 WG 及び OEM との意見交換会(於 ITS Japan)にて事業の概要説明を行い、 参加 WG メンバの質疑応答及びコメントを頂き、実施計画に反映した。 第 1 回(H26 年 12 月 11 日):事業概要について 第 2 回(H27 年 2 月 10 日):事業の進め方について 各会議での OEM の要望としては主として下記があげられる。 1.開発するセンサを白線検知専用として欲しくない。(他の機能との併用) 2.専用のリブ式標示とのセットだと海外展開が困難。 3.リブの高さを既存より高くすると安全性が心配(特に二輪について)。 また、磨耗などの劣化とその検知性能への影響が心配。 4.白線検知距離を長く(遠く)して欲しい。 170 おわりに 本事業は、車載センサと白線の工夫により、どこまで白線認識の性能向上が期待でき、 自動運転に活用できるのかを見極めることを目的として、通常の自然環境に加えて様々な 自然環境や道路環境においても有効な白線識別技術の研究開発を、有識者や OEM 側との 仕様に関する意見交換を交えながら進めた。今年度の調査・検討により今後のレーダの設 計方針が明確化された。 具体的には、ミリ波センサを白線識別のみならず、側方検知としても併用できるものと して開発を行うこととした。そのために、センサ仕様の一つである帯域幅を 3~4[GHz]程 度まで上げる必要がある。また、白線検知の基礎試験からも、帯域幅を 3[GHz]以上にする ことで、高さ 10[mm]のリブ 1 本 1 本が識別できることが判明した。このことから高帯域幅 では、反射波を合成処理(等利得合成など)することでブラッグ利得以上の効果が期待で きるため、リブからの独立した反射波列を利用した時空間処理により白線を認識できるこ とができると想定される。これに対して、帯域幅をあげることにより信号処理負荷が増大 してしまうことが課題となる。処理周期は高度運転支援において重要な要素の一つである ため、信号処理方法の検討が必要となる。また、レーダ方式は信号処理負荷にも影響する ため、方式の検討も今後の課題となる。 また、今年度試験を行ったリブの種類は限られたが、高帯域幅における既存のリブでの 試験を行うなど、リブ形状、リブ表面のパターンを変えて試験を実施することが今後の課 題である。 171 -禁無断転載- 経 済 産 業 省 委 託 平 成 26 年 度 戦 略 的 イ ノ ベ ー シ ョ ン ( 自 動 走 行 シ ス テ ム ) 全 天 候 型 白 線 識 別 技 術 の 開 発 及 び 実 証 報 告 書 平 成 27 年 3 月 発 行 一般財団法人 日本自動車研究所 東 京 都 港 区 芝 大 門 1- 1- 30 日 本 自 動 車 会 館 12 階 TEL 03( 5733) 7925 172