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空気・飛沫感染予防用の N95 マスクの実 質的な有効性の検証とその
Departmental Bulletin Paper / 紀要論文 空気・飛沫感染予防用の N95 マスクの実 質的な有効性の検証とその有効性改善策 The verification of the actual effectiveness of N95 mask for the prevention of air and droplet-infection and the improvement of its effectiveness 榊, 宏之; 大村, 佳之; 松浦, 信男; 河田, 敏勝; 落合, 穣; 山田, 知美; 臧, 黎清; 西村, 訓弘 Sakaki, Hiroyuki; Omura, Yoshiyuki; Matsuura, Nobuo; Kawada, Toshikatsu; Ochiai, Yutaka; Yamada, Tomomi; Zang, Liqing; Nishimura, Norihiro 三重大学社会連携研究センター研究報告. 2010, 18, p. 57-60. http://hdl.handle.net/10076/11447 空気 ・ 飛沫感染予防用のN95マスクの実質的な有効性の検証 とその有効性改善策 7 丑ev e T I T l ' c at l ' o no ft Ae a c t ua le l i e c t l ' v e ne s so fN95mas kf wt hepy eve乃t l ' o no f ■ a l ' ra ndd mpl et 1 ' nf e c t l ' o na ndt hel mPmV e me ntO fl ' t seHe c t l ' v e ne s s 1 ) 三重大学大学院医学系研究科生命 医科学専攻環境社会 医学講座 トランスレーショナル 医科学 2 )株式会社サカキ L&Eワイズ 1 )nT a nS l at l ' o na lMe d l ' c a lSc l ' e nc e ,So c l ' a la ndEnv l mnme nt a lMe d l ' c l ' ne , GT adudt eSc ho o lo fMe d l ' c l ' ne ,M l ' eUnl ' v e y s l ' t y seCo . Lt d. 2 )Sa ka kl ' L&H Wl' 現在、N-95マスクは空気 ・ 飛沫感染する結核菌や、インフルエンザ感染対策用として用いられ重要な役割を担 っている。しかしながら、臨床 的なニーズを充足できていない点も有しており、その一つとして、近年その感染拡大 が社会 問題 となっているインフルエンザの感染対策 に対するN95マスクのフェイスフイット性 が挙 げられている。ま た、メーカー毎 にサイズ、構造 にもばらつきがあり、実際のパンデミックの際に個々人 に対して最適なフェイスフイット 性のマスクを提供することに困難を極めることが指摘されている。本研究では、マスクのサイズと、その構造 に着 目し、 人の体格 、顔の形状などを検討することで、より多くの人 にフイットする最適サイズを検討すると共に、人の呼吸を利 用し理論的にフイット性を高めるマスクの構造 について検討を行った 検討結果を基 に、外周の隙間からの吸込み 。 を防止する構造のマスクを考案し、その試作品を作製した。試作マスクは、体格 、顔の形状が異なる幅広い対象者 に対してフイット性 が高く、感染防御 に有効であることが確認 され、この結果から、N95マスクを改良した試作マスク の構造原理を基 に開発を進めることで、パンデミックの際にも 1サイズでより多くの人 にフイット性の高いマスクの創 出が可能であることが示唆された。 粒子を95%遮蔽できる能力を有しているが ( N はじめに .3〃m N95マスクはウイルスの大きさが約 0 i os hにて証 明)、そのサイズ、構造は各メーカ ∼0.6〃m とされていることから、N95マスクの ーによりまちまちである。このため、市販されて 0. 3〃m の粒子を9 フィルター効果の規格は、「 いるいずれのN95マスクであっても、体格、性 5%以上遮蔽する」と定められており、N95マス 別、顔の形状が異なる多種多様な個 々人の顔 クは、ウイルスの空気 ・ 飛沫感染 に対して予防 に普遍的にフイットし、隙間無く全ての呼気が 効果があるとされている。 フィルターを通して呼吸されているとは言いが 呼吸に伴い吸入される空気の100%がN9 たく、各個人 にとってはN95マスクであれ ばど 5マスクのフィルターを通して体 内に取り込ま れでも感染予防に有効であるとは言いがたく、 れるのであれ ば、ウイルス感染 に対する予防 自分の顔の形状 に最適な製 品を選択すること 効果がかなり高くなると考えられるが、実際に が必要となっている。 は、N95マスクは多くのメーカーから製造 ・ 販 以上のような現状を考慮 し、著者 らは現在 売されており、フィルター性能は全て0.3〃の 最も標準的に用いられている N95マスクを対 - 5 7- 研究成 果報 告 榊宏之 1 ) , 2 ) ,大村佳之 1 ) ,松浦信男 1 ) ,河 田敏勝 1 ) ,落合穣 1 ) , 山田知美 1 ) ,戚黍清 1 ) ,西村訓弘 1 ) Hl ' myu kl ' Sa kakl ' 1 ) 2 ) ,Yo s Al yu kl ' Omu r al ) ,No buoMat suu z d) ,To s Al ' kat suKawdal ) , ■ Yut a kaOc hl ' a l ' 1 ) ,T o mo ml 'Ya madal ) ,Ll ' q l ngZa ngl ) ,Nwl ' Al ' z T ONl ' s Al ' mwal ) 象 としてフイット性 のテストを行 うと共 に、各メー カーのマスクの構 造や サイズの実測を行 うこと で形状 とフイット性 の関連性 について考察を行 った 考 察 の結果 を基 に、幅広 い人 を対象 に 。 ク本 体 は、オリジナル成型 により作製した 。 ト3.装着フイット性 能 に関する比較試験 現在 、最も使 われている市販 品の N95マス ク( 3M 社製 のカッ 型 N95マスクのスモール プ フイット性 を有する形状 とサイズのマスクを新た に考案 し、その試 作 品を作成 した。さらに試 作 品 に対 してもフイット性 試 験 を行 い、標 準 品と の比較 を行 うことで、新 考案 した試 作 品マスク が従 来 品 に対 して高い性 能 を有することを確 サイズ、レギラーサイズの 2種類)を多数 の人 に装 着 させ フィッティングテスター ( MT-20)で 3〃m 呼気 の漏 れ試 験 を呼気 中に含 まれる 0. ∼0. 5〃m径粒 子の漏れ率を計測することで行 った さらに新 考案 のオリジナル N95マスクで 。 認 した。試 作 品は幅広 い体格 、顔 の形状 の被 験者 に対 してフイット性 が高く、本試 作 品を基 に製 品化 を進 めることで、パ ンデミックの際 に ほとんどの人 を対象 に適 用 できる普遍 的なマ も同様 の漏れ試験を MT-20フィッティングテス ター にて測 定 し、標 準 品とのフイット性 の比較 を行 うことで、新 考案 のN95型マスクの感染 防 御 能 について評価 を行った 。 スクが構築できる可能性 が示唆された。 2 .結果 1 .方法 2 -1 .顔 サイズの調査結果 卜1 .顔 サイズと既 存マスクの調査 男性 11 0名 、女性 1 06名 を対象 として、顔サ イズの測定を行い、体格 と顔サイズの差がどの 程度あるのかを実測することで、個人 間での顔 男性 11 0名 、女性 1 06名 を対象 として、顔サ イズ ( 頭 高 と頭 幅)の測 定を行 い、頭 高の測 定 結果 を表 1 、頭 幅の測定結果を表 2に示 した。 表 1.頭 高 に関する調査結果 サイズの分散 について考察を行った また、複 。 数 の企 業から入 手 した市販 品マスクについて 荒淫 形状の測定を行った。 発展歩)落潮: ′ 、 ui I を 主 等 鞄身最 珊零牽 人数 1 2 .新考案マスクの設計と試 作 既存マスクの構 造 にお ける問題 点の洗い出し を行 い、既 存メーカー の問題 点を解 消する構 造理論 に基 づ くマスク( 新 考案 マスク)の基礎 設計を実施 した。 素材 を取り付 けたマスク( 新考案マスク)を試作 した。試 作では、膜 素材 として、メル トブロー不 織布 、スパンレース不織布 、スパンボンド、パラ レルスパ ンレース、シリコンゴムについて比較 ミ 串捌き 号 ほ: i . 臣 . 2 還. 頑 8 宅 i = 芦 . 五一 一書 ! 2年 ' 増 ヨ ∼乳呈 2 3. 急 臼 で 丁王、 51 -1 77月 王1 ち ?虐 d 3 2 8. 3 . 1 毒 す 3 芝3. : 辞 1 串1 . . , 6 墨毎t t S一 一蔓 ㌢ 24 43 壬 も乳蛙 と. 3. 9 2 号 毎払 . 3 2 _ ヨー 圭 一 V3. ら 鳩Z { 5-篭 絡34 24 絹5. 2 盗 3亨 も 2鍔 実軸. 5 . 2 3選 は‡ 2 ' 6 書 きi t . Sr 一隻 渉2頚 塔 WL , t < 払5 2 巧. 1 1 3 3 号 . 5乱5 2 1 j L● ‡ 1 y i i ・ I L3 . 7 3, ち 3 で 5?. 5一 一157h 4 0 3言 uz = J 頚. 7 ' i 郡、 5. vi要 望人 達 8 下C 5L与 急 呈, 響 消25・ -董 卓 74 O i J l 絹4. 5 豊2 . を 謹 Q竜 ほ金 y 5 芝 き 」 次 に、基本設 計 に基づいて、マスク周辺の顔 との接 地面 に排気弁 と同じような効果を与える ぢ汀モ 奇孝 等. 一昔琵 7, 1 三 上記調 査 で収集 したデ ータ群 を題 材 として く 愛 線 壬ほ ぎ 7 5 . 最 良乱染 体型別 の分布 状態を把握するために、各表で は身長別 に測 定値 ( 平均値 )を表記した。この 結果 、男性 、女性 ともに身長 差 によって頭 高と 頭 幅 が大きく異 なることはなく、ほぼ一定であ ることが明らかとなった さらに、男女 間での差 。 試 験 を行 い、最適 なものを選 定した。尚、マス 柑芸 、 魯 - 5 8- 異もほとんどなく、最大でも4%程度 の差異で っていることが分かった また、接地面の広い あることが明らかとなった 構 造 にしているマスクの方 が当然フイット性 、 。 。 以上の結果から、顔サイズには体型 による差 すなわち漏れ率が少ないこともMT-20フィッテ 異はほとんどないことが明らかとなり、全体の平 ィングテスターを用いた漏れ試験によって確認 均値 的な構造のマスク形状 ( 本体構造)が、ほ した ぼ全ての人に対してフイットする可能性が示唆 。 以上の観察から、フイット性を高くする工夫と しては接 地面を広くする工夫 以外 はなされて された。 。 品マスクの内寸 ( 縦、横 、対角線 、高さ) 値を一 覧した。 l L t 2_ 51 【 - 1i U. 弓 1 77 . 5, -ほ芝 、 ・ 匂 iほ, 、 5 . rl1貰 . T _ 名 ヨ 1: I 望i ほ3 . 撃 !6 1絹、 宝 絹 右 転′ 3 き き 尋 . I . 3 姻 ‡ 郎▲・ -3 72. 卓 一 43 1 蛸. 串 1 : 石・ , 2 3● ほ2 _ 5L ・ ・ 1 轟 7月 2t 雪 1 番5 . 3 1 81 、 号 25 3 5 1 . 1 日L i , i -等名望濁 ほと. 5一 一1 、 5、 才 _ j 絹7 . 51 -I . 5 ∼. 4 1 42 _ 五・ -1 L 4 7. J l 全 林 音 〉 ! 糾え 、 空 き 盲鯨 2 r l 17 番. 6 号6. ま ? 1 5. 等 郎ぶ て 椙 はt 、 互 1 乱丁 i Q r 2. 各 きLS ほ. 蒙 壷 マークライト S l o o u7 1 ∬5 47 R 1 エ2 u4 u之 50 aNr 1日議埠 CL 興研 i 5, 3 ぎ 7 : 尋 逮5 柑_ Ⅰ てSt : . 苗 1 ち. 6 弓 2-2.既存マスクの調査結果 嘉き S I CD 1 15 1 1D 42 R I 15 125 1 20 44 拷 1 11 uG u2 51 74 76 77 29 1 30 u4 55. 5 1 00 シゲマツ 1 83. 9 束帯 jl '{ 1烏S で$ 6 莞 メー去一名 ‡ f 3 2. 日 1各も5 消尋∼ 招 i l u3 1至 消 , f I ∼ 3 3 ;書芸 1 ] 1 、 は 内. 守 び パイリーン 98 u灯 1 10 1 17 u之 1 28 38 札I r t ) b トーヨー 97 105 l l7 42 46 表 3.カッ 型 N9 5マスク市販 品の実測値 プ 市販 されている既存マスクを購入 し、その形 状の測定を行った 写真 1には各マスクの写真 。 2 -3.フイット性を向上させる構造の考察 顔サイズが男女共 に大きな差が認 められな を羅列した。 かったことから、1種類 のサイズでほぼ全ての 人の顔を対象 にフイットさせることできると推察 した。この考えに立ち、顔の実測値の結果と各 社から販売されている市販 品の実寸値を総合 的に考察することで、3M 社から市販されてい る S サイズとレギラーサイズの中間的なサイズ が「 汎用性サイズとなる可能性がある」と判断し、 5マスク 写真 1.市販されているカップ型 N9 5マスクの 写真 1に示した市販 品カッ 型 N9 プ 接地面を見ると、下段右側 の 2種類 は内側 に 大きくヒダっけることで接地面を広くしているが、 大半は5mm程度の接地面となっており、ゴム で後方から引っ張り押し当てるような構造 にな 縦: 110mm、横 : 120mm、対角線長 115m m( 全て内寸)をマスク本体の最適サイズと決 定した。 次 に接 地面 における空気漏れを防ぐことに ついて考察を行い、呼吸に着 目することでマス クの周辺の接地面に排気弁と同じような効果を 示す素材 を取り付 けることを考案 した。即ち、 -5 9- 研究成 果報 告 いないことが明確 となった 表 3には、各市販 表 2.頭幅に関する調査結果 マスク周辺 にヒダ上の素材を取り付けることで、 能を持つことが確認された。また、除去性能に 排気の際にはマスク周辺から呼気が抜 けやす 個人差が認められなかったことから、1サイズ くまた、吸気の際にはマスク周辺の隙間を顔の でも被験者の全てに対して高いフイット性を示 表 面 に張り付 けさせることで隙間を埋 めること すことが確認された。 ができると考え、このような構造 の接地面を持 つマスクの開発 を試み、写真 2に示す試作 品 爪 U O U を作成した. 1尚、空気漏れを防ぐためにマスク t U T 周辺 に取り付 けた膜 の素材 には、パラレルス パンレースが最適であると判断し、採用した。 ・︰ U 5 C・ 4 八爵 )鰍 岩 驚 p 響 - 辛 義 ● 義 義 _ _ _ _ 主 卜 如n 協律ぬs k かぬr ma闇 盈頭 ∴ よ 宅 極 guI 減 相e wD拓か 軽r r t a町 , : _ぎ: 〉 駈軸糸i 登 %・ 4 3停 堰鍔: 脊j 要路 e ; 図 1.市販 品と新考案マスクの性能比較 写真 2.試作した新考案マスク 以上の検討から、新考案マスクに付与した 2-4.フイット性能装着比較試験 体型 ( 顔の形状)が異なる 9人のモニターを 「 膜構造 」が、呼気吸引時には顔 に密着するこ 対象として 2種類の3M社製マスクと新考案マ とで粒子 除去フィルターとして機能するため、 スクを実際に装着させ、各マスク装着時におけ 新考案マスクが装着者の顔形状の影響を受け る漏れ率をMT-20フィッティングテスターで ず に安定的 に高い粒 子 除去機 能を実現する 測定し、結果を図 1に示した。市販 品である3 ことが明確 となった M 社製の標準サイズ・ カッ 型 N95マスク 。 プ 参考文献 ( Nor ma lMa s k( r e g ul a r ) )の場合では、漏れ率 が1 4% から94% と幅広く分布し、平均値が 58. 92% ( 標準偏差 28. 31 )、3M 社製小サイズ・ No r ma lMas k( s ma l l ) )では カッ 型 N95マスク( AI ST人材寸法データベース 日本人人体寸法データベース 1 997 -98,通商産業省 工業技術院くらしとJ I Sセンター プ 漏れ率が 11% から78% と分散し、平均値が 謝辞 35. 45% ( 標準偏差 20. 85)であった これに対 謝辞 今 回の実証試験、実地測定及び論文作成 に 。 して新考案マスク( Ne wdes i g n)では、漏れ率 あたり、多大なるご協力を賜 りました三重大学 医学系 が 5% から31% の範囲にあり、平均値が 研 究科トランスレーショナル 医科学の諸先生方 、また 1 5. 90% ( 標準偏差 9. 51 )であった 以上から、 学生の皆さんに対し厚く御礼 申し上げます。 。 新考案マスクが市販 品に比較して高い除去性 - 6 0-