...

日本の金融機関における リスクマネジメントの今後について

by user

on
Category: Documents
18

views

Report

Comments

Transcript

日本の金融機関における リスクマネジメントの今後について
平 成 26 年 度 春 季 セ ミ ナ ー 大 会
5
日本の金融機関における
リスクマネジメントの今後について
10
日本大学 A 班
15
ま ず 、我 々 は 今 日 の 金 融 に つ い て リ ス ク マ ネ ジ メ ン ト が 重 要 で あ る と 考 え た 。
そこで、リスクの種類、またそのリスクに対するリスクマネジメントについて
述べ、今後のプランについて論ずる。
5
金融リスクとは
リ ス ク と は 資 本 の 損 失 の 可 能 性 、不 確 実 性 を 指 す 。具 体 的 に は 有 価 証 券 (財 産
価値を表す紙面のことであり株券、債券、小切手や手形) と、ポートフォリオ
(資 産 の 組 み 合 わ せ ) の 市 場 価 格 変 動 が 不 確 実 性 に さ ら さ れ て い る こ と で あ る 。
10
不 確 実 性 は ば ら つ き 、つ ま り ボ ラ テ ィ リ テ ィ (資 産 価 値 の 変 動 の 激 し さ を 表 す バ
ロ メ ー タ ー )と し て あ ら わ さ れ 、標 準 偏 差 で 計 測 さ れ る 。特 に 、金 融 リ ス ク は 金
融機関における資金の貸借や有価証券の売買、またそれらの派生商品の取引の
結果で生じる金融商品の保有によって、損失を被る可能性のことを指す。
15
銀行と証券会社におけるリスクマネジメント
金融機関である銀行は商業銀行と投資銀行に大別できる。商業銀行は預金と
いう、いつでも払い戻しをしなければならない資金を集めて運用している。そ
こでは貸出や預金・市場調達などに伴うリスクを特定しマネジメントを行って
20
いる。
投資銀行は証券取引免許を持つ金融機関の総称であり、日本で投資銀行業務
を行っているのは証券会社だ。ここではデリバティブの取引で発生するリスク
や証券市場で発生する流動性リスクをマネジメントしている。
リスクマネジメントはリスクを特定し、そのリスクを計量化することから始ま
25
る。計量化の対象となるのは市場リスク、信用リスクとオペレーショナル・リ
ス ク だ 。計 量 化 す る 際 に VaR と い う 手 法 を 用 い て 分 析 す る 。VaR は ① 過 去 の 実
績データをもとに②未来の投資期間に対して③最悪の状態が一定の確率のもと
で生じるとしたときの④損失額と将来資産の推定値から算出され、リスクの測
定 に 活 用 さ れ て い る 。 加 え て 、 VaR を も と に そ の リ ス ク を カ バ ー す る た め の 自
30
己 資 本 比 率 の 決 定 や 経 営 課 題 へ の 対 応 を 決 定 す る 。特 に 商 業 銀 行 で は リ ス ク は 、
2
計量対象であるとともに国際的な金融規制の一つであるバーゼルⅡで必要な資
本賦課の対象でもある。しかし、国際的な基準に合わせているため個々の金融
機関の算出方法とは異なる場合もある。金融機関はそれにも対応してマネジメ
ントを行う必要がある。
5
また、金融機関には以上のリスクを別々にとらえるのではなく「統合リスク
管理」を用いてリスク全体をとらえることが必要とされている。統合リスク管
理 と は こ こ 20 年 の 間 に 欧 米 で 発 達 し て き た 経 営 管 理 方 法 で 、 金 融 機 関 を 取 り
巻く複雑かつ多様なリスクに備えるためのものである。
ではリスクにはどのようなものがあり、どのような性質とマネジメント方法
10
があるのだろうか。
金融リスクマネジメントを行う意義
日 本 に お い て 金 融 リ ス ク マ ネ ジ メ ン ト が 本 格 的 に 意 識 さ れ 始 め た の は 1990
15
年代のバブル崩壊以降である。銀行はバブル崩壊前まで、値が上がり続ける不
動産を担保として信用リスクをカバーした貸し出しを行っていたが、バブルの
崩 壊 後 担 保 と し た 不 動 産 価 格 が 下 が っ た た め 不 良 債 権 が 大 量 に 発 生 し た 。ま た 、
サブプライムローン問題、リーマンショック、欧州ソブリン問題といった金融
危機は不透明な証券化商品、測定しづらい金融リスクが連鎖的に顕在化した結
20
果である。以上のことから金融機関は金融リスクと向き合うことが必要である
と考える。
金融リスクの種類とリスクマネジメントについて
25
1 信用リスク
信用リスクは金融取引の取引先や保有する金融商品の発行体のデフォルト、
信用の低下によって生じるリスクである。このリスクは取引先と発行体という
対象ごとに、リスクの分析対象を区分される。
信用リスクの管理は取引先や案件の審査から始まる。格付も審査の一環に使
30
用され、審査は、取引先や発行体の信用状況の把握と、個別取引先案件の妥当
3
性の検討という 2 面から進められる。次に格付けに応じて与信限度額を設定す
る。
信用リスクマネジメントにおける問題点としては、事前審査やモニタリング
の不足による突発的な貸し倒れ損失や、信用度の低い先への貸出による損失が
5
あげられる。
2 市場リスク
市場リスクは株や債券、外国通貨といった市場で売買される資産価格の変動
に伴うリスクである。主な市場リスクとしては、金利リスク、為替リスク、株
10
式リスクなどが挙げられる。
市 場 リ ス ク は 先 に 述 べ た VaR を 用 い て 把 握 、 管 理 を 行 う 。
市場リスクマネジメントにおける問題点としては、リーマンショックのよう
な ま れ な ケ ー ス を 想 定 し て い な か っ た こ と で あ る 。VaR は 過 去 の 実 績 デ ー タ を
もとにしているため、予期せぬ事態には対応できないのである。
15
3 流動性リスク
流動性リスクは予期せぬ資金の流出によって、決済に必要な資金調達に支障
をきたし、通常より高い金利での調達を余儀なくされるリスクのことである。
流動性リスクの管理の基本は資金繰りの安全性確保である。そのため資金繰
20
り の 見 通 し を 立 て た り 、不 測 の 事 態 を 想 定 し た ス ト レ ス テ ス ト を 実 施 し て い る 。
しかし、資金繰りの見通しが不十分であったり、業態によってはストレステ
ストが未実施ということもある。
4 オペレーショナル・リスク
25
オペレーショナル・リスクとは、金融取引における資金決済、証券受渡しな
どにおける事務処理のミス・不正や、システムの不備といった事務処理上のさ
まざまな要因によって引き起こされるリスクである。事務処理に関するリスク
は事務リスク、システムに関するリスクはシステムリスクと分類される。
事務リスクの管理は事務処理におけるミスや不正が起こらない業務形態をと
30
ることである。システムリスクは業務への影響が大きいため万が一の場合のた
4
めにバックアップを用意することもシステムリスクマネジメントの 1 つである。
5 決済リスク
決済リスクとは、外国為替取引や有価証券売買取引の決済において、取引先
5
のデフォルトなどの理由で、支払い手続きや証券の引き渡しを済ませたにもか
かわらず、受け取るべき通貨または証券を受け取れなくなるリスクである。決
済リスクには、取引先の信用リスク、流動性リスク、オペレーショナル・リス
クなど、取引から決済までに発生するあらゆるリスクが含まれている。
決 済 リ ス ク の 管 理 の 手 法 は 、取 引 先 ご と に 1 日 に お け る 決 済 金 額 の 合 計 に 上
10
限 を 設 定 す る と い う 方 法 が と ら れ る 。こ の 上 限 金 額 の こ と を 決 済 限 度 額 (セ ト ル
メ ン ト ・ リ ミ ッ ト )と 呼 ぶ 。
以 上 の こ と か ら 、現 在 の リ ス ク マ ネ ジ メ ン ト の 課 題 と し て 、こ れ ま で の VaR
では対応できない場面があること、事前にリスク対応を行う必要性があると考
15
える。
金融規制の国際動向
2013 年 9 月 に 行 わ れ た サ ン ク ト ペ テ ル ブ ル ク サ ミ ッ ト で は 、金 融 危 機 の 再 発
20
防 止 が 掲 げ ら れ た 。 そ の 後 、 2014 年 2 月 の G20(財 務 相 ・ 中 央 銀 行 総 裁 会 議 )
ではシャドーバンキングへの対応について協議された。我々は、シャドーバン
キング問題への対処は難しいと考える。その理由として挙げられるのは、シャ
ドーバンキング問題が深刻である地域は、中国が代表的である。その中国自体
どれくらいの規模なのか把握しておらず、また、世界の主な金融機関によって
25
その規模についての考察もバラバラであるからである。この問題に対しては、
規模の大きさを明確に調べる事が重要である。
銀行金融規制ではバーゼルⅢが挙げられる。これは、普通株と内部留保から
な る 「 中 核 的 自 己 資 本 」 を リ ス ク 資 産 に 対 し て 実 質 7%以 上 保 有 す る こ と を 義
務付けたものである。なぜ、普通株と内部留保なのか。それは、業績が悪化し
30
た時普通株は配当を減らすことができ、また売却が可能であり、内部留保は過
5
去の利益の蓄積であるからである。我々は、自己資本は多ければよいというわ
け で は な く 、リ ス ク と 収 益 性 を 考 慮 し た 資 本 操 作 が 必 要 で あ り 、特 に 日 本 で は 、
安定した信用供与力と成長戦略の道筋を示す必要がある。金融危機で大きな影
響を受けた欧米諸国は金融と銀行の改革に取り組んだ。例えば、アメリカでは
5
ボルカールールが挙げられる。これは、銀行の自己資金による金融商品の購入
を禁止にすることや、未公開株やヘッジファンドへの出資を制限したものであ
る。これについて我々は、アメリカのこうした銀行規制は当然と考える。その
理 由 と し て 挙 げ ら れ る の は 、 2007 年 に 起 き た サ ブ プ ラ イ ム ロ ー ン 問 題 に あ る 。
これはリスクへの甘い見通しや証券化によって引き起こされたからである。つ
10
まり、銀行がモラルハザードを引き起こしていたのである。今後、このような
事態を発生させないためにも銀行規制は重要である。
国際金融規制改革は世界中の国々が団結して行われるべきだと考えられてい
る 。 そ れ は 2007 年 の 金 融 危 機 が 国 際 間 の 協 力 が 得 ら れ な か っ た か ら 悪 化 し た
と言われている。しかし、我々は、国際間が協力するより以前に自国内で対策
15
を講ずる事が大事だと考える。
以上が金融規制の主な動向である。
日本と欧米の異なる金融システム
20
日本と欧米では金融システムが異なる。欧米では市場型金融であり、多くの
投資家を相手に多くの金融商品を売買することでハイリスクハイリターンを実
現している。一方、日本では伝統的金融であるといえる、行政機関を中心とし
て専門的金融機関が護送船団を組むがごとく存在している。日本ではいったん
銀 行 に 集 め ら れ 、預 金 と し て 貯 蓄 さ れ る が 、こ れ は 流 動 性 を 生 ま な い 。つ ま り 、
25
リスクが集中しやすいといえる。だがその一方で銀行は準公共財であることを
求められるため、ローリスクローリターンである。
30
6
今後のプラン
リーマンショックで未曾有の事態を引き起こした一因として金融商品の証券
化が挙げられる。新たなテクノロジーと数理モデル、インターネット技術の革
新によってこの手法は可能になった。あらゆる種類の債権を組み合わされ、金
5
融商品として販売された。加えてデリバティブも証券化された。
こ う し て 金 融 商 品 の メ カ ニ ズ ム は 複 雑 化 し て い っ た 。VaR は 過 去 の デ ー タ に
基づいて計量化されたものであり、真のリスクを求めるにはかなりの知識が必
要 だ と さ れ て い る 。つ ま り 、過 去 の VaR で は 多 様 化 し た 金 融 シ ス テ ム で 発 生 す
るリスクは計り知れないということだ。データ依存と複雑な理論醸成は人に把
10
握しきれないものになっている。
我 々 は 、マ ク ロ VaR を 早 急 に 導 入 す べ き だ と 考 え る 。利 点 は ミ ク ロ 的 観 点 か
ら把握できえなかった損失率の経済成長率や経済レバレッジへの連動をも測る
こ と で あ る 。さ ら に 、マ ク ロ VaR を 用 い て 分 析 を 進 め る と 国 に よ っ て そ の 連 動
性が異なることも発見できる。よって異なる金融システムを一律の規則で縛っ
15
ていいのかという批判を正当化することもできる。
次にストレステストの実施である。現状のリスクマネジメントにおいても採
用されているが実施率を高めること、目的を意識した効果的なストレステスト
を行うことが必要であると考える。
以上のことから、我々はリスクマネジメントについて今後、より精度の高い
20
金融リスクを判断できるモデルを構築すべきだと考える。
25
30
7
参考文献
書籍
小 野 覚 (2002)『 金 融 リ ス ク マ ネ ジ メ ン ト 』 東 洋 経 済 新 報 社
菅 野 正 泰 (2010)『 入 門 金 融 リ ス ク 資 本 と 統 合 リ ス ク 管 理 』 社 団 法 人 金 融 財 政 事
5
情研究会
キ ー ス ・ カ ッ ト バ ー ト ソ ン 、 ダ ー ク ・ ニ ッ チ ェ (2010)『 フ ァ イ ナ ン ス の 基 礎 理
論 :株 式 ・ 債 券 ・ 外 国 為 替 』 慶 応 義 塾 大 学 出 版 会
倉 田 勲 (2010)『 金 融 リ ス ク マ ネ ジ メ ン ト
バイブル』社団法人金融財政事情研
究会
10
ジ ャ ッ ク ・ ア タ リ (2009)『 金 融 危 機 後 の 世 界 』 作 品 社
沈 徹 (2013)『 金 融 の 基 礎 』 八 千 代 出 版
西 口 健 二 (2011)『 金 融 リ ス ク 管 理 の 現 場 』 社 団 法 人 金 融 財 政 事 情 研 究 会
森 平 爽 一 郎 (2012)『 金 融 リ ス ク マ ネ ジ メ ン ト 入 門 』 日 本 経 済 出 版 所
15
参 考 ペ ー ジ ( 最 終 閲 覧 日 2013 年 5 月 31 日 )
オペレーショナルリスク管理の現状と高度化への課題
http://www.boj.or.jp/announcements/release_2013/data/ rel130213a9.pdf
環境変化への対応と市場リスク管理の課題
20
http://www.boj.or.jp/announcements/release_2012/data/rel120924a6.pdf
環境変化への対応と信用リスク管理の課題
http://www.boj.or.jp/announcements/release_2012/data/rel120924a9.pdf
全国銀行協会
https://www.zenginkyo.or.jp/
25
大和総研グループ
http://www.dir.co.jp/
東京商工リサーチ
http://www.tsr-net.co.jp/
野村證券
30
http://www.nomura.co.jp
8
モルガン・マッキンリー
http://www.morganmckinley.co.jp/ja
流動性リスクの把握と管理
http://www.boj.or.jp/announcements/release_2012/data/rel120815a5.pdf
9
Fly UP