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ロシア極東森林における大規模立ち枯れ現象と周辺環境への影響

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ロシア極東森林における大規模立ち枯れ現象と周辺環境への影響
ロシア極東森林における大規模立ち枯れ現象と周辺環境への影響に関する予備的研究
(
財)
リモート・
センシング技術センター ○上林徳久
千葉大学環境リモートセンシング研究センター 近藤昭彦
ロシア科学アカデミー生物学土壌学研究所 ユーリ・
イワノフ・マニコ
1.はじめに
カデミー研究員との共同調査を行った。現地調査は現地踏
ロシア極東の北方林南限地域(沿海地方シホテアリニ山
地等)では、エゾマツ、トドマツの純林を中心に 10∼20km
査に加えて、ヘリコプター、軽飛行機等による上空からの立
ち枯れ分布調査等も実施している。
四方に及ぶ大規模な森林立ち枯れ現象が各地に発生し、
流域によっては現在も拡大の傾向にある。この地域は、気
サマルガ川流域
候変動の影響を最も受けやすいと考えられる生態ゾーンの
境界にあり、地球温暖化による植生変動の最初のシグナル
とも考えられるこの現象の実態は明らかではない。
筆者らはロシア科学アカデミー生物学土壌学研究所の
協力を得ながら過去 10 年以上にわたり、一部の流域にお
ける大規模森林立ち枯れ現象について少しずつ調査して
きたが、その発生メカニズムについても未だ明確にはなっ
ペーヤ川流域
ていない。現状では、これまで行った一部流域における現
地調査や、その結果に基づく衛星画像判読によって、大規
図-1 調査対象地
模立ち枯れ地に隣接する場所において、大規模な森林火
災跡地が存在したり、大規模な森林伐採が進められていた
1)
りしている事実がわかっており 、これらの森林撹乱がそれ
ぞれに何らかの形で関連し、影響しあっている可能性も否
定できない。
2.2 大規模森林立ち枯れ、森林火災跡地、森林伐採地
の時空間分布の測定
森林立ち枯れ現象が顕著になった 1980 年代から現在ま
での約 20 年間に観測された衛星データとして、1983 年 10
本研究では、ロシア極東で大規模に発生している森林
月 21 日と1991 年 9 月 17 日に観測された LANDSAT-5 の
立ち枯れ現象の実態を把握するとともに、発生メカニズム
MSS デ ー タ、及 び 2002 年 9 月 7 日 に観 測 され た
解明と周辺環境への影響を評価するための基礎資料を得
LANDSAT-7の ETM+データを用いた。それぞれの可視及
ることを目的に、ロシア沿海地方における大規模な森林立
び近赤外領域のバンドを用いてカラー合成画像を作成し、
ち枯れ、森林火災跡地、森林伐採の時空間分布を現地調
この画像上で、森林撹乱が最も激しいペーヤ川流域とサマ
査とその検証結果に基づく衛星画像判読により把握するこ
ルガ川流域の2つの流域について、大規模森林立ち枯れ、
とを試みた。
森林火災跡地、森林伐採地の判読抽出を行い、その判読
領域について面積測定を行った。一連の画像処理及び解
2.材料と方法
析については画像解析ソフトENVI を使用した。また、その
2.1 調査対象地及び現地調査
分布や拡大状況及び位置関係の時空間的な変化パター
調査対象地は、ロシア極東沿海地方シホテアリニ山脈の
ンからそれぞれの関連性を推測することを試みた。
北緯46°以北に分布するエゾマツ、トドマツ等を主林木と
する常緑針葉樹林である。この森林は北方林南限であると
ともに山岳北方林としても貴重である。これらの森林の内、
3.結果と考察
大規模森林立ち枯れ地、森林伐採地、及び森林火災跡
日本海側に流れる大河川上流域に分布する森林を対象に、
地の面積経年変化測定結果をペーヤ川流域については
1994 年から1997 年の4 年間にわたり、現地のロシア科学ア
図-2 に、サマルガ川流域については図-3 に示す。また、温
暖化と各森林撹乱現象との関連について図-4 に示す。
ペーヤ川流域においては、立ち枯れと伐採がほぼ同時
が森林立ち枯れの要因として取り上げられている。2) 今後
は、北アメリカ地域の立ち枯れ現象とロシア極東及びシベリ
進行で拡大してきた。この流域では、1991 年頃までにほぼ
ア地域における立ち枯れ現象の比較分析を行い、類型化
流域全域のエゾマツ、トドマツ林が立ち枯れている。立ち枯
を含めた検討を行っていきたい。
れの要因として推測されるのは、図-4 の A-1 かあるいは
A-2、B である。
(
K
m2)
面積(
k
m2)
300
200
100
0
1983
1
1991
2
2002
3
西暦
立ち枯れ地
伐採跡地
図-4 温暖化と各森林撹乱現象との関連
図-2 立ち枯れ地と森林伐採跡地の面積変化(ペーヤ川流域)
4.おわりに
一方、サマルガ川流域においては、1983 年頃までに大
ロシア極東における大規模森林立ち枯れ現象の実態把
規模な立ち枯れと森林火災が発生していた。その後、森林
握を行い、メカニズム解明のための基礎的データの収集と
火災は比較的小規模なものが発生していった(図-4 の E)
考察を行った。いくつかの立ち枯れ現象発生要因が推定さ
が、立ち枯れは大規模に拡大しているものと思われる。立
れたが、今のところ特定には至っていない。今後継続して
ち枯れの要因として推測されるのは図-4 の A-1 かあるいは
基礎資料を収集していきたい。
C である。ただし、立ち枯れと判読された領域の中には、寿
地球温暖化が進行する中で、今後最も懸念されるのは、
命に達した過熟老齢林分が含まれている可能性もあり、こ
①温暖化や森林伐採等人為活動の影響を受け、食害虫の
の点については今後現地における検証が必要である。また、
大発生や乾燥ストレスの増大により、北方林地域において
森林伐採は立ち枯れを追うように、下流の村落に近い立ち
大規模な森林立ち枯れが次々に発生する恐れがあること、
枯れ地から進行している。(図-4 の D)
②大規模立ち枯れ地が森林火災危険地となり、森林火災
が増加する。その結果大量の二酸化炭素が大気中に放出
面積(
k
m2)
(
K
m2)
1000
され、高緯度地方の温暖化をますます促進する可能性が
800
あること、③以上の結果、北方林地域の生態系(ロシア沿海
600
地方には絶滅危惧種であるシベリアトラ等希少動植物が残
400
存する)そのものが大きく変化あるいは消滅してしまう恐れ
200
が極めて大きいことである。
0
1983
1
1991
2
2002
3
西暦
立ち枯れ地
伐採跡地
参考文献
火災跡地
図-3 立ち枯れ地、森林火災跡地、森林伐採跡地の面積変化
(サマルガ川流域)
1)N. Kamibayashi :Detection of Forest Decline in Russian
Far Eastern.International Archives of
Photogrammetry
and Remote Sensing, 1998, Vol.XXXII, Part 7.
アラスカのケナイ半島をはじめとする北アメリカの北方林
2) E.H.Holsten, R.W.Thier, A.S.Munson, and K.H.Gibson:
においては、森林火災、地球温暖化、風倒、等の複合的な
The Spruce Beetle. Forest Insect & Disease Leaflet 127,
効果による乾燥ストレスやキクイムシ等食害虫の大発生等
U.S.Department of Agriculture Forest Service, 1999
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