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第 15号
衛研ニュース 高知県衛生研究所 第15号 平成25年11月1日 マダニ(Tick)ってどんな生物? 図1:タカサゴキララマダニのメス成体。 発達した顎体部がよくわかる。 ◆ クモの仲間のうち、気門(節足動物の呼吸器官)が体の後方にあり (後気門といいます)、外皮が硬く、幼虫、若虫、成虫とすべての生活ス テージで吸血するものがマダニ(Tick)です。マダニはイエダニより大きく、 多くの種は体長1~3㎜程度です。7㎜以上の大型種もいます。頭と間違 えそうなほど大きい口吻が発達しています(顎体部)。 マダニの一生は孵化、吸血して若ダニに成長、吸血して成ダニに成長、 両性生殖により産卵というサイクルです(図2)。マダニが好む環境は湿 度があり、直射日光が当たらない野生動物がいる山林です。特に動物 が通る低い位置の草木でじっと待ちかまえ、近くを通った時に取り付き 吸血します。 マダニの種類によって寄生する動物が異なります。ヒトは野生動物の 生活圏に立ち入ったときに、野生動物の代わりに寄生、吸血されると考 えられます。湿度があれば一年くらい吸血しなくても生存するようです。 また、犬や猫にマダニが付いて人へ移ることもあります。 マダニに刺されないために ・長袖長ズボン ・虫よけスプレーを利用する ・帰宅後はお風呂に入る ・脱いだ服はすぐ洗濯に ◆ 飼いイヌやネコには ・駆除方法は獣医師に相談を ・ダニ忌避剤を利用する ・散歩したらブラシがけ 重症熱性血小板症候群 (SFTS) 図2:マダニのライフサイクル ブニヤウイルス科フレボウイルス属の重症熱性血小板減少症 候群(Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome: SFTS)ウイ ルスによる感染症でマダニが媒介するとされます。主な臨床症 状はマダニに刺されてから6~14日後に、発熱、消化器症状、頭 痛、筋肉痛、神経症状、リンパ節腫脹、出血症状(紫斑)がみら れます。血液検査で著しい血小板減少(10万個/㎜3 未満)や白血 球減少(4000個/㎜3 未満)、血清肝酵素(AST、ALT、LDH)の上昇 が認められます。致死率は10~30%とされています。 全国で26例確認され、高知県では3例(2例死亡、1例回復)が 確認されています(平成25年11月1日現在)。 図3:タカサゴチマダニ走査型電子顕微鏡写真 P.2 『クワズイモ』による食中毒が確認されました 事件の概要と症状等 平成24年度、県西部の飲食店でクワズイモによる食中毒事件の報告がありました。患 者の口の痺れ、唇や口腔内の腫れ、発赤、流涎等の症状が確認されたことと営業者への 聞き取り調査から、県内でよく食べられているハスイモ(通称リュウキュウ)と近縁種 のクワズイモを誤認し、提供したことによると断定されました。 クワズイモの自然毒による食中毒は、他県ではイモと誤認される部分による事件も報 告されています。県内では、ハスイモの葉柄部分(いわゆる「クキ」)を酢の物、味噌 汁の具、寿司ネタなどにする食文化があり、今回の食中毒では、味噌汁の具として食用 のハスイモと誤認し、クワズイモの葉柄部分を提供していました。 クワズイモには、水さらしや塩もみなどの調理の前処理では除くことが難しいシュウ 酸カルシウムが多く含まれており、一部が針状になることが知られています。この針状 物質が喫食に伴い、口腔内粘膜に突き刺ささり、炎症が発生したと考えられています。 針状のシュウ酸カルシウムを誤って大量摂取してしまうと粘膜の浮腫により呼吸困難 を起し、死に至ることもあります。 通常、喫食中、すぐに異変を感じます ので、直ちに吐き出し、口を洗浄した後、 医療機関の受診をお勧めします。 物理的刺激による炎症であり、通常の 加熱調理によって毒性(形状に由来する もの)がなくなることはありません。 図1 :クワズイモの自然群落 全国での発生状況 (写真提供/高知県立牧野植物園) クワズイモによる食中毒は平成14年度以降では県内で初めての報告ですが、全国で散 発的に発生しており、厚生労働省の統計によると平成14年からの10年間で8件、患者数 49人と報告されています。いずれの事件でもサトイモ、ハスイモとの誤認やこれらとク ワズイモの混植による誤認により発生しています。 図2 :クワズイモ葉柄部断面の例 図3 :ハスイモ葉柄部断面の例 (搬入試料) (対照試料) P.3 クワズイモ中のシュウ酸カルシウム 図4:クワズイモ中針状物質 図5:透過処理後の防御的束晶細胞 (走査型電子顕微鏡画像) (光学顕微鏡画像) クワズイモの葉柄から切片を作り電子顕微鏡で検鏡した結果、先のとがった針状物 質が確認されました。今回は針の長さは50μm(0.05mm)程度のものが多かったようです (図4) 。 一部のシュウ酸カルシウムは袋状の細胞に入っており、防御的束晶細胞と呼ばれて います。植物の色素成分などを分解し、観察しやすくするためにアルカリ溶液で透過 処理を行い、光学顕微鏡で検鏡した束晶細胞を図5に示しました。袋の中に針状物質が たくさん集まっていることが確認できました。 対策について 食用のサトイモやハスイモと今回のクワズイモは同じサトイモ科に属するため、葉や葉柄(い わゆる「クキ」)は非常によく似ています。クワズイモの葉先は急に鋭尖形になるとされています が、一般の人が正確に区別することは難しい場合もあるようです。クワズイモは県内の一部市 町村で天然種が自生していることが報告されていますし、庭や家庭菜園などに廃棄された観 葉植物由来のクワズイモが増殖している場合もあります。 このため、予防的措置としてサトイモ(図6)やハスイモ(図7)とクワズイモ(図8)を同じ場所で 栽培しないこと、はっきりと安全が確認できない場合は調理に使用しない等の注意が必要です。 図6 :サトイモ 図7:ハスイモ (写真提供/高知県農業技術センター) 図8:クワズイモ (写真提供/管轄福祉保健所) P.4 衛研ニュース 第15号 2013.11 日本紅斑熱(Japanese spotted fever) マダニが媒介する紅斑熱群リケッチアの一種 Rickettsia japonicaに感染して発症する熱性発疹症です。 ダニに刺されてから2〜8日して頭痛、発熱、倦怠感、発疹(四肢末端部に多い) CRP の上昇、血清肝酵 素(AST 、ALT)の上昇、白血球減少および血小板減少、重症化するとショック症状(DIC)や電撃性紫斑病を 発症します。「発熱」、「発疹」、「ダニの刺し口」は日本紅斑熱の主要三徴候で、ほとんどの症例で認められ ています。野山や草むらに入って数日後にこれらの症状が現れたら、出来るだけ早く医療機関を受診して ください。 高知県は日本紅斑熱が多数報告されています(グラフ1)。患者の発生は県東部に多かったのですが、 県中央部にも拡大してきていますので、農作業やレジャーなどに出かけるときにはマダニ対策をとるように しましょう。 患者数(人) 16 14 12 10 8 6 4 2 0 福祉保健所 幡多 須崎 中央西 高知市 年次 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 安芸 グラフ1 : 年間報告患者数 近年流行しているエンテロウイルス エンテロウイルスとはピコルナウイルス科エンテロウイルス属に分類されるポリオ、コクサッキーA、コク サッキーB、エコー、エンテロウイルス71など多数のRNAウイルスの総称です。直径約30nmの正二十面体 のウイルス粒子で、酸に強く、消化管で増殖、便から経口感染します。ウイルスは消化管のみならずさまざ まな臓器で増殖し、症状も多様です。よく知られている病気としてはポリオ(急性灰白髄炎)、ヘルパンギー ナ、手足口病などがあります。 下の表1のように平成25年はコクサッキーA8、B5とエンテロウイルス71が手足口病やヘルパンギーナな どから検出されています。 エンテロウイルスは一度治っても違う血清型のウイルスに感染してもう一度発症する可能性があります ので注意が必要です。 感染性胃腸炎 Coxsackievirus A8 Coxsackievirus B5 手足口病 1 8 ヘルパンギーナ 無菌性髄膜炎 11 1 Enterovirus 71 10 2 4 1 その他 6 2 表1 エンテロウイルスの主な分離数 発行・編集 高知県衛生研究所 〒780-0850 高知市丸ノ内2丁目4-1 TEL 088(821)4960 FAX 088(872)6324 Email [email protected] http://www.pref.kochi.lg.jp/soshiki/130120/