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Na-Ru-O 系化合物の結晶構造と磁性 独立行政法人 産業技術総合研究所 ユビキタスエネルギー研究部門 鹿野 昌弘∗ 1994 年、前野らにより、Ru 系層状ペロフス 晩撹拌後濾過することで得ることができる。 カイト(K2 NiF 4 )型酸化物 Sr2 RuO4 の超伝導転 Na2 RuO4 を長時間焼成すると、針状の単結晶 移が報告された 1)。一方、歪んだペロフスカイ が成長するので、それを用いた結晶構造解析が ト型(GdFeO3 型)化合物の SrRuO3 や CaRuO3 可能である。Fig.2 は、Na2 RuO4 における Ru イ が、高い金属的な導電性を示しながら局在磁気 オンと酸化物イオンの配列を模式的に示したも モーメント持つことは良く知られている 2,3)。低 のである。頂点共有した二種類の RuO5 三方両 温での磁気的な挙動など、Ru 系の複合酸化物は、錐体が、擬一次元鎖状構造をとった新規な構造 強相関電子系の物理を研究する上で、重要な対 であることが分かる。Fig.3 は、Na2 RuO4 の磁化 象として注目されている物質群である。最近、 率の温度依存性を示したものである。一次元的 著者らのグループは、Na-Ru-O 系の新規な化合 な構造を反映したブロードなピークが 74 K に 物である Na2 RuO4 、NaRuO2 、NaxRuO2 ・yH2 O の 観測される。しかし、37 K の近傍に変曲点が存 合成に成功した 4,5)。本講演では、それらの物質 在し、これ以下の温度領域では 3 次元的な磁気 の結晶構造と磁性を中心に関連物質を交えなが 秩序の存在が予想される。比熱測定においても、 ら解説する。 37 K 近傍での相転移の存在が確認されている。 Na2O2 Na2O Fig.4(a)は、NaRuO2 の粉末 X 線回折パターンを Na 2RuO4 示している。Rietveld 解析の結果、NaRuO2 は、 Na3RuO4 Na2 RuO 3 空間群 R-3m で示される NaFeO2 型構造を持つ物 NaRuO2 (Ru 6+ ) NaRuO3 質であることがわかった(Fig.5(a))。NaRuO2 は、 NaRu2O4 “Ru2 O5 ” (Ru 5+) (RuO2 ) 2 (Ru4+ ) O6 “Ru2O3 ” O8 (Ru 3+) Ru2 O7 Fig.1 Phase diagram of ternary Na-Ru-O system6). O4 O8 O4 O6 O8 O7 Ru2 Ru2 O7 O8 χM / 10-3 emu•mol-1 O6 O4 Fig.1 は、今までに報告されている Na-Ru 系 酸化物の相図である。“Ru2 O3 ”と“Ru2 O5 ” O3 O5 O3 O2 は、この図を作成するための「仮想的な」化 O2 Ru1 O1 O1 Ru1 Ru1 O1 合物として示してある。さらに、試料合成の O2 O2 O5 O3 際、必要な出発原料として、Na2 O2 も付加して O5 ある。既知の化合物では、Ru イオンの価数は Fig.2 Tilting of the corner sharing RuO5 +3 と+4 の混合状態から+5 の間に収まってお bipyramids 4). (© 2004 American Chemical Society) り、今回報告する NaRuO2 では+3、Na2 RuO4 3.0 では+6 と、非常に特異な価数を Ru イオンが T max ~ 74 K 2.5 示していることが分かる。 Na2 RuO4 は、RuO2 と Na2 O2(または Na2 CO3 ) 2.0 37 K を混合後、Au ボートに載せ、酸素気流中で 900 Inflection temparature 1.5 K、12 時間焼成することで合成した。NaRuO2 1.0 は、Na2 RuO4 と Ru 金属粉を混合後 Au チュー ブに Ar 封入し、1173 K で 12 時間さらに 1273 0.5 K で 120 時間焼成することで合成した。 0 Na2 RuO4 は吸湿性が高く大気中で不安定な物 0 50 100 150 200 250 300 350 T/K 質なので、秤量や混合等の操作は、全て Ar ガ スで満たされたドライボックスの中で行った。 Fig.3 Temperature dependence of magnetic susceptibility for Na 2 RuO4 4). (© 2004 American Chemical NaxRuO2 ・yH2 O は、NaRuO2 を蒸留水に入れ一 Society) ∗ 〒563-8577 大阪府池田市緑丘 1-8-31、e-mail: [email protected] χM / 10-3 emu•mol-1 x 2 0 115, 110 113 1 013 116 009 107 018 110 113 101 0 0 012 1010 01 11 107 01800 12 104 015 006 006 2 101 012 009 104 015 101 012 003 003 log (Intensity/arbitrary unit) Table 1. Curie-Weiss parameters for NaRuO2 and 大気中で不安定な物質であり、シリカゲルで乾 燥させたデシケーター内に一晩保存しただけで、 Na 0.22 RuO2 ・0.45H2 O C / emu K mol-1 θ / K χ0 / emu mol-1 Fig.4(b)において「*」で示したような第二相を NaRuO 2 0.0115(2) -6.0(2) 5.07(2) x 10 -4 生じさせてしまう。この第二相は、Fig.4(c)で示 Na0.22 RuO2·0.45H2 O 0.0117(2) -2.2(1) 3.43(4) x 10 -4 す NaxRuO2 ・yH2 O であることが明らかになって いる。NaRuO2 を合成する際、長時間の焼成に 示 し た よ う な 構 造 で あ る こ と が 分 か っ た 。 より、平板上の単結晶が成長する。NaxRuO2 ・ NaRuO2 の酸化物イオンの配列は、Fig.5(a)のよ yH2 O については、この平板状の単結晶を用いて うに abca という積層で表せる。一方、NaxRuO2 ・ 構造解析が可能であり、その結果、Fig.5(b) で yH2 O の積層は、abbcca で表すことができる。 高田ら 8,9) により報告された Co 系超伝導体 (a) Na0.3 RuO2 ・0.6H2 O では、水分子層が二層あり、 Al abba で酸化物イオンの積層を表現できる。母結 晶の構造がともに NaFeO2 型である物質が、室 (b) 温でのインタカレーション反応にもかかわらず、 * Al * そのイオン種や水分子層の数により酸化物イオ ンの積層を劇的に変化させている点は興味深い。 (c) Fig.6 に NaRuO2 および Na0.22RuO2 ・0.45H2 O に Al ついて、磁化率の温度依存性を示した。いずれ の物質も温度に依存しない項を含んだキュリ 10 20 30 40 50 60 70 CuKa 2θ / ° ー・ワイス則(χM = C/(T-θ)+χ0 )でフィッティ ングが可能である(Table 1)。Ru3+(4d5 )で期待 Fig.4 XRD profiles of (a) NaRuO2 (as sintered), (b) NaRuO2 (after 1 night in air), and (c) Na xRuO2 ・ される磁気モーメントと比較して、キュリー定 yH2 O5). The scale of the intensity is logarithmic to 数 C は非常に小さい。低い導電性と小さなワイ enhance the weak peaks. (© 2004 American Chemical ス温度θから、スピンがクラスター状の構造を持 Society) b つなど検討すべきモデルが考えられるが、その a 詳 細 は 不 明 で あ る 。 ま た 、 NaRuO2 お よ び a a Na0.22RuO2 ・0.45H2 O でキュリー定数の変化が小 c c さいことから、H2 O はむしろ H3 O+として存在し b c a ている可能性もある 9)。 b c Ru が示す多様な原子価により、Na-Ru 系酸化 b b a a 物で新規な物質を発見した。これらの物質につ c Na, H2O Na いては未知な部分が多く、磁性を含めより詳細 a b RuO RuO 2 2 c a な検討が必要と思われる。 (a) NaRuO (b) Na RuO •yH O 本研究の遂行にあたり、フランス国立科学研 Fig.5 Schematic representation of crystal 究センターICMCB の J. Darriet 博士に貴重なご structure for (a) NaRuO2 and (b) Na x RuO2 •yH2 O 5) 意見をいただいたことに感謝致しております。 . (© 2004 American Chemical Society) References 3 1) Y. Maeno et al., Nature 372, 532 (1994) 2) A Callaghan et al., Inorg. Chem. 5, 1572 (1966) 3) R. J. Bouchard and J. L. Gillson, Mater. Res. Bull. 2 7, 873 (1972). 4) M. Shikano et al., Inorg. Chem. 43, 1214 (2004). 5) M. Shikano et al., Inorg. Chem. 43, 5 (2004). 1 6) J. Darriet and A. Vidal, Comptes Rendus de l' NaRuO2 Academie des Sciences Serie IIc: Chemie 277, 1235 (1973). etc. Na 0.22 RuO2 •0.45H2 O 7) V. Petricek and M. Dusek, (2000). Jana2000. The 00 50 100 150 200 250 300 350 crystallographic computing system. Institute of T /K Physics, Praha, Czech Republic. Fig.6 Temperature dependences of molar magnetic 8) K. Takada et al., Nature 422, 53 (2003). susceptibility for NaRuO2 ( ○ ) and Na 0.22RuO2 ・ 9) K. Takada et al., J. Mater. Chem. 14, 1448 0.45H2 O (▲). (© 2004 American Chemical Society) (2004). 2