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引抜き型釘接合における腐朽と釘発錆の定量評価

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引抜き型釘接合における腐朽と釘発錆の定量評価
引抜き型釘接合における腐朽と釘発錆の定量評価
北海道大学
大学院農学院
環境資源学専攻
高梨
修士課程
隆也
目次
1 . 序論 ...................................................................................................................................... 1
2 . 実験方法 .............................................................................................................................. 2
2-1 . 試験体..................................................................................................................... 2
2-2 . 使用した釘および釘打ち込み方法 ..................................................................... 4
2-3 . 強制腐朽処理......................................................................................................... 5
2-4 . 釘引抜き試験......................................................................................................... 7
2-5 腐朽程度の測定 ........................................................................................................ 8
2-5-1 . ピロディンによる試験体の腐朽程度の測定........................................ 8
2-5-2 . レジストグラフによる試験体の腐朽程度の測定................................ 9
2-5-3 . 試験体密度の測定 ................................................................................. 10
2-6 . 釘発錆の定量評価 ............................................................................................... 11
2-6-1 . 釘胴部径の測定 ..................................................................................... 12
2-6-2 . 釘表面粗さの測定 ................................................................................. 13
2-6-3 . 釘重量の測定 ......................................................................................... 13
3 . 結果と考察 ........................................................................................................................ 14
3-1 . 釘引抜き抵抗力 ................................................................................................... 14
3-2 . 腐朽程度............................................................................................................... 17
3-2-1 . ピロディンによるピン打ち込み深さ ................................................. 17
3-2-2 . レジストグラフによる平均穿孔抵抗値.............................................. 19
3-2-3 . 質量減少率 ............................................................................................. 21
3-3 . 釘発錆程度........................................................................................................... 23
3-3-1 . 釘胴部径 ................................................................................................. 23
3-3-2 . 釘表面粗さ ............................................................................................. 24
3-3-3 . 釘重量 ..................................................................................................... 25
3-4 . 引抜き抵抗力と各種腐朽・発錆指標の関係 ................................................... 26
3-4-1 . ピン打ち込み深さ ................................................................................. 26
3-4-2 . 平均穿孔抵抗値 ..................................................................................... 27
3-4-3 . 質量減少率 ............................................................................................. 28
3-4-4 . 釘発錆指標 ............................................................................................. 29
3-5 . 基準腐朽度の算出 ................................................................................................... 32
4 . 結論 .................................................................................................................................... 37
参考文献 ..................................................................................................................................... 39
付録 ............................................................................................................................................. 41
1. 序論
循環型社会の形成、環境負荷の低減、国民の住宅建て替え費用負担の軽減という観点から、
住宅の長寿命化が社会における大きなニーズとなっている。2006 年施行の住生活基本法 [1]
では基本理念の一つとして「良質な住宅ストックの形成および将来世代への継承」が掲げら
れ、その理念は 2009 年施行の長期優良住宅法 [2]によってさらに具体化・制度化が進んでい
る。
長期間の使用を考慮する場合、腐朽劣化の影響を受ける可能性を考える必要がある。また、
現在の工法では防腐処理剤の使用や防湿処理などの、設計、材料、工法に関する建物の耐久
性への配慮が行われているが、既存の住宅ではそのような配慮が十分になされていないもの
もあり、実際に構造上重要な部分に腐朽の発生が確認されている例もある [3]。腐朽劣化は耐
震性などの構造安全性を損なうおそれがあり、必要に応じて補修・改修を実施することが求
められる。その時、劣化程度に対する残存耐力の推定が可能であれば、合理的な補修・改修
が可能となると考えられる。また、接合部での腐朽劣化は大きな耐力低下をもたらし、構造
物全体へ影響を与えることが考えられるため、接合部での腐朽とそれに伴う耐力低下を評価
することは重要である。
接合部に関する木材腐朽と強度の関係は、ドリフトピン接合部 [4]やせん断型釘接合部
[5-7]で研究が行われてきた。以前の研究 [8]では引抜き型釘接合部に注目して、引抜き抵抗力
への腐朽劣化の影響を評価し、腐朽劣化と釘発錆の両方の影響が考えられるという結論を得
た。しかし、その定量的な評価を行うには至っていない。
そこで本研究では、引き続き引抜き型接合部に注目し、腐朽劣化と釘発錆が釘接合部の引
抜き抵抗力へ及ぼす影響を定量的に評価することを目的とした。
1
2. 実験方法
2-1. 試験体
試験体形状を図1に示す。試験体には 105×105 mm の正角材から切り出した、寸法が(幅) 30
×(高さ) 50×(長さ) 90 mm のトドマツ(Abies sachalinensis)を用いた。釘の打ち込み方向は放射
方向(R 試験体)と接線方向(T 試験体)とし、腐朽処理を施す試験体とコントロール試験体を 1
対ずつエンドマッチさせた。R 試験体は 9 本、T 試験体は 10 本の正角材から切り出した。釘
打ち込み時の試験体は気乾状態であった。釘打ち込み時の試験体の密度を付表 1 に示す。釘
打ち込み後 48 時間経過後に、釘周辺部の腐朽を効果的に誘導することを目的として、釘から
繊維方向に両側 20 mm 離れたところに径 2.8 mm の穴(誘導孔)を貫通させた (図 2)。腐朽菌糸
の伸長速度は木材の繊維方向への伸長が速いため、誘導孔から侵入した菌糸は繊維に沿って
釘打ち込み近縁部に到達し、釘周辺の局所的な腐朽が発生する。この方法は以前の研究 [8]
で用いて効果が確認された方法である。誘導孔の切削後、直ちに試験体に浸水処理を施した。
常温で水道水に 2 週間浸水させたのち 1 週間の風乾処理を施した。その後、誘導孔と釘打ち
込み部周辺に溶液(グルコース 4.0%、麦芽エキス 1.5%、ペプトン 0.3%)を浸み込ませた後に強
制腐朽処理を施した。
2
図 1 試験体形状図
20
Φ2.8
図 2 誘導孔設置位置
3
2-2. 使用した釘および釘打ち込み方法
使用した釘は鉄製である CN65 釘であり、アセトンを用いて釘に施されている塗装を落と
した後、試験体に打ち込んだ。CN65 釘の公称寸法を表 1 に示す。釘は試験体中央に打ち込み
深さ 48 mm を目安にして、先穴を開けずに手打ちで打ち込んだ。
表 1 CN65 釘の公称寸法
長さ [mm]
胴部径 [mm]
頭部径 [mm]
63.5
3.33
7.14
4
2-3. 強制腐朽処理
腐朽処理は JIS Z2101 [9]を参考にして行い、腐朽菌には褐色腐朽菌オオウズラタケ
(Fomitopsis palustris)を用いた。ポリプロピレン製容器内に石英砂とプラスチックネットを敷
き培養液(グルコース 4.0%、麦芽エキス 1.5%、ペプトン 0.3%)を入れた後、高温高圧滅菌処理
(121℃15 分)を施し、これを培地として腐朽菌を接種した。6 日間の培養後、高温高圧滅菌処
理(121℃15 分)を施した試験体を、木材から露出している釘上部がすべて培地に埋まり、プラ
スチックネットに試験体材面が接するように静置した。試験体を静置した容器はビニールで
覆いを施したアルミラック内に置いた。アルミラックは温度管理が施された密室内におかれ、
室内では加湿器を連続稼働させ高湿度を保ったうえ、試験体が入れられた容器に蛍光灯の光
を連続照射し所定の期間腐朽処理を施した。光の照射は腐朽を促進するとされている [10]。
アルミラック内の温湿度を 30 分に 1 回の間隔で計測した。全期間の温湿度を図 3 に示す。平
均温湿度は 26.6℃、83.5%RH であり、標準偏差は 0.5℃、3.5%であった。腐朽菌が木材を腐
朽させるのに適した環境が安定して維持されたと考えられる。腐朽処理期間は 30、60、90、
120 日であり、各腐朽期間に対しての試験体数は R 試験体、T 試験体ともに 15 体であった。
釘打ち込み後の応力緩和の影響を除くため、コントロール試験体にはエンドマッチさせた
腐朽試験体と同時期に釘を打ち込み、釘打ち込みから引抜きまでの期間が同一となるように
した。また、その期間中の環境が腐朽試験体と同一になるように、コントロール試験体も石
英砂とプラスチックネットを敷き、水位が腐朽試験体の容器と同等になるよう純水を入れた
容器に腐朽試験体と同様に静置した。コントロール試験体が入った容器も腐朽試験体が入っ
た容器が置かれているアルミラックと同等の棚に置き、同じ密室内においた。
5
100
[°C] [%RH]
80
温度
60
相対湿度
40
20
0
0
50
100
図 3 腐朽処理期間中の処理環境の温湿度
6
150
2-4. 釘引抜き試験
腐朽処理が終了した試験体は培地から取り出して水洗し付着した菌糸を除去した後、コン
トロール試験体とともに 2 週間の浸水処理を施した。釘引抜き抵抗力は含水率の影響を受け
る。繊維飽和点(FSP)以下では含水率の増加に伴い引抜き抵抗力は変化し、FSP 以上では釘引
抜き抵抗力は均一になる [11]。腐朽が進んだ試験体では乾燥によって割れが生じる可能性が
あったため、本実験では試験体の含水率をすべて FSP 以上になるようにし、含水率が引抜き
抵抗力に及ぼす影響を排除した。
浸水処理が終了した後、直ちに引抜き試験を行った。引抜き試験は油圧試験機(東京衡機製)
を用いて、単調加力方式で行った。引抜き変位はクロスヘッドの移動量とした。
7
2-5腐朽程度の測定
2-5-1. ピロディンによる試験体の腐朽程度の測定
引抜き試験終了後にピロディン(6J)を用いて試験体のピン打ち込み深さを測定した。ピロデ
ィンは一定のエネルギーでピンを打ち込み、その貫入深さから木材の密度、強度、腐朽程度
を推測するために使われる測定機器である。操作が非常に簡単で、立木の容積密度推定 [12]
や、住宅に使用されている木材の劣化診断に使用されており [13]、接合部腐朽の腐朽程度の
評価でも使用例がある [6]。測定値は 6J のエネルギーに対して 0 から 40 mm の間で計測され
る。ピン打ち込み方向は R 試験体では放射方向、T 試験体では接線方向であり、図 4 で示さ
れる 2 箇所で測定を行った。測定値は目視で読み取った。測定値は 40 mm を超えると測定不
能となるため、測定値が 40 mm を超えた測定についてはすべて結果を 40 mm とした。2 箇所
での測定値の平均をその試験体のピン打ち込み深さとした。
誘導孔
ピン打ち込み深さ計測位置
穿孔抵抗値計測位置
図 4 腐朽指標測定位置
8
2-5-2. レジストグラフによる試験体の腐朽程度の測定
ピロディンによるピン打ち込み深さ測定の後、レジストグラフ(IML 社製 IML RESI F500)
を用いて試験体の腐朽程度を測定した。
レジストグラフは先端径が 3 mm の細いニードルを対象物にねじ込む際に、ニードルが受
ける回転方向の抵抗(穿孔抵抗)を測定する器具で、樹幹内部の空洞や木製電柱の劣化検出、材
内密度の推定等に利用されている [14]。本実験で使用した器具では 0.1 mm 毎の穿孔抵抗を記
録できる。著しい腐朽が生じた試験体ではピロディンによる測定で大きな損傷が発生したた
め、測定箇所は釘打ち込み部近縁の最大 2 箇所とした (図 4)。測定方向はピロディンでの測
定と同様に、釘打ち込み方向と同一の方向とし、抵抗検出から 10 mm 進んだ箇所から、抵抗
検出終了までの穿孔抵抗値の平均を取った。2 箇所で測定した試験体ではその平均、1 箇所で
測定した試験体ではその測定値をそのまま試験体の平均穿孔抵抗値とした。
9
2-5-3. 試験体密度の測定
レジストグラフによる測定が終了した後、試験体に絶乾処理を施し、試験終了後の試験体
密度を測定した。この時、腐朽試験体では腐朽劣化の影響で変形し、寸法を適切に測定する
ことができないため、密度算出時に使用した寸法は釘打ち込み前の気乾状態での寸法を使用
した。すべての試験体でこの方法を用いて試験体密度を測定し、同時に試験時の含水率の算
出も行った。
10
2-6. 釘発錆の定量評価
本実験で試験体がおかれた環境は多湿環境であり、鉄製釘である CN65 釘は発錆すると考え
られた。釘の引抜き抵抗力は木材と釘の摩擦によって生じるものであり、錆の影響を受ける
[15]。発錆による釘径の増加と釘表面の凹凸が大きくなることで見かけの摩擦力が上がり、引
抜き抵抗力が増加するとされ [16]、本実験でも発錆による引抜き抵抗力への影響があると考
えられた。そこで、釘発錆の程度を定量的に評価するために、釘胴部径の測定、釘表面粗さ
の測定、釘重量の測定を打ち込み前と引抜き後に行った。
11
2-6-1. 釘胴部径の測定
釘打ち込み前と釘引抜き後にマイクロメーターを用いて釘胴部径を測定した。釘打ち込み
前の測定では、上部、中間部、下部の 3 箇所で測定を行い、その平均値を釘胴部径とした。
引抜き後の測定では上部、中間部、下部の 3 箇所での測定を直交方向にそれぞれ 1 回ずつ行
い、計 6 箇所での測定値の平均を釘胴部径とした。釘を木材に打ち込むと図 5 のような割れ
が生じる。A-A’方向では釘と木材が接しているので、釘に発生した錆が釘の引き抜けに伴っ
て剥離した。この剥離によって A-A’と B-B’間で釘胴部径に差が生じたため、上記の測定方法
で行った。
図 5 釘打ち込み時の木材の割れと釘胴部径測定方向
12
2-6-2. 釘表面粗さの測定
釘打ち込み前と釘引抜き後にレーザー顕微鏡(キーエンス社製 VK-9500)を用いて釘胴部の
表面粗さを測定した。引抜き後の釘ではさびが多く残っている箇所で測定した。レンズ倍率
は 10 倍で、横方向の測定ピッチは 1.383 m、高さ方向の測定ピッチは 1.0 m であった。釘
長軸方向に 1024 ピクセル分の高さを計測し、解析ソフトウェア(キーエンス社製 VK-H1A9)
を用いて線粗さ [17]を測定した。線粗さの定義式は
1
𝑙
𝑅𝑎 = 𝑙 ∫0 |𝑓(𝑥)|𝑑𝑥
(1)
である。ここで、l は測定長さ、f(x)は平均高さを 0 とした粗さ曲線である。粗さ曲線はハイ
パスフィルターを適用して測定曲線から得る。このハイパスフィルターで使用したカットオ
フ値は 0.8 mm とした。
2-6-3. 釘重量の測定
釘打ち込み前と釘引抜き後に電子天秤を用いて釘の重量を測定した。
13
3. 結果と考察
3-1. 釘引抜き抵抗力
図 6 にコントロール試験体と腐朽試験体の一般的な P-曲線を示す。本研究では釘引抜き抵
抗力を
𝑃𝑤 =
𝑃𝑚𝑎𝑥
𝑙
(2)
と定義した。ここで、Pmax は最大荷重、l は引抜き長さである。
コントロール試験体と腐朽試験体の P-曲線の形に違いはみられなかった。
付表 1 に全試験体の Pw を示す。また、図 7 に各腐朽期間に対する Pw、腐朽期間毎の平均
値、腐朽期間 0 日での信頼水準 75%の 95%下側許容限界値(5%下限値)、表 2 に腐朽期間毎の
Pw の平均値と標準偏差、腐朽期間 0 日での 5%下限値を示す。ここで、腐朽期間 0 日でのデ
ータはコントロール試験体のデータである。腐朽試験体 1 体ずつにエンドマッチさせたため、
R 試験体、T 試験体ともにコントロール試験体は 60 体であった。また、5%下限値は試験デー
タをパラメトリック仮定とし次の式から算出したものである。
𝑇𝐿𝛼,𝛽 = 𝑋̅ − 𝐾𝑠
(3)
ここで、TL, は信頼水準%の%下側許容限界値、𝑋̅は標本平均、K は信頼限界係数、s は標
本標準偏差である。K は、の値と試験体数(n)によって決まる値で、本実験では=75、=95、
コントロール試験体の試験体数は 60 体であったため、K=1.795 であった [18]。5%下限値は R
試験体で 10.3 [N/mm]、T 試験体で 9.82 [N/mm]であった。
すべての腐朽期間で R 試験体、T 試験体ともに Pw のばらつきが大きかった。平均値で比較
すると R 試験体では 60 日、T 試験体では 30 日で最大の値を示し、その後は腐朽期間が長く
なるにしたがって Pw は低下した。腐朽期間が長い試験体では腐朽が進んだ試験体が増え、平
14
均値を引き下げていると考えられる。
1000
コントロール
P [N]
800
腐朽
600
400
200
0
0
10
20
30
40
50
[mm]
図 6 代表的なコントロール試験体と腐朽試験体の釘引抜き時の荷重-変位曲線
40.0
R 試験体
T 試験体
Pw [N/mm]
30.0
20.0
10.0
平均
平均
5%下限値
5%下限値
0.0
0 30 60 90 120
0 30 60 90 120
腐朽期間 [ 日 ]
図 7 腐朽期間毎の引抜き抵抗力
Pw: 引抜き抵抗力 [N/mm]
15
表 2 腐朽期間毎の平均引抜き抵抗力、標準偏差とコントロール試験体の引抜き抵抗力の 5%下限
値
試験体タイプ
R 試験体
T 試験体
腐朽期間 [日]
平均 Pw [N/mm]
標準偏差 [N/mm]
5%下限値 [N/mm]
0
18.9
4.80
10.3
30
22.0
2.85
60
22.2
5.14
90
18.9
5.60
120
15.6
7.18
0
19.7
5.53
30
22.4
3.30
60
20.7
4.15
90
14.7
5.39
120
10.7
6.42
Pw: 釘引抜き抵抗力 [N/mm]
16
9.82
3-2. 腐朽程度
3-2-1. ピロディンによるピン打ち込み深さ
付表 1 に全試験体のピン打ち込み深さ(Dp)、図 8 に腐朽期間毎の Dp を示す。腐朽期間 0 日
でのデータはコントロール試験体のデータである。図 9 ではコントロール試験体の Dp に対す
る腐朽試験体の Dp の比を腐朽期間毎に示す。平均値の比較ではどちらのタイプの試験体も腐
朽期間が長くなるにしたがって Dp は増加し、腐朽を受けた試験体が増加したと考えられる。
また、Dp のばらつきは大きくなっており、腐朽期間が長くなるにしたがって試験体毎の腐朽
程度の差が大きくなったと考えられる。
40
R 試験体
T 試験体
Dp [mm]
30
20
10
平均
平均
0
0 30 60 90 120
0 30 60 90 120
腐朽期間 [ 日 ]
図 8 腐朽期間毎のピン打ち込み深さ
Dp: ピン打ち込み深さ [mm]
17
3
R 試験体
T 試験体
平均
平均
Dpd/Dpo
2
1
0
30
60
90 120
30 60 90 120
腐朽期間 [ 日 ]
図 9 腐朽期間毎のピン打ち込み深さのコントロール比
Dpd: 腐朽試験体のピン打ち込み深さ [mm]
Dpo: コントロール試験体のピン打ち込み深さ [mm]
18
3-2-2. レジストグラフによる平均穿孔抵抗値
図 10 に代表的なコントロール試験体と腐朽試験体の穿孔抵抗曲線、付表 1 に全試験体の平
均穿孔抵抗値(Ravg)、図 11 に腐朽期間毎の Ravg を示す。腐朽期間 0 日でのデータはコントロー
ル試験体のデータである。図 12 にはコントロール試験体の Ravg に対する腐朽試験体の Ravg の
比を腐朽期間毎に示す。平均値の比較では腐朽期間が 90 あるいは 120 日の試験体で Ravg が著
しく小さくなり、この腐朽期間の試験体からは腐朽による平均穿孔抵抗値の減少が確認され
た。
穿孔抵抗値 [%]
30
20
10
コントロール
腐朽
0
0
図 10
10
20
30
穿孔長さ [mm]
代表的なコントロール試験体と腐朽試験体の穿孔抵抗曲線
19
40
50
30.0
Ravg [%]
20.0
10.0
平均
平均
R 試験体
T 試験体
0.0
0 30 60 90 120
0 30 60 90 120
腐朽期間 [ 日 ]
図 11 腐朽期間毎の平均穿孔抵抗値
Ravg: 平均穿孔抵抗値 [%]
3
R 試験体
平均
2
Ravgd/Ravgo
T 試験体
平均
1
0
30
60
90 120
30 60 90 120
腐朽期間 [ 日 ]
図 12 腐朽期間毎の平均穿孔抵抗値のコントロール比
Ravgd: 腐朽試験体の平均穿孔抵抗値 [%]
Ravgo: コントロール試験体の平均穿孔抵抗値 [%]
20
3-2-3. 質量減少率
試験終了時の試験体の絶乾密度を用いて以下の式から求める値を腐朽試験体の質量減少率
とした。
質量減少率 [%] =
コントロール試験体の密度−腐朽試験体の密度
コントロール試験体の密度
× 100
(4)
付表 1 に全試験体の試験終了時の絶乾密度、図 13 に腐朽期間毎の質量減少率を示す。腐朽期
間が長くなるにしたがって質量減少率は増加した。腐朽を受けた試験体が増加していったと
考えらえる。また、図 14 に質量減少率を縦軸に、腐朽試験体のピン打ち込み深さおよび平均
穿孔抵抗値を横軸においたグラフを示す。質量減少率はピン打ち込み深さおよび平均穿孔抵
抗値と比較的高い相関関係を持ち、特に R 試験体のピン打ち込み深さと高い決定係数を示し
た。ピン打ち込み深さと腐朽材のピン打ち込み深さの関係は過去に研究例 [19]があることか
らも、ピン打ち込み深さおよび平均穿孔抵抗値から質量減少率を推定することは可能である
と考えられる。
質量減少率 [%]
60.0
R 試験体
平均
T 試験体
平均
40.0
20.0
0.0
-20.0
30 60 90 120
30 60 90 120
腐朽期間 [ 日 ]
図 13 腐朽期間毎の質量減少率
21
質量減少率 [%]
60.0
R 試験体
40.0
T 試験体
y=1.46x-30.6
y=1.09x-23.4
R2=0.684
R2=0.531
20.0
0.0
-20.0
0
10
20
30
40
0
10
20
30
40
Dp [mm]
質量減少率 [%]
60.0
40.0
R 試験体
T 試験体
y=-1.16x+25.2
y=-0.973x+24.0
R2=0.605
R2=0.568
20.0
0.0
-20.0
0 10.0 20.0 30.0 40.0 0
10.0 20.0 30.0 40.0
Ravg [%]
図 14 腐朽試験体の質量減少率とピン打ち込み深さおよび平均穿孔抵抗値の関係
22
3-3. 釘発錆程度
3-3-1. 釘胴部径
図 15 に釘打ち込み前、コントロール試験体、腐朽期間毎の腐朽試験体の釘胴部径(ds)を示
す。腐朽期間 0 日は打ち込み前の釘胴部径を表す。釘打ち込みから引抜きまでの期間によっ
て発錆に差が生じることが想定されたため、コントロール試験体は対応する腐朽期間別に分
けて示した。R 試験体、T 試験体ともに引抜き後の ds は打ち込み前の ds に比べ増加する傾向
がみられた。また、引抜き後の ds は腐朽期間による差がなく、腐朽期間 30 日で最大の発錆が
生じていたか、腐朽期間 30 日以降も発錆が進むがその分は引抜き時に木材中に残留したこと
が考えられる。加えて、打ち込み前の ds の変動係数は R 試験体で 0.11%、T 試験体で 0.13%
だったのに対して、引抜き後ではすべての試験体を合わせて R 試験体で 0.96%、T 試験体で
0.83%であり、発錆の程度には差が生じていたと考えられる。
3.500
打ち込み前
コントロール
腐朽
平均
打ち込み前
コントロール
腐朽
平均
ds [mm]
3.400
3.300
T 試験体
R 試験体
3.200
0 30 60 90 120
0 30 60 90 120
腐朽期間 [ 日 ]
図 15 腐朽期間毎の釘胴部径
ds: 釘胴部径 [mm]
23
3-3-2. 釘表面粗さ
図 16 に釘打ち込み前、コントロール試験体、腐朽期間毎の腐朽試験体の釘表面粗さ(Ra)を
示す。コントロール試験体は対応する腐朽期間別に分けて示した。腐朽期間 0 日は打ち込み
前の釘表面粗さを表す。腐朽期間に対する傾向は釘胴部径と同様であった。R 試験体、T 試
験体ともに釘引抜き後の Ra は打ち込み前の Ra に比べ増加する傾向がみられ、発錆によって釘
表面の凹凸が大きくなったことが検出されたと考えられる。引抜き後の Ra は腐朽期間による
差がなく、
前項で述べた傾向が考えられる。打ち込み前の Ra の変動係数は R 試験体で 28.0%、
T 試験体で 25.2%だったのに対して、引抜き後ではすべての試験体を合わせて R 試験体で
34.2%、T 試験体で 32.4%であった。
15.0
打ち込み前
コントロール
腐朽
平均
打ち込み前
コントロール
腐朽
平均
Ra [m]
10.0
5.00
R 試験体
T 試験体
0
0
30 60 90 120
0 30 60 90 120
腐朽期間 [ 日 ]
図 16 腐朽期間毎の釘表面粗さ
Ra: 表面粗さ [mm]
24
3-3-3. 釘重量
図 17 に釘打ち込み前、コントロール試験体、腐朽期間毎の腐朽試験体の釘重量を示す。コ
ントロール試験体は対応する腐朽期間別に分けて示した。R 試験体、T 試験体ともに引抜き
後の釘重量は打ち込み前に比べ小さく、腐朽期間が長くなるのに従って釘重量は減少する傾
向を示した。発錆の進行により引抜き時に木材に残留する錆が増加していったと考えられる。
釘重量 [g]
4.6000
打ち込み前
コントロール
腐朽
平均
打ち込み前
コントロール
腐朽
平均
4.5000
4.4000
R 試験体
T 試験体
4.3000
0 30 60 90 120
0 30 60 90 120
腐朽期間 [ 日 ]
図 17 腐朽期間毎の釘重量
25
3-4. 引抜き抵抗力と各種腐朽・発錆指標の関係
3-4-1. ピン打ち込み深さ
図 18 に腐朽試験体のピン打ち込み深さを横軸に、引抜き抵抗力を縦軸においたグラフを示
す。R 試験体、T 試験体ともにピン打ち込み深さが増加するのにしたがって引抜き抵抗力が
低下する傾向がみられた。しかし、釘発錆の程度に試験体毎の差があったこと、ピロディン
による測定では試験体表面が早材部であるか晩材部であるか、表面の腐朽状態が測定値に影
響を与えることが考えらえるため、決定係数が 0.389、0.479 と強い相関を示さなかった。R
試験体ではピン打ち込み深さが 26 mm 以下の場合誤差が大きく、T 試験体ではピン打ち込み
深さが 40 mm に達する試験体が多かったことから、26 mm 以下のピン打ち込み深さを示すよ
うな、少なくとも表面では腐朽が進んでいない試験体、40 mm のピン打ち込み深さを示す著
しい腐朽があった試験体では引抜き抵抗力の推定精度が下がると考えられる。
40.0
R 試験体
T 試験体
y=-0.614x+35.7
y=-0.634x+35.8
R2=0.389
R2=0.479
Pw [N/mm]
30.0
20.0
10.0
0.0
0
10
20
30
40
0
10
20
30
Dp [mm]
図 18 腐朽試験体での釘引抜き抵抗力とピン打ち込み深さの関係
26
40
3-4-2. 平均穿孔抵抗値
図 19 に腐朽試験体の平均穿孔抵抗値を横軸に、引抜き抵抗力を縦軸においたグラフを示す。
R 試験体、T 試験体ともに平均穿孔抵抗値が低下するのにしたがって引抜き抵抗力が低下す
る傾向がみられた。決定係数は 0.433 と 0.558 であり、ピン打ち込み深さと引抜き抵抗力の関
係よりも強い相関となった。試験体表面の状態からの影響を強く受けたピロディンによる測
定に対して、レジストグラフによる測定では試験体内部の状態を連続的に測定できたためと
考えられる。
Pw [N/mm]
40.0
30.0
y=0.561x+10.8
y=0.597x+7.77
R2=0.433
R2=0.558
20.0
10.0
R 試験体
T 試験体
0.0
0.0
10.0
20.0
30.0 0.0
10.0
20.0
Ravg [%]
図 19 腐朽試験体での引抜き抵抗力と平均穿孔抵抗値の関係
27
30.0
3-4-3. 質量減少率
図 20 に腐朽試験体の質量減少率を横軸に、引抜き抵抗力を縦軸においたグラフを示す。R
試験体、T 試験体共に質量減少率が増加するのに従って引抜き抵抗力が低下する傾向がみら
れた。また、決定係数がピン打ち込み深さおよび平均穿孔抵抗値を腐朽指標として用いたも
のよりも高く、特に T 試験体で高い相関を示した。質量減少率は従来から用いられてきた腐
朽指標であり [4]、引抜き型釘接合でも引抜き抵抗力の指標となると考えられる。
Pw [N/mm]
40.0
30.0
R 試験体
T 試験体
y=-0.404x+22.6
y=-0.498x+21.4
R2=0.521
R2=0.656
20.0
10.0
0.0
-20.0 0.0 20.0 40.0 60.0
-20.0 0.0 20.0 40.0 60.0
質量減少率 [%]
図 20 腐朽試験体の引抜き抵抗力と質量減少率の関係
28
3-4-4. 釘発錆指標
腐朽がほとんど発生していなかった試験体や、著しい腐朽が発生していた試験体など、試
験体毎に腐朽程度に差が生じていたため、釘発錆指標単体で引抜き抵抗力との関係を観察す
ることは難しかった。そこで、腐朽試験体のデータを用いて腐朽指標と釘発錆指標をそれぞ
れ説明変数として引抜き抵抗力の重回帰分析を行った。その結果を表 3 示す。腐朽指標はピ
ン打ち込み深さまたは平均穿孔抵抗値、発錆指標は釘胴部径、釘表面粗さ、釘重量の打ち込
み前と引抜き後の差(Wd)とした。釘重量を釘発錆指標とした回帰式以外は、釘発錆指標にか
かる係数の P 値が 0.05 を上回ったため、釘胴部径と釘表面粗さは釘発錆指標として適当では
なかった。また、釘重量に関しては釘重量の減少量が大きくなると、つまり発錆が進み木材
中に残留した錆が多くなった場合、引抜き抵抗力が減少するという結果になった。発錆が進
むと引抜き抵抗力が減少するというこの結果は既往の研究と相反する。これは、応力緩和に
よって引抜き抵抗力が低下した結果を反映していると考えられる。そこで釘打ち込みからの
日数の違いによる応力緩和の差の影響を除くため、目的変数を引抜き抵抗力のコントロール
試験体での値に対する比とした重回帰分析を行った。この場合、目的変数からは試験体密度
の影響も同時に除かれているため、腐朽指標にはコントロール試験体での値に対する比を使
用した。結果を表 4 示す。説明変数にかかる係数の P 値がすべて 0.05 を下回ったものは、T
試験体で説明変数に平均穿孔抵抗値のコントロールに対する比を用いたもののみであったが、
決定係数が 0.363 となり、説明力に欠ける回帰分析となった。
以上のことから、本研究で測定した釘発錆指標を用いて回帰分析を行うことはできなかっ
た。釘発錆が一定以上になると引抜き抵抗力の増加が頭打ちになるとされ [16]、本研究でも
釘発錆による引抜き抵抗力の増加の効果が頭打ちになっていた試験体が大半を占めていたと
29
考えられる。木材腐朽菌の成長には水分と酸素が必要であり、これはまた釘発錆が進行する
環境である。よって、腐朽環境下では釘発錆による引抜き抵抗力増加の効果が頭打ちになっ
ていることが予想される。また、説明変数に平均穿孔抵抗値および質量減少率を用いた単回
帰分析で比較的高い決定係数を得られた。したがって、腐朽環境下にある釘接合部では平均
穿孔抵抗値または質量減少率のみを用いて引抜き抵抗力の推定を行うことができると考えら
れる
表 3 釘引抜き抵抗力の重回帰分析の結果
試験体タイプ
R 試験体
T 試験体
R2
回帰式
P 値(係数 1)
P 値(係数 2)
Pw=-0.643Dp+17.9ds-22.8
0.374
1.54×10-7
0.424
Pw=0.590Ravg+25.0ds-72.4
0.432
9.26×10-9
0.246
Pw=-0.616Dp+0.0464Ra+35.4
0.368
1.389×10-7
0.888
Pw=0.566Ravg+0.259Ra+9.55
0.425
8.71×10-9
0.419
Pw=-0.507Dp-80.1Wd+38.1
0.499
1.65×10-6
2.88×10-4
Pw=0.465Ravg-77.4Wd+17.6
0.541
1.27×10-7
2.58×10-4
Pw=-0.629Dp-4.60ds+50.9
0.461
6.79×10-9
0.876
Pw=0.636Ravg+31.8ds-98.1
0.565
1.37×10-11
0.256
Pw=-0.629Dp-0.246Ra+37.0
0.465
1.54×10-9
0.529
Pw=0.604Ravg+0.246Ra+6.91
0.556
6.82×10-12
0.712
Pw=-0.430Dp-131Wd+38.8
0.713
8.50×10-8
2.41×10-9
Pw=0.418Ravg-118Wd+18.7
0.748
2.01×10-9
1.52×10-8
Pw: 釘引抜き抵抗力 [N/mm]
Dp: ピン打ち込み深さ [mm]
Ravg: 平均穿孔抵抗値 [%]
ds: 釘胴部径 [mm]
Ra: 釘表面粗さ[m]
Wd: 釘重量減少量 [g] (=打ち込み前の釘重量-引抜き後の釘重量)
P 値(係数 1): Dp および Ravg にかかる係数の P 値
P 値(係数 2): ds、Ra および Wd にかかる係数の P 値
30
表 4 釘引抜き抵抗力のコントロール比の重回帰分析の結果
試験体タイプ
R2
回帰式
𝐷𝑝𝑑
𝑃𝑤𝑑
=-0.637𝐷
𝑃𝑤𝑜
𝑝𝑜
P 値(係数 1)
-4.16Wd+2.15
R 試験体
𝑅𝑎𝑣𝑔𝑑
𝑃𝑤𝑑
=0.352
o-5.10Wd+1.18
𝑃𝑤𝑜
𝑅𝑎𝑣𝑔𝑜
𝐷𝑝𝑑
𝑃𝑤𝑑
=-0.278
-9.38Wd+2.15
𝑃𝑤𝑜
𝐷𝑝𝑜
T 試験体
𝑅
𝑃𝑤𝑑
=0.264𝑅𝑎𝑣𝑔𝑑 -8.46Wd+1.29
𝑃𝑤𝑜
𝑎𝑣𝑔𝑜
0.206
4.41×10-3
0.105
0.145
4.57×10-2
0.0545
0.324
0.156
3.49×10-4
0.363
2.01×10-2
6.68×10-4
Pwd: 腐朽試験体の釘引抜き抵抗力 [N/mm]
Pwo: コントロール試験体の釘引抜き抵抗力 [N/mm]
Dpd: 腐朽試験体のピン打ち込み深さ [mm]
Dpd: コントロールのピン打ち込み深さ [mm]
Ravgd: 腐朽試験体の平均穿孔抵抗値 [%]
Ravgo: コントロール試験体の平均穿孔抵抗値 [%]
Wd: 釘重量減少量 [g] (=打ち込み前の釘重量-引抜き後の釘重量)
P 値(係数 1):
𝐷𝑝𝑑
𝐷𝑝𝑜
𝑅𝑎𝑣𝑔𝑑
および𝑅
𝑎𝑣𝑔𝑜
P 値(係数 2)
にかかる係数の P 値
P 値(係数 2): Wd にかかる係数の P 値
31
3-5. 基準腐朽度の算出
実際の木質構造で劣化診断を行う際、
「健全」や「要改修」といった判断を下すためにはそ
の判断の基準となる値を与える必要がある。そこで本実験で得られたデータから、コントロ
ール試験体の引抜き抵抗力の 5%下限値に対応するピン打ち込み深さと平均穿孔抵抗値を求
め、その値を基準腐朽度として示す。
まず、ピン打ち込み深さおよび平均穿孔抵抗値と引抜き抵抗力との関係を回帰モデル
y=ax+b として、傾き a、y 切片 b、回帰の標準誤差 Se を求めた。Se は回帰の標準偏差の推定
値となる。(3)式をもとにした次の式から信頼水準 75%の 95%下側許容限界値(5%下限値)を表
す式を算出した。
𝑇𝐿𝛼,𝛽 = b + a𝑥 − 𝐾Se
(5)
ここで、K は信頼限界係数でありこの場合は=75、=95、n=60 であったため。K=1.795 であ
った。この式の TLにコントロール試験体の引抜き抵抗力の 5%下限値である 10.3 [N/mm](R
試験体)、9.82 [N/mm](T 試験体)を代入して対応するピン打ち込み深さおよび平均穿孔抵抗値
を求めた(図 21、
図 22、
表 5)。ピン打ち込み深さでは R 試験体で 27.6 mm、T 試験体で 27.2 mm、
平均穿孔抵抗値では R 試験体で 13.0%、T 試験体で 17.0%が基準腐朽度と算出された。ピロデ
ィン測定値の読み取り精度を考慮すると、ピン打ち込み深さは 27mm を基準腐朽度とするこ
とが妥当だと考えられる。平均穿孔抵抗値の基準値は R 試験体と T 試験体で差が生じたため
一意に定まらないが、安全側評価とすることを考えると 17%を基準腐朽度とすることが妥当
だと考えられる。釘の引抜き耐力は木材の密度に影響される [20]ことと、ピン打ち込み深さ
と穿孔抵抗値も木材密度の影響を受けると考えらえるため、この結果は腐朽試験体の密度か
ら、気乾時の密度が 351 [kg/m3]から 474 [kg/m3]の木材での基準腐朽度といえる。
32
そこで、あらゆる密度の木材に対応する基準腐朽度を求めるため、(4)式の x をコントロー
ル試験体での測定値に対する比に置き換えて単回帰分析を行い、同様に基準腐朽度を求めた
(図 23、図 24、表 6)。すると、ピン打ち込み深さでは R 試験体で 1.29、T 試験体で 1.18、平
均穿孔抵抗値では R 試験体で 0.70、T 試験体で 1.10 が基準腐朽度と算出された。このことか
ら、ピン打ち込み深さで健全部よりも 15%程大きな値が測定されたとき、その部分は基準以
下の引抜き抵抗力であるといえる。平均穿孔抵抗値では T 試験体で健全部よりも大きな値が
基準腐朽度と算出された。これは、レジストグラフによる測定時に年輪方向にニードルが曲
がってねじ込まれることが多く、正確な値を測定できなかったためと考えられる。放射方向
に釘が打ち込まれた場合のみを想定したとき、平均穿孔抵抗値で健全部よりも 3 割以上の減
少が測定されたとき、基準を下回る引抜き抵抗力をもつ部分であるといえる。
40.0
5% 下限値
5% 下限値
y=-0.614x+27.2
y=-0.634x+27.0
Pw [N/mm]
30.0
20.0
10.0
R 試験体
T 試験体
0.0
0
10
20
30
40 0
10
20
30
40
Dp [mm]
図 21 腐朽試験体のピン打ち込み深さから推定される引抜き抵抗力の 5%下限値と基準腐朽
度
33
40.0
5% 下限値
5% 下限値
y=0.561x+2.74
y=0.597x-0.355
Pw [N/mm]
30.0
20.0
10.0
R 試験体
0.0
0.0
10.0
20.0
T 試験体
30.0 0.0
10.0
20.0
30.0
Ravg [%]
図 22 腐朽試験体の平均穿孔抵抗値から推定される引抜き抵抗力の 5%下限値と基準腐朽度
表 5 基準腐朽度
釘打ち込み方向
放射方向
接線方向
ピン打ち込み深さ [mm]
27.6
27.2
平均穿孔抵抗値 [%]
13.0
17.0
34
40.0
5% 下限値
5% 下限値
R 試験体
y=-12.9x+27.0
T 試験体
y=-14.4x+26.8
Pw [N/mm]
30.0
20.0
10.0
0.0
0.0
1.0
2.0
3.0 0.0
1.0
2.0
3.0
Dpd/Dpo
図 23 腐朽試験体のピン打ち込み深さのコントロール比から推定される引抜き抵抗力の 5%
下限値と基準腐朽度
40.0
5% 下限値
5% 下限値
y=9.68x+3.51
y=8.51x+0.475
Pw [N/mm]
30.0
20.0
10.0
R 試験体
T 試験体
0.0
0.0
1.0
2.0
3.0 0.0
1.0
2.0
3.0
Ravgd/Ravgo
図 24 腐朽試験体の平均穿孔抵抗値のコントロール比から推定される引抜き抵抗力の 5%下
限値と基準腐朽度
35
表 6 健全部での計測値に対する比で表した基準腐朽度
釘打ち込み方向
放射方向
接線方向
ピン打ち込み深さ
1.29
1.18
平均穿孔抵抗値
0.70
1.10
36
4. 結論
強制腐朽処理を施した釘接合部で引抜き試験、試験体の腐朽程度測定、釘発錆程度の測定
を行い、引抜き抵抗力に対する腐朽と釘発錆の影響を定量的に評価した。得られた結果は以
下の通りであった。
1. レジストグラフによる腐朽程度の測定値は引抜き抵抗力と比較的高い相関を示し、釘引抜
き抵抗力の推定に使用できる可能性が示された。
2. ピン打ち込み深さと平均穿孔抵抗値から質量減少率を推定することが可能である。
3. 腐朽を受けていると考えられる釘接合部の引抜き抵抗力を推定する時、平均穿孔抵抗値ま
たは質量減少率を用いて引抜き抵抗力を推定することが可能である。
4. 気乾時の密度が 351 [kg/m3]から 474 [kg/m3]で含水率が FSP 以上の木材における基準腐朽
度はピン打ち込み深さが 27 mm、平均穿孔抵抗値が 17%であった。
5. 対象となる木材の密度を限定しない場合、健全部での測定値を基準としてピン打ち込み深
さが 15%大きくなった時と、放射方向に打ち込まれた釘では平均穿孔抵抗値が 3 割小さく
なった時、その部分の釘引抜き抵抗力は基準以下であるといえる。
37
謝辞
本研究を行うにあたり、多くの関係者のご協力をいただいた。
全般に渡ってご指導頂いた指導教員の澤田圭助教、ゼミでのご指導のほか、腐朽劣化の評
価法についてご指導頂いた平井卓郎教授、ゼミでの的確なご指摘や試験器具の使用法につい
てご指導いただいた小泉章夫准教授、試験機の使用や試験体の作成でお世話になった佐々木
義久技術職員、腐朽菌の成長過程について重要であり、かつ興味深い考察をくださった森林
資源生物学研究室の玉井裕准教授、レーザー顕微鏡の使用法を教えてくださった森林化学研
究室の磯崎友史君に対し、この場を借りて厚くお礼を申し上げる。また、ゼミでのご指摘や
平時の精神的安寧を頂いた本研究室の学生のみなさま、特に試験体制作時に多大なご協力を
いただいた飯田百合子さん、北原岳明君に感謝申し上げる。
38
参考文献
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版)、 412pp
40
付録
付表 1 試験体の測定値一覧
R
試
験
体
コントロ
ール試験
体
打ち込み前
引抜き抵
ピン打ち
平均穿
引抜き時
引抜き時
試験体
気乾密度
抗力
込み深さ
孔抵抗
絶乾密度
含水率
No.
[kg/m3]
[N/mm]
[mm]
値 [%]
[kg/m3]
[%}
030R-1C
406
18.7
25
16.2
351
137
030R-2C
393
14.6
23
13.5
340
128
030R-3C
372
17.4
29
10.5
321
136
030R-4C
420
11.7
22
14.8
359
127
030R-5C
419
25.5
23
16.5
356
138
030R-6C
411
19.6
25
15.3
350
139
030R-7C
398
18.5
25
14.8
339
148
030R-8C
410
19.1
22
9.2
348
149
030R-9C
385
20.5
26
14.2
327
154
030R-10C
493
31.3
17
26.6
416
108
030R-11C
402
22.2
23
10.6
341
145
030R-12C
394
18.7
24
14.3
337
134
030R-13C
402
13.2
22
18.8
343
145
030R-14C
402
15.4
22
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