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金沢広坂合同庁舎における免震レトロフィット 施工報告
金沢広坂合同庁舎における免震レトロフィット 施工報告 大沢 1金沢営繕事務所 2営繕部 和広1・佐野 技術課 保全指導・監督室 敏幸1・本田 (〒920-0024 (〒920-0024 比呂志2 金沢市西念3-4-1) 新潟市中央区美咲町1-1-1) 金沢広坂合同庁舎は、大地震時等に災害対策活動を行う北陸農政局・北陸総合通信局が入 居しており、災害対応や防災拠点の機能を有している。しかし、建物は築44年(1965年 建設)経過し、耐震診断を行った結果、災害応急対策拠点として必要な耐震性能を満たしてい ないことが判明したため、基礎下免震・中間層免震の併用により、庁舎を使用しながら建物全 体の免震化を図る耐震改修工事を行う事業である。 本報告は、基礎下免震工事の施工状況及び各段階における施工検討・管理方法について報告 するものである。 1. 事業概要 ○所 在 地:石川県金沢市広坂2-2-60 ○敷地面積:15,427.02㎡ ○延べ面積:18,386.74㎡ ○構 造:鉄筋コンクリート造 地上8階・地下1階 ○建築年次:1965(昭和40)年 ○入居官署:金沢国税局、北陸農政局、北陸総合通信局 石川行政評価事務所、税務大学校金沢研 修所、(独)国立印刷局金沢政府刊行物セン ター ○整備期間:平成20年2月~平成22年3月 (3) オイルダンパー[8基] ダンパー内で、作動油が小さな通路を流れる抵抗力に より地震エネルギーを吸収し、建物の揺れを軽減する。 建物の耐用年数と同等以上の耐久性を有し、繰り返し大 地震を受けても取り替えの必要はない。(図-2) 2. 免震装置 図-1 鉛プラグ挿入型積層ゴムアイソレーター (1) 鉛プラグ挿入型積層ゴムアイソレーター[32基] 天然ゴム系積層ゴムアイソレーターの中心部に、地震 力を吸収するダンパーの働きをする、鉛円柱を埋込んだ もの(図-1) (2) 天然ゴム系積層ゴムアイソレーター[24基] 耐久性の高い天然ゴム板を、鋼板と交互に積み重ねて 接着成形した免震装置。ゴムの引張り性能を垂直にも水 平にも利用。容易に変形しても、元に強く戻ろうとする。 軸力の大きい所、変動する所に使用。 図-2 オイルダンパー (4) 弾性すべり支障[8基] ステンレス平板上に、テフロン樹脂板を滑らせる仕 組み。積層ゴムアイソレーターの小型のものが合体され た弾性すべり支障。小さなすべり摩擦力で地震力を吸収 するダンパーとしても働き、揺れの周期を伸ばす効果が ある。軸力の変動のない中央に使用。(図-3) 3. 施工 図-3 弾性すべり支障 基礎下免震化工事の概略を以下に記す。 (1) ステップ①(図-4) 1階土間スラブを撤去し、基礎下まで掘削を行う。掘 削完了後、基礎・基礎梁を鉄筋コンクリート等で補強を 行う。 図-4 ステップ① (2) ステップ②(図-5) 仮受け材(鋼製サンドル+ジャッキ+H鋼)を設置し、 油圧ジャッキにて、設定荷重を段階的に導入し、上部荷 重を受け替える。その際、躯体変位計測(地面を不動点 とした変位と、上階でのレーザーレベルの変位)を行い、 建物に有害なひび割れ等をおこさないよう24時間体制 で管理する。(以降の施工中も同様に行う。) 図-5 ステップ② (3) ステップ③(図-6) 建物基礎下を所定の深さまで掘削し、補助支保工を設 置する。 (4) ステップ④(図-7) 耐圧版打設後、仮受支保工を設置をする。その後、補 助支保工を撤去し、上部荷重を受け替える。同時に、水 平力拘束プレートを設置し、施工前と同等の耐震安全性 (保有水平耐力)を確保する。 (5) ステップ⑤(図-8) 仮受け材を盛り替えをし、下部を所定の深さまで掘削 する。その後、残りの耐圧版を打設する。 免震下部基礎打設後、免震装置を設置し、上部基礎・ 下部耐圧版との隙間をコンクリートで充填し、上部荷重 が正しく伝わるようにする。また、仮止めプレートを免 震装置廻り4周に配置、保有水平耐力を確保する。全て の免震装置を設置後、水平力拘束プレートを取り外す。 図-6 ステップ③ 図-7 ステップ④ 以降、ステップ①~⑤を建物の通り毎に繰り返し施工。 全ての免震装置(基礎下及び中間層免震)を設置したあ とに、仮止めプレートを外し、施工完了となる。 図-8 ステップ⑤ 4. 施工検討 が0となるよう調整を行った。 以降、大きな変位は計測されていない。 工事着工前に、発注者、構造設計者、請負者で検討会 を実施(月1回程度)し、施工方法や管理方法を確認し ながら工事を進めている。また、モックアップや各種試 験により、安全性や施工精度を確認している。その中で いくつかの事例を紹介する。 (1) 仮受け 免震装置設置のため、建物の荷重を仮受けしながら基 礎下に耐圧版の新設を行っている。その際、2つの基礎 で受けていた荷重を1つの仮受け材で受けることになる。 一般的には、杭にて必要耐力を確保することが多いが、 当現場の地盤は比較的よく、建物自体も直接地盤で受け てていることから、仮受け材について、直接地盤での施 工が可能か検証した。 1つの仮受け材で受ける建物荷重は、約800tであ る。サンドル底面積は16㎡であるため、50t/㎡の 地耐力が必要となる。載荷試験では、60t/㎡で行い、 杭等の補強をせずとも十分に建物荷重を受けられること を確認した。 図-9 仮受け材の実物実験 図-10 水平力拘束プレート (2) 工事中の水平保有耐力の確保 工事中であっても、施工前と同等の耐震安全性を確保 しなければならない。地震時の横揺れに対し、水平力拘 束プレート(図-10)を下部耐圧版にM22アンカーボ ルト48本、上部基礎下端にM22ケミカルアンカー4 8本で固定し、水平保有耐力を確保した。 免震装置設置後は、装置の周り4周に仮固定プレート をM24アンカー上下4本で固定することにより、水平 保有耐力を確保した。 (3) 鉛直変位計測 隣り合う柱で、1/2000以上の層間変位角がでる と、躯体に有害なひび割れが発生してしまうことから、 建物の挙動を正確に把握し、不測の事態にも迅速に対応 できるようパソコンを利用した計測管理(地面を不動点 とした変位と、上階でのレーザーレベルの変位を自動計 測)を行うこととした。スパン長6,000㎜に対し、 管理基準値(限界値)を3㎜、計画管理値を2㎜と設定 し、計画管理値を超えた場合は、監理技術者の携帯電話 に通報が届くよう、常に管理できる体制とした。(図12) 日常計測は、60分毎でパソコンに最新計測値を表 示・保存することとし、上部荷重盛替え時は特に躯体の 変位が出る恐れがあるため、20分毎の計測管理とした。 平成21年5月末までの計測記録では、平成20年末 に最大で2㎜の層間変位が確認された。表-1に示す鉛 直変位計測対応表に則り、油圧ジャッキにより柱の変位 図-12 鉛直変位計測 表-1 鉛直変位計測対応表 (4) 免震装置接続部のコンクリート充填率 免震装置下部基礎のコンクリートは、配筋及び下部ベ ースプレート仮止め後に打設されるため、図-13に示 すとおり、ベースプレート下に隙間が生じやすい。また、 免震装置上部についても同様に、既存躯体との間に隙間 が生じやすく、構造上の不具合となる恐れがある。 当現場では、モックアップによる試験を行い、設計時 図-13 免震基礎まわり 充填率目標値90%に対し、管理目標値95%以上と定 め、施工の妥当性を検証した。(図-14) a) 免震装置下部充填率試験 打込み方法は、現場で想定している漏斗式とし、免震 ゴム設置部(試験体①)、すべり支障設置部(試験体 ②)の2つで行った。 結果は表-2に示す通り、試験体①については、良好 な充填状況が確認出来た。試験体②については、管理目 標値を満足することができなかったが、すべり支承基礎 となることから、大きな引き抜き力に対応する必要はな いと考えられ、関係者との協議を行い、すべり支承可動 図-14 モックアップによるコンクリート充填率試験 範囲の充填率が管理目標値を超えていれば合格すること とした。再計算の結果は96%の充填率となり、打ち込 み方法として問題無いことを確認した。 b) 免震装置上部充填率試験 高流度コンクリート(試験体①)、普通コンクリート +グラウトt40㎜(試験体②)、普通コンクリート+ 表-2 免震装置下部充填率試験結果 グラウトt20㎜(試験体③)の3種類で行い、得られ たデータをもとに、あと打ちコンクリートの種類を決定 することとした。 結果は表-3に示す通り、試験体①以外は管理目標値 を超えた。よって、グラウト施工による充填が妥当と判 断し、試験体②及び③について検証を行った。充填率は 表-3 免震装置上部充填率試験結果 ともに十分な結果が得られており、厚みによる影響はな いことがわかった。実際の施工は、ポンプ車でのコンク リート打設となるため、グラウト厚が薄と細かく調整で きないため、普通コンクリート+グラウトt50㎜を採 5. おわりに 用した。 基礎下免震化工事に伴い、既存地盤面に建物荷重を仮 受けしながら基礎下に耐圧版を新設していくという、あ (5) 騒音・振動対策 まり例のない工事に対し、適切な計測管理値を設定する 庁舎を使いながらの改修のため、騒音・振動対策には ことにより、既存躯体を痛めることなく工事を完了する 十分留意しなければならない。当工事では、基礎及び最 ことができた。このような、直接地盤面に仮受けする事 下階の柱を撤去するため、騒音・振動が、柱を伝わり、 例として、仮受け状況や計測管理が参考になればと思う。 上階まで響いてしまうことから、本作業前に試験施工を また、各種の施工実験により、適切な施工・管理を行う 行い、入居官署と管理目標値の確認を行った。 ことができた。 施工は、低騒音・低振動型重機を使用することはもち 現在の施工状況としては、基礎下免震か工事を概ね終 ろんのこと、水圧による切断、コア抜き・カッター入れ え、中間層免震化工事を行っている。幸い、大きな地震 を取り入れ、既存躯体と切り離してから、本撤去をする にあうことなく、順調に進んでいるが、有事の際に迅速 ようにした。また、随時騒音・振動測定を行い、管理目 な対応ができるよう、引き続き安全対策等を検討してい 標値内であることを確認し、超えていれば、原因を把握 きたい。 し、必要な対策を行うこととした。