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木摺漆喰塗り天井実験報告 大塚日出夫

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木摺漆喰塗り天井実験報告 大塚日出夫
第7分野
木摺漆喰塗り天井実験報告
大塚日出夫
生産技術研究所 人間・社会系部門
1.はじめに
漆喰の塗り作業は下塗りと中塗りは上向き施
明治時代以降に建設された歴史的建築物には
行を行い、乾燥養生後は横向きと下向きとし
部屋の天井を漆喰塗りとするものも多く、近
た。
代建築の特有意匠の一つに挙げられる。
漆喰天井の加力部分は 10mm 厚の鉄板を速硬
東日本大震災では、建築物の非構造部材であ
化型エポキシ樹脂系接着剤で貼付け、鉄板の
る天井の落下による人的被害が報告されてい
周囲をカッターで漆喰を縁切りした。
る。
そして大きな空間を有する漆喰塗り天井も地
震時に剥落する事例が報告されている。
木摺漆喰天井の構造性能解明のため模型試験
体の加力実験報告である。
図-1
天井構造
2.試験体
試験体は木摺と木摺の間にある漆喰の盛り上
がりの形状、木摺の間隔、木摺の形状、補強
図-2
試験体
材の種類を変えるなど既存天井の標準と補強
型の 10 種の試験体を製作した。
試験体の大きさは木摺を受ける野縁と野縁受
け材を含め約 1000mm 角試験体であり、実験用
面積は 300mm 角である。
300mm 角の大きさは左官鏝の作業性を悪くし、
隅々に均一に力が及ばないこともあるので
1000mm 角試験体とした。
引張試験やせん断試験はこの 1000mm 試験
体から 300mm 角を4体取得した。
1
東京大学技術研究会概要集 (2016)
図-3
引張試験・せん断試験
度に影響するか検討するためだが大きな違い
3.計測機器
計測は加力を荷重計で計測し、変位は 300mm
鉄板の4隅から約 10mm 内側の位置を計測し、
は生じなかった。
木摺に 60°の勾配をつけることにより漆
漆喰の荷重-変位関係を把握した。
喰の食い込みを期待したものであるが特に変
試験体下部中央の野縁に変位を計測すること
化は無かった。
により試験体全体の変形を把握した。
補強を考慮した漆喰内にメッシュを入れ接
計測機器の構成は荷重計(東京測器研究所・
着力の向上を期待したものであるがメッシュ
TLP-20KNB,容量20kN),変位計(東京測器
位置から剥離を生じる実験もあった。
研究所・CDP-50M,容量 50mm)そして収録シ
下げ苧は漆喰とよく付着しており下げ苧が
ステムはデータロガー/静ひずみ測定器(東
破断するまで力を維持し続けた。
京測器研究所・TDS303・サンプリングタイム約 0.5 秒)
5.おわりに
を使用している。
木摺漆喰天井の構造性能解明の一助になる
データは収集できたが、まだ実験は継続する
必要がある。
人的被害を引き起こす可能性
がある漆喰の落下は防ぐ方法として従来の下
げ苧などは有効であり、メッシュ材なども漆
喰との条件を工夫すれば有効な方法と考えら
れる。
重文建築物の耐震改修工事中に実験
を行える機会があったので以後これらも含め
て検討していきたい。
写真-1
全体風景
6.失敗考
実験毎に失敗がうまれるが、今回は
4.実験結果
(1)接着力の確認実験は事前に行ったが確認
今回は 300mm 角の引張試験に着目する。
試験体(No.1)1.8 kN、上部なし(No.2)0.6 kN、
木摺間なし(No.3)0.05 kN、木摺間狭い
(No.4)1.4 kN、木摺間広い(No.5)1.6 kN、木
摺形状台形(No.6)1.5 kN、下げ苧拡げて
(No.7)1.7 kN、補強3軸メッシュ(No.8)1.4
kN、補強5mm メッシュ(No.9)1.0 kN、補強
麻ひも(No.10)1.8 kN であった。
基本試験体の 1.8kN
に対し木摺間なしは
0.05kN と接着力は無いと考えられる。
木摺間の摩擦部分で 0.6kN 程度の強度が生じ
ている。木摺すきまを変化させたとき漆喰塗
りの裏面へ盛り上がりのできかたの違いが強
実験を1例で問題が生じなかったことで安心
し、複数回の確認を怠ってしまった。
(2)事前打合せに問題があった。今回は人をは
さんだ連絡方式のため、試験体の大きさが正
確に連絡されなかった。試験機で行う計画だ
ったが大きさが違ったため、急遽、単管で加
力治具を組むことになった。
参考文献
1)計測震度と住家被害率の関係
―羅災調査結果を用いた検討― 緑川三郎,藤本一雄
日本地震工学会論文集,第2巻,第2号,2002 年
2)JASS15 左官工事標準仕様書-セッコウ・石灰関係-
3)日本漆喰協会ホームページ
http://www.shikkui.gr.jp/
4)古建築の技 ねほり、はほり 文化庁選定保存技術者
14 人の記録,関美穂子,理工学社,2000 年 8 月
連絡先
E-mail:[email protected]
東京大学技術研究会概要集 (2016)
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