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複数の演奏空間をネットワーク接続する「音響樽」の実現

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複数の演奏空間をネットワーク接続する「音響樽」の実現
解説:特集
音響制御の最前線
—再び注目されるアクティブコントロール技術—
複数の演奏空間をネットワーク接続する「音響樽」の実現
伊 勢 史 郎* ・池 田 雄 介*
*京都大学工学研究科/JST CREST 京都府京都市西京区京都大学桂
*Faculty of Engineering, Kyoto University/JST, CREST, Kyoto University
Katura, Nishikyo-ku, Kyoto, Japan
*E-mail: [email protected]
キーワード:音場再現 (sound field reproduction),境界音場制御の原
理 (boundary surface control principle),臨場感通信 (telepresence),多
チャンネルスピーカシステム (multi-channel loudspeaker system),逆
システム (inverse system).
JL 0012/12/5112–1110
1.
はじめに
C 2012 SICE
ものであり,境界面上に音源を必要とするものではない.
アクティブ騒音制御の実験研究において点音源を用いず
境界音場制御の原理は約 20 年前にわが国で提案された音
に可能となった領域の制御を理論的に説明するためにはど
場再現およびアクティブ騒音制御技術の理論的枠組みであ
うすればよいか.境界要素法で用いられる積分方程式の物
るが,近年の多チャンネルオーディオ技術の低コスト化に
理的解釈を音場制御理論として応用することができないか.
伴い,音場再現システムとしての実用化の可能性が高まっ
この 2 点が境界音場制御の原理が提案されるきっかけとなっ
ている.また情報技術の発展により,2 つの音場再現システ
た8)∼10) .
ムをネットワーク接続した聴空間共有システムの試みも始
まっている.本稿ではまず音場制御理論の歴史的背景につ
いて述べ,つぎに境界音場制御の原理について紹介し,さ
らに最新の応用例として,複数の再生音場をネットワーク
接続することにより,遠隔環境でのアンサンブル演奏を可
能とする「音響樽」を紹介する.
2.
音場制御理論の歴史的背景
音場制御の理論はホイヘンスの原理を元に組み立てられ
てきたという歴史的経緯がある.そのため,音場制御の理
論を数学的に説明する場合に,ホイヘンスの原理の数学的
な解釈と位置付けられているキルヒホッフ–ヘルムホルツ積
3.
境界音場制御の原理
3.1 キルヒホッフ–ヘルムホルツ積分方程式の物理的解釈
図 1 のような音源を含まない閉曲面 S で囲まれた
領域 V を想定する.音圧に関するヘルムホルツ方程式
(∇2 + k 2 )p(r) = 0 を積分方程式として表わしたキルヒ
ホッフ–ヘルムホルツ積分方程式は次式のようになる.
∫∫
∂p(r)
∂G(r|s)
(1)
G(r|s)
− p(r)
δS
∂n
∂n
S
{
}
p(s) s ∈ V
=
0
s 6∈ V
分方程式 (以降積分方程式と略す) が用いられてきた.すな
こ こ で G(r|s) は グ リ ー ン 関 数 と 呼 ば れ ,(∇2 +
わち積分方程式に現れる各項を音源の数学的性質として述
k )G(r|s) = −δ(r − s) を満たす関数である.三次元音
べることにより,音場制御において必要な音源の性質が数
場では
2
学的に記述された1)∼4) .
1930 年代にスピーカが商用化され,立体音響を生成する
ステレオフォニクスの夢が語られるが,1960 年代には積分
方程式に現れるような音源を作ることができないという挫
折が論文にも現れる5) .この雰囲気はアクティブ騒音制御
G(r|s) =
exp(−jk|r − s|)
4π|r − s|
が解の一つとして知られているが,これは自由音場の点 r
に点音源 (モノポール音源) がある場合の点 s における音
の分野にも脈々と存在し,たとえば三次元音場をある領域
で静穏化することは不可能という理論的見解が重しとして
存在していた.
1990 年代にはディジタル信号処理技術を用いた音場制御
の実験研究が盛んになり,特にアクティブ騒音制御の分野
では複数の二次音源を用いて広い領域を静穏化する実験例
が報告される6), 7) .しかし,この実験結果は理論的には説明
できなかった.一方,コンピュータを用いて音場を数値的
に解くために積分方程式を用いる数値計算法が現れた.そ
の一つである境界要素法における積分方程式の解釈は,境
界面上の物理量から領域内の物理量が決まるという素直な
1110
図 1 閉曲面 S で囲まれた領域 V
計測と制御 第 51 巻 第 12 号 2012 年 12 月号
圧に等しい.また ∂G(r|s)/∂n は法線 n 方向に設置した二
重音源 (ダイポール音源) と解釈できる.一般に場を表わす
微分方程式を積分表示したときに境界上に現れるグリーン
関数はその場を生成する源と考えられてきた11) .したがっ
て,(1) 式はつぎのように解釈できる.領域 V 内の音場
p(s) は,境界面 S 上に配置された振幅 ∂p(r)/∂n のモノ
ポール音源と振幅 −p(r) のダイポール音源によって生成さ
0
gi ,gi は距離 |r − s| から決まる係数であると前述した
が,これは積分方程式に現れるグリーン関数 G(r|s) およ
びその法線方向微分 ∂G(r|s)/∂n に関しても同じである.
0
すなわち領域 V が領域 V と合同であれば,グリーン関
0
数およびその法線方向微分は領域 V と領域 V において
同じ値になる.式で表わすと
∀r ∈ S
れる.ここにホイヘンスの原理における音源の性質の数学
的表現が現れていることがわかる.これを音場制御の原理
0
0
0
∀s ∈ V
∀s ∈ V
0
0
0
G(r|s) = G(r |s )
として説明すると,つぎのようになる.領域 V 内の音場
p(s) を再生するためには,原音場において境界面 S 上で
音圧 p(r) とその勾配 ∂p(r)/∂n を計測し,再生音場にお
0
∀r ∈ S
(4)
0
∂G(r|s)
∂G(r |s )
=
∂n
∂n0
が成り立つ.したがって,(1) 式,(3) 式,(4) 式から
∀r ∈ S
いて同じ形の境界面上にモノポール音源とダイポール音源
を配置し,振幅がそれぞれ ∂p(r)/∂n と − p(r) となるよう
0
∀r ∈ S
0
0
∂p(r )
∂p(r )
=
∂n
∂n0
0
(5)
p(s) = p(s )
0
p(r) = p(r )
0
=⇒ ∀s ∈ V
に調整すればよい.積分方程式における「解の一意性」の
0
∀s ∈ V
0
条件が成立する境界面形状 (たとえば無限大の面) であれば
が導かれる.(5) 式は原音場においてある領域を囲む境界
レイリー積分方程式が成立し,モノポール音源のみで積分
面上の音圧と粒子速度 (音圧勾配) を計測し,それらが再生
方程式は表現できる12) .それでも無限大の面をいかに近似
音場において (相対的に) 同じ位置で再生されたとき,原音
できるか,モノポール音源をどのように作るかという問題
場における領域内音場は再生音場に完全に再生されること
が残る.
を意味する.これを境界音場制御の原理と定義する13), 14) .
一方,数値計算で用いられる境界要素法の研究分野では
音場再現システム
ホイヘンスの原理とは異なる文脈で積分方程式の数式展開
4.
が行われてきた.(1) 式において境界面 S を N 個の微小
4.1 音圧による音場再現
な要素 Si (i = 1 · · · N ) に分割し,各要素内では音圧 p(r)
と音圧勾配 ∂p(r)/∂n が一定であると仮定した場合,(1)
式はつぎのように離散化することが可能となる.
N
∑
gi
i=1
0
∂p(ri )
− gi p(ri ) = p(s)
∂n
s∈V
∂p(ri ) ∼ p(ri + ni ) − p(ri − ni )
=
∂n
2|ni |
(2)
すなわち音圧勾配は境界面 Si における法線上の 2 点 ri ±ni
の音圧から求めることができる.音圧についても 2 点の平均
0
ただし,gi および gi は領域 V 内における対象とする点
s と境界要素 ri との距離 |r − s| から決まる係数であり,
つぎのように表わされる.
∫∫
gi =
法線方向の音圧勾配は次のような差分近似により表わさ
れる.
G(r|s)δS
Si
0
∫∫
gi =
Si
p(ri + ni ) − p(ri − ni )
p(ri ) ∼
=
2
を用いると (2) 式はつぎのように表わされる.
∂G(r|s)
δS
∂n
2N
∑
すなわち領域 V 内のある点 s の音圧は境界面 S 上の離
散点の音圧と音圧勾配にある係数を乗じ,それらの総和か
は,ホイヘンスの原理のように境界面 S 上に音源が想定さ
i=
j+1
2
∫∫
0
S
0
= p(s )
計測と制御
0
0
0
0
s ∈V
第 51 巻
0
第 12 号 2012 年 12 月号
gi
g
− i
2|ni |
2
qj = ri + ni
偶数のとき
i=
j
2
0
fj =
gi
g
− i
2|ni |
2
qj = ri − ni
このように境界の離散化と音圧勾配の音圧差による表現
という 2 つの近似が成り立てば,われわれは 2N 点の音圧
0
0 ∂G(r |s )
∂p(r )
G(r |s )
− p(r )
∂n0
∂n0 δS
0
(6)
0
fj =
れていないことがわかる.
3.2 2 つの音場の相等性
ある空間に領域 V の音場 (原音場),それとは別の空間
0
に領域 V (V と合同とする) の音場 (再生音場) を想定する.
s∈V
ただし,j は奇数のとき
ら求めることができると解釈できる.このように境界要素
法の定式化において用いられる積分方程式の物理的解釈で
fj p(qj ) = p(s)
j=1
から一意的に領域 V 内の音場を決めることができる.これ
は言い換えれば一意的に領域 V 内の音場を決めることがで
(3)
きる M 点 (M ≤ 2N ) の音圧の観測位置あるいは制御位置
1111
図 2 境界音場制御の原理に基づく音場再現システム (BoSC システム)
(以降これらを総称して音圧制御点と呼ぶ) が存在するとい
うことである.M が 2N より小さくなる可能性は大いに
おけるマイクロホンからの出力信号ベクトルを [yj ](∈ C M )
とすると次式が成り立つ.
ある.たとえば領域の形状で決まる固有周波数以外では音
[yi ] = [xi ][hji ][gij ]
圧のみで一意性が成立することが知られており15) ,その場
合には M = N となる.そこで一意的に領域 V 内の音場
を決めることができる最小の音圧制御点を qj (j = 1 · · · M )
として議論を進める.
4.2 離散点における境界音場制御の原理
3.2 と同じようにある空間に領域 V の音場 (原音場),そ
0
れとは別の空間に領域 V と合同となる領域 V の音場 (再
0
生音場) を想定する.領域 V ,V の両方において音場を一
0
意的に決めることができる音圧制御点 qj ,qj (j = 1 · · · M )
が存在する.すなわち,
M
∑
fj p(qj ) = p(s)
0
ただし,xj = p(qj ),yj = p(qj ) である.ここで (7) 式
が成立するためには [yj ] = [xj ] となる [hji ] を求めればよ
い.[gij ] が正則であれば [hji ] = [gij ]−1 を求めればよい
が,現実には [gij ] は正則とならない場合が多い.そこで
正則化一般逆行列
[hji ] = ([gij ]† [gij ] + βIM )−1 [gij ]†
(9)
を用いる.ただし [·]† は行列の共役転置,β は正則化パラ
メータ,IM は M 次元単位行列である.正則化パラメータ
を加えることにより,行列の対角成分が大きくなるためそ
s∈V
の逆行列から安定した FIR フィルタを設計することが可能
j=1
M
∑
(8)
となる.理論的には正則化パラメータを加えないほうが音
0
0
0
fj p(qj ) = p(s )
0
s ∈V
0
場再現精度は高くなるはずだが,現実のシステムでは線形
時不変性が成立せず,むしろ正則化パラメータを加えない
j=1
が成り立つ.音圧制御点の相対的位置が同一であれば,
0
fj = fj となるため,
0
p(qj ) = p(qj ) j = 1 · · · M
=⇒ ∀s ∈ V
0
∀s ∈ V
0
と音場再現精度が低くなり聴き苦しい音が再生される可能
性がある16), 17) .
5.
(7)
音響樽の開発
5.1 音場共有システム
複数の BoSC システムを用いて,互いに信号をやりとり
0
p(s) = p(s )
が導かれる.これは,原音場における M 点の音圧制御点
0
することにより遠隔に位置するユーザーが同じ空間を感じ
qj で音圧 p(qj ) を計測し,再生音場における音圧制御点 qj
0
で音圧 p(qj ) が原音場と等しくなるように音場を制御する
ことができれば,原音場における領域 V 内の音場は再生音
0
場における領域 V 内に再生されることを意味する.
4.3 音場再現システム
境界音場制御の原理に基づく音場再現システム (以降
Boundary Surface Control の頭文字をとって BoSC シス
テムと呼ぶ) を図 2 に示す.
ながら会話することができるようなシステムを構築するこ
原音場での収録信号から得られる逆システムの入力信号ベ
で再生された音声は制御点上のマイクロホンアレイによっ
クトルを [xj ](∈ C M ),逆システムの伝達関数マトリクスを
て収音され (WA→B ),逆システムを畳み込んだ後,再現音
M ×L
とができる.すなわち,音場共有システムは,会話の相手
が遠隔に位置することを意識せずに,目の前に存在するも
のとして会話をすることを可能とするものである18) .2 つ
の BoSC システムを用いる場合の音場共有システムの概念
図を図 3 に示す.
話者 A の音声は再現音場 A のマイクロホンによって収
音され,仮想共有音場において再生される.仮想共有音場
),再生音場におけるスピーカからマイクロホ
場 B においてスピーカから出力される.また,話者 B の音
ンへの伝達関数マトリクスを [gij ](∈ C L×M ),再生音場に
声も上記と同じ処理をし,再現音場 A においてスピーカか
[hji ](∈ C
1112
計測と制御 第 51 巻 第 12 号
2012 年 12 月号
図 3 音場共有システムの概念図
ら出力することにより話者 A と B は同じ空間で会話する
れらは床下に設置されたデジタルアンプによって駆動され
のと同じ物理条件を達成することが可能となる.同時に仮
る.天井には 6 個のスピーカを設置し,また壁面に設置し
想共有音場において背景音 (NA ,NB ),たとえば自然の中
たスピーカは高さ方向に 6 層あり,最上層と最下層が 9 個
ならば鳥の声や木々の揺れる音など,を付加することによ
のスピーカで,それ以外の 4 層は 18 個のスピーカで構成
り,話者 A,B は互いに同じ空間情報を感じながら,相手
される.各層の間隔の平均は約 350 mm である.水平方向
が同じ空間に存在するものとして会話を進めることが可能
のスピーカ間隔は最上層と最下層については約 540 mm で
となる.
あり,その他の 4 層は約 330 mm である.また音響樽の壁
音場共有の最初の実験的な試みは櫓型 (あるいはドーム型)
面部分は水平方向に 9,高さ方向に上部,中部,下部の 3,
の BoSC システム (スピーカ数 62) によって行われた19), 20) .
すなわち 27 個のモジュールに分解することが可能である.
この音場共有システムでは話者の方向の知覚が可能となり,
吸音材には吸音効果と快適性を両立可能なポリウール (厚
また三者の会話において話者の顔の向きに応じて音場を再
現することにより,より自然な遠隔会話コミュニケーショ
ンができることがわかった21), 22) .
5.2 音響樽
BoSC システムは受聴者の頭部周囲において音場を空間
的に再現することができるため,受聴者は頭部を自由に動
かすことができる.それが定位感や距離感など空間の表現
力を高める特徴をもたらす17), 22) .しかしながら,櫓型の
BoSC システムはつぎのような点で問題がある.まず空間
が狭いため楽器などを持ち込むことができない.つぎにス
ピーカが上半分に集中しているため下方からの音波の生成
が難しい.さらにスピーカシステムが防音室内にほぼ固定
されているため,分解と組み立てが容易ではなく,外部で
デモを行うことが難しい.これらの反省を踏まえ,次世代
の BoSC システムとして「音響樽」を開発中である.
BoSC システムの音場再現性能を維持するためには逆フィ
ルタを設計できることが前提となる.音場の逆システムは
音響モードに依存することが知られている.そこで室内の
平行壁面をできるだけ少なくして音響モードの規則性を小
さくすることをねらい,写真 1 のような平面が正九角形の
樽型形状を採用した.この樽型形状の BoSC システム (以
降,音響樽と呼ぶ) は内寸の中央直径が 1950 mm,高さが
2150 mm であり,システム内部で管楽器や弦楽器などの楽
器を演奏するのに十分な広さをもっている.床面を除くす
べての方位に合計 96 個のフルレンジスピーカを設置し,そ
計測と制御
第 51 巻
第 12 号 2012 年 12 月号
写真 1
音響樽
1113
さ 60 mm × 2,密度 32 kg/m3 ) を採用した.音響樽の遮音
性能は Dr-20 であり,また残響時間を短くすることで,逆
システムの設計しやすさに配慮した.
音場の収録や伝達関数の測定に用いる BoSC マイクロホ
ンアレイを写真 2 に示す.マイクロホンアレイは C80 フ
ラーレン分子構造と同形状をしており,節の部分に無指向
性マイクロホン (DPA 4060BM) が合計 80 個取り付けて
ある.マイクロホンアレイの直径は約 46 cm であり,受聴
者の頭部を取り囲むのに十分な大きさとなるよう設計され
ている.
遠隔においてアンサンブル演奏を可能とする音場共有シ
ステムの構成を図 4 に示す.計算機はネットワークを介し
て音響信号を相手のシステムに送信する.また,計算機は
収録音場データベースから相手と共有する音場データを取
得し,音場再生を行う.音場データにはあらかじめ逆シス
テムを畳み込んでおくことで,取得した音場データをその
ままスピーカに出力するだけで音場再現が可能となる.
システム間で伝送される演奏音には原音場で収録された
伝達関数を実時間で畳み込む必要がある.システム内で収音
された演奏音は,原音場における音源位置から相手聴取位置
写真 2
レイ
音響樽内部に設置された BoSC マイクロホンア
に対応した制御点までの伝達関数 ([wj ]A→B ,[wj ]B→A ) と
畳み込まれて相手の音場で再現される.また,音源位置から
自らの聴取位置に対応した制御点への伝達関数 ([wj ]A→A ,
図 4 遠隔においてアンサンブル演奏を可能とする音場共有システム
1114
計測と制御 第 51 巻 第 12 号
2012 年 12 月号
[wj ]B→B ) から直接音を取り除いた伝達関数と演奏音を畳み
込み,自らのシステムに再生することで,自らの演奏音に
対する原音場の反射音を再現する.ただし,システム内で
15)
の演奏音の収音系においてエコーキャンセラが必要となる.
音響樽の音場再現性能については物理的,心理的評価の
16)
両面から研究が進行中であるが,基本的な予備調査におい
て従来の櫓型 62 チャンネルの BoSC システムよりも高い
17)
音場再現性能が得られていることが実証されつつある.
謝辞:以上の研究成果は総務省戦略的情報通信研究開発
推進制度 (H18-H20),および文部科学省科学技術振興調
18)
整費 (H18-H20),科学技術振興機構-戦略的創造推進事業
CREST「音楽を用いた創造・交流活動を支援する聴空間共
有システムの開発」(H22.10-H28.3 予定) の支援により実
施したものである.音響樽の外壁の開発には京都大学・建
19)
20)
築家竹山聖氏に協力していただいた.
(2012 年 7 月 30 日受付)
参 考
文
献
1) S.I. Konyaev, V.I. Lebedev and M.V. Fedoryuk: Discrete approximation of a spherical huygens surface, Soviet
Physics - Acoustics, 23–4, 373/374 (1977)
2) M.J.M. Jessel: Secondary sources and their energy transfer,
Acoustics Letters, 4–9, 174/179 (1981)
3) J.E. Ffowcs-Williams: Anti-sound, R. Soc. London, A395,
63/88 (1984)
4) P.A. Nelson and S.J. Elliott: Active control of sound,
275/294, Academic Press, London (1992)
5) M. Camras: Approach to recreating a sound field, J.
Acoust. Soc. Am., 43, 1425/1431 (1968)
6) S. Ise, H. Yano and H. Tachibana: Application of active
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20th International Congress and Exposition on Noise Control Engineering (INTER-NOISE 1991), 625/628 (1991)
7) 三好正人,金田豊:音場の逆フィルタ処理に基づく能動騒音制
御,音響学会誌,46–1, 3/10 (1990)
8) 伊勢史郎,橘秀樹:音場制御理論の比較,電子情報通信学会技
術報告,EA93-26, 6, 55/60 (1993)
9) 伊勢史郎,橘秀樹:エネルギーを視点としたアクティブ制御の
分類,日本音響学会研究発表会講演論文集,689/690 (1993)
10) 伊勢史郎:広範囲の音場再現についての研究 (1)—キルヒホッ
フの積分公式に基づいて—,日本音響学会研究発表会講演論文
集,10, 479/480 (1993)
11) G.F. Roach: Green’s Functions - 2nd ed., 1/8, Cambridge
University Press, Cambridge (1992)
12) E.G. Williams: Fourie Acoustics, 272/281, Academic Press,
London (1999)
13) 伊勢史郎:キルヒホッフ–ヘルムホルツ積分方程式と逆システム
理論に基づく音場制御の原理,日本音響学会誌,53, 706/713
(1997)
14) S. Ise: A principle of sound field control based on the
計測と制御
第 51 巻
21)
第 12 号 2012 年 12 月号
22)
23)
Kirchhoff-Helmholtz integral equation and the theory of inverse systems, Acustica, 85, 78/87 (1999)
R.E. Kleiman and G.F. Roach: Boundary integral equations for the three dimensional Helmholtz equation, SIAM
Rev.16, 214/236 (1974)
H. Tokuno, O. Kirkeby, P.A. Nelson and H. Hamada: Inverse Filter of Sound Reproduction Systems Using Regularization, IEICE Trans. Fundamentals, 80-A–5 (1997)
S. Enomoto, Y. Ikeda, S. Ise and S. Nakamura: Threedimentional sound field reproduction and recording system
based on boundary surface control principle, Proc. ICAD
2008 (2008)
伊勢史郎,豊田政弘,榎本成悟,中村哲:深いコミュニケーショ
ンを可能とする空間創造の試み–プロジェクトの基本方針–,日
本音響学会講演論文集,585/586 (2007)
榎本成悟:三次元音場通信システム,音響技術,No.148 (38–4),
37/42 (2009)
榎本成悟,池田雄介,伊勢史郎,中村哲:境界音場制御の原理に
基づく 3 次元音場再現システムによる空間を共有したコミュニ
ケーションの実現,日本音響学会講演論文集,1411/1414 (2009)
Y. Ikeda, S. Enomoto, S. Ise and S. Nakamura: Three-party
sound field sharing system based on the boundary surface
control principle, Proc. ICA 2010 (2010)
S. Enomoto, Y. Ikeda, S. Ise and S. Nakamura: Optimization of loudspeaker and microphone configurations for
sound reproduction system based on boundary surface control principle, Proc. ICA2010 (2010)
榎本成悟,池田雄介,伊勢史郎,中村哲:境界音場制御の原理
を用いた音場再現システムにおける距離感の再現精度に関する
評価,日本音響学会講演論文集,725/726 (2008)
[著
い
伊
せ
し
勢 史
者
紹
介]
ろう
郎 君 (正会員)
京都大学工学研究科准教授.91 年東京大学工
学研究科博士後期課程修了.早稲田大学講師,奈
良先端科学技術大学院大学助手等を経て 98 年よ
り現職.工学博士.境界音場制御の原理に基づく
アクティブ騒音制御や音場再現技術などに従事.
いけ
池
だ
田
ゆう
雄
すけ
介 君
2001 年早稲田大学理工学部情報学科卒業.03
年同大学大学院修士課程修了.07 年同大学博士課
程修了 (国際情報通信学).07 年 (株) 国際電気通
信基礎技術研究所 (ATR) 研究員.09 年 (独) 情
報通信研究機構 (NICT) 専攻研究員.11 年京都
大学大学院工学研究科研究員となり現在に至る.
音場再現,音場測定・可視化に関する研究に従事.
1115
Fly UP