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OEUVRES
- 1/5 -
OE U V R E S
DE
M. BOSC D'ANTIC ,
D OCTEUR en Médecine, Médecin du
Roi par quartier, ancien Correſpondant de l'Académie Royale des
Science; Membre de l'Académie de
Dijion, de la Société littéraire de
Clermont-Ferrand, & de la Société
des Arts de Londres.
C ONTENANT pluſieur Mémoires ſur
l'art de la Verrerie, ſur la Faiencerie,
la Pote rie, l' art d es F or ges , l a
Minéralogie, l'Électricité, & ſur la
Médecine.
TOME PREMIER
u
A PAR IS.
M. DCC. LXXX.
Avec Approbation & Privilége du Roi.
minami_no_kiki / boscdantictxt. 2013
- 2/5 医学博士、宮殿の国王の侍医、
王立 科学 ア カ デ ミ ー の 前 通 信
会員;ディジョン・アカデミー、
クレルモン=フェラン文学会・
アカデミーおよびロンドン美術
協会会員。
ガラス製造について、ファイアンス
製造、陶器製造、冶金術、鉱物学、
電気について、および医学について
の、いくつもの論文を収録する。
ボスク・ダンティック氏
の
作
品
集
第一巻
パリ
1780
第 16 章
ガラスの組成;土の煆焼効果;ガラスの磁器への転換;この転換現象;この磁器の特性;石
の液体;これまでに示されてきた間違った説明;その組成において煆焼物を可融スパー(※可
融性蛍石) に置換する利点。
……
pp.227-231
私はしばしば、4 種類の土 ※
1、つまり小石類の土、石灰の土、石膏の土、それに粘土の土
を、あらゆる金属の灰と合わせて、ガラスのバッチを作っている。注意深く適切な割合で作っ
たこの混合物を、激しい火で長時間掛けてガラス化し続けて、よく清澄された、丈夫な、泡の
ない、そこに大量に入れた着色元素※
2
のために透明性が少なく、通常は大きな塊で黒く見え
るが、ごく薄い破片では黄色に見えるガラスを絶えず製造している
もしも、融けているこのガラスの「シオ」※
3
のなかに、繰り返し何度も素地を足して混合
するなら、過剰な着色元素が薄められ、それを水緑色(※ verd d'eau )でかつ美しい透明に
することもできる。着色元素はガラスの透明性を損うというのが、この実験結果である。私の
帯電体 ※ 4 の性質に関する論文を見よ。
塊や薄い破片に見られる事実に基づいて、ガラス塩(※シオ)とすでに混ざったこのガラス
が示す黒色と黄色とから、黒色が固有の色でなくて、この場合には黄色の着色元素の濃縮(※
condensation )によって生じた、と結論できないのだろうか?
三原色は、別々であれ一緒
であれ、過剰添加してガラス中で濃縮するとき、どれも黒色になるというのが、私には一番も
minami_no_kiki / boscdantictxt. 2013
- 3/5 っともらしく思える。
4 つの土類と金属灰とから形成し、着色したり消色したりした私たちのガラスを、石灰ある
いは石膏とともに、通常の煆焼の火で長時間セメンテーション ※
5
して、透明性や熔融性を失
い、その性質がより耐火性があって、しかも酸類によって腐食されない物質に変化させるが、
もしもその組成にカッシウスの沈殿を入れなければ白色磁器に変化し、もしもやや多く添加す
ればガラス磁器が淡いパープル色になる。
ここに熟考しなければならない、いくつかのきわめて奇妙な事柄がある。
1o.
金灰以外の、4 種類の土と金属灰は、ガラス化およびセメンテーションで、すべての
特徴的な性質を失う。
2o.
o
3 .
すべての金属灰、金灰さえも、完全に還元不可能になる。
これらの鉱物土と金属土のすべては、唯一の、元と同じ土に還元され、またあらゆる
酸によって腐食されない、しかも既知のものよりもずっと非熔融性の土になる。それは真の根
源的な土、元素的な土ではないのだろうか?
確かに、それは技術ではその組成を証明できな
いほど、ごく単純なように思える。その土がもっとも多く類似点があると思えるのは石の類で
あるが、少なくとも、熔融性がとても小さな点で異なっている。
4o. その他の金属灰がガラスに賦与する色はセメンテーションで完全に破壊されるが、金灰
のパープルには非破壊性がある(※パープル色が保持される)。ムリーヌ器※ 6 というものは、
考えてみるに、パープルに着色した古代人のガラス製磁器ではなかっただろうか?
この推測には、まったく根拠が示せない訳ではないように思える。私たちが持ち合わせてい
る曖昧な記述から判断すると、これらの壺は赤色をしていて、ガラスの透明性も脆さもなく、
冷たいものを熱くしたり、熱いものを冷たくしたり著しく変化させても、とてもよく耐えたと
ある。これらの特性は、錫による金の沈殿を用いた、私たちの着色ガラス製磁器とぴったり一
致しているように思える。しかし、この研究は古美術やそれらの傑作について私よりもずっと
学識のある人々に残しておかねばならない。
5o.
金属灰や固定アルカリ(※炭酸ナトリウム)のようなアルカリ土が、ガラス化による
よりもセメンテーションによってずっと完全に、主要ガラス成分の添加で得た特性を失うこと
は、この操作によって、それらが自身の根源的な単純さに還元されるというのがありそうな理
由である。
訳註
※ 1
憶測するにシリカ、炭酸カルシウム(あるいは酸化カルシウム)、硫酸カルシウム、ア
ルミナ鉱物といった原料が挙げられているのだろう。
※2
※3
principe とあり、物質の根源である原子、あるいは元素を指すと考える。
du suin à ce verre en fusion とある。カネラは le suin とは熔融ガラス表面のシオ(硫
酸塩、塩化物)であると考えている。これが suint なら、普通の辞書(『大修館新スタンダー
ド仏和辞典』初版 1987)に「(熔融ガラスの)浮きかす、スカム」と載っている。
minami_no_kiki / boscdantictxt. 2013
- 4/5 引用書 Anne-Françoise Cannella, Gemmes, verre coloré, fausses pierres précieuses au
Moyen Âge, Liège 2007, p.139.
※4
la matière électrique とある。électrique adj.とは当時(1762)の辞書には、摩擦
でものを引きつける特性であると説明されていて、古代ローマ時代のプリニウス『博物誌』
(37,11,[48])にもあるとおり、琥珀(sucina とか electrum とか書かれている)の力とし
て有名であった「静電気」であると分かる。著者は本巻の最後の論文 pp.284-でこれを論じ
ている。
※ 5
一般に金属を硫黄や塩類などで変質させる熱処理を云う。ここでは、加熱によるガラス
の変質(失透)処理のことで、「結晶化」を意味していると考えられる。
※6
les vases murins とあり、プリニウスはこの高価な石のムリーナ murrinus に詳しい
が、これが何を指すのか諸説あるものの、訳書では多くの辞書※でも推定されているように「蛍
石」となっている。プリニウスの記述(37,8,[21 と 22])に拠れば産地はパルティア王国内
ほかで、地下で液体が固化したものと云い、価値のある匂いがあると記していて、恐らく、い
くつかの説を接合したように思える。また、色彩の美しい瑪瑙とも推定されている。より新し
くは、ムリーナとはイタリアでさまざまな色ガラスを熔着させた、モザイク技法のガラス製品
を呼ぶ名称でもある。
参考
Ausführliches lateinisch-deutsches Handwörterbuch, Hannover 1918 の'murra'
や、フランス語の辞書 Littré(1863-1873)の'MURRHIN'など。
ボスク・ダンティック Paul Bosc D'Antic 1726-1784 はフランスの化学者で、息子ルイ
Louis-Augustin Bosc d'Antic (植物学者、動物学者)の方が有名であるらしい。これは概論
ではないが、ガラスの歴史、原料から特性までガラス技術全般にわたる多くの小論文が収めら
れている。しかしながら、フロギストン説があり、文章が難しく奇妙な用語だらけでとても解
りにくいが、著者はサン・ゴバン社(創業 1665)や、ロレーヌ地方のサン・キラン Saint Quirin
のガラス工場などに技術貢献し、受賞もしている正真正銘の優れたガラス技術者であったと云
う。ところが一方では表題にあるように、国王の侍医でもあったというのが現代人にとっては
不可解である。
この章で説明されているのは、理解不能の箇所は扨措き、ガラス製磁器とあるが、ガラスを
熱処理によって「不透明で腐食も熔解もしない物質」に変質させており、つまりガラスセラミ
ックス=結晶化ガラス以外になく、金で淡いパープルに加熱発色させているものがある、と分
かる。金属酸化物はガラスセラミックス中では還元されて、もはやイオン着色しない(近年の
着色ガラスセラミックスの特許出願文が参考になる)。確かに、金ルビーだけが金属金に拠る
ので着色剤として有効であるというのも納得がゆく。このような結晶化ガラス技術の実用化は
20 世紀のストゥーキー以降のものと思っていたが、18 世紀にこのように的確に、さらに実用
化されていたように記述されているとは驚きである。ただし、ムリーヌが古代にあった金パー
プルではないかというのは空想的にすぎる。
底本
Oeuvres de M. Bosc d'Antic, Paris 1780, Chap.XVI.
minami_no_kiki / boscdantictxt. 2013
- 5/5 本書は現在、英訳版" Bosc d'Antic on glass making" が Society of Glass Technology か
ら出版されていているが未見である。
minami_no_kiki / boscdantictxt. 2013
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