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2020年 風疹排除に向けて

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2020年 風疹排除に向けて
2020年
風疹排除に向けて
第67回 日本産科婦人科学会学術講演会 ランチョンセミナー32
開催場所:パシフィコ横浜 日時:2015年4月12日
座長
山中 美智子
聖路加国際病院
先生
女性総合診療部
医長
講師
奥田 美加
国立病院機構
先生
横浜医療センター
産婦人科
共
催
部長
第 67 回日本産科婦人科学会学術講演会ランチョンセミナー
2020 年
座長:山中
講師:奥田
美智子
美加
風疹排除に向けて
先生
先生
(聖路加国際病院 女性総合診療部
(国立病院機構 横浜医療センター
座長
皆さん、こんにちは。聖路加国
医長)
産婦人科
講師
座長
山中先生、ご紹介をどうもあ
際病院産婦人科の山中です。今
りがとうございます。当セミ
日は国立病院機構横浜医療セン
ナーを選んでいただき、あり
ター産婦人科部長でいらっしゃ
がとうございます。私の話は、
る奥田美加先生に「2020 年 風
最先端の研究をするとか、海
疹排除に向けて」ということで、
外のものすごいトピックスと
お話をいただきます。
いったお話ではないのですが、
恒例により、簡単にご略歴を
ご紹介させていただきます。奥田先生は 1992 年に横浜
部長)
必ずや皆さんの臨床にお役立
てていただければと思っています。
市立大学を卒業されて産婦人科に入局、その後、横浜市
山中先生にはとてもお世話になり、今ご紹介いただい
内の総合病院、神奈川県立こども医療センター等の勤務
たように風疹のお仕事で学位を取りましたが、山中先生
を経て、2013 年から現職でいらっしゃいます。ご専門
がいなければ今の私はない、私の息子もいない、一生を
は周産期で、学位も風疹のことでとられました。本学会
ささげたいくらいお世話になっている先生に座長をし
以外にも周産期新生児医学会、医会等でもいろいろと役
ていただける、こんな光栄なことはないと思っています。
員をしながらご活躍中ということで、今日はお話を楽し
みにしております。
1
2020 年 風疹排除に向けて
なぜ、いま「風疹」なのか
No.1
「2020 年 風疹排除に向けて」というタイトルでお話をさせていただきます。
利益相反はございません。さて、なぜ今、風疹の話をすることになったか。そ
れはきっとここにいる皆さまはご存じのとおりだと思いますが、2013 年に風疹
が流行しました。
No. 2
2013 年に流行する前に風疹は、後でお話するワクチンの変更によってどんど
ん数が減ってきて、全数報告で 2009 年に 147 例、2010 年に 87 例にまで減り
ました。これは風疹が排除できるのではないかと期待をしていたのですが、
2011 年に職場などで、海外から帰ってきた人からの感染による局所的な風疹の
集団発生が起こったという報告が出てきました。
これはと思っていたら案の定、
その翌年にだんだん患者数が増えてきて、2013 年には残念ながら 1 万 4000 人
もの風疹患者の報告数を出してしまいました。その後、また 2014 年にもたく
さん出るかと思ったら幸い大丈夫でしたが、そのような風疹の流行を迎えてし
まいました。
No. 3
もちろん風疹というのは妊婦さんが妊娠初期にかかると、
先天性風疹症候群が
発生してしまうところに問題があるのですが、実はこの流行に先だって、約 10
年前にも流行がありました。その時の推計患者数は実は 4 万人と言われていま
すが、CRS(先天性風疹症候群)が 10 例発生しました。今回の流行による先
天性風疹症候群はトータルすると 45 例で、より多くの方に発生してしまいま
した※1。今、ここで風疹対策をしないと悲しい思いをしてしまうお母さん、赤
ちゃんが増えてしまうということで、今回、この話をさせていただくことにな
りました。
※1:2006年に届出基準が変更された。このため、2003年当時のCRS 発生数は実際には
さらに多いと推測されている。
No. 4
感染以外の多くの先天異常に関しては、診断して対応することはできても、
その発生を抑制することはなかなか難しいのですが、先天性風疹症候群という
病気は、防ぐことができる。もしかしたら、なくしてしまうこともできるかも
しれない。きちんと対策をすることによって、この世から風疹を、そして CRS
をなくす。そのためには風疹の歴史を知り、ワクチンがどのようにされてきた
かを知って、今、私たちが何をしなければいけないかをよく知っていただいて、
私たちが率先してワクチンを推奨することをお願いしたいと思います。
2
第 67 回日本産科婦人科学会学術講演会 ランチョンセミナー
No.5
本日のお話は 10 年前の風疹流行に始まります。それになぞらえて、今回の
流行の特徴をお話しし、風疹ワクチンについてお話をします。それから臨床で
知っておきたいことを、私のデータを二つほどお話しして、最後に 2020 年度
の風疹排除に向けて何をすればいいかを提案したいと思います。
2003 年~2004 年<10 年前>
風疹流行と緊急提言
No.6
約 10 年前の 2003 年から 2004 年にかけての風疹の流行と、その時に出した
緊急提言についてご紹介したいと思います。
ベテランの先生方はおそらくご存じだと思いますが、2003 年から 2004 年に
かけて風疹の流行が発生して、CRS が 10 例と急増しました。これ以上、風疹
流行を起こしてはならないということで、その時に厚労省の研究班が立ち上が
りました。私もお手伝いをさせていただいたのですが、流行の真っただ中です
ので、とにかく急いで提言を出そうということで、急いで提言をまとめた記憶
があります。
「風疹流行および先天性風疹症候群の発生抑制に関する緊急提言」
を 2004 年 9 月に発表させていただきました。
No.7
この提言の 3 本柱としては、一つは「予防接種を勧奨しよう」ということで
す。ご存じのとおり、実は感染症は、その集団の中で、免疫を持っている人が
十分にいれば、患者さんが発生して、そのそばで免疫のない人がたまたまいて
感染したとしても、それが周りに広がることはなく、流行になることはない。
流行を起こしてしまうことを抑制できる集団免疫の閾値は、風疹の場合は 80
~85%とされています。
もう一つの柱は、風疹にかかった、もしくはかかったのではないかと疑われ
た妊娠女性に適切な対応をするということで、それに対する診療のフロー図を
作りました。あとは各施設で対応が難しい場合に、相談できるような窓口を作
りました。
それから、どのように流行が起こっているのかという疫学調査。それは私ど
も産婦人科の仕事ではなく、感染症疫学センターなどの仕事になりますが、疫
学調査をきちんと強化しようという提言をしました。
風疹はそれまでは定点報告でしたが、この提言を出して、その後、2008 年
からは全数把握疾患となりましたので、風疹と診断したら、先生方は最寄りの
保健所に必ず報告するようにしてください。
3
2020 年 風疹排除に向けて
No. 8
このフロー図はガイドラインなどでも時々引用されていますので、どこかで
目にしていただいたことがあるかと思いますが、まず問診をとってください。
流行していない時は特に、発疹もなければ周りに風疹の人もいないという方に
関しては、風疹の可能性はまずありません。大半の人がそうだと思いますが、
いずれもない場合にはいつものスクリーニングのほうのルートにいきます。
ところが、風疹も流行していて、明らかに発疹が出たという風疹を疑わせる
ような症状がある場合には、風疹を疑って感染診断をしていくルートになりま
す。
No. 9
妊娠の初診時に風疹の HI の抗体価を測定していただきますが、HI 価がいく
つで低いと判断するのか、いくつで高いと判断するかは、かなりいろいろな議
論がありました。どこかで決めなければいけないということで、低い方に関し
てはワクチンを打つと抗体価がいったん上がる、ブースターがかかる頻度が高
いところで 16 倍。逆に高いほうに関しては、256 倍ぐらいだったら実は大勢
いますが、その当時、流行の真っただ中にある中ではやはりハイリスクの例を
見逃してはいけないという議論で、256 倍と設定しました。抗体価の低い方に
は妊娠中に風疹にかからないように気を付けてください、無駄な人混みは避け
てくださいという注意指導をする。妊婦さん本人には当然、生ワクチンは打て
ませんので、同居家族や周辺にワクチンを打ってくださいということをお願い
し、ご本人に対しては、分娩や流産などで妊娠が終了したらワクチンを受けま
しょうとお勧めする。だから、むしろ抗体価が低い人に対してお話をしてあげ
ることのほうが大切だと思ってください。高い人に関しては、HI をもう 1 回
再検し、IgM を測定するという流れになっています。
No. 10
スクリーニングに対しては HI 法を採用しました。いろいろな批判もありま
すが、どうしてこれを採用したかというと、HI 法は保険点数も低く、安価でで
きるということで、妊娠初期のスクリーニングとして、すでにいろいろな施設
で広く行われていた検査法です。それから HI 法で、風疹にかかった人は HI
価でどのような変化をするか、
ワクチンを打ったら HI 価がどうなるかという、
いろいろな検討のデータが日本の場合はたくさんあります。ですので、よく検
討されているものとして HI 法を採用したという事情があります。
4
第 67 回日本産科婦人科学会学術講演会 ランチョンセミナー
No. 11
HI 法以外にどのような検査法があるかというと、IgG と IgM を別々に測定
しようと思うと EIA 法になりますし、その他、スクリーニングに適しているラ
テックス免疫比濁法(LTI 法)もあります。それぞれについて簡単にご紹介し
ます。
No. 12~13
HI 法は簡単に言うと血球を凝集させる、させないという凝集の度合いを見
る検査法です。1 年半か 2 年ほど前に、ガチョウを育てている農家さんの事情
で、ガチョウの血球が足りなくなるという事態も生じましたが、血球を使うこ
とで海外ではあまりメジャーではない検査方法です。
HI 法の注意点としては、このように凝集するか、しないかは目視で見るのと、
倍々希釈になるので、ワンカラム程度の差は誤差の範囲になります。だから 32
倍と 64 倍が明確な差というわけではありません。あとは少しアッセイに時間
がかかります。
No. 14
EIA 法は、抗原に対して抗体が結合し、それに標識物を結合させて測定する
方法です。アッセイ時間は少し短くなりますが、少し高価になります。
5
2020 年 風疹排除に向けて
No. 15
ラテックス凝集比濁法は、抗原を固相化したラテックス粒子と検体を反応さ
せることによって、
抗体があると凝集して凝集塊を形成し、
それを測定します。
これはアッセイ時間が非常に短いそうです。
吸光度測定をすることになります。
No. 16
各検査法の比較を 1 枚にしましたが、HI 法と LTI 法は安価でできるけど、
EIA 法は少し高い。HI 法は先ほども言ったように、多くの知見が集積されて
いるということ、診療が定着しているということです。ただ、連続データでは
ありませんので、ワンカラム程度は誤差であることをよく知っておくこと。そ
れから、少し時間がかかります。EIA 法は海外では主流の検査法になっていま
すし、IgG と IgM のグロブリンクラス別に検討ができます。ただ、少し保険点
数が高いので、どうしても妊娠初期検査は結構お金がかかるので、そこにもう
1 個加えることになると、少しハードルが高いということになります。
LTI 法はあまり多用されてはいないと思いますが、これはやはり短時間で、し
かももともと病院に設置されている汎用の自動分析装置で測定が可能というこ
とで、新しく機械を買ったりする必要がないそうです。ですので、入職時の職
員健診など、大量の検体を一度に処理することに関しては、免疫があるのか、
ないのかを判定すればいいのであれば、適している検査かと思います。ただ、
感染診断の感染初期の抗体の上昇に関しては、ペア血清として上昇を捉えられ
ないという特徴がありますので、
感染初期の診断には適さないとされています。
No. 17
スクリーニングの留意点ですが、よく言っているのは、例えば私が風疹の人に
何日か前に会って、熱が出てきて、だるくて、ブツブツが出てきました。さあ、
私が今かかっているのは風疹でしょうか。風疹かどうかを診断するのに血清を
とって、1 週間後にもう 1 回とって、風疹の HI が上がっているね、IgM も上
昇したねというように私の感染症が風疹であることを診断することと、何も症
状のない人に「免疫を持っていますか」といって、スクリーニングで検査する
ことはまったく別物であるということを、頭の隅に置いておいてください。一
番の目的は、実は抗体陰性者を見つけてワクチンを勧めることにあります。
HI 価 256 倍以上を再検査としていますが、結局、真の CRS は今回の流行で
も 3 年間で 45 例※2 です。
症例に当たった人はたぶん滅多にいないと思います。
なので、CRS の本当のハイリスク例はまずないことを認識する必要があります。
評価については、また後でお話をします。
※2:難聴のみなどで診断のついていない CRS 例がもっと多く存在すると推察されてい
る。
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第 67 回日本産科婦人科学会学術講演会 ランチョンセミナー
今回の流行の特徴
No. 18
では、今回の流行の特徴についてお話をします。
これもいろいろと報道されているのでご存じの方が多いかと思いますが、10 年
前に流行して、2013 年にまた流行が起こってしまいましたが、2013 年の風疹
の流行の特徴は、20 代から 40 代の男性と 20 代の女性に患者さんが多かった
ということは、皆さんも新聞などでご存じかもしれません。本来、風疹やはし
か、水ぼうそうといった感染症は子どもの感染症ではないかというイメージが
ありますが、今回はちょうど妊娠をするような女性およびその周辺の男性に流
行してしまったため、CRS が多く発生してしまったところが今回の流行の特徴
です。
No. 19
ではなぜ子どもの感染症だったはずなのに、妙齢の男性と女性に風疹患者さ
んが多く発生してしまったのかということを知っておく必要があります。
風疹ワクチンのことを知ろう
No. 20
それには風疹ワクチンの歴史を知る必要があります。これを知ると一目瞭然
です。
風疹ワクチンの歴史は、
アメリカで風疹ウイルスの分離に成功した後に、
弱毒の生ワクチンが開発されました。ワクチンが開発された当初、このワクチ
ンを誰に提供すると CRS が抑制できるのかという議論がありました。米国方
式は、流行そのものを抑制する目的で、男女の幼児全てに接種をしましょうと
いう形で行われています。日本では、ある程度の年齢以上の女性はご存知と思
いますが、女子中学生にのみ接種をする。すなわち、風疹にかかっては困る人
に対して免疫をつけることで CRS を抑制しようという方法でやりました。
No. 21
さて、約 10 年後には明確に判定結果が出ました。アメリカでは風疹そのも
のが抑制された結果、CRS はほぼゼロになったと聞いています。2005 年には
排除宣言をしています。一方、日本では感染自体は全く抑制できていませんの
で、CRS をゼロにすることはできませんでした。実は多少免疫を持っていても、
再感染でも CRS は起こり得ます。ですので、われわれ女性だけに免疫を付け
てあげても効果は低いのです。流行そのものをなくさなければ、CRS はなくせ
ないということを肝に銘じておく必要があります。
7
2020 年 風疹排除に向けて
No. 22
ギリシャの悲劇というのもありますが、小児への予防接種率が不十分だと風
疹を排除するには至らない。そうすると何が起こるかというと、子どものうち
にかかり終わっていたはずだけど、中途半端に抑制すると、子どもの時にかか
らないで大人になってからかかる人が出てしまう。1994 年のギリシャでは、ワ
クチン導入前よりも CRS がむしろ増えてしまったことがありました。ですの
で、どうせやるなら徹底的に排除することが必要であることがお分かりいただ
けると思います。
No. 23
だったら自然感染で、子どものうちにかかってしまえばいいではないかと思
いたいところですが、最初に出したグラフの左上に書きましたが、流行した時
には沖縄だけで 400 例や、
その後も 100 例の CRS が発生した年がありました。
自然流行下では、どうしても CRS は多く発生してしまうので、やはり減らし
てなくすためにはワクチンが必要になってきます。
No. 24~25
我が国における風疹ワクチンの歴史を知っておきましょう。1977 年から中学
生の女子だけ、学校で集団接種をしていました。私も学校で受けました。その
後、幼児全員に打ちましょう、生後 12 カ月以上 90 カ月未満の男女幼児に打ち
ましょうと方針が変更されました。急に幼児だけにしてしまうと、その間にあ
る人は女子中学生でも受けられない人が当然でてきます。そのすっぽ抜ける世
代に対しては、
経過措置として、中学生の男女も定期接種の対象としましたが、
集団接種から個別接種になったので、学校でこの日は風疹ワクチンの日だよと
言って、問診票を持っていて、じゃあ打ちましょうと打ってもらうのと、私た
ちが自分で医療機関に行くのとでは、やはり接種率がどうしても下がってしま
う。お子さんのいる人は分かると思いますが、赤ちゃんだと、この時にワクチ
ンを打って、これを打って、何カ月後に打って、とやっていると一生懸命打ち
ますが、中学生を病院に連れて行って、ワクチンを打とうというのはやはりな
かなか難しいので、激減してしまったということがあります。
これではいけないということで、2 年ほどの経過措置として、すっぽ抜ける世
代の人は「どうぞいつでも来てください」としたらしいですが、でもそういう
ことをやっていると個別に電話でもしないとなかなか伝わらないと思います。
自分が接種対象者であることを知らないまま、その時期が終わってしまった。
地域によっては 20%程度しか受けていないと聞いています。それよりも前の、
女子中学生みんなが受けていた時代よりも上の男性には、そもそも定期接種を
受ける機会すらありませんでした。ただ、ご年配の方だと子どもの時にかかっ
たりもしているので、免疫をお持ちの人は多いかと思います。
8
第 67 回日本産科婦人科学会学術講演会 ランチョンセミナー
No. 26
これではいけないということで、ようやく MR ワクチン(麻疹・風疹混合ワ
クチン)が認可され、2006 年度から現行の 2 回接種が始まりました。2 回接種、
覚えてください。妊婦健診などに来たお母さんたちに「1 歳のお誕生日プレゼ
ントに MR ワクチン」
、それから「小学校の持ち物にお名前を。母子手帳にワ
クチンを」と覚えていただければ 2 回接種の時期が覚えられるかと思います。
これも時限措置がありました。2006 年以降に生まれた人に関しては、2 回接
種を受けられますが、その上の世代の私の息子は昔の麻疹を打って、風疹を打
っての 1 回で終わってしまうので、2 回目として中学校 1 年生になった時、あ
るいは高校 3 年生になった時に 1 回だけワクチンを打っていいですというとき
を作っていただきました。私はこの仕事をしているので息子の中学校の入学式
が終わった帰りに、クリニックに連れて行って打ってもらいましたが、やはり
高校 3 年生はお母さんと一緒に※3 ワクチン行きましょうというのは、なかなか
ハードルが高いと思いますので、特に第 4 期の接種率は大都市圏では低かった
と聞いています。
※3:13 歳以上は、保護者の同意書サインがあれば、同伴の必要はありません。
No. 27
今日現在で何歳の人がどうなっているかを表にまとめました。中学 3 年生以
下の人は現行の 2 回接種が終わっています。
24 歳以下の人に関しては、3 期か 4 期で 2 回目が終わっているはずですが、
低い。25 歳から 35 歳の間の人は、先ほど「すっぽ抜け世代」と言いましたが、
ワクチン接種率が低い世代です。ちょうど妊娠、出産をするような年齢です。
それ以上の男性に関しては、そもそも過去に定期接種の機会はありませんで
した。それ以上の 52 歳までの女性は、私と同じで中学生の時に学校で集団接
種を受けています。私より少し上の世代は、定期接種の機会がやはりありませ
んでした。
No. 28
これを覚えておいていただいて、先ほどの流行してしまった図に当てはめて
みると、やはり定期接種の機会がなかった男性、定期接種の経過措置があった
けれど接種率がいま一つ高くない 4 期の人。やはりこの辺りに患者さんの発生
数が多いことが、一目瞭然で分かっていただけます。
No. 29
女性のほうも、中学校で集団接種をしていた世代はそれなりに抑制されてい
ますが、経過措置と 4 期の人に患者さんの数が多いことがお分かりいただけま
す。ですので、予防接種の過去の機会が患者数に影響していることは明らかと
いうことがお分かりいただけると思います。
9
2020 年 風疹排除に向けて
No. 30
なぜ 2 回接種なのかということを、感染症疫学センターのホームページから
引用してきましたが、1 回の接種では免疫がつかなかった人に、もしかしたら
もう 1 回打てば、
つくかもしれないということ。
それから 1 回やっただけだと、
自然の流行が今はないので、ブースターがかからないということで、もう 1 度
免疫を強くしてあげるということ。それから 1 回目、1 歳のお誕生日プレゼン
トにワクチンをと言われながら、
その時にちょうどたまたま風邪を引いていて、
次に打とうとしたら、ちょっと都合が悪くてなんてしている間に 1 歳が終わっ
てしまって、定期接種ではなくなってしまったというような 1 回目を接種しそ
びれた人に、もう 1 度接種の機会を与える。というようなことで、集団として
の麻疹、風疹の抗体を有する率を上げるには、2 回接種が有効です。
アメリカなどでは当然のようにやられていますが、日本はそこまで至るのにず
いぶんかかってしまいました。
以上、2003 年の流行、2013 年の流行、それからなぜこのようなことになっ
てしまったのかということと、ワクチンの関連についてお話をしました。
臨床で知っておきたいこと
No. 31
では、私が 2004 年にこの仕事をしてから、いくつかのデータを出していま
すが、少し参考になることをお話したいと思います。
2004 年に提言が出てすぐ、私の施設で産褥入院中、産後 4 日目の風疹ワク
チン接種を準備して始めました。それでいくつか興味深いことが分かってきま
した。
No. 32
臨床の現場の人はよくご存じだと思いますが、前の妊娠の時に HI が 16 倍だ
からワクチンを打った。次に妊娠して来て初期検査をやった。また 16 倍、と
いうことを経験されている方はたくさんいらっしゃると思います。やり始める
と割とすぐに皆さんが気が付いています。抗体が全く陰性で 8 倍未満の方は、
ほとんどの人が陽性化して、抗体価をそのままキープします。ですが 8 倍、16
倍で低いながらも抗体がある方に関しては、抗体価が上昇しないことがよくあ
ることは、ご経験のとおりです。
10
第 67 回日本産科婦人科学会学術講演会 ランチョンセミナー
No. 33~35
これは私がやった一つ目の仕事で、1 カ月健診の人に同意を取って HI の抗
体価を調べてみました。接種前 8 倍未満の人、8 倍だった人、16 倍だった人を
それぞれに分けて、接種後約 1 カ月弱の HI 価を調べてみました。そうすると
先ほど申し上げたように、8 倍未満の人は全員が陽転しました。8 倍の人も全
員が 2 カラム以上、つまり 32 倍以上の抗体価になっていますし、16 倍の人に
関してはワンカラム程度の人も少しいますが、やはり大半の人は抗体価がいっ
たん上昇していることが分かりました。
「そうか。じゃあ褥婦さんで、お産後で
疲れていても風疹のワクチンの接種効果が下がることはないんだな。これはよ
かった」とこのデータを出した時は思いました。
ですが、先ほど言ったように、あまり変わらない人がいるということが分か
ったので、今度やってみたのは、同じ方ではありませんが、数年間の間に私の
施設でお産をして、もう一度お産をしに来てくれた方の妊娠初期検査の HI 価
を調べてみました。そうすると、先ほど言ったように接種前 8 倍未満だった人
に関しては、1 人は 16 倍とはいえ、全員が陽転して、抗体価をキープしている。
ところが 8 倍、16 倍の人に関しては、ラインを引いていますが、ワンカラム程
度の上昇までの人が大半です。有意な上昇のキープには至らず、HI の値はあま
り変わらないことが分かりました。では、打ってから測定するまでに時間がか
かれば、どんどん下がってくるのかと思いましたが、そうでもないのです。色
分けは先ほどのとおりですが、打って半年くらいでまた次の妊娠をしましたと
いって来た人であっても、割と下がってしまう人は下がってしまうことが分か
りました。ですので直後に関しては、先ほど言ったように 1 カ月健診ではいっ
たん抗体価は上がりますが、その後、比較的速やかに元の値に戻ってしまう人
が多くいることが、これで分かりました。
No. 36
低抗体価、すなわち陰性ではなく抗体が低いながらもあるという方のワクチ
ン接種に関しては、接種後、短期間で測定するといったん上昇する人が多いの
で、全く免疫を賦活させる意味がないということはありません。もっと免疫の
研究をされている先生だと、細胞性免疫のメモリーに関してはしっかりとキー
プされているとおっしゃっている方もいます。ですが、HI という測定法に限っ
ていえば、
次に測定すると同じぐらいになっていることが多いので、
特に 8 倍、
16 倍の方に接種する時は、いったんは上がるから効果はあるということ、それ
から、もしかしたら次の妊娠の時に測ると同じぐらいの値かもしれないという
ことを、余裕があればお話をしておくといいかもしれません。
ただ、先ほど申し上げたように、今の中学校 3 年生までの人たちは 2 回接種
を受けていますが、それ以上の人たちは定期接種として 2 回目の接種は与えら
れていません。極端な話、2 回接種をしていない人は全員もう 1 回打ってもい
いと私は思っていますが、なかなかそうもいかないので、妊娠、出産をしたと
いうチャンスで医療機関を訪れた人には「あなたは 2 回接種の 2 回目、あなた
11
2020 年 風疹排除に向けて
の赤ちゃんと同じよ」
と言って、打ってあげればいいのではないかと思います。
ただ、抗体価が上がらないからといって上がるまで 3 回、4 回、5 回と打つ必
要はありません。
集団で感染を予防するような方法に関して言うと、打った後の抗体検査も必
要ないとされてもいますので、とにかく 1 度受けていただければ結構です。目
的は、個人のそれぞれの抗体価を一生懸命上げることではなく、集団としての
免疫をきちんと付けてあげて、風疹をなくすことにありますので、個々の細か
いことに捉われる必要はありません。16 倍はまた打っても 16 倍だよと、がっ
かりさせてしまうかもしれませんが、日本から今以上にきちんと風疹が排除さ
れた暁には、8 倍未満の陰性の人だけの接種でよくなるかもしれません。
No. 37
さて、緊急提言の三つの柱を先ほど申し上げましたが、緊急提言を出した時
にワクチン接種推奨をしました。そのワクチンを接種する対象者として、その
当時に記載させていただいたのは、もちろん幼児に対するワクチンの定期予防
接種は強化してください。それと共に定期接種以外の接種者として、妊娠して
いる人のご主人、ご家族、それから妊娠をしたいと思っている人に関しては打
ってください。それから先ほど言った産褥早期の女性にワクチンを提供しまし
ょうということを提言に盛り込みました。でも、今回の流行が起こってしまい
ました。そのわけをいろいろと考えたのですが、
「妊娠する人が風疹にかかると
危険だ」ということを強調したので、妊娠を希望する人、妊婦とその周辺を強
調した結果、何が起こったかというと、パートナーのいない男性や、うちは子
どもを産み終わっているからもういいという男性たちが、
「僕は風疹のワクチン
と関係ない」と思ってしまって、ワクチンを受けなかった。そのことが先ほど
の 20 代から 40 代の男性に風疹が流行してしまった原因を作ったのかもしれな
いと思っています。
実際に私の友人も、今回の 2013 年の流行が起こった時に「でも風疹のワク
チンって産婦人科の話だけだよね。僕関係ないから」と言った 40 代の男性が
いました。ですので、今回の流行はもしかしたら、そういうところにも原因が
あったのではないかと思っています。
妊婦の CRS リスク評価
No. 38~39
では次にもう一つ、臨床の現場でどうしても CRS のリスク評価をしなけれ
ばならないことに出会うかと思いますので、少しお話をしておきます。
CRS の発生リスクは文献によってもいろいろですが、もう典型的な風疹感染。
妊娠初期に発疹も発熱もありました。
ペア血清でばっちり上がりました。
「ああ、
あなたは風疹にかかりましたね」というような顕性感染に関しては、報告や記
載にもよりますが、妊娠の初期だとかなり高い確率で CRS が発生すると記載
されています。感染症疫学センターのホームページの数字のほうが実際に近い
12
第 67 回日本産科婦人科学会学術講演会 ランチョンセミナー
かと思っていますが、産婦人科の診療ガイドラインでは 4~6 週で 100%と書い
ています。妊娠初期にはリスクが高いことは、もちろん昔から知られているこ
とです。
早い時期だと重複でいろいろと障害が出てしまうことがありますが、20 週以
降だと基本的には永続的な障害は残さないとされています。目と耳と心臓です
が、その他にも出血斑や肝脾腫など、いろいろな症状が出ることがあります。
治療に関しては、特異的な治療はなく、対症療法になります。ただ大半の CRS
に関しては、トレーニングをしてあげるとか、補聴器を使用する、白内障の手
術をすることで、日常生活が可能となる症例もありますが、もちろん重症なケ
ースもあります。
難しいのは、成人でも 15%程度が不顕性感染だそうですので、母親が無症状
であっても CRS は発生し得る。まれに抗体測定歴があって、抗体があると分
かっているのに、今回また風疹にかかってしまったという再感染でも CRS は
発生し得ます。ただし、不顕性感染での胎児感染率は低いというデータもあり
ます。
No. 40~41
では、CRS のリスク評価として HI を測りました、ものすごく高いです、こ
の人は CRS としてお話をしなければならないでしょうか。そんなことはあり
ません。先ほど言ったように、CRS の診療を実際にした方はほとんどいらっし
ゃらないと思います。HI は個人差がかなり大きいです。1024 倍や 2048 倍も
たまにいらっしゃいますが、そこのワンポイントで、高いからといっても、流
行期などでなく、本人に症状がなければ、その方が CRS のリスクが高いとい
うことはありません。では、そういえば昔、学校で IgM を習った。感染すると
感染初期に IgM が上がって、下がっていって陰性化する。ということは IgM
が陽性だったら、さすがにこれは最近かかったばかりでしょう。それもそうと
は限らない。これもガイドラインにも書かれていて、だいぶ浸透してきました
が persistent IgM と言って、特に感染を起こしたばかりでなくても、IgM を測
定すると検出されてしまう。長く検出されるケースが、実は少なからずありま
す。こうした例に関しては、やはり CRS のリスクはありません。
私が前にいた施設では、風疹抗体のスクリーニングとして、HI を測定すると共
に IgM を一緒に測っていたことがあります。それがいいかどうかはともかくと
して、IgM のデータがたくさん集まりました。全妊婦に対して IgM を測って
みると、実は±以上という人がそれほど少なくはなく、1%ぐらいはいることが
分かりました。ですが、私どもの施設で CRS が大勢いたかというと 1 例もあ
りません。ですので、風疹流行もなく、明らかな患者さんとの接触がない場合
には、
これらの赤ちゃんに CRS のリスクはないと言っていただいて結構です。
13
2020 年 風疹排除に向けて
No. 42
1800 例ほどをまとめた表がこちらです。先ほど言った 1024 倍という方も、
IgM 陽性の人はいませんでしたが、25 例。IgM が±以上の人も 25 例ありまし
たが、これらの方に CRS の人は 1 例もいません。見ていただくと、256 倍以
上の人も結構いますので、まじめに再検査して、話をしていたら、結構手間が
かかるのもお分かりいただけるかと思います。
No. 43
さて、リスクの高い人に関してはそうですが、実際に CRS の赤ちゃんが生
まれた人たちの中で、再感染が推測されるケースに関して、IgM がどうだった
か見てみると、産生率は 50%程度らしいので、再感染で CRS を起こしたよう
な症例で IgM が陰性だった人はいくらでもいます。それから初感染ということ
であっても、採血時期によっては、うまく IgM の上昇を捉えられないケースも
ありますので、血清学的な所見だけで CRS のリスクを決めることは、非常に
難しいということがお分かりいただけるかと思います。
No. 44~45
やはり問診は重要で、もっと昔のたくさん風疹が流行していた時に風疹の仕
事をしていた先生によれば、問診でどうだったかということと、血清学的にど
うだったかをいろいろ検討してみると、結局、問診が一番あてになるとおっし
ゃっている先生がいらっしゃいます。ワクチン歴もあります、私は症状も何も
ありません、風疹の患者は周囲にいませんという人に関しては、CRS を考える
必要はないので、その先生はスクリーニングすら必要ないとおっしゃっていま
す。
ですが、今回の 2012 年から 2014 年の CRS 45 例が感染症疫学センターのホ
ームページに全て表になっていますが、それを数えてみると、何と 9 例にワク
チン接種歴があります。風疹のはっきりとした罹患が聴取できなかった人が 4
名います。それらを全部数えてみると、ワクチンも打ったし、風疹にかかった
覚えもないのに CRS という例が 2 例もあります。なので、問診すら万能では
ありません。ただ、そのホームページの記載は症例報告ではないので、風疹患
者さんとの接触、例えば自分の子どもや自分の夫がというところまでは読み取
れませんが、とにかくワクチン歴があって、風疹の症状がなくても CRS は起
こり得るということが、お分かりいただけるかと思います。ですので、とにか
く、まちがいなく初感染です、あなたは風疹ですというような人以外に関して
は、結局、リスク評価は難しいことを覚えておいてください。
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第 67 回日本産科婦人科学会学術講演会 ランチョンセミナー
No. 46
さて、2013 年 6 月 19 日の新聞記事ですが、一部抜き書きしました。
No. 47
風疹は大したことはない病気と言われているが、赤ちゃんに重い障害が出る
と迫られて、妊娠を終わらせた人は多いのではないか。そう考えると風疹はた
くさんの命を奪っている。医師から「ほぼ 100%障害が出るのに、産むなんて
とんでもない。僕が旦那なら産ませない」というようなつらい言葉を投げかけ
られて、でもこの方は産みたいということで他の病院に行って、産んだ長女さ
んには現時点では障害はないそうです。もちろん定期フォローは欠かせないそ
うですが、特に症状はないということです。後半のほうでは、国は成人の予防
接種に関しては、財源的補助は否定的。風疹患者さんが多いと言っても、水痘
などはもっとたくさんいるし、確かに風疹で亡くなる人は非常にまれだと思う
ので、やはり感染症として重症なほうの対策を優先せざるを得ないとして
います。仕方がないけど、やっぱりそうなんですね。
No. 48
そういうわけで、リスク評価は、本当に初感染でない限りはできないと思っ
ていただいてもいいぐらいだと思います。ただ、くどいようですが全国で 45
例です。当たることはほぼありません。ですので、データだけで「あなた、も
しかして風疹にかかったんじゃない」というような、無用な不安を与えること
はやはり絶対あってはならないと思います。私はたくさんの方の相談をさせて
いただいていますが、たいていお話を聞いて納得して帰っていきます。もしか
らしたら、
赤ちゃんに病気があるかもしれないというようなことを言われて「だ
ったら中絶します」というモードの人はほとんどいません。ですので、そのこ
とをやはり頭に起きながら、お話をする必要があると思います。ただ、そうは
いっても流行もしていないし、大丈夫だろうと思う例でも、それでも「大丈夫」
と断言することは、たくさんのカウンセリングをしてきた私でもかなり勇気の
いることです。ですので、ご自身の施設などで判断に迷われたり、お話に困っ
たりする場合には、
先ほどの提言の中にあった二次施設が機能していますので、
そちらにご相談いただくのが一つの選択肢です。二次施設は全国にたくさんあ
るわけではないので、基本的には抗体の測定結果や症状に関して電話やファッ
クスでやり取りをして、主治医の先生からリスクに関してお話をしていただく
というシステムです。関東だと可能なので直接来院されますが、必ずしも受診
の必要はありません。
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2020 年 風疹排除に向けて
No. 49~50
これが 2004 年の提言の、風疹罹患(疑いを含む)妊婦さんに関しては無用
な不安をあおらないように留意してくださいと書いた上で、二次施設に連絡を
して、やり取りをしてくださいというフローです。
2013 年 9 月時点では、私どもの施設を含めて、これだけの施設が二次施設
として機能していますので、ご参考にしていただければと思います。
2020 年度
風疹排除に向けて
No. 51
さて、2020 年、東京オリンピックまでに風疹を排除しようということに向け
て、私たちはいったい何をしたらいいのか。
今回の流行をなくすためには、もうお分かりいただけましたね。先ほど言った
ように、中学 3 年生以下は現行の 2 回接種を受けており、24 歳までの人も 3
期か 4 期を受けていれば 2 回済んでいますが、それ以上は 2 回接種の機会は、
個別に受けていない限りないわけなので、その人たち全員に一斉にワクチンを
打っていただければこの話は終わります。ただ、予算はさすがにないです。25
歳以上の男女全員に受けてほしいと思っていますが、さすがにそれは現実的で
はない。全員が無理であれば、せめてはっきりとした風疹ワクチンの接種歴が
1 度もない人には、全員に打ってもらうことはできないか。特に 25 歳以上の男
性に関しては、そうしていただけないかなと思っています。
No. 52
やはりちょっと予算はないということですし、
一応過去に定期接種対象として
経過措置がありましたし、風疹よりももっと重篤な疾患の優先度が高くなって
しまうので、風疹ではなかなかそこまではいかない。
では、ワクチンをみんなに打つのは大変だから、検査して陰性の方に打つのは
どうか。その場合は検査費用が余計にかかります。もちろんワクチンの接種対
象が減るかもしれませんが、では大人に医療機関に行って、風疹の抗体を調べ
てこい、結果をもう 1 回聞きに行け、そこでもう 1 回予約して、ワクチンを打
ちに行けといって、2 回どころか 3 回手間がかかるかもしれません。働いてい
るわれわれには無理ですという話で、なお足が遠のきます。今は、流行は抑制
されていますが、流行が真っただ中のところで、本当に風疹にかかるかもしれ
ないという時に関しては、その検査を待っている間にかかってしまうかもしれ
ませんので、その時間も惜しい。ですので、何度も言いますが、2 回接種を受
けていないわれわれ全員が 2 回目を受けるということで、考えていただきたい
と思っていますが、それはなかなか難しいです。
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第 67 回日本産科婦人科学会学術講演会 ランチョンセミナー
No. 53
厚労省も東京オリンピックまでにゼロにしようと言ってくれているのですが、
記事を読むと、風疹接種歴を的確に把握し、風疹の抗体検査、予防接種を「呼
びかける。
」呼びかけているだけでは誰もやりません。これでは駄目です。生ぬ
るいと思います。
No. 54
ワクチン接種率を上げるためには、奈良県で、子宮頸がんのワクチンの接種
率に関する調査を耳にしましたが、やはりワクチン接種率を上げるためには、
無料にして「あなたはワクチン接種の対象者です」と個別に通知をする、集団
で学校に通知をする、というようなことを風疹ワクチンに応用すれば、今、幼
児は受けていますので、無料で、あなたは受けるべきと個別に通知をし、学校
だけではなく、集団が集まるような企業などに通知をして、接種努力をするよ
うに義務化する。場合によってはペナルティを科すぐらい強硬にしないと、風
疹の流行はなくせないと思います。
No. 55
職場における風疹対策ガイドラインなども、ちょうど1年と少し前に作成さ
れ、雇用時のことや、その後のワクチンを受けやすい環境作りについて記載さ
れています。どの程度周知されているのかは分かりませんが、このとおりにし
ていただければ、風疹排除はできるかもしれません。
No. 56
その中にある表をひとつ引用しますが、①本人が妊娠を希望していて、今妊
娠していない人は 2 度接種を受けたほうがいいでしょう。それは当然ですが、
②③④に関して、職場や家族に妊婦さんや妊娠しそうな人がいる、海外出張を
予定している。海外は風疹を抑制できていない国もあります。公共施設等、多
数の人が利用する職場に勤務していると書いていますが、私たちは電車にも乗
りますし、若い女性に絶対会わない人はいませんので、②~④は①以外の人、
全ての人は風疹の予防接種を少なくとも 1 回とするべきではないかと思います。
No. 57
私たち産婦人科医としてすべきこととしては、せめて自分の医療機関に訪れ
る人、職員も全てですが、男女全員にみんな免疫を持って風疹をなくさなけれ
ば、女性とその赤ちゃんを守ってあげられないということを、強い意志を持っ
て啓発してください。これから妊娠する世代の女性はもちろんですが、妊娠お
よび妊娠希望している人のパートナーだけではなく、何度も言っているように
20 代から 40 代の男性全員がやはり受けるべきです。あとは不妊治療をされて
いる先生もいらっしゃると思いますが、みんな「ワクチン打ったら避妊しなけ
ればいけない。一刻でも早く」と、何年も妊娠していないのに、この 1 カ月が
17
2020 年 風疹排除に向けて
待てない。でも不妊治療して妊娠して、風疹にかかって CRS という症例が実
際にありますので、待っていただく。一応添付文書には 2 カ月と書いてありま
すが、どうしてもというのであれば、ちゃんと説明した上であれば排卵 1 回だ
け見送っていただければ十分です。男性の避妊は必要ありません。仮にワクチ
ンを打って、うっかりその時にたまたま妊娠してしまったといっても、ワクチ
ンによる CRS の報告は 1 例もありませんので、そこは安心させてあげてくだ
さい。あとは風疹の単抗原ワクチンもありますが、接種するのは、手にも入り
やすいですし、少し高くはなってしまいますが MR ワクチン。麻疹も現在、成
人で時々流行しています。先日、麻疹は日本でも排除したと言われましたが、
また流行してしまう可能性もありますので、MR ワクチンで結構です。妊婦さ
んが麻疹にかかると流・早産することが多いので、ぜひこの機会に両方免疫を
付けていただければと思います。
No. 58
とにかく、先ほどのこのグラフです。この世代をなんとかしていただかない
と風疹はなくせません。2020 年の風疹排除、できるのかどうか。厚労省のお手
並みを拝見したいと思います。
No. 59
風疹の予防接種の啓発ポスターなどもあります。
先生方のお手元に届けられた
ものもあるでしょうし、ホームページでダウンロードしていただくこともでき
ます。クリニックなどに貼っていただければと思います。
No. 60
さて、これが最後のスライドですが、2004 年から私は風疹に携わってきまし
た。どんどん患者さんが減ってきて「よし!」と思っていましたが、2013 年の
風疹の流行が起こってしまいました。一医師として、私が声を上げていてもど
こにも通じないということがよく分かりました。でも、本当に悔しく、本当に
悲しく、怒っているのは、今回 CRS を発症してしまった子どもさんとそのお
母さん、ご家族です。やはり風疹を世界から排除して、CRS の発生など、一つ
も心配しなくていい、CRS の発生などあり得ないという日が 1 日も早く来るこ
とを願って、このランチョンセミナーとさせていただきます。
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第 67 回日本産科婦人科学会学術講演会 ランチョンセミナー
質疑応答
<座長:山中先生>
奥田先生、どうもありがとうございました。奥田先生の熱い思いと、臨床でいろいろ感じる疑問のところを全部聞き出せたように思い
ます。少しお時間があります。会場からご質問をどうぞ。
<質問者1>
2 点質問があります。1 点は、最後におっしゃっていましたが、今のところ、MR ワクチンで勧める施設が多いと思いますが、先ほどの
勧告を受けて、いずれは風疹ワクチンでいいとなった時には何かしら学会からアナウンスがあるのかどうか。もう 1 点は、われわれは
ワクチンを勧める立場として、一番苦慮するのは先ほども出ていた、打ったけれど増えていない不妊の人、産褥に打った人にどう説明
するかをいつも迷うのですが、先生のお話を聞いていると「希釈法なので数値は同じだけど、一応賦活化されている可能性が高いので、
そこの意味はあると思います。ただ、抗体は低いので一応気を付けたほうがいいですね」という説明でよろしいでしょうか。
<講師:奥田先生>
2 点目からですが、そのとおりでよろしいかと思います。実は細かいことを言うと、HI が 64 倍ということが証明されている人でも、再
感染で CRS はあり得るので、実は抗体価で安心するわけにはいきません。ですので、特に低い人に関しては、妊娠した時の注意をして
いただく。あとはおっしゃるとおりで、意味がないということはありませんよと安心させてあげて結構かと思います。将来的なワクチ
ンの勧告に関してですが、そういう動向までは把握していませんが、ただ、もし麻疹、風疹の排除宣言が出てしまえば、麻疹と風疹の
両方の抗体を検査する機会はたぶんないと思いますが、ただ、単抗原のワクチンは手に入りにくいことと、中学 3 年性以下の人は現行
の 2 回接種を受けており、24 歳までの人も 3 期か 4 期で原則 2 回目を受けているので、麻疹に関してもこの際に 2 回目ということで受
けましょうねという形で説明していただいて、当分 MR ワクチンでよろしいのではないかと思います。
<質問者 2>
不妊患者さんで風疹の HI を調べると、結構 2 年前に打ってはいるけれど、8 倍、16 倍という方はいらっしゃって、そういう方は一応打
つようにお話はしていますが、打ったほうがやはりよろしいのでしょうか。子どもの頃に打ったことがあったら、2 年前の時で 2 回目に
なると思いますが、そういう方で 8 倍、16 倍の方はやはり打つことを勧めて、打った方がいいのかどうかという点が一つ。打っても上
がらないかどうか、HI をもう 1 回調べたほうがいいのかどうか。調べてもし低かったら、そのままおそらく妊娠にいくのだと思います
が、妊娠したら 8 倍、16 倍の人は、やはりあまり不必要に出掛けないようにしたほうがいいなど、お話をしておいたほうがいいのかど
うかを教えていただけますか。
<講師:奥田先生>
集団生活をしている人の予防接種の考え方なのですが、とにかくトータルとして 2 回記録にあるワクチンがあれば、3 回、4 回をお勧め
する必要はありません。たぶん上がりません。ただ、本人たちはがっかりしてしまうと思いますが、先ほどの質疑でもありましたよう
に「いったんは抗体価が上昇していて、HI という抗体だけでは分からないような体の免疫が賦活されていると思うよ」と安心させてあ
げてください。その人たちは妊娠したら低抗体価という話になりますが、実は抗体価が高くても再感染で CRS の症例はありますので、
もし本当に流行があるとキャッチされている場合は、低抗体価の人だけではなく、やはり全ての妊婦さんに、周りの人がワクチンを打
っていないなら打ってもらうことと、本当に流行しているのであれば不必要な外出をさけたり、マスクをしていただいたりして、感染
予防に努めていただくようお勧めはしたほうがいいと思います。お答えになっていますでしょうか。
19
2020 年 風疹排除に向けて
<質問者 2>
もう一ついいですか。過去に子どもの頃に風疹にかかったことがあるという方がたまにいらっしゃるのですが、そういう方でもやはり
抗体価が低い人がいらっしゃるのですが、ブースターとしてやはり打ったほうがいいでしょうか。
<講師:奥田先生>
水痘はかかったことがあるという人に関してはかなり確実ですが、風疹罹患の問診に関しては、風疹にかかったことがあるという人が、
本当にそれが風疹だったのかは、特に子どもは検査室診断しませんので、分かりません。他の発疹性の疾患だったかもしれないので、
既往は一応聞きますが、現在の抗体価を見ていただいて、ワクチンの必要性を判断していただければいいかと思います。
<質問者 3>
産後の入院中に風疹のワクチンを打って帰すという病院もあると思いますが、2 回接種がもし必須であれば、産後に 1 回だけ打ってもあ
まり意味がないのかなと思うのですが、2 回目を打つように言って帰ってもらっても、本当に打ったかどうかよく分からないというのも
あると思います。2 回接種というのはどの程度推奨というか、強く言ったほうがいいのか。1 回で別にまあほとんど大丈夫で、できたら
2 回目を打ってね、ぐらいなのか。絶対に 2 回目行ってね、ぐらいがいいのか。説明の度合いはどの程度でしょうか。
<講師:奥田先生>
前者でよろしいかと思います。ただ、一応、中学 3 年生以下は 2 回接種で、集団としてはみんなが 2 回接種するのが一番いいというの
はありますが、やはり接種機会として、産褥はいいチャンスです。なので、1 回提供していますが、その人がもう 1 回どこかでワクチン
を受けにいくというのはなかなか難しいと思います。だから絶対に受けろというのは少し難しいと思いますが、幸い、産婦さんは子ど
もを産んだところなので、1 年経ったらその子のワクチンに行くので、もしその気があったら、あなたはこれが初めてのワクチンだった
ら、その子と一緒にもう 1 回受けたらぐらいで十分だと思います。
<質問者 3>
あと、HI が初期検査で 8 倍とか 16 倍の場合で、昔、罹患をしたかどうかも分からないとか、予防接種も何回受けたか自分は全然記憶
もないし、分かりませんという場合に、とりあえず打ちましょうということもあると思います。ワクチンは生涯でトータル何回打って
も、費用が無駄ということ以外に何かデメリットはありますか。
<講師:奥田先生>
ございません。抗体を有している人が、そのワクチンを打っても何ら害はありませんので大丈夫ですが、お金はもったいないので、生
涯 2 回で十分かと思います。
<質問者 4>
行政が非常に頑張って予算化していますが、対象者が来ません。今年で 3 年目になりましたが、1 年目が 20%ぐらいで、2 年目が 15%
ぐらい。抗体をとると、30%の人が予防接種しないと駄目なんです。予防接種の 9300 円も無料です。それでも 2 割しか来ません。何と
か 3 年目、100%にしたいと思っていますが、何かいいアイデアがあったら教えていただきたい。
<講師:奥田先生>
やはり対象者には個別で連絡と思いますが、なかなかそれをわれわれがすることは難しいと思います。
20
第 67 回日本産科婦人科学会学術講演会 ランチョンセミナー
<質問者 4>
分かりました。県の関係者でも、市町村の関係者でも、そのように個別に拾い出して、かなりの数になりますので、そうすると予算が
今の 10 倍以上に。そのとおりにやって、皆さんに来ていただくと対象者が 200 倍ぐらいになると思います。
<講師:奥田先生>
やって接種率が上がれば、うちの県はこれだけやったら、こんなに上がったぞと言って、全国に自慢していただければと思います。
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2020 年 風疹排除に向けて
この印刷物は第 67 回日本産科婦人科学会(2015 年/横浜)のランチョンセミナー32 の記録とし
て、山中 美智子先生、奥田 美加先生にご協力をいただいて制作致しました。校正その他、全
て制作者の責任において実施しております。不手際がございましたら、ご容赦いただきますよ
うお願い申し上げます。
2015 年 9 月 企画・制作/極東製薬工業株式会社
本記録集に掲載されておりますスライド・写真・文章の無断転載、複写を固く禁じます。
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