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本文 - 情報工学科・専攻

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本文 - 情報工学科・専攻
中央大学大学院理工学研究科情報工学専攻
修士論文
連結性を考慮した自転車走行環境の
整備に関する研究
A Study to Construct a Network to Ride Bicycles
Easily and Safely Sharing Roads
with Cars and Pedestrians in Urban Area
長野 光
Hikaru NAGANO
学籍番号 11N8100023H
指導教員 田口 東 教授
2013 年 3 月
概要
近年,環境負荷が低く健康増進に繋がることから,自転車を利用する人が増加している.
しかし,歩道を走行する自転車利用者の増加により,自転車と歩行者の交通事故が問題と
なっている.自転車が歩道を走行するのは,自転車が走行する空間が明確にされていない
ことが理由のひとつとして挙げられる.自転車の走行空間を明確にするには,自転車レー
ンや自転車道などの自転車通行帯の整備が必要である.このとき自転車が移動手段である
と考えると,自転車通行帯が自転車利用者の出発地から目的地まで連続していることが重
要である.自転車利用者が自転車通行帯のみを利用して出発地から目的地までたどり着く
ことができるようになることで,歩行者と自転車の錯綜がなくなり,交通事故が減尐する
と考えられる.
本研究の目的は,自転車利用者の出発地から目的地まで走行しやすい道路が連続するよ
うに走行環境を改善する道路を求めることである.
まず,
東京 23 区の幹線道路を対象とし,
自転車走行環境の定量的評価の指標である BCI を用いて,道路がどの程度自転車利用者に
とって走行しやすいかを求める.次に,適切な自転車交通を念頭において,道路ネットワ
ークで BCI の評価が高い道路のみを利用して移動できるようにするためには,どの道路の
自転車走行環境を整備するべきなのかを求める.さらに,鉄道利用者の出発駅から目的駅
までの道路環境が整備されると,鉄道利用者が自転車で移動するようになると考え,自転
車で移動するようになる人数を増加させるような自転車走行環境を整備する道路を求める.
最後に,住宅地からスーパー,学校,駅に移動するような日常的な自転車利用者の移動を
考え,自転車利用者が連続して評価の高い道路のみを利用して移動できるようになるため
には,どの道路の自転車走行環境を整備するべきなのかを求める.
キーワード:自転車,BCI,道路ネットワーク,東京 23 区
i
目次
第1章
序論 ...................................................................................................................... 1
1.1
研究背景 ................................................................................................................... 1
1.2
研究目的 ................................................................................................................... 3
1.3
本論文の構成............................................................................................................ 3
第2章
自転車走行環境の定量的評価 .............................................................................. 4
2.1
BCI の概要 ............................................................................................................... 4
2.2
BCI の計算例 ........................................................................................................... 6
2.3
東京 23 区内幹線道路の評価 ................................................................................... 8
2.3.1
道路交通センサス ............................................................................................. 8
2.3.2
道路交通センサスデータから BCI 変数の決定 .............................................. 10
2.3.3
幹線道路の評価............................................................................................... 13
2.4
BCI の可視化 ......................................................................................................... 15
2.4.1
デジタル道路地図 ........................................................................................... 15
2.4.2
DRM データの簡略化 ..................................................................................... 16
2.4.3
可視化 ............................................................................................................. 18
2.5
東京都自転車走行空間整備推進計画と BCI の比較 .............................................. 19
2.5.1
整備計画の概要............................................................................................... 19
2.5.2
優先整備区間の現状と整備後の BCI の計算.................................................. 20
第3章
連結性を考慮した自転車走行環境整備 .............................................................. 23
3.1
Prim 法 .................................................................................................................. 23
3.2
道路ネットワークの最小全域木 ............................................................................ 24
3.3
評価の高いリンクを利用した最小全域木 .............................................................. 25
第4章
4.1
鉄道移動から自転車移動への転換 ..................................................................... 26
使用データ ............................................................................................................. 26
4.1.1
大都市交通センサス ....................................................................................... 26
4.1.2
ネットワークデータ ....................................................................................... 27
4.2
転換可能な利用者の条件 ....................................................................................... 28
4.2.1
Dijkstra 法...................................................................................................... 28
4.2.2
転換可能な利用者の条件 ................................................................................ 28
4.3
100km まで道路を改善するときの転換可能な利用者 .......................................... 30
4.3.1
現状の道路での転換可能な利用者 ................................................................. 30
ii
4.3.2
駅からの連結性を考慮した改善方法 .............................................................. 31
4.3.3
ナップサック問題として定式化 ..................................................................... 33
4.3.4
転換可能な人数を最大にする問題として定式化............................................ 35
4.3.5
自転車走行環境の改善方法のまとめ .............................................................. 36
4.3.6
複数経路を考慮した改善方法の提案に向けての課題 .................................... 37
第5章
5.1
足立区における日常的な自転車利用促進のための道路改善 ............................. 41
足立区のネットワークの構築 ................................................................................ 41
5.1.1
国勢調査.......................................................................................................... 41
5.1.2
MAPPLE10000 .............................................................................................. 42
5.1.3
ネットワークデータ ....................................................................................... 42
5.2
OD データの作成 ................................................................................................... 45
5.3
移動可能な利用者を増加させる方法の適用 .......................................................... 45
5.3.1
ナップサック問題として定式化する方法 ...................................................... 45
5.3.2
移動可能な人数を最大化する問題として定式化............................................ 47
第6章
結論 .................................................................................................................... 48
6.1
まとめ .................................................................................................................... 48
6.2
今後の課題 ............................................................................................................. 49
謝辞 ....................................................................................................................................... 51
参考文献 ............................................................................................................................... 52
関連発表 ............................................................................................................................... 54
iii
第1章
序論
1.1
研究背景
近年,環境負荷が低く健康増進に繋がることから,自転車を利用する人が増加している.
図 1.1 の東京都の自転車保有台数の推移をみると,10 年間で約 2 百万台増加していること
がわかる.しかし,自転車歩行者道(以下,歩道)を走行する自転車利用者の増加により,
自転車と歩行者の交通事故が問題となっている.図 1.2 の全国の交通事故発生件数と自転
車対歩行者交通事故発生件数をみると,平成 16 年以降交通事故全体は減尐傾向がみられる
が,自転車対歩行者の交通事故は減尐傾向にないのがわかる.さらに,平成 23 年の都道府
県別の自転車対歩行者の交通事故の発生件数は全国で 2801 件であり,そのうち東京都が全
国の約 4 割である 1010 件を占めている[13].
1000
自転車保有台数 [万台]
900
800
699
694
707
733
741
H10
H11
H12
H13
H14
836
818
836
H15
H16
H17
879
865
H18
H19
900
700
600
500
400
300
200
100
0
図 1.1
東京都の自転車保有台数の推移[18]
1
H20
全国交通事故
全国交通事故件数
900000
自転車対歩行者事故
4000
3600
800000
3200
700000
2800
600000
2400
500000
2000
400000
1600
300000
1200
200000
800
100000
400
0
自転車対歩行者交通事故件数
1000000
0
H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23
図 1.2
全国の交通事故発生件数と自転車対歩行者交通事故発生件数[12]
自転車が歩道を走行するのは,自転車が安全に走行できる空間が車道にないことや,自
転車が走行する空間が明確にされていないことなどが理由として挙げられる.歩行者と自
転車の交通事故を減尐させ,自転車の走行空間を明確にするには,図 1.3 のような車道の
一部を青色等に塗装し自転車のみが通行できるように明示した自転車レーンや,図 1.4 の
ような歩行者と自動車の通行空間と縁石やガードレール等で物理的に分離し,自転車のみ
が通行できるように整備された自転車道(以下,自転車レーンと自転車道をまとめて「自
転車通行帯」とする)などの自転車のみが通行を許される道路環境の整備が必要である.
しかし,東京 23 区の自転車通行帯の整備状況は,幹線道路の道路距離 1090.4km のうち
9.1km であり,整備率は 1 % 未満となっている(平成 22 年度道路交通センサス[15]から算
出)
.
図 1.3
図 1.4
自転車レーン([9]より引用)
2
自転車道([9]より引用)
また,自転車通行帯は自転車利用者の出発地から目的地まで連続して整備されることが
重要である.現状のように,自転車通行帯が尐なく不連続であると,自転車利用者が歩道
を走行するため,自転車と歩行者の交通事故の発生を抑えることは難しいと考えられる.
自転車利用者が自転車通行帯のみを利用して出発地から目的地までたどり着くことができ
るようになることで,歩行者と自転車の錯綜がなくなり,交通事故が減尐すると期待され
る.
1.2
研究目的
本研究の目的は,自転車利用者の出発地から目的地まで自転車の走行しやすい道路が連
続するように道路環境を改善するべき道路を求めることである.まず,東京 23 区の幹線道
路を対象とし,自転車走行環境の定量的評価の指標である BCI を用いて,道路がどの程度
自転車利用者にとって走行しやすいかを求める.次に,道路ネットワークのすべての点か
らすべての点まで BCI の評価が高い道路のみを利用して移動できるようにするためには,
どの道路の自転車走行環境を整備するべきなのかを最小全域木を求めるアルゴリズムを用
いて求める.さらに,鉄道利用者の出発駅から目的駅までの道路環境が整備されると,鉄
道利用者が自転車で移動するようになると考え,自転車で移動するようになる人数を増加
させるような自転車走行環境を整備する道路を求める.最後に,住宅地からスーパー,学
校,駅に移動するような日常的な自転車利用者の移動を考え,自転車利用者が連続して評
価の高い道路のみを利用して移動できるようになるためには,どの道路の自転車走行環境
を整備するべきなのかを求める.
1.3
本論文の構成
まず,第 2 章で自転車走行環境の定量的評価の指標である BCI を用いて東京 23 区の幹
線道路が自転車利用者にとって走行しやすいかを評価する.第 3 章では,道路ネットワー
クに対して,すべての点間を評価の高いリンクで接続するにはどの道路を改善するべきな
のかを求める.第 4 章では,鉄道から自転車へ移動方法を転換させることを考え,転換で
きる人数を多くするにはどの道路環境を整備するべきかを求める.第 5 章では,住宅地か
らスーパー,学校,駅に移動する日常的な自転車利用者の移動を考え,利用者が評価の高
い道路のみを通るためにはどの道路環境を整備するべきかを求める.第 6 章で本論文をま
とめる.
3
第2章
自転車走行環境の定量的評価
本章では,東京 23 区の幹線道路を対象として,自転車利用者にとって道路がどの程度走
行しやすいかを評価する.
2.1 節では,自転車利用者にとって走行しやすい道路なのかを評価する指標である BCI
を説明する.2.2 節では,3 つの道路環境に対して BCI の計算例を示す.2.3 節では,東京
23 区の幹線道路を対象として BCI を計算する.2.4 節では,2.3 節で求めた BCI の値を道
路ネットワーク上に可視化する.2.5 節では,東京都自転車走行空間整備推進計画によって
計画された道路の現状の BCI を計算し,整備した場合の BCI と比較する.
2.1
BCI の概要
アメリカで開発された BCI(Bicycle Compatibility Index)[1]は,道路が自転車利用者
にとってどの程度走行しやすいかを定量的に評価する指標である.BCI は 200 以上の被験
者にさまざまな道路環境の 67 か所の道路の動画を見せ,その道路が自転車で快適に走行で
きるかを 1~6(1 が最も評価が高く,6 が最も評価が低い)の値で被験者が評価した結果か
ら,回帰分析をし,得られた式である.
BCI  3.67  0.966BL  0.410BLW  0.498CLW  0.002CLV
 0.0004OLV  0.022SPD  0.506PKG  0.264AREA  AF
(2.1)
BCI は(2.1)式のような道路環境を表す 8 つの変数と調整用の変数 AF(Adjustment
Factors)によって表わされる.各変数の詳細は以下の通りである.なお,アメリカでは BCI
の値が 3.4 以下であれば自転車利用者にとって評価が高い道路となる.

BL:自転車通行帯または路肩の幅員が 0.9m 以上存在するかどうかの変数.存在する
場合 BL=1,存在しない場合 BL=0

BLW:BL=1 のときの自転車通行帯の幅員 [m] または路肩の幅員 [m] ,BL=0 のと
きは 0.0 [m]
4

CLW:路肩側車線の幅員 [m]

CLV:路肩側車線のピーク 1 時間当たりの交通量 [台]

OLV:路肩側以外の車線のピーク 1 時間当たりの交通量 [台]

SPD:法定速度 [km/h] +15 [km/h]

PKG:道路に駐車帯幅員が存在し,
1 時間当たりの駐車率が 30 % 以上の場合 PKG=1,
それ以外は PKG=0

AREA:道路の周辺が住宅街である場合 AREA=1,住宅街以外は AREA=0

AF: f t  f p  f rt

f t :路肩側車線のピーク 1 時間当たりの大型車交通量から求まる値(表 2.1)

f p :駐車帯の時間制限から求まる値(表 2.2)

f rt :1 時間当たりの右折車の交通量から求まる値(表 2.3)
表 2.1
ft
f t の求め方
路肩側車線の 1 時間当たりの大型車交通量 [台]
0.5
120 以上
0.4
60~119
0.3
30~59
0.2
20~29
0.1
10~19
0.0
10 未満
表 2.2
fp
駐車帯の時間制限 [分]
0.6
15 以下
0.5
16~30
0.4
31~60
0.3
61~120
0.2
121~240
0.1
241~480
0.0
481 以上
表 2.3
f rt
f p の求め方
f rt の求め方
1 時間当たりの右折車の交通量 [台]
0.1
270 以上
0.0
270 未満
5
2.2
BCI の計算例
本節では,3 つの BCI の計算例を示す.例 1 は片側 2 車線の道路,例 2 は片側 1 車線で
自転車レーンが整備されている道路,例 3 は片側 2 車線で駐車帯が整備されている道路で
ある.
(例1) 図 2.1 の道路
片側 2 車線の道路で路肩側車線の幅員は 4.3m である.ピーク 1 時間当たりの片側車線の
交通量は 826 台であり,路肩側車線の交通量は 413 台,路肩側車線以外の交通量も 413 台
である.法定速度は 60km/h である.ピーク 1 時間当たりの路肩側車線の大型車の交通量
は 33 台であり,右折車の交通量は 83 台である.例 1 の BCI は(2.2)式から求められる.
BCI の値は 4.47 となり,自転車利用者には走行しにくい評価が低い道路となる.
図 2.1
片側 2 車線の道路([1]より引用)
BCI  3.67  0.966(0)  0.410(0.0)  0.498(4.3)  0.002(413)
 0.0004(413)  0.022(75)  0.506(0)  0.264(0)  (0.3)
(2.2)
 4.47
(例2) 図 2.2 の道路
幅員 1.5m の自転車レーンが整備されている片側 1 車線の道路である.1 車線の幅員は
3.6m でピーク 1 時間当たりの交通量は 385 台である.法定速度は 50km/h であり,道路の
周りは住宅街となっている.
1 時間当たりの大型車交通量は 5 台である.
例 2 の BCI は
(2.3)
式から求められる.BCI の値は 2.23 となり,自転車利用者にとって走行しやすい評価の高
6
い道路となる.
図 2.2
片側 1 車線,自転車レーンが整備されている道路([1]より引用)
BCI  3.67  0.966(1)  0.410(1.5)  0.498(3.6)  0.002(385)
 0.0004(0)  0.022(65)  0.506(0)  0.264(1)  (0.0)
(2.3)
 2.23
(例3) 図 2.3 の道路
2.4m の駐車帯が整備されている片側 2 車線の道路である.路肩の幅員は駐車帯の幅員を
引いた値となるので,1.9m となる.路肩側車線の幅員は 3.4m である.ピーク 1 時間当た
りの交通量は 600 台であり,路肩側車線のピーク 1 時間当たりの交通量は 300 台,路肩側
車線以外の交通量も 300 台である.法定速度は 40km/h であり,道路の周りは住宅街とな
っている.駐車帯の 1 時間当たりの駐車率は 50 % であり,1 時間当たりの大型車交通量は
48 台である.例 3 の BCI は(2.4)式から求められる.BCI の値は 2.7 であり,駐車帯が
整備してあるのにもかかわらず路肩幅員が広いため,評価の高い道路となる.
7
図 2.3
片側 2 車線,駐車帯が整備されている道路([1]より引用)
BCI  3.67  0.966(1)  0.410(1.9)  0.498(3.4)  0.002(300)
 0.0004(300)  0.022(55)  0.506(1)  0.264(1)  (0.3)
(2.4)
 2.70
2.3
東京 23 区内幹線道路の評価
本節では,東京 23 区内の幹線道路を対象にして BCI を計算する.2.3.1 項では BCI の計
算に使用する道路交通センサスについて説明する.2.3.2 項では BCI を計算するための変数
を道路交通センサスから決定する方法を示す.2.3.3 項では,東京 23 区内幹線道路におい
て BCI を計算した結果を示す.
2.3.1
道路交通センサス
本研究では平成 22 年度道路交通センサスの一般交通量調査[15]を使用する.一般交通量
調査は,道路交通センサスの一環として,全国の道路の交通量及び道路現状等を調査し,
道路の計画,建設,維持修繕その他の管理などについての基礎資料を得ることを目的に実
施されたものである.調査対象路線は高速自動車国道,都市高速道路,一般国道,主要地
方道である都道府県道及び指定市の市道,一般都道府県道,指定市の一部の一般市道であ
る.記載されている調査事項は交通量や幅員構成等 50 項目であり,調査事項の中でも本研
究で用いる項目について説明する.

昼間 12 時間自動車類交通量上下合計 [台](以下,VOLUME とする)
午前 7 時から午後 7 時までの自動車類の台数
8

昼間 12 時間ピーク比率 [%](以下,PEAK とする)
ピーク時間交通量の昼間 12 時間交通量に対する割合

昼間 12 時間大型車混入率 [%](以下,LARGE とする)
自動車類交通量に対する大型車交通量の割合

車道部幅員 [m](以下,ALLROADWAY とする)
車道,停車帯,路肩及び中央帯の幅員を合計した幅員(図 2.4,図 2.5)

車道幅員 [m](以下,ROADWAY とする)
車道幅員の合計であり,中央帯及び路肩の幅員は含まない(図 2.4,図 2.5)

中央帯幅員 [m](以下,MEDIAN とする)
中央帯の幅員(図 2.5)

自転車道幅員 [m](以下,BICYCLEWAY とする)
自転車道の幅員(図 2.4)

停車帯等幅員 [m](以下,PARKLANE とする)
路側に設けられた停車帯または緩速車道等(自転車レーンを含む)の幅員(図 2.4)
図 2.4
2 車線の場合の例([14]より引用)
図 2.5
4 車線の場合の例([14]より引用)
9

車線数(以下,LANENUMBER とする)
上下線合計の車線数

両側自転車レーン設置率 [%](以下,BICYCLELANE とする)
自転車レーンが道路の両側に設置されている区間延長の割合

指定最高速度 [km/h](以下,SPEED とする)
道路標識等により表示されている最高速度

一方通行フラグ(以下,ONEDIRECTION とする)
一方通行規制を表 2.4 の区分で分類
表 2.4
一方通行フラグ
一方通行フラグ
コード番号
0
なし
1,2
一方通行

代表沿道状況(以下,ROADSIDECOND とする)
代表沿道状況を表 2.5 の区分で分類
表 2.5
代表沿道状況
沿道状況区分

コード番号
人口集中地区かつ商業地域
1
人口集中地区(商業地域を除く)
2
その他市街部
3
人口集中地区:市区町村の区域内で人口密度の高い(約 4,000 人/ km 以上)調査
2
区がたがいに隣接して,その人口が 5,000 人以上の地域

商業地域:都市計画で沿道の用途が商業地域または近隣商業地域に指定されてい
る状況

その他市街部:人口集中地区に含まれないが道路の両側に人家が連担していて,
車両の運転手から見て市街部を形成しているところ
2.3.2
道路交通センサスデータから BCI 変数の決定
東京 23 区の幹線道路の BCI を計算するために必要な変数を 2.3.1 項の道路交通センサス
から決定する.まず,新たに路肩幅員とピーク時間交通量,路肩側車線のピーク 1 時間当
たりの大型車交通量の変数を定義する.

PSW:路肩幅員 [m]

PHV:ピーク時間交通量 [台]
10
CLTV:路肩側車線のピーク 1 時間当たりの大型車交通量 [台]

以下に BCI の各変数の決定方法を示す.
PSW

図 2.4,図 2.5 より路肩幅員は車道部幅員から車道幅員と中央帯幅員を引いた値である
ことがわかる.BCI の計算では片側車線のみを対象とするため引いた値を 2 で割る.
PSW  (ALLROADWAY ROADWAY  MEDIAN)/ 2
(2.5)
BL

自転車道または自転車レーンが整備してあるまたは,路肩幅員が 0.9m 以上ならば 1,そ
れ以外は 0 となる.
A) BICYCLEWAY > 0.0,BICYCLELANE > 0.0, PSW  0.9 のとき
BL  1
(2.6)
BL  0
(2.7)
B) A 以外のとき
BLW

BL=1 のときの自転車道,
自転車レーン,路肩の幅員を値とする.
BL=0 のときは BLW=0.0
とする.
A) BICYCLEWAY > 0.0 のとき
BLW  BICYCLEWAY
(2.8)
B) BICYCLELANE > 0.0 のとき
C)
BLW  PARKLANE
(2.9)
BLW  PSW
(2.10)
BLW  0.0
(2.11)
PSW  0.9 のとき
D) A,B,C 以外のとき

CLW
路肩側車線の幅員は,車道幅員を車線数で割った値である 1 車線あたりの幅員とする.
CLW  ROADWAY / LANENUMBER

(2.12)
PHV
昼間 12 時間自動車類交通量上下合計と昼間 12 時間ピーク比率からピーク 1 時間当たり
の交通量を求める.
PHV  (PEAK  VOLUME) / 100
11
(2.13)

CLV
路肩側車線のピーク 1 時間当たりの交通量は,ピーク 1 時間当たりの交通量を車線数で
割った値である 1 車線あたりのピーク 1 時間の交通量とする.
CLV  PHV / LANENUMBER

(2.14)
OLV
路肩側車線以外のピーク 1 時間当たりの交通量は車線数と一方通行であるかで決定する.
一方通行ではない場合,車線数によって決定方法が異なる.車線数が 3 以上で偶数の場
合,ピーク 1 時間当たりの交通量を 2 で割り,そこから路肩側車線の交通量を引いた値と
する.車線数が 3 以上で奇数の場合,上下線の内,車線数が多いほうを計算対象とするた
め,1 時間当たりの交通量から路肩側車線の交通量引いた値を 2 で割った値とする.たとえ
ば,車線数が 5 の場合,計算対象の車線数は 3 として路肩側車線以外の交通量を求めるこ
ととする.車線数が 2 以下の場合は,路肩側車線以外の車線が存在しないため,0 とする.
一方通行の場合,1 時間当たりの交通量から路肩側車線の交通量を引いた値とする.
A) ONEDIRECTION=0 のとき
① 車線数が 3 以上で偶数のとき
OLV  PHV / 2  CLV
(2.15)
② 車線数が 3 以上で奇数のとき
OLV  (PHV  CLV ) / 2
(2.16)
OLV  0
(2.17)
③ 車線数が 2 以下のとき
B) ONEDIRECTION=1 または ONEDIRECTION=2 のとき
OLV  PHV  CLV

(2.18)
SPD
法定速度+15 [km/h] とする.
SPD  SPEED  15

(2.19)
PKG
BCI の計算には,1 時間当たりの駐車帯の駐車率が必要となるが,道路交通センサスから
データを得られないため,本研究では駐車帯幅員が存在するならば 1 とし,それ以外は 0
とする.
A) BICYCLELANE=0 かつ PARKLANE / ROADWAY  0.0 のとき
PKG  1
(2.20)
PKG  0
(2.21)
B) A 以外のとき
12

AREA
代表沿道状況が人口密集地域または,その他市街部ならば 1 それ以外は 0 とする.
A) ROADSIDECOND=2 または ROADSIDECOND=3 のとき
AREA  1
(2.22)
AREA  0
(2.23)
B) A 以外のとき

CLTV
f t を求めるときのピーク 1 時間当たりの大型車交通量である.
CLTV  (CLV  LARGE)/100

(2.24)
AF
道路交通センサスからは f t のみ求められる.2.24 式と表 2.1 から f t を求める.
AF  f t
2.3.3
(2.25)
幹線道路の評価
道路交通センサスで調査された路線の中で,東京 23 区内の自転車が走行できる道路(高
速道路を除いた道路)のみを対象として自転車走行環境を評価する.対象路線は 143 路線
で,道路距離合計は 1090.4km である.
BCI の値とその道路距離合計の関係を図 2.6 に表す.図 2.6 をみると,東京 23 区の幹線
道路の BCI の値は 3.6 から 5.4 までが多いことが分かる.また,自転車通行帯を持つとい
った自転車が走行しやすい道路の BCI の値は 3.2 以下であった.そこで本研究では,BCI
の値が 3.2 以下の道路は評価が高い道路とする.
評価の高い道路の道路距離合計は 232.5km
であり,幹線道路のうち約 21 % が評価の高い道路となる.
次に,評価の高い道路と評価の低い道路の特徴をみる.表 2.6 は BCI の評価の高い順に
10 路線,BCI の値や各変数の値を表したものである.表 2.7 は BCI の評価の低い順に 10
路線,BCI の値や各変数の値を表したものである.
評価の高い道路は BLW が 0 より大きいか,CLW が大きいことが特徴であると考えられ
る.幅員が広いため,自転車が走行する空間が十分に確保されていることで BCI の評価が
高い道路になっていると考えられる.
評価の低い道路は,評価の高い道路に比べて CLV や OLV が大きいことが特徴であると
考えられる.特に,江戸川区の一般国道 14 号は BLW が 2.0 であるのにもかかわらず,評
価が低い道路となっていることから,自転車が走行する空間が確保されていても,交通量
が多すぎると,自転車にとっては走行しづらい道路になっていることがわかる.
13
60
40
30
20
10
BCIの値
図 2.6
BCI の値と道路距離合計の関係
表 2.6
BCI
評価の高い道路
BLW
CLW
CLV
OLV
路線名
行政区
0.90
環状 3 号線
台東区
0.0
10.5
475
0
1.38
松戸草加線
葛飾区
3.0
3.6
194
194
1.43
鮫洲大山線
目黒区
1.0
5.0
240
0
1.70
丸の内室町線
中央区
1.0
4.5
209
209
1.72
高円寺砧浄水場線
杉並区
1.0
3.5
174
0
1.75
言問橋南千住線
荒川区
1.0
6.0
422
0
1.76
鮫洲大山線
板橋区
1.0
5.0
224
0
1.77
鮫洲大山線
目黒区
1.0
5.0
360
0
1.77
平方東京線
足立区
1.8
3.8
204
0
1.86
高円寺砧浄水場線
杉並区
0.0
6.0
174
0
14
6
5.8
5.6
5.4
5.2
5
4.8
4.6
4.4
4.2
4
3.8
3.6
3.4
3.2
3
2.8
2.6
2.4
2.2
0
2
道路距離合計[km]
50
表 2.7
BCI
2.4
評価の低い道路
BLW
CLW
CLV
OLV
路線名
行政区
7.18
千代田練馬田無線
文京区
0.0
3.5
1265
1265
6.73
一般国道 1 号
千代田区
0.0
3.1
805
2416
6.39
一般国道 4 号
台東区
0.0
3.6
850
1699
6.21
環状 7 号線
中野区
0.0
3.8
1024
1024
6.13
白金台町等々力線
目黒区
0.0
3.5
869
869
6.02
一般国道 4 号線
荒川区
0.0
2.6
575
1149
5.97
一般国道 14 号線
江戸川区
2.0
3.5
1409
2818
5.89
新荒川堤防線
足立区
0.0
3.5
876
0
5.88
環状 6 号線
中野区
0.0
3.3
624
624
5.86
環状 8 号線
杉並区
0.0
3.0
641
1283
BCI の可視化
前節で求めた BCI の値を道路ネットワーク上に可視化する.2.4.1 項では,道路ネットワ
ークデータであるデジタル道路地図データについて説明する.2.4.2 項では,詳細なデータ
であるデジタル道路地図データを簡略化する方法を示す.2.4.3 項では,道路ネットワーク
に BCI の値を与えて可視化する.
2.4.1
デジタル道路地図
デジタル道路地図(DRM:Digital Road Map)は財団法人日本デジタル道路地図協会[10]
が作成したデータである.本研究では,DRM データの中の「全国デジタル道路地図データ
ベース」を用いる.データベースは管理データ,基本道路網データ,全道路網データ,背
景データを収容しており,本研究では基本道路網データの基本道路ノードデータ,基本道
路リンクデータ,また背景データの施設等位置データを使用する.DRM データのノードは
交差点,その他道路網表現上の結節点等を表し,リンクはノードとノード間の道路区間を
表している.なお,縮尺は 1/25,000 である.
基本道路網に該当する道路は,一般都道府県道以上の道路,一般都道府県道以上の道路
以外の道路幅員が 5.5m 以上の道路である.基本道路ノードデータはノードの座標等のデー
タである.基本道路リンクデータはリンク構成ノード番号や路線番号,リンク長 [m] のほ
かに車道幅員 [m] ,道路交通センサスから得られる 12 時間交通量 [台] 等の属性を持つ.
また,施設等位置データは鉄道駅やバスターミナル,空港などの施設の位置データである.
このデータベースにおける位置の表現は,地域メッシュコード(JISX0410-1976)3.3 で
規定する統合地域メッシュのうち 10 倍地域メッシュ(2 次メッシュ)の区画中における座
標値(経度,緯度)により表される.データベースで使用する座標系の原点は 2 次メッシ
15
ュの区画左下隅点とし,x 軸は区画下辺,y 軸は区画左辺である.データベースで使用する
座標の座標値は,区画左上隅を(0,10000),区画右上隅を(10000,10000),区画左下隅
を(0,0)
,区画右下隅を(10000,0)とする座標値で表現している(正規化座標)
.本研
究では,正規化座標から経度緯度に座標を変換し直し,さらに経度緯度から経度 139 度 50
分,緯度 36 度を原点とする平面直角座標へ変換して用いる[16][17].
基本道路ノードデータと基本道路リンクデータから東京 23 区に該当するデータを抽出し
た道路ネットワークを構築すると図 2.7 のようになり,ノード数は 45,481,リンク数は
44,146 である.
図 2.7
2.4.2
東京 23 区の道路ネットワーク
DRM データの簡略化
DRM データの道路ネットワークは図 2.8 のように極めて詳細である.本項では次の 3 つ
の STEP により道路ネットワークを簡略化する.
16
図 2.8
STEP 1
DRM データ皇居周辺
DRM データから 12 時間交通量の属性を持ち,高速道路に該当し
ないリンクのみを抽出する.このとき,使用されないノードは削除
する.この操作により,ノード数は 10,651,リンク数は 11,378 と
なる.
STEP 2
図 2.9 のように交差点を表現するノードを両端点に持つリンクを 1
つのノードに縮約する.縮約によって生じる自己ループは削除する.
この操作により,ノード数は 4,294,リンク数は 7,022 となる.
図 2.9
STEP 3
交差点をノードとして持つリンクの縮約
並行したリンクを1つのリンクに置き換える(図 2.10).この操作
により,リンク数は 4,734 となる.
17
図 2.10
並行したリンクを 1 つのリンクに置き換え
3 つの STEP により簡略化した道路ネットワークはノード数 4,294,リンク数 4,734 であ
り,図 2.11 のようになる.
図 2.11
2.4.3
簡略化した道路ネットワーク
可視化
2.4.2 項で簡略化した道路ネットワークに道路交通センサスから計算した BCI の値を与え
ると,図 2.12 のようになる.BCI の評価が高ければ高いほど,リンクの色が暖色になって
18
いる.BCI の値が 3.2 以下の評価の高い道路が中心部や郊外部でみられるが,連続していな
いことが課題であると考えられる.
図 2.12 BCI 値の可視化
2.5
東京都自転車走行空間整備推進計画と BCI の比較
本節では,2012 年 10 月に発表された東京都自転車走行空間整備推進計画[22]の内容を説
明する.また,整備計画区間の現状の BCI と自転車通行帯を整備した場合の BCI を計算す
る.
2.5.1
整備計画の概要
東京都は 2012 年 10 月に自転車走行空間整備推進計画(以下,整備計画とする)を発表
した.整備計画には,自転車道や自転車レーン等の整備手法と,道路の構造や利用状況を
踏まえ,車道の活用を基本とした整備手法の選定の考え方が示してある.また,整備箇所
は安全性,利便性向上の視点から,既設道路について優先整備区間を選定された.図 2.13
の赤色の優先整備区間のうち,2020 年度までに約 100km の自転車走行空間を整備するこ
とを計画している.
19
図 2.13
2.5.2
東京都自転車走行空間の優先整備区間([22]より引用)
優先整備区間の現状と整備後の BCI の計算
図 2.13 のうち,東京 23 区の優先整備区間に該当する道路の現状の BCI と自転車通行帯
を整備した場合の BCI を計算する.優先整備区間の東京 23 区の該当路線は 37 か所 29 路
線で道路距離の合計は約 78km である.
優先整備区間のうち,図 2.13 の緑色で囲まれた都道 301 号白山祝田田町線と青色で囲ま
れた都道 318 号環状 7 号線の現状の BCI と自転車通行帯を整備した場合の BCI を計算する.
図 2.14 の都道 301 号は 2m の駐車帯が整備されている片側 3 車線の道路である.路肩幅
員は 1.5m であり,路肩側車線の幅員は 3.7m である.路肩側車線のピーク 1 時間当たりの
交通量は 407 台,路肩側以外の車線のピーク 1 時間当たりの交通量は 814 台である.法定
速度は 40km/h であり,
路肩側車線のピーク 1 時間当たりの大型車の交通量は 47 台である.
BCI は(2.26)式のようになり,BCI の値は 3.4 となる.現在の都道 301 号は評価の低い
道路となっている.
都道 301 号の BCI を改善させるために,駐車帯の幅員を 1.5m とし,2.0m の自転車レー
ンを新たに整備するとする.BCI の値を再度計算すると 3.2 となり,
評価の高い道路となる.
20
図 2.14
白山祝田田町線([9]から引用)
BCI  3.67  0.966(1)  0.410(1.5)  0.498(3.7)  0.002(407)
 0.0004(814)  0.022(55)  0.506(1)  0.264(0)  (0.3)
(2.26)
 3.40
都道 318 号は片側 3 車線の道路で路肩幅員は 0.5m であり,路肩側車線の幅員は 3.67m
である.路肩側車線のピーク 1 時間当たりの交通量は 288 台であり,路肩側車線以外のピ
ーク 1 時間当たりの交通量は 577 台である.法定速度は 40km/h であり,道路の周りは住
宅街となっている.
路肩側車線のピーク 1 時間当たりの大型車の交通量は 89 台である.
BCI
は(2.27)式のようになり,BCI の値は 3.98 である.現在の都道 318 号は評価の低い道路
となっている.
図 2.15
環状 7 号線([9]から引用)
21
BCI  3.67  0.966(0)  0.410(0.0)  0.498(3.7)  0.002(288)
 0.0004(577)  0.022(55)  0.506(0)  0.264(1)  (0.4)
(2.27)
 3.98
都道 318 号を整備することを考える.車道幅員を 3.5m に狭めることで,1m の自転車レ
ーンを整備できる.整備後の BCI は 2.7 まで改善することができ,評価の高い道路となる.
22
第3章
連結性を考慮した自転車走行環境整備
本章では,自転車利用者がすべての点からすべての点へ評価の高い道路のみを利用して
移動できるようになるには,評価の低い道路のうちどの道路を評価の高い道路に改善して
いくべきかを求める.すべての点を評価の高い道路で結ぶことができれば,自転車利用者
は常に走行しやすい道路を通って出発地から目的地まで移動することが可能になる.すべ
ての点をつなぐ方法として最小全域木の考え方を利用する.
3.1 節では,最小全域木を求めるアルゴリズムである Prim 法について説明する.3.2 節
では,道路ネットワークに対して,距離をコストとした最小全域木を求める.3.3 節では,
評価の高いリンクを 1 つのノードに縮約したネットワークに対して,距離をコストとした
最小全域木を求める.
3.1
Prim 法
本節では,グラフの最小全域木を求めるアルゴリズムである Prim 法について[2]をもと
に説明する.
無向グラフ G は有限個の点の集合 V (G) と辺の集合 E (G) からなるものとする.無向グラ
フ G の各辺 e  (u, v)  E (G) に対し,辺のコスト d (e) が割り当てられているとする.
Prim 法はコスト付き連結無向グラフ [G  (V , E ); d ] に 1 点 s V が始点として指定され
たネットワーク [G; s, d ] に対して,始点からほかのすべての点を最小コストで連結する全
域木を求めることができる.最小全域木 T を求める Prim 法のアルゴリズムを以下に示す
( U は始点 s からの確定された点の集合を表し, n  V とする).
23
s からすべての点への最小全域木 T を求める Prim のアルゴリズム
1.
1 点 s を選び U : {s} , T :  とする.
2.
つぎの操作を n  1 回反復する.
u U と v V  U をみたす辺 e  {u, v} E の中で最小の d (e) をもつ
ものを求め, T : T  {e} , U : U  {v} とする.
3.2
道路ネットワークの最小全域木
本節では,2.4 節で作成した BCI の値を持った道路ネットワークを用いる.道路ネットワ
ークの道路距離の全長は 923km であり,道路ネットワークのうち評価の低い道路の道路距
離を合計すると,744km となる.このうちどのくらい評価の低い道路を評価の高い道路へ
改善することで全点間を評価の高い道路のみを利用して移動可能になるかを求める.
道路ネットワークに対して,辺のコストを距離とし,ある点を始点として選んだときの
最小全域木を求めると図 3.1 の赤色のリンクのようになる.求められた最小全域木の全長
は 722km であり,最小全域木の全長から全域木に含まれる評価の高いリンクの道路距離を
引くと 584km となる.つまり,584km の評価の低い道路を改善することですべての点か
らすべての点へ評価の高い道路のみを使って移動することができるようになる.
図 3.1
道路ネットワークに対して求められる最小全域木
24
3.3
評価の高いリンクを利用した最小全域木
本節では,評価の高いリンクを 1 つのノードに縮約したネットワークに対して,最小全
域木を求める.評価の高いリンクを縮約することで,評価の低いリンクのみで構成される
ネットワークに対して最小全域木を求めることができるので,評価の高いリンクを活かし
た整備箇所を提案できる.
評価の高いリンクの両端点を 1 点に縮約し,縮約によって生じる自己ループをすべて除
くと,ノード数 3,307,リンク数 3,796 のネットワークとなる.
次に,評価の高いリンクを縮約したネットワークに対して,ある点を始点として選び,
コストを距離としたときの最小全域木を Prim 法を用いて求める.求められた最小全域木の
全長は 561km となる.つまり,561km の評価の低い道路を改善することで,すべての点
間を評価の高い道路のみを利用して移動できるようになる.
道路ネットワークのうち,改善するリンクを赤色で,評価の高いリンクを緑色で表すと,
図 3.2 のようになる.
図 3.2
評価の高いリンクを縮約したネットワークにおいて求めた改善するリンク
25
第4章
鉄道移動から自転車移動への転換
本章では,鉄道利用者が自転車に交通手段を転換するためにはどの道路の自転車走行環
境を改善するべきか求める.本研究では,鉄道利用者のうち出発駅から目的駅まで評価の
高い道路のみを利用して 30 分以内で移動できるような利用者は移動手段を自転車に転換で
きる可能性があるとして考えていく.そのために,評価の低い道路のうちどの道路を評価
の高い道路へと改善していくかを求める.また,東京都自転車走行空間整備推進計画[22]
で,100km を優先的に整備すると計画していることから,本研究では評価の低い道路を
100km まで評価の高い道路へと改善したときに,鉄道から自転車に移動手段を転換できる
利用者の人数を増加させる道路改善方法を考える.
4.1 節では,第 4 章で使用するデータについて説明する.4.2 節では,鉄道利用者が自転
車に交通手段を転換する条件を定義する.4.3 節では,転換可能な利用者を増加させるため
に,評価の低い道路を評価の高い道路へと改善する方法を考える.
4.1
使用データ
本節では,第 4 章で使用するデータについて説明する.4.1.1 項では,鉄道利用者の移動
に関するデータである大都市交通センサスについて説明する.4.1.2 項では,道路ネットワ
ークに駅の位置データを追加したネットワークについて説明する.
4.1.1
大都市交通センサス
本項では,鉄道利用者が出発駅(Origin:O)から目的駅(Destination:D)までの移動
に関するデータ(OD データ)について説明する.本研究では,鉄道利用者の OD データで
ある平成 17 年度大都市交通センサス[3]を用いる.
大都市交通センサスは,首都圏,中京圏,及び近畿圏の三大都市圏における鉄道・バス
等の大量公共輸送機関について,鉄道ならびにバス・路面電車の利用者に対するアンケー
ト調査や駅・停留所の乗降状況等を調査することにより,その利用実態を詳細に把握し,
三大都市圏における公共交通施策の検討に資する基礎資料を提供することを目的として,
昭和 35 年以来 5 年ごとに実施しているものである.本研究では,2005 年に実施された第
26
10 回大都市交通センサスのうち,首都圏の鉄道定期券・普通券等利用者調査と鉄道駅名コ
ードのデータを使用する.
鉄道定期券・普通券等利用者調査には,首都圏の鉄道利用者の年齢,性別,居住地,鉄
道利用経路,乗車駅コード,降車駅コード,その利用者のデータが何人分を代表するかを
表す拡大率のデータ等がある.また,鉄道駅名コードはコードに対応する駅名が記載され
ているデータである.
鉄道定期券・普通券等利用者調査のうち,本研究で使用した調査項目は乗車駅と降車駅,
拡大率である.本研究では,乗車駅から降車駅まで自転車で移動するとし,移動人数は拡
大率とする.
4.1.2
ネットワークデータ
2.4.1 項で説明した DRM データの施設データから鉄道駅の位置データを抽出し,2.4.3 項
で作成した BCI 値をもつ道路ネットワークに追加する.抽出する駅データは東京 23 区に該
当し,前項で説明した大都市交通センサスの駅名コードデータに存在する駅のみとする.
該当する駅は 432 駅であり,該当する駅を出発駅,目的駅とする鉄道利用人数は 1,873,527
人である.
次に,抽出した駅から最も近い道路ネットワークのノードにリンクを張る(以下,駅リ
ンクとする)
.このときのリンク長は駅のノードと道路ネットワークのノードの直線距離と
する.この操作により,ノード数 4,693,リンク数 5,125 の図 4.1 のようなネットワークと
なる.
池袋
新宿
東京
図 4.1
駅リンク(赤色)を追加したネットワーク
27
4.2
転換可能な利用者の条件
本節では,鉄道利用者のうち,自転車に交通手段を転換できる条件を説明する.4.2.1 項
では,最短経路を探索する方法である Dijkstra 法について説明する.4.2.2 項では,鉄道利
用者のうち,自転車に交通手段を転換できる条件について説明する.
4.2.1
Dijkstra 法
本項では,ネットワーク上のある 2 つのノード間の最短経路を探索する方法である
Dijkstra 法について[2]をもとに説明する.本研究では,自転車利用者は出発地から目的地
まで最短でたどり着ける道路を通ると考える.
Dijkstra 法はコスト付き連結無向グラフ [G  (V , E ); d ] に 1 点 s V が始点として指定さ
れたネットワーク [G; s, d ] に対して,始点からほかのすべての点への最短経路を求めるこ
とができる.Dijkstra 法のアルゴリズムを以下に示す( U は始点 s からの最短経路が確定
した点の集合を表す)
.
s からすべての点への最短経路を求める Dijkstra のアルゴリズム
1.
U : {s} , u : s , d  ( s) : 0 また, d  (v) :  ( v V  {s} )とおく.
2.
V  U   である限り,つぎの(ⅰ)と(ⅱ)を反復する.
u と v V  U を接続するすべての辺 {u, v}  E に対し
(i)
d  (v) : min{d  (v), d  (u)  d (u, v)}
とする.
(ii)
v V  U のなかで最小の d  (v) をもつ点 v  v min を選び
U : U  {v min }
とする.さらに, V  U   ならば, u : v min とする.
4.2.2
転換可能な利用者の条件
本項では,鉄道利用者のうち,自転車に交通手段を転換できる利用者の条件を説明する.
本研究では,出発駅から目的駅まで移動する利用者のうち,最短経路の道路距離合計が
7.5km 以下で,経路がすべて評価の高いリンク,4.3 節で求める改善するリンクまたは駅リ
ンクの場合,交通手段を自転車に転換できるとする.なお,7.5km という距離は,自転車
利用者が時速 15km で 0.5 時間(30 分間)走行したときの距離を表している.
OD データに対して,A 駅を出発駅,B 駅を目的駅とする人数と,A 駅を目的駅,B 駅を
28
出発駅とする人数を合計し,方向を持たない駅間の利用人数を考える.駅リンクを追加し
たネットワークに対して,出発駅から目的駅までの最短経路が 7.5km 以下の出発地と目的
地の組合せ
(OD ペア)
の数は 9,437 であり,
OD ペアを出発地と目的地とする人数は 551,118
人である.
改善するべき道路を求めていく中で,次の条件を満たす利用者を転換可能な利用者とす
る.

転換可能な利用者の条件
駅リンクを追加した道路ネットワークにおける出発地から目的地までの最短経路の道
路距離合計が 7.5km 以下であり,経路がすべて評価の高いリンク,改善するリンクま
たは駅リンクとなる利用者.
転換可能な利用者の条件をまとめると表 4.1 のようになる.
表 4.1
転換可能な利用者の条件
O→D の最短経路の道路距離
7.5km 以下
経路の状態
転換可能
評価の低い道路を含まない
○
評価の低い道路を含む
7.5km より長い
×
次に,転換可能な利用者の例を図 4.2 を用いて説明する.図 4.2 の 3 つの青色の点は駅
のノードを表し,A,B,C の駅を表しており,その他の黒色の点は道路のノードを表して
いる.赤色の線は評価の高いリンク,黒色の線は評価の低いリンク,緑色の線は改善する
リンク,青色の線は駅リンクをそれぞれ表わしており,線に付いている番号はリンクの番
号とする.A 駅から B 駅,A 駅から C 駅,B 駅から C 駅への最短経路の距離はすべて 7.5km
以下であり,
A 駅から B 駅への最短経路は {6,3,7} ,A 駅から C 駅への最短経路は {6,1,2,8} ,
B 駅から C 駅への最短経路は {7,4,5,8} である.
A 駅から B 駅へ移動する利用者の最短経路は評価の高いリンクと駅リンクのみである.
よって転換可能な利用者となる.
A 駅から C 駅へ移動する利用者の最短経路は評価の高いリンクと改善するリンクと駅リ
ンクである.よって転換可能な利用者となる.
B 駅から C 駅へ移動する利用者の最短経路には評価の低いリンクが含まれているため,
転換可能な利用者にはならない.
29
図 4.2
4.3
改善する道路を求めた後のネットワークの例
100km まで道路を改善するときの転換可能な利用者
本節では,評価の低い道路のうち,100km まで道路を改善するとしたときに,どこの道
路を改善することにより,転換可能な利用者を増加させることができるかを考えていく.
4.3.1 項では,改善するリンクを求める前の現状の道路において転換可能な利用者を求め
る.4.3.2 項では,駅から連続して評価の低い道路を整備することを考え,転換可能な利用
者を求める.4.3.3 項では,ナップサック問題として考えることで,転換可能な利用者を求
める.
4.3.4 項では,転換可能な利用者の人数を最大化するための改善するリンクを求める.
4.3.5 項では,4.3 節で用いた道路改善方法の特徴をまとめる.4.3.6 項では,複数経路を考
慮した場合の定式化についての課題を述べる.
4.3.1
現状の道路での転換可能な利用者
本項では,改善するリンクを求める前の現状の道路ネットワークの評価の高いリンクの
みを移動するとしたときに,転換可能な利用者の人数を求める.評価の高いリンクを赤色
で表した道路ネットワークは図 4.3 のようになる.
転換可能な利用者を求めると,1,433 人である.
30
図 4.3
4.3.2
評価の高いリンクを赤色で表した道路ネットワーク
駅からの連結性を考慮した改善方法
本項では,駅から連続して道路環境を 100km 整備することを考える.全駅を始点として
改善する道路を以下のアルゴリズムによって求める.
無向グラフ G は有限個の点の集合 V (G) と辺の集合 E (G) からなるものとする.無向グラ
フ G の各辺 e  (u, v)  E (G) に対し,リンクのコスト d (e) ,リンクの距離 len (e) が割り当
てられているとする.改善する道路の上限を b ( b  100 [km])とし,length は改善するリ
ンク距離の合計とする.
コスト付き連結無向グラフ [G  (V , E ); d , len ] に 1 点 s V が始点として指定されたネッ
トワーク [G; s, d , len ] に対して,始点から改善するリンクの集合 T を求めるアルゴリズムを
以下に示す( U は始点 s からの確定された点の集合を表す)
.
STEP 1
1 点 s を選び U : {s} , T :  , length  0 とする.
STEP 2
u U と v V  U をみたす辺 e  {u, v} E の中で最小の d (e) を
もつものを求める.
STEP 3
length  len (e)  b のときは STEP4 に.それ以外は終了する.
31
STEP 4
T : T  {e} ,U : U  {v} ,length : length  len (e) とし STEP2
に戻る.
ネットワークは 4.1.2 項で説明した駅リンクを追加したネットワークに対して,評価の高
いリンクを縮約し,縮約によって生じる自己ループをすべて除いたものとする.このネッ
トワークはノード数 3,739,リンク数 4,171 である.
リンクのコストは BCI,始点は全駅とし,もっとも転換可能な利用者の人数が多くなる
駅と改善するリンクを求める.このとき,リンクのコストを BCI としたのは,BCI の値は
低いほど評価が高いため,なるべく道路環境を改善しやすい道路を選ぶようにするからで
ある.
もっとも転換可能な利用者の人数が多くなる始点は王子駅となり,その人数は 8,282 人
である.求められた改善するリンクを赤色で,評価の高いリンクを緑色で表すと,図 4.4
のようになる.
この方法で求めた改善するリンクの中には,転換可能な利用者の最短経路で使用されな
いリンクが存在することが課題である.
☆:王子駅
図 4.4
王子駅を始点としたときの改善するリンク(赤色)と評価の高いリンク(緑色)
32
4.3.3
ナップサック問題として定式化
本項では,ナップサック問題の考え方を用いて改善する道路を求めていく.ナップサッ
ク問題とは,複数の荷物に価値と重量を与え,ナップサックの重量制限を超えないように,
価値の総和が最大になるようなナップサックへの荷物の詰め方を考える問題である[8].
ナップサック問題を参考に,改善する道路を 100km までと制限したときの転換可能な利
用者を最大にする問題を考える.
OD ペアの集合を N ,OD ペア i を出発地・目的地とする人数を numi ,OD ペア i の最短
経路のうち評価の低いリンクの距離合計を len i ,改善する道路上限を b ( b  100
[km] )
としたとき,人数の総和が最大になるようにする問題を考える.OD ペア i が転換可能な利
用者となるならば 1,転換可能な利用者にならないならば 0 とする変数 x i を導入し,以下
のような 0-1 整数計画問題として定式化する.
max.
 num x
i
iN
s.t.
 len x
i
iN
i
(4.1)
b
(4.2)
i
xi  {0,1} (i  N )
(4.3)
各式について以下で説明する.
(4.1)式は,転換可能な人数を最大化することを表す.
(4.2)式は,OD ペア i をの最短経路のうち評価の低いリンクの距離合計の総和が改善す
る道路距離合計を超えないことを意味する.
(4.3)式は, x i が 0-1 変数であることを表す.
この問題を組合せ最適化問題を厳密に解く方法である分枝限定法を用いて解く.これに
より求められた転換可能な利用者の人数は 47,382 人となり,
改善するリンクを赤色で表し,
評価の高いリンクを緑色で表すと図 4.5 のようになる.
この定式化では,改善するリンクが重複することがある.改善するリンクのうち重複し
たリンクを赤色で表すと図 4.6 のようになる.今回の場合は,改善するリンクの道路距離
合計は 70.5km であり,約 30km の余裕がある.
33
図 4.5
ナップサック問題として考えた場合に改善するリンク(赤色)
図 4.6
重複したリンク(赤色)
34
4.3.4
転換可能な人数を最大にする問題として定式化
本項では,転換可能な利用者の人数が最大となるように 100km まで改善する道路を求め
る方法を 0-1 整数計画問題として定式化する.転換可能な利用者が最大になることを考え,
次のような問題として定式化する.
OD ペアの集合を N ,評価の低いリンクの集合を L ,OD ペア i を出発地・目的地とする
人数を numi ,評価の低いリンク j の距離を len j ,改善する道路上限を b( b  100 [km] )
,
OD ペア i が最短経路で使用する評価の低いリンクの集合を S i としたとき,人数の総和が最
大になるようにする問題を考える.OD ペア i を出発地・目的地とする利用者が転換可能な
利用者となるならば 1,転換可能な利用者にならないならば 0 とする変数 x i と,評価の低
いリンク j を改善するならば 1,改善しないならば 0 とする変数 y j を導入し,以下のよう
な 0-1 整数計画問題として定式化する.
max.
 num x
i
iN
s.t.
 len
jL
j
(4.4)
i
yj  b
y j  xi
(j  S i , i  N )
(4.5)
(4.6)
xi  {0,1} (i  N )
(4.7)
y j  {0,1} (j  L)
(4.8)
各式について以下で説明する.
(4.4)式は,転換可能な利用者の人数を最大化することを表す.
(4.5)式は,評価の低いリンクを 100km まで改善できることを表す.
(4.6)式は,OD ペア i を出発地・目的地とする利用者が転換可能となるならば,OD ペ
ア i が最短経路で使用する評価の低いリンク j がすべて改善するリンクとなることを表す.
(4.7)式は, x i が 0-1 変数であることを表す.
35
(4.8)式は, y j が 0-1 変数であることを表す.
上記の問題を整数計画ソルバーNUOPT13.1.5[5]を用いて解く.
これにより,転換可能な利用者は 215,232 人となり,最短経路の距離が 7.5km 以下の利
用者のうち 39 % が転換可能な利用者となった.また,改善するリンクの距離合計は 99.994
[km] となり,求められた改善するリンクを赤色で表し,評価の高いリンクを緑色で表すと
図 4.7 のようになる.転換可能な利用者を増加させるためには,郊外から都心へと改善す
るよりも,新宿と東京,池袋,中野や池袋と東京,上野など,都心間をつなげるように改
善することがよいことがわかった.
図 4.7
4.3.5
転換可能な利用者が最大となるネットワーク
自転車走行環境の改善方法のまとめ
本項では,4.3.2 項,4.3.3 項,4.3.4 項で説明した方法の特徴と計算時間を述べる.なお,
実験に用いたパソコンは Intel (R) Core (TM) i7-2600,CPU:3.40GHz,12.0GB RAM,
Windows 7 Professional である.
4.3.2 項で述べた駅を始点として 100km 評価の低いリンクを改善する方法
(方法 1)
では,
指定した駅からコストが小さいリンクを選んで連続して整備する.したがって,リンクコ
36
ストを考慮し,連続して整備することは可能であるが,自転車利用者が使用しないリンク
を改善することがあるため,無駄な改善がある.なお,計算時間は非常に短い.
4.3.3 項で述べたナップサック問題として定式化する方法(方法 2)では,自転車利用者
が最短経路で使用する評価の低いリンクを改善することで転換可能な利用者を増加させる.
この方法では,改善するリンクが重複することがあるため,転換可能な人数が尐なくなる.
また,リンクコストを考慮して改善するリンクを求めることができない.なお,計算時間
は 0.016 秒である.
4.3.4 項で述べた転換可能な人数を最大にする問題として定式化する方法(方法 3)は,
改善するリンクが重複しないように転換可能な人数を最大化できる.今回求めた 3 通りの
方法の中では転換可能な人数は最大となり,最短経路の距離が 7.5km 以下の鉄道利用者の
うち 39 % が転換可能な利用者となった.また,図 4.7 をみると郊外から都心をつなげる
ように改善するよりも,都心間をつなげるように改善することがよいことがわかる.しか
しこの問題は NUOPT を使用しているため,計算に 1,518 秒(約 25 分)かかる.また,リ
ンクコストを考慮して改善するリンクを求めることができない.
それぞれの方法の特徴と転換可能な利用者の人数,計算時間をまとめると表 4.2 のよう
になる.
表 4.2
改善方法の比較
特徴
方法
転換可能な人数 [人]
1,433
現状
方法 1
方法 2
方法 3
4.3.6
計算時間 [秒]
長所
リンクコストを考慮できる
短所
無駄な改善がある
長所
計算時間が方法 3 より短い
短所
改善するリンクが重複する
長所
転換可能な人数を最大化できる
短所
計算時間が長い
8,282
1.0  10 8
47,382
1.6  10 2
215,232
1.5  10 3
複数経路を考慮した改善方法の提案に向けての課題
方法 3 では,鉄道利用者は出発地から目的地まで道路ネットワーク上の最短経路を通る
と仮定したが,利用者の出発地から目的地まで 7.5km 以下の経路の中には評価の高いリン
クを活用することにより,最短経路よりも改善するべきリンクの距離が尐なくなる経路が
存在する可能性がある.例として,図 4.8 の道路ネットワークを考える.図 4.8 の 2 つの
青色の点は駅のノードを表し,その他の黒色の点は道路のノードを表している.赤色の線
は評価の高いリンク,黒色の線は評価の低いリンク,青色の線は駅リンクを表しており,
線に付いている番号はリンクの番号とする.リンクの距離はすべて 1km と考える.A 駅か
ら B 駅への経路として最短経路である {6,1,2,7}(経路 1)と {6,3,4,5,7}(経路 2)を考える.
37
利用者が経路 1 を通る場合,評価の低いリンク 1 とリンク 2 を改善しなければ転換可能な
利用者にならない.一方,経路 2 を通る場合,評価の低いリンク 4 だけを改善できれば転
換可能な利用者となる.このように,最短経路ではないが迂回してでも 7.5km 以内で移動
できる利用者も転換可能な利用者として定義するほうが,ある利用者に対して改善するべ
き道路が尐なくなる.
図 4.8
迂回路を考慮すると改善する距離が短くなる経路の例
複数経路を考慮した定式化は次のように考えることができる.
複数経路を考慮した定式化
各利用者の出発地から目的地まで 7.5km 以下の経路をすべて求める.利用者の
7.5km 以下の経路の中のひとつが評価の高いリンク,改善するリンクまたは駅リ
ンクだけからなる場合,その利用者は転換可能な利用者となるとする.このとき,
転換可能な利用者の人数の総和を最大化する改善するリンクを求める.ただし,
改善するリンクの総和は 100km までとする.
この問題は次のように 0-1 整数計画問題として定式化できる.OD ペアの集合を N ,評
価の低いリンクの集合を T ,OD ペア i を出発地・目的地とする人数を numi ,評価の低い
リンク j の距離を len j ,改善する道路上限を b ,OD ペア i の出発地から目的地までの距離
が 7.5km 以下の経路の集合を S i ,OD ペア i が経路 k で使用する評価の低いリンクの集合を
38
Tki としたとき,人数の総和が最大になるようにする問題を考える.OD ペア i を出発地・目
的地とする利用者が転換可能な利用者となるならば 1,
ならないならば 0 とする変数 x i と,
評価の低いリンク j を改善するならば 1,改善しないならば 0 とする変数 y j ,OD ペア i の
経路 k に含まれるリンクがすべて改善されるならば 1,そうでないならば 0 とする変数 z ki を
導入し,以下のような 0-1 整数計画問題として定式化する.
max.
 num x
i
iN
s.t.
 len
jT
j
(4.9)
i
yj  b
y j  z ki
(4.10)
(i  N , k  S i , j  Tki )
(4.11)
(i  N )
(4.12)
xi  {0,1} (i  N )
(4.13)
y j  {0,1} (j  T )
(4.14)
z ki  {0,1} (i  N , k  S i )
(4.15)
z
kSi
i
k
 xi
各式について以下で説明する.
(4.9)式は,転換可能な利用者の人数を最大化することを表す.
(4.10)式は,評価の低いリンクを 100km まで改善できることを表す.
(4.11)式は,OD ペア i の経路 k に含まれる評価の低いリンクがすべて改善されるなら
ば,OD ペア i の経路 k は出発地から目的地まで改善するリンクのみとなることを表す.
(4.12)式は,OD ペア i の経路のうちひとつでも出発地から目的地まで改善するリンク
のみになるならば,OD ペア i を出発地・目的地とする利用者は転換可能であることを表す.
(4.13)式は, x i が 0-1 変数であることを表す.
(4.14)式は, y j が 0-1 変数であることを表す.
39
i
(4.15)式は, z k が 0-1 変数であることを表す.
この問題を解くには,OD ペア i の出発地から目的地までの距離が 7.5km 以下の経路の集
合 S i を求める必要がある.各 OD ペアに対して,最短経路,2 番目に短い経路,3 番目に短
い経路,
.
.
.と順に求めていく必要がある. k 番目の経路が 7.5km を超えたら, k  1 番目
までの経路の集合を S i とし, k  1 番目以降の経路を求める必要はない.しかし, S i の要素
数が大きくなり,
(4.11)式の制約式の本数が多くなることが予想される.
そこで本研究では,鉄道利用者は出発地から目的地まで道路ネットワーク上の最短経路
を通ると仮定することで,考えるべき経路を固定して問題を単純にした.改善するリンク
の距離の総和に上限があるため,方法 3 より複数経路を考慮した定式化のほうが転換可能
な利用者が増加する可能性がある.
40
第5章
足立区における日常的な自転車利用
促進のための道路改善
本章では,住宅地から最寄りの駅,スーパーストア,中学校へ移動するような日常的な
自転車利用者の移動を考え,自転車利用者が連続して評価の高い道路のみを利用して移動
できるようになるためには,どの道路の自転車走行環境を改善するべきかを求める.日常
的な自転車利用者の移動を考えるため,細街路を含んだ道路ネットワークを用いて改善す
るべき道路を求める.本研究では,足立区を対象として,自転車利用者データを作成し,
道路環境を 50km 改善するとしたときに,どの道路の自転車走行環境を改善すること移動
可能となる人数が増加するかを求める.
5.1 節では,本章で使用するネットワークについて説明する.5.2 節では,OD データの
作成方法について説明する.5.3 節では,評価の高い道路のみを利用して移動する自転車利
用者を増加させるために 4.3 節で説明した改善方法を適用する.
5.1
足立区のネットワークの構築
本節では,本章で使用するネットワークについて説明する.5.1.1 項では,日本の人口等
の 統 計 デ ー タ で あ る 国 勢 調 査 に つ い て 説 明 す る . 5.1.2 項 で は , 地 図 デ ー タ で あ る
MAPPLE10000 について説明する.5.1.3 項では,本章で対象とするネットワークについて
説明する.
5.1.1
国勢調査
国勢調査は,日本国の人口,世帯,産業構造等の実態を把握して,国及び地方公共団体
の各種行政施策の基礎資料を得ることを目的として行われる国のもっとも基礎的な統計調
査である[20].調査は大正 9 年以来 5 年毎に実施されており,平成 22 年国勢調査はその 19
回目にあたる.
本研究では,平成 22 年国勢調査(小地域)のうち,統計データの「男女別人口総数及び
世帯総数」と「年齢別(5 歳階級,4 区分)
,男女別人口」および境界データを[19]よりダウ
ンロードして使用する.
「男女別人口総数及び世帯総数」には,町丁目ごとの男女別人口総
41
数や世帯数が記載されている.
「年齢別(5 歳階級,4 区分),男女別人口」には,町丁目ご
との 0~4 歳,5~9 歳,
.
.
.
,75 歳以上の 5 歳ごとの人口総数が記載されている.境界デー
タには,各町丁目の位置データが記載されている.
5.1.2
MAPPLE10000
昭文社 MAPPLE10000 とは,1/2500 から 1/10000 地形図をベースとし,独自調査に基
づいて作成された紙地図のことである.そして,昭文社 MAPPLE10000 デジタル地図デー
タ[4](以下,MAPPLE10000)は,全国約 1,200 市町村の主要部・主要観光都市の地図デ
ータベースである.MAPPLE10000 は,大別して,線,ポリゴン,シンボル,注記,グル
ープ線により構成されており,これらをオブジェクトタイプと称している.
本研究では,ポイントデータとして,注記データからスーパーストアと中学校の位置デ
ータを用いる.
5.1.3
ネットワークデータ
本章では,足立区の細街路も含めた道路ネットワークを対象とする.図 2.7 で示した東
京 23 区の道路ネットワークのうち,足立区の道路ネットワークを赤色で表すと図 5.1 のよ
うになる.
図 5.1
足立区の道路を赤色で表したネットワーク
42
足立区の道路ネットワークに対して,2.4.2 項で述べた STEP2 と STEP3 の操作をし,道
路ネットワークを簡略化する.次に,簡略化した道路ネットワークに駅,町丁目,中学校,
スーパーストアの位置データを追加する.駅の位置データは DRM データの足立区に該当す
るものを使用する.町丁目の位置データは国勢調査の境界データを使用し,スーパースト
アと中学校の位置データは MAPPLE10000 を使用する.それぞれの位置データから最も近
い道路ネットワークのノードにリンクを張ると,ノード数 2,705,リンク数 3,845 のネット
ワークとなる.このときのリンク長はそれぞれのノードと道路ネットワークのノードの直
線距離とする.町丁目と道路ネットワークをつなぐリンクを出発地リンク,駅,スーパー
ストア,中学校と道路ネットワークをつなぐリンクを目的地リンクとし,出発地リンクを
赤色,目的地リンクを緑色,道路ネットワークを水色で表すと図 5.2 のようなネットワー
クとなる.
図 5.2
対象とする足立区のネットワーク
道路ネットワークに対して,自転車が走行しやすいかを評価する.幹線道路に関しては
2.3 節で計算した結果を用いることで,
BCI の値が 3.2 以下の道路を評価の高い道路とする.
しかし,細街路に関しては,BCI を計算するための情報が尐なく評価ができない.本研究
では,幅員の広さによって道路の評価を決定する.
43
DRM データには表 5.1 のように各リンクに幅員区分コードが与えられている.本研究で
は細街路のうち,幅員区分コードが 1 である道路を評価の高い道路とし,それ以外の道路
は評価の低い道路とする.評価の高いリンクを赤色で表すと図 5.3 のようなネットワーク
となる.
表 5.1
図 5.3
道路幅員区分コード
コード
幅員
0
未調査
1
13.0m 以上
2
5.5m 以上~13.0m 未満
3
3.0m 以上~5.5m 未満
4
3.0m 未満
評価の高いリンクを赤色で表した足立区の道路ネットワーク
44
5.2
OD データの作成
本節では,自転車利用者の OD データについて説明する.本研究では,自転車利用者が
各町丁目からの直線距離が最も短いスーパー,中学校,駅に移動するとし,OD データを作
成する.
OD データの人数は次のように決定する.各町丁目からスーパーに移動する人数は,国勢
調査の「男女別人口総数及び世帯総数」から得られる各町丁目の世帯数とする.各町丁目
から中学校に移動する人数は,国勢調査の「年齢別(5 歳階級,4 区分),男女別人口」の
うち,各町丁目の 10 歳~14 歳の人口に
3
を乗じた値とする(小数点以下は切り捨てる).
5
3
の値は 12 歳から 14 歳の中学生の人口だけを対象とすることを表している.各町丁目か
5
ら駅に移動する人数は,国勢調査の「年齢別(5 歳階級,4 区分),男女別人口」のうち,
各町丁目の 15 歳~64 歳の人口の 70.5 % とする(小数点以下は切り捨てる)
.70.5 % とは
平成 24 年 12 月の 15~64 歳の就業率を表している[21].
OD ペアの数は 789 となり,人数は 618,001 人となる.
5.3
移動可能な利用者を増加させる方法の適用
本節では,評価の低い道路のうち,50km まで道路を改善するとしたときに,どこの道路
を改善することにより,評価の高い道路のみを利用して移動できるようになる利用者を増
加させることができるかを求める.自転車利用者は出発地から目的地まで最短経路を通る
とし,4.3 節で説明した方法 2 と方法 3 を適用することで改善する道路を求める.
第 4 章では,鉄道から自転車への転換を考え転換可能な利用者を増加させたが,本節で
は次の移動可能な利用者を増加させることを考える.

移動可能な利用者
5.1.3 項で説明したネットワークにおける出発地から目的地までの最短経路がすべて評
価の高いリンク,改善するリンク,出発地リンクまたは目的地リンクとなる利用者.
5.3.1
ナップサック問題として定式化する方法
4.3.3 項で説明したナップサック問題として定式化する方法を用いて移動可能な利用者を
増加させる改善するリンクを求める.4.3.3 項では,変数 x i は自転車利用者が転換可能かど
うかを表すものであったが,本項では,移動可能かどうかを表す変数とする.また,改善
する道路上限 b は 50 [km] として考える.
45
この問題を分枝限定法を用いて解くと,求められた移動可能な人数は 154,207 人となり
改善するリンクを赤色で表し,評価の高いリンクを緑色で表すと図 5.4 のようになる.し
かし,図 5.5 に示すように改善するリンクが重複するため,改善するリンクの距離合計は
13km となる.
図 5.4
ナップサック問題として考えた場合の改善するリンク(赤色)
図 5.5
重複するリンク(赤色)
46
5.3.2
移動可能な人数を最大化する問題として定式化
本項では,4.3.4 項で説明した方法を用いて移動可能な人数を最大化するための改善する
リンクを求める.4.3.4 項では,変数 x i は自転車利用者が転換可能かどうかを表すものであ
ったが,
本項では,
移動可能かどうかを表す変数とする.
また,
改善する道路上限 b は 50 [km]
として考える.
整数計画ソルバーNUOPT13.1.5 を用いて解くと,移動可能な利用者は 386,950 人となり,
OD データのうち 62 % が移動可能となる.また,改善するリンクの距離合計は 49.999 [km]
となり,求められた改善するリンクを赤色で表し,評価の高いリンクを緑色で表すと図 5.6
のようになる.
図 5.6
移動可能な人数が最大となるときの改善するリンク(赤色)
今回,細街路を考慮して日常の自転車利用者に関しても改善する道路を求めたが,OD デ
ータの作成方法や細街路の評価方法には改善の余地がある.
47
第6章
結論
6.1
まとめ
本研究では,自転車利用者が出発地から目的地まで評価の高い道路のみを移動すること
を考え,評価の低い道路のうちどこの道路環境を改善することで,自転車利用者に影響を
与えるか求めた.
東京 23 区の幹線道路を対象として,自転車利用者にとってどの程度走行しやすい道路で
あるかを BCI という評価指標を用いて評価した.
東京 23 区の幹線道路のうち 21 % が BCI
の評価が高い道路であることがわかり,BCI の値を道路ネットワーク上に可視化すると,
評価の高い道路は存在するが,連続していないことが課題であることがわかった.次に,
全点間を評価の高い道路のみを利用して移動するためには,どのくらい道路環境を改善す
るべきかを求めた.全点間を評価の高い道路のみで連結させるには 561km の道路環境を改
善しなければならないことがわかった.さらに,鉄道利用者が自転車に移動手段を転換す
るためには,どこの道路環境を整備するべきかを求めた.道路環境を整備できる距離を
100km までと制限したときに,出発地から目的地まで評価の高い道路のみを利用して移動
することができるようになる利用者は 215,232 人となった.対象とした利用者の 39 % が
鉄道から自転車へと移動手段を転換できるのではないかと求めることができ,郊外から都
心へと道路を改善するよりも,都心間をつなげるように改善することがよいことがわかっ
た.最後に,足立区の細街路も含んだ道路ネットワークを対象として,日常的な自転車利
用者が評価の高い道路のみを利用して移動可能になるには,どこの道路環境を整備するべ
きかを求めた.
第 2 章では,自転車走行環境の定量的評価の指標である BCI について説明した.東京 23
区の幹線道路に対して BCI を計算するために,道路交通センサスデータについて説明し,
計算に必要な変数の決定方法を説明した.次に,BCI を道路ネットワーク上に可視化する
ため,デジタル道路地図データについて説明した.デジタル道路地図データは道路が上下
線で表されていたり,交差点の表現方法が詳細であったため,データを簡略化する方法を
述べ,BCI を道路ネットワーク上に可視化した.また,東京都自転車走行空間整備推進計
画を説明し,計画の中で指定された道路に対して,現状の BCI と整備した場合の BCI を計
48
算した.
第 3 章では,すべての点間を評価の高い道路のみを利用して移動可能になるためにはど
のように道路環境を整備しなければならないかを求めた.まず,最小全域木を求めるアル
ゴリズムである Prim 法について説明した.次に,BCI の値を持った道路ネットワークに対
して,距離をコストとして最小全域木を求めた.さらに,BCI の評価が高いリンクを 1 つ
のノードに縮約したネットワークに対して,距離をコストとして最小全域木を求めた.
第 4 章では,鉄道利用者が自転車に移動手段を転換させることを考え,100km 道路環境
を整備できるとしたときに,どの道路環境を整備するべきかを求めた.まず,鉄道利用者
の移動に関するデータである大都市交通センサスについて説明し,駅の位置データを追加
した道路ネットワークについて説明した.次に,鉄道利用者が自転車に移動手段を転換す
る条件について説明した.その上で,まず現状の道路ネットワークにおいて,転換可能な
利用者を計算した.次に,すべての駅を始点とし木を成長させることで,どの駅から道路
環境を整備していくことで転換可能な利用者を増加させられるかを求めた.さらに,転換
可能な利用者の人数を最大化する問題をナップサック問題として定式化し,転換可能な利
用者を求めた.最後に,転換可能な利用者を最大化する問題を 0-1 整数計画問題として定式
化し,転換可能な利用者と改善するリンクを求めた.
第 5 章では,日常的な自転車利用者が評価の高い道路のみを利用して移動可能となるた
めには,どこの道路環境を整備するべきかを求めた.まず,人口統計データの国勢調査と
地図データの MAPPLE10000 について説明し,細街路を含んだ足立区の道路ネットワーク
について説明した.次に,町丁目から最寄りの駅,スーパー,中学校に移動する OD デー
タを作成し,移動人数の決定方法を説明した.最後に,第 4 章で説明した方法を用いて,
移動可能になる人数を求めた.
6.2
今後の課題
本研究の今後の課題として,以下の 4 点が考えられる.
1 つ目の課題は,自転車走行環境の定量的評価の指標に関する課題である.本研究では,
アメリカで開発された BCI を東京 23 区の道路について計算したが,東京 23 区は坂道が多
くその要素が BCI に反映されていない.上り坂は自転車利用者にとって走行しづらい要素
であり,下り坂も速度が上がるため危険度が増すと考えられる.日本の道路において BCI
を作成することで,より正確に自転車走行環境を評価できると考えられる.また,細街路
に対しても自転車走行環境を評価する指標を作成する必要がある.細街路を評価すること
で,細街路を含めた道路ネットワークに対しても,自転車走行環境の整備に役立てること
ができると考えられる.
2 つ目の課題は,転換可能な利用者の条件についての課題である.本研究では,最短経路
がすべて評価の高いリンクまたは改善するリンクであり,距離が 7.5km 以内の利用者のみ
49
を転換可能としたが,最短経路ではないが迂回してでも 7.5km 以内で移動することが可能
である利用者も転換可能な利用者として定義するほうがより自然であるように思われる.
3 つ目の課題は,道路環境を改善することができるかを考慮して改善する道路を求めるこ
とである.走行環境を改善するための金銭的コストや,道路の交通量,幅員などを考慮し
て改善する道路を求めることで,現実的な走行環境を整備する道路を提案できると考えら
れる.
4 つ目の課題は,自転車利用者データについての課題である.本研究では,国勢調査と位
置データから自転車利用者を仮定した.細街路を含めた道路ネットワークに対して,走行
環境を整備するべき道路を求めるには,詳細な自転車利用者の移動データを用いる必要が
あると考えられる.
50
謝辞
本研究を進めるにあたり,中央大学理工学部情報工学科 田口 東教授に多大なるご指導,
ご助言をいただきました.本研究の成果をこのような論文の形にまとめることができたの
も,田口 東教授の熱心かつ適切なご指導によるものです.心から深く感謝いたします.
研究を進めていく上で,さまざまな場面で貴重なご指導とご助言をいただいた中央大学
理工学部情報工学科 鳥海 重喜助教および中央大学理工学部情報工学科 高松 瑞代助教に
心から深く感謝いたします.
また,デジタル道路地図データの貸与にご協力いただいた,一般財団法人 日本デジタル
道路地図協会 菅沼 英喜氏に心から深く感謝いたします.
加えて,互いに学び,励ましあった市村 真二氏,松本 徹朗氏,そして西澤 拓海氏,叶
奕凌氏をはじめとする田口研究室の皆様には,大変お世話になりました.心から感謝いた
します.
最後に,いつも支えてくれた家族ならびに,ここに記しきれない多くの先生,先輩,後
輩,友人の皆様にも大変お世話になりました.心から深く感謝いたします.
51
参考文献
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53
関連発表
[1] 長野光,田口東,自転車の走行しやすさを考慮した東京 23 区の道路の評価と分析,
「都市の OR」ワークショップ:2012,南山大学,2012 年 12 月 16 日.
54
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