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無店舗販売の地域間比較分析

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無店舗販売の地域間比較分析
 1
無店舗販売の地域間比較分析
藤岡 明房
【要旨】
無店舗販売は,小売販売方法の 1 種であるが,店舗を構えないという特徴があ
る.具体的には,訪問販売,通信・カタログ販売,自動販売機による販売,その
他の 4 種類がある.無店舗販売は,近年のネット販売の拡大の影響で,販売額を
増加させているという印象が強い.しかし,無店舗販売は日本では古くからある
販売方法であり,その代表は訪問販売であった.したがって,無店舗販売という
分類に基づくと訪問販売の販売額が大幅に減少しているため,通信・カタログ販
売が増加しても,無店舗販売の販売額は必ずしも増加しているとは言えず,むし
ろ減少している.
無店舗販売の地域特性を調べるため,全国の都道府県を 6 地域に分け,それぞ
れの地域の販売額の平均値を比較してみると,関東地域の販売額が北海道・東北
地域,中部地域,中国・四国地域,九州・沖縄地域の販売額に対して 1% 有意で
高くなることが示された.しかし,1 事業所当たりの販売額では,有意な差はみ
だせなかった.平均値の値は関東地域が一番大きく,中国・四国地域が二番目で
あった.一番小さいのは北海道・東北地域であった.
通信・カタログ販売については,企業規模の差が大きく,大手の企業が大きな
割合を占めている,そのため,大手の通信・カタログ企業がどの都道府県に立地
しているのかによって都道府県の通信・カタログ販売の順位が影響を受けること
になる.そのことを具体例によって確認してみる.
【キーワード】 無店舗販売,通信・カタログ販売,二次元配置分散分析,インター
2 立正大学経済学季報第 64 巻第 2・3 号
ネット・ショッピング
1. はじめに
商業活動は,卸売業と小売業からなるが,消費者に販売するのは小売業である.
小売業は原則的に店を構え,そこで販売する店頭販売方式が中心である.しかし,
小売業の中には店舗を構えずに販売を行う方式もある.そのような方式は,一般
に無店舗販売と呼ばれている.無店舗販売の方式は,店頭販売方式と区別するた
め,「特殊販売」と呼ばれることもある.無店舗販売方式には,『商業統計』の分
類では,訪問販売,通信・カタログ販売1,自動販売機による販売,その他,があ
る.わが国の小売業においては,無店舗販売方式の中で最も多く行われていたの
は訪問販売である.ここで,訪問販売とは,消費者の自宅などに販売員が訪問し,
商品や役務,法律で指定する権利を販売する取引のことである.
わが国では,訪問販売については富山県などの置き薬にみられるように古くか
ら行われていた伝統的な販売方式といえよう.しかし,訪問販売は 1980 年代に
入ると停滞し,衰退し始めている.それに代わり伸びてきたのが,通信・カタロ
グ販売であった.その通信・カタログ販売においても当初はカタログ販売が伸び
たが,1990 年代に入るとカタログ販売も停滞するようになった.その代わりに,
通信販売が伸びるようになった.特に,インターネットの普及や携帯電話の利用
の増加に伴いネット販売といわれる通信販売が急速に拡大している.したがって,
通信販売に関する関心が高まっており,多くの研究がなされるようになった.し
かし,通信販売は小売業の 1 形態であり,無店舗販売の 1 つの方式であることか
ら,小売業あるいは無店舗販売全体との関係の中で通信販売をとらえることは一
定の意義があるであろう.
本報告では,無店舗販売に関する経済学的研究が少ないことを踏まえて,わが
国における無店舗販売の状況を把握することを目標とする.特に,無店舗販売に
関する地域特性があるのか否かについて検討してみる.そこで,2 節において,無
店舗販売とは何かについて概要とデータ源について示す.3 節では,流通と無店
無店舗販売の地域間比較分析 3
舗販売に関する先行研究について調べてみる.4 節では,商業統計調査における
無店舗販売のデータの確認を行ってみる.5 節では,無店舗販売に関する地域特
性について分析してみる.6 節で,通信・カタログ販売に関するまとめを行うこ
とにする.
2. 無店舗販売
2‒1 無店舗販売の定義
商品を見せるための店舗を持たない小売方法を,無店舗販売という.その形態
には次のようなものがある.① 訪問販売: 販売員が家庭や職場を訪問し,カタロ
グや商品を見せて販売する方法.顧客に直接対面して商品の特徴を説明できるた
め販売促進効果が高くなる.化粧品販売や薬販売などが代表である.② 通信・カ
タログ販売: カタログや新聞,雑誌などの宣伝広告・チラシ,テレビやラジオな
どの宣伝,インターネットによるネット・ショッピングなどによって顧客に直接
商品を知らせ,電話やハガキ,ファックス,インターネットなどで注文を取る販
売形態のこと.③ 自動販売機による販売: 無人販売による省力性と狭い場所での
省スペース性,24 時間稼動する無休性などの性質により,1960 年代後半から急
速に普及するようになった日本独自の販売方式である.
2‒2 無店舗販売の統計調査
無店舗販売に関する統計調査は,商業統計調査において行われている.ここで,
商業統計調査とは,わが国の小売構造に関する最も基本的な統計調査であり,経
済産業省(旧通商産業省)により 1952 年に開始された卸・小売業の事業所を対象
とする全数調査である.無店舗販売に関するデータは 1988 年から調査対象に加
えられた.
商業統計は,1979 年から 3 年に 1 回の周期に改められたが,1997 年以降は 5
年ごとに調査を実施し,その中間年(調査の 2 年後)に簡易な調査を実施するこ
とになった.商業統計調査における無店舗販売のデータには,都道府県と市町村
のデータも含まれている.そのため,地域分析が可能である.ただし,これらの
4 立正大学経済学季報第 64 巻第 2・3 号
データには事業所数と年間商品販売額のデータしか存在しない.したがって,就
業者数や資本額などのデータが存在しないので,無店舗販売に関する地域的な生
産性の分析はできないことになる.
商業統計調査の最新版は 2007 年版である.本来は,簡易調査である「2009 年
商業統計調査」が行われる予定であったが,「統計法」(2007 年法律第 53 号)に
より「経済センサス」2 の作成が決まったため中止された.また,2011 年には商
業統計調査の実施周期を経済センサス ― 活動調査の実施の 2 年後にすることが決
定された.なお,経済センサスの創設に伴い,
「事業所・企業統計調査」,
「サービ
ス業基本調査」については廃止が決定し,
「2011 年工業統計調査」,
「2011 年特定
サービス産業実態調査」は中止された.したがって,当面は 2007 年の商業統計
調査までしか利用できないことになった.
そこで,今回の分析では 5 年ごとの調査に変わった 1997 年以降の 1997 年,
2002 年,2007 年の 3 時点について取り上げることにする.この 3 時点では無店
舗販売に関する地域データが入手できることから地域分析を行うことが可能にな
る.
3. 無店舗販売に関する先行研究
3‒1 日本の流通業
日本の伝統的小売業は,百貨店のような大型店と中小・零細規模店の二極分解
の状態であった.とくに,欧米に比べると ① 零細性,② 過多性,③ 生業性,④ 低
生産性,という特徴を持っていた.このような小売業の研究としては,戒能
(2009),高島(2003),高島(2007),竹村(2003),趙(2009)などがある.しか
し,日本における小売業は高度成長期とともに大きく変化することになった.石
原,他(2004)あるいは結城,他(2011)によると,1950 年代後半から 1980 年
代前半にかけてスーパーマーケットのように業種を超えて多品目化された流通業
者が登場し業態型流通が進展した.また,流通業者の企業化・大型化が進み,伝
統的流通が変化することになった.これが「第 1 次流通再編成」であった.さら
に,1980 年代後半から消費者の店舗選択行動の変化や情報ネットワーク技術の発
無店舗販売の地域間比較分析 5
達などにより,多品目の小売業態がより一般的になった.その代表がコンビニエ
ンス・ストアのような量販チェーンである.これが「第 2 次流通再編成」と呼ば
れるものであった.このように,百貨店から総合スーパー,そしてコンビニへと
小売業の主役は店舗規模を小さくする方向に変化してきた.インターネットの普
及とともに通信販売が増加し,店舗そのものが必ずしも必要としない形態になっ
た.それが無店舗販売である.
3‒2 無店舗販売
無店舗販売に関しては欧米でもあまり研究は行われていない3.むしろ,通信販
売などの個別の事例のほうが多くみられる4.
日本の無店舗販売に関する先行研究もあまりない.近藤(1996),宮部,他
(1989)などの解説書や説明にとどまる.多いのは無店舗販売の個別の分野に関す
る研究である.すなわち,訪問販売,通信・カタログ販売,自動販売機による販
売の各分野の研究である.そこで,分野別に見ていくことにする.
無店舗販売としては,古くからおこなわれていたのは訪問販売である.日本で
は江戸時代の元禄期から越中富山の薬売りとして知られている訪問販売が行われ
ていたこともあり,訪問販売は薬品や化粧品,食料品などの商品分野で行われて
いた.そのため,訪問販売に関する研究は商品分野別に多く行われている.例え
ば,薬品業界については石居(1996),化粧品業界については井田(2006),厳
(2007)の論文がある.そして,食品業界については茂木(2003)がある.訪問販
売については,沢津(1991)が系統的に分析している.
通信販売に関する概要は,石光,他(2010),斎藤(2004),店舗システム協会
編(2007)などで説明されている.理論的な検討を行った研究はいくつかあるが,
なかでも Goldmanis, M. 他(2010)は,電子商取引の導入を消費者の探索費用の
減少とみなし,消費者の探索モデルを構築している.そして,電子商取引が導入
されることによって産業構造に影響を与え,市場均衡が変化することを分析して
いる.近藤(1990)は社会学や人口統計学的な観点から詳しい既存研究の紹介を
行っている.
自動販売機による販売については,ほとんど理論研究が行われていない.自動
6 立正大学経済学季報第 64 巻第 2・3 号
販売機の省エネ問題とか環境問題が話題になることがあったが,販売に関しては
実態調査についての報告書が見いだされるだけであった.
なお,通信販売と関連のある電子商取引の内 B to C に関しては経済産業省に
よる電子商取引の調査が挙げられる.電子商取引に関しては,染谷,他(2007),
南方(2011),野村(2001),などの分析がある.
4. 無店舗販売の状況
4‒1 小売業の内訳
商業統計調査では,無店舗販売の事業所については,
「主として無店舗販売を行
う事業所(販売する場所そのものは無店舗であっても,商品の販売活動を行うた
めの拠点となる事務所などがある訪問販売又は通信・カタログ販売の事業所)で,
主として個人又は家庭用消費者に販売する事業所」としている.その上で,統計
データとしては,「事業所数」と「年間商品販売額」が収集されている.
小売業全体と内訳の販売額を 1997 年,2002 年,2007 年の 3 時点で比較する
と表 1 のようになる.
表 1 販売形態別販売額の比率
小売計 構成比%
(兆円)
1997
2002
2007
145.6
133.9
132.8
店頭
販売
訪問
販売
通信・カタロ
グ販売
100 79.8 10.5
100
82
8
100 82.9 6.2
1.8
2.3
3
自動販売機に その他 (無店舗
よる販売
販売)
1.1
1.2
1.3
6.8
6.5
6.6
20.2
18
17.1
3 時点の比較では小売業の販売額は低下している.店頭販売での販売は比率を
高めているのに対し,無店舗販売の比率は低下している.なぜ無店舗販売の比率
が低下したのかというと,訪問販売の比率が著しく低下しているからである.そ
れに対し,通信・カタログ販売と自動販売機による販売の比率は着実に上昇して
いる.したがって,無店舗販売の比率が低下したのは通信・カタログ販売と自動
販売機による販売額の比率が上昇しているが,それ以上に訪問販売による販売額
が落ち込んだためということになる.このように無店舗販売といっても販売形態
無店舗販売の地域間比較分析 7
の違いによって盛衰があることが分かる.
4‒2 産業別,販売形態別販売額
小売業の産業分類別,商品販売形態別の年間商品販売額を 2007 年のデータで
見てみると,表 2 のようになる.
表 2 産業分類別,販売形態別販売額の比率
小売計 構成比 店頭販売 訪問販売 通信販売 自動販 その他
(兆円) %
売機
132.8
100
82.9
各種商品小売業
15.7
100
93.7
織物・衣服・身の回り品小売業
10.6
100
88.3
飲食料品小売業
40.4
100
85.7
自動車・自転車小売業
15.1
100
74.2
家具・じゅう器・機械器具小売業
11.3
100
78.8
その他の小売業
39.7
100
78.5
小売業計
6.2
3.3
3.3
1.5
20.8
11.8
5.9
3
2.3
6.9
2.9
1.2
4
2.8
1.3
0.3
0.1
3.3
0
0.1
1
6.6
0.4
1.4
6.6
3.8
5.3
11.8
(平成 19 年商業統計,第 1 巻 10 表)
小売業の産業分類別で見てみると,小売計では飲食料品小売業が一番多く,そ
の他の小売業が続いている.逆に,織物・衣服・身の回り品小売業が一番少なく,
家具・じゅう器・機械器具小売業がその次である.これを商品販売形態別に見て
みると,訪問販売では自動車・自転車小売業が一番であり,家具・じゅう器・機
械器具小売業がその次である.逆に,飲食料品小売業は一番小さくなっている.
通信・カタログ販売では,織物・衣服・身の回り品小売業が一番多くなっており,
家具・じゅう器・機械器具小売業がその次である.逆に,自動車・自転車小売業
が一番低くなっている.自動販売機による販売については飲食料品小売業が一番
であった.その他については,その他の小売業が一番であった.次は,飲食料品
小売業であった.このように,無店舗販売について商品販売形態の違いによって,
産業分類別の販売額が異なっていることが分かる.
4‒3 従業者規模別の 1 事業所当たり販売額
2007 年の小売業の従業者規模別で,商品販売形態別の事業所数と年間商品販売
8 立正大学経済学季報第 64 巻第 2・3 号
額のデータから,小売業の従業者規模別の 1 事業所当たりの年間販売額を求めて
みると,表 3 のようになる.
表 3 従業者規模別の事業所当たり販売額 (単位 100 万円)
小売計
計
2 人以下
3∼4 人
5∼9 人
10∼19 人
20∼29 人
30∼49 人
50∼99 人
100 人以上
86.8
10.5
33.2
88.7
179.3
301.2
556.5
1089.4
4007.7
店頭販売
訪問販売
通信・カタログ
販売
自動販売機
による販売
106.3
12.0
40.4
105.8
217.3
371.7
741.2
1377.3
5061.9
59.1
8.7
22.7
67.2
167.2
334.1
551.3
1027.6
3170.0
65.5
6.3
14.2
30.6
58.5
136.3
375.7
855.6
5916.6
14.2
5.4
7.9
16.1
28.5
80.2
165.8
128.3
71.2
その他
51.8
8.7
22.5
52.9
105.9
155.0
243.5
566.5
1027.6
(平成 19 年商業統計,第 1 巻産業編,9 表)
1 事業所当たりの販売額では,原則的に店舗販売である店頭販売の販売額が大
きくなっている.しかし,従業者規模が 100 人以上の場合については,無店舗販
売の通信・カタログ販売の販売額が一番大きくなっている.また,自動販売機に
よる販売の場合従業者規模が 30∼49 人規模のときの販売額が一番大きくなって
いる.したがって,通信・カタログ販売に関しては大規模な企業が存在し,その
大規模企業が販売額の大部分を占めていることを意味している.
5. 無店舗販売の地域分析
5‒1 地域区分
ここで,無店舗販売の販売額の地域分析を行ってみる.はじめに,全国の都道
府県を 6 つの地域に分類することにする.北海道・東北地域は北海道,青森,岩
手,宮城,秋田,山形,福島の 7 道県.関東地地域は
城,栃木,群馬,埼玉,
千葉,東京,神奈川の 7 都県.中部地域は新潟,富山,石川,福井,山梨,長野,
岐阜,静岡,愛知の 8 県.関西地域は三重,滋賀,京都,大阪,兵庫,奈良,和
無店舗販売の地域間比較分析 9
歌山の 2 府 5 県.中国・四国地域は,鳥取,島根,岡山,広島,山口,徳島,香
川,愛媛,高知の 9 県.九州・沖縄地域は福岡,佐賀,長崎,熊本,大分,宮崎,
鹿児島,沖縄県の 8 県.これら 6 地域については,1 つの地域の都道府県数は最
小が 7 都道府県,最大が 9 県であった.したがって,都道府県数の差は最大で 2
都道府県である.
5‒2 販売額の二元配置分散分析
6 つの地域について無店舗販売の販売額を 1997 年,2002 年,2007 年の 3 時点
で比較してみる.分析は地域と時点を 2 つの因子として取り上げ,多重比較を行
うことにする.そこで,二元配置分散分析の手法を適用する.パソコンソフトは
社会情報サービス社の『エクセル統計 2012 for Windows
(R)』を利用する.対
比較については,主としてテューキー(Tukey)の手法に基づいた.それ以外に,
フィッシャーの LSD,シェッフェ(Sheffe),ボンフェローニ(Bonferroni),な
どの手法を参考にした.
二元配置分散分析を適用したことによって因子 1 の図 1 と因子 2 の図 2 が得ら
れた4.なお,図 1 と図 2 の中の SD は標準偏差,SE は標準誤差を表す.
テューキーの手法を適用したところ,地域別の因子である因子 1 については 1%
図 1 無店舗販売の地域間比較
2.5
඗ළ
2
ᖲᆍ+SD
1.5
ᖲᆍ+SE
ᖲ ᆍ
1
ᖲᆍ-SE
0.5
0
ᖲᆍ-SD
໪
ᾇ
㐠
䝿
᮶
໪
㛭
᮶
୯
㒂
㛭
け
୯
ᅗ
䝿
ᄿ
ᅗ
ஐ
ᕗ
䝿
ἀ
⦎
10 立正大学経済学季報第 64 巻第 2・3 号
図 2 無店舗販売の 3 時点比較
඗ළ
1.4
1.2
ᖲᆍ+SD
1
ᖲᆍ+SE
0.8
ᖲ ᆍ
0.6
ᖲᆍ-SE
0.4
ᖲᆍ-SD
0.2
0
-0.2
1997
2002
2007
の有意が認められた.これは関東地域の無店舗販売の販売額の平均値が,北海道・
東北地域,中部地域,中国・四国地域,九州・沖縄地域に対して 1% 有意で高く
なることを示している.関西地域に関しては関東地域との有意な差は認められな
かった.したがって,地域的には平均値に一部有意な差が存在することになる.
それに対し,時点間の因子である因子 2 は,図 2 に示されるように 3 時点の無
店舗販売の販売額に有意な差が認められなかった.このことから,3 時点の無店
舗販売の販売額の平均値を比較すると,平均値は低下しているが有意な差にはなっ
ていないことになる.
5‒3 一元配置分散分析との比較
本論文では地域間比較と 3 時点比較を同時に行う二元配置分散分析を適用した
が,各時点で地域間比較を行うという一元配置分散分析を適用した場合について
も触れておく.例えば,2007 年時点で地域間の無店舗販売の販売額について一元
配置分散分析を適用すると,テューキーの手法に基づくならば,p 値は関東地域
と中国・四国地域の間で 0.0132,関東地域と九州・沖縄地域の間で 0.0307 であ
るため,5% の有意で差が存在したことになる.同様に,2002 年時点と 1997 年
時点で一元配置分散分析を適用すると,テューキーの手法については地域間に有
意な差は見いだせなかった.したがって,一元配置分散分析を各時点で適用して
も地域間の差はほとんど見いだせないことになる.
無店舗販売の地域間比較分析 11
これは,3 時点の販売額のデータにくらべると,1 時点の販売額のデータはデー
タ数がより少ないので地域間の差が明確にならなかったものと考えることができ
る.このようなことから,一元配置分析にくらべると,差を明確にするためには
二元配置分析を適用したほうが好ましいことになる.
5‒4 1 事業所当たり販売額と住民一人当たり販売額
次に,無店舗販売の販売額を事業所の数で割ることによって得られる 1 事業所
当たりの販売額について 3 時点比較をするために二元配置分散分析の手法を適用
すると,図 3 と図 4 のようになった.地域に関する因子 1 と 3 時点に関する因子
図 3 1 事業所当たりの地域別無店舗販売額
100୒ළ
350
300
ᖲᆍ+SD
250
200
ᖲᆍ+SE
150
ᖲ ᆍ
100
ᖲᆍ-SE
50
ᖲᆍ-SD
0
㛭
᮶
໪
ᾇ
㐠
䝿
᮶
໪
୯
㒂
㛭
け
୯
ᅗ
䝿
ᄿ
ᅗ
ஐ
ᕗ
䝿
ἀ
⦎
図 4 1 事業所当たりの 3 時点比較
100୒ළ
300
ᖲᆍ+SD
250
ᖲᆍ+SE
200
ᖲ ᆍ
150
ᖲᆍ-SE
100
ᖲᆍ-SD
50
0
1997
2002
2007
12 立正大学経済学季報第 64 巻第 2・3 号
2 についていずれも有意な差は認められなかった.ただし,平均値の値は関東地
域が一番大きく,中国・四国地域が二番目であった.一番小さいのは北海道・東
北地域であった.このように販売額では地域的な差があったにもかかわらず,1
事業所当たりの販売額では地域的な差が不明になったのは,販売額の多い地域に
は事業所の数がより多くなったことによって調整されたものと考えられる.
また,3 時点では 1997 年が一番で,以後若干であるが減少している.このこと
から,販売額の減少と同じように,事業所当たりの販売額も減少したことになる.
また,無店舗販売の販売額を地域別の住民数で割ることによって得られる住民
一人当たりの販売額について二元配置分散分析の手法を適用すると,図 5 と図 6
のようになった5.因子 1 は地域別の住民一人当たりの無店舗販売の販売額である
図 5 住民一人当たりの無店舗販売の地域別比較
୒ළ
35
30
25
20
15
10
5
0
ᖲᆍ+SD
ᖲᆍ+SE
ᖲ ᆍ
ᖲᆍ-SE
ᖲᆍ-SD
㛭
᮶
໪
ᾇ
㐠
䝿
᮶
໪
୯
㒂
㛭
け
୯
ᅗ
䝿
ᄿ
ᅗ
ஐ
ᕗ
䝿
ἀ
⦎
図 6 住民一人当たりの無店舗販売の 3 時点比較
୒ළ
35
30
ᖲᆍ+SD
25
ᖲᆍ+SE
20
ᖲ ᆍ
15
ᖲᆍ-SE
10
ᖲᆍ-SD
5
0
1997
2002
2007
無店舗販売の地域間比較分析 13
が,テューキーの手法を適用すると 1% の有意で平均値の差が認められた.販売
額が一番多くなるのは中国・四国地域である.販売額が一番少なくなるのは九州・
沖縄地域であり,下から二番目なのは関東地域である.因子 2 は時点間の住民一
人当たりの販売額の平均値であるが,1% の有意で差があることが分かった.す
なわち,1997 年が一番多く,2002 年と 2007 年は有意に少なくなっているので
ある.2002 年と 2007 年の間では有意な差は見いだせなかった.この結果は,住
民一人当たりで比較すると中国・四国地域の販売額が一番多くなるのに対し,関
東地域は無店舗販売の販売額が相対的に小さくなることを意味する.したがって,
関東地域の販売額が一番大きかったのに,住民一人当たりでは小さくなるのは,
関東地域の住民の数が他の地域より多いためと考えられる.
5‒5 販売形態別の 3 時点,地域別比較
無店舗販売の販売額を販売形態別に 3 時点比較,地域間比較をしてみる.そこ
で,総販売額,1 事業所当たりの販売額,住民一人当たりの販売額の 3 種類につい
て二元配置分散分析を適用し,テューキーの手法で評価すると表 4 のようになる.
表 4 無店舗販売の販売形態別比較の一覧表
**: 1% 有意 *: 5% 有意
総販売額
地域別
3 時点
事業所当たり販
売額
住民一人当たり
販売額
地域別
3 時点
地域別
3 時点
無店舗販売
訪問販売
**
**
**
**
**
**
**
**
**
**
通信・カタ
ログ販売
**
自動販売機
による販売
**
その他
**
**
**
*
**
**
**
表 4 の中の無店舗販売の比較結果は 5–3 と 5–4 で示したものと同じである.残
りの訪問販売,通信・カタログ販売,自動販売機による販売,その他についての
結果を見ると,訪問販売については総販売額,事業所当たり販売額,住民一人当
たり販売額について地域間比較,3 時点比較のいずれについても 1% の有意で差
14 立正大学経済学季報第 64 巻第 2・3 号
があることが分かった.それに対し,その他については 4 つのケースで 1% の有
意で差があり,自動販売機による販売については 3 つのケースで 1% の有意で差
があり,1 つのケースで 5% の有意で差があった.通信・カタログ販売について
は総販売額の地域間についてのみ 1% の有意な差があるだけで,残りの 5 つの
ケースについては有意な差が見いだせなかった.
訪問販売,自動販売機による販売,その他についてはこれらの結果からそれほ
ど大きな問題は見いだせない.しかし,通信・カタログ販売に関しては情報通信
の発展とともに販売額が増加しているというイメージがあることから,3 時点比
較で有意な差が見いだせなかったことは疑問である.そこで,通信・カタログ販
売に関しさらに検討してみる.
6. 通信・カタログ販売に関する検討
6‒1 通信・カタログ販売の年間商品販売額階級別データ
2007 年の通信・カタログ販売の年間商品販売額階級別,商品販売形態別の事業
所数,販売額を一覧表にまとめると表 5 のようになる.
表 5 通信・カタログ販売の年間商品販売額階級別の事業所数と販売額
事業所数
∼200 万円
200 万円∼500 万円
500 万円∼1000 万円
1000 万円∼2000 万円
2000 万円∼5000 万円
5000 万円∼1 億円
1 億円∼10 億円
10 億円∼100 億円
100 億円∼
計
1526
2903
5322
7664
13580
9668
15008
1205
80
56956
%
2.68
5.10
9.34
13.46
23.84
16.97
26.35
2.12
0.14
100
商品販売額
(100 万円)
638
3546
11937
29960
108033
161045
813918
1183296
1505197
3817570
%
0.02
0.09
0.31
0.78
2.83
4.22
21.32
31.00
39.43
100
(『平成 19 年商業統計』(経済産業省),第 1 巻 11 表)
表 5 から明らかなように 1 事業所当たりの販売額が 100 億円を上回る事業所数
無店舗販売の地域間比較分析 15
は 80 社しか存在しないのに販売額は 3 兆 8175 億 7000 万円であった.この販売
額は通信・カタログ販売の約 4 割にもなっている.1 事業所当たりの販売額が 10
億円を上回り 100 億円未満の事業所数は 1205 事業所であり,通信・カタログ販
売の販売額の約 3 割であった.したがって,通信・カタログ販売の中に占める 10
億円を上回る大規模事業所の販売額の割合は約 7 割になる.このことから,少数
の大規模事業所が通信・カタログ販売の動向を左右しているといえよう.
6‒2 通信・カタログ販売の販売額上位 5 都府県
無店舗販売の販売形態別の分類に基づき,1997 年,2002 年,2007 年の 3 時点
の総販売額,事業所当たり販売額,住民一折当たり販売額について通信・カタロ
グ販売の都道府県別の販売額を求め,上位 5 番目までの都道府県を調べてみると
表 6 のようになる.
表 6 通信・カタログ販売の 3 時点,3 種類の販売額
通信・カタログ販売
総販売額
1
(100 万円)
2
事業所当たり販売額
(100 万円)
住民一人当たり販売額
(千円)
3
4
5
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
1997
542,929
346,884
259,226
213,105
123,978
676.8303
154.5359
124.1532
109.8602
84.46492
252.1654
80.99772
45.97976
39.40968
24.94527
東京
大阪
香川
京都
福岡
香川
京都
大阪
東京
神奈川
香川
京都
東京
大阪
福岡
2002
839,928
351,824
200,373
191,191
160,047
421.1763
139.5355
132.8447
131.4441
109.1266
156.9784
75.66936
68.44951
42.64582
39.88603
東京
大阪
京都
神奈川
香川
香川
京都
長崎
東京
大阪
香川
京都
東京
長崎
大阪
2007
1152,570
412,994
251,679
213,031
186,324
223.6168
206.0035
139.7902
134.4439
94.83215
116.5513
95.50196
90.33834
86.31077
46.86907
東京
大阪
京都
福岡
神奈川
長崎
香川
東京
京都
大阪
香川
京都
東京
長崎
大阪
通常の小売業の販売額であれば,人口規模の多い東京都,大阪府,神奈川県,
埼玉県,千葉県,兵庫県,北海道などが上位に来ている.しかし,この表 6 から
16 立正大学経済学季報第 64 巻第 2・3 号
興味深い特徴がいくつか見いだせる.
1)総販売額の上位 5 番目までに香川県と京都府が登場している.
2)事業所当たり販売額では香川県,長崎県,京都府が最上位に来ている.
3)しかし,香川県の事業所当たりの販売額は 1997 年から 2002 年に大幅に減少
し,2002 年から 2007 年にも大幅に減少している.
4)同様に,京都府も事業所当たり販売額は若干であるが低下している.
5)事業所当たり販売額について長崎県は 2002 年に突如登場し,2007 年にも伸
びている.
6)事業所当たり販売額について東京都は着実に増加させている.
7)住民一人当たり販売額では香川県,京都府,東京都の順番は同じであった.
8)しかし,住民一人当たり販売額では最上位の香川県は販売額を低下させてい
る.
9)反対に,東京都は住民一人当たり販売額が 3 時点でみると増加している.
10)長崎県の住民一人当たり販売額は 2002 年と比べると 2007 年は大幅に増加し
ている.
これらの特徴から,
(1)香川県には通信・カタログ販売の大手の事業者所が存在しており,大きな売
り上げを出しているが,時点が後になると売り上げを大幅に低下させている.
(2)長崎県にも通信・カタログ販売の大手の事業所が存在しており,2002 年,
2007 年に売り上げを大幅に増加させている.
(3)京都府にも通信・カタログ販売の大手業者が存在しており,売り上げが低落
傾向である.
(4)東京都には通信・カタログ販売の事業所がいくつも存在し,着実に販売を増
加させている.
等の予測が成り立つ.
6‒3 大手の通信・カタログ販売事業者
通信・カタログ販売については大手の事業者が存在し,都府県レベルの総販売
額にも大きな影響を与えている可能性があることが予測された.そのことを確認
無店舗販売の地域間比較分析 17
するために,通信・カタログ販売の大手事業者の売上額と所在地を調べてみる.
それが表 7 である.
表 7 3 時点の通信・カタログ販売業者トップ 10
1997 年
1
2
3
4
千趣会
セシール
ニッセン
シャディ
100 万円
186,908
179,316
136,924
124,200
所在地
2002 年
大阪
千趣会
香川
ニッセン
京都
ベルーナ
大阪
セシール
100 万円
143,850
125,752
100,299
95,863
所在地
大阪
京都
埼玉
香川
2007 年
100 万円
142,080
ニッセン
120,045
ベルーナ
109,974
ジャパネットタ 108,065
千趣会
所在地
大阪
京都
埼玉
長崎
カタ
5 フジサンケイ
68,475 東京都 ジャパネット
リビング
6
7
8
9
10
フェリシモ
ムトウ
ベルーナ
日本交通公社
高島屋
70,500 長崎
タカタ
65,000
62,056
54,962
50,397
46,323
兵庫
ユーキャン
静岡
ディノス
埼玉
ムトウ
東京都 三越
大阪
住商オットー
56,341
52,899
45,385
40,575
39,200
ジュピターショッ
プチャンネル
東京都 QVC ジャパン
東京都 ディノス
静岡
セシール
東京都 ファンケル
東京都 ユーキャン
99,718 東京都
73,378
64,208
62,528
58,921
57,200
千葉
東京都
香川
神奈川
東京都
表 7 のデータは,『流通の手引き 2000』(日本経済新聞社),『日経 MJ トレン
ド情報源 2005』(日本経済新聞社),『日経 MJ トレンド情報源 2010』(日本経済
新聞社)に基づく.ただし,表 7 の販売額のデータは,『商業統計調査』(経済産
業省)のデータと評価基準が一致しているとは限らない.そこで,情報・カタロ
グ販売の都府県別,3 時点別の傾向を見るための参考資料とみなすことにする.
表 7 の中で千趣会,セシール,ニッセン,シャディ,ベルーナ,ディノスなど
は代表的なカタログ販売の会社である.ジャパネットタカタ,ジュピターショッ
プチャンネル,QVC ジャパン,フジサンケイリビングなどはテレビショッピン
グが中心の会社である.
1997 年のセシールについて調べてみると,1793 億円の販売額であり,所在地
は香川県である.香川県の総販売額が 2592 億円であるから,セシールは香川県
の約 7 割の販売額になる.同じ年のニッセンの販売額は 1369 億円であり,所在
地は京都である.京都の総販売額は 2131 億円であるから,ニッセンの販売額は
京都の販売額の約 6 割を占めている.千趣会は販売額が 1869 億円であり,大阪
府の総販売額が 3469 億円であるから,大阪府の販売額の約半分になる.したがっ
18 立正大学経済学季報第 64 巻第 2・3 号
て,大手の業者の販売額によって府県の総販売額が左右されることになる.
同様のことは,事業所当たり販売額についてもいえることになる.大手の通信・
カタログ販売の事業者の所在する都府県では,事業所当たりの販売額も多くなる.
代表的なのはセシールが所在する香川県とニッセンが所在する京都,そして千趣
会が所在する大阪である.
2002 年と 2007 年についても 1997 年とほぼ同じことがいえるであろう.ただ
し,テレビショッピングが中心のジャパネットタカタは 2002 年に上位に登場し,
2007 年も上位を維持した.したがって,ジャパネットタカタが所在する長崎県の
事業所当たり販売額は 2002 年第 5 位になり,2007 年も第 4 位であった.
3 時点比較から分かることは,カタログ販売の大手企業の販売額はほとんど大
幅に減少している(ただし,ベルーナは例外である)ことである.その代表はセ
シールといえる.セシールの 1997 年の販売額は 1793 億円であったのが,2002
年には 959 億円とほぼ半減し,2007 年には 625 億円へとさらに減少した.それ
に伴い香川県の総販売額も大幅に減少している.
それに対し,ジャパネットタカタに代表されるテレビショッピングが大幅に伸
びていることが分かる.
したがって,通信・カタログ販売の販売額は,カタログ販売が大きく落ち込ん
でいるのに対し,テレビショッピングは伸びていることになる.そのため,通信・
カタログ販売全体の総販売額は増加しているが,カタログ販売のように減少して
いるものもあることになる.その結果,3 時点比較では総販売額の平均値は増加
していたが,増加に有意な差が見いだせなかったものと考えられる.
6‒4 電子商取引と通信・カタログ販売
通信・カタログ販売の総販売額の平均値は 1997 年,2002 年,2007 年の 3 時
点比較では増加していた.しかし,通信・カタログ販売の事業所当たりの販売額
では逆に減少していた.これは小規模事業者の数が増加したためと考えられる.
また,カタログ販売が大幅に減少したことも理由の 1 つになるである.
通信・カタログ販売の新しい販売形態であるインターネット販売については商
業統計調査では明らかにすることができなかった.そこで,『電子商取引実態調
無店舗販売の地域間比較分析 19
図 7 電子商取引の推移
඗ළ
9
8
7
6
5
4
3
2
1
2010
2011
2009
2007
2008
2005
2006
2004
2002
2003
2000
2001
1998
1999
0
㸷㹩㹤㸸 㸺㸸ᕰሔ ᑚ኉࣬ࢦ࣭ࣄࢪ
(『電子商取引実態調査』
(経済産業省).なお,2006 年から電子商
取引の市場規模算定基準が変更されている)
査』(経済産業省)を用いて電子商取引の状況を調べてみることにする.
まず,経済産業省の『電子商取引実態調査』のデータを見てみると,近年では
インターネットを利用した通信販売が伸びていることが分かる.そのことを示し
たのが,図 7 の電子商取引の内の B to C(企業から消費者へ)である.
図 7 から明らかなように電子商取引の内 B to C の市場については順調に拡大
している.さらに,B to C の内小売り・サービス取引の分についても同様に拡大
している.電子商取引の中の B to C あるいは小売り・サービスの取引が拡大し
ていることから,将来的には通信・カタログ販売もさらに増加することが期待で
きる.しかし,当面は商業統計調査が行われないので,通信・カタログ販売が増
加することを確認することができない.
20 立正大学経済学季報第 64 巻第 2・3 号
7. まとめ
本論文では,これまであまり分析されてこなかった無店舗販売の販売額につい
て地域間比較と 3 時点比較を中心に検討した.そして,無店舗販売の総販売額は
3 時点比較では時点ごとに低下していることが分かった.その原因は,通信・カ
タログ販売や自動販売機による販売は着実に拡大しているのに対し,訪問販売の
販売額が大幅に低下しているためであった.
また,地域別に無店舗販売の販売額を比較してみると,総販売額では関東地域
は一番平均値が高く,中国・四国地域は一番平均値が低くなり,1% での有意な
差が存在していた.事業所当たり販売額についても関東地域は一番平均値が高く
なっていた.しかし,地域間での有意な差は見いだせなかった.住民一人当たり
で比較してみると,販売額は中国・四国地域が一番高く,九州・沖縄が一番低く,
関東地域は二番目に低くなっていた.これらの地域間では 1% あるいは 5% の有
意な差が存在していた.このように,無店舗販売については総販売額でみる場合
と住民一人当たりの販売額でみる場合には地域間に有意な差が存在していたが,
事業所当たりの販売額では地域間の有意な差は見いだせなかった.
無店舗販売を販売形態別に見た場合,訪問販売と自動販売機による販売,その
他の販売については地域間あるいは時点間の何らかの有意な差が存在していた.
しかし,通信・カタログ販売については総販売額の地域間についてのみ有意な差
が存在したが,それ以外については地域間にも時点間にも有意な差は存在してい
なかった.そこで,通信・カタログ販売についてより詳しく調べてみた.まず,
通信・カタログ販売の規模別の販売額を比較してみると,販売額が 100 億円を上
回る大規模企業の販売額が全体の販売額の約 4 割を占めることから,大手の事業
者の販売額が大きな役割を果たしていることが予測できた.そこで,通信・カタ
ログ販売の上位 10 位までの企業の販売額と所在地を改めて調べてみた.その結
果,府県によっては大手事業者の販売額が 5 割以上になることが分かった.特に,
香川県のセシール,京都府のニッセン,大阪府の千趣会などが府県において大き
な割合を占めている事業者であった.
無店舗販売の地域間比較分析 21
通信・カタログ販売の内訳を見てみると,カタログ販売は販売額を大きく減少
させていることが分かった.それに対し,テレビショッピングについては依然と
して伸びていた.さらに,インターネットでの販売も急速に伸びていることが分
かった.ただし,インターネットでの販売の伸びに関しては商業統計調査では明
示的に示されなかったので,電子商取引実態調査に基づいた.
以上のように,無店舗販売は現在縮小している最中であるが,将来的にはイン
ターネットショッピングが普及するので,通信・カタログ販売が拡大することが
予測でき,無店舗販売も販売額が増加する可能性がある.したがって,今後も無
店舗販売の動向を注目することが望まれる.
【注】
1
通信・カタログ販売は,インターネット専業業者(インターネット以外に販売チャ
ネルを持たない業者),店舗ベース業者(旧来型の小売店舗やチェーン店を流通
チャネルとして有する小売業者),カタログ業者(製品カタログを使って手紙か電
話で商品を販売する小売業者),店舗・カタログ併用業者(旧来型の小売店舗,手
紙,電話その他を使用する小売業者)
,製造・卸売業者(限定された製品販売をし
ている製造業ないしは卸売業者)などからなりたつ.
2
経済センサス基礎調査は,2009 年 7 月に実施されたが,事業所数や従業者数の補
足を目的としているため,販売額は調査対象になっていない.したがって,経済
センサスでは,無店舗販売のデータも掲載されているが,販売額に関してはデー
タが存在していない.そのため,商業統計調査との整合性をとることができない
ことになる.
3
たとえば,Man Fred Krafft, Murali K. Mantrala(2006)は小売業の全般的な
解説を行っているが,その中における無店舗販売に関する記述は極めて少なくなっ
ている.また,Hernandez, T., R. Gomez-Insausti and M. Biasiotto.(2001)
においては無店舗販売というテーマを掲げているが,中身はインターネットの普
及による無店舗販売の増加の話である.Goldmanis, M., A. Hortacsu, C. Syver-
son, and O. Emre(2008)は電子商取引に関する分析を行っている.P. Korgaonkar, R. Silverblatt, and T. Girard(20069)はオンラインショッピングを取り
上げている.
22 立正大学経済学季報第 64 巻第 2・3 号
4
参考表 1 は,無店舗販売の総販売額の地域間,時点間比較の二元配置分散分析の
結果である.この表で因子 A は地域間の因子であり,因子 B は 3 時点間の因子で
ある.因子 A に関しては 1% の有意差が見いだせる.しかし,因子 B は有意な差
は見いだせなかった.
参考表 1 無店舗販売の総販売額に対する二元配置分散分析の結果
分散分析表
因 子
因子 A
因子 B
因子 A* 因子 B
5
F 値
6.755141999
0.935607372
0.031235764
**: 1% 有意 *: 5% 有意
P 値
判 定
1.34787E-05 **
0.395121495
0.999999211
参考表 2 は,無店舗販売の住民一人当たりの販売額についての二元配置分散分析
の結果である.因子 A は地域間の因子であり,因子 B は時点間の因子である.い
ずれの因子についても 1% の有意差が存在していることを示している.
参考表 2 無店舗販売の住民一人当たりの販売額に関する二元配置分散分析の結果
分散分析表
因 子
因子 A
因子 B
因子 A* 因子 B
**: 1% 有意
F 値
4.0053671
24.4080348
0.39358775
P 値
0.00211518
1.1823E-09
0.94739726
判 定
**
**
【参考文献】
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平成 16 年商業統計
平成 14 年商業統計
平成 19 年商業統計 概況 トピックⅲ「小売業の無店舗販売の状況」,2008 年 11 月
経済産業省編『我が国の商業 2009』(平成 21 年版)
経済産業省編『平成 23 年度我が国情報経済社会における基盤整備(電子商取引に関す
る市場調査)報告書』,平成 24 年 2 月
『エクセル統計 2012』(株)社会情報サービス 1
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