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第52回 WAZA〜世界に誇るニッポン企業

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第52回 WAZA〜世界に誇るニッポン企業
2015
MAR&APR
ー vol.78 ー
03
15
今月の特集
ミャンマー始動
ベトナム即席めん市場トップシェア
国際人事労務リポート
海外派遣者の育成と活用
みずほ総合研究所 コンサルティング部
主任コンサルタント 三沢 直之
18
グローバル インサイト
チリ新政権における税制改革
デロイト・チリ日系企業サービスグループ マネジャー 溝畑 圭介氏
第52回 WAZA〜世界に誇るニッポン企業〜
エースコック株式会社 代表取締役社長 村岡 寛氏
16
20
中国商務指南〜中国ビジネス最新ガイド〜
影響力を増す中国独禁当局の動向と
独禁法対策
アンダーソン・毛利・友常法律事務所
弁護士 中川 裕茂氏
22
<みずほ>のサービス
輸出債権のリスクヘッジについて
ミャンマー始動
ミャンマーのマクロ経済動向
いては、経済成長にともなって拡大し、
「低所得国」
から
「下位中
みずほ総合研究所 アジア調査部
主任研究員 小林 公司
国投資の受け入れが進むことで、農村にとどまる労働力が都市部
所得国」の仲間入りを果たすことが視野に入ってくる
(図表)
。外
の製造業へと次第にシフトし、所得水準は高まっていくと考えられ
ミャンマー経済の成長率は、2014
るからだ。人材の質をみても、2000年に75%と見劣りしていた初
年に前年比+8.5%に達したとみられ
等教育履修率は2010年には95%まで上昇しており、農村を出て
る。今後についても経済は拡大を続
労働集約的な製造業に従事できる人材は、若い世代を中心に着
ける見通しだ。その第一の要因は、
実に増えていると推察される。
天然資源に恵まれており、
ガスなどの
一方、
経済成長にともない、
足元では貿易赤字が膨らむなど、
マ
採掘が周辺国との長期契約に基づ
クロ経済には過熱感が表面化していることには留意が必要であ
いて続くと見込まれることである。第
る。内需が旺盛なことから、投資財や消費財を中心に輸入が拡大
二の要因は、人口が5千万人とアジ
を続け、
2014年1~8月の貿易赤字の規模は前年同期の6.5倍
アで相対的に大きく、人件費もアジ
に上っている。
これを受けて、通貨チャットの下落が2014年9月以
アでは最低水準にあることから、労働集約的な製造業を中心に
降に加速し、
2012年4月に管理変動相場制に移行した時点の1
外国からの直接投資が増えると期待される。
ミャンマーとしても投
米ドル=818チャットから、
2015年1月下旬には1,025チャットと2
資環境の整備に努めており、
2011年に軍政から民政に移管して
割ほど減価している。通貨安で輸入品を中心に物価が上昇してお
以降、
法治を進めてガバナンスを改善し、
投資誘致制度も見直し、
り、
特にチャット安が進んだ9月以降はインフレ率が加速している可
ティラワ経済特区などのインフラ整備も実施している。
能性が高い
(2014年8月は前年比+4.2%)
。物価の上昇は賃金
1人あたり国民所得は、
2012年に876米ドルだった。ASEAN
上昇圧力にもつながるおそれがある。
小林主任研究員
(東南アジア諸国連合)
10ヵ国で最も低く、世界銀行の定義
中長期的に安定した経済成長を続けるためには、短期的には
に従えば、多くのアフリカ諸国とともに
「低所得国」
(2012年に
景気の過熱感を冷ます緊縮型の政策運営が求められよう。特に
1035米ドル以下)
に分類される。今後の1人あたり国民所得につ
2015年は、米国がゼロ金利政策から利上げに踏み切ると想定さ
れることから、
ミャンマーを含む新興国は資金流出のリ
図表. 1人あたり国民所得
スクに備えて対外赤字やインフレ等の不均衡を修正す
(米ドル)
4,000
下位中所得国 ↑
3,500
3,000
2,500
2,000
1,500
500
コンゴ
マダガスカル
エチオピア
ウガンダ
モザンビーク
タンザニア
ネパール
ミャンマー
バングラデシュ
ケニア
スーダン
カメルーン
コートジボワール
パキスタン
インド
ベトナム
ガーナ
ナイジェリア
モロッコ
エジプト
スリランカ
フィリピン
インドネシア
ウクライナ
-
↓ 低所得国
1,000
ることが肝要である。これに対し、財政収支は2013年
度
(4月~翌3月)
に名目GDP比▲1.6%の赤字だった
が、2014年度は公務員給与の引き上げなどで▲4.5
~6.0%と赤字が膨らむ見込みである。拡張的な財政
は内需を刺激して輸入を増やすほか、公務員給与の引
き上げについてはインフレを加速すると現地では懸念さ
れている。IMFによれば、2018年度まで財政赤字は▲
4%台後半の高水準が続くと予想されている。経済発
展のために歳出が増えることは止むを得ないが、
インフ
ラ整備等の投資支出を優先する一方で、人件費等の
(注)
1.
人口が2000万人以上の国。
2.
データの制約により、
ミャンマーのみ2012年、
他は2013年。
3.
低所得国と下位中所得国の境は世界銀行が毎年見直しており、
2012年基準の1,035米ドルを図示。
(資料)
世界銀行、
アジア開発銀行
経費支出は抑制するなど、
メリハリのある財政政策を行
うことが課題と言えよう。
mizuho global news | 2015 MAR&APR vol.78 0 3
特集:ミャンマー始動
加速するミャンマーへの投資と支援
れる。傾向としては、2013年頃までは関心はあるもののまだ様
みずほ銀行 直投支援部
調査役 小原 綾子
の関心も、
ミャンマーでの投資が本当に可能なのかを見極めに
2014年から2015年のミャンマー
小原調査役
子見で、
ヤンゴンにある当行ヤンゴン出張所を訪問される企業
来られる方が多かったように感じる。それが大きく変化していった
のが同年末から開始したティラワSEZの造成工事であった。製
2014年12月までにヤンゴン日
造業の投資が進むことが具体的に目に見える形で明らかになっ
本人商工会議所の加盟社数が200
てくると、建設や物流の動きが一層活発となった。外国人
(主に
社を超えた。2012年の53社から比
日本人)向けサービスアパートメント建設・管理運営、人材紹介、
較すると大幅な増加となった。
ミャン
空調設備工事、設計会社、車の修理業など多岐にわたるビジネ
マーへのODAプロジェクトも含めたイ
スへと問い合わせ内容も広がっていった。
ンフラ投資、
日緬両政府らが推進し
また縫製業などの製造業も、
ヤンゴン市郊外にある地場の工
てきた工業団地プロジェクト、
ティラワ
業団地等で展開するケースや既存工場の拡張を検討する日本
SEZ第1期へ入居する日系企業の
企業も増えてきている。
(ティラワを含む)
SEZ以外での製造業
投資後押しもあり、
2015年も日本企
等の投資を行う場合に適用される新外国投資法*2で設立認可
業によるミャンマー投資は引き続き加速するとみられる。
が下りた外資企業数は、政府の発表では2014年12月末まで
「アジアのラストフロンティア」
と言われ世界中から一躍注目を
に859社にのぼり、中国、
タイ、
シンガポールがトップ3となり、
日
集めるようになったミャンマーだが、
いまでは日本やアジア各国、
本が12位
(57社)
となっている。
欧米などからの視察団が年中訪問しては投資を決めており、
この
現状はヤンゴン一極集中で投資が進んでいるが、中国に進出
1年でミャンマーの投資環境も大きな変化を遂げてきたと言える。
している日系企業が、
ミャンマー第2の都市マンダレーで生産の
また日本企業にとって追い風となる動きが、2014年10月の
可能性を探る動きも出てきている。中国雲南省から陸路でマン
外国銀行への銀行業ライセンス事前認可の発表だった。
ミャン
ダレーまで物資を運ぶ動きは昔から活発であり、同地にはすでに
マーはまさに「国づくり」がスタートしたばかりだが、当行を含めた
巨大なトラック基地まで完成している。
こうした動きをとらえてマン
邦銀3行を合わせ計9行に付与され、現地での投資環境の整備
ダレーでの日系企業による生産拠点立ち上げも近い将来出てく
が着実に進んでいると言える。
るかもしれない。
ミャンマーでは中国、
インド、
タイの大国に囲まれ
2015年のミャンマーは政治の年である。民主化の進展を推し
ているからこそ考えられるオペレーションを周辺国の人々は果敢
進めてきたテイン・セイン大統領の続投有無を含めた政治的な動
にも挑戦し、
すでに大きな動きへとつながっている点は見落とし
きが活発になる年でもあるだろう。政治の安定化はミャンマーの最
てはいけないだろう。
優先課題である。一部緩和されてきてはいるが、
ミャンマーは米国
ミャンマーでは卸や小売業が現在でも規制業種となっている
による経済制裁が現在でも続いている国である。2014年11月、
ことから、
日本企業はこの種のビジネスをミャンマーで行うことは
米国財務省は軍事政権時代に工業大臣だった現下院議員を新
まだできないが、問い合わせ件数は多く関心は高い。日本の大
たに制裁対象
(SDN)
リスト に追加した。米国政府がいまだに、
手小売りが駐在員事務所をすでにヤンゴンに置いて情報収集
*1
ミャンマーに対し一定の厳しい対応を示しているとみることもでき
る。大統領選挙の動きも米国にとってミャンマーの民主化進展
の度合いを判断するうえで重要な要素となることは間違いない。
日本企業の投資が加速するなかで、中国、香港、
シンガポール、
タ
イ、
ベトナム、
インドネシア等へのアジア投資にはない一面がミャン
マー投資では存在し、投資や金融面での制裁が障害となってい
る点を念頭に置いたうえで、専門家と事前によく相談し準備を進
めていくことが重要である。
日本企業の投資動向
全国からミャンマーに関する問い合わせが当行に日々寄せら
04 mizuho global news | 2015 MAR&APR vol.78
ヤンゴン市内で建設が進む複合商業施設
ミャンマー始動:特集
を行うなど、将来の規制緩和を見据え準備を進めている。
ミャン
マーでは2014年春に31年ぶりとなる国勢調査で、推計値とし
て認識されていた人口6,100万人が5,100万人へと修正され
た。これによりミャンマーへ市場参入するビジネスに影響が出る
との指摘はあるが、
1人あたりGDPが900米ドル弱から1,100
米ドルへと上昇した影響もあり、サービス業での投資は人口減
少の影響はあまり受けずに関心が高い模様だ。たとえば、2015
年には米国のケンタッキー・フライド・チキン
(KFC)
1号店も大手
ミャンマー企業と組んでオープン予定であり、消費マーケットへも
多くの外国ブランドがヤンゴンへと流れ込んでいる。
各種統計データの整備が途上にあるミャンマーでは、他のア
現在ヤンゴン市内を走る老朽化した鉄道
ジアの国以上に資料収集で困難がともなう。
ミャンマー投資を
から給水を受けている人口が3割に留まっている状況と言われ、
検討するうえでは、現地をよく観察し経済成長を体感し、
ミャン
専門家の派遣等を通してまずは水道事業の経営能力向上、無
マーの真の姿を目利きする力も求められてくるだろう。
収水*3管理能力、水質管理能力の強化を進めることになってい
る。
ミャンマーは国としての信用力が発展途上である中で日本政
インフラ等への日本政府の支援状況
府が積極的に関与し、
こうしたプロジェクトを推進していく意義は
ミャンマーでは電力、鉄道、上下水道といったインフラ事業
大きく、
日本政府と民間企業が一体となり展開していく動きが、
への投資も多い。直近の日本政府によるODAプロジェクトは
今後もミャンマーの経済発展に貢献するうえでの軸となっていく
2014年、無償資金協力8件、有償資金協力4件などが進んで
だろう。
いる。特に大型プロジェクトは供与限度額200億円の「ヤンゴ
民間でもインフラ投資の動きは出てきている。政府系通信
ン・マンダレー鉄道整備計画
(フェーズ1)第1期」
と同約236億
会社ミャンマー郵電公社
(MPT)
とKDDI、住友商事が提携し、
円の「ヤンゴン都市圏上水整備計画」
となる。日本の対ミャン
2014年11月にはヤンゴン中 央 郵 便 局 内で第1号 直 営 店を
マーへの資金協力
(有償・無償)
は2,000億円を超えている。
オープンさせた。携帯電話用SIMカードとプリペイドカードを販売
ヤンゴンと第2の都市マンダレーをつなぐ鉄道は将来重要な
するなどミャンマーでのビジネスを進めている。このヤンゴン中央
インフラになるとみられるが、現在大変な老朽化でスピードもほ
郵便局内に意味がある。日本は日本型郵便制度の輸出先第1
とんど出せない。両都市間には首都ネピドーも位置し、
まさにミャ
号としてミャンマーを選び、郵便配達や区分けの仕組み等の技
ンマーの大動脈と言える。この主要都市をつなぐ鉄道整備が進
術支援も実施している。
展しない限りはミャンマー全土への物資等の波及はおぼつかな
このように日本政府や日本企業がミャンマーの各分野に入り
い。高速列車運行の実現化と旅客だけでなく貨物輸送能力の
込んで汗を流している結果が徐々に横へと水平展開されてい
向上が図られるという観点で、
日本がこの鉄道整備を行うのは
く。日本企業とともにミャンマーへの投資支援をさせていただい
大変意味があると言える。
ているなか、
あちこちでこうした動きが出てきており、数年後には、
また供与額では最大となるヤンゴン都市圏上水整備計画も
ミャンマーの景色を大きく変化させるのは間違いないだろうと実
非常に重要なプロジェクトである。ヤンゴンでは実際に排水管網
感する。
ミャンマー支援に長年携わってこられた方がこう話して
図表. 日本が発表した最近の主なミャンマーへの有償資金協力のODAプロジェクト
供与限度額
(億円)
金利
(%)
償還期間
(年)
/
うち据置期間
(年)
調達条件
200
0.01
40/10
一般アンタイド
ヤンゴン都市圏上水
整備計画
236.83
0.01
40/10
一般アンタイド
ティラワ地区インフラ
開発計画
(フェーズ2)
46.13
0.01
40/10
一般アンタイド
バゴー地域西部灌漑
開発計画
148.70
0.01
40/10
一般アンタイド
プロジェクト名
ヤンゴン・マンダレー鉄道
整備計画
(フェーズ1)
第1期
出所:外務省HPの
「ODA国別地域別政策・情報」
より
mizuho global news | 2015 MAR&APR vol.78 0 5
特集:ミャンマー始動
図表. 日本企業がミャンマー財閥と組んだ一例
ミャンマー財閥
ファースト・ミャンマー・インベストメント
(FMI)
ヨマ・ストラテジック・ホールディングス
(YSH)
日本企業
概要
3社で合弁会社「Summit SPA Motors」
を設立。住商60%、FMIとYSHが20%ずつ出
住友商事
資し、資本金300万米ドル。2013年末、
日野自動車のトラックやバスの正規サービスス
テーションを設立することで合意。当面は日野ブランドの修理・点検・部品供給を行う。
ミャンマーの低温物流事業で提携する覚書を2014年3月に締結。初期投資は両グループ
ヨマ・ストラテジック・ホールディングス
(YSH)
国分
で1,200万米ドル。ヤンゴンとマンダレーに低温物流センターを設置。低温物流事業の合
弁会社を設立。出資比率は国分50%、
ヨマ30%、
ヨマ傘下のFMI20%。
Shwe Than Lwinグループ
セコム、敬相
Shwe Taungグループ
東急建設
セコムミャンマーを2014年設立。Shwe Than Lwinグループと
(株)
3社合弁で設立。企
業向けオンライン・セキュリティシステム、安全機器販売、常駐警備サービスを提供。
東急建設が60%出資し、現地の建設大手Shwe Taung Developmentと合弁会社
「Golden Tokyu Construction Co., Ltd.」
を2013年11月に設立。資本金200万米ドル。
出所:各社HPや各種報道をベースに当部作成
いた。
「誰よりもどの国よりも早くミャンマーへ入り支援すること
ジネスパートナーとしてミャンマー企業候補を検討するケースが
が重要」。
これが今のミャンマーと日本の姿だと言える。
ある。またミャンマーでのネットワーク拡大の観点からミャンマー
企業との関わりが出てくるケースもあろう。最近ではこうした場合
日本企業以外の投資動向
にミャンマーの大手財閥とビジネスを行うケースも出てきている。
ミャンマーへの投 資は日本 以 外の企 業も積 極 的である。
だが冒頭で記載したように、
ミャンマーは米国による経済制裁
2014年末の国別投資額では中国が1位でもある。中国企業の
下にあり、米国大統領が国家の安全保障を脅かすとして指定し
投資は軍事政権時代から続いており、
ミャンマーの北部地域で
た国や法人、個人をSDNリストとして指定し、米国人にはそれら
は中国ブランドのバイクや衣料、雑貨が大量に売られている。国
の資産凍結が義務づけられている。
ミャンマーでは大手財閥を
境近くの町では中国語の看板が掲げられている光景も多く目に
含むミャンマー企業やミャンマー人がこのリストに多数掲載され
する。
ており、
ミャンマーで新たにビジネスを開始する外国企業にとっ
またミャンマーの国営テレビ局では多数の韓国ドラマが放映さ
てはSDNに指定されたミャンマー企業や個人との取引について
れており、韓国化粧品ブランドの新商品紹介イベントもヤンゴン
慎重に留意を払いつつビジネスを進める必要がある。情報やネッ
市内のショッピングモールで頻繁に開催されている。
トワーク力もあるミャンマー財閥は魅力的ではあるものの、基本
欧米系企業の投資も出てきている。スイスの食品大手ネスレ
的には米国政府からSDNに指定されているミャンマー法人や個
がコーヒー、牛乳、飲料などの生産工場の立ち上げを発表した
またミャ
人とはビジネスが限定的である点を確認いただきたい*4。
ほか、デンマークのビール会社カールスバーグがヤンゴン北部
ンマー企業はミャンマー商工会議所連盟
(UMFCCI)
に加盟し
に位置するバゴーでビール工場の建設を行っている。またコカ・
ており、UMFCCI*5は外国企業との交流も積極的に行ってい
コーラやペプシも現地生産を開始している。
る。同会議所が主催するイベント等を活用したミャンマー企業と
米国はミャンマーの一般特恵関税制度の再適用を検討中で
のネットワーク構築も有効な手段になるだろう。
特にアパレル産業にとっては注目すべき動きであるほか、2013
*1「Specially Designated Nationals」
の頭文字を取って通称「SDNリスト」
と呼ばれ
年10月には米国商工会議所ヤンゴン事務所を開設、米国輸出
入銀行が2014年2月にミャンマー輸出向けの短中期ローン提
供を発表するなど、
ミャンマーをめぐる投資環境が目まぐるしく変
化していると言える。
る。
*2 ミャンマーではSEZに認定されていない場所で会社設立を行う場合、会社法と新外
国投資法の2種類のどちらかで設立する。製造業の場合は、税制インセンティブや
長期間での土地所有権が認められるなど新外国投資法で設立する。
*3 排水管からの漏水や盗水によって受益者に届かず失われる水。
*4 規制緩和の経過など詳細は金融機関へご確認いただきたい。
*5 当行は2014年にUMFCCIとMOU
(覚書)
を締結し、
日本企業とミャンマー企業との
ミャンマー財閥
ミャンマーでは業種によっては規制で参入障壁があるため、
ビ
06 mizuho global news | 2015 MAR&APR vol.78
交流促進に努めている。
ミャンマー始動:特集
活発化するクロスボーダー輸送
国境付近が山岳道路
であり、道幅も狭く日替
ミャンマー日本通運株式会社
(日本本社:日本通運株式会社)
統括部長 小谷 宗茂氏
わりで一 方 通 行の制
限が設けられている。
さ
らに国 境では貨 物の
ミャンマーを取り巻く物流環境
小谷統括部長
積み替え作業を行う必
下記図表は世界銀行が毎年発表し
要があり、
その他一部
ている物流評価指数で、通関/物流
橋梁の重量制限など
インフラ/品質/定時性などを各々5
の課題も残っており、
結果的に時間とコストアップの要因になってい
点満点で評価し、
その平均点でランク
る。中国とのムセルートについては、道路状況はミャワディーに比べ
付けしたものである。ASEAN・南アジ
ると良好であり大型車の走行が可能ではあるものの、
長距離輸送と
ア各国の結果はシンガポールの1位を
なることから配達までのリードタイムが安定しないといった課題に加え
除いていずれも低い位置にあり、特に
て、
輸送途上での事故発生率が高いという話をよく耳にする。大半
ミャンマーは129位と最も低い結果と
のミャンマーのトラック業者は輸送保険を付保していない実状もあり
なっている。つまり、
この資料から、
法制
輸送品質の維持が課題といえる。
ミャンマー日本通運スタッフ一同
面・インフラ面などを含めた物流サービス体制の整備が遅れているこ
そういった状況のなか、
政府主導でインフラ改善の推進が図られ
とをうかがい知れる。
ただしミャンマーは今後、
生産市場、
販売市場、
ている。
たとえばミャワディールートでは山岳道路にかわる迂回路が
消費市場として魅力が高まっていくことは明らかであり、
それにともな
急ピッチで造成されており、
また国境貿易や投資の促進を目指し両
い物流の活性化が見込まれている。特に地政学的にも域内の大
国政府が協議を再開するほか、
国境近くでは工業団地の開発が推
国であるタイと隣接していることに加えて、
アジアの2大国である中
進されている。
また中国との国境付近では、
ミャンマー政府の主導で
国およびインドと国境を接していることから、
多くの企業が最適なサ
貿易基地が増設されようとしており、
今後、
ますます国境貿易は増加
プライチェーンの構築を目指して隣国とのクロスボーダー輸送に非
していくものと考えられる。
常に興味を示している。
当社のミャンマー、ASEAN展開
クロスボーダー輸送の現状
当社のミャンマー展開は2012年7月に連絡事務所の開設にはじ
ミャンマーとの陸路輸送において、
最も取引が旺盛なのは中国国
まり、同年10月に支店に昇格させ、市場状況の把握と地場に密着
境のムセで、
次にタイ国境のミャワディーを通過する輸送ルートであ
した物流需要の調査活動に努めるとともに、本格的な進出に向け
る。一方で課題も多く、
タイをつなぐミャワディールートは、
ミャンマー側
て準備を進めてきた。2014年12月よりミャンマー日通を設立して営
図表. 物流評価指数
業を開始している。特にミャンマーを含む南アジアはインドシナ半島を
2.56
2.56
2.55
…
…
…
…
(出所)
世界銀行「物流パフォーマンス指標」
をもとに当社作成
LPI
中心に陸続きということもあり、
以前より陸路での輸送サービスがお
2.37
2.36
2.34
客さまのサプライチェーンの最適化、
ならびに市場サポートにつなが
…
世界
LPI
国名
ランキング
3.07
128
キルギス
3.06
129
ミャンマー
3.06
130
モルドバ
3.04
3.03
148
エリトリア
3.03
149
コンゴ共和国
3.02
150
ネパール
2.99
151
チャド
2.98
152
ハイチ
2.98
153
ジブチ
2.98
154
ブルンジ
2.98
2.94
…
…
世界
世界
国名
LPI
国名
ランキング
ランキング
1
シンガポール 4.13
45
インド
2
香港
4.12
46
メキシコ
3
フィンランド 4.06
47
バーレーン
4
ドイツ
4.04
48
アルゼンチン
5
オランダ
4.03
49
モロッコ
6
デンマーク 4.03
50
スロバキア
7
ベルギー
3.99
51
フィリピン
8
日本
3.94
52
ベトナム
9
米国
3.94
53
ルーマニア
10
英国
3.91
54
ウルグアイ
55
エジプト
22
南アフリカ 3.68
56
ボスニアヘルツェゴビナ
23
イタリア
3.67
57
インドネシア
24
中国
3.52
25
アイルランド 3.52
99
アルメニア
26
トルコ
3.52
100
カンボジア
27
ポルトガル 3.50
101
ヨルダン
28
マレーシア 3.49
106
ブータン
39
タイ
3.17
107
ラオス
40
クロアチア 3.17
108
ガーナ
2.51
2.50
2.49
2.09
2.07
2.04
2.02
2.02
1.79
1.62
ることを意識して、
さまざまな輸送サービスの構築・販売活動を行って
きた。
その中でバンコクからヤンゴンまでをつなぐ約1,000キロのクロ
スボーダーサービス
(NEX-BY1000)
も手がけ拡販を行っている。
さらに、
輸送サービスに加えて、
発着での保管・配送業務にも対応
できるよう南アジア各国には最新鋭の多機能型倉庫を竣工させて
ロジスティクス機能の強化にも注力している。
ミャンマーにおいても
同様に倉庫業に参入する予定であり、
あらゆる保管需要の取り込み
を図っていきたい。
そして、
多様化する日系企業のニーズに対応して
いくため、
高品質な物流サービスの提供を念頭に自営化を推進して
いく予定。引き続き当社の南アジア、
ミャンマー展開に期待していた
だきたい。
mizuho global news | 2015 MAR&APR vol.78 0 7
特集:ミャンマー始動
2015年いよいよ
ティラワ経済特別区が始動
みずほ銀行 直投支援部
調査役 勝間田 丈嗣
予約契約済み企
業の国別内訳は、
日本が16社、次い
で台 湾4社、
ミャン
マー、
タイ各3社、
シ
ティラワ経済特別区 Zone Aエリア
ンガポール2社、
アメ
ミャンマー最大都市ヤンゴンから車
リカ、中国、
スウェー
で1時間程度かつティラワ港に隣接
デン、
香港、
オースト
する恵まれた立地のヤンゴン南部タン
ラリア各1社の順となっている。業種は食品、
包装材、
建築資材、
自
リン・チャウタン地区にまたがるティラ
動車部品、
電子部品、
物流と多岐にわたっている。
ワ経済特区の中で、
ほぼ中央に位置
2014年12月12日に投資ライセンスを取得した先行企業5社が
するZone Aエリアの先行開発が進
ティラワに招かれ、
ニャントゥン副大統領出席のもと投資ライセンス授
んでいる。開発を手掛ける
「Myanmar
与式が開催された。2015年1月9日時点での投資認可取得済み企
Japan Thilawa Development Ltd.
業は10社に上る
(日系企業は6社)
。
江洋ラヂエーターの鍬入れ式
(MJTD)
」社 は、日本 側コンソーシ
ミャンマーの季節は5~10月までの長い雨季と乾季に大別され、
雨
アムであるMMS Thilawa Development Co., Ltd.
(住友商事、丸
季の間は雨量が激しく、
建設基礎工事をスムーズに進めることは困難
紅、三菱商事が出資)
が49%。
ミャンマー側コンソーシアムである
を極める。
このため、
各進出企業は乾季の間に基礎工事、
建屋の屋
Myanmar Thilawa SEZ Holdings Public Limited
(Golden Land
根まで完了させ、
雨季の間に内装工事を行うスケジュールで現在動
East Asia Development Ltd.やFirst Myanmar Investment Co.,
いている。乾季の間に完了させるには、
遅くとも2月頃には建築着工
Ltd.など9社が出資)
が41%、
ミャンマー政府機関であるThilawa SEZ
に入らなければスケジュール上対応が難しくなる。乾季中に一定水準
Management Committeeが10%を出資して発足した。なお、
2014
まで建築を完了させる前提で予約済み企業は現在急ピッチで手続き
年度中には、
日本側コンソーシアムから10%分の株式が独立行政法
を進めている。
人国際協力機構
(JICA)
に移管される予定となっている。
今後も投資ライセンス取得企業の起工式が順次行われる予定で
Zone Aエリア全体で396ヘクタールの区画面積があり、
第一期工
あり、
現在のところ開発が順調に進んでいると言えよう。引き続き引き
業団地エリア211ヘクタール、
第二期150ヘクタール、
住宅・商業エ
合いも多く、
今後日系のみならずASEANの大企業の進出も予想され
リア35ヘクタールに3区分される。工業団地の区画全体をMJTDが
る。
ミャンマー政府から50年間一旦借り受け、
その後、
各区画をテナント
※デポジッ
トを支払うことで一定の期間希望する区画を保持できる契約
勝間田調査役
企業にサブリースする形を採る。第一期区画は土地引き渡しを開始
済みで、
第二期区画は2014年10月より造成工事が始まり、
予約契
インフラ整備状況
約受付も開始済みである。Zone Aエリア内ティラワダム東部に位置
ティラワ経済特別区Zone Aエリアでは、
水、
電気、
通信等のインフ
する住宅・商業エリアは、
Myanmar Thilawa SEZ Holdings Public
ラが整備される。工業用水については、
ティラワ経済特区北東部にあ
Limited
(MTSH)
が開発することになっており、
高級住宅、
ミ
ドルクラス
るザマニ湖から水道管を通じて供給され、
工業団地内の浄水場で処
住居、
ワーカー向けドミ
トリー、
病院、
学校等の整備が計画されている。
理されたのち、
各テナント企業に供給される。
また、
将来的にはティラ
2014年11月9日には、
江洋ラヂエーターがテナント企業として初の
ワ経済特別区から約40kmほど離れたラグンビン浄水場からの供給
建屋起工式を開催。12月から工場建設がスタート、
2015年夏頃の
も計画されている。
操業開始を目指している。
電力については、
ミャンマー電力省が日本政府のODAを利用して、
既存グリッドから33キロボルトの電線を引き込む。
さらに、
Zone Aエリ
進出企業動向
ア隣接地に25メガワットの発電所2基で50メガワットの発電所建設
2014年6月6日にZone A第一期区画の予約契約が開始され、
同
計画がある。通信は、
エリア内に光回線を引き込む計画がある。
日に日本企業1社、
米国企業1社の計2社との予約契約 が締結さ
この他、
ティラワ経済特別区の管理棟エリアには、
ティラワSEZ管
れた。
その後順調に予約契約数が増加し、
2015年1月9日時点で33
理委員会のワンストップサービスセンター
(OSSC)
が入居するほか、
社、
70ヘクタール以上の予約契約が締結されている。
賃貸用事務所等も用意される。
さらに、
職業訓練センターや日本食レ
※
08 mizuho global news | 2015 MAR&APR vol.78
ミャンマー始動:特集
ストラン、
銀行などの誘致も計画されている。 図表1. 投資ライセンス取得~建設着工までの流れ
また、
テナント企業の輸出入等を管理する
土地予約契約締結
締結後10日以内に予約金の支払い
税関もティラワ経済特別区内に立地する予
定がある。
投資ライセンス申請
同時申請も可
申請書をOSSCに提出
申請費用:1,500,000ミャンマーチャット
ティラワ経済特別区進出までの
流れ
会社設立申請
申請書をOSSCに提出
申請費用:1,000,000ミャンマーチャット
認可取得(投資ライセンス認可の翌営業日に会社設立認可) 申請から30日以内
銀行口座開設
2014年1月23日に改正ミャンマー経済
資本金払い込み
(最低資本金の金額以上)
特別区法が発表されたものの、
施行細則の
土地サブリース契約締結・新設の現地法人からMJTDへ土地代金100%を支払い 制定が遅れていたため、
進出予定企業が同
予約金は出資者に返金。
サブリース契約書は投資ライセンス
取得から6ヵ月以内にSEZ管理委員会に写しを提出。
*業 種によって
建設着工許可申請
環境保全計画申請
はEIA、IEEが必
申請書をOSSCに提出
(一部MJTD経由)
申請書をOSSCに提出
要なため、事 前
準備が望ましい
許可取得後に建設着工
法に基づく投資ライセンスを取得できない
状態が続いていた。2014年10月1日にミャ
ンマー国家計画・経済発展省より投資ライ
作成:当局への確認をもとに直投支援部作成
センス取得手続き部分を規定した通達
(Notification 81/2014)
が
企業の場合、
最長75年間の賃借が可能になる。
発表され、
また、
独立行政法人国際協力機構
(JICA)
からの専門家が
進出企業には税制面の優遇が与えられ、
ビジネス形態により税制
ティラワSEZ管理委員会のワンストップサービスセンター
(OSSC)
の
優遇は異なる。ティラワ経済特別区では進出企業のビジネスにより
支援に派遣された結果、
投資ライセンス取得等の手続きが決定され
Free Zone BusinessとPromotion Zone Businessに区分される。
た。
Free Zone Businessは製造業の場合、
売上の75%以上が輸出の
ティラワ経済特別区Zone Aエリアに進出を希望する場合、
まず、
場合に認定され、
Promotion Zone Business企業よりも税制面で優
Zone Aエリアの開発デベロッパーである MJTD社か、
その代理店
遇されている。
である住友商事、
丸紅、
三菱商事にコンタクトすることから始まる。
そ
ティラワ経済特別区の今後
の後面談、
MJTDより見積書
(Quotation)
の発行を経て、
予約契約
2014年11月12日、
日本の安倍晋三内閣総理大臣の訪問に合
(Reservation Agreement)
締結に至る。デポジットとして予約金を
納付すれば、
予約期間中の区画は確保されることになる。
わせ、
ミャンマーの首都ネピドーにて、
ティラワ経済特別区Zone Aエ
予約期間中に、
ミャンマー現地法人名での投資ライセンスの取得、
リアの次の区域開発に関して、
日本側コンソーシアムであるMMS
会社登記が完了した後、
銀行口座開設、
資本金の払い込みが行わ
Thilawa Development Co., Ltd.とミャンマー側コンソーシアムの
れる。
その後、
MJTDとの土地サブリース契約を締結し、
土地代金
(50
Myanmar Thilawa SEZ Holdings Public Limitedが、
事業性調査
年分一括)
を納付すると予約金が返金される。
さらに、
建築許可、
環
を行うための覚書に署名を行った。
これにより、
ティラワ経済特別区
境保全計画の承認が得られると、
いよいよ工場建屋の建設を開始
の工業団地部分が拡張される可能性が出てきている。
できることになる。
なお、
投資ライセンス、
会社設立、
建築許可、
環境
民主化以来、
世界の注目を集めているミャンマー。2015年はミャン
保全計画は、
ティラワSEZ管理委員会のワンストップサービスセンター
マーで初めて世界基準の工業団地となるティラワ経済特別区が稼
働を始める。今後もティラワ工業団地の動向に注目していきたい。
(OSSC)
に提出する
(一部MJTD経由もある)
。SEZ進出にともなう
申請手続きは全てOSSCにて行うことが可
能であり、進出企業にとって従前は煩雑で
図表2. 改正SEZ法のインセンティブ
改正SEZ法
あった各関係省庁との調整等は不要。
まさ
にワンストップサービスが実現されている。
ティラワ経済特別区の
進出企業メリット
ミャンマーにおいて、外国企業の土地賃
借契約は最長1年間しか認められていない
が、経済特区の投資ライセンスを取得した
法人税
関税等
Free Zone Business
Promotion Zone Business
免税期間
事業開始後7年間
事業開始後5年間
50%の軽減税率適用
続く5年間
続く5年間
再投資利益につき50%軽減税率適用
その次の5年間
その次の5年間
建設資材・生産設備等の輸入
免税
5年間免税
その後5年間は50%軽減税率
免税
なし
(輸出分の原材料は還付制度)
原材料輸入
土地利用権
最低資本金
最長75年
最長75年
製造業
750,000米ドル
300,000米ドル
サービス業
500,000米ドル
300,000米ドル
ティラワSEZ内は輸出を前提とするFree Zone Businessとミャンマー国内向けのPromotion Zone Businessに分けられる。
製造業の場合、売り上げの75%以上が輸出であればFree Zone Business対象企業となる。
作成:当局発表資料をもとに直投支援部作成
mizuho global news | 2015 MAR&APR vol.78 0 9
特集:ミャンマー始動
ティラワ経済特区の現状と
今後想定される規制緩和の動向
がティラワSEZの現状である。
(2)
日本によるソフト面の支援
森・濱田松本法律事務所
パートナー弁護士 武川 丈士氏
日本がティラワSEZのハード面のインフラ整備を行っているこ
とは広く知られている。
しかし、
ティラワSEZに対する日本の支援
ティラワ経済特区の現状
武川弁護士
はそれに留まらず、SEZ法の改正およびSEZ規則のドラフティ
ヤンゴン近郊のティラワ経済特区
ングについてもJICAが法整備支援を行ってきた。
また、
ティラワ
(SEZ)では、進出企 業に対する最
SEZの運用開始後も、SEZ管理委員会に対してJICAが支援
初の投資認可が2014年12月第1
業務を行っており、
コンサルタントおよび法律家が投資申請書
週に発出され、同年12月12日には
類の書式作成、投資申請・認可プロセスの作成、個別の投資
ニャン・
トゥン副大統領が出席して投
審査への助言、投資認可基準作成への助言などを行っている。
資 認 可 証 合 同 授 与 式 典が開かれ
前述した告示81号の手直しはその最初の仕事であり、最初の
た。これら第一陣の投資許可を受け
投資許可をタイムリーに発行するにあたっても大きな役割を果た
た企業の工場の建設工事は開始さ
した。筆者が所属する法律事務所もこれらの活動に参加する
れており、早ければ2015年 中には
機会を得ている。日本企業にとっては、投資申請から開業に至
る過程において日本人の専門家がミャンマー政府と協議しつつ
工場が稼働する予定である。
進める環境が整備されているといえる。
(1)制度面の現状
(3)実際の投資申請プロセス
制度面でみると、2014年1月23日に改正ミャンマー特別経
済地域法
(SEZ法)
が公布・施行されたものの、運用の詳細を
投資申請書類やその記載事項、建物の建築確認プロセスな
定めたSEZ法の施行規則
(SEZ規則)
はいまだ制定されておら
どについてはSEZ管理委員会およびワンストップサービスセン
ず、
このままでは投資認可ができない状況にあった。
ミャンマーで
ターに問い合わせれば入手可能である。また、開発会社である
は雨季
(5~10月)
には基礎工事を行うことが困難であるため、
Myanmar Japan Thilawa Development社も一定の情報提
2015年中の工場稼働を目指すのであれば2014年11月から始
供を行っている。これらの手続きについては、今後さらに詳細が
まる乾季に投資認可を得たうえで工事を開始する必要がある。
定められ、
または変更が行われる予定であるため、上記のルート
そのため、国家計画経済開発省はSEZ規則の制定に先行す
で最新の情報を入手することが望ましい
(特に、投資申請書の
る形で、投資認可手続きおよびその認可基準を定める2014年
フォーマットは今後一部内容が変更される予定であることに留意
10月1日付Notification No.81/2014
(告 示81号)
を発 布し
されたい)
。
た。
イメージを持っていただくために若干の説明を補足すると、工
告示81号には投資申請書類の書式なども添付されていた
場の建設工事を開始するためには、①SEZ管理委員会からの
が、一部記載事項は投資申請の段階で記載することが困難な
投資認可、②会社設立、③建築確認および④環境影響評価
ものが存在するなどの問題があった。こ
のため、投資認可権限を持つティラワ経
表1. 投資認可関連書類
必要書類
概要
済特区管理委員会
(SEZ管理委員会)
は一 部の記 載 事 項については当 面 審
①
投資申請者フォーム
事業計画などを含む必要事項を記入して提出
②
会社登録
通常の会社設立とほぼ同様の書類を提出
③
建築確認
ミャンマーのNational Building Code(制定中)
の内容を先取りした基準に基づく建築
確認を行う
④
環境影響評価
環境への影響度合いに応じて3段階の影響評価を行う必要がある
査の対象としない旨を定めたInstruction
(指 示)
を発 表し、これに基づいて投 資
審査が行われている。このように制度面
からみると、告 示81号に伴う多 少の混
乱、SEZ規則の一刻も早い公表の必要
性などの多くの課題を抱えながらも、
それ
らを乗り越えて何とか走り出したというの
10 mizuho global news | 2015 MAR&APR vol.78
ミャンマー始動:特集
表2. SEZにおける規制緩和の検討状況
マーでは外資に認可されてこなかった
SEZ外での規制状況
Trading
(貿 易 業、卸 売 業、小 売 業)
SEZでの扱い・論点
の 扱 いである。告 示81号 によれば
製造業
•一部事業ついては合弁事業が強制されている
Tradingも認可され得る事業に含まれ
•基本的には外資100%で投資許可を行う予定
ており、何らかの規制緩和が行われる
輸入・卸売業
物流事業
金融業
•外資企業には禁止
・事業態様によって合弁が強制される可能性
•一定の条件の下での輸入・卸売販売を許可する
予定
•SEZ外への販売も許可する予定
•外 資100 %での 設 立を認 める予 定であるが、
SEZ外での事業活動をどの程度認めるかが論点
•ニーズの高い保税倉庫をどのように実現するかに
ついてはさらなる検討が必要な状況
•保険業務については外資進出を認めることが
SEZ法上明記されており、その業務範囲が今後
•銀行業務は外資に一部開放されたが、
それ以外の
の論点
金融業は禁止
•その他の金融業務についてもどの程度認めるの
か今後検討
ことは確実である。現在、一定の条件
の下で、
メーカーや輸入業者
(商社な
ど)
による輸入販売を認める方向で調
整を行っている。この他にも物流関係
事業や金融関係事業の規制緩和が大
きな論点となる。詳細についてはSEZ
管理委員会と協議のうえ決定し公表し
たいと考えているが、現段階での検討
状況は表2に記載したとおりである。
SEZ管理委員会は、規制緩和特区
の4つのプロセスを経る必要がある。全ての書類の準備が整っ
としてのSEZの特性を十分に引き出せるように可能な限り規制
ていれば、投資認可自体は2週間程度で、工場の建設開始に
を緩和するとの意向を持っている。その一方で、
ミャンマーの従
必要な全ての許可を1ヵ月程度で取得することが可能である。
来の法制度との整合性や社会的な受容可能性などをも考慮
に入れる必要もある。また、運用の透明性を確保するためにも、
ティラワ経済特区における規制緩和
ルールを明文化し公表することが企図されているが、公表された
ティラワSEZにおいて、
これまでに投資認可を受けた企業は
ルールを政策意図に反して濫用するような投資申請についても
比較的外資規制上の問題が少ない製造業企業が中心であ
これを認めざるを得なくなるという副作用にも留意する必要があ
る。SEZ管理委員会のアドバイザー業務を行っている関係上、
る。アドバイザーとしてもこの辺りのバランスを取ることに腐心し
さまざまな企業と意見交換・問い合わせを受けることがあるが、
ている。
このところ特に目立ってきている相談や問い合わせは、物流、輸
入、卸売、金融などのSEZ外では外資規制や複数の制約を課さ
まとめ
れている業種についてどのような投資許認可が行われるのかと
このようにティラワSEZはまさに走り始めたところである。文中
いう点である。
にも記載したとおり、ハード面のみならずソフト面でも日本が全面
背景を少々説明しておきたい。SEZ法ではSEZ管理委員会
的に支援している状況を日本企業は十分に利用していただきた
に極めて強い権限が与えられており、外資規制を含むさまざまな
いと考えている。規制緩和についても日本企業の意見を十分に
規制を緩和することが可能である。
ミャンマーでは外資規制や輸
取り入れるようにSEZ管理委員会からも指示を受けているが、
こ
出入規制など多くの規制が存在するが、SEZにおいて先行的
の点についてご意見・ご要望があればお気軽にご連絡をいただ
に規制を緩和し、
それをミャンマー全土に広げていくことが当初
きたい。
からのSEZ法の構想であった。ティラワSEZは
「工業団地」
と紹
介されることが多いが、
むしろその本質は
「インフラが整備された
規制緩和特区」
である。その一方で、具体的にどのような業種に
対して門戸を開放するかについては、SEZ法や現在ドラフト中
のSEZ規則においても明確に記載されておらず、SEZ管理委
員会の決定に委ねられている。SEZ管理委員会のアドバイザー
はこのような文脈で規制緩和の提案内容を検討しているところ
である。
規 制 緩 和について注目すべき論 点の一つは、従 来ミャン
【武川 丈士
(むかわ たけし)
氏 プロフィール】
森・濱田松本法律事務所パートナー弁護士。ヤンゴン・シンガポール両オ
フィスの共同代表を兼任し、アジア各国におけるM&A、合弁事業、
インフ
ラ関連事業などに豊富な経験を有する。
ミャンマーについては、
日本企業
による本格的なM&A第一号案件に従事したほか、
日本政府からの委託を
受け証券取引法・経済特区法・会社法などの法整備支援活動にも参加。
ティラワSEZについてはJICAの専門家としてSEZ管理委員会に助言を
行っており、投資審査基準の作成やルールの明文化を担っている。
森・濱田松本法律事務所 http://www.mhmjapan.com/
mizuho global news | 2015 MAR&APR vol.78 1 1
特集:ミャンマー始動
わが社のミャンマー市場への
取り組みと課題
ンマー政府と
JFEエンジニアリング株式会社
ヤンゴン支店長 三輪 恭久氏
がったと思い
三輪ヤンゴン支店長
の合 弁 会 社
設立へとつな
ます。
新会社の設立
一方で、当
当 社は、2013年 11月、MIC
(=
社 は、ミャン
Myanmar Investment Committee)
マーへ の 技
の承認をうけて、新会社J&M Steel
術移転、
エン
Solutions Co., Ltd.
(以 下、
J&M)を
ジニ ア の 技
設立しました。鋼製の構造物を製
術 力 向 上に
造する工場を有する会社で、当社と
つき、
次のよう
ミャンマー国建設省公共事業局
(以
な活動も継続
下、
PW=Public Works)
がそれぞれ
して行ってき
事務所
60%と40%の出資を行いました。製造工場は、
ヤンゴン市内のタケ
ました。
タ地区に位置し、
約65,000㎡の敷地を有しています
(東京ドームの
2002年か
約1.4倍)
。
その名のとおり、
Steelに関するものすべてを対象とした
らミャンマーエ
会社で、年間生産能力は、約1万トンです。現在は、
PW向け
(ミャン
ンジニアリング協会
(MES)
と一般財団法人建設業振興基金を通
マー国内向け)
の鋼製の橋りょうの製造・供給が主な事業となって
じて、
当社の日本の製作所において溶接技能実習生の受け入れを
います。
行っており、
その総数は200名を超えています。内30数名は、研修
2013年12月より工場建設工事をスタートさせ、
2014年7月に
満了後、
J&M社へ入社し、
操業の核となって働いてくれています。
ま
本格的な生産活動を開始しました。
ミャンマー国のインフラ整備施
た、
2000年から、
JICA殿が主催した
「橋梁技術セミナー」
では、複
策への優先度は非常に高く、
2015年上期まで仕事が一杯の状態
数の講師を派遣し、
ミャンマーの橋りょう技師に対して、
わが国の
「道
で、
24時間体制の操業で生産を続けています。
路橋示方書」
をもとに基礎理論から概略計算までの講習を実施し
シュエゴンダイン高架橋
ました。2009年には、
日本プラント協会殿の補助により溶接技術
当社のミャンマーでの歴史
の技術移転講習も実施しました。
このような活動が直接・間接的に
1995年、
東南アジアとしては5つ目となるヤンゴン支店を開設し、
J&M社の運営にプラスとなって生きています。
情報収集、
マーケットの開拓をスタートさせました。1997〜1999年
に、
国営企業であるミャンマーエコノミックコーポレーション社
(以下、
今後の課題
MEC社)
向けの鉄鋼厚板圧延工場、橋りょうの製作工場の建設
J&M社では、
現在、
250名の技術者、
労働者を雇用して、
日々、
エ
工事を受注し、
橋りょう建設事業への取り組みを開始しました。多く
ンジニアリング業務、
製造業務に邁進しています。PWからは、
「日本
の日本企業が、
経済制裁の影響で撤退を余儀なくされており、
周囲
の品質をミャンマーの価格で提供して欲しい」
という切なる要望があ
には逆風が吹く中、
MEC社およびPWに多数の橋りょう技師を派
り、
できる限りメンテナンスコストのかからないような高品質で耐久性
工場全景
12 mizuho global news | 2015 MAR&APR vol.78
遣し、製 造や
の高い製品の供給を目指しています。
据え付けのノ
一方で、
経済制裁による鎖国状態が長く続いた影響で、
30〜40
ウハウを教え
代の働き盛りの技術者やマネージャー、熟練作業者が不足してお
込み、鋼製橋
り、
すべてにおいて基本的な内容から教育を行う必要があります。
す
りょうのミャン
こしずつ習熟していってくれていますが、
まだまだ時間がかかりそうで
マー国産化を
す。
これは、
業界全体、
あるいは、
国全体に言えることだと思います。
実現しました。
「人材こそが国の発展の礎となる」、少しでも、
ミャンマー国の発展
この付き合い
に寄与できればとの思いで、
今後も会社経営を続けていきたいと思
が、
今回のミャ
います。
ミャンマー始動:特集
法的整備が進む
ミャンマークロスボーダー決済
特に親子ローンの取り扱いは、事業性資金確保の観点からも、
みずほ銀行 外為営業部
次長 松本 重幸
る方は個別に照会いただきたい
(2014年12月には親子ローンにお
松本次長
早急な対応が求められてきた。一部「対応通貨・上限金額」
などに
制約を残すなど、取引においては留意すべき点があり、
ご関心のあ
ける初の中銀認可取得)
。
米国OFAC規制緩和を背景に投
貿易取引分野においても、
L/C開設における
「預託金100%」
が
資資金流入、
貿易取引が拡大する中、
要求される貿易制度は改定されており、
金融機関の与信方針
(クレ
ミャンマーとのクロスボーダー決済は、
ジットポリシー)
に基づく弾力的な運営が始まっている
(L/C開設企
件数・金額ともに増加基調にて推移し
業の信用力に応じて0%~100%範囲にて預託金を設定する運営
ている。
へ変更)
。
また2014年9月には外為法改正案
試験的で
また一部国営銀行では、
OFAC規制緩和(※)を受けて、
が承認、
透明性の高い決済制度確立
はあるが米国クリアリングエージェントとのドル建て決済を開始してお
への取り組みも始まっている。
り、
「規制緩和」
と
「法的整備」
による円滑なクロスボーダー決済確
こうした中、当行では外為法改正を
立への改善が図られつつある。
契機に、
ミャンマー中央銀行、主要国営銀行、提携金融機関との
これまで当部では、
現地銀行協会・金融機関向けに
「貿易・決済関
意見交換会を開催、
海外投資家の高い関心事につき、
その内容を
連セミナー」
を開催、
金融分野における技術支援を行ってきたが、
こう
確認した。
した人的交流がミャンマー決済における当行の強みとなっている。
特筆すべき改正のポイントは、
(1)親子ローン、
(2)株主配当、
またミャンマーを始め、新興国における現地規制に幅広く対応、
(3)輸入時における前払送金、
(4)
ミャンマー企業による海外非
「貿易・為替・決済分野」
でのソリューションを提供しており、
資本送
居住者預金開設、
(5)
外国企業による非居住者口座作成、
(6)
現
地での外貨建て貸出取引など、
これまで取り扱いの可否が不透明
金、
貿易決済の際にはお気軽にお問い合わせいただきたい。
(※)
General License 19~一部のSDN金融機関に対し米国クリアリングエージェン
な分野において、
基本方針が示された点は高く評価できる。
トとの直接取引を許容した金融サービス分野におけるOFAC規制緩和
ヤンゴン現地生活 ~みずほ駐在員のつぶやき~
ヤンゴンに赴任して間もなく3年が経過しようとしています。
3年
前、市内に数軒しかなかった日本料理店は今や100軒を超え、
スーパーには日本食材コーナーができるなど食生活には全く困らな
くなりました。
また、当地には日本人学校もあり家族帯同で駐在さ
れても子女教育上の心配はありません。一方、急激な外国人の増
加にインフラがついていけず、
いわゆる外国人用マンションが市内
に4、
5棟しかないため、住宅確保が深刻な問題となっています。
街は緑豊かで静か、人々も非常に温和なため生活していて非常
に心地良いのですが、各企業のハードシップ手当が高いのも事実
1964年創立のヤンゴン日本人学校
です。それはひとえに医療問題です。病院がほとんどなく医療水準
も低いため、病気になるとタイなど近隣国へ行かざるを得ません。
現在、市内では大規模開発が進んでおり、
また日本など外国の
協力を得ながら病院の近代化も進めています。
3年後には住環
境、医療も含めて何不自由のない生活が実現できているでしょう。
将来にわたり日本にとって大切な国になると思いますので、
ご赴任
の際はぜひ家族帯同をご検討ください。
スーパーの日本食コーナーの棚
mizuho global news | 2015 MAR&APR vol.78 1 3
特集:ミャンマー始動
みずほ銀行ヤンゴン出張所について
ミャンマーは長らく先進諸国との国交を断っていた国ですので電
みずほ銀行ヤンゴン出張所
出張所長 野中 鉄朗
すが、
ミャンマーにはこれらの課題を上回る投資先としての魅力
(5,
気・水道・通信を中心としたインフラや法的整備などの課題は残りま
000万人を超える人口、
勤勉かつ低廉な労働力、
豊富な天然資源、
中国・インドの二大国に接する地理的優位性など)
があります。政府も
着実に課題解決へ取り組んでいます。
また、
当行もティラワ工業団地
開発主体である日緬共同事業体やJICAを通じたミャンマー中央銀行
に当行行員を派遣し、
産業振興や金融制度改革への支援を積極的
に行っています。数年後のミャンマーは今とは違った絵姿になっている
ことでしょう。
みずほ銀行ヤンゴン支店は現地スタッフのほか日本人駐在員4名
の体制で業務をスタートする予定です。
スタッフ一同、
お客さまへの情
報提供、
進出支援、
銀行業務を全力でサポートさせていただきます。
野中出張所長
2011年3月にミャンマーが軍政から民政へ移管されて約4年。
2012年3月に53社であったヤンゴン日本商工会議所加盟社数は
2014年12月現在で205社。
2013年11月に造成を開始したティラ
ワ工業団地でも進出企業の工場建設がスタートするなど
「アジア最
後のフロンティア」
であるミャンマーへの日系企業、
外国企業の投資、
進出がいよいよ本格化してきています。
金融面での開放化も進んでおり、
当行は2014年10月1日にミャン
マー中央銀行より支店ライセンス事前許可を取得し、
現在2015年
上期中の支店開設を目指し準備を進めています。
外国銀行には個人取引、
ミャンマー企業向け取引は認められてい
ませんが、
外国法人
(含む、
外国法人とのジョイントベンチャー)
取引に
ついては、
ほぼ全ての銀行業務が認められる予定です。
また、
これまで
ミャンマーでは外貨ローンの取り扱いが認められておらず、
現地通貨
建て借入の際には担保が必要でしたが、
外国銀行には外貨ローンや
ヤンゴン出張所スタッフ一同
所在地:Room #03-12, Level 3, Sedona Business Suites, No.1 Ka
Ba Aye Pagoda Road, Yankin Township,Yangon, Republic of the
Union of Myanmar
代表電話:95-1-544-071
営業日:月曜日~金曜日
無担保現地通貨建てローンの取り扱いも認められる予定ですので、
T
Inya Lake
Kaba A
ye
Pagoda
Road
進出されるお客さまの利便性は格段に高まると思われます。
Thu Kha
Waddy Park
rsity A
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ヤンゴン出張所が入居するセドナホテル外観
14 mizuho global news | 2015 MAR&APR vol.78
e Roa
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空港からのアクセス:タクシー約15分
Road
No
In .1
du
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ria
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Yankin
Sedona Hotel
Yangon
Unive
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Fly UP