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チリ新政権における税制改革
チリ新政権における税制改革 デロイト・チリ 日系企業サービスグループ マネジャー 溝畑 圭介氏 2014年3月 額控除できるため、最終的な税負担率は についてはその全額の税額控除が認めら 14日に就任し 35% (追加源泉税の負担率は15%) とさ れるため、最終的な税負担率は35% (追 たチリのミチェ れてきた。なお、 チリ国内の法人間での配 加源泉税の負担率は10%) で変わらない レ・バチェレ大 当については、追加源泉税は課されない。 が、投資先からの配当の有無にかかわらず 統 領 の 第2次 追加源泉税の負担を強いられるため、税負 政 権 では、教 新 税 制 においては、帰 属 所 得 制 度 育制度改革や (Attributed Income System) と半統合 一方、半統合制度では、法人税率は現 社会保障政策 制度 (Semi Integrated System) の異な 行の20%から2018年にかけて段階的に 等に対する財 る制度が提示され、企業は2016年6月か 27%まで引き上げられる。帰属所得制度と 源確保のため、過去数十年で最大規模の ら12月末までの間にいずれかの制度を選 同様に、 チリ国外の非居住者に対する追 税制改革を行い、 チリ国内総生産の3%に 択適用することになる。会社形態によ 加源泉税は35%であるが、課税のタイミン 相当する税収を確保する見込みだ。税制 り選択手続きに相違があり、有限会社 グは投資先での利益発生時点ではなく、 改革法案 (以下、 “新税制” ) は議会で可決 または “SOCIEDAD POR ACCIOES” 投資先から配当を受領した時点で課税す され、大統領による署名を経た後、2014 形態の株式会社では、出資者の全会一 る従来の現金主義による課税制度を踏襲 年9月29日に公布された。 致による採決が必要となるのに対し、 しているものの、法人税の65%までしか税 溝畑マネジャー 担のタイミングが早まってしまう。 新税制には、①法人税の課税強化、② “SOCIEDAD ANÖNIMA”形 態 の 株 式 租税回避に対する規制強化、③貯蓄・投 会社では、臨時株主総会において議決 従って投資先から配当を受け取らない場 資を促進するための新制度の導入等を目 権を有する株主の3分の2超の賛成が 合は27%の法人税の負担で済むが、配当 的として、多岐にわたる制度改革が織り込 必要である。いったん採用した制度は を受け取った場合には最終的には44.45% まれているが、本稿ではその中でも企業活 最低5年間は継続適用することが要請 (計算方法は図表参照)の税負担を強い 動に影響の大きい法人税制改革の概要 され、5年経過後は従前の制度の下で について取り上げる。以下で取り上げる新 課される納税義務を履行済みであれ 法人税制は、法人税率の段階的な引き上 ば、他の制度への変更が認められる。い 但し、 チリと租税条約を締結している国 げを除き、2017年からの適用となる。 ずれの制度においても法人税率は上昇 からの出資者に対する追加源泉税について するものの、その税率や課税方式を巡 は、法人税の全額を税額控除できるため、 り違いがある。 最終的な税負担率は35%となる。なお、 チリでは、従来より20%の法人税 (First 額控除が認められない制度となっている。 られる。 ※ 2014年11月末時点において、 日本とチリ Category Income Tax)と35% の 追 加 源泉税 (Addtional Withholding Tax: 帰属所得制度では、法人税率は現行の の間で租税条約は締結されていないため、 出資者が非居住者の場合) または総合補 20%から2017年にかけて段階的に25% 半統合制度を採用するチリの投資先から 完税 (Global Complementatry tax:出 まで引き上げられる。チリ国外の非居住者 配当を受け取った場合には、44.45%の税 資者が居住者の場合) が課される統合制 に対する追加源泉税は35%で従来と変わ 負担を強いられる。 度 (Integrated System) が採用されてき らないものの、配当した時点で追加源泉 参考までに、 日本とチリの租税条約につ た。日系企業のようにチリ国外に親会社が 税が課される従来の現金主義による課税 いては、2014年7月の安倍総理のチリ訪 ある法人の場合、 チリの投資先から配当を 制度から、配当の有無にかかわらず投資先 問を契機に、租税条約締結に向けての実 受領した時点で現金主義により35%の追 で利益が発生した時点で追加源泉税が課 務協議が加速されているようである。当該 加源泉税が課されるものの、投資先が納 される発生主義による課税制度へと変更 税制改革が日系企業に及ぼす影響を最 付した20%の法人税は追加源泉税から税 される。 もっとも、投資先が納付した法人税 小化し、 日本からチリに対するさらなる投資 20 mizuho global news | 2015 MAR&APR vol.78 を促進するためにも、早期の租税条約締 表1. 法人税率の上昇推移 年 結が望まれている。 ※チリと租税条約締結国 (2014年11月末時点) オーストラリア、 ベルギー、 ブラジル、 カナダ、 コロンビア、 韓国、 クロアチア、 デンマーク、 エクアドル、 スペイン、 フ ランス、 アイルランド、 マレーシア、 メキシコ、 ノルウェー、 ニュージーランド、パラグアイ、ペルー、 ポーランド、 ポル トガル、 イギリス、 ロシア、 スウェーデン、 スイス、 タイ (そ の他、条約締結済みであるも未だ施行されていない国: 帰属所得制度 21.0% 21.0% 2015 22.5% 22.5% 2016 24.0% 24.0% 2017 25.0% 25.5% 2018 25.0% 27.0% 表2. 従来制度と新制度の税負担比較 (2018年以降) オーストリア、 アメリカ、南アフリカ) 新政権で掲げた教育改革等の公約を 半統合制度 2014 新制度 従来制度 配当 税引前利益 有 帰属所得制度 無 100 有 100 半統合制度 無 100 有 100 100 無 100 100 実現するため、大規模な税制改革により 法人税 20 20 25 25 27 27 27 財源確保を図る方針であることから、新税 税引後利益 80 80 75 75 73 73 73 追加源泉税 15 0 10 10 8 0 35 27 制に織り込まれた帰属所得制度・半統合 制度のいずれを選択しても、企業の税負担 は増加してしまう。異なる2つの課税方式 最終税負担 35 20 35 35 退するといった懸念や税負担増に伴う経 (注) チリ国外の非居住者法人がチリ子会社を100%保有する前提 ※1 (73+27) ×35%-27×65% =17.45 (チリと租税条約がない場合) ※2 (73+27) ×35%-27×100% =8 (チリと租税条約がある場合) 済界からの強い反発を受け、 こうした懸念 があるのだろう。 の提示は、 チリ国外からの投資意欲が減 44.45 (※2) る日 系 企 業 におい や反発を緩和する狙いがあったものと思わ れる。 17.45 (※1) その他、新税制では再投資収益基金 ては、課税 (FUT) からの配当にかかる期間限定のイ 方式別の 帰属所得制度の下では、従前の制度と ンセンティブ制度を設けている。すなわち、 課税額の 比較し、追加源泉税を含めた最終的な税 従来の制度下において過去に累積した再 シミュレー 負担率は35%で変わらないものの、配当 投資収益基金からの配当を促進するため ションや影 の有無にかかわらず利益発生主義で課税 の制度である。2013年1月1日以前に事業 響 分 析を されるため、将来のチリ国内での追加投資 を開 始した企 業で、2014年12月31日時 早 期に行 に備え内部留保を厚くする方針を採る企 点において未分配の再投資収益基金を有 うことが望 業グループにとっては、帰属所得制度を選 する企業については、再投資収益基金から ましい。た 択すると、配当の有無にかかわらず追加源 の配当につき2015年に限り32%の軽減 だし、新政権発足後、 わずか半年で作り上 泉税の負担を余儀なくされる。 税率 (納付済みの法人税は全額税額控除 げられた新税制においては、実務上の取り 可能) を適用することができる。ただし当該 扱いが不明瞭な点も多く、新税制の公布 半統合制度は、帰属所得制度に対する 制度は、累積した再投資収益基金からの 後も税務当局からの適用指針が発行され 経済界等からの強い反発を受け、追加で 配当のうち、2011年から2013年までの平 ている。新税制の下で安定した租税実務 織り込まれた妥協案との見方ができよう。 均配当処分額を超える部分についてのみ が定着するよう、 これらの適用指針の動向 すなわち、半統合制度の下では従来の現 適用される点には留意が必要である。 には引き続き留意が必要と思われる。 デロイト・チリが入居しているオフィスビル 金主義による課税方式を維持することで、 配当せずに内部留保を選択する企業グ 以上のとおり、選択する制度や租税条 ループにとっては27%までの税負担で済 約の有無により、最終的な税負担率や課 む一方、将来において配当した時点で法 税のタイミングに相違があるため、配当方 人税の税額控除の一部を制限することに 針や投資スキームを考慮して自社に最も適 より、最終の税負担率が44.45%まで引き した課税方法を選択する必要がある。場 上がることになり、最終の税負担率を35% 合によっては投資スキームの再検討が必 とする帰属所得制度との均衡を図る狙い 要となる可能性もあるため、 チリに投資す 溝畑 圭介氏プロフィール Deloitte Auditores y Consultores Ltda. Rosario Norte 407,Las Condes, Santiago, Chile Japanese Service Group KEISUKE MIZOHATA Tel: +56 (2) 2729 7750 [email protected]|www.deloitte.cl mizuho global news | 2015 MAR&APR vol.78 2 1