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バイオポリマーの現状と特徴
44444 44444 新連載 44444 44444 バイオポリマー金型と射出成形技術の基礎 44444 44444 44444 44444 44444 44444 第 1 回 バイオポリマーの現状と特徴 44444 44444 44444 44444 44444 小松技術士事務所 小松 44444 44444 プラスチック製品はすべて石油からつくられていて、 道男* 石油などの化石燃料は有限な資源であり、しかも日 燃やさない限り永久に地球へ残存してしまうと理解し 本ではほとんど産出されていないし、世界的に見ても ている人々が世界の大半であると思われる。また、近 数十年で枯渇してしまう危険を常時はらんでいる。こ 年の科学技術の発展により、プラスチックは植物や天 のような社会認識が強まったのは 1990 年代の第一次 然資源からも生産ができるようになってきており、大 湾岸戦争頃であったと考えられる。原材料の供給元で 学の研究室レベルではなく商業的な大量生産がすでに ある中近東地域での紛争によって原油調達の困難化や 始まっていることをご存知ない方も非常に多いと思う。 価格上昇が現実問題として発生してしまい、プラスチ これらのプラスチックの中には使用後に土の中へ埋 ックの生産にも大きな影響が及んだ。そして、この問 めたり、海洋を浮遊したりしているうちに自然の力で 題をきっかけとして、世界中で石油を原材料としない 分解されてしまうものも、すでにたくさん製品として プラスチックの研究開発が一斉に進められた。 流通を始めている。本連載は、これらのバイオポリマ さまざまな取組みに共通していたことは、農作物や ーの現状と近未来の展望、そしてこれらを使いこなす 再生可能資源(藁、籾殻、木くず、紙くず、動物の排 ための金型技術と射出成形技術について、基礎的な知 泄物など)を原材料として用いようとしていた点であ 識を解説する。 4444444444444444444 る。当初に開発されたこれらの素材を原材料としたプ バイオポリマーの現状 ラスチックは、強度や耐熱性が石油系の古典的プラス チックであるポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリス プラスチック(主に合成樹脂)は、石油系の化石燃 チレンなどと比較してかなり見劣りする性能であり、 料から人工的に合成された物質で、現代社会において 話題にはなるものの商業製品として採用されるにはほ は、自動車、二輪車、家電、電子部品、機械部品、包 とんど至らなかった。 装資材、飲料ボトル、医療用具、建設資材などわれわ しかし、1997 年頃から、包装パッケージの素材に れの生活には不可欠な素材としての地位を築いてきた。 は石油系以外の素材を用いるようにとの規制がヨーロ われわれ消費者の通常の認識では、プラスチックは石 ッパを中心に提案されたことなどにより、さらなる研 油からつくられ、そして廃棄した際には永遠にその形 究開発が加速された。この頃に現在主流になっている をとどめるものとされている比率がまだまだ多数を占 ポリ乳酸(PLA)などの量産技術の基本が固められ めていると考えられる。プラスチックはまた、燃焼処 た。 理をすれば燃えるが、燃焼時には有害物質を撒き散ら だが、規制は先行したものの、原材料価格は石油系 すこともあり、大気汚染の原因となったり、二酸化炭 樹脂に比べて 4∼5 倍も高く、現実的な採用はほとん 素を放出して地球温暖化の原因にもなったりしている。 どされずに、最初のバイオポリマーのブームは過ぎ去 * Michio Komatsu:所長 〒972−8301 福島県いわき市草木台 2−14−6 TEL(0246) 28−8701 070 っていった。 2005 年に入ると、アメリカで巨大ハリケーン「カ トリーナ」が発生し、大きな風水害を及ぼすようにな 44444444444444444444 新連載 バイオポリマー金型と射出成形技術の基礎 った。2012 年も巨大ハリケーンがワシ ントン DC やニューヨークを襲い、ア 首都や中心都市を危機にさらすことが明 白となり、石油系プラスチックからバイ オプラスチックへ移行することを真剣に 考えねばならない時期にさしかかってい ると、消費者や政府関係者、業界も強く 認識し始めるようになってきた。 原油価格記録 ($147.5 バレルあたり) バイオポリマーへの関心 / バイオポリマーの開発 メリカでは地球温暖化による気候変動が ハリケーン カトリーナ 包装規制の 始まり 第一次湾岸戦争 第一世代 バイオポリマー 日本では、突如発生した東日本大震災 による未曾有の大災害に加え、原子力発 電所の爆発事故も発生し、脱原発のため 1990 第三世代 バイオポリマー 1995 2000 第二世代 バイオポリマー 2005 2010 年 図 1 変動しつつも成長を遂げるバイオポリマーへの関心1) に火力発電所の増設など石油、天然ガス に依存するエネルギー体制を強いられている現実があ 生産によって徐々に解決の方向へ向かってきている。 る(筆者の拠点である福島県いわき市もこの大災害で バイオ系再生材料のアジア太平洋市場における 2018 壊滅的な打撃を蒙っている) 。 年までの成長率は 19% と予測されており(Frost & 2012 年冬には日本では記録的な大寒波が襲来し、 Sullivan による) 、タイ王国政府主導の戦略では同国 日本海側では豪雪に見舞われた。台風も巨大化したり、 は 2021 年までにバイオポリマーのハブになろうと考 爆弾低気圧が突如発生したり、明らかな気候変動が顕 えているようである。タイ王国のポリ乳酸の生産キャ 著に感じられるようになってきている。 パシティは、2020 年までに 721, 000 t/年まで増加す このような状況を脱するための具体的な行動の一つ ると予測されている[タイ王国国立イノベーション局 がバイオポリマーの採用である。石油に依存せず、再 (NIA) と Nova Institute of Germany による推計、 出 生可能資源を原材料としたプラスチックを従来の石油 所:Press Department K 2013、Press Release April 系プラスチックに置き換えることで大きな効果を上げ 2013] 。ポリ乳酸は、現在は米国が主要な生産国であ ることが可能である。原材料価格も量産によりかなり るが、上記のようにアジアに大量生産の原材料工場の 低下してきており、一方原油価格は上昇を続けている。 建設が進んでおり、この工場の稼働によって世界の原 日本の経済状況は、長期間の不況に苛まれてきたが、 政権交代により為替相場の急回復、東京証券取引所の 株価の上昇など、経済の回復基調が著しく感じられる 材料供給状況は大きく変化するものと考えられる。 4444444444444444444 バイオポリマーの定義 ようになってきている。今後の少子高齢化社会を見据 「バイオポリマー」という用語については、いくつ えつつ、地球環境問題を解決するためにバイオポリマ かの解釈が存在し、混同されていると思われる。ここ ーを普及させたいと願う第三世代のバイオポリマーブ で一度整理をしたい。 ームが到来している(図 1) 。 当初、バイオポリマーは、再生可能資源(石油や天 バイオポリマーを本格的に普及させるためには、樹 然ガスなどの化石燃料は除く)からつくられ、コンポ 脂そのものの特性が商品に適合していることが大前提 スト(堆肥分解)対応ができるものとして認識されて であるが、さらに樹脂コストが商品価値に対して妥当 いたと考えられる。しかし、科学技術が進化したこと な水準にあることが求められる。多くの場合、樹脂コ により、バイオポリマーには石油系資源を原材料とす ストが従来の石油系樹脂に比較して高いためになかな るもののコンポスト対応できるもの(例:PGA、ポ か普及が進まないのが現実であった。地球環境保護に リグリコール酸) 、あるいは再生可能資源を原材料に よいことは認識されていても、いざ商品を購入する際 するが、合成されたプラスチックはコンポスト対応し には価格が高いとなかなか爆発的な普及には至らない。 ないもの(例:バイオ PET)も広義には含まれるよ このような高コスト要因は、バイオポリマーの大量 うになってきている(図 2) 。 型技術 第 28 巻 第 8 号 2013 年 8 月号 071