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超一流銀行の条件(PDF)601KB
SCB SHINKIN CENTRAL BANK NEW YORK 通信 (第17-3号) 総合研究所(ニューヨーク駐在) (2006.2.8) 〒104-0031 東京都中央区京橋 3-8-1 TEL.03-3563-7541 FAX.03-3563-7551 http://www.scbri.jp/ 超一流銀行の条件 視点 日本の金融機関は、最悪の金融危機的な状況を脱し、本来の力をとり戻しつつある。 今後は、各金融機関とも平凡な業績の金融機関に留まるのではなく、超一流と呼ばれ る水準を目指して努力していくことになるだろう。 米国には約9千もの金融機関があるが、そのうちの本当のトップクラス、つまり長 期間成功している金融機関は、他の平均的な水準に留まっている金融機関と、何が違 うのであろうか? 本稿では、米国金融機関約9千行のうち、長期間高収益をあげ、 繁栄している超一流銀行 14 行をピックアップし、同じような規模を持ち、比較的類 似した環境にありながら平均的な水準に留まっている比較対照銀行 14 行と比較する ことにより、超一流銀行の条件について定量・定性分析を試みる。 要旨 ・ 超一流銀行は強い経営理念をもち、しかもその理念を実行するためのメカニズ ムが機能している。また、出資者だけでなく、顧客、職員、地域社会などのス テークホルダーの利益も重視している。 ・ 超一流銀行は、比較対象銀行と比べて貸出金利は高く、預金金利は低く、非金 利収入は多く、非金利費用(経費等)の割合は低い傾向がある。このどれかが 突出している、というよりは、どの点でも優れている。 ・ 超一流銀行は、比較対象銀行と比べ、収入に対する経費の割合が低いが、これ は人件費などの水準が低いというよりは、同じ経費でもより多くの収入を得て いる。つまり、生産性(職員一人当たり収入等)がかなり高くなっている。 ・ 超一流銀行は、比較対象銀行ほど規模の成長を優先させていない。他金融機関 の買収も行うが、慎重に価格を査定し、地元のコミュニティにも配慮している。 キーワード 米国金融機関、生産性、ステークホルダー ©信金中央金庫 総合研究所 ニューヨーク駐在 目次 1.調査手法 2.どのくらい違うのか?-定量的分析- (1) 収益性 (2) 安全性 (3) 効率性 (4) コミュニティへの貢献 (5) 成長性 3.定性分析 (1) 経営・メカニズム (2) (3) 職員満足 顧客満足 (4) コミュニティからの評判等 4.考察 取材協力先1 参考文献 参照した新聞・雑誌記事等 別紙 調査対象銀行のデータ(2004 年 12 月末現在) 1 本稿作成にあたり、巻末にあるとおり、超一流銀行の経営者や職員の方々に貴重な時間を割い ていただき、多大なご協力をいただいた。この場をお借りしてお礼申し上げたい。 1 New York 通信 第 17-3 号 2006.2.8 ©信金中央金庫 総合研究所 ニューヨーク駐在 1990 年代の米国のビジネス書ベストセラーの一つに、スタンフォード大学のジェ リー・ポラス、ジム・コリンズ著の”Built to Last” (邦題「ビジョナリー・カ ンパニー」 )がある。これは、 「長期間繁栄しており、尊敬されているような企業は、 そうではない企業と比較して何が違うのか?」について研究・調査した、興味深い 著作である。同著における調査方法もユニークかつ説得力がある。同著では、50 年 以上の歴史があり、産業界から尊敬されている 18 社の「ビジョナリー・カンパニー」 と呼ばれる超一流企業と、それらと同じような背景を持ち、類似した業界で同じよ うな長い歴史をもち、一流の優れた企業ではあるが、超一流とまでは言えない「比 較対象企業」を比較し、超一流と一流の違いは何か、について徹底して調査してい る。その具体的な結果などについては、同著自体を参照していただきたいが、強い 企業理念を持つと同時に、絶えず進化を遂げること、さらにそうした基本理念を実 行するメカニズムとして、強い企業文化、大胆な目標、試行錯誤でもとにかくやっ てみるという進取の気性、自分のためではなく企業を作るために働くリーダー等が 必要、という研究結果となっている。 本稿は、同様の研究を米国の金融機関に絞って行うことはできないか、というこ とが出発点となっている。米国には約9千もの金融機関があるが、そのうち比較的 長期間成功している金融機関は、他の平均的な業績に留まっている金融機関と、何 が違うのか?について調査を試みた。日本の金融機関も、最悪期は脱し、今後は、 超一流の金融機関を目指していくことになるだろう。その際の戦略策定に、本稿が いささかでもお役に立てば幸甚である。 1.調査手法 まず、成功している金融機関を定義する必要がある。第一に、成功しているから には、財務的な業績が優れている必要がある。金融機関の健全性にとって収益は重 要であることは言うまでもなく、さらに、金融機関とは言え企業であるからには、 出資者のために利益をあげ、企業価値を上げなければならない。ただし、それは管 理できないようなリスクをとり、一時的に大きな収益を得ることを意味しない。ま た、未知の要素が大きい新設銀行ではなく、長期間サバイバルしている実績のある、 つまりある程度の歴史のある銀行であることが望ましい。さらに、米銀の多くは資 産規模の小さなコミュニティバンクであるが、あまりに規模が小さい金融機関の場 合では、日本の金融機関にとって参考になりにくいことから、ある程度の資産規模 も必要と思われる。加えて、米国特有のクレジットカード専業銀行や産業銀行の場 合は、日本の金融機関にとって直接的には参考になりにくいから、これらを除外す ることとする。よって、次のような超一流銀行の条件を設定した。 ① 超一流の銀行であれば、まず、収益的に成功していることは不可欠である。連 邦預金保険公社のデータベースによりデータが入手可能な期間の最初と最後、つ 2 New York 通信 第 17-3 号 2006.2.8 ©信金中央金庫 総合研究所 ニューヨーク駐在 まり 1992 年 12 月末と 2004 年 12 月末のいずれも、総資産利益率(ROA)が 1.5% 以上であることを第一条件とした。2004 年の米国金融機関全 8,975 行の ROA の単 純平均は 1.03%、中間値は 1.01%である。全行の ROA を並べてみて、丁度上位 20% に相当する点が 1.5%である。つまり、全体的に収益性が高いと言われる米国金融 機関にとっても、1.5%という ROA は十分に高く、成功している銀行と呼ぶにふさ わしい。もっとも、一時的に高い収益を達成することはさほど困難でもないが、 長期間高いレベルを保つことは難しい。よって、データが入手できる一番古い 1992 年末と、直近の 2004 年末のいずれも ROA が 1.5%の金融機関を対象とした。さら に、たまたま 1992 年と 2004 年の2年間だけ ROA だけ高かった銀行を排除するた め、1992 年~2004 年までの 13 年間の ROA の平均が 1.5%を下回る銀行を排除した。 ②比較的新しい新設銀行が、勢いのある間、高い収益率を稼ぐことは可能だろう。 また、一人のカリスマ的な創業者兼経営者の活躍で、10~20 年の間、高い収益率 を維持することも可能だろう。ただし、1933 年の大恐慌、第 2 次世界大戦、そし て 1980 年代の米国金融危機をサバイバルし、なおかつ現在でも高い ROA を達成す ることは容易ではない。このため、本稿における超一流銀行の条件として、大恐 慌のあった 1933 年より前に設立されていることを条件とした。 ③大恐慌より前に設立されている、ということは 70 年以上もの歴史のある金融機関 であることを意味する。この 70 年間の間、安定的に収益を上げ続けることは重要 であるが、70 年もかかって未だに小規模に留まっているのであれば、超一流の銀 行とは言い難い。また、あまりに小さな金融機関の場合は、日本の読者にとって 必ずしも参考にならない。このため、2004 年、1992 年とも、総資産は3億ドル(約 330 億円2)を超える金融機関を対象とした。 ④さらに、日本の金融機関と比較して、ビジネスモデルが大きく異なっていれば、 やはり参考となりにくいことから、米国特有の銀行、つまりクレジットカード専 業銀行、産業銀行等は、収益性が高い場合でも除外した。 このような条件を設定した結果、2004 年 12 月末時点でデータが入手可能な全金 融機関 8,975 行のうち、わずか 0.16%にあたる 14 行が対象となった。全金融機関 数の 0.16%ということは、日本の全金融機関を 426 行庫(2005 年 4 月1日現在の銀 行+信金数)とすると、該当するのは 0.7 行庫のみ、というまさに超一流と呼ぶに ふさわしい優良銀行である。 ただし、この超一流銀行同士を比較して、共通点を見出しても、超一流銀行がな ぜ超一流なのかはわからない。例えば、この 14 行のいずれもオフィスには机と椅子 があるだろう。これをもって、机と椅子を持っていることが超一流の条件であるこ とを「発見」しても無意味である。なぜなら、超一流ではない銀行もオフィスには 2 本稿では、$1=¥110 換算している。 3 New York 通信 第 17-3 号 2006.2.8 ©信金中央金庫 総合研究所 ニューヨーク駐在 机と椅子があるからである。このため、超一流の銀行を比較する対象としての銀行 を比較対象銀行として選定する必要がある。比較対象銀行の条件は次のとおりであ る。 ① 比較対象銀行は、超一流銀行には及ばないまでも、それなりの収益性を上げて いる必要がある。なぜなら、三流の銀行と超一流銀行を比較しても、超一流銀行 は少なくとも二流以上である理由がわかるだけで、超一流がなぜ二流や一流では なく、超一流なのかはわからない。よって、比較対象企業は、十分に優良な銀行、 少なくとも 1992 年、2004 年のいずれも赤字ではなく、ROA は概ね 0.5~1%前後 であることを条件とした。 ② 比較対象銀行は、超一流銀行と境遇が似ている銀行である必要がある。同じよ うな境遇の銀行なのに、方や超一流、方やまずまずの銀行になっているのはなぜ か?を探るのが本稿の目的だからである。 よって、 超一流銀行の各 14 行について、 比較対象銀行はそれぞれの歴史の長さ、規模、地域環境が比較的近い銀行を選定 した。例えば、比較対象銀行はいずれも第二次世界大戦終了の年である 1945 年よ りは設立が古い銀行であり、多くは 1933 年の大恐慌よりも古い銀行である。 ③ 規模的にも、超一流銀行と同様に少なくとも 2004 年時点の総資産で3億ドル (330 億円)以上の銀行とした。 ④ ビジネスモデルについても、同様にクレジットカード専業銀行等の特殊な銀行 は除外した。 この結果、次の 14 行ずつ、計 28 行が本稿の研究対象として選び出された。 超一流銀行 比較対象銀行 名称 2004 年 名称 2004 年 ROA(%) ROA(%) ケミカル(101) 1.79 第一国法信託(201) 0.31 ロングビーチ商工(102) 1.71 メカニクス(202) 1.03 シチズン(103) 1.61 第一海洋(203) 0.56 アソシエイト(104) 1.61 スカイ(204) 1.29 第一金融(105) 1.53 北方市民(205) 1.19 パーク(106) 1.75 ユニザン(206) 0.48 フィフス・サード(107) 1.80 チャーターワン(207) 0.27 S&T(108) 1.75 第一ソース(208) 0.90 モンロー(109) 1.51 エドワーズビル(209) 1.09 ウエスト(110) 1.80 シチズン信託(210) 0.82 アラスカ第一(111) 1.71 バナー(211) 0.81 リージェンシー貯蓄 2.50 ノースショア(212) 0.46 (112) ワシントン S&L(113) 1.83 連邦第三 S&L(213) 0.62 ローズデール S&L(114) 1.59 ブラッドフォード(214) 0.47 平均 1.75 0.74 4 New York 通信 第 17-3 号 2006.2.8 ©信金中央金庫 総合研究所 ニューヨーク駐在 表の左が超一流銀行、その右がその超一流銀行に対応する比較対象銀行である。 便宜上、各銀行に番号をつけている。超一流銀行は 100 番台、比較対象銀行は 200 番台である。直接的な比較対象を示すのが下2桁の番号である。例えば、2列目の ロングビーチ商工銀行(102)は、カリフォルニア州を拠点とした総資産約 3,600 億円 の銀行である。一方、同行に対応するメカニクス銀行(202)もカリフォルニア州を拠 点としており、総資産は約 3,000 億円である。両行とも設立は 1905~1907 年と古く からの歴史を持つ銀行である。このように両行は共通した環境にある銀行といえる が、実際に ROA を見ると、前者が後者を大きく上回っている。こうした差がどこか ら生じるのか、を可能な限り解明しようと試みるのが、本稿の趣旨である。(なお、 107-1、207-3 等の数字は巻末の参照新聞・雑誌記事を示している。 ) 2.どのくらい違うのか?-定量的分析-3 まず、超一流銀行と比較対象銀行が、同じような環境で育ちながら、どこがどの くらい異なるのか、について分析してみたい。 (1) 収益性 ① 金利収入 (グラフ1:2004 年 12 月の利鞘の状況) 6.00 5.00 4.00 3.00 2.00 1.00 0.00 運用利回 超一流(単純平均) 調達利回 比較対象(単純平均) 金利利鞘 全金融機関(加重平均) まず、金融機関の基本的な収入の源である金利利鞘についてみると、グラフ1の とおり、超一流銀行は運用利回りが高く、調達利回りが低く、結果として金利利鞘 が厚い、という収益構造の基本がしっかりしていることがわかる。一方、比較対象 金融機関は、運用利回りは全金融機関平均並みであり、調達利回りが高く、その結 3 データ出典は特に断りがない場合、連邦預金保険公社(FDIC)データベース。各行の詳細なデ ータは巻末の別紙を参照 5 New York 通信 第 17-3 号 2006.2.8 ©信金中央金庫 総合研究所 ニューヨーク駐在 果として利鞘が薄くなっている4。 まず、運用利回りについては、優位な差とは言えないものの、超一流銀行の方が 比較対象銀行よりも高い傾向にある。金融機関の運用利回りが高い、ということは、 ①債券運用よりも貸出の比率が高い(つまり預貸率が高い)、または②貸出金利が高 い、のいずれかまたは両方が考えられる。実際、預貸率は超一流で 93.0%、比較対 象で 89.9%となっており、有意な差ではないが、超一流銀行の方がやや貸出資産を 獲得できており、その結果運用利回りがやや高くなっている可能性もある5。一方の 貸出金利回りについては、超一流銀行が単純平均で 6.06%、比較対象銀行が 5.80% と6、有意な差ではないものの、やはり超一流銀行の方がやや高い貸出金利を課すこ とができている。その理由としては、③住宅ローンよりも金利の高い事業性ローン や消費者ローンが多い、または④ローンの種類に関わらず金利が高い、ことが考え られる。実際、貸出金の内容については、超一流銀行がやや貸出金における事業性 資金の割合が高く、比較対象銀行は住宅ローンが多いという傾向がある。もっとも、 米国では住宅ローンを売却することが珍しくないため、年末の貸出金の残高だけで 実際の融資活動の実態を判断することは困難である。 (グラフ2 2004 年 12 月末の貸出金の内訳(単純平均)) 70.0% 60.0% 50.0% 40.0% 事業性 住宅 個人 30.0% 20.0% 10.0% 0.0% 超一流 比較対象 全金融機関 このように、超一流銀行の金利収入が多い理由としては、①貸出の比率(つまり 預貸率)が高く、さらに②貸出金の利回りが高く、これは③金利が比較的高い事業 性の貸出が多いためと考え得ると同時に、④貸出金自体の金利も高いことが考えら 4 5 6 本稿では、諸比率を計算するための数値を合計してから比率を算出する場合を「加重平均」、銀 行ごとに比率を計算して、その比率を単純に平均した場合を「単純平均」と称している。加重平 均の方が米銀業界全体としての傾向をつかめるが、大規模金融機関の影響を強く受ける。単純 平均の場合は、金融機関の規模が反映されないため、「典型的な米国の銀行」に近い数値となる。 2グループの平均の差の有意水準については、90%で t 検定をしている。巻末の別紙参照 この項目に関しては、比較対象銀行のうち、チャーターワン銀行は異常値として除外している。 6 New York 通信 第 17-3 号 2006.2.8 ©信金中央金庫 総合研究所 ニューヨーク駐在 れる。つまり、ホームランのような決定的な要素があるわけではなく、様々な項目 において、少しずつであるが、超一流銀行は比較対象銀行を上回っており、それら が積みあがって金利収入が多い、という結果となっている。 一方、調達利回りについては、超一流銀行は比較対象銀行よりも有意に低い水準 となっている。預金の内訳をみると、預金におけるリテール預金の割合が超一流銀 行で 86.1%、比較対象銀行で 85.0%、全金融機関平均で 82.5%と、両グループ間 で有意な差はない。ただし、預金のうち金利を付与しない当座預金などの割合は超 一流銀行で 18.5%、比較対象銀行で 11.0%、全金融機関平均で 15.6%となってお り(いずれも単純平均)、超一流銀行は比較対象銀行よりも有意に高い水準にある。 つまり、超一流銀行は、顧客サービスなどが優れているため、営業基盤が強く、当 座預金に代表される無金利の決済性預金を多く獲得できている。比較対象銀行とは いえ十分に成功している銀行なので、リテール預金を集められないほど営業基盤が 弱いわけではないが、無金利の決済性預金を多く集められるほどは強くはなく、超 一流銀行と比較すると高金利で預金を集めている傾向があるとも考えられる。 ② 非金利収入 次に、収入源について、上記のような金利収入だけでなく、手数料収入などの非 金利収入が米銀の成功の秘訣とも言われている。実際に、超一流銀行の非金利収入 が割合として多いのかどうかを見ると、次のグラフ3のようになる。 (グラフ3:収入合計に対する非金利収入の割合) 45.0% 40.0% 35.0% 30.0% 超一流 比較対象 全金融機関 25.0% 20.0% 15.0% 10.0% 5.0% 0.0% 加重平均 単純平均 米銀の非金利収入は、特定の銀行、主に大銀行に集中している。2004 年 12 月末 の米銀 8,975 行のうち、わずか 12 行が全非金利収入の 50%を稼いでいる。このた め、非金利収入を見る場合、金融機関の規模を勘案した加重平均の場合と、比率を 単純に平均した単純平均では様子が大きく異なる。大銀行における非金利収入が大 きいため、加重平均にすると、全金融機関の収入のうちの 40%以上は非金利収入と なる。ただし、銀行ごとに比率を計算してそれを単純に平均すると、非金利収入の 7 New York 通信 第 17-3 号 2006.2.8 ©信金中央金庫 総合研究所 ニューヨーク駐在 収入における割合は 17%程度に留まり、中間値だと 15%となる。つまり、典型的な 米国金融機関の場合は、非金利収入は全体の収入の6分の1程度である。超一流銀 行の場合、14 行中圧倒的に規模が大きなフィフス・サード銀行の非金利収入が 50% と多いため、加重平均にすると大きくなるが、単純平均にすると、比較対象金融機 関とほとんど差はなく、全金融機関の平均よりもやや高い程度である。ただし、こ れは非金利収入が重要ではないことを意味しない。なぜなら、これは金利収入と合 わせた総収入合計と比較しての非金利収入の相対的な高さだからである。例えば、 職員1人あたりの非金利収入額を計算すると、超一流銀行で 48 千ドル、比較対象銀 行で 29 千ドルと、超一流銀行の方が 66%も高くなっている。つまり、超一流銀行 は、金利収入も多いため、金利収入の多さと比較して非金利収入が特別に多いわけ ではないが、比較対象銀行と比較すると、やはりかなり高いといえる。 なお、非金利収入の内訳の中では、預金関連手数料がやや高く、また「その他非 金利収入」が高い。「その他非金利収入」の内訳は不明であるが、多くの場合は、関 連子会社との連結ベースで含まれる収入がここにあたる。よって、超一流銀行は、 連結子会社において、様々な収入を得ている場合が多いといえる。例えば、フィフ ス・サード銀行(107)においては、決済業務関連など様々な子会社をもっており、こ れが相当な非金利収入源となっている。 ③ 経費 金融業務はコモディティビジネスと言われ、差別化が難しい業務である。どの銀 行の商品も似たり寄ったりであるため、銀行間の競争は価格競争になりやすく、つ まり低コスト銀行が有利となりやすい。こうしたことから、超一流銀行は経費率が 低いはずである。 米国では、経費率の計算は次のとおり、総収入に対する金利費用以外の費用の割 合となっている。 非金利費用 経費率= 金利収入-金利費用+非金利収入 つまり、分母が預金平残ではなく、総収入となっている。ここでいう総収入の計 算上、金利費用を引く理由は、金利収入は市場金利の変動で大きく変動するため、 ネット化して利鞘のみ収入と見なしている。この経費率については、超一流銀行は 42.2%、比較対象銀行は 66.8%、全金融機関平均で 77.3%となっている(いずれも 単純平均) 。つまり、平均的な金融機関では、粗利の 3/4 は経費として使ってしまい、 最終的な利益は 1/4 が残ることになる。ただし、このように全金融機関平均の経費 率が高い理由は、米国の金融機関の大部分が小規模だからであり、金融機関の規模 によりウェイト付けした加重平均にすると経費率は 58%までに下がる。いずれにし ても、超一流銀行の多くは経費率が圧倒的に低く、超一流銀行を超一流にしている 8 New York 通信 第 17-3 号 2006.2.8 ©信金中央金庫 総合研究所 ニューヨーク駐在 最大の要因の一つがこの低い経費率である。経費が少ない分だけ、収入のうち利益 として残る分が多くなり、結果として ROA は高くなる。 日本でも、米国でも、金融機関の経費のうち主要かつ最大のものは人件費である。 よって、超一流銀行の経費率が低い、ということは、人件費率も低いはずである。 超一流銀行は、比較対象銀行と比較して単に安月給なのか、それとも同じ給料でも 職員が良く働くので収入や預金量と比較して人件費が相対的に低くなるのか、また はその両方なのかを調査してみると、次のような結果となる。まず、2004 年 12 月 の超一流銀行の一人当たり人件費の単純平均は 571 万円相当($1=¥110)、比較対象 銀行は 565 万円と、わずかながら超一流銀行の方が高くなっている。少なくとも、 超一流銀行が安月給というわけではない。次に、総収入(金利収入-金利費用+非 金利収入)および預金量(末残)に対する人件費の割合を見ると、グラフ4のよう になる。参考までに、2003 年3月期の信用金庫のデータも比較している。超一流銀 行は、収入のうち約 22%を人件費として支払っているが、比較対象銀行は 36%を支 払っている。また、預金量と比較しても超一流銀行の方がやや人件費率が低い。こ のことから、次のようなことが言えるだろう。まず、超一流銀行は必ずしも安月給 というわけではなく、人件費が絶対水準として低いわけではない。ただし、収入に おける人件費の割合が低く、つまり、同じ人件費をかけた場合、比較対象銀行より も多くの収入を得ていることを意味している。実際、人件費1ドルをかけた場合に 得られる総収入額の単純平均は、超一流銀行 4.8 ドル、比較対象銀行 2.8 ドルと大 きくことなっている。このように、超一流銀行は人件費の水準が低いというよりは、 生産性が高いため、同レベルの人件費でも高い収入を得られている。要するに同じ 給料でもよりよく働く人を雇っていると言ったほうが正確である。 (グラフ4:人件費比率の比較) 45.0% 39.5% 40.0% 36.3% 35.0% 30.0% 25.0% 22.4% 20.0% 15.0% 10.0% 5.0% 2.3% 1.8% 1.6% 0.0% 超一流2004.12 比較対象2004.12 人件費/総収入 9 信金2004.3 人件費/預金 New York 通信 第 17-3 号 2006.2.8 ©信金中央金庫 総合研究所 ニューヨーク駐在 なお、預金量比較で見ても、超一流銀行の方が比較対象銀行よりも人件費率が低 いが、その違いは総収入比較の場合ほど顕著ではない。このことから、日本でよく 使われる預金量を分母とした経費率や人件費率は、実際には大きな重要な違いを、 小さな違いとしか表さないという問題を暗示している。 (グラフ5:ROA と経費率(2004 年 12 月)) 3.00 2.50 2.00 超一流 比較銀行 1.50 ROA(%) 1.00 0.50 0.00 0.00 10.00 20.00 30.00 40.00 50.00 60.00 70.00 80.00 90.00 経費率(%) 経費率(非金利費用/総収入)が低いことは、このように超一流銀行と比較対象 銀行の違いにおける顕著な特徴である。グラフ5にもあるとおり、超一流銀行で経 費率が 60%を超えている銀行はなく、比較対象銀行で経費率が 50%を下回っている 銀行もない。超一流と比較銀行の大きな差の要因の一つは、超一流銀行の多くは経 費をよく管理している、という点にある。経費を管理できる経営者、そして行内の 諸制度が、超一流となるための重要な条件の一つといえる。 以上の収益性の違いを総括したのがグラフ6である。2004 年 12 月末の単純平均 ベースでの超一流銀行の ROA は 1.75%、比較対象銀行は 0.74%と、1.01%ポイント の差がある。この差がどこから来るのかを図示したものがこのグラフである(グラ フでは、費用項目はマイナス表示にしている。例えば、金利費用が+0.41%というこ とは、超一流銀行は総資産に対する金利費用が対象金融機関よりも 0.41%ポイント 低い、ということ。つまり、グラフの数値を合計すれば、両グループの ROA の差の 1.01%となる。)。これを見ると、超一流銀行は、金利収入が多く、金利費用は少な く、貸倒引当は少なく、非金利収入が多く、非金利費用は少ない。もちろん利益が 多くなるため、支払う税金は多くなり、その分はマイナスとなる。このように、超 一流銀行が比較対象銀行よりも優れている点は、単に運用成績がよい、といった単 一の理由によるものではなく、主に貸出金などからの金利収入が高くかつ預金金利 支払いなどの金利費用が低いと同時に、手数料収入などの非金利収入が高くかつ経 費などの非金利費用が低く、さらに不良債権が少ないという5つの要素により優れ 10 New York 通信 第 17-3 号 2006.2.8 ©信金中央金庫 総合研究所 ニューヨーク駐在 た結果を出していることがわかる。 (グラフ6:ROA の分析) 0.60% 0.50% 0.41% 0.40% 0.41% 0.25% 0.20% 0.05% 0.01% 0.00% 0.00% 金利収入 金利費用 貸倒引当 非金利収入 非金利費用 証券売益 税金 特別利益 -0.20% -0.40% -0.60% -0.61% -0.80% (2) 安全性 不良債権が少ないことが、超一流の条件であることは容易に想像がつく。実際、 不良債権および償却額の貸出金等に対する割合を示したグラフ4を見ると、超一流、 比較対象とも、全金融機関平均よりも不良債権等の割合が少なく、特にまだ米国金 融機関の破綻が多くあった 1992 年当時は、平均よりも大きく下回っており、安定的 な資産の健全性が成功の鍵であることがわかる。ただし、超一流銀行が常に比較対 象銀行よりも不良債権の割合が低いわけではなく、1992 年においてはむしろやや高 かった。もっとも、これは 14 行中、超一流銀行には 1990 年代初頭の不動産バブル の影響を受けた南カリフォルニアの銀行が含まれているためである。対象銀行にも カリフォルニアの銀行はあるが、こちらはバブルの影響をほとんど受けなかったサ ンフランシスコ近郊の銀行であることも影響している。 超一流、対象銀行とも平均よりは不良債権の比率はかなり低い傾向があり、両グ ループ間で有意な差はない。つまり、資産の質は超一流と一流の差、というよりも、 金融機関として成功するためには当然必要な前提条件であるとも言える。ただし、 僅差ではあるが、超一流銀行は不良債権比率が現在は低く、これが低い償却・引当 負担へとつながっている。 11 New York 通信 第 17-3 号 2006.2.8 ©信金中央金庫 総合研究所 ニューヨーク駐在 (グラフ7:不良債権・償却額の貸出金に対する比率) 4.50 4.00 3.50 3.00 2.50 2.00 1.50 1.00 0.50 0.00 1992 2004 超一流(単純平均) (3) 比較対象(単純平均) 全金融機関(加重平均) 生産性 先述のとおり、超一流銀行と比較対象銀行との最大の違いは、その生産性にある ように思われる。そこで、職員1人あたりの収入(金利収入-金利費用+非金利収 入)を見ると、グラフ8のようになる。超一流銀行は少ない職員数で多くの収入を 得ることができており、しかもその生産性はこの 12 年間で飛躍的に上昇している。 一方、比較対象企業の生産性はあまり改善していない。全金融機関を見ると、中間 値ではやや上昇、平均では大きく上昇している。これは、特に大銀行の生産性がこ の 12 年間に飛躍的に上昇しているからである。ただし、超一流銀行のうちトップ 10 クラスの大銀行は1つだけであり、その他の多くは中堅銀行である。超一流銀行 は、規模に関わらず生産性が高く、しかもそれが大きく改善しているところに成功 の秘訣がありそうであり、かつ超一流と普通の銀行との違いの決定的な要因の一つ となっていると考えられる。 (グラフ8:常勤職員一人当たり収入(単位:1,000 ドル) ) 300 250 200 1992 2004 150 100 50 0 超一流単純平均 比較対象単純平均 12 全金融機関中間値 全金融機関加重平均 New York 通信 第 17-3 号 2006.2.8 ©信金中央金庫 総合研究所 ニューヨーク駐在 (4) コミュニティへの貢献 米国には、地元のコミュニティに貸出を行っているか、低所得者層に対して不当 に差別的な扱いをしていないかどうかを検査する CRA 検査がある。その結果は公表 されており、4段階の格付けがされる。この格付けを数値におきかえ、4を最高、 3を合格、2を不合格、1を最低の格付けとして、超一流、比較対象銀行それぞれ 14 行の直近検査の比較をしてみると、平均は超一流で 3.3、比較対象で 3.1 であり、 有意な差とは言えない。なお、いずれも優良な銀行であるため、合格を示す最高位 か合格の格付けのみであり、不合格である3~4番目の格付けはなかった。ただし、 過去3回の検査結果に広げて見てみると、超一流銀行では過去3回の検査中、1回 でも最高位を獲得した銀行は、14 行中半数の 7 行あるのに対し、比較対象では 14 行中2行のみとなっている。 このように、法令の遵守が徹底し、金融機関に期待される公的な役割を、その期 待を上回るほど達成するためには、まず財務的に余裕がある金融機関の方が、より 果たしやすい、ということは言えるだろう。また、超一流銀行は地域のコミュニテ ィに貢献しているからこそ、地域での評判がよく、それが低コストでの預金調達な どの収益面で貢献している可能性もある。 (5) 成長性 成長性については、両グループの 1992 年~2004 年までの 12 年間の平均総資産成 長率(それぞれの単純平均の幾何平均)を見ると、超一流銀行で 11.9%、比較対象 銀行で 15.2%であり、有意な差ではないものの、意外なことに比較対象銀行の方が 超一流銀行を上回っている。ただし、全金融機関加重平均は 6.6%であり、いずれ のグループも平均以上の成長率を遂げている金融機関が多い。2桁成長率を遂げた 金融機関は、それぞれ 14 行中、超一流で 5 行、比較対象で 8 行となっており、比較 対象銀行に多い。ROA が低い比較対象銀行の方が成長率は高い、ということは、成 長にはリスクが伴うため、比較的成長志向の強い銀行は ROA が安定しない、という ことも考えられる。また、成長のためのインフラ投資などを行っているため、経費 が高くなり、その結果 ROA は低くなっているのかもしれない。 なお、銀行は上場すると、株主からのプレッシャーから、企業を成長させようと する傾向があると一般的には言われるが、超一流・比較対象の両グループとも、上 場と総資産成長率との間には明確な関連は見られない。 米銀の有力な成長手段の一つが合併・買収であるが、超一流銀行、比較対象銀行と も、大規模な金融機関は合併・買収を多く行っている傾向がある。ただし、調査期 間中(1992~2004 年)、一回も合併・買収を行っていない銀行も超一流で6行、比 較対象で2行あり、つまり内部成長を重視している金融機関も少なくない。 アソシエイト銀行(104)、その比較対象銀行であるスカイ銀行はいずれも中西部を 13 New York 通信 第 17-3 号 2006.2.8 ©信金中央金庫 総合研究所 ニューヨーク駐在 本拠地とした総資産約 1.5 兆円規模の大型地方銀行であるが、アソシエイト銀は期 間中 21 回、 スカイ銀は 32 回もの買収を行っている。また、 フィフス・サード銀(107)、 チャーターワン銀(207)も中西部を中心とした総資産5~6兆円規模の大型スーパ ー地銀であるが、前者は対象期間中 12 回、後者は 22 回の買収を行っている。いず れも、比較対象銀行の方が、回数が多くなっていることから、比較対象銀行は買収 により手っ取り早く規模を拡大することを好む傾向があることがうかがえる。 3.定性分析 冒頭で紹介した米国の超一流企業と一流企業を比較したコリンズ氏・ポラス氏の 著書 Built to Last(邦題「ビジョナリーカンパニー」) によると、超一流企業に は次のような特徴があるという。 ①強い核となる理念、ビジョンがあり、それが各従業員に徹底している。理念や ビジョンは、単なる金儲け以上の崇高な目的である。 さらに、それを実行するメカニズムとして ・ カリスマ的なリーダーや単発のヒット商品に依存するのではなく、すぐ れたリーダーを養成したり、革新的な商品を開発しつづけるメカニズム がある。 ・ 強い企業文化がある。職員は企業文化に馴染めなければそこでは働けな い。 ・ トップである CEO は、外部ではなく、内部で育成する。 ②核となる理念やビジョン以外のものは、絶えず進化させる さらに、それを実行するメカニズムとして ・ 外部から見たら無謀とも思えるほど高い目標を持ち、組織全体でコミット する。 ・ 多くのことを試し、失敗したらやめて、使えるものを残すという試行錯誤 を恐れない。 ・ 現状に満足せず、絶えず改善する。 つまり、本当に優れた企業は、絶対に変わらない最も重要な理念を強く持つと同 時に、それを実行するためには、個々の戦略や商品は絶えず変化・進化させるとい う、一見矛盾したことを同時に行っているという。 本稿の調査のみにおいて、米国の超一流銀行は、比較対象銀行と比べて同じよう な傾向があるかどうかを検証したり、結論づけたりすることは拙速である。ただし、 これまでの定量調査で判明したように、超一流銀行は収益性において明らかに比較 対象銀行と異なっており、その鍵はどうやら量的・質的な生産性にあるようだ、と いうことはわかっている。より具体的に言えば、超一流銀行の職員は、同じ額の給 料でもよりよく働き、より多く、より質の高い結果を残している。その背景にある 14 New York 通信 第 17-3 号 2006.2.8 ©信金中央金庫 総合研究所 ニューヨーク駐在 メカニズムとして、上記の「ビジョナリー・カンパニー」とも共通した特徴があるこ とは十分に考えられる。 例えば、 「単なる儲け主義ではなく、崇高な理念を持っている」点に関しては、実 際に、超一流銀行のうちのいくつかを取材し、経営者・幹部職員の話をきくと、超 一流銀行は株主だけでなく、他のステークホルダー(利害関係者)も重視した経営 を行っている、という印象を受ける。例えば、超一流銀行であるパーク銀行(106) の経営者は「三脚理論」を重視している。これは、銀行も株式会社である以上、最も 重要なステークホルダーは株主であり、株主価値を最大化することが株式会社の宿 命であることは、銀行であっても逃れることはできない。ただし、超一流企業にと って、利益というのは人間にとっての酸素のようなものである。人間は酸素がなけ れば生きてはいけないが、人間は酸素を吸うことを目的に生きているわけではない。 つまり、企業の場合は、闇雲に利益至上主義に走るのではなく、株主価値は他の3 つのステークホルダー、つまり職員、顧客、地域社会に支えられて成り立っている のであり、その3本の脚のいずれかに問題があれば、高い利益や株主価値は達成で きない、という考えである。 (図1)パーク銀行の「三脚理論」 株主 (利益、高い ROE 等) 職員 顧客 地域社会 これに、これまでの定量分析を踏まえ、さらに、「ビジョナリー・カンパニー」でい うところの、 「核となる理念やビジョン以外のものは、絶えず進化させる」ことも合 わせて考えると、次の図2のようなモデルが仮定される。 銀行として出資者のために高い利益をあげる必要性は言うまでもないが、出資者 の利益を増加させるためには、経営者としては、出資者ばかり見ているわけにはい かない。その他の重要なステークホルダー(利害関係者)である職員、顧客および 地域社会も満足させていくことが重要である。株式会社の場合は、通常は株主が最 も重要なステークホルダーとなるが、経営者としては他の3者を満足させると同時 に、またはその結果として、出資者のための利益の極大化を目指すこととなる。 15 New York 通信 第 17-3 号 2006.2.8 ©信金中央金庫 総合研究所 ニューヨーク駐在 (図2)超一流銀行の成功モデル 職員 ・ 高い忠誠心 ・ 進化する技能 ・ 改善する生産性 経営・メカニズム ・ 経営理念 ・ ガバナンス ・ コスト管理 ・ テクノロジー ・ 組織 ・ 不良債権管理 ・ 高い目標 顧客 ・ 満足度向上 ・ 忠誠心向上 高い ROA ・ 高い金利収入 ・ 低い調達金利 ・ 高い非金利収入 ・ 低い経費 ・ 少ない不良債権 地域社会 ・ 評判が向上 ・ 顧客予備軍 こうしたことから、超一流銀行が成功しているのは、優れた経営技能を持った経 営者がおり、高い経営理念を持つと同時に銀行内に厳密なコスト管理・不良債権管 理のメカニズム等を持っており、さらに職員が力を発揮し、顧客が満足し、地域社 会からよい評判を受けることにより、その結果として高い ROA が安定的に達成され るのではないか、という仮定を立てることができる。先ほど指摘したとおり、超一 流銀行の給与水準が比較対象銀行の職員とほぼ同じでありながら、超一流銀行の職 員の方がより良く働くのであれば、その理由があるはずである。そして、意欲と技 能のある職員が顧客に高いレベルのサービスをすることにより、低い金利の預金が 集まり、高い金利の貸出を行うことができるため、利鞘が大きくなる。また、地域 社会での評判が良ければ、新規に顧客を獲得することができ、または既存顧客との 取引を深めることができるはずである。少なくとも、地域社会に反感を持たれると、 地域金融機関としてのビジネスは相当に困難になるだろう。これらの要素が相互に 関連しあって、最終的に高い ROA になると仮定できる。 よって、本節では、超一流銀行および比較対象銀行について、250 以上の雑誌・新 聞記事および、CEO7などへのインタビューに基づき、上記モデルをガイドラインと して、定性的な違いについて検討することとしたい。 (1) 経営・メカニズム ①経営理念 先述のとおり、真に偉大な企業の秘密を探るコリンズ等の著作「ビジョナリー・ カンパニー」によると、永続的に優れた企業には強い経営理念があるという。果た 7 最高経営責任者。日本で言う頭取、社長、理事長のこと。 16 New York 通信 第 17-3 号 2006.2.8 ©信金中央金庫 総合研究所 ニューヨーク駐在 して、超一流銀行には、比較対象銀行と比較して強い経営理念が存在しているであ ろうか。超一流銀行 14 行のうち、12 行からは何らかの経営理念、経営哲学に関す るものがそのホームページ内の記載から感じられた。主なものは次のとおりである。 超一流銀行 理念・価値観 ケミカル(101) 強靭な財務力、顧客サービス、地元志向 ロングビーチ商工(102) 正直、誠実、コミュニティライフの改善 シチズン(103) コミュニティの見地、地元での意思決定、地区内で の強さ アソシエイト(104) コミュニティに対する卓越した金融サービス 第一金融(106) 倫理、革新、預金者保護、コミュニティと職員重視 パーク(107) 他とは違うサービスの提供 S&T(109) 顧客およびコミュニティの利益、財務上の業績、サ ービスの質、コミュニティの活性 モンロー(110) 正直、誠実、健全な判断 ウエスト(111) 地元志向 アラスカ(112) アラスカ人のビジネスおよび家計を金融的に支援 する 一方、比較対象銀行については、14 行中経営理念・哲学を感じるホームページを 持つ銀行はやや少なく7行であり、その主なものは次のとおりである。 比較対象銀行 メカニクス(202) 理念 独立、同族保有の維持、コミュニティでのリーダー シップ 第一海洋(203) 個人個人への注意、プロフェッショナルな能力 スカイ(204) 顧客とコミュニティをパートナーとして扱う 第一ソース(208) 顧客の富を構築。野心的だが背伸びはしない。 エドワーズビル(209) タイムリーな革新、コミュニティサービス 連邦第三 S&L(214) 愛、信頼、敬意、常に最高を目指す こうした経営理念、哲学などは、文章として存在しているかどうか、などは実際 にはそれほど重要ではなく、またどのような内容の経営理念を持っているか、もさ ほど重要ではなく、実際にどれだけ深く各役職員のマインドに刻みこまれ、行動と して現れているか、が重要である。 例えば、超一流銀行の中での最大手であるフィフス・サード銀行(107)のホームペ ージには、経営理念的なものは強く感じられない。実際、同行のシェーファーCEO は、 「理念より実行。ハッスルするだけ。」という実行力重視のスタイルである(107-1)。 しかしながら、この銀行の役職員はまさにハッスルしてよく働くことで有名であり、 17 New York 通信 第 17-3 号 2006.2.8 ©信金中央金庫 総合研究所 ニューヨーク駐在 実際にデータを見ても、調査対象中最大クラスの銀行にもかかわらず、職員一人当 たりの収入は 329 千ドルと圧倒的に高く、超一流銀行の平均 249 千ドルをも大きく 上回る高い生産性を実現させている。つまり、「ハッスル」という通常では経営理 念とは思えないような概念が実際にはこの銀行の経営理念となっており、それが職 員に企業カルチャーとして徹底しており、実際に結果として高い生産性にあらわれ ている。 一方、比較対象銀行の場合、例えば「コミュニティ」という言葉が経営理念的に 感じられる銀行は表にあるとおりスカイ銀行(204)など3行あるが、監督当局がコ ミュニティに対する公正な融資活動等を検査する地域再投資法(CRA)検査の直近3 回の検査結果で最高位の”Outstanding”の評価を1度でも獲得した銀行はこの 3 行のうち1つもない。一方、超一流銀行の場合、上記表中「コミュニティ」が理念 的に出てくる 5 行のうち、直近 3 回の CRA 検査で最高位を1回でも獲得した銀行は 3 行にのぼり、そのうち 1 行は直近3回のうち3回とも最高位”Outstanding”とな っている。むろん、CRA 検査だけでコミュニティ志向の強さを図れるものではない が、超一流銀行の方が有言実行であり、単に理念をお題目では終わらせない実行力 を持っているように見受けられる。 経営理念をお題目で終わらせないためには、理念を実行に移すメカニズム・制度 が必要である。例えば、超一流銀行の一つであるシチズン銀行(103)は、「コミュニ ティの見地で意思決定をする。」ことを経営理念の一つとしている。同行は単独で 存続しているコミュニティバンクではなく、メリーランド州の中堅銀行グループで あるマーカンタイル持株会社の傘下に入っている。よって、意思決定をする権限は 地元ではなく持株会社が保有しているはずである。にもかかわらず、同行の取締役 会は地元の人々により構成されており、取締役会の意思決定にはよほどのことがな い限りマーカンタイル持株会社が関与することはないという。つまり、「地元の見地」 というビジョンを実行するためのメカニズムが地元の人々による取締役会というメ カニズムを通して機能している。このため、たとえば同行の地区内の主要道路沿い の再開発計画などにも同行は積極的に関与しており、同計画のプロジェクトとして 地方政府に認められたプロジェクトであれば、地域開発を促進するためにプライム レート以下で貸出をすることもあるという。 また、同行は経営理念である「強さ」を実現させるため銀行内の与信文化をきわめ て重視しており、つまり不良債権を出さないことが経営の最重要方針のひとつとな っている。そうした理念を実行するため、例えば同行の与信関連の業務を行ってい る職員はすべて米国リスクマネジメント協会の会員となっており、定期的に月報に よりリスクマネジメントの最新情報を入手したり、同協会主催の研修に参加したり、 同協会が運営する情報端末を利用して、例えばレストラン業界の平均的な利鞘や回 転率などの比率がどのくらいなのか、等の情報を得ることができている。つまり、 18 New York 通信 第 17-3 号 2006.2.8 ©信金中央金庫 総合研究所 ニューヨーク駐在 与信文化を育成するためのメカニズムが同行の中に確立されている。このように、 経営理念を持つことと同時に、それを具体化する制度などのメカニズムが重要であ る。 様々な経営理念があってよいことと同様に、経営理念を実現させるためのメカニ ズムは様々であり、どれが正解、ということはない。例えば、フィフス・サード銀 行(107)の職員がよく働くのは、行内の競争とインセンティブによってである。パー ク銀行(106)の場合は、職員が同行の株式を持っており、銀行と職員が運命共同体に なっているからである。S&T 銀行(108)の場合は、経営者と職員との密接なコミュニ ケーションにより、顧客にサービスする企業文化が組織全体にいきわたっているか らである。必要なメカニズムは、経営理念により異なってくるし、同様の経営理念 の場合でも、銀行の規模や企業文化に応じて異なるメカニズムが機能することも珍 しくない。 ② コーポレート・ガバナンス 先述のコリンズ&ポラス著の「ビジョナリー・カンパニー」の経営理念以外のもう 一つの特徴は、企業を安住させず、進化させるメカニズムがあることである。実際、 超一流銀行においては、コーポレート・ガバナンスを有効に機能させることにより、 銀行の業績を改善・進化させていくメカニズムが見られる。コーポレート・ガバナン スとは、一般的には企業を統治する仕組みのことであるが、より具体的には経営者 が経営判断を誤った場合に、組織としてそれを修正できる、またはそれが深刻な場 合は取締役会が経営者を更迭できる仕組みのことを言う。コーポレート・ガバナンス については、比較対象銀行においてよりも、超一流銀行の方が効果的に機能してい るように見受けられる。例えば、ロングビーチ商工銀行(102)は、1907 年の設立当 初から3代続いていたファミリーの取締役ですら、 2004 年に入れ換えている (102-1) 。 第一金融銀行(105)においては、1991 年から勤めていた CEO が業績不振のため 2003 年 10 月に追放されている(105-1)。同行の取締役会は、新たな CEO を探すために専 門の委員会を設置し、民間のヘッドハンティング会社も利用して適任者を探すこと となった。もっとも、CEO が追放された当時(2003 年9月)の同行の 1.54%という ROA は、その1年前の 1.94%を下回ってはいるが、同規模平均 1.33%と比較すれば 決して低い水準ではない。それでも不十分と見なされてしまうほど、同行取締役会 の経営陣に対する要求水準は高く、スポーツの一流選手と同様に、ライバルは自分 自身であり、自行の過去の業績を上回ることが要求されている、ということになる。 CEO 等の経営者等の更迭などは、しばしば銀行内の内紛として報道され、実際にそ うした側面があることも否めないが、このように高い業績を維持するためには、同 族関係者や過去に成功経験のある取締役やトップですら入れ換えることができるコ ーポレート・ガバナンス体制の確立は、超一流銀行においてより顕著である。 19 New York 通信 第 17-3 号 2006.2.8 ©信金中央金庫 総合研究所 ニューヨーク駐在 銀行グループ内での競争を促進することにより、一種のコーポレート・ガバナンス を働かせている超一流銀行もある。フィフス・サード銀行(107)は、銀行内を 17 の 事業部に分け、各事業部には頭取をおいて、あたかも独立した銀行のように権限を 委譲している。そうした擬似銀行同士は、収益性や経費率などを基準に絶えず競争 しており、成績のよい擬似銀行頭取は報われ、その反対もあるという信賞必罰の人 事制度を組み合わせることにより、内部的なガバナンスを機能させている。同じく 超一流銀行であるシチズン銀行(103)も、同行を含めて 13 行がマーカンタイル銀行 持株会社の傘下に入っており、傘下の子銀行同士は経費率などにより暗に競争をさ せられている。ここでも信賞必罰は働いており、シチズン銀行の前 CEO は、その業 績が認められて、マーカンタイル銀行持株会社のエグゼクティブに昇格している。 銀行であっても企業として絶えず改善を行っていく必要があるが、掛け声だけで 改善が行われるわけではない。改善は変化であり、多くの人々は変化を嫌うことが 普通である。このため、あえて、企業内競争という役職員から見れば不愉快なメカ ニズムを導入することにより、業績の絶え間ない改善が行われている。経営者にと っても、業績が悪化すれば解任されるというプレッシャー自体は不愉快なものであ るが、結果としてそうした適度の緊張感があることにより組織としては業績を改善 させることができる。このようなコーポレート・ガバナンス体制、特に業績を向上さ せるためのメカニズムは、超一流銀行においてより顕著であり、比較対象銀行にお いては、目だった特長とはなっていない。 ③ コスト管理 前節において分析したとおり、超一流銀行の最大の特徴の一つは、経費率が低い ことである。実際、多くの超一流銀行においてコスト意識が徹底している。例えば、 フィフス・サード銀行(107)は低コスト銀行として全米でも有名であるが、その徹底 振りも中途半端ではない。同行の頭取室の家具類は 1968 年当時から変わっていない。 全米トップ 10 クラスの大銀行にもかかわらず、CEO の出張はエコノミークラスであ る(107-2)。同行の質素倹約のカルチャーは今始まったものではなく、長期間かけ て銀行内に浸透したものであり、少なくとも 1970 年代に就任した当時の会長の時代 から継続している(107-3)。同様に、S&T 銀行(108)も数十年前から低コスト体質を 維持しており、低コスト体質は一朝一夕にできたものではないという。また、超一 流銀行の中でも特に業績がよいオハイオ州のパーク銀行では、1953 年から同じ本店 ビルを使い続けている。取締役会が行われる役員会議室も驚くほど質素なものであ る。 シチズン銀行(103)のウィリアムス CEO も、同行の低コスト意識は、企業文化とい えるほど徹底しているという。具体的には、人員を必要以上に増やさないようにし ている。給料水準自体は業界並みかやや上であるが、人数を絞っている。店舗の立 20 New York 通信 第 17-3 号 2006.2.8 ©信金中央金庫 総合研究所 ニューヨーク駐在 地条件も、決して悪い場所ではないが、バンクオブアメリカやコマース銀行のよう な A クラスの立地ではない。また、米国では、支店の営業時間が長めである傾向が あり、平日は5時~7時まで営業している銀行も珍しくないが、同行では支店の営 業時間を平日は9時から2時までとしており、余分なコストをかけていない。また、 シチズン銀行(103)およびパーク銀行(106)では、規模の経済が働くバックオフィス 事務などは持株会社または旗艦銀行に集中させるという、効率化をはかるメカニズ ムができている。 ウエスト銀行(111)においても、銀行の自動車は中古車しか買わない方針である。 米銀の CEO といえば、見晴らしのよい広い部屋を一人で使うのが普通であるが、同 行では CEO の部屋ですら2つに区切って、他の職員に使わせている。机や椅子もオ ークションで購入しているという徹底振りである。役員も少ない人員で多くの仕事 をこなしており、役員の秘書役ですら消費者ローン部門の監督も兼務しているとい う。 パーク銀行(106)においては、毎月 ROA、ROE、預貸金利鞘、経費率、職員一人当 たり当期利益、の5項目を計数管理している。具体的な数値目標を設定しているわ けではなく、常に前の月よりも改善することを目指している。このように、同行で は経費の状況を絶えず経費率として把握し、それを改善させるメカニズムが行内で 機能している。 ただし、超一流銀行は単なるケチではない。先述のとおり、米銀の経費率は収入 に対する経費の割合であり、経費がかかったとしても、その倍以上に収入があれば それでよい。よって、S&T 銀行(108)においては、あえて経費率は経営目標として いない。経費、経費というと役職員が縮こまって、必要な活動も抑制してしまう懸 念があるからである。 一方、数多くの文献調査を行ったが、比較対象銀行において、質素倹約な低コス トカルチャーの特徴は見られなかった。反対に、例えばシチズン銀行(103)の比較対 象銀行である第一海洋銀行では、本店ビルを購入した際に、その年の近隣の最高額 の平均である$160/sqf を大きく上回る$250/sqf で購入している。敢て A クラス物 件の不動産を避けるシチズン銀行(103)と比較するまでもなく、第一海洋銀行が行っ ていることからは低コスト意識はまったく感じられない。 ④ テクノロジー 超一流銀行が絶え間ない進化と改善を目指すのであれば、常に最新のテクノロジ ーを導入しているように考えてしまうが、実際には、テクノロジーの導入について は、超一流銀行と比較対象銀行との間で顕著な違いは見られない。超一流銀行のグ ループ、比較対象銀行のグループとも、特定の銀行がテクノロジーの導入に熱心で あるという特徴はある。例えば、コンプライアンス関連のソフトウェアの導入、事 21 New York 通信 第 17-3 号 2006.2.8 ©信金中央金庫 総合研究所 ニューヨーク駐在 務効率化のためのイメージング技術の導入、インターネットバンキングの導入など は、超一流銀行であるアラスカ第一銀行(111)、比較対象銀行であるメカニクス銀行 (202)などが熱心に行っている。しかしながら、両グループを全体として比較すると、 顕著な特徴は見られない。よく言われるとおり、テクノロジー自体で差別化を行う ことはできず、いかに使うか、つまりその銀行の戦略をいかに効率的に実行するた めに利用するものであり、テクノロジー自体で差別化を行うことは、少なくとも銀 行業界のような成熟産業では難しいと言えるだろう。 ⑤ 組織 組織形態等についても、超一流、比較対照銀行間で明確な関係は見られない。た だし、超一流銀行は、14 行中 7 行が複数銀行持株会社の一員であるのに対し、比較 対象銀行ではそれは 2 行に留まる。複数持株会社の傘下に入っていると、コンピュ ータシステムや事務処理などは本部の持株会社または旗艦銀行が行い、各子銀行は 身軽になって、営業に特化できるというメリットがある。各子銀行は、親である持 株会社に対して、事務処理などに関して委託手数料を払うことが普通であるため、 経費がまったくかからなくなるわけではないが、かなり軽減させることはできる。 それでは、複数持株会社に所属していれば経費率を下げることができるか、という と必ずしもそうではない。比較対象銀行のうち、複数銀行持株会社傘下であるスカ イ銀行(204)の経費率は 63%、チャーターワン銀行(207)は 60%と、悪くはないが、 全金融機関の平均である 58%と比較して特別低いわけでもない。一方、複数持株会 社に属してない銀行もいくつかあるが、超一流銀行のウエスト銀行(110)の経費率は 31%、ワシントン連邦 S&L(113)は 19%となっており、非常に低い経費率となってい る。こうしたことから、実際には、持株会社所属銀行数と経費率を回帰分析しても 有意な結果は見られず、複数銀行持株会社に属していれば、自動的に経費率が低く なり、超一流銀行になれる、というわけではない。ただし、複数持株会社に所属し ていれば、経費削減だけでなく、姉妹銀行の成功事例の学習効果や、姉妹銀行同士 の競争により生産性が上がることは十分に考えられ、計量的に立証することは難し いものの、超一流銀行に複数銀行持株会社傘下の銀行が多いことは偶然ではない可 能性はあるだろう。 なお、銀行の所有形態については、超一流・比較対象銀行とも、大部分の銀行は 株式会社形態であるが、ボルチモア市の貯蓄金融機関であるローズデール S&L(114) もブラッドフォード銀行(214)も株式会社ではなく、協同組織的な相互会社形態の金 融機関である。つまり株式会社形態であっても、相互会社形態であっても、超一流 になることもあれば、ならないこともある。 すなわち、組織だけを見ても、超一流銀行と比較対象銀行には明確な違いは見ら れない。組織の外見的な部分だけで成功できるのであれば、真似をしてどの銀行も 22 New York 通信 第 17-3 号 2006.2.8 ©信金中央金庫 総合研究所 ニューヨーク駐在 同じ組織になっているはずであり、組織形態のみで真に優れた銀行となることは困 難であると言えよう。実際、米国の多くの銀行はフィフス・サード銀行(107)のよう に各事業部や子銀行に権限を委譲した分権的な組織を真似しようとしているが、実 際にうまくいっている銀行はさほど多くない。 ⑥ 不良債権管理 先述のとおり、好調な米国経済を反映して、データを全体として見る限りにおい ては、超一流銀行、比較対象銀行ともに不良債権は少ない。健全な金融機関として 不良債権は少ないのが当然であり、資産の健全性は超一流としての条件以前の問題 である。ただし、より深く見ていくと、超一流銀行においては、特に資産の質を重 視しているように見受けられる。 たとえば、シチズン銀行(103)のウィルソン CEO によると、同行では次のような審 査管理体制を徹底させている。 ・ 審査のコツは、信用履歴などのこれまでの返済状況、自己資本、収入、キャッ シュフローで決まる。担保ではない。担保に依存して金を貸していたら大変な ことになる。当行では、信用リスク管理が徹底している。 ・ 当行の与信管理のコツは次のとおり ①カルチャーが大事である。行員が強い与信カルチャーを持っていること。 ②実行時の審査を徹底する。当行のローンオフィサーの多くは 20 年以上の経験 を持っている。企業向け貸付については、彼らが1件1件審査しており、ク レジットスコアリングは当座貸越以外では今は使っていない。いずれ、金額 が小さい案件はクレジットスコアリングで処理することになるだろうが、あ る程度以上のものは機械化しない。 ・ 250 千ドル以上の事業貸付は毎年レビューをしている。年に1回以上は顧客と 会っている。会っていれば、セールスの機会もある。 ・ 2003 年にウィルソン氏がこの銀行の CEO になったときに融資推進部と審査部 を分けた。推進を行わない審査専門の部長を雇った。当行は、13 億ドル(約 1,400 億円)の規模になったが、銀行は 10 億ドル(1,100 億円)規模になると、 チェックアンドバランスの観点から、融資推進部門と、審査部門を分けるべき という考えに基づいている。 ・ ウィルソン CEO 自身、20 年間米国リスクマネジメント協会の会員となってい る。以前は会長でもあり、今でも理事をしている。また、先述のとおり、同行 のローンオフィサーなど与信に関するオフィサーはすべてこの協会の会員と なっている。また、同協会の研修制度も利用している。 同じく超一流銀行である S&T 銀行(108)においては、融資委員会のメンバーがこ こ 10 年はほとんど変わっていないため、地域の経済や顧客のことをよく知っており、 23 New York 通信 第 17-3 号 2006.2.8 ©信金中央金庫 総合研究所 ニューヨーク駐在 リレーションシップバンキングによる営業だけでなく、顧客を知ることによる与信 管理も徹底している。 一方、比較対象銀行においては、シチズン銀行(103)のような徹底した与信カルチ ャーは感じられない。例えば、スカイ銀行(204)では、2005 年に入ってからノンバ ンクへの貸出が焦げ付いて不良債権が増加し、収益を悪化させている(204-1)。第 一ソース銀行(208)でも、航空関連業界への貸出が問題となっている。 (208-1,208-2) 金融機関にとって不良債権は大問題である。どの銀行でも、融資方針(ローンポリ シー)や融資委員会を持ち、多くの銀行では独立した審査部を持っているが、それ でも銀行により資産の質には差が出ている。最終的には、 「人」の部分、つまり不良 債権を許さない企業文化がどこまで徹底しているかが鍵となっている。 (2) 職員満足・企業文化 職員満足度が高いほど、顧客満足度は高くなり、企業の生産性が高くなることは 容易に想像がつき、また実際に多くの調査等により立証されている8。さらに、「ビ ジョナリー・カンパニー」においても、強い企業文化は超一流企業の大きな特徴とし て紹介されている。先ほど紹介した三脚理論の中でも、特に卓越したサービスには 職員の役割が不可欠であると考えられている。 例えば、顧客重視の企業文化を重視している超一流銀行の S&T 銀行(108)では、満 足した職員は顧客に対して正しい対応を行い、それが利益につながり、それが職員 に報いる源泉となり、そのサイクルがさらに繰り返されると考えられている。この ため、同行では、外部の研修業者のプログラムを利用して 2004 年だけでも 1.2 万時 間にもわたる研修を実施している。それだけでなく、S&T 銀行は、顧客重視の企業 文化を非常に重視しており、その企業文化をさらに強くするために次のような実践 を行っている。 ・ 毎年1月に行う全職員参加の会合により、銀行全体の前年の実績、今年の戦略や 目標を理解する。また、顧客重視の企業文化を再確認する。 ・ 毎四半期、職員向けにニューズレターを出している。(CEO からのメッセージ、 顧客からの手紙、よい仕事をした職員を褒める、新商品のプロモーション、コン プライアンス関係の情報、地元のニュースなどが満載されている。) ・ CEO が2か月に 1 度、各分野の職員と円卓会議を行い、現場の声を聞くと同時に、 経営方針を再確認させる。 ・ 卓越した顧客サービスをした職員には、CEO から直接感謝・激励のメールが来る。 ・ 行内のイントラネットで各部門の方針や戦略が全職員に開示されている。 8 青木 b〔2005〕 24 New York 通信 第 17-3 号 2006.2.8 ©信金中央金庫 総合研究所 ニューヨーク駐在 ・ 職員提案制度(提案が採用されれば 10 万円相当のボーナスが出ることもある。採 用されなくても、同行のロゴ入りシャツなどの割引券がもらえる。)があり、一 日平均2~3件程度の提案があるという。 ・ 全職員を対象にストックオプションが支給される。 このように、同行では、最高の顧客サービスという経営理念を実行するための、 多くのメカニズムが機能している。 ただし、ユニークな人事戦略だけで超一流銀行になれるわけではない。強い企業 文化は重要であるが、それだけでは十分ではない。このため、独特の人事戦略をと っている銀行が必ずしも収益性が非常に高いわけではない。文献調査によると、調 査対象 28 行の中で、最もユニークな人事戦略を実行しているといえる銀行は、超一 流銀行ではなく、比較対照銀行であるクリーブランド第三連邦 S&L(213)であった。 同行は、大手ビジネス雑誌フォーチュン誌による、「米国で最も働きやすい企業 100 社」に 2004 年まで4年連続でランキングされている(213-1)。これは銀行だけでな く全企業を対象にした調査であり、ランキング 100 社中、金融機関は毎年わずか数 行程度であり、同行がいかに職員に配慮した金融機関かがうかがえる。 例えば、同行の職員が住宅を購入する際には同行が頭金約 20 万円相当を補助し、 また住宅ローンも市場金利より 1%ポイント低い金利で融資を行う。設立以来レイ オフ(景気循環や戦略上、人員が不要となった部門の閉鎖や縮小等に伴う解雇)を 行ったことはなく、例えば住宅ローンの需要が減退した場合は住宅ローン担当者で も他の仕事をやらせることにより、レイオフを避けている。(こうした低需要対策 は終身雇用制度の日本では普通だが、米国の場合は必ずしも一般的ではない。)さ らに、同行の職員が評価している点は、目に見えない雰囲気的な部分も含まれてい る。同行は働き易い職場とするため、社内政治や官僚的な雰囲気を排除し、チーム ワークを重視した企業文化を重視している。また、楽しい職場にすることも重視し ており、役職員全員でパーティーをすることも多く、会場では同行のロックバンド による演奏があるが、そのキーボードを演奏しているのは CEO 自身である。さらに、 ある職員がギリシャへの家族旅行中に父親を病気で亡くすと、遺体をギリシャから 米国に搬送する費用などを送金し、その後米国で行われた葬儀には 100 人もの同僚 が参加したという(213-2)。こうした逸話が行内でも語り継がれ、その企業の強い 文化を醸成している。このような制度面、目に見えない雰囲気の面などが総合的に 合わさって、その企業の文化・共通の価値観が醸成される。これにより、役職員は この銀行を愛し、熱心に働くことになる。 この第三連邦 S&L(213)の取り組みは非常に興味深いものであり、本稿における比 較対象銀行が決して失敗銀行ではなく、平均的かそれ以上の銀行であることを示す 好例である。しかしながら、本稿が最も重視している ROA においては、グラフ7に 25 New York 通信 第 17-3 号 2006.2.8 ©信金中央金庫 総合研究所 ニューヨーク駐在 あるとおり、連邦第三のユニークな人事戦略がフォーチュン誌に注目されはじめた 2000 年以降に注目すると、超一流銀行であるワシントン S&L(113)が 2%前後の高い ROA を維持しているのと比べ、連邦第三(213)の ROA は 0.5%前後を推移しており、 極端に低いわけではないが、1%前後で推移している業界平均よりも低い。超一流 銀行であるワシントン S&L に関しては、独特の人事戦略や企業カルチャーがある、 といった記事の類は見つからず、よって、職員にとって働きやすい職場だけでは、 超一流銀行になることはできないという現実を示唆している。実際には、連邦第三 (213)S&L の ROA が低い最大の理由は、資金調達を高金利の譲渡性預金に依存してい るためであり、職員の意欲が高かったとしても、金融機関にとっての原材料費が他 行よりも著しく高いのであれば、高い収益性を得ることはできない。 (グラフ 7) 連邦第三とワシントンおよび大型 S&L 平均の ROA(%)の推移 ROAの比較 3.5 3 2.5 2 1.5 1 0.5 連邦第三 ワシントン 20 04 20 03 20 01 20 02 19 99 20 00 19 98 19 97 19 96 19 95 19 94 19 93 19 92 0 同規模平均 ただし、これだけを持って、銀行の収益性にとって職員満足や意欲は重要ではな い、と結論付けるのは早計である。超一流銀行の中でもパーク銀行(106)は特に安 定的に ROA が高く、1992 年~2004 年の 13 年間のうち、ROA が 1.5%を下回ったこと は一度もなく、13 年間の平均 ROA は2%をも超えている優良銀行である。同行のト ラウトマン頭取によると、同行成功秘訣は、「職員の責任感」である、とのことで ある。同行では、職員が同行の持株会社の株式を持つことを奨励している。さらに、 同行の年金制度である 401k 制度では、 例えば職員が$10 の拠出金を積み立てれば、 銀行は$5 分の同行持株会社の株式を積立てる。さらに、幹部職員にはストックオプ ション制度がある。このため、同行の職員は単なる従業員ではなく、同行の持ち主 でもある。このようにして同行持株会社の株式の 15%は職員等により保有されてい る。職員からすれば、財産の相当程度を勤め先の銀行の株式に投資しているため、 まさに職場と運命共同体になる。このため、普通の職員ではしないことでも、する ことをいとわない。例えば、同行には日本で言う定期積金のサークルのような高齢 26 New York 通信 第 17-3 号 2006.2.8 ©信金中央金庫 総合研究所 ニューヨーク駐在 者顧客向けの預金サークルがあり、時々旅行に行くこともある。その際、同行の職 員が顧客である高齢者を家から空港まで車で送迎することも珍しくない。これは無 給の自発的な行動であり、銀行の命令で行っているわけではない。コスト管理にし ても、銀行で無駄があれば、自分の保有する株価が下がることにもつながるため、 職員も無駄遣いなどもしないという。 さらに、パーク銀行(106)では、部長クラス以上のボーナスは、同業他社、具体 的には、持株会社ベースで総資産 30 億~100 億ドルの銀行持株会社の平均をベンチ マークにしている。例えば、同行の ROE が 18%、同業他社平均が 13%だとすると、 その差に応じてボーナスが支払われるような仕組みになっている。こうした仕組み により、同行の職員は良く働き、高い生産性を維持している。この仕組みは 44 年前 に導入したが、同行の利益は 42 年間増え続けているため、かなり業績に影響を与え ていると考えられる。さらに、パーク銀行のように成功している銀行においては、 職員の間にいわゆる「勝ち組」意識が芽生えてくる。あたかもニューヨークヤンキ ースの一員のように、常に勝っているチームに所属していると、メンバー間にプラ イドと連帯感が生じてきて、それがさらに高い勤労意欲に繋がっている。 また、超一流銀行であるフィフス・サード銀行(107)では、職員同士の競争を促進 することにより、セールス志向の強い企業文化をつくっている。例えば、支店長レ ベルでは、目標は預金増加、貸出増加、手数料収入、利益の4項目がある。四半期 ごとに評価して、だれが4目標全てを達成したか、誰が3目標達成したか、などを 社内で公開している。業績に応じてもらえるインセンティブ給を誰がいくらもらっ たかもわかるようになっている。また、業績トップのマネージャーは南国の島への 4日間の旅行に招待される。さらに、各組織の低い階層にまでそれぞれの損益計算 書があり、各自が損益に責任を持っている。個人の営業目標は常に高く、昨年より も今年、今年よりも来年は目標が高くなるストレッチ方式にしている。ただし、目 標を達成すればそれに見合うボーナスはきちんと得られるため、職員もあきらめず に努力する。一般に「飴とムチ」と言われるとおり、職員のボーナスは利益の成長 に連動しており、例えばテラーがクレジットカードの新規顧客を担当者に紹介した らボーナスがもらえるようになっている。 一方、平均よりも成績の悪い職員には改善勧告が行われる。それでも改善しなけ れば、組織の他の部署に行くことになるか、組織の外に出ざるを得なくなるであろ う。このようにしてできあがった企業文化は、極めてセールス志向の強い、いわゆ るセールス・カルチャーであり、職員が使用しているパソコンのスクリーンセーバ ーなどには、 「あなたは今日は何を売りましたか?」という言葉が入っている(107-4)。 こうした、フィフス・サード銀行のセールス志向の厳しい企業文化は、業績があれ ば報われるため、意欲的で、セールスが好きな職員にとってはやりがいのある職場 になるだろうが、必ずしも多くの人にとって快適で「働いてみたい企業 100 社」で 27 New York 通信 第 17-3 号 2006.2.8 ©信金中央金庫 総合研究所 ニューヨーク駐在 はないかもしれない。このように、超一流銀行は誰にとっても理想的な職場、とい うわけではない。 また、定量面で検証したとおり、超一流銀行の給与水準は、比較対象企業と大き く異なるわけではない。例えば、シチズン銀行(103)では、毎年外部の業者を利用し て、競合他行等の給与水準を調査している。同行では、少なくとも他行水準並みの 給与は支払うことを職員には約束し、さらに業績の高い職員にはプラスアルファの インセンティブ給(歩合給)で報いている。つまり、職員からすれば、同行の給与 水準は必ずしも高いわけではないが、公正な水準であり、経営側から搾取されない という安心感がある一方、業績を上げればさらに収入が増えるというモチベーショ ンも維持できるメカニズムとなっている。一方、銀行から見ても、少なくとも必要 以上の人件費をかけることはなく、またインセンティブ給を払う場合は銀行自身に も収入が増えている時なので、損をしているわけではない。こうしたメカニズムに より、同行の離職率はかなり低いという。 このように見ると、職員満足が高い業績につながる、ということは考えられるが、 すべての人が超一流銀行に入行すれば職場に満足して高い業績を上げられる、と考 えることは拙速であろう。コーポレート・ガバナンスの項でも指摘したとおり、超一 流銀行は絶えず改善・進化・変化が要求される。自らを進化させることができなけれ ば、要求水準の高い超一流銀行の職員は務まらないだろう。ただし、組織としての 方向性と、それを実現させる職員の方向性が一致しているのであれば、組織全体と して高い実績を上げることが可能であり、それを実現させているのが超一流銀行と いえるだろう。 (3) 顧客満足 ①高い利鞘 定量分析の章で指摘したとおり、比較対照銀行と比べ、超一流銀行は利鞘の幅が 大きい。つまり、預金の金利は低く、貸出の金利は高い。特に、調達利回りが有意 に低くなっている。これは、顧客基盤が磐石で、サービスレベルが高いため、顧客 が金利収入を犠牲にしてでもその銀行と取引をしようとするからである。例えば、 超一流銀行であるシチズン銀行(103)は、歴史のある銀行であり、顧客サービスを含 めた顧客基盤がしっかりしているため、無利息の当座預金は低金利の貯蓄預金等の 割合が高く、金利の高い借入金や大口 CD に依存する割合が少ない。同行の当座預金 などの無利息預金の預金全体に対する割合は 30%と、同規模平均の 18%を大きく上 回っている。結果的に、同行の 2004 年 12 月末時点での調達利回りは 0.88%と、同 規模全米平均の 1.39%を大きく下回っていることから、同行の利鞘は 4.36% (5.24%-0.88%)と、同規模全米平均の 3.99%(5.38%-1.39%)を大きく上回っ ており、これが同行の高い ROA の最大の源泉となっている。一方、シチズン銀行(103) 28 New York 通信 第 17-3 号 2006.2.8 ©信金中央金庫 総合研究所 ニューヨーク駐在 の比較対照銀行である第一海洋銀行(203)の総資金利鞘は 3.67%(5.63%-1.96%) と同規模平均よりも低く、高金利の貸出は行っているものの営業基盤が弱いため、 低コストのリテール預金では調達しきれずに、大口預金や借入金などによる高金利 の調達を行っており、利鞘を圧縮させている。また、先述のとおり、連邦第三 S&L (213)はせっかくユニークな人事戦略を持っていても、調達利回りが 2.83%と高 く、利鞘は 2.09%と薄いため、ROA が低くなっている。 ②顧客サービス このように、高い利鞘をもたらす要因の一つが高い顧客満足である。超一流銀行 でも、比較対象銀行でも、顧客サービスについては特に留意しているはずであるが、 先の定量分析において、超一流銀行の預金は無金利の当座預金の比率が比較対照銀 行よりも高いことは、超一流銀行の顧客サービスが比較対照銀行のサービスを上回 っており、これにより銀行業務の基本ともいえる決済性口座をより多く獲得してい ることを示唆している。一般に、米国の銀行はコア預金と呼ばれる当座預金などの 決済性の口座や比較的金利の低い貯蓄性の口座、さらには小口の定期性の CD により まず預金を集めようとし、コア預金では集まり切れない部分について、ブローカー またはインターネットを利用した大口の CD や借入れにより調達を行う。ただし、大 口 CD や借入れは金利が高いため、連邦第三 S&L(213)のように金融機関の収益を 圧迫することとなる。つまり、顧客サービスがよく、低金利のリテール預金や法人 の決済性預金が多く集まっている銀行ほど調達コストが低くなる。また、言うまで もなく中小企業向け貸付におけるリレーションシップバンキングにおいては、銀行 の顧客サービスのレベルが競争力の鍵となる。 超一流銀行の多くは、顧客サービスを特に重視している。シチズン銀行(103)のウ ィルソン CEO は、銀行経営の秘訣は、資産の質、コスト管理、顧客サービスおよび コミュニティサービスという。ウィルソン CEO は、顧客との関係を重視しており、 同行と取引のあるトップ 50 の企業の経営者とは常日ごろから顔見知りであり、電話 や食事によりコミュニケーションを図ったり、一緒にゴルフを楽しむことも珍しく ない。CEO だけでなく、各職員の一般的な顧客サービスについても、研修プログラ ムを利用してサービス向上に努めている。例えば、PRIDE というサービスレベルの 基準を設定し、それを達成することを目標としている。同行の PRIDE 制度によると、 例えば顧客から好意的なレターを受け取った職員には$10 ドル分のポイントがたま り、例えば$25 分までたまると、カタログを見てシャツなどと交換することができ る。PRIDE は、Put the customers first(顧客第一), Remain positive, honest and professional(前向き・正直・プロフェッショナル), Interact caringly, openly, and responsively(オープンなコミュニケーション), Deliver superior service(顧 客サービス), Expect superior teamwork and mutual respect(チームワーク)の 29 New York 通信 第 17-3 号 2006.2.8 ©信金中央金庫 総合研究所 ニューヨーク駐在 略である。また、ミステリーショッピング(顧客のふりをした本部側のスパイ)に より支店のサービスレベルをチェックさせることにより、サービスレベルを検証し ている。 パーク銀行(106)は、成功の鍵として、コミュニティサービス、卓越した顧客サー ビス、経費管理と、職員による持株(インセンティブ)をあげている。顧客サービ スについては、例えば、同行のインターネットのホームページには、同行 CEO への 直通電話の番号が記載されている。顧客であれば、誰でも気軽に CEO にでも話がで きる、ということは小型のコミュニティバンクであればさほど珍しくもないが、同 行のように、連結ベースで 6,000 億円を超えるような大規模の銀行グループの CEO で直通電話番号を公開していることは珍しい。 S&T 銀行(108)は顧客の一人ひとりのニーズに応じたサービスを提供することを重 視している。このため、同行では、外部の業者を利用して顧客ニーズを理解するた めの1年間にわたる研修を実施し、顧客ニーズを発見してそれを解決する商品を提 供することができるようになった。具体的には、あらかじめ顧客に個人的なことを 聞いていいかどうか許可を得たうえで、家族構成や引退する時期などを聞き、それ に応じて商品ではなく、ソリューション(顧客が持っている問題の解決法)を提供 するように心がけた。これにより、前年の 1.5 倍もの数の口座開設や貸出を実行す ることができるようになったという。同行のリテール担当役員によると、そもそも その業者を選んだきっかけというのは、同行が業務で使う小切手を発注していた小 切手メーカーの顧客サービス担当の受け答えが非常に優れており、どのようにして 職員を教育したのか、その小切手メーカーに尋ねたところ、ある研修業者による研 修プログラムのおかげ、ということであったので、その業者の研修プログラムを導 入した、ということである。このように、超一流銀行には、業界内に限らず、絶え ず自行を改善するきっかけを注意深く探しており、絶え間ない改善の努力を怠って いない。 アラスカ第一銀行(111)も顧客とのリレーションシップに基づいたバンキングを 志向している。CEO であっても、顧客と直通の電話があり、しかもそれは音声によ る対応ではなく、本人が直接対応する。 もっとも、比較対照銀行の名誉のために弁明すると、彼らが顧客志向ではないわ けではない。バナー銀行(211)の CEO も直接顧客に会うことが多いという。第一ソー ス銀行(208)は、中小企業庁のローンプログラムを利用して、信用力の低い顧客でも リレーションシップバンキングを行おうとしている。ただし、比較対照銀行には、 顧客とのリレーションシップや顧客サービスが十分ではない、または課題を持つ銀 行も少なくない。比較対照銀行のうち第一信託銀行(201)は顧客と職員との関係が 満足のいくものではないため、改善するためのコンサルタントを雇っている(201-1) 。 ユニザン銀行は(206)は預金の 53%を定期性の CD に頼っており、預金コストが高く 30 New York 通信 第 17-3 号 2006.2.8 ©信金中央金庫 総合研究所 ニューヨーク駐在 なっていることから、コンサルタントを雇って改善を目指していた(206-1)。こうし たことから、やはり顧客サービスの充実により低コストのリテール預金を集めるこ とは、超一流銀行の方が比較対象銀行よりも上手にできている。 ③ 商品性 銀行が扱う商品は真似をすることが容易であり、各銀行においてそれほど大きく 異なることはない。ただし、注意深く見ていくと、超一流銀行の方が、比較対象銀 行に比べると、非伝統的な新しい商品にも積極的な傾向が見受けられる。例えば、 フィフス・サード銀行(107)とチャーターワン銀行(207)はいずれも中西部の大型 地銀であるが、職員一人当たりの 2004 年の投信等販売手数料で見ると、前者(107) が 12 千ドル、後者(207)は 1.2 千ドルと、超一流銀行であるフィフス・サード銀 行が 10 倍の手数料を稼いでいる。 このほか、パーク銀行(106)は健康医療貯蓄口座を他行に先駆けて導入している (106-1)。S&T 銀行ではビジネスの柱を個人向け銀行業務、法人向け銀行業務、保 険、プライベートバンキングの4つと位置づけており、手数料収入の強化に力を入 れている。保険業務については、同行の企業文化にあったカルチャーを持つ保険代 理店を買収して拡大している。富裕層向けのプライベートバンキングについては、 大手銀行のフリート銀行から専門家を招聘し、担当役員のポストに据えている (108-1)。さらに、S&T 銀行はフィデリティ社のレコードキーピングシステムを利 用して、中小企業の顧客に対して確定拠出年金(401k)も提供している(108-2)。同 行は規模的には連結ベースで総資産 3,300 億円規模の中堅銀行ながら、商品の品揃 えは大銀行並みとしている。また、グリーン・プラン口座という貯蓄預金においては、 金利がフェデラル・ファンドレート(日本でいう無担保コール翌日もの金利に相当) に連動し、連銀が FF 金利の誘導目標を 0.25%上げると、その口座の預金金利も 0.25%上げることとしており、好評を得ている。 超一流銀行と比較すると、比較対象銀行にはそうした動きは少なく、商品性の充 実、という質的側面よりも、規模の拡大という量的側面を重視しているように思え る。比較対象銀行のメカニクス銀行(202)はその中では投資信託の販売に熱心な銀 行であるが、同行でも一般のセールス担当者は、預金が減ることを恐れて投資信託 の販売に熱が入らないという (202-1) 。実際、同行の職員一人当たり投信等販売手 数料はわずか 0.4 千ドルと、フィフス・サード銀行(107)のわずか 30 分の1である。 ただし、同行が預金流出を恐れて投信を販売することに躊躇している間に、顧客は 他の銀行や証券会社から買ってしまう可能性の方がむしろ高いのかもしれない。 先述の「ビジョナリー・カンパニー」においても、超一流企業は、試行錯誤を恐れず、 新しいことにとりえあえず挑戦して、成功すれば続け、失敗すればやめるだけの行 動力を持っている。どうやら、この傾向は超一流銀行にも言えそうである。 31 New York 通信 第 17-3 号 2006.2.8 ©信金中央金庫 総合研究所 ニューヨーク駐在 (4) コミュニティへの評判等 合併・支店設立などの拡大戦略は、本来であれば企業を成長させる戦略であるので、 経営・メカニズムの一環であるが、銀行の場合は特に地元のコミュニティへの影響 が強いため、本節では地元コミュニティの観点から主に銀行の買収等についてみて みることとしたい。 先述のとおり、超一流銀行よりも比較対照銀行の方が総資産の成長率は高い。買 収にしろ、新規支店設立にしろ、比較対象銀行の方が支店網拡大には熱心である。 2004 年時点で、比較対象銀行の平均店舗数は 97 店舗と、超一流銀行の平均の 71 店 舗を大きく上回っているが、総資産規模にすると比較対象銀行が 6,655 百万ドル、 超一流銀行は 6,951 百万ドルと、規模的には超一流銀行の方がやや大きい。このた め、一店舗あたりの総資産にすると比較対象銀行 68 百万ドル、超一流銀行 97 百万 ドルと、超一流銀行の方が 40%以上も大きくなっている。つまり、超一流銀行は効 率的に支店設置を行っている一方、比較対象銀行は成長を優先するため、数で勝負 している傾向が伺われる。新聞・雑誌記事などにおいても、超一流銀行の場合は、 銀行の戦略に関する内容が多いのに比べ、比較対照銀行に関連する記事は、支店設 立による新しい市場への進出や、他銀行の買収のニュースが多い。 ・ケース1:フィフス・サード銀行(107)とチャーターワン銀行(207) 他銀行の買収については、米国ではごく一般的な成長戦略の一つであり、比較対 照銀行、超一流銀行とも、積極的に行っている銀行は少なくない。フィフス・サー ド銀行(107)も、その直接の比較対照銀行であるチャーターワン銀行(207)も、基 本的には買収を中心に成長してきた銀行である。ただし、買収に関する考え方は、 両者において著しく異なっている。フィフス・サード銀行(107)は、比較的小規模の 金融機関を買収し、原則的にはその銀行の経営陣には引き続きその銀行の経営を行 わせるが、同時に高い業績目標を課し、その一方でフィフス・サード銀行全体のノ ウハウや資源を投入し、同行の強いセールス志向、コスト削減努力などを買収した 銀行に徹底させ、同行全体のビジネスモデルや企業文化を崩さないように注意しな がら拡大・成長を続けている(107-5)。つまり、同行にとっては、買収や規模の拡大 そのものが目的ではなく、収入の増加と効率性の向上が合併の目的となっている。 実際、同行のシェーファーCEO の考えでは、銀行にとって成長することは利益をあ げていくうえで重要である一方、銀行は規模が大きくなるほどリスクが高くなるこ とに留意する必要があり、同行は規模自体を経営上の目標とはしていないという (107-3)。一方のチャーターワン銀行は、ひたすら規模を拡大することを志向して いた。例えば、1997 年当時の会長は、同行は「市況のよい今のうち、1年以内に他 の銀行を買収しなければならない。」というプレッシャーを感じていたようである 32 New York 通信 第 17-3 号 2006.2.8 ©信金中央金庫 総合研究所 ニューヨーク駐在 (207-1)。また、1998 年当時の同行は総資産約 1.5 兆円規模であったが、同行の経 営者は買収により1年以内に規模を2倍の3兆円相当にしたがっていたという (207-2)。同行の拡大志向に感じられることは、フィフス・サード銀行(107)のよう な戦略性ではなく、単に規模的に大きくなりたいという願望である。このようにひ たすら規模を拡大することに集中した買収戦略を取っているため、チャーターワン 銀行(207)の買収にはトラブルも付きまとっている。例えば、1999 年に同行がシ カゴのセントポール銀行を買収しようとしたときは、セントポールの筆頭株主が合 併に反対し、そのニュースがプレスリリースされると、合併は反故になったと誤解 され、セントポールの株が売られるという市場の混乱もあった。結局はセントポー ル銀行はチャーターワン銀行(207)に買収されたものの、強引な買収をしようとし た、という印象は否めない。また、1998 年に同行がニューヨーク州のアルバンクを 買収しようとした際には、ニューヨークの市民団体が反対し、監督官庁である連邦 準備銀行に対し、買収を認めないように申し立てている(207-3)。その市民団体の 意見では、当時のチャーターワン銀行(207)は、黒人等のマイノリティからの貸出 の申込みを、白人からの貸出申込みと比較して3倍多く却下しており、同行は進出 しているいずれの地区においても、白人への貸付の割合が黒人への貸付の割合を上 回っていたという。さらに、買収されるアルバンクは 1997 年の地域再投資法(CRA) 検査で不合格の水準であった。このため、問題のある銀行が問題のある銀行を買収 して、問題が大きくなるだけ、ということが市民団体による反対の理由であった。 最終的にはこの買収も成立しているが、評判リスクを考えると、買収後の地元での 業務展開は障害がなかったとは言えないだろう。(なお、チャーター・ワン銀行は、 その後 2004 年にイギリスのスコットランド・ロイヤル銀行グループに買収され、再 スタートを切っている。 ) ・ケース2:第一海洋銀行(203)の敵対的買収の挫折 チャーターワン銀行(207)に限らず、比較対象銀行の買収には何らかのトラブル がついてまわることが、超一流銀行の場合に比べて目に付く。例えば、第一海洋銀 行(203)は 1998 年にグレン・バーニー銀行に対して敵対的買収を行おうとした。米 国では銀行の買収が多い、といっても通常は買収銀行・売却銀行の同意の上で行う友 好的買収であり、金融機関の場合は敵対的買収は珍しい。まず第一海洋銀行(203) はグレン・バーニー銀行の株式の約 20%を購入し、第一海洋銀行寄りの取締役を選 任させようとしたが、否決された。グレン・バーニー銀行は第一海洋銀行等を提訴し、 買収から逃れようとして対抗した。この敵対的買収劇は2年間にわたる争いとなり、 地元のマスコミもワイドショー的に取上げ、監督官庁である連邦準備銀行も異例の 出来事として、慎重に審査するところとなった(203-1)。結局のところ、グレン・ バーニー銀行が約6千万円相当のプレミアム付きで第一海洋銀行が保有する株式を 33 New York 通信 第 17-3 号 2006.2.8 ©信金中央金庫 総合研究所 ニューヨーク駐在 買取ることを見返りに、第一海洋銀行は敵対的買収を断念することで合意すること となった。第一海洋銀行としては、6千万円相当の悪くない収益を得たことにはな るが、地元での評判リスクを考えると、必ずしもプラスではないだろう。 ・ケース3:ユニザン銀行(206)とパーク銀行(106) 比較対象銀行の一つであるユニザン銀行(206)は、ユナイテッド銀行とザンスビ ル銀行が 2002 年に合併してできた銀行であるが、合併後は収益も低迷し、2004 年 1月に同じオハイオ州のハンティントン銀行に買収されることが発表された。しか しながら、この買収も一筋縄ではいっていない。ハンティントン銀行自体に会計ミ ス問題が浮上し、証券取引監視委員会(SEC)からの監視が強まっている結果、2004 年上期中に終了するはずだった合併は、2006 年1月まで延期されることとなった。 そうしている間にもユニザン銀行からは職員の流出が続き、内部管理体制に問題が 噴出しているという問題が内部監査で明らかとなっている(206-2)。 一方、そのユニザン銀行(206)と同地区のライバルである超一流銀行のパーク銀行 (106)では、2005 年1月に第一クレアモント銀行というコミュニティバンクを買収 したが、パーク銀行の本拠地からやや離れた地区の銀行であることもあり、法的に は合併・統合したものの、旧第一クレアモント銀行の支店においては、ロゴなどのブ ランドは引き続き第一クレアモント銀行の名称を使い、下に小さく(パーク銀行の 一部)と記載している。これにより、よその町の大銀行に乗っ取られた、というリ アクションを地元から受けることを回避している。また、パーク銀行の持株会社の バークナショナル銀行持株会社は、パーク銀行を含めて8つのコミュニティバンク を保有しており、原則的には銀行を買収しても、無理には統合せずに、地元の取締 役会を残し、地元の銀行名を残すなど、地元のコミュニティに配慮した組織として いる。 ・ケース4:北方市民銀行(205)と S&T 銀行(108) 比較対象銀行であるペンシルベニア州の北方市民銀行(205)は、同州にあるワヤ ルシング人民銀行を買収することを 2000 年6月に発表した(205-1) 。ところが、 「地 元の銀行を救え」という旗がワヤルシングの町の家々や目抜き通りの商店街に掲示 され、地元の市民から、他の町の銀行から地元の銀行が買収されてしまうことへの 反対運動が起きた。こうして、元銀行員が中心となり、買収反対キャンペーンが始 まった。地元のコミュニティバンクがよその町の比較的規模の大きな銀行に買収さ れてしまうと、サービスのレベルは低下し、レイオフにより地元での雇用が減る恐 れがあり、コミュニティへの関与も少なくなってしまうのではないか、と懸念して いたからである。地元でそこまで強い反対があれば、買収後の銀行経営も思うよう にはいくはずもない。2005 年現在においても、結局ワヤルシング人民銀行は買収さ 34 New York 通信 第 17-3 号 2006.2.8 ©信金中央金庫 総合研究所 ニューヨーク駐在 れずに独立を維持している。 コミュニティという三脚のうちの1脚を重視している超一流銀行の場合、このよ うなトラブルを回避しようとしている。例えば、同じくペンシルベニア州の超一流 銀行である S&T 銀行(108)は、買収銀行側に抵抗があると思えば、魅力的な銀行で あっても無理な買収はしない。同行の持株会社は、2004 年に同じくペンシルベニア 州の優良銀行であるアレグニー・バレー銀行の持株会社の 25%の株式を取得したが、 無理には全額買収をしていない。強引に取締役を送り込むこともせず、しばらくは 現経営陣にそのまま経営させる意向である (108-3) 。同行は、他にも将来的には買 収したいと考えている2つの銀行の少数株式を保有している。最終的に買収できな ければ、流動性の低いコミュニティバンクの株式を保有する、というリスクもある が、同行では、このように時間をかけて買収していくことが長期的にはプラスであ ると考えている。 ・ケース5:フィフス・サード銀行(107)とアソシエイト銀行(104) 合併・買収というのは難しい経営問題であり、必ずしもいつも成功するとは限らな い。超一流銀行であるフィフス・サード銀行ですら、1992 年にスター銀行(現在の US バンク)を買収しようとしたが、最終的には価格面などで合意に至らなかった (107-6) 。もっとも、買収というものがビジネス上の買物である限り、安ければ買 い、高ければ欲しくても我慢する、ということは常識的な判断であり、失敗を意味 するわけではない。 超一流銀行のアソシエイト銀行(104)は、上場してから株主からの収益に対する プレッシャーが強くなってきたこともあり、成長志向を強め、合併により規模を拡 大してきた銀行である。1987 年から4年間そのアソシエイト銀行(104)に勤めて いた2人のローンオフィサーは、同行が収益至上主義となり、顧客とバンカーとの 間の個人的なつながりが希薄となってきたことに不満を持ち、2000 年に独立してニ コレット銀行を設立した(104-1)。新設銀行であるニコレット銀行は、ウィスコン シン州の中で最も急成長している銀行となり、設立後わすか3年8か月後の 2004 年 6月には、地元グリーンベイ市における預金シェアは 7.9%にも達した。日本でい う判官びいきは米国にも存在するので、こうした話題は、大銀行に対するコミュニ ティバンクというアンチテーゼとしてしばしば米国では好意的に受け止められる傾 向がある。確かに、大銀行であるアソシエイト銀行とはいえ、すべての顧客を満足 させることはできないだろう。その隙間に、同行職員が新設したコミュニティバン クが参入してくることも合理的な行動である。ただし、冷静にデータを調べると、 そのグリーンベイ市におけるニコレット銀行が設立される直前の 2000 年6月のア ソシエイト銀行(104)の預金シェアは 36.2%であったが、最近の 2004 年6月のシ ェアを見ると 39.7%と、上昇している。つまり、身内からニコレット銀行設立され 35 New York 通信 第 17-3 号 2006.2.8 ©信金中央金庫 総合研究所 ニューヨーク駐在 たにもかかわらず、アソシエイト銀行の預金シェアはむしろ伸びている。ニコレッ ト銀行は預金シェアを設立のゼロから 7.9%まで増やしたわけだが、そのシェアは アソシエイト銀行ではなく、もっぱら他の銀行、特にシェア2位の地方銀行から奪 っている。また、収益性にいたっては、アソシエイト銀行(104)の 2004 年 12 月の ROA は 1.61%だが、成長著しいニコレット銀行の ROA は 0.42%であり、その差はま だまだ大きい。つまり、アソシエイト銀行も買収で成長してきた銀行であり、時に は身内から競争相手が出るなどの課題も発生しているが、結果的にそれは同行の成 長や収益性には問題となるような影響を与えていない。 このように、合併・買収に対する行動や周囲の反応の違いは、超一流銀行と比較 対象銀行との間の大きな違いの一つとなっている。1992 年~2004 年の間、回数的に は超一流銀行が平均で 4.9 回、比較対象銀行が平均で 6.5 回と、比較対象銀行の方 が買収にやや熱心な傾向があるが、超一流銀行が買収をしていないわけではない。 ただし、その中身を見てみると、超一流銀行の場合は慎重に買収ターゲットを選定 し、高すぎる買物にならないように厳しく査定をし、さらに買収先のコミュニティ に対して配慮を欠かしていないのに対し、比較対象銀行においては、戦略性よりも 規模の拡大を目指した買収が目に付き、ユニザン銀行(206)のように合併後の収益が 低迷して、他の銀行から買収のターゲットとなったり、チャーターワン銀行(207) や北方市民銀行(205)のように地元のコミュニティから反対されたりする場合が多 くなっている。 地域社会というのは、株主、職員、顧客と比較すると実態が掴みにくいステーク ホルダー(利害関係者)であり、完全に満足させることは容易ではないが、少なく ても不満を持たれてしまうと、地域金融機関の業務上大きな支障となるだろう。そ うした意味で、比較対象銀行よりも、超一流銀行の方が地域社会への対応を上手に こなしているように見受けられる。 4.考察 (1) 超一流銀行は何が違うのか 第3節のはじめに立てた仮説、つまり超一流銀行はしっかりした経営理念や経営 メカニズムがあり、それにより職員のモラールが高く、顧客が満足し、地域社会に 認められた結果、ROA が安定的に高くなる、という仮説は立証できたと言えるだろ うか。 第3章の定性分析では、もっぱら一部(4行)の超一流銀行の経営者等への取材 および 250 以上にもわたる雑誌・新聞記事等をもとに分析している。もちろん、計 28 行すべてにインタビューできたわけでもなく、また 1992~2004 年までのすべて の 28 行に関連した記事をチェックできたわけでもない。詳細な分析は本稿だけで終 36 New York 通信 第 17-3 号 2006.2.8 ©信金中央金庫 総合研究所 ニューヨーク駐在 わるものではなく、また別の機会により深く行うべきものも多くあるだろう。ただ し、限られた調査範囲の結果であっても、おおむね次のような傾向があることは結 論づけてよいであろう。 ・ 超一流銀行と比較対照銀行との特に顕著な違いは、超一流銀行は経費率が低く、 生産性、つまり職員一人当たりの収入が明らかに多い。これは、優れたマネジメ ントシステム、つまり経営メカニズムを持っていることを示唆している。例えば、 超一流銀行の職員は、同じレベルの給料でもよりよく働いている。 ・ 超一流銀行は単に経営理念を持っているだけでなく、それを実現させるメカニズ ムを持っているため、経営理念が単なるお題目に終わっていない。さらに、超一 流銀行は高い利益率を維持することに対してコーポレート・ガバナンスにより強 い規律が機能しており、業績をあげられない経営者や職員には居心地の悪い場所 となっている。また、コスト管理が徹底しており、低コストはカルチャーといえ るほど組織に浸透している。一方、テクノロジーの導入については、超一流銀行 だからといって、特別な証拠は見つからなかった。また、組織についても、超一 流銀行は複数銀行持株会社を中心とした分権的な組織となっている場合がやや多 いが、決定的といえるほどの違いは見られなかった。審査体制の強化による不良 債権防止については、現在は比較対照銀行も良好に機能させているため、大きな 違いは見られなかったが、それでも経営者インタビューなどを通してみると、超 一流銀行の保守的な審査プラクティスはより徹底しているようにも見受けられた。 ・ 超一流銀行は株主(利益)を重視しつつも、その他の利害関係者、つまり職員、 顧客および地域社会も合わせて重視している。ただし、盲目的にどれか一つを重 視しているのでも、単に中庸をとって利害関係者間のバランスをとろうとしてい るのでもなく、すべての利害関係者を満足させようと具体的に行動している。 ・ 優良銀行は、自分が何者であるか、何をしようとしているか、何が得意で何をす べきであるかをよく理解している。その置かれている環境に対応した経営の方向 や戦略が正しく、職員がその方向に向けることができ、銀行と職員の方向のベク トルが一致したときに、その銀行は大いなるパワーを発揮する。経営陣だけでな く、職員一人ひとりがこれらのことを理解しているため、全体として組織の力を 発揮することができている。ただし、そのメカニズムは銀行によって異なる。フ ィフス・サード銀行(107)銀行は、徹底した行内競争とインセンティブ給により、 職員と企業の方向性を一致させている。パーク銀行(106)は、職員持株制度により、 やはり職員と銀行との利害関係を一致させている。S&T 銀行(108)は、企業文化、 役職員のコミュニケーションにより、銀行と職員の方向性を一致させている。 ・ このようにして、超一流銀行は、より少ない職員数でより高い結果を出そうとし ている。また、超一流銀行は単に雰囲気がよくて働きやすい仲良しクラブである、 ということを意味しない。むしろ、適度な緊張感をもちつつも、各自が変化に対 37 New York 通信 第 17-3 号 2006.2.8 ©信金中央金庫 総合研究所 ニューヨーク駐在 応し、能力を発揮できる職場環境となっている。 ・ 地域社会への対応については、特に他銀行を買収する際に大きな差が出た。超一 流銀行は、比較対照銀行と比べて、買収の際に目立ったトラブルを起こしていな い。例えば、地域の市民団体や顧客からの買収反対の動きというものは、文献調 査において、比較対照銀行には多くみられたが、超一流銀行にはほとんど見られ なかった。超一流技能は地域のコミュニティに対して、細心の配慮をした上で買 収を行っており、やみくもに規模を拡大するために買収を繰り広げているわけで はない。 ・ ただし、本稿で明らかになったことは、平均的な水準の銀行と超一流の銀行の違 いである。つまり、超一流銀行になるためには、安定的な預金調達基盤や資産の 健全性などの銀行としての基本的な土台は十分にできていることが前提となって いる。仮にある銀行が超一流銀行としての要素をいくつか持っていたとしても、 基本的な土台ができていなければ、超一流銀行になることはできない。例えば、 比較対象銀行である連邦第三 S&L は、職員が一丸となって会社のために働いてお り、銀行と職員とのベクトルの方向性が一致している点は評価できるが、調達コ ストが同業同規模平均よりも 1%ポイントも高く、その結果同行の ROA は 0.5%程 度で低迷している。これは同行の定期預金の比率が高く、しかもその調達金利が 高いからであるが、職員がパワーを発揮しようにも、基礎となる銀行業務として の基盤が弱ければ、超一流の業績をあげつづけることはできない。 (2) 日本の信用金庫が学べること 以上のことを踏まえて、日本の信用金庫が、超一流の金融機関となるために、次 のようなステップで自金庫を見直してみることができるだろう。 ① 経営理念は何か 超一流の金融機関には、しっかりとした経営理念・哲学がある。改めて経営理 念を明確にする。経営理念の内容が何であれ、どれだけ役職員がその経営理念を 信じているか、が重要である。 ② ステークホルダー(利害関係者)は誰か ステークホルダー(利害関係者)が誰なのか、またその優先順位はどうなって いるのかを再確認する。通常の信用金庫の場合は、会員(=出資者兼貸出の顧客) が最も重要なステークホルダーとなると思われるが、会員を支えている貸出以外 の顧客、職員、地域社会といった他のステークホルダーも満足させていかなけれ ばならない。また、理事会の役割を重視し、コーポレート・ガバナンスを機能させ、 経営理念に反した行動や、ステークホルダーを害する行動は事前に阻止するメカ ニズムを機能させる。 38 New York 通信 第 17-3 号 2006.2.8 ©信金中央金庫 総合研究所 ニューヨーク駐在 ③ 経営理念を実行するメカニズムを導入する a. 役職員に徹底させるメカニズム ・ せっかく経営理念をつくっても、それを徹底・実行するためのメカニズムを導入 しなければ、経営理念は単なるお題目となってしまう。 ・ 超一流の銀行は超一流になりたいという願望が強い。平均的な水準に留まるので はなく、絶えず昨日より今日、今日より明日は改善するという願望が強い。改善 するには変化が伴う。通常、変化には苦痛が伴うものである。それにもかかわら ず、変化をさせていくには、現状に満足せず、苦痛を上回るほど強い改善への願 望がなければならない。 ・ 経営理念はしつこいくらい役職員にコミュニケートする。例えば、S&T 銀行が行 っているように、年1回の全役職員会議、社内報、社内のイントラネット、よい 行動をした職員にはトップ自ら電子メールを送って謝意と激励をする、定期的に トップが様々な部門の様々な階層の職員と円卓会議を行う、などにより経営理念 を企業文化といえるまで徹底させる。特に組織が小さく、家族的な雰囲気を企業 文化として持つ場合は、インセンティブなどの金銭面よりも、企業文化を重視し た協力的なカルチャーを持つほうが効果的と思われる。 ・ 一方、組織が大きく、家族的な雰囲気を醸成することが難しい場合、またはもと もとビジネスライクな企業文化を持っている場合、信賞必罰のメカニズムを導入 した方が効果的な場合もある。例えば、経営理念に即した行動を行えば報われる ような人事考課、報酬体系など、経営理念を実現させるための制度を導入する。 また、業績を向上させるために、むしろ社内での競争を促進するような手法が効 果的な場合もある。 ・ 経営理念にあわせた企業文化を涵養する。例えば、資産の質を重視するなら、シ チズン銀行のように不良債権を出さないカルチャーを作る。 b. 鍵は生産性 ・ 超一流銀行の最大の特徴の一つは経費率が低いことであるが、これは安月給であ ることを意味しない。同じ水準の人件費をかけながら、比較にならないほど生産 性が高い、つまり人件費あたりの収入や職員1人あたりの収入が多いことである。 経費を削減することは重要であるが、さらに重要なことは経費よりも収入の伸び を大きくすることである。 ・ 例えば、職員は公正に扱う必要があるが、公正であって、職場を仲良しクラブに する必要はない。自らを変えることをいとわず、絶えず業績を改善させることは 必ずしも楽しいことではない。インセンティブ給や社内・社外との競争、または 職員間の協調のカルチャーにより、生産性を高め、少ない職員数で収入を多く得 39 New York 通信 第 17-3 号 2006.2.8 ©信金中央金庫 総合研究所 ニューヨーク駐在 られるように工夫する。 ・ 一言でいえば、超一流の金融機関になる場合、各職員はよりよく働く必要がある。 それが結果として好業績につながれば、職員の報酬も上がり、また一流企業で働 いているという「勝ち組」意識が生まれ、誇りを持ってさらによく働くようになる。 ・ テクノロジーそのものにより差別化はできないが、テクノロジーにより生産性を 向上させることは可能である。基幹コンピュータシステムのアウトソーシングや クレジットスコアリングなど、生産性を高める投資が有効であれば、躊躇すべき ではない。 c.必要な数値を計測して改善する ・ 数値の計測と管理をまめに行う。特に、経費率は経費/預金量ではなく、経費/ 総収入として、少なくとも毎月管理する。また、生産性を重視し、職員一人当た り収入や当期利益を毎月把握して、管理する。具体的な数値目標を設定すべきか どうかはその金融機関によるが、少なくとも前年、前四半期、前月よりは改善す ることを目標とする。また、「顧客サービスレベル」といった定性的な目標も、 計測不能と諦めるのではなく、出口調査、顧客満足度調査またはミステリーショ ッピングなどにより、極力客観的に計測する。なぜなら、計測できないものは改 善できないからである。 ・ 数値に限らず、基本理念以外のものは絶えず改善するメカニズムを導入する。例 えば、職員提案制度により、優良な改善意見を出した者にはボーナスを支給する。 d. とりあえずやってみること ・ 金融機関は商品で差別化をすることは難しいが、何もしなければ差別化もできな い。新商品や新しいサービスは、とりあえずやってみて、うまくいくなら継続し、 いかないなら撤退するという割り切りと試行錯誤も必要である。 e. 銀行業務の基本に忠実であること ・ 超一流以前の問題として、安定した収益を得るためには厚い預貸金利鞘と少ない 不良債権が前提条件である。預貸金利鞘については、ハイレベルの顧客サービス により、低金利の預金を集める。また、貸出については、顧客をよく知り、顧客 ニーズに合った貸出を行うことにより、金利プレミアムを獲得する(つまり高金 利の貸出を行う。)。原則として価格競争は行わない。自金庫に対して利益をも たらす顧客を重視する。わずかな金利差で動く顧客は、いずれ逃げるものである。 ここでいう金利プレミアムは、必ずしも信用リスクプレミアムを意味せず、「サー ビスプレミアム」である。 ・ 協同組織であることは、不良債権が若干多くてもよい、ということを意味しない。 40 New York 通信 第 17-3 号 2006.2.8 ©信金中央金庫 総合研究所 ニューヨーク駐在 資産の健全性は金融機関のスタートラインとして必要不可欠である。比較的小規 模の超一流金融機関は、顧客をよく知ることにより、その顧客が与信に値するか どうかの審査をすることができている。大規模の場合は、洗練されたクレジット スコアリングにより、合理的に与信リスクを査定して金利に反映させることが今 後さらに重要となるだろう。 f. 地域社会というステークホルダーの重要性を忘れない ・ 最近、企業の社会的責任(CSR)という概念が注目されているが、そもそも地域金 融機関であるからには、地域のコミュニティに配慮することを忘れてはならない。 特に、他の金融機関を買収する際には、その地域のコミュニティに対して細心の 注意を払う必要がある。 (文責:ニューヨーク駐在 Senior Analyst 青木 武) 本レポートは、経営判断の参考となる情報提供のみを目的としたものです。施策導入等に関する最終決定は、 ご自身の判断でなさるようにお願いします。また、当研究所が信頼できると考える情報源から得た各種デー タなどに基づいてこの資料は作成されておりますが、その情報の正確性および完全性について当研究所が保 証するものではありません。 なお、本レポートのうち意見にわたる部分は、筆者の個人的見解であり、必ずしも信金中央金庫としての意 見を反映させたものではないことをお断りしておきます。記述されている予測または執筆者の見解は、予告 なしに変更することがありますのでご注意ください。また、本レポートは、掲載時点における情報提供を目 的としています。したがって施策実施・投資等についてはご自身の判断によってください。 41 New York 通信 第 17-3 号 2006.2.8 ©信金中央金庫 総合研究所 ニューヨーク駐在 取材協力 シチズン銀行 フィフス・サード銀行 パーク銀行 S&T 銀行 参考文献 Collins, J. & Porras, J.I., Built to Last: Successful Habits of Visionary Companies, Harper Business, New York, 1994 青木武 a、「米銀のビジネスモデル」、New York 通信、2005 年 青木武 b、 「米銀の人事戦略」 、New York 通信、2005 年 参照した新聞・雑誌記事等 (番号は本文に対応) 102-1 Jagler, D., “Long Beach, Calif., Farmers & Merchant Bank Replaces Director,” Knight Ridder Tribune Business News,” Washington, Mar 26., 2004 104-1 Gores, P., “Green bay, Wis., Area Bankers Find Success by Keeping It Personal,” Knight Ridder Tribune Business, News, Washington, Feb. 29, 2004, p. 1 105-1 Giovis, J., “Hometown bank Executive is Strong Candidate for Hamilton, Ohio CEO Position,” Knight Ridder Tribune Business News, Washington, Feb. 6, 2004, p. 1 106-1 Perez-Dormitzer, J., “Banks Laying Bets on Health Savings Accounts,” American Banker, New York, Sep 9, 2004, Vol. 169, Iss 174, P. 7A 107-1 Slater, R.B., “Banking’s Cincinnati Kid,” Bankers Monthly, New York, Jan 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Washington: Feb 2005.Vol.14, Iss. 2; p. 20 213-1 “100 Best Companies to Work For ,” Fortune, Jan. 12, 2004 213-2 Serres, C, “Good Fortune for Third Federal Employees,” Crain’s Cleveland Business, Cleveland, Jan 24, 2000, Vol, 21, Iss 4, p. 17 44 New York 通信 第 17-3 号 2006.2.8 45 New York 通信 第 17-3 号 36% 5% データ出典:連邦預金保険公社(FDIC) 全金融機関平均(加重平均) 全金融機関平均(単純平均) 差の有意水準 10 -0.480 90%t値 1.77 0.058 2グループの差の検定(t値) 173 14,094 42 9,033 標準偏差 40 1,956 97 53 3,181 7,322 25 1,137 単純平均 14 1,139 6 メリーランド 64 439 214 Bradford Bank オハイオ 213 Third Federal Savings and Loan Association of Cleveland ミズーリ 210 Citizens Bank and Trust Company ワシントン イリノイ 209 The Bank of Edwardsville ウィスコンシン インディアナ 208 1st Source Bank 212 North Shore Bank, FSB オハイオ 207 Charter One Bank, National Association 211 Banner Bank ペンシルベニア オハイオ オハイオ 204 Sky Bank 206 Unizan Bank, National Association メリーランド 203 First Mariner Bank 205 Citizens & Northern Bank カリフォルニア 202 The Mechanics Bank 668 29 2,716 インディアナ 201 First National Bank & Trust 3,819 27 1,517 標準偏差 55,982 71 101 7,646 15,672 単純平均 44 8 635 メリーランド 114 Rosedale Federal Savings and Loan Association 19 115 8,294 ワシントン 113 Washington Federal Savings and Loan Association 2,821 12 1,509 イリノイ 112 Regency Savings Bank, A FSB 1,203 27 2,362 アラスカ 111 First National Bank Alaska 25 10 1,253 アイオワ 110 West Bank 301 24 1,709 109 Monroe Bank & Trust 1,320 48 3,225 ペンシルベニア ミシガン 108 S&T Bank 16,237 389 62,488 オハイオ 30 107 Fifth Third Bank 37 1,829 オハイオ 106 The Park National Bank 1,909 オハイオ 105 First Financial Bank, National Association 196 15,408 ウィスコンシン 104 Associated Bank, National Association 23 メリーランド 103 The Citizens National Bank 1,345 ミシガン カリフォルニア 102 Farmers and Merchants Bank of Long Beach 18 国内店舗 数(店) 60 総資産 (億円) 3,278 本拠地州 1,806 銀行名 101 Chemical Bank and Trust Company 番号 234 10% 0.126 2,062 1,293 73 973 452 778 298 371 1,055 8,128 574 324 3,536 535 558 444 2,880 1,412 77 749 158 704 129 396 774 11,517 548 488 2,890 229 537 567 職員数 (人) 10.20 13.27 1.29 100% 4.682 3.71 7.99 5.08 6.52 4.42 9.02 10.39 11.69 8.44 2.02 4.53 12.80 14.89 8.59 10.45 3.06 7.12 18.04 8.37 12.31 20.50 8.46 21.71 15.34 16.69 23.21 32.95 27.93 22.93 17.72 8.72 15.77 ROE 1.03 100% 9.648 0.32 0.74 0.47 0.62 0.46 0.81 0.82 1.09 0.90 0.27 0.48 1.19 1.29 0.56 1.03 0.31 0.23 1.75 1.59 1.83 2.50 1.71 1.80 1.51 1.75 1.80 1.75 1.53 1.61 1.61 1.71 1.79 ROA 5.02 5.59 86% 1.574 0.97 4.99 5.21 4.92 4.71 6.15 5.01 4.90 4.97 1.78 5.27 5.61 5.53 5.63 5.38 4.83 0.57 5.47 5.58 5.94 7.19 5.41 5.08 5.76 5.46 4.90 5.44 5.62 4.93 5.24 4.85 5.12 1.49 1.53 96% -2.260 0.53 1.84 2.16 2.83 1.66 2.24 1.86 1.38 1.54 0.64 2.32 2.22 1.65 1.96 1.20 2.06 0.55 1.38 1.67 2.38 2.00 0.43 1.42 1.95 1.52 1.33 1.34 1.63 1.46 0.88 0.43 0.84 運用利回り 調達利回 3.53 4.07 100% 3.845 0.76 3.16 3.05 2.09 3.05 3.91 3.16 3.52 3.43 1.14 2.95 3.39 3.89 3.67 4.18 2.77 0.50 4.09 3.90 3.56 5.19 4.99 3.66 3.81 3.95 3.57 4.10 3.99 3.48 4.36 4.43 4.28 金利利鞘 91.69 502.53 40% 0.536 13.55 89.90 78.69 101.54 92.95 106.36 77.78 64.96 79.63 115.96 98.79 84.55 100.06 91.86 73.85 91.63 16.49 92.96 99.67 114.82 99.96 76.14 82.88 84.42 103.49 118.72 83.73 94.82 111.04 98.73 57.71 75.29 預貸率 調査対象銀行のデータ(2004年12月末現在) N.A. N.A. 81% 1.389 1.56 5.39 0.00 5.80 4.94 5.34 6.68 5.83 5.94 5.18 6.38 5.57 5.77 6.35 6.03 5.63 0.89 6.06 5.95 6.64 8.13 7.55 5.74 6.32 5.69 4.41 5.79 5.80 5.08 5.62 6.22 5.87 81.63 82.51 32% 0.424 6.67 84.99 80.13 76.35 85.44 68.47 89.69 91.78 89.33 92.03 86.22 89.28 84.91 83.21 79.93 93.09 7.49 86.13 81.23 73.41 72.58 94.70 77.68 83.29 91.15 96.50 90.14 82.27 87.99 91.85 89.70 93.29 貸出金利 リテール預 回 金/預金 17.03 15.60 94% 2.078 5.97 11.01 1.95 2.03 8.09 12.11 6.16 10.09 13.51 14.04 10.17 14.77 4.46 19.16 23.31 14.28 12.09 18.50 0.31 0.00 4.64 40.24 21.74 13.93 10.30 29.44 24.83 18.20 16.46 31.97 33.83 13.06 40.78 16.97 19% -0.239 8.60 21.57 5.13 11.77 20.09 14.86 18.96 29.34 37.66 29.49 21.97 15.83 22.21 30.97 14.37 29.33 12.30 20.61 2.58 4.52 9.40 24.65 18.25 19.56 22.02 50.59 25.62 34.96 29.19 13.67 9.65 23.89 96.80 65.26 92% 1.873 11.15 28.92 8.42 22.41 27.85 22.30 23.48 36.56 59.00 22.15 33.88 19.99 37.31 31.30 27.66 32.59 36.70 48.13 7.52 15.85 42.48 47.09 61.71 32.40 38.85 166.48 39.64 68.22 60.85 32.53 23.83 36.35 無利息預 職員当り非 非金利収 金 金利収入 入/総収入 /預金 額(千ドル) 58.04 77.31 100% -6.972 8.55 66.82 71.59 59.02 79.57 67.11 63.69 63.30 70.75 59.65 62.96 62.46 50.42 83.39 64.50 77.11 10.05 42.23 34.06 19.25 31.02 55.85 31.29 48.83 44.31 51.21 45.09 53.41 48.34 44.28 35.59 48.69 経費率 0.24 1.36 1.13 67% -1.023 0.97 1.29 0.34 0.53 0.64 0.87 0.89 2.08 1.35 0.57 1.99 1.70 1.87 0.77 0.44 4.07 0.98 0.92 0.19 0.25 2.62 1.53 0.22 3.53 0.35 0.98 0.70 0.76 0.89 0.10 237 305 100% 4.355 32.15 141 164 190 139 150 124 125 157 75 154 126 168 101 192 111 87.13 249 292 351 452 191 338 166 176 329 155 195 208 238 247 152 N.A. N.A. 85% 1.542 0.26 3.1 3 3 3 3 3 3 3 3 3 4 3 3 3 3 0.45 3.3 3 3 4 4 3 3 3 3 3 4 3 3 4 3 不良債権+ 職員あたり 償却 収入 CRA検査 /貸出金 (千ドル) 0.48 別 紙 6.6 N.A. 56% -0.796 11.12 15.2 3.5 6.9 6.9 18.5 13.7 9.2 8.0 22.8 15.5 7.5 36.1 42.8 10.3 11.2 10.69 11.9 5.2 8.4 11.8 4.7 10.5 7.4 8.8 45.5 7.5 6.6 26.8 7.9 5.6 10.4 13.21 21.34 93% 2.013 2.53 13.57 13.52 14.34 20.40 11.26 12.46 14.24 13.93 10.53 13.69 15.66 10.83 10.15 13.84 15.10 10.11 19.18 37.68 26.86 14.23 31.84 11.63 15.39 11.36 12.76 11.05 10.76 10.79 13.90 40.04 20.16 平均総資 リスクア 産成長率 セット自己 (92-04) 資本比率 (単位は指示がない場合は%) ©信金中央金庫 総合研究所 ニューヨーク駐在 2006.2.8 ©信金中央金庫 総合研究所 ニューヨーク駐在 「New York 通信」に関するお問い合わせは、信金中央金庫営業店または総合研究所 (TEL: 03-3563-7541、FAX: 03-3563-7551)までお寄せください。 なお、総合研究所ニューヨーク駐在の E-mail アドレスは [email protected] です。 【バックナンバーのご案内:New York 通信(平成 16 年度以降)】 号 数 題 名 発行年月 第 16-1 号 米国金融機関の地域開発・貢献活動 平成 16 年 7 月 第 16-2 号 米国の田舎におけるコミュニティバンキング 平成 16 年8月 第 16-3 号 リレーションシップバンキング再考 平成 16 年 11 月 第 17-1 号① 米銀のビジネスモデル(前編) 平成 17 年9月 第 17-1 号② 米銀のビジネスモデル(中編) 平成 17 年9月 第 17-1 号③ 米銀のビジネスモデル(後編) 平成 17 年9月 第 17-2 号 米銀の人事戦略 平成 17 年 12 月 *バックナンバーの請求は信金中央金庫営業店にお申しつけください。 *なお、28 号以前のバックナンバーについては 41 号、29 号~第 15-4 号のバックナ ンバーについては第 16-1 号の巻末に掲載しております。 46 New York 通信 第 17-3 号 2006.2.8 ©信金中央金庫 総合研究所 ニューヨーク駐在 ご意見をお聞かせください。 信金中央金庫 総合研究所 行 今回の New York 通信について (17-3) 今後、New York 通信で取り上げてもらいたいテーマ 信金中央金庫総合研究所に対するご要望 差し支えなければご記入ください。 年 信用金庫 部署名 役職名 月 日 氏名 ありがとうございました。信金中央金庫営業店の担当者にお渡しいただくか、総合研 究所宛ご送付ください。 (〒104-0031 東京都中央区京橋 3-8-1) (E-mail:[email protected]) (FAX 47 :03-3563-7551) New York 通信 第 17-3 号 2006.2.8