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(気分障害)資料
気分障害 担当:加藤忠史(理化学研究所 脳科学総合研究センター 精神疾患動態研究チーム) 気分障害とは DSM-IV(アメリカ精神医学会の診断基準)による気分障害(広義の躁うつ病)の分類 双極性障害(狭義の躁うつ病)(I 型−躁状態とうつ状態、II 型−うつ状態と軽躁) 大うつ病(うつ病)(従来のいわゆる「内因性」→メランコリー型 気分変調症 「うつ状態」だけでは病名とは言えない Q: 躁と軽躁の違いは Q: うつ状態を呈する疾患には何がある? 躁状態 ・持続的で異常な高揚気分を伴ういつもと異なった期間が 1 週間以上 ・以下の 3 つ以上(爽快気分がなく易怒性のみの場合は 4 つ以上) 誇大性、睡眠欲求の減少、会話心迫(多弁)、観念奔逸、注意散漫、活動性亢進、 無分別に快楽的活動に熱中(買い漁り、ばかげた商売への投資、性的無分別など) ・社会活動や人間関係に著しい障害 うつ状態 ・抑うつ気分または興味喪失のどちらかを含め以下の症状 5 つ以上が 2 週間以上 ・抑うつ気分、興味喪失、食欲不振(体重減少)、不眠(特に早朝覚醒) 精神運動制止(または焦燥)、易疲労性・気力の減退、無価値観 思考力・集中力の低下(決断困難)、希死念慮 (メランコリー型:喜びの消失 or 快適な刺激に対する反応の消失+明確な抑うつ気分、 日内変動、早朝覚醒、著しい制止・焦燥、体重減少、自責感(罪責感)のうち 3 つ) うつ病の成因と治療 原因 生涯罹患率は男性 10%、女性 25%→common disease ストレス>>遺伝 臨床的には、早期の親との離別、虐待・無視などの不適切な養育が危険因子 1) セロトニンの関与(抗うつ薬がシナプス間隙のセロトニンを増やすことなどから) 2) 視床下部−下垂体−副腎皮質系(HPA 系)の制御異常(デキサメサゾン抑制試験で非抑制) ストレス→視床下部よりCRF 放出→下垂体から ACTH 放出→副腎皮質ホルモン分泌 →ネガティブ・フィードバックによりCRF↓ ・ 十分な養育→セロトニン放出↑→HT-R→GR 遺伝子発現増加→HPA 系は十分に抑制 ・ 養育不足→セロトニン↓→長期に GR 発現低下→HPA 系非抑制→ストレス耐性↓? 治療 抗うつ薬による薬物療法が主体 (補助的な精神療法は必須) 抗うつ薬(SSRI、SNRI、三環系)(有効率 60∼70%)(効果なければ変更) リチウム、甲状腺剤による増強療法 幻覚、妄想などの精神病症状を伴う場合は抗精神病薬を併用 難治な場合は、修正電気けいれん療法 1 改善後は、半年∼1 年間抗うつ薬を続行 入院適応: 自殺念慮、低栄養状態、顕著な焦燥、休養 Q:うつ病患者への対応の最低限の注意とは? 精神療法: うつ病の小精神療法に関する「笠原の 7 カ条」 1)うつ病は病気であり、単に怠けではないことを認識してもらう 2)できる限り休養をとることが必要 3)抗うつ薬を十分量、十分な期間投与し、欠かさず服用するよう指導する 4)治療にはおよそ 3 ヶ月かかることを告げる 5)一進一退があることを納得してもらう 6)自殺しないように誓約してもらう 7)治療が終了するまで重大な決定は延期する Q: 重大な決定とは? 自殺予防対策 気分障害患者の生命予後を左右する最大の因子は自殺 Q: 日本における年間の自殺者数は? 自殺の危険の程度を 1)自殺の危険因子の評価 2)希死念慮の有無の評価 により評価 1)自殺の危険因子 自殺企図、近親者の死、知人・有名人の自殺、経済的損失、社会的援助の欠如等 Q:患者が示す自殺のサインとは? 2)希死念慮の強さの評価 0:なし 1:消極的希死念慮(生きていても仕方がないと思う) 2:積極的希死念慮(死にたい) 3: 自殺念慮(具体的に何らかの方法で自殺したいと考える) 3a: (自殺しないと約束できる) 3b: (自殺しないと約束できない) 4:自殺企図(すでに自殺行動に及んでいる) 自殺予防対策 2 以下:精神療法(死にたい気持ちについて傾聴、死にたくなったら伝えるように) 3a まで:定期的な再評価、致死量の薬を処方しない、家族に薬の管理を依頼 Q: 特に危険な向精神薬は? 3b 以上:厳重な対策(閉鎖病棟入院、鎮静剤、危険物管理、不定期監視、 保護室隔離、身体拘束、電気けいれん療法) 双極性障害の成因 生涯罹患率 0.8% 躁・うつの病相の繰り返し→社会生活障害 気分安定薬(mood stabilizer)による予防 (リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピン) 遺伝要因(多因子)の関与: 双生児研究、連鎖解析、関連研究 細胞内情報伝達系の異常によるモノアミン系の変動が原因? 2 経過 躁状態・うつ状態・寛解期(euthymic state) 初期は 8 年位の病相間隔→病相を繰り返す毎に間隔が短くなる →急速交代型(ラピッドサイクリング)(1 年に 4 回以上) 予後(死因は自殺が多い 25%)→リチウムの出現で死亡率は一般人口と同じに 季節性感情障害(冬にうつ、春に軽躁状態。症状に特徴あり。光療法が有効) Q: 季節性うつ病の症状の特徴とは? 双極性障害の治療戦略 二大基本戦略は、1)再発予防 2)自殺予防 双極性障害の治療に用いる薬物 気分安定薬(リチウム、カルバマゼピン、バルプロ酸)が基本:病相予防、抗躁、抗うつ作用 うつ状態では抗うつ薬、躁状態では抗精神病薬を併用 躁状態の治療 本人の主訴を引き出し、治療に結びつける。 中等症以上は入院適応(本人が同意せず医療保護入院→保護室隔離となることも多い) 薬物療法:第 1 選択はリチウム。他の気分安定薬も有効。抗精神病薬を併用して鎮静。 うつ状態の治療 薬物療法が中心 気分安定薬。SSRI の併用(ただし、双極性うつ病では有効性は証明されていない) 幻覚、妄想などの精神病症状を伴う場合は抗精神病薬を併用 難治な場合は、修正電気けいれん療法 寛解期の予防療法 躁・うつはいずれは改善→寛解期の治療が患者の社会生活的予後を大きく左右する (病相を繰り返すことで次第に社会的烙印、自己評価の低下、社会的地位の剥奪) 薬物療法 気分安定薬(第 1 選択はリチウム、ついでバルプロ酸、カルバマゼピン) コンプライアンスを尋ねるときは、「お薬はどの位飲めていますか?」と尋ねる 一生維持療法が必要。心理教育が重要(疾患を受け入れる態度) Q: 良いコンプライアンス確認の方法は? 参考文献 加藤忠史(1999) 双極性障害−躁うつ病の分子病理と治療戦略. 医学書院 加藤忠史(1998) 躁うつ病とつきあう. 日本評論社 URL: http://square.umin.ac.jp/tadafumi (躁うつ病のホームページ) 3 Hamilton うつ病評価尺度 項目 1−17 の合計点 1 2 3 4 5 6 7 8 抑うつ気分:(悲しみ、希望のなさ、ふがいない、価値が ない) 0 なし 1 質問しているときのみ示される。 2 自発的に言葉で訴える。 3 非言語的に気分を伝える(表情、姿勢、声、涙をな がすなど)。 4 患者は質問に応せず、これらの感情状態は実質的に 患者の任意な言語および、非言語的伝達でのみ表現 される。 罪業 0 なし 1 自責感、他人をがっかりさせてしまったと感じる。 2 罪責感、過去の過ちや罪深い行為に対する反省。 3 病気は何かの罪である。罪責妄想。 4 避難し弾劾する声を聞き、恐ろしい幻視を経験する。 自殺 0 なし 1 生きる価値がないと思う。 2 死ぬことを願う。あるいはどうしたら死ねるかを考 える。 3 自殺を考えたり、自殺しようとする身振りを示す。 4 自殺企図(どんな企図も評価は4) 入眠障害 0 眠れるのに苦労しない。 1 時々眠れないことを訴える(30 分以上)。 2 毎晩眠れないことを訴える。 熟眠障害 0 なし 1 患者が、夜中落ち着かず睡眠が途絶えがちであるこ とを訴える。 2 夜中に目が覚める(排尿以外の目的で寝床から離れ れば評価は2) 早朝睡眠障害 0 問題なし 1 早朝に目が覚めるが、再び眠れる。 2 一度起きると再び眠ることができない。 仕事と興味 0 困難でない 1 仕事あるいは趣味に関連した無能さ、疲労、弱さを 考えたり感じる。 2 社会活動、趣味、あるいは仕事への興味の喪失。患 者の直接的な訴えや、間接的な元気のなさ、優柔不 断、あるいはためらいによって示される(仕事や社 会活動への参加に自分自身を強いていると感じる)。 3 社会活動に費やす労働時間の減少、あるいは能率の 減少。病院では、患者が日常雑務を除く社会活動(病 院での仕事や趣味)に対して、1 日少なくとも3 時 間費やさなければ評価は3。 4 現在の病気のために就労不能。病院では、患者が日 常雑務以外の社会活動に全く従事しなければ、ある いは患者が援助なしで日常雑務を行えなければ評 価は4。 精神運動抑制:思慮および会話の遅滞、集中力喪失、活動 性の減退 0 通常の会話あるいは思慮 1 面接時、軽度の精神運動抑制 4 9 10 11 12 13 14 15 16 17 2 3 4 激越 0 1 2 3 4 面接時、明らかに精神運動抑制 面接困難 完全な昏迷状態 なし 落ち着きがなくそわそわしている。 手や紙などにさわる。 動き回り、じっとしていられない。 手を握りしめる、爪をかむ、髪を引っ張る、唇をか む。 精神的不安 0 なし 1 自覚的緊張や焦燥感。 2 些細なことに対する心配。 3 顔や言葉に表れる不安な態度。 4 質問なしに表出する恐怖。 身体についての不安:不安の身体随伴症状(消化器系:口 渇、腹が張る、胃弱、下痢、腹痛、げっぷ;心・循環器系: 動悸、頭痛;呼吸器系:過呼吸、ため息;頻尿;発汗) 0 なし 1 軽度 2 中等度 3 重症 4 普段の生活が困難 消化器系の身体症状 0 なし 1 食欲の減退はあるが、他人に促されなくても食べて いる。胃腸が重く感じる。 2 食欲の減退、促されないと食事摂取が困難。下剤や 胃腸薬を要求する。 一般的な身体症状 0 なし 1 四肢、背部、あるいは頭部のだるさ、腰痛、頭痛、 筋肉痛、元気のなさや易疲労性。 2 明確な症状は2 と評価する。 性欲減退:性欲の減退、月経障害 0 なし 1 軽度 2 明らかにあり 心気症 0 なし 1 体のことばかり考える。 2 健康が最大の関心事。 3 頻繁に不満を言う、助けを求める等。 4 心気妄想 実質的な体重変化(前回来院時より) 0 なし、あるいは病気が原因でない体重減少がある。 1 病気に起因すると考えられる体重減少がある。 2 病気に起因する明らかな体重減少がある。 病識 0 うつ状態、あるいは病気であるという認識がある。 1 病気であるという認識はあるが、原因を食事、気候、 働きすぎ、ウイルス、休息の必要等のせいにする。 2 病気であることを全く否定する Young 躁病評価尺度 項目 1−11 の合計点 1.気分高揚 0 なし 1 軽度またはたぶん増加。質問してわかる程度。 2 高揚していることを確かに自覚している;楽観的、自信に満 ちている;機嫌がよい;話の内容にふさわしい 3 高揚、話の内容にふさわしくない;おどける 4 多幸的;状況にそぐわない笑い;放歌 7.言語−思考障害 0 なし 1 話が回りくどい;わずかに話が飛ぶ;素早い思考 2 話が飛ぶ;思考の目標を失う;話題がしばしば変わる;思考 の競合 3 観念奔逸;話が脱線する;話についていくのが困難;駄洒落 的な韻を踏んだしゃべり方、反響言語 4 支離滅裂;会話不能 2.活動の量的−質的増加 0 なし 1 増加を自覚している。 2 気力に満ちている;身振りの増加 3 過剰なエネルギー;時に活動過多;落ち着かない(落ち着か せることができる) 4 運動性興奮;持続的な活動過多(落ち着かせることができな い) 8.内容 0 正常 1 2 不確かな計画、新しい興味の対象 3 4 並はずれた企画;過度の宗教心 5 6 誇大的または妄想的観念;関係念慮 7 8 妄想;幻覚 3.性的関心 0 正常;増加なし 1 軽度またはたぶん増加している。 2 質問すると増加していることを確かに自覚している 3 自分から性にまつわる話をする;性に関する話題を詳述す る;自分から過度に性的だと述べる。 4 あからさまな振る舞い(患者、病棟スタッフまたは面接者に 対して) 9.破壊的−攻撃的行動 0 なし、協力的 1 2 あざける;時に大きな声で話す、身構えている 3 4 高飛車な態度;病棟での脅し 5 6 面接者を脅す;大声で怒鳴る;面接困難 7 8 襲いかかりそうである;破壊的;面接不可能 4 睡眠 0 睡眠の減少はないという。 1 正常時と比べ 1 時間以下の睡眠減少。 2 正常時と比べ 1 時間を超える睡眠減少。 3 睡眠欲求の減少を訴える。 4 睡眠の必要性を否定する。 10.身なり 0 相応な服装と身だしなみ 1 僅かにだらしない 2 不十分な身だしなみ;中等度にだらしない;着飾りすぎてい る。 3 だらしない、部分的に服装をまとっている;はでな化粧 4 非常にだらしない;飾り立てている;奇妙な服装 5.易怒性 0 なし 1 2 増加していることを自覚している。 3 4(面接の際)時に怒りやすい;怒りまたは苛立ちが表出され た出来事が病棟で最近あった。 5 6(面接の際)しばしば怒りやすい;終始一貫して無愛想でぶ っきらぼう。 7 8 敵意に満ちており非協力的;面接不可能 11.病識 0 あり;病気であることを認める;治療が必要であることに同 意する。 1 もしかしたら病気なのかもしれないと感じている。 2 行動の変化は認めるが、病気であることは否定する 3 行動が変化している可能性は認めるが、病気であることを否 定する。 4 いかなる行動の変化も否定する。 6.会話(速度と量) 0 増加なし 1 2 口数が多いと感じている。 3 4 時に速度または量が増加、時に話が回りくどい。 5 6 どんどん話が進む;速度と量の持続的増加;話を遮ることが 難しい。 7 8 せき立てられるようにはなす;話を遮ることができない、持 続的発語 5