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B12:気分障害
B12:気分障害 スコア 23 年 3 5 7 10 18 21 比率 0.23 No 24 25 22 28 37 47 ランク C 小問 all all all all AC B H23 年度版(Ver.1.0):スコア=大問 5 点、小問 1 点の合計/比率=スコア/(試験期間(20 年)*5 点=100)→ランク:0.8 以上 A,0.3 未満 C 【参考資料】 ・講座臨床心理学4 異常心理学Ⅱ:p107~185 気分障害についての出題は、理由はよくわかりませんが、H11 年以降激減しています。 ただ、非常に重要な障害であり、出題の頻度にかかわらず、知識は身につけておくべきです。 1.概要 気分障害に関しては、いろいろな議論があると思いますが、わたしが最も重要な内容だと思うのは、抗うつ剤の機序 と関連する生物学的側面です。これについては、DSM-Ⅳにおける症状の定義をまとめた後に詳しく説明します。また、 抑うつの意味と学習性無力の現象、病前性格の議論、治療の考え方、躁状態とは何かということについても簡単にま とめます。 2.気分障害の分類 DSM によれば、気分障害は次の4つのエピソードの現れ方によって分類されています。エピソードとは、日本語では挿話 的な出来事といった意味ですが、DSM では、「そういう症状が現れた、ある時期」というぐらいの意味で捉えられます。 全部は到底正確に覚えられないので、それぞれを感覚的な理解した上で大うつ病エピソードの各項目と躁病エピソードの 睡眠欲求の減尐程度は覚えておく必要があります。一見反対に思える、うつと躁の混合エピソードがあること、躁は軽く てもエピソードとして捕らえる点が、興味深いところです。 躁関連のエピソードが無く、大うつ病エピソードのみの障害を大うつ病性障害といい、大うつ病エピソードに至らない抑うつ 気分が 2 年以上続くものを気分変調障害と言います。 躁病関連エピソードが存在する場合は、大うつ病エピソードや抑うつ気分がない場合を含めて双極性障害と言い、以下 の3つに分類されます。 ・双極Ⅰ型障害:躁病エピソードがあるもの。(うつは無関係) ・双極Ⅱ型障害:大うつ病エピソードが在って軽躁病エピソードがあるもの。 ・気分循環障害:2 年以上軽躁病エピソードと抑うつ症状を繰り返しているもの。 また、仮面うつ病という言い方がありますが、これは、身体症状や神経症症状、依存症などで、本来のうつ病の症状 が隠されている「うつ病らしく見えないうつ病」のことを言う表現で、DSM-Ⅳにはありません。 ・A 大うつ病エピソード 3-24,10-28D: 気分障害の中核であるうつ病の時期であり、抑うつ気分または興味、喜びの著しい減退を含む下記の5つ以上 が2週間以上ほとんど毎日存在する時期を言います。つまり、単なる抑うつ的な状態ではなく、それが、思考や身 体の活動に著しい影響を与え、耐え難い苦痛があったり社会的な生活を著しく脅かしている状態です。 ・抑うつ気分 ・興味、喜びの著しい減退。 ・体重や食欲の激変 ・睡眠障害(朝早く覚醒してしまうことが多い)3-24D,7-22c,18-37A ・精神運動性の焦燥や制止(亢進や抑制):精神活動に基づく運動の亢進や抑制。 ・易疲労性、気力の減退 3-24E ・無価値感、過剰か不適切な罪悪感 ・思考力や集中力の減退、決断困難 ・自殺念慮、自殺企図 ・B 躁病エピソード 5-25: 気分が高揚し、開放的またはいらだたしい期間が 1 週間以上持続し、その期間に下記の内容のうち3つ以上が 明確に認められる時期です。ただし、単に活発な感じではなく、統合失調症を連想させるような異常性があり、そ れが、自分や周囲に対して破壊的な状態であることが特徴です。 ・自尊心の肥大:易刺激性、他者排斥的態度(攻撃的傾向)5-25b。 ・睡眠障害:睡眠欲求の減尐 5-25c(抑制減退または脱抑制。) ・多弁 ・観念奔逸:思考のまとまりを欠き、飛躍脱線、誇大妄想、被害妄想 5-25d。 ・注意散漫。 ・目標指向性活動の増加 ・精神運動性の焦燥:行為心拍、転導性の増大。 ・快楽的活動に熱中。 ・C 混合性エピソード:1 週間以上、A と B の基準をともに満たすものです。 ・D 軽躁病エピソード: 比較的軽度の躁的期間が4日以上持続しますが、著しい社会的不適応を起こすほどでなく、統合失調症を思わ せるような特徴が存在しません。 3.原因 うつ病は、遺伝的に生じる器質的な脆弱性の要因があり、そこにストレスなどの環境要因が加わって発症すると考えら れています。抗うつ剤の効果から、うつ病のメカニズムにはモノアミン(特にセロトニン) 7-22a が関与していることが確かです。当 初、単純な中枢神経系のモノアミンの欠乏が原因とする モノアミン仮説が提唱されましたが、うつ病患者のモノアミン欠乏を 示す証拠が得られず、また、抗うつ剤が長期投与しないと効果を発揮しないこととも矛盾するため、抗うつ剤の効果は シナプスのモノアミン受容体の変性にあるとする説が提唱され、最近は、受容体の先にあるセカンドメッセンジャーの二つの系の 不均衡が原因とするセカンドメッセンジャー不均衡説が有力となっています。 海馬はモノアミン(特にセロトニン)の入力を受けていて、モノアミンの伝達メカニズムが損なわれると、HPA 系という内分泌系を 抑制する機能が損なわれます。この HPA 系とは、視床下部から脳下垂体を経由し副腎に至る経路であり、ストレスに応 答する経路です。この経路が暴走して、ストレスに過剰な反応 7-22d,10-28C をしてしまうというのが、うつ病の症状だと考えら れています。 実際に、うつ病の患者には、この系に関連するホルモンの異常が見られ、視床下部や副腎皮質の器質的な異常も見ら れます。うつ病の遺伝子はまだ確定されていませんが、このようなメカニズムに関係した器質的要素である可能性があり ます。 また、海馬は、発達初期に過剰なストレスを受けると不可逆的な障害が生じ、その結果、このような HPA 系の活動亢進 が生じる事が動物実験で確かめられています。つまり、ストレスなどの環境要因は、脆弱性のある人の発症の直接的な 引き金となる側面とともに、発達初期には脆弱性そのものを作り出すという問題があるということです。 4.その他 (1)人は何故、抑うつになるのか?: 生きる意欲を失ってしまうような抑うつ感は、一見、生物の適応としては不自然な感じがしますが、動物が、絶望的な 状態において行動を抑制してじっと耐えることでエネルギーを保存する機能と考える事ができます。病的な抑うつは、こ の機能が不適切に過剰に生じていると考えられます。 学習性無力感は、Seligman,M.E.P が犬の実験で発見した現象で、嫌悪刺激に対して回避や逃避不能な状態に置 かれると、その後に回避や逃避が可能な状態に置かれたとしても、行動を起こそうとしなくなる現象を言います。この 検体の犬には、食欲や性欲の減退、潰瘍形成、体重減尐、脳内化学物質の変化など、大うつ病エピソートや抑うつのメ カニズムと非常に良く似た影響が出る事が知られていています。 (2)病前性格: 下記のようなうつ病の病前性格が今までに提起されてきていて、研究者や臨床家の間では一定の信憑性が感じら れています。これらは、上述のような正確なメカニズムがわからない時代に、複雑な遺伝的影響とそれに対する環境要因 の影響を定性的に理解しようとしたものと考える事ができます。 ・メランコリー親和型性格 7-22b,10-28A :Tellenbach,H(テレンバッハ)の病前性格概念。本質的特徴は秩序志向性(几帳面、 対他配慮)で、転機となる事態が生じて生活の秩序を脅かされると、性格の本質的特徴に含まれる 自己矛盾が先鋭化し、前うつ状態からうつ病に追い込まれます。 ・循環気質 10-28A :Kretschmer,E の気質類型の一つで躁うつ気質ともいいます。肥満体型と親和性があり、開放的、 社交的、妥協的で人間関係が良好であり、現実の生活を享受していますが、熟慮せずに失敗する 事があります。 (3)治療: 薬物療法で症状を和らげた上で、再発の防止のために心理療法を適用するのが基本ですが、薬物療法が有効で ない例や人格障害を伴う場合には、心理療法が一義的な重要性を持ちます。 また、希死念慮がある場合、重症な時期には死ぬ元気もありませんが、回復期に自殺の危険性が高まるので注意が 必要です。 (4)躁状態: 躁状態については、状態の記述はあるものの、その原因やメカニズムなどの記述はほとんど見る事がありません。わた しは、人の自然な回復機能が、うつの状態を正常に復帰させようとするときに、オーバーアクションになった状態と思ってい ます。躁状態は、ドーパミン過剰の統合失調症の症状と類似したところがあります。