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Title ヨーロッパの富裕税 : その理論と現実 Author 古田, 精司 Publisher

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Title ヨーロッパの富裕税 : その理論と現実 Author 古田, 精司 Publisher
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ヨーロッパの富裕税 : その理論と現実
古田, 精司
慶應義塾経済学会
三田学会雑誌 (Keio journal of economics). Vol.71, No.4 (1978. 8) ,p.497(57)- 512(72)
Journal Article
http://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/detail.php?koara_id=AN00234610-19780801
-0057
3 — 口ッパの富;}^税
—
その理論と現実—
古
EQ 精司
.
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■
はじめに
先
(1975年)秋ヨーロッパ諸国の富裕税を調查する後会に恵まれた。わが国では,一般消費税
と並んで富裕税導入の是非が論議されてきたが,海外のま裕税の実施状況を踏まえた譲論は殆ど展
開されていない。そこで, ここではヨーロッパ富裕税の現状を概観し,その問題点を探ることを目
的としている。
'
.では富裕税とはなにか。はじめにその特徴を例挙することにより大方の趣解を得ることにしよう。
第一*に,富裕税が資産全般に課される一般税であっす,特 定 の 資 离 (
たとえぱ不動産)のみに課され
る部分税ではないという点に注目する必要がある。 もちろん現実には,あ る 種 の 資 は 課 税 対 象 外
とされ/ またぽ税最低限をおくことによりある'金額以下の資産は免税とされている。
第二に,課 斑 対 象 は 純 資 産 (
加t wealth or net w orth)で あ る か ら ,総 資 産 額 マ イ ナ ス 負 債 が 対
象となるが, 総 資 額 そ の も の ゆ 対 象 と な ら な い 。 この点に開連して,一*般に純資産の所有者とし
ての個人に富裕税納税義務が生ずるが,西ドイツのように法人,に も納税義務が生ずるケースもある。
,
I
第三に* 富 裕 税 は 毎 年 (
annuaり徴収される租税という意味で規則性をもっている。 この点は,
贈与親•ないし相続税のように同じく資産に課される租税であっても,' 納税者からみて非規則的な性
格をもつ課税とは異なっている。
第四に,富裕税では資産が課税対象とされているため,そめ資産の源泉が勤労によるか'不 労 (
た
とえば贈与や相続) によるかは問題とならない6 また資産が課税対象とされているからといって ,富
裕税がストッ々としての資産の処分またはプロ一としての所得のどちらから納税さるべきかをも間
/
,
うものではない。
第五に,富裕税は-^定 時 点 (
たとえばI2月31日)における資産所有について評倾される。 この点で
も, 赠与や相続のような資産移転, または資本利得のような資産売却の時点がさまざまであり, し
たがって評価の時点がさまざまである課税とは異なっている。
富裕税の性格は, このような特徴から概略なりとも推察することができよう。だが, さらに具体
的に富裕税の対象とされている資産を举げれぱ,その越解は一層深まるかもしれない。対象資産を
物理的資産と金融資まとに分けてみよう。物理的資; ^ としてゆ,家屋,土地, ま動車, ボ" ト,家
—'
— '• 57 (^497) *~~~
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嘯
学会雜誌j 71卷4 号 (
1978年8月)
.
具,宝石,給画i , 自家営業資産,などが挙げられる◊ 金融的資産としては,公債,社債,上場•非
上場誰券,銀行預金,現金,年金なと*がある◊ もちろん,このような富裕税の対象となる資産は以
上の物件に限定されているわけではなぐ, 後述するキうに,その扱い方にはいくたの問題点が残さ
れている。
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,
富裕税の機能と目標:公平と効率
ここでは富裕税の効果を二つの側面から検討することにしよう。一つは公平という側面であり,
.
いま—つは経済効率という側面で:ある。このような二分法が果して富襟税のありレき効果のすぺ
てを厥し.ているか否かには間題が残るであろうまた,公平と経済効率というニ側面が必ずしも代
替的ではなく,補完的関係に結ぱれているばあいもあることに窗韋b よう。
だが,公平と経済効率の問題に進む前に,Sanford らにならいありうべき 富裕の二つのタイプに,
触れておきたい0
'つは,「
所得削減型j ま裕税 (
substitutive wealth tax) でありj いまーつ は 「
資
本削減型J 富裕税 (
additive wealth ta x ) である。 所得削減望のもとでは, ま裕说納税は所得の弓
ちから支払うことができるが,資本削減型のもとでは,所得からは不可能であり,資産処分によっ
ての み可能となる.ものである。このばあい,富裕税のみならず所得税との合算のう★.で可能か不可
能かが問われている。累進所得税制を考慮に入れると,このようなタイプの分類は必奠となろう。
しかしこの分類では,Sanかr d らも認めるように, 二つの欠点を免れることはできない。一つは,
この区別は納税者の消費水準と資産処分により左右されるからである。たとえ所得の百バーセント
をかなり.下回わる所得税* 富裕税合算額が課せられても,納税者の消費水準の程度によっては資産
処分も必要となり,したがってこの富裕税は資本削減型とされよう。また,資本削減型富裕税が課
せられても,納税者が低収益資産から高収益資産へと乗換えるならぱ可処分所得はむしろ増加し, *
この富裕税は必ずしも資本削減型とは呼べなくなるであろう。
いま一つの理由は,資産保有の水準によって富裕税が所得削減型ともなりうるという不明i t さが
残されているからである。大抵の納税者にとっては所得削減型であっても,全 一 . ニを争う演[産
家にとっては資本削減型となるかもしれない。そのような富裕税を完全な意味での所得削減型と呼
ぶことにはだれb も疑問を抱くであろう。
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.
^
ロ
「
水平的公平J の 目標を
これまで裕税が広く支持をあつめてきた理由は,富 (資産)の不当な
U - ま モ 規 で き - . 、 集-中排除,勤労所得にくらべ財産所得の重課,および高所得階層に対す
る実効的課税(
累進所得税の合法*非合法的脱税の防止)という課税上の公
平を実現するに有効と考えられたところにある。
伝統的租税理論では,公平の原則として二つの側旧が12:
別され, それぞれが広くま:持されている。
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95〉*—
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レバめ富裕税
つは,かとしい経済力をも'^ ひとびとはひとしく极われるべきであるという水平的公平のM 則や .
あり,レま二つは異なる経済力を‘もつひとびとはその経済力に応じて異なる扱いをb けるべきであ
るとする垂I t 的公平の原則セある◊
‘
‘
まず水平的公平の原則からみて,富裕税H どこまや公平の目ぽをま琪しうるかみてみよう。 ここ
ヤ.は, 経済力を測る尺度として所得のみでは不充分であり,資産とレう‘尺度をもっで補完さるべき
であるという観点が貫ぬかれている。なぜなら,資産保有という事実が保有者[こ威信,‘ 安全> 独立,
経済的機全といづたさまぎまな使益を与えているからである。
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は, ; 資 産 は 干 備 費 消 力 (
reserve spending power)を表わすから,所得という経済力の
尺度、
と相$ 補完的関係にあるとみなしている。なぜならぱ, 第一に, 宝 石 ‘ 地金のたぐいで巨富を
蓄とる大を持は,たとえ所得がゼロであるからとい力て,同じく所得がゼロである乞食と同様に経
済力がゼロで、
あるとはみなしがナこいであろう。多 額 の 宝 石 • 地金の保有にょり,たんに一種の心理
的所得(
それは宝石• 地金から収益を生む投資に乗りかえれぱ得らみるはずの所得がもたらす効用にすくな<
ともひとしい)が; ^ られるぱかりやなく,資本利得をうる可能性もまた与えられている。 し か し ,所
得税やはこめ種の経済力を課税対象とすることはできない。
.
第二に,たとえ同での所得があるとしても,それが同一の経済力を表わしているとは必ずしもい
えないであろう。かりr , . A とB が同一の投資所得ニ1 千万円をえてい.るとする。 しかしA は 1 億
円 の 資 本 で 1 千方円をえたのに対し,
• B は 2 億円の資本で1 千万円をえたと仮定しょう。 このとき,
だれがみてもB はA ょり’ も明らかに大きな経済力をもっている。 B は自分の資産を処分しA と同じ
資産に乘りかえるならば, これまでめ2 倍だけ所得を増加するこどがで、
きるからである.。 B はこれ
まで低利子' ^ き債券保有にょる流励性と確実性という利得,銀行預金にi る使宜性という利得,そ
れに持家や耐久消費財にょも掃厲所得をえていたかもしれない。 これに対し, A は高利廻りの誰券
をもっていナこめであろう。 し)^、
しこのとき,貨幣所得のみを課税対象とする所得税は, E にとって
は有利で、
あるが,A にとっては不公平とみなさざるを克ない。
水平的公平の観点からは, ま裕税は所得税の補完税として所得を生む生まないにかかわらず,資
摩を捕捉しバランスを図ることができるぱかりでなく,同一所得を生むけれど金額の大きさが異な
る資産についても同じょうなバランスをとることができょう。 また,所得税と富裕税の併用といラ
課税標準の拡大にょり,非収益資産を購入することにょり所得税を合法的に回避しょうとしても,
富裕税にょり阻止されることになろう。
つぎに垂直的公平の原則からみて,富裕税の役割はどのょうに評価できるか検
「
垂直的公平J
討して み
の目標はどクかと
が
ょ
う
。
わが国では所得と富の分配が不平等であると盛じているひとび
少なくない。 しかし逆に,わが国のそれは西欧諸国、
にくらべても平等化さ
れていると考えるひとも'ある。卖際には,そのょうな綺計の国際比較は-非常に難しい問題を抱义て
•
--- - 59 (^499 ) --- -
r三田学会雑誌J 71卷4 号 (
19?8年8 月)
いるので筒単に結識を引きだすことはできない。けれども所得分配にっいては, 最近の企画庁資料
■ HKB
によっても,またOECD報告書によっても,わが国のぱ あい, アメリカ,西ドイツ,イギリス とか
なり類似,した所得 階層別分布がみられる。しかしまた,資産 分配に関する測定は一層® 難となり,
なんら信ぼするにたる資料があるわけではない。したがって,かりにわが国の資産分配の不ギ等か
是正するために,富裕税の新設が必要であると主張しようとすれば,それなりのま諷デ^タが前提
とさるべきであろうか
だが,垂直的公平という観点から富裕税を評価するさいに当面する最大の障害は,垂直的公平の
原則を支持するひとびとが少なくないにもかかわらず,その意味を正確に定義したひとは一人もい
ないというところにあるここでは絶対儀牲均等, 比例犧牲均等,限界儀牲均等を めぐる論争から
社会 厚生関教論にいたるまでの学説を検討することは控えたい6 いずれにせよ,垂直的公平の原則
の重要性はどれほど強調しても強調しすぎることはないが,しかし操作性の欠除という弱点を無抱
することもできない6
そのような制約はあるが,一般に認められていると思われる富裕税の役割は,.第一に,.累進所得
联との組合せによる課税べ•^スの拡大による直的公平の達成である。累進所得税により経常所得
と人的資本,言裕税により有形資産をそれぞれ課税標準とすれば,所得の不平等のみならず資産わ
不平等も是正されよう。所得と資摩は不可'分の関係にあるから, 雨面から巨額資産の不当な集中を
阻ル*するに役立っにちがいない。 またThurowが仮設例で示しているように,一生か通じて一度だ
け課される相続税にくらべ, 毎年課される富裕税では,投資収isの蓄積をっうずる資産の集中を抑
制する効果により,垂直的公平の達成に資するぱあいもあろう。
.
第一に,富裕税による维直的公平の達成を,インフレーシ3 ン胆止のための所得政策の前提条件
とみなす見解もある。資産分配の不平等がま裕税により是正されるならば,社会一般の公平感が満
たされ,それにより公共政策のため赁金上昇の抑制という賞金労働者の負担する犧牲も受け入れら
れやすくなるという見•方である。イギリスの富裕税導入の意図には,この見解がひ;
^ んでいる。垂
ま的公平の原則は,しぱしぱこの種の見解のように,公平の目標を達成すること自体よりも,別の
目標のための手段として重要視されることがあることも留意すベきゃあろう。
最後に,垂直的公平の原則と富裕税との関係で最も急進的な見解は, 先に述べたr資本削減型J
富裕税こそ垂直的公平の原則にふさわしい富裕税であるとする,かっての 資本課税のように,社会
危機め段階で主張されたことのある見解である。この見解には,一般に,経済効率を胆書するとい
う反論が対置されるのが通例である。けれども,■i*;来この種の問題の議論は,r舶なく羅針盤なく
して大海に乗り出すにひとしいJ 議論とされているので, ことではこれ以上立ち入ることを控えよ
Sanfordらは,水平的公平の原則からは,所得税の補完としての富裕税,したがって低税率かっ
--- 60 (500) ----
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為f n
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ッパのま^^税
比例ないし低度の累進税率をともない,力の低度の課税最低限をもつ富裕税が導きだされるとして
いる。 また,垂直的公平の原則からは, とりわけ急進的見解にしたがえぱ,累進税率および高度の
課税最低限をもつ富裕税が導きだされると主張してい.るようである。
結論として,A ilanやT h u r o w のように* ~"定の価値判断のもとで,資産分配の不平等を是正す
るための高度の累進富裕税を主張することは可能である0 しかし,高度の累進富裕税が社会的厚生
の極大化をもたらすと主張しうるためには,なお 一^層 の を 必 要 と す る は ず で あ る 。 とりわけ
T h u r o w のように,階 層 順 位 公 平 (
rank order e q u ity )といった第三の公平基準(
市場経済で生みだ
された所得の階層順位を税制は改変してはならない)が容認されるならぱ,か れ g 身が認めるように,
そめ基準は水平的公平の基準とはM 立するけれど,垂直的公平の基準とは両立できない可能性があ
ることに留意せねぱならない。高度の累進富裕说の存在理由を主張するためには,なお一層の研究
が必要と考えられる。
裕税が主張されるとき,その論拠は主としで公平に求められているが,
1
の申^
効^
ま
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で
し同時に経済活動の効率を胆害することが比較的すくないという点に求めら
■ か
れることもある。U)資本の一層生産的な利用を促進する効果,{iO所得税の
もたらす効率阻害をある程度までま和する効果,そして脚所得税行政の効率を高める効果などがそ
れである。
‘
まず富裕税^が有形資産すベてに課せられる一般税であるという特徵を想起しよう。そのとき富裕
税は,資産所得に对する所得税にぐらべると,投資収益に直接に課税することにはならないから,
それだけ阻害効果は少ないという点が指摘できる。 同額の税収を仮定すれぱ,富裕税収入は非収盐
資産からももたらされるから,その分だけ投資収益に対する所得税よりもインセンティヴを阻害す
る効果が少ないととになろう。
これと関連しt ; , 第二に,富裕税の役割として指摘されるのは, 所得税にくらべると,.資産所有
者の危險負担活動を促進し資産の一層生産的な利用を促進する効果が勘待できるとされている。所
得税は貨幣所得を課税対象とするから,現 金 • 地金のもたらす流動性その他の非貨幣的使益には課
税できないが,ま裕税は貧職所得を生まない資産も⑩税対象とこれることにより,現金•地金のよう
な非収益資産のもたらす流取!性等の非貨幣的使益を減少せしめるから,それだけ危険食担活動と生
産的用途への転用を促進するはずである。 したがっで所得税のもとで低収益の証券に投資されてい
た齊全も,富裕税のもとではより高い収益を求めて転換せざるえなくなるであろう。
第三に,富裕税は,所得税にくらべ勤労意欲に対し顕著な阻害効果をおよぽすとは考えられてい
ない。 なぜなら,所得税は労働の報酬である所得を削減するという#で勤労意欲に種のペナルチ
ィを課すことになるが, 富裕税はその種のペナルティを課すことにはならないからである。
第四に,貯蓄形成については,富裕税はまさに貯蓄形成そのものを課税対象とするから,所得税
•
--- 6 1 { ^ 3 0 T )
も
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r三ffl学会雑誌j 71巻 4 号 (
I978年8 月)
よりも大きな阻害効果をもつとされている。同額の税収を仮定するならぱ,年々の貯蓄が富裕税の
課税対象に加算されていくのであるから,所得税よりも貯蓄形成に対する狙害効果は大きいと考え
られている。.
■
しかしまた第五に,所得税にくらべるとま裕税は,納税者に与える心理的衝撃が少ないとみなさ
れている。たとえぱ,かりに5 パセントの収益率をもつ資産に対し1 パ"セシトの富裕锐が課さ
れたとする。そりような富裕税の税収は20バーセントの新得税の税収と等しいが,しかし資産所有
者にとつ ては, 1パーセントの富裕税よりも20パーセシトの所得税のはうが強烈な心理的効果をも
つて受けとめられ,税負担を軽減しようとする行動を生みだしがちであるとされている。
,
Dueをはじめとする論者により権摘された,以上のような富裕税の経済効率に対する効果は,'お
お むねr他の条件にしてひとしければJ . という前提のもとでの見解であり,必ずしも直ちに一*般化
できるものではない。たとえば,危険負担活動に対する富裕税の効果は,損失招殺制度をともなう
という条件づきの所得税にぐらべると劣るかもしれない。 この場合,所得税なら税務当局が危險負
担を分担することになる力V 富裕税ではそうはならな、
からである。さら.に危険負担活動の報酬は,
資本利得の形をとりやすいが,資本利得が毎年富裕税の課税対象となるのに対し,所:^税では課税
対象とならないとすれば一層さきのような見解は弱められざるをえない。
.
富裕税が民間部門の経済活動効率に対'しどのよ うな効果をおよぼすか と い う間題とともに, 公共
部門の税務執行上の効率につVぱも同様の問題が問われねぱならない。
•
一般に認められている 富裕税の税務行政全般にもたらすメリットは,資産調査の結果えられた資
料が所得税,相続税,贈与税め税移行政面の資料とクロスよキェッグされるため, 脱较*の発見に役
立ち,それゆえ脱税の減少が期待できる点である。個人資産に関する資料が個人所得に関する資料
と突き合わされるので,,
隠された資産ないし所得の発見が容易となろう。さらに富裕税の資料は赠
与税および相続税の資料とも突き合わされるならば,同じ<:隠された贈与と相続についても発鬼し
やすくなるであろう。逆ホまた真であるから,ま裕税それ自体の税務行政効率は高めちれるであろ
しかし,この点も後述するように,あまり強調されてはならない。GoodeやTanabeが指摘する
よラに, クロス. チ31ックはあらゆる所得や資産を力バーするものではない。勤労所得や無収益資
座も考慮に入れ,かつ課税最低服を低めて課税範囲を広くとるならぱ,クロス•チェックが完璧に
実施できるかもしれないが,同時にまたかなりのコ ス ト を覚悟せねぱならないであろう。個人所得
と資産とのクロス♦チ:^ックには,個人消費,家計消費,さらには所得, . 資廣,鱼債の変動も克明.
に調査するという容易ならざる作業がつきまとうのである。
最後に残された問題として, 富裕税のありうべきマクロ的経済効果の梭射がある。けれども富裕
税を設けている西欧諸国でも,富裕税収入のケュイトは税収総額の2 /ミーセント以下であるから:,
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口ジパの富裕税
富裕税のマクロ的経済効果が国民経済の動向を左右するはど強大な影響を与えるとは考えられない<
したがっ てまた,ビルト• イン♦ スタビライザ"としての富裕税め役割を重要視することもできな
いと思われる。.
ぺま裕税制度の特徴と総合税鱼担の比較
これまでに述べたような富裕税に関するおおよその認識を前提として,西欧諸国における富裕税
の実態を概観してみよう。対象国は,西ドイツレオランダ, イギリス, スウェ、
一デン,デンマーク
である◊
西欧では以上の国Q ほか, ノールウCCイ, プインランド, オ一ストリア, スイス,ルタセンプル
ダで富裕税が実施されている0 またアジアでは,インド,パキスタン,ス!
)ラン力,中南米ではコ
ロンビア,ウルグァイで実施されて、、
る。さらに, イギリスおよびアイル9 ンド共和国は,調查時
点では富裕说を新たに尊入すべく審議と梭討を重ねている段階であった。しかしまた,オースト.ラ
リヤゃカナダのように慎重に棱討を童ねたにもかかわらず,富裕税の導入に踏みきらなかった国も
あることも記億さるべきであろう。そして最後に,はかならぬわが国もシャウプ勧告をうけて1950
年に採用し, 3 年後に廃止という経験をもったことも趣調されてしかるべきであろう。 :
西欧四ヶ® の言裕税制度について,共通した特徴を引き出すならぱ, それは!
■所得
西欧富裕税
税の補完税丄という特徴に足きるであろう。それは資産所得重課に代わる税であり,
制度の特徵所得削減型富裕税として水平的公平の達成を意因しているが,とりわけ経済効率を
促進するために導入されたとみなすこと‘はできない。
ここゼほ, . (
I)税率 . 課税限度額. 税収,U)課税対象♦課税単位, ® 評価制度• 徴収制度という三
側面から四ヶ国富裕税制度の特徴をできるだけ简単に要約しておこう。
(i)まず税率である。 ス ウ ; デ ン と デ ン マ ー ク は 累進税率であっても0.9 から2.5パーセント とい
う程度であり,西ドイツとオランダは それぞれ0 .7 と0 .8 という比例税率を適用しているにすぎない。
つぎは課税限度額である。西ドイツを除いて,すべての国が一^定の限度額を設けてレる。たとえば,
最も高い限界税率(
2‘5バーセント)をもつ国であるスウCC一デンでは,所得税と富裕税の合計ほ課
税所得の80バーセ ソ.ト以下(
所得が20万 ク ‘ネ超のときは85パーセント以下)という限度額が設けら
れている。このような限度額を設定する意図は,明らかに資本削減型富裕税に転化する可能性を抑
えることにあるとみてよいであろう。なぜなら,西 ドイツで眠度揮を設け' いない现由は,富裕税
が資本削減型になることを妨げなV、
というのではなく , 所得说* 富裕税の税率がそ;の他の対象国に
<.らべ最低であ るがためにすぎないと考えられるからである。税収総額に占める富裕桃のクユイ. ト
について みても, J971年度ではデンマ .じク© 0.ラバ' " セントかち西ドイツめ1.3パーセント にすぎな
—— 63 iS03)
■
rニ旧学会雑誌J 71巻 4 号 (
1978年8 月)
いことからも,富裕税が現実に担づている役割,ないし担いうる役割についで過大な期待を寄せる
こ'とはできないと考;t られよう。
(n)まずぽ税対象として,世帯用具が非課税となっている点で4 ヶ国は共通している。しかし西ド
イツでは,贊沢品とみなしうる世帯用具は課税対象とされている。オ
ラ
;/
ダとス
ケ エ ー デ ン で も 一
定限度額以上の宝石は課税对象とされている。けれどもデンマークセは,このような一定限度基準
すら設けていない。事業用を除けば,デンマークでは住居内にあるものはすべて非課税である。
課税単位については,夫婦の資座合算という点で4 ヶ国は共通している。ただし, 税単位のな
力、
に未成年者を含めるか否かという点では同じではない。それに西ドイツとオランダでは,妻,块
養子弟,老齢者,身体障害者に対し課税脾度を引上げるというキメ細かい緩和措置を設けているの
に対し,スウエ•■••デンとデンマークでは一世帯に封し独身者と同じ課税限度を設けているにすぎな
则評価と徴収の務が地方分権化されている点で, 4 ヶH には共通した⑩徴がみいだせる。しか
し評価手続きをくらべると,オランダは他の3 国とは違った特色をもっている。 オランダでは,納.
积■者自身か 市場価格にもとづいて資産評価を行ない, 地方税檢查宵(
de gemeentebelasting inspecte u r) に申告する義務が課されてい
る 。
検査官はかなり強い自由裁量'権が与えられており,おおむ
ね申告された評価にもとづき課税するが,申告を拒否することもある。これに対し他の3 国では,
評価に当って一定の原則と手続きを規定しており, オランダのようになんらの 規定も設けていない
方 と は 異なっている。 なかでも, 西ドイツは最も厳密な資産評倾法をもっている。 し か し , 西 ド
イ ツでは3 年に一度申告するにすぎないが, 他の国では毎年申告を妻するという 相違点にも留意せ
ねばならない。
さきに,徵収制度におけるクロス• チ; ヴ クの利点に触れた力;,これを最も重視している国はデ
ン マ ー ク で あ る 。 デ ン 々
ークでは,所得税納税者はすべて,富裕税の課税限度以上か以下かを間わ
ず,資産評価について申告する義務が課せられている。その狙いはグロス• チ-ックの利点をでき
るだけ生かすところにあることは明らかである。スウ
X
—
デンでも同じ狙いをもっているが,デ ン
マークはど重視してはいない。これに対し西ドイツとオランダでは, ク
ロ ス • チ X
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クを行なって
はいるが,その利点を実際には高く評伽していない。西ドイツでは所得税とま裕税の申告は別個に
提出され,オランダでは富裕税納税者のみが完全な所得税‘富裕税統合申告書を提出する義務が課
されている。
富裕税‘ 所 得 税 の 総 合 能 率 の ■
»
の富》 は確かに所得税の^^院税という》 が与え
— イギリス,スウ广デン,西ドイツーられている。だがそうだとしても,所得税の補完として
,
'
働くま格税は,斬得税と合算しヤみると資産階層別にど
の程度の税;^ 担をもたらしているのかという疑間が残る6 幸い,との糖の疑間にS a n fo rd らがお
- 64 (504Y
バの富裕税
おまかながら算定を試みているので,その算定の一端を掲げておとう
衷 :富裕税と所得税の総合税負担率の比較
(勤労所得600万円で最低控除をうける独身者が異なった資産額をももち,
かつ異なった収益率に当面したぱあいの総所得fこ対する総合税資担率)
資産
(単位1 廣R)
0.3
0.6
し2
3.0
6.0 '
30,0
収益率2%
イギスウ;
t .西 ド
リス一デンイツ
41%
43
48
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61% 41%
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収益率10%
•イ ギ ス ウ :E 西ド
リス一デン イ ク
1 51% 64%
73
1 60
82
1' 72
83
85
84
91
85
96
44%
49
53
58
60
62
46.ただし,他举化のため1 ポンド=600円に換算。
イギリスのぱあい,富裕税は含まれていないが,120万円(
2,000ポンド)以上の所得に対し
て15バーセントの投資所得課徴金(
1973年より実施)が含まれている。
-
表によると,イギリス,スウェーデン,酉ドイツの3 国における富辩税と所得税の総合税負担率
の比較が行なわれている。スウデンと西ドイツは,それぞれ最高と最低の富裕税負担を評して
いる国として選ぱれている。またイギリスは,これまでのところ富裕税を設けておらず,種々のタ
イプの富裕税が予想できるため,富裕税は含められていない。しかし現在,イギリスでは資産所得
に対する課税として1973年から投資所得付加税(
investment income surchange) が課されているの
セ,’ それが含められている。
- この表の狙いは,資産課税としての富裕税と投資所得付加税にプラスして勤労所得に対する累進
所得税も舍めた場合に,総所得に対する総合税負担■
率は資産階層別にみると,それぞれの国セどの
程度の格差があるかを比較しようとするものである。 こ こ で 勤 労 所 得 ③ ⑩ 円 (1万ポンド)の独身
者が仮定されているが,それはイギリスの重役や専門職給与を奉も》
しているようである収益率2
パーセントと10パーセントの欄でそれぞれ点線で囲った部分は,資産腊層別にみて,あまりにも低
すぎる収益率とあまりにも高すぎる収益率という意味で, ともに非現実的な収益率とみなされても、
る。
算定の結果によると,収 益 率 2 パーセントでは1 億 2 千万円U 下の資産階層についてみると,西
ドイツとイギリスははとんど差がない。 し か し ス :
c —チソ の税鱼担率が高V、
ととが目立っている。
収 益 率 5 パーセントでは,西ドイツは全資産階層にわたって最低の教■
負担率である。 しかしイギリ
スは, 資 産 6 億円を超えるとスウ: 一デンよりも税負担率はかえって高くなる。そして収益率1^^バ
一セントでは, イギリスは資;^ 3 億円以上で税鱼担率は最高となっている。そしてSanfordらが強
調するように, この数値にはイギリスの富裕税予想値は含められていない。 ,
このような算定結果は, その手続奪にいくたの制!^ があるため解釈も慎重を期すべきであろう◊
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--- 65 (505) --- -
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r三田学会雑誌J 71巻 4 号ひ 978年 8 月)
富裕税に関連した税として,国税としての所得税のみならず地方税としての所得税(
スウA -デンで
は比例税率20パ- セント)も含めたならば, 地方不動産税も含めたほうがよいのではないか。 資本利
得課税が国により殺度が異なるとしても,算定に含める試みがなされてもよいのではないか。 さら
に統一的課税標準や統一的評価方式を想定することも考えるなら,算定手続きはきわめて複雑かつ
困難なものとするであろう6 したがって, こ の よ う な 制 約 を 考 慮 に 入 れ ね ば な ら な い が ,な お か
つS a n fo rd らの指摘するように,西ドイツの総合税資担率は最も低く, ス ウ 一 デ ン で は 収 益 率 が
最低ないし中位のところでは中小規換資産の所有者にとって最も税負担率が高く, さらにイギリス
では,富裕税がなくとも中位ないし最嵩の収益拳であれぱ,大規模資産の所有者に•とって最も税負
担率が高い-と結論することは許されるであろう。
I
ヨ ー ロ ッ パ 富裕税制度の執行面の問題
西ドイツ, オランダ, スウ:n —デン, デンマークの富裕税制度の執行面ではどのような問題が残
されているか。 ここでは各国の税務担当者から聴取した契情説明を参考としてまとめてみるこ.とに
する。 したがってまた,それなりの制約が課せられていることもあらかじめお断わりしておきたい。
、 調查对象の4 ヶ国のうち® ドイツのま裕税制度では,内国法人企業も個人と並んで納
税義務をもつという点で,他の国々とは異な っ T いる。法人も含む理由として,{り法
人企藥と個人企業の競争条件の同一^化,(
ii)税収後保,の 2 点が举げられている。西ドイツの富裕税
は税収全体の1.3パーセントを占め,そ れ は 4 ケ国のなかで最高である。 しかも法人企業は同税収
のはぽ60 バーセントを寄与しているから,税収確保の観点から落すわけにいかないのであろう。 し
かし,個人企業との!! 争条件の同一化が狙、、
ならば,法人税も含めた税制全面にわたり同様の措置
.
をとるぺきではないだろう力、
。
この疑問に対し,法人税の改正により所得税とのニ重課税廃止の線はでている力';,富裕税とのニ
重課税調盤は考えていないという当局の説明があった。ちなみに,個人のぱあい富裕税納税額は所得税ホ告のさい所得控除されたが,金持の税負担軽減の効果があるため按除をとり止め,代わりに
税率を1975年♦ ら0.7パ" セソトに引下げ,法 人 は 1 バーセン卜に留めたという説明もなされた。
このような措置が競♦ 条 件 の 同 化 に 役 立 つ と は 考 え が た い が ,西ドイツに比較的個人企業が多い
理は1を說明する一端とはなるであろう。
執行面での最大の問題点は評価方式にあると思われる。評価間隔は原則として6 年と定められて
いる力'り実際は約30年である。農地め評価は時価の10 パ'^セント粗度,林野は1 バー セント程度と
いう説明であった。概して農林業資産の評価は箸しイ低い。これは各国に共通した問题であるが,
西ドイツは最低という印象を与える。 rハンカチ農業」 と呼ぱれる零細農が多い西ドイツが, E C U
---. 66
I
( ^ 5 0 6 )
---
.
ヨーロッバの富裕税
.内で衰退した競争力を支えていこうとする農業保護政策の一部ともうけとれ^る
‘
'
だが富裕税では債務が控除されるので,低評価はつぎのような弊害を生みだしやすい。たとえぱ,
現金10方マルクをもっているひとはそれなりのま裕税負担が諫せられる。 しかし借金で20万マルク
の農家を購入し,評 価 が 1 方 5 千 プ ル ク (
7‘5パーセント評価) であると, 1 0 方マルクの債務があるの
で富裕税食担はゼロとなる。のみならず, 他の資産価値から8 方 5 千マルクが控除できる。
4 ヶ国のなかで西ドイツのま裕税が最も実績をあげ円滑に実施されているという印象であるが, .
しかしG o o d e のつぎの言葉を想起させるものがある。 「
富裕税の執行には当然,資産と負債の完全
な計算が必要不可欠なものとなろう。 しかも,時価評価が政く望まれよう。 もし処分時までの各填
目を帳薄価格や取得倾格で評価し,ようとすれば,富裕税は経済力の補足的尺度としての長所の多く
を失うであろうJ 。
オランが
ォランダの富裕税の理論的根拠は,U)資産そのものが担税力をもつ, {iO資産所得は勤
労!?r得 に 比 し 安 定 性 (
継続性)に富む, という2 点に求められている。 しかしまた,
富裕税の税率を近年に0^5, 0.6,0.8バ" セントと次第に引上げかつ挂除を据えおいているので,当
局り説明のように,税収確保という観点のみならずまの再分配を促すという意図も認められる。
資産評価は市場価格を基準とする点で,西ドイツより歩進んでいるように思われる。 しかし実
情を調べると,農 地 の 評 価 は 実 際 の 取 引 格 の 40ないし45パ、
- センド,宅地の評価は同じく65ない
し70バーセントという低評価が一般であるという。 依評価は公平の面のみならず, 効率の面でも
r凍結効果J を生みだすので望ましくないとされている。. それにもかかわらず,ォランダの評個方
式を含めた執行面が4 ヶ国のなかで成功を収めたとみなされる理由はいくつかあるようである。.
なかでも評細の実際に当って心すべきことが2 点あるといわれている。一つは衝^費と納税者の
納税協力費の最小化であり,いま一*つは評価をめぐる不確実性と評価確定における遅延をできるだ
け排除する, という2 点である。先にも述べたように,ォラン ダ の み が 実 際 の 評 価 に 当 り 統 的 な
ガイドラインをもたない。だから純税者と地方税検奄官がイ ソ プォーマルな形で話し合い,相方が
納得したときにはじめて評価確定という方法しかありえない。納得できないときは, 納税者は2 ヶ
月以内に提?iTfできその手続きも簡単であるが,他国にくらべあまり多くないようである。
. ォランダの富裕税の執行面が高く評価されている根抵には, 富裕税の長い11史とあわせて.ォラン
ダ人の忍耐强い国民性もあると思う◊ 力のて1年半ォランダに滞在した筆者には,ま裕税はこの国
柄に合う税という感がしてならない。税収の比重こそ西ドイツについで2 位であるが,富裕税の理
論と実際の同® を折衷している点では西ドイツをしのぐという印象をうける。 ’
ス r*7J*
ン
スウ cn
チソ の富裕税は,西ドイツやォラ ソ ダのように比例税率ではなく, 1 バ
'
一セントから2 .5パ" セントにいたを⑩段階の累進税率が適用されている。その
狙いは, 所 得 ‘ t の公平な分配を実現ずるという目標が壞優先とされているからである◊ 農地や"^
s織
r g 田学会雑誌J 71巻 4 号 (
I978年8 月)
般 不 励 の 評 価 は 市 場 価 格 の は ぼ 75バーセツトと考えられている。 まメこ査定委員会の構成メンバー
も 大 部 分 は "般市民であり,市民が税務行政に協力するというのがスウ一デンの伝統であるとさ
れている。
;
しかし仔細に辕討してみると,A lla n や T h u r o w の想定したような公平と効率のためめ理論的
•
富裕税にはほど遠いという印象である。
水平的公平の鶴点からは, 宝 石 • 地金をもっ大金持ともたない乞食は,富裕税により担税力が的
確に把握されるはずである。 しかしスウェーデンでは,確かに宝石•地金は課税対象とされている
力;,過小申告と過小評価が普通とみられている。 さらに最近の判例によると, 単 な る 宝 石 *地 金 の
コレクション(
指輪に仕立てたダイヤモンドは除く)は非課まとされるにいたっている。非課税ないし
過小申告される資産の種類と金額が増えると,それだけ水平的公平を達成しよう.:とするあいは不成
.
功に終るであろう。
. りみならず,それは経済効率の面でも望ましくない効果をもたらす9 富裕税は非収益資産を高収
益資産へと転換せしめ,資 産 の 生 ま 的 • 効率利用を促進するはず*^^あった。 し か レ ,現 実 に は 宝 石
金めコレクションが非課税とされるならば,むしろ高収益資産からfま収益資 産 へ と逆転換が生
じ,かえって資産の生産的利用を胆害することにあろう。そして事実, スウェーデンでは課税資産
から非課税資産(
たとえぱ郵便切手. 美術品コレクシ3 ン ♦生命保除証券など)へと転換する傾向が認め
られている。
ス ウ 广 デンの富裕税制度は,デンマークのそれと同じように, ガイドライン,課税限度設定と
いう点でも,富裕税に与えられた目標を必ずしも満足できるほどに達成しているとは考えられない。
加えて,資 本 利 得 税 が 不 備 で あ る 現 状 で は ,税制全体に占める言裕税の占めるべき地位も再検討
が必要とされているようである。
ァンマ一ク
デンマークの富裕税は, ニ 段 階 税 率 (
0.9 と1.1バーセント)をとっているとはいえ ,
税 収 は 4 ヶ国中最低である。課税最低服は最も寛大(
旧税 . 地方税の所得税, 富裕税,
基礎年金保険料の合評が課税所得の70パ—セント以下)であるから, 垂直的公平という観点が欠落して
いるとみなしてよいであろう。
課税眼度は,勤労所得も含めた課税所# に適用されるので,公平と効率の観点からみて奇妙な事
熊が生じかねない。 デンマークでは課税所得が課税資座の6 パーセントに満たないときは,差額の
0.4パーセント当り5 バーセントだけ富裕辕が減税とされている。 したがって,かりに100万クロー
ネの資産をもっていると,.課税最低服が45方クロ-•ネであるから, 富裕税額は税率0.かく一セント
が適用されて,4,950クロ k ネとなる。
勤労所得がゼロとして投資所得が5 万クロー ネあるとすると,
これは100方 ク ロ " ネ の 5 パ一 セ ン ト で あるから,富裕税額は15バー セ ン ト だけ減税されて,4,208
'クロ" ネにまで低-下する。 けれども, もしこのひとが1 方クローネの勤労所得をえたとすれぱ,課
—
68 (5 0 8 ) —
ヨーロ 'ツパの富裕税
说所得は資産の6 パーセントを超えるから,さきのような減税の特典はえられなくなる。というよ
りは富裕税の増税のみならず,60パ*"^セントの所得税率力f 控えているから所得税の負担も増加する
ことになる。このような寄妙な事態はスクュ一デンにもみられる6
さらにデンマーク富裕税の特徴は,'他® にくらぺ課税最伍限が最も高いというところにある。こ
の点にも,デンマ^ク富裕税の照準がどの目標にむけられているのか暖昧にしているという問題が
ある◊ もしも水乎的公平の達成を狙•っているのならぱ,課税最低限を他国並みに引下げてカバレッ
ジを広げ納税者人員を広げる必要があろう。デンマ^クでは所得税納税者はすべて富精税申告の義
務が課せられているが,さもなくぱ水平的公平の達成は困難となるはずでぢる。しかし税務行政費
は公私ともに巨額とならざるをえない点も銘記さるべきであろう。またデンマークでは所得税申告
とあわせて富裕税申告が必要とされるため,クロス. チジクも十分に行われているようであるが,
富裕税の課税最低限がこのように高くカバレッジも狭いとなると,クロス• チェジク白体の意義が
どれほど生かされているか疑問とせざるをえない。
非課说品目については, スウ;
C 一デン以上に問題を含んでいると思われる。 デンマ'•"クでは,
r富裕税はドア'- の前でストッ.プJ ' という原則があるから,宝石といえども非課税である。宝石 •
地金を巨額に抱える大金持は,なにももたない乞食と同様に,デゾマークではスウューデンよりも
公然と富裕税にかんしてなんらの痛择も覚える必要がないことになろう。
j\ r富裕税をどう評価するか:理論と現実につV、
ての展望
'
ョ一口ッパ富裕税制度の現状がこのようであるとすれば,ぎ裕税についての
S
面
裕
で
税
残
の
さ
斉
的
俱
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総合的判定は ど
れ
た
問
題
裕税 に
つ
い
て
の よ
うに下されるであろうか6 このように自問するとき,富
問われるべき問題点があまりにも多く残されていることをまず
指摘しておかねばならない。
残された間题点を経済的侧面と非経済的側面に分け,かつ経済的側面をさらこ理論的侧面と実際
的侧面とに分けてみよう。もちろんこれは便宜的な分類でしかない。
.
はじめに富裕税の経済理論的面で殘された重要と思われる問題点をあげてみる。第一に,富裕
税の転嫁と帰着についてなんらかの検討が必要となるはずである。"^般に,個人税としての富裕税
は転嫁されにく.いときれているが,企業税として課されるとなれは間題の次かきなゥてしよう。
また税収が特定の政府支出項目にイヤーマ^ クされると,財政収支全体のなかでの富裕税の位置づ
けがととさら問われることになる6 いわゆる均衡予算帰着である。
第二に,そ.れと闕連して,資本利得税との差別的帰着を問い直す必要も残されている。富裕税か
資ISめ 実 現 • 朱実現にかかわらず年々課税されるところから,それはある糖度まで資本利得税の部
■
~
69 (509) — r"
:
liP ^
r三田学会雑誌j マm
4号 (
1978年8月)
'
分的代替税とみなすことができる。 したがゥて, どこまで富裕税が資本利得税の代替税 と
な り
うる
か を 間 b ためにも, 差別的帰着分析が必要となもう。資本利得税との関速をこれまで間わなかった
理 lilの‘ つがここにある 。
一
第二に,導入のタイミングとの関連でイ シフレ一ション問題を檢討すべき必要が残されている。
この間题はインフレが資産価値め全般的上昇をもたらすがゆえに,富裕税め導入が必要とされると
いう観点とぱ異なる。もともととの観点は,イソプレが土地や載券の異常な上昇をもたらすが, し
かし現金や預金めM 値低下をもたらすという側面を見落としでいも。イ ギ リスが富裕税の導入を図
ぅでいるか,そのさいインフレ下における導入のもたらす衝撃と波及に開し, タ
イ ミ
ングをどの程
度まで重视しているか ■
という間愈である。
つぎに,富格税のま際的侧面で一層の检射を要する問題点をあげて お
こ ち 。
に課税対象の問題かある。居 住 者 . 非居住者,® 内資産.海外資産のそれぞれの範商が問題
となろう。 またこれまで法人企業を課税対象に含めないで考えてきたが, も 舍 め る と す れ ば 富 裕
税め目擦についてあらためて議論せ ね
ば な ら な い 。
夫婦合算が普通であるが,それなら独身者にく
らぺ課税最低限と税率はどのように調整さるべきかという問題 も
あ る
第一に, 課税最低限:と非課税品目, さらに課税限度の決定について一層立ち入った検討•が必要‘で
あ る 。一般にこのような項目の決定は政治的判断にもとづくとされているよう で
あ る が ,
必ずしも
そうではないしとはすでにみたとおりである。制約条件としての税務行政能力も無視できない要因
である。
第三に,資産評価の理論と実磨について残された課題は少なくない。 と
り わ け , の れ ん ,
株式などの特定品目について問題が数多く残されている。 また美術品の扱い方に つ
前に課税対象とすぺきか否かの問題が残されている。
い て も ,
非上場
評価の
’
四 し,;
fe業経営' , 零細企業,中小企業,同族企業などの特定分野'に対' し,富■裕税が実際にどの
ような影響をもたらすのかという間題がある。‘ これらの点についてもわれわれは断片^的に知りえた
のみであって,なんらかの体系化が今後とも必要と考えられる。
富裕税の非経済的供1 織税のみならず租税の問題には,必ず経済的側面と非植済的伽面とが裏
面で残された問題腹に なって、
,'、る。 これまでとりたてて非経済的侧而を注視することがなか
ったか, 一 * •づだけここで指摘さるべきは租税回避と脱税の問題で あ
る 。
とくに脱税についでは税法の問題であっても経済学の問題ではないとされ,脱税の経済分析はは
とんと試みられていなかった。 し/ がって, 脱税に'0 いてのスタンダ" ドな経済分析ポ法がどのよ
うなアフロ〜チをとるか,露聞にL て分からないが, お お よそつぎのように考えることがで务る>
思われる。
八も 0、i,め
70 (610)
曰'-* ロッパの富裕■税
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およひ^ 〈り, d ゎく。
ただし, ニ脱税額,
ィニ税率, 0 = 脱税の機会, パニ脱税摘発の可能性,ク刑罰の輕重。 つまり,
脱税額は税率と脱税の機会が大きけれぱネきいはど"^ 層大となるであろう。また搞充される機会と
刑前の重さが多ければ多いだけ一'膚小となるであろう<i脱.税額は税率.と脱税機会の増加関数で' あ'る
力' ; , 摘発と刑罰の減少関数と考えるわけである。
脱税の会というとき,それは課税標準の媒模を大きくとるか小さくとるかというケースも含ま
れる。富裕税のぱあい先の例でいえば,
. 宝石を課税標準に含めると脱税の機会は大となり,脱税額
はそれおけ増大するであろう。そうだとすれば,デンマニクのようにあらかじめ宝石などを課税標
準から除外して,脱税の機会を小さく定めておくはうが賢明であるかもしれない6
しかしそうなると,宝石購入の増大という富裕税回避を促すととになることはすセにみたとおり
である。深:して富襟税回避という合法的脱税活動がどの程度まで生ずるかは限界税率の高さにも依
存するであろう0 また潜在的富裕税納税孝が,どの程度まで富裕辕を意識して行動の適択肢を選ん
でいるかに•も依存するにちがいない。したがって,税率か高れぱ高いたけ,また!S 裕税を意識す
る度合が強けれぱ強いだけ,潜在的納斑者の行動パターンほ歪められるであろう。いま- つ,粗税
税理士相談料等')という犧牲を
回避について納税者は社会的にみて無駄な時間とェネルギ一と^^用 (
仏わねばならない。これは脱税についてもいいうる。
もともと脱税と租税IH1避は, 国庫に減収をもたらす☆ で同じである。脱税と粗税回避がなけれぱ,
税率をもづと引下げることができたかもしれないし,政麻支出を增やすことができたかもしれない。
どちらにしても,脱税者と租税回避者からそれをしなかった(
またはできなかった)者へと,税負担の
再分配がおこなわれたことには変わりはない0 したがぅて,公平と効率の基準にあい反することは
いうまでもない。
しかし脱税と租税回避の間題は,^ 平という納税倫理の側面を含むだけに,経済分析の次元だけ
で処理することはできないと思われる6 すでに述ぺたように,たとえば無収益資産は富裕税の課税
対象に含まれるし, 経済的観点からはその.必要性が強調された。だが無収益資産の所有者は,たと
え経済的根拠が理解できても無収益資産課税の正ぎ!性を認めようとはしないケースがありうる。そ
れは無収益資産の所有者が,.そのような富裕税はr納税倫理j に反するとして,
ソ狗硬レ自説を主張
して譲らない'ケースである。ここでの論点は,まさに経済分析を超えて別個の問題領域(たとえぱ社
会心趣学の領域)に踏み込んだまま摸索しているというのが実情であろう。
r触税倫理J に反する形態の租税が実施されたと納税者一般が受けとめるならぱ,
‘
そのような粗
税は,回避ないし脱税してむしろ当然という風溯が生はれても不思議ではないであろう。「
納税倫
理とは一度傷つけられるとすぐには宵たない苗木と同じであるJ という格言があるが,そ れは「
旧
税は良税であり新税は悪税であるJ という格言とともに,今後とも学際科ギの領域で一"層の枚討か
—
71(5JJ) —
,
rち田学会;i 誌j 71卷 4 号 (
1978お8 月)
必要とされるのではないだろう力、
。換言すれぱ,ま裕税のみならず税制全般の基本的仕組みを国民
~^般に理解し納得し不信感を除却してもらうためには,経済分析の次元を超えた多角的分析が今後
とも必要とされるめではナギいか。非経済的側面からみた富裕税に関しても残された問題は少なくな
いが> 租说回避と脱税は差し当って最も重要な課題't^あろう。
}
-
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( 経请学部教授)
'
72 {512)
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