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収入の減少した国民健康保険の被保険者に対する一部負担金減免の可否

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収入の減少した国民健康保険の被保険者に対する一部負担金減免の可否
中京法学巻1・2号 (年)
( ) 判例研究
収入の減少した国民健康保険の被保険者に
対する一部負担金減免の可否
――仙台高秋田支判平成年月日賃社号頁――
柴 田 洋 二 郎
事実の概要
1 () 被控訴人X (一審原告) は, 母, 妻, 長男, 二男の5人世帯の世
帯主であり, その世帯の全員が控訴人Y市 (一審被告) が保険者となる
Y市国民健康保険の被保険者である。
() 平成年当時のX世帯の収入は, Xおよび母の桜皮細工製造業によ
る収入, スーパーマーケットで働く妻の収入, 母の国民年金収入だった。
2 () Y市では, Y市国民健康保険条例および同施行規則が定められ,
世帯の収入が生活保護基準以下の者で, 公的扶助または公私の扶助を受
けている者と同程度の生活困窮状態にある者等については, 保険税を全
額免除することとされている。 Y市は平成年月にXの同年度の保険
税を全額免除する決定をした。
() Y市では, 国民健康保険法 (以下, 法という) 条を受けて, 国民
健康保険一部負担金 (以下, 一部負担金という) の減免について, 「Y市国
民健康保険一部負担金の徴収猶予及び減免取扱要領」 (以下, 本件取扱要
領という) が定められている。
3 () 平成年8月2日以降, Xの母は病気で入院を繰り返したこと
( )
収入の減少した国民健康保険の被保険者に対する
一部負担金減免の可否 (柴田)
により (高額療養費が支給された月がある), X世帯の年間収入が減少した。
() 同年月日, XはY市長に対し一部負担金減免申請を行った
(以下, 本件申請という)。
() Y市長は, 本件取扱要領第2条4号に該当するとは認められない
という理由で, 同年月日付で本件申請を不承認とし (以下, 本件処
分という), Xに通知した。
4
Xは, 本件処分がY市長の裁量権の範囲を逸脱した違法なものであ
るとして, その取消を求めて提訴した。 原審 (秋田地判平成年4月日賃
社号頁) は, 本件処分は著しく合理性を欠き, かつ, 法
条の趣
旨をないがしろにするものであり, 同条による裁量の範囲を逸脱した違
法なものであるとして, 本件処分を取り消した。 そこでY市が控訴した。
判旨:控訴棄却
1
法条の趣旨と解釈
() 法条は一部負担金の減免許否の判断を市長の裁量に委ねている。
市長は, 国民健康保険制度の趣旨・構造, 他の社会制度との関係などを
総合的に勘案し, 一部負担金減免制度の趣旨を踏まえて, 合理的裁量の
範囲内でこれを決定すべきである。 国民健康保険制度が, 相互扶助共済
の精神に則り, 被保険者の疾病等による経済的負担を被保険者全体で分
担させるものであって, 保険料・保険税収入を財源の理念的中心として
いること, 国民健康保険が強制加入であって低所得者も被保険者となる
ため, 一定の基準を満たす低所得者には保険税を減額して負担の軽減が
図られていること, 貧困により公私の扶助を受ける者等については条例
の定めるところにより保険税を減免できること, 法6条9号などからす
ると, 国民健康保険制度は, 生活保護を受給し得るのに自らの意思で受
給しない者を被保険者とし, 応分の保険料・保険税負担を求めた上で,
その負担を軽減する措置を設けているものと解される。 「一部負担金が
保険税・保険料と違って本来的な意味で診療等の対価の一部であること
中京法学巻1・2号 (年)
( ) を考慮すれば, 特段の事情のない限り, ……一部負担金を支払うべきで
あって, ……法条は, 減免等を認めてその分を……当該国民健康保険
加入者全体の保険料・保険税等の収入から支出しても加入者相互扶助の
精神に反しないと認められるだけの 特別の理由 がある場合に限って,
その減免等を認めることにより, 生活保護等の他の社会制度との調整を
図る趣旨の規定であると解するのが相当である。」
() 不可抗力等による事情変更に伴い, 一時的に収入を喪失または減
少して一部負担金負担能力を喪失または低下した者について, 「ある程
度短期間のうちに収入が回復することが見込まれる場合であれば, 直ち
に生活保護の医療扶助等に移行させることなく, 収入が回復するまでの
短期間一部負担金を減免等したとしても, ……長期的視点からは加入者
相互扶助の精神に反することにはならず,
特別の理由
があるものと
解することができる。」 これに対し, 「生活保護基準を下回る収入の者は,
生活保護の医療扶助を受給することが可能であり, 自らの意思で生活保
護を受給しない場合であっても, 保険税負担の軽減が図られているので
あるから, その上更に一部負担金を継続的に全額免除するとすれば, 全
く又はほとんど経済的負担をせずに国民健康保険の適用を受け続けられ
ることになり, 加入者相互扶助の精神に明らかに反する……。 したがっ
て, 生活保護基準を下回る収入であることのみを理由としては
理由
2
特別の
があると解することはできない」。
本件処分の適法性
() 「本件処分は, ①本件申請がXの母の休職を理由とするものであっ
てX本人の失業等でないから, 本件取扱要領2条4号に該当しないこと
(以下 「処分理由①」 という), ② Xの年収の減少幅からすれば , X本人
の
収入が著しく減少したとき
とはいえず, 本件取扱要領2条4号に
該当しないこと (以下 「処分理由②」 という)」 の2点であるが, 処分
理由①を一次的な不承認の理由として考慮したことがうかがわれる。
() 処分理由①について, 「Xの母はXの営む桜皮細工製造業における
( )
収入の減少した国民健康保険の被保険者に対する
一部負担金減免の可否 (柴田)
Xの専従者であるから, Xの母の病気により, 世帯主たるXの収入が減
少する関係にあ」 り, これを 「不承認の一次的な理由として重視し判断
することはすこぶる適切を欠く」。
() 処分理由②について, 本件取扱要領が予定する著しい収入の減少
とは, 2分の1以上収入が減少した場合に限定する趣旨である。 Y市の
国民健康保険特別会計の財政状況および一部負担金の減免申請の状況を
考えると, 「Y市の主張は, 抽象的・一般的な懸念を強調しすぎる嫌い
があ り, 実際の状況に即したものとは認められないから,
入の減少
著しい収
につき, 収入が2分の1以上減少した場合に限定することに
合理性は認め難い」。 また, 前述の法条の趣旨からすれば, 同条は国
民健康保険制度と調和が保たれる範囲内で, 生活に困窮した被保険者の
支援・保護を図ることを目的とする。 そして, 国民健康保険が, 他の社
会保険制度や生活保護からの受給をしていない者を被保険者として強制
加入させるものであり, 保険税もその被保険者である世帯主に賦課され
ること等にも照らすと, 「法条1項に基づく一部負担金の減免等の可
否を判断するに当たっては, 生活保護法の生活保護基準を目安とするこ
とが合理的と解される。」 したがって, 「収入の減少」 については, 世帯
主の収入の多寡や減少幅のみならず, 「扶養される世帯の人数及び各人
の年齢, 世帯主以外の者の収入の有無や多寡等についても検討するのが
相当というべきであって, Y市の本件事務処理要領においても収入の減
少は世帯の収入額につき見ることを前提としている」。 「しかるに, Y市
はX個人の収入の減少についてのみを根拠として判断したというのであ
るから, Y市の本件処分は, 法条の目的等にそぐわない形で判断をし
たという内容的な面においても, 自らの定めた本件事務処理要領に従わ
ない形で判断をしたという手続的な面においても, 不合理なものといわ
ざるを得ない。」 X個人の収入のみの減少や世帯収入の減少をもってX
世帯の収入が著しく減少したと評価することは可能であり, かつ, そう
することが法条の趣旨にも合致する。 「Xの本件申請は, 単に恒常的
中京法学巻1・2号 (年)
( ) に生活が困窮していることを理由とするものであるとはいえない」。
() 「Y市は, 考慮すべきでない事情を重視し (処分理由①), また,
法の趣旨に反し, 合理性を認め難い基準を根拠として, しかも手続的に
誤った方法により (処分理由②), 本件申請に対する判断をして, 本件
処分を行ったものであるから, 本件処分は, 法条による裁量の範囲を
逸脱した違法なものというべきである。」
評釈:結論に賛成する。
1
本判決の意義
本件は, 収入の減少した国民健康保険の被保険者が, 法条に基づく
一部負担金の減免申請を行ったところ, 処分行政庁たる市長により不承
認とされた処分が違法であるとして, その処分の取消を求めた事案の控
訴審である。
医療保険において受給者に求められる負担には一部負担金と保険料が
ある。 このうち, 一部負担金は, 「濫受診を防止し, 保険財政に対する
負担を軽減するため, 療養の給付に要する費用の一部を受給者に負担さ
せる制度」 であり, 「療養の給付を受ける被保険者と, 健康な被保険者
との間の公平という見地」 からも必要と考えられている (国民健康保険
中央会編
国民健康保険法の解釈と運用
頁以下)。 しかし, 「一部負担金
支払能力のない者については, 療養の機会を奪うことになる」 ことから,
一部負担金の不要論もある (厚生省保険局国民健康保険課編 逐条詳解国民
健康保険法
(以下,
逐条詳解
という) 頁)。
国民健康保険制度は, 一部負担金と保険料のいずれについても保険者
は特別の理由がある者に対し減免または徴収猶予をすることができると
している (法
条, 条)。 そして, 「一部負担金の減額・免除および徴
収猶予は, 市町村長の権限に属するものと考えられており,」 「市町村長
が単独でこの措置を行うことができ」 る ( 逐条詳解 頁)。 本件も一
部負担金減免の認定が市長の裁量判断に委ねられている点は争いがない。
( )
収入の減少した国民健康保険の被保険者に対する
一部負担金減免の可否 (柴田)
そのうえで, Xは, 判断の基準となっている本件取扱要領に従ったY市
長による本件処分が裁量の範囲を逸脱した違法なものであるとしてその
取消を求めており, 本件取扱要領の解釈にあたり法条の趣旨が問題と
なっている。 また, 減免の許否においては生活困窮の程度が最重視され
るべきとするXの主張に答える形で, 法条の 「特別の理由」 の解釈が
示されている。
以上のように, 法条の趣旨および同条にいう 「特別の理由」 の解釈
を示した点に本判決の意義がある。 医療保険における費用負担が問題と
なった従来の事案は保険料 (税) の減免に関するものだったのに対し,
本件では一部負担金の減免が問題となった初めての事案であり, 本判決
は今後の実務上参考となるものと思われる (高裁判決が確定)。
以下では保険料 (税) の減免の事案との比較を踏まえつつ, 判旨1を
中心に検討を行う。
法条の趣旨と 「特別の理由」 の解釈 (判旨1)
2
() 判旨のポイント
判旨1は, 法条に基づく一部負担金の減免許否の判断は市長の裁量
に委ねられているとし, 判断にあたり市長が勘案すべき事項を考察する。
そのうえで, 同条は加入者相互扶助の精神に反しないと認められる 「特
別の理由」 がある場合に限り, 一部負担金の減免等を認め, 生活保護等
の他の社会制度との調整を図る趣旨であるとする (())。 そして, 同条
にいう 「特別の理由」 とは, 収入との関係では, 不可抗力等に基づく事
情変更による一時的・短期的な収入の喪失・減少をいい, 生活保護基準
を下回る収入であることだけでは 「特別の理由」 があるとはいえないと
する (())。
() 法条の趣旨
行政解釈によれば, 法条の趣旨は 「特別の理由がある被保険者につ
いては, 一部負担金を減免し, 又は徴収猶予することができる旨を定め
たものである」 とされており, それ以上の記述はみられない ( 逐条詳解
中京法学巻1・2号 (年)
( ) 頁)。
() 法条にいう 「特別の理由」 ―― 行政解釈, 保険料の減免をめぐ
る裁判例・学説
控訴時の行政解釈によれば, 法条にいう 「特別の理由」 とは次のい
ずれかの事由に該当したときを指すものとされている。 ①震災, 風水害,
火災, その他これらに類する災害により死亡し, 不具者となり, 又は資
産に重大な損害を受けたとき, ②干ばつ, 冷害, 凍霜害等による農作物
の不作, 不漁その他これらに類する理由により収入が減少したとき, ③
事業又は業務の休廃止, 失業等により収入が著しく減少したとき, ④前
各号に掲げる事由に類する事由があったとき。 そして, 一部負担金の減
免は, 一部負担金の支払または納付の義務を負う世帯主等がこのいずれ
かに該当したことにより, その生活が著しく困難となった場合において
保険者が必要があると認めるときに限られている (昭和年3月日保発
号。 本件取扱要領2条・4条1項もこれに沿ったものとなっている)。 つま
り, 突発的な事象の発生により, 被保険者世帯の資産・収入に大幅な減
少が生じたことにより, 生活が著しく困難となった場合としている。
他方で, 法条 (保険料の減免等) にいう 「特別の理由」 に恒常的な生
活の困窮が該当するか否かについてはこれまで判断がなされてきた (①
札幌高判平成年月日判時号頁, ②旭川地判平成年月日判自
号頁, ③東京高判平成年5月日判タ号
頁, ④最大判平成年
3月1日民集巻2号
頁
①の上告審 )。 従前の事案は, 国民健康保
険は相互扶助共済に基づき加入者が保険料を分担しあう制度であること
(前掲①判決, ②判決, ③判決), 恒常的な生活困窮者には生活保護法に
よる医療扶助等が保障されていること (前掲①判決, ②判決, ③判決, ④
判決), 低所得世帯のために保険料の減額賦課制度 (法条) が設けら
れていること (前掲①判決, ②判決, ③判決, ④判決) 等を考慮する。 そし
ていずれも, 恒常的生活困窮者を保険料の減免の対象としないことは法
条の委任に反しないと判断している。 また, 学説もこうした解釈を妥
( )
収入の減少した国民健康保険の被保険者に対する
一部負担金減免の可否 (柴田)
当とする (例えば, 堀勝洋 「①事件判批」 季刊社会保障研究巻3号頁,
島崎謙治 「④事件判批」 西村健一郎・岩村正彦編 社会保障判例百選 第4版
頁)。 同条の趣旨を, 「一時的に保険料負担能力を喪失した者」 に対し
保険料の減免・徴収猶予ができる旨を定めたものとする行政解釈 ( 逐条
詳解
頁) とも合致するといえよう。
() 本判決の位置づけ・評価
判旨1は, 法条の趣旨を検討するにあたり, 法条の委任の範囲を
判断する裁判例と同様に国民健康保険制度の制度趣旨や構造 (上記
のほか, 保険税の減額・減免制度) を考慮する。 もっとも, 法
条にいう
「特別の理由」 の程度として 「加入者相互扶助の精神に反しないと認め
られる」 ことを求めている点に, 法条が問題となった事案と比較した
特徴がある。 これは, 医療保険における受給者負担の軽減措置から生じ
る減収分にかかる財政運営の違いを念頭においている。 具体的には, 保
険料 (税) の減額 (賦課) 分が一般会計から繰り入れられる (法条の3第
1項) のとは異なり, 一部負担金減免分については一般会計からの繰り
入れはなく, 国民健康保険特別会計の範囲内で収支を合わせる (本判決
は, 判旨では省略した部分でこの点を述べている)。 つまり, 一部負担金の
減免による減収分は他の加入者 (被保険者) の保険料 (税) 負担から補わ
なければならず, 継続的な減免を受けることは, 自らは (ほとんど) 経
済的負担を負うことなく, 他の加入者の負担により国民健康保険からの
受益を続けることを意味する。 この意味で, 一部負担金が減免される場
面では 「加入者相互扶助」 が前面に出てくるといえよう。 このことが,
「特別の理由」 の具体的解釈において, 行政解釈と同様に不可抗力等に
よる事情変更を求めるだけでなく, 行政解釈では必ずしも明らかでない
収入の喪失・減少が一時的・短期的であることを求めることにつながっ
ていると考えられる (もっとも, 国京則幸 「本件判批」 賃社号頁は, 一
時的・短期的の程度や評価方法が示されていないことを指摘する。 また, 収入
の喪失・減少の一時性を重視することを疑問視する見解として, 常森裕介 「本
中京法学巻1・2号 (年)
( ) 件原審判批」 季刊社会保障研究巻4号頁)。
こうして, 一部負担金の減免を受けるには収入の喪失・減少の一時性・
短期性が求められ, 恒常的・継続的な収入の喪失・減少の場合には生活
保護の受給や保険税負担の軽減措置を活用することが, 本判決のいう法
条の 「他の社会制度との調整を図る趣旨」 であろう。
保険者の広範な裁量を明示的に認め, 法条の趣旨を述べたうえで,
同条にいう 「特別の理由」 の解釈を示している点で, 判断の論理的な筋
道は明確である。 また, その内容も国民健康保険制度の目的・構造およ
びその財政運営, 生活保護をはじめとする他の低所得者支援策も踏まえ
たものであり, 恒常的に生活に困窮しているのみでは法条にいう 「特
別の理由」 があるとはいえないとすることは妥当な解釈と評価できる。
3
本件処分の適法性 (判旨2)
() 判旨のポイント
判旨2は, 本件処分理由を2点挙げたうえで (()), 本件取扱要領に
定める 「著しい収入の減少」 について, ①基準 (減少率の程度) の合理性
と, ②検討すべき要素から本件処分の適法性を検討している (()・())。
結論として, いずれも適切な理由とはいえず, 本件処分は法条による
裁量の範囲を逸脱した違法なものであるとする (())。
() 本判決の特徴・位置づけ・評価
上記①・②の判断において以下の点が注目される。 ①については, Y
市の国民健康保険制度の実際の状況が考慮されていること, 収入の減少
率の程度について具体的な根拠を明らかにすることを求めていることで
ある。 ②については, 法条の趣旨 (判旨1) を前提に, 同条は生活困
窮被保険者 (Xのような生活保護を受給しない低所得被保険者も含まれよう)
の支援・保護の一環をなすことが明らかにされ, 一部負担金の減免可否
の判断において, 生活保護法の生活保護基準を目安とすることが合理的
であるとされていることである。 この点, 保険料免除に関する事案では
あるが, 国民健康保険と生活保護は制度的に異なるものであり, 「生活
( )
収入の減少した国民健康保険の被保険者に対する
一部負担金減免の可否 (柴田)
保護法の保護基準が, 当然に国民健康保険の保険料減免制度における減
免の基準として用いられるべき必然性はない」 とし, 生活保護法の保護
基準が, 保険料減免許否の重要な基準として機能するとの主張を採用し
なかった裁判例 (前掲③判決) がある。 本判決は, 生活保護基準との関連
について保険料免除の事案とは異なる判断をするものである。 ただし,
本判決の挙げる理由 (国民健康保険制度の構造および保険税の賦課対象者)
から生活保護基準を目安とすることが合理的であることを導く論理的な
つながりは必ずしも明らかでない。 本件取扱要領の文言に言及するだけ
で足りたように思われる (したがって, 結論に変わりはない)。 また, 生活
保護基準を具体的にどのように目安にするのかについて, 本判決からは,
「収入の減少」 につき, 世帯主の状況のみならず, 当該世帯に関わる様々
な事情を考慮すること, 収入の生活保護基準比率が考慮されうることが
窺えるだけである。 一部負担金減免の判断と生活保護基準との関連につ
いては, さらに理論的に詰めた検討と基準の活用についての具体化が求
められよう。
判旨2は, 一部負担金の減免可否の基準の合理性判断について, 本件
取扱要領の基準を形式的に運用するのではなく実態を踏まえて運用する
ものであり (①), また, 法条の趣旨や目的に沿って判断をしようと
するものである (②)。 妥当な考え方といえよう。 理由づけに不明確な
*
点が残るが (②), 本件取扱要領に照らせば結論も妥当と考える。
付記 本稿は, 年度科学研究費補助金 (若手研究 ():課題番号)
の助成による研究成果の一部である。
* なお, 原審判決後, 本判決が出る間に一部負担金の徴収猶予および減免
に関する取扱いを変更する通知が出された (平成年9月日保発第2
号)。 この通知により, ①収入の減少の認定に当たって生活保護基準以下の
世帯が含まれることとなり, ②市町村が, 国が望ましいと考える基準に該当
する世帯を一部負担金減免の適用対象とした場合, 当該世帯に対する減免額
の2分の1を特別調整交付金で補填することとされた。
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