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司法通訳

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司法通訳
警察、裁判所の通訳
司法通訳人
公正な裁判を助け、 外国人の人権を守る
司法通訳とは
 外国人が日本で犯罪に巻きこまれると
逮捕→取り調べ→起訴→裁判
 逮捕から取り調べ:警察の通訳吏員・民間通
訳人
 裁判所での通訳をするのが法廷通訳人
法廷通訳人は多くの場合、被告人の横に座る
 被告人の為にだけ通訳をするのではない
 裁判官、弁護人、検察官、被告人、時には証
人の立場にたって通訳をする
法廷で使用された外国語(H.17年)
中国語
45.3%
韓国朝鮮語 10.4%
タガログ語
7.2%
ポルトガル語 5.9%
タイ語
5.5%
スペイン語
4.6%
英語
3.1%
ベトナム語
2.9%
ベンガル語
2.6%
その他
12.5%
通訳翻訳人のついた被告人数
 平成20年 4,598人
 平成19年 5,870人
 平成18年 7,628人
 平成17年 9,361人
 平成16年 11,174人
 平成15年 11,168人
裁判所ホームページより抜粋
法廷通訳の流れ
司法通訳の募集と派遣
各都道府県の警察、検察庁、裁判所、弁
護士会が言語別に通訳者名簿を作成し、
必要に応じて依頼しているのが現状であ
る。外国人が関係する事件が多発する
地域では警察内に通訳センターを設け、
警察の取り調べ室での捜査官と被疑者
とのやりとりや、検察官の取り調べを通
訳する要員を派遣する業務を行っている。
通訳人候補者の募集について

http://www.courts.go.jp/oita/saiban/tetuzuki/tuyaku.html
 大分簡易裁判所の募集例:通訳人は,外国人刑事事件の法廷にお
いて,日本語の発言を外国語に通訳するとともに,被告人の発言を
日本語に通訳する仕事をします。したがって,通訳人は,被告人の権
利を保障し,適正迅速な裁判を実現する上で非常に重要な役割を
担っています。
通訳人は,個別の事件ごとに,最高裁でとりまとめている通訳人候
補者名簿を参考にするなどして裁判所が選任しますが(裁判所職員
として採用されるわけではありません。),現在,大分地裁では,我が
国で理解する人が少ないいわゆる少数言語を中心に,通訳人候補者
の確保に努めているところです。
通訳人候補者には大学の先生や,海外赴任の経験のある会社員,
留学生,家庭の主婦など様々な方がいます。語学の堪能な方で,法
廷での通訳をしてみようという方は,是非,御応募をお願いします。
参考サイト
 http://www.courts.go.jp/saiban/wada
i/1606.html
 http://www.courts.go.jp/saiban/wada
i/1903_houteituyaku.html
 http://www.courts.go.jp/saiban/zinbu
tu/tuyakunin.html
 http://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspac
e/bitstream/2115/22350/1/12_P141.pdf
法廷通訳
 資格試験はない
 検察庁、裁判所、弁護士会が言語別に通訳者名
簿を作成し、必要に応じて依頼
 仕事の内容




検察での取り調べの通訳
弁護人との接見に同行して通訳
起訴状、冒頭陳述書の翻訳
裁判の通訳
 報酬は一時間あたり6,000~10,000円程度
司法通訳の仕事
 いつ事件が起き、いつ容疑者が逮捕されるか
は予測ができず、したがって、いつ通訳の依
頼があるかは皆目見当がつかない。しかも取
り調べは深夜に及ぶことも多い上、連日続くこ
ともあり、ハードな仕事と言える。
 日本では司法通訳人になるための資格制度
が確立していない
 各地方裁判所や県警などで必要に応じて募
集しているが厳しい審査はないのが実情
裁判員制度で負担が増す通訳業務
従来は用意された書面による
説明からの通訳が多かったが、
裁判員に対する口頭の説明
が増えて通訳人の負担が増
大している。短時間に膨大な
翻訳作業を課される可能性が
高いからだ。「疲労から誤訳に
つながり、冤罪(えんざい)を
生みかねない」との声もあり、
大阪弁護士会の有志が研究
会を発足させ、解決策を探っ
ている。
http://interpreter.ti-da.net/c100914.html
司法通訳人に求められる資質
1. 日本の司法制度や法律について熟知し
ていること
2. 第三者としての考えを交えずに正確に
訳すこと。一語一句漏らさずに訳す
3. 中立的な立場に立ち、私情を交えないこ
と。
4. 守秘義務を守ること。仕事上で知り得た
事柄を口外しないのは当然の職業倫理
警察通訳
 雇用形態
 正式に雇用された警察職員「通訳吏員」
 県警に登録したフリーの通訳者「民間通訳人」
 仕事の内容
 捜査現場に同行しての通訳
 取り調べの通訳
 弁護士の通訳
 応募資格
 正式職員と民間通訳人で条件が異なる
実例で見る司法通訳の問題点
道後タイ人女性殺人事件
メルボルン事件
ニック・ベイカー事件
道後タイ人女性殺人事件の概要
1998年に高松高裁で結審した道後事件があ
る。性産業で働かされていたタイ人女性が、同
国人の元締め女性を殺害した罪に問われた。
一審の日本人通訳人はタイ語の日常会話すら
できず、法医学鑑定人も呼んだ二審のタイ人
通訳人は日本語能力が不十分だった。
にもかかわらず裁判所は、殺意がなかったとい
う被告人の主張を退け懲役八年の実刑判決
を言い渡した(確定)。
道後タイ人女性殺人事件の記録
『通訳の必要はありません』
深見史 著 創風社出版
愛媛県松山市道後で起こったタイ人女性殺人事件
の裁判は、満足な通訳もないままに進んだ。判決
の日、裁判長は被告に有罪を宣告、懲役八年を申
し渡した後、こう述べた。判決理由の補足説明につ
いては、通訳の必要はありません。検察、弁護人、
日本語のわかる傍聴人は聞いてください」補足説
明」は長かった。法廷内でそれが理解できない者
はただひとり、被告だけだった。著者は言う「私が
出稼ぎに行かなくてすみ、売春をせずにすみ、牢
屋に入らずにすんでいるのは私が立派な人間だか
らではない。」
道後タイ人女性殺人事件
松山地方検察庁での取り調べ通訳
 通訳人:タイ人主婦
日本人男性と結婚し、滞日歴も長い。四国四
県の裁判所を管轄する高松高等裁判所管内
で登録された唯一のタイ語法廷通訳人
後に、松山地裁から法廷通訳を求められたが、
外国語通訳の重要性に言及した新聞記事を
読み、とても責任が取れないとして断っている
 供述調書:「確定的殺意」にもとづく犯行であっ
たことが被告自身の語った言葉として記録さ
れた
道後タイ人女性殺人事件
第一審の通訳
 通訳人:タイに二年間住んだことのある日
本人主婦。
 通訳能力の決定的な不足
 弁護人の「被告の実家は貧しかったですか」
との質問を通訳する際、辞書を引いたがどう
しても見つからなかったらしく辞書をバタンと
閉じ、被告に向かって、
日本語で「あなた、びんぼう?」と聞いた。
第一審の通訳人についての
弁護人と裁判長の意見
弁護人の言い分:「通訳人があまりタイ語ができ
ないことは知っているが、たいした事件じゃない
し、あれくらいの通訳でいい、通訳能力がないか
らやめてというのは失礼」
通訳人は第一回公判(通訳初体験)で自分の通
訳力のなさを痛感し、辞退を申し出た。
裁判長は「だいたい分かればよい」とこの通訳人
を慰留した。
道後タイ人女性殺人事件
第二審の通訳人
 通訳人:タイ人女性通訳。
大阪地裁に依頼して来てもらった。日本
人と結婚して長く大阪に住んでおり、法
廷通訳の経験も十年以上。
 通訳能力:流暢とはとても言えない日本
語。時制の混乱、明らかな誤訳、日本語
能力の低さは明らかであった。
道後タイ人女性殺人事件
第二審の通訳
 通訳人の日本語の例:「たぶん、スーすわるの態勢、
おこする自分が立ち上がるの態勢、上半身だけますく
してたちあがるだった」、「すぐ振り向いたでない、マリ
の声が、私は人の、マリは、私は、スーの喉にナイフ
で切ってしまったよ、と……」
複数通訳人採用の願い出:支援団体はタイ人
通訳人を補佐するタイ語に堪能な日本人通訳
人を法廷に配置するよう求めたが、裁判長に
は届かなかった。
メルボルン事件
 1992年6月、メルボルン空港で、日本人観光
客4人が持っていたスーツケースの中から約1
3キログラムのヘロインが発見された
 そのスーツケースはツアーガイドからプレゼント
されたものだった(観光客自身のスーツケース
はクアラルンプールで盗難に遭っている)
 日本人観光客はスーツケースにヘロインが入っ
ていることを知らなかった
 裁判の結果、4人及び同行者1人に対して懲役
15年及び20年の実刑判決が下された
メルボルン事件・通訳の問題点
 空港での聞き取りでは法律の知識が全くない
ツアーガイドに通訳をさせている
 警察における取調べでの通訳の不備
 取り調べの通訳人を九時間連続で酷使してい
る
 通訳人自身の能力不足
http://www.kinran.ac.jp/univ/index.cfm/6,734,17,73,h
tml
メルボルン事件・通訳人のミス
 「弁護士を呼ぶことができる」
通訳が弁護士のことを弁護士と訳せず、「えーと、法
律のですね、関係した人に連絡をとりたいですか」と
訳した
 無料の法律扶助を意味する「 Legal aid 」について
「リーガルエイドという法律に関連した組織がございま
すけれども、そちらに連絡をとりたければ」というよう
にしか訳さず、無料で弁護人についてもらえるという、
大事な点を説明しなかった
 入国管理局と訳すべき immigration を「移民局」と
訳したため質問の意味が理解できなくなっている
メルボルン事件・通訳人のミス
 「あなたはそういう話をでっちあげたのか」とい
う質問がされたのに、通訳者が、「でっちあげ
る」を意味する「 make up 」をでっちあげと訳
せず「そういうふうなことだというふうに、言っ
ただけですか」と訳してしまったために、浅見
喜一郎さんは、「でっちあげたのか」という質問
に、いったん「はい」と答えてしまい、その後、
もう一度確認されて今度は「いいえ」と答えると
いう混乱が生じた
メルボルン事件・通訳人のミス
 荷物がなくなったレストランでの行動を尋ねる
場面で、「レストランを出た後は何をしました
か」や「車の所に戻った時にはどうしましたか」
という質問がされた際、通訳人は「レストランを
離れるときに、何があったんですか」「車の所
に移ったときに何がありましたか」と訳してしま
い、それに対する答えが、「何もないです」とな
り、まるで、供述をわざと拒否しているように聞
こえてしまった
ニック・ベイカー事件
 2002年4月13日、イギリス国籍のニコラス(ニック)・
ベイカー氏が知人A氏と来日した際、税関検査でベイ
カー氏が手にしていたスーツケースが二重底になっ
ており、合成麻薬約4万錠とコカイン約1キロが隠され
ていたことが判明する。ベイカー氏は、スーツケース
の持ち主はA氏であり自分は何も知らないと主張する
が、ベイカー氏のみが現行犯逮捕された。A氏は全く
取調べを受けずに2日後に出国、約1ヵ月後にベル
ギーで他のイギリス人3人と麻薬を持ち出そうとした
容疑で逮捕されている。ベイカー氏はその後5月2日
に起訴され、翌2003年6月12日に千葉地方裁判所
で懲役14年・罰金500万円の有罪判決を受けた。
http://wwwsoc.nii.ac.jp/jais/html/community/nick_baker
01.doc
次ページから
金城学院大学 水野真木子教授
の作成による資料を用います。
問題の所在
被告人の英語の特徴
通訳人の資質・能力
通訳人選任体制の不備
意思疎通の成否の確認方法
被告人の英語の特徴
 ロンドンおよび周辺地域の英語の特徴
1)単語のはじめ、あるいは音節の初めのHの音声が落ちる。
例:“him”が”im”に、 “behave”が “be-ave”
2)th の音が fになる。
3)t などの子音がGlottal stop(声門閉鎖音[破裂音])
になる。例:”bottle”が”bo’le”、”water”
が”wa’er”
子音がはっきり発音されずに突っかかったような感じに聞
こえる。
4)母音の「エイ」が「アイ」になる。
例:”Sunday”が「サンダイ」のように発音される。
5)母音が普通の英語に比べて長くなる。
例:”down”が「ダーン」
通訳人の資質・能力 (1)
 英語および通訳能力
被告人の英語が理解できない
通訳人の英語が被告人に理解できない
→ コミュニケーションの齟齬
被告人の主張の首尾一貫性に影響
被告人に対する悪い心証の形成
コミュニケーションの齟齬の例(1)

物事の程度、度合いに関するトーンダウンと
ニュアンスの歪曲
「頻繁だった」→「数回」
「良くないか、少しまし」
→「良い人もいたが悪い人もいた」
コミュニケーションの齟齬の例(2)
通訳によって生じた混乱
主語を取り違える
内容が逆になったり、ニュアンスが変わる
「毎回異なる」→「毎回同じ」
不適切・不自然な訳語が用いられた
コミュニケーションの齟齬の例(3)
明らかな誤訳
スーツケースについて聞かれて
“It ain’t mine.” →「構いません」
「抗生物質」→「輸入禁制薬物」
コミュニケーションの齟齬の例(4)
 被告人の英語が聞き取れないことによ
る省略と創作
通訳人による直接問答
大幅な省略
勝手な判断で創作
通訳人の資質・能力(2)
倫理意識・プロフェッショナリズムの
欠如
被告人の英語に対する自己の理解力の限界を認識し、
それに対する措置を講じる必要があるのに、そうしな
かった
通訳人選任体制の不備
 通訳人の能力に対する認識不足
TOEIC,英検などで判断
 取り調べで通訳人が何回も変った
訳語の一貫性が損なわれる
被告人の発音に慣れることができない
意思疎通の成否の確認方法
 「読み聞け」による確認
同じ通訳人を介して「読み聞け」をしても意味がない。
英語が通じていることの確認方法
被告人に「通訳人の英語はわかりますか」と聞く
だけで、通訳人に被告人の英語が通じているか
に関しては、何の確認もない
まとめ
 英語であれば意思疎通に問題はないという思
い込みが存在。
 英語力があるだけで通訳できるものであると
いう誤った認識。
 通訳人によるミス・コミュニケーションの問題が
完全に無視されていた。
 意思疎通の成否が適切に確認されなかった。
 通訳人自身にプロとしての自覚が欠けていた。
ベニース事件
2010年3月21付け朝日新聞
 大阪地裁で昨年11月にあった覚せい剤密輸
事件の裁判員裁判で、司法通訳人2人が外国
人被告の発言を英語から日本語に訳した際に、
「誤訳」や「訳し漏れ」が多数あったと専門家が
鑑定したことがわかった。長文に及ぶ発言で
は全体の60%以上になると指摘している。被
告の弁護人は「裁判員らの判断に影響を与え
た可能性が高い」とし、審理を地裁に差し戻す
よう控訴審で求める。
ベニース事件
 この被告はドイツ国籍の女性ガルスパハ・
ベニース被告(54)。知人女性らから依頼
され、報酬目当てで覚せい剤約3キロをドイ
ツから関西空港に運んだとして、覚せい剤
取締法違反(営利目的輸入)の罪に問われ、
懲役9年、罰金350万円の判決を受けた。
ベニース事件
 南アフリカ生まれの被告は英語が母語である
ことから、地裁は男女2人の英語の司法通訳
人を選任。2人は交代で通訳にあたった。被
告は法廷で「違法な薬物を運んでいるという
認識はなかった」と無罪を主張したが、判決は
「罪を免れるための虚偽」と判断し、容疑を認
めた捜査段階の供述のほうが信用できるとし
て実刑を導いた。
ベニース事件
 控訴審から弁護人になった渡辺●修(ぎしゅう、
●は「豈」の右に「頁」)弁護士(大阪弁護士
会)は今年2月、通訳内容を検証するため、司
法通訳人の活動実績もある金城学院大文学
部の水野真木子教授(通訳論)に、地裁が2
日間の審理の過程をすべて録音したDVDの
鑑定を依頼した。
ベニース事件
 その結果、主語と述語がそろった文を二つ以
上含む被告の発言の65%(61件中40件)で、
意味を取り違える「誤訳」や、訳の一部が欠落
する「訳し漏れ」があったとした。「はい」「いい
え」といった一言のやりとりを除く短い発言を
含めると、通訳ミスは全体の34%(152件中
52件)でみられたという。水野教授は、鑑定
書で「通訳人は発言内容を十分理解していな
い」と指摘。裁判員らの心証形成に影響を与
えた可能性が大きいと結論づけた。
ベニース事件
 鑑定によると、たとえば、被告人質問で弁護
人から「結果として覚せい剤を持ち込んでし
まったことへの思い」を問われた際、被告は「I
felt very bad」と答えたが、男性通訳人は
「非常に深く反省しています」と訳した。水野教
授は「心や気力が砕かれた状態をいう表現で、
反省の弁ではない」と指摘する。
ベニース事件
 また、覚せい剤が入っていたスーツケースに
知人女性が白い結晶入りの袋を詰めるのを見
たと話していた被告が、検察官の質問に「not
hing done with the suitcase」と述べた
部分を、女性通訳人が「スーツケースには何
の細工もされていなかった」とせずに、「スーツ
ケースは空だった」と訳したのも文脈からすれ
ば誤り、としている。
ベニース事件
 渡辺弁護士は「無罪主張の被告が急に反省
の弁を述べたり、虚偽の説明をしたりしたよう
に受け止められた恐れがある。被告が適正な
裁判を受ける憲法上の権利を侵害されたのは
明らかだ」と話す。
ベニース事件
 一方、法廷での通訳を長年務めてきたという
担当通訳人の男性は取材に「通訳人2人の
チームで臨み、最善を尽くした。裁判員と裁判
官は、すべての証拠を総合的に判断したと理
解している」と話している。大阪地裁の広報担
当者は「個別の裁判に関してはコメントしな
い」としている。
司法通訳の実際
司法通訳研修用ビデオを見て理解を深めましょう。
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