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「めんこ」を利用した素早い腕振り動作のトレーニングが大学生

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「めんこ」を利用した素早い腕振り動作のトレーニングが大学生
スポーツトレーニング科学13:9-13,2012
「めんこ」を利用した素早い腕振り動作のトレーニングが大学生
バレーボール選手のスパイク速度に及ぼす影響
知念 諒1),山本
正嘉2)
1)
鹿屋体育大学体育学部,2)鹿屋体育大学スポーツ生命科学系
Ⅰ.研究目的
び3種類のジャンプスパイクの速度に及ぼす影響を
バレーボール競技において,スパイク時のボール
明らかにすることを目的とした.
速度(以下;スパイク速度)を向上させることは重
要である.このための補強トレーニングとして,従
Ⅱ.方 法
来から上肢のウエイトトレーニングやプライオメト
A.被験者
1)
リックトレーニングが紹介され ,現在,多くのチー
被験者は,大学生の男子バレーボール部員6名と
ムで取り入れられている.
した.被験者の身体特性は,年齢19.7±1.0歳,身長
ただし,スパイク速度を向上させるトレーニング
176.5±8.3cm,体重69.2±5.9kgであった.すべての
方法は,これ以外にも考えられる.たとえば和田ら6)
被験者には,本研究の目的,方法,およびそれに伴
は,インパクト時の手先の速度を向上させることが,
う危険性を説明し,本研究に参加する同意を得た.
ボール速度の改善につながると指摘している.そし
B.測定手順
て,このような能力を改善するためのトレーニング
めんこ打ちトレーニングの期間は4週間とした.
の一つとして,一昔前の子供の遊びであった「めん
このトレーニングは11月~ 12月に行われた.この
こ打ち」が考えられる.先行研究によると,児童を
間選手たちは,通常のバレーボール練習を週に6回,
対象に1カ月間,めんこ打ちを行わせることで,肘
1日に5時間程度行っており,加えてほぼ毎日,30
や手のスイング速度が向上し,硬式テニスボールを
分程度の体幹を中心とした補強トレーニングも行っ
用いた遠投距離が向上したと報告されている5).ま
ていた.めんこ打ちトレーニングは,これらのバレー
た野球界では,ピッチング動作の向上や,手先のス
ボール練習の終了後に行った.なお,トレーニング
イング速度の向上を目的として,このトレーニング
期間中には試合も2回行われていた.
がプロ選手を含む様々なレベルの選手の間で行われ
ている.
バレーボールのスパイク動作と野球のピッチング
動作とでは,腕の振り方に類似性があるとされてい
る2).したがって,上記のような野球選手における
トレーニング効果を考えると,バレーボール選手に
おいても,めんこ打ちトレーニングはスパイク能力
の改善に有効である可能性がある.しかしバレー
ボール界では,現在のところこのようなトレーニン
グは行われていない.
そこで本研究では,めんこを利用した素早い腕振
り動作のトレーニングを,大学生のバレーボール選
手に1カ月間行わせた.そして、立位スパイクおよ
-9-
図1 めんこ打ちトレーニングの様子
知念,山本
a
b
図2 立位スパイク(a)とジャンプスパイク(b)の様子.
めんこ打ちトレーニングは,週あたりで5回,4
よびライトスパイクでは,対角線上の角から3mの
週間で計20回行った.図1のように,市販のスポー
位置に設置して速度を測定した.そして,このマー
ツメンコ(SSK社製)を用い,地面に子めんこ(3
カーにボールが当たった場合に成功試技とし,各ス
g×4枚)を置き,親めんこ(24g)を地面に叩きつけ,
パイクについて6本の成功試技が得られるまで測定
その風圧で子めんこを裏返すという運動であった.
した.6回の成功試技のデータのうち,最高値と最
1回あたりのトレーニングでは,上記の運動を10回
低値を除いた4回のデータの平均値をデータとして
反復させ,これを約3分の休息をはさんで3セット
用いた.
行った.1回のトレーニングに要した時間は約15分
C.統計処理
であった.
トレーニングの経過に伴う各種スパイク速度の変
トレーニング効果の評価として,各種のスパイク
化について,一元配置分散分析を用いて有意差の有
を行わせ,その速度を測定した.この測定は,トレー
無を検討した.有意水準は5%未満とした.
ニングの開始前,およびトレーニングの開始後は1
週毎に行い,計5回行った.被験者は15分間のウオー
Ⅲ.結 果
ミングアップの後,立位スパイク,および3種類の
図3は,立位スパイク速度の変化を1週ごとに表
ジャンプスパイク(レフト,センター,ライト)を
したものである.トレーニング前には68km/h程度
行った.
であったものが,トレーニングを重ねるにつれ徐々
これら4条件でのスパイクは,センター,レフ
に向上する傾向がみられた.そしてトレーニング後
ト,ライト,立位の順に,いずれも全力で行わせた.
**
立位スパイクは,図2-aのようにロープでつりさ
*
スパイク速度�km/h)
げたボールを打たせた.また3種類のジャンプスパ
イクは,図2-bのように手投げによりトスされた
ボールをスパイクさせた.
スパイク時には,マーカーとして高さ2m,幅2
mのネットをねらって打つよう指示した.立位ス
0
パイクでは被験者の前方3mにマーカーを設置し,
~
~
トレーニング����)
ネットの後方からスピードガン(Zett社製)でスパ
イク速度を測定した.センタースパイクでは,被験
*
図3 トレーニングの経過にともなう立位スパイク
図3.トレーニングの経過にともなう立位スパイク速度の変化 (*:p<0.05 **:p<0.01)
者の前方6mに設置して速度を測定した.レフトお
-10-
速度の変化(*:p<0.05 **:p<0.01)
「めんこ」を利用した素早い腕振り動作のトレーニングが大学生バレーボール選手のスパイク速度に及ぼす影響
のである.トレーニング前の速度はいずれも83 ~
**
85km/h程度であったが,トレーニング後もこれと
**
スパイク速度�km/h)
同様の値を示し,有意な変化は見られなかった.な
おいずれのジャンプスパイクにおいても,1週後の
測定ではやや速度が低下する傾向が見られ,このと
きの値とトレーニング前あるいは後の値との間で有
~
~
意差も見られた.
0
表1は,トレーニング前後における各種スパイク
トレーニング����)
速度の変化率を,選手別に示したものである.トレー
図4 トレーニングの経過にともなうレフトスパイ
ニング後に5%以上の改善が見られた場合には,顕
図4.トレーニングの経過にともなうレフトスパイク速度の変化 (**:p<0.01)
ク速度の変化(**:p<0.01)
著に向上したと見なして,色をつけて示した.立位
スパイクについては,トレーニング後に,6名中5
*
名に向上(6.5 ~ 27.5%)が見られた。一方,ジャ
スパイク速度�km/h)
ンプスパイクについては,選手Aのみ5%以上の改
善を示したが,その他の選手については5%未満の
改善にとどまった.
表1 選手別に見たトレーニング前後での各種スパ
~
~
イク速度の変化率
0
トレーニング����)
図5.トレーニングの経過にともなうセンタースパイク速度の変化 (*:p<0.05)
図5 トレーニングの経過にともなうセンタースパ
イク速度の変化(*:p<0.05)
スパイク速度�km/h)
*
~
~
Ⅳ.考 察
0
1.選手全体で見たトレーニング効果
トレーニング����)
立位スパイクの速度は,トレーニングを重ねるに
図6.トレーニングの経過にともなうライトスパイク速度の変化 (*:p<0.05 )
図6 トレーニングの経過にともなうライトスパイ
ク速度の変化(*:p<0.05)
つれて徐々に向上する傾向が見られ,トレーニン
グ前に比べてトレーニング後では9km/h(13.6%)
(4週間後)の測定では75km/h程度と,トレーニン
向上した.そして,トレーニングの前後での値をは
グ前の値に比べて9km/h(13.6%)向上した.そし
じめ,いくつかの区間では有意差が認められた.(図
て,トレーニング前後の値をはじめ,トレーニング
3).
前と3週目,トレーニング1週目と4週目の値との
一方,3種類のジャンプスパイク(レフト,セン
間には有意差が認められた.
ター,ライト)ではいずれも,トレーニング前後で
図4,図5,図6はそれぞれ,レフト,センター,
有意な変化は認められなかった(図4,図5,図6).
ライトスパイクの速度の変化を1週ごとに表したも
なおこれらのジャンプスパイクでは,いずれの場合
-11-
知念,山本
もトレーニング1週目に値がやや低下し,この時の
告がある5).また野球界では,投球パフォーマンス
値とトレーニング前や後の測定値との間には有意差
を改善するために,このトレーニングを取り入れて
が認められた.この理由については,この期間が試
いる選手はプロ選手も含めて多い.投球動作は地面
合前の追い込み期間であり,通常よりも強度の高い
に足をつけて行うため,本研究における立位スパイ
練習が行われていたため,その疲労の影響があった
クと同様,めんこ打ちトレーニングの効果が現れや
ためと考えられる.
すいといえるかもしれない.
以上のことから,めんこ打ちトレーニングを行う
このようなことを考えると,空中にジャンプして
ことで,足を地面に着けて行う立位スパイクでは速
スパイクを行うバレーボール選手の場合,ジャンプ
度が有意に改善したが,ジャンプを伴うライト,セ
スパイクの速度を改善するためには,トレーニング
ンター,レフトスパイクの速度は改善しなかったと
の様式,強度,量について,さらに検討が必要とい
いえる.この理由としては以下のことが考えられる.
えよう.トレーニングの様式については,例えば,
先行研究によると,スパイク速度の決定要因とし
バランスボードなどを利用して不安定な状態でめん
て,インパクト時の手先の速度の他に,筋力,体幹
こ打ちを行うなど,ジャンプスパイクの特異性を考
のバランス,ジャンプ力の3つの要素があげられて
慮した工夫をすることで効果が得られるかもしれな
いる3).スパイクはジャンプを行った後,空中でボー
い.あるいは,めんこ打ちトレーニングは腕振り動
ルを打つ動作である.つまり,空中では不安定な身
作の改善だけを目的として行い,ジャンプスパイク
体のバランスを制御し,適切なスパイク姿勢を保つ
に要求される他のさまざまな能力の改善について
ことがパフォーマンスにとって重要である.
は,別のトレーニングを導入して行うことも有効か
一方,めんこ打ちトレーニングは,安定した地面
もしれない.
で行われる動作である.このため,このトレーニン
グによって腕振り動作の速度が改善した場合,足を
2.個人別に見たトレーニング効果
地面につけて行う立位スパイクではその能力が反映
前述のように,全体的な傾向としては,めんこ打
しやすいと考えられる.一方,ジャンプスパイクは,
ちトレーニングによって立位スパイク速度は有意に
空中で身体全体のバランスをとりながら行う,より
改善したが,ジャンプスパイク速度には有意な改善
難度の高い動作であるため,腕振り動作の改善が起
は見られなかった.しかし,表1で個別に見ると,
こっても,その効果が最終的なパフォーマンスにま
選手Aでは立位スパイクだけではなく,ジャンプス
で十分反映しなかった可能性が考えられる.
パイクの改善も大きかったことがわかる.すなわち,
選手に対してトレーニング前後でのスパイク時の
センターおよびライトスパイクでは5%以上,レフ
感覚を尋ねてみると,ほとんどの選手が「腕がスムー
トスパイクでも4.9%と,5%に近い改善率であった.
ズに回るようになった」,「腕を素早く振るイメージ
反対に選手Fについては,立位スパイクも含めて,
ができた」と述べていた.したがって,めんこ打ち
全てのスパイク速度で顕著な改善は見られなかっ
トレーニングによって,腕振り動作自体には改善が
た.そこで以下,この2選手について,他の選手と
起こっていた可能性は高いといえる.そしてその効
の違いを考察する.
果は,地面に足をつけて行うという意味で共通点の
まず,全てのスパイク速度が明瞭に改善した選手
より多くある立位スパイクには反映されたが,空中
Aは,他の選手と比べて競技歴が短く(3年),競
で全身のバランスを保持しながら行う,動作のより
技力も他の選手に比べて相対的に低い.このように,
複雑なジャンプスパイクにまでは反映されなかった
競技歴が短く,競技力も低い選手の場合には,めん
と考えられる.
こ打ちトレーニングの効果は大きい可能性が考えら
先行研究を見ると,めんこ打ちトレーニングに
れる.
よってボール投げのスピードが改善されたという報
一方選手Fは,競技歴が8年と長く,また高校時
-12-
「めんこ」を利用した素早い腕振り動作のトレーニングが大学生バレーボール選手のスパイク速度に及ぼす影響
にセンタープレーヤーとして全国大会で準優勝する
うジャンプスパイクの速度を改善するためには,ト
など,競技レベルが高く,練習量も多い選手である.
レーニング方法にさらに工夫が必要と考えられる.
また現在でも,九州選抜のメンバーとして選ばれる
また個人的に見ると,バレーボールの競技経験が長
など,レベルが高く,また他の選手と比べて練習量
く,レベルの高い選手に対しては効果が小さいが,
も多い.Fの競技歴は8年であり,A,C,Eより
そうでない選手に対してはより大きな効果が得られ
も長い.またBやDはFよりも競技歴は長いが,レ
る可能性が考えられた.
シーブを専門とするポジションであるため,普段の
練習でのスパイク練習量は少ない.このように,競
引用文献
技歴が長く,またスパイク能力がかなり高い選手に
1) 有賀誠司:競技スポーツ別ウエイトトレーニ
ついては,めんこ打ちトレーニングの効果は小さく
ングマニュアル.体育とスポーツ出版社,東京,
なる可能性が考えられる.
pp.81-84,2007.
2)川合武司,小林一敏:腕の振りからみたバレー
以上のことをまとめると,めんこ打ちトレーニン
ボールのスパイク動作.体育の科学,30:509-
グを行うことで,腕振り動作には改善が起こる可能
514,1980.
性が高いといえる.そしてそのトレーニング効果は,
3)佐々木克明:バレーボールにおけるスパイク速
運動特性に共通点の多い立位スパイクの速度におい
度に関する研究.武庫川女子大学紀要(教育学編),
て反映されやすいと考えられる.またこのトレーニ
22:49-61,1975.
ングは,競技歴が短く経験の浅い選手に対しては,
4)都澤凡夫,塚本正仁:スパイク理論に関する研
特に有効である可能性がある.一方,競技歴が長い
究-フォアスイングについて.バレーボール研究,
選手や,競技レベルが高い選手に対しては,トレー
1:9-13,1999.
ニング様式,強度,量について,さらに工夫するこ
5)細井誠,岡村泰斗,若吉浩二:めんこ投げ遊び
とが必要といえよう.
や紙てっぽう遊びが児童の投動作に及ぼす効果.
奈良教育大学紀要,53:41-50,2004.
Ⅴ.まとめ
6)和田尚,阿江通良,遠藤俊郎,田中幹保:バレー
本研究では,「めんこ」を利用した素早い腕振り
ボールのスパイク動作における体幹のひねりに関
動作のトレーニングが,バレーボール選手における
するバイオメカニクス的研究.バレーボール研究,
各種スパイク速度に及ぼす影響について明らかにし
5:1-5,2003.
ようとした.対象者は大学生の男子バレーボール選
手6名で,彼らは通常の練習や補強トレーニングに
加えて,1カ月間のめんこ打ちトレーニングを行っ
た.その結果,立位スパイクにおいては,トレーニ
ング後に有意な改善(平均で+13.6%)が見られた.
しかし,ジャンプスパイク(レフト,センター,ラ
イト)においては,トレーニング前後で有意な改善
は認められなかった.
以上のことから,めんこ打ちトレーニングは腕振
り動作の改善をもたらし,足を地面につけて行うと
いう点で運動特性に共通点の多い立位スパイクにお
いては,トレーニング効果が反映しやすいと考えら
れる.一方,空中で不安定な姿勢を制御しながら行
-13-
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