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『ゲノム創薬』

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『ゲノム創薬』
第一薬科大学
6年生
『ゲノム創薬』
第8-5回
分子生物学教室 担当:荒牧弘範
(H23. 5. 27)
B 遺伝子診断、分子診断
SBO:遺伝子工学の医療分野での応用について例をあげて
説明できる。
ポイント
`
`
`
`
遺伝子診断は病気の確定診断や早期発見を可能にし、
より有効な治療につなげることが可能である。
遺伝子診断や分子診断はテーラーメイド医療に欠かせ
ないステップである。
SNPは連鎖解析などに最も有効な多型マーカーである。
遺伝子診断はより良い医療に有効な方法であるが、一
方では個人情報の取り扱いなど倫理的な問題も慎重に
検討していかなければならない。
①
遺伝子診断の実例:a 病気の確定診断
一塩基多型
(Single Nucleotide Polymorphism, SNP)
2人以上のヒトゲノムの比較
`
31億塩基対のうち、
99.9%は塩基配列が同じ
残り0.1%(約300万ベース)は個人間で差
`
約1キロベースに1つ違いがあるということ。
`
`
血液でうつ病診断、簡便な検査法
開発 リン酸濃度を測定
朝日新聞 5月21日 朝刊
②
`
遺伝子診断の方法 c 検出する方法
シークエンシング:究極の変異・多型検出法である。経費
は最も高く付くが、変化を直接検出できるので確実性も
最も高い。
A) マクサム・ギルバート(Maxam-Gilbert)法
`
`
`
1977年にマクサム・ギルバートにより発案された最
初のDNA塩基配列の決定法。化学法ともいう。
一本鎖DNAの5’末端(あるいは3’末端)を32Pで標識し
、4種の塩基特異的な化学反応で限定的に分解する
。
大量の放射性同位元素を使用することや操作が煩
雑であるなどの問題がある。
A) マクサム・ギルバート(Maxam-Gilbert)法
`
生成した分解物をポリアクリルアミドゲル電気泳動
により分離し、オートラジオグラフィーにかける。
B) サンガー(Sanger)法
`
`
1977年にサンガーにより発案された方法である。酵素法
ともよばれる
解析の対象とする一本鎖DNAの3’末端を調べ、これと
相補的な[32P]オリゴデオキシヌクレオチドをプライマーと
し、DNAポリメラーゼによる合成反応を行う。
B) サンガー(Sanger)法
`
4種類のDNA合成系を用意(dNTP)し、これに各塩基
に対応する微量の2’,3’-ジデオキシリボヌクレオチド
三リン酸(ddATP, ddGTP, ddCTP, ddTTP, 図7・4には
ddATPを示す)を加えておくのがポイントである。
B) サンガー(Sanger)法
`
DNAポリメラーゼは鋳型
配列に対応するdNTPを
取込みDNAを合成する
が、反応系に3’-OHがな
いddNTPなどが塩基対合
し取込まれると、反応がス
トップする。
B) サンガー(Sanger)法
`
こうして得られた4種の反
応生成物をゲル電気泳動
で分離し、マクサム・ギル
バート法と同様にはしご
模様を読み取る(図7・6)。
B) サンガー(Sanger)法
`
`
`
`
現在では、反応系に蛍光標識した4種類のジデオキシ体
を加えておき、電気泳動ののちそれぞれの蛍光波長を
測定し取り込まれたジデオキシ体を順番に決定し、DNA
配列を解析することが行われる。
これをダイターミネータ(dye-terminator)法という。
このとき、シークエンサー(シークエンス反応で生じた産
物の電気泳動による分離と塩基配列の読み取りを行う
装置)を用い、レーザーにより蛍光標識した産物を読み
取る。
電気泳動はPAGEがよく用いられるが、キャピラリー電気
泳動を装着したシークエンサーも開発されている。
B) サンガー(Sanger)法
②
`
`
`
遺伝子診断の方法 c 検出する方法
制限酵素による切断: RFLP
SSCP
フレット(FRET)を用いた方法:
`
`
TaqMan法
インベーダー法など
① RFLP
`
`
`
`
SNPが制限酵素の認識DNA配列上に起こって、制限酵
素認識配列が新たに生じたり、または消失したりした場
合は、制限酵素で切断した時のDNA断片の長さが変化
する。
この変異をRFLPという。
制限酵素切断断片の長さの多型を意味するRFLPは
Restriction Fragment Length Polymorphism(s)の頭文字を
とって命名されている.
この種のSNPはサザンブロット解析で検出することがで
きる。
SNPが生じた結果、EcoRIの認識配列が新た
に生じた場合(サザンブロット法)
`
これらのDNAの塩基配列
がまったく一致していた場
合には、検出用プローブ
がAとBをまたぐ位置にあ
るため、図7・8のレーン2
からレーン5に、AとBの2
本のバンドがサザンブロ
ット解析の結果検出され
る(図7・8 a, cの検体番号
2から5).
a SNPによって起こるRFLPの検出ーサザン
ブロット法
`
`
ところが、EcoRIの切断断
片のAの中にSNPが起こ
り、新たなEcoRIの認識配
列が生じると、Aはより短
いCとDの断片が生じる。
図7・8bの例では、父親由
来の染色体DNAから生じ
たAとBの断片以外に、母
親由来の染色体DNAに
SNPが生じて新たなEcoRI
認識部位が出現しCとD
の断片が生じる.
a SNPによって起こるRFLPの検出ーサザン
ブロット法
`
その結果、サザンブロット
解析でA、BそしてCの3本
のバンドが検出されること
になる(図7・8cの検体番
号1).
アガロース(寒天) *4
`
アガロースゲルは元々網目状構造を形成しており、ポリ
アクリルアミドゲルのようにゲルの重合により網目状構
造を作る必要はない。
a. 原理
`
`
DNAはマイナスの電荷を
帯びているので(RNAも同
様)、電圧50〜100 Vをか
けるとアガロース中を陰
極側から陽極側へ泳動す
る(図7・2)。
実験前に装置の電極を確
認し、陽極と陰極を間違
わないように接続する。
a. 原理
`
目的にもよるが、通常
DNAサンプルはグリセリ
ンを含む色素液(ブロムフ
ェノールブルー、キシレン
シアノール)と混合し、マイ
クロピペットを用いて溝
(well)に加える(図7・2)。
b. DNAの検出
`
`
`
電気泳動終了ののち、ゲルをエチジウムブロマイド
(EtBr) *4溶液に浸す。
なお、 EtBrは強い発ガン作用があるので取り扱いには
注意する。
EtBrは平面分子で、二本鎖DNAの塩基対の間に入り込む。
そのEtBrは遊離分子よりも強い蛍光を発するので微量の
DNAも検出できる。
b. DNAの検出
`
`
`
ゲルに紫外線を照射すると、DNAのバンドが蛍光を発
するので肉眼で確認できる。
紫外線は眼に障害を与えるので直接見ないようにする。
検出感度は、バンド1本あたり10 ng程度のDNA量があ
れば検出が可能である。
②
`
`
SSCP
Single Strand Conformational Polymorphism
SNPの存在によりPCR産物の高次構造が変化し、電気
泳動速度が変わることを利用して多型を検出する。
③
`
`
`
フレット(FRET)を用いた方法
SNPがちょうど制限酵素の認識配列の上に生じて、制限
酵素の認識配列が他のDNA配列に変化して制限酵素
で切断できなくなったり、逆に、SNPの結果、新しい制限
酵素の切断部位が生じることはごくまれにしか起こらな
い.
ほとんどのSNPは制限酵素の切断部位とは無関係に存
在する.
これらのSNPを検出するためには、サザンブロット以外の
方法を用いる必要がある.
HBB thalassemia
tgggcataaa agtcagggca gagccatcta ttgcttacat ttgcttctga cacaactgtg
ttcactagca acctcaaaca gacacc atg gtg cac ctg act cct gag gag aag
tct gcc g
M
K
S
V
H
L
T
P
E
E
A
ttactgccct gtggggcaag gtgaacgtgg atgaagttgg tggtgaggcc ctgggcaggt
tggtatcaag gttacaagac aggtttaagg βグロビン遺伝子
agaccaatag aaactgggca tgtggagaca
CCT GAG GAG
5Pro
6Glu
7Glu
点突然変異
CCT GTG GAG
5Pro
6Val
7Glu
(1)インベーダー法(Invader法)
`
`
インベーダー法はクリーベースというフラップエンドヌクレ
アーゼの1種を用いたSNPの検出法である。
クリーベースは、二本鎖DNA上で相補的結合を形成せ
ずに浮いているフラップ部分を、相補的結合をしている
塩基の5’末端側で切断する酵素である。
(1)インベーダー法(Invader法)
`
検出しようとしているSNPの部分と相補的なプローブの5’
側に、検出対象とは無関係のフラップ配列を付加したレ
ポータープローブ(図7・9 a)-2)を作製する.。
(1)インベーダー法(Invader法)
`
`
それとは別に、インベーダープローブ(図7・9 a)-1)を作製する
。
インベーダープローブは、検出したいSNPを持つDNA配列と
相補的な塩基配列を持ち、3’末端がちょうどSNPの位置に当
たるように設計する。3’末端の塩基は任意な塩基(N)でよい
。
(1)インベーダー法(Invader法)
`
レポータープローブとインベーダープローブを、SNPが存在す
ると思われるDNAにハイブリダイズさせるとインベーダープロ
ーブが図7・9のa)-1やa)-2に示すような割り込んだ形でハイブ
リダイズする。
(1)インベーダー法(Invader法)
`
`
クリーベースは図7・9のa)-1やa)-2で、ハイブリダイズせずに
中に浮いているフラップ部分の5’末端を塩基対が相補的な場
合のみ切断し、レポータープローブの5’フラップDNAを切り出
す(図7・9b)。
切り出されたフラップ配列はFRET (Fluorescence Resonance
Energy Transfer)プローブと呼ばれるプローブにハイブリダイズ
する(図7・9c)。
(1)インベーダー法(Invader法)
`
`
`
FRET プローブ上には蛍光色素と消光物質が近接してお
り、その状態では消光物質が蛍光を抑制するため蛍光
は検出されない。
5’フリップDNAがハイブリダイズすると、FRET プローブ
上に5’フリップDNAが割り込んだ形となり、再びクリーベ
ースによって蛍光色素を持つDNA部分が切断され、蛍
光シグナルが検出できるようになる.
(1)インベーダー法(Invader法)
`
`
`
`
`
名前の由来は、プローブが侵入するので、侵入者をあら
わすinvaderから命名された。
実際の検出にはCのSNPに対応するレポータープローブ
には赤、TのSNPに対応するレポータープローブには青の
蛍光を発する、というような2種類の異なる波長の蛍光を
発するFRET プローブを用いて、赤と青の蛍光のどちらが
どれだけ検出されるかでSNPの種類と頻度を判定する。
赤のみならばC/C、
赤と青ならばC/T、
青のみならばT/Tである。
(1)インベーダー法(Invader法)
`
この方法の利点は、蛍光を持つFRETプローブが、検出し
ようとするSNPを持つDNA配列とは全く無関係であるた
め、多くのSNPを検出するために、高価な蛍光プローブを
その都度作製する必要がなく、また、反応温度が一定で
あるためPCR装置がなくとも検出できる点である。
(2)QP法(Quenching probe/primer法)
`
`
`
`
ある種の蛍光色素が、グアニン(G)に近づくと蛍光を消
失するのを利用したSNPの検出法である(図7・10)。
SNPの疑われる部分と相補的なプローブを作製し、この
プローブの、検出しようとしているSNPの近傍にあるGに
対応する位置に蛍光物質を結合させる。
このプローブ(Qプローブ)を、SNPを持つと思われる
DNAにハイブリダイズさせる。
ハイブリダイズしているときには蛍光物質はGの近傍に
あるため蛍光は検出されない。
(2)QP法(Quenching probe/primer法)
`
`
それぞれのQプローブは塩基配列が異なるため、異なる
融解温度(Tm)を持つ。温度を徐々に上げていくと、それ
ぞれのQプローブは、対応する融解温度に従って1本鎖
DNAに解離する。
このとき、蛍光物質はGから離れるため蛍光を発する。
(2)QP法(Quenching probe/primer法)
`
`
図7・10ではTのSNPの方がCのSNPよりTmが低いので、
両者の違いから、C/C、C/T、T/Tを区別して判定すること
ができる。
この方法によれば、蛍光の種類を変えることによって、
一度に何種類かのSNPを調べることができる.
(3)タックマンPCR法(TaqMan PCR法)
`
`
`
`
タックマンPCR法では、検出しようとしているSNPを含む
領域を増幅するための1セットのPCRプライマーと、その
SNPに対応するプローブを2種類作製する。
SNPに対応するそれぞれのプローブには蛍光物質と消
光物質が結合している。
その状態では消光物質が蛍光を抑制するため蛍光は検
出されない。
この蛍光物質と消光物質が結合しているプローブをタッ
クマンプローブという。
(3)タックマンPCR法(TaqMan PCR法)
`
2種のタックマンプローブ存在下でSNPを含む領域をPCR
で増幅すると、塩基が一致しているタックマンプローブだ
けがゲノムDNAにアニーリングし、ミスマッチのタックマ
ンプローブはゲノムDNAにアニーリングできない。
(3)タックマンPCR法(TaqMan PCR法)
`
この状態で、Taq DNAポリメラーゼによるDNA合成が進
むと、Taq DNAポリメラーゼの持つ5’-3’エキソヌクレアー
ゼ活性により蛍光物質を結合したタックマンプローブに
衝突し、Taq DNAポリメラーゼの持つ5’-3’エキソヌクレア
ーゼ活性により蛍光物質がタックマンプローブから切り
離され、消光物質から離れることにより蛍光を発する。
(3)タックマンPCR法(TaqMan PCR法)
`
実際の検出にはCのSNPに対応するタックマンプローブ
には赤、TのSNPに対応するタックマンプローブには青の
蛍光を発する、というような2種類の異なる波長のタック
マンプローブを用いて、赤と青の蛍光のどちらがどれだ
け検出されるかでSNPの種類と頻度を判定する.赤のみ
ならばC/C、赤と青ならばC/T、青のみならばT/Tである.
⑤
`
`
`
`
PCRによるマイクロサテライト多型の検出
SNP以外の、染色体DNAにみられる差異として、各個人
で反復配列の反復数の差がある。
反復配列のうち、マイクロサテライトDNAやミニサテライ
ト(VNTR)は各個人で反復単位のくりかえし数が異なる
ので、PCRによってくり返し数の違いを検出する方法であ
る。
多型検出によく利用されるマイクロサテライトDNAはCA
やGTなどの2塩基が縦列に反復している配列である(
CACACACACAC・・・など)。
この反復数に個人差があり、PCRによってマイクロサテラ
イトDNA領域を増幅した後、電気泳動で検出する。
⑤
`
PCRによるマイクロサテライト多型の検出
図7・13は、マウスの、ある染色体上に存在するマイクロ
サテライトDNAをPCRで増幅した後、アガロースゲル電
気泳動で検出した結果である。
d
`
PCRによるマイクロサテライト多型の検出
同じマクロサテライトDNAでも父マウスと母マウスでは
長さが異なっており、この図では父マウスの方が長く、母
マウスのものはそれよりも短い。仔は、父と母から1本づ
つ染色体を遺伝しているので、長いマクロサテライト
DNAと短いマクロサテライトDNAの両方を持つことが分
かる.
SNPが機能におよぼす影響の例ー薬剤代謝
酵素における遺伝的多型
`
`
`
薬剤代謝酵素のうちのどれかにSNPが生じ、酵素活性
が極端に減少したり、あるいは消失した場合、薬剤を投
与することによって重篤な副作用が起こる可能性がある
。
薬剤代謝酵素としてはシトクロムP450が非常に重要な役
割を演じていることが知られているが、これだけにとどま
らず、薬物代謝を担う酵素にSNPなどの遺伝的多型が生
じた結果、薬剤の効果が個人個人で変わってくることが
知られている。
その中の1つに、UDPグルクロン酸転移酵素(UGT1A1)
がある.
a)抗がん剤イリノテカンとUDPグルクロン
酸転移酵素(UGT1A1)
`
イリノテカンは肺がんや大腸がんなど消化器系がんをはじめとして、多く
のがん患者に投薬されるきわめて治療効果の高い抗がん剤である.
`
イリノテカンはプロドラッグの1種で、肝臓のカルボキシエステラーゼにより
DNAトポイソメラーゼIを阻害するSN-38へ変換される。DNAトポイソメラ
ーゼIは細胞増殖、とくにDNAの複製の際に重要な働きをする酵素であり
、これを阻害することで強い抗がん作用を示す(図7・14) 。
a)抗がん剤イリノテカンとUDPグルクロン
酸転移酵素(UGT1A1)
`
`
重篤な下痢や腸炎、白血球減少などの副作用が起こる
ことが知られており、副作用の原因究明と予防のための
研究が進められてきた。
SN-38は抗がん作用と同時に細胞障害活性も持ち、小
腸に対する細胞障害の結果、重篤な下痢が起こると考
えられる。
a)抗がん剤イリノテカンとUDPグルクロン
酸転移酵素(UGT1A1)
`
`
`
`
この活性型であるSN-38を
不活性化する酵素の1種が
UGT1A1である.
UGT1A1はSN-38を肝にお
いてグルクロン酸抱合する
。
形成されたSN-38グルクロン
酸抱合体(SN-38G)は胆汁
と一緒に腸管に排出される
。
UGT1A1の機能が低下すれ
ばSN-38を不活性化するこ
とができなくなり副作用が起
こる(図7・14).
(b) UGT1A1に見られるSNPsと遺伝子多型
`
`
UGT1A遺伝子群は2番染色体の長腕に位置する(2q37)
。エクソンは第1エクソンから第5エクソンの5つ存在する。
UGT1A遺伝子群では第1エクソンが13種類存在する。
そのうち4つは偽遺伝子であり、生体内でタンパク質とし
て機能するものは全部で9種類である。
(b) UGT1A1に見られるSNPsと遺伝子多型
`
`
それらは独自のプロモーターを持ち、臓器特異的な転写
調節を受けている。UGT1A1は主に肝に発現している。
UGT1A7は消化器等に発現している。
第2から第5エクソンは共通であるからUGT1Aタンパク質
群はN末端側のアミノ酸配列が異なる9種類のタンパク
質をコードすることになる。その中の1つがUGT1A1であ
る(図7・15)。
(b) UGT1A1に見られるSNPsと遺伝子多型
`
`
UGT1A1にはいくつかの遺伝子多型の存在が知られて
いる(図7・16) .
UGT1A1*6と呼ばれるSNP変異は、第1エクソンの211番
目の塩基GがAに変異した結果、71番目のアミノ酸がグ
リシン(G)からアルギニン(R)に置換したもの(G71R)で
ある。
(b) UGT1A1に見られるSNPsと遺伝子多型
`
UGT1A1*27と呼ばれるSNP変異は、686番目のCがAに
変異した結果、229番目のアミノ酸がプロリン(P)からグ
ルタミン(Q)に置換したもの(P229Q)である。
(b) UGT1A1に見られるSNPsと遺伝子多型
`
UGT1A1*6やUGT1A1*27を持つ場合、SN-38が不活性化
される割合が極端に低いため、強い下痢や白血球減少
が起こりやすくなる。
(b) UGT1A1に見られるSNPsと遺伝子多型
`
`
UGT1A1*28と呼ばれる遺伝的多型はUGT1A1のプロモ
ーター領域に存在するTA反復配列の反復数の変異であ
る。
通常UGT1A1のプロモーター領域にはTAが6回繰り返し
ている。ところがUGT1A1*28ではTAの繰り返し数が1回
多くなっている。
(b) UGT1A1に見られるSNPsと遺伝子多型
`
`
TAが7回繰り返しているUGT1A1*28 ではUGT1A1の遺
伝子発現量が低下し、SN-38が不活性化される割合が
低くなり、下痢や白血球減少が起こりやすくなる。
これは上記の反復配列の反復数の多型が転写調節領
域に起こり、遺伝子発現量に影響を与えている例である
(図7・16) 。
ポイント
`
`
`
`
制限酵素の切断部位に生じたSNPは、ゲノミックサザン
ブロット法で検出できる場合がある.
RFLP以外のSNPのタイピングは、インベーダー法、QP法
、タックマンPCR法などの種々の方法で検出することが
できる.
ゲノムの反復配列の反復回数の違いが、ゲノムのマー
カーとなる.
ゲノムの反復配列の長さの違いは、PCR産物の長さの
違いとして検出する.
今日の誕生花
鎮静
ナツシロギク(夏白菊)
d 遺伝子以外の分子診断の方法
`
`
遺伝子、すなわちDNAのみでなく、疾患関連遺伝子の
mRNAやタンパク質量を測定してその発現状況を把握す
ることも、適切な医療には有効な手段である(EBM、オー
ダーメイド医療)。
mRNAの定量法としては、ノザンブロット法、RT-PCR法、
タンパク質の定量法としては、ウエスタンブロット法、免
疫染色法、フローサイトメトリーなどが一般的である。
d 遺伝子以外の分子診断の方法
`
また、近年はDNAチップやマス・スペクトロメトリー(Mass
Spectrometry, MS)、プロテインチップにより、mRNAやタ
ンパク質の発現パターンを網羅的に解析する手段が現
実のものとなり、特定の遺伝子やタンパク質のみで発症
を説明できない場合にも、網羅的発現診断により得られ
る発現パターンに基づいて疾患を細分類し、それぞれの
分類群ごとに最適な治療法を選択できる例が報告され
はじめた(図10・10)。
③
`
`
遺伝子診断の種類
遺伝子診断は、遺伝子診断を適用する時期によって
次の4通りに分類される。倫理的な観点から遺伝子
診断が容認できるか否かを議論する際に、この4通
りを区別して考える方が問題点を明確にできると思
われる。
③
`
`
`
`
遺伝子診断の種類
発症後診断:疾病の確定診断ができる。最適な治療
方針の設計に有効。
発症前診断:疾病の発症前に診断する。罹患予測と
予防に有効。
出生前診断:胎児を診断する。先天性異常の発見が
可能。
着床前診断:体外受精でつくった胚の細胞を調べ、問
題が無いかどうかを診断することが可能。
④ わが国における遺伝子診断に関する規
制の現状
`
`
`
遺伝子診断はより優れた医療に有効な方法と考えられ
るが、一方では個人情報の取り扱い、遺伝病患者に対
する差別につながる可能性、治療法の無い病気を確定
診断することの問題点など、倫理的な問題も慎重に検討
していかなければならない。
わが国においては、先天性血液凝固異常症、筋ジストロ
フィー、固形腫瘍などについて、特定の医療施設で遺伝
子診断が実施されている
一方、日本遺伝カウンセリング学会、日本小児遺伝学会
、日本人類遺伝学会、日本臨床検査医学会など、遺伝
医学関連の10学会が共同で、平成15年に「遺伝学的
検査に関するガイドライン」を策定して自主規制を行って
いる。
C テーラーメイド医療
SBO:疾患関連遺伝子情報の薬物療法への応用例を挙げ、
概説できる。
`
`
薬剤開発の時間を節約できるだけでなく、がん細胞など
疾患の原因分子だけを特異的に阻害することが可能に
なるので、副作用のリスクも軽減されるというメリットもあ
る。
特に抗がん剤においては、試験管内でがん細胞を殺す
が正常細胞は殺さないという原始的なスクリーニングで
開発が進められたが、それぞれのがん細胞が由来する
正常細胞を試験管内で増殖させることは難しく、結果とし
て、副作用の少ない抗がん剤の開発に結びついた例が
少なかった。
`
`
一方、高血圧や高コレステロール血症に対する薬物療
法のように、疾患の原因遺伝子産物そのものではなく、
血圧やコレステロールの生産を調節しているタンパク質
を標的にした薬剤開発と薬物療法が効果を上げており、
これらも広義の意味で分子標的薬物療法に含める場合
もある。
このような背景から分子標的薬の概念が必要になり、開
発が進められた結果、いつくかの成功例が生まれた。
`
`
`
同様に、治療の現場では経験や試行錯誤に基づく治療
に対して、疾病の原因となる分子すなわち疾患関連遺伝
子産物を特定し、原因となっているという証拠を固めた
上で、その分子を狙い撃ちする方法で治療を行うことを
EBM(Evidence Based Medicine、証拠に基づいた治療)と
いう。
分子標的薬の開発は、まさにEBMの考え方に沿った薬
剤開発である。
分子の特定にまでは至っていない場合にも、疾病の原
因となる経路を明らかにした上でその経路を対象に行う
治療や、網羅的発現パターンに基づいて複数の治療法
から最適なものを選択するような医療をEBMと呼んでい
る場合もある(図10・10)。
`
`
`
`
また、同様の疾患であっても、患者一人ひとりで発症の
要因が異なる可能性がある。
EBMを進めていくとこの疾患の多様性が明らかになり、
患者個人ごとに適した治療法を選択することの必要性が
生じる。
患者における疾患関連遺伝子情報を把握し、患者一人
ひとりに最適な治療を行うことをテーラーメイド医療と呼
ぶ。
すなわち、遺伝子診断や分子レベルの診断によりそれ
ぞれの患者に固有の疾患関連分子の異常を特定し(→
遺伝子診断、分子診断)、その分子をねらい打ちした分
子標的薬物療法を行うことが究極のテーラーメイド医療
である(図13)。
①がん分子標的薬----a イマチニブ
①がん分子標的薬----a イマチニブ
①がん分子標的薬----a イマチニブ
②
`
`
`
`
がん分子標的薬----b ゲフィチニブ
EGFRの変異や過剰発現が肺、膵臓、大腸、乳腺、膀胱
、腎臓などのがんで報告されている。
しかも、EGFRの過剰発現は予後や治療抵抗性と相関す
ることも報告されている。
ゲフィチニブは、EGFRのチロシンキナーゼのATP結合部
位に、ATPと競合的に結合する低分子化合物としてスク
リーニングされ、EGFRの過剰発現が認められる非小細
胞肺がんを対象として認可された。
ゲフィチニブは正常細胞のEGFRにも結合するが、がん
細胞で過剰発現している変異型EGFRにはより強い親和
性で結合する(図10・11)。
②
`
`
`
がん分子標的薬----b ゲフィチニブ
このことが、少ない副作用でがん細胞に効果が生じる理
由と考えられている。
一方で、一部の患者には間質性肺炎という重篤な副作
用が現れ大きな問題となった。
その後、人種間、性別、や、EGFRに特定の変異を持つ
か否か、などにより腫瘍縮小効果と副作用が大きく異な
ること、が分かったので、遺伝子診断や分子診断により
、このような背景を把握して、副作用が予測される例は
除外し、効果が期待される例のみを抽出してゲフィチニ
ブの投与を行うテーラーメイド薬物療法が期待されてい
る(図15)。
ゲフィチニブ治療の選択因子
③
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がん分子標的薬----トラスツズマブ
EGFR(HER1ともよばれる)の変異や過剰発現ががん化に
結びつくことを説明した。
このEGFRには仲間が4種類存在する(HER1~HER4)。
そのうちHER2(ERBB2ともよばれる)は乳がんの20~30%
で過剰発現しており、しかも予後不良である。
HER2に対する抗体はHER2に結合し、リガンドの結合を
阻害することによって二量体化を阻害し、がん細胞で活
性化されていた増殖シグナルをストップさせることが期
待できる(図10・11)。
③
がん分子標的薬----トラスツズマブ
③
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がん分子標的薬----トラスツズマブ
実際、HER2に対するヒト型モノクローナル抗体が、転移
性乳がんを対象にした世界初の抗体分子標的薬(→分
子標的薬)として米国FDAにて認可された。
HER2が乳がんの原因になっている証拠を得たこと(
→EBM)、HER2の発現を診断によりあらかじめ把握し、
過剰発現している患者のみを対象に分子標的薬物療法
を行ったこと、が成功のポイントと思われる。
トラスツズマブの効く仕組みに関しては、予想どおり増殖
シグナルをストップさせることのほかに、一部は抗体依
存性細胞障害(→抗体依存性細胞障害)によることが分
かった。
トラスツズマブの効く仕組み
抗体依存性細胞障害
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標的細胞の表面抗原に結合した抗体を、未感作のナチ
ュラルキラー細胞や単球の細胞膜に存在するFc受容体
が認識し、標的細胞を傷害する活性を示すこと。
ファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤
③
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がん分子標的薬----d その他
その他のがんを対象にした抗体医薬品としては、B細胞
抗原のCD20に対するキメラ抗体で、非ホジキンリンパ
腫を適応対象に米国で認可されているリツキシマブ(商
品名Rituxan)や、VEGF(vascular endothelial growth
factor、血管内皮増殖因子)に対するヒト型抗体で、大腸
がんと肺がんを対象に米国で認可されているベバスツマ
ブ(bevacizumab、商品名Avastin)などがある。
また、リュウマチ患部の活性化されたマクロファージが分
泌するTNFαを標的にしたキメラ型抗体のインフリキシマ
ブ(商品名レミケード)など、がん以外の疾患に対する分
子標的医薬品も治療に使用され始めている。
リツキシマブ(商品名:リツキサン)
リツキシマブ
(商品名:リツキサン)
リツキシマブ(商品名:リツキサン)
ベバシズマブ(遺伝子組換え)
(商品名:アバスチン)
②
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高血圧と分子標的薬
生体内における血圧はレニン、アンジオテンシンにより
調節されている(図10・13)。
したがって、レニン阻害剤、ACE阻害剤(Angiotensin
Converting Enzyme Inhibitor=ACEI)、AII受容体拮抗薬(
Angiotensin II Receptor Blocker=ARB) が有効な降圧剤
となる。
②
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高血圧と分子標的薬
キマーゼのような、レニン、ACEを介さないアンジオテン
シン合成酵素によりAIIの阻害が不完全になること、キニ
ナーゼII(ACEと同一)の阻害がブラジキニンの分解をさ
またげ空咳の副作用を引き起こすことがレニン阻害剤、
ACE阻害剤の問題点である。
このことから、ARBが今後重要な降圧剤になると考えら
れている。
代表的なACE阻害剤としてカプトプリル、代表的なARBと
してロサルタンがある。
③
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脂質異常症と分子標的薬
コレステロールのHMG-CoAからメバロン酸を作る段階
に作用するスタチン系薬剤(プラバスタチンなど、図10・7
)は、血中コレステロールと、冠動脈疾患、脳梗塞の発症
率をそれぞれ30%下げることから、大ヒット薬剤となった
。
④
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薬物動態関連遺伝子とテーラーメイド医療
疾患関連遺伝子情報と並んで、薬剤の体内動態(ファー
マコキネティクスとも呼ばれる)に関与する遺伝子情報、
分子情報もテーラーメイド医療には欠かせないものであ
る。
薬剤の体内動態が薬剤の血中や標的組織中の濃度を
決めるので、治療効果や副作用の発現に影響するから
である。
薬剤の体内動態には投与した薬剤の消化・吸収・分配・
代謝や体外への排出効率が関与する。
④
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薬物動態関連遺伝子とテーラーメイド医療
すなわち、口から飲んだ薬剤は消化管から吸収され、肝
臓に運ばれて代謝され胆管から排泄されるか、または全
身の細胞に行きわたった後、腎臓や胆管から排泄される
(図10・14)。
④
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薬物動態関連遺伝子とテーラーメイド医療
これらの過程には、OAT、OATPやOCTなどの取り込み
トランスポーター(現在では、SLCファミリーとして統一的
に分類されている)、P450(CYPファミリー)やN-アセチル
トランスフェラーゼなどの代謝酵素、チオプリンメチルトラ
ンスフェラーゼやUDPグルクロノシルトランスフェラーゼ
(UGT)などの抱合酵素、ABCトランスポーターファミリー
に属するP糖タンパク質(MDR1)やMRPタンパク質群など
の排出トランスポーター、などが関与する。
SLCファミリー
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主に細胞外から基質を取り込む機能を持つ。
それぞれのメンバーは、アミノ酸、糖、Na+、K+やH+など
のイオン、有機アニオン、有機カチオン、などを基質とす
る。Na+とH+を、互いに膜の逆方向に輸送するNa+/H+ア
ンチポーターや、生体外の有機アニオンを取り込むOAT
やOATP、有機カチオンを取り込むOCTなどが代表的な
ものである。
P450
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シトクロームP450とも呼ばれる。
コレステロール、胆汁酸、ステロイドホルモン、ビタミンD
の生合成、脂肪酸、ヘム、エイコサノイドなどの生理基質
の代謝や、生体外異物の代謝に関与する。
生体外異物の多くはP450により解毒されるが、代謝によ
り活性化されて発がん性を持つ場合もある。
NAD(P)Hからの電子と分子状酸素を使って、基質のヒド
ロキシル化や脱アルキル化を触媒する。
ABCトランスポーター
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糖、アミノ酸、疎水性物質などの幅広い基質を輸送する
タンパク質群。輸送にはATPの結合と、加水分解による
エネルギー供給が必要である。
ATP結合部位のアミノ酸は大腸菌からヒトまで良く保存さ
れており、ATP結合カセット(ATP Binding Cassette)と呼
ばれる。
これがABCの語源となった。
ABCトランスポーター
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ヒトでは、Cl-チャネル、抗原の提示、極長鎖脂肪酸やレ
チノイン酸の輸送など、重要な生理機能に関与している
ので、これらの遺伝子変異により遺伝病を発症する。
また、P糖タンパク質(MDR1)、MRPタンパク質などの排出
トランスポーターががん細胞で発現亢進すると抗がん剤
耐性につながるし、細菌で発現して抗生物質耐性に結
びつく場合もある。
④
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薬物動態関連遺伝子とテーラーメイド医療
したがって、これらのタンパク質の発現量や遺伝子多型
が薬剤の体内動態に影響を与え、治療効果や副作用の
発現に影響することがあるので(表10・3)、あらかじめ発
現量や遺伝子多型を診断により把握し、個人に合わせ
た薬剤の種類と投与量を決めるテーラーメイド薬物療法
が期待されている。
ポイント
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疾患関連遺伝子産物を標的にした治療が分子標的薬物
療法である。
疾患の原因遺伝子産物を標的にした分子標的薬物療法
は、正常細胞には効きにくいことが予想されるので、副
作用を軽減できることが期待される。
代表的な分子標的薬物療法の成功例は、がんの分野で
見られる。
ポイント
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血圧やコレステロールの生産を調節しているタンパク質
などを標的にした治療は、疾患の原因遺伝子産物を標
的にしてはいないが、広義の分子標的薬物療法と考え
られる。
患者における疾患関連遺伝子情報を把握し、患者一人
ひとりに最適な治療を行う医療をテーラーメイド医療と呼
ぶ。
薬物動態に関与する解毒酵素やトランスポーターの遺
伝子情報も、テーラーメイド医療には欠かせない。
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