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総説 Serum Bilirubin and Genes Controlling

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総説 Serum Bilirubin and Genes Controlling
総説
Serum Bilirubin and Genes Controlling Bilirubin
Concentrations as Biomarkers for Cardiovascular
Disease
1
2
Jing-Ping Lin , Libor Vitek and Harvey A. Schwertner
3,*
Office of Biostatistics Research, Division of Cardiovascular Science, National Heart, Lung,
and Blood Institute, National Institutes of Health, Bethesda, MD;
2
4th Department of Internal Medicine and Institute of Clinical Biochemistry and Laboratory
Diagnostics, 1st Faculty of Medicine, Charles University in Prague, Prague, Czech Republic;
3
Clinical Research, Wilford Hall Medical Center, San Antonio, TX.
1
Address correspondence to this author at: Clinical Research, Wilford Hall Medical Center,
2200 Bergquist Dr., San Antonio, TX 78236. Fax 210-292-6053; e-mail
[email protected].
Clinical Chemistry 2010; 56: 1535-1543
心血管疾患のバイオマーカーとしての血清ビリルビンと、その濃度を
規定する遺伝子
概要
背景:血清ビリルビンの高値は、心血管疾患(CVD)の発症しにくさと関連すると報告されて
きた。 最近では、血清ビリルビンが、糖尿病やメタボリック・シンドロームならびに体格指数
(BMI)のような、CVD の危険因子と関連するとの証拠も示されつつある。これらは遡及的あ
るいは前向き試験のような研究方法で検討されてきているが、そのビリルビン濃度を規定する
遺伝子に基づいた検証はまだ十分ではない。
内容:この総説では、ビリルビン濃度を規定する主要な遺伝子と、その CVD の関係についての
情報を提供する。その前に、血清ビリルビンと CVD、ならびにその危険因子である糖尿病やメ
タボリック・シンドロームとの関連についても、最新の情報を収載する。一言で言うと、ビリ
ルビンはあらゆる種の CVD の発症と負の関連を持ち、UGT1A1 が血清ビリルビン濃度を規定
する主要な遺伝子であることが判明してきた(この遺伝子の関連については、最近の genomewide 研究でも確認済みである)。さらに、UGT1A1*28 のホモ接合体は、野生型の対立遺伝子
を持つ場合よりも、CVD リスクが低いことが示されている。
要約:血清ビリルビンは、CVD やその関連疾患に抑制的に作用し、その血清濃度の規定遺伝子
は UGT1A1 である。 血清ビリルビン濃度を増加させる薬学あるいは非薬理学、または遺伝学的
1
介入の試みは、CVD 予防におけるビリルビンの役割に関して、直接の証拠を提供するかもしれ
ない。
ビリルビンの生物学的特性
ビリルビンは、試験管内(1‒3)でも生体内(4)でも、抗酸化物であることが示されている。抗酸化
物としてのビリルビンは、脂質やリポタンパク質の酸化、特に LDL コレステロールの酸化を抑
制し (5)、またヒトの血清中の総酸化防止能と関係することも知られてきた(4)。最近の研究では、
脂肪親和性の強いビリルビンの方が、グルタチオンのような水溶性の抗酸化物(それらは主と
してタンパク質を酸化から保護している)よりも、脂質の酸化防止により作用するとされてい
る(6)。ネズミの研究で、ヘム・オキシゲナーゼ-2(これはビリベルジンの産生に関連)を消去
すると、タンパクの酸化よりも、脂質の酸化がより大きく発生し、一方で、グルタチオンで同
じ検討をすると、逆の結果になったことも報告された(6)。こうした結果から、ビリベルジンと
グルタチオンの低下は、酸化系経路で細胞死の促進を示唆する可能性が考えられる(6)。加えて、
ビリルビンに抗炎症作用があるという証拠も提出されている (7)。すなわち、腫瘍壊死因子(TNF - )由来の e-selectin や血管接着分子 1(VCAM-1)や細胞間接着分子 1(ICAM-1)の発現を抑
止するという実験結果が報告されている(8) 。これは、ギルバート症候群では可溶性 CD40 や Pselectin が低濃度であるという、Tapan らによる結果とも一致している(9)。抗酸化作用、抗
炎症作用あるいは他の作用によって、ビリルビンは恐らく血管粥腫の形成や、アテローム性動
脈硬化を抑止するという筋書きが出てくるのかもしれない(10,11)。
ビリルビン、冠動脈疾患および冠状動脈石灰化
血清ビリルビン濃度が、冠動脈疾患(CAD)と関係するかもしれないという最初の報告は、
1994 年に行われた(10)。この報告では、血清ビリルビンの低値は、CAD の発症リスクの増大と
関係し、正常、高値はその減少に関係しているとしている。この関連の強さは、喫煙、収縮期
血圧ならびに HDL コレステロールと類似している(10,12‒14)。ホプキンズらの研究(12)では、
血清ビリルビン濃度が CAD の重症度と逆相関し、これは男女ともにみられることを確認してい
る。
398 人の男性と 239 人の女性を対象にした最近の横断的研究では、血清ビリルビン濃度は、男
女ともに、冠状動脈石灰化(CAC)のスコアと、強く関係することが明らかとなった(15)。
1 μmol/L の血清ビリルビンの増加は、CAC スコアの 400 以上の場合の相対危険を、14%は低
下するとしている(15)。
ビリルビン、末梢血管疾患ならびに脳卒中
昨年、3 つの重要な研究が発表され、血清ビリルビン濃度と末梢血管疾患(PAD)や脳卒中との
負の相関が見出された(16‒18)。Kimm らの報告(16)では、ビリルビン濃度の最低レベル層の男
性に比べると、最高層では虚血性脳卒中の相対危険が低下している(P 値は 0.016)。Perlstein ら
の全国健康栄養調査(NHANES)に登録された 7075 人の成人による(様々な人種を含む)横断的
2
研究(17)でも、同様の結果であった。 この研究では、血清ビリルビンの 0.1 mg/dL(1.7 μ
mol/L)の増加は、PAD の 6%の減少に結びつくことが記されている。Rantner らは、間欠性跛
行を有する 255 人の男性と、同数の対象群とで比較した症例対照研究(18)で、やはり同様の結
果を示している。 この研究では、ビリルビンの 0.1 mg/dL(1.7 μmol/L)の増加は、PAD の
11.5%の減少を意味している。日本においても、1741 人を対象にした研究で、こうした結果を
みることもできる(19)。この研究では、ビリルビンの 0.1 mg/dL(1.7 μmol/L)の増加は、頚
動脈プラークの 3.7%の減少になることが示されている。Vitek らは、正常値(基準値)の血清
ビリルビンの場合と比べて、ギルバート症候群では頚動脈の内膜中間肥厚の進行の遅延を示唆
している(20)。 こうした結果は、依然として検証は必要であるが、血清ビリルビンが少なくと
も PAD の予防に重要な役割を果たすという情報をもたらしている。
ビリルビンと CVD
同様の逆相関は、心筋梗塞 (21,22)あるいは他の種類の CVD (23)においても、前向き研究で報
告されている。4276 人の男女を対象にしたフラミンガム結果では、血清ビリルビン濃度の高値
は、男性で心筋梗塞、冠血管死ならびにあらゆる心血管イベントの相対危険の低下に、関係し
ていることが示されている(女性においてはこの関係は単に傾向のみ)。男性を主対象とした
11 の研究のメタ分析では、血清ビリルビンの 1.0 μmol/L の増加は、CVD リスクを 6.5%は低
下することを示している(24)。
血清ビリルビンの低値は CVD リスクを上げるが、中程度の濃度の場合の情報はあまりない。
Vitek らのギルバート症候群の研究では、平均(標準偏差)が 33( 14) μmol/L の中程度のビリル
ビン濃度では、CAD リスクはやはり減少していると考えられている(4)。
ビリルビン、CVD 死ならびに急性疾患
現在までのほとんどの研究は、CVD やその関連疾患と、血清ビリルビンの関連についての研究
に焦点を当ててきており、ビリルビンが CVD 死や全死亡に予防的かどうかは知られていない。
同様に、敗血症や手術後の酸化ストレス過剰のような急性病態で、ビリルビンが予防的な役割
を果たすのか否かについての情報も不足している。動物モデルにおいては、ビリルビンとビリ
ベルジンが、冠動脈バイパス術や静脈移植不全や再狭窄のような、経皮経管的血管形成術に関
連した合併症を防ぐという結果が報告されている(25)。
ビリルビン、糖尿病ならびにメタボリック・シンドローム
Inoguchi らによる最近の研究(26)は、糖尿病とギルバート症候群の両方を持つ患者は、糖尿病
だけの患者よりも血管病の合併症が低頻度であることを示している。ただし、5080 人の糖尿病
患者うちに、ギルバート症候群は 1.9%を占めるに過ぎず、これは一般人口を対象にした話とは
遠い結果と思われる。
3
血清ビリルビン濃度と、ブドウ糖負荷試験の異常との間には、負の相関が見出されている(27)。
さらに血清ビリルビン濃度は、2型糖尿病において尿中アルブミン排泄(28)、あるいはメタボリ
ック・シンドローム (29)と、負に相関することが示されている。
ビリルビンと体格指数(BMI)
ビリルビン濃度と腹部肥満との間に、負の相関が見出されている (29, 30)。これは先のメタボリ
ック・シンドロームとの負相関と一致した結果である(29)。さらに、減量は CVD の危険因子を
低減するが、減量率が血清ビリルビン濃度の増加と関係するという結果もあり、興味が持たれ
ている(31)。
ビリルビンと高血圧症
いくつかの研究では、血清ビリルビン濃度と血圧との負の相関が示されている。Papadakis ら
(32)は、血清ビリルビン濃度が未治療の高血圧症患者で著しく低いことを示した。無症候性の若
年者の研究では、血清ビリルビン濃度は、体格指数、血圧、中性脂肪ならびにインスリン抵抗
性指標と負相関し、大または小血管の拍動性動脈機能と正相関することを示している(30)。
福井ら(28)は、2型糖尿病において、血清ビリルビン濃度と脈波伝播速度との負相関を示してい
る。さらに健常者において、血清ビリルビン濃度が冠動脈の微小血管の機能障害の抑止と、関
連することが示されている(33)。
ビリルビン濃度を規定する遺伝子
ヒトでは、血清ビリルビン濃度はかなり遺伝的に決定されている(34‒36)。ビリルビンはヘムを
含んでいるタンパクの破壊産物で、主として加齢した赤血球のヘモグロビンを起源としている。
HMOX15 [heme oxygenase (decycling) 1]はヘムをビリベルジンに変換し、ビリベルジンは
BLVRA(ビリベルジン還元酵素 A)によってビリルビンになって減少する。ビリルビンは非水溶
性で、SLCO1B1(solute carrier organic anion transporter family member 1B1)によって肝細
胞の細胞膜を経て、また UGT1A1(ビリルビン UDP-glucuronosyl transferase 1 family(ポリペ
プチド A1))によって結合修飾されて、血中に至ってアルブミンによって運搬される。その後、
ビリルビンは、ABCC2(membrane ATP-binding cassette subfamily C (CFTR/MRP)
member 2)によって小管へ活発に分泌される。このように、血清ビリルビン濃度の規定は、ビ
リルビン代謝そのものに関与する遺伝子と、G6PD(グルコース-6-リン酸脱水素酵素)のような赤
血球寿命に関与する遺伝子が候補になっている。
UGT1A1
これまでの研究は、まれな対立遺伝子を持つ血清ビリルビン関連遺伝子があることを示唆して
きた(22,34)。さらに、リンケージ genome-wide 分析は、血清ビリルビン濃度に対する主要座
位として、染色体 2q37 を報告してきた(35,36)。ここは、リンケージ・ピークでみると、肝臓
の UGT1A1 を含む部位に相当している。
4
ビリルビン代謝関連遺伝子のうち、UGT1A1 は肝臓におけるグルクロン酸抱合における本質的
な役割を持つために、最も広く研究されている。多くの遺伝子多型も見つかってきている。小
児期からの高ビリルビン血症や、Crigler-Najjar 症候群タイプ I および II(非常に低いまたは欠
損した UGT1A1 活性を持つ症候群)の原因として、UGT1A1 のまれな遺伝的変異が知られてい
る(37‒39)。他の高ビリルビン血症症候群に比べると、ギルバート症候群における高ビリルビン
血症の程度は少なく見積もられているが、一般人口の 5%-10%に相当する(40)。ギルバート症候
群には、2つの遺伝的変異が知られている。白人では、ギルバート症候群は、プロモーター領
域の TATAA box の TA 挿入 [正常では(TA)6TAA] (この変化は UGT1A1*28 の (TA)7TAA 配
列になる)が主たる原因とされている。一方で、アジア人では、G211A(UGT1A1*6)のようなコ
ード領域におけるミスセンス変異が原因とされている(41)。
白人では、UGT1A1*28 のアレル頻度は約 40%である(41)。ほとんどのギルバート症候群では、
(TA)7 のホモ接合がみられ、この挿入は遺伝子の転写を、標準の 18%-33%まで低下させ(41)、
肝臓のビリルビン抱合は 70%程度に低下すると言われている(42)。さらに TA の繰り返しは、
遺伝的なシグナルに関係していること(43)が、白人における最近の研究で確認されつつある(44)。
UGT1A1 内の 13 の機能的な変異は調べられたが、TA の繰り返し以外には、ビリルビンに著し
く関係している変異は認められず、白人では、TA 挿入が一般人口集団において、血清ビリルビ
ン濃度を規定していると考えられるようになっている。ごく最近になって、この遺伝子の T3279G のフェノバルビタール反応性エンハンサー・モジュール中の変異が、転写活性を減少さ
せることも見出された (45)。実は、T-3279G と TA 繰り返しは、連鎖不均衡である(46‒48)。し
たがって、関連研究では、これらの影響を峻別することは難しいと考えられる。
さらに、UGT1A1 に加えて、染色体 12p12 の上の SLCO1B1 や染色体 Xp28 の上の G6PD も、
ビリルビン濃度と関係することが、たびたび報告されてきた。
SLCO1B1
UGT1A1 活性の低下とともに、血液循環から肝臓へのビリルビンの取り込み障害は、高ビリル
ビン血症の一因となることが示唆されてきた(49)。肝細胞の中へのビリルビンの取り込みは、肝
臓におけるビリルビン代謝の第一歩にほかならず、SLCO1B1(肝細胞の細胞膜にある主要な運搬
体蛋白質)によって規定されている。
SLCO1B1 がビリルビンを含む内因性の基質と同様に、薬剤の肝臓での取り込みに関係している
ことは知られている。一連の機能的変異は、コード領域や制御部位に見出され (50‒52)、これら
の変異は比較的高頻度にみられ、著しくビリルビンの取り込みを低下させる (53)。SLCO1B1 の
コドン 130(Asn130Asp)あるいはコドン 174(Val174Ala)のアミノ酸変異は、ビリルビンの除去
を低下させることが示されている (54)。SLCO1B1 変異が、血清ビリルビン濃度の独立した規定
因子の 1 つであることを示し、その上で、SLCO1B1*15 アリルによるビリルビン増加のパター
ンはギルバート症候群のそれと、よく似ていることも報告されている(55)。
5
G6PD
G6PD は、ペントースリン酸経路の重要な酵素で、赤血球を含む細胞にとって、不可欠な
NADPH を供給している。G6PD 欠乏では、赤血球の平均寿命が短くなり、軽度の溶血がビリル
ビンの増加に結びついている。G6PD 欠乏は新生児の高ビリルビン血症に関連していることが、
良く知られている。G6PD 欠乏とビリルビン濃度との関係は、実際に大人でも同様に観察される
(54)。
HMOX1
HMOX1 のプロモーター領域における、(GT)n 繰り返し変異は、すべてではない(62‒64)が、い
くつかの研究(56‒61)で、CVD との関連が示唆されている。(GT)n 繰り返しと、ビリルビン濃度
の関連性は一貫していない(62,64)。短い HMOX1 アレルの持つ、脂質代謝や血清ビリルビン濃
度における潜在的な好ましい効果を認めた報告では、CVD のリスクとの関連はみられていない
(57)。同様に、最近の大規模な LURIC(Ludwigshafen Risk and Cardiovascular Health)研究
で、HMOX1 遺伝子型と、血清ビリルビンや CVD との関連は認められなかった(58)。したがっ
て、HMOX1 が CAD の病因に役割を果たすなら、それは、恐らく血清ビリルビン濃度と無関係
に、一酸化炭素の血管あるいは細胞のシグナル効果による機序が考えられる(65)。
BLVRA と ABCC2
ビリルビンにおける BLVRA と ABCC2 のありふれた遺伝的変異に関する研究は、いくつか報告
されている(66‒68)。しかし、これらと血清ビリルビン濃度との関連性は乏しいようである。
GENOME-WIDE 関連研究
最近になって、白人を対象にした、血清ビリルビン濃度に着目した、2つの genome-wide 関連
研究(GWAS)が結果を公表された。1つは、9464 人を対象に、250 万の SNPs(一塩基変異多
型)と、血清ビリルビン濃度の関連を検討している (69)。メタ分析は、genome-wide の有意な
意味を持つ2つの部位を明らかにしたが、これらは UGT1A1 と SLCO1B1 であった。UGT1A1
の TATAA box 多型に近い SNPs で、非常に強い関連性(rs6742078、P 値は 5.0 の x 10324)が
検出され、血清ビリルビン濃度のおよそ 18%を説明できるという結果であった。SLCO1B1 に
ついては、最も重要な SNP(rs4149056、P=6.7 x 1013)がエクソン 6 に存在し(アミノ酸変異
として Val174Ala となり)、血清ビリルビン濃度のおよそ 0.6%を説明した。血清ビリルビンの
搬送や相違に影響する、同じミスセンス変異も報告された(54‒56,66,70)が、 UGT1A1 の SNP
を考慮したメタ分析では、SLCO1B1 の SNP のみが重要であることを明らかとなった。
4300 人のサルジニア人を対象にした研究では、血清ビリルビン濃度との関連に関して、X 染色
体の上の SNP を含む 500,000 の SNPs をテストし、genome-wide 上で有意な3つの部位を検
出した(71)。最も強い関連は、やはり UGT1A1 プロモーター領域の SNP(rs887829、P 値は
6.2 x 1062)において観察された。2番目の重要な位置として、G6PD 遺伝子近傍の X 染色体の
上の SNP(rs766420、P 値は 9.4 x 109)で、3番目は染色体 12p12.2 で、SLCO1B1(M)と
同じ染色体領域であった(69)。しかし、これは、同じ遺伝子ファミリーの別の SNP である
6
SLCO1B3(rs2117032、P 値は 4.7 x 108)との関係として同定された。先の GWAS で検出され
たような SLCO1B1(rs4149056)も調べられたが、総ビリルビンとのいわば名義的な関連だけ
が検出された。共変数として SLCO1B1 の機能的な SNP を考慮したモデルで解析されたが、
SLCO1B3 の SNP が依然として有意な関連を示し、SLCO1B1 の変異の影響を加味しても、
SLCO1B3 の関連シグナルは影響されないという仮説は支持された。ビリルビンならびにビリベ
ルジンは、少なくとも2つの運搬者である SLCO1B1 と SLCO1B3 に関連しており、両者は肝
臓で発現し、80%以上のアミノ酸の相同性を共有している(72)。この両者の貢献の差異は、対象
集団(民族など)に特有の遺伝的貢献を示唆しているのかもしれない。
こうした研究成果は、調査規模と影響度を勘案すると、UGT1A1 変異がビリルビンに対する主
要な遺伝子であることを強く認識させることが明らかとなった。加えて、SLCO1B1、また
SLCO1B3 のような同じ染色体内にある他の搬送担体、さらには X-linked G6PD といった遺伝
子の影響も確認している。他の変量を調整した検定の結果を踏まえても、UGT1A1、SLCO1B1
ならびに G6PD のトップ3の SNPs が、それぞれ独立してビリルビン濃度に影響している(71)。
白人以外でビリルビンに対する GWAS レベルの研究は、報告されていない。しかし、4つのビ
リルビン代謝関連遺伝子、HMOX1、BLVRA、SLCO1B1、UGT1A1 に関する研究は、Han、
Kazak および Uyghur といった、アジアの3つの人口集団に対して行われている(67)。Kazak と
Uyghur は、遺伝学的に東アジア人ならびに白人を対象とし、Han は中国の主要民族のアジア人
系を対象にしている。UGT1A1 は、同じように3集団のすべてで、血清ビリルビン濃度と関連
した。UGT1A1 については、UGT1A1 内の2つのありふれた遺伝変異である(TA)n と G211A
が検査され、Han では、(TA)7 は血清ビリルビン濃度の 7.1% 、また G211A は 9.8%を説明し
ている。2つの変異を組み合わすと、その説明度は 17%になり、白人で調べた時の 18%のレベ
ルと同様の結果であった。
この(TA)の繰り返しと G211A は、白人とアジア人のビリルビン濃度を規定する主要遺伝子多型
と思われる。UGT1A1 は明らかな偏向分布をしているが、例えそうであっても、血清ビリルビ
ン濃度を規定する主遺伝子と言えるであろう。
UGT1A1 と CVD
血清ビリルビンの高値は CVD リスクが低く、UGT1A1 がそのビリルビン濃度を規定している
ので、UGT1A1 遺伝子多型別の CVD リスクを調べる方向に研究は進んでいる。現在までに行
なわれた研究を、表1にまとめた。ロッテルダム研究では、UGT1A1*28 アレルのホモ接合体の
保有者において、心筋梗塞の予防効果は観察されなかった(73)。とは言え、この研究を行ったグ
ループは、統計学的検出力の不足も否めないとしている。ECTIM 症例対照研究では、白人男子
の2集団を対象として、UGT1A1*28 アレルが予防的な効果を示さなかったとして、ロッテルダ
ム研究と同様の結果を示した(74)。PAD の症例対照研究である CAVASIC 研究(18)では、PAD
患者では対照よりもビリルビンが低値であり、さらに PAD 群と対照群の両方で、UGT1A1*28
アレルとビリルビン濃度との間に関連も認めていたが、両群間での遺伝子頻度に関しては違い
7
が認められなかった。別の症例対照研究も実施され、UGT1A1*28 変異はビリルビン濃度に関連
するものの CAD には関連せず(47)、中国の小規模な症例対照研究でも全く同様の結果を得てい
る(75)。ここで留意すべきは、これらの5つの研究のうちの3つ (47,73,74)では、根本的に肝臓
病 (10, 20)が制御されていないことである。また、UGT1A1 と動脈硬化性疾患の関連における
有意でない結果は、UGT1A1*28 アレルのホモ接合体が、低頻度(およそ 50%)であったこと
に由来した可能性も考えられる。したがって、UGT1A1*28 アレルのホモ接合は、血清ビリルビ
ン濃度が高値である場合にのみに、予防効果を作動するのかもしれない。まだ、ビリルビン値
に従って、遺伝子型を層化して検証した研究はまだ行われていない。
*表 1
ビリルビン濃度、心血管病アウトカム、UGT1A1 多型の関連についての研究の総覧
そうこうしているうちに、血清ビリルビン、UGT1A1 遺伝子型、CVD の関連は、1780 人を対
象にした最近のフラミンガム研究で見いだされた(76)。この研究では、血清ビリルビンや他の危
険因子は、研究のベースライン時のデータを使用している。ベースライン時の平均年齢は 36 歳
で、24 年間の追跡を行い、CVD と CAD の発症を観察した。UGT1A1*28 の(TA)7/(TA)7 のホ
モ接合の遺伝子型で、CVD と CAD のリスクの有意な減少がはじめて示された。この遺伝子型
を持つと、(TA)6/(TA)6 や(TA)6/(TA)7 の遺伝子型を保有する場合に比べ、血清ビリルビン濃度
は高く、CVD や CAD が3分の1程度のリスクになっていた。心筋梗塞の発症数が少ないため
か、統計的に有意とまではならなかった(P 値は 0.08)が、UGT1A1*28 と心筋梗塞の間には
同様の傾向が認められた。遺伝子型がコックス回帰モデルに含まれない場合に、血清ビリルビ
ンが 0.1 mg/dL(1.7 μmol/L)増加すると、CVD は 10%、CAD は 13%そして心筋梗塞は
13%の発症リスクの減少が認められた。対立遺伝子(TA)7 は血清ビリルビン濃度の高値と関連し、
そのビリルビンの 18%を説明できた。血清ビリルビンと遺伝子型の両方を検定モデルに解析し
8
た時、ビリルビンだけが結果に影響し、UGT1A1*28 遺伝子型は影響がなくなった。すなわち、
恐らく遺伝子型よりも血清ビリルビン濃度そのものが、CVD や CAD に緊密に関係していて、
ビリルビンというのは CVD と CAD の発症に対する、中間的な表現を持つ変数であるかもしれ
ないことが示唆された。この研究は、UGT1A1*28(TA)7/(TA)7 のホモ接合の遺伝子型が、ビリ
ルビンの高値と CVD や CAD の発症リスクの低減を、はじめて示唆したという点で重要と思わ
れる。
中国の Han で冠動脈の精査を受けた集団において、1320 人の CAD 患者と、1060 人の対照症
例が調べられた (68)。これは Han‒HapMapp フェーズ II としての研究で、8つのタグ SNPs が
選択され、UGT1A1 のありふれた 30 の SNPs のうちの全てが検査された(r2>0.8)。UGT1A1
G364A (TA 繰り返しと G211A の間に位置)は、男性の CAD のみと有意な関連を示した(オッ
ズ比 0.24、95% CI 0.10-0.60、P=0.0014)。この研究では、血清ビリルビン濃度と CAD の負
相関は、男性のみで観察され、女性においては観察されなかった(これについては別の研究で
も、同様の結果が1つだけではあるが、存在する(62)。
ビリルビン、UGT1A1、CVD に関するすべての研究を通してみると、UGT1A1*28 と血清ビリ
ルビン濃度との間には、明瞭な関連性はあると言える。血清ビリルビン濃度も、ほとんどの研
究で CVD のアウトカムと関連していると言えるであろう。しかし、UGT1A1*28 遺伝子型は、
フラミンガム研究(76)と、大規模な中国 Han の症例対照研究(68)で CVD との関連が示されたの
みに止まっている(表 1)。研究間の違いで考察すると、フラミンガム研究(76)は、他の遡及的な
研究と異なり、ベースラインで平均 36 歳の集団を 24 年間追跡しており、他の研究はこれに比
べると高齢(ほとんどが 60 歳以上)の症例対照研究だったということであろう。CAD の発症
後の半年で、生存しない症例が半分近くいて、これらが研究に組み込まれないような状況であ
る高齢者を、研究対象に登録する際のサバイバルバイアスは、結果の乖離を説明できるかもし
れない。こうした組み込まれなかった症例の遺伝的影響は、より強い可能性が考えられる。次
に、遺伝子の集団的な異質性も、考慮すべきかもしれない。対象が異なる遺伝的背景を持って
いて、1つの遺伝的変異のみを調べるような場合、関連は明確になりにくい。第3に、大規模
な中国 Han の症例対照研究における、CAD 数が 4-6 倍もあるような場合を除いて、統計的検出
力が適切でない研究がなされてきた可能性も考えられる。対照症例研究のみで関連が見つかる
場合の大きな原因は、この統計学パワーの問題が大きく関与しているのかもしれない。
薬学的、非薬理学的、そして遺伝学的介入
UGT1A1 活性を抑制するか、ビリルビンの転送を抑制する薬剤は、血清と組織のビリルビン濃
度を増加させるのに有効である。 UGT1A1 を抑制可能な物質の中には、尿酸排泄の薬であるプ
ロベネシドがある(77)。同様に、リファンピシンによるように SLCO1B1 転送活性の抑制は、ま
た血清ビリルビン濃度を増加させるかもしれない(78)。すべての薬剤において、安全性は考慮に
入れる必要はあるが、UGT1A1 あるいは SLCO1B1 の抑制は、逆に他の薬剤、毒素、ならびに発
癌物質の結合や排泄に、悪い影響を示す可能性が考えられる。
9
血清ビリルビン濃度は非薬理学手段によって増加するかもしれない。喫煙は、血清ビリルビン
濃度の低値に関係していることは示されている (13)。禁煙は、血清ビリルビン濃度を増加させる
可能性もある。先に引用したように、減量が血清ビリルビン濃度の増加に関係しているという
報告もある(31)。標高の高さは、血清ビリルビン濃度を増加させることも知られている(79)。
要約
この総説では、遡及的あるいは前向き研究の結果から、血清ビリルビン濃度の低値が、CVD の
リスク、CVD の重症度、ならびに CVD 関連疾患に関連することを示した。遺伝学的な研究の結
果からは、UGT1A1、SLCO1B1、G6PD が、血清ビリルビンの規定に重要な遺伝子であること、
そして特に UGT1A1 は他の 2 つの遺伝子よりも影響力が強いことも記述した。また、UGT1A1
遺伝子は、CVD に関連することを収載した。1780 人を対象にした最近のフラミンガム研究で、
UGT1A1*28 の(TA)7/(TA)7 のホモ接合の遺伝子型は、野性型と比べて、CVD と CAD の発症リ
スクが3分の1程度になることが報告され、中国の Han でも類似の結果が報告された。
血清ビリルビン濃度を増加させる方法は、特に動脈硬化や CVD 予防に関して、現在は知られて
いない。しかしビリルビン濃度を増加する薬剤に関する研究は、今後増えてゆくように思われ、
こうした研究を経て、軽度のビリルビンの増加が有益であるという証拠も、将来提供される可
能性が考えられる。
脚注
4
Nonstandard abbreviations:TNF- , tumor necrosis factor- ; VCAM-1, vascular cell adhesion
molecule 1; ICAM-1, intercellular adhesion molecule 1; CAD, coronary artery disease; CAC,
coronary artery calcification; NHANES, National Health and Nutrition Examination Survey; PAD,
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5
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HMOX1, heme oxygenase (decycling) 1; BLVRA, biliverdin reductase A; SLCO1B1, solute carrier
organic anion transporter family member 1B1; UGT1A1, bilirubin UDP-glucuronosyl transferase 1
family, polypeptide A1; ABCC2, ATP-binding cassette subfamily C (CFTR/MRP), member 2; G6PD,
glucose-6-phosphate dehydrogenase.
Author Contributions: All authors confirmed they have contributed to the intellectual content of this
paper and have met the following 3 requirements: (a) significant contributions to the conception and
design, acquisition of data, or analysis and interpretation of data; (b) drafting or revising the article for
intellectual content; and (c) final approval of the published article.
10
Authors' Disclosures of Potential Conflicts of Interest: Upon manuscript submission, all authors
completed the Disclosures of Potential Conflict of Interest form. Potential conflicts of interest:
Employment or Leadership: None declared.
Consultant or Advisory Role: None declared.
Stock Ownership: None declared.
Honoraria: None declared.
Research Funding: L. Vitek, grants MSM 0021620807 and ME849 from the Czech Ministry of
Education and NS 9770-4-28 from the Czech Ministry of Health.
Expert Testimony: None declared.
Role of Sponsor: The funding organizations played no role in the design of study, choice of enrolled
patients, review and interpretation of data, or preparation or approval of manuscript.
Received for publication May 25, 2010. Accepted for publication July 26, 2010.
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