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クロダイ(PDF:295KB)

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クロダイ(PDF:295KB)
クロダイ種苗生産
石橋賢一・森山 豊・目黒清美・牧野 直
目
的
ふ化槽に収容して沈下卵を計量した後,通気を
施したアルテミアふ化槽内で容積法により浮
全長 30 ㎜の種苗を 38 万尾生産した後,引き
続き育成して全長 50 ㎜の種苗 23 万尾生産し、
配布する。
上卵を計数した。
平成 19 年6月7日および6月 25 日に得られ
た 159.8 万粒の浮上卵を屋内円型 FRP 水槽(海
水量 20kL,以下「K 水槽」)3面に収容し,そ
方
法
の後,144.2 万尾のふ化仔魚を得て生産を開始
した(表2)。
1.親魚と採卵
親魚は 242 尾を円型コンクリート水槽(海水
量 75kL,以下「O 水槽」)4面に収容して自然
日長下により飼育した。飼育水にはろ過海水を
2.仔稚魚の飼育
全長約 30 ㎜までの飼育を一次飼育,それ以
後の飼育を二次飼育に区分した。
使用し,冬期(低水温期)における親魚の疾病
飼育水槽には,一次飼育では K 水槽を,それ
防止のために,平成 19 年1月 17 日から同年4
以後は屋内円型 FRP 水槽(海水量 90kL,以下「G
月 12 日まで循環式ろ過装置を使用して飼育水
水槽」)を使用した。飼育水にはろ過海水を用
温を 11.5~14.5℃ (同時期の自然水温:10.5~
いたが,一次飼育では疾病の発生を防ぐため
16.1℃)に昇温させた。給餌は配合飼料にバイ
に,卵収容時からふ化後 33 日まで紫外線照射
オガード(森永乳業)およびメイロングオイル
により殺菌されたろ過海水を使用した。飼育水
(科学飼料研究所)を添加して一日一回,隔日
の換水率は,卵収容時の 0.2 回転/日から徐々
に行った。
に増加させ,一次飼育終了時には 6.0 回転/日
産卵調査は4月 24 日から7月 11 日まで行っ
た。採卵は飼育水槽内で自然産出された卵を飼
になるように注水量を調節し,二次飼育では 10
回転/日とした(図1)。
育水槽外に設置した 200L ポリカーボネイト水
集した卵は計量後,50L アルテミアふ化槽に収
25
容して沈下卵を計量し,直ちに浮上卵率,受精
率などを調べた。併せて 15~100 粒程の浮上卵
を1L ビーカー内に収容し,ウォーターバスに
よる自然水温下でふ化させ,ふ化仔魚と死卵を
計数してふ化率を算出した。
20
15
20
15
10
10
5
5
注水率(回転/日)
30
水温(℃)
槽内に設けたゴースネットに受けて行った。採
0
0
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
ふ化後日数
採集した卵を生産に使用する場合は,オキシ
ダント海水による消毒を次のように行った。ゴ
ースネットで採集した卵を消毒済みゴースネ
図1
飼育水温と注水率
ットに移し換え,ろ過海水に浸した後、0.5ppm
に調整したオキシダント海水を満たした 200L
飼育水の表面に生じる油膜は,ふ化後4日か
パンライト3槽中に、順に 10 秒,20 秒,30 秒
ら 27 日まで,飼育水の表面に浮かべたコの字
間浸漬した。その後、計量した卵をアルテミア
型に作った内径 16 ㎜の塩ビ管の中に空気を吹
きつけることによって集め,適宜ひしゃくを用
いて除去した。飼育水槽の底掃除は,一次飼育
9:30
[V12]:1L
収容
ではふ化後 10 日から内径 13 ㎜のアクリル管を
用いたサイホン方式で,さらに,ふ化後 35 日
9:30
リル管(サイホン方式)やデッキブラシを用い
て1~2日毎に掃除した。飼育水槽の水面照度
の調節は,一次飼育では水槽を照射する水銀灯
に加え,ブラインドの開閉により,二次飼育で
はプラスチック製波板屋根からの透過光を遮
[HG]:2L
7:00
9:00
16:30
[NFS]:50g
投餌
9:00
11:00
13:00
昼給餌ワムシ
[V12]:0.5L [NFS]:50g
投餌
[HG] :2L
[V12]:1L
収容
からは回転式自動底掃除機も併用して,1~5
日毎に行った。二次飼育では内径 16 ㎜のアク
16:30
朝給餌ワムシ
9:30
16:30
9:00
14:00
15:30
夕給餌ワムシ
[V12]:0.5L
[HG] :2L
[V12]:1L
収容
14:00
16:30
9:00
[NFS]:50g
投餌
14:00
16:30
午後給餌アルテミア
収容
[PB]:50g
[V12]:HG生クロレラV12
[PB] :パワフルブライン
図3
[PB]:100g
[NFS]:50g
投餌
[HG] :ハイパーグロス
[NFS]:エルバージュ
生物餌料の栄養強化方法
光幕(遮光率 99%)の開閉により行った。
分槽は,一次飼育では内径 50 ㎜のホ-スを
および配合飼料を使用した(図2)。ワムシは,
用いて分槽先の水槽との水位差を利用して行
淡水クロレラおよび生パン酵母で培養後,必要
い,目当てとする分槽量は魚影を基準に判断し
量を給餌前日に1kL ポリカーボネイト水槽(培
た。稚魚の取り上げは,飼育水槽の排水口に生
養水温 20℃)に移し,ハイグレード生クロレラ
簀籠(70×80×35 ㎝) を取付け,その中に流し
V12(クロレラ工業)およびハイパーグロス(日
込んだ稚魚をタモ網ですくい取った。二次飼育
清マリンテック)を添加して栄養強化した(図
では,前述した生簀籠を使用して一次飼育と同
3)。アルテミアは北米産の卵を使用した。給
様な方法で稚魚を取り上げた後に分槽した。稚
餌前日に 500L アルテミアふ化槽内でふ化した
魚の計数は,デジタル天秤を使用して重量法に
幼生を1kL ポリカーボネイト水槽(培養水温
より行った。稚魚の選別は,全長約 30~40 ㎜
20℃)に移し,パワフルブライン(ミヤコ化学)
時期に4mm 幅のスリット選別器を用いて行っ
を添加して栄養強化した(図3)。生物餌料の
た。
培養水には紫外線照射済みのろ過海水を使用
仔稚魚の全長と体重の測定は1~10 日置き
し,栄養強化後の生物餌料には二フルスチレン
に飼育水槽から採取して行った。体形異常調査
酸ナトリウム(5ppm)で約2時間薬浴した後
は放流時,目視観察とキャビネット型軟X線発
に給餌した。1日当たりの給餌回数はワムシで
生装置により撮影したレントゲン写真を観察
は3回(9 時,13 時,15 時半) ,アルテミアで
することによって行った。
は1回(16 時半)とした。また,ワムシの給餌期
間中は,冷蔵ナンノクロロプシスヤンマリンK
-1(クロレラ工業)またはハイグレード生ク
3.餌料
餌料は,S型およびL型ワムシ(以下「ワム
ロ レ ラ V12 を 飼 育 水 中 の 密 度 が 30 ~ 50 万
シ」),アルテミア幼生(以下「アルテミア」)
cells/mL になるように適宜添加した。配合飼料
時刻
0
5
10
15
20
25
30
35
ふ化後日数
40 45 50 55
60
65
70
75
80
85
90
95
は,一次飼育ではプログレッション1,2,3
号(ソルトクリーク),およびえずけーる M,L
5:00
6:00
(中部飼料)を用いて1日に1~7回与えた。
7:00
8:00
二次飼育ではえずけーる M,L,LL を 1 日に7
9:00
回与えた。
10:00
11:00
12:00
結果と考察
13:00
14:00
15:00
16:00
1.親魚と採卵
17:00
ワムシ
アルテミア
図2
配合飼料
餌料系列と給餌時刻
親魚養成と産卵の状況を表1,産卵量と浮上
卵率を図4に示した。産卵は4月中旬から7月
上旬まで行われ,産卵の認められた日数は O-
生はなかった。
1,2,3,4水槽の順に 41,37,49,19 日間であ
った。産卵期間中の水温は 15.1~23.7℃ であ
2.仔稚魚の飼育
った。総産卵量は 58,445gとなり,昨年度の総
一次飼育では当初 K 水槽3面で開始し,ふ化
産卵量 64,396gを下回った。産卵量は年々減少
後 14 日(1回目)とふ化後 27,28 日目(2回
しているのは老齢魚の割合が高くなってきて
目)に分槽を行った。一次飼育では 144.2 万尾
いるためと思われる。また,各水槽の平均の浮
のふ化仔魚から平均全長 29.8mm の稚魚 50.1 万
上卵率は昨年度と同様に高い値を示した。
尾 を 生 産 し , そ の 生 残 率 は 34.7 % ( 26.2 ~
冬期(低水温期)の疾病防止のために循環式
50.0%)であった(表3)。二次飼育は,一次
ろ過装置を使用して飼育水温を高めた。その結
飼育で得た稚魚 50.1 万尾の内 36.8 万尾に ALC
果,親魚の飼育は産卵開始時まで順調に経過し
標識を付け G 水槽4面に,試験放流用に 8.1 万
た。
尾を G 水槽1面に収容して,合計 44.9 万尾で
親魚水槽の底掃除を定期的に実施し飼育環
開始した。残りの 5.2 万尾は試験放流した。
境を良好に保った結果,問題となる白点病の発
60
40
1000
20
0
0
0
4/20 5/5 5/20 6/4 6/19 7/4
月/日
■産卵量
○浮上卵率
0
0
4/20 5/5 5/20 6/4 6/19 7/4
月/日
図4
80
2000
60
40
1000
20
)
20
(
40
1000
)
60
2000
100
3000
(
産卵量 g
80
産卵量 g
3000
浮上卵率 %
100
0
0
4/20 5/5 5/20 6/4 6/19 7/4
月/日
産卵量と浮上卵率
浮上卵率 %
O-4
O-3
)
)
4/20 5/5 5/20 6/4 6/19 7/4
月/日
(
(
0
)
20
)
40
1000
(
60
2000
80
2000
(
80
3000
)
3000
産卵量 g
浮上卵率 %
産卵量 g
100
(
100
浮上卵率 %
O-2
O-1
(
)
80
W=7TL3.2003・10 -6
r2=0.9935
n=652
8
70
50
体重 g
全長(㎜)
平成 17年度
平成 18年度
平成 19年度
60
40
30
(
20
)
10
6
4
2
0
0
0
0
10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110 120
20
図5
平成 17~19 年度における全長の推移
表1
親魚養成と産卵の状況
*
60
40
全長(mm)
ふ化後日数
養成魚の由来
(年齢,養成期間)
水槽
尾数 *
O-1
37
天然魚(5年間)
O-2
49
天然魚(2,3年間)
O-3
123
天然魚(5,6年間)
人工生産魚(8歳)
O-4
33
天然魚(2年間)
合計
242
図6
産卵開始日
産卵終了日
4月24日
6月26日
4月24日
6月26日
4月24日
7月11日
5月15日
6月11日
全長と体重の関係
産卵日数
産卵量
(g)
41
6,054
37
7,111
49
42,887
19
2,394
58,446
平成19年4月24日(産卵調査を開始した日)の尾数。なお、性比は不明。
表2
卵の収容とふ化の効果
収容水槽
(20kL)
K- 2
K- 7
K-10
合計
平均
収容
収容日
収容卵数
6月7日
6月7日
6月25日
(万粒)
52.7
52.7
54.4
159.8
ふ化日
6月8日
6月8日
6月26日
ふ化
ふ化仔魚数
(万尾)
50.6
49.0
44.6
144.2
ふ化率
(%)
96.0
93.0
82.0
90.2
80
一次飼育結果
表3
開始時
終了時
密度
生残率
収容水槽* ふ化仔魚数 飼育日数 生産尾数 平均全長
(万尾)
(日) (万尾) (mm) (万尾/kL) (%)
K- 2
50.6
K- 7
49.0
K-10
44.6
合計
144.2
59
13.9
29.8
0.23
55
5.2
27.4
0.26
59
19.3
28.4
0.24
55
11.7
33.1
0.15
27.5
160.0
64.6
33,030
50.0
194.0
103.8
48,230
26.2
181.7
57.1
36,705
535.7
225.5
117,965
50.1
平均
29.8
0.21
給餌量
ワムシ アルテミア 配合飼料
(億個体)(千万個体) (g)
34.7
*
屋内円形FRP水槽(海水量20kL)で飼育し、各飼育水槽は途中分槽を行い合計12面(240kL)で飼育
した。
二次飼育結果
表4
開始時
終了時
尾数
平均全長
密度
飼育日数 生産尾数 平均全長
(万尾)
(mm)
(万尾/kL)
(日)
(万尾)
44.9
30.0
0.10
71
~
97
35.2
生残率
配合飼料の
(mm) (万尾/kL)(%)
給餌量(g)
55.4
密度
0.06
78.4
438,230
体形異常の出現状況
表5
項目 年度
15
16
17
18
19
調査尾数
(尾)
300
350
350
397
300
全長
(mm)
38.4~73.2
34.9~70.2
36.6~74.2
36.9~71.2
38.1~93.9
正常魚
(%)
68.7
52.0
63.1
55.2
67.7
脊柱屈曲
(%)
6.7
15.4
18.0
23.4
11.3
椎体異常
*1
(%)
22.7
32.6
18.6
18.8
20.3
そ の 他
*2
(%)
2.0
0.0
0.3
2.6
0.7
* 1 椎体の変形,癒合,欠損,配列異常などの異常。
* 2 鰓蓋の欠損,背鰭の変形などの異常。
種苗配布結果
表6
配布先(受け入れ漁業協同組合)
配布月日
配布尾数
平均全長 平均重量
(万尾)
(mm)
(g)
用 途
牛込漁業協同組合
8月2日
2.6
27.4
0.30
試験放流
金田漁業協同組合
8月2日
2.6
27.4
0.30
試験放流
(財)千葉県水産振興公社(鋸南町保田)
9月4日
6.0
61.5
3.93
放流
(財)千葉県水産振興公社(天羽)
9月4日
8.6
57.9
3.16
放流
牛込漁業協同組合
金田漁業協同組合
9月5日
9月5日
4.0
4.0
48.8
48.8
1.75
1.75
試験放流
試験放流
(財)千葉県水産振興公社(富津・新富津)
9月5日
4.1
51.5
2.23
放流
(財)千葉県水産振興公社(船橋市)
9月10日
3.5
51.2
2.05
放流
(財)千葉県水産振興公社(岩井)
9月13日
2.5
60.7
3.69
放流
(財)千葉県水産振興公社(富浦町)
9月13日
2.5
60.7
3.69
放流
試 験 放 流 分
13.2
40.4
1.18
放 流 分
27.2
57.4
3.14
合 計
40.4
51.8
2.50
ALC 標識魚の入っている G 水槽4面のうち3
~22.0%)であったが,選別を行わなかった稚
面において,共食い防止および成長促進を図る
魚には異常が認められなかった。この結果か
ために,ふ化後 69,70 日目に4mm 幅のスリット
ら,脊柱屈曲の原因の一つは,選別時のハンド
選別器を用いて選別を行った。その後,全長
リングによって生じることが明らかになった。
50mm サイズの稚魚を放流用として 27.2 万尾,
しかし,これまでの調査から選別を行う前にも
試験放流用として 8.0 万尾の併せて 35.2 万尾
脊柱の屈曲した異常魚が出現していることが
を生産した。二次飼育における生残率は 78.4%
確認されていることから,稚魚の取り上げ時や
であった。
飼育水槽内の流速についても併せて検討して
平成 17,18,19 年度のふ化後日数と全長の推
いく必要がある。
移を図5に示した。また,本年度の生産におけ
る稚魚の全長(TL:㎜)と体重(W:g)の関係
4.疾病
を図6に示した。両者の相関は高く,ベキ乗関
一次飼育において昨年度に引き続きふ化後
数的関係が認められ,以下の式で表すことがで
10 日目に全飼育水槽で疾病が発生した。いずれ
きた。
の水槽も腹部に異常をが見られた。
W=7TL 3.2003 ・10 -6 (r 2=0.9935)
5.種苗の配布
3.体形異常
本年度の種苗配布結果を表6に示した。放流
平成 15~19 年度における体形異常の状況を
用 種 苗 と し て 平 均 全 長 51.2~ 61.5 ㎜ の 稚 魚
表5に示した。異常魚の割合は 32.3%で、主に
27.2 万尾を(財)千葉県水産振興公社に配布し
脊柱の屈曲した魚が減少したため,昨年度より
た。また,試験放流用種苗として平均全長 27.4
も 12.5 ポイント減少した。昨年度の調査から,
㎜および 48.8 ㎜の稚魚 13.2 万尾を牛込・金田
脊柱の屈曲が生じる原因の一つに選別時のハ
漁業協同組合に配布した。
ンドリングが疑われたので,本年度は選別の有
無による脊柱屈曲の出現率の比較を行った。選
6.要約
別を行った稚魚における出現率は,13.6%(8.0
1)総産卵量は約 58,446gであり,昨年度を下
回った。
2)一次飼育では,平成 19 年6月7日,6月 25
日に得られた 159.8 万粒の浮上卵を飼育水槽に
収容し,計 144.2 万尾のふ化仔魚から平均全長
29.8 ㎜の稚魚を 50.1 万尾生産しその生残率は
34.7%であった。
3)二次飼育では,平均全長 30.0 ㎜の稚魚 44.9
万尾から平均全長 55.4 ㎜の稚魚 35.2 万尾生産
し,配布した。二次飼育における生残率は
78.4%であった。
4)体形異常率は昨年度より 12.5 ポイント低
くなり,32.3%であった。
7.今後の検討課題
1)体形異常魚の出現防止(飼育環境の検討)
2)一次飼育中の疾病防除(飼育方法の検討)
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