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自治体における容器包装リサイクル費用の測定と評価に関する実証分析

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自治体における容器包装リサイクル費用の測定と評価に関する実証分析
氏
名(本籍)
り
そん
りん
李
松
林(中国)
学 位 の 種 類
博士(経済学)
学 位 記 番 号
甲第81号
学位授与年月日
平成19年3月24日
学位授与の要件
学位規則第4条第1項該当
学位論文題目
自治体における容器包装リサイクル費用の測定と評価
に関する実証分析
論文審査委員
主
査
教
授
安
田
八十五
教
授
久
保
新
教
授
大
住
莊四郎
一
論文内容の要旨
キーワード:容器包装リサイクル、リサイクル費用、逆かさ密度、費用負担、拡大生産
者責任(EPR)
1.研究の目的と方法
容器包装リサイクル問題は、容器包装リサイクル費用は一体いくらかかっているのか
という問題と容器包装リサイクル費用は本来誰が負担すべきかという 2 つの問題に集約
することができる。本論文はこの二つの問題の解明を中心に行われる。容器包装廃棄物
のリサイクル費用は、これまで主に重量ベースでしか測定されていなかったので、容積
ベースで測定・評価するため、容器包装素材別「逆かさ密度」を 6 自治体で実測し、容
器包装の収集費用を容積ベースで算出できるようにした。容器包装廃棄物のリサイクル
費用の算出に当たっては、自治体にアンケート調査を依頼し、12自治体から回答を得た。
そして自治体からの回答結果を用いて、アルミ缶・スチール缶・ペットボトル・ガラス
びんの 4 品目の500m l 一本あたりのリサイクル費用を重量ベースおよび容積ベースで測
定し、容器間・自治体間の分析・評価および比較を行った。費用負担問題に関しては、
ドイツ・フランス・韓国などの諸外国における拡大生産者責任制度(Extended Producer
Responsibility : EPR)の調査分析に基いて、比較検討を行い、日本への適用可能性を評
価した。
2.リサイクル費用の測定方法の理論モデル
容器包装のリサイクルに関する社会的費用便益分析を適用した総合評価の方法に関し
ては、Turner(1993)Boguski(1994)等が提案し、安田八十五(1993)(2001)が修正した下記
の評価式(①∼⑤)がある。
NBrt = NBr×Qpet
・・・・・・・①
・NBrt;対象地域全体におけるリサイクリングによる純便益
(Net Benefit)(円/年)
・NBr;リサイクルされた各飲料容器 1 t 当たりの純便益(円/t/年)
・Qpet;対象地域における各飲料容器の回収量(t/年)
NBr = NBr.w−NBr.o ・・・・・・②
・NBr.w;各飲料容器リサイクルを実行したときの便益
(With the Policy=Recycling)
・NBr.o;各飲料容器を廃棄物として処理したときの便益
(Without the Policy=Waste disposal)
NBr.w= Cve1−(Ccr+Csp+Crg) ・・・・・・③
・Ccr;各飲料容器の収集費用(円/t)
・Csp;中間処理費用(選別・圧縮・保管費用)(円/t)
・Crg;再資源化費用(円/t)
・Cve1;天然原料の生産費用(円/t)
NBr.o=−(Ccw+Csb+ Cdw+Cve2) ・・・・・・④
Ccw;一般ゴミ(可燃ゴミなど)として収集された場合の収集費用(円/t)
Csb;中間処理費用(焼却・破砕・資源化費用)(円/t)
Cdw;最終処分費用(残渣埋立など)(円/t)
Cve2;焼却などによる環境負荷の費用(円/t)
つまり、③と④の式をあわせて②の式に代入すると以下のようになる。
NBr = NBr.w− NBr.o
=(Ccw−Ccr)+(Csb−Csp)+(Cve1−Crg)+(Cdw+Cve2)・・・・・⑤
ここに、
Ccw−Ccr:収集費用差、Csb−Csp:中間処理費用差、Crg−Cve1:原料価格差、及び、
Cdw+Cve2は最終処分費用と環境負荷費用の節約分(外部効果)を表す。
本研究では、この理論モデルに基づいて容器包装のリサイクル費用を測定することに
する。具体的には、以上の理論モデルの中の、Ccr・Csp・Crgを明らかにし、容器毎のリ
サイクル費用の測定を試みる。環境負荷の評価を含めた社会的費用便益分析は今後の研
究課題にすることにした。容器包装リサイクル費用を、これまで重量ベースでしか測定
されていなかったため、容積ベースでの測定・評価できるように12自治体で調査・測定
して、後者の有効性を実証する。
3.「逆かさ密度」の実測結果と考察
既存研究では収集費用が重量ベースでの算出がほとんどである。容器包装のかさばる
性質を考えると、重量ベースでは不十分であり、容積ベースでの測定が不可欠である。
本研究では収集費用を容量ベースで算出するための基礎データを入手するために、「逆
かさ密度」(=単位重量あたりの容積)の調査を行うことにする。
2005年 1 月から 3 月の間、自治体の協力を得て、大都市(横浜市、仙台市、北九州市、
札幌市)と中都市(日野市、柏市)の容器包装の「逆かさ密度」を計測した。同年 9 月
には横浜市の夏期における「逆かさ密度」の測定を実施した。計測は容積729リットル
ボックス(高さ900mm×縦900mm×横900mm)と75リットルペイル(高さ435mm、トップ
部内径500mm)を用いた。容量は、高さ100mm の落下衝撃を空寸変化がなくなるまで繰
り返した後空寸を測定し、容量を算出した。重量は計測物を事業用のごみ袋(容量90リッ
トル)に分納し、十字絞りを行い、ばね秤で測定した。パッカー車での収集の場合、容
器包装は圧縮による減容は無視できない。
品目別逆かさ密度の測定結果を表 1 に示す。北九州市のペットボトルとアルミ缶の逆
かさ密度が他都市と比べ小さい理由はペットボトルとアルミ缶の30%∼40%がつぶさ
れて排出されているためと推定される。横浜市の冬期と夏期の容器包装収集物の「品目
別逆かさ密度」は冬期のほうが夏期よりも全体的に大きな値になっている。ことに、ペッ
トボトル、スチール缶、および残渣が目立つ。夏期にはペットボトルが極めて多く、容
積全体の80%以上であった。
品目別に見た「逆かさ密度」の大きさの順位は、トレイ・ペットボトル・アルミ缶・
残渣・プラスチック製容器包装・スチール缶・ガラスびんである。この順番に
「かさばっ
ている」ことを意味する。品目別リサイクル費用の算出に当たっては、収集費用の場合
は「混合時の逆かさ密度」を使用し、中間処理費用の場合は「品目別逆かさ密度」を使
用する。調査自治体と収集体系が異なる自治体の場合は、近似の自治体の逆かさ密度を
使用し、複数の自治体の逆かさ密度を使用して計測し、比較することを試みた。
表1
自治体の品目別逆かさ密度の測定結果(単位=ℓ/kg)
(2004年度冬期と2005年度夏期)
自治体
アルミ缶
スチール
缶
横浜(冬)
26.
5
11.
2
横浜(夏)
26.
2
ペット
ボトル
ガラス
びん
プラス
チック製
容器包装
容器包装以
外のプラス
チック
トレイ等
残 渣
35.
9
3.
1
−
−
−
4.
9
9.
64
23.
7
3.
41
15.
08
−
−
2.
07
日 野
−
−
34.
0
−
−
−
117
33.
3
柏
−
−
−
−
22.
0
8.
9
−
8.
9
仙 台
26.
6
9.
2
32.
0
2.
6
−
−
−
15.
6
北九州
18.
5
10.
0
21.
4
−
−
−
−
23.
4
札 幌
−
−
−
−
23.
6
−
−
21.
1
4.自治体における容器包装リサイクル費用の測定と自治体間比較
本研究では、容器包装が廃棄物として一般家庭から排出された後、自治体がそれらを
収集、処理し、リサイクル業者に引き渡すまでの費用を自治体の「リサイクル費用」と
定義し、自治体が出した資源ごみの収集費用・中間処理費用を容器別の費用に按分する
方法で行った。素材別のリサイクル費用は、「逆かさ密度」調査を基に、容積ベースお
よび重量ベースで按分し、推定する。その費用から売却収入或いは逆有償費用を引いて
リサイクル費用とする。アルミ缶、スチール缶、ペットボトル、ガラスびん(色の区別
無し)の 4 種類を分析対象とし、500m l 容器 1 本あたりのリサイクル費用に換算して測
定し、比較する。平成16年度には横浜市など 6 都市、平成17年度には横須賀市など 6 都
市における容器包装リサイクル費用を測定し、自治体間比較を行った。12自治体の容器
包装リサイクル費用の測定結果を重量ベースは表 2 、容積ベースは表 3 に示す。
重量ベースでみると、アルミ缶は川崎市以外は 1 円以下あるいはマイナス値となった。
これは、アルミ缶の売却収入が収集・処理費用よりもかなり大きいことに基づく。ガラ
スびんは重量ベースでは大きな値になっているが、容積ベースでは、ペットボトルとほ
ぼ同じくらいの値になっている。ペットボトルはスチール缶とほぼ同じ 3 円─ 4 円前後
の値となっている。ペットボトルは軽量のため、重量ベースでは小さい値になっている。
表2
自治体における容器別リサイクル費用の測定結果とその比較(500m l 1 本あた
り)
(重量ベース)単位:円
番号
自治体
1
横浜市
2
北九州市
3
4
5
アルミ缶
スチール缶
ペットボトル
ガラスびん
0.
26
5.
52
4.
68
20.
95
−0.
84
2.
98
2.
86
10.
60
札幌市
1.
63
8.
16
7.
27
34.
61
仙台市
−0.
52
2.
11
1.
72
8.
59
日野市
−1.
28
1.
68
1.
74
8.
76
6
柏 市
−1.
52
0.
6
0.
88
12.
89
7
横須賀市
−0.
72
2.
15
1.
87
9.
49
8
川崎市
1.
09
6.
43
5.
01
12.
69
9
茅ヶ崎市
0.
49
2.
09
3.
77
10.
49
10
平塚市
−0.
94
1.
19
1.
16
11
新宿区
0.
78
3.
61
8.
7
杉並区
−0.
27
2.
03
1.
69
8.
41
全体(平均)
−0.
15
3.
21
3.
45
13.
17
12
表3
5.
68
14.
9
自治体における容器別リサイクル費用の測定結果とその比較(500m l 1 本あたり)
(容積ベース)単位:円
番号
自治体
アルミ缶
スチール缶
ペットボトル
ガラスビン
容積ベース(冬)
2.
65
4.
47
5.
13
5.
15
測定基準
1
横浜市
容積ベース(夏)
3.
25
4.
72
5.
36
5.
36
2
北九州市
容積ベース
0.
17
4.
19
3.
89
4.
70
3
札幌市
容積ベース
5.
02
6.
60
7.
36
7.
09
4
仙台市
容積ベース
1.
5
2.
61
2.
84
2.
84
5
横須賀市
容積ベース(冬)
0.
17
1.
76
2.
36
2.
16
容積ベース(夏)
0.
65
2.
45
3.
05
2.
99
容積ベース(冬)
−0.
96
1.
36
1.
33
2.
44
6
川崎市
容積ベース(夏)
−0.
86
1.
99
1.
01
2.
96
容積ベース(仙)
−0.
13
0.
82
1.
64
3.
65
容積ベース(冬)
1.
37
1.
28
6.
75
2.
33
容積ベース(夏)
1.
73
1.
28
5.
69
3.
09
容積ベース(仙)
1.
53
1.
28
6.
65
2.
33
容積ベース(冬)
0.
18
1.
51
3.
42
1.
62
容積ベース(夏)
0.
28
1.
38
3.
17
2.
28
容積ベース(仙)
−0.
68
2.
27
1.
98
0.
82
7
8
茅ヶ崎市
平塚市
9
新宿区
容積ベース(仙)
3.
43
3.
83
3.
6
4.
17
10
杉並区
容積ベース(仙)
1.
68
2.
59
2.
77
2.
72
容積ベース
1.
17
2.
58
3.
78
3.
26
全体(平均)
注:
(冬)
(夏)は、それぞれ横浜市の冬期もしくは夏期の「逆かさ密度」を用いた計測結果である。
(仙)は、コンテナ回収である仙台市の「逆かさ密度」を用いたものである。
日野市・柏市は逆かさ密度が不明のため、測定から除外した。
容積ベースでは、積載区分・車種などの違いから、一律に比較はできないものの、ア
ルミ缶以外は、リサイクル費用が近似していることが示された。素材別に見るとペット
ボトルが一番大きく、かさばっているものと確認できる。
5.諸外国における拡大生産者責任制度の適用
表 4 に、ドイツ・フランス・韓国・日本における容器包装リサイクル費用の責任主体
と費用負担の国際比較結果を示す。
ドイツは、自治体の責任が無く費用負担もほぼゼロで、製造業者が基本的責任を有し、
費用負担もほぼ100%企業が負担しており、EPR がほぼ実現されているといえる。これ
に対して、フランスは基本的に自治体の責任だが、費用負担は、全体的に総費用の約65%
を製造業者が負担し、EPR が半分以上実現されているといえる。韓国でも100%企業責
任と負担で行われている。これに比べ日本では、収集費用は100%自治体負担であり、
総費用で見ると、自治体が70%から80%負担しており、製造業者の負担は20%以下で
あり、製造業者の負担割合が極めて小さい特徴がある。日本では、EPR はほとんど実
現されてないといえる。
日本における容器包装廃棄物のリサイクルに係わる費用負担割合の現状は、自治体負
担が約3000億円、事業者負担が約400億円の合計約3400億円と推定されている。しかし
2006年 4 月の公表された容器包装リサイクル法改正の最終まとめ案によると、事業者の
リサイクル費用はレジ袋の有料化により相当額が相殺され負担は大幅に軽減されると予
想される。逆に自治体の負担は微増し、排出者(消費者・住民)負担は大幅に増加する。
今回の政府改正案では、拡大生産者責任の論理がすり替えられていると言ってよい。
表4
容器包装リサイクルシステムの国際比較(ドイツ、フランス、韓国および日本)
収集・輸送
責任主体
費用負担
再資源化(再商品化)
責任主体
費用負担
コメント
拡大生産者責任の実現度
製造業者 100%製造業者
すべて製造業者の責任
製造業者が100%費用負担(約100%)
消費者に価格転嫁可能
製造業者
製造業者
自治体が収集責任
製造業者は大部分費用を負担(約65%)
製造業者 100%製造業者
製造業者
製造業者
リサイクル義務率を達成しなかった場
合、再活用賦課金を徴収(約100%)
自治体
製造業者
製造業者、
一部自治体
自治体が収集責任
自治体が大部分費用負担(約80%)
製造業者負担は約20%以下
ドイツ
製造業者 100%製造業者
フランス
自治体
韓国
日本
50%自治体
50%製造業者
100%自治体
日本は2000年 6 月に「循環型社会形成推進基本法」を制定した。この法律の方針の中
には「拡大生産者責任」の一般原則を確立し、これを踏まえた措置をするという施策が
明示されているが、ドイツなどに比べるとまだ徹底されてないところが多々ある。リサ
イクル費用に関しては家電リサイクル法が「後払い方式」、自動車リサイクル法は「前
払い方式」の仕組みになっているが、政府が公表した「容器包装リサイクル法」改正の
最終まとめ案では、拡大生産者責任の徹底は棚上げになった。日本でも拡大生産者責任
(EPR)の確実な定着が望まれる。
6.結論と課題
6.1
結果の要約
(1)「逆かさ密度」を実測し、容器包装リサイクル費用の重量・容積ベースでのリサ
イクル費用を測定した。容器包装リサイクル費用は、重量ベースでみると、平均値でア
ルミ缶が−0.
15円/本、スチール缶3.
21円/本、ペットボトルが3.
33円/本、ガラスび
んが13.
17円/本になっている。容積ベースで見ると、平均値でアルミ缶1.
26円/本、
79円/本、ペットボトル3.
78円/本、ガラスびん3.
32円/本の値になった。
スチール缶2.
容積ベースでは、アルミ缶以外は 3 円前後の値になった。
素材別に見るとペットボトルが一番高く、かさばっていることが主たる原因である。
(2)フランスおよびドイツ、韓国における容器包装リサイクル政策に関する分析・
評価により、各国における EPR 導入の実態が明らかになった。ドイツは、EPR がほぼ
100%実現されており、製造者責任と費用負担が実行されているが、フランスは、収集
費用の約50%を製造者が負担しており、全体では約65%程度、EPR が実行されている
ことが明らかにされた。韓国でも100%製造業者責任でリサイクルされている。これに
対して、日本では、約20%以下しか EPR が実現されていないことが明らかになった。
6.2
今後の課題
本論文で適用した「逆かさ密度」の実測データは、自治体の積載区分・車種が異なる
ことによって違ってくる。また、積載率・圧縮率も算出する必要がある。 6 自治体での
「逆かさ密度」の実測は、大変な手間がかかりながら、不十分であると考える。今後と
もより詳しい「逆かさ密度」調査と基礎データの補充が必要である。
本研究では、飲料容器のリサイクルに関する社会的費用便益分析の理論モデルを提示
しながらも、外部便益の評価が行えず、コスト分析だけにとどまり、社会的費用便益分
析はできなかった。LCA(Life Cycle Assessment)データの十分な把握を通じて、社
会的費用便益分析を行い、拡大生産者責任(EPR)を実現するための公共政策に対する
適切な評価が必要である。
論文審査結果の要旨
1.審査の経過
学位論文審査委員会は、予備審査と公開説明会において、いくつかの重要な指摘があ
り、この指摘に基づいて論文の内容の修正を請求者に求めた。指摘を受けた内容は、下
記のとおりである。
1)「かさ比重」、言い換えれば、「逆かさ密度」を用い、容積ベースで容器包装リサ
イクル費用の測定と評価を実行したことが本研究の最大の特徴なので、 1 章等で、
その方法論としての意義をもっと詳しく説明するべきとのことが強く指摘された。
また、第 5 章の題名の「かさ比重」は、「逆かさ密度」に差し替えるべきとの指摘
が行われた。
2)予備審査で提出された論文の 8 章「拡大生産者責任(EPR)制度の導入における
政策選択肢評価」は、政策シミュレーションであり、実証分析にふさわしく無いの
で、省くべきとの指摘がなされた。
3)第 7 章の拡大生産者責任(EPR)制度が諸外国との比較で、日本の特徴が浮かび
あがるように書き直すことが指摘された。また、容積ベースでのリサイクル費用が
各主体の費用負担にどのように影響するかにも言及する必要がある。
2.評価
以上の指摘と修正を経て行われた本審査では、本論文について以下の点が評価された。
1)本論文の方法論
①
本論文の特徴は、容積ベースで容器包装リサイクル費用の測定と評価を実行し
たことにある。つまり、リサイクル費用の測定方法に関する社会的費用便益分析
を用いた数学的理論モデルを提示し、容器包装リサイクル費用の重量ベースと容
積ベースでの測定方法と 1 本(500m l 換算)あたりのリサイクル費用の算出方法
を開発した。
②
収集費用を容積ベースで算出するための基礎データを入手するために、「逆か
さ密度」を厳密に定義し、その実態調査を行なった。大都市(横浜市・仙台市・
北九州市・札幌市)と中都市(日野市・柏市)の計 6 自治体における「逆かさ密
度」の計測結果と評価を行い、容積ベースでの容器包装リサイクル費用算出への
実証的適用方法を開発した。これは、日本では初めての試みである。
③
ドイツ、フランスと韓国における容器包装リサイクルシステムの分析・評価と、
各国における拡大生産者責任(Extended Producer Responsibility : EPR)導入
の実態を明らかにし、日本との比較評価を行い、EPR 導入の可能性を検証して
いる。
2)分析結果の重要な意義
①
容器包装リサイクル費用を重量ベースと容積ベースで測定した。容積ベースで
リサイクル費用を測定するため、その基礎データである「逆かさ密度」を実測し、
容積の推定とそれによる費用配分、そしてリサイクル費用の測定を行なった。
本研究では、容器包装が一般家庭から排出された後、自治体がそれらを収集、
処理し、リサイクル業者に引き渡すまでの費用を「(自治体の)リサイクル費用」
と定義した。具体的には、容器包装リサイクル費用=収集費用+中間処理費用−
売却収入+再商品化費用(逆有償費用)である。次に、重量ベースと容積ベース
での容器包装リサイクル費用の測定式を導出し、最終的に容器包装500m l 一本
(缶)あたりのリサイクル費用を測定した。
②
本研究では、「逆かさ密度」を収集量あるいは処理量の収集容積あるいは処理
容積を推定し、容器包装リサイクル費用を容積ベースで測定するための、単位重
量あたりの容積と定義した。単位はℓ/kg を標準とした。自治体における「逆
かさ密度」の調査結果では、容器包装廃棄物の排出区分・積載区分・車種などが
自治体により多様であり、自治体毎にかなりばらつきが見られた。品目別に見た
「逆かさ密度」の順位は、トレイ・ペットボトル・アルミ缶・残渣・プラスチッ
ク製容器包装・スチール缶・びんである。この順番に「かさばっている」ことを
意味する。自治体別に見ると、北九州市の逆かさ密度が小さいことが目立った。
混合状態での「逆かさ密度」の推定値は「品目別の逆かさ密度」の推定値よりも、
全体的に小さい値となった。これは「混合状態=積載時」では圧縮・減容されて
いることを意味する。
③
容器包装リサイクル費用の測定結果は、重量ベースでみると、平均値でアルミ
缶が−0.
15円/本、スチール缶3.
21円/本、ペットボトルが3.
33円/本、ガラス
びんが13.
17円/本になっている。ガラスびんが一番大きい値、またアルミ缶が
マイナスの値になった。マイナスということは、利益が出ていることを意味して
いる。これは、アルミ缶の売却収入が収集・処理費用よりもかなり大きいことが
原因である。容積ベースでは、平均値でアルミ缶が1.
17円/本、スチール缶が2.
58
円/本、ペットボトルが3.
78円/本、ガラスびんが3.
26円/本の値になった。ア
ルミ缶以外は 3 円前後の値になった。素材別に見るとペットボトルが一番高く、
かさばっていることが主たる原因である。容積ベースでは、積載区分・車種など
の違いから、一律に比較はできないものの、結果は近似しているのがわかった。
500m l 1 本あたりで見ると、重量ベースでは素材別にかなり大きな差があること
が判明した。ことに、ガラスびんが大きい費用がかかっていることが示された。
容積ベースで見ると、アルミ缶以外はほぼ 3 円∼ 4 円でほぼ同じ値をとっている
ことが示された。アルミ缶は重量ベースではマイナス値、つまり利益が出ている
が、容積ベースではプラス値、つまりリサイクル費用がかかっていることが示さ
れた。
④
フランスおよびドイツ、韓国における容器包装リサイクル政策に関する分析・
評価により、各国における拡大生産者責任(Extended Producer Responsibility :
EPR)導入の実態が明らかになった。
拡大生産者責任制度(EPR)は廃棄物問題を解決する経済的手法として、OECD(Organization for Economic Co-operation and Development:経済協力開発機構)から提
案された概念である。EPR の本質は、
「だれがゴミ処理を物理的に行うかではなく、だ
れがゴミ処理の費用を負担するかにある(OECD1989)」ことであり、「廃棄物処理責任
を生産者が負うことによる製品価格へのコスト転嫁」が EPR の鍵となる。
ドイツでは、容器包装物の収集・輸送・再資源化までほぼ100%を生産者責任と費用
負担で実行されている。EPR は100%実現されているといえる。フランスでは、収集・
輸送費用については、自治体負担が50%、製造業者負担が50%である。再資源化の費
用負担はすべて製造業者負担なので、自治体に収集責任はあるが、製造業者が全体コス
トの65%を負担していることになる。全体では約65%程度、EPR が実行されているこ
とが明らかにされた。韓国でも2003年から「生産者責任再活用制度」(拡大生産者責任
制度の韓国版)を法律として制定し、生産者がリサイクルしやすい材質構造の製品の生
産、販売だけではなく使用済の廃棄物のリサイクルまでの責任をとることとし、100%
事業者責任でリサイクルされている。生産者はリサイクル義務を履行し、もしその義務
を履行できなかった場合は高額な再活用賦課金を支払わなければならないことになる。
生産者はリサイクル義務を達成するため、容器包装廃棄物を民間収集業者やリサイクル
業者から有償で買うこともある。有償で売却されるため、韓国では、日本のような逆有
償は存在しない。
これに対して、日本では、全体コストの約 7 割を占める収集・輸送コストの100%を
自治体が税金で負担している。再資源化(再商品化)コストのうち中小企業分を自治体
が負担しているので、総合して計算すると、自治体が全体コストの約80%以上の費用負
担をしており、製造業者負担はわずか約20%以下である。このような費用負担構造か
ら日本では、約20%以下しか EPR が実現されていないことが明らかになった。以上の
結果を統一的な比較表にまとめたのは、日本で初めての成果である。
3.結論
1)評価と結論
本論文「自治体における容器包装リサイクル費用の測定と評価に関する実証分析」に
対する審査委員会の評価と結論は、次のとおりである。
①
李松林氏の論文は、自治体における容器包装リサイクル費用の測定と評価に関
して社会的費用便益分析の方法論を用いて実証分析を行った優れた研究である。
多くの自治体では収集費用の総額は把握されているが、ごみと資源物の按分、さ
らには容器・包装の素材別の按分ができていない。これまで、容器包装廃棄物の
リサイクル費用は主に重量ベース(収集量・処理量等)でしか測定されてこなかっ
た。容器包装廃棄物は、ペットボトルのように嵩張るものが多いので、重量ベー
スではなく、容積ベースで測定・評価しなければ、正確な費用の測定は出来ない。
本研究では、容器包装廃棄物のリサイクル費用を容積ベースで測定・評価するた
め、容器包装素材別「逆かさ密度」(=単位重量あたりの容積)を実測し、容器
包装の収集費用を容積ベースで算出できるようにした方法論の開発とそれを用い
た実証分析は高く評価できる。
②
ドイツ、フランスと韓国における容器包装リサイクルシステムの分析・評価と
各国における拡大生産者責任(EPR)導入の実態を明らかにし、日本との比較評
価を行い、その結果を国別比較表にまとめた。日本での初めての成果である。今
後、日本における EPR 導入の可能性を検討するのに大いに貢献出来る。
第 3 章から第 7 章は、本学『経済系』及び『廃棄物学会論文誌』等の審査つき
③
学術論文として公表されたもの 2 編を中心に、大幅に加筆・修正されたものに基
づいている。極めて優れた学術論文として評価されている。また、今後も学術論
文を作成・発表する能力が高いと評価できる。
2)今後の課題
①
本論文で適用した「逆かさ密度」の実測データは、自治体の積載区分・車種が
異なることによって違ってくる。また、積載率・圧縮率も算出する必要がある。
6 自治体での「逆かさ密度」の実測は、大変な手間がかかりながら、不十分であ
ると考える。今後ともより詳しいかさ比重調査と基礎データの補充が必要である。
②
本研究では、飲料容器のリサイクルに関する社会的費用便益分析の理論モデル
を提示しながらも、外部便益の評価が行えず、コスト分析だけにとどまり、社会
的費用便益分析はできなかった。LCA データの十分な把握を通じて、社会的費
用便益分析を行い、拡大生産者責任を実行するための公共政策に対する適切な評
価が必要である。
以上のような評価を踏まえ、結論として、審査委員会は、本論文を博士(経済学)の
学位を授与するに相当すると全員一致で認めるものである。
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