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イタリア協同組合から学ぶ-労働者協同組合の伝統

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イタリア協同組合から学ぶ-労働者協同組合の伝統
イタリア協同組合から学ぶ-労働者協同組合の伝統-
津田直則(桃山学院大学)
1
イタリア協同組合の特徴と特殊性注1)
1)イタリア協同組合の発展注2)
イ タ リ ア の 最 初 の 協 同 組 合 は 1854 年 に 設 立 さ れ イ ギ リ ス 、 フ ラ ン ス 、 ド イ ツ な ど の 影
響 を 受 け 、消 費 、金 融 、農 業 な ど の 分 野 で 急 速 に 発 展 し た 。 1910 年 に は 7400 の 協 同 組 合
と 100 万 人 の 組 合 員 が 存 在 し て い た 。そ の 後 フ ァ シ ズ ム の 影 響 を 受 け 受 難 の 時 期 を 迎 え る
が第二次大戦後、憲法で協同組合は認知を受け再び発展していく。初期の中心は復興をめ
ざ す 住 宅・建 設 協 同 組 合 で あ っ た 。1980 年 代 か ら は 福 祉 、教 育 、弱 者 支 援 な ど の 運 動 が 協
同 組 合 運 動 と し て 拡 大 し 1991 年 に 社 会 的 協 同 組 合 と し て 法 制 化 さ れ 欧 州 各 国 に 広 が っ た 。
イ タ リ ア 協 同 組 合 の 発 展 を 促 し た の は 指 導 力 の 強 い 連 合 会 の 存 在 で あ る 。1886 年 に 最 初
の 全 国 協 同 組 合 連 合 会 が 生 ま れ た が 社 会 主 義 思 想 を 強 め た た め に 1921 年 に カ ト リ ッ ク 系
な ど の 連 合 会 が 生 ま れ て 分 裂 し た 。第 二 次 大 戦 後 も 4 つ の 連 合 会 が 存 在 し た が 中 心 は レ ガ
コープとコン フコーペ ラティブ(以下 コンフコープ )である 。この 2 つは 現在連帯を強 め
つ つ あ り 2011 年 1 月 に は 同 盟 関 係 も 結 ん で い る 。
2007 年 に は イ タ リ ア に は 約 112,000 の 協 同 組 合 が 存 在 す る 。小 規 模 協 同 組 合 が 多 い が 大
規 模 協 同 組 合 も あ る 。マ ー ケ ッ ト シ ェ ア が 大 き い 産 業 も あ る 。2006 年 の 農 業 部 門 で は 全 事
業 高 の 62.4%を 協 同 組 合 が 占 め て い る 。 ま た 小 売 り 事 業 で も 生 協 の マ ー ケ ッ ト シ ェ ア は 全
国トップである。あらゆる産業に協同組合があり金融・保険・建設・製造業分野でも協同
組合は大企業として参入している。地域的には協同組合コミュニティを形成している町も
ある。後に述べるように、エミリア・ロマーニャ州のイモラがそれである。
イタリア協同組合がここまで発展した要因としては次のようないくつかが考えられる。
① 協 同 組 合 を 思 想 的 に 支 え て い る 連 帯 ( solidarity) と 互 恵 ( mutual) の 思 想 、 ② 法 律 面
から協同組合の発展を支える利潤の強制的蓄積制度、③競争市場で有利に働くコンソーシ
アムや効率重視の制度、④教育、金融、サービスなどの二次的協同組合の形成、⑤協同組
合連合会の指導力。以下では以上の項目のいくつかについて、イタリアにおける労働者協
同組合に焦点を当てつつ説明していく。
2 )イ タリ ア協 同組合 法の 特殊 性 注3)
連帯思想と互恵思想
イ タ リ ア に は 「 連 帯 」( solidarity) 以 外 に 「 互 恵 」 (mutual)と い う 用 語 が あ る 。 ボ ロ ー
ニ ャ 大 学 の 2 人 の 教 授 に こ の 2 つ の 用 語 の 違 い を 聞 い た と こ ろ 、共 通 の 意 見 が 返 っ て き た 。
「互恵」は誰かに何かをしてもらったらそのお返しをその人を含めた誰かに与えることで
ある。連帯は組織の外に対する用語であり、互恵は組織の内部での関係を示す用語である
と。イタリアではこの互恵思想は歴史的・文化的に市民社会に浸透している。
法律用語としてもこの互恵は使われている。イタリア民法では協同組合を「資本の可変
性 と 互 恵 目 的 を も つ 」企 業 と 規 定 す る 。 法 学 者 の ア ン ト ニ オ ・ フ ィ チ( Antonio Fici)は 、
「 互 恵 性 は イ タ リ ア に し か な い と 思 わ れ る 特 異 な も の で イ タ リ ア 法 の 歴 史 的 な 規 定( 1942
1
年 の 民 法 と 1948 年 の 憲 法 ) と し て 生 ま れ た 」 と 述 べ て い る 。
イタリア協同組合法の特殊性
イ タ リ ア 協 同 組 合 法 で は こ の 互 恵 と い う 用 語 は 特 別 の 意 味 を 有 し て い る 。2003 年 に 改 正
された協同組合法で互恵の用語は次のような場合に使われている。
まず改正協同組合法では、互恵の用語は協同組合が組合員中心で事業を行っているかど
う か と い う 視 点 か ら 「 互 恵 優 位 型 」( prevalently mutual ) と 「 互 恵 非 優 位 型 」( not
prevalently mutual) に 分 類 さ れ て い る 。 互 恵 優 位 型 は 、 組 合 員 に よ る 事 業 取 引 が 事 業 全
体 の 50%以 上 で あ る 場 合 、ま た 労 働 者 協 同 組 合 で あ れ ば 、組 合 員 比 率 が 労 働 者 全 体 の 50%
以 上 の 協 同 組 合 で あ る 。こ れ に 対 し 互 恵 非 優 位 型 協 同 組 合 は 、上 の 割 合 が 50 %未 満 の 場 合
で あ る 。 2006 年 で は 、 登 記 さ れ た 全 イ タ リ ア 協 同 組 合 62,253 組 合 の 中 で 互 恵 非 優 位 型 の
協 同 組 合 が 6.2%( 3,821 組 合 )を 占 め て お り 、そ の 非 互 恵 型 協 同 組 合 の 中 で 労 働 者 協 同 組
合 は 1,227 組 合 ( 32.1%)、 住 宅 協 同 組 合 が 615 組 合 ( 16.1% ) を 占 め て い る 注 4 )。
互恵優位型協同組合は通常の協同組合であり配当制限などの規制があるが、互恵非優位
型では協同組合としての規制がほとんどなくその代わりに税法上の優遇措置もない。この
ように一般的には協同組合とは見なされないようなケースでも少数ではあるがイタリアで
は協同組合に含まれている。しかし後に見るように、互恵非優位型であっても地域社会に
大きく貢献している協同組合も存在している。
次にイタリア協同組合法では、協同組合の発展を促すためにすべての互恵優位型協同組
合 は 、 利 潤 の 中 か ら 法 定 準 備 金 と し て 30% 、 互 恵 基 金 ( mutual fund) と し て 3% を 拠 出
す る こ と が 義 務 づ け ら れ て い る 。 こ れ に 対 し 互 恵 非 優 位 型 協 同 組 合 で は 互 恵 基 金 へ の 3%
のみが強制される。この互恵基金は全国的な基金として集められ新規協同組合の設立・発
展 に 使 わ れ る 。 準 備 金 や 基 金 に 利 潤 の 1/3 を 拠 出 す る こ と を 義 務 づ け る こ と は 国 際 的 に は
まれであるがこれがイタリア協同組合の発展を促したことは疑いがない。
そ の 他 に も 、イ タ リ ア 協 同 組 合 法 に は 1 人 1 票 の 原 則 、ガ バ ナ ン ス シ ス テ ム 、投 資 の み
の 組 合 員 な ど に つ い て 通 常 規 定 と は 別 に 、国 際 基 準 か ら は ず れ る 例 外 規 定 が 存 在 し て い る 。
組 合 員 数 や 資 本 額 に 応 じ て 最 大 5 票 ま で 認 め る 仕 組 み や 、事 業 協 同 組 合 で は 事 業 高 に 応 じ
て 全 投 票 数 の 上 限 10%ま で 1 組 合 に 認 め る 仕 組 み や 、人 事 権 や 決 算 の 審 議 権 な ど の 権 限 を
総会から監査役会に移譲してしまう営利企業型ガバナンスの仕組みなどがそれである。投
資目的のみの組合員も法的に認められている。これらは従来型の真の協同組合規定からは
はみ出した規定であり、効率を重視するイタリア協同組合の特徴である。一部にはイタリ
ア協同組合の歴史的特殊性から生じたものもあり、協同組合原則から逸脱していると考え
られる場合もあるので慎重に検討することが必要ではあるが、効率と協同組合価値に関し
ての広いスペクトラムはイタリア協同組合の発展と密接に結びついていることを知る必要
があるだろう。
2
エミリア・ロマーニャ州と協同組合の首都イモラ注5)
イ タ リ ア 北 部 に 属 す る エ ミ リ ア・ロ マ ー ニ ャ 州 は 人 口 約 400 万 人 で そ の 57% が 協 同 組 合
の組合員である。州都ボローニャは全国へ協同組合戦略を発信する協同組合の町であり人
口 の 2/3 が 組 合 員 に な っ て い る 。 エ ミ リ ア ・ ロ マ ー ニ ャ 州 に は あ ら ゆ る 産 業 に 協 同 組 合 が
2
あるが最も栄えている領域は、小売、建設、
農業、住宅、製造、社会的サービスである。
この国は日本と同様に中小企業が多い。州内
の 企 業 数 は 42 万 で あ り 人 口 で 割 れ ば 女 ・ 子
供 を 含 め 9.5 人 に 1 社 の 割 合 と な る 。 協 同 組
合も小規模協同組合が多数を占める。
しかし大企業の協同組合もある。州都ボロ
ー ニ ャ で は 協 同 組 合 が 50 の 大 企 業 の 内 15 を
占めている。生協(消費者協同組合)はイタリア最大の小売業であり、レガ傘下のコープ
イ タ リ ア は ボ ロ ー ニ ャ に 本 部 が あ り 約 650 万 人 の 組 合 員 が い る 。コ ー プ イ タ リ ア は 仕 入 れ 、
開 発 、 マ ー ケ ッ テ ィ ン グ を 全 国 規 模 で 統 合 し て お り 2008 年 供 給 高 は 126 億 ユ ー ロ ( 1 兆
5120 億 円 )で あ り イ タ リ ア 全 土 で ト ッ プ 17.8%の シ ェ ア を 有 す る 。規 模 の 経 済 性 を 徹 底 的
に 利 用 す る と 共 に 、コ ー プ 商 品 の 開 発 で も 組 合 員 の 目 隠 し 調 査 に よ り 15% は 開 発 の や り 直
しをするなど協同組合としての明確なミッション や競争力を持っている。
ボ ロ ー ニ ャ か ら 東 南 へ 列 車 で 30 分 の 距 離 に イ モ ラ( Imola)と い う 人 口 6 万 4 千 人 の 町
がある。イモラはボローニャ県の一地方であるがエミーリア・ロマーニャ州における協同
組 合 の 首 都 と 呼 ば れ て お り 、イ モ ラ の 研 究 を し た 米 国 人 マ ッ ト・ハ ン コ ッ ク( Matt Hancock)
は 、「 イ モ ラ は イ タ リ ア の 最 も 古 い 協 同 組 合 の 故 郷 で あ り 、 協 同 ( cooperation) と 言 う 言
葉 を DNA と し て 持 っ て い る 町 で あ る 。」 と 述 べ て い る 注 6 )。 労 働 者 協 同 組 合 の 歴 史 は 140
年 あ り ボ ロ ー ニ ャ よ り も 古 い 。 す べ て の 産 業 に 協 同 組 合 が あ り 、 130 の 協 同 組 合 の 故 郷 で
コ ー プ イ タ リ ア も イ モ ラ が 発 祥 の 地 で あ る 。 現 在 は 111 の 協 同 組 合 が 存 在 し て い る 。
数年前にレガコープ全国組織の理事長にレガコープ・イモラ理事長が選出された。現在
の レ ガ コ ー プ ・ イ モ ラ 理 事 長 で あ る セ ル ジ オ ・ プ ラ ッ テ ィ ( Sergio Prati) に よ れ ば 注 7 )、
町 の 人 口 の 80%は 協 同 組 合 組 合 員 で あ る 。レ ガ コ ー プ は イ モ ラ の 協 同 組 合 全 体 を 支 援 す る
役割を果たしており、特に新設の協同組合の発展を資金面で支援するシステムを有してい
る 。 ま た 最 近 10 年 間 に わ た り 若 者 の 協 同 組 合 教 育 に も 力 を 入 れ て お り 、 多 く の 学 校 で 授
業 中 に 年 間 5 回 、課 外 授 業 で 年 間 3 回 に わ た り 協 同 組 合 を 学 ぶ 機 会 を 与 え て い る 。 こ の よ
うに金融、教育、情報サービスなどの面でレガコープがもつインフラ型二次的協同組合の
システムは協同組合の発展に大きな役割を果たしてきた。
ハ ン コ ッ ク に よ れ ば 、 典 型 的 な イ モ ラ 家 庭 の 年 間 可 処 分 所 得 は 66,604 ド ル で あ り 米 国
平均を上回る。またこの町には協同組合を世代から世代に引き継ぐことが協同組合の責任
であるという世代間互恵思想が文化としてしっかり根付いている。イモラ協同組合コミュ
ニ テ ィ は 地 域 社 会 に 根 差 し 地 域 社 会 と と も に 生 き て い る と ハ ン コ ッ ク は 強 調 し て い る 注 8 )。
3
イ モラ 製造 業労働 者協 同組 合 注9)
歴史と事業規模
イ モ ラ に 存 在 す る 10 余 り の 製 造 業 協 同 組 合 は す べ て 労 働 者 協 同 組 合 で あ る 。 そ れ ら の
多 く は 19 世 紀 終 わ り か ら 20 世 紀 半 ば ま で に 設 立 さ れ 長 い 歴 史 を も っ て い る 。セ ラ ミ ッ ク
を 生 産 す る Imola Ceramica は 1874 年 、 窓 枠 や ド ア を 生 産 す る 3elle は 1908 年 、 セ ラ ミ
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ッ ク 製 造 機 械 を 生 産 す る Sacmi は 1919 年 、 道 路 建 設 資 材 を 生 産 す る Cti は 1930 年 、 歯
科 設 備 な ど を 生 産 す る Cefla は 1932 年 、ビ ル・高 速 道 路 な ど を 手 掛 け る ゼ ネ コ ン の CESI
は 1920 年 に そ れ ぞ れ 設 立 さ れ た 。 イ モ ラ の 町 の ト ッ プ 4 つ の 製 造 業 協 同 組 合 に よ る 雇 用
量 は 全 協 同 組 合 の 総 雇 用 量 の 47%を 占 め 、 イ モ ラ は 工 業 都 市 で も あ る 。
協同組合民主主義
組 合 員 比 率 が 50%未 満 と い う 互 恵 非 優 位 型 の 労 働 者 協 同 組 合 が 多 い の も こ の 町 の 製 造
業 協 同 組 合 の 歴 史 的 特 殊 性 で あ る 。 50% を 超 え て い る の は 3elle( 52% )、 CESI( 75% )
な ど 僅 か で 、 Cefla は 32% 、 Imola Ceramica は 15% 、 Sacmi は 32% な ど で あ る 。
多くの製造業協同組合では設備投資に多くに資金が要求されるために、互恵優位型であ
ろうと非優位型であろうと組合員に要求される最低出資金は数百万円と高額である。最低
出 資 金 額 は 、 セ ラ ミ ッ ク 製 造 機 械 メ ー カ ー の 世 界 的 リ ー ダ ー で あ る サ ク ミ ( Sacmi; プ レ
ス 機 械 の 世 界 シ ェ ア 50% ) で 6 万 ユ ー ロ ( 720 万 円 )、 ビ ル ・ 高 速 道 路 な ど の 建 設 を 手 が
け る ゼ ネ コ ン の チ ェ ジ ( CESI) で 5 万 5 千 ユ ー ロ ( 660 万 円 ) な ど 驚 く ほ ど 高 額 で あ る 。
生協などとは異なり製造業では組合員の質が特に重視される。それは互恵優位型、互恵
非優位型のどちらも同じである。組合員への情報開示を徹底して組合員総会を年間に何度
も開催するの は参加意 欲を高め るた めでもある。製造 業では一 般に 4 回 、多いところでは
毎 月 つ ま り 年 間 12 回 も 総 会 を 開 催 す る 。サ ク ミ で は 年 間 12~ 13 回( 5 時 間 を 超 え る と 翌
日 再 度 開 催 ) の 総 会 を 開 催 し 出 席 率 は 80% を 超 え る と い う 。
互 恵 非 優 位 型 協 同 組 合 は 、組 合 員 比 率 が 50% 未 満 で あ る か ら 、組 合 員 が 非 組 合 員 を 搾 取
する協同組合であると一般に考えられがちであるが、実態を見ると一概にそうと決めつけ
る こ と は で き な い 。非 組 合 員 で あ っ て も 完 全 な 正 社 員 待 遇 で あ り 、利 潤 分 配 を 除 け ば 賃 金・
保険などの労働条件は組合員と同一で産業別労使関係で決まる賃金は民間企業と同じであ
る。また互恵非優位型は営利企業に近い制度を採用できる法的根拠を持っているが、イモ
ラの場合には互恵非優位型協同組合も互恵優位型協同組合とほぼ同様のガバナンス構造を
有しており、予算・決算・人事権などで総会が最終決定権を握っている。
互恵非優位型協同組合はイタリアの歴史的特殊性から存在していた協同組合であり、
2003 年 の 協 同 組 合 法 改 正 で も 協 同 組 合 か ら 排 除 さ れ な か っ た 。し か し 改 正 協 同 組 合 法 の 下
では設立インセンティブがないため、互恵非優位型は今後は生まれないと言われている。
旺盛な投資意欲と海外進出
互 恵 優 位 型 協 同 組 合 で は 利 潤 の 内 で 準 備 金 に 向 け る 資 金 は 最 大 70%ま で 税 控 除 が 認 め
ら れ る が 、互 恵 非 優 位 型 で は 30% ま で し か 認 め ら れ な い 。に も か か わ ら ず イ モ ラ の 協 同 組
合 は 、互 恵 優 位 型 で あ ろ う と 非 互 恵 型 で あ ろ う と 利 潤 の 70%ま で 投 資 す る 旺 盛 な 投 資 意 欲
を 持 っ て い る 注 1 0 )。ま た イ モ ラ の 協 同 組 合 の み な ら ず イ タ リ ア 協 同 組 合 の 特 徴 は 、国 際 市
場で活躍する協同組合の場合、多くの株式会社を子会社として抱えていることが少なから
ず あ る こ と で あ る 。セ ラ ミ ッ ク 製 造 機 械 メ ー カ ー・サ ク ミ の 場 合 に は 持 ち 株 比 率 90% 以 上
の 子 会 社 を 70 社 抱 え 多 国 籍 協 同 組 合 企 業 と し て 活 躍 し て い る 。 子 会 社 を 所 有 す る 動 機 は
新規事業の開拓であることが多く、企業買収も発展のための手段として割り切っている。
競争力と効率を重視するイタリア協同組合の特徴の一部である。
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イタリア社会的協同組合注11)
労働者協同組合としての社会的協同組合
社 会 的 協 同 組 合 A 型 は 社 会 、医 療 、 教 育 な ど の 分 野 の サ ー ビ ス に か か わ り 、 B 型 は 社 会
的に不利な立場に追い込まれた身体障害者、精神障害者、薬物中毒患者、犯罪で執行猶予
中の人などを対象としている。これらの人々は社会的に排除されている人たちであるため
こ の 事 業 や 運 動 は 、欧 州 で は 社 会 的 統 合( social integration)と か 労 働 統 合( labor integration)
と呼ばれている。
ボ ロ ー ニ ャ 大 学 の フ ラ ン コ ・ マ ル ツ オ ッ チ( Franco Marzocchi) 教 授 に よ れ ば 、社 会 的
協同組合と労働者協同組合は統計的には別物として計上されているが、社会的協同組合は
A 型、B 型を含めすべて労働者協同組合である。 A 型は 7 千組合、B 型は 4 千組合、社会
的 協 同 組 合 と は 別 概 念 の 労 働 者 協 同 組 合 は 1 万 組 合 、つ ま り 広 義 の 労 働 者 協 同 組 合 は 合 計
2 万 1 千 組 合 と い う こ と に な る 。 社 会 的 協 同 組 合 は イ タ リ ア で 1991 年 に 法 制 化 さ れ そ の
後欧州全域に広がったが、このイタリア社会的協同組合の法制化運動は言い換えれば労働
者協同組合の運動としてもとらえることができる。
マ ル ツ オ ッ チ 教 授 は こ の イ タ リ ア 社 会 的 協 同 組 合 の 源 流 を 3 つ に 分 け て い る 。 ① 1970
年代バチカン・カトリック教会による社会連帯の運動として、社会的サービス・医療サー
ビ ス・障 害 者 対 象 雇 用 活 動 が( A 型 + B 型 )と し て 生 ま れ た 。② 1970 年 代 の オ イ ル シ ョ ッ
ク後のイタリアで 2 つの動きが出てきた。1 つは知的障害者を対象とする社会参加の協同
組 合 の 動 き で こ れ が B 型 の 運 動 に な っ て い く 。③ も う 1 つ は オ イ ル シ ョ ッ ク 後 の 財 政 債 務
の圧縮の必要性から、老人介護、医療サービス、教育サービスなどの社会的サービスが地
方 で 活 発 に な り A 型 の 運 動 と な っ た 。 こ れ ら 3 つ の 運 動 が 1991 年 に 社 会 的 協 同 組 合 法 と
し て 結 実 し た わ け で あ る 。 こ の よ う に イ タ リ ア 社 会 的 協 同 組 合 の 運 動 は 法 制 化 さ れ る 20
年 近 く 前 の 1970 年 代 か ら 始 ま っ て い た と 考 え ら れ る 。
社会的協同組合コンソーシアム
社会的協同組合は独立で事業を行っている場合もあるが、連帯の一形態としてコンソー
シ ア ム( consortium)と い う グ ル ー プ を 形 成 し て い る 場 合 が 多 い 。グ ル ー プ を 形 成 す る 方
が共通経費の面で節減ができ事業も有利に獲得できる。レガコープもコンフコープもコン
ソーシアムを形成し、地域単位、州単位、全国単位の組織で相互につながっている。コン
フコープ系コンソーシアムの場合は組合数が多いが組合規模が小さく相互に連携して地域
コミュニティの各種問題に取り組むという特徴を持っている。これはカトリック教会主導
モデルであるが、コンフコープ系の社会的協同組合に属していても半分くらいはカトリッ
ク教とは関係がないようである。これに対しレガコープ系では協同組合数は少ないが後の
事例にみるように事業規模が大きい。マルツオッチ教授はコンフコープ系コンソーシアム
を地域コミュニティ型、レガコープ系コンソーシアムをビジネス型と名付けている。
調査の具体例(エミリア・ロマーニャ州)
イ モ ラ に ジ ョ バ ン ニ ・ レ リ ガ ト ー レ ( Giovani Religatore) と い う レ ガ 系 B 型 社 会 的 協
同 組 合 が あ る 。 労 働 者 数 35 人 、 障 害 者 比 率 50%で 元 受 刑 者 も い る 。 こ の 協 同 組 合 は コ ン
ソ ー シ ア ム に は 属 し て い な い 。事 業 内 容 は 製 本 、印 刷 、部 品 組 み 立 て な ど で 130 万 ユ ー ロ
の 事 業 高 を も つ 。こ こ で は 障 害 者 は 週 38 時 間 以 上 働 く と 健 常 者 と 同 一 の 賃 金 が 得 ら れ る 。
5
また障害者と健常者が同一の職場で働いている。日本では考えられないほど進んでいる。
ボ ロ ー ニ ャ 郊 外 に チ ム ( Cim) と い う コ ン フ コ ー プ 系 A+ B 型 社 会 的 協 同 組 合 が あ る 。
レ ス ト ラ ン の 経 営 や 工 芸 品 の 製 作 に 取 り 組 み 、事 業 高 は 65 万 ユ ー ロ 、労 働 者 組 合 員 20 人
( A 型 5 人 、 B 型 15 人 、 障 害 者 6 人 ) が 働 い て い る 。 A 型 と B 型 の 関 係 は 、 別 の 部 屋 で
同 じ 作 業 を し て い る が B 型 は 工 場 の よ う で あ り 、A 型 は 教 育 目 的 で 工 房 の よ う に な っ て い
る 。こ の 協 同 組 合 は イ ン シ エ ー メ( INSIEME)と い う コ ン ソ ー シ ア ム に 属 し 、他 の 協 同 組
合と協力して障害者の子どもやシングルマザー問題など地域の課題に取り組んでいる。
1 つの社会的協同組合が複数のコンソーシアムに所属している場合もある。ボローニャ
郊 外 の ア ク ラ( Acra)と い う コ ン フ コ ー プ 系 B 型 協 同 組 合 は 3 つ の コ ン ソ ー シ ア ム に 所 属
している。1 つは事業の入札のために所属するメインの B 型コンソーシアム、2 つ目は自
分たちの活動に含まれる移民支援のために所属する A 型コンソーシアム、3 つ目は施設の
太陽発電のために所属する太陽発電コンソーシアムである。
ボ ロ ー ニ ャ の 郊 外 に エ タ ベ ー タ( ETA BETA)と い う レ ガ 系 B 型 社 会 的 協 同 組 合 が あ る 。
30 人 の 労 働 者 は 理 事 長 を 除 き 全 員 元 受 刑 者 と ア ル コ ー ル 依 存 症 患 者 の 組 合 員 で あ る 。農 産
物の生産・インターネット販売、ステンドグラスなどの工芸品生産、幼児おむつの洗濯プ
ロ ジ ェ ク ト な ど を 手 掛 け 事 業 高 総 額 30 万 ユ ー ロ 。労 働 者 の 月 収 は 最 高 が 1300 ユ ー ロ で 日
本 の 障 害 者 月 額 報 酬 の 10 倍 以 上 あ る 。 イ タ リ ア B 型 社 会 的 協 同 組 合 の 実 力 と い え よ う 。
エ タ ベ ー タ が 属 す る コ ン ソ ー シ ア ム ・ エ プ タ ( EPTA) は 6 組 合 か ら な り 、 レ ガ 系 で は あ
るがコンフコープ系も含んでいるのが特徴である。
レ ッ ジ ョ ・ エ ミ ー リ ア に あ る レ ガ 系 B 型 社 会 的 協 同 組 合 ス ト ラ デ ッ ロ ( Stradello) は 、
も と は A 型 + B 型 か ら 出 発 し た が 、後 に A 型 を 障 害 者 施 設 の 経 営 な ど の 社 会 的 協 同 組 合 ゾ
ラ ( Zora) と し て 独 立 さ せ 、 自 ら は B 型 と し て 事 業 を 特 化 し 相 互 に 連 携 し て い る 。 13 ヘ
クタールの土地を持ちワイン・花の生産、工芸品の生産を行っている。ストラデッロの理
事 長 は コ ン ソ ー シ ア ム 4 5( Quarantacinque)の 理 事 長 も 務 め て い る 。こ の レ ガ 系 コ ン ソ
ー シ ア ム は 会 員 組 合 が 50 と 大 変 大 き く 、 全 国 20 州 の 半 分 く ら い で A 型 と B 型 の 組 合 を
メンバーにしている。コンソーシアムと会員組合は事業獲得面で協力し合っている。
こ の コ ン ソ ー シ ア ム 45 の 会 員 に は A 型 社 会 的 協 同 組 合 セ リ オ ス ( Celios) も 含 ま れ て
い る 。セ リ オ ス は イ タ リ ア 最 大 の A 型 社 会 的 協 同 組 合 で 、全 国 に 35 の 老 人 ホ ー ム と 30 の
幼稚園・保育所を経営しており事業高は 1 億ユーロである。施設の土地・建物はほとんど
が 自 治 体 所 有 で サ ー ビ ス 提 供 が 組 合 の 事 業 で あ る 。 2500 人 の 労 働 者 は 98%が 女 性 で セ リ
オスは女性の労働者協同組合である。
5
イ タリ ア社 会的協 同組 合の 哲学 注12)
イタリア協同組合の歴史、法律、制度、実態などからその根底に流れる思想と哲学を探
ってみよう。イタリア協同組合社会には、協同組合を中心にして世界を建設しようとする
変革の思想が感じられる。共産党や社会党と密接な関係を保っていた協同組合連合 体レガ
コープは特にその傾向が強いが、コンフコープの思想的基礎には カトリック社会思想があ
り、その一部である人間・労働を重視する思想や連帯思想は現代社会では変革の思想であ
る。また憲法や民法で規定されている互恵概念は、連帯概念と結合したイタリア協同組合
6
特有の目的価値であり、連帯概念を補強し強固な連帯思想の基礎を築いている。
イタリア協同組合の中でも特に重視すべきは労働者協同組合である。製造業の労働者協
同組合には国際市場で活躍する競争力の強い組合もある。福祉や教育の分野では女性の労
働 者 協 同 組 合 も 活 躍 し A 型 社 会 的 協 同 組 合 と し て 公 的 福 祉 の 分 野 を 担 い つ つ あ る 。障 害 者
や元受刑者など社会的に排除された弱者を支援する分野では B 型社会的協同組合が欧州の
社会的経済を変革しつつある。共益・公益目的、強さ・優しさの構造を兼ね備えているの
がイタリア労働者協同組合である。 根底には労働重視、人間重視の思想が伺える。
社会的協同組合が急成長した背景にはコンソーシアムの役割がある。コンソーシアムは
効率を高め競争力を強める役割を果たしてきた。農業、建設、消費の各協同組合における
発展においてもコンソーシアムはイタリア協同組合発展のカギであった。コープイタリア
も生協のコンソーシアムである。コンソーシアムは、連帯という基本的価値の視点からだ
けでなく効率と競争力を強めるシステムとしてとらえることも必要である。連帯により効
率と競争力を 強めるイ タリア協 同組 合のシステム としては、こ の他にも、システムを 2 重
構 造 に し て 効 率 を 高 め る 二 次 的 ( 金 融 、 教 育 な ど ) 協 同 組 合 、 蓄 積 の た め に 利 潤 の 1/3 を
準備金や互恵基金へ拠出することを義務づける法制度などがある。更に新事業開拓のため
の子会社の活用、投資組合員の導入なども含めると、効率と競争力に 関係した制度につい
て広いスペクトラムを持つのがイタリア協同組合の思想であり哲学である。
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イタリア協同組合から学ぶ注13)
日本の協同組合は協同組合社会の建設をめざすという目標を明確にする必要がある。ま
た連合体を形成し連帯を強める方向に進まねばならない。分断された異種協同組合を相互
に結合する仕組みを考えていく必要がある。
特に重要なのは協同組合が競争力をもつような連帯システムを組み立てる必要がある。
協同組合の世界は、基本的価値を体現する本物づくりと、競争力をもつ システムづくりの
双方をめざさねばならない。基本的価値と効率の間には、一方をめざすと他方が犠牲にな
るというトレードオフ関係があるが、このトレードオフ関係は連帯システムにより克服が
可能である。イタリア協同組合やスペイン・モンドラゴン協同組合 には、制度的仕組みに
相違はあっても効率や競争力を強める連帯システムが共に存在している。競争社会の中で
これに対抗する協同組合社会を築くためにはこのようなシステムの考察が不可欠である。
日本の協同組合社会はこのような連帯システムの検討をほとんど行ってこなかった。
突破口の 1 つ は労働者 協同組合法 制 化の早期実現 である。労働 者協同組 合 は農業、福祉
サービス、製造業、建設業、弱者支援のための雇用など共益・公益双方 に広い適用範囲を
持っている。震災地域の再建にも力を発揮するだろう。適用範囲が広いため異種協同組合
をつなぐ役割も果たせる。つまり労働者協同組合法制化は、協同組合世界 の拡大と、連帯
を強めシステム化を早める両方の役割を果たせるだろう。
注
1) 筆 者 は 海 外 研 修 で 2010 年 10 月 か ら 6 ヶ 月 間 北 イ タ リ ア ボ ロ ー ニ ャ に 滞 在 す る 機 会 を 得 た 。 本 稿
はその期間中に得た情報を総合した筆者なりのイタリア協同組合社会の理解である。 通訳を頂いた
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岡田美苗、戎加代のお 2 人には大変お世話になった。お礼申し上げます。調査の不十分さや乏しい
知識故に誤解や間違いもあると思われるがすべて筆者の責任である。また紙面の制約上、調査の具
体例を詳細に説明することはできなかった。この点はいずれ別稿で改めて取り上げたい。
2) 参 考 に し た 主 な 文 献 は 以 下 の と お り で あ る 。 (2), (6), (7), (8).
3) 参 考 文 献 は (3) で あ る 。 な お 、 mutual の 用 語 は 通 常 「 相 互 扶 助 」 と 訳 さ れ て い る が こ こ で は 用 語
を短縮するために「互恵」をつかった。
4) 参 考 文 献 (3)A.Fici, p.24 参 照 。
5) 参 考 文 献 は (4), (7), (10)。
6) 参 考 文 献 (5)M. Hancock, p.2.
7) S. Prati へ の 聞 き 取 り に よ る 。
8) 参 考 文 献 (4)M. Hankock, p.47, 53 -55 参 照 。
9) 聞 き 取 り 調 査 お よ び 参 考 文 献 (3), (4), (6), (9) に よ る 。
10) 参 考 文 献 (4)M. Hancock, p.59.
11) 聞 き 取 り 調 査 お よ び 参 考 文 献 (6), (7), (11), (13) に よ る 。
12) 参 考 文 献 (1)参 照 。
13) 参 考 文 献 (12), (13), (14) 参 照 。
参考文献
(1) Piero Ammirato, “The Co -operative Consortia in Italy ”, pp. 25, not dated.
(2) Carlo Borzaga, Sara Depedri, Riccardo Bodini, “ Cooperatives: The Italian Experience ” (2010),
http://www.euricse.eu/it/node/472
(3) Antonio Fici, “Co -operative Law Reform and Co -operative Principles”, Eu ri cse Worki ng Pape rs,
No 002(2010).
(4) Matt Hancock, Compete to Cooperate: The Cooperative District of Imola (2007).
(5) Matt Hancock, “ The Cooperative District of Imola ”(2005),
http://www.ssc.wisc.edu/~wright/Sociology% 20929-assignments -2010_files
(6) IMOLA INSIEME
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(7) John Logue, “Economics, Cooperation, and Employee Ownership: The Emilia Romagna model in more detail”, http://dept.kent.edu/oeoc/oeoclibrary/#Cooperatives
(8) Stefano Zamagni and Vera Zamagni, Cooperative Enterprise (2010).
(9) ピ エ ー ロ ・ ア ン ミ ラ ー ト 『 イ タ リ ア 協 同 組 合 : レ ガ の 挑 戦 』 中 川 雄 一 郎 監 訳 ( 2003 年 ) .
(10) 公 益 財 団 法 人 生 協 総 合 研 究 所 「 ヨ ー ロ ッ パ の 生 協 に 学 ぶ : 生 協 の 事 業 戦 略 と 社 会 的 役 割 」 2009 年
度 第 3 回 公 開 研 究 会 資 料 ( 2010 年 1 月 8 日 )
(11) 田 中 夏 子 『 イ タ リ ア 社 会 的 経 済 の 地 域 展 開 』( 2004) .
(12) 津 田 直 則 「 新 た な 社 会 経 済 シ ス テ ム へ の 展 望 - 協 同 組 合 を 中 心 と し て - 」『 国 際 公 共 経 済 研 究 』 第
21 号 ( 2010 年 9 月 ) .
(13) 津 田 直 則 「 社 会 的 経 済 と 連 帯 社 会 の 形 成 に 向 け て 」 NPO 法 人 共 生 型 経 済 推 進 フ ォ ー ラ ム 『 社 会 的
事 業 所 法 制 化 に 向 け て 』 第 2 章 ( 2010 年 7 月 ) .
(14) 津 田 直 則 「 生 協 の 連 帯 組 織 を 見 る 今 日 的 視 点 」『 生 活 協 同 組 合 研 究 』 No.408( 2010 年 1 月 ) .
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