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2015年年金資産配分への視点 (PDF / 1.13 MB

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2015年年金資産配分への視点 (PDF / 1.13 MB
Consulting Report(2014.12.11)
新年度の資産配分戦略策定に向けての考え方
―環境認識とその基本的アプローチ―
土橋 健二(IIC パートナーズ シニア・アドバイザー)
1. はじめに
グローバル経済の現況を俯瞰すると、回復持続グループと調整・停滞色を強めるグループの二極化の
様相を呈している。米国経済はここにきて回復状況がより明確化、量的金融緩和政策を終了させる一方、
欧州経済は停滞感が強まり、また BRICS を含む新興国経済も急減速をみている。他方、日本経済は回復
基調をキープしているものの、直近ではもたつき感が強まり足踏み状況を余儀なくされている。
こうしたグローバルな景気サイクル、金利の方向感の差を反映して、米ドルは上昇基調を強め、世界
のキャピタルフローは米国への回帰傾向を強めている。その一方、世界全体として政治・軍事・社会状
況は不安定性を増しており、とりわけロシア・ウクライナ情勢の悪化、中東での ISIS 問題、エボラ出血
熱感染拡大など地政学リスクの高まりが、グローバルな金融資本市場のブレを拡大している点は看過で
きない。というのも、こうしたリスクの拡がりがグローバルなヒト、モノ、カネ、情報の流れを阻害し、
さらなる世界景気の下押し圧力につながりかねないからである。
リーマンショック後の苦境を経た現在の世界経済は、
「反グローバル主義」とでも言うべき地域主義の
台頭、あるいはナショナリズムの高揚が多くの国で見られ、各国指導者としても安易な「妥協や譲歩」
を行えば自らの国内支持基盤を失うことになりかねず、引くに引けないといった状況に置かれている国
が少なくない。これが将来に向けての問題収束の方向を見えにくくしている要因の一つであり、こうし
た状況下では、小さな読み違いが想定外の事態に発展しかねないリスクを内包する。2015 年のグローバ
ルな資産配分戦略・戦術を考える上で、足元で進行するこうした地域主義優先傾向への変化は、リスク
評価に際しての最重要ファクターの一つであろう。
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2. 足元のグローバルな運用環境の再確認
1)正常化への歩み進める米国経済
米国連銀(Fed)は、本年 10 月末に Tapering とよばれる量的金融緩和(QE)の巻き戻し縮小プロセス
(2013 年 5 月予告、慎重を期して 12 月に開始)を予定通り終了した。リーマン破綻ショック後の景気後
退圧力に対応すべく 2009 年 3 月に緊急避難的に導入されて以降、3 次にわたって展開された異例の危機
対応策 QE は約 6 年で終わることになった。これにより今後の注目は、連銀が金融政策を正常化させる出
口戦略のもう一つの柱「ゼロ金利政策」
(2008 年 12 月導入)を 2015 年のどのタイミングで解除・引き上
げに踏み切るのかに移行する。
量的金融緩和終了の決定には、米国経済の緩やかな回復(7-9 月期 GDP 実質成長率 3.9%)
、雇用状況
の改善(10 月失業率 5.8%)があり、その背景には QE が株式市場、住宅など資産価格の回復、米国個人
消費の下支えに大きく貢献したという高評価があると思われる。特に 2008 年 9 月のリーマン破綻以降の
未曾有のショックに対し、QE 導入が流動性面及び心理面の両面から力を発揮し、米国景気のデフレスパ
イラル陥落を回避させたという役割を評価する向きは多い。果たした役割がそれだけ大きかったが故に、
その終了には並々ならぬ慎重さを期したわけで、それを無事に終えたということは経済政策運営の一つ
の大きな関門を通過したと言えるだろう。
もちろん、
結果として連銀のバランスシート総資産残高は現在 4.5 兆ドル(GDP 比 28%)に膨らんでおり、
また経済、金融市場の一部にバブル発生の兆候が出ているとも報じられる。ただ、現状それらは限定的
なものに止まっているものと考えられる。QE の終了を受け、新年度の米国経済のファンダメンタルは堅
調な成長率、ゼロ金利脱出、経常収支改善、など正常化に向けての動きを強めることになろう。こうし
た展望の下で、グローバルな資金フローは米国回帰をさらに強める可能性が高く、2015 年も米ドルの上
昇トレンド持続を予想させる客観的条件が多い。
2)停滞感強まる欧州経済
他方、域内格差拡大や慢性的高失業など構造問題を抱えるユーロ圏経済は、マネタリーベースの縮小
が続いており、財政・金融政策両面での手詰まり感もあって停滞状況が長引いている。しかも、ロシア・
ウクライナ情勢の悪化に伴う対ロ経済制裁、報復逆制裁などの応酬も加わって、これまで仏・伊・スペ
イン等とは別格な強靭さを誇ってきたドイツ経済にも負の影響が波及、ユーロ圏全体の景気下振れリス
クが一層強まりつつある。
域内の直近の失業率は 11.5%で高止まり、物価上昇率は 0.3-0.4%と 1%以下に留まる。こうしたデフレ
的状況持続の中、ECB は域内銀行の資産査定による銀行の健全性への信認回復など、銀行の貸し渋り改
善に向けた対応に動いている。また、ECB は遅ればせながら来年初めには幾つかのハードルを乗り越え、
国債買い入れを含むバランスシート拡大に踏込む量的緩和(QE)を打ち出すと見られている。
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しかし、域内での諸政策を巡る合意形成の困難性は高く、全体として「日本の失われた 10 年」で経験
したような流動性トラップ(罠)
・低成長、デフレ不況に陥るリスクは依然として高いと見る向きは多い。
ユーロの対ドル価値の下落傾向やマクロ景気の停滞状況は持続する公算は大と考えられる。
3)デフレ状況脱出から回復軌道乗せを期す日本経済
4 月の消費増税に伴う駆け込み需要の反動で落ち込んだ消費支出は、その後緩やかな回復プロセスを歩
んできたものの、8 月以降台風などの天候不順も重なって、回復ペースは失速を余儀なくされる状況に置
かれている。10 月 31 日に発表された量的金融緩和追加策は、こうした需要の腰の弱さが「デフレからの
脱却」を危うくさせかねないリスクに対し、日銀がサプライズ的に先手を打ったものと言える。事実、
株式市場、為替市場はこの意表を突いた決定にポジティブに反応し、円安/ドル高、株高が高進したこと
は、この追加策がもたらす日本経済への下支え効果への期待を織り込んだものと判断される。
その後発表された 7-9 月期実質 GDP は速報で-1.6%(前期比年率)と予想を大きく下回る成長率となり、
結局は消費税率引上げ時期の 1 年半の延期に加え衆院解散・総選挙の実施という思わぬ展開となった。
当然、一年半後の引上げを公約したとは言え、財政健全化目標達成の道筋へのクレディビリティは低下
することにならざるを得ない。ただ、先の日銀の国債買入れ策の拡大(年間 80 兆円まで)策もあって、こ
こ暫くはこれが長期金利急上昇につながるといった事態は想定する必要はないと見られる。
市場では総選挙の帰結及びその後の政権運営の安定性が耳目を集めることになるが、市場・内外投資
家の最大の関心事は、通貨安や日銀の異次元緩和策の継続といったバックアップを受け長期金利が相対
的に安定している「借りた時間」の中で、安倍政権が第三の矢、すなわち成長促進のための構造改革政
策(法人税制、労働、TPP、規制緩和、エネルギー)面で真のブレークスルーにどれだけ踏み込めるか、
であることは論を待たない。
4)逆風に晒される新興国経済
前述のように米国ドルが強い基調を保つ公算が大きいことは、必然的に商品市況への下落圧力が続く
ことを意味する。資金フロー面でも、直接投資、証券投資は米国に回帰しやすく、QE 時とは逆に新興国
経済は資金流出・金利上昇・通貨下落圧力に直面する可能性が高い。これらは対処法を誤ると、新興国
経済の成長率急減速、インフレ高進、銀行の不良債権の増加など大きな負の影響を及ばすことにつなが
りかねない。
もう一つ無視できない重要なポイントは、近年中国との資源貿易・相互依存関係の拡大を成長のバネ
にしてきた新興国が多いこともあって、中国経済の停滞が長引くと輸出に大きな影響が及ぶ構造になっ
ている点である。もともと中国経済は慢性的な製造業の能力過剰状況が根底にあり、これに不動産・住
宅価格の下落、シャドーバンクによる不良債権、腐敗防止・綱紀粛正キャンペーン下での心理的委縮、
されには悪化する環境問題など、多くの構造的要因が重なっている。いずれも、その問題の根は深く解
決に時間を要するものばかりである。
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さらに先述の地政学的なリスクの高まりが、リスクに敏感な資金を新興国経済から遠ざける作用を及
ぼすという側面もある。米ドルの上昇ピッチや原油価格の下落ペースの速さによっては、新興経済国の
中でも脆弱な環を形成する中南米、欧州の一部の国などで金融危機に陥るケースがあり得るというリス
クも念頭に置いたほうが良いかも知れない。
3. 新年度資産配分に際してのキーファクター
こうした環境認識を受け、新年度の具体的な資産配分戦略をどう考えるべきだろうか。大局的な観点
からそのポイントを要約してみよう。
① 米国・・<量的緩和終了、次はゼロ金利脱却へ。ドル高基調は持続>
 基本的な景気回復軌道が維持され、来年央以降のゼロ金利からの脱却を視野に経済正常化に向け
ての歩みが続く。
 この米国経済の復調と欧州・日本経済の足踏み状況という景気の方向性の違いが際立つ中、資金
は金利差拡大、経常収支改善と相まって、米国回帰を強めドルは上昇基調を維持する公算が大。
 米国株式市場は企業収益の好調、M&A の活況などを主因に堅調持続の可能性大。
② 欧州・・<景気低迷状況が続き、ユーロは低下圧力が持続>
 ユーロ圏経済は構造調整が長引き、停滞からの脱出は当分の間困難な情勢。
 これにはロシア・ウクライナ問題が袋小路に入り解決への道筋が見えない状況に陥っていること
も暗い影を落としている。
 堅調を維持してきたドイツ経済も、ウクライナ問題や中国経済の減速の影響を免れ得ず減速傾向
を強めている。欧州全体の「日本化」懸念が高まっている。
③ 日本・・<景気回復基調は続くも道のりは凹凸、円安基調が続き株価を下支え>
 新年度はアベノミクス第三の矢の真贋が問われる年になる公算が大。日銀による量的緩和は持続
し、円の下落傾向は当面続く公算が大きい。ただ、120 円という水準を大きく超えるような円ドル
レートは、米国の現状での許容上限の領域に接近しているものと考えられ、米国議会での批判的
スタンスが強まる可能性に留意すべきであろう。
 円安傾向や企業収益拡大を背景に東京株式市場の基本的な上昇トレンドは維持される可能性が高
い。
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④ 新興経済国・・<資金フローの流出傾向の下、想定外のリスクに直面する国も>
 ドル高傾向持続、資金フローの米国回帰が進む中、中国経済の調整深化や商品市況の反落、地政
学リスクの高まりを受けてのリスクオフ傾向、等により新興国経済には下押し圧力がかかり続け
る公算が大。為替の下落、金利上昇、インフレ高進、株価の調整などで想定外のリスクに直面す
る新興経済国が出る可能性も視野に入れるべき。
4. 2015 年度に向けての資産配分への基本的アプローチ
こうした点を踏まえて、2015 年の資産配分の方向性をまとめると以下のようになろう。
1) グローバル投資家の米国証券への選好が強まることが予想される。特に期前半は金利上昇期待を
織り込む展開の下で、債券よりは米国株式への選好が優勢とみられる。また米財務省証券では長
期債券から中短期債券へのシフトが進むことになろう。米国株式は一部で過熱状況のセクターも
見られるが、潜在成長力の高い有望企業への投資機会提供という意味で市場全体の魅力度は依然
高い。
2) 米国の金利動向に関しては、時期はともかく政策金利の引き上げは不可避だが、欧州・新興国の
弱い景気実態やドル高の進展、石油価格低下/インフレ予想低下などを勘案すれば、米国債券利回
りが一方向的かつ持続的に上昇する展開は考えにくい。10 年債でみて 2.0%~3.0%(現在 2.2%)の
レンジでの動きを予想する。年度を通して金利水準の動きとレンジをにらみつつ機動的に配分比
率を変化させる運用スタンスが求められよう。
3) 株式では米国のみならず、日本株式もグローバルな資金フローの受け手になりうる可能性を有し
ている。外国人投資家のアベノミクス第三の矢への期待感そのものは薄らぎつつあるが、円安基
調の持続や企業収益の好調維持、GPIF の資産配分の変更方針などが市場のプラス要因として働い
ている。12 月半ばの衆院選挙後の政局安定化に加え、税制改革や TPP などの構造改革面などで大
きな進展があれば、東京市場の上昇ポテンシャルはさらに上方修正される可能性があろう。
4) 一方、日本の債券投資に関しては、10 年国債利回りが 0.4%まで低下していることや前述の米金利
の方向感からしても、基本的にアンダーウェイトの方針を維持することが得策と考えられる。他
方、米国を除く世界景気、特に欧州・新興国の景気の停滞状況が続くと予想される環境下では、
日本の長期金利が大幅かつ持続的に上昇に転じるという事態も想定しにくい。米国債同様に一定
ゾーン内での動きになる可能性が大きいと見られ、現在の 0.4%水準を底にして 1.2%前後までの
間でより機動的な運用スタンスで臨むことが賢明であろう。
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5) 経済停滞が続くユーロ圏では、2015 年初から ECB による QE(量的緩和策)が導入される見込み
である。低金利状況は継続しドル高/ユーロ安が継続する公算が大きい。もっとも、欧州債券は当
面価格堅調(金利低下)持続が予想されるものの、利回り水準は 0.7%(ドイツ 10 年国債)と低
下余地が限定的なレベルになりつつある。ユーロの下落の可能性が大きいことを考えれば、欧州
債券への配分は慎重に臨むべきであろう。
6) ドル高傾向、資金フローの米国回帰が持続しかつ地政学リスクが高まる中、新興経済国への投資
はリスクが大きくなりつつある。その配分ウェイトは基本アンダーウェイトの方針で臨むべきと
考える。10 月の米国 QE 終了が意味するところは、これまでの量的緩和下での「ドル安、商品市
況高騰、グローバル資金流入による景気浮揚」といった新興国を巡る基本図式は根底から変化し
たということであろう。
7) なお、為替要因を除去したヘッジ付外債は、外債投資の収益率を下回る公算が大きいものの、米
国長期金利、欧州・日本の長期金利の方向感の違いもあってリスクの分散効果が見込め、2015 年
も一定の投資価値が発揮されるものと判断される。
5. まとめに代えて
以上、2015 年度の運用環境は、過去 6 年に及ぶ米国の量的金融緩和策が転換する大きな節目の最初の
年にあたる。米国経済が病み上がり状態から次第に健全性を取り戻しつつある中、投資家はゼロ政策金
利が 2015 年央頃までに引き上げられる方向を視野に入れた新しいパラダイム下の運用を考える年となる。
全体的には株式の魅力度が債券を上回る年と言えようが、その株式では米国株式、日本株式がオーバ
ーウェイト、欧州・新興国株式のアンダーウェイトという戦略が妥当と判断する。そして債券では、全
体ではアンダーウェイトとはいえ、その中ではドル高傾向を念頭に入れ、米国の中短期債券の配分比率
の増加(長期債の比率減少)、欧州では短期債券の配分比率減少(長期債は中立)といった組み合わせが
得策とみられる。
直面する地政学的リスクの収束方向は見えない現状では、これが想定外の展開、すなわちテールリス
クに発展する可能性を過小評価するのは危険である。したがって短期的なポートフォリオの運用状況の
改善に慢心することなく、運用の基本に立ち戻って、基金のそれぞれの負債サイドの事情を反映した政
策アセットミックス比率へのリバランスをきちんと行うスタンスは堅持すべきであろう。
(註:本稿は筆者個人の見解に基づいたものであり、所属する法人の見解を示すものではありません。
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