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ナフタリン [概要] かつては、防虫剤といえばナフタリンが大半だったが
ナフタリン [概要] かつては、防虫剤といえばナフタリンが大半だったが、最近ではパラジクロ ルベンゼン製剤が使用されることが多い。防虫剤はすべてナフタリンと思い込 んでいる人が少なくない。 [毒性] 小児経口最小致死量 :100mg/kg ヒト推定経口最小致死量:2g (7)(8) (7) (正常成人致死量は 5~15g と推定されるが、glucose-6-phosphate dehydrogenase 欠乏の小児では 250~500mg で毒性発現、固体差は大) [症状] 循環器 :頻脈、ときに心雑音 神経系 :頭痛、めまい、失神、痙攣、昏睡 消化器系:嘔気、嘔吐、食思不良、下痢、腹痛(経口摂取後 48 時間まで 発症する可能性あり) 肝毒性 :まれに黄疸、肝腫(新生児では核黄疸による致死率が高い)、 高ビリルビン血症(新生児では毒性が強く発現する可能性あり) 腎毒性 :尿意頻迫、排尿障害、タンパクや円柱を含む暗褐色尿の排泄 ヘモグロビン尿、腎障害 その他 :顔面紅潮、発熱、溶血性貧血、メトヘモグロビン血症 皮膚接触:表皮剥離性接触皮膚炎 眼に蒸気暴露時:視神経炎、角膜損傷 [処置] 1)は家庭で可能な処置、 2)は医療機関での処置 経口:1)催吐 2)胃洗浄等基本的処置および対症療法 吸入:1)新鮮な空気下に移す 2)対症療法 眼に入った場合:1)大量の微温湯で少なくとも 15 分以上洗浄 2)化学物質による角膜損傷の一般的処置 経皮:付着部分を石鹸と水で完全に洗浄。汚染された衣服は廃棄 対症療法 [確認事項] 1)商品名、成分:現在、本邦に市販されている防虫剤の大半はパラジクロ ルベンゼンであるが、防虫剤はナフタリンと思い込んでいるヒトが 多いので、商品名または成分を正確に確認。不明の場合は資料の項 の鑑別法を参照 2)摂取量:実際に摂取した量、または手でさわっていたのか、その状態を 確認 3)患者の状態:嘔吐の有無、その他普段と違った点がないか等を確認 [情報提供時の要点] 1)少しなめた程度なら、水を飲ませて様子をみる(牛乳は不可) 2)たべてしまったら、水を飲ませて吐かせてから受診を指示 3)眼に入ったり、皮膚に触れた場合、家庭で可能な処置を行っても刺激感 や疼痛が残るようならば受診を指示 [注意] ナフタリンの吸収は油性の食物をとったときや、油を塗った皮膚では吸収 が促進されるため、摂取後 2~3 時間は牛乳および油性の食物は避けさ せる [体内動態] 吸収:ナフタリン防虫剤とともに保存されていた衣服やおしめを身につ け、肌にオイルを塗られた小児での致死的中毒例あり 代謝:肝臓でα-ナフトール、α-ナフトキノン、β-ナフトキノンに代謝 排泄:経口摂取後ナフトールやグルクロン酸抱合体として尿中に排泄 [中毒学的薬理作用] 溶血作用、腎・膀胱障害作用 [治療上の注意点] 1)一般的初期治療の他に、溶血に対する治療が中心。溶血は遅発性であるか ら、初回検査で異常がなくとも 5 日間程度の観察が必要 2)防虫剤を丸ごと飲み込んだときは、胃チューブを通過しないので催吐の方 が良いかも知れない。食道にひっかかっている場合は、Foley バルーンカ テーテルで吊り上げ除去を試みる 3)下剤にヒマシ油を用いるのは禁忌 4)溶血の兆候が少しでもある場合はアルカリ化強制利尿を行う 5)重症時には、血液透析や交換輸血が適応 [その他] 鑑別法:商品名が不明な防虫剤の場合は小片の比重の差を利用し、次のよ うに鑑別する カンフル:0.99、ナフタリン:1.152、パラジクロルベンゼン:1.5 防虫剤を水に入れる:浮く→カンフル :沈む・・・飽和食塩水:浮く→ナフタリン に入れる :沈む→パラジクロルベンゼン (比重 1.36) 飽和食塩水:コップに水を入れ、食塩が底に沈む位大量に溶かす(コップ半 分(100mL)の水に大匙 3 杯位) [参考文献] (1)Poisindex(1988) (2)Clinical Toxicology of Commercial Products(1984) (3)産業中毒便覧(1981) (4)内藤裕史:中外医薬、37:11~12、1984 (5)救急中毒マニュアル(1984) (6)RTECS(1997) (7)Poisindex(2008) (8)RTECS(2008)