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「超臨界流体利用環境負荷低減技術研究開発」 「超臨界流体利用環境
第2回「超臨界流体利用環境負荷低減技術研究開発」 (中間評価)分科会 資料 1 「超臨界流体利用環境負荷低減技術研究開発」 中間評価報告書(案) 平成14年6月 新エネルギー・産業技術総合開発機構、産業技術総合研究所 技術評価委員会 「超臨界流体利用環境負荷低減技術研究開発」 (中間評価)技術評価分科会 はじめに 近年、地球環境保全の観点から、エネルギー及び有機溶媒多消費型の既存化学プロ セスを置き換えるための、省エネルギー・省資源で環境への負荷が少ない化学プロセ スの開発が必要不可欠となっている。これらを実現するためには、「液体に匹敵する 大きな溶解力」と「気体並の高い流動性と分子エネルギー」といった、液体・気体の 両方の優れた特性を併せ持つ超臨界流体を利用した、省エネルギー・低環境負荷型の 化学プロセス技術の開発が急務となっている。 「超臨界流体利用環境負荷低減技術研究開発」プロジェクトは、化学工業で基盤 的・中核的な役割が期待できる超臨界流体を反応溶媒とする新規プロセスの構築を目 指し、有望な新化学プロセスを想定プロセスとして設定し、プロセスを構築するため に必要な共通基盤技術開発を目的として、平成12 年度より5年間の計画で開始され、 現在に至っている。 今回の評価は中間評価として、平成14 年度に新エネルギー・産業技術総合開発機 構、産業技術総合研究所 技術評価委員会「超臨界流体利用環境負荷低減技術研究開 発」(中間評価)分科会(分科会長:長浜 邦雄、東京都立大学大学院 工学研究科 教授)において行われたものである。 本分科会では、当該分野に係わる国内外の研究開発動向や社会情勢の変化も踏まえ つつ、プロジェクトの目的・政策的位置付け、目標・計画内容、研究開発体制や運営 状況、成果の意義、実用化可能性や波及効果、今後の展開等について評価を実施した。 本書は、これらの評価結果をとりまとめたものである。 平成14 年6月 新エネルギー・産業技術総合開発機構、産業技術総合研究所 技術評価委員会 「超臨界流体利用環境負荷低減技術研究開発」 (中間評価)分科会 技術評価委員会「超臨界流体利用環境負荷低減技術研究開発 技術評価委員会「超臨界流体利用環境負荷低減技術研究開発」 超臨界流体利用環境負荷低減技術研究開発」 (中間評価)分科会委員名簿 氏名 分科会長 分科会長 代理 所属、役職 ながはま くにお 長浜 邦雄 やまさき なかみち 山崎 仲道 東北大学 さ さ き としお 佐々木 俊夫 住友化学工業株式会社 分科会委員 たなか てつじろう 田中 哲 治郎 とくだ まさお 徳田 昌生 にしかわ けいこ 西川 恵子 ふなづくり としたか 船 造 俊孝 東京都立大学 大学院 大学院 工学研究科 工学研究科 教授 教授 筑波研究所 グループマネージャ 株式会社野村総合研究所 コンサルティング部門CDP推進室 北海道大学 大学院 千葉大学 大学院 中央大学 理工学部 工学研究科 教授 自然科学研究科 応用化学科 室長 教授 教授 敬称略、五十音順 合同事務局:新エネルギー・産業技術総合開発機構技術評価部 産業技術総合研究所評価部 新エネルギー・産業技術総合開発機構、産業技術総合研究所 「超臨界流体利用環境負荷低減技術研究開発」 (中間評価)分科会 技術評価委員会 審議経過 第1回分科会(平成 14 年 4 月 25 日)10:00∼17:00 公開セッション 1.開会、資料の確認 2.分科会の公開について 3.評価の手順等について 4.評価の分担及び評価の論点等について 5.評価書の構成について 6.プロジェクトの概要 7.周辺動向調査 非公開セッション 8.プロジェクトの詳細 9.コメント、質疑応答(全体について) 第 2 回分科会(平成 14 年 6 月 28 日)13:30∼17: 00 公開セッション 1.評価の進め方について 2.実施者補足説明 3.評価書(案)の審議及び確定 目 次 はじめに 分科会委員名簿 分科会審議経過 評価概要 第1章 評価の実施方法 1.評価目的 2.評価者 3.評価対象 4.評価方法 5.評価項目、評価基準 第2章 プロジェクトの概要 1.NEDOの関与の必要性、制度への適合性 2.事業の背景・目的・位置付け 3.事業の目標 4.事業の計画内容 5.実用化、事業化の見通し 6.今後の展開 7.中間・事後評価の評価項目・評価基準、評価手法及び実施時期 8.研究開発成果 9.情勢変化への対応 10.今後の事業化の方向性 第3章 評価 1.プロジェクト全体に関する評価 1.1 総論 (1) 総合評価 (2) 今後の研究開発の方向性等に関する提言 1.2 各論 (1) 事業の目的・政策的位置付けについて (2) 研究開発マネジメントについて (3) 研究開発成果について (4) 実用化、事業化の見通しについて 2.要素技術に関する評価 2.1 有機合成プロセス技術 2.2 材料プロセッシング技術 2.3 エネルギー・物質変換技術 2.4 基礎基盤技術の開発 1-1 1-2 1-2 1-3 1-3 2-1 2-3 2-7 2-23 2-47 2-64 2-66 2-67 2-110 2-111 3333333333- 第4章 評点法による評点結果 1.経緯 2.評点法の目的 3.評点の利用 4.評点方法 5.評点結果 参考資料1 プロジェクト説明資料 参考資料2 周辺動向調査 4-1 4-1 4-1 4-1 4-3 評価概要 評価概要 (案) 1.プロジェクト全体に関する評価 1.1 総論 (1)総合評価 本プロジェクトは、新規な環境負荷低減技術として超臨界流体を用いた新技術開発 を目指したものである。基礎的研究をも含めた中長期的な基盤的技術開発として位置 付けられ、技術の体系化にも重点を置いて進められている。国・NEDO の関与の必要 性等は明確であり、超臨界流体を用いた研究・技術は、日本が先導的役割を果たせる よう進めるべきである。 研究開発の項目・テーマは、超臨界流体利用技術の広範な応用・波及の可能性を見 通して設定されている。研究開発の目標も、全体として、要素技術を体系化して基盤 技術の確立を目指すものとなっており妥当である。本プロジェクトは、概ね目標どお り進んでおり、総合的な新規プロセスに関する可能性,クローズドシステムとしての 技術の方向についての目の付け所やそれに伴う基礎研究、基盤技術の整備については 高く評価できる。また、個別テーマでも、「有機合成プロセス技術」および「基礎基 盤技術の開発」などにおいて有用で評価できる成果を上げている。 しかし、新規プロセスとしてはあまりに範囲が広くまた総花的であり,画期的で大 きな内容と個別的な小さな課題が混在している。さらに、一部の個別テーマについて は国際的な研究・技術水準と比べて、選定の重要性、達成目標水準等明確でない部分 がある。全体として、実用化の視点が少し不足している。 超臨界といっても水と炭酸ガスとメタノールではその性質と開発の方向が相当に 異なるので、その点への考慮が望まれる。また、4つの研究班間の関係をクリアにし て連携しながら開発を進めて欲しい。全体として、分光学を駆使したミクロ物性とマ クロ物性の関係や実際の反応系への解明など、これまでの成果レベルは高く、国内外 の学会への影響力もあり、数値的に表せない2次的な波及効果も大きいと評価できる。 超臨界水中での各種プロセス技術の開発では、安定的に操業できる安価な材質の開発 が極めて重要であり、これらに関する研究成果も期待する。 (2)今後の研究開発の方向性等に関する提言 本プロジェクトは、全体としては産業基盤技術の強化に対する多大な貢献が期待で き、この分野の研究開発で世界をリードするレベルと厚みを創り出していくことが期 待される。しかし研究・技術開発の内容については、以下の点で検討が必要である。 材料プロセッシング技術および、超臨界水を用いるエネルギー・物質変換技術につ いては、テーマの絞り込みも含めて種々の点から見直しが必要と思われる。 基礎基盤技術開発にもっと勢力をかけ、他グループとさらに密な連携体制をとると 良い。「共通基盤技術技術の確立」は技術分野によっては難しいものもある。そのた めあまり「共通」にこだわることなく、プロジェクトを進めたほうがよい。非常に基 礎的な分野では、プロジェクト外の研究グループが様々な高水準の研究成果を出して いる。こうした成果を如何に取り入れ、実用化するための橋渡し的役割の中に如何に 1 取り込むかを具体的に考えるべきである。 有機合成,材料プロセッシング,エネルギー・物質転換技術の3分野でのそれぞれ の成果については、実用化への距離、規模、開発の展開動向に濃淡がありすぎるよう に見受けられるので、良く検討されることを望む。 1.2 各論 (1)事業の目的・政策的位置付けについて このプロジェクトの目的である超臨界流体利用技術開発は、国の重要な政策である 省資源、省エネルギー、環境負荷低減技術の開発につながる可能性が高く、十分妥当 なものである。しかし、まったくの新規プロセスであるために実用化への距離が長い ものが多く、民間の活動のみでは実現が困難であり、我が国のこの分野における国際 競争力を保つためにも国の関与が必要である。米国などでは超臨界水の実用化の面で 撤退する動きがあると聞くが、ナショナルプロジェクトとしての責任から、また日本 が先導的役割を担うべく、是非進めるべきである。 幅広い分野で利用できると期待される共通基盤技術を確立することを事業目的と している点は良いが、実際に行っている開発・研究の内容は、その目的を果たすこと ができないと考えられるもの、共通性を見出すことがそれほど簡単ではない分野もあ る。これらを考慮して、目的を少し見直したほうがよいとも思われる。市場性を考え た場合、実用化への距離が遠いか、まだ将来への可能性のみを模索している段階であ るかのように見受けられる分野も多い。超臨界水の応用展開としては、対象の整理が 必要であるように思える。 提案されている課題には生産プロセスの合理化やコスト削減の課題が多く含まれ、 新規プロセスや新規物質の合成を重視しているとは判断しにくい。開発中に発見した 新規現象あるいは新規アイディアの発表や報告がないことも多少問題である。超臨界 流体として二酸化炭素、水、メタノールに限定せず、少量の有機溶媒との超臨界混合 溶媒に範囲を拡大してもよいのではないか。有機化合物の溶解度が上がり可能性は著 しく拡大すると予想できる。また、経済性評価の際、従来の経済性の指標だけでなく、 環境経済からの視点も必要である。 (2)研究開発マネジメントについて 本プロジェクトの主たる目的は、基盤的プロセス技術の確立にあるため、初期段階 における可能性あるいは基本的な原理の解明・基本的なプロセス設計のための最適条 件探査などの目標についてはおおむね妥当である。研究開発実施者の選定に関しては、 超臨界流体の研究分野では国内でトップクラスの研究機関が選定されている。1.5 年 の経過で、十分な判断はできないが、計画と比較した達成度はおおむね良好と思われ る。全体の企画・運営の指導・統括に関わる業務委員会と総合調査研究委員会、実施 面での運営・管理に関わるグループごとの分科会と研究プロジェクト推進WGなどの 会議体構成は妥当である。しかし、一方では事業体制が分かりにくく、実施者の選定 方法も不明であるとの指摘もある。 2 実用化のための情報の整理あるいは原料から製品までの流れをつくるシステム的 な開発計画などに具体性が乏しい。つまり実用化への民間の熱意が感じられない。産 総研・大学などの基盤技術開発の体制は妥当であるが、企業の選定あるいは企業から 単に出向するシステムの今後に不安が残る。開発担当者の相互訪問や討論はなされて いるだろうか。研究開発実施者の運営では、単に区分けして分担開発したものの寄せ 集めになっていないか。産学官連携によって集中的・効率的に事業を推進するとして いるが、十分に連携が取られて進められているか明解でないところがある。他班との 連携、特に第1班と4班、2班と4班の連携は重要である。 各領域での開発に関する自己評価が徹底していない。まずかった点・失敗したある いは改革すべき点と改革・改良した点などの報告があまり見られない。 (3)研究開発成果について 2年弱の間の成果として、ある程度の目標達成は評価できる。学術的な成果につい てはグループ間でばらつきがあるが概ね十分に成果が出ている。グループ間で差異が あるが学会発表、論文発表などについては概ね十分である。超臨界水中の有機合成プ ロセスに関する研究では、非常に優れた世界的レベルの成果が上げられている。装置 材料の腐食のデータベースや、高圧酸素等のガス供給に係わる安全性等の工学基盤技 術開発は、産業界に及ぼす波及効果が大きい。本プロジェクトは、関連分野の国際的 な先端研究開発を牽引する役割を果たしていると評価できる。今後、一層の成果発 表・情報発信の増加を期待する。 世界のレベルから見て、トップレベルの要素技術は現在では化学工学的な基礎基盤 技術と有機合成の内容に偏っており、これらの技術開発では十分に発表もなされてい るが、材料プロセッシング、エネルギー・物質変換プロセスの開発との成果の差が大 きい。特許申請はあまりないようであるが、もっと申請できるような技術開発が望ま れる。現時点でのコストダウンを図る段階のテーマは少ないが、それを推進するため に反応速度を高め、効率化を図る目標設定も必要である。プラント開発のための流体 力学や材料力学、破壊力学などの要素技術が今後必要であると考えられる。装置・プ ロセス条件の構築方法、in situ の測定法・生成物同定法およびプロセス条件・反応 挙動の評価法を含め、今後一層技術標準化に注力することを期待したい。研究開発成 果の利用・適用の促進、シーズ・ニーズ両面でのアイディアの取り込み、成果情報の 効果的な普及・広報、基盤技術データの知的資産共有化のため、プロジェクトホーム ページ(WEB サイト)を構築し、情報発信、情報交流していくことを提言する。 派生技術、新規発見技術などが見受けられない。開発の場合には派生技術が本来の 目的を凌駕することが多く、また新規商品は派生技術の中に重要なものがある。特に リーダーは新規現象に目を配らねばならない。世界最高水準の成果もいくつか出てい るが、基礎分野であり、実用性、実現性にはまだ多くの問題がある。こうした成果を 実用化にむけた視点でとらえる必要がある。 (4)実用化、事業化の見通しについて 産業化の可能性については、基本的な見通しについて明確に表現されている。波及 効果では、方法としての新規性と展開については無数の応用が考えられ、成果の公表 3 によって数多くの新規起業の可能性があり得る。事業化までのシナリオでは、基盤技 術までのシナリオは十分に描かれている。 将来的に実用化に向かうと思われるシーズは生まれてきている。共通基礎基盤技術 の確立やデータベースの構築などの地味な成果が今後波及効果を生み、実用化する場 合においても重要な指針を与えるだろうと予想している。 基盤技術までの充実がこの中間評価の重点であり、その点では評価できるが、一方 これからの重点課題となる実用化までのシナリオについては不明瞭である。特に原理 と基盤技術から先のテストプラント・パイロットプラントそして実プラントへの逐次 的な展開が見えにくい。 今後は、テーマを絞って集中的に実用化研究を進めるべきと考える。もちろん、平 行して共通基礎基盤技術の確立やシーズ的研究も進め、相互補完的な効果が生れるよ うにすべきであろう。 微粒子・薄膜等の機能性材料、廃棄物・未利用資源・エネルギー回収に関わるテー マなどは、ニーズ強度のみでなく技術・プロセスの適用上の制約条件、利用上の仕様 限定があることが多いので、具体的な事業想定と、適用条件の実現化可能性の確認が 必要である。 実用化に近いと想定されるプロセスについて、コスト試算を含めた適用・設計条件 の概要を先行的事業モデルとして提示すれば、企業等による当該分野への早期開発参 入を促進できると考える。最終段階ではこのようなプロジェクト展開にも期待したい。 難しい研究分野であるため実用化にはまだ多くの課題がある。しかし、本プロジェク トが目指す環境低負荷の技術は、ナショナルプロジェクトとして長期的ビジョンに立 って進めるべきである。 4 第1章 評価の実施方法 第1章 評価の実施方法 本中間評価は、 「技術評価実施要領」 (平成 13 年 5 月制定、同年 10 月改定、以下「実 施要領」という。)に基づいて以下のとおり行われた。なお、 「技術評価実施要領」は、 以下の 2 つのガイドラインに定めるところによって評価を実施することになってい る。 科学技術会議にて取りまとめられた「国の研究開発評価に関する大綱的指 針」(平成13年11月内閣総理大臣決定) 経済産業省にて取りまとめられた「経済産業省技術評価指針」 (平成 14 年 4 月経済産業省告示) 技術評価をめぐる国内動向 暦 年 1994 1995 1996 科学技術基本法 政 府 法律 9403 1997 1998 中央省庁等改革基本法 9511 施行 平成14年4月現在 1999 2000 9806 施行 0101 施行 各省庁設置法 政府 9607 閣議決定 9511 大網的指針 9610 0103 閣議決定 科学技術 基本計画 (第2期) 9708 総理大臣 決定 政策評価 広報課 施行 0106 9907 公布 9806 科学技術 基本計画 2002 政策評価法 0204 9611 2001 0111 総理大臣 決定 大網的指針 経済産業省 9912 政策立案・ 告示 評価指針 9905 評価指針 9708 告示 技術評価 調査課 評価指針 (改定) 0005 告示 評価指針 (改定) 0105 告示 評価指針 (改定) 0204 告示 9903 0105 N E 技術 D 評価部 O 技術評 価実施 要領 0110 技術評 価実施 要領 (改定) NEDO技術評価部作成 1.評価目的 実施要領において、評価の目的は、 評価をする者(評価者)と評価を受ける者(被評価者)が意見交換を通 じ研究開発の意義、内容、達成状況、今後の方向性等について検討し、 より効率的・効果的な研究開発を実施していくこと、 高度かつ専門的な内容を含む研究開発の意義や内容について、一般国民 1-1 にわかりやすく開示していくこと、 限られた研究開発リソースの中で、国の政策や戦略に対応した重点分 野・課題へのリソース配分をより効率的に実施していくこと、とされて いる。 本評価においては、この趣旨を踏まえ、本事業の意義、研究開発目標・計画の妥当 性、計画と比較した達成度、成果の意義、成果の実用化の可能性等について検討・評 価した。 2.評価者 実施要領においては、事業の目的や態様に即した外部の専門家、有識者からなる委 員会方式により評価を行うこととされているとともに、評価委員選定に当たっては以 下の事項に配慮した選定を行うこととされている。 科学技術全般に知見のある専門家、有識者 当該研究開発の分野の知見を有する専門家 研究開発マネジメントの専門家、経済学、環境問題その他社会的ニーズ 関連の専門家、有識者 産業界の専門家、有識者 また、評価に対する中立性確保の観点から事業の推進側関係者を選任対象から除外 し、また、事前評価の妥当性を判断するとの側面にかんがみ、事前評価に関与してい ない者を主体とすることとしている。 これらに基づき、分科会委員名簿にある7名が選任された。 なお、本評価委員会の事務局については、新エネルギー・産業技術総合開発機構技 術評価部評価業務課と産業技術総合研究所評価部が担当した。 3.評価対象 平成 12 年度から平成 16 年度までの計画で実施されている「超臨界流体利用環境負 荷低減技術研究開発」プロジェクトを評価対象とした。 なお、分科会においては、当該事業の推進部室(新エネルギー・産業技術総合開発 機構 新材料・プロセス技術開発室)及び以下の研究実施者から提出された事業原簿、 プロジェクトの内容、成果に関する資料をもって評価した。 研究実施者:財団法人 化学技術戦略推進機構 東京大学(幸田教授) 東京工業大学(碇屋教授) 東北大学(猪股教授) 静岡大学(佐古教授) 1-2 九州大学(荒井教授) 近畿大学(相田教授) 独立行政法人産業技術総合研究所 超臨界流体研究センター 環境調和技術研究部門 物質プロセス技術研究部門 4.評価方法 分科会において、当該事業の推進部室及び研究実施者によるプレゼンテーション、 それらに関するヒアリングと議論を行い、その後、評価委員による評価コメント作成、 評点法による評価を、推進側ならびに実施者側との議論を踏まえて実施、評価作業を 進めた。 なお、評価の透明性確保の観点から、知的財産保護の上で支障が生じると認められ る場合等を除き、原則として、評価委員会は公開とし、研究実施者と意見を交換する 形で審議を行うこととした。 5.評価項目、評価基準 本分科会においては、次に掲げる「標準的評価項目・評価基準」(平成 14 年 4 月 9 日、第3回NEDO技術評価委員会)に準じ、大きく事業全体及び研究開発項目別に 分けて評価を行った。事業全体に係わる評価においては、主に事業の目的、計画、運 営、達成度、成果の意義や実用化への見通し等について、評価を行った。各研究開発 項目に係る評価については、主にその技術的達成度、実用化の見通し等について評価 を行った。 1-3 評価項目・評価基準 【本標準的項目・基準の位置付け(基本的考え方)】 本項目・基準は、あくまでも標準的な評価の視点の例であり、各分科会におけ る評価項目・評価基準は、被評価プロジェクトの性格、中間・事後評価の別等に 応じて、各分科会において判断すべきものである。 なお、短期間(3年以下)又は少額(予算総額5億円以下)のプロジェクトに 係る事後評価については、以下の「3.」及び「4.」を主たる視点として、より 簡素な評価項目・評価基準を別途設定して評価をすることができるものとする。 1.事業の目的・政策的位置付けについて (1)NEDO(国)の事業としての妥当性 単独で立ち上げる事業については、以下の項目により評価することとする。な お、特定のプログラム制度(研究開発制度)の下で実施する事業の場合、以下の 項目を参照しつつ当該制度の選定基準等への適合性を問うこととする。【注1】 ・「市場の失敗」 (行政改革委員会「行政関与の在り方に関する基準」 (平成 8 年 12 月)参照)に該当しているか。しない場合、民間活動のみでは改善できな いこと、公共性の高いことが説明されているか。その際、当該事業に必要な資 金規模や研究開発期間、民間企業の資金能力等は示されているか。 ・他の類似事業や関連技術動向を踏まえ、NEDO(国)の関与がなかった場合 (放置した場合)と比較して、NEDO(国)が関与することの優位性がより 高いものであるか。 ・当該政策目的の達成に当たって当該事業を実施することによりもたらされる政 策効果が、投じた政策資源との比較において効率的・効果的であるか(費用対 効果はどうか)。(知的基盤・標準整備等のための研究開発の場合を除く) (2)事業目的・政策的位置付けの妥当性 ・評価時点或いは事業開始時点の時代背景認識から見て、事業の目的は妥当で、 政策的位置付けは明確か。 ・政策課題(問題)の解決に十分資するものであるか。 ・国としての国際競争力に資するものであるか。 2.研究開発マネジメントについて (1)研究開発目標の妥当性 ・目標達成のために、具体的かつ明確な開発目標、目標水準を設定しているか。 ・目標達成度を測定・判断するための適切な指標が設定されているか。 ・費用対効果分析が適切に行われているか。(エネルギー特別会計を使用してい る場合には、費用対効果分析を踏まえ定量的なエネルギー政策上の目標が立て られているか。) (2)研究開発計画の妥当性 ・目標達成のために妥当なスケジュール、予算(各個別研究テーマ毎の配分を 含む)となっているか。 1-4 ・目標達成に必要な要素技術を過不足なく取り上げているか。 ・研究開発フローにおける要素技術間の関係、順序は適切か。 (3)研究開発実施者の事業体制の妥当性 ・目標を達成する上で、事業体制は適切なものか。 ・各研究開発実施者の選定等は適切に行われたか。 ・関係者間の連携/競争が十分行われるような体制となっているか。 (4)研究開発実施者の運営の妥当性 ・意思決定、進捗状況、計画見直し等の検討が適切に行われているか。 ・プロジェクトリーダー(サブテーマのリーダーを含む)が有効に機能してい るか。 ・プロジェクト開始後の情勢変化(目標未達が明らかになった場合を含む)へ の対応は適切であったか。 (5)情勢変化への対応の妥当性 ・技術動向や社会・市場ニーズの変化等に対応して、計画を適切に見直したか。 ・計画の見直しに当たっては、時代背景の変化を考慮していたか。 3.研究開発成果について (1)計画と比較した目標の達成度 ・成果は目標値をクリアしているか。 ・全体としての目標達成はどの程度か。 ・立案時点または計画見直し時点の時代背景認識から見て、事業は研究開発と して成功したといえるか。また、評価時の時代背景から見てどうか。 (2)要素技術から見た成果の意義 ・世界最高水準、世界で初めて、又は国際水準から見て優れた成果があるか。 (ある場合は、その根拠及びインパクトが明確に説明されているか。) ・新たな技術領域を開拓するような成果の独創性が認められるか。 (認められる場合は、新たな技術領域の内容、その根拠、規模及び発展性はど うか。) ・新たな市場創造につながるような新規性、先進性が認められるか。 (認められる場合は、新たな市場の内容、その根拠及び発展性はどうか。) ・汎用性のある(応用分野の広い)技術が開発されているか。 ・当初想定していなかったような成果(派生技術等)はあるか。 ・将来の時代背景の変化により、重要性の増すあるいは減る成果はどのような ものか。 (3)成果の普及、広報 ・論文の発表は、質・量ともに十分か。 ・特許は適切に取得されているか。 ・基本特許が的確に取得されているか。 ・特許性は十分あると判断されるか。 1-5 ・外国特許が適切に出願されているか。 ・必要に応じ、成果の規格化に向けた対応が取られているか。 ・広報は一般向けを含め十分に行われているか。 (4)成果の公共性【注2】 ・成果の公共性を担保するための措置、あるいは普及方策を講じているのか。 (JIS 化、国際規格化等に向けた対応は図られているか、一般向け広報は積極 的になされているか等) 4.実用化、事業化の見通しについて (1)成果の実用化可能性 ・産業技術としての見極め(適用可能性の明確化)ができているか。 ・公共財としての需要が実際にあるか。見込みはあるか。 ・公共性は実際にあるか。見込みはあるか。 (2)波及効果 ・成果は関連分野へのインパクトを期待できるものか。 ・当初想定していなかった波及的な成果はあるのか。 ・プロジェクトの実施自体が当該分野の研究開発を促進するなどの波及効果を 生じているか。 (3)事業化までのシナリオ ・コストダウン、導入普及、事業化までの期間、事業化とそれに伴う経済効果 等の見通しは立っているか。 【注1】 : 「必要性」の観点からの評価は、政策効果からみて、対象とする政策に係る 行政目的が国民や社会のニーズ又はより上位の行政目的に照らして妥当性 を有しているか、行政関与の在り方からみて当該政策を行政が担う必要が あるか等を明らかにすることにより行うものとする。 (政策評価に関する基 本方針(閣議決定平成 13 年 12 月)参照) 【注2】:知的基盤・標準整備等のための研究開発のみ。 【全体注】:評価においては、プロジェクトに対する提言を含めて検討を実施するも のとする。 1-6 (参考資料) 政策立案・評価ガイドライン(抜粋) (平成 11 年 12 月経済産業省策定) IV.評価事項 1.事前評価 (1) 施策・制度の必要性[どのような問題が存在するのか、なぜその問題を改善する上で行政の関 与が必要なのか] 民間活動のみでは改善できない問題であって、かつ、行政が関与することにより改善できるも のが存在することを論証しなければならない。 行政の関与の必要性については、 「市場の失敗 市場の失敗」 「市 市 市場の失敗 と関連付けて説明すべきことを原則とする。 場の失敗」については以下に概念を示すが、より詳しくは、行政改革委員会「行政関与の在り方 場の失敗 に関する基準」 (平成 8 年 12 月 16 日)の「行政関与の可否に関する基準」による。 行政関与の必要性の説明として、 「市場の失敗」 市場の失敗 に該当しないものも許容するが、その場合には、 上述した問題の存在することの説明や公共性が高いことの根拠はできる限り客観的に明らかにし なければならない。 <市場の失敗 市場の失敗>…行政改革委員会「行政関与の在り方に関する基準」 (平成 8 年 12 月)による 市場の失敗 (a) 公共財的性格を持つ財・サービスの供給(経済安全保障、市場の整備、情報の生産、 文化的価値を含む) 複数の人が同時に消費できたり、対価の支払いなしに(まま)消費を制限することが 困難である財・サービスのことをいう。 例:市場ルールの形成 (b) 外部性 ある個人・企業の活動が、市場を経ずに他の個人・企業の経営環境に影響すること をいう。好ましいものを正の外部性、好ましくないものを負の外部性という。 例:負の外部性の例として地球環境問題(正の外部性については、解釈に幅があると される) (c) 市場の不完全性 不確実性や情報の偏在(財や価格について取引の当事者間で情報量にばらつきがあ ること)などがあるために市場取引が成立しないこと。 例:技術開発(不確実性) 、製品事故(情報の偏在) (d) 独占力 独占力は、一般には、市場におけるマーケット・シェアやライバル企業と異なる品 質の製品を提供することによって生まれる価格設定力である。市場参加者が大きな独 占力を持っている場合には、行政の関与が許容される場合があるとされる。 (e) 自然独占 平均生産費が、市場で需要される産出量を超えても逓減するため、新規参入が利潤 をもたらさず、また 1 社だけ存在することが効率的になるため生ずる独占のことをい う。 (f) 公平の確保 公平の確保を図るための施策については、機会の均等を図ることを第一とし、事後 的な公平については、所得・資産の多寡を基準とした再分配に原則として限定し、そ れ以外の施策からは原則として撤退する、とされている。 1-7 第2章 プロジェクトの概要 当該事業の推進部室及び研究実施者から提出された事業原簿をもって、当該プロジ ェクトの概要とする。 [超臨界流体利用環境負荷低減技術研究開発] 事 業 原 簿 作成者 作成時期 新エネルギー・産業技術総合開発機構 新材料・プロセス技術開発室、 産業技術総合研究所超臨界流体研究セ ンター、同環境調和技術研究部門、同 物質プロセス研究部門 平成14年3月1日 0.概要 制度名 産業科学技術研究開発制度 事業名 超臨界流体利用環境負荷低減技術研究開発 本事業は、超臨界流体の特性を利用することにより革新が期待される有機合成プロセ ス技術、材料プロセッシング技術、エネルギー・物質変換技術分野において幾つかの 事業の概要 代表的プロセスを設定し、それらプロセスの開発を通して実用化に資する共通基盤技 術の構築を行う。 次世代産業技術として基盤的・中核的な役割が期待できる共通基盤技術の構築は非市 場事業であり、国として推進すべきテーマであることは勿論、超臨界流体中での未知 1.国の関与の必要 現象の発見と解明から実用化までを視野に入れ、汎用性・波及性の高い共通基盤技術 性・制度への適合性 を構築しようとする事業は世界においても類がなく、わが国の産業競争力の強化等に 大きく寄与するものである。 水や CO2の超臨界場における種々の現象を用いることにより、製造工程の短縮と生産 性の向上、有機溶媒や酸、アルカリ等の薬剤の大幅な削減、廃棄物や未利用資源の有 2.事業の背景・目 効利用等、省エネルギー、省資源、環境負荷低減が期待される。 的・位置付け 本事業は科学的成果と産業技術を融合し、シーズとニーズを有機的に結びつけること により実用化を加速し、真に汎用性・波及性の高い共通基盤技術の構築を目的とし、 次世代産業プロセスの開発拠点形成の重要な核の一つとして位置付けられる。 3.事業の目標 超臨界流体中での未知現象の発見・解明・実用化を支援しうる共通基盤技術の構築。 H16fy 4.事業の計画内容 H14fy H15fy 総額 H12fy H13fy (未定) (単位:百万円) (未定) (5年間) 石特(補助or 継続) 985 1,300 1,300 総予算額(計) 1,300 1,300 985 産業技術環境局研究開発課 製造産業局化学課 運営機関 新エネルギー・産業技術総合開発機構 NEDO委託先 (財)化学技術戦略推進機構 研究開発体制 参加法人研究 独立行政法人産業技術総合研究所(東北センター、筑波センター)、(財) 所及び共同研 高温高圧流体研究所、東北大学、東京大学、東京工業大学、静岡大学、 究先、及び再委 九州大学、近畿大学九州、新日鉄化学㈱、㈱東芝、日機装㈱、㈱日本触 媒、㈱日本製鋼所、三井化学㈱、三菱マテリアル㈱、日本酸素㈱ 託先 本事業に係わるテーマから本事業終了後5年以内に1∼3件、種々の産業分野での波及 5. 実用化、事業化 効果を含めて10 年以内には多数の実用化、事業化が期待される。 の見通し 省内担当原課 6.今後の展開 7.中間・事後評価 8.研究開発成果 個別テーマの目標達成度を常時、評価・判断し、必要であれば個別テーマを見直す。 本事業内でのシーズの創生をさらに活発化し、ニーズを踏まえた上でブレークスルー すべき技術課題と有機的に結びつけた研究・開発を推進する。得られた結果と超臨界 流体の特性との関係を解明し、 超臨界流体の特性を最大限に発揮しうる温度・圧力制御 技術、要素・システム技術を確立し、共通基盤技術の体系化を行い、その成果を随時公 開する。 中間評価(なし) 特許(出願)数:27、論文数:77、口頭発表:156、新聞発表数:12 基本計画の変更 なし 9.情勢変化への対応 変更内容 評価履歴 なし 10.今後の事業の方向 実用化の見通しがついた研究に関しては、企業内開発あるいは実用化補助事業等に随 性 時移行する。 作成日 平成14年 3月 1日 −目 次− 0. 概要 1. 国の関与の必要性・制度への適合性-------------------------------------2-1 2. 3. 4. 5. 6. 1.1 国が関与することの意義------------------------------------------2-1 1.2 費用対効果(導入時の試算)--------------------------------------2-2 事業の背景、目的、位置付け-------------------------------------------2-3 2.1 事業の背景、目的、意義------------------------------------------2-3 2.2 事業の位置付け--------------------------------------------------2-4 2.3 基本計画--------------------------------------------------------2-4 事業の目標-----------------------------------------------------------2-7 3.1 研究開発全体目標、妥当性、設定理由等----------------------------2-7 3.2 研究開発項目毎の目標、設定理由、根拠等--------------------------2-7 3.3 目標達成を判断するための指標について---------------------------2-18 事業計画の内容------------------------------------------------------2-23 4.1 全体事業、研究開発項目の計画内容-------------------------------2-23 4.2 研究開発項目毎の内容の詳細-------------------------------------2-28 4.3 研究開発実施主体の体制-----------------------------------------2-40 実用化、事業化の見通し----------------------------------------------2-47 5.1 実用化時のイメージ---------------------------------------------2-47 5.2 成果の実用化可能性---------------------------------------------2-54 5.3 波及効果-------------------------------------------------------2-59 今後の展開----------------------------------------------------------2-64 6.1 今後の課題-----------------------------------------------------2-64 6.2 期待される効果-------------------------------------------------2-65 7. 中間評価の評価項目・評価基準、評価手法及び実施時期------------------2-66 8. 研究開発成果--------------------------------------------------------2-67 8.1 事業全体の成果-------------------------------------------------2-67 8.2 研究開発項目毎の成果-------------------------------------------2-71 8.3 成果の意義----------------------------------------------------2-109 9. 情勢変化への対応---------------------------------------------------2-110 10. 今後の事業の方向性-------------------------------------------------2-111 添付資料 1.基本計画書、実施計画書 2.個別要素技術のアロー図 3.成果状況一覧 4.研究開発に利用している主な施設・装置リスト 5.用語解説集 1.国の関与の必要性・制度への適合性 1.1 国が関与することの意義 1.1.1 国の関与の必要性、意義について 超臨界流体を利用した化学反応プロセス技術開発の実用化の促進に資する共通基盤技術 構築は、未だ体系的な確立がなされていない。環境に豊富に存在する水や二酸化炭素が反 応や分離等の種々の操作に用いる汎用性溶媒として、超臨界流体技術を応用することによ り利用しうることが認識されつつあり、そのプロセス開発は世界的にも熾烈な競争下にあ る。超臨界流体技術は種々の産業分野において基礎的・中核的な手法となりうるもので、 個々の研究課題の実用化研究をするだけでなく、基礎から応用までを包括する技術の学問 的体系化も重要である。このような産業技術としても未踏の領域でかつ新規な産業技術基 盤技術の開発と体系化は国の関与のもとで、当該分野の第一線で活躍している研究者の参 画を得て、産学官連携による集中的・効率的推進が必要不可欠である。それにより、産学 官の能力を結集した研究開発の成果が共有され、長期的視野に立った持続的産業創製が可 能になる。さらに先駆的に構築された技術体系は人類共通な知的財産であり、國際貢献に 大いに寄与するもので、市場原理に任される事業ではなく、国のプロジェクトとしての実 施・推進が強く求められる。 さらに、本技術開発は省エネルギー・省資源、環境負荷の低減を達成することを目標と しており、地球規模のエネルギー・環境問題の解決に大きく貢献するもので、それ自体国 として推進すべきテーマであることは勿論、個々の研究課題についても、技術的難度が高 く、1研究機関、1企業で取り組むにはリスクが大きすぎる事、及び、プロセス実用化研 究には多額に出費を必要とし、このような共通基盤技術開発には民間の自主的な取り組み は期待できない。従って、国がリーダーシップをとって戦略的に進めるのが相応であり、 実施主体としては、国以外には考えられない。 1.1.2 本研究が行われなかった場合の社会的な損失 本研究開発が対象とする超臨界流体技術は、非常に革新的な技術で、かつ最先端の技術 分野領域であり、21 世紀のわが国の環境負荷低減、省エネルギー施策の戦略的な核となり うるものである。この為、早期の工業化を視野に入れた共通基盤技術の確立は、産業・社 会に及ぼす波及効果が大きく、本研究が実施されなかった場合、わが国の技術的な優位性 の維持や国際競争力の確保が困難となる。また、本技術開発は省エネルギー・省資源、環 境負荷の低減へ大きく寄与する事を目標としており、地球規模のエネルギー・環境問題の 解決に大きく貢献するものである為に、国際的な貢献機会を失する恐れが十分考えられる。 又、環境調和型・資源低消費型社会や次世代新規産業創出等の実現機会・実用化の時期が 10 年以上遅れることが予測され、海外企業に市場が独占され、わが国産業界は多大な損失 を被る恐れが十分ある。 1.1.3 国の関与に公共性が認められるかどうか 本技術開発は、超臨界流体を利用した抜本的な化学プロセス革新により、大幅な省エネ ルギー、省資源、環境負荷の低減を目指している。得られた成果は、地球規模のエネルギ ー・環境問題の解決に大きく貢献するものであり、且つ、その共通基盤技術・知的基盤整 2-1 備へ資するデータベースとして、その後の民間企業における実用化研究開発や国際的な貢 献に役立つものである。その波及効果は化学産業だけに留まらず、幅広い産業分野へ波及 効果と影響をもたらすこと等から、高い公益性と公共性は十分確保されている。 1.1.4 緊急性、重要性が高く優先して実施すべき事業であるかどうか 超臨界流体利用研究開発は、21 世紀の省エネルギー・環境調和・環境負荷低減技術分野 や関連する地球規模の環境問題解決へ国際的にも大きく貢献できる戦略的な技術開発要素 を多数有している。そのため、欧米との技術開発競争は既にスタートしている現状を勘案 すると、わが国の国際競争力を確保する上で極めて重要性が高く、緊急性が高い。 また、本研究開発は、産学官による集中的な共同研究体制で緊急且つ優先的に行うこと が環境と調和した健全な経済産業活動と安全・安心な国民生活早期実現へ向けて貢献でき ると考えられる。 1.2 費用対効果(導入時の試算) 1.2.1 プロジェクト(開発および導入)の概要 (1)仮に国の関与があった場合 研究開発期間 : 2000 年度∼2004 年度 研究開発予算 : 国 10,535 百万円 民間 0 百万円(100%国が補助) 導入実証期間 : 2005 年度∼2009 年度 研究開発予算 : 国 0 百万円 民間 3,000 百万円 (2)仮に国の関与がなかった場合 本研究開発において実施すべき分野は、 超臨界状態における化学反応メカニズムの解明、 最適反応条件の探索・解明、反応器・分離器・供給・混合器内の流動・伝熱・反応速度論 に関する工学基盤の確立、分光学的 in situ 測定法の確立等多岐にわたっており、かつ最 先端の領域であるため産学官の幅広い分野の第一線で活躍している研究者の参画を得て研 究開発を行うことが重要である。 仮に、国の関与がなかった場合を想定すると、資金面、人材面での不足から研究開発の 効率性がより劣るものと考えられる。また、研究開発成果に関しても、特に要素研究につ いては十分な成果をあげるのは難しいものと考える。 研究開発期間 研究開発予算 2000 年度∼2017 年度 民間 10,535 百万円 ※民間のみで行う場合、研究開発費の負担は 6 億円/年程度と想定。 実証研究開発期間 2018 年度∼2022 年度 実証研究開発予算 民間 3,000 百万円 ※要素技術研究の成果を基に、2018 年度から実証研究を開始していくと仮定。 民間の負担できる費用は、6 億円/年程度が限界と想定。 2-2 1.2.2 市場規模の見通し (1)仮に国の関与があった場合 2010 年度 : 代替プロセス技術を 20%適用 2020 年度 : 代替プロセス技術を 50%適用 2030 年度 : 代替プロセス技術を 80%適用 (2)仮に国の関与がなかった場合 国の関与がなかった場合、実用化の時期は 10 年以上遅れる見通し。 2010 年度 : 代替プロセス技術を 0%適用 2020 年度 : 代替プロセス技術を 20%適用 2030 年度 : 代替プロセス技術を 50%適用 2.事業の背景、目的・位置付け 2.1 事業の背景、目的、意義 2.1.1 背景 近年、地球環境保全の観点から、エネルギー及び有機溶媒多消費型の既存化学プロセス を省エネルギー・省資源・低環境負荷型のプロセスに転換することが必要不可欠となって いる。これらを実現するためには、「液体に匹敵する大きな溶解力」と「気体並の高い流 動性と分子運動エネルギー」といった、液体・気体の両方の優れた特性を併せ持つ超臨界 流体を利用した、省エネルギー・低環境負荷型の化学プロセス技術の開発が急務である。 このような情勢に鑑み、平成 7 年度、8 年度において、地球環境産業技術にかかる先導 研究「超臨界流体を利用した反応プロセス技術に関する調査研究」を実施した。さらに引き 続き、平成 9 年度から 11 年度までの 3 カ年計画で、ニューサンシャイン計画「超臨界流体 利用技術先導研究開発」を集中研究方式で実施した。それらの結果、いくつかの注目すべき 成果と工業化への課題が抽出され、超臨界反応場技術の基盤技術を整備し実用化を目指す ためには、超臨界流体利用の最適な化学プロセスシステム設計手法の確立とその為に必要 な共通基盤技術の確立を国として推進していく必要性と緊急性が強く確認された。 これを受け、平成 11 年 10 月産業技術審議会地球環境部会企画システム委員会で今後の 超臨界流体利用技術研究開発の妥当性や基本計画等の審議を経て平成 11 年 12 月本プロジ ェクトの基本計画制定(通商産業省工業技術院)が なされ、平成 12 年 5 月∼7 月にかけて 実施者選定(公募)契約審査委員会の審査をへて、平成 13 年 8 月 12 日委託契約締結(財 団法人 化学技術戦略推進機構)がなされた。 2.1.2 事業の目的 本事業は、エネルギー及び有機溶媒多消費型の既存化学反応プロセスを代替するため、 超臨界流体を利用した革新的な化学反応プロセス技術を開発することにより、環境負荷低 減技術を確立し、地球環境問題の解決と持続的発展を同時に実現しうる新しい高効率な化 学プロセス技術の構築とこれらの基盤となる技術を開発することを目的とする。さらに、 2-3 将来的に幅広い産業分野で利用が期待できる超臨界流体利用適用技術に対し、その技術を 体系化し産業分野に使えるツールとして提供するために、データ蓄積、知的基盤、標準化 等整備を行う等により、共通基盤技術を確立し、その後の民間企業における研究開発や国 際的な貢献に資することも本プロジェクトの重要な目的である。 2.1.3 事業の意義 本プロジェクト「超臨界流体利用環境負荷低減技術研究開発」は、基盤的・汎用的な技 術体系の構築を主たる目的とするものである。成果としての結果は公共財として、広い産 業分野で超臨界流体技術の実用化に利用され、エネルギー消費削減、環境負荷低減へのア クセシビリティ向上効果が期待される。 我が国がこのような技術基盤を持つことは、現在、熾烈な競争段階にある超臨界流体技 術の国際競争において有利となる土台を形成する。さらに、普遍的な成果を得ることで安 全基準策定や標準化などにも資するところが大きく、公共の福祉にも寄与する。 以上、 超臨界流体を利用した化学プロセスは、世界的にも開発機運が高まってきており、 わが国の戦略的な重要技術であり、本研究分野におけるわが国の優位性を発展させ、産業 技術としての優位性をも確保することに本事業が意義を有する。 2.2 事業の位置付け 本事業は科学技術基本計画における「環境分野」において、重点項目とされ、21 世紀の 産業の中核を担う基盤技術確立と化学プロセス分野におけるわが国の技術的優位性と国際 競争力確保の観点から、政策上では産業技術戦略の「人間・環境調和型高効率材料生産プ ロセス技術」の「資源生産性を向上させるプロセス技術(特異的反応場利用技術)」に位 置付けられている。また、その技術開発は同項目の「環境調和型プロセス技術(溶媒転換 技術)」の重要な課題としても位置付けられている。 また、本技術開発は「将来のフロンティアを切り拓く技術の研究開発」における「エネ ルギー・環境技術」分野の重要技術課題においても「環境調和型の革新的資源循環システ ム技術」の「革新的生産プロセス技術(超臨界流体応用プロセス技術)」として位置付け られている。さ ら に 、 本技術開発は、実用化された場合には環境負荷の低減を図ること が期待されていることから、産業技術戦略のうち、「社会的ニーズを踏まえた政策の体系 化とそれを実現する技術の研究開発」における大目標:「環境と調和した経済社会システ ムの構築」の「資源・エネルギー投入及び廃棄物・有害物質の排出の最小化を図るための 抜本的改革(生産プロセス革新技術)」としても位置付けられる。 2.3 基本計画 本研究開発では、化学工業で基盤的・中核的な役割が期待できる超臨界流体を反応溶媒 とする新規プロセスの開発とプロセス開発に必要な共通基盤技術開発の構築を行う。その ため、基本計画を以下の通り設定した。その構成と研究項目間の連携は図 2.3 に示した通 りである。 (1)超臨界流体プロセスの技術開発 2-4 (イ)有機合成プロセス技術の研究 超臨界水及び超臨界二酸化炭素を主に用いた化学品等の合成反応や高分子重合反応を、 有機溶媒を使用せず、かつ、高選択・高収率・高速で行うための反応機構の解明及びプロ セス構築に必要な工学基盤技術を開発する。 (ロ)材料プロセッシング技術の研究 超臨界水を用いた微粒子、薄膜等機能性材料創製時の機能発現機構の解明及びプロセス 構築に必要な工学基盤技術を開発する。 超臨界二酸化炭素を用いた高分子加工プロセスにおける可塑化機構と材料機能発現機構 の解明及びプロセス構築に必要な工学基盤技術を開発する。 (ハ)エネルギー・物質変換技術の研究 超臨界水を主に用いた廃棄物、未利用資源、難分解性物質からの工業原料への変換の基 礎となる化学反応機構の解明及びプロセス構築に必要な工学基盤技術を開発する。また、 熱エネルギー回収プロセス構築とプロセス構築に必要な工学基盤技術を開発する。 (2)基礎基盤技術の開発 各プロセスの共通基盤技術確立に必要な超臨界流体のミクロ物性、流動、相平衡等の基 礎物性及び反応機構、溶媒効果等の反応特性に関して測定・解析を行い、これらにより超 臨界流体に関する物性データベースの構築と、プロセス構築が可能となる技術基盤を開発 する。 (3)超臨界流体技術の調査研究 国内・海外における技術動向に関する調査研究を行い、(1)超臨界流体プロセスの技 術開発、(2)基礎基盤技術の開発で得られた成果との相互の連携を図ることによって、 有望な新反応プロセスの概念設計・総合評価、反応システムの可能性と適用性を検討し、 その結果をプロジェクトの研究実施へ反映する。 2-5 基本計画構成と個別要素技術間連携 有機合成プロセス技術 材料プロセッシング技術 エネルギー・物質変換技術 1)有機溶媒を使用しない化学品の 高選択・高収率・高速な合成反応、 重合反応の反応機構を解明する 2)化学合成プロセス構築に必要な工 学基盤技術の開発を行う 1)微粒子、薄膜等の機能性材料創製時 の機能発現機構を解明する 2)超臨界流体を用いた高分子加工プロセス における可塑化機構等の解明を行う 3)これらのプロセス構築に必要な工学 基盤技術を開発する 超臨界流体による廃棄物、未利用資源、 難分解性物質の工業原料への変換を 目指し以下を行う 1)反応機構解明 2)エネルギー回収プロセスの構築 3)これらに必要な工学基盤技術の確立 想定プロセス試験の実施・プロセスの最適化 ・反応系内の直接観察、シミュレーション による超臨界流体のプロセスの理解 ・高温高圧単位操作技術開発 ・装置材料の開発と評価 設計 運転 評価 管理 供給 反応 分離 材料 ・プロセス設計手法、シミュレー ション手法の確立 ・物性データベースの構築 2-6 工 学 基 盤 基 礎 基 盤 溶媒物性 ・ミクロ・マクロ溶媒物性 ・反応場の相状態 ・分子シミュレーション 反応特性 ・反応機構・ダイナミクス ・超臨界溶媒効果 ・触媒作用 共通基盤技術 超臨界流体利用環境負荷低減技術研究開発 図2.3 探索・調査研究 ・新反応探索 ・新プロセス探索 ・調査研究・情報収集 3.事業の目標 3.1 研究開発全体目標、妥当性、設定理由等 3.1.1 全体目標 エネルギー及び有機溶媒多消費型の既存化学反応プロセスを代替するため、高温・高圧 等の特異反応場における革新的な化学反応プロセス技術として超臨界流体を利用した高効 率な化学反応プロセスの構築とこれらの基盤となる技術を開発する。 3.1.2 全体目標の妥当性、設定理由、根拠 超臨界流体利用技術は 70 年代後半に生み出された先端的な技術である。その応用が多彩 に花開けば、化学プロセスにおける環境調和型プロセス(省エネルギー、二酸化炭素の削 減、脱有機溶媒、人体への健康安全性等)の確立のみならず、他産業の様々な分野におい ても応用範囲が広がり、 自然との調和を内包する持続的発展可能な社会を実現する 21 世紀 型文明の構築に資することが確実視されている。特に、有機溶媒の替わりに超臨界二酸化 炭素や超臨界水を溶媒として用いる化学プロセスや、反応基質を超臨界流体として用いる 脱有機溶媒化学プロセスは本質的に革新的な環境調和型プロセスとして有望なものである。 しかし、産業技術としては未踏の領域であるため、現在まで国内外ともに、普遍的、波及 的産業技術として確立されるには至っていない。これは、従来の気体を対象とした技術の 延長では、高圧プロセスの高コスト性、エネルギー多消費性の問題解決を体系的に進める ことができず、工程の簡略化、生産性の向上を発揮する実用技術として成立するのが、困 難なためである。しかし、エネルギー多消費性は超臨界流体の高圧発生に本質的に付随す るものでなく、技術的な課題であり、さらには超臨界流体の本質的特性である可制御性、 操作性と自然界に存在する水、二酸化炭素の溶媒機能を最大限に発揮させることにより高 速変換・高選択性・高収率性を有する新規の種々の現象が数多く発見され、普遍性・波及 性の高い環境負荷低減技術の実用化が期待される。 3.2 研究開発項目毎の目標、設定理由、根拠等 (1) 超臨界流体プロセスの技術開発 (イ)有機合成プロセス技術の研究 (目標) 超臨界二酸化炭素、超臨界水や超臨界メタノールを主に用い、高効率、高選択的な環境 調和型の基礎化学品等の有機合成プロセス技術を開発する。有機溶媒を使用せず、安全で 安価、且つ、高選択的・高収率・高速で有機合成プロセスを行うための反応機構を検討し、 触媒・超臨界反応場の最適化を図るとともに、超臨界流体を用いた有機合成プロセスを構 築する上で必要な工学基盤技術を開発する。 (研究開発項目の目標の妥当性、設定理由、根拠) 超臨界二酸化炭素あるいは超臨界水を溶媒とする、あるいは超臨界流体を溶媒と同時に 反応基質とする有機合成反応の実現は、有機溶媒・薬剤の大幅な削減が図られることは明 らかであり、本課題は社会的要請に応えるものであり、妥当性を有するものである。課題 の設定理由、根拠として、超臨界流体場は液体場に比較して高温の利用が可能であり、現 象の高速化と同時に、超臨界流体の溶媒効果により、気体場に比較して現象の制御性が期 2-7 待されることが挙げられる。さらに、超臨界流体の溶媒特性の可制御性を利用することに より、反応工程のみならず分離等の処理工程が簡略化あるいは省略され、エネルギーおよ び装置コストの大幅な削減も期待される。超臨界流体場は学問的にも工業的にも新規な有 機合成反応場であり、有用な未知反応の発見や新規触媒の発見の可能性は極めて大きい。 特に超臨界水場は生命の誕生にいたる化学進化の場として果たしてきた役割を考えると普 遍性、波及性の大きな成果が得られるものと確信できる。 (個別研究開発項目の目標の妥当性、設定理由、根拠等 ) ①超臨界二酸化炭素反応場を利用した水素化反応技術(産総研超臨界流体 RC 集中研/東工 大/産総研超臨界流体 RC) (目標) 超臨界二酸化炭素反応場を利用した芳香族化合物や不飽和アルデヒドの高選択的な水 素化反応技術開発を目指す。 (目標の妥当性、設定理由、根拠等) 芳香族化合物、特に官能基含有芳香族化合物の核水素化反応は、一般に活性が低いため に過酷な反応条件を必要とする。このため、脱官能基、カップリングなどの副反応が進行 しやすく、反応選択性が低い欠点を有する。例えば樹脂、液晶、医農薬の分野から高立体 選択的な核水素化技術の確立が望まれているが、これまで満足な立体選択性は得られてお らず、実用レベルの技術はほとんどない。化学品やモノマーの原料合成法として重要であ る芳香環の部分水素化技術に関しても、選択性が低く、実用レベルの技術は少ない。また、 不飽和アルデヒドの C=O 基の選択的水素化反応による不飽和アルコールの合成は香料、医 薬品等のファインケミカルズの原料製造分野で重要な反応である。しかし、通常は C=C 基 の水素化反応が優先的に進展するため、現状では高収率な反応条件は知られていない。一 方、超臨界二酸化炭素は有害な有機溶媒の代替溶媒として期待されており、温度、圧力を 調整することによって溶媒特性を変化させることができる。 本研究では超臨界二酸化炭素を溶媒とし、反応基質、水素、触媒等との均一相の形成や 相分離を巧みに制御し、新規反応場での機構解明、触媒設計の確立を行い、高選択的な水 素化反応技術の開発を目指す。 ②超臨界二酸化炭素を基質とする有機合成技術(産総研物質プロセス RI/産総研超臨界流 体 RC) (目標) 超臨界二酸化炭素を溶媒及び基質として用いて環状炭酸エステルやウレタン化合物等の 合成技術の開発を行い、超臨界流体技術を利用した環境負荷低減型化学反応プロセスの基 盤構築を図る。 (目標の妥当性、設定理由、根拠等) 環状炭酸エステルは Li 電池用電解液として重要性を増しているだけでなく、 ポリマー原 料(ホスゲン代替)、燃料改質剤など、幅広い用途が期待されている。また、ウレタン化 合物はウレタン樹脂、ウレタンゴム、ウレタンホーム、医薬品原料等として多方面で用いら れている。現状では環状炭酸エステルは液相均一系触媒反応によって合成されているが、 触媒の分離回収および反応速度の点に課題が残されている。二酸化炭素の関与する触媒反 2-8 応においては、二酸化炭素を超臨界条件で用いることにより、従来の気相あるいは液相反 応に比べて反応性が飛躍的に高まることが期待される。また、超臨界相との相分離によっ て、触媒分離、生成物分離、溶媒分離を大幅に効率化できる可能性がある。従って、超臨 界二酸化炭素を利用することにより、高速、高選択的、かつ触媒分離が不要な革新的プロ セスの実現が期待される。また、ウレタン化合物の合成では毒性や引火性の強いイソシア ネート、ホスゲン等が使用されており、環境に悪影響を及ぼすことから、それらを代替す る無害な合成方法として二酸化炭素を利用した技術開発が期待されている。一方、二酸化 炭素からウレタン化合物を合成する方法はこれまでにも報告されているが、80℃以上の高 温、24 時間以上の長時間あるいは大量の有害なハロゲン化合物等の有機溶媒の使用を要す る等の欠点があり、より高速な反応を実現する操作条件の選定、触媒の探索とそれを支援 する技術開発が求められている。 ③超臨界メタノールを利用した芳香族化合物合成技術(産総研超臨界流体 RC 集中研/東工 大/静岡大) (目標) 超臨界メタノールを反応基質および媒体として用いることによりナフタレン等の芳香 族化合物の高選択的メチル化反応技術を開発する。 (目標の妥当性、設定理由、根拠等) 2,6-ジメチルナフタレン(2,6-DMN)は、その高耐熱性・高ガスバリア性などの特性から最 近需要が伸びて注目されているポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂の原料前駆体として 有用であり、現在は BP-Amoco 社により4段階行程の o-キシレン・ブタジエン法で製造さ れている。ナフタレンを出発物質とする2段行程の 2,6-ジメチルナフタレンの気相合成法 は安価で注目されているが、 選択率が低いこと等の理由から実用化されていない。しかし、 鉄鋼副産物タールの有効利用の観点からも技術開発が期待されており、安価な製造方法が 開発できれば現行法を代替する可能性を有している。一方、超臨界メタノールを反応基質 および溶媒として用いることにより反応は一段階で進行することを見出しており、反応条 件と触媒の開発により高選択性、高収率が実現されれば、環境調和型プロセスとして期待 できる。 ④超臨界メタノール反応場を利用したメチル化反応技術 (産総研超臨界流体 RC 集中研/東 工大) (目標) 固体酸・塩基触媒と超臨界メタノール反応場を利用することにより、二官能性アミン化 合物及びフェノール化合物のメチル化反応技術を開発する。 (目標の妥当性、設定理由、根拠等) 多官能性アルキルアミン類化合物はカチオン系凝集剤として生活廃水処理等に用いられ ており、オルトメチルフェノール類化合物は酸化防止剤や難燃性プラスチックに利用され ている。現行プロセスはいずれも選択性が低いことや廃棄物等の問題があるため、省資源、 省エネルギーおよび廃棄物低減の観点から超臨界メタノールを用いた直接メチル化法を開 発することは重要である。本研究は二官能性アミン化合物の N-メチル化反応とフェノール 化合物のオルト位選択的メチル化反応について超臨界メタノール反応場及びそれに適した 触媒を開発して高効率な反応技術の開発を目指すものである。環境負荷低減のためには廃 2-9 棄物となる副生物の生成を押さえるために選択性を高くする必要があり、触媒の選択或い は設計が重要である。 ⑤超臨界水反応場を利用した水和反応技術(産総研超臨界流体 RC 集中研) (目標) 超臨界水の酸触媒機能を利用した環境調和型のオレフィン化合物等の水和反応技術を開 発する。例えば超臨界水反応場を用いて、触媒を使用しないでプロピレンからイソプロパ ノールを合成する技術開発について検討する。 (目標の妥当性、設定理由、根拠等) 地球上の約7割を水が占め、動植物にとってかけがえのないものである。 言いかえれば、 水は無害である。本研究は水が溶媒であると同時に、 水自身が基質として反応する亜臨界、 超臨界領域を積極的に利用した有機合成反応技術を開発し、既存の工業プロセスの置き換 えを行い、従来技術では解決できなかった環境負荷の低減を狙うものである。工業プロセ スの触媒は反応速度、選択率の向上に利用されている。中でも酸触媒や塩基触媒は多くの プロセスで使用されているが、触媒回収、中和処理、塩の廃棄処理の為に環境に負荷がか かっている。例えば従来法では発煙硫酸を用いてプロピレンからイソプロパノールを合成 していたが、超臨界水を用いた新規プロセスでは特段の触媒を用いずとも水和反応が進行 することが予想され、工程が簡略化できること及び触媒に由来する大量の薬剤廃棄物が出 てこないことから環境調和型プロセスの開発が期待される。 ⑥超臨界水を反応場とする物質合成技術(産総研超臨界流体 RC) (目標) 超臨界水領域で特異的に発現する酸あるいは塩基触媒機能を活用した有機合成反応の探 索研究を行い、反応性の検証および反応機構の解明を通して、超臨界水の機能、特性を普 遍化するとともに、新たな低環境負荷型合成プロセスの構築を目的とする。 (目標の妥当性、設定理由、根拠等) さまざまな化学合成プロセスにおいては、酸、塩基触媒が用いられており、環境負荷が 大きくなるという問題点を有する。本研究グループでは超臨界水が酸・塩基触媒機能を有 していることを見出しており、有機合成に適用できる可能性を提案している。超臨界水の この新しい有機合成反応を利用した低環境負荷型無触媒有機合成プロセスの開発が有望と 考えられる。水は地球上で大量に賦存し、最も環境に優しい溶媒であり、超臨界状態では 温度、圧力によってその特性を制御できる大きな利点を有しており、超臨界水の酸、塩基 性と高温反応場の組み合わせで、反応速度、選択性の向上が期待できる。この現象は発見 されたばかりであり、早急な反応探索とプロセス化が期待される。例えば、超臨界水反応 場に適合する有機合成反応の探索とその反応メカニズムの解明や超臨界水有機合成条件の 最適化等を検討することにより、新たな環境負荷低減型化学反応プロセスの基盤技術の開 発に資することが期待される。 (ロ)材料プロセッシング技術の研究 (目標) 超臨界流体を用いた高分子加工プロセスにおける可塑化機構と材料機能発現のための機 構解明及びプロセス構築に必要な工学基盤技術を開発する。 超臨界流体を利用した微粒子、 2-9 2-10 薄膜など機能性材料創製時の機能発現機構の解明及びプロセス構築に必要な工学基盤技術 を開発する。 (目標の妥当性、設定理由、根拠等) 超臨界二酸化炭素は,高分子に溶解して高分子相のガラス転移温度や融解温度を下げ、 可塑化しうることが知られている。可塑化は高分子合成、高分子の成型や高分子複合材料 の創製において重要な操作であるが、有機溶媒を用いた場合は脱溶媒操作において多大の エネルギーを消費し、製品中への残留溶媒が環境的にも大きな問題となる。これに対し、 超臨界二酸化炭素を可塑剤として用いた場合には、脱溶媒が簡素化され、しかも残留溶媒 の問題も解消され、多くの高分子プロセスを環境調和型に革新し、新規高分子材料製造の 汎用性の高い手法になりうる。しかしながら、超臨界二酸化炭素による高分子相の膨潤平 衡のデータは広範な温度圧力範囲では不足しており、しかも構造形成に重要な可塑化過程 (溶解・膨潤)および構造固定化過程(脱二酸化炭素・脱圧)の速度論的データは僅少で ある。本研究では可塑化と脱圧機構の解明を通して、超微細発泡成形技術と無機/高分子複 合材料の創製技術の開発を行うもので、可塑化・脱圧工程での操作条件と構造形成の関係 を明らかにすることにより、個別テーマの達成のみならず新規な高分子系材料の汎用的製 造方法の提案に繋がるものである。 また、超臨界流体を媒体とした微粒子・薄膜などの機能性材料の創製技術は、過飽和度 の主として制御性に着目したもので、急速膨張法、貧溶媒化法、再沈法及び反応晶析法と して提案されており、普遍性の高い手法になりうるものである。しかし、一部、医薬品の 製造などに、実用化されているものもあるが、産業的に用途の広い技術には至っていない。 本研究では当面の課題として、急速膨張法と反応晶析法を取り上げ、超臨界流体の特性と 材料創製時における合目的的な機能発現のための構造形成機構を解明し、それぞれのプロ セスの要素技術を確立して、環境調和型の材料プロセスとして体系化することを目標とし ている。 (個別研究開発項目の目標の妥当性、設定理由、根拠等) ①熱可塑性高分子の超微細発泡成形技術の開発(産総研超臨界流体 RC 集中研/産総研環 境調和技術 RI/東北大) (目標) 熱可塑性プラスチックに主として二酸化炭素等の超臨界流体を溶解させ、脱圧時に微小 気泡を制御性を持って形成させうる超微細発泡成形技術の開発を行う。本方法により発泡 径分布、発泡率等の発泡体の構造制御を実現し、 発泡による製品強度低下を回避しながら、 プラスチックの成形加工性を向上させ、結果として使用するプラスチック製品の軽量化、 さらには原料使用量の削減と省エネルギーの達成を図る。さらに、膨潤、可塑性、脱圧の 各機構を解明し、成形加工プロセスの基礎要素技術とその工業化のための基盤技術を開発 する。 (目標の妥当性、設定理由、根拠等) 超臨界流体を用いて製造する微細発泡プラスチックは、環境汚染の低減、エネルギー削 減、資源の有効利用ならびに新しい付加価値製品の創造をもたらす可能性を有しており、 幅広い製品と生産プロセスに革新をもたらすことが期待されている。一部の製品では、実 2-11 用化も図られているが、 製品強度を保持できる程度の 10 ミクロン以下の超微細発泡体は得られ ていない。また、超臨界流体を用いた樹脂発泡過程の解明および微細発泡体を得るのに必 要な材料やプロセスの諸条件の解明に関する研究は不足しており、微細発泡体を得る上で 必要な発泡径分布の制御手法ならびに最適な成形プロセスとその装置は見出されていない。 このため、試行錯誤的な応用技術しか開発されておらず、本技術の本格的な連続型射出成 形技術としての実用化はなされていない。 そこで、超臨界流体を用いた微細発泡成形に関わる上記の基礎要素技術を研究し、未発 泡のものと同等以上の強度を維持できる気泡径 1∼10µm の微細かつ均一な発泡体を得るた めの最適な成形プロセスを見出すことにより、本技術を実用化・普及するための基盤技術 を構築することが重要である。目標値は、中間目標として気泡径 10µm 程度、最終目標と して気泡径1∼10µm の微細発泡成形体を製造する技術の確立を挙げる。 ②無機/有機高分子複合材料の創製技術の開発(産総研超臨界流体 RC 集中研/高温高圧研) (目標) 有機高分子の優れた加工性と無機材料の機械的・電磁気的特性を相補的に利用した新規 な複合機能性材料を構造制御を介して創製することを目的とし、有機高分子材料を超臨界 流体により膨潤・可塑化し、金属あるいは金属酸化物の微粒子を高分子材料相中(表面層 あるいは内部)に合目的的に制御分散化させうる無機/有機高分子複合化技術を確立する。 微粒子分散相の厚さ、粒子分布、充填率、粒径等の分散相の形態制御性と操作条件との関 係を明らかにし、本方法の有効性と汎用性を明確にする。 (目標の妥当性、設定理由、根拠等) 有機高分子材料は,バルク材料そのものの機能(軽量化,加工性等)の向上はもとより, オリジナルな材料にはない機能を付与した高機能化が求められている.特に、高分子材料 に金属あるいは金属酸化物などの微粒子を分散させた材料は、原材料にはない新たな機能 を発現させることが期待される。近年、形状の加工性、軽量性、大量生産性等の観点から、 金属部品から有機高分子材料への代替えが進むとともに、金属等に固有な機能が付与され た有機高分子材料の必要性も指摘されている。従来の表面改質技術である無電解メッキは 機能層の剥離が生じやすく、また改質法としてのフィラー混練は微粒子の凝集が起こり、 導電塗装は微細部分への加工が困難であるなどの課題がある。すなわち、有機高分子材料 の全表面、複雑形状を有する表面などの全表面近傍に、目的とする機能発現のために適切 な金属あるいは金属酸化物の微粒子分散状態を発現できる制御技術が望まれている。超臨 界流体は、有機高分子材料に対する膨潤・可塑化効果を、また有機金属化合物に対する溶 解力、微細形状部分への高い拡散浸透性を有しており、これらの特性を高度利用した目的 とする機能発現のための構造形成手法として確立することで、新たな超臨界流体を用いる 有機無機複合材料製造技術が期待できる。 ③急速膨張法による無機材料の創製技術の開発 (産総研超臨界流体 RC 集中研/高温高圧研) (目標) 超臨界二酸化炭素を利用した急速膨張法による材料創製の基盤データを蓄積し、微粒 子・薄膜製造法としての形態制御性を操作条件と定量的に関係づけることで構造性無機材 料製造設計法を確立するとともに、本手法をµm オーダーのパターン化材料等の薄膜製造の 基盤技術を確立する。 2-12 (目標の妥当性、設定理由、根拠等) 材料を実用化する場合、基本的な特性発現のための組成や微細構造の制御に加えて、任 意の形状に作成できる、すなわちパターニングが可能であることが、応用範囲を広げる意 味でも重要である。現在、数十µm 以上の領域では、スクリーン印刷やサンドブラストなど が、また、サブミクロン領域では、半導体デバイスで一般的なリソグラフィー技術がある が、1∼数十µm の領域に関しては簡便な量産技術がなく、既存の微細加工技術で対応する には大形の設備と多大なエネルギーを要する。この領域のパターニングは、将来的に、種々 のディスプレイや圧電アクチュエーター、マイクロマシン部材、コンビナトリアルケミス トリー、各種マイクロデバイス等への適用が期待でき、簡便な量産技術の開発は必須であ る。このような状況下で、超臨界流体を用いた急速膨張法は、温度・減圧速度と膨張開始 時の相状態を操作条件、すなわち制御パラメータとして利用でき、過飽和度の大きさとそ の変化速度が制御でき、微粒子状・膜状というモルフォロジーに加えてそのサイズと分布 の制御が可能で優れた微細部充填性も期待できるものである。さらに、このような技術は ひいてはµm 領域のパターニング技術として有望である。 ④超臨界水反応場を利用した無機微粒子の合成技術の開発(産総研超臨界流体 RC) (目標) 超臨界状態を含む高温高圧反応場での無機微粒子の連続合成プロセスを構築する。合成 条件と生成物の粒子特性、および化学的物理的機能性との関係を把握し、高機能性無機材 料合成プロセスの開発のための基盤技術の確立を目指す。 (目標の妥当性、設定理由、根拠等) 超臨界水を利用した無機微粒子合成法は、秒オーダーという短時間で高結晶性の金属酸化 物微粒子が得られることから、新規な無機微粒子合成法として、その実用化が期待されて いる。本手法を工業的レベルの微粒子合成技術として確立するためには、プロセス変数( 温 度、圧力、濃度、pH、反応時間、流動)と粒子特性(サイズ、分布、結晶構造、形態)と の関係を明らかにし、本プロセスのモデル化が必要である。そこで、反応装置内での原料 である金属塩水溶液の昇温、保持、冷却の各過程における温度および流動を計測・制御可 能な流通式超臨界水熱合成装置を開発し、粒子特性を制御するプロセス変数を明らかにす る。反応工学的解析(反応速度論、溶解平衡論)に基づき粒子生成・成長機構のモデル化 を行う。 (ハ)エネルギー・物質変換技術の研究 (目標) 超臨界水を主に用いた廃棄物、未利用重質資源、難分解性物質からの工業原料への変換 の基礎となる化学反応機構の解明およびプロセス構築に必要な工業基盤技術を開発する。 また、熱エネルギー回収プロセス構築とプロセス構築に必要な工学基盤技術を開発する。 (目標の妥当性、設定理由、根拠等) 超臨界水を用いたエネルギー・物質変換プロセスについては、相変化の可制御性、物質・ 熱移動の促進に係わる超臨界流体の一般的特性に加えて、加水分解反応、水性ガス反応、 水性ガスシフト反応等の積極的利用により、有害廃棄物の完全酸化による無害化のみなら ず、廃棄物、未利用資源からのエネルギーや工業原料への新規な変換法として期待が高ま 2-13 りつつある。しかしながら、完全酸化が先行した現状においては、分解率の達成に主眼が 置かれ、必ずしも反応条件や反応器設計を合理的に行いうる工学的視点での現象の解明と 設計手法の確立は充分には行われていない。特に、固体が混合した系の反応挙動について は、不明な点が多い。また、超臨界水プロセスの固体や塩素、イオウ等を含有する廃棄物 を扱うための必要な技術基盤である、反応器への供給方法、装置材料の選定方法等につい ても、超臨界水特有な現象のため、従来の技術体系とは異なるものが必要であることが明 らかになってきている。廃棄物、未利用重質資源、難分解性物質のエネルギー・工業原料 への変換プロセスの開発を通して、これら新規に開発を必要とする技術要素を工学基盤技 術として確立することは、エネルギー・物質変換プロセス以外への超臨界流体技術の適用 の拡大を可能にするものである。 (個別研究開発項目の目標の妥当性、設定理由、根拠等) ① 超臨界水酸化反応によるエネルギー回収プロセスの開発 (a)反応工学モデルの開発(産総研超臨界流体 RC 集中研/東大) (目標) 難燃性有機固体が超臨界水中で酸化分解する際の、反応経路、反応速度と操作条件、環 境条件の関係をモデル化する“反応モデル”と反応容器内の流動状態と操作条件の関係を モデル化する“流動モデル”を結合したシミュレーションモデルを確立し、酸化反応によ るエネルギー回収プロセス等に使用する超臨界水中酸化反応器の設計に資する。 (目標の妥当性、設定理由、根拠等) 難燃性や含水性の有機固形物を二酸化炭素と水に完全分解する方法として超臨界水酸 化技術の開発が進められて、超臨界水中燃焼発電や廃棄物処理によるエネルギー回収等へ の適用が考えられているが、反応器の設計ができるような工学的観点からの現象解明は未 だ不十分である。特に固体状の有機物に関しては、超臨界水中でどのように流動し、どの ように反応が進んで二酸化炭素と水に分解するかは不明な点が多い。そのため、有機固体 が超臨界水中で酸化反応をするときの反応経路、反応速度、流動状態等を明らかにするこ とにより、エネルギー回収プロセスの設計に使用できる反応工学モデル構築する必要があ る。 (b) 装置材料の選定(産総研超臨界流体 RC 集中研) (目標) 超臨界水酸化プロセスの反応器等の超臨界水酸化性雰囲気下で使用する装置材料の評 価と選定を行い、新材料開発への指針を得る。 (目標の妥当性、設定理由、根拠等) 超臨界水酸化プロセスの実現には、この環境に耐えうる材料の選定が重要になる。しか しながら、材料の腐食と環境条件の関係等が不明確なことから、材料選定基準が確立され ておらず、装置設計を困難にしている。そのため、装置材料の腐食に関するデータの整備 が工学基盤技術として求められている。 ②超臨界水中水素化反応等による未利用重質資源の軽質化・クリーン化に関する開発(産 総研超臨界流体 RC 集中研) (a)重質油の転換プロセス 2-14 (目標) 将来有望な未利用資源である重質油を対象に、クリーンエネルギーおよび工業原料化を 目指した超臨界水を用いた軽質化・クリーン化に係わる反応特性を明らかにするとともに、 プロセス要素技術の特性評価、超臨界プロセスの設計手法に関する工学データの取得と工 学基盤化を図り、未利用重質炭素資源の高付加価値化プロセスを構築する。 (目標の妥当性、設定理由、根拠等) 石油代替エネルギー供給源の確保、およびエネルギー供給源の多様化は最重要課題であ り、その中で重質油等の低品位未利用重質油の活用が必要不欠となってくる。このような 情勢下、環境に有害な有機溶剤等を使用しない超臨界水による未利用重質資源の軽質化・ クリーン化プロセスが有望な手段として期待されている。一方、超臨界流体を用いた工業 化のための工学基盤の蓄積は十分には行われておらず、工業化促進のために工学基盤の確 立が上記の開発と合わせて必要である。 (b)還元雰囲気下での材料評価(産総研超臨界流体 RC 集中研) (目標) 超臨界水還元性雰囲気における材料腐食試験を実施する中で、腐食現象の解明、材料腐 食の評価を行い、プロセスの操作条件に適した材料の選定や材料寿命を評価する手法を確 立する。 (目標の妥当性、設定理由、根拠等) 重質油等の未利用資源を対象にした超臨界水中の反応雰囲気は、低酸素ポテンシャル環 境であるため還元性雰囲気になる。そのため、このプロセスを実現するには、超臨界水中 の還元雰囲気に耐えうる装置材料の腐食現象の解明が必要であるが、これらの研究はほと んど行われていない現状にある。 ③プラスチック廃棄物の化学リサイクルプロセスの開発 (a)変換反応技術(産総研超臨界流体 RC 集中研/東北大) (目標) 超臨界水による縮重合型プラスチックおよび付加重合型プラスチックの有用物質やモノ マーへの変換に関して、前処理法、反応制御法、プロセスの構築を行い、プラスチック廃 棄物の化学リサイクルプロセス技術を確立する。 (目標の妥当性、設定理由、根拠等) 超臨界水を用いるプラスチックの変換反応では、重縮合系プラスチックでは原料モノマ ーが、付加重合プラスチックでは有用化学物質が得られることが知られている。しかし、 その多くは実験段階に止まっており、このリサイクルプロセスを実現するには、反応制御 法やプロセス特性等を明らかにする必要がある。また、可塑剤であるフタル酸エステルや 塩素を多量に含むポリ塩化ビニルを対象とする場合は、含塩素芳香族化合物の生成要因と なる可塑剤や激しい腐食を引き起こす塩素の除去を行う前処理技術が必要とされる。 (b)高圧供給系の構築(産総研超臨界流体 RC 集中研) (目標) 超臨界水を用いた化学リサイクルプロセスによりプラスチック廃棄物を効率的に処理 するためには、粉砕したプラスチック廃棄物を水と共にスラリー状で超臨界水反応場へ連 続かつ安定的に供給するシステムが必要である。そのため、スラリー濃度、粉砕粉粒径、 2-15 比重などのパラメータ変化による部品クリアランスとの関係や、流速と配管内での沈降、 配管の圧力損失等の関係を把握し、スラリーの移送に適したポンプや配管の設計方法を確 立する。 (目標の妥当性、設定理由、根拠等) 高温あるいは中低圧のプロセスに固形物を連続供給する方法として、粉砕した対象物を 水と混和した状態で送るスラリー法が一般的によく使われている。この手法を超臨界水プ ロセスに用いることは、 原料と反応媒体である水を同時に反応装置に供給できることから、 理にかなったものといえる。しかしながら、水スラリーを供給する技術は、10MPa 程度の 圧力場へのスラリー供給装置として、微粉炭スラリー輸送プロセス等で実存するものの、 超臨界水反応場への連続、かつ安定して供給する装置や、その具体的な設計方法がないの が現状である。 (2)基礎基盤技術の開発 (目標) 超臨界流体プロセス技術の共通基盤技術確立に必要な超臨界流体のミクロ物性、マクロ 物性、流動、伝熱、物質移動、静的・動的相挙動などの物性及び反応機構、溶媒効果、輸 送現象などの特性に関して測定・解析及び集積を行い、これらにより超臨界流体に関する 物性データベースの構築を行うとともに、上記の個別テーマのプロセス構築が可能となる 技術基盤を開発する。 (目標の妥当性、設定理由、根拠等) 環境負荷低減、省エネルギー及び省資源を目指した超臨界流体を利用した環境負荷低減 技術の確立は、我が国の直面する二酸化炭素削減目標を達成するためには極めて重要であ る。本課題の超臨界流体利用環境負荷低減技術を確立するには、超臨界水,超臨界二酸化 炭素等の超臨界流体プロセス構築に必須な物性データベースの確立が必要不可欠である。 また、超臨界流体プロセスにおいては、超臨界流体は高温高圧条件下で供給・処理され ることになり、このような条件下で酸素等の高圧ガスを安全に取扱うための技術を確立す ることによって、我が国の化学プロセス分野における技術的優位性が得られ,国際競争力 の確保が可能となることが期待される。 (個別研究開発項目の目標の妥当性、設定理由、根拠等) ① 超臨界流体のミクロ溶媒特性の解明(産総研超臨界流体 RC/産総研環境調和技術 RI (目標) 高温高圧 in-situ 分光学的測定技術によって超臨界水、超臨界二酸化炭素,あるいは超 臨界メタノール中のミクロ特性やその中での化学反応過程を明らかにし、データベース化 を図る。併せて in-situ 分光学的測定技術の高度化を図るため、測定セルの改良や開発を 行う。 (目標の妥当性、設定理由、根拠等) 今後の超臨界流体技術ならびに本プロジェクトで進行中の課題を考慮すれば、局所的な 超臨界流体の構造や特性などの従来までの検討では十分とは言えないミクロ特性を解明し、 それを最大限に利用した反応プロセスの開発・確立が求められている。本研究担当グルー 2-16 プはこれまで幾つかの高温高圧 in-situ 分光学的測定装置を開発してきており、ハード面 では強いといえる。そこで、これらのスキルや人材を活用し、測定の高精度化などソフト 面を充実させることにより、超臨界流体の特異的な特性の解明を進展し、化学プロセスの 構築を加速する可能性が期待できる。 ②超臨界流体のマクロ特性の解析(産総研超臨界流体 RC 集中研/産総研環境調和技術 RI /東北大/九州大/近畿大/高温高圧研) (目標) 超臨界水、超臨界二酸化炭素及び有機物あるいは無機物を対象とする応用技術開発に必 須となる超臨界流体と有機化合物、高分子、無機物等との混合系の相平衡、溶解度、界面 張力等の平衡物性、輸送物性、熱物性等のマクロ特性データの測定及び解析とそれらをベ ースにした高精度推算手法の確立を行い、マクロ特性のデータベース化を目指す (目標の妥当性、設定理由、根拠等) 超臨界流体技術は基本的に、超臨界流体が有する溶媒特性が温度・圧力という操作変数 を因子として大幅かつ連続的に変化することを利用するものである。利用技術で対象とな る混合系の基礎特性データは、本プロジェクトのみならず全ての利用技術に必須のもので あり、その系統的な測定、解析及び蓄積、さらには最小限の入力パラメータで目的とする 物性情報が得られるデータベースはそれ自体が超臨界流体の科学的な側面の基礎基盤とな り、かつ工学的基盤技術となりうる。更に報告データの少ない条件での物性データの測定、 解析及び蓄積を図ることにより、超臨界流体利用技術全体において実用化プロセスの開発 を加速することが期待できる。 ③高圧ガス供給システムの安全技術(産総研超臨界流体 RC 集中研) (目標) 超臨界流体技術において超臨界水と混合併用される酸素などの高圧ガスを安全に経済的 に加圧・移送・保持する技術の開発を行い、超臨界流体技術を実用化・運転する際の保安 基盤データを蓄積し、保安システムを確立する。 (目標の妥当性、設定理由、根拠等) 一口に超臨界流体といっても、原料として供給される状態は物質により異なっている。 二酸化炭素は高圧液化ガスとして、水は液体として供給される。これらは,超臨界流体技 術で使用される状態ではいずれも高密度膨張性流体であり、高圧ガスとしての取扱が不可 欠であるが、熱力学的には安定、不燃、不活性、安価という特徴を有しており,これらの 特徴を踏まえた安全基盤を確立することがこれらの技術を実用化・普及するための重要な 要因である。また、現時点で想定されているプロセスの中で超臨界水酸化処理においては、 酸素は酸化剤として使用されるが、周知のように酸素は低圧でも異常燃焼や爆発といった 事故が発生しており、取り扱いにおいては危険が伴う場合が多い。400℃、30MPa 以上とい う過酷な条件で酸素を安全かつ経済的に工業化した例はなく、酸素については実用化に向 けた設計指針の確立が必要である。 2-17 3.3 目標達成を判断するための指標について (1) 超臨界流体プロセスの技術開発 (イ)有機合成プロセス技術の研究 表 3.3(1)(イ)に示すように個別研究開発項目の中間目標、最終目標は以下の通りである。 表 3.3(1)(イ) 中間目標と最終目標表 個別要素技術 中間目標 最終目標 ①超臨界二酸化炭 超臨界二酸化炭素中での水素化 様々な芳香族化合物、特にメチレ 素反応場を利用し 反応に有効な反応システムを開 ンジアニリンについて産業上有 た水素化反応技術 発する。 用な高効率核水素化反応プロセ スを開発する。 アニリンの核水素化反応で転化 核水素化反応では転化率 95%、反 率:90%及び選択率 80% 応選択率:ジシクロヘキシルメタ ン ジ ア ミ ン の 選 択 率 : 90% 、 cis-cis 体選択率 70%を目標とす る。 不飽和アルコールの収率 37%、 選択率 93% ②超臨界二酸化炭 二酸化炭素を効率的に固定化で 素を基質とする有 きる触媒などによる合成技術を 機合成技術 開発する。 環状炭酸エステル合成 固体触媒(流通系):転化率 25%、選択率:80% 錯体触媒:転化率 95%、選択 率:95% 不飽和アルコールの収率 80%、選 択率 99% 環状炭酸エステルの高効率合成 技術の確立、 固体触媒(流通系) :転化率 50%、 選択率:95%、 錯体触媒:転化率 94%、選択率: 99% ウレタン化合物合成 ウレタン化合物の高効率合成技 40℃及び 12 時間の 2-オキサゾ 術の確立 リジノン合成で収率 67% 40℃及び 6 時間の 2-オキサゾリ ジノン合成で収率 90% ③超臨界メタノー 超臨界メタノールによるゼオラ 超臨界メタノールプロセスを開 ルを利用した芳香 イト触媒を利用した 2,6-ジメ 発する。 族化合物合成技術 チ ル ナ フ タ レ ン(2,6-DMN)の合 成反応を実施する。 神戸製鋼所・モービルが共同開 発中の気相反応によるナフタレ ンからの 2,6-DMN 合成法のデー タである、転化率 13%、全ジメ チルナフタレン中の 2,6-体比 率 12%、2,6-体/2,7-体の生成 比 1.4 を当面の目標とする。 2-18 2,6-ジメチルナフタレンの合成 反応に関しては、高温のメチル化 反応に耐える、寿命の長い触媒系 を開発し、転化率 30%、全ジメチ ルナフタレン中の 2,6-体比率 65%、2,6-体/2,7-体の生成比 2.6 を目標とする。 ④超臨界メタノー ル反応場を利用し たメチル化反応技 術 固定床流通式反応装置を用いて 2-アミノエタノールの N,N-ジ メチル化反応における反応条件 の最適化を検討する。300℃で転 化率:70%、メチル化生成物の選 択率 90%及びワンパス反応での ジメチル化生成物の収率 40%を 目指す。 様々な二官能性アミン化合物の N-アルキル化反応への一般化を 図り、産業上有用な多官能アルキ ルアミン化合物の製造プロセス を確立する。300℃で転化率:100% 及びワンパス反応でのジメチル 化生成物の収率 90%を目指す。 メタクレゾールのオルト位ジメ チル化反応に有効な触媒探索の 検討を行う。 350℃で転化率:80%、オルト位 メチル化生成物の選択率 90%、 ワンパス反応でのジメチル化生 成物の収率 40%を目指す。 副生物が生成しない高効率な 芳香族化合物のアルキル化技術 の確立を図る。想定プロセスは 300℃∼350℃で、メタノール収支 100%、触媒寿命 200 時間以上、転 化率 100%及びワンパス反応での オルト位ジメチル化生成物の収 率 95%を目指す。 既存プロセス置き換えを想定し た超臨界水を利用した水和反応 プロセス技術を構築する。具体的 にはプロピレンからイソプロピ ルアルコールへの水和反応につ いて、選択率 95%を目指す。 ⑤超臨界水反応場 超臨界水反応場においてモデル を利用した水和反 としてヘキセンを用いたオレフ 応技術 ィン水和反応技術を検証する。 また流通法によりプロピレンか らイソプロピルアルコールの転 化率 20%、選択率 70%を目指す。 そのための高圧ガス対応の超臨 界有機合成試験装置を作成す る。 ⑥超臨界水を反応 超臨界水の酸・塩基触媒機能及 場とする物質合成 び高温・高圧反応場であるとい 技術 う特異特性に適合する有機合成 反応を探索し、その反応過程を 5 例程度解明する。超臨界水中 では反応が1秒以下の高速で進 展する場合があり、それに対応 可能な超臨界水有機合成反応に 適した実験室規模の反応装置を 開発する。 2-19 探索した 20 例程度の有機合成反 応の内、有望な反応について 有機合成プロセスを構築し、基本 特許を確立する。 (ロ)材料プロセッシング技術の研究 表 3.3(1)(ロ)に示すように個別研究開発項目の中間目標、最終目標は以下の通りである。 表 3.3(1)(ロ)中間目標と最終目標 個別研究開発項目 中間目標 最終目標 ①熱可塑性高分子の 発泡径を制御するための因子 微細発泡体を得るための制御手 超微細発泡成形の基 を明らかにし、ポリプロピレン 法および最適な成形加工プロセ 盤技術の開発 製発泡シートの気泡径 10µm 程 スを明らかにし、ポリプロピレ 度を得る。 ン製発泡シートの気泡径 1 ∼ 10µm 程度、発泡倍率 5 倍以上を 達成する。 ② 無機/ 有 機 高 分 子 超臨界注入法による有機高分 金属、あるいは金属酸化物の微 複合材料の創製技術 子材料の金属酸化物や金属の 粒子を有機高分子材料に分散さ の開発 微粒子の分散形態と操作因子 せる複合化技術を確立する。微 との関係を定量化し、微粒子分 粒子分散相の形態と操作条件と 散機構を明らかにする。 の関係を明らかにし、本方法の 有効性と普遍性を確立する。 ③急速膨張法による 超臨界二酸化炭素/金属アル 二酸化炭素を媒質とした超臨界 無機材料の創製技術 コキシド系における各種原料 急速膨張法による材料創製の基 の開発 アルコキシドの適用性、および 盤データを蓄積し、同手法を、 超臨界急速膨張法の基本特性 µm オーダーのパターン化材料 の明確化と、パターニングの実 等の薄膜製造の基盤技術として 証。 確立する。 ④超臨界水反応場を 各種の金属酸化物微粒子特性 本手法のモデル化により、粒子 利用した無機微粒子 とプロセス変数 (操作因子)と 特性制御技術を確立する。粒子 の合成技術の開発 の関係を明確化し、微粒子生成 特性と機能性との相関を明らか 機構に関する知見を得る。 にし、機能性無機微粒子の創製 の基盤技術を確立する。 2-20 (ハ)エネルギー・物質変換技術の研究 表 3.3(1)(ハ)に示すように、個別研究開発項目の中間目標、最終目標は以下の通りであ る。 表 3.3(1)(ハ) 中間目標と最終目標 個別研究開発項目 ① 超臨界水酸化反応に よるエネルギー回収プ ロセスの開発 (a)反応モデル 中間目標 固形炭素の超臨界水酸化反応 に対する観測方法の構築。 反応速度と操作条件および環 境条件の関係を明らかにし、基 礎的シミュレーションを行う。 硫黄を含有する有機固体の分 解を想定した超臨界水酸化雰 囲気での材料腐食を把握する。 最終目標 超臨界水酸化プロセスの反応 器の設計、解析に適用できる、 反応モデルと流動モデルを結 合したシミュレーションモデ ルの確立。 超臨界水酸化雰囲気下で使用 する反応器材料の選定・開発 に利用する。 ベンチスケールでの試験装置 を設計・製作する。 重質油転換反応の反応挙動を 把握するとともにプロセスデ ータの取得を行う。 超臨界水中における重質油転 換反応の反応メカニズムを解 明する。このプロセスの設計 手法の開発と、経済的条件の 把握及び骨子となる要素技術 を確立する。 (b)還元雰囲気下での材 超臨界水還元性雰囲気下にお 料腐食の評価 いて有望と考えられる材料を 選定し、それらの腐食速度を把 握し、腐食メカニズムの解明す る。 未利用資源の有効利用を想定 した模擬環境下での腐食速度 の把握、応力腐食割れ感受性 および材料強度の把握を行 い、装置材料の選定および寿 命評価を行う。 ③ プ ラ ス チ ッ ク 廃 棄 物 PVC からの可塑剤、塩素を 2 段 の 化 学 リ サ イ ク ル プ ロ 階で除去し、ポリエンを得る条 セスの開発 件の確立。 (a)変換反応技術 流通式超臨界水反応装置を構 築し、ポリエンおよびポリカー ボネートの有用物質変換に関 する反応条件と生成物の関係 を把握する。 反応の最適化を行い、超臨界 プロセスの反応容器の設計、 解析に適用する。 (b)高圧供給系の構築 スラリーの移送に適したポン プ、配管設計方法を確立し、 粉砕されたプラスチック廃棄 物を水と共にスラリー状で超 臨界反応場へ供給できるシス テムを構築する。 (b)装置材料の選定 ②重質資源の軽質化・ク リーン化に関する開発 (a)重質油の転換プロセ ス 往復動ポンプによるスラリー 送液ポンプを設計・製作し、水 −プラスチックスラリー(プラ スチック粒径 100∼200μm)の 吐出圧力 35MPa におけるスラ リー濃度と吐出流量の関係や 容積効率変化を確認する。 2-21 プラスチックを連続的に供 給し超臨界反応での生成物を 連続的に取り出す一貫した超 臨界プロセスを確立する。 (2) 基礎基盤技術の開発 表 3.3(2)に示すように個別研究開発項目の中間目標、最終目標は以下の通りである。 表 3.3(2)中間目標と最終目標 個別要素技術 中間目標 最終目標 ①超臨界流体のミクロ In-situ 測定セルの開発及び局 超臨界水、超臨界二酸化炭素 溶媒特性の解明 所特性の定量化、超臨界水、超 及び超臨界メタノールのミク 臨界二酸化炭素、超臨界メタノ ロ溶媒特性の解明及びそのデ ール中での反応機構の追跡・解 ータベース化。 明。 ②超臨界流体のマクロ 超臨界水の高圧相平衡、固体― 超臨界流体系の平衡物性、輸 特性の解析 超臨界流体系の膨潤度・溶解 送物性、熱物性等のマクロ特 度、超臨界流体―高分子系の熱 性データの蓄積と推算法を複 物性・界面張力・粘度、超臨界 合 さ せ た デ ー タ ベ ー ス の 構 流体―アルコキシド等の溶解 築。 度等についての測定装置・測定 方法の確立とデータ蓄積。 ③高圧ガス供給システ 超臨界流体技術に関連した高 安全かつ経済的なシステム設 ムの安全技術 圧ガス供給技術、特に危険な酸 計を行うための設計指針を作 素について内外のデータを調 成するとともに、公的な機関 査し、問題点や課題を検討す との連携を視野に入れて、高 る。 圧酸素供給の保安システム設 調査内容を反映させ安全を考 計指針の策定。 慮した発火試験装置、粒子衝撃 試験装置、断熱圧縮試験装置等 の試験装置を設計・開発する。 高温酸素雰囲気中での有機材 料の発火試験等を行う。 2-22 4. 事業計画の内容 4.1 全体事業、研究開発項目の計画内容 4.1.1 全体事業計画の概要 本事業「超臨界流体利用環境負荷低減技術」は図 4.1 に示すように、「超臨界流体プロ セスの技術開発」「基礎基盤技術の開発」と調査研究からなる。「超臨界流体プロセスの 技術開発」では、超臨界流体の特性を利用することにより革新が期待される有機合成プロ セス技術、材料プロセッシング技術、エネルギー・物質変換技術の分野において、実用化 を目指した個別テーマの開発とそれら超臨界流体プロセスの開発を通して、要素技術を体 系化する。「基礎基盤技術の開発」では超臨界流体のミクロ・マクロ特性の測定・解析・ 推算手法の確立および相平衡や物質移動・伝熱・流動等の平衡、輸送現象と反応機構等の 化学・物理現象の解明を行うとともに、超臨界流体プロセスに関連する高圧操作の安全指 針を確立する。 これらの成果と「調査権研究」における国内外の技術調査およびデ−タ・情報収集の成 果を統合し、溶媒特性の測定・推算手法、化学・物理現象の予測モデル、安全指針・規格 の3つの要素モデルからなる「基礎基盤」とプロセスシミュレーション・プロセス設計、 単位操作・反応器等の装置設計法、触媒設計・装置材料選定指針の3つの要素技術からな る「工学基盤」に体系化する。 さらに、最終的には基礎基盤と工学基盤を包括し、現象の発見と実用化を可及的に推進 しうる共通基盤技術として公開する。本共通基盤技術は実験技術と生産技術が融合された 新たな技術体系を目指すもので、わが国の産業競争力と国際貢献に資する知的財産として 認知されるものである。 4.1.2. 研究開発項目の概要 (1) 超臨界流体プロセスの技術開発 (イ)有機合成プロセス技術の研究 超臨界流体として、二酸化炭素、水、アルコールを媒体あるいは反応基質として用い、 エネルギー・環境・資源面から新規なプロセス開発が社会的に要請されている合成反応プ ロセスの幾つかを具体例として取り上げ、実用化に必要な反応速度、選択率、収率の目標 値を達成するための反応条件を特定する。この研究開発過程において、超臨界流体の特性 変化と反応性(速度、選択性、収率)との関係を定量的に把握し、反応機構を解明し、反 応モデルを提示する。さらに、反応性に影響を与える操作因子(温度、圧力、濃度、触媒、 共溶媒等)を変化させて、最適操作条件を見いだす。超臨界流体反応プロセスにおいては 昇温、降温、昇圧、降圧、混合、分離等の操作により、溶媒特性が大きく変化するため、 反応探索においても実プロセスをイメージした実験条件の設定手法が重要となる。そのた めには、反応モデルで予測される条件を設定しうる実験装置の開発が実用化の成否を決定 すると言っても過言ではない。言い換えれば実験技術と生産技術の融合であり、本研究開 発においては反応探索と実用化をイメージした実験装置の開発を有機的に連携させること により、装置設計法、プロセスシミュレーション・プロセス設計法の要素技術を開発し、 工学基盤として体系化する。 2-23 (ロ)材料プロセッシング技術の研究 本研究開発においてはプロセス革新の要請の大きな高分子系材料と無機微粒子材料のプ ロセッシング技術を取り上げる。 超臨界流体を用いた高分子材料プロセッシングにおける最も重要な要素技術は高分子相 への超臨界流体の溶解、可塑化、高分子相からの超臨界流体の脱離の制御技術である。本 研究開発ではこの三つの過程の機構を平衡論及び速度論的に解明し、基礎基盤の要素モデ ルを導出する。また、実用化の課題として、目標が具体的に設定でき波及効果の大きな高 分子の発泡技術を取り上げ、10µm 以下の微細発泡成形プロセス開発を目標とする。具体的 には、超臨界流体による高分子との相互作用に基づく発泡の可視化・高分子の粘性特性な どのオンライン計測技術を開発し、発泡セルの核形成・成長機構の解明とモデル化を行い、 微細発泡体を得るための発泡制御手法および最適成形加工プロセスを明らかにし、工学基 盤を確立する。また、高分子相の拡散・溶解現象の材料プロセッシングの応用例として、 高分子表面層への無機ナノ微粒子の注入を取り上げ、新規手法としての可否を見極めると ともに、溶解現象の機構を解明し、基礎基盤の構築に資する。 超臨界流体を用いた微粒子、薄膜などの機能性材料製造法として、超臨界流体の溶解力 の可制御性の利用が考えられる。本研究では急速膨張法の変形として、液相に超臨界流体 を溶解させて低粘性化し、ノズル噴射時の流動と相分離による機械的な衝撃による微粒子 化のプロセスを提案し、その実用化の可否を検討する。 無機機能性微粒子の製造方法として汎用性の高い手法として超臨界水中での反応晶析を 取り上げ、(ィ)と同様な実プロセスのイメージ可能な実験装置を開発し、粒子径・形態・ 結晶構造・組成等の粒子特性と操作因子との関係を定量的に把握し、晶析モデルや装置設 計等の要素技術を確立し、基礎基盤と工学基盤の構築に資する。 (ハ)エネルギー・物質変換技術の研究 超臨界水を主に用いた廃棄物、未利用資源、難分解性物質からの工業原料への変換およ びエネルギー回収プロセスの実用化に必要な基礎基盤と工学基盤技術を開発する。 超臨界水酸化反応による固体有機物の処理は未利用資源の利用において重要な課題であ るが、殆ど研究開発は行われていない。本研究開発では、超臨界水中での燃焼挙動が観察 できる装置を開発し、反応速度と流動状態を測定し、反応と流動のモデル化を行い、両者 を結合したシミュレーションモデルを確立する。このモデルを用い、超臨界水中での固体 酸化プロセスの反応器の設計・解析に適用し、固体を含む多様な未利用資源のエネルギー 回収プロセスの実用化を検討すると同時に、成果を基礎基盤と工学基盤として体系化する。 未利用重質炭素資源を対象に、超臨界水中での軽質化・クリーン化に係わる加水分解反 応や水素化等の反応特性及びプロセス特性を把握し、得られたデータの工学基盤化を図る とともに、高付加価値化プロセスを開発する。 さらに、亜臨界から超臨界水までの熱水環境中での相分離や加水分解・熱分解反応等の 種々の分離・反応特性を利用し、プラスチックのケミカルリサイクルプロセスの開発を行 う。付加高分子の代表として塩ビを取り上げ、可塑剤の分離、脱塩素、生成ポリエンの特 性と低分子化による化学原料の回収を検討する。また、縮合高分子としてポリカーボネー トを取り上げ、モノマー回収の有効性を検討し、最適操作条件を特定する。さらに、必要 2-24 な要素技術として、超臨界水中に固体‐水スラリーを高濃度で連続供給可能なシステムを 確立する。 また、超臨界水中での装置材料の腐食現象の解明、材料腐食の評価を行い、プロセスの 操作条件に適した材料の選定や材料寿命を評価する。 (2)基礎基盤技術の開発 各プロセスの共通基盤技術確立に必要な超臨界流体中の局所特性、反応性に及ぼす溶媒 効果等のミクロ物性及びマクロ物性及びその動的変化について、In-Situ を含めた測定装 置・手法の開発、高精度化を図り、データの集積・解析を行う。これらのデータおよび(イ) ∼(ハ)のプロセス開発段階で得られた基礎物性データ等を集約して超臨界流体に関する 物性データベースを構築を行うとともに、 プロセス構築が可能となる技術基盤を開発する。 さらに、さらに、高圧ガス供給全体および危険性の高い酸素ガスに係わる安全性と保安シ ステム開発に必要な工学基盤技術を開発する。 4.1.3 全体スケジュール、予算の推移 各研究開発項目の有機的連携等については、図 2.3 及び全体事業計画の概要(図 4.1)で 示した。また、全体スケジュールおよび予算の推移を図 4.1.3 に示す。 2-25 実用化 超臨界流体プロセスの技術開発 要素技術 実用化を目指した (WG1,WG2,WG3) 個別テーマの開発 工 学 基 盤 プロセスシミュレーション プロセス設計法 単位操作・反応器等 装置設計法 触媒設計指針 装置材料選定指針 実験・生産技術の融合 2-26 基 礎 基 盤 溶媒特性の 測定・推算手法 現象の 発見 化学・物理現象の 予測モデル 安全 指針・規格 共 通 基 盤 技 術 国内外の技術調査 ミクロ・マクロ特性・反応機構 データ・情報収集 の解明と安全指針の確立 基礎基盤技術の開発 (WG4) 調査研究 図. 4. 1. 1 全体事業計画の概要 図 4.1.3 年度 超臨界流体利用環境負荷低減技術研究開発の全体スケジュールおよび年度別予算の推移 平成12年度 平成13年度 平成14年度 平成15年度 平成16年度 事項 研究項目 超臨界流体利用環境 反応装置等の設計・製 作 負荷低減技術 イ) 有機合成プロセス 技術の研究 ロ)材料プロセッシン グ技術の研究 2-27 ハ)エネルギー・物質 変換技術の研究 (2)基礎基盤技術 (3)超臨界流体技術 の調査研究 反応装置の設計・ 作成 反応の探索 反応システムの 構築 触媒の探索 解析システムの構築 操作因子の探索 プロセスの解析 構造制御因子 の解明 反応系、供給系、観測 系の構築。各種基礎デ ータの取得 超臨界水中での 反応挙動と腐食 機構の解明、ス ラリー送液試験 測定装置の設計・ 開発 関連文献調査 技術動向調査 年度別予算(百万円) 985 特別会計(石特) 985 合計 985 プロセスデータの取 得と特性解析 物性等のデータ解析 中 間 モ ニ タ リ ン グ 評 価 プロセスの最適化 データ蓄積 プロセス総合評価 共通基盤技術整備 データベースの構築 触媒設計 反応の最適化 プロセスの最適化 プロセスデータの取 得 プロセス評価と構築 構造制御手法の確立、 材料機能特性の評価 プロセスの最適化 機能発現機構の解明 プロセス評価 材料機能化技術の確 立 反応モデル構築、プロ セス特性解析、材料寿 命評価、設計因子の策 定 シミュレーションモ デルの構築と評価、プ ロセス最適化、材料選 定指針の提示、 設計手法の確立 プロセスの構築と総 合評価 ミクロ及びマク ロデータの測定 データ解析 データ蓄積 プロセス設計へのフ ィードバック 物性等のデータベー スの構築 海外関連情報収 集・技術動向調査 海外関連機関との情 報交換/共同調査 技術動向調査・分析 海外関連機関との情 超臨界流体技術の総 報交換/ 共同WS等企 合評価 画/技術動向分析 安全評価指針の提示 1,300 1,300 1,300 1,300(予定) 1,300(予定) 1,300(予定) 事後モニタリング評価 (1) 超臨界流体プロ セスの技術開発 反応挙動の解明 物性等のデータ 取得 4.2 研究開発項目毎の内容の詳細 4.2.1. 研究開発項目の計画の概要 (1) 超臨界流体プロセスの技術開発 (イ) 有機合成プロセス技術の研究 ①超臨界二酸化炭素反応場を利用した水素化反応技術(産総研超臨界流体 RC 集中研/東工 大/産総研超臨界流体 RC) 基質としてアニリン及び不飽和アルデヒドを取り上げ、超臨界二酸化炭素中での水素化 反応に有効な反応システムを開発する。温度、圧力等の反応条件、触媒構造の最適化とと もに、反応システムにおける基質や生成物、触媒の相変化を把握することで、二酸化炭素 や添加剤の効果を明確にし、反応系の均一化による高活性化や超臨界二酸化炭素の分離抽 出能力を利用した多相系での水素化反応の高選択化につなげる。さらに他の芳香族化合物 等の有機化合物への応用をはかり、本技術の普遍化を目指す。 ②超臨界二酸化炭素を基質とする有機合成技術(産総研物質プロセス RI/(産総研超臨界 流体 RC) 超臨界二酸化炭素とエポキシドの反応による高効率環状炭酸エステル合成技術を開発す る。環状炭酸エステルは現状では液相均一系触媒反応によって合成されているが、触媒の 分離回収および反応速度の点に課題が残されている。本課題においては、超臨界二酸化炭 素を利用することにより、高速、高選択的、かつ触媒分離不要な革新的プロセスの構築を 目指す。具体的には、超臨界二酸化炭素中で有効に作用する固体触媒および錯体触媒を設 計、合成し、その触媒性能を評価する。また、超臨界二酸化炭素およびエポキシドと固体 または均一系触媒との相互作用を分光学的に解析し、触媒設計にフィードバックする。更 に、二酸化炭素とアミノアルコールから、環状ウレタン化合物である2−オキサゾリジノ ンの合成技術を開発する。2−オキサゾリジノンの合成方法は、ホスゲンや炭酸エステル を用いる方法が知られているが、反応温度が高く、24時間以上の反応時間を要する場合が 多い。本研究では、二酸化炭素、アミノアルコール及び脱水縮合剤を使い、低温及び短時 間合成技術開発について検討する。温度、圧力、反応時間の影響を調べ、最適合成条件を 明らかとし、更には極性溶媒の効果、あるいは触媒反応についても検討する。最終的には環 状炭酸エステルとウレタン化合物の合成技術を核として、さらに超臨界二酸化炭素を利用 した二酸化炭素固定化技術の普遍化をめざす。 ③超臨界メタノールを利用した芳香族化合物合成技術(産総研超臨界流体 RC 集中研/東工 大/静岡大) 超臨界メタノールを用い、ゼオライト触媒の細孔を利用した形状選択的メチル化反応に よるナフタレンから 2,6-ジメチルナフタレンの合成反応を実施し、高活性、高選択的、か つ長寿命の触媒系超臨界反応プロセスを開発する。また、 上記反応の開発を実施するにあた り、分光学的手法を用いて、ゼオライト触媒の細孔内での超臨界メタノールおよび反応基 質との分子間相互作用を測定するとともに、触媒表面での失活原因物質の生成を捉えるこ とにより、超臨界流体のミクロ物性、溶媒和構造等と位置選択性、触媒寿命等との関係を明 らかにしていく。 ④超臨界メタノール反応場を利用したメチル化反応技術 (産総研超臨界流体 RC 集中研/東 工大) 2-28 二官能性アミンとして、市場性が大きく産業上の価値が高い N,N-ジメチルアミノエタノ ールを、超臨界メタノールを媒体かつメチル化剤として用いて、2-アミノエタノール原料 から合成する反応について、反応場を制御するパラメータ(温度、圧力、原料濃度、超臨 界流体の種類など)を変化させて最適反応条件を見いだす。さらに、有効な触媒を見出し た後、3-ジメチルアミノ 1-プロパノールや N,N-ジメチルエチレンジアミンなど他の有用 化合物合成への展開を図る。また、フェノール類のオルト位ジメチル化反応についても同 様に実施する。 また超臨界反応場で有効に作用する固体触媒の設計指針の確立を目指して、 超臨界流体中でのプローブ分子の吸着挙動解析やプローブ反応を行う。 ⑤超臨界水反応場を利用した水和反応技術(産総研超臨界流体 RC 集中研) 酸触媒代替反応として有機化合物の水和反応を取り上げ、具体的にはオレフィン化合物 やニトリル化合物の水和反応技術の開発を目指す。反応技術の開発には以下の装置製作及 び試験を実施する。第一に、流通型反応試験装置を製作し、目的生成物の収率、選択率に 対する温度、圧力、反応基質濃度等の操作因子を把握する。第二に、in-situIR 分光測定 システムを製作し、反応メカニズムを捕らえると共に反応基質におよぼす水の溶媒効果を 把握する。 これらの試験で得た知見を基に、 超臨界水を用いた水和反応技術の開発を行い、 その反応プロセスを構築する。 ⑥超臨界水を反応場とする物質合成技術(産総研超臨界流体 RC) 超臨界水の酸・塩基機能や高温・高圧反応場であるという特徴に適合する有機合成反応 を探索する。超臨界水中では反応が高速で進行することが多いため、反応を捕らえるのが 困難である場合も予期され、反応探索や反応過程の解明を円滑に進展させるために、超臨 界水有機合成反応に適した実験室規模の流通式反応装置を開発する。探索した有機合成反 応の内、有望な反応についてプロセスデータを調べて有機合成プロセスを構築し、基本特 許を確立する。 (ロ)材料プロセッシング技術の研究 ①熱可塑性高分子の超微細発泡成形技術の開発(産総研超臨界流体RC集中研/産総研環境 調和技術RI/東北大) 連続式微小気泡挙動解析装置を試作して、超臨界流体の溶解挙動、粘度の計測、発泡セ ルの形成過程の可視化を行う。さらに、超臨界流体とポリマーとの混合・混練工程の最適 化及び核形成の精密制御などの方法を検討し、セル密度が大きく、かつ微細な発泡体を安 定して成形するための基本要素技術を開発する。また、新しい成形加工プロセスの確立を 目指し、得られた基本要素技術の成果に基づいて、溶解・混練工程には単軸あるいは二軸 スクリュ押出機の適用、発泡セルの成長制御工程には、カウンタープレシャー成形、射出 圧縮成形、射出プレス成形などと組み合せた複合成形プロセスを検討し、新しいポリマー 素材の成形加工技術の開発に活用できる基盤技術を開発する。 ②無機/有機高分子複合材料の創製技術の開発(産総研超臨界流体RC集中研/高温高圧研) 高圧セル内に、有機高分子材料と前駆体(有機金属錯体、金属アルコキシドなど)を封 入し、超臨界二酸化炭素によって、有機高分子材料を可塑化させるとともに、前駆体を溶 解し、材料の内部に注入する。注入後の前駆体は、還元や加水分解などにより、金属や金 2-29 属酸化物に変換する。最適条件を求めるために、温度、圧力、注入時間の影響とエントレ ーナの添加効果を調べる。微粒子の分散層形成メカニズムを解明するために、各注入条件 に対応する、微粒子の径、分散密度、分散層の形成深さを分析・評価する。また、微粒子 の分散状態と機能性との関係を把握し、機能発現機構の解明を行い、機能性無機/有機高分 子複合材料の創製技術とするため、微粒子分散制御手法などの基盤技術を確立する。 ③急速膨張法による無機材料の創製技術の開発(産総研超臨界流体 RC 集中研/高温高圧 研) 原料となる金属アルコキシド等と超臨界二酸化炭素の相平衡を測定し、急速膨張法が適 用可能な材料種を明確にする。また、超臨界流体相あるいは超臨界流体を溶解した液相を ノズルから噴射して基板上に製膜する際の、噴射の状態や、付着、固化過程等の解析を行 い、急速膨張法あるいは変形急速膨張法による製膜のプロセスを解析する。これらの結果 を基に、膜質、膜厚の制御や、多成分系原料による複合材料化などを試み、マスクパター ンを用いたパターニングへと発展させる。 ④超臨界水反応場を利用した無機微粒子の合成技術の開発(産総研超臨界流体 RC) 超臨界水中での水熱合成反応による微粒子製造プロセス開発・設計のため指針を得るた め、実験装置の試作を行うとともに、種々の金属酸化物微粒子合成における操作変数と粒 子特性(サイズ、分布、形態)の関係を明らかにし、反応速度論、溶解平衡論から系統的 な整理を行う。並行して、粒子特性と機能性との関係を検討し、機能発現機構を解明する。 超臨界水熱合成技術を機能性材料創製技術として確立するための基礎基盤と工学基盤を開 発する。 (ハ)エネルギー物質変換技術の研究 ① 超臨界水酸化反応によるエネルギー回収プロセスの開発 (a)反応工学モデルの開発(産総研超臨界流体 RC 集中研/東大) 難燃性有機固形物を超臨界水中に固定し酸化反応を行い、その経時変化の観察や分解後 の液、ガスの分析を通して反応モデル(温度、圧力などの操作条件と反応経路・反応速度 の関係)を開発する。また、酸化反応で難燃性有機固形物周りにできる中間生成物の分析 を行うともに、流動場を観測する為の装置を構築し流動モデル(操作条件と流動状態の関 係)を開発する。反応モデルと流動モデルを結合したシミュレーションモデルを構築し、 反応器の設計に適用する。 (b)装置材料の選定(産総研超臨界流体 RC 集中研) 管型試験炉および槽型試験炉を持つ材料腐食評価試験装置を用いて材料評価を行う。管 型試験炉は、二重管になっており、内管を試験体とする。試験体の軸方向に温度分布を持 たせ、各温度での腐食を同時に評価できる。槽型試験炉は、オートクレーブ式で、槽内に 試験片をセットし、全面腐食、隙間腐食および SCC を評価できるものである。イオウある いは塩素を含有する有機固体を超臨界水酸化反応により分解することを想定した酸化性超 臨界水環境下における各種金属材料の耐食性を評価し、反応器材料の選定を行う。また、 超臨界水中で酸化性雰囲気下での安定性、安全性に優れた材料の選定・評価を行う。 ②超臨界水中水素化反応等による未利用重質資源の軽質化・クリーン化に関する開発(産 2-30 総研超臨界流体 RC 集中研) (a)重質油の転換 超臨界水を用いた場合の操作因子(温度、圧力、滞留時間、W/F 等)をパラメータとし た重質油の軽質化・クリーン化を行い、反応挙動の調査を通して実用化のためのプロセス 構築を行う。また、ベンチスケールでの試験を行い、供給、反応、分離、伝熱等に関する 特性の把握および設計データを取得するとともに、モデル化を図る。 さらに、工業化プロセスとして最も適した形態について、システム試験を実施し、工業 化評価およびモデルの検証を行う。 (b)還元雰囲気下での材料評価(産総研超臨界流体 RC 集中研) バッチ式腐食試験装置あるいは流通式腐食試験装置を用いて、超臨界水の還元性雰囲気 下における温度および雰囲気等をパラメータとした材料腐食試験を行い、腐食速度および 腐食形態の把握を行う。一方、S、Cl が存在する環境下での応力腐食割れを評価するため、 超臨界用 SSRT 試験装置を製作し、模擬環境下における応力腐食割れ感受性試験を行う。さ らに、「重質油変換プロセスの開発」のプロセス試験装置等で実環境下腐食試験を考慮し た腐食試験を行う。 これらの結果を総合して、超臨界水の還元性雰囲気下における装置材料の選定・評価を 行う。 ③プラスチック廃棄物の化学リサイクルプロセスの開発 (a)変換反応(産総研超臨界流体 RC 集中研/東北大) 付加重合プラスチックであるポリ塩化ビニルから可塑剤であるフタル酸エステルの回 収、脱塩素処理法を確立し、ポリ塩化ビニルをポリエンに変換する。ポリエンの特性及び 超臨界水中での分解や反応特性を評価し、有効な化学リサイクルプロセスを開発する。縮 重合プラスチックとしてポリカーボネートを超臨界水中でモノマー等の有用物質に変換す る反応について、反応条件と収率等との関係を明らかし、化学リサイクルプロセスを構築 する。 (b)高圧供給系の構築(産総研超臨界流体 RC 集中研) プラスチックを粉砕できる湿式石臼型粉砕機を用いて、回転数、砥石のクリアランス等 をパラメータとした粉砕の効率、およびその得られる粉砕粒径との関係を把握し、ポンプ でのプラスチック廃棄物のスラリー送液が可能な粒径範囲での効率的な粉砕条件を把握す る。粉砕されたプラスチック廃棄物を水と共にスラリー状で、水の臨界圧力以上の圧力場 へ供給する装置として、往復動ポンプを選定し、スラリー濃度、粉砕粉粒径、比重などの パラメータ変化による部品クリアランスと容積効率の関係や、流速と配管内での沈降、配 管の圧力損失等の関係を試験により把握し、スラリーの移送に適したポンプ、配管設計方 法を確立する。 (2) 基礎基盤技術の開発 ① 超臨界流体のミクロ溶媒特性の解明(産総研超臨界流体 RC/産総研環境調和技術 RI) 高温高圧 in-situ 分光学的測定セルを設計・製作し、データ数の少ない超臨界水、超臨 界二酸化炭素及び超臨界メタノール中での溶質分子周囲の FT-IR、NMR、Raman スペクトル 等を測定し,波数シフトや吸光度変化から局所密度などのミクロ特性や溶媒和構造に関す 2-31 る定量的数値データを算出する。また時間分解スペクトル法を併用することで、反応系の 場合には、反応中間生成物などの追跡を行い、反応機構や経路に関する測定手法を確立す る。これらの成果を取り纏め, 局所特性に関するデータの一般化とデータベース化を図る。 なお、in-situ 分光学的測定測定技術の高度化を図るための測定セルの開発・改良は並行 して行う。 ② 超臨界流体のマクロ特性の解析(産総研超臨界流体 RC 集中研/産総研環境調和 技術 RI/東北大/九州大/近畿大/高温高圧研) 超臨界水及び超臨界二酸化炭素と有機化合物、高分子或いは無機物との混合系の平衡物 性(相平衡、溶解度、PVT、誘電率、界面張力等)、輸送物性,熱物性等の既存データを精 査して物性マップを作成し、 ニーズが予想されるにもかかわらず、 データが少ない領域(系) を特定し、データの測定と解析を行い、データを蓄積する。なお、そのための装置開発を 必要に応じて行う。特に、本プロジェクトの課題に鑑みて、超臨界二酸化炭素―高分子を 対象とするの系の輸送物性と熱物性データの系統的蓄積を優先実施する。また、超臨界水 熱合成や急速膨張法等の機能性無機材料製造の基礎としての超臨界水及び超臨界二酸化炭 素と金属塩やルコキシドの相平衡を測定する。 それらのデータをベースにして、分子間相互作用等に立脚した熱力学推算手法の推算精 度を定量的に検討し、内挿の場合は 1%程度、外挿推算の場合は5%程度の精度で推算でき る手法の確立を行い、基礎特性のデータベース化を行う。 ③高圧ガス供給システムの安全技術(産総研超臨界流体 RC 集中研) 我国で開発される超臨界流体プロセスが世界へ展開することを考慮し、世界中での高圧 ガス保安技術や保安管理システムを調査・解析し、日本の保安システムの位置付けを明確 にする。その結果に基づいて超臨界流体技術において対象となる高圧二酸化炭素、高圧水 を安全に取り扱う基盤技術、基盤データを整備する。これらの超臨界流体と混合併用され る酸素などの高圧ガスを安全に経済的に加圧・移送・保持する技術の開発を行う。 特に超臨界水酸化プロセスが実用に近いとされていることから、装置あるいは配管材 料として使用される有機材料のガラス転位点温度の測定、さらには酸素雰囲気下での発火 試験装置を製作し、有機材料や金属材料の発火温度を測定し、危険性評価および材料選定 の際の基礎データとする。また、高圧酸素ガス中での断熱圧縮試験装置、微粉衝突発火試 験装置、ガス噴射試験装置を製作し、測定データより各温度・圧力・材料条件での危険性 を評価し、安全かつ経済的に供給するための設計指針を作成する。 4.2.2 目標達成のための研究手法等 (1)超臨界流体プロセスの技術開発 (イ) 有機合成プロセス技術の研究 個別研究開発項目についての解決課題、技術的背景等を表 4.2.3(1)(イ)にまとめた。 2-32 表 4.2.3(1)(イ) 解決課題、研究手法、技術的背景、ブレークスルー 個別技術技術 解決課題、研究手法、技術的背景、ブレークスルー ①超臨界二酸化炭素 解決課題 超臨界二酸化炭素中で芳香族化合物或いは不飽和 反応場を利用した水 アルデヒドに対する高選択的な水素化技術の開 素化反応技術 発。 研究手法 反応基質、水素、触媒あるいは超臨界二酸化炭素 の反応系を均一化し、或いは多相系にするなどの 手法により反応場を制御して最適水素化反応シス テムを得る。 技術的背景 超臨界二酸化炭素中での核水素化反応は、二酸化 炭素の触媒毒性などの理由によりほとんど検討さ れていない。また、高選択的で且つ高収率の不飽 和アルコールの水素化合成技術は未だ開発されて いない。 ブレークスル 超臨界二酸化炭素中で高活性・高選択的水素化が ーポイント 可能な反応システムの構築がポイントとなる。 ②超臨界二酸化炭素 解決課題 超臨界二酸化炭素を溶媒及び基質として利用した を基質とする有機合 環状炭酸エステル及びウレタン化合物の高効率合 成技術 成技術の開発 研究手法 ・二酸化炭素を反応原料とする効率的な有機合成 技術の開発 ・高活性な無機酸化物系触媒あるいは均一系触媒 の設計・開発と特性評価 技術的背景 ・二酸化炭素を原料とする有機合成技術の開発に よって二酸化炭素削減に寄与できる。 ・超臨界二酸化炭素中での固体触媒反応の研究例 は少ない。 ブレークスル ・超臨界二酸化炭素中の環状炭酸エステル合成反 ーポイント 応で高活性かつ長寿命な固体触媒及び高活性かつ 容易に生成物と分離できる均一系触媒の開発 ・80℃以下の低温で且つ 24 時間以内の短時間で実 現できるウレタン合成技術の開発 ③超臨界メタノール 解決課題 超臨界流体反応に適した、高選択的な触媒系の探 を利用した芳香族化 索と特性評価、および最適反応条件の決定 合物合成技術 研究手法 ・超臨界メタノール反応場で、ゼオライト触媒の 細孔を利用した立体形状選択的メチル化反応によ る 2-メチルナフタレンから 2,6-ジメチルナフタ レンの合成反応技術の最適化を行う。 ・超臨界状態のメタノールと反応基質および触媒 との分子間相互作用の解析。 技術的背景 ・ナフタレンを出発物質とする 2,6-DMN 合成法は、 神戸製鋼所・モービルが共同で低コスト製造プロ セス開発を検討している。 ・気相メチル化反応では、触媒活性の低下が宿命 的であり、超臨界プロセスでも技術的課題となる。 2-33 ブレークスル ーポイント ・長寿命・高選択性・高反応性を有する触媒系の 開発。 外表面で異性体が生成するので、その触媒活性を 無くする技術開発がポイントとなる。 ④超臨界メタノール 解決課題 反応場を利用したメ チル化反応技術 ・二官能性アミン化合物の選択的 N-メチル化反応 技術の開発。 ・フェノール化合物のオルト位選択的メチル化反 応技術の開発。 研究手法 ・流通式反応装置を用いて、アルキル化反応に有 効な触媒探索を行う。 ・超臨界流体の反応場を制御するパラメータを変 化させて最適反応条件を見いだす。 技術的背景 ・環境負荷の観点からはアルコールをアルキル化 剤として使用する脱水法(直接法)が最も優れて いるが、直接法により二官能性のアミン類を官能 基選択的にアルキル化した例はない。 ・フェノール化合物のオルト位選択的アルキル化 反応は、気相法では One-pass でのジアルキル化収 率が低い欠点とアルコールの分解に起因して触媒 活性が経時劣化する欠点がある。 ブレークスル ・二官能性アミン化合物の官能基選択性の制御 ーポイント ・フェノール化合物の位置選択性の向上 ⑤超臨界水反応場を 解決課題 利用した水和反応技 術 研究手法 技術的背景 ブレークスル ーポイント ⑥超臨界水を反応場 解決課題 とする物質合成技術 研究手法 技術的背景 ブレークスル ーポイント 超臨界水の酸触媒機能を利用したオレフィン化合 物等の水和反応技術の開発 超臨界水反応場をオレフィン化合物等の酸触媒反 応へ適用し、その最適化を検討し、効率的な水和 反応技術を構築する。 超臨界水中の有機合成反応については最近発見さ れたものであり、工業的な検討はほとんで行われ ていない。 ・超臨界水の特徴を活用した反応系の選定 生成物の選択性操作因子の把握 工業プロセスに適した有機合成反応の探索とその プロセス構築 超臨界水が有する酸、塩基性を利用した無触媒で 進展する収率及び選択率の高い合成反応の選定 産総研超臨界流体研究センターにおいて、超臨界 水中では無触媒下でも種々の酸、塩基触媒反応が 高速で進行する可能性を見い出している。 超臨界水の機能を効率的に利用できる急速昇温シ ステムの開発と、最適反応条件の探索および超臨 界水自身の触媒機能と反応性の解明。 2-34 (ロ)材料プロセッシング技術の研究 個別研究開発項目について、技術的背景、技術課題及び研究手法を表 4.2.3(1)(ロ)にま とめた。 表 4.2.3(1)(ロ) 解決課題、研究手法、技術的背景、ブレークスルー 個別研究開発項目 解決課題、研究手法、技術的背景、ブレークスルー ①熱可塑性高分子 解決課題 超臨界流体による微細発泡機構を解明し、連続式プロ の超微細発泡成形 セスにおける 10µm 以下の発泡径の制御技術を開発す 技術の開発 る。 研究手法 連続式微小気泡挙動解析装置および可視化装置を開発 し、樹脂中の気泡形成過程を観察により、発泡径の制 御因子の解明を行う。また、超臨界流体とポリマーと の相互作用による溶融レオロジー等の物性変化を分析 し、発泡挙動との関連性を明らかにし、最適な成形加 工プロセスを構築する。 技術的背景 フロンや炭化水素などの発泡剤を使用しない環境に優 しい超臨界ニ酸化炭素による発泡成形技術の確立が望 まれているが、連続成形加工プロセスにおける超臨界 流体とポリマーとの相互作用に関する要素技術の研究 が不足している。 連続プロセスでは、発泡径 60µm が達成されているが、 強度を保持した軽量化には、10µm 以下の発泡成形技術 の確立が必要である。 ブレークス 可視化解析等による発泡過程の解明と制御因子の明確 ルーポイン 化、連続成形プロセスで発泡径を制御するための超臨 ト 界流体とポリマーとの相互作用の明確化、微細発泡に 最適な成形加工プロセスを構築するのがポイント。 ② 無 機 / 有 機 高 分 解決課題 子複合材料の創製 技術の開発 高分子材料に機能を付与することを目的とした金属、 あるいは金属酸化物の微粒子分散層を形成する複合化 の基盤技術を確立する。微粒子の分散形態と、機能性 との相関の明確化し、機能発現機構を解明する。 研究手法 超臨界二酸化炭素によって高分子材料を可塑化させる とともに、金属や金属酸化物の前駆体(有機金属錯体、 金属アルコキシドなど)を高分子材料内部に注入する。 金属に還元する場合は、前駆体に含有される有機物を 熱分解する。金属酸化物の場合は、加水分解によって 反応させる。 技術的背景 有機高分子材料に無機微粒子を複合化させる従来技術 として、無電解メッキや CVD などの表面処理技術、塗 装技術、フィラー混練技術(アロイ技術)があるが、 機能の継続性(剥離)、微細な箇所への均一な加工性 等の課題がある。超臨界流体注入法については、有機 高分子と金属の組み合わせとしてポリイミド-Ag など が報告されているが、注入の可能性の検証で終わって おり、機能を発現するための微粒子の分散制御手法な どが確立されていない。 2-35 ブレークス 機能発現に必要な、金属、あるいは金属酸化物の微粒 ルーポイン 子分散層を、有機高分子材料に形成するための最適操 ト 作条件の探索。有機高分子材料、前駆体、二酸化炭素、 およびエントレーナ間の各相互作用に基づいた、微粒 子分散機構の解明。 ③急速膨張法によ 解決課題 る無機材料の創製 技術の開発 超臨界急速膨張法における噴射粒径、充填性、膜の付 着、固化過程等の基本特性の解明。 膜質, 膜厚制御手法の確立による実用材料の高速(> 0.1µm/min)製膜技術の開発。 µm オーダーピッチのパターニングプロセスの開発。 研究手法 超臨界急速膨張法では、原料となる金属アルコキシド 等を超臨界二酸化炭素に溶解させ、ノズルから噴射し、 基板上に薄膜を形成する。超臨界二酸化炭素への溶解 性測定などから各種原料の適用性を調べ、実際の膜形 成試験を通じて、製膜性や、粒子の噴射、付着、固化 過程等の解析を行う。これらの結果を基に、膜質、膜 厚の制御や、多成分系原料による複合材料化などを試 み、マスクパターンを用いたパターニングへと発展さ せる。 技術的背景 各種材料、特に無機材料のパターニングに関しては、 数十µm 以上の領域ではスクリーン印刷やサンドブラ ストが、またサブミクロン領域ではリソグラフィー技 術があるが、1∼数十µm の領域には簡便な量産技術が ない。 超臨界急速膨張法の研究に関しては、超臨界水とシリ カ等の無機材料、および超臨界二酸化炭素と有機材料 の組み合わせの報告例はあるが、超臨界二酸化炭素と 無機材料の組み合わせはほとんど行なわれていない。 特に、これをパターニングに適用するという例は皆無 である。 ブレークス 噴射粒径の制御により、所定の形状に孔を開けたマス ルーポイン クを通して基板上に製膜することで、スクリーン印刷 ト 等では困難な微細部への均一充填を達成する。噴射・ 析出・固化過程の解析による製膜機構の解明。実用化 に向けて、超臨界急速膨張法の特性を把握し、膜質、 膜厚の制御、材料の複合化などが可能な技術として確 立する。 ④超臨界水反応場 解決課題 を利用した無機微 粒子の合成技術の 開発 研究手法 超臨界水反応場を利用した無機微粒子の合成技術の確 立。微粒子の粒子径・形態の制御因子の解明。粒子特 性と機能性との相関の明確化。 流通式水熱合成装置を試作し、プロセス変数(温度、 圧力、流動など)と結晶構造、粒子径・分布、形態と の関係を整理する。反応工学的解析により本手法のモ デル化を行う。 2-36 技術的背景 従来技術である回分式水熱合成装置では、昇温、降温 過程の温度制御等、厳密な反応場の設定が困難である。 流通式水熱反応装置では、昇温・降温過程を含めた反 応場の設定が可能となり、粒子生成・成長の素過程の 制御が期待できる。 ブレークス 超臨界水の晶析反応場としての特性の解明と反応場の ルーポイン 設定を志向した流通式水熱合成技術の確立。 ト 機能性を支配する粒子特性因子の解明。 (ハ)エネルギー・物質変換技術の研究 個別研究開発項目についての解決課題、技術的背景等を表 4.2.3(1)(ハ)にまとめた。 表 4.2.3(1)(ハ) 解決課題、研究手法、技術的背景、ブレークスルー 個別研究開発項目 解決課題、研究手法、技術的背景、ブレークスルー ①超臨界水酸化反 解決課題 難燃性有機固体の超臨界水中での酸化分解反応の反応 応によるエネルギ モデルおよび流動モデルの構築。両モデルを結合した ー回収プロセスの 超臨界水酸化反応プロセスの反応器設計、解析に使用 開発 できるシミュレーションモデルの確立。 (a) 反 応 工 学 モ デ 研究手法 難燃性有機固体の超臨界水酸化反応における表面積の ルの開発 変化の直接測定、分解生成物の分析等から反応モデル を、反応容器内の流動状態と操作条件の関係から流動 モデルを構築する。さらに、両者を結合したシミュレ ーションモデル解析を行う。 技術的背景 超臨界水酸化プロセスにおいて、反応器の設計ができ るような工学的観点での現象解明が不十分であり、特 に有機固体の超臨界反応器内での流動や反応はこれま でほとんど解明されていない。 ブレークス 超臨界水中での反応状態や流動状態を精度良く直接測 ルーポイン 定できるシステムの構築。超臨界水中での反応を再現 ト できるモデルの開発。構築したシミュレーションモデ ルの適用性評価。 (b) 装 置 材 料 の 選 解決課題 定 研究手法 超臨界水酸化性雰囲気下における材料腐食の評価。酸 化プロセスに使用する材料の選定。 管型試験炉で試験体の軸方向に温度分布を持たせ、各 温度での腐食を同時に評価し、槽型試験炉で全面腐食、 隙間腐食および SCC を評価する。イオウもしくは塩素 を含有する有機固体の超臨界水酸化反応を想定した材 料腐食評価を行う。 技術的背景 超臨界水酸化プロセスを安全かつ合理的に設計するた めには、適切な容器材料の選定が必須であるが、その ための腐食データが不足している。 ブレークス 腐食データと材料の金属組成との相関の解明。材料選 ルーポイン 定指針の確立。 ト 2-37 ②重質資源の軽質 化・クリーン化に 関する開発 (a)重質油の転換プ ロセス 解決課題 超臨界水中水素化反応等による未利用重質資源の軽質 化・クリーン化に関するプロセス開発のための反応挙 動の把握。 研究手法 ベンチスケールの流通式重質油転換装置を用いて超臨 界水中における重質油の軽質化、クリーン化反応に関 するマクロ的な特性の把握を行い、実用化のためのプ ロセスデータの取得を行う。 IR 等を用いて分子レベルでの反応挙動を把握し、反応 メカニズムの解明を行う。 パイロットスケールのプロセス構成要素について試験 を行い、スケールアップデータ等の取得を行い、実用 化のためのプロセスデータの取得を行う。 技術的背景 石油精製による製品は連産品であるため、原油の重質 化に伴い需要の高い中間留分の不足が懸念されてい る。未利用重質油は石油埋蔵量の 7 倍とも言われてお り、これらの軽質化技術の開発により、化石燃料の供 給源と利用の多様化が可能となる。そのため、環境に 有害である有機溶剤等を使用しない高効率な重質油軽 質化プロセスの開発が必要とされている。 ブレークス 溶媒として水のみを用いることにより、対環境性に有 ルーポイン 利とされる超臨界水を用いた熱・加水分解反応、脱硫、 ト 脱金属挙動、ガス化反応等の重質油転換挙動の把握、 実用化に向けたプロセスデータの取得が重要となる。 (b) 還 元 雰 囲 気 下 解決課題 での材料腐食の評 価 超臨界水還元性雰囲気下における腐食速度の把握およ び腐食メカニズムの解明、並びに応力腐食割れ感受性 および高温強度の把握。超臨界水還元性雰囲気におけ る適用材料の選定。 研究手法 バッチ式および流通式材料腐食試験装置により腐食速 度の把握および腐食メカニズムの解明を行う。 微低速引っ張り試験装置により応力腐食割れ感受性お よび高温強度の把握を行う。 技術的背景 未利用資源の利用、有機物の合成などで想定される超 臨界水還元性雰囲気での材料腐食研究が全く行われて いないのが現状である。実用化するにあたり、経済性 および安全性を考慮した装置材料の選定を行うことが 必要不可欠になっている。 ブレークス 装置材料の選定においては、実機環境に近い状態での ルーポイン 腐食速度の把握、応力腐食割れ感受性および材料強度 ト の把握が重要となる。また、経済性、安全性の観点か ら、適材を選定することがプロセスを成立させる上で 重要である。 ③プラスチック廃 解決課題 ポリ塩化ビニル(PVC)からの可塑剤の回収、脱塩素化す 棄物の化学リサイ る前処理法を確立。超臨界水中でのプラスチックの変 クルプロセスの開 換反応条件の把握。高分子物質を連続的に供給できる 発 システムおよび生成物を連続的に取り出し、気体・液 (a)変換反応技術 体・固体に分離するシステムの確立。 2-38 研究手法 可塑剤や塩素等の除去について、アルカリ溶液を用い る温度差による2段階法を検討する。超臨界水流通式 反応装置を構築し、PVCおよびポリカーボネート(PC) の超臨界水中での反応条件と生成物との関係を詳細に 調べる。 高圧供給系の成果を組み込んだ一貫したシステムによ る総合試験。 技術的背景 PVC を工業原料に効率的に変換するためには、可塑剤 および大量の塩素の除去が必須である。PC のような縮 重合プラスチックは、超臨界水で加水分解モノマー化 することにより、高速に原料化できるが、プロセスを 考慮した研究は行われていない。 ブレークス 効率的な脱可塑剤と脱塩素。プラスチック変換反応の ルーポイン 実用的条件を見いだすこと。 ト (b) 高 圧 供 給 系 の 解決課題 プラスチックを送液可能粒径まで粉砕する条件を探索 構築 する。スラリーの安定な供給やポンプ容積効率向上と、 スラリー濃度、粒径、流速等と配管内流れの関係を把 握する。また、ポンプ容積効率向上技術や管路抵抗計 算技術を確立する。 研究手法 湿式石臼型粉砕機を用いて、プラスチック粉砕条件と 粉砕の効率、粉砕粒径との関係を把握する。送液流速、 スラリー状態(粒径・濃度・比重)をパラメータとし、 水−プラスチックスラリー送液諸条件を把握する。逆 止弁等の構造等と閉塞や容積効率低下の変化等の関係 を把握する。 技術的背景 スラリーの送液に関しては、圧力 10MPa 程度、粒径 100 μm 以下の条件で、微粉炭スラリー輸送プロセス等と して存在している。しかしながらその圧力範囲を超え る超臨界条件下での圧力、100µm を超える粒径につい ては、スラリー送液の技術的基盤の確立、具体的な設 計方法の提案がなされていない。 ブレークス プラスチック粉砕条件の確立。効率的な逆止弁の開発。 ルーポイン 管内スラリー流動状態の把握とそれに基づく設計方法 ト の確立。 (1) 基礎基盤技術の開発 個別研究開発項目についての解決課題、技術的背景等を 4.2.3(2)にまとめた。 表 4.2.3(2) 解決課題、研究手法、技術的背景、ブレークスルー 個別技術 解決課題、研究手法、技術的背景、ブレークスルー ①超臨界流体のミクロ溶 解決課題 超臨界水、超臨界二酸化炭素及び超臨界メ 媒特性の解明 タノールのミクロ特性及びその中で進行す る化学合成反応過程の解明。 研究手法 in-situ 分光学的測定装置開発と測定技術 の高度化、時間分解測定法による中間生成 物の同定。 2-39 技術的背景 ブレークスル ーポイント ②超臨界流体のマクロ特 解決課題 性の解析 研究手法 技術的背景 ブレークスル ーポイント ③高圧ガス供給システム 解決課題 の安全技術 研究手法 技術的背景 ブレークスル ーポイント 4.3 本課題メンバーは世界でも先駆的に超臨界 水用測定装置を開発し、スキルやノウハウ を有している。 測定セルの開発による高感度化及び測定技 術の高度化などソフト面での充実 高温高圧域までの高圧相平衡データ、 超臨界流体系の平衡物性、輸送物性、熱物 性、溶解度等に関するデータの蓄積と高精 度推算法の整備及びデータベース化。 高温高圧物性測定装置の製作と僅少領域で のデータ蓄積。既存推算法の適用精度の比 較と推算法の確定。 プロセス開発に必要な超臨界流体―高分子 系の数値データや超臨界流体中の溶解度等 の基礎データが少なくて、研究の障害とな っている。 また分担研究者は高圧測定に経験・実績を 有し、装置開発・改良により実験推進は可 能な体制にある。 例えば高温高圧相平衡等の個々の測定装置 の開発・製作や測定方法・高精度推算法の 確立がポイントである。 高圧酸素供給における発火要因の解明とそ の対応策の策定。 金属材料や有機材料の酸素雰囲気中でのガ ラス転位点温度や発火温度を測定し、更に 断熱圧縮時、微粉衝突時やリーク時におけ る接触部材の発火条件等の測定と解析を行 う。 酸素ガスは低圧でも事故発生率が高く、高 温高圧領域下で酸素を安全に供給する設計 データは公表されておらず、かつ経済性を 考慮した実用化例はない。 酸素も含めて高圧ガス保安のための基盤デ ータの整備と超臨界流体技術でのフェイル セーフやインターロックの設計を行う。 研究開発実施主体の体制 4.3.1 研究開発実施者の事業体制 本研究開発プロジェクトは図 4.3.1 に示すように、共同研究に参画する産・学・官の各 研究グループの有する研究ポテンシャルの最大限の活用により効率的な研究開発の促進を 図るとの観点から、研究開発プロジェクトリーダーの下に、産・学・官の研究者を結集し て集中的に研究開発を実施する方式(集中管理方式)を採用している。 2-40 産:民間企業 8 社と 1 団体(高温高圧研究所)が参加している。 学:共同研究先として、4 大学(東京大学、東北大学、東京工業大学、静岡大学) 再委託研究先として国内 2 大学(九州大学、近畿大学九州)と協力し研究を推進 している。 官:共同研究先で且つ集中研究機関として独立行政法人産業技術総合研究所東北センタ ー超臨界流体研究センター内に集中研究室を設置すると共に、共同研究先として、 つくばセンター環境調和技術部門および物質プロセス部門とも連携して研究を推進 している。 本プロジェクトの運営、研究開発内容の業務を円滑かつ適正に推進させると共に、研究 開発内容の企画、運営及び効率的な推進等支援を行うために、参加企業研究統括責任者と JCII 事務局で構成された業務委員会を、受託機関である(財)化学技術戦略推進機構(略 称:JCII)研究開発事業部の諮問・支援部隊として設けている。 総合調査研究委員会は JCII 研究開発事業部内に置き、プロジェクトリーダーである東北 大学新井教授を委員長として、企業研究責任者、分科会委員長、共同研究大学、再委託大 学、産業総合技術研究責任者、WGリーダーおよび JCII 事務局で構成する。(期に1回程 度開催)総合調査研究委員会は本プロジェクト全体の基本計画方向付けや年度展開策定年 度研究計画の策定および変更、研究開発進捗状況の確認等の最高承認決定機関としてプロ ジェクト全体の円滑な推進を図る事としている。 総合調査研究委員会の下部組織として分科会を設け、分科会委員長、参加企業研究責任 者、共同研究大学および再委託大学研究代表者、共同研究機関産総研研究指導者、JCII 研 究員(兼務研究員)および JCII 事務局で構成し、WGの具体的な研究計画(案)と年度計 画(案)の作成および修正ならびにそれらの本委員会への建議、WGグループの研究進捗 状況、研究の進め方、情報開示(知的所有権取得、成果発表 )に関する承認等についての技術 的審議とPJ運営・施策等の立案・承認を行う中核的な機関と位置付けている。 本プロジェクトの研究開発を円滑且つ効率的に実施・推進する為に、具体的には、産業 技術総合研究所東北センター超臨界流体研究センター内に集中研究拠点を置き、各参加共 同研究及び再委託研究機関と有機的な連携を図りながら研究開発を推進すると共に、運用 上、必要に応じ、参画している民間企業の資源を有効活用する研究運営推進管理体制を取 っている。 4.3.2 研究開発実施者の運営 超臨界流体利用環境負荷低減技術研究開発プロジェクトは、図 4.3.2 に示すように(財) 化学技術戦略推進機構(略称:JCII)内に総合調査研究委員会(委員長:プロジェクトリー ダー)、業務委員会を設置し、研究全体の進捗状況や全体展開内容、予算管理、全体計画 見直し等の−元的な研究開発運営・管理を行っている。 本プロジェクトはプロジェクトリーダー(東北大学教授兼産業総合技術研究所超臨界流 体研究センター長 新井邦夫:研究推進統括責任者)のもとに、総合調査研究委員会、4 つの研究開発技術GR毎の分科会及び4つの研究開発技術WGを構成し、実施運営体制上 の特長として、4 つの研究開発WGの各リーダーを中心とした活動により、集中的に、且 2-41 つ、連携しながら研究開発を推進する実施体制をとっている。 プロジェクトリーダー 新井邦夫 サブプロジェクトリーダー 鳥居―雄 グループリーダー 生島 (有機合成プロセス技術WG) (基礎基盤技術WG) グループリーダー 林 (材料プロセッシング技術WG) グループリーダー (エネルギー・物質変換技術WG) 委員長 (有機合成プロセス技術分科会) 委員長 (材料プロセッシング技術分科会) 委員長 (エネルギー・物質変換技術分科会) 委員長 (基礎基盤分科会) 豊 (東北大学大学院 教授) (産業技術総合研究所 超臨界流体研究センター長) (産業技術総合研 超臨界流体研究センター 副センター長) (産業技術総合研究所 超臨界流体研究センター 有機反応チーム長) 拓道 (産業技術総合研究所 超臨界流体研究センター 材料合成チーム長) 斎藤功夫 (産業技術総合研究所 超臨界流体研究センター 流体特性解明チーム長) 碇屋隆雄(東工大大学院 教授) 猪俣 宏(東北大学大学院 教授) 幸田清一郎(東京大学大学院 荒井康彦(九州大学大学院 教授) 教授) プロジェクトリーダーは、事務局が運営管理する総合調査研究委員会、業務委員会での 審議・検討を踏まえ、研究企画、実施計画、実施体制、予算状況確認、進捗状況、成果拡 充等への軌道修正施策等の調整、意思決定への推進への指導及び諮問と確定を行う。 集中研究体においては、基本計画の研究テーマである(1)超臨界流体プロセスの技術 開発、(イ)有機合成プロセス技術の研究、(ロ)材料プロセッシング技術の研究、(ハ) エネルギー・物質変換技術の研究、(2)基礎基盤技術の開発、(3)超臨界流体技術の 調査研究に基づいて4つの研究WGグループに分かれて研究を実施しており、夫々のグル ープにリーダーをおき、研究の推進、調整、管理を行っている。研究体各分科会では各W Gグループ進捗状況、中間成果状況の報告を行うと共に、論文、特許などの成果物の促進・ 承認や各研究機関の連携・調整等実施した。WGグループ間の情報交換や連携及び各共同 研究機関との交流会を行い円滑な推進を配慮している。 進捗管理に関しては、全期間、年度毎の目標を設定し各WGで調整し、NEDOへも報 告し評価、コメントを頂いている。尚、研究内容の進展に伴い、各WGや分科会間の緊密 な連携を行い、共通基盤技術整備・構築の充実へ向けた一層の体制強化、補強体制等も視 野に入れた柔軟な運営・検討を今後行う予定である。 なお、研究開発のよりー層の加速化と拡充化を図るために、適宜、必要に応じて研究開 発実施体制の見直し、強化を図る考えで推進する。 2-42 4.3.3 研究開発実施者間の連携について 本プロジェクトは集中研究方式で実施しているおり、各研究分室(東工大、高温高圧研 等)間では、総合調整研究検討WGを設けて、意志の疎通を図り課題抽出、解決への検討 を行っている。また、集中研究方式の特長を生かして、各研究員同士や産総研研究員が密 接な情報交換が行い、研究の効率的な進捗を行っている。 一方、各WGはWGリーダーのもとに、研究員を中心とした実質的な研究討議の場を設 けながら、個別研究開発項目の技術開発や研究実施に具体的に指導関与して、責任を持っ たプロジェクトの技術的な面での研究進捗管理、装置導入の検討審議・承認権限持たせ研 究開発の円滑な推進とプロジェクトリーダーへの適宜報告を実施している。また、一元的な 研究管理、運営を行う為に、分科会共通の下部運営組織として、総合調整研究検討WGは、 各WGを横断して実施者間の連携と研究内容の効率的な推進を図るため3∼4ヶ月に1回 程度で開催している。(表 4.3.3 参照) 4.3.4 関連情報の収集、周知について 各WGでは国内海外の最新情報動向調査を行い、研究計画へ反映を図りながら研究を推 進している。国内外の本分野関連の学会 シンポジウムへは、適宜、参加すると共に中間 成果は、国内主要な学会等へ論文発表しており、主要研究者、研究機関からの情報収集も 実施している。 今後、研究の進展に伴い、抽出された成果は、国内外の関連学会やシンポジウムへの発 表を推進すると共に、ワークショップ等への参加、国際シンポウム等の開催、海外機関と の情報交換等世界へ発信する事も推進していく考えである。 2-43 研究開発実施体制(概略) 経済産業省 産業技術環境局研究開発課 製造産業局化学課 補助金 研究開発費 新エネルギー・産業技術総合開発機構 委託 超臨界流体利用 技術集中研究体 共同研究 2-44 産業技術総合研究所 超臨界流体研究センター 環境調和技術研究部門 物質プロセス技術研究部門 九州大学 近畿大学 東京大学 (財)化学技術戦略推進機構 参加:8企業 1団体 東京工業大学 共同研究:4大学 東北大学 再委託:2大学 静岡大学 再委託 共同研究 図4.3.1 研究運営体制(概略) 経済産業省 産業技術環境局研究開発課 製造産業局化学課 新エネルギー・産業技術総合開発機構 新材料・プロセス技術開発室 2-45 (財)化学技術戦略推進機構 総合調査研究委員会 超臨界流体利用技術集中研究体 新井 邦夫 委員長 業務委員会 有機合成プロセス 材料プロセッシング エネルギー・物質 基礎基盤 分科会 分科会 変換分科会 分科会 WG推進体 図4.3.2 表4.3.3 超臨界PJ委員会等開催内容 研究PJ推進会議開催日程 総合調査研究委員会 有機合成プロセス 分科会 分科会 材料プロセッシング 分科会 エネルギー・ 物質変換 分科会 基礎・ 基盤 分科会 平成12年度 第1回 平成12年11月29日 第1回 平成12年3月27日 第1回 平成12年3月29日 第1回 平成12年3月29日 第1回 平成12年3月27日 平成13年度 第1回 平成13年6月22日 第1回 平成13年6月15日 第1回 平成13年6月15日 第1回 平成13年6月5日 第1回 平成13年6月5日 第2回 平成13年11月27日 第2回 平成13年11月30日 第2回 平成13年11月30日 第2回 平成13年11月27日 研究PJ推進WG開催日程 総合調整研究検討WG ( 合同WG) 2-46 平成12年度 有機合成プロセス WG WG 材料プロセッシング WG エネルギー・ 物質変換 WG 基礎・ 基盤 WG 第1回 平成12年11月7日 第1回 平成12年7月18日 第1回 平成12年7月19日 第1回 平成12年7月18日 第1回 平成12年7月18日 第2回 平成12年11月22日 第2回 平成12年8月8日 第2回 平成12年8月2日 第2回 平成12年8月9日 第2回 平成12年8月9日 第3回 平成13年1月18日 第3回 平成12年10月24日 第3回 平成12年10月17日 第3回 平成12年10月18日 第3回 平成12年10月18日 第4回 平成13年2月15日 第4回 平成12年11月7日 第4回 平成12年11月6日 第4回 平成12年11月6日 第5回 平成13年2月7日 第5回 平成13年1月30日 第5回 平成13年1月30日 第6回 平成13年3月2日 平成13年度 第1回 平成13年9月5日 第2回 平成13年12月14日 第3回 平成14年1月8日 第4回 平成14年1月12日 第5回 平成14年1月17日 第6回 平成14年1月23日 第7回 平成14年2月5日 第1回 平成13年4月26日 第1回 平成13年5月10日 第1回 平成13年5月8日 第1回 平成13年5月8日 第2回 平成13年10月12日 第2回 平成13年7月2日 第2回 平成13年9月17日 第2回 平成13年9月17日 第3回 平成13年11月26日 第3回 平成13年8月7日 第3回 平成13年11月27日 第3回 平成13年11月27日 第4回 平成13年10月17日 5.実用化、事業化の見通し 二酸化炭素、水で代表される超臨界流体利用技術は自然との調和を内包する持続可能な 社会を築く 21 世紀における中核的な産業技術として、その早期の実用化は世界的な潮流で ある。現在、世界において膨大な有機溶媒、薬剤が使用され、その環境への放出が問題と なっている。超臨界利用技術はこのような環境問題を根本的に解決しうるものであり、そ の実用化の成否は技術開発により生産に要するエネルギー消費をミニマムにし得る共通基 盤技術が構築されるかに依存する。一方、超臨界流体の科学技術は、産業のみならず科学 的にも未踏の領域であり、本事業における実験技術と産業技術の融合を視野に入れた共通 基盤技術の構築が達成されれば、今後多くの有用な現象の発見が行われ、その実用化は波 及的に進むと考えられる。 以下に、本事業での個別テーマごとに実用化・事業化の見通しを述べる。 5.1 実用化時のイメージ(市場予測、実用化案件、適用可能分野と市場規模等) (1)超臨界流体プロセスの技術開発 (イ) 有機合成プロセス技術の研究 ①超臨界二酸化炭素反応場を利用した水素化反応技術 本研究は超臨界二酸化炭素中での化学製品の有機合成技術に関し、芳香環の二重結合を 水素化する核水素化反応の技術開発を課題としている。核水素化反応のうちメチレンジア ニリンの核水素化反応によるメチレンビスシクロヘキシルアミンの合成を研究対象として いる。 メチレンビスシクロヘキシルアミンをはじめとするジアミン類のほとんどはジイソシア ネート類の製造原料として使用されている。このジイソシアネート類は汎用樹脂の一種で あるウレタン樹脂製造に使用される主要原料である。ジイソシアネート類の市場は現在世 界、特にアジア地域において拡大を続けており、製造各社が既存プラントのフル生産を継 続するとともに、アジア地域において新規大型プラント建設が予定されている。ジイソシ アネート類の 1999 年現在の市場規模は 220 万トン(欧米のみの数値)であり、今後も年 1 ∼2%で成長を続けると見込まれている。従って年1%成長を見込んだ場合、2020 年でのジ イソシアネート類の市場規模は 270 万トン程度拡大することが予想されている(化学経済 2001 年 3 月臨時増刊号 70∼73 頁)。 ②超臨界二酸化炭素を基質とする有機合成技術 環状炭酸エステルはリチウム電池の電解液等として 100 万トン程度の生産量がある(6th International Conference on Carbon Dioxide Utilization, Breckenridge (2001)におけ る M. Aresta 教授の特別講演)。現状では液相均一系触媒反応によって合成されているが、 本プロジェクトの成果によって超臨界流体プロセスに置き換わる可能性がある。また、環 状炭酸エステルの炭酸ジメチルへの変換を通してポリカーボネートやポリウレタン合成に 利用すれば、世界で 700 万トン程度消費されているホスゲンを代替する可能性がある (CHEMTECH, 32 頁 (1997))。さらに、炭酸エステルはディーゼルエンジンからのパティ キュレート生成抑制剤として軽油への添加が検討されており、実用化されれば国内だけで 200 万トン規模の市場がある(石油化学プロセス、石油学会編、講談社サイエンティフィ ック (2001))。ポリウレタンは我が国では 26 万トン/年製造されており、二酸化炭素 2-47 を原料とした製造プロセスが開発されれば、5 万トン/年程度の二酸化炭素が固定化でき ることになる。 ③超臨界メタノールを利用した芳香族化合物合成技術 ポリエチレンナフタレート(PEN) 樹脂は PET と同じ飽和ポリエステル樹脂の 1 種である。 ポリエチレンナフタレートは骨格にナフタレン環を有しており、耐熱性が高いという特徴 を持つほか、引っ張り強度、ガスバリア性などあらゆる点で PET より優れている。表 5.1(1)(イ)-1 にポリエチレンナフタレート樹脂の国内市場予測を示す。 表 5.1(1)(イ)-1 PEN 樹脂の国内市場予測 用 フィルム 小計 飲料用ボト ル 途 ビデオテープ データ系磁気テープ コンデンサー APS 写真フイルム その他 2000 年 30 730 1,000 3,600 940 6,300 ビール容器 炭酸飲料(耐圧ボトル) 非炭酸飲料(耐熱ボト ル) その他 小計 包装用シート その他 総計 0 100 100 6,500 2005 年 10 800 1,200 4,000 1,000 7,010 3,114 3,600 1,104 50 7,868 1,000 300 16,178 2010 年 600 1,500 2,000 1,200 5,300 6,330 4,968 1,707 100 13,105 3,000 500 21,905 初期にはポリエチレンナフタレート樹脂はフィルム用途として立ち上がり、強度物性の 高さを生かし、長時間録画用の薄膜磁気テープに使用されていたが、いまでは APS 写真フ ィルム用の需要が伸びている。フィルム以外では、ガスバリア性、耐熱性、透明性の高さ が注目され、リターナブルなビール容器、ワンウェイの耐圧・耐熱ボトルなどの飲料用ボ トルや包装用シートの需要が立ち上がっている。PET とのブレンドやコポリマーによるコ ストアップを抑え、必要な特性を付与したハイブリッド樹脂の用途として有望視されてお り、原料が低廉かつ安定的に供給されることが望まれている。本研究テーマの目標を達成 し、原料前駆体である 2,6-ジメチルナフタレンの低コスト製造法を実現させることにより、 さらなるポリエチレンナフタレート樹脂の市場拡大が期待される。ポリエチレンナフタレ ート樹脂の原料であるナフタレンジカルボン酸の推定価格は約 500 円/kg であり、国内市 場の規模は 2000 年時点で約 30 億円であり、2010 年には約 100 億円の規模が見込まれる。 世界市場は用途によって異なるが、国内市場の約 7 倍程度と想定される(激動期のポリエ ステル樹脂市場展望、(株)シーエムシー、1998 年 5 月) ④超臨界メタノール反応場を利用したメチル化反応技術 N,N-ジメチルアミノエタノールは、アクリル酸またはメタクリル酸とエステル化するこ 2-48 とによって得られる N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートの原料として産業上 有用な化合物である。N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートは、製紙処理・水 処理・コーティング剤用途に市場が成長している水溶性高分子原料である。また、アクリ ルアミドとの共重合体は生活廃水処理(下水処理)用途のカチオン系高分子凝集剤として 重要であり、主にアジアにおける下水道設備の拡大に伴って市場が拡大している。N,N-ジ メチルアミノ 3-プロパノールなどの長鎖アミノアルコール類や N,N-ジメチルエチレンジ アミン等の他の官能性アルキルアミン類化合物は、塗料・触媒・アニオン交換樹脂・界面 活性剤・シャンプー・繊維柔軟剤・金属イオン封鎖剤・添加剤・エポキシ樹脂硬化剤・化 粧品用乳化剤などの用途に広範にわたって利用される化合物である。 これらの多官能性アルキルアミン類の汎用的な合成方法としては、ハロアルカンをアル キル化剤として用いて脱塩する方法や、アルデヒドをアルキル化剤として利用する還元ア ミノ化法がある。これらの方法によって、様々な化合物を合成することができるが、廃棄 物の副生や、煩雑な分離生成工程などのために、多量のエネルギーを消費する問題を有し ている。このため、産業上広く利用される官能性アルキルアミン化合物は、エポキシ化合 物とアミンの反応によって合成される 2-アミノエタノール類が用いられている。アルキル アミノエタノール類は親水性が高いため使用用途が限定される。一方、疎水性の高い 3-ア ミノプロパノール類や N-アルキルエチレンジアミン類などはエポキシ化合物からは合成 することができないため、もっぱら還元アミノ化法によって合成されているのが実状であ る。それ故、品種(化合物の種類)によって大きな価格差があり、市場が限られているも のと推測される。同一触媒、1つの反応器(固定床流通式反応器)を使用して原料や製品 タンクを切替ることによって目的に応じた生産量で簡便に製造できる反応システム(マル チマニュファクチャリングシステム)が構築されれば、これら官能性アルキルアミン類間 の品種による価格差が解消されて、市場拡大を図ることができると期待される。本研究に おいて超臨界メタノールを用いる 2-アミノエタノールの N-メチル化反応を検討すること によって開発された反応システムは、高効率に官能性アミンを N-メチル化でき、さらに、 他の官能性アミン類を高効率に N-メチル化できる可能性が示されている。今後は、実用化 へ向けて、反応効率の更なる向上(反応速度・収率の向上)と超臨界流体を利用する N-ア ルキル化技術の汎用性を拡げる検討を行うことが必要である。なお、これら官能性アルキ ルアミン類の現在の市場規模は表 5.1(1)(イ)-2 に示される。 表 5.1(1)(イ)-2 官能性アルキルアミン類の市場規模 分 類 化合物の例 2-アルキルアミノエ N,N-ジメチルアミノエタノール タノール類 N-メチルアミノエタノール N-メチルジエタノールアミン N,N-ジエチルアミノエタノール N,N-ジイソプロピルアミノエタノール N,N-ジブチルアミノエタノール など 他 の 官 能 性 ア ル キ ル 3-ジメチルアミノ 1-プロパノール アミン類 N,N’-ジメチルエチレンジアミン N,N-ジメチルエチレンジアミン など 2-49 規 模 合計生産量: 85,000 t/y 推定成長率: 3 % /y 合計生産量(推定): 5,000 ∼7,000 t/y 親水性の高いアルキルアミノエタノール類全体の近年の年間使用量は、全世界で 85,000 トン程度と推定されている。流通価格は 400 円/kg 程度であるため、現在の推定市場規模 は全世界で 340 億円程度であると見込まれる。市場の成長率から推定すると、 2010 年には、 年間使用量 10 万トン、市場規模 400 億円程度が見込まれる。また、他の官能性アルキルア ミン類は、市場情報に若干の幅があるものの、近年の年間使用量は、全世界で 5,000∼7,000 トン程度と推定されている。 流通価格は化合物の種類によって差があり 500∼1,000 円/kg 程度であるため、現在の推定市場規模は全世界で 25∼70 億円程度であると見込まれる。市 場の成長率は不明であるが、安価に製造されれば使用量の増加が見込まれる。 2,3,6-トリメチルフェノールと 2,6-キシレノールの市場規模を表 5.1(1)(イ)-3 に示す。 メタクレゾールのオルト位のジメチル化によって得られる 2,3,6-トリメチルフェノール は、ポリマーへ添加する酸化防止剤用途や、抗ガン剤として市場が急拡大している合成ビ タミンEの原料として 5%/年の成長率で需要が拡大している。2,3,6-トリメチルフェノー ルの近年の年間使用量は全世界では 6,000∼10,000 トン程度と推定されている。市場情報 に若干の幅があるものの、流通価格は 700∼1,000 円/kg であるため、現在の推定市場規 模は全世界で 42∼100 億円程度であると見込まれる。市場の成長率から推定すると、2010 年には、年間使用量 10,000∼15,000 トン、市場規模 70∼150 億円が見込まれる。また、フ ェノールを原料にした場合に得られる 2,6-キシレノールはノンハロゲン系難燃性プラス チックであるポリフェニレンエーテル(PPE)原料として、 需要が拡大していると言われてい る。年間の使用量は全ポリフェニレンエーテル系ポリマーの合計で、全世界で 32 万トン前 後に達している。ポリフェニレンエーテル製造メーカーの世界最大手である GE はポリフェ ニレンエーテルの成長率として 10%/年を見込んでいる。2,6-キシレノールの近年の年間 使用量は全世界では 125,000 トン程度と推定されている。流通価格はおおよそ 250 円/kg であるため、現在の推定市場規模は全世界で 310 億円程度であると見込まれる。市場の成 長率から推定すると、2010 年には、年間使用量 20 万トンを超え、価格が維持された場合 500 億円以上の市場規模が見込まれる(化学技術戦略推進機構調査資料、2000)。 表 5.1(1)(イ)-3 2,3,6-トリメチルフェノールと 2,6-キシレノールの市場規模 化 合 物 用 途 規 模 2,3,6-トリメチルフェノール 酸化防止剤、家畜飼料添加剤、合 生産量(推定): 成ビタミンE(α トコフェロー 6,000∼10,000 t/y ル)原料 推定成長率: 5 % /y 2,6-キシレノール 難燃性プラスチック(PPE、PPO、 生産量(推定): MPPE)原料 125,000 t/y ⑤超臨界水反応場を利用した水和反応技術 本研究は、超臨界水中での有機合成反応技術の開発が課題である。したがって、具体的 製品市場を明示することは困難なので、水和反応のうちオレフィンの水和によるアルコー ル類とニトリル水和によるアマイド類について述べる。 表 5.1(1)(イ)-4 にイソプロパノールの市場規模を示す。イソプロパノールイソプロパノ 2-50 ールは全世界で 230 万トン/年程度が既存の水和法で製造されており、塗料等の溶剤、樹 脂、一般工業用等に使用されている(The Chemical Economics Handbook-SRI, Isopropyl Alcohol 668.6000A ,May 2000)。一般工業用の価格は 130-140 円/Kg であり、価格的には 3,200 億円/年の市場規模である。 表 5.1(1)(イ)-4 イソプロパノール イソプロパノールの世界市場規模 世界市場規模 (2000 年) 2,300 千トン 市場の伸び (∼2030 年) 横ばい 用途 溶剤、樹脂、一般工業用 次にアクリルアミドの世界の市場規模について表 5.1(1)(イ)-5 に示す。アクリルアミド はアクリル樹脂、凝集剤、土壌改良剤等の用途として 40 万トン程が用いられており (The Chemical Economics Handbook-SRI, Acrylamide 606.2000A ,December 1998)、50%充填製 品の価格が 260-280 円/Kg であり、2,200 億円規模の市場と考えられる。 表 5.1(1)(イ)-5 アクリルアマイド アクリルアミドの世界市場規模 世界市場規模 (2000 400 千トン 市場の伸び (∼2030 年 拡大 用途 凝集剤、紙力剤、土改剤 ⑥超臨界水を反応場とする物質合成技術 超臨界水反応場における有機合成については発見されたばかりであり、その特異条件 にどの反応が適合するかを早く確認することが重要と考えられ、本研究グループはプロセ ス構築に向けて有機合成反応を探索しており、 基本特許の網をかけることを目指している。 これが成功すれば、日本市場だけでなく、今まで太刀打ちできなかった欧米の市場にも風 穴を開けることになり、そのインパクトは大きいと考えられる。 (ロ)材料プロセッシング技術の研究 材料プロセッシング技術の中で高分子の微細発泡成形加工プロセス技術に関するものが、 産業技術として実用化が近いものとして期待されている。超臨界流体を溶解・拡散させた ポリマーは、その溶融粘度が大きく減少し、成形加工時の流動性が向上することから、成 形工程の省エネルギー化、生産性の向上が期待される。また、超臨界流体を用いた物理発 泡成形は、環境負荷低減の観点から従来の化学発泡剤に替わるものとして、注目されてい るばかりでなく、微細な発泡セルが得られれば、通常の発泡製品に比べ強度の向上が図ら れるため、その市場は拡大することが予想される。さらに、発泡セルを微細化すると断熱 性や絶縁性が向上することから、従来発泡高分子が利用されていなかった分野への用途展 開が期待される。 一方、無機/有機高分子複合体の創製技術、超臨界急速膨張法による無機材料の創製技術 及び超臨界水反応場による微粒子合成技術については、実用化技術への可能性を検証して いる段階であるが、微粒子特性や薄膜組織を制御することにより、高機能性材料の創製技 術としてその展開が期待される。 無機/有機高分子複合体の創製技術は金属微粒子を高分子 2-51 材料に分散させることにより、耐磨耗性などの機械的特性の向上に加えて、微粒子の特性 を利用した光機能性等の機能を付与する技術としての応用が考えられる。また、超臨界急 速膨張法を利用したミクロンオーダーのパターニング技術が確立できれば、現在利用され ている各種のセラミックスデバイスのさらなる微小化が可能になる。例えば、各種ディス プレイの高精細化、インクジェットプリンターなどに用いられている圧電アクチュエータ の高精細化、マイクロマシン用セラミックス部材などである。また、試験、研究用の素材 として、コンビナトリアルケミストリー用の基板、微小空間における反応や合成を対象と したマイクロ化学用チップ、などへの適用も可能であろう。 さらに、超臨界水反応場を利用した無機微粒子の合成技術では、その粒子形態を制御す ることにより、機能性の向上が期待でき、実用化案件として、微粒子(量子サイズ効果に よる高効率蛍光体材料(YAG:Re)、高効率光触媒(TiO 2 , K2 Ti 6 O 13 )、板状(高配向性強誘電体 材料(チタン酸バリウム)、高密度磁気記録材料(Ba フェライト, Sr フェライト)及び繊維状 (耐熱繊維、高付加価値繊維)などが挙げられる。 表 5.1(1)(ロ) 適用が予想される実用化案件と市場規模 応用分野 発泡高分子材料 実用化案件 ・建材用 PP 発泡断熱シート等断熱材 ・各種輸送機器の内装材 ・生分解プラスチックへの適用 ・木粉+高分子複合大型パネル ・ポリマーナノコンポジット ・音響機器、防音材 ・回収PETボトルリサイクル ・各種緩衝材 市場規模 ・発泡プラスチック製品 市場規模(2000 年) 38 万トン、2130 億円 ・プラスチック製 品市場 規模(2000 年 発 泡 除 く) 592 万トン、3 兆 8548 億円 ・超臨界微細発泡体 発泡プラスチックの 30%代替し、全プラスチ ック(発泡除く)の 10%代 替と仮定すると 71 万トン、 4,493 億円 パターン化材料 プラズマディスプレー 50,000 台(250 億円) 圧電アクチュエータ(ピエゾヘッド) 1000 万台(5000 億円) マイクロチップ・マシーン (日本プラスチック工業連盟統計資料,日経 BP 資料等、2000) (ハ) エネルギー・物質変換技術の研究 超臨界水酸化反応を利用したプラントの適用可能分野は超臨界水中燃焼発電や廃棄物処 理、材料合成など多種多様に考えられる。例えば、超臨界水中燃焼発電に関しては、中国 や東南アジアを中心とする発展途上国での低品位な石炭を使用した火力発電が行われてい るが、それに代わるクリーンで高効率の発電技術としての適用が考えられる。加えて、従 来あまり使用されていなかったバイオマスや、ゴミ等の未利用資源を広く燃料として使用 できる可能性がある。また、廃棄物処理に関しては、従来のゴミ焼却では、排ガスばかり でなくダイオキシンの発生などいくつかの問題を抱えていたが、超臨界水は排ガスを押さ 2-52 え、ダイオキシン等の有害物質を分解できるため、代替方法としての適用が考えられる。 本研究で構築する反応工学モデルは、これらプラントのプロセスの最適化に広く使用でき るとものであり、合わせて装置材料の選定が可能になる。 一方、石油製品は原油の品質により決定される連産品であるため、今後は製品重油が供 給過剰になり、逆に需要が高い中間留分の不足が懸念されている。また、天然タール等の 未利用重質油の埋蔵量は約 1 兆トンとも言われており、石油の7倍程度存在することが確 認されている。この未利用重質油を有効利用することにより、エネルギー供給源の多様化 と安定化が可能であることから、これら未利用重質油を需要の高い中間留分へ転換するプ ロセスが必要不可欠とされている。物質変換技術で得られた結果から、未利用重質油模擬 物質である減圧蒸留残渣から軽質ガスおよび軽油を 80%以上の収率で得られる見通しが得 られた。またこの技術開発の中で、熱・加水分解反応とともに脱硫、脱金属反応も同時に 進行することが確認されている。これらの成果から、これまで利用の困難であった未利用 重質資源が、枯渇しつつある良質な原油と同等に利用可能となる可能性が示唆されたもの と思われる。エネルギー供給源の多様化が可能となり、環境負荷の小さい軽質化プロセス が期待される。 わが国におけるプラスチックは、年間 1,500 万トン生産され、うち半分の 700 万トンが 廃棄物として排出されている。しかし、この廃棄物を原料として再資源化されている割合 は 1 割程度に過ぎない。また、焼却時に発生する熱の回収を加えてもリサイクルは 3 割に 満たず、その多くは埋立てと焼却によって処分されているのが現状となっている(経産省 工業統計、新潟油化センター資料、2000)。 埋立て処分の場合、処分地は年々減少をたどる一方、ポリカーボネートからはビスフェ ノール A の溶出を代表とする物から内分泌攪乱物質と疑われているものが溶出する危険性 を有する。また、焼却時に塩素のようなハロゲンを含んだ物により焼却炉の腐食を発生さ せ、ダイオキシン類等の有機塩素系化合物の生成、高分子の燃焼時に排出される酸化物と して二酸化炭素による地球温暖化、酸性雨原因物質等の問題がある。そのため、リサイク ルによる工業原料への転換が急務であると考えられる。超臨界水を反応溶媒に利用した化 学リサイクルは、化学原料やモノマー等への転換ができることから、現在プラスチックの リサイクルの主流である油化よりも、工業的に価値の高い製品が得られる可能性が高い。 プラスチック廃棄物を化学プロセスにより連続して処理するにあたり、水と共にスラリー 状で超臨界圧力以上の圧力場へ連続かつ安定して供給する装置設計技術の確立は避けては 通れない技術であり、この試験において工業的に汎用のある往復動ポンプにて超臨界圧力 場へのスラリー供給の可能性の目処が立ち、プラスチック廃棄物の超臨界プロセスのみな らず他のプラスチック処理のためのプロセス、プラスチック以外の比較的比重の小さいス ラリーを用いたリサイクルプロセスのためのスラリー高圧供給装置への応用が期待される。 (2)基礎基盤技術の開発 ① 超臨界流体のミクロ溶媒特性の解明 本研究は各プロセスの共通基盤技術確立に必要な超臨界流体のミクロ特性等の基礎物性 及び反応機構、溶媒効果等の反応物性について測定・解析を行っているものであり、その ものが直接実用化になる可能性としては、独自の高温高圧仕様の in-situ 測定装置等に限 2-53 定されるであろう。しかし、これらのミクロ特性はマクロ特性と同様に基礎データベース に必須であり、超臨界流体に関する物性データベースが完成すれば超臨界流体利用プロセ スの開発を促進し、化学産業に大きく貢献できる。 ② 超臨界流体のマクロ特性の解析 従来の石油化学プラントの技術導入に際しては、物性データはプラントに付随したもの と理解されてきた。しかし、超臨界流体プロセスの場合は、温度・圧力による物性の制御 性を利用して設計製作されるものであり、その基礎データとしてのマクロ特性データベー スは多くのプロセスの基盤となるものであり、プロセス開発に大きく貢献できる。 ③ 高圧ガス供給システムの安全技術 酸素を酸化剤として用いる超臨界水酸化処理の実用化例として下水汚泥の処理がある。 下水汚泥は現在 200 万トン発生し、増加傾向にある。ここで、下水汚泥1トンを処理する のに約 1500Nm 3 の酸素が必要である。対象物によっては,高酸素濃度が必要になり,本成 果の導入が必須となることが予想される.他の利用分野として、工場廃水の処理、原子力 関連の廃棄物処理等が実用化検討されており, 市場の規模は更に波及的拡大が期待される。 5.2 成果の実用化可能性 (1)超臨界流体プロセスの技術開発 (イ)有機合成プロセス技術の研究 超臨界流体二酸化炭素、超臨界水や超臨界メタノールを主に用い、高効率、高選択的な 環境調和型の基礎化学品等に対する有機合成プロセス技術の実用化案件は、多くの化成品 が関連しており、本プロジェクト終了時の成果の実用化技術への寄与は大きいことが予測 される。 ①超臨界二酸化炭素反応場を利用した水素化反応技術(産総研超臨界流体 RC 集中研/東工 大/産総研超臨界流体 RC) 超臨界二酸化炭素―水二相系によるアニリンの核水素化反応システムを新たに開発した。 この反応系は触媒の分離回収が容易となり、かつ超臨界二酸化炭素の分離抽出能力を利用 した高選択的な核水素化反応の開発を可能とするものであり、今後、立体選択性等の発現 を検討し、高選択的な核水素化反応を進めていくことにより、実用化の可能性を明確にす る。 RU-TPPTS 錯体を触媒として用い、超臨界二酸化炭素―液系反応システムによって、α,β− 不飽和アルコールの、C=O 二重結合の水素化反応が選択的に起き、α,β−不飽和アルコール を収率 57%で合成できた。さらに選択的水素化反応のメカニズムを明らかにして、より高 効率化することにより、実用化を図る。 ②超臨界二酸化炭素を基質とする有機合成技術(産総研物質プロセス RI/産総研超臨界流 体 RC) 超臨界二酸化炭素を利用した環状炭酸エステルの高効率合成プロセスの開発では均一系 触媒あるいは固体触媒による触媒分離不要なプロセスを開発できる目途がついた。 しかし、 現状は固体触媒、均一系触媒ともにプロトタイプを提示した段階であり、今後、性能向上 とともに、触媒寿命、触媒製造コストなどの問題をクリアする必要がある。 ジシクロヘキシルカルボジイミド( DCC)を用い、安価な原料であるアミノアルコールか 2-54 ら2−オキサゾリジノンの合成に成功した。また、DCC は水と反応し難溶性の尿素になる ため、分離が容易である等の利点がある。少量の準溶媒(アセトニ トリル)存在下、DCC と 1-フェニル-2-アミノアルコールを反応させたところ 96.5%と非常に高い収率で 5-フェ ニル-2-オキサゾリジノンが生成することが分かった。これは、従来報告されてきた四塩化 炭素、アミン、ホスフィンを用いた合成方法に比べて、操作でも、収率の上でも優れてお り、プロセスとして有望と考えられる。更に、準溶媒を使用しないで、2-メチル-2−アミ ノアルコールから 40℃及び 12 時間で 4-メチル-2-オキサゾリジノンを収率 91.4%で合成で き、環境調和型のプロセス開発が期待できる。 ③超臨界メタノールを利用した芳香族化合物合成技術(産総研超臨界流体 RC 集中研/東工 大/静岡大) 超臨界メタノールを利用した 2,6-ジメチルナフタレンの高選択的有機合成反応技術で は選択性の良好な触媒を選定し、実用化に近いが、更に選択性を上げるには外表面の酸点 を失活させる技術開発課題が残されている。現時点でも、超臨界反応に適した触媒細孔径 および温度・圧力が選択性に及ぼす効果、CO 2 が触媒活性の低下を抑制する可能性について 良好な実験結果が得られており、今後、従来技術を上回る高効率合成プロセスの実現が 見込められる。 ④超臨界メタノール反応場を利用したメチル化反応技術 (産総研超臨界流体 RC 集中研/東 工大) N-アルキル化技術の開発に関しては、超臨界反応場の最適化とその反応場で有効に機能 する固体触媒の開発により、特定の二官能性アミン化合物に対して選択性を高められ、2アミノエタノールのメタノールによる直接的 N-メチル化反応が可能であることが明らか になった。これは、反応性に富む二官能性アミンを、メタノールをメチル化剤として官能 基選択的にメチル化できた最初の例である。通常は 2-アミノエタノールの自己環化縮合反 応が主反応となるのに対して、超臨界反応場では、反応温度をマイルドにできるため、高 効率で N-メチル化物が得られたと考えられる。さらに、超臨界メタノール法では圧力や濃 度などの反応条件を制御することによって、N,N-ジメチルアミノエタノールと N-メチルア ミノエタノールの生成比率を制御できることを明らかとした。今後は、反応速度を向上さ せることによる生産性の向上と、技術の一般化を図ることが重要である。また、メタクレ ゾールのオルト位選択的メチル化技術の開発を着実に進めている。現行プロセス(気相法) に比較して、超臨界条件下ではメタノールの分解抑制効果と触媒寿命の改善効果が発現す ることを明らかにとした。これにより、省資源・省エネルギーが可能な化学プロセスの構 築が期待される。 ⑤超臨界水反応場を利用した水和反応技術(産総研超臨界流体 RC 集中研) 超臨界水の触媒機能を活用した有機合成技術は発見されたばかりであり、現状は反応探索 による基本特許の確立が重要である。モデル実験のヘキセンの水和に関してはオレフィン の水和だけでなく、ニ量化反応も生じたことで、水の酸触媒代替の可能性を広げることが できた。プロピレンの水和を実施することで、プロセス化の課題を明確にし、オレフィン やニトリルの水和反応技術を開発する。 ⑥超臨界水を反応場とする物質合成技術(産総研超臨界流体 RC) さらに、 400℃、 30MPa でとうもろこし蛋白質であるツェインスラリーを 0.7 秒反応させ、 2-55 アミノ酸やペプチドを短時間反応で効率的に得られることを見出しており、血圧上昇を抑 える機能食品等の製造プロセスとして有望と考えられる。同様に超臨界水中では例えばア ミノ酸からラクタムがやはり 1 秒以下で合成出来ることを見出している。極めて短時間で 反応が進行することが本プロジェクトで検証され、高効率で反応器が小型化できる新プロ セス開発が期待でき、実用化されればインパクトは非常に大きいことが予期される。 (ロ)材料プロセッシング技術の研究 表 5-1-(1)(ロ)に示したように超臨界流体を利用した材料プロセスの実用化案件は、高分 子材料や電子産業などの分野に広がっており、本プロジェクト終了時の成果の実用化技術 への寄与は大きいことが予測される。 ①熱可塑性高分子の超微細発泡成形技術の開発 (産総研超臨界流体 RC 集中研/環境調和技 術 RI/東北大) 微細発泡技術に関しては、連続溶融プロセス時の制御因子が明らかになり、発泡径 10µm 以下の高分子発泡の連続プロセスでの実現に近づいたといえる。すなわち、発泡サイズを 小さくするためには、 (1)減圧速度を大きくする、(2)減圧差を大きくする、(3)高分子材 料の溶融粘度を大きくする(長鎖分岐構造を含めて)、(4)成形温度を低くする、(5)核生成 剤を併用する、等の因子が明らかになった。これらの操作を的確に行うためには、現状の 成形加工機械では困難であり、新しいシステムの開発により実用化を目指す予定である。 ②無機/有機高分子複合材料の創製技術の開発(産総研超臨界流体 RC 集中研/高温高圧研) 超臨界注入法を用い、汎用の有機高分子材料の表面近傍にナノメーターサイズの微粒子 を分散できることが確認でき、また、操作因子の違いによる微粒子分散層の形成傾向(深 さや分散密度)を把握できた。 現段階では、微粒子分散密度など、十分に制御できる段階に は達していない。高分子の構造と二酸化炭素流体による可塑化現象との関係、エントレーナー 分子のサイズや極性の可塑化への影響、機能発現物質の構造や極性と注入効果との関係など基 礎的な可塑化現象と注入効果との関係を明らかにする必要がある。一方、注入したアルコキシ ド等の後処理工程が必要で、本方法の実用化には課題が多く、今後本方法の波及性等の観点か らの課題見直しも必要と考えている。 ③急速膨張法による無機材料の創製技術の開発(産総研超臨界流体 RC 集中研/高温高圧 研) 超臨界急速膨張法による μm オーダーのパターニングの可能性が検証された段階である。 これをさらに発展させて、種々の材料で μm 領域のパターン化材料が得られるようになれ ば、現在利用されている各種のセラミックスデバイスのさらなる微小化が可能になる。現 段階では、膜厚や膜質、特に膜質について、十分に制御できる段階には達していない。よ り狭いピッチでのパターニングを実現する上でも膜質の向上は重要で、そのためには膜質 に影響する原料やプロセスの要因を、 さらに詳細に検討して行くことが必要である。 また、 実用材料の大半が複合材料であることを考えると、無機/無機、あるいは有機/無機との複 合化が必須と考えている。 ④超臨界水反応場を利用した無機微粒子の合成技術の開発(産総研超臨界流体 RC) 流通式反応装置を用いた超臨界水中での水熱合成反応による金属酸化物微粒子合成プロ セスの開発の基盤技術を確立するため、プロセス変数と粒子特性の関係について明らかに 2-56 した。得られた結果は、速度論解析と溶解平衡から整理が可能であり、他の金属種につい ても分類、整理を行うことで、金属種に依存しない汎用な合成プロセスとなりうる。さら に、複合酸化物などの多元素系への展開も可能である。実プロセスへ展開するためには、 量産化が必要である。必要とされる反応時間は秒のオーダーであるため、新規な反応器の 開発が不可欠であると考えている。その基盤となるための装置特性(材質、形状、流動) の評価および反応器設計が実用化の課題となる。 (ハ)エネルギー・物質変換技術の研究 ① 超臨界水酸化反応によるエネルギー回収プロセスの開発 エネルギー回収プロセスの実用化のためには、超臨界水酸化反応プロセスの設計に使用 できる反応工学モデルの開発と装置材料の選定が必要であり、現状はその開発研究段階で ある。 (a)反応工学モデルの開発(産総研超臨界流体 RC 集中研/東大) 難燃性有機固体の超臨界水酸化反応における反応速度・反応機構と操作条件との関連が、 in situ の反応観測装置等を用いて、一部の有機固体(固形炭素)については明らかにな ってきた。この結果を超臨界水酸化反応装置の設計に使用できるシミュレーションモデル の構築に繋げるためには、固形炭素以外の有機固体の超臨界水酸化反応における反応速 度・反応機構と操作条件との関連の明確化や、さらには流動場観測システムの構築による 超臨界水中にある有機固体周囲の流れの測定を行い、シミュレーションモデルの改良を行 う必要がある。 (b)装置材料の選定(産総研超臨界流体 RC 集中研) 超臨界水酸化条件の変化が材料の腐食挙動に極めて大きな影響を与えていることが確認 できている。超臨界水酸化反応によるエネルギー回収プロセスの対象となる可能性の高い 超臨界水中燃焼発電や廃棄物処理などでは、イオウ等が含まれていることが多いが、分解 生成物が複雑であるためそれぞれの作用については明確になっていない。超臨界酸化プロ セスの構築には、このような共存する物質の影響を明らかにして、条件に合う材料選定、 および材料と環境条件の相関の確認を行う必要がある。 ②超臨界水中水素化反応等による未利用重質資源の軽質化・クリーン化に関する開発 (産総研超臨界流体 RC 集中研) (a)重質油転換プロセス 未利用重質資源等は将来のエネルギー供給源として重要な資源であるが、これまでの液 化、ガス化プロセスでは、対環境性、経済性が問題になり実用化が進んでいない。超臨界 水による重質油転換試験では、軽質ガス、軽質油(BTX や直鎖系の軽質油)を 80wt%以上得 られること、コークス量の大幅減少、触媒なしで硫黄濃度は 1000ppm まで減少、脱金属 100% が明らかになった。これらの結果は、超臨界水による重質油プロセスが対環境性に優れて いることなどの有用性を示すものである。今後、反応の直接測定、流動特性の把握などよ り詳細な反応場の知見に基づく、本プロセスの最適化を行うと共に、スケールアップデー タ等のプロセスデータ、設計データの取得と通して、重質油転換プロセスの構築、評価が 必要になる。 (b)還元性雰囲気での材料腐食の評価 2-57 超臨界水還元性雰囲気下における温度、 雰囲気に対する各種材料の適合性を明らかにし、 装置の温度条件、雰囲気毎に材料選定することが可能になった。また、超臨界水酸化性雰 囲気下と腐食形態が異なることを確認し、雰囲気に対して効果的な添加元素について提示 することができた。超臨界水プロセスに比較的安価なステンレス材料を利用できる範囲お よび耐食性材料の特性が明らかになったことにより、装置の構成を適切に予測することが 可能になり、経済性、安全性を考慮したプロセスの構築が可能となった。今後、応力腐食 割れ感受性等の材料強度面からの評価が行うことができれば、より精度が高くかつ信頼性 のあるデータの提示、材料の選定が可能となる。 ③プラスチック廃棄物の化学リサイクルプロセスの開発 ポリ塩化ビニルから可塑剤の回収および塩素の除去を行い、ポリエンに変換する条件を 見いだしたが、ポリエンの超臨界水中での反応では、反応条件と生成物の関係等について 今後の精査が必要である。往復動ポンプによる水−粉砕プラスチックスラリーの送液は圧 力 35MPa、スラリー濃度 33%で可能であり、スラリー供給の可能性が実証された。さらに、 スラリーポンプの設計手法を確立するには、送液試験データの蓄積や設計パラメータの策 定等を行うことが必要である。 (a)変換反応技術(産総研超臨界流体 RC 集中研/東北大) 付加重合型プラスチックを代表するポリ塩化ビニルから、可塑剤を有機系塩素化合物等 の有害物質の生成を伴わず回収できる操作条件、次に、残渣のポリ塩化ビニルの塩酸脱離 反応によりポリエンとする操作条件を特定した。今後、超臨界水を反応溶媒として利用す ることで、 ポリエンを有用物質に転換できれば、 工業原料化が望めるとともに埋立て処分、 焼却処分量を低減する処理方法として提言できる。一方、縮重合型プラスチックに代表す るポリカーボネートをモノマーであるビスフェノール A への転換の可能性を見出しており、 今後高収率の条件が特定できればその実用化の可能性は高い。 (b)高圧供給系の構築(産総研超臨界流体 RC 集中研) プラスチック廃棄物を化学プロセスにより連続して処理するにあたり、水と共にスラリ ー状で超臨界反応場へ連続かつ安定して供給する装置設計技術の確立は避けては通れない 技術であり、工学基盤技術としても重要なものである。本研究において、工業的に汎用性 の高い往復動ポンプによる超臨界反応場への粉砕プラスチックのスラリー供給が可能であ ることが実証された。今後、水−プラスチックスラリー送液のパラメータを変化させた状 態での昇圧・送液範囲、配管内での送液状態等の試験、流体力学的検証等を通して設計手 法を確立し、固体の高圧供給システムの実用化を図る。 (2)基礎基盤技術の開発 各プロセスの共通基盤技術確立に必要な超臨界流体のミクロ物性、流動、相平衡等の基 礎物性及び反応機構、溶媒効果等の反応物性について測定・解析を行うものであり、超臨 界流体プロセスの実用化を促進するための基礎基盤を構築するものであるが、必要に応じ て行われる新装置の開発は実験装置の販売ビジネスに結びつくことも考えられる。一方、 高圧酸素供給に係わる安全性とシステム開発は,超臨界流体酸化プロセスの産業分野の展 開に直結するものである。 ①超臨界流体のミクロ溶媒特性の解明(産総研超臨界流体 RC/産総研環境調和技術 RI) 2-58 高圧 NMR 測定セルの開発による in situ 測定技術の高度化に寄与し、超臨界水有機合成 の実現の源となっている超臨界水の酸・塩基触媒機能の発現機構に関する知見は国内外の 超臨界水研究者に大きな反響を与えた。また、NMR による時間分解測定によれば反応進行 中の中間生成物の同定も可能で、 反応経路・機構解明に大きく寄与できることが判明した。 ②超臨界流体のマクロ特性の解析(産総研超臨界流体 RC 集中研/産総研環境調和技術 RI /東北大/九州大/近畿大/高温高圧研) 超臨界水、超臨界二酸化炭素の 2 成分混合系相平衡については、報告データの少ない領 域でのデータ測定のための装置・手法を開発し、データの測定及び解析を行った。また、 推算法についても、汎用法の適用精度を定量的に評価し、実用的な推算法開発にむけての 知見を得た。 高分子材料への溶解度・膨潤度については、高精度測定装置を設計・製作し、データの 系統的蓄積が行える状態になっている。超臨界二酸化炭素溶解度データを整備することに より、多くの高分子材料に対して超臨界二酸化炭素の適用が可能になると考えられる。溶 融高分子の熱物性や粘性特性についても、装置が完成し、データ蓄積と物性データとして の再現性を確認しているが、融点、結晶化点、ガラス転移点、粘性特性のデータからは、 明らかに超臨界二酸化炭素による高分子材料の可塑化が確認されており、高分子加工プロ セスへの適用性を定量的に明らかにした。界面張力については高圧領域で適用性の高い懸 滴法の装置製作を終了した。 可視セルと流通型装置を組合わせた溶解度および相平衡測定装置は世界中でも例がなく、 汎用性がありまた分解挙動測定への展開も念頭において設計されているもので、装置自体 に特徴があり、実験装置としてのニーズがある。また、アセチルアセトナト、アルコキシ ド等代表的な化合物について溶解度や相平衡データは、材料製造や分子触媒反応に関する 基礎検討との基盤データになる.また,超臨界水中への NaCl、KCl 塩の溶解度測定装置に ついても、装置と手法とを併せた測定法としてのニーズがある。 ③高圧ガス供給システムの安全技術(産総研超臨界流体 RC 集中研) 高圧ガス供給のための保安システムについては、高圧酸素供給については装置製作が終 了し、基盤データが蓄積できる体制になった。また、内外の高圧酸素供給技術について安 全技術調査を実施し、法規・基準ならびに安全技術に対する報告書を作成した。一方、超 臨界水、超臨界二酸化炭素の応用技術の全世界的なプロセス化・実用化に鑑み、欧米での 保安システム・保安基盤技術データについて、キーワードを検討し INTERNET を介して資料 収集を始めたところである。今後、まず集積データを整理、解析し、共通点・差異点を明 確にする。 5.3 波及効果 (1)超臨界流体プロセスの技術開発 (イ)有機合成プロセス技術の研究 ①超臨界二酸化炭素反応場を利用した水素化反応技術(産総研超臨界流体 RC 集中研/東工 大/産総研超臨界流体 RC) 樹脂、液晶、医薬品の分野などからの高選択的な核水素化反応技術に対するニーズは、 極めて高い。今回開発した超臨界二酸化炭素―水二相系核水素化反応システムは、環境負 2-59 荷低減に対する貢献はもちろん、高選択的な核水素化反応が期待できる反応システムであ る。今後、反応の高選択化とともに、種々の芳香族化合物への適用を図り、包括的な核水 素化技術として確立した場合、その波及効果は絶大なものとなる。また、α,β-不飽和ア ルデヒドの選択的水素化反応によってα,β-不飽和アルコールを合成する効率的なプロセ ス開発が確立されれば、香水、医薬品などに用いられる芳香を有する種々のファインケミ カルズの環境調和型で効率的な製造が可能となり、波及効果は大きい。 ②超臨界二酸化炭素を基質とする有機合成技術(産総研物質プロセス RI/産総研超臨界流 体 RC) 本課題はホスゲン代替としての二酸化炭素利用技術と見なすことができる。現在、ホス ゲンは年間 700 万トン以上消費されている有用な工業原料であるが、猛毒、腐食性などの 問題のため、環境にやさしい代替技術が強く求められており、炭酸ジメチルがもっとも有 力な代替候補である。環状炭酸エステルはメタノールとの反応によって容易に炭酸ジメチ ルに変換可能なため、二酸化炭素を原料として環状炭酸エステルを安価に供給できればホ スゲンプロセスを炭酸ジメチルプロセスで代替できる可能性がある。 本課題のうち、均一系触媒を用いるプロセスが実現されれば、有機溶媒中の均一系触媒 反応が広く超臨界二酸化炭素中の反応に置き換わる可能性がある。例えばヒドロホルミル 化反応は世界で 500 万トン以上の生産規模で稼働中であるが、貴金属錯体触媒のリサイク ルに多大の労力を費やしている。超臨界二酸化炭素を利用することにより触媒の分離回収 プロセスが大幅に効率化される可能性がある。 また、安価な原料であるアミノアルコールとジシクロヘキシルカルボジイミドから抗菌 作用を持ち、医薬原料として重要な環状ウレタン化合物である 2-オキサゾリジノンの低温 合成は、従来報告されてきた四塩化炭素、アミン、ホスフィンを用いた合成方法に比べて、 操作でも、収率の上でも優れており、新規プロセスとして有望と考えられ、本プロセスが 確立されれば波及効果は大きいと考えられる。 ③超臨界メタノールを利用した芳香族化合物合成技術(産総研超臨界流体 RC 集中研/東工 大/静岡大) 超臨界メタノールを反応基質および媒体として用いる芳香族化合物の位置選択的メ チル化反応は、2,6-ジメチルナフタレンの合成のみならず、トルエンのメチル化によるパ ラキシレンの合成、ビフェニルのメチル化による 4,4’-ジメチルビフェニルの合成等、他 の芳香族化合物に応用することが可能である。これらの化合物は、例えば液晶ポリマーの 原料前駆体として有用であり、本研究テーマの目標達成によって、超臨界メタノールに よる高効率・省エネルギー・環境負荷低減新プロセスが実現すれば、適用範囲が拡大 することも期待できる。 ④超臨界メタノール反応場を利用したメチル化反応技術 (産総研超臨界流体 RC 集中研/東 工大) 本研究のこれまでの結果から、超臨界流体中で効率的な有機合成反応を実現させるため には、気相や液相条件下で公知の固体触媒をそのまま超臨界条件に転用して利用するので はなく、超臨界反応場の制御とその反応場に相応しい固体触媒の組合せが重要であると言 える。これまで気相や液相条件で行われてきた固体触媒の設計指針は、超臨界条件下では 必ずしも適応できない。それ故、本研究の中で実施される超臨界条件下での固体触媒の物 2-60 性解析により、設計指針を確立することが重要である。超臨界反応場のメリットが端的に 発現している本研究を進めることによって、アルキル化プロセスに限らず、酸化、還元、 置換、付加、転位反応など、数多くの固体酸・固体塩基触媒が作用する有機合成プロセス に対して、超臨界反応場の活用に道を開くと期待される。 ⑤超臨界水反応場を利用した水和反応技術(産総研超臨界流体 RC 集中研) オレフィンの水和反応が進行したことから、国内でも超臨界水の特徴を利用して、酸触 媒を用いている既存の工業プロセスに適用しようとする研究が更に加速され、実用化が進 展することが期待できる。今後、プロジェクトで研究活動を継続することで、更なる革新 的技術を発見する可能性は大きい。 ⑥超臨界水を反応場とする物質合成技術(産総研超臨界流体 RC) 従来の種々の酸、塩基触媒が用いられ環境への影響が懸念されている化学合成プロセス について、超臨界水の酸、塩基触媒機能を利用することによって、低環境負荷型の無触媒 プロセスの実現に資する。本研究課題は超臨界反応場に適した化学反応を探索し、その基 本特許を確立することを目指しており、その中からプロセスへ展開することが想定されて おり、将来的にはかなりの波及効果が期待される。 (ロ)材料プロセッシング技術の研究 ①熱可塑性高分子の超微細発泡成形技術の開発 (産総研超臨界流体 RC 集中研/環境調和技 術 RI/東北大) 本技術は、気泡径 10μm 以下の微細発泡製品を実用化および促進するための基盤技術と なる。この技術は、プラスチック産業界において、射出成形、圧縮成形、押出成形、フィ ルム・シート成形、中空成形、溶融紡糸などの広範囲のプラスチック成形において微細発 泡を実用化するために直接応用できる。その他には、異種ポリマーのブレンドや反応押出 しによるポリマーアロイや、ポリマーとガラス・炭素繊維、無機充填材とを複合化したコ ンパウンドおよびナノコンポジットの製造にも利用できる。ポリマーの精製工程において は、発泡によって溶融ポリマー中の表面積を増やすことにより、重合過程で残留した触媒 や溶媒を効率的に除去するプロセスも可能となる。また、ポリマーに高い流動性を付与す ることで、マイクロマシン等の微細形状部品の製造にも展開できる。微細発泡製品は、車 両内装品の軽量化による燃費低減や、薄くて断熱性の高い建材による省エネルギー化など の効果をもたらす。 学会においては、ポリマーの溶融、流動および固化から形成される連続成形プロセスに おける超臨界流体の溶解、拡散および相分離の挙動が明確になり、微細発泡の形成に至る 一連の過程が解明される意義は大きい。 ②無機/有機高分子複合材料の創製技術の開発(産総研超臨界流体 RC 集中研/高温高圧研) 有機高分子材料の表面近傍に、ナノメーターオーダーの金属や金属酸化物の微粒子を均 一に分散させた複合材料は、その分散形態による特徴から、熱や曲げ延ばしなどの外力に よる機能層の剥離を防止することによって機能を持続させることができる。また、複合化 される粒子の径が小さくなると、マトリックス樹脂との相互作用が強くなり、機械的強度 や耐熱性が発現する。製造工程としては、超臨界二酸化炭素をプロセス溶媒として用いる ことにより、従来の有機高分子材料の複合化プロセスで発生する有機溶剤などによる環境 2-61 への負荷が低減され、廃水処理に係わるコストやエネルギーが省力化でき、従来技術の有 する問題点を解決できる可能性も考えられる。 ③急速膨張法による無機材料の創製技術の開発(産総研超臨界流体 RC 集中研/高温高圧 研) 本法は水と比べて非常に温和な条件で超臨界状態となる二酸化炭素を用いて、これまで に研究例の少ない無機材料の創製を行ない、さらにそれをパターニングに適用するという 全く新しい超臨界流体の応用を提示するものである。これにより、エレクトロニクスやマ イクロマシンなどのパターン化材料を必要とする分野に、新規な省エネルギー、低環境負 荷の微細パターン形成技術を提供できる。また、それと同時に、急速膨張法の基本特性に 関するデータは、パターニングにとどまらず、粉末製造やコーティング技術などの超臨界 流体を利用した材料プロセス全般に有用である。 ④超臨界水反応場を利用した無機微粒子の合成技術の開発(産総研超臨界流体 RC) 超臨界水を利用した水熱合成反応による金属酸化物微粒子合成プロセスは、現在、種々 の製造業に求められている多岐におよぶ特性を制御した微粒子製造法となりうるため、そ の波及効果は大いに期待できる。 さらに、本プロジェクトで明らかになる反応装置特性は、 無機材料合成だけでなく、現在広範囲の分野で展開されつつある超臨界水を利用した合成、 分解、分離プロセスの根幹となる基盤技術であり、その産業界へ及ぼす波及効果は計り知 れない。 (ハ)エネルギー・物質変換技術の研究 ① 超臨界水酸化反応によるエネルギー回収プロセスの開発 (a)反応モデルの構築(産総研超臨界流体 RC 集中研/東大) 超臨界水酸化反応工学モデルの開発により、低品位の石炭である褐炭やインドネシアの 森林火災で有名となった泥炭、またゴミの燃焼などによる超臨界水中燃焼発電や有害物質 の無害化、廃棄物の処理など超臨界水酸化反応利用プラント全般のプロセス最適化への適 用が期待される。 (b)装置材料の選定(産総研超臨界流体 RC 集中研) 超臨界水酸化反応プロセスに使用できる装置材料の経済的、安全性の高い選定が可能に なれば、超臨界水を用いる有機合成反応プロセスやプラスチック廃棄物のリサイクルプロ セスの装置材料にも適用可能であると考えられる。また、今研究から得られるデータ等か ら、腐食のデータベースが構築され、広く産業に利用できるようになることが期待される。 ②超臨界水中水素化反応等による未利用重質資源の軽質化・クリーン化に関する開発(産 総研超臨界流体 RC 集中研) (a)重質油転換プロセス 本研究では、重質油を対象に行ってきたが、今後反応メカニズムなどの基礎的な研究を 行うことにより、有機物と超臨界水の反応状況を把握することがより重要になる。 それらの知見を発展させることにより、プロセスの最適化や、超臨界水を利用した未利用 資源の有効利用および原料の高付加価値化と言う観点から、有機化合物の高付加価値化な どにも適用可能になると考えられる。 有機物化合物の高付加価値化においては有機化合物と超臨界水との無触媒反応による高 2-62 付加価値物質の合成、抽出が考えられる。石油産業、化学プラントにおける触媒工程の簡 素化、反応塔のコンパクト化が可能となり、現在化学工業プラントで問題になっている触 媒廃棄物の低減化、エネルギー消費量およびプロセスコストの低減化を図ることができる ものと期待される。超臨界水との反応により重質油の一部が水溶性油に変換されているこ とが明らかになっているが、今後この水溶性油の生成メカニズムが明らかになれば、更に 適用範囲が広がるものと思われる。 (b)還元性雰囲気での材料腐食の評価 超臨界水還元性雰囲気においては、一般産業で用いられている構造材料で装置材料を選 定できる見通しが得られた。比較的安価なステンレス材料を利用できる範囲および耐食性 材料の特性が明らかになったことにより、経済性、安全性を考慮した実用化プロセスの構 築が可能であることが判明した。超臨界水還元性雰囲気である未利用重質油の有効利用、 廃プラスチックの有効利用、有機化合物の合成技術においては、超臨界水プロセスを実用 化する上で懸念されている材料腐食、 経済性を十分クリアできる見通しが得られた。 また、 超臨界雰囲気下での腐食に対して効果的な添加元素、割合などが判明したことは、経済性、 安全性を考慮した超臨界水プロセス用の新規材料開発の糸口となる。今後、応力腐食割れ 感受性等の材料強度面からの評価を行うことができれば、より精度が高くかつ信頼性のあ るデータの提示、材料の選定が可能となる。 ③ プラスチック廃棄物の化学リサイクルプロセスの開発 (a)変換反応技術(産総研超臨界流体 RC 集中研/東北大) 付加重合型プラスチックに代表されるポリ塩化ビニルから可塑剤および塩素を除いて得 られた物質は、二重結合が連続的につながるポリエン構造を持つものであるが、この物質 の物性、化学反応性に新たな展開が期待できる。 (b)高圧供給系の構築(産総研超臨界流体 RC 集中研) 本供給システムは、対象物の物性等がプラスチックに近い、比較的比重の小さいスラリ ーを用いたリサイクルプロセスに向けた、スラリー高圧供給システムの適用範囲を拡大す ることが期待できる。 (2)基礎基盤技術の開発 得られた超臨界流体のミクロ特性やマクロ特性等の基礎物性及び反応への溶媒効果等の 物性データベース化のための解析研究を実施しているが、これらは特定の応用技術を想定 した基礎基盤ではなく、広く超臨界流体プロセスの進展のために必要となる基礎基盤であ る。なお,高圧酸素等のガス供給に係わる安全性とシステム開発に必要な工学基盤技術の 開発は新たな標準技術となりうるもので、その波及効果は計り知れない。 ①超臨界流体のミクロ溶媒特性の解明(産総研超臨界流体 RC/産総研環境調和技術 RI) 高圧 NMR 測定セルの開発は,in situ 測定技術の高度化に寄与し、超臨界水有機合成の 実現の源となっている超臨界水の酸・塩基触媒機能の発現機構やミクロ溶媒特性に関する 知見の集積につながっている。これらの技術を発展させ、FT-IR、NMR などの in-situ 時間 分解測定が汎用・確立されれば反応進行中の中間生成物の同定も可能で、新たな反応系や 触媒開発にも大きく寄与できる。 ②超臨界流体のマクロ特性の解析(産総研超臨界流体 RC 集中研/産総研環境調和技術 RI 2-63 /東北大/九州大/近畿大/高温高圧研) 本研究で得られる 30MPa までの平衡・輸送物性や熱物性の基礎物性データベースは、超 臨界流体を用いた新たなプロセスの可能性を広げるものであり、我国が欧米に遅れている プロセスシミュレーターの開発にも直結するものである。また新たな分野での超臨界流体 を用いたプロセスの発想を研究者に与えることが可能であると考える。更に超臨界水酸化、 超臨界水熱合成中での無機、複合材料合成に適合した金属化合物の探索に直結するもので あり、物性蓄積の成果に加えて、これらの材料製造プロセスの進展が大いに期待できるも のである。 ③高圧ガス供給システムの安全技術(産総研超臨界流体 RC 集中研) 超臨界条件下での高圧酸素の取り扱いに関する設計基準を整え、それらが公に認知され れば、超臨界条件下での高圧ガス取り扱いにおける安全性と経済性の向上が図れ、超臨界 利用技術を広範な産業分野で求められている環境負荷低減技術として利用促進することが できる。 6.今後の展開 6.1 今後の課題 個別テーマの目標達成度を常時、評価・判断し、必要であれば個別テーマを見直す。本事業 内でのシーズの創生をさらに活発化し、ニーズを踏まえた上でブリークスルーすべき技術課題 と有機的に結びつけた研究・開発を推進する。得られた結果と超臨界流体の特性との関係を解 明し、超臨界流体の特性を最大限に発揮しうる温度・圧力制御技術、要素・システム技術を確立 し、共通基盤技術の体系化を行い、その成果を随時公開する。 また、実用化への主な課題は以下の通りである。 (1)超臨界流体プロセスの技術開発 (イ)有機合成プロセス技術の研究 超臨界流体二酸化炭素、超臨界水や超臨界メタノールを主に用い、高効率、高選択的な 環境調和型の基礎化学品等に対する有機合成プロセス技術の実用化案件は、多くの化成品 が関連しており、本プロジェクト終了時の成果の実用化技術への寄与は大きいことが予測 される。超臨界二酸化炭素を利用した環状炭酸エステルの高効率合成プロセスの開発では 均一系触媒あるいは固体触媒による触媒分離不要なプロセスを開発できる目途がついてお り、プロセス構築のためには更にマイルドな反応での触媒探索が必要と考えられる。超臨 界メタノールを利用した 2,6-ジメチルナフタレンの高選択的有機合成反応技術では選択 性の良好な触媒を選定し、実用化に近いが、更に選択性を上げるには外表面の酸点を失活 させる技術開発課題が残されている。同様に超臨界メタノール反応場を利用した二官能性 アミン化合物のメチル化技術についても高活性の有望な触媒を開発でき、選択性の向上が 実用化のキーポイントになっている。超臨界水の触媒機能を活用した有機合成技術は発見 されたばかりであり、現状は反応探索による基本特許の確立が重要である。 しかしながら、 極めて短時間で反応が進行することが本プロジェクトで検証され、高効率で反応容器が小 型化できる新プロセス開発が期待でき、実用化されればインパクトは非常に大きいことが 2-64 予期される。 超臨界二酸化炭素やメタノールを利用した有機合成では触媒の選定等を実施しており、 その成果に基づき、高選択的な触媒開発を通して合成プロセスを構築する。超臨界水の触 媒機能を活用した有機合成技術では反応探索による基本特許の確立が重要である。極めて 短時間で反応が進行することから、高効率で反応容器が小型化できる新プロセス開発が期 待できる。 (ロ)材料プロセッシング技術の研究 微細発泡技術に関しては、連続溶融プロセス時の制御因子が明らかになり、発泡径 10μ m以下の連続プロセスでの実現に近づいたといえる。急速膨張法による製膜技術では、50 μmピッチのパターニングが実証されたが、より狭いピッチでのパターニングを実現する 上で膜質の向上が実用化のための技術的課題である。 (ハ)エネルギー・物質変換技術の研究 超臨界水酸化反応プロセスの設計に使用できるシミュレーションモデルの構築には、必 要な反応速度と操作条件との関連の明確化、さらには、有機固体周囲の流れの測定により シミュレーションモデルの改良を行う必要がある。重質油の超臨界水中での反応で 80%以 上軽質化、脱硫、脱金属が実証された。反応メカニズムの詳細な把握やプロセス設計デー タの取得等により、このプロセスを構築が可能になる。また、超臨界水還元性雰囲気下で のプロセス材料を温度条件、雰囲気毎に材料選定することが可能になり、さらなるデータ の集積により、その信頼性の向上が必要である。プラスチックスラリーの圧力 35MPa、ス ラリー濃度 33%で送液が実証された。さらに、スラリーポンプの設計手法を確立するには、 送液試験データの蓄積や設計パラメータの策定等を行うことが必要である。 (2)基礎基盤技術の開発 超臨界流体のミクロ物性、流動、相平衡等の基礎物性及び反応機構、溶媒効果等の反応 物性について測定・解析を行い、各プロセスの共通基盤技術確立に資する。一方,高温・ 高圧並びにガス供給に係わる安全性とシステム開発は,超臨界流体という圧力を積極的に 利用した産業分野の展開が期待できる。 6.2 期待される効果 本プロジェクトで行う化学プロセスに対する超臨界利用技術の基盤形成の結果として、 将来的に想定される効果を以下に例示する。プロジェクトの成果である技術基盤を活用す ることでこれらの分野におけるエネルギー消費を減少させるための超臨界流体技術の応用 技術開発が促進されることが期待され、同時に新規産業分野の創出も可能となる。 (1)超臨界流体技術の開発 (イ)有機合成プロセス技術 超臨界流体を溶媒とする合成技術の確立によって蒸留、溶媒回収、再利用、無害化に用 いられているエネルギーの大幅な低減が図られるとともに、低環境負荷な生産プロセスの 利用が普及する。現行化学産業で基礎化学品(除く無機化学品)約500百万トン/年の生産高 うち、溶剤を使用して製造している製品は約50万トン/年と見積もられる。 (ロ)材料プロセッシング技術 2-65 微粒子材料や高分子材料の合成を超臨界流体中で行うことにより、新たな特性を持つ軽 量材料等が少ないエネルギー消費で生産され、プロセスの省エネルギー化とともに現行材 料をより軽量なものと代替して、材料のユーザー側での大きな省エネ効果が見込まれる。 現状利用されているポリマーと同程度の強度を持ちながら、約30%軽量な超臨界流体技術 発泡ポリマーを利用することで、製造側及びユーザー側で省エネルギー効果が見込める。 (ハ)エネルギー・物質変換技術 当該技術により未利用炭素資源の有効利用が図られて、熱回収のような低レベル資源回 収のみが可能であった原料をより高付加価値の物質として回収・再利用し、全体の炭素資 源の節約、原油消費量の低減につながる技術の基盤が確立される。 (2)基礎基盤技術の開発 超臨界流体技術に関する工学的な基盤技術の確立は、非超臨界流体技術領域における高 温・高圧利用技術の開発にも寄与し、様々なプロセスの設計最適化に対して新たなオプシ ョンを提供し、より広い反応条件領域を利用した最適化によって省エネルギー型プロセス 設計に資する。さらに、超臨界流体技術に関わる基盤技術の確立は、化学以外の分野にも 広く適用可能である。例えば電子材料分野における超臨界洗浄技術、セラミックス材料の 超臨界領域を利用した創製技術等において有機溶剤の代替や軽量材料の創出に寄与するで あろう。このような他分野における省エネルギー効果も基盤技術の確立により加速される。 これらの超臨界流体プロセスのうち、工業化の目処がついたものについては、導入当初 より、市場原理により導入が進み、超臨界流体を用いた当該技術の普及率は次のように予 想される。 2010年:30% 2020年:50% 2030年:90% このような導入が実現した場合、温室効果ガスの削減効果が期待される。その予測結果 を表 6.2 に示す。 表 6.2 温室効果ガス削減量試算(単位:炭素換算千トン/年) 削減量 普及率(%) (イ)有機合成プロセス技術 (ロ)材料プロセッシング技術 (ハ)エネルギー・物質変換技術 220 1,131 737 2010 年 30 66 339 221 7.中間評価の評価項目・評価基準、評価手法及び実施時期 該当無し 2-66 2020 年 50 110 566 368 2030 年 90 198 1,018 663 8.研究開発成果 8.1 事業全体の成果 8.1.1 全体に係わる成果の概要 全体に係わる成果の概要についてはを表 8.1.1 にまとめた。 表 8.1.1 全体に係わる成果の概要 個別研究項目 目的・目標に対する 成果の意義 成果 (1)超臨界流体 ・不飽和アルコー ・極性溶媒を使用せ プロセスの技術開 の合成技術の開発 ず、選択率 98%、収 発 率 57%の高選択的水 (イ)有機合成プ 素化技術を開発。 ロセス技術の研究 ・環状炭酸エステル ・超臨界二酸化炭素 の合成技術の開発 反応場で転化率 94% 選択率 99%環状炭エ ステル合成に成功。 セールスポイント ・これまでで一番高い収 率を達成し、選択率も 98%と非常に良い結果で ある。 ・高効率の均一系触媒を 開発でき、また二酸化炭 素が原料になるため、 CO 2 削減に寄与。 ・超臨界メタノール ・メチル化反応技術 により、2-アミノエ ・反応性に富むアミン化 の確立 タノールの N-メ チ 合 物 等 の 有 機 化 合 物 を ル 化 反 応 が 高 効 率 高 選 択 的 に ア ルコール (転化率 88%,合 計 で直接 N-アルキル化で 選択率 94%)で進行。 きる技術を確立。 酸触媒機能と塩基 ・超臨界水触媒機能 触 媒 機 能 に よ る 別 を利用した有機合 個の有機合成が選 成技術の開発 択的に起きること を解明した。 ・0.1∼10 秒程度の高速 で反応が進行し、反応容 器の小型化の可能性を 得た。 (ロ)材料プロセッ ・ 発 泡 の 可 視 化 解 ・発泡微細化の基本 ・微小気泡挙動連続解析 シング技術の研究 析技術の確立 因子の明確化。発泡 装置の構築(溶融粘度の 生 成 に 減 圧 速 度 の オンライン計測・発泡の 閾 値 が あ る こ と を 可視化) 確認。 ・無機/有機高分子 ・微粒子の平均径、 ・ 平 均 径 6nm 、 深 さ 約 複合化手法の確立 分散密度、分散層の 1µm、1%の Ag 粒子分散層 形 成 深 さ の 注 入 条 の形成に成功。 件依存性 およびエ ントレーナ効果を 確認。 ・急速膨張法による ・原料の溶解性や製 ・高速、厚膜製膜が可能 製膜技術の確立 膜性、製膜プロセス な 急 速 膨 張 法 に よ る に つ い て の 重 要 な 50µm ピッチのパターニ 知見が得られた。 ングに成功。 2-67 ・微粒子制御因子の ・プロセス変数の ・微粒子化による触媒の 解明 粒子径・分布への影 高活性化を実証。 響を実験及び熱力 学的解析により明 確化。 ( ハ ) エ ネ ル ギ ・超臨界水中酸化反 ・酸化反応の反応速 ・精度高い反応モデルを ー・物質変換技術 応の解明 度から、この反応が 構 築 が 期 待 で き る こ と の研究 ガ ス 境 膜 内 拡 散 律 確認。 速であることを確 認。 ・重質油転換反応に ・重質油から軽質ガ ・超臨界水中での重質油 お け る 超 臨 界 水 の ス、低イオウ・重金 の 転 換 プ ロ セ ス が 対 環 効果 属 フ リ ー の 軽 質 油 境性に優れていること 等を高収率で得た。 を示した。 ・材料腐食の評価 ・超臨界水還元性雰 囲気下において適 用可能な材料の候 補が選定できた。 ・酸化性雰囲気とは 腐食形態が異なる ことを確認。 ・超臨界水還元性雰囲気 下においては、ハステロ イ C 系、MAT21 が好まし いことを提案できた。 ・SUS316 で適用可能な条 件を提示することがで きた。 ・水−プラスチック ・ 水−プラスチク ス ラ リ ー 送 液 シ ス ( 粒 径 分 布 100 ∼ テムの構築 250 µm )スラリーを 濃度 33wt%(吐出圧 力 35MPa)までの送 液を確認。スラリー 濃度 20wt%で容積効 率 50%以上を確保。 ・これまで具体的な設計 方法の提案等がなされ ていなかった粒径 100µm を超える水−樹脂系ス ラリーの供給方法とし て、往復動ポンプによる 送液が可能であること を立証した。 2-68 (2)基礎基盤技 ・超臨界水の触媒 ・ In−situ FTIR 法 術の開発 機能発現機構の解 により2量体の水か 明 ら H 3 O + と OH - への解離 機構を明らかとし た。 ・ 超臨界アルコー 中の有機合成反応 の解析 ・ 超臨界アルコール の芳香族への付加反 応のメカニズムを解 明 ・超臨界水の酸・塩基触 媒発現機構を世界で初 めて実証した。 ・超臨界アルコール中 の有機合成反応でアル コール自身が反応の活 性種ダイマーとして機 能する場合を解明した。 ・ ・ 超臨界流体‐有 ・新しい膨潤度(固 ・高分子への超臨界流体 機物混合系のマク 体、液体)測定装置 溶解のデータの測定・解 ロ特性の測定技術 を設計・開発 析が可能となった。 の開発 ・超臨界 CO 2 の高分 子可塑化効果によ る熱物性データ解 析 8.1.2 ・超臨界 CO 2 によっ て高分子が非晶質と なり可塑化が進行す ることを明らかとし た。 ・低 温 か ら 高 温 ま で の 広温度範囲の高圧熱量 計の作成 全体としての目標達成度 (1)超臨界流体プロセスの技術開発 (イ)有機合成プロセス技術の研究 平成 13 年度までの目標は、個別の要素技術によりやや相違があるが、 全体としてみれば、 評価時までの目標は概ね達成されたといえる。全体的には①水素化反応技術では目標とし たアニリンの核水素化反応に有効な反応システムを開発し、また不飽和アルデヒドの選択 的水素化反応では目標を達成しており、全体として 90%を達成している。②は超臨界二酸 化炭素を原料とする環状炭酸エステル及びウレタン化合物の合成技術であり、両方とも目 標をクリアしている。③芳香族化合物合成技術では目標を完全に達成している。④二官能 性アミン化合物及びフェノール化合物のメチル化反応ではほぼ目標に到達しているが、ジ メチル化生成物収率がやや低い値を示し、到達度 90%である。⑤超臨界水反応場を利用し た水和反応技術では高圧ガス対応の合成装置の作成にやや遅れが生じ、目標の達成までに は至らなかった。⑥超臨界水を反応場とする物質合成技術ではほぼ目標を達成している。 (ロ)材料プロセッシング技術の研究 平成 13 年度までの目標は、個別研究開発項目により、進捗状況に相違はあるものの、全 体としてみた場合、評価時までの目標は概ね達成されたといえる。具体的には、①微細発 泡技術では、高分子発泡の可視化観察により、発泡に与える操作因子である温度、圧力及 び減圧速度の影響を明らかにでき、成形加工プロセスにおける発泡の制御指針が得られた。 2-69 ②無機/有機高分子複合化技術では、超臨界注入法による高分子中の金属、金属酸化物微粒 子の分散層と操作因子との関係から微粒子分散層の形成傾向を把握した。③急速膨張法に よる無機材料創製技術では、超臨界二酸化炭素への金属アルコキシドの溶解性や噴射され る粒子の径及び固化過程などの基礎特性を解明するとともに、マスクパターンを応用した パターニング製膜を実証できた。④超臨界水反応場による微粒子合成では、プロセス変数 が粒子特性に与える影響について、原料溶液の被る温度変化に伴う溶解度変化が粒子特性 を決定する因子のひとつであることを明らかにできた。 (ハ)エネルギー・物質変換技術の研究 平成 13 年度までの目標は、個別研究開発項目の要素技術により相違はあるが、全体として みた場合、評価時までの目標は概ね達成されたといえる。具体的には、①超臨界水酸化反 応プロセス技術では、細孔のある固形炭素については、温度、圧力、酸素濃度、流量の影 響を調べ、この酸化反応がガス境膜内律速であること明らかにでき、反応モデルの構築が 可能になった。②未利用重質資源の軽質化プロセスでは、超臨界水による転換反応が対環 境性に優れていることが分かった。さらに、超臨界水還元性雰囲気下では Cr と Mo のバラ ンスが良好なハステロイ C 系と MAT21 が好ましことを明らかにできた。③プラスチック廃 棄物の化学リサイクルでは、ポリ塩化ビニルからの脱可塑剤、脱塩素法を確立するととも に、プラスチックスラリーの高圧供給の可能性を実証した。 (2)基礎基盤技術の開発 平成 13 年度までの目標は、個別の要素技術によりやや相違があるが、全体として見た場 合、評価時までの目標は概ね達成されたといえる。 ①超臨界流体のミクロ溶媒特性の解明では目標とした測定セルの開発を行い、また超臨 界水の触媒機能発現機構の解明に成功した。また反応過程の時間分解追跡についても、超 臨界アルコール中での高選択的有機合成反応について FT-IR や NMR を用いて解明しており、 中間目標はほぼ達成している。②超臨界流体のマクロ特性の解析では,例えば二酸化炭素 への弗化物の溶解度精密測定装置を作成し、実用推算法の推奨を行った。また、高温高圧 水系の相平衡については流通式相平衡測定装置を完成させ、データの蓄積と推算手法の適 用性精査が図られている。超臨界流体―無機物混合系の平衡物性蓄積では、無機、複合材 料合成に適合した金属化合物の探索と評価では溶解度および相平衡測定装置を構築し、ア セチルアセトナト、アルコキシド等の溶解度や相平衡の評価を行った。また、超臨界水中 への金属塩の溶解度についても、400℃、30MPa 以上の高温高圧域での測定を実施している。 この研究グループは多くの課題にとりくんでおり、全体としての中間目標達成は概ね達成 していると言える。③高圧ガス供給システムの安全技術では,まず酸素雰囲気中における 材料物性の測定装置から着手し装置試作にやや遅れが生じているが、検討事項ならびに手 法については明確になっているので,達成度は 70%程度と言える。 8.1.3 成果の普及、広報 添付資料3を参照。 2-70 8.1.3.1 論文等 論文総数(57)、 その他誌上発表(20)、口頭発表(124)、招待講演(32)、 新聞発表(12) 8.1.3.2 知的所有権 特許出願: 国内 22 海外 5 8.1.3.3 広報 8.2 広報 1 件(見本出展) 研究開発項目毎の成果 8.2.1 個別研究開発項目の成果の詳細 (1)超臨界流体プロセスの技術開発 (イ)有機合成プロセス技術の研究 ①超臨界二酸化炭素反応場を利用した水素化反応技術(産総研超臨界流体 RC 集中研/東工 大/産総研超臨界流体 RC) バッチ式超臨界二酸化炭素反応装置を用いて超臨界二酸化炭素中でのアニリンの核水素 化反応に有効な高効率触媒系の開発を目指し検討を行った。各種核水素化触媒のスクリー ニングの結果、Ru/Al 2 O 3 等の一般的な遷移金属担持触媒では、二酸化炭素が触媒毒となっ て核水素化反応が進行しないことが明らかとなった。一方、 (C 6 H 6 ) 2 Ru 2Cl 4 ―H 2O 触媒系では、 二酸化炭素の影響を受けずに高い活性を示し、 S/C 1000、 水素圧 6MPa、 二酸化炭素圧 18MPa、 100℃、13h 条件で転化率 74%(TOF 60)、シクロヘキシルアミン収率 58%、シクロヘキシ ルアミン選択率 78%で反応が進行することが明らかとなった。また、本反応では活性に二 酸化炭素圧依存性があり、二酸化炭素圧 9MPa までは活性が低下するが、9MPa 以上では逆 に二酸化炭素圧力の増大とともに活性が向上することが明らかとなった。このことは更な る反応条件の最適化、触媒の改善でより高効率化が図れる可能性を示している。また、本 反応系のような超臨界二酸化炭素―水二相系での核水素化反応は反応系が酸性化すること で触媒が壊れてしまう等の理由によりこれまで達成されていない。このような多相系での 反応は、触媒の分離回収が容易であるだけでなく、超臨界二酸化炭素の分離抽出能力を利 用することで目的生成物を触媒から分離することができる。その結果、目的生成物からの 副反応を抑えることができ、反応の高選択化につながることが期待できる。また、本反応 システムは反応媒体が二酸化炭素と水であり、環境負荷の小さいプロセス開発につながる 事が期待できる。 香水、医薬品などに用いられる芳香を有する種々のファインケミカルズを製造するには α,β-不飽和アルデヒドの選択的水素化反応によってα,β-不飽和アルコールを合成する 効率的なプロセス開発が重要であり、そのプロセス開発が要望されている。しかしながら、 通常は C=C 不飽和二重結合の方が、C=O 二重結合より水素化され易く、α,β-不飽和アルコ ールを合成するのは困難である。そのため、α,β-不飽和アルコールを選択的に合成する 2-71 ために多くの研究が実施されてきているが、50℃,2 時間の反応でH 2:4MPa,CO 2 :14MPa で担持白金触媒を用いた場合、転化率:40.3%、選択率:92.6%及び収率:37.3%であった。 本研究では超臨界二酸化炭素に溶解できる Ru-TPPTS 錯体を触媒として用い、シンナムアル デヒドの水素化反応によるα,β-不飽和アルコールの合成を検討した。反応条件は 50℃, 2 時間の反応で H 2 :4Mpa、CO 2 :16MPa であった。超臨界流体均一相の反応では C=C 不飽和二 重結合の水素化反応が優先的に起き、転化率:21.3%であり、α,β-不飽和アルコールの選 択率:24.8%及び収率:5.3%であった。触 媒を多くすると超臨界二酸化炭素―固体の2相系 となったが、選択率は向上せず、転化率だけが向上した(転化率:54.9%、α,β-不飽和ア ルコールの選択率:23.6%、収率:13.0%)。更に触媒量とシンナムアルデヒド量を増加させ た所、α,β-不飽和アルコールの選択率が向上して、C=O 二重結合の水素化反応が選択的 に起きることが判明した(転化率:58.0%、α,β-不飽和アルコールの選択率:98.0%、収率: 56.8%)。この場合、超臨界二酸化炭素中に溶解出来ないシンナムアルデヒドが溶液相を形 成していると考えられる。触媒は超臨界二酸化炭素及びシンナムアルデヒドの両方に溶解 できるため、C=O 二重結合の選択的水素化反応がどこで起きているのか不明である。恐ら く液層の関与が重要であると推察されうるが、生成したα,β-不飽和アルコールの存在場 所等今後検討していかねばならない課題と考えられる。 ②超臨界二酸化炭素を基質とする有機合成技術(産総研物質プロセス RI/産総研超臨界流 体 RC) サファイア窓付きのバッチ型反応容器を用いて、超臨界二酸化炭素とプロピレンオキシ ドの反応の相挙動を観察した結果、生成物である環状炭酸エステルであるプロピレンカー ボネートが超臨界二酸化炭素相から相分離し、超臨界条件を保ったまま生成物を分離でき ることを明らかにした。これにより、超臨界二酸化炭素を容易にリサイクル可能であり、 二酸化炭素の圧縮エネルギーを最小限に押さえる見通しを得た。 超臨界二酸化炭素からの環状炭酸エステル合成用の固体触媒を探索した結果、希土類の 酸化塩化物が高い触媒活性を有することを見いだし、触媒分離不要な環状炭酸エステル合 成プロセスを開発できる目途がついた。一方、従来提案されていた Al-Mg 混合酸化物や MgO 等を用いた場合には、極性有機溶媒のない条件下では目的物の収率が低いことが判明した。 新たに開発した触媒は、精密に構造の制御された結晶性化合物であり、酸点と塩基点を併 せ持つため高性能を発揮すると考えられる。また反応の圧力効果は大きく、超臨界条件で 反応させることが重要なことを明らかにした。 超臨界二酸化炭素からの環状炭酸エステル合成用の均一系触媒を探索した結果、新規化 合物であるフルオロアルキル基を有するホスホニウム塩(C 6 F 13 CH2 CH 2) 3 MePI)が目的の反応 に高い触媒活性を有することを見いだした。このような化合物は超臨界二酸化炭素に極め て高い溶解度を有するため、 生成物を超臨界二酸化炭素相から相分離させることによって、 触媒分離不要な均一系触媒プロセスを開発できると期待される。仕込み組成でプロピレン オキシド (58 mmol)及びホスホニウム塩 (0.58 mmol)を用い、内容積 20 mlのオートクレ ーブ中で二酸化炭素14Mpa、 温度 100 ℃及び 15 時間で反応させて、転化率 94%及び選択 率 99%の結果を得た。反応初期には均一系になることを目視で確認した。 流通式反応器を試作し超臨界二酸化炭素条件下での固体触媒反応が実施可能であること を確認した。この装置を用いて、我々の開発した希土類酸化塩化物(SmOCl)の触媒活性を測 2-72 定したところ、仕込み組成で プロピレンオキシド流量 (0.1 ml/min)、SmOCl (10 g)及び 二酸化炭素流量 (0.1 ml/min)を用い、10 ml 反応器中で二酸化炭素 14Mpa、 温度 200 ℃ 及び 2 時間で反応させて、転化率 20%及び選択率:80%の値が得られた。 近年地球温暖化防止のため、二酸化炭素排出削減は依然急務であり、そのために、二酸 化炭素の資源化および有効利用方法の開拓は欠かせない研究課題である。本研究では二酸 化炭素の有効利用法として、超臨界二酸化炭素を反応溶媒かつ化合物原料として用いる二 酸化炭素固定化研究を検討し、80℃以下の低温化で、より効率的に超臨界二酸化炭素の固 定化が可能なウレタン化合物合成技術の開発を目指している。 まず、容易にアミン類と二酸化炭素との反応からウレタン結合を生成する反応に注目し た。すなわち、カルバミン酸類が生成する反応であり、低温でも容易に生成することが特 徴である。しかも、カーボネートと同様にウレタン化合物は、多種多様で利用範囲が広い ため、大量に存在する二酸化炭素を利用する手法の一つとして有用な合成方法であると考 えられる。その中でも、超臨界二酸化炭素を用いたウレタン化合物のモデルとして、環状 ウレタン化合物にターゲットを絞った。この環状ウレタンは、特に 5 員環の場合、オキサ ゾリジノン化合物と呼ばれ、2-オキサゾリジノン系化合物として抗菌性を有することが古 くから知られており、現在は VRE 等に有効な新しい医薬品として利用されている。また、 不斉合成における有効な置換基としても多くの分野でも利用されているので、合成するモ デル化合物として好適であると考えた。本研究では、超臨界二酸化炭素の固定化として新 たな効率的な利用ルートの開拓として、2-オキサゾリジノン(環状ウレタン化合物)の合 成を検討した。 実験は 50ml のステンレス製容器に原料、反応試剤、準溶媒等を入れ、オーブン中で所定 の温度に達した後に、二酸化炭素を導入し所定の圧力に設定し、攪拌しながら反応させた。 反応後、十分に氷冷した後、二酸化炭素をゆっくりと脱圧してから、得られた反応物をガ スクロマトグラフで分析を行った。生成物は蒸留あるいはクロマトグラフィーで精製し、 GC-MASS と NMR から化合物の同定を行った。 2-オキサゾリジノン化合物の合成方法は、様々な方法があるが、ホスゲンや炭酸エステ ルを用いる方法が多く、二酸化炭素とアミノアルコールからオキサゾリジノンを合成する 報告例は少ない。本研究ではジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)を用い、安価な原料 であるアミノアルコールから 2-オキサゾリジノンの合成を検討した。DCC は、カルボン酸 とアルコールからエステル等の合成する際に有効な脱水縮合剤である。また、DCC は水と 反応し難溶性の尿素になるため、分離が容易である等の利点がある。まず、少量の準溶媒 (アセトニトリル)存在下、DCC と 1-フェニル-2-アミノアルコールを反応させたところ良 い収率で 5-フェニル-2-オキサゾリジノンが生成することが分かった。 特に反応温度 40℃、 圧力 8.6MPa の超臨界条件では、96.5%と非常に良い収率で 2-オキサゾリジノンが生成し た。これは、従来報告されてきた四塩化炭素、アミン、ホスフィンを用いた合成方法に比 べて、操作上も、収率の上でも優れている。また、圧力上昇に伴い、収率が向上している ことから、 圧力依存性があると考えられる。 更に、極性有機溶媒を加えない条件でも、 58.1% の収率で合成できることが判明した。更に、2-メチル-2-アミノアルコールから 40℃及び 12 時間で 4-メチル-2-オキサゾリジノンを収率 91.4%で合成できた。一方、DCC を用いない 条件で反応を行ったところ、オキサゾリジノンが生成しなかったため、この反応には DCC 2-73 の存在が必要不可欠であることが分かった。以上の結果より、DCC によってアミノアルコ ールからオキサゾリジノンが生成する反応は、アミノアルコールと二酸化炭素は容易にカ ルバミン酸を生成する。生成したカルバミン酸が DCC によってカルバミン酸エステル中間 体を経由し、DCC が尿素になることで分子内脱水縮合が起こり、オキサゾリジノンが生成 するものと考えられる。 ③超臨界メタノールを利用した芳香族化合物合成技術(産総研超臨界流体 RC 集中研/東工 大/静岡大) ゼオライト触媒の細孔内での形状選択的反応を利用した芳香環への選択的メチル化 反応を実施するにあたり、まず、超臨界流体反応に使用可能な流通反応装置を製作し た。さらに、本装置を用いて、2-メチルナフタレンのメチル化による 2,6-ジメチルナ フタレンの合成反応を行い、以下のような結果を得た。 2,6-ジメチルナフタレンを合成する際、位置選択性に大きな影響を与える因子とし てゼオライト触媒の種類が考えられる。ゼオライトは結晶学的に決定される特有の細 孔構造を持っているため、ゼオライトの細孔径に近い分子直径を有する芳香族化合物 に対して分子ふるいとしての機能が期待される。まず、細孔構造の異なる触媒につい て、その効果を検証した。触媒には SAPO-11(細孔径 3.9×6.4 Å)、ZSM-5(5.3×5.6Å)、 モルデナイト(6.5×7.0Å)、シリカアルミナ(細孔構造を有しない)を用いた。 細孔径の大きなモルデナイトおよび細孔構造を有しないシリカアルミナでは、生 成 物であるジメチルナフタレン異性体のうち、α位に置換されたジメチルナフタレンが 多 く 生 成 し 、 2,6- ジ メ チ ル ナ フ タ レ ン の 選 択 性 は 低 い 。 一 方 、 細 孔 径 の 小 さ な SAPO-11,ZSM-5 はβ位に置換されたジメチルナフタレンが多く生成するが、2,6 体と 2,7 体の生成比において最も良好な結果を与えたのは SAPO-11 であった。 反応は、温度 400℃、圧力 8MPa 、原料組成:2-メチルナフタレン/メタノール=1/5(モ ル比)、原料送入量(LHSV):3.6h -1 で行なったが、気相反応で一般的に良好な選択性を 与える ZSM-5 よりも一回り細孔径の大きな SAPO-11 の方が、超臨界条件では位置選択 性向上に適合していることがわかった。今後、他の骨格構造を有する触媒で反応を行 ない、超臨界反応条件に対する最適触媒構造を検証する。 SAPO-11 を用いて反応温度が選択性および反応性に及ぼす影響を検証した。反応は、 温度 325∼425℃、圧力 8MPa 、原料組成:2-メチルナフタレン/メタノール=1/5( モル比)、 原料送入量(LHSV) :3.6h -1 で行った。反応時間の経過とともに転化率は減少するが、 低い反応温度(特に 350℃以下)ほど転化率の低下は著しく、400 ℃以上では、 2,6 体/2,7 体の生成比が時間の経過とともに向上するが、低温では逆に時間とともに悪化する現 象が観測された。また、反応初期の 2,6 体/2,7 体 の 生 成 比 は 低 温 ほ ど 良 好 で あ っ た 。 SAPO-11 を用いて反応圧力が選択性および反応性に及ぼす影響を検証した。反応は、 温度 400℃、圧力 3∼20MPa 、原料組成:2-メチルナフタレン/メタノール=1/5( モル比)、 原料送入量(LHSV):3.6 h-1 で行なった。この結果、圧力が低いほど反応時間の経過 に伴う転化率の低下は著しく、12MPa 以下では、2,6 体/2,7 体の生成比が時間の経過 とともに向上するが、15MPa 以上では逆に時間とともに悪化する現象が観測された。 また、反応初期の 2,6 体/2,7 体の生成比は高圧ほど良好であった。 温度と圧力を変化させたときのジメチルナフタレン異性体の組成分布から、位置選 2-74 択性は低温・高圧で向上するが、この条件では触媒の失活および細孔の閉塞が進行し、 結果として時間の経過とともに転化率および 2,6-体の選択性の低下がおきていると 考えられる。さらに、高圧にすることにより細孔内よりも外部活性点での基質密度が 高くなるため、外部活性点での反応割合すなわち非形状選択的反応により生成するジ メチルナフタレン異性体の割合が大きくなり、2,6-体選択率の低下を引き起こすと考 えられる。したがって、本反応において、触媒の失活抑制と外部活性点での反応の抑 制(外部活性点の除去あるいは被覆)が今後検討を要する課題であると考えられる。 触媒寿命を改善する目的で、SAPO-11 を用いて CO 2 による効果を検証した。反応は、 温 度 350 ℃ 、 圧 力 15 ∼ 30MPa 、 原 料 組 成 : 2- メ チ ル ナ フ タ レ ン / メ タ ノ ー ル /CO 2 =1/5/12( モル比)、原料送入量(LHSV):3.6h -1 で行なった。この結果、初期活性は 時間とともに低下するが、約 5 時間程度で転化率がほぼ一定となり、CO 2 のない場合と 比較して劣化をある程度抑制できることがわかった。今後、長寿命化の原因確認、相 分離状態の観察と延命効果との関係確認等を実施するが、CO 2 を希釈媒体とすることで、 触媒長寿命化の可能性が見出せた。 ④超臨界メタノール反応場を利用したメチル化反応技術 (産総研超臨界流体 RC 集中研/東 工大) 固体酸・塩基触媒を利用した高選択的メチル化反応を検討するために、メタノールを超 臨界状態で流通できる連続流通式固定床管型反応装置を開発した。本装置を用いて、2-ア ミノエタノールの N-メチル化による N,N-ジメチルアミノエタノール合成反応およびメタ クレゾールのオルトメチル化による 2,3,6-トリメチルフェノール合成反応を検討した。 固体酸触媒(モルデナイト(プロトン型)、β型ゼオライト(プロトン型)、シリカアル ミナ、γアルミナ)あるいは固体酸塩基両機能性触媒(Cs-P-SiO 2 )の存在下に、超臨界メタ ノールを調節可能な媒体としてかつ反応基質として利用して、2-アミノエタノールの N-メ チル化反応について検討を行った。その結果、以下の知見を得た。 超臨界条件にすることにより反応温度をマイルドにすることが可能で、なおかつ選択率 が飛躍的に向上した。現在得られている最高性能は、Cs-P-SiO 2 触媒で 300℃、8.2MPa、メ タノール/2-アミノエタノールのモル比 = 20、 W/F = 133 g -cat・hr/mol-amine の超臨界 条件下で、転化率 88%、N-メチル化合計選択率 94mol%およびワンパスでのジメチル化収率 35mol%が得られた。反応圧力 0 MPa(気相条件)では、同程度の転化率(69%)を得るために は 100℃高い反応温度(400℃)が必要である。このとき N-メチル化選択率は 11%であり、エ チレンイミンなどの環状アルキレンイミン類が主生成物として得られた。超臨界メタノー ルの密度変化により逐次生成物分布が影響を受ける傾向が認められ、 同一反応温度(300℃)、 同一転化率(70%)における反応圧力 5.2MPa と 8.2MPa では、超臨界条件(8.2 MPa)の方がジ メチル体の生成を約 4 割程度多くすることができた。メタノールとアミンモル比の制御に よって逐次生成物分布を制御できる可能性が示された。これは副生する水の反応阻害効果 を逆に活用した結果である。 この反応系は、より長い炭素鎖を有する他のアミノアルコール類(例えば 3-アミノ 1プロパノールや 5-アミノ 1-ペンタノール) やエチレンジアミンなどの多官能性アミン類を 選択的に N-メチル化することが可能であり、応用範囲は広いものと期待できる。現在、副 生する水により反応が可逆的に阻害されることが明らかになったため、ジメチル体の収率 2-75 向上を目的に、超臨界媒体からの副生水の効率的な除去方法の開発や、水により反応阻害 されない触媒改良が今後の検討課題となっている。 固体塩基(酸化マグネシウム)、固体弱塩基触媒(酸化ジルコニウム)および鉄バナジウ ム複合酸化物(Fe-V-SiO 2)触媒の存在下に、超臨界メタノールを調節可能な媒体としてかつ 反応基質として利用して、メタクレゾールのオルト位選択的ジメチル化反応について検討 を行った。その結果、以下の知見を得た。 超臨界条件にすることにより反応速度の向上が認められ、なおかつメタノールの分解が 抑制できた。検討した範囲内で最も高活性な Fe-V-SiO 2 触媒(反応温度 350℃,メタノール /メタクレゾールモル比 = 13, LHSV = 4/hr)では、気相条件(0 MPa)では転化率が極めて 低く 9%であり、このときのメタノール収支は 96%と低い一方で、超臨界条件(8.2 MPa)では 両者共に向上して、転化率 35%、メタノール収支 100%が達成された。現状の最高性能は、 Fe-V-SiO2 触媒、反応温度 350℃、8.2MPa、メタノール/メタクレゾールモル比 = 30、 LHSV = 4/hr の超臨界条件下で、転化率 94%、オルト位メチル化合計選択率 98mol%およびワンパ スでのジメチル化収率 37mol%が得られた。この時、メタノール収支は 97.4%であった。 超臨界条件にすることで触媒寿命の大幅な改善が認められ、超臨界メタノールの密度が 大きいほど効果が増大する傾向があった。気相条件では触媒活性が経時的に劣化して、反 応開始後 7.5 時間経過後も激しい劣化が進行し続ける一方で、超臨界条件(8.2MPa 以上) では、反応開始後 3 時間程度で安定化することを見出した。超臨界条件ではメタノールの 分解が抑制されるために触媒劣化が防止されると同時に、気相条件では露点の問題からポ リメチル化生成物やオキシアントラセン類などの重質な副生成物が触媒表面へ沈着してコ ーキングすることによって活性劣化するのに対して、超臨界メタノールのコーク前駆体の 抽出洗浄作用により触媒寿命が向上したと考えられる。超臨界条件では、気相条件に比較 して 3-メチルアニソールやテトラメチル体の副生が微増する傾向が認められた。 今後、触媒の高活性化と同時に、副反応の挙動解析を実施する必要がある。特に酸化マ グネシウム触媒や鉄バナジウム系触媒では、気相条件で 3-メチルアニソールの副生は認め られず、超臨界条件でのみ生成する。アニソール類は固体酸点上で生成するため、これら の触媒が超臨界条件では弱い固体酸としても機能できる可能性が示唆される。 この知見は、 超臨界条件下において発現される固体の酸性と塩基性が気相条件とは異なる可能性を示し ており、固体触媒設計の指針を確立していく上で、物性解析などの検討を並行して行うこ とが重要である。 ⑤超臨界水反応場を利用した水和反応技術(産総研超臨界流体 RC 集中研) オレフィン水和反応に関して、モデルとして、ヘキセンの水和反応を実施した。その結 果、反応技術及びその応用可能性を把握することができた。 亜臨界、超臨界水中でヘキセンを反応させることにより、触媒の非存在下でも主生成物 2-ヘキサノールが生成した。さらに詳細な検討を行い、この反応系での、反応速度制御と 反応平衡制御に関する知見を得た。 短時間領域(反応平衡到達以前)、250∼380℃での 2-ヘキサノール収率は、250℃付近 で痕跡程度だが、温度の上昇と共に向上し、360℃付近で極大値となる。25∼35MPa では、 高圧ほど収率は向上した。したがって、この反応系では、最適な温度と高圧にすることで 収率を向上させられることがわかった。 2-76 ヘキセン水和反応の経時変化を採った結果、330、360、380℃において、40 分まで時間 を伸ばすことにより収率は向上し、最大値に達した。この結果は反応平衡の存在を示唆し ていたので、理想気体単一相を仮定した反応平衡推算を行った。実験収率と推算値による 収率はほぼ一致した。また、2-ヘキサノールを亜臨界水中で脱水する逆反応を行ったとこ ろ、正反応の実験値を支持する結果となった。したがって、この反応系での最大の収率を 得るには、理想気体に基づいた推算値による反応条件を選ぶ(低温、高圧)ことである。 副反応生成物として、3-ヘキサノールおよびドデセン類が検出されており、予期しなか った原料ヘキセンの異性化反応および二量化反応の進行があった。特に、ドデセン類生成 (二量化)反応については、収率が一定時間(10 分以内)において、380℃>360℃>330℃ >300℃の順に低くなり、高温ほど生成が促進されることがわかった。このことから、工業 的に有用な、オレフィン類の二量化反応の可能性を見出した。 ⑥超臨界水を反応場とする物質合成技術(産総研超臨界流体 RC) 蛋白質の分解はアミノ酸構成を知る上でも、また得られた生成物を利用する上でも重要 であり、酵素分解や酸分解が行われている。また、蛋白質のペプチド結合を切断する手段 として高温高圧水の利用の可能性がバッチ法で検討されているが、過分解して生理活性効 果が低いことが知られている。本研究では従来法より極めて短い反応時間による分解反応 を検討した。内径 3mm、長さ 11cm の反応管を用い、400℃、30MPa でとうもろこし蛋白質で あるツェインスラリーを 0.7 秒反応させた。本実験の結果と6N 塩酸加水分解値と比較す るとグリシン、アラニン、プロリン、ロイシン、バリン、フェニルアラニン等の蛋白質を 構成するアミノ酸の回収率が多いことが判明した。400℃、30MPa で 30 秒反応させたバッ チ法の結果と比較すると、本実験結果では 16 種のアミノ酸が検出されたのに対し、バッチ 法では 8 種類しか検出されず、しかも検出量が少なくなっており、グリシンの場合を比較 すると原料 100mg からバッチ法で48µmol であるのに対し、本研究の流通式では 2,600µmol 検出されている。血圧上昇抑制作用を調べるアンジオテンシン変換酵素阻害活性を比較す ると、バッチ法で 18%と低い値であるのに対し、本研究の流通式では 78%阻害活性を示し、 ペプチドも多く出来ており、生理活性物質の生産に適していることが明らかとなった。 近年、ペプチドの生理活性とその重要な機能が注目される中で、その生産技術として、 タンパク質を酵素等で加水分解することにより、生理活性を有する種々のペプチドを生産 する方法や、更に、有機化学的手段、遺伝子工学の手法等により、種々の生理活性ペプチ ドを合成する方法が開発されており、これらの生理活性ペプチドは、例えば、機能性食品 材料、医薬品、研究用試薬等として広汎に利用されている。 水熱条件( 24MPa,200-250℃) 下で循環式流通反応装置を用い、単量体アミノ酸(グリ シン) を装置内で循環させながら水熱処理と 0℃冷却を数十分くり返すことによってオリ ゴペプチドの合成に成功した例が報告されている。同論文には、高温条件だけでは、脱水、 脱アミノ化、脱カルボン酸化のような解離反応を誘発し、ペプチド合成にはむしろ不利に 働くことが述べられ、そのために、反応過程に冷却過程が必須であることが記述されてい る。しかし、高温熱水を用いて短時間で効率的にペプチドを合成したとの報告例はない。 高温・高圧反応装置を用い、圧力 25MPa で 100mM グリシン水溶液を 15ml/min で流通させ て、370℃で反応させた。反応管の長さは 170cm で、反応管体積は 0.334ml であった。反応 時の密度は 0.54037 で反応時間は 0.72 秒であった。得られた試料を分析した所、ジグリシ 2-77 ン濃度は 0.98mM、ジケトピペラジン濃度は 1.49mM、トリグリシン濃度は 0.004mM、及びテ トラグリシン濃度は 0.002mM であった。トリグリシンはジグリシンと単量体グリシンのペ プチド結合が起きて生成したものと推察される。テトラグリシンはジグリシンとジグリシ ンとのペプチド結合あるいはトリグリシンと単量体グリシンとのペプチド結合で生成した と考えられる。 本研究では、260℃以上の高温熱水中に反応基質として所定の濃度の単量体アミノ酸、あ るいは単量体アミノ酸とオリゴペプチドを存在させることにより、例えば、単量体アミノ 酸からジアミノ酸が合成される。この場合、反応基質の濃度を上げることにより、トリア ミノ酸、テトラアミノ酸、ペンタアミノ酸のような、より鎖長の長いオリゴペプチドが合 成される。また、上記反応系において、反応温度、反応基質の種類及び濃度により、例え ば、単量体アミノ酸とジアミノ酸のペプチド結合によるトリアミノ酸が生成される。従っ て、上記反応系において、反応温度、反応基質の種類及び濃度を調節することにより、所 望のオリゴペプチドを極めて短時間で合成することを可能とし、オリゴペプチドの合成方 法として有用と考えられる。 アミノカルボン酸類の環状アミドがラクタムである。ラクタム化合物のうち、ナイロン の原料として用いられているε-カプロラクタムはシクロヘキサノンオキシムを濃硫酸中 で煮沸処理することによるベックマン転移法によって製造されている。この方法は苛酷な 条件下で反応させるため装置腐食、製造工程の危険性と共に副生物である硫酸アンモニウ ムの処理に問題があることが知られている。また、シクロヘキサノンオキシムを製造する のに、例えばベンゼンからニトロベンゼンを経てアニリンをつくり、タングステン酸ナト リウムを触媒として過酸化水素でアニリンからシクロヘキサノンオキシムにする方法等複 雑な多くの工程を必要としている。 一方アミノ酸からラクタムを合成する方法も検討されていて、例えば 6-アミノ-n-カプ ロン酸をヘキサメチルジシラザンの存在下にキシレン中で還流下に加熱すれば、48 時間後 にε −カプロラクタムが収率 75%で得られたことが報告されている。あるいはシリカゲルと 共にトルエン中で還流下に加熱し、Dean-Stark 装置で生成する水を除去すると、6-アミノ -n-カプロン酸からε-カプロラクタムが 20 時間で収率 75%が得られることが報告された。 これらの場合、閉還剤や触媒を必要とし工程が複雑となり、反応時間が長く、しかも有機 溶剤を使用する技術的課題が見られる。近年、地球環境の悪化の懸念が高まりつつあり、 化学工業分野において有害な有機溶剤を使用しないで且つ簡単で効率的な、あるいは短時 間で反応が終了するような環境調和型化学プロセスの開発が求められている。 本研究では、超臨界水条件下で例えば 6-アミノ-n-カプロン酸を反応させてε-カプロラ クタムを合成する五員環以上ラクタムの合成方法の開発を試みた。連続式反応装置を用い、 温度 374℃、圧力 30MPa 及び密度 0.558g/cm 3 の高温高圧水条件下で 6-アミノ-n-カプロン 酸を反応させ、環化反応による七員環ラクタムであるε −カプロラクタムの連続合成を試み た。反応器内径:0.65mm 及び反応器長さ:25cm で、従って、反応器容積は 0.083cm 3 と算 出された。各導入調製液は高圧ポンプで注入した。反応に使用した水は蒸留水を使用し、 キャリヤー水を 6.8ml/min の流速で通水した。 0.1M6-アミノ-n-カプロン酸を含有した基質 溶液を調製し、この基質溶液を 3.2ml/min の流速で反応器に導入した。反応器に入る前の 6-アミノ-n-カプロン酸の濃度は 32mM であった。反応時間は 0.278 秒であり、反応後の水 2-78 溶液を高速液体クロマトグラフィー質量分析装置で調べた所、ε-カプロラクタムが生成し ていることを確認した。ε-カプロラクタムの含有濃度は 8.0mM であり、その反応収率は 25.0%であった。 前述の実験方法と同様に反応させて、4-アミノ-n-酪酸からγ-ブチルラクタムの合成を試 みた。窒素ガスでバブリングして溶存酸素を除去した蒸留水を使用し、0.09M の基質溶液 を調製し反応に供した。反応条件は下記の通りである。 反応温度:350℃、反応圧力:30MPa、高温高圧水密度 0.6443g/cm 3 、 キャリヤー水流速:1.8ml/min、基質溶液流速:1.2ml/min 反応器に入る前の 4-アミノ-n-酪酸の濃度は 36mM であった。 反応時間は 1.070 秒であり、 反応後の水溶液を高速液体クロマトグラフィー質量分析装置で調べた所、γ-ブチルラクタ ムが生成していることを確認した。五員環ラクタムであるγ-ブチルラクタムの含有濃度は 14.0mM であり、その反応収率は 38.9%であった。 強酸触媒によって反応が進行するピナコール転位反応について超臨界水中で検討を行っ た。高温・高圧 FTIR システムにより、水熱(523K,25MPa) 、超臨界(663K、25MPa) 、及 び室温条件下でのピナコール転位反応をその場観察した。その結果、573K 以下の水熱条件 ではほとんど反応が進行しないが、超臨界水中では無触媒でも速やかに反応が進行するこ とを初めて確認した。ピナコールの OH 変角振動の吸光度から Beer-Lambert 則を適用して 1 次反応速度定数(k1)を決定した。超臨界水、水熱、酸触媒使用等の条件下での k1を 比較した。超臨界水中では酸触媒を添加しなくても反応速度が著しく増大した。 上記の結果より、超臨界状態では水分子モノマーから生成するプロトンが酸触媒作用を 有する可能性が示されたが、この際プロトンとともに生成する OH-は果たして塩基として 機能するのであろうか。そこで、通常なら濃塩基存在下で進行するベンズアルデヒドの不 均化反応を、水熱及び超臨界水中無触媒下で IR によるその場測定により検討した。超臨界 条件下で著しいスペクトル変化が観察され、超臨界条件下ではベンジルアルコールが合成 されるが、水熱条件では合成されないことが分かった。さらに、GC-MS、1H-NMR による分 析によりベンジルアルコールと安息香酸の生成が確認された。斯くて、超臨界状態では強 塩基を添加しない無触媒でも不均化反応が起こることが初めて明らかになった。 (ロ)材料プロセッシング技術の研究 ①熱可塑性高分子の超微細発泡成形の基盤技術 (産総研超臨界流体 RC 集中研/産総研環境 調和技術 RI/東北大) 1)超臨界流体のプラスチックへの溶解挙動と、溶解に伴うプラスチックの溶融粘度変化 の連続オンライン計測、および発泡セル形成過程の可視化も可能な連続式微小気泡挙動解 析装置に組み込む単軸押出機、超臨界流体定量供給装置、および気泡挙動解析システム等 の設計製作を行った。超臨界流体定量供給装置は、質量流量計により流量制御可能であり、 連続的な定量供給が可能である。また、液体二酸化炭素、気体二酸化炭素、窒素、アルゴ ン等の単独供給及び液体二酸化炭素+窒素混合流体等の複合(混合)超臨界流体の供給も 可能であることが大きな特徴である。 本装置を用い、超臨界流体として CO 2 と N 2 を用いて発泡成形を検討し、同じ重量%の注 入では CO 2 より N 2 の方が発泡倍率は高く、気泡径も小さくできることが明らかとなった。 2-79 また、CO 2 と N 2 の混合により発泡倍率を制御できる可能性があることも明らかになりつつ ある。部分的に 10µm の発泡径が得られることを確認した。 他企業では CO 2 を使用した発泡シートで 60µm を量産化している。さらに、バッチプロセ スでは気泡径が 10µm のものが実用化されている。それ故、バッチプロセスで一部実用化 されている微細な発泡径をもつ発泡プラスチックを新しい連続プロセスを考案し実現する。 2)超臨界二酸化炭素を用いた樹脂発泡挙動の基礎的検討 発泡過程を支配している因子を明らかにするために、高圧薄層可視化セル装置を用いて、 ポリプロピレン(PP)を試料として超臨界二酸化炭素を発泡媒体とした発泡挙動を直接観 察できた。その結果、発泡は、減圧時の圧力が高圧でないと起きないことを明らかにでき た。また、発泡状況の可視化観察により圧力、温度、減圧速度の変化が発泡現象に与える 影響について明確にでき、発泡体の径の制御には減圧速度が重要であることが明確になり、 発泡による減圧速度に閾値が存在することを明らかにできた。これらの知見は、連続式プ ロセスの運転条件などの設定指針になる。 また、溶融プラスチックの気泡径の制御には冷却をコントロールする必要があることを 明らかにできた。さらに、発泡サイズを小さくするためには、減圧速度を大きくする、減 圧差を大きくする、ポリマーの溶融粘度を大きくする、成形温度を低くすることが不可欠 であることが明らかとなった。 ②無機/有機高分子複合材料の創製技術の開発(産総研超臨界流体 RC 集中研/高温高圧研) 超臨界二酸化炭素を用いた超臨界流体注入法によって、有機高分子材料の表面近傍に、 ナノメーターオーダーの金属や金属酸化物の粒子(微粒子)を、均一に分散させることに よって、有機高分子材料に新しい機能を付与するための基盤技術の確立を目標にした。 1)微粒子の分散層の形成技術 μm チタンを注入する目的で、チタン(Ⅳ)イソプロポキシドを用いて超臨界流体注入処 理を行った場合、エントレーナとしてエタノールを添加することによって、チタンの含水 酸化物の微粒子を形成できた。粒子の平均径は、5∼10nm、分散層厚みは、数µm まで変化 することが分かった。これは、超臨界二酸化炭素に溶解するチタン(Ⅳ)イソプロポキシド の溶解度が増加し、二酸化炭素に同伴してポリメチルメタアクリレート(PMMA)に浸透す るチタン(Ⅳ)イソプロポキシドの量が増加したためであると考えられる。また、銀のアセ チルアセトナート錯体を前駆体に用いた系では、エントレーナ無添加の場合とエントレー ナとしてアセトンを添加した場合、何れも銀の微粒子を形成できた。粒子の平均径は 4∼ 12nm であった。分散層の形成深さは、アセトンの添加により数百 nm まで増加した。その 場合の粒子の分散密度は、分散層の重量分率で 8%、面積分率で 5%、体積充填率で 1%であ った。 2)微粒子の分散形態の制御技術 チタン、および銀の何れの場合も、圧力一定条件下で、温度増加に伴う粒子の平均径、 分散層厚み、および粒子の分散密度は、50℃付近で極大値を示した。分散層の形成深さに ついては、臨界温度以下の 25℃では薄く、表面近傍に止まっていた。これは、PMMA への二 酸化炭素の注入量が、超臨界状態の二酸化炭素と比べて少なく、それに同伴する前駆体の 注入量が少なくなるとともに、拡散速度が小さいため前駆体は表層に止まったためである。 また、70℃で減少したのは、温度上昇に伴って、流体の密度が小さくなった結果、PMMA へ 2-80 の二酸化炭素の注入量が少なくなるとともに、二酸化炭素への前駆体の溶解量が減少した ためである。微粒子の平均径とその成長は二酸化炭素の PMMA に対する注入量に依存してい るものと推測されるが、その成長機構については未解明であり、今後の課題である。温度 一定条件下における、微粒子の平均径、分散層の形成深さ、分散密度は、何れも、圧力の 上昇と共に増加した。同一温度では、圧力が増加することにより、二酸化炭素の密度、二 酸化炭素に対する前駆体の濃度が高くなり、かつ PMMA に注入される二酸化炭素の量が多く なることから、注入される前駆体の量が増加し、試料の内部深くまで到達するためと考え られる。また、エントレーナの添加により、形成深さを数倍、分散密度を十倍以上向上さ せることができた。 ③急速膨張法による無機材料の創製技術の開発(産総研超臨界流体 RC 集中研/高温高圧 研) 無機原料として使用する金属アルコキシドの超臨界二酸化炭素への溶解性を調べた結果、 液体状であるシリコンやチタンのアルコキシドは、二酸化炭素と、条件によって完全な均 一超臨界相を形成することが判明した。45℃で、シリコンアルコキシド(テトラエチルオ ルソシリケート)は 9.5MPa 以上で、チタンアルコキシド(チタンテトライソプロポキシド) は 11.5MPa 以上で均一相となる。また固体であるスズのアルコキシドでも、アルコール共 存下、10MPa 以上の圧力領域で、流体 1l 当たり数 g∼十数 g が溶解した。これらの結果か ら、金属アルコキシドは、性状は種々異なっていても、急速膨張法による噴射、製膜に十 分な量の溶解が可能であることが確認された。 これらのアルコキシドを実際に超臨界二酸化炭素に溶解させ、孔径 0.1∼0.45mm のノズ ルを通して大気中に置かれた基板に向けて噴射することで、 金属酸化物の薄膜を形成した。 通常のスプレー法では粉末が堆積したような密着性の悪い膜しか得られないが、超臨界急 速膨張法で得られた膜は極めて密着性が高い。アルコキシド濃度、その加水分解の程度、 基板温度、噴射量、などの製膜条件によって膜厚、膜質は種々変化するが、条件を適当に 選べば、一般のドライプロセスよりも一桁以上速い 0.1µm/min 程度の速度で、緻密な焼結 体レベルの膜形成が可能であった。 様々な条件下での大気中での製膜に加え、新規に設計、導入した雰囲気制御可能な製膜 チャンバーを用いた実験も実施し、製膜プロセスを解析した。その結果、噴射されたアル コキシドは、二酸化炭素の気流に保護されて未反応のまま基板に到達し、基板上で加水分 解、重合、固化が進行して密着性の高い膜を形成することが推察された。特に大気中では、 基板上での反応が瞬時に起こるため、次々に膜の堆積が進行し、高速に厚膜が形成できる と考えられる。 アルコキシドの代わりに高沸点アルコールを、基板として適当なポリマー膜を用いるこ とで、噴射液滴の痕跡をポリマー上に捕らえ、粒径分布を測定することにも成功した。測 定された噴射液滴の粒径は1∼十数 μm で、その値は噴射条件によって一桁近く変化した。 これらの粒径に関するデータは、 パターニング時の微細部への充填を図る際に重要である。 急速膨張法によるパターニングの可能性を検証する目的で、50µm 程度のピッチを持つ金 属メッシュ、および特別に作製した金属製のマスクを用いて、酸化チタンのパターニング を試みた。チタンテトライソプロポキシドの 10%イソプロパノール溶液を 45℃、10MPa で 二酸化炭素に溶解させ、200℃に加熱したガラス基板上にマスクを通して噴射した。10 分 2-81 間の噴射で得られた膜は厚さ 0.5∼1µm 程度で、マスクの孔形状を忠実に再現したパター ンとなっていた。これにより、 本方法によるパターニングが可能であることが確認できた。 今後は、より微細なピッチのパターンにも対応できるように、膜厚、膜質に影響する要 因を詳細に調べ、それらを自由に制御できる技術の構築を目指す。さらに実用化に向けて 複合酸化物系など材料の複合化も検討して行く予定である。 ④超臨界水反応場を利用した無機微粒子の合成技術の開発(産総研超臨界流体 RC) 金属酸化物微粒子合成における合成条件と粒子特性との関係を明らかにする目的で、最 高温度500℃、耐圧40MPaの流通式水熱合成反応装置を試作した。ここでは、触媒材料や透 過性導電体材料として利用されるベーマイトを例にプロセス変数(反応温度、圧力、濃度、 pH、流量、反応時間)が生成物の粒子特性に及ぼす影響を検討した。流量が大きくなるほ ど、粒子サイズ分布が小さくなる傾向がみられ、金属塩水溶液と超臨界水との混合点前後 における反応溶液が被る温度履歴が粒子生成過程に重要な因子のひとつであるとの知見を 得た。そのため、本手法において鍵となる原料液の溶解度変化を把握するための金属水溶 液の温度変化を測定する装置及び中性以上の高いpH下での連続合成実験を行うためのスラ リー供給システムの設計、試作を行った。 本手法を光触媒材料のひとつであるチタン酸カリウム(K 2 Ti 6 O 13 )に適用したところ、幅 10nm, 長さ1,000nmのワイヤー状の粒子が得られた。メタノール酸化反応における光触媒特 性は固相法で合成したものよりも数桁も高かった。また、亜臨界水並びに超臨界水反応場 を利用し、ニオブ酸カリウム(K 4 Nb 6 O 17)の水熱合成を試み、水分解光触媒活性を固相合成物 と比較した。超臨界水反応場で得られたものは、固相合成物に比べ1桁以上高い光触媒活性 を示した。これら水熱合成物の触媒活性の向上は、微粒化により比表面積が増大した結果 によるものであり、高機能性無機微粒子を得る合成手法としての優位性を確認した。 (ハ)エネルギー・物質変換技術の研究 ① 超臨界水酸化反応によるエネルギー回収プロセスの開発 (a)反応モデルの開発(産総研超臨界流体 RC 集中研/東大) 本年度までに有機固体の超臨界水酸化反応の様子を直接観察するセルの設計・製作、関 連システムの導入を行い、固形炭素の超臨界水酸化反応の様子を観察した。 内部細孔のない固形炭素(固体炭素)の反応速度は小さく、500℃、30 MPa、総流量 2 ml/min、 酸素濃度 9.7 wt%にて 380 分反応させた際に 31%程度の質量の減少が観察された。一方、内 部細孔のある固形炭素(活性炭炭素)は固体炭素に比べてはるかに速く反応し、反応が進 むにつれて、粒子は形状をほぼ保ったまま小さくなった。 次に活性炭炭素の反応速度の操作条件依存性を調べた。半径減少速度の酸素濃度依存性 は、反応速度が酸素濃度に対してほぼ1次となった。また、反応速度は温度、圧力、流量 とともに若干増加するが、その依存性は非常に小さいことがわかった。また活性炭粒子の 半径が時間に対して直線的に減少し、反応中も粒子の密度が変化しなかったことから、粒 子細孔内の酸素の拡散に対して、細孔表面での酸素の反応は十分速いと考えられる。すな わち、粒子の酸化反応における触媒有効係数が非常に小さいと予測される。従って、活性 炭粒子が細孔を持たない球体であると近似し、反応は球体の表面で起こると仮定すると、 本反応では反応速度の温度依存性は小さく、流量の増大による酸素の粒子表面への物質移 2-82 動の促進により反応速度が増大していることや、全圧の増大により酸素濃度が増大するも のの、 酸素の拡散係数が全圧に反比例するためその効果はキャンセルされることなどから、 本反応は活性炭粒子の酸化反応がほぼ拡散律速であると考えられる。今年度末には固体炭 素への操作条件の反応依存性を確認する。その後、高温水との溶解を考慮する必要がある 有機固体への操作条件の反応依存性の確認や複数の有機固体を充填させた場合の操作条件 の反応依存性を確認し、超臨界水酸化反応の反応工学モデルを確立し、最後にシステム試 験装置を導入して、超臨界水酸化反応利用プロセスへの適用を計る。 (b)装置材料の選定(産総研超臨界流体 RC 集中研) 材料腐食評価試験用として設計・製作した試験装置を用いて材料評価を行った。本装置 は、材料試験体を装着する管型試験炉および槽型試験炉、加熱器、冷却器、背圧弁、試験 液調整タンク、廃液受タンクから構成される。管型試験炉は、二重管になっており、内管 を試験体とする。試験体の軸方向に温度分布を持たせ、各温度での腐食を同時に評価でき る。槽型試験炉は、オートクレーブ式で、槽内に試験片をセットし、全面腐食および SCC を評価できる。今年度はイオウもしくは塩素を含有する有機固体の超臨界水酸化反応を想 定した材料腐食評価として、全面腐食・すきま腐食・SCC 評価と温度依存性を調べた。 イオウおよび塩素共、酸素分圧によって最終分解生成物が変化し、その結果材料に及ぼ す影響は大きく異なる。イオウは酸素分圧が大きくなると主として H 2 S を形成し、同様に 塩素は高酸素分圧下で HCl を形成して材料に全面腐食を生じさせる。HCl は解離による水 素イオンによって腐食を進行させるため、臨界温度近傍で損傷速度を最大にする。この腐 食を軽減させるため、中和により NaCl を形成させた場合には、広範囲の温度領域で腐食は 減少した。しかしながらこの場合、残留酸素分圧が材料腐食に大きな影響力を持ち、厳し い腐食や割れを引き起こす領域があることが明らかになった。このメカニズムは現在のと ころ不明である。また、この場合耐食材料として通常添加され、耐食性付与に有効である Ni,Cr,Mo が、この超臨界水酸化反応条件下においてはほとんど効果がないことも明らかに なった。イオウについては、分解生成物が複雑であるためそれぞれの作用についての確認 を急いでいる。 これまでの結果は、超臨界水酸化条件の変化が材料の腐食挙動に極めて大きな影響を与 えていることが確認できている。このためそれぞれの条件に合う材料選定、および材料に とっての環境条件の閾値の確認を今後とも引き続き行う予定である。 ② 超臨界水中水素化反応等による未利用重質資源の軽質化・クリーン化に関する開発(産 総研超臨界流体 RC 集中研) (a)重質油転換プロセス 超臨界水中における重質油転換反応挙動を把握するために、ベンチスケールでの連続試 験を行った。その結果、重質油から高付加価値製品である軽質ガス、軽質油を 80wt%以上 得られることを確認した。また、超臨界水中における重質油転換を構成すると考えられる、 熱・加水分解反応、脱硫・脱金属反応、ガス化反応について検討を行った。 熱・加水分解反応については反応温度を高温、高圧にすることで軽質化が促進されるこ とを確認した。なお、生成した軽質油は BTX や直鎖系の軽質油である。また、超臨界水と の反応生成物と考えられる含酸素化合物の収率が増加することを確認した。さらに副生成 物であるコークス量は気相熱分解に比較して大幅に減少した。これは超臨界水による熱分 2-83 解フラグメントの再重合抑制効果と推定される。コークスは石油生成過程においては脱硫 触媒や水素化生成触媒の触媒毒となることからコークス生成量は少ない方がよい。気相熱 分解ではコークス生成量は 30∼40wt%(対原料)生成していたが、超臨界水を用いること により数 wt%まで低減することが確認された。脱硫、脱金属反応については、超臨界水中 において触媒無しで脱硫反応が進み、軽質油中のイオウ濃度は 1000ppm まで減少する。ま た脱金属については生成油中には重金属類がほとんど含まれていないことを確認した。ガ ス化反応については 550℃の比較的低温領域において水性ガス、水性ガスシフト反応によ り水素が生成し、反応温度が高温になるに従ってガス収率が増加することを確認した。な お、ガス組成は水素を含む C1∼C4 の炭化水素が主成分であることを確認した。 以上、超臨界水中における重質油転換反応挙動を連続試験により把握し、また基本とな る反応について定量的なデータが取得出来た。さらに、超臨界水を用いた重質油の高効率 軽質化・クリーン化プロセスの実現性を示唆できたものと思われる。 (b)還元雰囲気下での材料腐食の評価 超臨界水還元性雰囲気下における腐食速度を把握するためにバッチ式および流通式試 験装置により材料腐食試験を実施した。SUS316 においては酸素ポテンシャルが小さくなる のに伴い腐食速度が増加する傾向が見られた。また、NaCl を添加した場合は、NaCl を添加 しない場合に比べると、いずれの条件においても腐食速度が増加しており、特に亜臨界条 件での増加が著しかった。Cl - が pH 中性域においても腐食速度に影響を及ぼすことが確認 された。ニッケル基合金については、NaCl を添加した場合 MC アロイ、Alloy625 において、 亜臨界状態で若干の質量減少傾向が見られた。ハステロイ C 系および MAT21 においては特 に質量減少は見られなかった。 SUS316 においては、400℃では表面層の剥離は観察されなかったが、亜臨界条件および 高温条件では表面層が剥離しており、腐食が進行していることが確認された。SUS316 にお いては温度により腐食形態が異なることが示唆された。ニッケル基合金においては、 Alloy625,MC アロイで表面層の腐食が見られたが、ハステロイ C 系および MAT21 では腐食 層が殆ど観察されなかった。これは酸化皮膜を安定化させる Mo,Ta の効果であると考えら れ、還元性雰囲気においては Cr+Mo のバランスが耐食性を向上させる上で重要であると推 察される。 腐食速度評価を一般材の指標値との比較により行った結果、pH 中性、水素分圧∼5MPa、 0∼5%NaCl の条件であれば十分 SUS316 の適用が可能であること、ハステロイ C 系、MAT21 が特に優れていることが確認された。 ③ プラスチック廃棄物の化学リサイクルプロセスの開発 (a)変換反応技術(産総研超臨界流体 RC 集中研/東北大) 付加重合型プラスチックであるポリ塩化ビニルには可塑剤としてのフタル酸エステルお よび塩素が多量に含まれている。可塑剤は含塩素芳香族化合物を生成させる要因となる可 能性があり、塩素は激しい腐食を引き起こすことから、装置の安全上大きな問題となる。 このようなことから、ポリ塩化ビニルの超臨界水変換を行う前に、可塑剤および塩素を除 去する処理が必要である。そのため、苛性ソーダ水溶液によるフタル酸および塩素の除去 を行った。 即ち、 オートクレーブ中で反応温度 150∼250℃、 反応時間 0∼24 時間、 10∼50wt% 苛性ソーダ水溶液の反応条件で、まずフタル酸の抽出を行った。苛性ソーダ濃度を高める 2-84 とフタル酸の抽出率は高くなる傾向を示し、反応温度を上昇させるとより顕著であった。 反応時間は、苛性ソーダ濃度に依存し、50wt%の反応抽出液を使用すると最も短くなる傾 向を示した。最終的に、反応抽出液 50wt%、反応温度 250℃、反応時間 1 時間でポリ塩化 ビニルに含まれていたフタル酸ジオクチルをフタル酸塩としてほぼ 100%抽出することが できた。さらに、フタル酸を除去したポリ塩化ビニルを、オートクレーブ中で反応温度 150 ∼350℃、反応時間 0∼24 時間、10∼50wt%苛性ソーダ水溶液の反応条件で、塩素の抽出を 行った。苛性ソーダ濃度を高めると塩素イオンとしての濃度は高くなる傾向を示したが、 反応抽出液の濃度依存性ははっきりしなかった。そのため、苛性ソーダ濃度を 50wt%に固 定し反応温度を上昇させたところ塩素イオンとしての濃度は高くなる傾向を示し、反応時 間に依存するものでないことが判明した。これより、反応抽出液 50wt%、反応温度 350℃、 反応時間 1 時間で反応抽出前の試料に含まれていた塩素をナトリウム塩としてほぼ 100% 抽出除去することができた。これらの二段階の操作条件により、ポリ塩化ビニルに大量に 含まれている可塑剤の抽出回収、塩素の除去についてほぼ 100%行なうことができること が確認できた。脱可塑剤、脱塩素した残留物は元素分析から、炭化水素化合物であるポリ エンが多量に含まれていることが推察できた。 得られたポリエンの超臨界水を反応溶媒とした水素化反応を行った。回分式超臨界反応 装置を使用し、反応温度 500℃、圧力 60MPa の反応時間 1 時間にて環化反応が発生し、ナ フタレン、アントラセンに代表される芳香族系化合物の生成が確認されたが、未反応ポリ エンあるいはポリエンが変質したと推測される物質が残留することがわかった。回分式反 応では限界があることが確認できたので、流通式反応を行った。まず、流通式超臨界反応 装置を構築し、反応温度 500℃、圧力 25MPa の反応時間10 分にてフタル酸に代表されるベ ンゼンカルボン酸類の生成が認められた。 縮重合型プラスチック(ポリカーボネート)は前処理を必要としないことから、試料を そのまま流通式超臨界反応装置に導入して、反応温度 200∼260℃、圧力 15∼25MPa、反応 時間 5 分で行った。どの条件においてもビスフェノール A の生成が認められ、特に反応温 度 235℃、圧力 22MPa においてその生成量は最大となり、超臨界水を用いない加水分解方 法と同程度の結果となった。 今後、流通式超臨界水反応装置を使用したポリエンおよびポリカーボネートの超臨界水 による水素化反応の生成物の詳細やマテリアルバランスを把握することにより、有用物質 転換させる操作条件の成果が得られるものと思われる。 (b)高圧供給系の構築(産総研超臨界流体 RC 集中研) 湿式石臼型粉砕機を用いたプラスチックの粉砕においては、砥石のクリアランスを一定 にし、回転数をその粉砕機の条件による粉砕の効率、およびその得られる粉砕粒径との関 係を試験により把握した。 往復動ポンプを用い、PVC 粉(粒径分布 100∼250μm)と水と混合したスラリーにおいて、 吐出圧力 35MPa まで昇圧させ、スラリー濃度 0wt%から 33wt%まで段階的に変化させた時 に連続的に供給が可能であり、その流量変化についての知見を得る事が確認できた。 即ち、 スラリー濃度1wt%で一度流量の大幅な低下を来たし、その後スラリー濃度が 5wt%をピ ークに流量が回復し、その後緩やかに流量が低下する様子を確認する事も出来た。またス ラリー濃度 20wt%における容積効率 50%以上を確保する事が出来た。 2-85 スラリーの昇圧方法としては、背圧弁をテストしたところ、高圧になるにつれ、弁開度 が小さくなり、水のみが弁部を通過し、弁入口部での濃度が上昇するために閉塞が起きる ことが確認された。一方、比較的小径のスラリーであれば管路抵抗による方法で安定した 昇圧が出来、粒径が 1mm に近いスラリーであれば最低 2 段の可変容積をもつ圧力室への注 入により、昇圧できる事も確認された。安全装置として通常のレリーフ弁を用いると、ス ラリーの弁部への噛み込みでレリーフ弁が解放後の復帰しないため使用する事ができない ことから、接点付き圧力計による昇圧ポンプの自動停止と洗浄用ポンプの起動による配管 洗浄方式を採用し、配管閉塞時の異常昇圧に対する対応ができた。 (2)基礎基盤技術の開発 ①超臨界流体のミクロ溶媒特性の解明(産総研超臨界流体 RC/産総研環境調和技術 RI) 超臨界水は酸触媒機能と塩基触媒機能を有し、有機合成反応に有効であることが報告さ れている。水のミクロ構造が超臨界状態でどのように変化しているかは興味深い課題であ るが、不明なことが多く種々の方法で検討されてきている。超臨界水の触媒機能が何に由来 するかについては検討例が非常に少なく、これまではラーマン分光の結果からモノマーが プロトンと OH - へ解離するものと推察されていた。今回赤外分光を用いて検討したところ、 ダイマーの関与が強いことを見出したのでその結果を紹介する。 以前に当該研究グループが開発した高温高圧赤外分光システムを用い、温度 25∼470℃, 圧力 10∼40MPa で温度依存性および圧力依存性を検討した。また、観察された 4 つの振動 を、モノマーおよびダイマーの OH 伸縮振動 (νm+d )、水素結合ネットワ−クを構築してい るポリマーの OH 伸縮振動 (νpoly )、変角振動 (νb )と面外変角振動 (νL )に帰属した。圧 力の増大とともにすべての振動モ−ドが単調に増大する傾向が得られた。 モノマーおよびダイマーの OH 伸縮振動は亜臨界領域で単調に増大し、超臨界領域で急激 に減少する傾向を示し、その結果臨界点で極大値をとる。また、743K での吸光度は常温と ほぼ同じ程度であった。 一方、 ポリマーの OH 伸縮振動は亜臨界領域で単調に減少していき、 及び超臨界領域では急激に減少していく傾向を示した。 温度 653K 以上の超臨界水領域では モノマーおよびダイマーの OH 伸縮振動以外の振動モ−ドが負値に転じている。 これらの結 果から、超臨界水は常温水と比較してポリマーの OH 伸縮振動およびダイマーの存在量が多 くなり、水素結合が常温水よりもかなり少なくなっていることが分かる。 また、モノマー およびダイマーの OH 伸縮振動が減少する際、変角振動が負値をとる挙動を示すことから、 ダイマーから変角振動が失われた化学種が部分的に生成していることが推定できる。水の 水 素 結 合 ダ イ マ ー は 3 つ の 構 造 を と る こ と が 報 告 さ れ て い る 。 そ れ ら は linear, bifurcated, cyclic 構造であり、特に linear 構造が安定であり、この構造の分極エネル ギ−が構造安定化に最も寄与することが知られている。これらのエネルギ−値を用いた各 モ ノ マ ー お よ び ダ イ マ ー の 存 在 比 は 温 度 773K に お い て 、 モ ノ マ ー=0.00、ダイマー (linear)=0.58、ダイマー(bifurcated + cyclic)=0.42 であり、ほぼダイマーのみが存 在し、 そのうち、 ダイマーの linear 構造がやや多い。 上記のことと密度依存性の結果から、 臨界密度以下の超臨界水で、密度低下に伴い増加するはずの変角振動が、モノマーおよび ダイマーの OH 伸縮振動(ダイマーが支配的)の減少とともに、負値に転じたことは、ダイマ ーのうちの一部が変角振動を持たない化学種に変化することを意味する。すなわち、ダイ 2-86 マーは H 3 O + と OH - へ解離していると考えられる。 高圧条件下において超臨界流体などを NMR で直接観察する方法は、大別すると高圧プロ ーブ法と高圧セル法とに分けられる。前者は、コイル部などの検出器と高圧容器とを一体 で設計、製作する方法で、一般に測定感度の向上が期待でき、より高温・高圧下での測定 が可能となるが、専門的な技術を必要とし、且つ高価となる欠点を有する。他方、後者は、 市販の高分解能型検出器内に非磁性材料で構成された高圧セルを設置する方法であり、測 定が簡便となり、安価で汎用性が高いと言える。室温近辺に臨界温度(31 ℃)をもつ二酸 化炭素について、比較的機械強度が高いアルミナを用いて、キャピラリ型セルの約 100 倍 近い試料容積を有する高圧セルを開発した。このアルミナ製の高圧セルは、精密な温度制 御機能を有し、化学シフトや緩和時間を再現性良く測定でき,かつ測定試料の流通が円滑 に行える。この新規高圧セルはヘッドキャップ、外管、内管の主要3点からシンプルに構 成される。試料溶液は内管内部を通過し、セルの底部で折り返し、観測領域における内管 の形状をコイル中心をもって点対称とすることで、磁場の均一度を低下させず、高分解能 (∼0.007 ppm)のスペクトルが得られるようになった。モデル分子として、ペルフルオロ ベンゼンに CF 3 基を導入した分子、ペルフルオロ(メチルシクロヘキサン)などの分子を 用いて、溶媒和構造の異方性について検討した。このように単純なベンゼン骨格を有する 分子においても、その各部位における溶媒和構造は単純であるとは言い難い。同数のフッ 素を導入した化合物では、非対称で双極子モーメントを持つ分子の方が過剰局所密度は大 きくなる傾向を示し、二酸化炭素分子との相互作用では分子の極性が重要であることが判 明した。また,超臨界二酸化炭素中の水の挙動を化学シフトならびに縦緩和時間をプロー ブとして調べた。溶質である水やアルコールは、濃度増加に伴い水素結合により顕著に自 己会合しやすいことが知られている。しかし、非極性溶媒である四塩化炭素中の結果に比 べ、大きな四極子モーメントを有する二酸化炭素中では、単量体が安定化し自己会合が抑 制されることが判明した。近年、超臨界二酸化炭素中において、金属触媒を用いた均一系 の反応に対し、 触媒の効率的回収を目的とした不均一系の化学反応の試みがなされている。 また、超臨界二酸化炭素が液相へ溶解することによる膨張液体についても,NMR の緩和時 間により運動性変化の観点から調べた.一例として重ベンゼンを液相に用いた結果を紹介 する。ベンゼン分子は対称性が良く、その回転運動は"spinning"と"tumbling"の 2 種類で 記述される。重水素核の緩和時間は C-D 軸の回転運動を反映した相関時間と関連付けられ、 2 種類の異方的な回転の双方を含んだ情報を提供する。ただし、常圧における値で規格化 したところ,二酸化炭素の溶解により、運動性が高まることが明らかとなった。さらに、 興味深いことは、並進に対する加圧効果の方が回転に対するより 3 倍近くも大きいことで ある。この現象は、並進運動に対して座標の変化が少ない回転運動がより影響を受けづら いことを反映したものと推測される。また、本研究の結果は、超臨界二酸化炭素を用いる ことにより液相をより効率的に制御できる可能性を示唆したもので、仮に運動モードごと に制御することができれば、今後、化学反応プロセスを構築する上でかなり役立つものと 期待できる。 一方,超臨界アルコール中での有機合成反応を対象として,分光学的手法(NMR、FTIR、 UV)により観測し、反応物としての超臨界アルコールの特性を考察した。従来、こうした 反応は、ステンレス製の反応高圧容器を用いて行われているが、その金属管壁が触媒的に 2-87 働く可能性があるため、超臨界アルコール自身の反応特性を正確に把握するためには、こ の触媒効果を分離して評価する必要がある。そこで、石英製の高圧容器を用いて反応を行 うことにより金属の効果を除去し、各反応におけるアルコール自身の反応活性を考察した。 まず、ケトンやアルデヒドへのアルコールの付加反応(アセタール化)を超臨界アルコー ル中で試みた。この反応には、通常、酸触媒が必要であるとされている。しかし、超臨界 条件下では、石英容器中においても反応が有意に進行することが確認された。これは、無 触媒条件でも、超臨界アルコール自身が反応物として働く可能性を示していると言える。 このような超臨界アルコールの反応活性と、その溶液構造との関連を議論するた め、NMR および FTIR スペクトルの解析を行った。その結果、超臨界状態では、アルコール分子は主 にダイマーとして存在することが分かった。従って、このダイマーから、反応の活性種が 生成している可能性が考えられる。ハイドロキノンの芳香環上でのメチル化反応について も、同様の解析を行った。この反応は、石英容器中ではほとんど進行しなかったが、金属 片を加えることにより、反応速度が有意に上昇することが確認された。これにより、超臨 界条件下では金属容器壁が触媒としてアルコールの反応を促進する可能性もあることが明 らかになった。今後は、こうした知見に基づいて、反応の機構解析と効率化を進めていく 必要があるだろう。以上の研究で使用した高温 NMR 検出器においては、水素核と炭素核の みが観測可能であったが、これに加えて、重水素核が観測可能な検出器への改良を行った。 この改良により、反応における生成化学種の分離同定が容易になるとともに、アルコール や反応分子の運動性を評価することが可能となる。近年、超臨界アルコール中でゼオライ ト触媒を用いた反応の開発が進められているが、こうした固体触媒内部での分子の運動・ 吸着状態を解明する上でも、本装置は有用であると考えられる. ② 超臨界流体のマクロ特性の解析(産総研超臨界流体 RC 集中研/産総研環境調和技術 RI /東北大/九州大/近畿大/高温高圧研) 流通式による高温・高圧水+炭化水素系相平衡の測定装置を設計・製作し、その健全性 を確認できた。すなわち、水+デカン系の文献値との比較により、本測定装置と測定手法 が妥当であることを確認した。さらに文献値の少ないあるいは測定例のない領域での水+ トルエン、水+p-キシレンおよび水+エチルベンゼンの高温・高圧相挙動を明らかにする ことができた。これらのデータは、亜臨界・超臨界水利用のプロセス設計における有用な 基礎データとなる。本測定装置の特色は、平衡セル内の相挙動をサファイアガラス窓を通 して観察できることである。得られたデータは、修正 SRK 状態方程式に本研究で提案する 指数型混合則を組み合わせることで相関可能であることが示された。 この計算手法は、種々 の条件下でのプロセス設計に役立つものである。また,フッ素系化合物の超臨界二酸化炭 素に対する溶解度測定については測定装置・手法ともに測定精度 5%程度で可能であること を確認しており,データ蓄積の準備は終了している. また今回開発を目指しているポリマーの溶液膨潤特性測定装置の原理は、シリンダー上 部にポリマー試料は透過せずに溶液のみを透過できるガラスフィルターを固定して、これ と下部にある水銀層で形成されるセル中にポリマー粉末を採取し、ここに溶液を導入する ことによって誘起された膨潤体積増加量を水銀に転化しながら毛細管に導き、その時間的 変化並びに平衡時における変化量から、平衡膨潤値並びに膨潤速度を求めるものである。 2-88 本装置開発に当たっては,解決しなければならない幾つかの技術課題がある。 ポリマー粒子と溶液との接触方法は、測定セル上部に3方バルブを装着しこれを操作し ながら測定セル中を真空ポンプで排気・減圧にした後に、溶液を導入して再び常圧に戻す 方式を採用し良好な再現性を得ることに成功した。また、膨潤体積増加量を計測する毛細 管水銀柱の設置に当たっては、膨潤の進行によって発生するセル中の水銀面が低下がもた らすポリマー層への圧力反動を避けるために、一定の傾斜を付けて装着する方式を採用し て定常膨潤の実現に成功した。 工業的な基盤技術の確立を目指す意味から測定試料は、全て、下記のような、市販の汎 用ポリマーを選定して使用した。 (1)ポリスチレン、(2)架橋ポリスチレン、(3)ポリエチレン、(4)ポリプロピレン、(5) ポリメチルメタアクリレート、(6)ポリエチレングリコールテレフタレート(PET)、(7)ポリ ブタジエン・スチレンブロック共重合物及び(8)ポリオキシメチレン。 測定するポリマーは、粒形分布の狭い粉末状であることが望ましいので、粒状の試料を 購入し、これを液体窒素を用いて冷却した後、ホモジナイザーで粉砕し、更に、篩い分け を行って測定試料とした。幸いにも、上記のポリマーに対しては、全てこの手法を用いて 調製ができた。 典型的なポリマーを用いてその溶液膨潤特性の測定を行い得られた実験データの解析を 試みたところ、この装置が非常に速い膨潤現象に対しても十分に対応でき、しかも極めて 精度よく測定できることが判明した。またデータはポリマー中に存在する共有結合に由来 した架橋構造密度を実験的に評価できる可能性を暗示している。次に、高圧仕様の溶液膨 潤特性測定装置の制作に取りかかっている。超臨界二酸化炭素を主体とした溶媒中に於け るポリマーの溶液膨潤現象の測定には、30MPa 程度の圧力下で機能する装置の開発が必要 になるため、装置の本体部分をガラス製からステンレス製へ変更して耐圧性を向上させな ければならない。現在作業は進行中であるが、最大の難関と考えられていた膨潤体積測定 部の制作、 ステンレス製ジョイント部と透明石英毛細管との接合部分の耐圧試験に成功し、 現在、装置全体の調製を行いながら予備的な測定実験の準備に移っている。 高分子材料への超臨界二酸化炭素の溶解度、それに伴う融点、結晶化点およびガラス転 移点の測定データに対して文献調査を実施すると、高圧でのその場測定データでないもの が散見された。そこで、本研究では超臨界二酸化炭素と高分子材料との相互作用の基礎特 性データ整備のために、高圧下で重量が測定できる高圧熱重量−示差熱分析(高圧 TG-DTA) を用いて、超臨界二酸化炭素の高分子材料中への平衡溶解度を測定した。高分子材料とし ては、代表的な水溶性ポリマーであるポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール および本プロジェクトで用いられているポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートを 用いた。また、高圧下で熱量測定ができる高圧示差走査熱量計(高圧 DSC)を設計・製作 して、高圧下での高分子材料の融点、結晶化点およびガラス転移点等の測定も行った。こ れらの測定結果から、固体状態ポリエチレングリコールへの超臨界二酸化炭素溶解度は、 圧力増加とともに流体密度に対してほぼ比例的に増加すること、また溶融ポリエチレング リコール、ポリエチレンオキサイドにおける超臨界二酸化炭素溶解度の圧力依存性はほぼ 比例で、温度依存性についてはヘンリー定数に直した場合、Stiel らが提案した ln(1/Kp) と(Tc/T) 2 の相関式によく適合することが分かった。さらに、ポリエチレングリコールおよ 2-89 びポリエチレンオキサイドの融点は、二酸化炭素の可塑化効果により、圧力の増加に伴い 直線的に低下した。またデータが皆無に等しい固体状態ポリプロピレンの超臨界二酸化炭 素溶解度を測定したところ、 超臨界二酸化炭素溶解度は圧力に対しては直線的に増加せず、 流体密度に対して直線的に増加することを明らかにした。ポリプロピレンの融点近傍の 150 ∼ 170 ℃では、ポリプロピレンの融解に起因する超臨界二酸化炭素溶解度の大きな変 化がみられた。固体状態と溶融状態における溶解度の違いは、両者の膨潤度の差、固体状 態での非晶部のみへ溶解し溶融状態では全体へ溶解することが原因として考えられる。ポ リエチレンテレフタレート、ポリプロピレンの融点、結晶化点を超臨界二酸化炭素中で測 定した結果は, 超臨界二酸化炭素の可塑化効果により圧力の増加に対して両者ともに融点、 結晶化点が直線的に低下した。特に、ポリプロピレンにおいては二酸化炭素圧 10.0MPa 以 上では融解ピークがアモルファス部及び結晶部と考えられる二つのピークに分離すること を明らかにした。これらのデータより超臨界二酸化炭素を用いた高分子の成形プロセスで は反応温度を下げて、生産プロセスの省エネに寄与すると考えられる。 なお、溶融ポリマーに二酸化炭素が溶解すると、可塑化作用により流動性が著しく向上 することが知られている。本課題では、ポリマー中の二酸化炭素量と粘性低下の定量的把 握を目指して、高圧キャピラリー法による溶融ポリマーの粘度測定装置の開発ならびに測 定手法の策定を行っている。本法の原理は溶融ポリマーへ二酸化炭素をドライアイス(固 相)状態で供給し、溶解・均相化させた後にバレル(プランジャー)にて試料を圧送して キャピラリーを試料が通過する際の応力を直接測定するもので、バレルの移動速度からせ ん断速度、所要応力からせん断応力を算出する。予備実験ではわずか 1wt%程度の二酸化 炭素の導入により、粘度(せん断応力)が1桁程度低減することが確認されたが、試料中 の二酸化炭素量の測定精度が全体での測定精度を決定することが明かになった。そこでそ の組成決定法について種々検討し、キャピラリー後段に設けた背圧槽での界面変化を同時 計測することで二酸化炭素とポリマー量を純成分の密度データから決定する方法を開発し た。 高圧条件下での界面変化については静電容量式液面測定法を用いている。 本法では、 実験開始時のゼロ点調整法を正確に行なう必要があるが、キャピラリー内部での実組成の 決定が可能であり、高圧下での粘度測定の他にも、展開可能な手法と言える。150℃および 175℃について純粋ポリスチレン(PS)と二酸化炭素を添加した系(ドライアイス過剰仕込 みと通常の測定)について測定を行った。測定条件は 150℃が背圧 100atm⇔50atm、175℃が 背圧 70atm⇔20atm、サンプリングボンベの温度 200℃とした。175℃および 150℃での過剰 仕込み測定ではそれぞれ二酸化炭素溶解度は 3wt%および 4wt%であるが、粘度低下の傾向と しては妥当な結果が得られた。なお、過剰仕込みの測定についても液面測定を行ってみた が、二酸化炭素濃度の値が 8wt%∼10wt%くらいであり、背圧による二酸化炭素濃度の制御 も可能であることがわかった。また、実際に測定を行ったところ、150℃、純粋 PS につい ては現在の範囲が限界である。しかし、ドライアイスを仕込むことによって、かなり粘度 が低下することが定量的に判明した。濃度シフトファクターa C は 150℃の方が大きいので、 濃度による影響が大きいのが原因と考えられる. 150℃についてはまだ測定点が少ないため、 もう少しデータを収集する必要がある。 発泡シミュレーションを行うために必要な物性値(二酸化炭素の溶解度、二酸化炭素が 溶解した高分子の粘度、高分子-二酸化炭素間表面張力など)のうち、発泡条件である 300℃、 2-90 300 気圧において、高分子-二酸化炭素間表面張力の測定を行う装置の設計を行い、現在作 成中である。二酸化炭素の溶解度および二酸化炭素が溶解した高分子の粘度については、 プロジェクトの他の研究員との連携で研究を行っている。 流通式による亜臨界・超臨界水(水蒸気)に対する無機塩の溶解度測定装置を設計・製 作した。文献値が報告されている食塩(NaCl)の溶解度を測定することで、本方法の信頼 性を確認した。無機塩類の溶解度データは超臨界水利用のプロセスにおける閉塞、腐食な どの解析において重要な知見を与えるものである。正則溶液モデルを拡張し、亜臨界・超 臨界水(水蒸気)に対する無機塩の溶解度相関モデルを確立した。このモデルによれば、 広い温度領域における無機塩の溶解度の計算が可能となり、プロセス設計上有用である 無機材料合成に用いる金属化合物としては超臨界二酸化炭素、アルコールへの高い溶解 性と適度な反応性、分解性を併せ持つことが求められる。また無機材料合成には一般に焼 成によって有機物を除去する過程が不可欠であり、フッ素や硫黄を含む金属化合物や錯体 の使用はなるべく回避することが望ましい。これらの点を概ね満たす既存の化合物として は金属アセチルアセトナトとアルコキシドがまず挙げられる。そこで代表的な化合物を選 択し、超臨界二酸化炭素への溶解度測定を行った。本研究では少量の試料で評価可能なこ と、相状態を確認しながら溶解度の測定が可能であること、温度や圧力制御への応答が早 く分解挙動評価への展開が容易であることから、比較的容量の小さい内部可視容量可変型 セルと流通型装置を組み合わせた装置を構築し評価を行った。金属アセチルアセトナトと しては、触媒への応用が期待され、かつこれまで溶解度に対する報告が少ない貴金属(Ag、 Pt、Pd)の測定を行った。Ag については他の1価金属のアセチルアセトナト同様に溶解度 が著しく低く、実用性はなかった。一方 Pt については 2 価のアセチルアセトナトとしては 高い溶解度(20MPa、313K で 0.35mg/CO2 L )を示し、貴金属担持触媒の合成には十分適用可 能であることを実証した。 金属アルコキシドとしては酸化物合成に多用されるチタンイソプロポキシドとアルミニ ウム tert-ブトキシドを取り上げた。チタンイソプロポキシドは 12MPa 以上の条件で均一 相となり、 2 相領域も併用すれば 0.4∼3wt%程度の範囲で溶解度を制御可能であることが分 かった。アルミニウム tert-ブトキシドについては検討中であるが 20 MPa までの条件で均 一相は観察されず、また溶解度もチタンの場合より大幅に小さいことが判明している。 ③高圧ガス供給システムの安全技術(産総研超臨界流体 RC 集中研) 高圧酸素雰囲気中での各種装置を、安全を考慮し設計を行い、発火試験装置、断熱圧縮 試験装置、微粉衝突発火試験装置、ガス噴射試験装置を製作した。酸素雰囲気材料物性測 定については,雰囲気酸素圧力の上昇とともに有機化合物材料の発火温度は低下する傾向 が見られ、高圧ガス試験における発火条件の予備データとなるとともに、危険性を評価す るための基準となるデータが得られた。 また、内外の高圧酸素供給技術について安全技術調査を実施し、法規・基準ならびに安 全技術に対する報告書を作成した。 8.2.2 研究開発項目毎の目標に対する達成度 (1)超臨界流体プロセスの技術開発 2-91 (イ)有機合成プロセス技術の研究 ①超臨界二酸化炭素反応場を利用した水素化反応技術 (評価時点における目標値もしくは目標) 超臨界二酸化炭素中でのアニリンの核水素化反応及び不飽和アルデヒド C=O 二重結合の選 択的水素化に有効な反応システムを開発する。本反応における二酸化炭素圧力の影響など を把握し、反応条件の最適化を図る ・アニリンの核水素化反応で転化率:90%及び選択率 80%を目指す。 ・極性溶媒を使用しない条件で不飽和アルコールの収率 37%、選択率 93%を目指す。 (達成度、判定理由・根拠) 超臨界二酸化炭素中でのアニリンの核水素化反応に関して、(C 6 H 6 ) 2 Ru 2 Cl 4 ―H 2 O 触媒系に水 を添加することによって本反応に有効なシステムを構築した。得られた転化率 74%及びシ クロヘキシルアミン選択率 78%であった。超臨界二酸化炭素中での芳香族アミン化合物の 核水素化反応はこれまで報告例がなく、今回有効な反応システムを見出すことができた意 義は大きい。シンナムアルデヒドから極性溶媒未使用で、Ru 触媒を用い、選択的水素化反 応による不飽和アルコールの合成を試みた。液―超臨界流体の2相系となり、転化率:58%、 選択率:98%及び収率:57%で不飽和アルコールを合成し、目標をクリアしている。全体と してみれば、90%程度の達成である。 ②超臨界二酸化炭素を基質とする有機合成技術 (評価時点における目標値もしくは目標) 超臨界二酸化炭素を利用した環状炭酸エステル及びウレタン化合物の効率的合成技術を開 発する。 ・環状炭酸エステル合成 固体触媒(流通系):転化率 25%、選択率:80%を目指す。 錯体触媒:転化率 95%、選択率:95%を目指す。 ・ウレタン化合物合成 40℃及び 12 時間の 2-オキサゾリジノン合成で収率 67%を目指す。 (達成度、判定理由・根拠) ・環状炭酸エステル合成 固体触媒として希土類の酸化塩化物(SmOCl)が高い触媒活性を有することを見いだした。 流 通系で転化率 20%、選択率:80% 均一系触媒としてフルオロアルキル基を有するホスホニウム塩が目的の反応に高い活性を 有することを見いだした。転化率 94%、選択率:99% ・ウレタン化合物合成 2-メチル-2-アミノアルコールから 40℃及び 12 時間で 4-メチル-2-オキサゾリジノンを 収率 91.4%で合成した。 従って両者とも中間目標をほぼ達成している。 ③超臨界メタノールを利用した芳香族化合物合成技術 (評価時点における目標値もしくは目標) 超臨界メタノールによるゼオライト触媒を利用した 2,6-ジメチルナフタレンの合成技 術の解発を目指す。神戸製鋼所・モービルが共同で開発中のナフタレンを出発物質とする 2-92 気相反応による 2,6-ジメチルナフタレン合成法のデータである、転化率 13%、全ジメチル ナフタレン中の 2,6-体比率 12%、2,6-体/2,7-体の生成比 1.4 を当面の具体的な目標とす る。 (達成度、判定理由・根拠) 超臨界メタノールによるゼオライト触媒を利用した 2,6-ジメチルナフタレンの合成反 応を実施し、超臨界反応に適した触媒細孔径の選択に対する方向性と、反応温度・反応圧 力が選択性に及ぼす効果に対する知見を得た。現時点での転化率 24%、全ジメチルナフタ レン中の 2,6-体比率 37%、及び 2,6-体/2,7-体の生成比 2.1 であり、中間目標に対する達 成度は 100%である。 ④超臨界メタノール反応場を利用したメチル化反応技術 (評価時点における目標値もしくは目標) 固定床流通式反応装置を用いて 2-アミノエタノールの N,N-ジメチル化反応における反 応条件の最適化検討する。300℃で転化率 88%及、モノメチル体とジメチル体の合計選択率 90%及びワンパスでのジメチル化生成物収率 40%を目指す。 また、メタクレゾールのオルト位ジメチル化反応に有効な触媒探索の検討を行う。300℃で 転化率:80%、モノメチル体とジメチル体の合計選択率 90%及びオルト位ジメチル化生成物 の選択率 40%を目指す。 (達成度、判定理由・根拠) 固体酸塩基両機能性触媒(Cs-P-SiO 2 )存在下に超臨界メタノール中で 2-アミノエタノ ールを反応させた結果、 300℃で転化率 88%及、 モノメチル体とジメチル体の合計選択率 94% 及びワンパスでのジメチル化生成物収率 35%であった。二官能性アミンの選択的 N-アルキ ル化反応に関する当初の目標はほぼ達成したと言える。 一方メタクレゾールのオルトアルキル化反応に関しては、鉄バナジウム系触媒存在下、 超臨界メタノールを用いてメタクレゾール転化率 94%、モノメチル体とジメチル体の合計 選択率 98%及びオルト位ジメチル化生成物のワンパスでの収率は 37%であった。 したがって、現時点での本テーマ全体の達成度は、中間目標に対しては 90%程度と考え られる。 ⑤超臨界水反応場を利用した水和反応技術 (評価時点における目標値もしくは目標) 超臨界水反応場においてモデルとしてヘキセンを用いたオレフィン水和反応技術を検証 する。また流通法によりプロピレンからイソプロパノールの転化率 20%を目指す。そのた めの高圧ガス対応の超臨界有機合成試験装置を作成する。 (達成度、判定理由・根拠) 超臨界水中で無触媒ヘキセン水和反応を初めて達成し、主生成物収率および副反応生成 物収率の制御因子の把握を行うことで技術蓄積ができた。高圧ガス対応の超臨界有機合成 試験装置の設計・開発がやや遅れており、プロピレンからイソプルアルコールの実験に着 手したところである。バッチ式反応では収率 10%であった。 これらの点から、評価時までの達成度は 80%程度であると考えられる。 ⑥超臨界水を反応場とする物質合成技術 (評価時点における目標値もしくは目標) 2-93 酸・塩基触媒機能及び高温・高圧反応場であるという超臨界水の特性に適合する有機合 成反応を探索し、その反応過程を5例程度解明する。超臨界水中では反応が 1 秒以下の高 速で進展する場合があり、それに対応可能な超臨界水有機合成反応に適した実験室規模の 反応装置を開発する。 (達成度、判定理由・根拠) 5 秒以下の短時間で所定の目標温度に昇温可能な流通式超臨界水反応装置を開発した。 これを用いて超臨界水反応場を利用したモデル反応に適用したところ、無触媒下で有機反 応が 0.1 秒∼60 秒の短時間で進展することを認めた。蛋白質からのアミノ酸への分解反応、 アミノ酸からペプチドへの反応、ピナコール転位反応、ベンズアルデヒドからベンジルア ルコールと安息香酸への不均化反応、アミノ酸からのラクタムへの合成などに成功した。 これらの反応は水熱条件では進行せず、超臨界水中でのみ効率的に進行した。例えば、 超 臨界水によるピナコール転位反応、不均化反応では、無触媒下で、特に臨界点付近でその 反応性が特異的に増加することが確認できた。したがって、現時点での本テーマ全体の達 成度は、中間目標に対してほぼ達成したと考えられる。 (ロ)材料プロセッシング技術の研究 ①熱可塑性高分子の超微細発泡成形技術の開発 (評価時点における目標値もしくは目標) 実験装置(連続式微小気泡挙動計測解析装置)の設計・試作と超臨界流体制御手法の開 発。超臨界二酸化炭素(窒素)を用いた樹脂発泡挙動の制御因子を解明し、発泡径 10μm 程度を達成する。 (達成度、判定理由・根拠) 連続式微小気泡挙動計測解析装置構築中で、解析に必要な可視化観測や溶融粘度の計測 システムは装備されており、13 年度中に完成の見通しである。超臨界流体(CO 2 、N 2 、CO 2 +N 2 ) 混合を用いてポリプロピレンの発泡シート状サンプルが得られるのは確認できている。平 成 13 年度中に巻取り装置が完成するとシートサンプルの製作ができ、 その評価が可能にな る。 超臨界二酸化炭素を用いた樹脂発泡挙動の基礎的検討で圧力、温度、減圧速度の影響、 発泡に必要な減圧速度に閾値があることが明らかとなり、回分式の最適条件での発泡径は 10μm 程度のものが得られている。従って、現時点での達成度は 80%である。 ②無機/有機高分子複合材料の創製技術の開発 (評価時点における目標値もしくは目標) 超臨界注入法による有機高分子材料中の金属や金属酸化物の微粒子分散形態と操作因子 との関係の明確化。 (達成度、判定理由・根拠) 有機高分子材料への金属、あるいは金属酸化物の微粒子の注入技術について、超臨界流 体注入法を用いることによって、銀については金属の、チタンについては含水酸化物の微 粒子を形成できた。何れも平均径が十数 nm の微粒子を、数 μm の深さにわたって分散させ ることができた。制御技術については、微粒子の形成に係わる温度・圧力の影響、エント レーナ添加効果を明確にした。最適条件で得られた銀の微粒子分散複合体は、重量含有率 2-94 8%、 単位面積当たりの分散面積 5%、体積充填率 1%の形態で分散層を形成することができた。 従って、現時点での達成度は 90%である。 ③急速膨張法による無機材料の創製技術の開発 (評価時点における目標値もしくは目標) 超臨界二酸化炭素/金属アルコキシド系における各種原料アルコキシドの適用性、およ び超臨界急速膨張法の基本特性の明確化と、パターニングの可能性の検証。 (達成度、判定理由・根拠) 各種アルコキシドの超臨界二酸化炭素への溶解性の傾向が判明し、アルコキシドの超臨 界急速膨張法への適用に関する指針が得られた。また、ノズルから噴射されて基板に付着 する粒子の粒径や、その固化過程に関するデータが得られ、本法の基本特性が明確になっ て来た。さらに、酸化チタンによる 50μm ピッチのパターニングを実施し、膜質やピッチ サイズについては十分とは言えないながらパターニングの可能性は検証できた。以上のよ うに、中間目標はほぼ達成できている。 ④ 超臨界水反応場を利用した無機微粒子の合成技術の開発 (評価時点における目標値もしくは目標) 各種の金属酸化物微粒子の粒子径・分布・形態とプロセス変数との関係の明確化。 (達成度、判定理由・根拠) 流通式反応装置を試作するとともに、ベーマイトを例にプロセス変数が粒子特性に与え る影響について実験的に明らかにした。溶解平衡に基づく解析から、原料溶液の被る温度 変化に伴う溶解度変化が粒子特性を決定する因子のひとつであることを明らかにした。達 成度は 80%である。 (ハ)エネルギー・物質変換技術の研究 ①超臨界水酸化反応によるエネルギー回収プロセスの開発 (a)反応モデルの開発 (評価時点における目標値もしくは目標) ・固形炭素の超臨界水酸化プロセスを直接観察し、反応速度の依存性を確認。 (達成度、判定理由・根拠) ・固形炭素については、細孔のあるものについては温度 400−500℃、圧力 23−30MPa、酸 素濃度 1.4−9.7wt%、流量 0.5−5ml/min の条件での反応速度の依存性を定量化するとも に、固形炭素の超臨界水酸化反応への操作条件の依存性を把握した。これらのことから、 中間目標に対してはほぼ 100%達成できたと考えられる。 (b)装置材料の開発 (評価時点における目標値もしくは目標) ・ 材料腐食評価試験用の設計・製作および、その試験装置を用いたイオウを含有する有機 固体の超臨界水酸化反応を想定した材料腐食評価。 (達成度、判定理由・根拠) ・材料試験体を装着する管型試験炉および槽型試験炉、加熱器、冷却器、背圧弁、試験液 調整タンク、廃液受タンクから構成される材料試験装置を設計・製作、イオウを含有する 有機固体の超臨界水酸化反応を想定した材料腐食評価として、温度 450℃、圧力 30MPa、硫 2-95 酸濃度 2wt%の模擬液を用いて、Fe 基合金、Ni 基合金、Ti 基合金について全面腐食試験・ 隙間腐食試験・SCC 試験を行った。中間目標に対しては 80%程度達成できると考えられる。 ②超臨界水中水素化反応等による未利用重質資源の軽質化・クリーン化に関する開発 (a)重質油転換プロセス (評価時点における目標値もしくは目標) ・ 超臨界水中における重質油転換反応挙動の把握。 ・ 超臨界水中における重質油転換反応のプロセスデータの取得。 (達成度、判定理由・根拠) 超臨界水中における重質油転換反応挙動を把握するために、ベンチスケールでの連続試 験を行い、超臨界水中における重質油転換反応を構成されると考えられる熱・加水分解反 応、脱硫、脱金属反応、ガス化反応挙動について検討を行った。その結果、熱・加水分解 反応については高温、高圧で軽質化が進むこと、また、超臨界水の持つ再重合抑制効果に よりコークス生成量が低減することを確認した。さらに、触媒無しで脱硫が進むこと、脱 金属についてはほぼ 100%で起こることを確認した。ガス化挙動については高温になるに従 って収率が増加すること、比較的低温である 550℃において水性ガス、水性ガスシフト反 応が起こっていること、 ガス組成は水素を含む C1∼C4 成分で構成されていることが確認さ れた。 以上の結果から、超臨界水中における重質油転換反応挙動を連続試験を通じて把握し、 また基本となる反応について定量的なデータの取得が出来た。以上より、中間目標は達成 することが出来たものと考える。 (b)還元雰囲気下での材料腐食の評価 (評価時点における目標値もしくは目標) ・ 超臨界水還元性雰囲気下における腐食速度の把握。 ・ 超臨界水還元性雰囲気下における腐食メカニズムの解明。 ・ 適用材料の選定 (達成度、判定理由・根拠) バッチ式および流通式材料腐食試験装置を用いて、超臨界水還元性雰囲気下での各種試 験材の腐食試験を行い、腐食速度の把握および腐食メカニズムの解明を行うことができ、 また材料選定の目処がついたことから、当初の目標を達成することができた。 超臨界水還元性雰囲気下での材料腐食は、酸化性雰囲気と腐食形態が異なることが確認 され、好ましい材料も異なることがわかった。還元性雰囲気では Cr と Mo のバランスが良 好なハステロイC系と MAT21 が好ましく、殆どの条件において材料選定の目安である腐食 速度1mm/y 以下を満足することが確認された。他の材料においても条件によっては良好な 腐食状態であり、十分適用可能であることが確認された。 装置材料の選定においては、腐食速度および腐食形態の把握の他に、応力腐食割れの有 無、強度評価が重要と考えられ、今後これらに関する試験を行い、総合的な材料評価を行 う予定である。 ③ プラスチック廃棄物の化学リサイクルプロセスの開発 (a)変換反応技術 (評価時点における目標値もしくは目標) 2-96 ・付加重合型プラスチックとしてのポリ塩化ビニルからの可塑剤の回収、脱塩素化を二段 階で行なう操作条件の策定。 ・ポリ塩化ビニルからの可塑剤、塩素を抽出した後のポリエンを超臨界水の反応溶媒とし て利用した操作条件の策定。 ・縮重合型プラスチックとしてのポリカーボネートを超臨界水の反応溶媒としての加水分 解して得られるビスフェノール A に転換させる操作条件の策定 b)達成度、判定理由・根拠 ポリ塩化ビニルからの可塑剤回収、塩素の除去を2段階で行い、共に 100%抽出できる操 作条件が確立できた。ミクロ流通式超臨界水反応装置を構築して、不溶性であるポリエン を超臨界水で処理したときの反応条件と生成物について基礎的なデータを得た。また、同 様にして、ポリカーボネートをビスフェノール A として回収を行い、亜臨界域で収率が増 加することを確認した。これらの点から評価時までの達成度は 70%程度と考えられる。 (b)高圧供給系の構築 (評価時点における目標値もしくは目標) ・往復動ポンプを用いたスラリー供給装置を設計・製作する。 ・水−プラスチック(粒径分布 100∼250μm)スラリーを吐出圧力 35MPa まで昇圧させた 時の、スラリー濃度変化による吐出流量の変化を明らかにし、その限界を把握する。 ・スラリーの送液効率を評価するため、スラリー濃度 20wt%における容積効率を確認する。 (達成度、判定理由・根拠) プラスチック粒径分布 100∼250μm のものを水と混合し、スラリー用に改造した往復動ポ ンプを用い、吐出圧力 35MPa まで昇圧させ、スラリー濃度 0wt%から 33wt%まで段階的に 変化させた時に連続的に供給が可能である事が確認でき、かつ、スラリー濃度 20wt.%に おける容積効率が約 67%と大幅に 50%を超える容積効率が確保できた。このようなことか ら、目標を 90%程度達成したといえる。 今後スラリーの比重、粒径をパラメータにする事や、ポンプ逆止弁部のクリアランスを 変更する事による流量の変化や、配管抵抗の変化、流速による沈降影響を確認していく。 (2)基礎基盤技術の開発 ①超臨界流体のミクロ溶媒特性の解明 (評価時点における目標値もしくは目標) in-situ 高圧分光測定セルの開発を行い、超臨界水の触媒機能の発現機構を解明する。 また in-situ 分光測定法により超臨界流体中での化学反応過程の追跡と反応活性種を同定 する手法を確立する。 (達成度、判定理由・根拠) 部品点数が少なく、高感度の流通式 NMR 高圧セルを開発した。試料流体は内管内部を通 過し、セルの底部で折り返し、観測領域における内管の形状をコイル中心で点対称とする ことで、磁場の均一性を低下させず、(∼0.007ppm)の高分解能スペクトルが得られた。 また、高温高圧赤外分光システムを用い、超臨界水の構造を調べた所、観察された 4 種 の振動のなかで、ダイマーの OH 伸縮振動と変角振動の変化から臨界点付近では、変角振動 が失われたダイマーの化学種が生成し、ダイマーから H 3 O + と OH - への解離していると推察さ 2-97 れた。 超臨界アルコール中での各種有機合成反応において、無触媒でもアルコール自身が反応 の活性種として機能する場合と金属の触媒的な効果が必要な場合があることが判明し、各 寄与を分離して評価することが可能になった。また、超臨界アルコール中での活性種につ いても、ダイマーに由来する可能性が強いことが判明した。これらの知見は、今後、反応 条件の最適化と機構解明を進めていく過程で必要な情報となるものである。以上の結果か ら、中間目標はほぼ達成している。 ②超臨界流体のマクロ特性の解析 (評価時点における目標値もしくは目標) 超臨界水の高圧相平衡測定装置の製作と測定手法の確立、ならびにそれを用いてデータ を測定・解析する。超臨界流体混合系推算法の精度評価する。超臨界流体‐高分子系の膨 潤度測定、溶解度熱物性並びに界面張力の測定装置や測定方法を開発する。金属化合物の 溶解度測定装置の構築および解析を行う。 (達成度、判定理由・根拠) 超臨界水と高沸点有機化合物2成分系の高圧相平衡については、 400℃以上までの高温高 圧領域で内部相挙動を観察しながら2相組成を流通式分析で決定する装置・測定法を開発 した。また、汎用性の高い van der Waals 型状態方程式に指数型混合速を適用することで, 実用精度での推算が行える状態になっている。また、可視化セルを用いて、超臨界二酸化 炭素中の高分子の溶解度を測定している。さらに、超臨界二酸化炭素中での高分子材料の 熱挙動の解析に成功している。独自の膨潤度測定法と装置を開発し、正確な溶解度・膨潤 度データを蓄積していく段階にきた。 超臨界二酸化炭素‐高分子の粘性特性,界面張力の 測定に関して、粘性測定については測定が可能となり、一方,界面張力測定装置の設計を 終えて製作に入った。可視セルと流通型装置を組み合わせた溶解度および相平衡測定装置 を構築し、アセチルアセトナト、アルコキシド等代表的な化合物について溶解度や相平衡 の評価を行った。この装置は種々の金属化合物について汎用可能であり、金属種、化学種 による溶解挙動の差異が明確になっている。また,超臨界水中への NaCl、KCl 塩の溶解度 測定装置も製作終了し、データが蓄積されつつある。以上の点から測定装置の作成及び測 定方法は確立されており、最終目標であるプロセス開発に向けて基礎基盤に関わるマクロ 特性の知見を集積する体制は整っており、 中間目標は概ね達成できているものと判断する。 ③高圧ガス供給システムの安全技術 (評価時点における目標値もしくは目標) 超臨界流体技術に関連した高圧ガス供給技術、特に危険な酸素について内外のデータを 調査し、問題点や課題を検討する。その調査結果を考慮して発火試験装置、粒子衝撃試験 装置、断熱圧縮試験装置等の試験装置を設計・開発し、高温酸素雰囲気中での有機材料の 発火試験等を行う。 (達成度、判定理由・根拠) 高圧酸素供給装置、高圧酸素供給装置と発火試験装置を設計・製作し、有機材料の発火 試験を行ったところ、圧力が高いほど発火温度が低下する傾向を認めた。また内外の高圧 酸素供給技術について安全技術調査を実施し、法規・基準ならびに安全技術に対する報告 書を作成した。現時点での達成度は 80%程度と考える。 2-98 8.2.3 成果のレベル (1)超臨界流体プロセスの技術開発 (イ)有機合成プロセス技術の研究 ①超臨界二酸化炭素反応場を利用した水素化反応技術(産総研超臨界流体 RC 集中研/東工 大/産総研超臨界流体 RC) これまで、超臨界流体中での芳香族アミン化合物の核水素化反応に関しては、超臨界エ タンやプロパン中での報告例はあるものの、超臨界二酸化炭素中での反応は、二酸化炭素 の触媒毒性などの理由でこれまで実現されていなかった。また、超臨界二酸化炭素―水二 相反応系については、反応系が酸性化して均質触媒構造の崩壊が起きるなどの理由により これまでほとんど報告例がない。今回得た超臨界二酸化炭素―水二相系の反応システムは 環境負荷が小さく、触媒の分離回収が容易であり、かつ超臨界二酸化炭素の分離抽出能力 を利用した高選択的核水素化反応の開発が期待される。今後、種々の芳香族化合物への適 用によって包括的な核水素化技術となり、その波及効果は大きいことが予測される。 香水、医薬品などに用いられる芳香を有する種々のファインケミカルズを製造するには α,β-不飽和アルデヒドの選択的水素化反応によってα,β-不飽和アルコールを合成する 効率的なプロセス開発が重要であり、要望されている。しかしながら、通常は C=C 不飽和二 重結合の方が、C=O 二重結合より水素化され易く、α,β-不飽和アルコールを合成するのは 困難である。そのため、α,β-不飽和アルコールを選択的に合成するために多くの研究が 実施されてきているが、担持白金触媒を用いた場合、転化率:40.3%、選択率:92.6%及び 収率:37.3%であった。本研究では、シンナムアルデヒドの水素化反応によるα,β-不飽和 アルコールの合成を検討し、超臨界二酸化炭素―液系2相反応システムで、α,β-不飽和 アルコールの選択率が向上して、C=O 二重結合の水素化反応が選択的に起きることを見出 した(転化率:58.0%%、α,β-不飽和アルコールの選択率:98.0%、収率:56.8%)。この 結果は現状では一番良いデータであり、世界的にも最先端のレベルと言える。 ②超臨界二酸化炭素を基質とする有機合成技術(産総研物質プロセス RI/産総研超臨界流 体 RC) 固体触媒候補として新たに見いだした希土類酸化塩化物(SmOCl)は、Al-Mg-O や MgO 等の 従来提案されていた固体触媒に比べて活性、選択性共に大幅に優れており、世界的に見て トップレベルの成果と言える。また、フルオロアルキル基を有するホスホニウム塩を用い ることにより、超臨界二酸化炭素相に均一系触媒を保持し、生成物を反応分離させるタイ プのプロセスを世界で初めて開発した。 一方、ウレタン化合物である 2-オキサゾリジノン化合物の合成方法は、様々な方法があ るが、ホスゲンや炭酸エステルを用いる方法が多く、二酸化炭素とアミノアルコールから オキサゾリジノンを合成する方法の報告例は少ない。そこで、ジシクロヘキシルカルボジ イミド(DCC)を用い、安価な原料であるアミノアルコールから 2-オキサゾリジノンの合 成技術を開発した。即ち、助溶媒を使用しないで、2-メチル-2-アミノアルコールから 40℃ 及び 12 時間で 4-メチル-2-オキサゾリジノンを収率 91.4%で合成した。これは、従来報告 されてきた四塩化炭素、アミン、ホスフィンを用いた合成方法に比べて、操作条件や収率 の点でも優れている。この様に温和な条件で、二酸化炭素を固定したウレタン化合物を合成 できたのは今後プロセス開発にとって有利と考えられる。 2-99 ③超臨界メタノールを利用した芳香族化合物合成技術(産総研超臨界流体 RC 集中研/東工 大/東工大/静岡大) 2,6-ジメチルナフタレンは、BP-Amoco 社により o-キシレン・ブタジエン法で製造されて いるが製造工程が複雑であり、近年ナフタレンを出発物質とする直接メチル化法の開発が 求められている。神戸製鋼所・モービルが共同で低コスト製造プロセスを開発中であるが、 実際の製造プロセスには採用されていない。実用化のためには、位置選択性だけではなく、 触媒寿命や転化率等のバランスに優れ、トータルコストダウンが可能であることが重要で ある。これまでの本研究結果から超臨界メタノールを用いることにより、2,6-体/2,7-体の 生成比が従来の気相メチル化技術データより格段に値が向上し、且つ触媒を長寿命化でき ることを見出している。 ④超臨界メタノール反応場を利用したメチル化反応技術 (産総研超臨界流体 RC 集中研/東 工大) 2-アミノエタノールの N-メチル化反応では同一触媒を用いた場合、超臨界条件と気相条 件では反応経路が異なっていることを明らかにし、超臨界法によって二官能性アミン類の 選択的 N-メチル化反応技術を開発した。また、同一の反応システムを利用して、長鎖アミ ノアルコール類やエチレンジアミンのような他の二官能性アミン類に対する N-メチル化 技術の適用性を明らかにできた。これらの結果は同一プラント(固定床流通式反応器)を 使用することによって、多種の製品を目的に応じて簡便に製造できる、超臨界メタノール 利用メチル化反応システムが構築できることを示唆していて、プロセス開発には有利であ る。 メタクレゾールのオルト位ジメチル化反応の検討に関しては鉄バナジウム系触媒存在下、 超臨界メタノールを用いてメタクレゾール転化率 94%、モノメチル体とジメチル体の合計 選択率 98%及びオルト位ジメチル化生成物のワンパスでの収率は 37%を達成している。また この反応によりメタノールの分解抑制と触媒寿命の改善ができて、超臨界メタノール反応 場の優位性を明らかとした。 ⑤超臨界水反応場を利用した水和反応技術(産総研超臨界流体 RC 集中研) 超臨界水でのオレフィン水和反応を見いだしたのは初めてのデータである。また目的の アルコールだけでなく二量化物も得られ、水単独で酸触媒機能を果たしていることが判っ た。超臨界水を溶媒とした水和反応技術への適用可能性が期待できる。 ⑥超臨界水を反応場とする物質合成技術(産総研超臨界流体 RC) 超臨界水中で無触媒でも酸、塩基触媒反応が進行する事実を世界で初めて見い出してい るので、その成果のレベルは高い。通常の実用化に対しては、選択性だけではなく、触媒 寿命や転化率等のバランスに優れ、トータルコストダウンが可能であることが重要である。 超臨界水プロセスでは、固体触媒を使用しないことから触媒活性の長寿命化を図る必要が ないなどその利点は大きい。実用化にあたっては特に超臨界水反応場に適合した反応を探 索していくことが重要と考えられる。また、超臨界水の触媒機能と反応性の関係を分子レ ベルで明らかにすることが今後の課題である。 (ロ)材料プロセッシング技術の研究 ①熱可塑性高分子の超微細発泡成形技術の開発 (産総研超臨界流体 RC 集中研/環境調和技 2-100 術 RI/東北大) 連続式微小気泡挙動解析装置が完成すると、発泡挙動はもちろん、高分子と超臨界流体 との相互作用が明らかになると考えられ、世界有数の連続プロセスでの実験設備になる。 また、発泡挙動の可視化解析設備は、研究を開始した時点では世界初の実験設備であり、 今まで、発泡体を見て発泡状況を類推するしかなかったブラックボックスだった発泡挙動 が動画に記録できたことは、可視化研究においても画期的な成果である。微小気泡挙動解 析装置や発泡挙動の可視化解析で得られた成果を実プロセスに如何に展開できるかが実用 化までの課題となる。 ②無機/有機高分子複合材料の創製技術の開発(産総研超臨界流体 RC 集中研/高温高圧研) 有機高分子材料に新たな機能を付与する目的で、超臨界流体注入法を用いてナノメータ ーオーダーの金属や金属酸化物の微粒子を有機高分子に分散させるための操作条件を、数 種類の金属について明らかにした。目的とする機能に必要な微粒子分散層を形成するため の微粒子分散複合化技術として確立するためには、二酸化炭素、有機高分子材料、金属の 前駆体、補助溶媒(エントレーナ)の各成分間の相互作用に基づいた微粒子分散機構の解 明が必要である。 ③急速膨張法による無機材料の創製技術の開発(産総研超臨界流体 RC 集中研/高温高圧 研) 二酸化炭素を用いた超臨界急速膨張法による無機材料の製膜に関しては過去にほとんど 例がなく、原料であるアルコキシドの溶解性や製膜性、製膜プロセスについての基礎デー タが得られたことは、今後の研究開発、および実用化に有用である。特に溶解性などのデ ータは、急速膨張法だけでなく、超臨界流体を利用した技術全般に適用可能である。また、 超臨界急速膨張法によるパターニングという全く新規の応用が提示できたことは、材料の パターニングという極めて広範囲に適用可能な技術分野に新しい可能性を付加するものと 言える。実用化に向けては、材料の複合化、より微細なピッチでのパターニングのための 膜質、膜厚の制御、等が必要である。 ④超臨界水反応場を利用した無機微粒子の合成技術の開発(産総研超臨界流体RC) 超臨界状態を含む高温高圧反応場での無機材料の連続合成を検討するため、流通式高温 高圧合成装置を試作し、酸化アルミニウム系におけるプロセス変数と粒子特性との基本的 な関係を把握した。また、溶解平衡論から、原料溶液の被る温度履歴によって決まる溶解 度の変化が粒子特性を支配する因子のひとつであることを明確化できた。 他の微粒子合成手法と比較して、ひとつの装置を使いプロセス変数を変えることで、ミ クロンからナノサイズまでの粒子径の制御が可能となる。各金属の溶解平衡および反応速 度を知れば、原理的にはすべての金属酸化物に対して適用可能な汎用性の高い微粒子製造 技術である。 (ハ)エネルギー・物質変換技術の研究 ①超臨界水酸化反応によるエネルギー回収プロセスの開発 (a)反応工学モデルの開発(産総研超臨界流体 RC 集中研/東京大) 超臨界水への溶解を考慮せずに済む固形炭素の超臨界水酸化反応を直接観察し、その反 応への依存性を確認した。反応工学モデルの確立のためには超臨界水中への溶解が考えら 2-101 れる有機固形物の超臨界水酸化反応の依存性を調査することが必要であり、また高圧スラ リー供給等の他の要素技術との連携が必要であろう。反応工学モデル開発後においては、 褐炭などの低品位炭素からエネルギーを取り出す超臨界水中燃焼発電プロセスや焼却処理 に代わるクリーンな廃棄物処理プロセスにおけるプロセス設計の最適化への適用が期待さ れる。 (b)装置材料の選定(産総研超臨界流体 RC 集中研) これまでの結果に、超臨界水酸化条件の変化が材料の腐食挙動に極めて大きな影響を与 えていることが確認できている。本研究で構築した腐食試験装置の一つは流通式の管型試 験炉であることから、使用環境に類似したデータの取得が可能であり、従来の回分式での 腐食データとの違い等がどのように現れるか興味深い。 ②超臨界水中水素化反応等による未利用重質資源の軽質化・クリーン化に関する開発 (産総研超臨界流体 RC 集中研) (a)重質油転換プロセス 天然タール等の未利用重質油の埋蔵量は現在用いられている原油の数倍とも言われてい る。また原油自体も高イオウ化、重質化が進んでおり、石油製品は原油の品質により決定 される連産品であるため、今後は製品重油が供給過剰になり、逆に需要が高い中間留分(灯 油、軽油、ジェット燃料)の不足が懸念されている。これらのエネルギー事情から、今後 は未利用重質油や製品重油等の有効利用が必要不可欠とされている。しかしながら、これ らを有効利用するための対環境性に優れたプロセスは存在していないのが現状である。本 研究により、溶媒として水を用いるのみで重質油を 80%以上軽質化し、脱硫、脱金属出来 ることを確認した。また、ガス化反応においては 550℃においても水性ガス、水性ガスシ フト反応が起こることから水素製造プロセスの構築も示唆された。以上より、環境に対す る負荷を与えずに未利用重質油、製品重油から石油軽質製品を安定供給できるプロセスの 提示を行うことが可能となった。 (b)還元雰囲気下での材料腐食の評価 超臨界水還元性雰囲気を形成する超臨界流体技術としては、未利用資源の資源化、有機 物の合成が考えられる。具体的には、未利用重質油の有効利用、廃プラスチックの有効利 用、アルコール合成等が挙げられる。原料に Cl - ,S 2- 物質を含む場合、低 pH 環境および亜 臨界、高温環境においては材料腐食が懸念される。超臨界水還元性雰囲気における腐食速 度の把握および腐食形態の把握を行うことにより、これらの技術に適用可能な材料の提示 を行うことが可能である。 ③プラスチック廃棄物の化学リサイクルプロセスの開発 (a)変換反応技術(産総研超臨界流体 RC 集中研/東北大) ポリ塩化ビニルからの可塑剤回収、塩素の抽出が 100%達成され、ポリエンに変換でき た。流通式超臨界水反応装置を用いて、ポリエンを芳香族化合物に、ポリカーボネートを ビスフェノール A にできたことにより、一貫したプロセスでのプラスチックの化学リサイ クルの基礎的なデータが得られたが、反応条件を生成物の関係を定量的に評価することが 必要である。 (b)高圧供給系の構築(産総研超臨界流体 RC 集中研) プラスチック廃棄物を化学プロセスにより連続して処理するにあたり、水と共にスラリ 2-102 ー状で水の臨界圧力以上の圧力場へ連続かつ安定して供給する装置設計技術の確立は避け ては通れないものである。これまでに工業的に汎用性のある往復動ポンプにて超臨界反応 場へのスラリー供給の可能性の目処が立った。今後スラリーの比重、粒径をパラメータに する事や、ポンプ逆止弁部のクリアランスを変更する事による流量の変化や、配管抵抗の 変化、流速による沈降影響を確認し、汎用性の高いスラリー供給技術を確立する必要があ ると思われる。 また超臨界プロセス他でのスラリーの高圧供給手段としても期待が持てる。 (2)基礎基盤技術の開発 ①超臨界流体のミクロ溶媒特性の解明(産総研超臨界流体 RC/産総研環境調和技術 RI) 高感度の高圧 NMR 測定セルを開発したことによって超臨界二酸化炭素中で反応を加速す る極性物質などの存在形態などが明らかとなり、あるいは溶媒と基質の関係が明確になり、 有機合成プロセスの構築に寄与することが可能となる。また、超臨界水の酸・塩基触媒機 能の発現機構が明らかとなったことにより、超臨界水中での有機合成反応探索やプロセス 構築に指針を与える。 超臨界メタノールは、通常とは異なる高温・高圧条件であるとともに、反応物・活性化 剤・溶媒として、多様な役割を持つ流体である。超臨界メタノール中の有機合成反応にお けるメタノールの反応性に関する研究は検討された例が少なく、特に管壁の触媒効果につ いては明確な評価が皆無であった。石英高圧容器を用いて、これらの寄与を分離して解析 したことは、今後の反応の効率化や反応の最適条件を設定するのに有用である。 ②超臨界流体のマクロ特性の解析(産総研超臨界流体 RC 集中研/産総研環境調和技術 RI /東北大/九州大/近畿大/高温高圧研) 本研究で開発・導入した高圧熱量計は測定温度範囲が液体窒素温度∼500℃、圧力が 30MPa までの高圧で高分子材料の熱物性値を測定することが可能となった。本装置は世界 的に見ても他に例はなく、今後超臨界二酸化炭素を用いたプロセスの設計・開発に貢献で きる。 また、 超臨界二酸化炭素と高分子材料の相互作用に関するデータベースができれば、 高分子材料の製造プロセスに対して超臨界二酸化炭素の適用が可能であるか探索すること ができ、本プロジェクト以外の研究者に対しても有用な情報を与えることができる。 ③高圧ガス供給システムの安全技術(産総研超臨界流体 RC 集中研) 高温高圧での酸素の安全かつ経済的な供給システムが可能になれば、空気での供給シス テムに比べエネルギーの低減が計れる。また、超臨界条件下での高圧ガスの取り扱いに関 する設計基準が整い、公の機関での設計指針として認知されれば、超臨界条件下での高圧 ガス取り扱いにおける安全性と経済性の向上が図れ超臨界利用技術の促進に役立つ。 8.2.3 個別研究開発項目に関する成果 8.2.3.1. 成果概要一覧 表 8.2.3.1(1)(イ)、表 8.2.3.1(1)(ロ)、表 8.2.3.1(1)(ハ)、表 8.2.3.1(2)にまとめた。 8.2.3.2.個別研究開発項目のアロー図 添付資料2に示した。 2-103 表 8.2.3.1(1)(イ) 有機合成プロセス技術における目標と成果の概要 技術 最終目標 中間目標 ①超臨界二酸化炭素 ・様々な芳香族化合物、特にメチ 超臨界二酸化炭素中での水素化反応に 反応場を利用した水 レンジアニリンについて産業上有 有効な反応システムを開発する。 素化反応技術 用な高効率核水素化反応技術を開 ・アニリンの核水素化反応で転化率: 発する。核水素化反応では転化率 90%及び選択率 80% 95%、反応選択率:ジシクロヘキシ ルメタンジアミンの選択率:90%、 及びcis-cis 体選択率70%を目標と する。 ・不飽和アルコールの収率 80%、選 ・不飽和アルコールの収率 37%、選択率 択率 99% 93% 2-104 ②超臨界二酸化炭素 ・環状炭酸エステルの高効率合成 ・環状炭酸エステル合成 を基質とする有機合 技術の確立 固体触媒(流通系):転化率 25%、選 成技術 固体触媒(流通系):転化率 50%、 択率:80% 選択率:95% 錯体触媒:転化率 95%、選択率:95% 錯体触媒:転化率 99%、選択率: 99% ・ウレタン化合物の高効率合成技 術の確立 40℃及び 6 時間の 2-オキサゾリジ ノン合成で収率 90% ③超臨界メタノール 超臨界メタノールプロセスを開発 を利用した芳香族化 する。 合物合成技術 2,6-ジメチルナフタレンの合成反 応に関しては、高温のメチル化反 応に耐える、寿命の長い触媒系を 開発し、転化率 30%、全ジメチルナ フタレン中の 2,6-体比率 65%、2,6体/2,7-体の生成比 2.6 を目標とす る。 ・ウレタン化合物合成 40℃及び 12 時間の 2-オキサゾリジノ ン合成で収率 67% 超臨界メタノールによるゼオライト触 媒を利用した 2,6-ジメチルナフタレン の合成反応を実施する。神戸製鋼所・ モービルが共同で開発中のナフタレン を出発物質とする気相反応による 2,6-DMN 合成法のデータである、転化率 13%、全ジメチルナフタレン中の 2,6体比率 12%、2,6-体/2,7-体の生成比 1.4 を当面の具体的な目標とする。 これまでの主な成果 ・超臨界二酸化炭素中でのアニリンの核水素化反応に 関して、(C6H 6)2Ru2Cl 4―H2O 触媒系に水を添加すること によって本反応に有効なシステムを構築した。超臨界 二酸化炭素中での芳香族アミン化合物の核水素化反応 はこれまで例がない。現時点で得られた結果は転化 率:74%及びシクロヘキシルアミン収率 58%、シクロヘ キシルアミン選択率 78%であった。 ・シンナムアルデヒドから極性溶媒未使用で、転化率: 58%、選択率:98%及び収率:57%で不飽和アルコールを 合成した。Ru 触媒を用い、液―超臨界流体の2相系と なっていた。 ・環状炭酸エステル合成 固体触媒として希土類の酸化塩化物(SmOCl)が高い触 媒活性を有することを見いだした。流通系で転化率 20%、選択率:80% 均一系触媒としてフルオロアルキル基を有するホスホ ニウム塩が目的の反応に高い活性を有することを見い だした。転化率 95%、選択率:97% ・ウレタン化合物合成 脱水縮合剤を用いることで、 2-メチル-2-アルコールから 40 び12時間で 4-ルー2 −オキサゾリジノンを収率 91%で合成した。 超臨界メタノールによるゼオライト触媒を利用した 2,6-ジメチルナフタレンの合成反応を実施し、超臨界 反応に適した触媒選択に対する方向性と、反応温度・ 反応圧力の効果等の知見を得た。現時点での転化率 24%、全ジメチルナフタレン中の 2,6-体比率 37%、及 び 2,6-体/2,7-体の生成比 2.1 であった。 ④超臨界メタノール 様々な二官能性アミン化合物の N反応場を利用したメ アルキル化反応への一般化を図 チル化反応技術 り、産業上有用な多官能アルキル アミン化合物の製造技術を確立す る。300℃で転化率:100%及びワン パス反応でのジメチル化生成物の 収率 90%を目指す。 更に、副生物が生成しない高効率 な芳香族化合物のアルキル化反応 技術の確立を図る。想定プロセス は 300℃∼350℃で、メタノール収 支 100%、触媒寿命 200 時間以上、 転化率 100%及びワンパス反応での オルト位ジメチル化生成物の収率 65%を目指す。 2-105 固定床流通式反応装置を用いて 2-アミ ノエタノールの N,N-ジメチル化反応に おける反応条件の最適化検討する。 300℃で転化率:70%、メチル化生成物 の選択率 90%及びワンパス反応でのジ メチル化生成物の収率 40%を目指す。 メタクレゾールのオルト位ジメチル化 反応に有効な触媒探索の検討を行う。 350%℃で転化率:80%、オルト位メチル 化生成物の選択率 90%、ワンパス反応で のジメチル化生成物の収率 40%を目指 す。 固体酸塩基両機能性触媒(Cs-P-SiO2 )存在下に超臨界 メタノール中で 2-アミノエタノールを反応させた結 果、300℃で転化率 88%、モノメチル体とジメチル体の 合計選択率 94%及びワンパスでのジメチル化生成物収 率 35%であった。二官能性アミンの選択的 N-アルキル 化反応に関する当初の目標はほぼ達成したと言える。 一方メタクレゾールのオルトアルキル化反応に関し ては、鉄バナジウム系触媒存在下、超臨界メタノール を用いてメタクレゾール転化率 94%、モノメチル体と ジメチル体の合計選択率 98%及びメタノール収支 (97.4%)と触媒寿命の大幅な改善が見られた。この時ワ ンパスでのオルト位ジメチル化収率は 37%であった。 気相条件では触媒活性が経時的に劣化して、反応開始 後 7.5 時間経過後も劣化が進行し続ける一方で、超臨 界条件では、反応開始後 3 時間程度で安定化すること を見出した。 ⑤超臨界水反応場を 既存プロセス代替を想定した超臨 超臨界水反応場においてモデルとして 利用した水和反応技 界水を利用した水和反応技術を開 ヘキセンを用いたオレフィン水和反応 発する。 技術を検証する。また流通法によりプ 具体的にはプロピレンからイソプ ロピレンからイソプロパノールの転化 ロパノールの転化率 40%を目指す。 率 20%を目指す。そのための高圧ガス対 応の超臨界有機合成試験装置を作成す る。 超臨界水中でヘキセン水和反応を無触媒で達成し、主 生成物収率および副反応生成物収率の制御因子の把握 を行うことで技術蓄積ができた。 高圧ガス対応の超臨界有機合成試験装置の設計・開発 がやや遅れており、プロピレンからイソプロパノール の実験に着手したところである。バッチ式反応では収 率 10%が得られた。 ⑥超臨界水を反応場 探索した20例程度の有機合成反 超臨界水の酸・塩基触媒機能及び高 とする物質合成技術 応の内、有望なは反応について機 温・高圧反応場であるという特異特性 合成プロセスを構築し、基本特許 に適合する有機合成反応を探索し、そ を確立する。 の反応過程を5例程度解明する。超臨 界水中では反応が1秒以下の高速で進 展する場合があり、それに対応可能な 超臨界水有機合成反応に適した実験室 規模の反応装置を開発する。 5秒以下の短時間で所定の目標温度に昇温可能な流通 式超臨界水反応装置を開発した。これを用いて超臨界 水反応場を利用したモデル反応に適用し、無触媒下で 有機反応が 0.1 秒∼10 秒の短時間で進展することを確 認した。蛋白質からのアミノ酸への分解反応、アミノ 酸からペプチドへの反応、ピナコール転位反応、ベン ズアルデヒドの不均化反応、ラクタム合成等に成功し た。例えば、超臨界水によるピナコール転位反応、不 均化反応では、無触媒下でも、とりわけ臨界点付近で その反応性が特異的に増加することが確認できた。 表 8.2.3.1(1)(ロ) 材料プロセッシング技術における目標と成果の概要 技術 最終目標 中間目標 成果の概要 ①熱可塑性高分子の ・微細発泡体を得るための制御手 ・発泡径を制御するための因子を明ら ・連続式微小気泡挙動解析装置の構築。 超微細発泡成形技術 法および最適な成形加工プロセス かにし、ポリプロピレン製発泡シート ・発泡を微小化する基本因子(温度、減圧速度)を明 の開発 を明らかにし、ポリプロピレン製 の気泡径 10μm 程度を達成。 確化し、回分式で気泡径 10μm を達成。 発泡シートの気泡径 1∼10μm 程 ・CO2 と N2 の混合により発泡倍率を制御可能なことを 度、発泡倍率 5 倍を達成する。 確認。 ②無機/有機高分子複 ・微粒子の粒子径や分散状態と機 ・超臨界注入法による有機高分子材料 ・PMMA-Ti、PMMA-Ag の系について、注入される微粒子 合材料の創製技術の 能性との相関を明らかにし、機能 中の金属酸化物や金属の微粒子分散形 の平均径、分散密度、分散層の形成深さと操作因子(温 開発 性無機/有機高分子複合体の創製 態と操作因子(条件)との関係を明確 度、圧力等)の影響、およびエントレーナ効果を確認 の基盤技術を確立する。 化する。 した。 ・PMMA-Ag 系で、平均径 6nm、深さ約 1μm、体積充填 率 1%(重量含有率 8%)の Ag 粒子分散層の形成に成功。 2-106 ③急速膨張法による ・二酸化炭素を媒質とした超臨界 ・超臨界二酸化炭素/金属アルコキシ ・性状の異なる数種の金属アルコキシドの超臨界二酸 無機材料の創製技術 急速膨張法による材料創製の基盤 ド系における各種原料アルコキシドの 化炭素への溶解度を測定。それらの超臨界二酸化炭素 の開発 データを蓄積し、同手法を、パタ 適用性、および超臨界急速膨張法の基 急速膨張法による高速、厚膜製膜(0.1μm/min)に成 ーン化材料等を作製する技術とし 本特性の明確化と、パターニングの実 功。 て確立する。 証。 ・急速膨張法による製膜時の、噴射粒径や膜の付着、 固化過程を解明。 ・50μm ピッチのパターニングを実証。 ④超臨界水反応場を ・微粒子の粒子径や形態と機能性 ・金属酸化物微粒子の粒子径・分布・ ・流通式水熱合成装置において、粒子径、分布は原料 利用した無機微粒子 との相関を明らかにし、機能性無 形態と合成条件との関係を明確化し、 水溶液が超臨界場に到達するまでの溶解度変化に依 の合成技術の開発 機微粒子の創製の基盤技術を確立 微粒子生成機構の知見を得る。 存することを明らかにした。 する。 ・微粒子化により、触媒活性が向上することを確認。 表 8.2.3.1(1)(ハ) エネルギー・物質変換技術における目標と成果の概要 個別要素技術 ①超臨界水酸化反応 によるエネルギー回 収プロセスの開発 (a) 反応工学モデル の開発 (b)装置材料の選定 (a) 重質資源の軽質 化・クリーン化に関 する開発 (I) 重質油の転換プ ロセス (b) 還元雰囲気下で の材料評価 2-107 ③プラスチック廃棄 物の化学リサイクル プロセスの開発 (a)変換反応技術 (b) 高圧供給系の構 築 最終目標 ・超臨界水酸化プロセスの反応容 器の設計、解析に適用できる、反 応モデルと流動モデルを結合し たシミュレーションモデルの確 立。 中間目標 ・固形炭素の超臨界水酸化反応に対す る観測方法の構築。 ・反応速度と操作条件および環境条件 の関係を明らかにし、基礎的シミュレ ーションを行う。 成果の概要 ・in situ の反応場観測装置およびラマンを用いた流 動状態観測装置を構築した。 ・超臨界水中の酸化反応がガス境膜内拡散律速である ことを明らかにできた。・反応速度と操作条件および 環境条件の関係を明らかにし、基礎的シミュレーショ ンを行った。 ・超臨界水酸化雰囲気下で使用す ・硫黄を含有する有機固体の分解を想 ・超臨界水酸化条件の変化が材料の腐食挙動に極めて る反応器材料の選定・開発に利用 定した超臨界水酸化雰囲気での材料 大きな影響を与えていることを確認。 する。 腐食を把握する。 ・重質油転換反応の反応メカニズ ・ベンチスケールでの試験装置を設 ・重質油から、硫黄が 1000ppm 程度で重金属フリーの ムを解明する。このプロセスの設 計・製作する。 軽質油や軽質ガスを 80%以上の収率で得た。 計手法の開発と、経済的条件の把 ・重質油転換反応の反応挙動を把握す ・超臨界水の再重合抑制効果により副生成物であるコ 握及び格子となる要素技術を確 るとともにプロセスデータの取得を ークスの生成量を大幅に低減することができた。 立する。 行う。 ・未利用資源の有効利用を想定し ・超臨界水還元性雰囲気下において有 ・超臨界水還元性雰囲気下では Cr と Mo のバランスが た模擬環境下での腐食速度の把 望と考えられる材料を選定し、それら 良好なハステロイ C 系と MAT21 が好ましく、殆どの条 握、応力腐食割れ感受性および材 の腐食速度を把握し、腐食メカニズム 件において材料選定の目安である腐食速度1mm/y 以 料強度の把握を行い、装置材料の を解明する。 下を満足することが確認された。 選定および寿命評価を行う。 ・反応の最適化を行い、超臨界プ ・ポリ塩化ビニルからの可塑剤、塩素 ・苛性ソーダ溶液によりポリ塩化ビニルから 250℃で ロセスの反応容器の設計、解析に を2段階で除去し、ポリエンを得る条 可塑剤回収が、350℃で塩素除去が共に 100%できるこ 適用する。 件の確立。 とを確認した。 ・プラスチックを連続的に供給し ・流通式超臨界水反応装置を構築し、 ・ミクロ流通式超臨界水反応装置を用いて、ポリエン 超臨界反応での生成物を連続的 ポリエンおよびポリカーボネートの およびポリカーボネートを超臨界水中で反応させ、芳 に取り出す一貫した超臨界処理 有用物質変換に関する反応条件と生 香族化合物、ビスフェノール A に変換できることを確 法を確立する。 成物の関係を把握する。 認した。 ・スラリーの移送に適したポン ・往復動ポンプによるスラリー送液ポ ・水−プラスチック(プラスチック粒径分布 100∼250 プ、配管設計方法を確立し、粉砕 ンプを設計・製作し、水−プラスチッ μm)スラリーを、吐出圧力 35MPa で、スラリー濃度 されたプラスチック廃棄物を水 クスラリーの送液における昇圧範囲 33wt%までの供給が可能である事を確認した。 と共にスラリー状で超臨界反応 やスラリー濃度と吐出流量の関係や ・スラリー濃度 20wt%における容積効率が約 67%と大 場へ供給できるシステムを構築 容積効率変化を確認する。 幅に 50%を超える容積効率が確保できた。 する。 表 8.2.3.1(2) 基礎基盤技術における目標と成果の概要 技術 最終目標 中間目標 これまでの主な成果 ①超臨界流体のミク ・超臨界流体中のミクロ溶媒特性 ・測定セルの開発及び超臨界水の触媒 ・ 高感度の高圧NMR測定セルを開発した。 ロ溶媒特性の解明 の解明及びそのデータベース化 機能発現機構の解明 ・ FTIR in-situ 測定法により超臨界水の酸・塩基触 媒機能の発現機構を解明した ・高圧NMRin-situ 測定法により超臨界二酸化炭素 中の水等極性分子の存在形態を解明。 2-108 ・超臨界アルコールを用いた高選択的 ・ 超臨界アルコール中の有機合成反応において、ア 有機合成反応機構の解明のための手 ルコール自身が反応の活性種:ダイマーとして機能す 法の確立 る場合と金属触媒的な効果が必要な場合があり、各寄 与を分離して評価できた。 ②超臨界流体のマク ・超臨界流体プロセスに必要とな ・超臨界水系の高温高圧相平衡データ ・400℃程度まで測定できる装置を開発・データ蓄積 ロ特性の解析 るマクロ物性情報が提供できる の蓄積 した。 マクロ特性データベースの構築 ・二酸化炭素―高分子系の粘性、界面 ・高分子の膨潤度を精度良く測定できる手法を開発 張力、熱物性、膨潤度測定法の開発と データ蓄積 ・金属塩やアルコキシドの超臨界流体 中への溶解度測定のための手法を確 立 ③高圧酸素供給シス ・安全かつ経済的なシステム設計 ・高圧酸素雰囲気中で実験できる装置 テムの安全技術 を行うための設計指針を作成す の製作と発火試験によるデータ測定。 るとともに、公的な機関との連携 を視野に入れて、高圧酸素供給の 保安システム設計指針の策定 ・400℃以上の流通型溶解度測定装置を製作し、金属 塩の溶解度データ蓄積とともに溶液モデルによる推 算精度の定量化を行った ・高圧酸素供給装置と発火試験装置を設計・製作した. 材料試験は現在進行中である。 8.3 成果の意義 (1)超臨界流体プロセスの技術開発 (イ)有機合成プロセス技術の研究 中間評価時に設定された目標は、どのサブテーマについても、ほぼ達成されており、開 発期間終了時期までに最終目標が達成される可能性は十分にある。①超臨界二酸化炭素反 応場を利用した水素化反応技術では超臨界二酸化炭素中で不飽和アルコールの高収率の選 択的水素化合成技術の構築に成功している。②超臨界二酸化炭素を基質とする有機合成技 術では目的の反応に高い活性を示す固体触媒及び均質触媒を見出している。③超臨界メタ ノールを利用した芳香族化合物有機合成技術では 2,6-ジメチルナフタレンの合成反応を 実施し、チャンピオンデータである選択性及び収率の高いシステム構築に成功し、最終的 な実用化が期待できる。④超臨界メタノール反応場を利用したメチル化反応技術では触媒 存在下で 2-アミノエタノールのメチル化生成物が高収率で得られ、初めて直接メチル化反 応技術を構築している。⑤超臨界水反応場を利用した水和反応技術では超臨界水中でヘキ セン水和反応を無触媒で達成し、その反応条件を明確化した。⑥超臨界水を反応場とする 物質合成技術では短時間で所定の目標温度に昇温可能な流通式超臨界水反応装置を開発し、 無触媒下で有機反応が 0.1 秒∼60 秒の短時間で進展することを明らかにした。これらの得 られた知見から、本プロジェクトは研究終了時に超臨界二酸化炭素、超臨界メタノール及 び超臨界水等の反応場を活用した有機合成技術開発が行われ、事業として成功する可能性 は大であると考えられる。 (ロ)材料プロセッシング技術の研究 各年度で設定した目標は、どのサブテーマについても、概ね達成されており、開発期間 終了時期までに最終目標が達成される可能性は十分にある。 ①超臨界発泡成形加工技術は、 発泡を微小化する基本因子が明らかになりつつあり、微細な発泡セルの制御技術確立の見 通しは得られている。このほか、②無機/有機高分子複合体の創製技術は、高分子にナノオ ーダの微粒子を分散させることが可能な複合化手法として、操作因子を変化させた際の、 微粒子分散層の形成傾向を把握できた。また、③急速膨張法による無機材料の創製技術で は、ノズルから噴射されて基板に付着する粒子の粒径や、その固化過程に関するデータが 得られ、本法の基本特性が明確になってきている。さらに、④超臨界水反応場を利用した 微粒子合成では、微粒子の特性を支配する操作因子が明らかになりつつある。これらの知 見から、機能発現に必要な気泡や微粒子のサイズや分散状態、薄膜組織などの構造制御が 可能な材料プロセスとしての基盤技術の確立が期待できる。 従って、本プロジェクトは研究期間終了時に超臨界流体を用いた材料プロセスの体系化 による共通基盤技術の確立が図られ、事業として成功する可能性は高いと考えられる。 (ハ)エネルギー・物質変換技術の研究 評価時までの目標は概ね達成されており、開発期間終了時期までに最終目標が達成され る可能性は十分にある。①超臨界酸化プロセスについては、有機固体の燃焼の詳細な検討 から精度の高い反応モデルの構築が可能になった。また、②未利用資源の軽質化では、超 臨界水中での反応挙動の解明が進みつつあり、今後のプロセス特性の把握と相まって、プ 2-109 ロセスの総合評価への展開が期待できる。また、装置材料に関しては、超臨界水還元性雰 囲気下においては、ハステロイ C 系、MAT21 が好ましいことや SUS316 で適用可能な条件を 提示し、材料選定の指針を示すことができた。さらに、③プラスチック廃棄物のリサイク ル技術では、プラスチックを処理する場合の障害である可塑剤と塩素を除去することがで きるとともに、プラスチックを水スラリーとして送液できるシステムの見通しがついた。 本プロジェクトは、その研究期間終了時に超臨界流体を用いたエネルギー・物質変換技術 に係わる技術要素が工学基盤技術として確立され、事業としては成功する可能性が高いと 考えられる。 (2)基礎基盤技術の開発 中間評価時に設定された目標は、どのサブテーマについても、概ね達成されており、開 発期間終了時期までに最終目標が達成される可能性は十分にある。①超臨界流体のミクロ 溶媒特性の解明では FTIR in-situ 測定法により超臨界水の酸・塩基触媒機能の発現機構 を解明するなどミクロ特性のデータが得られている。また実績のある研究者がセル・装置 設計を行っており、上記のような世界でも先駆的なデータが蓄積されている。②超臨界流 体のマクロ特性の解析では有機系ならびに無機系ともに,各種独自装置が開発・製作され て、測定法も確立されている。また、データベース構築のための測定データの測定、解析 及び蓄積が進展し、推算法開発も着実に成果があがっている。③高圧ガス供給システムの 安全技術では内外の高圧酸素供給技術について安全技術調査を実施し、法規・基準ならび に安全技術に対する報告書を作成し、 高圧酸素供給装置と発火試験装置を設計・製作した。 この様にミクロ特性及びマクロ特性のデータの測定法・装置の開発は順調に進展し、デ ータの測定・解析も行われつつあり、研究終了時にはデータベースの構築も完成でき、超 臨界流体利用技術のプロセス開発を促進することが期待できる。 9.情勢変化への対応 現時点では急激な情勢変化は無い。従って当初の基本計画通りに進めているが、今後、 本研究開発が進展し、今後最終着地点における想定される応用化/実用化レベルでの検討が 始まると、データ構築の拡充検討が重要と考えられる。この段階では、シミュレーション やケーススタデイを通して効率的な装置設計の検討が考えられる。 超臨界流体を用いたプロセス設計・装置設計に当たり操作条件は従来のデータや知見の 延長線では対応できない面もあり、本研究開発をよりー層推進するためには次のような共 通技術基盤の構築も必要となる。 ①超臨界流体中での対象物質の反応特性をはじめとする平衡・輸送物性の系統的蓄積 ②高温高圧領域での操作を伴う相変化や相挙動の正確な把握と予測 ③装置材料に要求される強度や耐腐食性把握 ④原料供給等の超臨界流体特有の操作技術把握 上述したように超臨界流体利用技術において使用する超臨界流体としては二酸化炭素や水 に絞られつつあるものの、対象物質は種々多様であり、これらの組み合わせは膨大なもの となる。そのためには今後研究の進展を見ながら次のような課題を視野に入れた展開が必 要となるであろう。 2-110 ① 信頼性の高い測定法確立やデータベース構築 ② 超臨界流体相変化・相挙動のシミュレーション方法の確立 ③ 超臨界流体中での反応特性データの構築 ④ 装置材料選定法確立 ⑤ 超臨界流体の利点を引き出すプロセス・システムの構築 これらを実現するための各研究課題の拡充や各研究課題間のよりー層の緊密な相互理解や 連携、及び研究運用体制の補強・強化(基盤技術構築推進委員会等の新設)も十分視野に 入れた柔軟な展開を考慮しながら本研究プロジェクトを推進する必要がある。 10.今後の事業の方向性 本プロジェクトが目指す方向性としては、プロセスの実用化に繋がる超臨界流体基盤技 術の構築が重要であると考えられる。即ち、超臨界流体の基礎溶媒物性の検討(ミクロ・ マクロ溶媒物性、反応場の相状態等)、反応特性の検討(反応機構、溶媒効果、触媒作用 機構の検討等)等の科学的特性の解明と連携を取りつつ、反応速度、流動、相平衡、腐食 などの工学的に必要な現象の基礎的な基盤研究、プロセスへの応用を意識した供給、 反応、 分離、材料などの工学的な基盤的研究を進めて、その蓄積を図る。さらに、必要があれば 想定プロセス試験を行い、プロセスの最適化の評価、さらにシステム設計手法、シミュレ ーション手法等についての検討を実施していく。一方、物性データベース構築、高温高圧 単位操作技術開発、 装置材料開発・評価等の工学的基盤に関する総合的な知識と経験の集積 により知的基盤化し、プロジェクト後の企業化を目指した応用研究開発の促進を図る。さ らに研究結果の蓄積を利用して、安全基準の策定や設計手法の標準化を進め、公共財とし ての利用に資する。 超臨界流体利用による高効率で簡素な化学プロセスの構築と基盤技術開発等の本プロジ ェクトの成果は、化学物質総合管理や革新的温暖化対策技術等プログラムの構築に資する ことが期待される。特に、環境・エネルギー分野、電子・情報システム関連分野、食品分 野、医学分野等広範囲な新規産業の創出や産業の活性化、当該技術分野での国際競争力強 化、持続可能な社会システムの構築等に大きく貢献できる。 即ち、得られた成果の内、実用化と実現性が高く評価された提案プロセスについては、 企業内開発あるいは 実用化補助や地域コンソーシアムへの提案による大型プロセス装置/ プラントによる確証/実証試験、及び知的基盤整備への貢献・参画が期待できる。 本プロジェクトの今後の方向性としては、図 10.1 に示す展開イメージを視野に入れた研 究を推進していく。 2-111 超臨界流体プロジェクトの成果の展開イメージ 社会システム<例> 異種産業分野<例> セラミックス・金属材料分野 ○低温・短時間での新規 材料開発 電子材料分野 Sustainable Society 自動車分野 ○半導体の高性 能化に伴う洗浄技 術 の 革 新 ○ディーゼルエンジ ンの不完全燃焼の 解 決 ( ※ ) 拠点集積・生産型から分散・再利用型への転換 分別しない廃棄物 化学産業分野 (※)燃料を粒度を持った霧状で 噴霧燃焼させるため、燃料の中 心部が不燃となる現象 新領域の開発 有用原料へリサイクル CO2 (環境機能流体 として再利用) 超臨界水利用技術 温度管理 熱回収 2 -112 残渣は最終的に焼却 有機合成プロセス 材料プロセッシング エネルギー・物質変換 個人の家庭レベルまでの応用展開 基盤技術を活用 したインターフェー ス技術の開発 基盤技術を複合 化したシステム技術 の開発 個人で発生させた廃棄物について超臨界処理装置により 原料化、電力としてのエネルギー回収等、ソーラーシステ ムのように活用、再生可能エネルギー 実用化 超臨界流体プロジェクトの成果 図 10.1 第3章 評 価 第4章 評点法による評点結果 第4章 評点法による評点結果 「超臨界流体利用環境負荷低減技術研究開発」に係る中間評価の実施に併せて、 下記に基づき、本分科会委員による「評点法による評価」を実施した。 1.経緯 (1)評点法の試行 通商産業省(当時)において、平成 11 年度に実施されたプロジェクトの 評価(39 件)を対象に、評点法を試行的に実施した。その結果を産業技術 審議会評価部会に諮ったところ、以下の判断がなされた。 数値の提示は評価結果の全体的傾向の把握に有効 評価者が異なっていてもプロジェクト間の相対的評価がある程度可 能 (2)評点法の実施 平成 12 年 5 月の通商産業省技術評価指針改訂にて「必要に応じ、評点 法の活用による評価の定量化を行うこととする」旨規定された。 以降、プロジェクトの中間・事後評価において、定性的な評価に加え各 評価委員の概括的な判断に基づく評点法が実施されており、NEDO におい ても平成13年度のプロジェクト評価開始以来、評点法を実施してきた。 (当初は 1,3,5 の3段階評価) 2.評点法の目的 評価結果を分かりやすく提示すること プロジェクト間の相対評価がある程度可能となるようにすること 3.評点の利用 評価書を取りまとめる際の議論の参考 評価書を補足する資料 分野別評価、制度評価の実施において活用 4.評点方法 (1)評点の付け方 各評価項目について4段階(A、B、C、D)で評価する。 (2)評点法実施のタイミング 第 1 回分科会において、各委員へ評価コメント票とともに上記(1)の点 数の記入を依頼する。 評価書(案)を審議する前に、評点結果を委員に提示、議論の際の参考 に供する。 4-1 上記審議を行った分科会終了後、当該分科会での議論等を踏まえた評点 の修正を依頼する。 評価書(案)の確定に合わせて、評点の確定を行う。 (3)評点結果の開示 評点法による評点結果を開示するが、個々の委員記入の結果(素点)に ついては、「参考」として公表(匿名)する。 評点法による評価結果の開示については、あくまでも補助的な評価であ ることを踏まえ、数字のみが一人歩きすることのないように慎重に対応 する。 具体的には、図表による結果の掲示等、評価の全体的な傾向がわかるよ うな形式をとることとする。 4-2 5.評点結果 1.事業の目的・政策的位置付け 2.7 2.研究開発マネジメント 2.0 3.研究開発成果 1.9 4.実用化・事業化の見通し 1.1 0.0 1.0 2.0 3.0 平均値 評価項目 平均値 素点(注) 1.事業の目的・政策的位置付けについて 2.7 A A B B A A A 2.研究開発マネジメントについて 2.0 B B B B B B B 3.研究開発成果について 1.9 C A C B B B B 4.実用化・事業化の見通しについて 1.1 C C B C C C C (注)A=3,B=2,C=1,D=0として数値に換算。 4-3 (別紙) 評点法 【記入方法、結果取扱いについて】 ・各委員からは、各項目について、A、B、C、Dのいずれかを記入してくだ さい。 ・各委員記入の結果(素点)は、「参考」として公表(匿名)いたします。 (1)事業の目的・政策的位置付けについて <判定基準> ・非常に重要 →A ・重要 →B ・概ね妥当 →C ・妥当性がない又は失われた →D A B C D (2)研究開発マネジメントについて <判定基準> ・非常によい ・よい ・概ね適切 ・適切とはいえない A B C D A B C D A B C D (3)研究開発成果について <判定基準> ・非常によい ・よい ・概ね妥当 ・妥当とはいえない →A →B →C →D →A →B →C →D (4)実用化、事業化の見通しについて <判定基準> ・明確に実現可能なプランあり →A ・実現可能なプランあり →B ・概ね実現可能なプランあり →C ・見通しが不明 →D 以 4-4 上 参考資料1 本資料は、第1回「超臨界流体利用環境負荷低減技術研究開発」(中間評価)分 科会において、プロジェクト実施者がプロジェクトの概要を説明する際に使用した ものである。 NEDOプロジェクト NEDOプロジェクト -超臨界流体利用環境負荷低減技術研究開発 超臨界流体利用環境負荷低減技術研究開発-の概要 1 1. 国の関与の必要性・制度への適合性 2 参考資料1-1 1.1 国が関与することの意義 1.1 国が関与することの意義 エネルギー・ 環境問題の解決 エネルギー・ 環境問題の解決 国際貢献 省資源・省エネルギー・ 省資源・省エネルギー・ 環境負荷低減技術の実現 環境負荷低減技術の実現 熾烈な世界的競争 産業競争力強化 持続的産業創生 超臨界流体共通基盤技術 国の関与無し 10年以上の遅れ 10 年以上の遅れ 超臨界流体 産学官連携による プロセス開発と工学基盤の構築 集中的・効率的推進 3 2. 事業の背景・目的・位置付け 4 参考資料1-2 2.1.1 背景 社会的背景:地球環境保全の観点から 産業技術の抜本的対策の必要性 化学産業分野の重要課題 省エネルギー 省エネルギー 省資源 省資源 低環境負荷型 低環境負荷型 化学プロセス 化学プロセス エネルギー・ 有機溶媒多消費型 化学プロセス 超臨界流体利用技術による化学プロセスの革新 5 2.1.1 背景 プロジェクトの立ち上げ経緯 超臨界流体を利用した化学プロセス技術 平成7年度、8年度 に関する調査研究 (財団法人 地球環境産業技術研究機構) 超臨界流体利用先導研究開発 平成9年度∼平成11年 (財団法人 化学技術戦略推進機構) 度 産業技術審議会地球環境部会企画システム委員会 基本計画制定 平成11年10月 平成11年12月 (通商産業省工業技術院) 実施者選定 ・公募 ・契約審査委員会 平成12年 5月 8日 平成12年 7月 4日 (NEDO) 委託契約締結 平成12年 8月12日 (財団法人 化学技術戦略推進機構) 6 6 参考資料1-3 2.1.2 事業の目的 先導研究開発 ・加溶媒反応…PETの分解、 カーボネートの類の合成 ・酸化反応 …未利用資源の燃焼 ・水素化反応…重質油の軽質化 幾つかの注目すべき成果と工業化への課題 最適な装置設計手法の確立 共通基盤技術確立型プロジェクト 「共通基盤技術とは?」 将来的に幅広い産業分野で 利用が期待できる技術につき、 体系的に技術開発、データ蓄積、 知的基盤、標準化等 の整備を行い、 育成すべき技術 超臨界流体利用プロセスの開発を通して 共通基盤技術を体系化し、 幅広い産業分野に使えるツールとして提供 7 2.1.3 本事業の意義 2.1.3 本事業の意義 エネルギー・ 環境問題の解決 エネルギー・ 環境問題の解決 国際貢献 熾烈な世界的競争 省資源・省エネルギー・ 省資源・省エネルギー・ 環境負荷低減技術の実現 環境負荷低減技術の実現 超臨界流体共通基盤技術 超臨界流体 プロセス開発と工学基盤の構築 参考資料1-4 産業競争力強化 持続的産業創生 戦略的重要課題 8 2.2 事業の位置付け 2.2 事業の位置付け 産業技術戦略:平成12年4月 省資源、省エネルギー、環境負荷低減 省資源、省エネルギー、環境負荷低減 総合的戦略(シーズ技術領域) ・科学と技術の有機的連携メカニズムの構築 ・技術の学問的体系化(基礎研究の促進、技術の高度化の継続) 化学プロセス分野の目標 ・化学技術自身を環境調和型 のものとする技術体系の構築 ・目的物質をより高純度 で正確に製造する技術 ・複雑な物質をより単純なプロセス で精密 に合成する技術 ・目的とする機能 を有する化学物質や素材を 精密かつ迅速 に予測し、設計する技術 ・合成、触媒技術の高効率、高選択性 ・合成、触媒技術の高効率、高選択性 ・超臨界反応場技術の基盤技術の整備と実用化 ・超臨界反応場技術の基盤技術の整備と実用化 9 ・光・レーザー反応場技術の目的基礎研究の着手と促進 ・光・レーザー反応場技術の目的基礎研究の着手と促進 2.2 事業の位置付け 2.2 事業の位置付け 産業技術戦略:平成12年4月 第3章 重点的・効果的な研究開発の推進 4.社会的ニーズに基づく目標と重要技術課題 大目標3:「環境と調和した経済社会システムの構築」 中目標3−1:「資源の有効利用と廃棄物の減量化 をしつつ資源循環を図る経済社会の実現」 中目標3−3:「地球温暖化を抑制する経済社会の実現」 中目標3−2:「化学物質のリスクを極小化・管理する経済社会の実現」 (4)3つの中目標の達成に共通的な技術課題 ⑪資源・エネルギー投入及び廃棄物・有害化学物質の排出の 最小化を図るためのシステムの抜本的改革 10 参考資料1-5 2.3 基本計画 2.3 基本計画 有機合成プロセス技術 1)有機溶媒を使用しない化学品の 高選択・高収率・高速な合成反応、 重合反応の反応機構を解明する 2)化学合成プロセス構築に必要な工学 基盤技術の開発を行う 材料プロセッシング技術 エネルギー・物質変換技術 1)微粒子、薄膜等の機能性材料創製時 の機能発現機構を解明する 2)超臨界流体を用いた高分子加工プロセ スにおける可塑化機構等の解明を行う 3)これらのプロセス構築に必要な工学 基盤技術を開発する 超臨界流体による廃棄物、未利用資源、 難分解性物質の工業原料への変換を 目指し以下を行う 1)反応機構解明 2)エネルギー回収プロセスの構築 3)これらに必要な工学基盤技術の確立 想定プロセス試験の実施・プロセスの最適化 ・反応系内の直接観察、シミュレーション 設計 運転 評価 管理 による超臨界流体のプロセスの理解 ・高温高圧単位操作技術開発 供給 反応 分離 材料 ・装置材料の開発と評価 ・プロセス設計手法、シミュレー ション手法の確立 ・物性データベースの構築 8 工 学 基 盤 基 礎 基 盤(基礎基盤技術の開発) 溶媒物性 反応特性 ・ミクロ・マクロ溶媒物性 ・反応場の相状態 ・分子シミュレーション ・反応機構・ダイナミクス ・超臨界溶媒効果 ・触媒作用 探索・調査研究 ・新反応探索 ・新プロセス探索 ・調査研究・情報収集 共 通 基 盤 技 術 超臨界流体利用環境負荷低減技術研究開発 図2.3 基本計画構成と個別要素技術間連携 11 3. 事業の目標 12 参考資料1-6 3.1.1 研究開発全体目標 エネルギー及び有機溶媒 多消費型 化学プロセス 省資源・省エネルギー・ 環境調和型 化学プロセス 超臨界流体 を利用した 高効率な化学プロセスの構築 と その基盤となる技術を開発する。 13 3.1.2 全体目標の妥当性・設定理由・根拠 1 3.1.2 全体目標の妥当性・設定理由・根拠 1 産業技術 未踏領域 高速変換 高収率 高選択性 の実現 触媒 触媒 気体場 気体場 無制御な高速変換 無制御な高速変換 温度・圧力 温度・圧力 +触媒 +触媒 超臨界流体場 超臨界流体場 制御された高速変換 制御された高速変換 触媒 触媒 液体場 液体場 制御された 制御された低速変換 低速変換 14 参考資料1-7 3.1.2 全体目標の妥当性・設定理由・根拠 2 3.1.2 全体目標の妥当性・設定理由・根拠 2 20世紀型文明 21世紀型文明 ・大量生産 ・大量消費 ・大量廃棄 ・自然との調和を内包する 持続的発展可能な社会 超臨界流体 共通基盤技術 資源・エネルギー投入 資源・エネルギー投入 及び廃棄物・有害化学物質の排出 及び廃棄物・有害化学物質の排出 の最小化 の最小化 普遍性・波及性の高い 普遍性・波及性の高い 環境負荷低減技術の実現 環境負荷低減技術の実現 工程の簡略化 生産性の向上 有機溶媒・薬剤の削減 超臨界流体の特性利用による 高速変換 高収率 高選択性の実現 高機能・環境溶媒である水、CO2の利用 廃棄物・未利用資源の資源化 15 3.1.2 全体目標の妥当性・設定理由・根拠 3.1.2 全体目標の妥当性・設定理由・根拠((補足説明) 超臨界流体 凝集力 拡散力 凝集力 拡散力 高速性 拡散力 固体 3重点 固液平衡 圧力 凝集力 制御性 臨界点 液体 ● 平衡 気液 ● 凝集力=拡散力 気体 平衡 気固 臨界点光散乱現象 凝集力 拡散力 温度 凝集力 :分子間相互作用、密度(圧力)の関数 拡散力 :分子の熱運動、温度の関数 参考資料1-8 溶解力等の溶媒特性 16 分子の動き易さ 16 3.1.2 全体目標の妥当性・設定理由・根拠(補足説明) 3.1.2 全体目標の妥当性・設定理由・根拠(補足説明) 高圧操作とエネルギー消費 歴史的経緯 プロセスパラメーターとしての温度と圧力 温度 太古(火の利用)以降 高温現象の日常的利用 圧力 産業革命以降 高圧現象の利用 蒸気機関、アンモニア合成、冷凍機、 高圧法ポリエチレン(200MPa)… 加圧の必然性 気体 加圧の必然性 気体 例外:高圧晶析, 400MPa 高圧プロセス 高圧発生のエネルギー投入 先入観 高圧操作はエネルギー多消費型 先入観 高圧操作はエネルギー多消費型 17 3.1.2 全体目標の妥当性・設定理由・根拠(補足説明) 3.1.2 全体目標の妥当性・設定理由・根拠(補足説明) 超臨界流体における高圧操作の省エネルギー性 500℃ 0.1MPa 1kg 大気圧 過熱蒸気 0 kJ 3,49 20℃, 0.1MPa 1kg 原料 常温、常圧 の水 -1,170kJ 2,320 kJ 500℃ 100MPa 1kg 超臨界流体 参考資料1-9 18 3.2 研究開発項目毎の目標、妥当性、根拠等 (1)超臨界流体プロセスの技術開発 (ィ)有機合成プロセス技術の研究(WG1) :有機溶媒、薬剤の削減 :有機溶媒、薬剤の削減 :制御された高速反応の実現 :制御された高速反応の実現 :活性中間体、誘電率、イオン積等の制御 :活性中間体、誘電率、イオン積等の制御 :触媒被毒物質の除去、反応基質濃度の増加 :触媒被毒物質の除去、反応基質濃度の増加 :物質移動律速の改善、反応熱の除去促進 :物質移動律速の改善、反応熱の除去促進 :分離の容易化、成分相間移動の制御 :分離の容易化、成分相間移動の制御 :未知反応の発見 :未知反応の発見 :新規触媒の発見の可能性大 :新規触媒の発見の可能性大 代替 溶媒 有機 触媒 制御 超臨界二酸化炭素利用技術 水素化 反応技術、CO 2 資源化技術 21世紀を担う先端化学技術の創製 21世紀を担う先端化学技術の創製 超臨界メタノール利用技術 超臨界水利用技術 メチル化反応技術、立体選択合成 水和反応技術、反応探索 高温高圧制御 19 3.2 研究開発項目毎の目標、妥当性、根拠等 (1)超臨界流体プロセスの技術開発 (ロ)材料プロセッシング技術の研究(WG2) 微細発泡成形技術 無機/有機複合化技術 マイクロセラー連続成型技術 高分子表面層改質技術 可塑化・膨潤制御 有機溶媒代替 相変化速度の制御 :過飽和度の可制御性 :過飽和度の可制御性 :核発生、成長、結晶化速度の制御 :核発生、成長、結晶化速度の制御 :高粘性相の低温可塑化 :高粘性相の低温可塑化 :相分離構造の制御 :相分離構造の制御 :移動速度の促進 :移動速度の促進 :新規な晶析場、構造形成場 :新規な晶析場、構造形成場 21世紀を担う先端材料プロセス技術の創製 21世紀を担う先端材料プロセス技術の創製 過飽和度の制御 製膜技術 微粒子連続合成技術 μmパターン薄膜技術 粒径・分布・組成制御技術 20 20 参考資料1-10 3.2 研究開発項目毎の目標、妥当性、根拠等 (1)超臨界流体プロセスの技術開発 (ハ)エネルギー・物質変換技術の研究(WG3) 有機 超臨界水酸化反応技術 溶媒 代替 反応器モデル、酸化材料腐食 重質資源の軽質化・クリーン化技術 :制御された高速反応の実現 :制御された高速反応の実現 :加水分解、水性ガス反応、水性ガスシフト反応等の利用 :加水分解、水性ガス反応、水性ガスシフト反応等の利用 :均相反応の実現、成分分離の容易化 :均相反応の実現、成分分離の容易化 :物質移動律速の改善、反応熱の除去促進 :物質移動律速の改善、反応熱の除去促進 :新規な反応場 :新規な反応場 反応制御 高温高圧制御 脱硫、脱重金属、還元材料腐食 21世紀を担うエネルギー・物質変換技術の創製 21世紀を担うエネルギー・物質変換技術の創製 プラスチックの化学リサイクル技術 脱塩素、脱添加剤、有価生成物回収、固体供給技術 21 21 3.2 研究開発項目毎の目標、妥当性、根拠等 (2)基礎基盤技術の開発 (2)基礎基盤技術の開発(WG4) ミクロ溶媒特性 マクロ特性 溶媒構造・溶媒中の反応経路の解明 in-situ 測定技術の高度化、セル開発 相平衡・輸送物性・熱物性等の解析 測定装置の作成、推算法開発 ミクロ構造 ミクロ構造 分子の電荷分布、立体配置,分子の空間配座,分子周りの配位 分子の電荷分布、立体配置,分子の空間配座,分子周りの配位 マクロ特性 マクロ特性 平衡: 状態量データ( 状態方程式) 、相平衡、反応平衡、表面張力、誘電率 平衡: 状態量データ( 状態方程式) 、相平衡、反応平衡、表面張力、誘電率 変化: 物質・熱・運動量移動、相変化速度、反応速度,粘度、拡散係数、熱伝導率 変化:物質・熱・運動量移動、相変化速度、反応速度,粘度、拡散係数、熱伝導率 構造: 配向構造、表面・ 界面構造、三次元構造 構造: 配向構造、表面・ 界面構造、三次元構造 保安技術 保安技術 材料選定指針:腐食、強度データ 材料選定指針:腐食、強度データ 高圧ガス保安技術:高圧酸素保安基準、超臨界水、超臨界CO2の保安基準 高圧ガス保安技術:高圧酸素保安基準、超臨界水、超臨界CO2の保安基準 超臨界流体物性データベースの整備 超臨界流体物性データベースの整備 高圧ガス安全技術 保安システム設計指針の策定,高圧酸素試験装置・発火温度測定 22 22 参考資料1-11 4. 事業の計画内容 (1)研究開発計画 (2)研究開発実施主体の体制 23 4.1.1全体事業計画の概要 4.1.1 全体事業計画の概要 実用化 超臨界流体プロセスの技術開発 要素技術 実用化を目指した (WG1,WG2,WG3) 個別テーマの開発 工 学 基 盤 プロセスシミュレーション プロセス設計法 単位操作・反応器等 装置設計法 触媒設計指針 装置材料選定指針 実験・生産技術の融合 基 礎 基 盤 溶媒特性の 測定・推算手法 現象の 発見 化学・物理現象の 予測モデル 安全 指針・規格 共 通 基 盤 技 術 国内外の技術調査 ミクロ・マクロ特性・反応機構 データ・情報収集 の解明と安全指針の確立 (WG4) 24 基礎基盤技術の開発 調査研究 基礎基盤技術の開発 調査研究 参考資料1-12 4.1.2 研究開発項目の計画概要1 4.1.2 研究開発項目の計画概要1 超臨界流体利用技術の特異性 超臨界流体場 設定 解除 昇温 降温 昇圧 降圧 混合 分離 超臨界流体特性 (操作変数への依存性) 最大限の利用 SCF場の 設定・解除過程 と 各種単位操作の融合 全操作が有機的に融合した結果としての現象の発現 システム化された(生産工程を模擬できる)実験装置・手法の重要性 実験技術と生産技術を融合した 共通基盤技術 25 4.1.2 研究開発項目の計画概要2 4.1.2 研究開発項目の計画概要2 共通基盤技術 実用化 プロセス主変数 温度 圧力 濃度 触媒 共溶媒 超臨界流体の 特性の制御 平衡制御 速度制御 構造制御 装置形式 操作方式 要素技術 プロセス助変数 工学基盤(場の設定) 基礎基盤 (場の理解) 収量 収率 品質 エネルギー 消費量 コスト 目標 達成の判断 最適操作条件の探索 26 参考資料1-13 4.1.2 全体スケジュール及び予算の推移 4.1.2 全体スケジュール及び予算の推移 項目 年度 プロセス開発 12 13 実験装置の 設計・製作 14 16 実用化の見極め 中間評価 触媒の探索 装置改良 新規な手法・装置提案 現象の発見 新規触媒の調整 共通基盤技術 の構築 触媒設計法 プロセスシミュレーターの構築 要素モデルの構築 装置設計法の確立 基礎基盤 年度別予算 実用化 反応の探索 物性推算法 関連物性データの測定と収集 調査研究 事項 データの取得と解析 最適条件の探索 工学基盤 15 データベース構築 腐食データの測定と収集 高圧ガス関連法規の調査 高圧酸素保安データの採取 985 1,300 1,300(予定) 安全評価指針 27 27 4.3 研究開発実施主体の体制 本研究開発では、共同研究に参画する産・学・官の各研 究グル−プの有する研究ポテンシャルの最大限の活用によ り効率的な研究開発の促進を図るとの観点から、研究開発 責任者の下に、産・学・官の研究者を結集して集中的に研 究開発を実施する方式(集中管理方式)を採用する。 また、必要に応じて研究開発実施体制の見直しを行う。 28 参考資料1-14 4.3.1 研究開発者実施者の事業体制 4.3.1 研究開発者実施者の事業体制 経済産業省 産業技術環境局研究開発課 製造産業局化学課 補助金 研究開発費 新エネルギー・産業技術総合開発機構 新材料・プロセス技術開発室 委託 共同研究 産業技術総合研究所 超臨界流体研究センター 環境調和型研究部門 物質プロセス研究部門 九州大学 集中研究体 (財)化学技術戦略推進機構 参加:8企業 1団体 東京大学 東京工業大学 東北大学 共同研究:産総研、4大学 静岡大学 再委託:2大学 近畿大学 共同研究 再委託 29 29 4.3.1 研究開発者実施者の事業体制 研究開発実施機関 有機合成プロセス技術 ・産業技術総合研究所 ・東京工業大学 ・静岡大学 ・(財)化学技術戦略推進機構 エネルギー・物質変換技術 ・産業技術総合研究所 ・東京大学 ・東北大学 ・(財)化学技術戦略推進機構 出向 日本触媒、三井化学、 新日鐵化学 出向 東芝、三菱マテリアル、日機装 材料プロセッシング技術 ・産業技術総合研究所 ・(財)化学技術戦略推進機構 出向 日本製鋼所、 高温・高圧流体技術研究所 基礎基盤技術 ・産業技術総合研究所 ・九州大学(再委託) ・近畿大学(再委託) ・(財)化学技術戦略推進機構 出向 日本酸素 参考資料1-15 30 30 4.3.2 研究開発実施者の運営 4.3.2 研究開発実施者の運営 4.3.3 研究開発実施者間の連携について 4.3.3 研究開発実施者間の連携について 経済産業省(産業技術環境局研究開発課、製造産業局化学課) 新エネルギー・産業技術総合開発機構(新材料・プロセス技術開発室) 業務委員会 (財)化学技術戦略推進機構 超臨界流体利用技術集中研究体 総合調査研究委員会 参加企業研究統括責任者 JCCII事務局 新井 邦夫 委員長 有機合成プロセス 分科会 材料プロセッシング 分科会 エネルギー・物質 変換分科会 基礎基盤 分科会 碇屋隆雄委員長 猪股宏委員長 幸田清一郎委員長 荒井康彦委員長 WG推進体 図4.3.2 WGリーダー 生島豊、林拓道、斎藤功夫 横断的な運営による 実施者間の連携、 効率的な研究推進31 4.3.4 関連情報の収集、周知について 4.3.4 関連情報の収集、周知について 本分野関連の学会、シンポジュームの発表、参加 及び論文発表の推進 海外技術調査の実施 ワークショップ、国際シンポジュームの開催による 本プロジェクト成果の公表 32 参考資料1-16 31 5. 実用化、事業化の見通し (1)成果の実用化可能性 (2)波及効果 33 5.実用化の見通し 5. 実用化の見通し 超臨界流体利用技術の実用化動向1(補足資料) (超臨界二酸化炭素利用技術) 産業分野 基礎研究 開発 工業化 食品 抽出 医薬 化粧 化学 高分子 繊維 微粒子製造 重合 合成 結晶化・微細発泡 染色 電子・機械 民生 洗浄 ドライクリーニング 参考資料1-17 34 34 5.実用化の見通し 5. 実用化の見通し 超臨界流体利用技術の実用化動向2(補足資料) (超臨界水利用技術) 産業分野 基礎研究 開発 医 食 薬 品 品 工業化 香気・薬効成分抽出 廃棄物処理 合成反応 化 無機微粒子製造 学 加水分解 重質炭化水素の改質 廃プラの油化・ガス化 エ ネ 環 ル ギ 境 l 難分解性物質の無害化 土壌浄化 排水処理 35 35 5.実用化の見通し 実用化への従来型シナリオ 基礎研究 技術体系 応用研究 × 体系への取込 科学体系 実用化 従来型 産業技術として未踏の場である 超臨界流体利用技術の現状 従来型(気相・液相場)の技術体系が 即効的に作用しない 共通基盤技術構築の 重要性、緊急性 36 36 参考資料1-18 5.実用化の見通し 5. 実用化の見通し 共通基盤技術の構築と実用化のシナリオ 即効性 波及性 現象の応用(実用化) 現象の発見 現象の解明 技術の学問的体系化 基礎基盤技術開発 共通基盤技術 プロセス技術開発 関連技術の調査研究 37 5. 実用化の見通し 5. 実用化の見通し 広範囲な温度・圧力下での現象の探索と 超臨界流体の特性を最大限に利用可能な 超臨界流体共通基盤技術の構築 新たな高温・高圧制御技術の確立 実験技術と生産技術の融合 次世代製造プロセス要件の実現 本質的な環境適合性 生産工数の削減 省エネルギー 装置・操作の徹底的簡易化 事業終了後の 実用化の見通し 5年以内1から3件 10年以内多数 38 参考資料1-19 37 6. 今後の展開 39 6.2 期待される効果 新産業の創生 革新的温暖化対策技術の実現 省エネルギー 省エネルギー 省資源 省資源 低環境負荷型 低環境負荷型 化学プロセス 化学プロセス の実現 の実現 産業競争力の強化 化学物質使用の大幅削減 40 40 参考資料1-20 8 . 研究開発成果 41 8.1.1 全体に係わる成果の概要 8.1.1 全体に係わる成果の概要 表8.1.1に示す 8.1.2 全体としての目標達成度 8.1.2 全体としての目標達成度 中間目標はおおむね達成 8.1.3 成果の普及、広報 8.1.3 成果の普及、広報 8.1.3.1 8.1.3.1 論文等 論文等 論文総数(57)、 その他誌上発表 論文総数(57) 、 その他誌上発表(20) (20)、 、 口頭発表(124) 口頭発表 (124)、招待講演 、招待講演(32) (32)、新聞発表( 、新聞発表(12 12) ) 8.1.3.2 8.1.3.2 知的所有権 知的所有権 特許出願: 国内 22 特許出願: 国内 22 海外 5 8.1.3.3 8.1.3.3 広報 広報 広報 11件(見本出展) 広報 42 参考資料1-21 9. 情勢変化への対応 10. 今後の事業の方向性 43 基本計画通りの事業進行を目指す 実験装置の開発・データの蓄積・有用現象の探索 現段階 装置の改良・実用的高温・高圧制御法の開発 データ・機構解析 シミュレーションモデルの開発 スケールアップ、ナンバリングアップ、設計手法 今後の展開 基盤技術構築推進分科会等の設置による 研究・運用体制の補強・強化 基礎基盤 工学基盤 共通基盤の構築 実用化 超臨界流体技術 の種々の産業・民生分野 への普及 目標 44 参考資料1-22 参考資料2 本資料は、第1回「超臨界流体利用環境負荷低減技術研究開発」(中間 評価)分科会において、評価の事務局である新エネルギー・産業技術総合 開発機構技術評価部から、川鉄テクノリサーチ株式会社へ関連技術の周辺 動向調査を依頼したものである。 「超臨界流体利用環境負荷低減技術研究開発」 周辺動向調査 平成14年4月25日 川鉄テクノリサーチ株式会社 「超臨界流体利用環境負荷低減技術研究開発」周辺動向調査報告書 目次 1. グリーンケミストリーと超臨界流体 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 2. 国内外の超臨界流体技術の動向 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2 2.1 超臨界流体技術の歴史と利用技術マップ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2 2.2 超臨界流体の基礎研究 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4 (1) ミクロ物性研究 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4 ① 超臨界流体の構造 ② 溶質分子混合系の溶液構造 ③ コンピュータシミュレーション (2) マクロ物性研究 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5 ① 水のマクロ物性 ② ③ 拡散係数 反応速度 ④ 溶解度 ⑤ エントレーナー効果 2.3 超臨界流体の利用技術研究 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8 (1) 抽出溶媒としての超臨界流体利用 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8 ① 抽出の原理 ② エッセンスの抽出 ③ 脂質の抽出 ④ 化学工業での利用 ⑤ 環境汚染対策 ⑥ 反応媒体(抽出溶媒としての利用) ⑦ ⑧ 材料製造 石炭・重質油の処理 ⑨ その他 (2) クロマトグラフィー ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14 (3) 材料製造への超臨界流体利用 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 15 ① 微粒子の製造 ② マイクロカプセル ③ 樹脂の可塑化 ④ 樹脂の発泡 (4) 反応媒体としての利用(抽出効果利用ではないもの) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17 ① 超臨界 CO2 を用いる反応 ② 超臨界炭化水素を用いる反応 ③ 超臨界メタノールを用いる反応 ④ 超臨界水を用いる反応 (5) 資源・エネルギー関連 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 26 ① 廃プラスチック処理 ② 廃タイヤ処理 ③ PET のモノマー化 ④ 廃バイオマス処理 ⑤ 超臨界タービンによる発電 ⑥ 有害物質処理・廃棄物処理 ⑦ 材料・装置の開発 (6) 日本における研究動向 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 33 2.4 国内外の工業化例と問題点 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 36 (1) 国内外の工業化例 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 36 (2) 設備費ならびに運転コスト ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 38 ① 香料抽出 ② コーヒーの脱カフェイン (3) 工業化における問題点 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 40 2.5 国内外の超臨界流体技術関連プロジェクト ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 42 3. 技術分野の動向 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 46 3.1 新聞記事の動向 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 46 3.2 3.3 特許の公開状況 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 48 論文の発表状況 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 49 引用文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 51 付録:最近 10 年間の経済環境の変化(経済指標の経年変化) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 53 1. グリーンケミストリーと超臨界流体 グリーンケミストリーの推進に中心的役割を果たしている IUPAC(国際純正応用化学 連合)によるグリーンケミストリーの定義は、“有害な物質の生成や使用を削減もしくは、 除去するような化学物質や製造プロセスの創出、設計、応用”である。 これは非常に直接的な表現であり、化学産業の中心的課題である分子の設計や分子変換 において、環境問題が必須の課題となっていることが示されている。 一方、OECD(経済協力開発機構)には「サステイナブルケミストリー計画」があり、 これは“接続可能な環境のための化学”を意味しており、グリーンケミストリーとともに よく用いられる言葉である どちらを用いるべきかという論議もあるが、立場や地域で違うものとなっている。いず れにしろ、環境問題の解決に化学が中心的な役割を担うことが認識されていることに違い はない。 このグリーンケミストリーのなかで重要な役割を演ずる「キーテクノロジー」として、 超臨界流体利用技術に大きな期待が寄せられている。 IUPAC はグリーンケミストリーの発展にかかわる領域として、以下のことを確認して いる。 イ. 代替原料の利用:枯渇性ではない、再生可能で、人間の健康や環境に、より害の少 ない原料を使用すること。 ロ. 無害な試薬の使用:可能ならば本質的に有害性が低く、触媒的なものを使用するこ と ハ. 自然界のプロセスの利用:効率と選択性の面で、生合成、生体触媒、生物工学的な 化学反応を利用すること ニ. 代替溶媒の使用:環境に悪影響の少ない溶媒を使用し、揮発性溶媒や塩素系溶媒な ど、自然環境に有害な溶媒に代替させること。 ホ. より安全な化学物質の設計:有害性が最小で性能面では同等のものを、毒性のメカ ニズムを考えて分子構造から設計すること。 ヘ. 代替反応条件の開発:選択性を高め、生成物の分離に化学物質を用いないような反 応条件を開発すること。 ト. エネルギー消費の極小化:機械的あるいは熱的なエネルギーの使用を抑え、余分な エネルギー使用による環境への影響を少なくするような化学反応を設計すること。 これは 1999 年に IUPAC が開催した誌上シンポジウムを収録して発行されたグリーンケ ミストリー特集号(Pure and Applied Chemistry, vol.72, No.7, 2000)の序論(Pietro Tundo ら)から引用したものであり、超臨界流体技術は上記の項目では、イ.ロ.ニ.ヘ.ト. に関連していると考えられる。 この特集号の中に、超臨界流体の利用をテーマとした論文が、 「PartⅤ.代替溶媒の使用」 の項目に 2 編収録されており、またルイス酸についての論文においても超臨界二酸化炭素 中におけるルイス酸の触媒作用に触れられている。これらのことはグリーンケミストリー、 ひいては環境負荷低減に果たす超臨界流体応用技術の役割が大きいことの一端を示してい る。 参考資料 2-1 2. 国内外の超臨界流体技術の動向 2.1 超臨界流体技術の歴史と技術利用マップ 超臨界流体の研究は 1822 年フランスの C.C. de LaTour により存在が発見された時代に さかのぼる。表 2-1 に超臨界流体技術の歴史年表を示す。 当初はその物性の解析に関心が集まっていたが、既に de LaTour は超臨界流体中で特異 な反応が起こる可能性を指摘していると云う 1)。 超臨界条件下でのアンモニア合成(Haber-Bosch 法)や一酸化炭素と水素によるメタノ ール合成、エチレンの超高圧重合などが 1900 年初め頃から開発・実用化されたが、これ らは超臨界流体の特質を用いる為に開発されたのではなかった。 また、ボイラーの世界でも水蒸気の科学は蒸気機関の開発と改良に熱力学と密接なつな がりをもって発展したが、火力発電の進展によって高温高圧化し、超臨界水蒸気が 50 年 代後半から西ドイツやアメリカで発電に用いられ、日本でも 67 年には発電プラントの運 転が開始されている。 表 2-1 超臨界流体技術の歴史年表 2)など 年 科学/工学 工業 備考 1822 超臨界流体の発見(フランス) 1950 代 超臨界圧ボイラー 1953 チタン酸塩の水熱合成研究(高知大) 1967 超臨界発電プラント(日本) 1968 Zimmerman プロセスプラント稼動(横浜 市下水処理) 1978 コーヒーの脱カフェイン(Bremen、ドイ 世界初 ツ) CO2 1982 ホップの抽出(ドイツ) 1984 香料抽出(川崎、富士フレーバー) 日本初 1985 ホップ抽出(アメリカ、Pfizer) アメリカ初 n-ブテンの水和(出光石油化学) 通産省アルコール濃縮プロジェクト開始 1987 化学工学会に「超臨界流体高度利用 研究会」発足 1988 文部省重点領域研究開始 紅茶抽出(ドイツ) JSCF 発刊 抗生物質脱溶媒(光、武田薬品工業) 第 1 回 SCF 国際会議 1989 タ バ コ 脱 ニ コ チ ン ( ア メ リ カ 、 Philip Morris) 1991 製油廃棄物(重質油)処理(アメリカ、 Texaco) 1993 NEDO 委託研究「有害物質分解」開始 1994 スパイス抽出(インド) EPA ヘキサン を有害物質 指定 1998 通産省委託研究「フライアッシュの分 解」開始 2001 化学工学会「超臨界部会」発足 参考資料 2-2 1970 年代末から 80 年代中頃にかけて、二酸化炭素を用いた超臨界抽出が各国で相次い で実用化され、その後研究が盛んになった。 いわゆる「水熱合成」も超臨界状態で行われる場合がある。 「水熱科学」の流れは超臨界 研究よりも古く、地球化学の分野で鉱物は主として水により合成・変質されるので、高温 高圧の関与する水熱反応に関する学問が進展し、実験技術としてのオートクレーブも開発 された。無機化合物合成(水晶の単結晶育成)や汚泥の湿式酸化(Zimmerman process) 等に工業化された例もあるが、超臨界水酸化の研究が進むのは、やはりこの頃からである 3)。 超臨界流体の利用技術研究課題をまとめると表 2-2 のようになる。2.3 ではこれを逐次 概観して行くことにする。 表 2-2 超臨界流体利用技術研究課題マップ CO2 ○抽出原理 ○エッセンス ○脂質 ○化学工業 ○環境 ○反応媒体 ○材料 クロマトグラ ○ フィー 反応 ○反応性 ○カーボネート 合成 ○酵素反応 流体 抽出・分離 水 メタノール 炭化水素 その他 ○化学工業(プロ ○ パン) (N2O) ○(ペンタン) ○反応性 ○加水分解 ○酸化 ○分解 ○反応性 ○メチル化 ○エーテル化 ○アセタール 化 ○微粒子 ○水熱合成 ○マイクロカプ ○微粒子 セル ○可塑化 ○発泡 資源・エネル ○廃プラ ○PET のモノ ギー ○廃バイオマ マー化 ス ○廃タイヤ ○発電 有害物質・廃 ○ダイオキシン ○有機塩素化 棄物 物 ○装置 ○廃プラ ○廃バイオマ ス ○廃タイヤ ○ (N2O) ○オレフィン重合 ○Fischer-Tropsch 合成 ○アルキル化 ○酸化 ○異性化 ○その他 材料 ○ダイオキシン は本プロジェクトで取り上げている分野 参考資料 2-3 2.2 超臨界流体の基礎研究 超臨界流体の基礎研究は、物性・溶媒構造に関する研究(ミクロ物性研究)と物性推算 研究(マクロ物性)とに大別される。 (1) ミクロ物性研究 超臨界流体は物質に固有の気液臨界温度・圧力を超えた非凝縮性流体と定義される。臨 界温度を超えている為に分子の熱運動が激しく、かつ密度を理想気体に近い希薄な状態か ら液体に対応するような高密度な状態まで圧力を変えることによって連続的に変化させる 事が出来る。 このため、溶解力、平衡物性、輸送物性などの溶媒特性の制御が可能であることを意味 しているが、このような超臨界流体の特徴は溶質分子の周りに形成されるクラスター構造 にあると考えられるようになっており、超臨界流体の持つ特性の本質的な理解のためにク ラスター構造の分子レベルの解析が行われている。 このような解析のためには、X 線や中性子回折、NMR、ラマン分光等の利用が必要であ るが、高圧・高温下での測定・観測を実現しなくてはならないと云う困難を伴っている。 ① 超臨界流体の構造 西川ら 4)は、シンクロトロン放射光による強力な X 線を用いて、超臨界 CO2 及び CF3H の小角 X 線散乱の実験を行い、密度ゆらぎと相関距離を調べた。密度−温度平面上に密度 ゆらぎや相関距離の値を等高線でプロットすると気液曲線の延長に沿って尾根(ridge)状 のプロットが得られた。この尾根線をよぎる所で溶解度の変化率が最大となり、反応の特 異点が現れること、密度を臨界密度で、温度を臨界温度で規格化してプロットすると尾根 線は物質によらず、同一の位置に見出される可能性が高いことなどの興味深い結論が導か れている。 ●C CO2 ○C CF3H 臨界点近傍での密度ゆらぎの模式図 2) 密度ゆらぎの等温線 (小角 X 線散乱測定による)4) 図 2-1 超臨界流体の溶液構造 参考資料 2-4 ② 溶質分子混合系の溶液構造 1980 年代以降、さまざまな分光法により超臨界流体溶液の構造が研究されてきている。 検討されてきた分光法は、紫外可視、赤外、Raman、蛍光、EPR(電子スピン共鳴)、NMR、 X 線、中性子散乱、シンクロトロン放射光などに及んでいる。 梶本らは、溶媒和構造の検討を蛍光スペクトル分析により行い、波長シフトから局所密 度・クラスターサイズを検討している。 また、超臨界溶液では溶質分子同士の相互作用は小さく、無視しても良いと考えられて きたが、最近の研究では超臨界流体中では溶質分子の相互作用が増強され、水素結合によ る溶質分子会合等が生ずる事が明らかにされている。 さらに、超臨界流体の溶媒和が化学平衡にも影響を与える事があることも分かってきて いる。 ③ コンピュータシミュレーション 超臨界流体中の溶質周辺の溶媒和構造の解析のために、分子間ポテンシャルに基づくコ ンピュータシミュレーションが用いられており、理論と実験を橋渡しする手法としての位 置を確かなものにしている。 (2) マクロ物性研究 超臨界流体の利用の為にはまずその特性(物性)を明らかにしなくてはならないのは勿 論であろう。実用的な諸プロセスの開発に際しては設計の基本物性として、溶解度などの マクロ物性が不可欠である。図 2-2 に CO2 と水の P−T 線図、図 2-3 に実用技術開発のた めに必要な流体の物性値を示した。超臨界流体の物性値測定は高圧(高温)下となるため に容易ではなく、データの信頼性にも問題がないではないが、データ蓄積が進んできてい るもののまだ充分ではない。推算法の充実とともに、データベース構築が課題である。 図 2-2 CO2 と水の超臨界領域 5) 参考資料 2-5 P‐V‐T 関係、密度 蒸気圧、潜熱 平衡物性 熱容量、エンタルピー 気液平衡 溶解度 粘度 輸送物性 熱伝導度 拡散係数 図 2-3 実用技術開発のために必要な流体の物性値 6) 表 2-3 臨界点近傍での特異な物性 7) ○ 熱物性値(熱容量、熱伝導率、粘度)にピークが生じる ○ 音速が極小となる ○ 表面張力、蒸発潜熱が 0 になる ○ 高密度、低粘性、高拡散性を有する ○ 相互拡散係数が減少 ○ 大きな溶解度差が生じる ○ 反応速度に極大が生じる 図 2-4 臨界点近傍の密度、溶解度の変化(水の例)6) 参考資料 2-6 表 2-4 気体・液体・超臨界流体のマクロ物性 物性 気体 密度(g/cm3) 0.6∼2.0 ×10−3 拡散係数(cm2/sec) 0.1∼0.4 粘度(Pa・sec・10−3) 1∼3 ×10−2 超臨界流体 0.2∼0.9 0.2∼2.0 ×10−3 1∼9 ×10−2 液体 0.6∼1.6 0.2∼2.0 ×10−5 0.2∼3.0 ① 水のマクロ物性 水の誘電率は臨界点を超えると急激に低下し、無機化合物の溶解性は減少するが、有機 化合物の溶解度は増大する。 ② 拡散係数 超臨界流体は高密度である割には低粘度で拡散係数が大きい。これは、抽出、乾燥、洗 浄などの操作に有効である。 ③ 反応速度 臨界点近傍では反応速度が急激に大きくなる事があり、また、一般に熱伝導度、粘度、 比熱などの熱物性値に極大値が生じるので、反応溶媒として用いると有効である事が期待 されている。 ④ 溶解度 抽出や洗浄、分離等の操作に溶解度は重要な物性である。この推算のために、超臨界流 体の溶解度に関しても色々な推算式、相関法が得られている。また、実測値のデータベー スも整備されつつある。 ⑤ エントレーナー効果 溶解性の選択性を上げ分離効果を高める為に、超臨界流体に第 2 の溶剤(エントレーナ ー、またはモディファイヤ−)を添加する事が試みられている。その効果の推定には、状 態方程式や溶液モデルからの相関などが用いられている。 表 2-3、2-4 には、これら超臨界流体の性質をまとめて示し、図 2-4 はそれを図示した。 超臨界流体は、気体と流体の中間の性質を有していること、臨界点でそれらが急激に変化 することが示されている。 参考資料 2-7 2.3 超臨界流体の利用技術研究 (1) 抽出溶媒としての超臨界流体利用 技術として超臨界流体を扱い、工業に利用するのは西ドイツが先行し、コーヒ−の脱カ フェイン溶媒として従来の塩化メチレンの使用が規制された事もあって、70 年代に Max Planck 研究所と HAG 社が超臨界 CO2 を溶媒に用いることを研究し、78 年にブレーメン に第 1 号プラントが完成している。以後、アメリカでも大規模化などが行われ、欧米各地 にホップ、紅茶、スパイスなど天然食品やタバコの抽出に主として CO2 を用いるプラント が作られている。また、色素や香料の抽出、薬効成分の抽出など食品・香料・医薬品など の工業で天然物中の特定成分の抽出分離・精製に実用化が進み、既に一定の地位を築いて いると理解される。現在までに作られた最大の工場は 90 年のホップ抽出工場(50,000 ト ン/年、ドイツ)である。また、石炭や石油の抽出処理、例えば、石炭の液化や石油蒸留 残渣油の脱瀝処理への応用研究も多く行われている。 我が国では、企業における応用研究が先行し、84 年に香味料抽出プラントが完成して以 後現在までに 10 余りの商業プラントが稼動している。ただ日本にはコーヒーやホップの 処理工場はなく、香料・色素・スパイス・医薬品等の天然物に含まれるエッセンスの抽出 が殆どである。最大のプラントは、医薬品製造における超臨界 CO2 によるアセトンの除去 プロセスで抽出槽の容積は 1.3m3 である 8)。 なお、表 2-2 に示したように抽出に用いられる超臨界流体はもっぱら二酸化炭素 CO2 で ある。 ① 抽出の原理 超臨界流体であっても通常の溶剤であっても抽出の原理には変わるところはない。要は、 温度、圧力等の変化による物質の溶解度の変化、あるいは物質による溶解度の差を利用し て、目的物質を取り出す操作である。 CO2 の臨界圧力は 7.38MPa、臨界温度は 31.0℃であり、この温度・圧力を超えた CO2 は超臨界状態にある。例えば、35℃で 12MPa の CO2 でナフタレンを含む物質を処理する と、CO21liter には 28.2g が溶解、抽出される。これを同じ温度のまま圧力を 6MPa に下 げると CO2 は気相になり、溶解度は殆どゼロになるので、その差約 28.2g/l が析出・分離 される事になる。このように高圧で抽出(溶解)し、低圧(気化しなくても良い)で析出・ 分離するのが超臨界抽出の原理である。一般の溶媒による抽出では、高温で抽出し、溶液 の温度を下げて溶解度を小さくする操作が普通であるが、超臨界流体での抽出は、温度・ 圧力いずれか(双方でも良い)を変化させることで分離操作が可能である特徴がある。 なお、抽出プロセスの概念を図 2-5 に示す。基本的には、超臨界流体により原料中の目 的物を抽出する抽出槽と抽出した目的物を溶剤から分ける分離槽から成る。抽出・分離に は、天然物からのエッセンス抽出のように抽出物が製品になる場合とコーヒーの脱カフェ インのように抽残物が製品となる場合の両者がある。 参考資料 2-8 図 2-5 超臨界炭酸ガス抽出プロセスの例 5) ② エッセンスの抽出 植物の種子、花、葉などから有用なエッセンシャルオイル(香料あるいは香味成分)を 分離する為に、超臨界流体抽出プラントが各地で稼動している。エッセンシャルオイルと は、テルペン、含酸素テルペン、セスキテルペン、ジテルペン、脂肪酸エステルなどの複 雑な化合物である。 コーヒー豆の脱カフェインやホップの抽出なども含めて、二酸化炭素(CO2)による超 臨界抽出がもっぱら用いられる。 (ⅰ)香料の抽出 ローズマリー、ジャスミン、レモングラスなどの抽出が実用化されている。Reverchon によれば 9)、ローズマリーを原料に超臨界 CO2(40℃、10MPa)抽出と水蒸気蒸留による エッセンスの成分を比較すると表 2-5 のようになり、モノテルペン類と含酸素モノテルペ ン類の含有率に大きな差が出る。官能試験の結果によると、超臨界 CO2 による抽出オイル の方がローズマリー本来の香りを有する事が明らかにされている。これは、水蒸気蒸留で は沸点の低いフレーバー成分が抽出されやすい上に、加熱による劣化が起こる事に起因す るものと思われる。同様な傾向は他の香料の抽出でも報告されており、一般に超臨界流体 抽出物の方が色が濃く、香料の深みを良く残している様である。 参考資料 2-9 表 2-5 ローズマリーの抽出物組成 9) 成分 モノテルペン炭化水素類 含酸素モノテルペン類 セスキテルペン炭化水素類 含酸素セスキテルペン類 その他 超臨界抽出 15.5% 73.7 6.6 0.8 1.3 水蒸気蒸留(従来法) 36.5% 59.4 2.2 0.9 0.7 (ⅱ)オレンジ油の連続抽出 オレンジ油中に含まれる芳香成分リナロオールを分離する為に超臨界 CO2 による多段 抽出が行われている。特に、リモネン(モノテルペン)の選択効率を高める事が可能と成 っているようである。 ③ 脂質の抽出 超臨界 CO2 は脂溶性であるので、食品等の脂質抽出にも用いられる。 (ⅰ)魚油中の不飽和脂肪酸の分離 イワシやマグロの油には多くの飽和・不飽和脂肪酸が含まれ、その中でもエイコペンタ エン酸(EPA)は抗血栓作用を持つ為に既に医薬品として上市されており、ドコサヘキサ エン酸(DHA)は健脳作用や視神経活性化作用から濃縮 DHA(グリセリド)を添加した 粉ミルクや缶詰、ドリンク剤が販売されている。 イワシ油には EPA が 15%、DHA が 9%程度、マグロ油はそれぞれ 7%、23%含まれて いる。魚油中ではグリセリドとして存在する為に、抽出しやすいように分解してエステル 化したものが原料として用いられる。プロセスの研究はわが国で盛んで、いくつかの方法 が確立されている。 (ⅱ)食品中の脂質の除去 食品中の脂質は、酸化、劣化、あるいは高カロリー化の原因となるので、従来ヘキサン 等により抽出処理されてきたが、超臨界 CO2 による抽出が検討されている。 マスタード種子中の油分除去、日本酒原料米の脱脂、アーモンドの脱脂等が研究されて いる。卵黄からのコレステロールの除去は実用化されている。 ④ 化学工業での利用 有機化合物の超臨界 CO2 への溶解度は水より高いので、希薄水溶液からの CO2 抽出に よる有機化合物回収や、オリゴマー・ポリマーの溶解・分別が検討されている。また、超 臨界水の加水分解性を用いて、ポリウレタン原料である TDI(トリレンジイソシアネート) 製造工程の蒸留残渣から TDA(トルエンジアミン)として回収するプロセスが神戸製鋼所 により開発され、実用化されている。 参考資料 2-10 (ⅰ)TDI の超臨界水による回収 ポリウレタンの原料である TDI の製造 工程では蒸留残渣として TDI とその重合 物が含まれているが、有効な回収方法がな かった。神戸製鋼所では、超臨界水による 反応により、触媒等を用いることなく TDI とその重合物を分解して TDA を回収、再 度 TDI の原料として利用する技術を開発、 商業規模プラントで実証している。TDA の 回収率は 80%以上であると云われる 5)。 図 2-6 にプラントの外観、図 2-7 に分解 反応、図 2-8 にプラントのフローを示した。 図 2-6 TDA 回収プラント 図 2-7 TDI の超臨界水による分解反応 5) 図 2-8 TDI 製造・リサイクルプラントのフロー5) 参考資料 2-11 (ⅱ)水溶液中の有機物質濃縮 有機物質の希薄水溶液からの有機物質の回収(蒸留)には多量の熱(蒸発熱)が必要で あるので、超臨界流体による抽出が出来れば省エネルギープロセスとして有用であろう。 エタノールの濃縮(発酵エタノール水溶液からのエタノール回収)に関しては多くの研究 が行われ、超臨界 CO2 によるエタノールの抽出で共沸がなくなり無水エタノールが得られ る可能性も明らかになっているが、コスト面での問題があって実用化されてはいない様で ある。 (ⅲ)ポリマーの分別 超臨界プロパンを用いるとポリエチレンのような高分子の溶解が可能であるので、これ を順次減圧、或いは温度低下させれば溶解度の小さいもの(分子量が高いもの)から析出 するので、分子量による分別が可能となる。用途により、不要な分子量範囲の成分を除去 する事も自由に出来るようになる。勿論高分子としてはさらに分子量が小さいオリゴマー の処理も可能であるし、分別後に所要分子量成分のみを利用する事も可能である。研究開 発のツールとしては価値があるが、処理コストに見合う用途が存在するかどうかが問題で、 実用化(工業化)は難しいのではないかと思われる。 ⑤ 環境汚染対策 超臨界流体の抽出力を用いれば、汚染された液体(水)や固体(土壌)の浄化が可能で ある。CO2 を用いれば、抽出速度が大きいので短時間の処理が出来、残留による二次汚染 の問題もないので、メリットが期待できる。 汚染物質としては、ダイオキシン、PCB、各種農薬、多環式炭化水素、VOC(揮発性有 機物) 、重金属などがあり、処理方法が検討されている。CO2+メタノールの処理で、90% 以上の土壌中のダイオキシンが抽出される事が報告されている。 ⑥ 反応媒体(抽出溶媒としての利用) 超臨界流体の溶解力・選択的な抽出力に着目して、反応媒体として超臨界流体を利用し て反応の収率増大・平衡反応の推進などが行われている。 (ⅰ)メチルエチルケルトンの製造 メチルエチルケルトン(MEK)の製造プロセスでは、sec‐ブタノール(SBA)を n‐ ブテンの水和によって誘導する(図 2-9) 。この水和工程が MEK の心臓部であり、一般的 には硫酸を使用する間接水和法が採用されている。間接水和法は、n‐ブテンを硫酸でエ ステル化した後、エステルを加水分解して SBA を生成させるが、工程が複雑で硫酸を用 いるため、腐食や廃酸処理などの問題がある。直接水和法では触媒を用いて、ブテン‐水 ‐SBA 系の超臨界状態で行なわれる。この状態で、生成する SBA がブテン相側に高濃度 に分配していることが見出され、反応器より取り出した超臨界ブテン相を冷却液化させる ことにより、同伴された水が分離し、共沸組成を超える高濃度の SBA がブテン相側に濃 縮される。このことを利用して、フローシートを図 2-10 の(1)から(2)へ変更した。 このプロセスは完全なクローズドシステムであり、シンプルな流れとなった。このプロセ スは 1985 年、出光興産(株)徳山製油所内に年産 4 万 t の MEK 製造プラントとして建 設された。これは超臨界抽出技術が、大型実用プラントに応用された例である。 参考資料 2-12 間接水和と直接水和の条件比較 触 媒 反応温度 反応応力 ブテン転化率 SBA 選択率 MEK:メチルエチルケトン :メチルエチルケトン SBA:セカンダリーブタノール :セカンダリーブタノール 間接水和 直接水和(本法) 80% %H2SO4 ヘテロポリ酸水溶液 80 15℃ 180~ 15℃ 180~300℃ 300℃ 7atm 150~ 150~250atm 90% 5~10 10% % 90% 95% 95% 99%以上 99%以上 図 2-9 MEK 製造工程と水和条件 フローシート(1) フローシート(2) 図 2-10 水和工程フローシート (ⅱ)バイオマスからのフルフラール合成 麦わら、木材などのバイオマスの加水分解により、キシロースを経てフルフラールを得 るプロセスでは、キシロースの縮合やフルフラールの分解や樹脂化が起こりやすいので、 反応槽に濃縮塔を取り付けて反応槽に超臨界 CO2 を供給してフルフラールを抽出、塔の上 部から分離するプロセスが提案されている。CO2 抽出により副反応が抑制されて、反応率 が高くなってもフルフラールの選択率が保たれる。 参考資料 2-13 ⑦ 材料製造 電子材料、セラミックス、ポリマーなど諸材料の製造には多くの有機化合物が溶剤、結 合剤、洗浄剤、可塑剤、分散剤などとして用いられ、最終製品からの除去に多くの手間が かけられている。これらの除去に、超臨界抽出が応用されている。 セラミックスの焼結時に用いられるバインダーは、通常は熱分解により気化して除去さ れるが、気化の際の体積膨張によってセラミックスの変形をもたらすので問題が多い。こ れを解決する方法として、超臨界脱バインダー法が考案され、アルミナの射出成形製造な どに応用されている。また、ゾルゲル法で得られるゲルの脱アルコールにも超臨界流体が 用いられている。 エレクトロニクス関係では、フロンや水による洗浄法に代わり、超臨界流体による洗浄 が検討されている。高い浸透性(低い表面張力)から複雑形状の部品の洗浄にも適し、加 熱変形や水腐食などの恐れがある材料にも適用できる。 シリコン半導体デバイスのパターンは微細化の一途をたどり、線幅はナノメートルの領 域に入ってきている。しかし、パターンの高さ(深さ)は材料の制約からミクロンオーダ ーを保たなければならない事もあり、高さ/幅で定義されるアスペクト比は大きくなって いる傾向にある。この結果、パターン形成後のレジストがパターン間に残存するリンス液 (アルコール)の表面張力によって倒れる現象が観察されるようになっている。このパタ ーンの倒れは、特に乾燥工程において顕著であり、これを防止するのに表面張力がゼロで あることを利用する超臨界乾燥法が有効である事が分かってきた 11)。 超臨界乾燥は、パターン形成後にアルコールで洗浄された製品を液体 CO2 で置換し、こ れを超臨界状態にして放散させる工程からなる。外力が作用しない乾燥方法として有用で ある。 ⑧ 石炭・重質油の処理 超臨界の水や炭化水素による石炭の処理により、石炭から液状物質が得られ(石炭の液 化)、重質油の超臨界水による処理では、水素化分解も伴って軽質油が抽出される事が分か っている 12)。分解反応が起こっており純粋な抽出とは云えないが、超臨界流体の抽出能力 の利用でもある。 ⑨ その他 その他超臨界 CO2 の利用には、食品の殺菌などが検討されている。 抽出の変形ではあろうが、微生物の細胞膜、或いは細胞から機能物質を抽出する事で微 生物を死滅させ、殺菌作用がえられるものと考えられている。 (2) クロマトグラフィー 超臨界流体を移動相として用いる超臨界流体クロマトグラフィー(SFC)に関してはこ れより早く 80 年代に基本的技術が検討された 2)。 分析技術として特定の地位を占め、機器メーカーから装置が市販されて各分野で用いら れている。現在では、日本分光(型式 SCF201) 、エムエス機器(型式 SFE/FC)が市販し ている。 参考資料 2-14 (3) 材料製造への超臨界流体利用 材料製造に関しては、80 年代に入ってから RESS(Rapid Expansion of Supercritical Solution)の検討がアメリカの Matson らによって行われたのが最初であり、ポリマーや 金属酸化物の微粒子を製造する技術として利用される。操作条件のコントロールにより、 数 nm から数μm の粒子が得られる。また、上述した成形時等に用いる溶剤の除去等の他 に超臨界流体の性質を利用する材料技術がある。 ① 微粒子の製造 (ⅰ)ポリマー 超臨界 CO2 は高分子量物質の貧溶剤であるが、有機溶剤との混合系を用いることにより 溶解度が増し、溶液を急速膨張させる事によって高分子微粒子の製造、高分子塗膜の生成 などが可能になっている(RESS 法) 。高分子としては、アクリル樹脂、ポリエステル、エ ポキシ樹脂等が微粒子(直径数μm)化されている。 また、ポリ乳酸、スルファチアゾールなどの微粒化も検討されているが、CO2 消費量の 問題や粒子の回収(高圧容器中で析出させるので、粒子の取り出しが簡単ではない)の問 題があるようである。 (ⅱ)水熱合成 金属塩の水溶液と超臨界水を接触させる事による水熱合成により金属酸化物を生成する と、酸化物の溶解度が小さいので急速な析出(反応晶析)が起こる。これに冷水を混合す る事によって急激に反応を停止させると特徴ある酸化物微粒子が得られる事が分かってい る。東北大の阿尻らは種々の金属塩を用いて超臨界水熱合成による微粒子製造を試み、そ れによると、超臨界法の特徴として、ア)粒径が小さい微粒子が得られる、イ)臨界点近 傍では粒子形状が大きくなる、ウ)反応場の制御により、生成酸化物の価数制御が可能 をあげている 13)。 さらに、複合金属塩を用いて磁性材料や蛍光体、電池材料の合成を試み、通常の方法(固 相法)に比して均一な温度条件での反応が可能であるので、均一な粒子が得られやすいと しており、さらに処理が高温高圧であるので装置が小型化できるとしている。得られた微 粒子の特性(蛍光特性など)も熱処理することなく遜色ないものが得られていると報告し ている。図 2-11 は神戸製鋼所が RESS 法を改良した急速膨張法により開発した、シリカ の微粒子の例である。 図 2-11 超臨界水熱合成 SiO2 微粒子(超臨界水;823K、100MPa)5) 参考資料 2-15 ② マイクロカプセル 医薬品の刺激対応性、徐放性、耐久性、時効性等をコントロールする為に、マイクロカ プセルを用いる Drug Delivery System(DDS)の開発から、薬剤の微粒化、コーティン グなどの技術が求められている。 粒径が 100μm を超える比較的大きな粒子のコーティングには、流動層やスプレーによ る方法が用いられてきたが、100μm 以下の微粒子については粒子の凝集により流動層コ ーティングなどを用いる事が難しく、有機溶剤や界面活性剤を利用する方法もあるが粒径 の制御の困難さや環境負荷の大きい事などに問題がある。 上記①の高分子微粒子の製造と同じく、超臨界 CO2 と少量の有機溶媒の混合流体を用い た微粒子のコーティング法が提案されている。プロセスとしては、高分子微粒子製造と同 じような系に薬剤の微粒子を共存させて急速膨張させるだけである。これにより、薬剤微 粒子を核とする微粒子が生成される事が明らかになっている。また、徐放特性も良好であ る事も判明しており、薬効成分以外の有機物質の共存しないコーティングが可能である事 が示されている。 DDS に応用されるならばコストの問題はかなりの程度吸収できるので、実用化の可能性 は高いのではないかと考えられる。 ③ 樹脂の可塑化 CO2 等の超臨界流体は、ポリマー(固体)に対して幅広い溶解性(浸透性)を有してお り、流体の溶け込み(吸着)の結果ポリマーは膨潤して、可塑化、ガラス転移温度の低下、 粘度低下、拡散係数増加、結晶化促進などの物性変化をもたらす事が分かっている。 特に CO2 は、各種ポリマーのガラス転移温度(Tg)を著しく低下させて可塑化する。す なわち、ポリスチレン(PS)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレ ンテレフタレート(PET) 、ポリイソプレン、ポリ塩化ビニール(PVC) 、ポリアミド(ナ イロン樹脂)、ポリ(2,6‐ジメチルフェニレンオキシド)(PPO)、ポリメタクリレート (PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリウレタン(PU)、ポリイミド、架橋エラスト マー、ブロックコポリマー、ポリマーブレンド等に対して良い可塑剤となる、或いは可塑 化効果がある事が知られている。 このようにポリマーが膨潤・可塑化すると、ポリマー相での物質移動特性が著しく向上 するので、超臨界流体を用いて抽出や精製、各種薬剤の注入が容易になり、高分子材料の 調製・加工、機能化の分野での様々な材料開発が可能になる。 たとえば、残存モノマー・オリゴマー・溶媒等の抽出除去による高純度化、染色・化学 変性、膨潤したポリマー中での重合によるポリマーブレンド生成、発泡体生成などの操作・ 加工が可能となり超臨界流体によるポリマー可塑化は、ポリマー加工技術の基盤となって いる。 ④ 樹脂の発泡 樹脂の発泡体は、軽量性、断熱性、緩衝性、電気特性等に優れるばかりでなく省資源性 にも優れるので、食品包装容器、梱包材、建築断熱材、緩衝材、電気絶縁材として各種製 品に用いられている。 プラスチック材料に気泡を発生させる方法には、大別して物理発泡と化学発泡とがある。 前者は CO2、N2 などの不活性ガスを樹脂に溶解した後に急激な減圧・昇温によりガスを過 参考資料 2-16 飽和状態にして樹脂中に気泡を発生させる方法であり、後者(化学発泡)は樹脂に発泡剤 を混練した後所定の温度条件で分解・ガスを発生させることにより樹脂中に気泡を発生さ せる。この気泡の直径が 0.1∼10μm で数密度が 109∼1015 個/cm3 であるような発泡体 はマイクロセルラープラスチック(MCP)と呼ばれ、樹脂中の欠陥サイズよりも小さい気 泡を分散させる事により、 機械強度・物性を損なわずに材料節減を可能にするといわれる。 また、気泡径が 0.1∼1.0μm のものをスーパーマイクロセルラープラスチックと称し、気 泡径が可視光線の波長よりも小さい事から透明シートなどへの用途も広がっている。 一般的発泡樹脂と MCP の比較を表 2-6 に示した。 表 2-6 一般的発泡樹脂と MCP 発泡剤 気泡径 気泡密度 物性 一般的な発泡樹脂 化学発泡剤:アゾ化合物など 物理発泡剤:フロン、ブタンなど 80μm 程度 107 個/cm3 以下 軽量化(気泡増)に伴い強度は大 きく低下 MCP(超臨界発泡樹脂) 超臨界 CO2 1∼10μm 109∼1015 個/cm3 軽量化しても強度は保たれる 一般的発泡体と比べて、断熱性、電気 絶縁性に優れている 超臨界状態の CO2 を用いて樹脂に溶解させると、条件によっては質量比で 5∼20%もの CO2 を溶解させる事ができるという。また、生成する気泡の径は圧力が高く発泡温度が低 い程小さく、気泡密度は圧力が高く温度が低いほど大きくなり、理論的な解析結果と(傾 向は)一致している。 MCP の製造プロセスに関するアメリカの動きを紹介する。1984 年に MIT の Suh らに より、MCP の基本概念特許が発表され、1992 年には同人により連続成形法の特許が出さ れた。1996 年に MIT 特許の実施権を有する TREXEL 社が設立され、実用的な操業を目 指した取り組みが開始された。TREXEL 社は、MCP を生産する企業とライセンス契約を して技術移転をはかっている。日本では、三豊グループが TREXEL 社の事業の窓口とな っており、 (株)日本製鋼所は、TREXEL 社から超微細発泡成形用射出成形機の独占的な 製造・販売権を取得している 14)。 (4) 反応媒体としての利用(抽出効果利用ではないもの) 超臨界流体は溶解特性に基づく「抽出」から応用範囲を広げてきたが、最近に至り反応 媒体としての利用が研究されるようになっている。現在のところは、反応速度や反応機構 を初めとした比較的基礎的な研究が多いが、超臨界流体の特性を生かした利点と効果が得 られるものと期待されている。 参考資料 2-17 表 2-7 超臨界流体の反応媒体としての利用 超臨界流体 CO2 炭化水素 ① 反応利用 水素化、カルボニル化、カーボネート合成、 酵素利用反応 オレフィン低重合、Fischer‐Tropsch 合成、 アルキル化、酸化、異性化、その他 メタノール メチル化、エーテル化、アセタール化 水 加水分解、酸化、分解 効果 選択性向上 反応速度上昇 触媒寿命延長 反応速度上昇 選択性向上 選択性向上 反応速度上昇 プラスチック分解 難分解性物質無害化 超臨界 CO2 を用いる反応 (ⅰ)反応性 超臨界流体の反応場としての特徴は高収率、溶媒性、CO2 固定の 3 点である。 a 高収率(反応活性、選択性の向上) 超臨界流体の物性は温度、圧力によりかなりの範囲で調整可能であり、易拡散性、弱い 溶媒和など反応の速度や選択性を変化させうる可能性を有している。 また、超臨界流体は気体分子を高濃度に溶解するので、反応相中の気体濃度に依存する 反応の高速化が可能である。 均一系触媒反応においては、液体と気体の中間的性質を有する超臨界流体は、液相反応 の高い選択性と気相反応の高速性を兼ね備えた優れた媒体になると考えられる。 さらに、媒体、溶質分子のクラスター形成も反応速度に影響する。たとえばクラスター 化により触媒周辺の反応物質の局所濃度が上昇すれば、通常溶液中に比較して反応速度が 大きくなると考えられる。密度変化に対応する媒体の「籠効果」も圧力を変えるだけで制 御できる可能性がある。この点に着目して超臨界 CO2 中での種々のラジカル反応が研究さ れている。 (例)ハロゲン化アルキルのカルボニル化 AIBN(アゾビスイソブチロニトリル)を開始剤として、超臨界 CO2 中、CO の存在下 で 1‐ヨウ化‐4‐ヘキセンの環化カルボニル化反応を行わせると、5 員環ケトンと 6 員環 ケトンが生成するがその選択比は媒体圧力により変化し、高圧では 6 員環の生成が優先す る。これは、反応速度的には優位に生成する 5 員環が、圧力増大による媒体粘度の増大に よる籠効果の為に起こる異性化効果が大きくなるからであると解釈されている。 b 有機溶媒代替 二酸化炭素は安全性や操作性に優れるばかりでなく、これを反応媒体とすると反応後 に気体として除去できるので、生成物の分離回収が容易であるメリットがあり、各種有機 溶媒の代替物質となる。 c 二酸化炭素の固定 超臨界 CO2 を反応媒体として用いると同時に反応物質として活用できれば、二酸化炭素 の固定化が効率よく出来る可能性がある。 参考資料 2-18 (例)有機カルボン酸の高効率合成 徳田ら 15)は、超臨界状態 CO2 を反応溶媒かつ反応試薬として用い、電気化学的手法によ り有機基質に固定化し、有用なカルボン酸を合成する開発を行っている。 このように、超臨界 CO2 中における有機合成プロセスは様々な可能性を有しており、環 境負荷低減の大きな柱となる事が期待されている。 (ⅱ)反応利用の例 a 水素化反応 有機溶剤中のオレフィン類の不斉水素化反応の光学異性体収率は水素濃度(分圧)に依 存する事が知られている。水素が高濃度に溶解する超臨界 CO2 中でこの反応を行うと、異 性体選択性の制御が可能になると考えられ、立証されている。 b カルボニル化反応 超臨界 CO2 は一酸化炭素の溶解能力が高いので、カルボニル化反応の高速化が期待され、 多くの研究が行われている。 上述の AIBN(アゾビスイソブチロニトリル)を開始剤とする 1‐ヨウ化‐4‐ヘキセン の環化カルボニル化の他に、コバルト、ロジウム錯体を触媒として用いるオレフィン類の ヒドロホルミル化反応がよく研究されている。(下図) CHO ロジウム触媒 R R +H2+CO CHO + R 超臨界 CO2 20MPa、65℃ c 多相系錯体触媒反応 超臨界相と他の相を適当に組み合わせると、超臨界流体の抽出能力等をうまく用いた多 相系の触媒反応が設計できる。既存の反応の高速化、高選択化が出来る可能性がある。 例えばロジウム触媒によるヒドロホルミル化では、生成するアルデヒドを選択的に抽出、 分離する事が出来、抽出物中のロジウムは極めて微量で、反応容器中に残るロジウム触媒 は再利用できる。 d 超臨界 CO2−水の 2 相系反応 有機相−水相の 2 相系反応は、水溶性錯体を用いることによる触媒の有機物からの分離 回収や相間移動触媒による反応効率向上などが知られている。 同じような 2 相系反応は、超臨界流体を用いても可能で、触媒の回収再利用も行われる。 (例)スチレンからエチルベンゼンへの水素化 水溶性ロジウム錯体の存在下、超臨界 CO2−水系に界面活性剤を添加してエマルジョン 化しスチレンの水素化によるエチルベンゼンへの反応速度が飛躍的に向上し、トルエン− 水系に比べて 75 倍、界面活性剤不添加の超臨界 CO2−水系の 12 倍に達する事が知られて いる。 e 超臨界 CO2−液状反応基質の 2 相系反応 無溶剤条件での反応基質反応は、 溶剤の回収・廃溶剤処理の問題を軽減するだけでなく、 参考資料 2-19 反応基質が 100%反応すれば生成物分離の問題もなくなり、反応プロセスとしては理想的 であるが、工業的には反応熱の制御や副反応などの問題が起きる可能性がある。このよう な場合に超臨界 CO2 を共存させるなどすることで過剰反応の抑制や選択性の制御が可能 になる。 例えば、ハロゲン化アリールとエチレンとから Pd 触媒の存在下スチレンを生成する反 応を超臨界 CO2 存在下で行うと、生成スチレンが CO2 に抽出されて、選択率・反応率共 に向上する。 f 二酸化炭素固定反応 (例)超臨界二酸化炭素の水素化反応 水素を超臨界 CO2 に溶解し、ルテニウム触媒を用いると二酸化炭素の水素化反応が高速 で進行し、蟻酸が高収率で得られる。また、アルコールを共存させると蟻酸エステルが、 アミンを共存させるとホルムアミドが生成する。 ルテニウム触媒 HCOOH CO2 + H2 超臨界 CO2、アミン、50℃ ルテニウム触媒 CO2 + H2 +CH3OH HCOOCH3 + H2O 超臨界 CO2、アミン、80℃ (例)炭酸ジメチルの合成 二酸化炭素とメタノールから炭酸ジメチル(DMC)を合成する事が試みられているが、 メタノールを反応基質とする場合には、副生するする水が反応を阻害するので、反応系中 に脱水剤を添加する必要があり効率が良くないといわれる。 超臨界 CO2 中でメタノールの代わりに 2,2‐ジメトキシプロパンを用いると、スズ触媒 によって DMC が高収率で得られる事が見出された。副生するアセトンは、メタノールと 反応させればジメトキシプロパンに変換できるので、実質的にはメタノールと CO2 から高 効率で DMC が合成される事になる。 スズ系触媒 (CH3)2C(OCH3)2 + CO2 CO(CH3O)2 + 超臨界 CO2、メタノール (88%) CO(CH3)2 (85%) 200MPa、180℃ (例)ポリカーボネートの合成 二酸化炭素とエポキシドからポリカーボネートを合成する反応は、多量の二酸化炭素を 出発原料として利用できる事から多くの研究が行われてきたが、ポルカーボネートにポリ エーテルが混在する不都合があった。高活性な錯体触媒を用い、高圧二酸化炭素を媒体と すると、生成物の分離が容易になるばかりでなく、ポリエーテルの生成が抑えられるが、 さらに超臨界二酸化炭素を用いる事により、ポリカーボネート収率は 93%を超え、分子量 分布が狭いポリマーが得られる。 以上のように合成化学の分野で超臨界流体 CO2 の持つ優位性が発揮できる分野は単に 参考資料 2-20 有機溶媒代替ではなく、反応の高速化、選択性向上、生成物分離の簡素化、副生物・廃棄物 の削減、温暖化ガスの固定、有害物質の分解など多岐にわたっている。 g 酵素利用反応 酵素反応は一般的には水中で、酵素に水分子が水和した形で存在して化学反応を進行さ せる異相系反応と考えられている。超臨界流体を用いる酵素反応では酵素が超臨界流体に は不溶となるので不均一系の反応ではあるが、超臨界流体の高拡散性のために反応速度が 大きくなる事が期待される。 実際には反応基質も超臨界流体に不溶のケースが多く、従って反応系では反応基質のバ ルク溶剤(超臨界流体)への拡散、バルク溶剤から酵素表面への拡散、酵素内での酵素活 性部位への拡散、ついで酵素活性部位での反応と云うステップを取る事になるが、超臨界 流体の高浸透・高拡散性から反応速度の上昇が見られる。 酵素の多くは熱的に不安定であり、酵素反応で扱う反応物質は多くの場合有機化合物で あるから、溶剤としては低温で超臨界状態になり誘電率の高いものが適している。CO2、 エタン、クロロフォルムなどが考えられるが、中でも CO2 は安全性、毒性、価格の点から 食品・医薬品の媒体としても有用であり検討されている例が圧倒的に多い。 検討されている酵素反応の例は限られており、リパーゼによるエステル合成、エステル 交換、加水分解が大部分であるが、油脂の改質、香料成分の合成、光学異性体分割など多 岐にわたる応用の可能性がある。 超臨界 CO2 を用いた酵素反応例を表 2-8 に示す。 超臨界流体中での酵素反応に及ぼす種々の因子についての研究も行われており、酵素活 性への溶媒の効果、水の影響、圧力の影響、温度の影響、物質移動の影響等について報告 されている。 超臨界流体中の酵素反応は多くの優れた特徴を有し、環境への負荷を低減する技術とし て位置付けられるが、 残念ながらまだ工業的には利用されるに至っていない。 その理由は、 超臨界ならでは、と云う酵素反応系が見出されていない為であるといわれている。実用化 できるような反応系の探索が求められる。 参考資料 2-21 表 2-8 超臨界 CO2 を用いた酵素反応研究例 反応 Acidolysis (酸分解) Acidolysis Acidolysis Alcoholisis Alcoholisis Alcoholisis 内部エステル化 内部エステル化 内部エステル化 内部エステル化 エステル化 エステル化 エステル化 エステル化 酸化 酸化 ② 基質 酵素 トリラウリン+ミリスチン Rhizopus arrhizus 酸 トリラウリン+パルミチン Rhizopus arrhizus 酸 トリオレイン+ステアリン Mucor miehei 酸 メチルメタアクリレート+ Candida rugosa 2 エチルヘキサノール 鱈肝油+エタノール Candida antarctica 条件 35℃ 8−11MPa 40℃ 10−30MPa 50℃ 29MPa 40℃ 11MPa 40℃ 9−24MPa 酢酸プロピル+ゲ Candida rugosa 40−110℃ ラニオール 11MPa Tricaprylin+オレ Mucor miehei 40℃ イン酸メチル 10MPa Cnola oil + Candida rugosa 40℃ Milk fat 30MPa Triolein + ヘ ゙ ヘ ン Mucor miehei 40−70℃ 酸エチル 10−30MPa ノニリアルコール+酢酸 Mucor miehei 60℃ エチル 11−30MPa 吉草酸+シトロネロー Candida 35℃ ル cylindracea 7−25MPa ブタノール+ラウリン酸 Candida lipase B 40℃ 15−50MPa オレイン酸+エタノール Mucor miehei 40℃ 13MPa ミリスチン酸+エタノール Mucor miehei 50℃ 12.5MPa ニトロフェノール+クロロフ ポリフェノールオキシダーゼ 36℃ ェノール 36MPa コレステロール コレステロールオキシダーゼ 35℃ 10MPa 反応器 バッチ 文献 16) バッチ 17) バッチ 18) バッチ 19) バッチ+抽出 20) バッチ 21) バッチ+抽出 22) バッチ 23) バッチ 24) バッチ 25) フロー 26) バッチ 27) バッチ 28) バッチ 29) バッチ 30) バッチ/フロー 31) 超臨界炭化水素を用いる反応 超臨界炭化水素の反応性等に関する一般的な傾向は超臨界 CO2 の項に記載した事と共 通であるので、ここでは超臨界炭化水素を用いた固体触媒反応の例について述べる事にす る。 (ⅰ)固体触媒を用いるオレフィンの低重合 ゼオライトによるエチレンの重合を気相で行うと、炭素数 12 程度のオリゴマーの生成 が多い温度範囲での触媒活性低下が顕著である事が知られており、失活後の触媒を n−ペ ンタンで超臨界抽出すると活性が回復する。このことから、重合を超臨界n−ペンタンの 共存する条件(臨界温度;196.1℃、圧力 3.3MPa)で行うと、系中でオリゴマーが抽出さ れるために触媒の活性低下がコントロールできる。 他にも、アルミナ、シリカに Ni、 Ti、Zr の酸化物を担持した触媒で 60∼280℃、 2∼30MPa で炭素数が 2∼6 の直鎖オレフィンを 2 量化してオクテン、ドデセンを合成する反応や、 参考資料 2-22 アルミナ担持硫酸ニッケル触媒によるブテンからのオクテン合成に、超臨界状態の炭化水 素溶媒に使用が有効である事が報告されている。これらの反応では、反応原料であるオレ フィン自身を超臨界溶剤として用いる事が出来るので、生成物分離に有利である。 (ⅱ)Fischer−Tropsch 合成 Fischer−Tropsch 反応とは、合成ガス(CO と H2)から炭化水素を合成する方法で、 大規模に利用されて年産 500 万トンの燃料製造が行われている。 nCO + 2nH2 → (CH2)n + nH20 この反応は大きな発熱反応で、気相法では反応制御、副生タールによる触媒細孔閉塞、 触媒被毒と云う問題があった。これに対する為に、オイル中に合成ガスを吹き込む液相法 がドイツ、アメリカで開発されたが、液中では合成ガスの拡散が遅く、充分な反応速度が 得られない、スラリー粘度を低く保つ為に触媒濃度を高く出来ない、生成物と触媒粒子の 分離を有する等の問題がある。これらの問題を解決する為に、超臨界流体を反応溶媒とす る超臨界F−Tプロセスが提案されている。 超臨界流体として、n−ヘキサン(臨界温度;233.8℃、臨界圧力;3.0MPa)、あるい は n−ペンタン(196.1℃、3.3MPa)を用い、通常の固定層反応器にコバルト、ルテニウ ム、溶融鉄触媒を充填して反応させている。その結果 6)を、超臨界/気相/液相で比較す ると、表 2-9 のようになる。 表 2-9 Fischer−Tropsch 反応の比較 生成物炭素数分布 メタン生成 オレフィン含有率 触媒層温度 触媒寿命 気相法 生成物中の炭素は 25 位 までで、触媒抽出物中に は炭素 40 位迄含まれる 多 少 急上昇あり 短(タール付着) 液相法 生成物中炭素は 20 位 までで高沸点物は少 ない 少 少 超臨界法 生成物に炭素 40 位ま での高沸点物も含ま れる 中 多 安定 長 超臨界 Fischer−Tropsch 合成は、生産効率、製品構成等の点で特徴があり、新しい技 術として期待される。 (ⅲ)アルキル化反応 イソオクタンはガソリンの基礎素材として重要であり、イソブテンとイソブタンから製 造するアルキレーション反応で作られるが、このプロセスでは硫酸、あるいはフッ化水素 を触媒として用いるために、生成物分離、装置腐食、廃酸処理、安全性など多くの問題を 抱えており、固体触媒プロセスの開発が望まれてきた。 i-C4H8 + n-C4H10 → i-C8H18 ゼオライトなどの固体触媒では生成副生物である重合物の触媒への付着等があり活性の 低下が著しく実用化には至らなかったが、イソブタンを超臨界状態とすることで、生成物 の抽出が容易になり活性低下が大幅に緩和される事が判明した(さらに触媒の処理も行わ れている)。同様に、各種イソパラフィンとオレフィンのアルキレーション反応においても 参考資料 2-23 超臨界のイソパラフィンを用いる事により、触媒寿命の延長が可能となっている。 芳香族炭化水素のアルキレーション(Friedel−Crafts 反応)においても超臨界芳香族溶 媒が用いられ、触媒寿命の延長、生成物の分離簡略化などのメリットが出ている。 AlCl3 R + RX Friedel−Crafts アルキル化反応 (ⅳ)炭化水素の空気酸化反応 t−ブタノールの新しい製法として、超臨界イソブタンの空気酸化が検討されている。 (CH3)3CH + O2 (CH3)3COOH イソブタン (CH3)3COOH + (CH3)3CH 2(CH3)3COH t−ブタノール この反応を気相(4.4MPa)と超臨界相(5.4MPa)とで反応させて比較すると、超臨界 相での反応では、イソブタン、酸素の反応率の上昇が見られたが、t−ブタノール選択率に は気相・超臨界相で大差はなかった。従って、超臨界層での反応では t−ブタノールの生 成反応率が選択率の悪化なしに上昇する事が分かった。また Pd/C 触媒では t−ブタノー ルの脱水反応により生成するイソブテンの選択率が極めて高くなる事が分かった。なお、 超臨界相反応とは、反応温度とイソブタンの分圧が、イソブタンの超臨界温度(135℃)、 超臨界圧力(3.6MPa)を超えた場合を云う。 (ⅴ)異性化反応 アルミナ触媒によるヘキセンの異性化反応が研究されており、生成するオレフィン重合 物が超臨界流体(ヘキセン)により触媒上からすばやく抽出される為に触媒寿命が大幅に 改善される事が判明している。 (ⅵ)その他 超臨界相でのオレフィンとアンモニア、 またはアミンからのアミン合成で、 アンモニア、 アミンの過剰使用が緩和され、さらにオレフィンの重合反応が抑制されて、触媒寿命が実 現される。 重質油の分解反応でも、超臨界軽質化反応が検討されている。 ③ 超臨界メタノールを用いる反応 メタノール(臨界温度 240℃、臨界圧力 8.09MPa)を超臨界状態で利用すると、他の超 臨界流体と同様に通常のメタノールよりも大きな反応性と拡散性を有しているので、メタ ノリシス(メタノールを用いる加溶媒分解。RCl+CH3OH→ROCH3+HCl)やメチル化 のような反応の速度を増加させると共に副反応を抑制して反応選択性を高くする。未知の 領域が多い分野であるが、廃プラスチックのリサイクル、メチル化、アセタール合成など が検討されている。 (ⅰ)PET のモノマー化 PET(ポリエチレンテレフタレート)を超臨界メタノールを用いて分解し、モノマーで 参考資料 2-24 あるテレフタール酸ジメチルとエチレングリコールとして回収する時の反応は、以下の通 りである。 (−OC− −CO−OCH2CH2O−)n + nCH3OH (PET) nH3COOC− −COOCH3 + nHOCH2CH2OH (テレフタール酸ジメチル) (エチレングリコール) この反応を、メタノールの超臨界条件等で行う場合の比較は、表 2-10 の通りである。 表 2-10 PET のモノマー化反応比較 超臨界 MeOH 液体 MeOH 液体 EG 温度 300℃ 180 190∼200 圧力 8MPa 3 3∼4 反応時間 30 分 >5 時間 >5 時間 触媒 なし 酢酸亜鉛等 酢酸亜鉛等 モノマー回収率 100% 100% オリゴマーまで分解 この結果によれば、超臨界メタノールを使う場合には、無触媒 30 分の反応で反応率が 100%に達する事が分かる。 (ⅱ)メチル化 a 芳香環のメチル化 無触媒で、ハイドロキノンと超臨界メタノールを 350℃、12MPa で反応させると、ベ ンゼン環のメチル化が進行して 2,5-ジオキシトルエンが選択的に生成する。通常の反応で は、触媒を要するばかりでなく、生成物としてメチル基が 1∼4 個の混合物が得られるが、 超臨界ではメチル基は1個だけ導入されたもののみが得られる。 HO− −OH + CH3OH → HO− CH3 −OH ハイドロキノン 超臨界メタノール 2,5-ジオキシトルエン b N−メチル化 上記の反応ではベンゼン環に直接メチル基が導入されたが、置換基がメチル化される例 も見出されている。 触媒なしでアニリンと超臨界メタノールを 350℃、15MPa で反応させると、N メチル アニリンが選択率 98%以上で合成できる。通常の反応では触媒を要するばかりでなく、2 個のメチル基が入ったものが主生成物になってN−メチルアニリンは得難いが、超臨界反 応ではそうではなかった。 (ⅲ)エーテル化 p−ヒドロキシ安息香酸メチルのように、ヒドロキシル基とカルボキシル基の両方を持 つ化合物に超臨界メタノールを 350℃、15MPa で反応させると、ヒドロキシ基でエーテル化 が起こり、p−メトキシ安息香酸メチルが選択的に生成する。収率 40%である。 参考資料 2-25 H3COOC― OH + CH3OH p−ヒドロキシ安息香酸 H3COOC― OCH3 超臨界メタノール p−メトキシ安息香酸メチル (ⅳ)アセタール化 無触媒で、アセトンやアセトアルデヒド等のケトン、アルデヒドと超臨界メタノールを 300℃、10∼16MPa で反応させると、アセタール化が進行する。アセトンからジメトキシプ ロパンを合成する反応は、選択率 100%、収率 50%である。 ④ 超臨界水を用いる反応 超臨界水を利用する反応には、(ⅰ)加水分解、 (ⅱ)酸化、(ⅲ)熱分解などがある。主 としてプラスチックの資源化、廃棄物の無害化に関連した技術として開発されているので、 次項(資源・エネルギー関連)で詳述し、ここではナイロン 6 の原料であるカプロラクタ ムを合成するオキシムのベックマン転位反応について説明する。 (例)超臨界水ベックマン転位反応 ナイロン 6 の原料であるε-カプロラクタムは、シクロヘキサノンオキシムの触媒による ベックマン転位反応で生成される。 触媒としては硫酸(などの強酸)を使用する上に、低価値の硫酸アンモニウム(硫安) を副生すると云う欠点を有している。これに対して固体触媒を使用する反応が検討されて いるが触媒寿命等の点から一般的には実用化に至っていない。 水は、臨界点近傍で水素結合が崩壊し、プロトンを生成している可能性が高い事を利用 して、ベックマン転位反応が無触媒で超臨界水中で試みられている。 N-OH H2O 無触媒 C6H10NH0 370℃ シクロヘキサノンオキシム ε−カプロラクタム シクロヘキサノンオキシムに水を加え 370∼400℃、3 分間の反応でε-カプロラクタムが 生成することが確認されている 32)。 臨界点近傍では反応生成物の分布も変化することも分かっており、今後の検討によって は高選択率、高効率プロセスの創成につながる可能性がある。 (5)資源・エネルギー関連 超臨界流体を利用する資源・エネルギー関連技術としては、有害物・不要物を分解する 無害化技術と反応により不要物から有用物を生産するリサイクル技術からなる環境技術と、 さらに超臨界流体のエネルギーを利用する技術とに大別できる。 ① 廃プラスチック処理 廃プラスチックのリサイクルには、マテリアルリサイクル(リユース) 、燃焼して熱エネ ルギーとして回収利用するサーマルリサイクル、燃料や化学原料に変換利用するケミカル リサイクルとがある。 参考資料 2-26 ケミカルリサイクルは、反応を用いて分解、解重合(モノマー化) 、部分酸化(ガス化) して化学原料等として再利用する方法であるが、反応速度が小さい事や触媒反応では触媒 による腐食の問題などがあり、より良い方法が求められている。 超臨界水は、加水分解、熱分解、酸化反応等が速やかに進行する上に二次反応を抑制す る事も出来る為に、廃プラスチック資源化の反応場として注目されている。 プラスチックは、熱特性から熱可塑性ポリマーと熱硬化性ポリマーに大別でき、重合方 法からは縮合重合ポリマーと付加重合ポリマーに大別できる。熱可塑性ポリマーの内、縮 合系ポリマーは解重合反応が比較的容易に起こり、モノマーに戻す事が可能であるが、熱 硬化性ポリマーは焼却や熱分解による処理すら困難である。また、プラスチックには各種 の添加物が比較的多く含まれており、特に難燃化の為に臭素などハロゲン化合物が添加さ れるために焼却に伴うダイオキシン発生の問題もある。 このような状況であるために、縮合系ポリマーのモノマーへの加水分解、付加重合系ポ リマーの分解油化、モノマー化に関する研究が行われている。 (ⅰ)縮合系ポリマー ポリマーの中でもエーテル結合、エステル結合、酸アミド結合を有する縮合系ポリマー は、超臨界水、超臨界アルコール中で容易に分解してモノマーとなる。既に述べた PET のモノマー化分解の他に、下記のようなポリマーのモノマー化が可能である。 表 2-11 加水分解によるポリマーのモノマー化 ポリマー PET ナイロン 6 ナイロン 66 ポリウレタン ポリカーボネート 反応 加水分解 加水分解/脱水環化 加水分解 加水分解 加水分解 構成モノマー テレフタール酸 エチレングリコール ε-カプロラクタム ヘキサメチレンジアミン アジピン酸 ジアミン ポリオール ビスフェノール A (CO2) 関連する技術として、ポリウレタンの原料であるトリレンジイソシアネート(TDI)を 亜臨界水を用いてリサイクルする技術は④−(ⅰ)で説明した。 (ⅱ)付加重合系ポリマー 付加重合系のポリマーでは、PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン) 、PS(ポリス チレン)の生産量が多いが、PE を超臨界水で処理すると、450℃、1 時間でほぼ完全に分 解し、オレフィン類が水和、酸化されたプロパノール、ブタノール、プロパノン、ブタノ ン等が生成すると云われる。 PS については、400℃での熱分解ではトルエン、キシレンの収率が大きくそれぞれ 20% 程度であり、スチレンとメチルスチレンが少量生成される。超臨界水中の反応の場合は、 スチレン(27%)とメチルスチレン(10%)の生成が多く、トルエン、キシレンは数%生 成するだけである。 難分解性であるエポキシ樹脂 (ビスフェノール型エポキシ) を超臨界水中で分解すると、 ビスフェノール由来のフェノール類モノマー、硬化剤由来の芳香族カルボン酸が得られる。 参考資料 2-27 フェノール樹脂(フェノールノボラック樹脂)は超臨界水での分解は分解率、フェノー ル類モノマー収率がアルゴン中熱分解よりも高くなっている。 ガラス繊維が入った強化プラスチック(FRP)は処理が難しく問題になっているが、 380℃の超臨界水での処理の結果、固体残存物はガラス繊維のみとなるという。THF(テ トラヒドロフラン)可溶分は重質油であるという。 ② 廃タイヤ処理 日本では毎年約 100 万トンの廃タイヤが発生している。超臨界流体(水、ペンタン、ト ルエン、窒素)で処理すると、約 5 時間の反応後、超臨界水、超臨界ペンタン、同トルエ ンでほぼ同様な結果が得られ、約 1/2 がオイル、1/2 が固形残渣となっている。 ③ PET のモノマー化 メタノールによる反応の項で述べたように超臨界メタノールによる処理で、300℃、30 分の反応でほぼ 100%の分解が起こっている。 超臨界水での 300℃の処理でも反応は早く、5 分程度で 100%分解すると云う。図 2-12 に超臨界水による PET の分解を示す。 図 2-12 PET の超臨界水による分解(神戸製鋼所による) ④ 廃バイオマス処理 バイオマス資源の内最も豊富に存在するのはセルロースであり、ついでキチンである。 セルロースは、超臨界水による処理で極めて早く分解し、すべて水溶性のオリゴ糖、グ ルコース、フルクトース、エリトロース、グリセルアルデヒド等になる。 参考資料 2-28 ⑤ 超臨界タービンによる発電 超臨界を使う技術にはもう一つの流れがあって、超臨界スチームによる発電技術の開発 が行われている。本プロジェクトには直接の関係はないが、現況を概観しておく。 日本の火力発電プラントの蒸気条件は、1945 年頃から上昇の一途を辿り、67 年には超 臨界(24.1MPa、538℃/566℃;臨界圧は 22.1MPa、臨界温度 374℃)条件の時代に入 っているが、さらにこれを高温高圧化して一層の効率改善を図る超超臨界圧発電が 80 年 度からプロジェクトとして検討されて、82 年度からは経済産業省支援の国家プロジェクト として 2000 年度まで実施されている。93 年度までの phase−1 では、フェライト系ター ビン材で 593℃、31.4MPa、オーステナイト系で 649℃、34.3MPa を目標に開発、効率で 5∼6.5 ポイントの向上を実現、 2000 年度までの phase−2 ではプラントの早期実現を図り、 経済性に優れたフェライト系材料で 630℃、30MPa、効率改善 4.8%を目指して実施した。 この成果として、2000 年には、電源開発(株)の橘湾火力 1,2 号機(各 1,050MW; 600℃、25MPa)が稼動している(図 2-13) 。 25MPa/600℃ +10%熱効率改良値 6- 24.1MPa/566℃ 4(基準値)0 - 30MPa/630℃(目標) 24.1MPa/593℃ 24.1MPa/538℃ 16.6MPa、566℃ 12.5MPa、538℃ ╷ ╷ ╷ ╷ 60 70 80 90 ╷ ╷ 2000 2010 年 図 2-13 日本における蒸気条件と効率向上(東芝による)33) なお、アメリカでは 57 年に 621℃、31MPa、出力 125MW の超超臨界発電プラントが 稼動しており、イギリスでも 66 年に 593℃、24.1MPa、375MW のプラントが動いている が、ヨーロッパ各国ではさらに 650∼700℃級の高温化を目指してプロジェクトが 98 年頃 から実行されている。COST522 はイギリスを中心にヨーロッパ 16 カ国の参加で 98 年に スタート、650℃級の材料開発を目指す。また、デンマークを中心にヨーロッパ 40 社が参 加して 700℃級の材料開発を 2014 年までの 17 年計画も 98 年にスタートした。ドイツで は 99 年から 4 年計画で 700℃級の開発を独自に行っている(図 2-12) 。 イギリス等 16 カ国 デンマーク等 40 社 ドイツ 80 年代 COST501(材料開発) 600℃級(フェライト) 90 年代 2000 年代 2010 年代 COST522(材料) ∼98 650℃級フェライト∼03 年 THERMIE 計画 700℃級 98∼14 年 MARCKO DE 700℃級(Ni ベース)99∼03 年 参考資料 2-29 USC(phase-1) (phase−2) 600℃級(フェライト)∼93 年 630℃級(フェライト)∼01 年 650℃級(オーステナイト) 日本 図 2-14 超臨界発電のプロジェクト 34) 超超臨界発電の開発は、主としてボイラーとタービンの材料開発であり、超臨界水の高 活性(=腐食)環境に耐えて、経済性を有する鋼材の開発がポイントであって、本プロジ ェクトとは趣を異にするが、その成果を超臨界水を利用する化学プラントに応用すること は可能であろう。Phase−2 での検討によるタービン用フェライト系材料を表 2-12 に示す。 表 2-12 630℃タービン用フェライト系材料(日本のプロジェクトによる)34) 用途 主蒸気フランジ 主蒸気弁フランジ ケーシング 主蒸気弁装置 配管付属弁 適用部 本体 ボルト ナット 本体 ボルト ナット 本体 ボルト 本体、上蓋 弁棒 本体 鋼種 高強度 9Cr 鍛鋼(CrMoWVNb) Ni 基超合金 Ni 基超合金 新 12Cr 鍛鋼 Ni 基超合金 19Cr12Ni3W 鋼 高強度 9Cr 鍛鋼 高強度 12Cr 鍛鋼 新 12Cr 鍛鋼 13Cr40NiTiMo 鋼 高強度 9Cr 鍛鋼 ⑥ 有害物質処理・廃棄物処理 上述の再資源化との区別が難しいが、有害廃棄物としての PCB、ダイオキシン等の有機 塩素化合物の分解処理法としての利用がある。 従来高濃度の有機物処理は焼却法が最も一般的であったが、77 年にゴミ焼却場からダイ オキシンが発生するとの報告がオランダからあり、わが国でも 83 年に愛媛大学で確認さ れてから焼却に代替する技術の開発が求められた。代替技術に求められたのは、高分解能 力とクローズド化であって、この両面を解決できる技術として超臨界水の利用が注目され るようになった。 超臨界水は加水分解反応により有害物質を無害物質に分解する超臨界水分解(SCWH; Supercritical Water Hydrolysis)と酸化反応を行わせる超臨界水酸化技術(SCWO; Supercritical Water Oxidation)とに大別される。 一般に炭素−塩素結合を有する有機塩素化合物は、アルカリ条件下で脱塩素されて無害 化される。 (超臨界水分解) RCl + H2O → ROH + HCl 超臨界水酸化では、加水分解に加えて熱分解、酸化分解を起こし、完全に有機化合物を 炭酸ガスと水(と塩酸)に分解する。反応は 600∼650℃、25MPa 前後で行われる。 RCl + H2O + O2 → CO2 + H2O + HCl 分解物中に窒素を含むときは硝酸、亜硝酸イオンまたは窒素ガスとして、硫黄は硫酸イ 参考資料 2-30 オンとなるために NOx や SOx を生じない特徴がある。 (ⅰ)有機塩素化合物の分解 国連環境機関が 95 年に 12 種類の POPs(残留性有機汚染物質)を指定したが、これら はすべて有機塩素化合物であり、分解処理に超臨界水の利用が有効である。 a 超臨界水分解 a‐1 PCB ポリ塩化ビフェニル(PCB)は、ビフェニル骨格の 1∼10 個の水素原子が塩素置換され たものである。佐古らは、450℃、30MPa の超臨界水条件下で、PCB/水=1wt%で NaOH を添加している。その結果、反応時間 20 分、NaOH5 倍等量の添加でほぼ 100%の脱塩素 化が起こり、フェノール、ビフェニル、ヒドロキシビフェニルを生成することを確認して いる。 a‐2 ダイオキシン ごみ焼却時のアッシュを用いて、亜臨界水∼超臨界水条件下での処理を行い、原灰中の ダイオキシン毒性等価濃度 0.28ng/g が 400℃、24MPa、8 分の処理で 0.003ng/g に減 少したが、処理水中(灰に対して 100 倍量)の濃度は 320pg/l となり(排水基準 10pg/ l)を満たさなかった。これから、少なくとも 400℃以下では脱塩素化反応が起こっている と云うよりは、水による抽出が起こっていることが示唆された。なお、500℃、5 分の処理 では灰中のダイオキシンは 0.003ng/g のレベルに減少しながら、水中濃度は 1.8pg/l と なっており、分解反応が起こっている事が示された。 b 超臨界水酸化 b‐1 PCB 酸化剤として酸素を用いて、 510℃、 25MPa で PCB 濃度 2.75%の分解を行ったところ、 PCB は 10μg/l 以下に分解された。 また、過酸化水素を酸化剤として 400℃、30MPa で行った例では、10 秒以上の反応時 間で 99%以上の分解率が得られる事が報告されている。 参考資料 2-31 表 2-13 PCB の分解 35) 処理水 PCB 濃度 PCB wt% 0.1 濃度 μg/l <0.5 1.0 <0.5 7.0 0.6 分解率 % >99.9 99 >99.9 999 >99.9 9997 全有機炭素 濃度 mg/l <0.5 <0.5 <0.5 分解率 % >99.9 99 >99.9 99 >99.9 99 処理ガス ダ イ オ キシン CO ng/m3 ppm <0.05 <0.05 <0.5 <0.5 <0.05 <0.05 <0.5 <0.5 <0.05 <0.05 <0.5 PCB コプラナ ーPCB ダイオキ シン コプラ ナ ー 濃度 pgTEQ/l 濃度 pgTEQ/l μg/Nm3 PCB ng/m3 <10 <10 <0.5 <10 <10 <10 <10 表のように、高濃度(7wt%)の PCB もダイオキシン等の有害副生物を殆ど生じないで ほぼ 100%の分解が行われる事が明らかとなり、超臨界水酸化法は 98 年 3 月の「廃棄物 の処理と清掃に関する法律」改正において、PCB 処理技術として認められるに至った。 b‐2 ダイオキシン 佐古ら 36)は、焼却炉灰中のダイオキシンを対象として、400℃、30MPa の超臨界水で 30 分処理を行った。酸化剤として空気、酸素、過酸化水素を用いて、いずれの場合も 97% 以上のダイオキシン濃度の減少をみた。 佐藤ら 37)は、ダイオキシン汚染した土壌の処理を、亜臨界水抽出+超臨界水酸化と云う 2 段プロセスで行う事を提案している。汚染土壌を 300℃の亜臨界水で抽出し、分離され たダイオキシン抽出水に過酸化水素を添加して 400℃、30MPa、10 分処理で分解する。 ダイオキシンは 99%以上分離・除去可能であり、抽出水中のダイオキシンは、酸化処理で 排出基準以下まで分解する。 b‐3 含窒素化合物 船迫 38)は、酸素及び過酸化水素を酸化剤として用い、水の亜臨界、超臨界条件下での 2 ‐アミノエタノールの酸化分解について調べている。 ⑦ 材料・装置の開発 超臨界水酸化は高分解能力を示す事を見てきたが、このことは(超臨界発電の開発で分 かるように)このプロセスに用いる材料に対しても過酷な腐食環境である事を意味してい る。超臨界水酸化反応には、一般にはニッケル合金が用いられるが、有機塩素化合物や硫 黄含有化合物を扱う場合には、条件はさらに過酷であり、材質の検討が必要となる。 また、酸の生成に対して中和を行うと塩類が生成、超臨界水の溶解度が低い事による析 出・付着の問題も起こりやすく、プロセス機器の構造上の工夫も必要になってくる。多孔 板を積層する TRPR(Transpiring Wall Platelet Reactor;浸出壁積層反応器)や、セラ ミックを用いた二重管型反応器(SUWOX) 、2 ゾーン型反応器などが提案されている。 なお、二重管型反応器を用いた半導体製造廃液の超臨界水酸化による最初の商業プラン トが 98 年に完成し、運転されていると云う 39)。 参考資料 2-32 (6)日本における研究動向 日本ではオイルショック以後 80 年代前半から注目され、食品、医薬品などの分野を中 心に有効成分の抽出やクロマトグラフィーの研究が盛んになったのは上記世界の動向と軌 を一にしている。しかし、実用化には高温高圧の装置を要する為に、一般的には設備コス トが高くなる等の理由で実用化はあまり進まなかったようである。また、超臨界流体の溶 解力・選択性も期待したほどには特異的ではなかった事もあって、一時研究が下火になる 時期もあった。 90 年代にはコンピュータ利用による溶解度や溶媒特性の解析なども盛んに行われる様 になり、最近は、反応溶媒や材料製造媒体としての利用が注目されるようになり、環境配 慮の一環としてグリーンケミストリー等の動きとも関連して研究が行われている。通産省 や文部省(いずれも当時)による重点的な研究の取り組みも行われ、特に下水汚泥や廃プ ラスチック、PCB やダイオキシンのような難分解性有害物質の分解処理方法として脚光を 浴びつつある。 ① 通産省アルコール濃縮プロジェクト 85 年には、通産省のアルコール濃縮精製プロジェクトが開始された。工業用アルコール 製造を目的に 10 年をかけてパイロットプラントによる実証試験を終了している。 ② 化学工学会の特別研究会 87 年から(社)化学工学会に超臨界流体高度利用特別研究会が作られ、物性、分離、分 析、材料、反応の 5 分野の調査研究を行い、成果が 91 年、95 年に刊行されている。2001 年には、超臨界部会として再発足している。 ③ 文部省重点領域研究 88 年から「超臨界流体の溶媒特性の解明とその高度な工学的利用」のテーマの下に、文 部省重点領域研究として①溶液構造の解明、②平衡・輸送物性の測定と推算、③分離溶媒 としての応用、④反応溶媒としての応用研究が行われた。 ④ NEDO の委託研究 93 年から「難分解性有害化学物質処理技術」の委託研究が行われた。トリクロロエチレ ンの分解実験をパイロットプラントで行い、ほぼ完全な分解が行われる事を実証、PCB の 分解もダイオキシンの生成なしに分解できる事を示した。この結果に基づき、97 年には PCB の処理法として化学的方法が厚生省(当時)により認められるようになった。 ⑤ 日本下水道事業団の共同研究 96 年から「超臨界水酸化処理法による下水汚泥の処理に関する研究」が行われている。 パイロットプラント(2%汚泥濃度、10t/日)による実証テストを実施している。 ⑥ 地域コンソーシアム研究開発事業(NEDO 委託) 97 年から「超臨界流体を用いた環境調和型工業洗浄装置の開発」として、インテリジェ ントコスモス研究体(工技院東北工業技術研究所と共同研究)により、半導体やハイテク 産業に不可欠の洗浄に超臨界流体を用いた洗浄装置の開発研究が行なわれた。 参考資料 2-33 ⑦ 通産省委託研究 98 年から、「ダイオキシンを含むフライアッシュの処理」実験が行われている。超臨界 水+酸化剤を用いて焼却飛灰中のダイオキシン類の分解をする実験であり、97%以上の分 解に成功している 6)。 ⑧ NEDO 地球環境産業技術研究開発事業 2000 年から、 「超臨界流体を用いたダイオキシン等難分解性化学物質の無害化技術の開 発」が、2004 年までの計画で行なわれている。 以上の国等主導の研究内容の流れを見ても、単なる溶媒利用から分解などの反応を伴う 領域への展開が行われている事が窺える。なお、95∼96 年に RITE と化学工学会により、 「超臨界流体を利用した化学プロセス技術に関する調査研究」が、97∼99 年に化学技術戦 略推進機構により「超臨界流体利用先導研究」が実施され、本プロジェクトの先導研究と なった。 図 2-14 超臨界流体利用プロジェクト 80 85 90 95 00 アルコール濃縮精製プロジェクト (通産省) 化学工学会特別研究会/部会 05 備考 部会 文部省重点領域研究 「超臨界流体の溶媒特性の解明と その高度な工学的利用」 難分解性有害化学物質処理技術 (NEDO) 超臨界水酸化による下水汚泥の処 理 (下水道事業団) 地域コンソーシアム研究開発事業 「超臨界流体を用いた環境調和型 工業洗浄装置の開発」 ダイオキシンを含む飛灰の処理 (通産省) 地球環境産業技術研究開発事業 「超臨界流体を用いたダイオキシ ン等難分解性化学物質の無害化技 術の開発」 (NEDO) 環境負荷低減技術研究開発 (NEDO) 先導 研究 参考資料 2-34 本研究 ⑨ オルガノ(株)、(株)神戸製鋼所等の取り組み オルガノ(株)は、超臨界水酸化法の開発実用化を進めており、Modar 社(現 General Atomic 社)の MODAR プロセスを導入、実証試験を行った。また、(株)神戸製鋼所等の 重工各社も、超臨界流体技術実用化に積極的に取り組んでいる。 ⑩ 学会においては、各大学、研究所における個々の研究者の取り組みの他、前述したよ うに、 化学工学会の活動が顕著である。研究センターなどを形成しているグループとして、 産業技術総合研究所の超臨界流体研究センター、東北大学の超臨界溶媒工学研究センター があり、精力的に研究がなされ本プロジェクトにも参加している。 参考資料 2-35 2.4 国内外の工業化例と問題点 (1) 国内外の工業化例 表 2-1 に超臨界流体利用技術の展開の概況を示したが、工業化の例をやや詳しく見てみ ると表 2-14(1)∼表 2-15 のようになる。 表 2-14(1) 日本における超臨界流体利用技術の工業化例(抽出)2) 企業名 富士フレーバー 年 84 など ヤスマ 武田薬品 高砂香料 長谷川香料 87 88 89 89 住友精化 茂利製油 湘南香料 出光石油化学 東洋鶏卵 (キューピー) 89 99 内容 抽出器規模 しょうが、柚、カレー、山椒、鰹節、醤油、ごま、200L、300L パプリカ、コーヒー ×2 100L パプリカ、その他スパイス抽出 溶媒回収(抗生物質) 1200L×1 コーヒー、鰹節、紅茶 420L、 フレーバー、色素、生理活性物質 300L×2、 500L×2 鰹節、コーヒー、オクタコサノール、ビタミン E 50L×2 など カプサイシン、アーモンドオイル、コーヒーなど 500L フレーバー トウモロコシ胚芽 卵黄からのコレステロール・中性脂肪除去 (栄養食品) 表 2-14(2) 日本における超臨界流体利用技術の工業化例(反応、他) 企業名 出光石油化学 帝人 武田薬品 日本ファウンドリー (オルガノ) 年 内容 85 n‐ブテンの水和 PET の分解 98 TDA の回収 98 半導体製造廃液処理 (MODAR プロセス(含塩素廃棄物分解)導入) 備考 4 万トン/年 超臨界? 神戸製鋼所 SWCO 表 2-14(3) 日本における超臨界流体利用技術パイロットプラント例 企業名 年 内容 備考 物質工学工業技術研究 ダイオキシン類の分解・無害化(焼却飛灰、土壌)SWCO 所 三菱重工 PCB 分解 水熱分解法 00 PCB 分解 SWCO 神戸製鋼所 00 汚泥処理(EWT 社と提携) SWCO 神鋼パンテック SCWH 三菱重工・東北電力 ポリエチレン分解油化 参考資料 2-36 表 2-15 海外における超臨界流体利用技術の工業化例 2) 会社名 HAG SKW Trostberg Barth & Co SKW Trostberg Pfizer Maxwell Philip Morris Ensco HAG SKW Trostberg Barth & Co Raps & Co Johns Maas Pitt-Des & Co SKW Trostberg Texaco Agrisana Phasex Supercritical Proc Huntsman GNI Gr Dupont 場所 Bremen(ドイツ) Munchsmuster(ドイツ) Wolnzach(ドイツ) Munchsmuster(ドイツ) Sydney(アメリカ) Houston(アメリカ) Chester(アメリカ) Bremen(ドイツ) Trostberg(ドイツ) Wolnzach(ドイツ) Yakima(アメリカ) Venafiro(イタリア) Lawrence(アメリカ) Allentown(アメリカ) Madras(インド) Austin(アメリカ) Deer Park(アメリカ) Fayetteville(アメリカ) 年 78 82 84 84 85 88 89 89 90 90 90 90 90 90 91 91 93 94 94 95 00 内容 能力トン/年 10,000 コーヒー 6,000 ホップ ホップ 6,000 紅茶 ホップ 50,000 コーヒー タバコ 固形廃棄物 50,000 コーヒー フレーバー コーヒー スパイス ホップ ホップ 20,000 コーヒー 製油残渣 医薬品 1,000 コレステロール/卵黄 1,000 コーヒー スパイス 9,200 廃棄物(研究所) 5,000gal./day 有機廃棄物 フッ素樹脂合成 これらの内、抽出・分離操作で工業化されている技術を見ると、対象は、コーヒー/紅 茶の脱カフェイン、香辛料エキスの抽出、ホップエキスの抽出、鰹節エキスの抽出、天然 香料の抽出、タバコの脱ニコチンなど食品工業での固体抽出を中心にした極めて限られた 範囲であり、使われている超臨界流体も殆どが CO2 である事が分かる。 特許等から見ると、超臨界流体を用いた分離精製の対象物は、この他にも、食品、医薬 品、香料、石油、化学品等の分野で多くの検討が行われているが、超臨界流体としては多 くが二酸化炭素が好ましいとしている 40)。 また、抽出以外で公けにされている工業化例は極めて少なく、発電、高圧ポリエチレン、 超臨界クロマトグラフィーを除けば数件しかないものと思われる。 各種プロセスに関する膨大な特許 35)に対して、実際に工業化されている例が極めて少な い理由はいくつかあろうが、設備費、操業条件、操業コスト、製品規格等の各因子に関し て従来法を転換するほどの比較優位性が見出せないのではないかと考えられる。さらに操 作圧力が CO2 の場合に 300 気圧程度になることも一般化する妨げになっているようにも思 われる。 特に、工業化に際して重視される設備費並びに運転コストに関して、抽出の実プラント のデータを下記に示すが、従来法である水蒸気蒸留のコストデータが明らかではないので、 厳密な比較は出来ていない。 参考資料 2-37 (2) 設備費ならびに運転コスト たとえば、香料抽出とコーヒー脱カフェインの製造コストに関しては、次のようなアメ リカの解析例がある。 ① 香料抽出 41) プラント概要を表 2-16(1)に、主要機器を表 2-16(2)、操業コストを表 2-16(3)に示す。 日米の事情の差異、10 年以上前のデータである事など直ちに現状比較は出来ないにして も、800 トン/年(約 3.2 トン/日)の耐圧 320Kg/cm2 のセミバッチ抽出プラントの建 設費が約 3.5 億円(1$=約 125 円) 、運転費(労務費+用役費)が年間約 65 百万円で、製 品 1kg 当りの処理費が約 130 円($1.07)と云うのはかなりの誤差を含む可能性はあるが、 製品価格レベルに比較すれば大きなものではなく、ほぼ妥当なスケールではないかと思わ れる。 (仮に建設費を 3 倍、運転費を 2 倍としても、1kg 当りの処理費は 2.56$、約 320 円となり香料の価格レベル(小売価格では 1kg 当たり数万円から数百万円)から見れば極 微である) なお、実際のスパイス、ハーブの抽出条件から製品コスト(原料代を含む)を算出して いるが、それによると種類により製品収率と処理時間が大きく異なる事もあって、スパイ スの抽出物は 1kg 当たり$3.5(クローブ;製品収率 22%、原料費含む)から$60.6(シナ モン;製品収率 2%)まで、ハーブは$6.4(フェンネル;製品収率 16%)から$113.1(ア ーニカ;製品収率 3.8%)まで、とされている。 同様な基準で従来法による天然物抽出プラントの建設費・運転費を比較できれば、超臨 法の優劣が検討できるが、Novak らは調査中であるとしか報告していない。ただし、設備 費が高圧のために高くついても、収率が高い事、抽出速度が速い事、抽剤(CO2)コスト が安い事から処理費は従来法よりも安く、さらに、環境対策費、廃棄物処理費が少なくて 済む為にトータルコストは安くなる筈だとしている。しかし、超臨界 CO2 抽出の最も大き な特徴は従来法では得られない製品の品質にあるとしている。 表 2-16(1) 香料抽出プラントの概要 処理量 抽出器 分離器 CO2 ポンプ能力 運転 容量 圧力 温度 材質 圧力 温度 800 トン/年 975 litre 33 MPa (約 320 気圧) 20∼80 ℃ SUS300 相当(すべての機器) 24 MPa (約 240 気圧) 15∼40 ℃ 4,550 kg/h セミバッチ 参考資料 2-38 表 2-16(2) 主要機器コスト 機器 抽出器(2 基) 内部バスケット(10 基) 分離器(2 基) 余熱器(2 基) 回収槽(2 基) フィルター 循環溶媒冷却器 精製器(吸着塔) 溶媒凝縮器 溶媒タンク 真空ポンプ 溶媒ポンプ 溶媒余熱器 機器 計 設備費 計 主要仕様 33MPa 975L 700L 24MPa 208L 24MPa 43ft2+117ft2 0.01MPa 760L 33MPa 7MPa 7MPa 機器コスト×3.5 価格(1000$) 170×2 10 74 ×2 31 15 7 28 60 28 60 6 38 25 約 800 約 2,800 表 2-16(3) 運転費 費目 労務費 直接労務費 間接労務費 用役費 電力 スチーム 冷却水 二酸化炭素 キャピタルコスト 減価償却費 税・保険 補修費 合計 ② 内訳 2 名/直 15$/h 直接費×25% 134kw 4.3¢/kwh 0.9MMBTU/h 4.9$/MMBTU 6.9mgal/h 7.4¢/mgal 110kg/h 10¢/kg 15 年 1.5% 4% 280 万$ コスト 1000$/年 359 287 72 162 43 32 4 83 337 185 42 111 858 $/kg 0.45 0.36 0.09 0.20 0.05 0.04 0.01 0.10 0.42 0.23 0.05 0.14 1.07 コーヒーの脱カフェイン 42) アメリカのエンジニアリング会社 Fluor Daniel 社は、コーヒー豆の脱カフェインプラン トの設備費、処理コストを示している。表 2-17(1)に建設費、表 2-17(2)に運転コスト・条 件を示す。 年産 5,000 トンの工場の場合、建設費 1,620 万$、償却費込みの運転コストは kg 当たり 約 1$程度と概算される。日本でのデカフェコーヒー(豆)の販売価格(2002 年初め。小 売価格)は 100g 当たり数百円(400∼500 円)であってオリジナル(デカフェしてない) 参考資料 2-39 豆との価格差は 100g あたり 100 円程度である。処理コスト(100g あたり 10¢程度)の ウェイトは極めて小さいといえようが、従来法と比較した場合の優劣については製品品質 など別の観点(従来品は薬臭さがあったという)からの比較も必要である。 表 2-17(1) コーヒー豆の脱カフェインプラントの建設費 項目 5,000ton/年 10,000 20,000 建設費 原料 製品 操業率 立地 抽出条件 内容 16,200,000 $ 22,000,000 34,500,000 コロンビアアラビカ豆 カフェイン 1.25% 97%脱カフェイン(非焙煎) 90% USA ガルフ コーヒー工場隣接 14−35 MPa 70−130 ℃ 6−12 hr 5−10 MPa 15−50 ℃ 圧力 温度 滞留時間 圧力 温度 分離条件 表 2-17(2) 脱カフェインプラントの運転条件・コスト 費目 労務費 直接労務費 間接労務費 用役費 電力 スチーム 冷却水 CO2 資本費 減価償却費 補修費 税・保険 管理費 合計 内容 2 名/シフト 15$/hr 25%直接労務費 2,000kw 4.3¢/kwh 34.8 百万 BTU/hr 4.94$/BTU 5,000G/min 7.4¢/MG 1,100kg/hr 4.9¢/kg 15 年定額 4%設備費 1.5%設備費 25%直接労務費 コスト(5,000t/年、¢/kg) 7.9 6.4 1.6 26.8 8.2 12.8 1.8 4.0 39.1 19.4 14.5 4.6 1.6 73.8 (3) 工業化における問題点 超臨界流体の応用が各方面で検討されているが、工業化された例はボイラーや高圧ポリ エチレンを除けば、炭酸ガスを用いる抽出プロセスのみであるといっても過言ではない。 この理由はどこにあるのか必ずしも明確にされていないが、以下のように考えられる。 ① 高圧の扱い ② 金属材料 参考資料 2-40 ③ 既存プロセスを置き換えるほどのメリットが無い この内③が原因であるとするのは個別の製品の問題になるので措くとして、一般論とし ては 1kg あたりの価格が千円以下(1g1円以下)のものでは既存プロセスの置き換えは難 しいようにみえる。 ①の高圧力の点は、日本の高圧ガス保安法(昭和 26 年法律第 204 号)では、常用温度 で 10MPa(約 100 気圧)以上のものを高圧ガスと定めているので、炭酸ガス(臨界圧力; 7.38MPa) 、水(臨界圧力;22.12MPa)等良く研究されているものはほぼ高圧ガスとして みなされるが、多くの有機化合物は臨界圧力が 5MPa 程度であるので、法の対象にならな いものが多いと思われる。しかし、5MPa であっても約 50 気圧であって、通常の機器で 扱う圧力を超えているので、本体以外の周辺機器の操作・耐圧などの点が、案外大きな障 壁になっている可能性は否定できない。 ②の金属材料の問題は、特に超臨界水を扱う廃棄物処理の場合に問題になっているよう で、取り扱う物質中にハロゲンや N、P、S などが含まれると装置を激しく腐食すること が知られている。Pt(白金)、Au(金)、Ta(タンタル) 、Ti(チタン)の耐食性が良好で ある事は知られているが、装置材料としては高価であって、廃棄物分解・処理の設備等に 採用できるようなものではないであろう。セラミックスのコーティングも検討されている が、製造方法により耐食性が変わるなどの問題があって、実用的には課題が残されている ようである。 いずれにしても、実用化の壁になるような致命的な障害では無い筈であるが、やはり最 大のネックは③既存プロセスを置き換えるほどのメリットが無い事なのかも知れない。こ れは、コーヒーの脱カフェインのように従来有機溶媒(ヘキサンなど)で抽出していた場 合には製品にその臭気が残ったとの事であるが、炭酸ガス抽出ではその様な事は無く、品 質的に向上した様なケースに相当する場合には置き換えが速やかに起こっている事からも 推測される。 参考資料 2-41 2.5 国内外の超臨界流体技術関連プロジェクト 日本国内の超臨界流体技術関連プロジェクトは上記研究動向の項に記したように、以下 の研究があげられる。 ① 通産省アルコール濃縮プロジェクト 工業用アルコール製造を目的にパイロットプラントによる実証試験を終了している。 ② 化学工学会の特別研究会・部会 超臨界流体高度利用特別研究会が作られ、調査研究を実施。 ③ 文部省重点領域研究 「超臨界流体の溶媒特性の解明とその高度な工学的利用」をテーマ ④ NEDO の委託研究 「難分解性有害化学物質処理技術」の研究が行われた。リクロロエチレン、PCB の分解。 ⑤ 日本下水道事業団の共同研究 「超臨界水酸化処理法による下水汚泥の処理に関する研究」 ⑥ 通産省委託研究 「ダイオキシンを含む飛灰の処理」実験 また、本プロジェクトの先導研究として以下の研究がある。 ⑦ NEDO 地域コンソーシアム研究開発事業 「超臨界流体を用いた環境調和型工業洗浄装置の開発」 ⑧ NEDO 地球環境産業技術研究開発事業 「超臨界流体を用いたダイオキシン等難分解性化学物質の無害化技術の開発」 ⑨ 超臨界流体を利用した化学プロセス技術に関する調査研究 ⑩ 超臨界流体利用技術先導研究 1995∼96(RITE) 1997∼99(化学技術戦略推進機構) 一方、海外の研究プロジェクト・グループの主なものには、表 2-18(1)∼(6)に示すよう なものがある。 研究グループは約 50 存在し、特に研究が集中している分野は見当たらないが、研究グ ループが存在する国はアメリカ、カナダ、イギリス、ドイツ、オランダ、フランス、スェ ーデン、フィンランド、スロベニアの欧米各国と韓国に限定されている様である。 (勿論こ のデータがすべてのグループを網羅しているとは限らないが、国際学会も開催されている 分野であるから、殆どの研究者グループは相互に認知されているものと思われる) この内、(国の)プロジェクトとして実施されているのがどの研究であるかは明確ではな いが、少なくともアメリカには「反応」に関して NASA(航空宇宙局)と NSF(科学財団) のプロジェクトが存在するようである。 (反応研究グループの No.1 と 2) アメリカは超臨界研究では各分野で世界をリードしていると考えられる。特に基礎研究 と反応利用の分野での研究が盛んであると思われる。 中国などアジアの研究グループが韓国以外に見られないのは、研究の実態であるのか Web での情報収集のためであるのか明らかではない。(ケンタッキー大学がどのように情 報を収集したか不明である) なお、本プロジェクトで課題の一つにあげている、資源・エネルギーに関連するテーマ は海外ではあまり見られないようである。 参考資料 2-42 表 2-18(1) 海外の基礎研究グループとテーマ 1 2 グループ Stanford Univ(USA) Univ of Nebraska(USA) 3 Pacific Northwest National Lab(USA) 4 Univ of Maryland(USA) 5 MIT(USA) 内容 備考 Fayer Group 超臨界状態の分子の動力学 超臨界流体の溶媒和状態のコン Prof Zeng ピュータシミュレーション 超臨界流体中の逆ミセル/マイ クロエマルジョン、イオンハイ ドレーション、金属キレートの 反応性 Center for 超臨界流体の物性 Environmental Energy Engineering 熱力学、統計力学、分子シミュ レーション 物理化学、コロイド、界面 基礎物性 6 7 Univ of Texas(USA) Bordeaux Inst Condensed Matter Chemistry(フランス) 8 Ruhr Univ(ドイツ) 熱力学 9 ETHZ Groups(スイス) 超臨界流体の物質移動、伝熱 10 Sogang Univ(韓国) 熱力学 表 2-18(2) 海外の抽出・洗浄研究グループとテーマ 1 2 3 4 5 6 7 8 グループ Los Alamos Natl Lab(USA) エネルギー・環境研究所(US Dept of Energy) UCLA(USA) Southwest R I (USA) Univ of Manitoba(カナダ) Univ of Waterloo(UK) Inst Tech Chem at Karlsruhe Research Center(ドイツ) Delft Univ(オランダ) 9 Umea Univ (スウェーデン) 10 Univ of Lund(スェーデン) 11 Univ of Maribor (スロベニア) 内容 精密洗浄、材料処理、溶剤転換 抽出 非揮発性物質の非破壊抽出 クリーニング溶剤 バイオ抽出 抽出 超臨界の化学、抽出 重金属抽出、CO2 ドライクリーニ ング 廃棄物からの有機金属抽出 CO2 による lipids、アロマ抽出 固体抽出 参考資料 2-43 備考 表 2-18(3) 海外の反応研究グループとテーマ 内容 備考 超臨界 N2 のナイトライド合 Princeton Univ 成利用 2 NSF STC(Science and Tech Univ of North CO2 溶媒利用 Carolina、NC Center)プロジェクト(USA) State U、NC Agriculture & Technical State U Univ of Texas 3 Argonne Natl Lab(USA) 超臨界水中の触媒反応 (OXO、Ziegler) 4 Sandia Natl Lab(USA) 超臨界水酸化反応 5 MIT(USA) Supercritical 超臨界水による酸化 Water Oxidation Group 6 Univ of Connecticut(USA) 合成 7 Nottingham Univ (UK) Clean Technology CO2 の反応媒体利用 Research Group 8 Univ of Cambridge(UK) 超臨界流体中の化学合成及 Melville Lab び高分子合成 9 Fraunhofer Inst(ドイツ) 含塩素有機化合物を含む廃 棄物処理 10 Zurich Group(スイス) Dr Baiker 超臨界流体の反応への利用 11 ETHZ Groups(スイス) 超臨界流体の物質移動、伝 熱、超臨界水酸化、装置研究 12 Univ of Lund(スェーデン) 酵素反応 13 Uni of Maribor (スロベニア) バイオ反応 1 グループ NASA プロジェクト(USA) 表 2-18(4) 海外の材料研究グループとテーマ グループ Boston Univ(USA) Univ of Connecticut(USA) Michigan State Univ(USA) Purdue Univ(USA) Ohio State Univ(USA) 内容 備考 1 RESS 微粒子製造 2 材料処理 3 熱可塑性樹脂の改質 4 微粒化(医薬) 5 ポリマーコーティング、ポリマ ーブレンド 6 Univ of London(UK) 超臨界状態の分子を利用した Dr Darr Group 新材料開発 7 Univ of Karlsruhe(ドイツ) 微粒子 8 Tec Univ Hamburg(ドイツ) 微粒化 9 Delft Univ(オランダ) 微粒化 10 French National Center for 超臨界流体と膜、多孔質物質 Scientific Research(フランス) 11 Univ of Maribor (スロベニア) 微粒化、バイオ反応 参考資料 2-44 表 2-18(5) 海外のプロセス研究・その他グループ(研究内容不明のものを含む) 1 2 グループ 内容 Air Force Research Lab(USA) 液滴、ジェット、噴霧、混合 Cornell Univ(USA) CO2 マイクロリソグラフィー 3 4 5 6 7 8 9 10 11 Uni of Iowa(USA) Ohio State Univ(USA) Texas Tech Univ(USA) Bristol Univ(UK) Univ of Nancy(フランス) Delft Univ(オランダ) ETHZ Groups(スイス) Uppsala Univ(スェーデン) VTT Group(フィンランド) 備考 Ober Research Group 噴霧および熱伝導 分離、医薬精製 超臨界抽出プロセス制御理論 ポリマー晶析 研究内容不詳 製薬プロセス 装置研究 研究内容不詳 研究内容不詳 表 2-18(6) 海外の超臨界流体研究グループの数(重複を含む) USA 基礎 抽出 反応 材料 プロセス他 計 6 4 6 5 5 26 カナダ UK 1 1 2 1 1 5 1 ドイツ フランス 1 1 1 1 2 1 1 5 3 オランダ スイス 1 1 1 1 3 スェーデン 2 2 1 1 4 1 4 参考資料 2-45 フィンランド スロベニア 韓国 1 1 1 1 1 1 3 1 計 10 11 13 11 11 3. 技術分野の動向 3.1 新聞記事の動向 1992 年から最近(2002 年 1 月末)までの新聞記事データベースを、 (超臨界)×(環 境)で検索した結果、(“×”は “論理 and”である) 日経 4 紙(日本経済、日経産業、日経流通、日経金融) 64 件 化学工業日報 40 件 日刊工業新聞 37 件 のヒットがあった。約 10 年間で各紙とも 100 件以内であるから、掲載は多いとは云えな い。内容の内訳は下表の通りである。 表 3-1 超臨界に関する新聞報道件数(掲載紙別) 日経 4 紙 化学工業日報 日刊工業新聞 計 基礎物性 5 1 0 6 抽出・洗浄 5 2 3 10 反応・分解 31 19 17 67 材料 1 2 1 4 資源 9 1 5 15 プロセス他 13 15 11 39 計 64 40 37 141 表 3-2 超臨界に関する新聞報道件数(年次別) 基礎物性 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 抽出・洗浄 反応・分解 材料 資源 1 1 2 3 1 1 2 5 1 2 2 3 5 17 23 8 6 3 1 参考資料 2-46 3 1 2 4 5 プロセス 他 2 4 1 4 2 15 7 4 計 3 1 2 8 8 10 25 53 21 10 0 新聞報道件数 60 プロセス他 資源 材料 反応・分解 抽出・洗浄 基礎物性 40 20 0 92 93 94 95 96 97 98 99 0 1 図 3-1 新聞報道件数の推移(日経 4 紙、日刊工業新聞、化学工業日報) 報道には勿論重複があるが、内容は反応・分解に関するものが最も多い。これには、ダ イオキシンや PCB の処理(分解無害化)が含まれており、この問題へのマスコミの関心 の高さを示すものである。98 年、99 年に掲載件数が多くなっているのも、この頃にいわ ゆる環境ホルモン(エンドクリンディスラプター)による環境汚染問題が賑やかであった タイミングである為もあろう。 工業的に用いられているコーヒーや香料・スパイス等の抽出に関する報道は極めて少な いことも特徴的である。技術開発が 80 年代には完成しているのではあるが、90 年代にな って食品産業での実用化が行われているのであるが、地味でマスコミ的に関心を呼ばない のであろうか。 合計報道件数が 99 年をピークにして減少に転じていることにも注意したい。国内の技 術開発の成果が出ていない事に対応していなければ良いが、少なくとも世間的に注目され る結果が出ていないのであろう。 (主要な記事) 報道された記事の中から、注目される内容を含むものをいくつか紹介する。 フッ素樹脂製造に超臨界 CO2 ① アメリカのデュポン社は、ノースカロライナ大学と共同で、代替フロンガスの代わりに 超臨界 CO2 を溶媒とするフッ素樹脂製造の実証試験に着手し、40 百万$をかけてプラン トを建設した。今後、総額 275 百万$(約 360 億円)の研究費を投じて 2006 年を目標に 工業化する計画であるという。 (日経産業新聞、2000 年 6 月 7 日) 2002 年 3 月のデュポン社の発表によれば、40 百万$で Fayetteville(NC)にフッ素樹 脂プラントの能力増強を行った(2000 年スタート)が、超臨界法によるもので、廃棄物が 少ない上に製品特性、生産性ともに向上しているとのことである。 ② ピナコール転位反応 工技院東北工業技術研究所(現産総研東北センター)は、酸触媒を使うことなく超臨界 水でピナコール‐ピナコロン転位反応を起こす事に成功。反応速度は現行の 100 倍に達し、 反応率も 100%であった。 (日経産業新聞、99 年 9 月 9 日) 参考資料 2-47 この報道は同研究センターが成功する超臨界水によるベックマン転位反応(カプロラク タムを無触媒で合成)に通じるものと考えられる。 ③ 魔法の水(創造循環型ビジネス) 超臨界水は殆どの化学物質を分解する「魔法の水」であり、PCB や廃液、廃プラの処理 から光ケーブルのリサイクルに至るまで、幅広い用途に応用でき循環型社会の形成に貢献 しそうだ、と位置づけて紹介。ただし、高コストである点に工夫が必要とも述べている。 (日経産業新聞、01 年 5 月 10 日) 以上の例の様に、新聞報道は、おおむね超臨界技術に好意的であり、開発に期待すると ころが大きい。また、超臨界とは何かと云う解説を伴っているのも特徴的であって、まだ それ程ポピュラーではない現実を表している。 3.2 特許の公開状況 日本特許の出願件数を年次別に図示すると、図 3-2 のようになる。 検索には、PATOLIS を用いて、(超臨界または亜臨界)で(合成、分解、抽出、・・・) 等でヒットしたものの内容を検討して、本プロジェクトの内容に該当しないものを捨てた。 検索経過は、 ①(超臨界)+(亜臨界)= 1,332 件 (ここで“+”は論理“or”を示す) ② ①×(流体+溶媒)= 600 件 ③ ①×(合成+触媒+分解+分離+精製+抽出+吸着+回収+洗浄+除去+超微粒子 +超微細) = 898 件 ④ ②+③ = 1,028 件 この 1,028 件を個別に検討し解析した結果、 化学反応に関するもの 83 件 プロセスに関するもの 384 資源・エネルギー・環境 装置その他 174 139 本プロジェクト対象外 248 (以上計 780 件) であり、対象となる特許は 780 件である事が判明した。これらについて年次別変化を見た のが図 3‐2 である。 この結果からは 98 年をピークに減少傾向に入った事になるが、公開公報から出願年を みているので、出願から公開までに最大 1 年半の時間遅れがあることを考慮すると、2000 年以降の数字はまだ確定していないと考えるべきであるので結論は出せず、98 年までの急 増傾向にストップがかかった様であるとしか云えない。 参考資料 2-48 180 160 140 120 100 80 60 40 20 2001 2000 1999 1998 1997 1996 1995 1994 1993 1992 1991 0 図 3-2 特許出願数の経年変化(2002 年 2 月現在で公開されたもの) 3.3 論文の発表状況 論文の発表状況は、JOIS を検索した。キーワードは(超臨界)×(環境+省エネ)と した。 (“×”は“論理 and”であり、“+”は“論理 or”である) JOIS は、JST(科学技術振興事業団)が作成公開している内外の学術雑誌約 28,000 種 に掲載された論文要旨のデータベースである。 92 年から最近までを検索した結果、件数を表 3‐3 と図 3‐3 に示す。 表 3-3 超臨界関連論文発表状況(JOIS の検索による) 環境 省エネ 合計 92 75 3 77 93 79 4 83 94 114 7 118 95 129 7 133 計 96 97 98 99 00 01 02 139 181 183 189 222 121 0 1432 5 11 14 10 18 10 0 89 143 185 185 192 229 123 0 1468 (平成 14 年 2 月 15 日現在; 合計は重複を除く) 参考資料 2-49 発表論文数(2002年2月現在) 300 200 100 合計 環境 省エネ 2002 1992 1994 1996 1998 2000 0 省エネ 環境 合計 図 3-3 発表論文数の推移(2002 年 2 月までに JOIS に採録されたもの) JOIS 収録の論文誌は、日本のみならず海外の有力誌を網羅しているが、収録には時間 遅れがあって、2002 年 2 月半ばの時点では 2001 年発行の雑誌に掲載された論文がすべて 登録済とは云えない。従って、発表(掲載)論文数の経年変化をみるのに 2001 年以降の データは有用ではない。 1992 年から 2000 年に至る 9 年間は超臨界に関する論文の数は毎年増加の一途を辿って いると云えよう。 2001 年までの 1,468 件の論文の内、473 件が日本語の論文であり、この著者をみると表 3-4 の様な頻度ランクが得られる。 表 3-4 超臨界に関する論文発表件数ランク 順位 1 2 3 4 件数 32 15 11 11 9 著者 佐古 猛 菅田 孟 新井 邦夫 生島 豊 福里 隆一 所属 静岡大、物質研(産総研) 物質研(産総研) 東北大 東北工技研(産総研) 神戸製鋼所 研究機関では、物質工学工業技術研究所(物質研、現産業技術総合研究所) 、東北大学、 東北工業技術研究所(現産業技術総合研究所)が目立つが、他に福岡大学、熊本大学、企 業では神戸製鋼所、オルガノ、三菱重工が多い。しかし、同じ研究グループに所属してい るかどうかなどの詳細が分からないと、論文数に基づく機関としてのアクティビティー比 較は困難であるので軽々に判断すべきではないだろう。 (本検索結果からは、研究機関別の 論文数は直ちには出せない。検索されたすべての論文の原報にあたる等の作業が必要であ 参考資料 2-50 る) なお、欧文の論文の著者または所属機関・国別の解析もすべての原文にあたらないと難 しいので、ここでは実施していない。ただし、著者名・機関名からの推測ではアメリカが 圧倒的に多く、次いで日本、イギリス、ドイツなどの順になるようであり、大学の論文が研 究所のものより多いようである。また、個人では North Dakota 大学の S.B.Hawthorne 教授の名前が目立つようである。 引用文献; 1) 碇屋隆雄監修:超臨界流体反応法の基礎と展開,シーエムシー(98) 2) 斎藤正三郎監修:超臨界流体の科学と技術,三共ビジネス(96) 3) 山崎仲道:水熱科学ハンドブックⅠ‐1(宗宮重行監修,技報堂出版,1997) 4) 西川恵子ら:Chem. Phys. Lett., 316, 316 238(2000) など 5) (株)神戸製鋼所:ホームページ:URL:http://www.kobelco.co.jp/ 6) 佐古猛編著:超臨界流体,アグネ承風社(01) 7) 古屋、荒井:化学工業,46 46(4),14(95) 46 8) 長浜邦雄:超臨界流体反応法の基礎と展開,シーエムシー(98) ,p158 9) E. Reverchon et al:J. Supercrit. Fluids,10 10,1(97) 10 10) 山田侃ら:化学工学,50(8),565(86) 11) 生津英夫:超臨界流体プロセスの実用化,p132,技術情報協会(2000) 12) 東北電力:特開平 6‐279763 など 13) 阿尻雅文:超臨界流体,アグネ承風社(01) ,p111 14) 津田文朗:プラスチックエージ,Jam,2001,123(01) 15) 徳田昌生:超臨界流体プロセスの実用化,p104,技術情報協会(2000) 16) Miller et al:Ind Eng Chem Res, 30, 30 939(91) 17) Erichson et al:AIChEJ, 36,299(90) 36 18) Nakamura et al:Chem Eng Commun, 45,207(86) 45 19) Kamat et al:Biotechnol Bioeng, 40, 40 158(92) 20) Gunnlaugsdottir et al:J Am Oil Chem Soc, 72,399(95) 72 21) Chlalaksananukul et al:Enzym Microb Technol, 15, 15 691(93) 22) Bernard et al:Biocatal Biotrans, 12, 12 299(95) 23) Yu et al:Biotechnol Prog, 8, 508(92) 24) Yoon et al:J Ferment Bioeng, 82, 82 334(96) 25) Vermue et al:Enzym Microb Tecnol, 14, 14 649(92) 26) Ikushima et al:J Chem Eng Jpn, 29, 29 551(96) 27) Steytler et al:Enzym Microb Technol, 13, 13 221(92) 28) Marty et al:Biotechnol Bioeng, 39, 39 273(92) 29) Dumont et al:Biotechnol Bioeng, 39, 39 329(92) 30) Hammond et al:Appl Biochem Biotechnol, 11, 11 393(85) 31) Randolph et al:AIChEJ, 34, 34 1354(88) 32) Y.Ikushima et al:Angew. Chem. Int.,38 38,2910 (99) 38 33) 大森ら:東芝レビュー, 56(6), 18(01) 56 34) 山田ら:火力原子力発電, 52, 52 1217(01) 参考資料 2-51 35) 安生ら:環境管理, 33, 33 895(97) 36) 佐古:ケミカル・エンジニヤリング, 43(4), 278(98) 43 37) 佐藤ら:化学工学会 65 年会講演要旨集, 126(2000) 38) 船迫俊孝:超臨界流体プロセスの実用化,p41,技術情報協会(2000) 39) 大江:化学装置, 41(2), 37(99) 41 40) 超臨界流体の技術と応用における最新動向:住べテクノリサーチ(株)(98) 41) Novak et al:ACS Symp. Ser., 406, 406 511(89) 42) Leyers et al:Proc. 2nd Int. Symp. Supercrit. Fluids, 261(91);斎藤著 2)から引用 参考資料 2-52 付録:最近 10 年間の経済環境の変化(経済指標) GDP(単位:10億円) 国内総生産(名目) 530000.00 520000.00 510000.00 500000.00 490000.00 480000.00 470000.00 460000.00 450000.00 440000.00 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 1999 2000 2001 暦年 外国為替相場(東京市場) 140.00 120.00 ( 円 ) 100.00 1 ド 80.00 ル に 60.00 つ き 40.00 20.00 0.00 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 年度 公定歩合 6.00 ( 5.00 公 定 4.00 歩 合 3.00 ) 年 % 2.00 1.00 参考資料 2-53 00 99 01 20 20 98 97 96 暦年 19 19 19 19 94 95 19 19 93 19 92 19 19 91 0.00 国内卸売物価指数(1995年平均=100) 106.0 104.0 102.0 ( 指 100.0 数 98.0 % 96.0 ) 94.0 92.0 90.0 19 91 年 19 92 年 19 93 年 19 94 年 19 95 年 19 96 年 19 暦年 97 年 19 98 年 19 99 年 20 00 年 20 01 年 地価(全用途平均) 15.0 10.0 5.0 % 0.0 ( 前 年 比 ) -5.0 -10.0 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 暦年 1998 1999 2000 2001 完全失業者数・完全失業率 400 350 6 完全失業者数 完全失業率 300 5 4 ( ( 250 万 200 人 ) ) 3 % 150 2 100 1 50 0 0 1991 1992 1993 1994 1995 1996 年度 1997 参考資料 2-54 1998 1999 2000 2001