Chapter 19 Applied Problems Ⅲ ConservationBiology 保全生物学
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Chapter 19 Applied Problems Ⅲ ConservationBiology 保全生物学
Chapter 19 Applied Problems Ⅲ ConservationBiology 担当 神谷 民夫 保全生物学 保全生物学とは個体群の減少と希少性の生物学であり、社会的関心が高い。 この章では種の減少と希少性を引き起こす原因について述べ、絶滅の危機に瀕している 個体群を救うため、我々に何ができるかを紹介する。 保全生物学の 2 つの大きな考え方(パラダイム) ←考え方と目的の違い ・ small-population padaigm ・ declining-population paradigm Small-population padaigm ・・・小さい個体群の動向、能力に注目 小さい島の個体群、または動物園や植物園の中の絶滅に瀕している小さい個体群。 このパラダイムから生じる問題は集団遺伝学と人口統計モデルにより説明される。 small-population padaigm は絶滅の渦に要約される(Fig 19.1) 小さい個体群→近交弱勢、遺伝的浮動、個体群の確立変動の悪循環により絶滅に向かう。 特徴:集団遺伝学の理論から導かれる理論的な予想¥ 目的:遺伝的多様性の維持→将来の進化と種の維持を保障 Michael Soule:保全生物学の父・・・希少種の小さい個体群が直面する問題に注目 →Minimum-Viable populations の概念 Minimum-Viable populations(最小存続可能個体数) ・・・個体群を維持できる個体群密度 ・絶滅を引き起こす 3 つの要因 1. 人口統計的確立変動・・・出生率、死亡率の不規則な変化 小さい個体群では、各個体の死亡や雌の減少がその個体群の存続に致命的である。 一般的に 30∼50 個体以下の個体群は絶滅の危険性が高い。 2. 遺伝的確立変動・・・遺伝的多様性の喪失 多くのヘテロ遺伝子を持つ個体は適応度が高い。 遺伝的多様性の喪失原因:遺伝的浮動、同類交配、同系交配 遺伝的浮動と近親交配は大きな個体群より小さな個体群で起こりやすい。 3. 環境確立変動と自然災害・・・天候と生物要因(火事、洪水、台風、土砂崩れ) これらの環境の変動が、どれほど個体群成長率に影響を与えるかが重要。 個体群成長率の変動>個体群成長率自体・・・→絶滅 1 ・small-population padaigm では希少種の小さい個体群に注目する。 →保全生物学上、特に重要 希少:地理的範囲、 生息地の特異性 →8 クラス(1 普通種、7 希少種)に分類(Table 19.1)。 大、小 地域個体群 7 つの希少種レベルに違い:レベルに応じた保全管理のしかたを理解しなければならない。 古典的な希少種:地理的範囲と生息地の特異性が狭い 異なる生息地に広く分布する種でも、低密度であれば希少種 保全生物学の対象:全ての希少種 ・・・希少種として認識されない場合もある ・小さい個体群が絶滅に向かう原因を説明した研究は少ない。 例)ソウゲンライチョウ(Tympanuchus cupido)(Fig 19.2) アメリカのプレーリーに広く分布 ヨーロッパ人の農耕により個体群が細分化され個体数が減少した。 個体群の減少は卵の孵化率の減少の影響を受けている。 イリノイ州 ソウゲンライチョウの個体数 19 世紀 1933 年 数 100 万羽 → 25,000 羽 1993 年 → 50 羽 1992 年から 5 年間、計 271 個体を移入 →孵化率が上昇し個体数も増加 →孵化率には遺伝的多様性の低下が影響を与えていた(table 19.2)。 ・一般的に、個体群は小さいほど絶滅する可能性は高い。しかし、どれほどの小ささが特 定の種の最小存続可能個体数であるかを決めることができるだろうか。 →遺伝学と統計学で異なるアプローチ 集団遺伝学・・・50/500 則 50 個体:近親交配による遺伝的多様性の低下を低く抑えるための個体数の目安。 500 個体:遺伝的浮動を防ぐためと、進化していくために十分な個体数。 集団遺伝学者は実際の個体数ではなく有効個体群サイズに注目している(Box 19.1) 50/500 則は全ての種に当てはまる規則ではない。なぜなら、遺伝的概念に基づいている ので、繁殖様式や環境変化の大きさの変化に影響を受けている生物に当てはめることはで きず、実際に使う前には慎重な議論が必要である。 保全生物学における small-population padaigm は、集団遺伝学の理論が基礎になってお り、小さい個体群が直面している問題を説明するのに有効である。しかし、small-population padaigm では小さい個体群の問題を解決できないとき、もう 1 つのパラダイムに注目する。 2 Declining-population paradigm 焦点:個体群減少の発見、原因究明、停止 個体群の消失の多くは人間が原因である。種の絶滅の多くは偶然ではなく必然である。 →deterministic extinctions (決定論的絶滅) 重要な資源を奪われたときや、驚異的な種が導入されたときに起こる。 生息地の減少は決定論的絶滅を導き、あらゆる生態系で重大な問題である。 決定論的絶滅を導く原因 →“悪の 4 人衆”と呼ばれる 4 つの原因 1. 乱獲 2. 生息地の減少・細分化 3. 移入種 4. 絶滅の連鎖 乱獲 漁獲率や捕獲率がその個体群の増加率より多いとき起こる。 自然増加率が小さく、人間にとって有用なゾウ、クジラ、サイなどの生物は乱獲の影響を 受けやすい。また、小さい島の生物も乱獲の影響を強く受ける。 例)オオウミガラス・・・長距離を飛ぶことができない海鳥 羽毛、卵、肉目的で捕獲され絶滅した。 アフリカゾウ・・・10∼11 歳で成熟、3∼9 年で1頭の子供を生む。 →個体群成長率が低い 象牙を目的とした密猟が近年の減少の原因(Fig 19.3)。 生息地の減少・細分化・・・開発や農地を作ることにより起こる。 生息地の減少 例)キツツキの 1 種(Red-rocked woodpecker)・・・アメリカ南部に生息する絶滅危惧種 →松の古木の穴を巣に利用していたが、伐採により巣穴の利用性が低下 本種の社会機構が再生計画を困難にする。 社会機構:繁殖ペアと 4 羽以上のヘルパーで 1 グループを形成。繁殖個体がいなくな るとヘルパーはその地位をめぐり競争。新しいグループを形成するには、新しい巣 穴を発見する時間・エネルギー的に困難(Fig 19.4)。 Walter(1991):人口巣穴を実験的に 20 地点に設置。結果、18 地点で巣が形成された。 →巣穴の不足により適切な生息地が使われていない。 3 南カリフォルニアの Savannah River Site で行った対処 人口巣穴の設置 →4 個体から 99 個体に増加。 近隣の個体群からの移植 巣穴をめぐる競争の相手であるリスの除去 ○保全がいかに対象生物の動態や社会構成の詳細な理解に頼っているのかのよい例 絶滅危惧種を救うのに一般的な法則はなく、場合により管理しなければならない。絶滅危 惧種の要求する資源、社会構成、分散能力などの情報は保全計画に必要である。 生息地の細分化 例)南ウィスコンシン州の森:1830 年代から細分化され続けてきた(Fig 19.5)。 メキシコの熱帯雨林:牧場のための伐採により、 1986 年までに 84%が喪失(Fig 19.6)。 生息地の細分化は個体群の動態に様々な影響を与え、その影響は種特異性が高い。 細分化された生息地→パッチ間の移動が容易(fine-grained) パッチ間の移動が困難(coarse-grained) →移動力の高いワシにとって fine-grained であっても植物にとっては coarse-grained 生息地の細分化はパッチ内の個体群動態により分析され、 異なる大きさのパッチ内の種占有率を調べることにより明確になる。 例)フィンランドのトガリネズミ(Sorex araneus と Sorex caecutiens) 餌要求が高く小さい島は生息地として不適。 絶滅率は体サイズに関係:小さい Sorex araneus のほうが絶滅しやすい(Fig 19.7)。 ・パッチ内の占有率はそのパッチ内の生存とパッチ間の移動能力にかかっている。 ・小さいパッチは天候や病気の影響を受けやすく絶滅可能性が高い。 例)西ヨーロッパのリス(Sciurus vulgaris) 農耕地に散在する 3ha 以上の森に生息し、それ以下の森に見られない(Fig 19.8)。 森は並木やフェンスにより繋がる:パッチ間の移動は容易(fine-grained) →あるパッチが絶滅したとしても他のパッチから再移入が起こりうる。 ・再移入は常に起こるわけではない。 例)ジャワ島の Bogor Botanical Garden の森 かつて他の森と繋がっていたが、一番近い森と 5km 以上離れてしまった。 62 種いた鳥類が 20 種に減少。←細分化により外部からの移入が途絶えたため、 生息密度の低かった種が絶滅してしまった。 ・生息地の細分化は、ほとんどの場合、種の減少をもたらす。 南ウィスコンシン州のプレーリー 植物種 1948∼1954 年 54 種 → 80 万 ha 1987∼1988 年 → 8∼60%が喪失 80∼100 年で半分の種が絶滅する速度 * 絶滅は特に希少種と背の低い植物で多い。 4 0.1%以下 ← ・細分化は生息地のエッジを増加させる。 エッジの増加は生息地内の生物の被食の機会を増やす。(エッジ効果) Andren and Angelstem (1988)の実験 スウェーデンのモザイク状の牧場と林で、卵を 2 つ入れた人口の巣を設置。 被食率は牧場の巣と森のパッチのエッジで高かった(Fig 19.9) 捕食はエッジの 50m 内側まで影響を与えていた。→小さいパッチは影響を大きく受ける。 ・パッチ間の移動も重要である。→通り道:回廊(Corridor) ○生物の再移入、同系交配の抑制 ×病気、火、捕食者の移動(Table 19.4) 例)フロリダパンサー(Felis concolor) 1400 頭―生息地の孤立→30 頭 回廊を作ることで、他の生息地とつなげて個体群の増加を期待。 問題点・・・どれくらいの幅の回廊を作ればいいのかわからない 回廊での密猟を防止するのが難しく、費用もかかる。 回廊を使って個体の移動を詳しく調べた例は少ない。 保全生物学的に重要な仮説:回廊は細分化された生息地の動植物の移動を増加させる。 Haddad(1999)によるこの仮説の検証 南カリフォルニアの松林の 2 種の蝶 蝶は松林と松林の間の開けた土地に生息する。 2 つの生息地を作り、移動を比較 ・1.64ha の正方形の孤立したパッチ ・1.64ha の正方形の回廊のあるパッチ 結果:回廊のあるパッチで移動が多かった(Fig 19.10) 回廊は密度も増加させる:ヒョウモンチョウ(Euptoieta claudia)は 2 倍の密度を示した。 ・種子で分散する植物にとっても回廊は重要である。 例)Corbit(1999):2 種の林床植物(マキザサの 1 種とランナンショウの 1 種) 森パッチ間の移動における生垣の回廊の役割を検証。 生垣内の林床植物の頻度を調べた結果、森に近いほうの頻度が高かった(Fig 19.11)。 →生垣が回廊として機能している。 さらに、生垣は種子の貯蔵場所にもなっており、そこから新しい生息地に移入できる。 回廊の造成は、全ての種に同様な効果をもたらすわけではない。 →生物に与える回廊の影響を測る必要がある。 Fig 19.12 回廊の影響を測定する実験のデザイン 多くの回廊の研究は適切な実験デザインで行われていないため説明が不可能。 回廊は細分化された生息地を保全する上で有効であるが、できる限り生息地の結合の保持 を慎重にすべきである。 5 細分化によって生じる絶滅は多くの動物相でランダムに起こらず、Nested subsets パタ ーンを示す(Fig 19.13)→保全をより必要とする種を予想できる。 例)西アメリカの針葉樹林の Great Basin の 14 種の哺乳類(Fig 19.14) Table 19.5・・・多少のはずれ値や空位があるが、大体の傾向を示している。 Nested subsets は生物の選択的な絶滅あるいは移入の結果かもしれない。 Wright(1998)が table19.5 のようなデータを 279 調べた結果、約半数で Nested subsets の パターンが見られた。絶滅の多くは Nested subsets パターンに従っている可能性があり、 細分化された生息地で絶滅が起きているとすれば、最も弱い種を予測でき、その種の保全 に努力を注げるかもしれない。 移入種の影響 歴史的な絶滅の原因の 40%を占める。 例)ビクトリア湖のナイルパーチ:1980 年代に移植され、1984∼1997 年に 200 種以上の 固有種を絶滅させた 過去 200 年における哺乳類の絶滅の 50%近くがオーストラリアで起きている。 西オーストラリアの哺乳類における体重と絶滅・減少の関係(Fig 19.15) 体重 35∼4200g の範囲の種が絶滅 原因:農業による生息地の減少 競争種や捕食者の導入 *主な原因は捕食者(Red fox) 移入した猫の影響・・・Box19.2 移入問題は、保全問題の中でも最も重要なものの 1 つ。地球規模の貿易の増加に伴って、 意図しない移入や、故意による移入が多く発生している。 絶滅の連鎖 A 種に依存している B 種が、A 種の絶滅に伴って絶滅する現象。 大型哺乳類とその餌生物の例が多い。 ニュージーランドのワシとモア(ダチョウみたいな鳥) 北アメリカのフェレットとプレーリードッグ 6 保護の目的と保護の進め方 絶滅に瀕した種を保全する 1 つの方法は保護区を作ることである。保護の目的や進め方 は、保全生物学において重要なことであり、多くの努力がその向上に向けられている。 保護の目的は大きく 2 つに分けられる。 1. ある生物に影響を与えている火事や捕食者を許されるレベルまで調整することに より、その生物種や群集を保全する。 2. 個体群や群集に手を加えるのではなく、自然のシステムと遷移に任せる。 Cayghley と Gunn は保護の進め方の概要を示した。 Step1 あいまいでなく、明確な目標を立てる Step2 目標を達成するために有効な場所を選択する Step3 保護対象のパッチに生息する生物種を挙げ、可能であれば各個体数を概算する Step4 保護していくパッチの順序を明確にする。 Box19.3 は保護の進め方を明確にする 1 つの方法を示している。 保護の目的に応じて進め方が異なることを理解しておくことが重要。 保護の優先基準 ・ 多くの種が生息する地域 ・ 希少種が生息する地域 ・ 科や属などの分類上の単位を多く含むこと など 多くの保護の進め方のアルゴリズムには、種の個体数よりも適切な基準である存在比(存在/ 不在)が使われる。存在比は個体数より簡単に推定できる。 保全に有効な保護システムの構築のためには、対象生物の生態的要求を知る必要がある。 1 種が抱える問題は、その種が一時的にでも利用する生息地全てに存在する。 例えば、多くの蝶は産卵や幼虫の育成のために一時的に利用する地域を持つ。もし、保 護区をほったらかしにして、草原が盛りになったりすると蝶が利用する植物を失うことに なる。蝶はしばしばメタ個体群として分布しているため、適したパッチ間の移動は生存に 重要である。 保全生物学の最も重要な貢献の 1 つは、保護区のある種の個体群が期待される個体数を 維持することは不可能であることを示せることである。 例)アメリカのハイイログマ 500 頭のハイイログマが生息するために必要な最小エリアは 122,330sq.km →現在の保護区の約 12 倍 現在、地球上に存在する保護区は大型哺乳類や鳥類にとって、保護スケールに対して小 さすぎる。保護区の外側の私有地は多様性の保全のために貢献すべきであり、農地や営林 地と保護区の融合は重要である。 7 世界中の保護区の多くが小面積であり、59%が 1000ha(10km2)より小さく、それは総保 護面積の 0.2%を占めるに過ぎない(Fig 19.17)。保護区は密猟や狩猟から常に守られている わけではない。保護区を設定することは保全のための大切な第一歩であるが、保全の終わ りではない。 保全問題の具体例 実際に理論を絶滅に瀕した生物に適用した例。 a. シオガマギク(Furbishs lousewort) 絶滅したと考えられていたが、アメリカのメイン州北部のセントジョーン川沿いで再発 見され、絶滅危惧種にリストアップされた。 Menges による調査 シオガマギクの特徴:川岸にそって分布し、攪乱された地域にのみ生息する。セントジ ョーン川は春に氷により攪乱される。これにより本種にとって再移入可能な地域を形成 するが、同時に個体数の減少も引き起こす。また、高い草に覆われると減少し、低木に 支配される地域や乾燥した地域で競争に弱い(Fig 19.19)。 →水分を多く含む開けた地域がシオガマギクの個体群の生育を支えていると予想さ れる。この予想は氷の襲来のような災害により個体群が破壊されないという仮定を含ん でいるが、毎年、個体群の 2∼12%が失われ、新しい個体群は空白の地域の 3%に形成 される。個体群の存続は定着率と絶滅率のバランスで決まる。 シオガマギクのような生物は保全生物学者の挑戦を受ける。 川による攪乱が地域個体群の絶滅を引き起こし、同時に再移入地を形成するので、1 番 よい地域個体群を保護して、他の個体群を放置しておくことはできない。存在している 個体群だけを保護するシステムでは十分な再移入地域を供給できないだろう。対照的に、 少なすぎる攪乱は他の植物の繁栄を招きシオガマギクは絶滅するだろう。 Table19.6:シオガマギクの個体群の生存見込みと攪乱の関係 →最適攪乱点が存在し、攪乱は多すぎても少なすぎても長い時間スケールで見ると損 害を与える。 シオガマギクには遺伝的変異がなさそうであり、個体群の存続の遺伝的モデルは適用で きない。絶滅の潜在的原因:人口統計学、環境の確立変動、自然の災害 8 b. ニシアメリカフクロウ 過去 40 年の大量の木材搬出により、フクロウが生息する原生林が破壊された。 どのような生息地がどれくらいあればフクロウが減少しないか。 →どこまで木材搬出により原生林を細分化できるか。 フクロウの特徴:原生林でのみ摂餌、睡眠を行う(Fig 19.20)。 細分化された森では移動のみ行う 行動圏は餌の利用性によって変化 50∼80 年の森ではフクロウは見られない。 巣の 80%が樹齢 300 年以上か直径 1.2m以上の木に作られる。 北西部の保護区:フクロウの生息地として適していない。 →周辺の原生林の 30∼50%の生産力 →現在の保護区ではフクロウは維持できない。 フクロウを維持するためには、どれだけ原生林を維持するべきか。 重要なパラメータ:若い固体の分散と住み着き成功 生息地内の個体の生存率と繁殖率 分析の結果、アメリカ太平洋岸北西部に残っている原生林全てを維持する必要。 今のペースで伐採が続けば 20 年で原生林のほとんどが消失する。 →材木産業かフクロウか 原生林の利用をめぐる争いは大きな問題の 1 つの例である。どのようにすれば人間と地 球の生物が、深刻な絶滅なしに共存できるだろうか。これは 21 世紀の保全生物学の中心と なる問題である。 まとめ パート 3 では個体群の個体数について、生態的問題の複雑な組み合わせについて考えた。 どのように個体群を正確に、定量的に扱うことが出来るだろうか、ということを示すため に個体群数学を用いた。ここに個体群生態学の長所と短所がある。なぜならある程度の動 態を示すために群集の中の他の種のマトリックスから個体群をまとめなければならないか らである。多くの個体群において、群集の中の他の種は隣人であり、個体群レベルの基準 の枠を広げる必要がある。このように、我々は生物群集全体を考えることと、どのように 分布と個体数が地球上の生物群集を構成するために相互作用するのかを追及することに導 かれた。これはパート 4 のテーマである 9 Summary 保全生物学は種の希少性と減少の生態に注目した学問である。保全生物学の 2 つの道筋 は、小さい個体群と小さいことの結果に注目したもの(the small-population paradigm)、減 少している個体群に注目したものである(the declining population paradigm)。 small-population paradigm は、偶発的な人口統計学的出来事(子孫が全て雄)、偶発的な 環境の出来事(洪水)、偶発的な遺伝的出来事(遺伝的浮動)など多数の不確実なものの問題で ある。全ての小さい個体群が保全の問題ではないが、小さいことは絶滅の可能性を増加さ せ、絶滅の渦に巻き込む。簡潔な理論は小さい個体群の危険性をうまく説明する。 declining population paradigm は、減少の生態的要因の解明と減少を止めるための計画 的な軽減対策に焦点を当てている。それは、ほとんど生態学的理論は含んでいないが、個々 の活動計画に焦点を当てている。絶滅しそうな植物や動物の個体群生態学を理解すること だけが、減少している個体群を救う計画を供給してくれる。いくつかの場合、たとえばア フリカゾウの場合は減少の原因が明らかである。他の場合、私たちは、計画を薦める生態 学的理論を持ってないとき、その行動計画の深い洞察が必要である。 絶滅は保全の根本の焦点であり、4 つの大きな原因がある。乱獲、生息地の破壊と細分化、 移入種、絶滅の連鎖である。最近の絶滅の主な原因は、生息地の破壊と移入種である。生 息地の減少は、絶滅の渦の引き金となる個体群の減少を導くので、生息地の保護は保全の 努力の主な目的である。現在、地球の陸地の 6∼7%が保護されているが、そのほとんどが 小さい。保護区のほとんどが大型哺乳類の個体群が生育できる十分な広さを持っていなく、 私有地における保全の努力は動植物相個体群を維持するために不可欠である。生息地の細 分化は農業や林業の影響の一面であり、個体群に有害な影響を与える。パッチ状に孤立し た個体群は絶滅するであろうし、もし再移入が起きなければ、その種は失われてしまう。 パッチ間の回廊は個体の分散を促進するが、幾つかの問題、例えば病気の広がりが回廊に よって悪化されることなどもある。パッチ間の連結を維持することは、保全生物学の重要 な目的である。 保全生物学の生態学的挑戦は個々の種に対して保全計画を発達させることである。一方 保全活動を広げるための政治的挑戦は、破壊から広い自然を守ることである。保護区なし で保全は不可能であるが、もし保全生物学が絶滅危惧種の生態的問題の挑戦を解決できな ければ、保護区があったとしても保全の成功の保証はない。 10 Key concepts 1. 保全生物学は絶滅危惧種に応用された生態学である。小さい個体群サイズの影響と個体 群の減少と絶滅の要因の 2 つのテーマがある。 2. 小さい個体群は人口統計学、環境のアクシデントおよび遺伝的浮動に関した偶然の出来 事が問題である。このような出来事は、適正の低下と最終的に絶滅に導く正のフィー ドバックの絶滅の渦の原因となる。 3. 減少している個体群は、減少の原因を究明する調査と、それに対応する調査が行われる べきである。絶滅危惧種の多くの詳しい情報は保全の成功のために必要とされる。 4. 主に、生息地の消失・細分化と本来いない種の移入の結果として絶滅は世界中で増加し ている。細分化された生息地をつなぐ回廊の供給は移動を促進するが、絶滅に瀕した 全ての種に有効ではない。 5. 保護区の設定は有効な保全方法の 1 つであるが、十分な広さがないと明確な管理なしで 大型哺乳類を保全することはできない。 6. 人口増加と自然群集の生息地の一連の消失が、近年の保全の危機の背景にある根本の原 因である。 11 Box19.1 有効集団サイズとは 遺伝学者と生態学者は個体群サイズについてまったく異なる見解を持つ。 個体群とは・・・ 生態学者:成熟、未成熟や繁殖の参加の有無に関係なく全ての生物 遺伝学者:次世代に遺伝子を伝える個体のみ 有効集団サイズ:個体群として遺伝的浮動を受けた理想個体群のサイズ。 遺伝的浮動:有効集団の配偶子の抽出の結果生じる集団の遺伝子構成の変化。 浮動は抽出の問題であり、抽出の問題は常に小さい集団でより深刻である。遺伝的浮動は 個体群構成の中に不規則な変化を生み出し、徐々にホモ遺伝子が増加し遺伝的多様性が失 われていく。 有効集団サイズ(Ne):各個体が次世代の遺伝子プールに等しく与えることができる大きさ 保全に対して重要な点は実際の個体群サイズと有効集団サイズの関係である。 1. 子供の数が違う場合 個体数 Ne = N 子供の数の分散 σ2 4N 2 +σ2 2. 繁殖に参加する性比が異なる場合 集団求婚(lek)やハーレムなどの繁殖システムや少数のオスだけが繁殖に参加する場合 Ne = 1 1 1 + 4 Nm 4 Nf Nm:繁殖に参加したオスの個体数 Nf :繁殖に参加したメスの個体数 3. 集団サイズが変動する場合 世代間で個体群サイズが変動する場合、有効集団サイズは小さくなる。 t世代のとき 1 1 1 1 1 = + +・・・+ Ne t N1 N 2 N t 有効集団サイズは小さな世代の影響を強く受ける これらはしばしば 3∼4 倍、またはそれ以上の格差で有効集団サイズはほとんど常に実 際の個体群サイズより小さくなるという一般概念の単純な例である。 12 Box19.2 インド洋、マリオン島における野生の猫の根絶後の海鳥の回復 特定の保全問題を解決するための declining-population paradigm の応用の例 問題:インド洋の南に位置するマリオン島には、穴の中で繁殖する 12 種の海鳥の繁殖個体 群が生息している。 1948 年、 5 匹の猫を導入←島に移入したネズミの駆除のため ↓1 年当たり 23%増加 1977 年 3045 匹 猫:穴を掘る海鳥 8 種の卵、雛、成鳥を捕食。海鳥の個体群が減少するに連れて、猫はネ ズミに注意を払うようになった。ハネナガミズナギドリは冬の長い期間繁殖し、他の海鳥 より大きな穴を使うので特別猫に弱かった。 原因究明:1975 年、猫は約 4800 羽のハネナガミズナギドリを殺し、近くの猫のいないプ リンスエドワード島の個体数と比較して相対的に希少になった。 1979 年 エドワード島(猫いない) マリオン島(猫いる) 33%の巣に雛がいる 1%の巣に雛がいる 導入された病気が猫を減少させたが、生き残った猫が再び増加した。猫を防ぐ囲い地の 外側では雛のいる巣はないが、内側では 50%の巣に雛がいる。この証拠により、海鳥を減 少させている要因が猫の捕食であることが明らかとなった。 回復処置:1977 年:猫伝染病(FLP)の導入 1982 年:620 匹まで減少 1986∼1990 年 952 匹の猫を排除(猟、罠) 1990 年:海鳥の雛の死亡率 0% 1991 年:猫の根絶 1992 年:ネズミの増加 13 Box19.3 分類群のための保護区選択のアルゴリズム 保全のための保護区選択の方法はたくさんある。保護区の目的が決まれば、どの地域が 最適であるか評価するための客観的なルールを明記すべきである。 Nicholls と Margules による保全のための保護区選択の方法 Step1 .可能な限り明確で本質的な目的を決める。 例)ユーカリノキ属のそれぞれの種において生息地の 10%を守る保護システムを作る Step2. これは選択を始める前にいくつかの場所の包括を許す選択のステップである。 例)すでに保護されている横の地域、希少種や絶滅危惧種が生息する保護区や国立公園 Steo3. 他の場所に生息しない種が生息する全ての地域を選択する。 Step4. すでに選択された地域に付加するとき、次に希少な種を見つけ、付加した種の多く が生息するか、その種が必要な分布域の 10%以上を占めている地域を選択する。 Step5. もし、まだ選択権があるなら、すでに選択された地域に最も近い場所を選ぶ。 Step6. もし、まだ選択権があるなら、まだ十分保護されていない種の大きな個体群が生息 する場所を選ぶ。 Step7. もし、まだ選択権があるなら、少ない比率で残っている最も希少な種の保護の対象 とする要求レベルを成し遂げる場所を選択する。 Step8. もし、まだ選択権があるなら、少ない比率で残っている種の最も希少な集団の保護 の対象とする要求レベルを成し遂げる場所を選択する。 Step9. もし、まだ選択権があるなら、その種の保護の対象とする要求レベルを成し遂げる のに必要な最小割合地域を含むか、もし、十分成し遂げる場所がなければその種の 分布の割合を最小にする場所を選択する。 Step10. もし、まだ選択権があるなら、最も小さい場所を選択する。 Step11. もし、まだ選択権があるなら、リストの中で最も適当な場所を選ぶ。 Step12. Step4 へ この場所選択に関する理論的方法は、利用できる場所のリストとその種がそこに存在し ていることを仮定している。 14 Essay19.1 減少している個体群の原因分析 実際の保全生物学の多くは減少している個体群の注意深い原因分析に頼っている。 Caughley はある種が絶滅に向かっていることを決定づける論理的な段階を示した。 1. その種が現在減少中であるか、以前はもっと広く分布していたか、もっと多くの個体が いたことを確認する。このことは個体群動態と分布の定量的・定性的評価を必要として いる。減少しているある種は普通種であるかもしれないし、希少種であるかもしれない。 もし、減少が続くようであれば両方とも保全の問題である。 2. その種の自然な遷移を調べ、その種の生態と現状についてあらゆる情報を集める。多く の種において公式、非公式様々であるが、相当量の背景となる情報が存在する。種に関 した情報はここで役に立つ。 3. もし、十分な背景となる情報があれば、考えられる減少の原因をすべてリストアップす る。これは多様な仮説を立てるためであり、すべての原因を考えるため広い捜査網を張 る。人間の活動減少の原因であるということを思い出すが、仮説を人間の要因だけに制 限してはいけない。 4. 各仮説の予想をリストアップし、異なる仮説から比較している予想を詳細に述べようと 努力する。その答えが科学や一般知識からすでにわかっていると決め付けてはいけない。 5. この要因が本当に減少の原因であるということを確証するために、最も確からしい仮説 を実験によって確かめる。しばしば、ある要因は減少と関連があるが原因ではない。よ い実験は減少の疑いをかけられた要因を排除するものである。 6. このような調査結果を危機的な種の管理に適用する。これは減少の問題が解決するまで 回復途中の個体群の監視も含んでいる。 すでに個体数の少ない絶滅危惧種にこのアプローチを適用するのは難しいが、選択の余 地はない。減少の疑いをかけられたあらゆる原因はすぐに排除されるべきであり、主原 因を正確に特定するために次の研究が着手されるべきである科学的な精錬を目指すよ り種を守るほうが良い。 15 Essay19.2 生息地の細分化と面積に敏感な種 生息地が農業や他の人間活動によって破壊されたとき、生息地の断片の配列は失われて しまう。種は細分化に敏感で劇的に変化し、保全の関心事である各種の中心的な問題は、 どのくらい小さい断片が首尾よく占有されるかということになる。良い例が南東オースト ラリアの小鳥ヒガシキバラヒタキである。この鳥は農業により破壊された残った森の大き さに敏感である。Doyle が 36 の森について、この鳥の有無と森の大きさを調べた結果、15na 以下の森には生息していなかった。よって多くの小さい森を保護することは、この減少し ている種を維持する手助けとはならないだろう。この面積に依存した生息の要因はわかっ ていないが、高い捕食か餌の不足が原因として予想される。 イリノイ州のコーンベルトには少しの草地しか残っていなくて、40ha 以上の草地は 9 つ しか残っていない。ソウゲンライチョウやクサチヒメドリ、マキバシギは 40ha 以上の草地 にのみ営巣する。これらの鳥は小さい草地を適した営巣地として認識せず、この生息地の 選択は農業地域における鳥の保全のための保護区デザインを示唆している。 16