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トピックス 「 新たな成長シナリオが求められる総合商社 」
トピックス (担当:副主任研究員:吉久 雄司) トピックス 「 新たな成長シナリオが求められる総合商社 」 副主任研究員:吉久 雄司 Email: [email protected] Tel: (03)3597-8448 Fax: (03)5512-7161 大手総合商社5社の連結業績(91年度=100) 1.「3つの過剰」解消に向け加速するリストラ 大手総合商社は、商品・機能・地域の「総合性」 をもとに高い信用力を確保し、仲介取引や金融、事 150.0 100.0 業投資など多様な活動を行ってきた。しかし現在は、 「商社中抜き(商社を経由しない取引)」の進行に加 えて、デフレによる取扱高減少、アジア向け投融資 商品市況低迷 50.0 0.0 売上高 の損失、保有有価証券の含み益減少など事業環境の 大幅な悪化で、「商社氷河期」ともいわれる状況に陥 っている。 売上総利益 -50.0 リストラ経費 株式評価損 当期利益 -100.0 92/3 こうした状況下で大手各社は、①人員の削減(ヒ 93/3 94/3 95/3 96/3 97/3 98/3 99/3 (注)三井物産、三菱商事、住友商事、伊藤忠商事、丸紅の計。 (資料)ニッセイ基礎研究所 ト)、②不採算事業の整理(モノ)、③有利子負債の 削減(カネ)という、「3つの過剰」の解消に向け、 総合商社の従業員数 リストラを本格化させている。 10000 人 (1)人事制度改革とセットで進む人員削減 三菱商事 9000 2000年度末までに 1000人削減 「人材」は総合商社最大の経営資源といわれ、商 社マンの給与水準は相対的に高い。しかし高度成長 期に大量入社した中高年層は過剰感が強く、その人 件費負担が非常に重くなっている。 8000 三井物産 伊藤忠商事 7000 早期退職インセ ンティブ制度実施 丸紅 6000 2000年度まで に900人削減 そのため大手各社は、中高年人材を対象に、かな り魅力的な条件の早期退職優遇制度(注1)を実施 住友商事 5000 2000年度までに400人削 減 し、バブル末期対比で2~3割程度の人員削減を計 4000 画している。 (資料)各社資料よりニッセイ基礎研究所 92/3 また同時に、従来の年功的な人事制度を見直す動き 三井物産 や職務給制度、年俸制の導入などで、成果や職務内容 三菱商事 住友商事 伊藤忠商事 職で全額一時金支給の場合、退職金は総額 1.1 億円といわれている。 ニッセイ基礎研究所 経済産業調査部門 11 95/3 96/3 97/3 98/3 99/3 ・職能資格制度を廃止、職務給制度を導入 ・年齢給、35 歳以上の定期昇給を廃止。 ・企業業績連動賞与の導入。 に見合った賃金配分を行い人件費総額を抑制するこ (注1)伊藤忠商事の「早期退職インセンティブ制度」では、45~46 歳の総合 94/3 大手商社の最近の人事・賃金制度改革の動き も拡がっている。その主なものは、業績連動型の賞与 とを目的としている。 93/3 ・上級管理職を対象に年俸制導入。 ・等級資格制度を廃止、職務給制度を導入 ・成果連動賞与の導入。 (資料)新聞報道等より Monthly Report 1999 年7月号 トピックス (担当:副主任研究員:吉久 雄司) (2)不採算事業会社の整理 大手商社は、仲介取引の確保や配当収入を目的に、 数多くの関係会社を設立し、様々な事業に進出して 総合商社の連結対象会社数 1100 社数 いる。しかし連結対象会社のうち黒字企業は現在6 伊藤忠商事 1000 ~7割で、素材型製造業や情報通信、アジア地域の 企業数を1/3削減 900 大口投資先には大幅赤字の企業も多い。不採算事業 三井物産 住友商事 800 が増加した要因としては、投資時の事業計画の甘さ 経営権を持つ企業を150社削減 700 や、管理スパンを超えて企業数が増加していること 丸紅 600 が挙げられる。 三菱商事 120社削減(売却40社、 統廃合40社、撤退40社) 500 そのため最近では、「3年連続赤字」など明確な 撤退基準を適用して、連結対象会社をハンドリング 400 可能な企業数に絞り込もうとする動きが目立って 300 いる。例えば住友商事は、投資先企業をリスク調整 200社削減 92/3 93/3 94/3 95/3 96/3 97/3 98/3 99/3 (資料)各社資料等よりニッセイ基礎研究所 住友商事の事業投資先の4象限分類 後のリターンと事業の成長性から4分類し、成長性 が低くかつリスク調整後リターンが資本コスト(注 成長性 良い 2)を下回っている企業(右図の第3象限)は整理 する方針を決定している。 保護観察 こうした方針が明確となった 99/3 期末には、連結 対象会社は横ばいないし微減に転じている。大手各 目標 社は2~3割程度の削減を計画しており、連結対象 成長率 牽引強化 先行投資事業 CATVなど 会社数は今後数年間でかなり減少することが見込ま コアビジネス 撤収準備 貢献促進 れる。 整理、売却 (注2)株主や金融機関など、資金提供者が要求する収益率。株 成長性低いが収益寄与 向上要 主資本コストと負債コストの加重平均で算出される。 向上要 良い 資本コスト リスク調整後リターン (資料)住友商事 (3)格付け回復に向けた有利子負債削減 総合商社は、大量の資金を外部調達して、 取引先に対する信用供与や事業投資、資金運 大手総合商社のD/Eレシオ 14 用を活発に行っている。そのため業種特性と 10 資本構成となっているが、従来は事業規模の 大きさや潤沢な有価証券含み益で信用力を確 8 6 4 資産の発生や、国内株式市場の低迷などに伴 2 い、総合商社の信用リスクは大きく高まって 0 けは大手5社とも格下げされ、D/Eレシ ニッセイ基礎研究所 経済産業調査部門 三菱商事 倍 しかし国内・アジアの景気低迷による不良 いる。その結果ムーディーズ社の長期債格付 丸紅 12 してD/Eレシオ(負債・資本倍率)が高い 保し、有利な条件で資金調達を行ってきた。 伊藤忠商事 三井物産 住友商事 91/3 92/3 93/3 94/3 95/3 96/3 97/3 98/3 99/3 (注)D/Eレシオ=(有利子負債-現預金)/株主資本で計算 (資料)ニッセイ基礎研究所 12 Monthly Report 1999 年7月号 トピックス (担当:副主任研究員:吉久 雄司) オが 10 倍を超える伊藤忠商事と丸紅は投機的等 総合商社の長期債格付け推移(年度末) 級(注3)に引き下げられている。社債格付けの Aa3 低下は、資金調達コストを上昇させ、金融活動を A1 制約するだけでなく、株価低迷の一因ともなって 投 資 適 格 いる。 三菱商事 A2 三井物産 A3 こうしたことから、有利子負債の削減による財 Baa1 務体質改善は急務となっており、各社とも不採算 Baa2 取引の見直しや債権流動化による営業債権の縮 Baa3 住友商事 丸紅 伊藤忠商事 小、資金運用規模の見直しや資産売却などに取り 投 機 的 組んでいる。そのうち伊藤忠商事と丸紅は、連結 Ba1 Ba2 ベースで有利子負債を1兆円規模削減する計画 Ba3 を進めている(ただし 99/3 期は負債削減ペース (資料)ムーディーズ社 95/3 96/3 97/3 98/3 99/3 99/6現在 以上に、収益悪化や株価評価損で自己資本が減少 し、両社ともD/Eレシオは悪化している)。 (注3)正確には「将来の安全性に不確実性があり投機的要素がある」というレーティング水準である。 2.求められるリストラ後の中期成長シナリオ (1)基本的には現行路線の延長、依然横並び的な中期計画 「3つの過剰」の解消に加えて、大手商社は経営資源を重点分野に集中投下して収益力を高める 方針を打ち出している。しかし現時点での大手商社の経営戦略は、基本的には現状路線の延長線上 にあり、依然として横並び的な色彩が強いと言わざるをえない。 たとえば最新の大手商社の中期経営計画をみると、商品・機能・地域の総合性というフルライン 体制は維持するとされており、下位商社で見られる事業分野の絞り込みは検討されていない(注4)。 重点分野として挙がっている分野も、情報産業、消費者向け事業、資源開発など多くが重複してお り、各社の特徴はつかみにくい。 (注4)総合商社最下位の兼松は、本体は食料・電子機械部門に特化し、その他の部門は分社化・撤退する計画を発表している。 最近発表された大手各社の中期経営計画 重点機能 重点分野・地域 伊藤忠商事「GLOBAL2000」 情報、物流、金融を複合して提供す 情報産業、生活・消費、金融ビジ 連結ROE10% (99~2000 年度) るソリューション・エンジニアリング ネス、資源開発、北米地域 連結利益 400 億円 消費市場、社会システム関連プロ 連結ROE10% ジェクト、高付加価値の素資材、 連結利益 500 億円 丸紅「ビジョン 2000」 - (98~2000 年度) 主要定量目標 資源開発 三井物産「中期経営計画」 物流、事業、金融を三位一体として 情報、エネルギー、プロジェクトエ (98~2000 年度) 融合 ンジニアリング、生活関連産業 三菱商事「MC2000」 情報・物流・金融機能によるソリュ 情報産業、エネルギー・資源、食 連結ROE8% (98~2000 年度) ーション・プロバインディング能力 糧・食品、プロジェクト開発 連結利益 800 億円 連結利益 650 億円 (資料)ニッセイ基礎研究所 ニッセイ基礎研究所 経済産業調査部門 13 Monthly Report 1999 年7月号 トピックス (担当:副主任研究員:吉久 雄司) また各社の中期計画では、今後の総合商社の重点機能として、一様に「物流・金融・情報機能の 融合」という考え方を示している。これは最新の情報・金融技術を導入して、従来の商社機能を再 構築、強化しようとするものである。しかし情報・金融先端分野のイノベーションは、総合商社の 改革スピードを大きく上回って進行しているのが実情であり、またそれらをいかに活用して収益に つなげていくかの説明は、各社とも抽象的で具体性に欠けている感がある。 (2)期待される成長シナリオの明確化 「3つの過剰」解消後の戦略が鮮明となっていないことは、大手商社のリストラに対する資本市場等 での評価が低い要因になっている。 現在資本市場等で評価されているリストラは、「Shrink to Grow(成長のための縮小)」と表現され るように、将来いかにして売上高や利益を増やすかの成長シナリオが、不採算事業からの撤退等とセッ トとなって具体化されているものが多い。一方大手商社のリストラは、「Shrink」策はかなり具体的だ が、「Grow」策である商社機能の強化策は抽象的なものにとどまっている。そのため大手商社は、早急 に中期的な経営スタイルとそこに至る具体的施策を策定し、積極的に対外アピールしていくことが必要 となろう。 ただし大手のなかでも財務体質の劣化が著しい企業もあり、総合商社の経営課題は一様でない。その ため今後大手商社がたどる道は、財務体質の格差や、取引基盤の強弱(注5)等により、自ずから分化 していくと思われる。具体的には、あくまで総合性を競争力の源泉として追求する「総合性の維持・発 展」路線(三井物産、三菱商事、住友商事の財閥系3社)と、幾つかの競争優位部門を選択し、経営資 源を集中して効率経営を目指す「選択と集中」路線(伊藤忠商事、丸紅)の2つのコースへの分化が予 想されよう。 (注5)各社が属する6大企業グループ集団全体の競争力・結束力や、グループ内における総合商社の相対的地位など。 二分化する大手総合商社の中期的方向性 98~99 年 (21 世紀) 90 年代初頭 リストラ(Shrink)策 成長(Grow)策 3つの過剰 人員削減 早期退職優遇 人事制度改革 撤退・投資決定 基準の明確化 二分化 バブル崩壊 事業会社整理 三菱商事、三井物産 住友商事 財務体質の格差 取引基盤の強弱 「総合路線の維持発展」 シナジー効果の発揮 物流・金融・情報機能 「選択と集中」 負債の圧縮 営業債権・運用 資産の削減 伊藤忠商事、丸紅 重点部門に絞り込み (資料)ニッセイ基礎研究所 ニッセイ基礎研究所 経済産業調査部門 14 Monthly Report 1999 年7月号