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5.7. 総合商社 1. 現状認識 (1) 業界の特徴 ① サービス分野における総合
5.7. 総合商社 1. 現状認識 (1) 業界の特徴 ① サービス分野における総合商社の位置づけ 従来、商社の物流機能は様々な産業分野の中核を担ってきており、特に国 内サービス分野においては欠かせない存在感を示してきた。また、我が国の サービス産業分野は生産性が低く、その向上が急務とされている中で、総合 商社による小売や金融、情報サービス、医療・介護等のサービス分野への事 業展開が見られるようになってきた。総合商社がこれら分野へ進出し、経営 ノウハウや顧客ネットワーク等の総合力、および資金力を活かすことで、サ ービス産業の生産性向上に寄与することが期待されている。 ここで論ずる課題と処方箋の対象となる「総合商社」とは、日本標準産業 分類細分類 4911「各種商品卸売業」に分類される事業を営む事業者のうち、 資源・エネルギーから食料品、医療や情報産業など複数の多様な事業領域へ 網羅的に事業参画し、資本金も 500 億円を超える商社である。 【各種商品卸売業トップ15社の資本金(2007年3月末日時点) 】 350,000 300,000 250,000 200,000 150,000 100,000 50,000 日立 ク テ イ ハ 長瀬産業 蝶理 住金物産 J F E商 事 岩谷産業 兼松 三菱商事 稲畑産業 三井物産 丸紅 豊田通商 双日 住友商事 伊藤忠商事 0 資本金 (百万円) D H ② 総合商社の生産性を向上させる必要性 前述の通り、近年総合商社が積極的に事業展開している小売や金融、医 療・介護等のサービス分野における生産性は、総合商社や製造業等の他業種 や諸外国と比較して低い水準にある。総合商社は、産業バリューチェーン全 体へ関与することによる原材料調達や物流コスト削減、顧客ニーズの的確な 情報収集など事業効率の優位性を活用することで、高い生産性を維持しなが ら対面業界(総合商社の顧客が属する業界)に事業参画することができるこ とを踏まえれば、総合商社の生産性向上による持続的成長のためには、事業 の選択と集中の促進やバリューチェーン全体への事業展開が必要となる。 他方、既存のサービス産業界は生産性の向上が急務とされているものの、 総合商社が同分野へ進出し、調達、物流、情報収集、顧客ネットワークなど の知識・能力を活用した新たな事業形態の導入や市場・収益規模の拡大、物 流・事業スピードの加速化など、産業全体の事業効率の向上にも影響を与え ると考えられる。 このような背景から、総合商社によるサービス産業分野への事業参画は、 収益源の多様化など総合商社自身の生産性向上につながる上、サービス産業 など対面業界の生産性向上まで波及することが期待されるため、総合商社の 129 生産性向上における課題や求められる方向性を検討する意義は大きい。 (2) 業界の現状 ① 市場環境 総合商社の連結総売上は平成 15 年まで縮小傾向にあったが、平成 18 年度 末までに約 80 兆円(大手7社1合計、連結売上高)まで回復しており、第三 次産業全体の年間売上高 946 兆円と比べても約1割の規模となっている。 120,000 100,000 第三次産業の業種別売上高割合(2007年度) 【総合商社7社の連結売上高の推移】 サービス業, 19.5% 96,408 総合商社 8.3% (184.6兆円) (78.7兆円) 82,517 80,000 74,054 72,305 74,178 78,967 68,098 66,201 67,731 64,333 電気業, 1.8% 60,000 (16.7兆円) 40,000 (67.6兆円) 運輸業, 7.1% 946.1 兆円 卸売・小売 業, 61.8% (584.5兆円) 情報通信 業, 6.2% 20,000 (58.9兆円) 不動産業, 3.6% 0 (単位:十億円) 97 98 99 00 01 02 03 04 05 (33.8兆円) 06 ※総合商社7社(伊藤忠商事、住友商事、双日、豊田通商、丸紅、三井物産、三菱商事)の単純合計数値。数値は有価証券報告書よ り引用。 ※双日は、'02年度までニチメンと日商岩井の数値を合算して算出 ※豊田通商は、'05年度までトーメンの数値を加算。 出所)総合商社の数値は有価証券報告書から引用。非製造業全体の数値は法人企業統計から引用。 ※法人企業統計には、金融・保険業は含まれていない。 ※総合商社本体は卸売業に分類されるが、連結対象事業会社については各業種別に分類されているた め、グラフ上は卸売とその他にまたがる様に表示した。 また、企業別に国内他産業と比較すると、売上高上位 20 社に総合商社7 社が位置付けられており、事業規模の大きさは顕著である。 国内企業連結決算売上高上位20社(2007年度) 単位:兆円 30.0 25.0 単位:兆円 23.9 20.5 20.0 15.3 15.0 11.5 11.0 10.7 10.5 10.4 10.2 10.0 9.5 9.1 8.2 5.0 双日 富士通 東京電力 セ ブ ン & ア イ ・ホ ー ル デ ィ ング ス 三 菱 U F J フ ィナ ンシ ャ ル ・グ ル ー プ 豊田通商 新日本石油 ソ ニー 東芝 丸紅 松下電器産業 日立製作所 住友商事 日産自動車 ホ ンダ 日本電信電話 三井物産 伊藤忠商事 ト ヨタ自 動 車 三菱商事 0.0 7.1 6.6 6.2 6.0 5.3 5.2 5.2 5.1 収益の観点では、過剰債務による過大な金利負担の結果収益が圧迫されて いたが、ネット負債比率が平成9年の 7.1 倍から平成 18 年には 1.6 倍まで 低下するなど、各社の財務体質改善努力により業績が回復した。当期純利益 は過去 10 年間で 46 倍(1兆 3,300 億円増)の増益を達成しており、近年の 総合商社業界は好調である。 1 大手7社:伊藤忠商事、住友商事、双日、豊田通商、丸紅、三井物産、三菱商事の7社(五十音順)。 130 (単位:倍) 8.0 【総合商社7社の売上高と当期純利益の推移】(単位:十億円) 1,600 <総合商社7社のネット債務資本比率(DER)の推移> 7.1 7.0 1,361 1,400 7.0 1,200 6.3 6.0 973 1,000 5.6 5.1 5.0 5.0 800 600 4.0 3.6 400 3.0 2.9 200 2.0 1.9 1.6 1.0 276 244 75 29 0 142 2 -108 -236 -200 -400 0.0 97 98 99 00 01 02 03 04 05 97 06 98 99 00 01 02 03 04 05 06 ※総合商社7社(伊藤忠商事、住友商事、双日、豊田通商、丸紅、三井物産、三菱商事)の単純合計数 ※総合商社7社(伊藤忠商事、住友商事、双日、豊田通商、丸紅、三井物産、三菱商事)の平均 値。数値は有価証券報告書より引用。 数値。数値は有価証券報告書より引用。 ※双日は、'02年度までニチメンと日商岩井の数値を合算して算出 ※双日は、'02年度までニチメンと日商岩井の数値を合算して算出。 ※豊田通商は、'05年度までトーメンの数値を加算。 ※豊田通商は、'05年度までトーメンの数値を加算。 しかしながら、近年の総合商社の連結当期純利益において資源関連分野が 占める比率は 50%を超える水準で高止まりしており、急速な業績回復が資 源・エネルギー分野など特定事業分野の業績向上に支えられていることが解 る。 【総合商社5社の当期純利益における資源関連分野の比率】 1,400 70.0 1,200 60.0 1,000 50.0 非資源 800 40.0 資源 比率(右軸) 600 30.0 400 20.0 200 10.0 0 (単位:十億円) 0.0 02 03 04 05 06 (%) ※総合商社5社の合計数値。(有価証券報告書より引用) ※資源には、エネルギー、金属を採用。 総合商社は、今後も生産性向上による持続的な成長を堅持していくために は、財務の健全性維持に留意しながら効果的に投資拡大を促進し、高収益事 業分野への継続的な投資活動に加え、これまで事業の傾注度合いが低かった サービス産業など非資源分野への積極的な新規事業拡大による「収益源の多 様化」と「収益の安定化」を達成することが課題である。 ② 産業構造 総合商社の産業構造の特徴として、親会社は戦略企画機能に特化しながら 実際の事業は事業会社を設立して行い、事業からの撤退と共に当該子会社を 生産するという事業形態が挙げられる。その結果、総合商社の連結子会社数 は他に類を見ない規模にまで増加し、事業整理と効率化の観点から、事業会 社の選択と集中が総合商社共通の課題である。 近年、不採算事業からの撤退やグループ内外企業間における重複事業統合 などのリストラ等、総合商社各社の収益改善努力により事業会社の選択と集 中が進み、事業会社の整理・再編は一定の成果を見せているが、連結対象子 131 会社の数は過去5年間においてほぼ横ばいとなっており、平成 19 年9月現 在でも未だ 4,000 社を超えている状況である。 【総合商社連結対象子会社数の推移】 (会社数は有価証券報告書より引用) 5,000 4,500 4,000 3,500 3,000 2,500 2,000 1,500 1,000 500 0 三菱商事 三井物産 丸紅 豊田通商 双日 住友商事 伊藤忠 2004/3 2005/3 2006/3 2007/3 2007/9 ③ 雇用環境 総合商社の平成 19 年度の従業者数は、連結対象子会社を含めると約 27 万人であり近年増加傾向にあるが、親会社単体でみると約3万人であり、減 少傾向となっている。これは、親会社から連結対象子会社へ業務と人材を「外 だし」した結果と推察される。 特に、事業の中心が従来の「物流の仲介業務」から連結対象子会社を通じ た「事業投資型」に移行していることに伴い、従業員に求められる素養・能 力も新しい事業形態に即したものに変化している。仲介業務では取扱商品に 対する目利き力や特定の産業分野に特化した知識・能力が求められていたが、 近年の事業投資型業務には、事業会社の経営・運営能力に加えて、原材料調 達から製造・加工、商品企画や顧客へのサービス提供まで、サービスの川上 から川中・川下までの所謂「バリューチェーン」全体にわたる高い専門性が 求められるようになってきており、従来必要とされていた能力では十分に対 応できていないのが現状である。 今後求められる人材像 かつて求められた人材像 ¾「仲介業」に適応した人材育成 −目利き力の重視した人材育成(マネジメント力の欠如) −純血主義(現地採用人材の活用が不十分) −特定分野に特化した育成プロセス ¾国内外の事業会社を経営できるマネジメント力 ¾日々変化する事業モデルに対応する柔軟性 ¾事業に関する専門知識 また、海外展開の進展に伴い、現地の法規制や雇用制度等、現地事業会社 運営に必要な知識を有する現地人役職員の確保・育成が急務となっており、 今後予測される更なる海外展開に対応するためにも、海外で雇用する外国人 従業者数は引き続き増加することが見込まれる。 国内に置いても、従業者数は新卒採用を中心とした人材の内製化が主流で あったが、近年の「必要とされる人材像の変化」により、中途採用や再雇用 等による「人材の多様化」の動きが見られる。 (3) 生産性の現状 ① 総合商社における生産性計測指標 総合商社では、経営判断における生産性を測る指標として、総資産利益率 (ROA)や株主資本利益率(ROE)、リスクリターン(事業のリスクが現 実のものとなった場合に生じ得る最大損失可能額)が主な指標として用いら 132 れており、労働生産性(従業員一人当たり付加価値額)は指標として採用し ていない。これは、総合商社の事業が「事業投資型」に移行する過程で、投 下する資本や資産に対してどれだけの利益率を確保しているのかという観 点から事業判断をするようになったためで、投資家からのニーズを反映した 結果でもある。 特に総合商社は、リストラを通じて資産の健全化を進めてきており、今後 は保有資産の流動性の確保と、収益効率の高度化が重要となる。事業投資の 資金調達については、デットファイナンスとエクイティファイナンスの間で 流動的であるため、エクイティを基軸とした指標より、事業の資産を基軸と した ROA が重要な指標となる。 また、川中から川上・川下へ、国内需要から海外需要へなど、総合商社が 事業領域を拡大する中で生じるリスクの規模と種類が多様化したため、全社 レベルでのリスクの可視化と最適化のために ROA や ROE といった一般的 な経営管理指標に加えて、約 10 年前からリスク・リターンの考え方が、主 流となっている。 生産性を捉える対象範囲については、総合商社単体を対象とした指標は採 用していない。総合商社の生産性は、事業会社を含む「連結ベース」で捉え られており、ビジネスユニットや事業部門など、所謂セグメントよりも小さ な単位で各事業分野毎に事業判断をしている。 【総合商社の経営判断指標対象のイメージ】 総合商社グループ <親会社> 物流・金融 合併 <子会社> 数百社 食料品 金 属 機 械 化学品 生活産業 ・・・・・・・・・・・・ <孫会社> ② 総合商社における生産性の現状 総合商社という業態は、他国にはない我が国独自の業態であり、欧米諸国 の企業と生産性の高低を比較することは難しい。 ROE や ROA 等の一般的な指標に基づいて国内企業と比較してみると、 ROE では 14.6%、ROA では 3.0%となっており、特に ROE は他のサービス 業界と比べて最も高い水準にある。 133 【サービス業における業種別ROE(2005)】 16.0 14.7 【サービス業における業種別ROA(2007)】 14.6 8.0 14.0 12.0 9.7 8.7 8.0 5.4 4.8 5.0 7.9 7.8 7.5 % % 6.0 10.5 10.0 6.5 6.0 4.0 4.2 3.2 3.0 4.3 4.0 2.8 3.3 2.3 そ の他 サ ー ビ ス業 総合商社 教 育 ・学 習 支 援 業 医 療 ・福 祉 広 告 ・そ の 他 事 業 所 サ ー ビ ス業 リ ー ス業 物品賃貸業 生 活 関 連 サ ー ビ ス業 娯楽業 宿泊業 不動産業 飲食店 小売業 運 輸 業 ︵集 約 ︶ 出所)対象の企業は2006年8月1日現在全国証券取引所(ヘラクレスを含む)に上場し ており、1994年4月期から連続して連結データを取得可能な、銀行、証券、保険を除く 1345社。4月から翌年3月末までに終了する決算期を同一年度として個別企業の連結 データを年度換算した後、集計している。今期は2005/4期から2006/3期。 ※総合商社のみ2007年度の数値を使用。 卸売業 情報通信業 サ ー ビ ス ・バ ス 総 合 商 社 ガ ス 電 力 倉 庫 通 信 空 運 陸 運 鉄 道 小 売 業 不 動 産 0.0 1.2 1.0 0.6 1.0 0.5 2.9 3.0 2.8 2.6 2.0 2.0 0.0 7.5 6.5 7.0 出所)法人企業統計 ※総合商社7社の合計数値。数値は有価証券報告書から引用。 (4) ユーザーからの評価 ① 個別企業の視点 ユーザーが総合商社に求めている機能としては、主に「物流」「情報収集 能力」「調達ロジスティクス能力」「ビジネスネットワーク」「経営ノウハ ウ」「人材供給」等が挙げられる。特に海外事業参入に際しては、総合商社 の「事業経営ができる人材」と「事業における専門性」が期待されている。 具体例:海外における自動車小売りへの展開 ロシアにおける自動車小売企業に対して、ロシア語が堪能かつ経営の経験が豊富 な人材を社長として派遣することにより、経営経験やマーケティング能力および川 下(消費者)からのニーズを着実につかみ、事業戦略に反映した結果、販売台数が 前年度比2倍に増加し、自動車のブランド構築も達成するという成果がみられた。 参入前 参入後 販売台数の伸び悩み 消費者ニーズの不十分な把握 販売台数の倍増 ブランド構築 人材派遣 経営能力・専門性 消費者ニーズの把握 販売車種の多角化 総合商社 ② 業界全体の視点 業界全体で考えた場合には、総合商社がサービス産業等に参入することで、 飽和した市場を再編することが期待されている。総合商社の優位性を活用し た新たな事業形態の導入や市場・収益規模の拡大、物流・事業スピードの加 速化などにより、ユーザーが属する対面業界においても競争が誘発され、事 業モデルの革新に向けた気運が醸成されることで産業全体の事業効率が向 上する「触媒効果」が期待される。 具体的には中小事業者等の適切な淘汰と新たな業種・業態への転換を促進 し、業界全体の生産性を高めることや、新たなバリューチェーンを創造し、 効率化と全体の付加価値向上を支援することなどが考えられる。 134 2. 生産性向上に向けた課題 (1) 総論 総合商社が持続的な成長を堅持するためには、財務の健全性維持に留意しな がら効果的に投資拡大を促進し、高収益事業分野への継続的な投資活動に加え、 これまで事業の傾注度合いが低かったサービス産業など非資源分野への積極 的な新規事業拡大による「収益源の多様化」と「収益源の安定化」を達成する ことが課題である。 (2) 外部要因 総合商社が海外事業展開を検討する際に諸外国の外資規制や我が国とは異 なる現地国内法規制が参入障壁となる場合が少なくない。総合商社の海外事業 展開を効率的に推進するためには、諸外国との規制緩和交渉や法制度整備支援 などによる「事業環境整備」が肝要である。 国内においても、所謂個人情報保護法などの消費者保護に関する規制や各種 業法、企業の法令遵守に対する要請などは、過度な規制による市場の自由な競 争や生産性向上の阻害、事業コストの増加につながる可能性が指摘されている。 企業の効率的な事業運営のため、国内法規制についても生産性向上の観点が採 用されることが望まれる。 (3) 業界・個別企業要因 総合商社は、従来の物流仲介業務に加えて、原材料調達から小売やサービス など、産業バリューチェーンの川上から川下まで全体に関与することで、「個 別最適経営」から「全体最適経営」へ移行することが可能となる。特にサービ ス産業分野は、総合商社の参入が比較的少なく、当該分野への積極的な事業展 開が望まれる。 また、総合商社各社が関連事業会社の統廃合を進めてきたことは既述のとお りだが、依然として 4,000 社を超える事業会社が存在しており、事業効率には 未だ改善の余地がある。各社の努力に加え、総合商社業界全体および業界外企 業も含めて、事業の効率化を図ることが課題である。 さらに、日々変化し常に新しいビジネスモデルに対応することが求められる 総合商社においては、従来の人材能力のみでは十分に対応できないことから、 人材育成の見直しと即戦力の確保が課題となる。 3. 生産性向上に関する基本的方向性 (1) 総論 総合商社の生産性向上に関する基本的な方向性としては、以下が挙げられる。 ① 効率的な事業投資拡大 総合商社は、過去に投資した不採算事業からの撤退に伴う資産圧縮やリス トラによる損益改善を進めてきたが、依然として成長分野以外の資産を抱え ており、財務の健全性を保ちながら効果的に投資を拡大し、収益を拡大して いく必要がある。 ② 非資源分野での業績拡大 近年の総合商社の業績回復は、資源分野の価格高騰など、特定事業分野に 135 依存している面が大きく、収益源の多様化と収益の安定化を図るため、非資 源分野への事業展開と業績の拡大が必要である。 【総合商社の生産性向上に関する基本的方向性】 【要因】 【課題】 【対策】 ■ グローバル展開 ●持続的成長の確保 →収益源の多様化 ●CSRとコスト管理 →国内諸規制への対 応 ■ 国内サービス産業(対 面産業)への参入 戦略的な経済協力政策を推進し、総合 商社の海外における事業展開を支援。 ■ 法制度整備支援 政府間の規制緩和交渉の推進 個別サービス分野における事業環境整備 のあり方を検討。 政府としての取組み ●バリューチェーンの 川上部分への展開 →海外での原材料調 達等 ■ 規制緩和 ■ 事業再編 ●ビジネスモデルの変 化への対応 →求められる人材像 の変化 ■ 人材の確保・育成 産活法に基づく事業分野別指針の策 定により、事業の統廃合を促進する。 個別企業の取り組みのベストプラクティ スを業界内で共有。 業界・個別企業の取組み ●収益体質の改善 →不採算事業からの 撤退 →事業の選択と集中 (2) 政策として取り組むべき方向性 ① グローバル展開支援 総合商社の海外事業展開を促進するため、円借款の活用や官民パートナー シップの強化等、戦略的経済協力政策を推進し、総合商社の事業環境整備を 通じて、グローバル展開を支援する。 1.円借款を効果的に活用したインフラ整備の推進 ・円借款を活用し、我が国企業のニーズを踏まえた産業・物流インフラの整備を 重点的に支援。 → 現地大使館やODAタスクフォース等を通じ、アジア諸国との対話の枠組を強化 → 「国際物流競争力パートナーシップ」行動計画(2006年12月)の実施 ・中でも、タイド円借款(STEP:本邦技術活用条件)により、日本の優れた技 術・ノウハウを普及。 2.ODAと民間資金との連携/官民パートナーシップ(PPP)の強化 ・途上国における膨大なインフラ需要に対応し、民間資金を活用したインフラ 整備を推進。 ・ODAとの連携も念頭に置きつつ、公的信用機能の活用や政策対話・セミナー 等を通じて支援。 ② 法制度整備支援 総合商社が海外での事業を検討する際の参入障壁を軽減するため、我が国 および企業が有する制度や技術を普及し、事業環境の改善を図る。 136 1.ODAを活用した法制度整備・執行強化への支援 我が国経済界のニーズを踏まえた重点分野について、経済連携協定(EPA)や二国間投資促進 枠組等を通じて制度インフラの整備・執行強化を働きかけるとともに、各省連携の下で技術協力を 活用した支援を重点的に行っていく。 課題抽出 ・知財・投資等に係るEPAに基づく対話枠組との連携 (「知的財産」「ビジネス環境整備」に係る小委員会) ・投資環境整備のための官民対話「行動計画」 (インドネシア、ベトナム) 知財・投資に係る経済法制度のニーズへの対応に 加え、基本法分野についても連携して支援・協力 途上国への働きかけ 2.我が国の優れた制度・技術のアジア展開(「アジア標準」化) 我が国の産業発展の基盤を果たした制度や技術をアジアに体系的に展開すべく、技術協力を重 点化する。一部の国で制度構築に成功したモデル(中小企業診断士、公害防止管理者制度、情 報処理技術者制度)を各国に展開していくとともに、物流分野、リサイクル分野等新たに「アジア標 準」化に取り組むべき分野を選定して重点的に取り組む。 ③ 事業再編支援 総合商社の課題である、グループ内外における重複事業の解消と不採算事 業からの撤退、および新規事業分野への参入を促進するため、産活法に基づ く事業分野別指針の策定により側面支援する。 総合商社の産活法活用事例 今後の産活法活用ニーズ 事業分野別指針の策定 <双日> ○経営統合に伴う持株会社設立(2003年) ○増資(2003年)・合併(2004年) →登録免許税の減免 ○増資(2004年) →登録免許税の減免 ○子会社の本社への吸収合併(2006年) →登録免許税の減免 <豊田通商(旧トーメン)> ○増資(2003年) →登録免許税の減免 <丸紅> ○事業革新設備投資(2002年) →日本政策投資銀行の融資 ○増資(2003年) →登録免許税の減免 →日本政策投資銀行の融資 <三菱商事> ○鉄鋼部門分社化(2003年) →登録免許税の減免 →日本政策投資銀行の融資 不採算事業からの撤退 重複業務の事業統廃合 商社参入による業界再編 (3) 業界・個別企業として取り組むべき方向性 ① 産業バリューチェーン全体への事業展開 総合商社は、サービス産業バリューチェーン全体へ包括的に関与し、多面 的な事業経験に基づく総合力を最大限に活かしながら事業モデルを確立し ていく必要がある。 具体的には、従来の物流の仲介業務に加え原材料調達(川上)から小売流 通・サービス事業(川下)まで関与することで、原材料調達における購買ス ケールメリットや物流システムの共有によるコストの低減が可能となり、さ らに小売やサービス顧客ニーズの的確なフィードバックと、それに対する価 格や生産量の調整、在庫管理などの対応の柔軟性を確保することで、バリュ ーチェーンの「部分最適」から「全体最適」の経営に移行することが可能と なる。 137 総合商社の参入によるバリューチェーンの拡大イメージ スケールメリット 川上 川下 従来の総合商社 川上への進出 <グローバル展開> <法制度整備支援> 原料調達 資源 エネルギー 穀物 肥料 川下からのフィードバック 川中 輸送 川下への進出 卸流通 小売流通 サービス事業 医療 金融 情報サービス バリューチェーン拡大 の触媒機能 •市場、収益規模の拡大 •効率的ビジネスモデルの導入 •物流、事業展開スピードの加速 また、総合商社の持つ物流、情報収集、コンサルティングなどの知識、事 業経営人材派遣やビジネスパートナーの紹介などのネットワークや事業投 融資などの金融機能等、既存のサービス産業界には不足している総合商社の 優位性を活用し、対面業界のバリューチェーンの創造・変革や効率化、市場 の拡大を図りつつ、適切な事業運営とコスト管理によって、サービス産業界 から安定的に収益を回収することが可能となる。 さらに、総合商社の優位性を活用した新たな事業形態の導入や市場・収益 規模の拡大、物流・事業スピードの加速化などにより、対面業界においても 競争が誘発され、産業全体の事業効率改善が期待される。 ② 事業の選択と集中の推進 総合商社は関連事業会社間の業務重複などの課題を踏まえて積極的な整 理統合を進めてきたが、依然として連結対象子会社は 4,000 社を超えており、 不採算事業からの撤退や事業統廃合など、更なる事業効率の改善余地が残っ ている。特に連結対象企業の子会社など、多重組織構造の下層に属するよう な小規模事業会社には企業統制管理が行き届きにくいため、事業管理体制を 再徹底すると共に、組織の最適化を進める必要がある。 今後も「全体最適」の観点から事業の収益性を再評価したうえで、グルー プ内関連企業の整理を推進すると共に、他業界を含めたグループ外企業との 重複業務についても統廃合を促進するなど、事業効率の更なる向上と競争力 の強化が必要である。 【総合商社グループ外企業との事業統廃合イメージ】 総合商社グループA 総合商社グループB <親会社> <親会社> 情報 食料品 食料品 <子会社> 金 属 <子会社> ・・・・ ・・・・ 138 ③ グローバル経営人材の確保 既述のとおり、総合商社のビジネスモデルは、従来の物流仲介業務から事 業投資に移行してきており、事業会社の経営、収益性の再評価による事業投 資先の判断や新規事業分野の開拓など、業務環境は大きく変化している。 これらの変化に伴い、総合商社ビジネスに求められる人材像は、従来の仲 介業に適応した人材から①新規分野の開拓ができる、②川上から川下までバ リューチェーン一連の専門知識を持つ、③事業経営できるマネジメント力を 持つ人材に変化してきている。 今後、新たな事業モデルに求められる人材を確保するため、総合商社各社 は人材育成制度の見直し等を積極的に実施し、事業会社の経営などを通じた 役職員の経営能力と専門知識の向上を図る必要がある。また、より高い専門 性が求められる海外事業展開等に適正に対応するため、海外現地人材の採用 と主要ポストへの登用を促進するとともに、中途採用、再雇用など業務経験 が豊富な人材の活用を通じて、人材の多様化を促進する必要がある。 ④ 国内のサービス分野における新規事業開拓 持続的な成長を可能にするため、総合商社は資源・エネルギーなど特定の 高収益分野に偏ることなく、限られた経営資源を有効活用しながら、これま で事業参画が手薄であった新しい分野での事業開拓・参入を検討する必要が ある。 特に、総合商社は医療・介護、金融、環境などを含めた「サービス産業分 野」への事業参画が遅れており、当該分野に対する新規事業参画が期待され る。総合商社が有する高い物流機能と情報通信技術の導入により、物流シス テムの高速化に加え、サービス品質評価や電子商取引、電子タグ基盤の整備 等による事業の効率化など、全産業領域との接点や世界的事業ネットワーク、 ビジネスにおける企画・提案や物品・サービスを包括的に管理できる強みを 活かした、新しいビジネスモデルを構築・導入することで収益源の多様化を 図りながら生産性の向上を達成することができる。 ⑤ 新しい分野での海外事業展開 海外におけるビジネス機会は、資源分野だけでなく、小売や医療など非資 源分野においても拡大している。特に海外での原材料調達等、総合商社の優 位性が発揮できる分野において、既存物流網の活用などによる費用対効果向 上や、調達スケールメリットの効果が見込まれる。 139