...

病弱児に対するクラスメイトの共感性の向上のための プログラム開発と

by user

on
Category: Documents
9

views

Report

Comments

Transcript

病弱児に対するクラスメイトの共感性の向上のための プログラム開発と
病弱児に対するクラスメイトの共感性の向上のための
プログラム開発とその実証に関する経過報告
(課題番号 21730721)
平成 21 年度-23 年度科学研究費補助金若手研究(B)研究成果経過報告
平成 21 年 3 月
研究代表者 平賀 健太郎(大阪教育大学)
本 WEB サイトの作成の一部にあたっては,上記の科学研究費補助金の助成を受けた。
【目的】
1.病弱教育の現状
近年、小児医療のめざましい発展により、病弱児の病気の治癒率は確実に高まり、患児
が前籍校に復帰する機会が増加している
(松井,1991)
。
それと共に、
病弱児の QOL
(Quality
of Life)の向上に関しては、以前に増して高い関心が向けられるようになりつつある(横
田,1997)
。しかしながら、入院中の病弱児の QOL 向上を目指した研究が増える一方、前
籍校に復学した際の病弱児が、高い QOL を保ちながら学校生活を送るための要因を扱っ
た研究はまだ少ない。今日、病弱児の約 80%が通常学級に在籍しているという現状も踏ま
え、通常学校での病弱教育の推進は緊急の課題だと考えられる。
2.クラスメイトが病弱児を理解することの重要性
病弱児が長い入院生活を終え、前籍校で安心して学校生活を送るためには、入院中から
の前籍校とのつながりが大切であるが(萩庭,2009)
、特に、同年齢集団であるクラスメ
イトの病弱児への理解や支援は、病弱児の通常学級での適応に重要な役割を果たしている
と考えられる。Benner&Marlow(1991)もまた、病弱児が前籍校に復学するときの大き
な手助けになるものが、クラスメイトの受容であると主張している。
3.共感性の育成が求められる理由
通常学級の子どもたちが、病弱児に対する支援が自然な行為であると認識したり、病弱
児の気持ちを理解したりするために、まずはクラスメイトの「共感性」を育むことが必要
であると考えられる。
「共感性」を、ある種の「思いやり」や「優しさ」といった感情とし
て、同一概念と捉える見方も存在することから(久保井,2006)
、病弱児が在籍する通常学
級の子どもたちに、病弱児に対する共感性を育むことが、病弱児が自然な形で周囲からの
援助を受けやすい環境を作る手助けになると推察される。
4.病弱児の理解教育の困難さ
一般的に、
障害理解教育は幼児期から行われる必要があると言われているが
(水野,2009)
、
病弱教育の分野での障害理解教育の研究・実践数は他領域に比べると格段に少ないのが現
状である(谷口,1999)
。さらに、小学生を対象とした病弱児の理解教育について考えたと
き、先行知見は見当たらない。その理由として考えられるのは、やはり、対象者の年齢云々
の前に、病弱教育自体が周知されていないということが挙げられる。さらに、子どもの発
達段階を考えたとき、目に見えやすい障害の方が、より子どもたちに理解されやすいとい
う傾向があるということも理由のひとつと考えられる。
5.デジタルコンテンツの有用性
小学生への病弱児の説明の方法であるが、本研究では、病弱児の理解教育を行う際のひ
とつのツールとして、デジタルコンテンツの使用が有用であると考える。デジタルコンテ
ンツを活用した授業展開では、知識・技能に加え、思考力や表現力、コミュニケーション
能力などの子どもたちに必要な能力が効果的に培われることを目的として使用されている。
また、デジタルコンテンツでの授業展開は、子どもたちの意欲喚起や理解力向上に効果が
あるといわれている。
6.デジタルコンテンツ“ココロココ”について
通称“ココロココ”
(病気の子どもとその周りの人々のためのデジタル絵本)は、2002
年に文部科学省教育用コンテンツ開発事業で開発された。このコンテンツは、インターネ
ットを通して無料で誰でも見ることができるデジタル絵本である。対象は、病気の子ども
とその家族、クラスメイトや教師など病気の子どもを取り巻く人々全員である。内容は、
病気の理解や入院の様子などがアニメーションにより分かり易く構成されている。開発に
関わった人たちは、研究者、医師、教師、臨床心理士、作家、声優、技術者など多方面の
専門家たちで、原案から完成まで一丸となって開発に携わっている。
7.小児がんの子どもとトータル・ケアの必要性
谷川・稲田・駒松・壬生・斎藤(2000)は、小児がんの子どもたちにとって現代が、
「治
ればよい、他のことには目をつぶる時代」から、
「治るのが第 1 目標であるには相違ない
が、いかに治って普通の生活に戻るかが問われる時代」となってきたと述べている。それ
に伴い、新たに解決すべき心理社会的問題も出現してきた。小児がんの子どもをサポート
するためには、病気だけでなく、このような子どもを取り巻くあらゆる問題に関して、可
能な限りの支援を行っていく「トータル・ケア」が不可欠である。
8.21 年度の目的
以上のように、21 年度では、通常学級の健康な子ども対象にデジタルコンテンツを使用
した授業を実施し、授業前と授業後の病弱児に対するクラスメイトの知識・意識の変容を
比較し、検討することを目的とする。
【方法】
1.参加者
2009 年 5 月に A 小学校の第 3 学年全児童に、各担任を通して研究参加の依頼をした。
参加者数は、1 組が 40 名(男子 20 名・女子 20 名)
、2 組が 39 名(男子 18 名・女子 21
名)である。
2.調査スケジュール
前期(21 年 7 月)
介入クラス(n=32)
質問紙
授業実施
待機クラス(n=28)
質問紙
授業なし
後期(21 年 10 月)
3 カ月
質問紙
授業なし
質問紙
授業実施
3.効果指標
①「入院中の病弱児に関する理解尺度(
“ココロココ”の「友だちが入院したら」に含ま
れる内容の中から、病気の友達の入院中の気持ちや、クラスメイトとして入院中の友だち
にできることを、6 項目設定した)
。②「復学後の病弱児に関する理解尺度(
“ココロココ”
の「友だちが学校に戻ってきたら」に含まれる内容の中から、病気の友だちの復学前後の
気持ちや、クラスメイトとして復学前後の友だちにできることを 3 項目設定した。③登張
(2005)の他者指向的反応尺度の中から 11 項目中 7 項目を用いた。使用される表現を、調
査協力校との協議によって、使用される項目が決定され、小学 3 年生に理解される内容に
改めた。各項目に対して、
「まったくそう思わない」から「とてもそう思う」の 4 段階評定
にて回答を依頼した。両尺度とも各項目に対して、
「まったくそう思わない」から「とても
そう思う」の 4 段階評定にて回答を依頼した。
【結果】
1.クラス別における評定時期の各尺度得点比較
①「入院中の病弱児に関する理解尺度」
,②「復学後の病弱児に関する理解尺度」③「病
弱児への共感性に関する理解尺度」のそれぞれについて、
(介入クラス・待機クラス)と評
定時期(前期・後期)の 2 要因の分散分析を行なった。その結果、いずれも交互作用が認
められ、前期の評定においては、クラス間で差は認められないが、後期の評定においては、
介入クラスの方が待機クラスよりも有意に高かった(p <.05)
。また、介入クラスにおいて
は、前期の評定よりも、後期の評定の方が有意に高かったが、待機クラスにおいては、評
定時期において差は認められなかった。
2.自由記述欄
質問内容は、質問①が“入院中の病気の友だちのために、みんなは何ができるかな?”
というもので、質問②が“病気の友達が学校に戻ってきたよ。みんなは何ができるかな?”
というものである。自由記述に関しては、授業内容と並行したワークシート(ココロココ
パスポート)を使用した。集計では、質問①と質問②に関して、同意義だと思われる回答
を項目別に集計した。
質問①
質問②
一緒に遊ぶ
お見舞いに行く
会話をする
手紙を送る
思いやる
ビデオを送る
退院祝いをする
会話をする
勉強を教える
勉強を教える
仲良くする
クラス新聞・学級便りを作る
その他
その他
0
2
4
6
8
10
12
人数(人)
14
16
18
20
0
2
4
6
8
10
12
14
16
人数(人)
【考察】
1.総合的な考察
本研究では、通常学級の健康な子ども対象にデジタルコンテンツを使用した授業を実施
し、授業前と授業後の病弱児に対するクラスメイトの知識・意識の変容を比較し、検討す
ることを目的とした。分析の結果から、本研究のデジタルコンテンツを用いた授業実施に
より、授業実施前と実施後では、子どもたちの病弱児に対する、入院中項目・復学後項目・
共感性項目の全ての側面において、介入効果が認められた。つまり、本研究は、病弱児に
対するクラスメイトの知識・意識の向上に関して、一定の効果を示すものであったことが
うかがえる。特に、共感性項目については、デジタルコンテンツ内容とは関係性のない内
容であったにも関わらず、授業前と授業後に有意な差が認められた。したがって、本研究
は、子どもの共感性を育成することに関しても、効果的であったと推察される。
また、自由記述の質問①においては、入院中の子どもとの関係を絶やすことなく、つな
がりを大切にしようとするクラスメイトのポジティブな意見が多くみられた。質問②に関
しては、学校に戻ってきた病弱児のために、工夫をして遊んだり、思いやりをもって接し
たりといった、病弱児の復帰を歓迎するクラスメイトの気持ちが表れた回答が多数みられ
た。
2.今後の課題
22 年度以降では,21 年度に行ったプログラム実施の検討より,効果が少ない,効果が
持続しないなどの問題が明らかになった箇所について,再検討を行い,より効果的なプロ
グラム実施を試みる。今後の課題として以下の 3 点を指摘する。1 点目は、デジタルコン
テンツを用いた縦断的な実践の必要性の問題である。授業効果の継続性を保つため、今後
も縦断的な実践の必要がある。2 点目は、評定時期と評定場所の問題で、今後は対象者に
負担にならない時期の選択と適切な場所の設定を心がける必要がある。3 点目は、デジタ
ルコンテンツのみを使った授業の限界である。本研究によって,クラスメイトの病弱児に
対する一定の知識・意識の変容が生じたが,患児が自分の疾患をクラスメイトに説明でき
ることはさらに有意義であると考えられる自由記述が認められた。ココロココは,本人に
疾患理解を促すコンテンツも含まれており,患児が十分に疾患を理解する機会を設定し,
実際にクラスメイトに説明することによる視点もプログラムに加えていく予定である。
また,調査にあたって,病弱教育の存在や,その意義が対象校に理解されていないこと
によって,調査依頼が円滑に進みにくい場面がみられた。今後は,プログラムの実施対象
となる(クラスメイトに病気のことを理解される)病弱児やその保護者,および小学校の
調査協力を得るために,病弱教育を幅広く周知するための WEB サイトを作成する予定で
ある。
Fly UP