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平成 19 年度内閣府経済社会総合研究所 イノベーション国際共同研究プロジェクト
社会イノベーション研究会「Social Enterprise / Social Entrepreneurship 関連文献レビュー集」より
“Social Enterprise in the United States and Abroad: Learning from Differences”
「アメリカと海外における社会的企業比較研究」
By Janelle A. Kerlin
Research on Social Entrepreneurship, ARNOVA Occasional Paper Series 1(3), 2006
社会起業家研究ネットワーク CAC 溝田弘美
筆者について
Janelle A. Kerlin
2002 年に Syracuse 大学で Ph.D. を取得後、The Urban Institute の Center on Nonprofits and Philanthropy に
おいてリサーチ・アソシエイトとして勤務。2006 年 8 月より Georgia 州立大学 Department of Public
Administration and Urban Studies 助教授を務める。社会的企業の国際比較研究に精力的に取り組んでいる。
“Social Enterprise in the United States and Europe: Understanding and Learning from the Differences”
(Voluntas, 17(3) pp.247-263)など研究論文多数。
<要約>
20 年間にわたって、米国内外において、社会的企業の活動が重要となってきた。社会問
題に応える非政府で市場本位のアプローチとして広範囲に定義づけられた社会的企業は、
次第に世界中で財源と社会的イニシアティブを提供する人気の高い方法となってきた。し
かし、そのトレンドと究極の目的は類似していても、世界各地の社会的企業の概念化には
大きな相違がある。これらの相違は、各地の活動を形成し強化する対照的な影響力から生
じるものである。これまでアメリカと国際的な社会的企業の概念を比較し、対照したもの
について記述された文献はほとんどなかったため、議論をすることが難しく、海外におけ
る経験が研究される機会もなかった。各国のそれぞれの地域で社会的企業の定義が異なっ
ており、社会的企業という言葉の理解、使途、文脈、政策に関する部署も広範囲に存在し
ている。本論文では、米国と西ヨーロッパでの社会的企業の状況と概念化について比較、
対照し、各地での活動を形成強化していくエネルギーについて研究する。
社会的企業の対照的な定義
米国における社会的企業の概念は、広範で他国よりも収入を目的とした事業に焦点を置
いている。研究者と現場では定義づけにおける相違はあるが、この点においては一致して
いる。学術的な領域では、社会的企業は、社会的に有益な活動に従事する営利重視のビジ
ネス(企業のフィランソロピーや企業の社会的責任)から、ミッション支援の営利活動(社
会的目的を持った組織)に従事する非営利団体の社会的目的と利潤目標を追求する二本立
ての目的を持つビジネス(ハイブリッド)の範囲まで及ぶ組織を含むと理解されている。
社会的目的を持った組織にとって、ミッション支援の営利活動とは、非営利団体の他のプ
ログラムを支援する収益活動、または、収益を上げると同時に、障害者のための授産所と
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いったミッションに合わせたプログラムを提供していく活動である。この社会的企業の広
範な定義は、アメリカの主な大学においても同様に理解されている。この定義はまた、非
営利団体にアドバイスを行う社会的企業のコンサルタント会社や社会的企業開発を行う営
利の団体においても使われている。
しかし、学術的な世界やコンサルタント会社以外の米国の社会的企業の現場の多くは、
非営利団体(特に、米国内国歳入局で 501(C)3 とみなされた団体)による収益だけに焦
点を当てていることが多い。例えば、Social Enterprise Magazine Online は、社会的企業を「理
念重視型の収入か個々の社会起業家、非営利団体や営利目的事業に関わる非営利団体によ
って行われる雇用創出プロジェクト」と定義づけている。全米の会員組織である Social
Enterprise Alliance は、慈善的な理念を支援する一環として利益を生み出すことのために非営
利団体が行う収益事業と戦略、とさらに狭義に定義づけている。財団の支援によるプロジ
ェクトでは、非営利側により注目しがちである。場合によっては、研究者たちがビジネス
主体の慈善活動を含めているため、社会的企業の非営利団体の種類は、nonprofit social
enterprise、nonprofit enterprise、nonprofit ventures や enterprising nonprofits といった言葉を使
うことで区別される。
西ヨーロッパでは、社会的企業の概念について、学者と実行者の考え方は変化に富んで
いるが、両者の差異は少ない。ある学派は、生産性のある活動の社会的インパクトを強化
したい企業によって生み出された社会起業家の原動力を重視する。この考え方では、学術
研究においては、主に非営利団体を通じ、営利セクターの中で、ビジネスが促進されるよ
うに生み出された社会的ニーズに取り組む革新的なアプローチを強調する一方、社会的企
業を実行する側においては、企業の社会的責任における議論として強調する。また、協同
組合を含む第三セクター及び非営利セクターに属する社会的企業の分野に対する分析を限
定する流れもある。この考え方は、EMES(The Emergence of Social Enterprise in Europe)プ
ロジェクトの Research Network に協力する学者によって展開されている。
社会的企業に対するアメリカとヨーロッパのアプローチの相違は、前者の定義ではいか
なる利潤配分もできないのに対し、後者の定義では少なくとも協同組合などに利潤配分を
行っても良い、とされる点である。また、ヨーロッパにおける社会的企業は、社会的利益
が主な原動力となる social benefit に属するものとされている。米国では、social benefit の概
念は使われておらず、非営利団体の社会的企業は、しばしば市場経済における事業として
議論されている。
西ヨーロッパ諸国では、特定のサービスと関連している社会的企業という言葉には二通
りの見方がある。英国では、貿易産業省は、社会的企業を株主やオーナーたちの利益を最
大限にするために運営するものというより、主として社会的目的を持ったビジネスで、そ
の剰余金はビジネスかコミュニティにおける目的のために投資されるものであるとしてい
る。また、英国の West Midlands Social Economy Partnership は、競争的なビジネスの枠組み
の中で効果的に持続可能なように社会的企業を経営することを目的とし、特別な社会的価
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値及びコミュニティの価値によって運営されている組織の全体的な表現であると定義づけ
ている。
社会的企業を促進する歴史的要因
ボランティア寄付を補うために宗教団体やコミュニティ団体がバザーをしたりホームメ
イド商品の販売をしたりといった形で、非営利団体が商業的な活動を行うことは、実質的
に米国の国家形成初期から行われていた。米国で明確な概念として社会的企業が広がった
のは、非営利団体が頼っていた政府補助金が削減されたことによる。1960 年代、「偉大な社
会」政策におけるプログラムにおいて、連邦政府が貧困、教育、医療、コミュニティ、環境、
芸術事業に何十億ドルも投資したため、多くの非営利団体が生まれた。しかし、1970 年代
の政府の福祉予算削減によって非営利団体は大打撃を受ける。その際、社会的企業という
言葉は、ビジネス活動を定義するために初めて使われ、非営利団体の活動は恵まれない人々
のグループに仕事を作り出す方法として始まったのである。つまり、非営利団体は、政府
支出削減によって生じたギャップを埋めるために社会的企業という方法を利用することで、
非営利団体による商業活動の劇的な拡大を図ったのである。
ヨーロッパにおける社会的企業のトレンドは米国におけるそれよりも後に起こるが、公
益サービスや第三セクターの収益が多様化していくのと同時に注目を浴びるようになった。
1970 年代に起こった経済の衰退と失業増大は 1990 年代まで続き、多くのヨーロッパの福祉
国家は危機を迎えていた。福祉国家衰退は、地方分権化、民営化、サービスの削減路線を
辿り、増加する失業者やソーシャル・サービスのニーズに応える十分な公共政策はなかっ
た。そこで、主として新しい社会的企業が増加しつつある第三セクターが、社会に取り残
されてきた人々に対する住宅、チャイルドケア、急速に進む高齢化による高齢者サービス、
家族構造の変化、長期失業者に対する雇用プログラムなど新たなニーズに応え始めた。こ
れらのヨーロッパのパイオニア的存在である社会的企業の多くは、市民社会セクター、ソ
ーシャルワーカー、伝統的な第三セクターの代表たちによって 1980 年代に作られたもので
ある。
社会的企業を取り巻く法的環境
1950 年代以降、米国連邦政府は、団体の非課税目的に関連していない非営利団体の収益
に課税するために、Unrelated Business Income Tax(以下 UBIT)という言葉を用いる。特に
内国歳入局(以下 IRS)は、
“unrelated business income”を「団体が非営利活動から得る利益
を必要としている場合以外で、非課税とされる活動目的を持つ団体による売上に実質的に
関連していない取引やビジネスが営まれて得られる収入」と定義づけている。
一方、西ヨーロッパでは、ほとんどの社会的企業が非営利団体か協同組合を管轄する法
律の範囲内で運営されている。社会的企業は、そのような法的定義づけの下、開放市場の
中で自由にサービスや商品を販売している。米国とは違い、ヨーロッパのいくつかの国で
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は、協同組合も社会的企業と位置づけられているのである。
社会的企業を取り巻く制度的環境
米国と西ヨーロッパの社会的企業を取り巻く環境は、その焦点がアメリカでは民間かビ
ジネスに、ヨーロッパでは政府かソーシャル・サービスに反映されがちである。米国にお
ける協力的な組織的状況は、社会的企業に財政的支援、教育、訓練、研究、コンサルティ
ング・サービスを提供する民間財団によるところが大きい。米国と西ヨーロッパにおける
社会的企業の戦略的発展と外部からの財政的支援団体の大きな違いは、前者が民間財団で
あることに対し、後者は政府である。
また、米国では、社会的企業を取り巻く環境には、ビジネススクールや、Social Enterprise
Alliance といった会員制の大型の非営利団体も存在する。ビジネススクールは、ビジネスと
非営利団体のマネージャーが自分たちの組織において社会的企業活動を発展させていくた
めに必要な現実的な知識に焦点を当てる。Social Enterprise Alliance は、社会的企業活動を促
進してきた代表的な団体であるが、その活動は、Kellogg 財団や Ford 財団といった米国の代
表的な財団に財政的支援を頼ってきた。
西ヨーロッパでは、社会的企業に対する戦略的支援のための制度的環境は、財政的にも、
運営においても、政府と EU(European Union)による支援と強く結びついている。社会的
企業の研究においては、いくつかのビジネススクールが研究を始めたが、いまだ社会科学
分野においての研究では、協同組合、相互共同社会、営利セクターとは離れた社会経済の
経営に焦点を置いている。最近では、社会的企業の研究における理論的アプローチの発展
として、経済理論を引用した研究が多くなされている。ヨーロッパでは、米国の Social
Enterprise Alliance に匹敵するものに、Community Action Network という団体があるが、会員
制団体はまだまだ新しい現象である。
問題と課題
米国では、社会的企業は健康的な成長を遂げているが、社会的問題及び活動の課題とし
て、特定の非営利団体の利益者を排除してしまうこと、市民社会の弱体化、政府関与の欠
如を招いていること等が挙げられる。料金制サービス戦略による収益は社会的企業活動の
一般的なタイプとなったが、この方法がソーシャル・サービスを提供する非営利団体に適
用されることで、恵まれない人々を排除する結果となっている。社会的企業に従事すれば
するほど、伝統的なプログラムを切り捨て、ソーシャル・キャピタルを強固にしてきた地
域の団体、ボランティア、民間の寄付者などの伝統的なステークホルダーに頼らなくなっ
てきた。非営利団体が市場戦略に対する関心を高めることで、ボードメンバーの顔ぶれは、
コミュニティに利害関係を持つメンバーからビジネスに利害関係を持つメンバーへとシフ
トしていくだろう。米国における他の課題は、収益事業を行う非営利団体に対するさらな
る明確な法的定義づけと、社会的企業への政府の関与がヨーロッパに比べて欠如している
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点である。
西ヨーロッパにおける社会的企業は米国の課題とは異なる。オブザーバーにとって最大
の懸念の一つは、社会的企業によるサービスの範囲が狭いことである。また、米国のそれ
と比較すれば、社会的企業のタイプも限定されている。社会的企業の法的枠組みにおいて
は、米国と同様に西ヨーロッパでも明確な定義づけがなされていない。
結論
米国と西ヨーロッパにおける社会的企業の比較を述べてきたが、どちらが勝っていると
いうよりは、双方に学ぶことができる。米国は、受益者による社会的企業への関与、組織
的ガバナンス、そして政府の関与について西ヨーロッパから学ぶことができる。受益者に
よる関与というのは、主に協同組合タイプの組織や、収益を生み出す活動そのものに見ら
れる。料金制サービスのように受益者に影響されないタイプの社会的企業もあるが、収益
を生み出すような商品の販売活動を団体がすでに行っている場合には、より総合的な事業
活動へ転換することもありうる。社会的企業におけるガバナンスとは、複数の利害関係者
アプローチに見られるものであり、民主的マネジメントスタイルである。つまり、西ヨー
ロッパでは、理事会は複数の利害関係者によって統治され、民主的に市民社会の形成が機
能し、民主主義を強固にしている。米国における社会的企業の広がりにおいて、市場化へ
の貢献は、市民社会を弱めかねないが、ガバナンスに対する複数の利害関係者アプローチ
は、コミュニティ重視の個人が集まり団結することによってソーシャル・キャピタルを形
成するものである。西ヨーロッパにおいては政府が、社会的企業の発展する環境を形成し
ているが、米国では、財団がその役割を担っている。しかし、政府に比べ、財団が担える
役割には、社会的企業にとって好ましい、持続可能な環境を醸成していくにあたり、一定
の経済的・法的・運営的限界がある。
一方、西ヨーロッパは、さまざまなサービス分野で社会的企業をいかに活用するか、い
かに社会的企業の商品に政府との契約を活用し、社会的企業の種類を拡大するか、という
方法を米国から学ぶことができる。
西ヨーロッパにおける社会的企業の出現を構築する歴史的要因は、人に提供するソーシ
ャル・サービスという狭義のものに限定されてきた。米国では、社会的企業の活動は、多く
の NPO が提供するソーシャル・サービス以外のサービス(例:環境保全)を含む広範なサ
ービスを支えてきた。また、西ヨーロッパは収益活動の種類を拡大するため、米国の社会的
企業のさまざまな異なった形式を学ぶことができる。
同じような文脈で、ヨーロッパは収益活動の範囲を広げるための社会的企業のさまざま
な形式を米国から学ぶことができる。ヨーロッパがいかに社会的企業の定義を拡大したい
かによって、米国は、非営利団体の戦略として-ミッションにつながりのある商品の販売、
慈善運動に関連したマーケティング(非営利団体による商品のブランド提携など)、営利企
業とのパートナーシップ、非営利団体による営利企業の子会社化などを提供することがで
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きる。
最後に、ヨーロッパに比べると、米国の政府は社会的企業にはあまり関与していないも
のの、3 万 6000 人の授産施設の雇用者が生産した商品の購入を奨励する助成金の交付など
を通じて社会的企業の商品に対する需要を生み出す立法など、ヨーロッパの政府では見ら
れない分野で実例を示している。米国の半数以上の政府機関が、こうした特定財源を持っ
ている。ヨーロッパは、同様の協力的手配をするよう中央政府及び地方政府に働きかけるこ
とによって、現存の社会的企業の運営を強固にすることができるであろう。
米国、ヨーロッパの社会的企業の比較では、豊富な多様性が見られたので、将来の研究
では社会的企業個々のモデルを深く掘り下げ、コントラストを作っていくことになろう。
以上
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