Comments
Description
Transcript
「よく見る」ことが事業推進の鍵に
「よく見る」ことが事業推進の鍵に 新年明けましておめでとうございます。本年が皆様 にとりまして輝かしい年でありますことを心より祈念 申し上げます。さて,「一年の計は元旦にあり!」。皆 様はもう今年の目標を立てられたでしょうか?私は今 年の個人的な目標を,「できる限りガーデニング日誌 をつけること」と決めました。 私の趣味の一つにガーデニングがあります。狭い庭 ですが,色々な種類の木や草花を育てています。「ガー デニング」と言うと格好の良い響きがありますが,そ の実態は,ほとんどの時間を雑草取りと害虫駆除に費 やしているというのが実情です。その他としては花柄 摘みや肥料やり,たまに植替え・株分けや大きくなり すぎた木の剪定といったところでしょうか。雑草取り や害虫駆除は,薬を使うのがいやなので,一つひとつ 手作業です。中でも害虫駆除は,一匹一匹害虫を見つ 国土交通省水管理・国土保全局下水道部長 塩路 勝久 Shioji Katsuhisa け出しては物理的な方法で駆除をしています。具体的 な方法はとても残酷な表現となりますので皆様方のご 想像にお任せするとして,最初の頃は害虫を見つけ出 すのはなかなか難しかったのですが,慣れてくるとそ れ程でもなくなります。そもそも,害虫がよく発生す る木やその時期が分かってきます。バラには,尾っぽ をピンと上にあげたチュウレンジバチの幼虫が発生し ます。7月頃から秋の終わりまで発生時期が長いので すが葉っぱの周りに群生するので見つけやすいのが特 徴です。この虫はツツジやサツキにも発生します。サ ザンカはチャドクガです。発生時期は梅雨の末期と夏 の終わりから秋口にかけて。これも葉っぱの周りに群 4 —— 下水道機構情報 Vol.9 No.20 生するので見つけやすいですが毒毛がささると痛痒く すべての基本は『よく見る』というところから始ま かぶれます。クチナシは夏の終わりから初冬にかけて ります。ところが,下水道というインフラは,この, 『よ 尾っぽにとげのような突起のあるオオスカシバの幼 く見る』ということが本当に難しい。全国に45万km 虫。この虫は保護色が強く単独行動なのでなかなか見 ある下水管渠の8割は管径が小さくて人が入ることが つけにくい。ヤマボウシやハナミズキにはイラガの幼 できません。また逆に大幹線では夜間も水量が多くて 虫。夏から秋にかけて発生します。保護色が強いし高 これも点検が困難というものもあります。処理場でも い梢の葉っぱにいるので見つけにくいのですが,葉っ 池の中の機械など普段よく見ることが難しいものが数 ぱの食痕や地上に落ちたウンチの大きさなどで虫の居 多くあります。下水道は本当に管理のしづらいインフ 場所や大きさを推定し,最後は脚立を持ちだして駆除 ラであると言えます。それだけに,様々な工夫や努力 します。その他にも色々な害虫を駆除していますが, を行うと共に,こういった分野での技術開発ももっと このような作業も毎年記録を付けておけばもっと効率 もっと加速して行かなければなりません。また,『よ 的にできるようになるのではないかという期待を込め く見る』のは,何も人の目で見るだけではなく,「数 て,冒頭のようにガーデニング日誌をつけることを今 値で見る」ということもあるはずです。このような視 年の目標にした次第です。 点での技術開発にも大いに期待するところです。併せ 先日,ある人から,「きれいな花を咲かせるコツは て,記録を付けておくということも本当に大事な視点 何ですか」と尋ねられ, 「それは,木や草を『よく見る』 です。記録を付けておくことにより,自分の過去の経 と言うことではないでしょうか」とお答えしました。 験のみならず,他人の経験も参考にすることができ, 木や草をよく観察して,葉っぱがしおれていたら水を 「いつ見るべきか」とか,「どのような処置を行うべき あげ,花が咲き終わったら花柄を摘み,害虫がいたら か」という判断をより確かなものにしてくれます。 駆除してやり,全体に何となく元気が無かったら肥料 実は私は以前にもパソコンでガーデニング日誌をつ をやったり時には植替えをしてやる。そうすれば,必 けていたのですが中断したままになっています。日暮 ず元気にきれいな花を咲かせてくれます。これらはす れまで庭に出ていてその後湯上りにビールを飲むと, べて,自分が管理しようとしている対象物を『よく見 もうパソコンを立ち上げて日誌をつけようという気分 る』ことから始まります。そしてその状況に合わせて では無くなってしまいます。今では書き貯めた日誌も 適時適切に処置を行うことになります。またその際に ファイルの階層の奥の方で眠っていて貴重な記録も全 は,過去の記録や他所での記録,すなわち,経験を参 く生かされていません。記録は続けなければ意味が無 考にできることが大きな助けになることは言うまでも いし,また,書き貯めた記録は活用されなければ意味 ありません。 がありません。こんなことにも気を配りながら,下水 下水道という重要なインフラの管理も,全く同様で 道界全体の意識が施設の管理や予防保全といった方向 はないでしょうか。施設の状況をよく観察し,必要に応 に少しでも向くように努力していきたいと考えていま じ適時適切に処置を施せば,通常言われている耐用年 す。 数をはるかに超えて長い年月活躍してくれるはずです。 下水道機構情報 Vol.9 No.20 —— 5