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Title ルチオ・フォンタナとイタリア20世紀美術

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Title ルチオ・フォンタナとイタリア20世紀美術
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ルチオ・フォンタナとイタリア20世紀美術--伝統性と革
新性の問--( Abstract_要旨 )
谷藤, 史彦
Kyoto University (京都大学)
2014-11-25
URL
https://doi.org/10.14989/doctor.r12882
Right
学位規則第9条第2項により要約公開
Type
Thesis or Dissertation
Textversion
none
Kyoto University
( 続紙 1 )
京都大学
博士( 人間・環境学
)
氏名
谷藤 史彦
ルチオ・フォンタナとイタリア20世紀美術
――伝統性と革新性の問題――
(論文内容の要旨)
論文題目
本論文は、20世紀を代表するイタリアの画家にして彫刻家でもあるルチオ・フォンタ
ナ(1899-1968)の作風の形成と変遷を、「伝統性と革新性」との関係性という観点か
ら捉え、さらにそれを、イタリアを中心とした同時代の美術思潮やムーヴメントという
文脈の中に置き直して考察するという、本邦初となる意欲的な試みである。
本論文は四つの章と、序論および結論から構成される。各章のタイトルは以下の通り
である。第1章「伝統性の問題」、第2章「革新性の問題」、第3章「絵画の問題」、
第4章「フォンタナの日本への影響」。序論でまず本論文の主旨とフォンタナ研究史が
辿られた後、第1章では、フォンタナの彫刻の師であったアドルフォ・ヴィルトの作風
や、ジョルジョ・デ・キリコを中心とした20世紀初頭のイタリア美術との詳しい比較分
析から、フォンタナ芸術の出発点にある伝統性が明らかにされる。さらにファシズム期
の芸術、とりわけマリオ・シローニやエドアルド・ペルシコとの比較を通じて、フォン
タナの絵画や彫刻が、伝統に依拠しつつも、ファシズムが推奨していたような古典的で
堅固な造形言語からいかに距離をとろうとしていたかが、具体的な作品の分析によって
詳細に考察される。
続く第2章では、前章とは逆に、未来派を中心とした20世紀初頭のイタリアの革新的
な芸術のムーヴメントとフォンタナとの関係が問題となる。本論文の核となるのが、こ
の章と次の第3章である。フォンタナは直接に未来派に関わることはなかったし、未来
派そのものも次第にファシズムに接近していくという歴史的な経緯があるが、それでも
未来派は、抽象的な芸術表現へとフォンタナが向かう一つの契機となっていることが、
ここで明らかに示される。1930年代にフォンタナが新たに打ち出すことになる抽象彫刻
は、同時代のもう一人の重要な彫刻家、すなわち未来派から出発して独自の幾何学的な
抽象表現にたどり着いたファウスト・メロッティとの関係において捉え直される必要が
あることを、筆者は本章で説得的に論じている。だがもちろん両者の違いにも正しく目
を向けている。さらに、「穴」をテーマにした立体作品《空間概念、自然》のシリーズ
や、ネオンを用いた《空間の光》などにおいて、独自の宇宙観や自然観を表現し、「環
境芸術」にも繋がるような新しい試みを提示していたことが指摘される。
第3章で検討されるのは、フォンタナ芸術の代名詞ともなっている、1940年代末から
晩年まで繰り返し制作された、一連の《空間概念》と呼ばれるタブロー群である。カン
ヴァスにナイフで鋭い亀裂(一本ないし数本)を入れたり、無数の穴を穿ったりしたこ
れらの作品は、その意表をつく破壊的とも言える制作法と、多彩なヴァリエーションに
よって、当時大きなセンセーションを巻き起こしたものである。それらを「バロック」
「チョーク」「油彩」「紙」「量」「神の終焉」「小劇場」「楕円」などのシリーズに
大別して分析し、それぞれの特徴を指摘していく。そのうえで、そうした「裂け目」や
「穴」のうちに筆者は、フォンタナ自身の書き残した文章等を手がかりとしながら、宇
宙的な含意を読み取り、そこには「無限」と「無」とが同時に表現されていると解釈す
る。またそれらは、ある意味で「タブローの終焉」をも物語っており、それまで長らく
絵画と彫刻とを隔ててきた伝統的な境界線を越える、まったく新しい試みである点も明
らかにされていく。
さらに、こうしたフォンタナの革新性が、その後のイタリア美術、とりわけ抽象芸術
やインスタレーション等においていかなる展開を見せるかが辿られる。具体的には、「フ
ォルマ・ウーノ」「MAC(具体美術運動)」「オリジネ」、さらには「アルテ・ポーヴェ
ラ」等、1950・60年代の戦後の新しい芸術のムーヴメントと、そこに参加したアーティ
ストたちである。そこから新たに明らかになるのは、伝統的なイリュージョンの否定、
マチエールのもつ物質性の強調、絵画的平面性の突破と克服というフォンタナの芸術的
遺産が、アフロやマンゾーニやクネリスといった世界的に活躍するアーティストたちに、
それぞれ独自なやり方で受け継がれているという点である。
また本論文の特徴は、日本の戦後の美術にフォンタナが及ぼした影響の大きさが第4
章において丹念に追跡されている点にある。1950年代と60年代に、わが国においてフォ
ンタナが積極的に受容され、多くの作家たちが影響を受けた。その中には、岡本太郎、
滝口修造、吉原治良、阿部展也、山口勝弘等、日本の現代美術を代表する錚々たるアー
ティストたちがいる。筆者は、当時の批評記事や彼らの作品を具体的に分析することで、
フォンタナを介して戦後日本美術界の状況に新しい切り口でアプローチしている。とり
わけ、フォンタナと知己を得て、イタリアでも制作をしていた高橋秀に注目して論じた
第Ⅳ節は、本邦初のもので発掘的な価値を有している。
以上のように本論文は、ルチオ・フォンタナという特異なアーティストの芸術の形成
と展開を、その内部からだけに止まらず、広く同時代の芸術のさまざまな潮流との関係
性の中から明らかにしようとする試みであり、さらにくわえて、わが国にその芸術がい
かに受容され、戦後美術の展開にいかに貢献したかについても詳細かつ包括的に論じる
ものである。
(続紙 2 )
(論文審査の結果の要旨)
本論文の高く評価すべき点は、以下の3点に要約することができる。1.20世紀イ
タリアを代表するアーティストの一人であるルチオ・フォンタナに関して、わが国で
最初の本格的なモノグラフ研究である、という点。2.絵画や彫刻にとどまらず、後
のインスタレーションを先取りするような、フォンタナの多岐にわたる芸術の形成と
変遷を、同時代のとりわけイタリアにおける芸術の動きや批評の潮流との関連性とい
う広い文脈の中に置き直して解釈した点。3.フォンタナ芸術が後代に及ぼした影響
の大きさについて、とりわけ日本の戦後美術におけるフォンタナ受容に論点を絞って
詳細に論じた点。
まず1について述べるなら、フォンタナが、イタリアのみならず20世紀の欧米のコ
ンテンポラリー・アートにおいてきわめて重要な位置を占めることはこれまでにも知
られてはいたが、いまだわが国ではその全貌が明らかにされることはなかった。本論
文は、1920年代におけるフォンタナの形成期から、1930年代の変貌、さらには1940年
代末から晩年の1960年代初めまでに制作された「空間概念」のシリーズなどを、具体
的で実証的に分析しながら、この芸術家の全貌を、単に前衛芸術家という一面的な規
定ではなくて、伝統性と革新性との絡み合いという複合的な観点から解釈した点に、
本論文の独創性と新しさがある。とりわけ、彫刻家アドルフォ・ヴィルトの工房での
初期の活動を論じた第1章や、「穴」や「切り裂き」という新しい芸術表現を「無」
と「神」の関係から論じた第2章と第3章では、新たな解釈が導入されている。すな
わち、前者に関しては、前衛芸術家フォンタナが、実はアカデミックな美術にその出
発点を持っていたという新しい発見であり、後者に関しては、カンヴァスにナイフで
裂け目を入れるという、フォンタナ独自の前衛的パフォーマンスの根底には、無から
の創造という、キリスト教神学的な理念が根底にあったという新しい指摘である。
次に2に関して述べるなら、1920年代から60年代にわたるフォンタナの活動期は、
イタリアのみならず欧米において、美術がまさしくめまぐるしく変化していた時代で
あった。その大きな文脈の中にフォンタナ芸術の変遷を置き直すという試みは、これ
までに西洋の研究でもあまりなされてこなかったことである。本論文はそれに果敢に
チャレンジしている。そのなかから改めて、ジョルジョ・デ・キリコとの深い関係性
を浮かび上がらせている(第1章)。また、1930年代に数多く制作された、彫刻と絵
画との垣根を取り払うような着色セラッミックの作品についても、これまでほとんど
取り上げられてこなかった陶芸家にして彫刻家、トッリオ・ダルビゾーラの影響が指
摘されている(第2章)。さらにイタリアでは戦後、抽象主義かリアリズムかをめぐ
って活発な論争が繰り広げられたが、そのなかでフォンタナが、まったく新しい「空
間概念」のシリーズを独自に打ち出していったことが明らかにされる(第3章)。
最後に3について述べるなら、本論文はきわめて発掘的な仕事であると評価でき
る。戦後の日本美術を代表する作家たち、とりわけ岡本太郎、滝口修造、吉原治良、
阿部展也、山口勝弘等が、フォンタナの芸術から何を引き出して、自分たちの芸術創
造に生かしていったのかが、作品分析と批評的言説の発掘によって、実証的に跡付け
られ、考察されていく。とりわけ、イタリアでも活躍し高く評価されているアーティ
スト、高橋秀の作品を新たに発掘したことは、本論文の大きな功績のひとつである。
フォンタナは早くから、建築家との共同において、空間をデザインする新しい試みを
打ち出していたが(ミラノ・トリエンナーレにおける「勝利の間」1937年)、高橋秀
もまた、イタリアにおける作品《ヴォルテッラ73》(1973年)や《モナミの壁面装飾》
(ローマ、1969年)等において、空間環境と共同体との在り方を模索するアートを制
作していたのである。
このように本論文は、ルチオ・フォンタナという20世紀のアート・シーンを象徴す
る芸術家の功績を、広い文脈の中で新たにとらえ直し、さらに日本にまで及ぶその影
響力を発掘した点で、本邦初の本格的モノグラフ研究となるものである。
よって、本論文は博士(人間・環境学)の学位論文として価値あるものと認める。
また、平成26年9月19日、論文内容とそれに関連した事項について試問を行った結果、
合格と認めた。
なお、本論文は、京都大学学位規程第14条第2項に該当するものと判断し、公表
に際しては、当該論文の全文に代えてその内容を要約したものとすることを認める。
要旨公表可能日:
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