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平成 24 年度総合調査研究 (為替に関する調査)
平成 24 年度総合調査研究 (為替に関する調査) -報告書- 平成 25 年 3 月 YAMAMOTO 0 はじめに リーマン・ショック以降に歴史的な超円高が進行した結果、我が国の輸出企業の価 格競争力(輸出競争力)が大きく押し下げられている一方、競争相手国の通貨が安値 で推移しているため、当該国の輸出企業の価格競争力(輸出競争力)が押し上げられ ている。 また、我が国の輸出企業は、国内生産比率が高いほどドル稼ぎの余剰(為替エクス ポージャー)を大量に抱えており、円高の影響を受けやすい体質となっている。 このような為替変動リスクに備えるため、輸出企業は為替マリー比率(海外輸入部 品比率や海外生産比率)の増加を通じて為替エクスポージャーを減尐させる中期経営 計画等を打ち出しており、国内産業の空洞化は喫緊の課題となっている。 本調査は、国内産業の空洞化が円高リスクを起因とした構造的問題であることを踏 まえ、日本政府として講じるべき円高対策を検討するにあって材料を提供するもので ある。 1 目 次 Ⅰ.為替のマクロ経済に与える影響 ............................................................................................. 3 1.市場における為替レートの推移 ......................................................................................... 3 2.円高が日本経済に与えた影響............................................................................................. 4 1)名目データの輸出、輸入の推移 ..................................................................................... 4 2)実質データの輸出、輸入の推移 ..................................................................................... 4 3)名目データと実質データの乖離の要因 .......................................................................... 5 Ⅱ.為替に関する経済指標等 ........................................................................................................ 9 1.為替の決定理論 .................................................................................................................. 9 1)フロー・アプローチ ....................................................................................................... 9 2)アセット・アプローチ .................................................................................................... 9 3)その他 ........................................................................................................................... 10 4)為替相場の変動の捉え方 .............................................................................................. 11 2.経済指標 ........................................................................................................................... 13 1)購買力平価(PPP) ..................................................................................................... 13 2)実効為替レート指数 ..................................................................................................... 25 Ⅲ.企業の為替リスク対応 ......................................................................................................... 28 1.我が国製造業の海外展開の現状 ....................................................................................... 29 2.為替エクスポージャーの状況........................................................................................... 31 1)通貨別の為替エクスポージャー(全体) ..................................................................... 31 2)業種別・通貨別の為替エクスポージャー..................................................................... 32 3.我が国製造業の為替リスク対応 ....................................................................................... 37 1)想定為替レート ............................................................................................................ 37 2)為替リスクを軽減させる措置 ....................................................................................... 39 3)為替リスクに対応するバリューチェーンの変化 .......................................................... 43 4.今後の為替政策への要望 .................................................................................................. 54 Ⅳ.各国の金融政策・為替政策 .................................................................................................. 55 1.為替レートの金融政策 ..................................................................................................... 55 1)為替レートの決定理論 .................................................................................................. 55 2)為替レートと金融政策 .................................................................................................. 56 3)非伝統的金融政策 ......................................................................................................... 58 4)先進各国の昨今の金融政策 .......................................................................................... 59 5)非伝統的金融政策と為替レート ................................................................................... 68 2.為替介入政策 .................................................................................................................... 72 1)為替介入の意義 ............................................................................................................ 72 2)為替介入の形態 ............................................................................................................ 72 3)為替介入の効果に関する議論 ....................................................................................... 72 4)近年における為替介入 .................................................................................................. 73 5)為替介入の評価 ............................................................................................................ 77 参考:外国為替に関するアンケート 調査票 ............................................................................ 80 2 Ⅰ.為替のマクロ経済に与える影響 最初に、リーマン・ショック以降の超円高が日本のマクロ経済に与えた影響について、輸 出入を中心に検討を行った。 1.市場における為替レートの推移 2000 年代前半においては、ユーロ、ポンドの欧州の通貨に対しては円安傾向が進み、ド ルについては、20 円程度の振幅はあるものの横ばい傾向であった。しかしながら、サブプ ライム問題が深刻化し、金融不安の兆候が見え始めていた 2007 年頃からドル、ポンドが、 2008 年に入りユーロが著しい下落の傾向を示すようになった。これにより、各通貨に対し 円高が進行したが、その影響は 2012 年の後半になるまでその水準が維持されることになっ た。このような超円高の水準が、数年間維持されたことにより、日本経済には輸出入、貿易 収支の面で大きな打撃を与えることとなった。 図表 1 為替レートの推移 (円) 250.00 200.00 150.00 100.00 2012年09月 2012年05月 2012年01月 2011年09月 2011年05月 2011年01月 2010年09月 2010年05月 2010年01月 2009年09月 2009年05月 2009年01月 2008年09月 2008年05月 2008年01月 2007年09月 2007年05月 2007年01月 2006年09月 2006年05月 2006年01月 2005年09月 2005年05月 2005年01月 2004年09月 2004年05月 2004年01月 2003年09月 2003年05月 2003年01月 2002年09月 2002年05月 2002年01月 2001年09月 2001年05月 50.00 2001年01月 ドル ユーロ ポンド 出所)日本銀行「時系列統計データ検索サイト」 、三菱東京 UFJ 銀行「対顧客為替相場」よ り作成 3 2.円高が日本経済に与えた影響 1) 名目データの輸出、輸入の推移 図表 2 は 1994 年以降の四半期の輸出、輸入、貿易収支の名目データ推移である。日 本経済は輸出が輸入を上回る水準が長く続いていた。リーマン・ショック以降は、2008 年頃より貿易収支が赤字に陥ることが多くなっている。2008 年には、輸出、輸入ともに 大幅に落ち込んでいる。2009 年は回復傾向を見せたものの、2010 年に入ると輸出は減 尐トレンドに転じている。特に、東日本大震災以降では、エネルギー関連の輸入が増大 したため、貿易収支の赤字が定着化している。 図表 2 輸出、輸入、収支の推移(名目) (兆円) 輸出、輸入、収支の推移(名目) 100.0 80.0 60.0 40.0 20.0 輸出 輸入 12Ⅰ 11Ⅱ 10Ⅲ 09Ⅳ 09Ⅰ 08Ⅱ 07Ⅲ 06Ⅳ 06Ⅰ 05Ⅱ 04Ⅲ 03Ⅳ 03Ⅰ 02Ⅱ 01Ⅲ 00Ⅳ 00Ⅰ 99Ⅱ 98Ⅲ 97Ⅳ 97Ⅰ 96Ⅱ 95Ⅲ 94Ⅳ 94Ⅰ 0.0 収支 -20.0 出所)内閣府「国民経済計算」より作成 2) 実質データの輸出、輸入の推移 図表 3 は、1994 年以降の四半期の輸出、輸入、貿易収支(輸出-輸入)の実質データ の推移である。名目データでは赤字の期が多くなっているリーマン・ショック以降は、 2008 年頃においては貿易収支が赤字になっているのでは、2009 年第Ⅰ四半期のみであ 4 る。これに対し、2002 年以前に赤字になっている期が多くなっている。名目データと実 質データでは、逆の傾向を示している。 図表 3 (兆円) 輸出、輸入、収支の推移(実質) 輸出、輸入、収支の推移(実質) 100.0 80.0 60.0 40.0 20.0 輸出 輸入 12Ⅰ 11Ⅱ 10Ⅲ 09Ⅳ 09Ⅰ 08Ⅱ 07Ⅲ 06Ⅳ 06Ⅰ 05Ⅱ 04Ⅲ 03Ⅳ 03Ⅰ 02Ⅱ 01Ⅲ 00Ⅳ 00Ⅰ 99Ⅱ 98Ⅲ 97Ⅳ 97Ⅰ 96Ⅱ 95Ⅲ 94Ⅳ 94Ⅰ 0.0 収支 -20.0 出所)内閣府「国民経済計算」より作成 3)名目データと実質データの乖離の要因 輸入デフレータは 2004 年頃から上昇し、2008 年第Ⅲ四半期には 140 近くにまで上昇 したが、2008 年第Ⅳ四半期、2009 年第Ⅰ四半期に急激に低下したにも関わらず、その 後はまた上昇傾向に転じ 2011 年第Ⅱ四半期に 110 を超えた。その後は、やや減尐傾向 にある。 輸出デフレータは 2004 年以降に緩やかに上昇し、輸入デフレータと同様に 2008 年第 Ⅲ四半期にピークを迎え、2008 年第Ⅳ四半期、2009 年第Ⅰ四半期に急激に低下してい る。その後は輸入デフレータとは異なり、緩やかに低下傾向を示している。 2008 年第Ⅳ四半期以降は、輸入デフレータと輸出デフレータには大きな乖離がある。 2008 年第Ⅳ四半期は、ドル・円レートが急激に円高にむかい、100 円を切った時期であ る。円高の進行に伴い、輸出デフレータは低下を示している。このようなデフレータを 5 用いて実質化を行うと、名目と比較し輸入は減尐し、輸出は増加することになる。これ が、前述のような、名目データと実質データの貿易収支の結果が異なる原因と考えられ る。 図表 4 デフレータと為替レートの推移(2005 年=100) デフレータと為替レートの推移(2005年=100) (無名数or円) 160.0 140.0 120.0 100.0 80.0 60.0 デフレータ(GDP) 40.0 デフレータ(輸出) デフレータ(輸入) 20.0 ドル・円レート 12Ⅰ 11Ⅱ 10Ⅲ 09Ⅳ 09Ⅰ 08Ⅱ 07Ⅲ 06Ⅳ 06Ⅰ 05Ⅱ 04Ⅲ 03Ⅳ 03Ⅰ 02Ⅱ 01Ⅲ 00Ⅳ 00Ⅰ 99Ⅱ 98Ⅲ 97Ⅳ 97Ⅰ 96Ⅱ 95Ⅲ 94Ⅳ 94Ⅰ 0.0 出所)内閣府「国民経済計算」 、日本銀行「時系列統計データ検索サイト」より作成 日本銀行の輸出物価指数は、円ベースと契約通貨ベースの 2 つの指数が公表されて いる。 輸出物価指数(契約通貨ベース)は、2008 年第Ⅳ四半期に低下しそれ以降は横ばい 傾向である。これに対し、円ベースでは 2008 年第Ⅳ四半期に急激に低下し、それ以降 も緩やかに低下している。この動きは、輸出デフレータとほぼ一致している。 以上より、円高の進行で、企業は円高分を輸出価格に付加できず、契約通貨ベース では価格を維持しているが、円ベースではコスト削減等により輸出価格を引き下げて いることが読み取れる。 6 図表 5 輸出デフレータ、輸出物価指数の推移(2005 年基準) 輸出デフレータ、輸出物価指数の推移(2005年基準) 140.0 120.0 100.0 80.0 60.0 40.0 輸出デフレータ 輸出物価指数/円ベース 20.0 輸出物価指数/契約通貨ベース 12Ⅰ 11Ⅱ 10Ⅲ 09Ⅳ 09Ⅰ 08Ⅱ 07Ⅲ 06Ⅳ 06Ⅰ 05Ⅱ 04Ⅲ 03Ⅳ 03Ⅰ 02Ⅱ 01Ⅲ 00Ⅳ 00Ⅰ 99Ⅱ 98Ⅲ 97Ⅳ 97Ⅰ 96Ⅱ 95Ⅲ 94Ⅳ 94Ⅰ 0.0 出所)内閣府「国民経済計算」 、日本銀行「物価指数年報」より作成 前述の 2 種類の輸出物価指数をもとに輸出額の実質化を行い、為替(円高)による 輸出における損失を以下のように定義すると、図表 6 のようになる。 (為替(円高)による輸出における損失) =(輸出額/輸出物価指数(契約通貨ベース))-(輸出額/輸出物価指数(円ベース)) 2008 年第Ⅳ四半期以降は、マイナス(契約通貨ベースの実質額が円ベースの実質額 を下回る)になっており、特に 2010 年第Ⅱ四半期以降は 10 兆円以上のマイナスにな っている。 これは、日本経済及び輸出企業に対し、甚大な影響を与えていると考えられる。 7 図表 6 契約通貨ベースによる実質化と円ベースによる実質化の違い 契約通貨ベースによるデフレートと円ベースによるデフレートの違い (兆円) 100.0 80.0 60.0 40.0 -20.0 輸出(実質・円ベース) 輸出(実質・契約通貨ベース) 為替による損益 出所)内閣府「国民経済計算」 、日本銀行「物価指数年報」より作成 8 12Ⅲ 12Ⅰ 11Ⅲ 11Ⅰ 10Ⅲ 10Ⅰ 09Ⅲ 09Ⅰ 08Ⅲ 08Ⅰ 07Ⅲ 07Ⅰ 06Ⅲ 06Ⅰ 05Ⅲ 05Ⅰ 04Ⅲ 04Ⅰ 03Ⅲ 03Ⅰ 02Ⅲ 02Ⅰ 01Ⅲ 01Ⅰ 00Ⅲ 00Ⅰ 99Ⅲ 99Ⅰ 98Ⅲ 98Ⅰ 97Ⅲ 97Ⅰ 96Ⅲ 96Ⅰ 95Ⅲ 95Ⅰ 94Ⅲ 0.0 94Ⅰ 20.0 Ⅱ.為替に関する経済指標等 ここでは、為替を決定する理論と為替に関する経済指標等について検討を行った。 1.為替の決定理論 1) フロー・アプローチ 世界の主要国において、1973 年春に変動相場市場が導入されることになったが、その 当時は経常取引、資本取引、公的介入の 3 つの流れ(Flow)の均衡が為替相場を決定す ると考えられていた。 このようなフロー・アプローチは、次のような考えに基づいていた。資本の流れは内 外の金利差に依存し、経常収支は内外の経済活動水準と為替相場の関数となっていると 考えられていた。輸出入数量の価格弾力性が十分に高いという見方に立ち、国際収支の 不均衡は為替相場の変動による経常収支の変化に基づき調整されると考えられていたた めである。また、短期的な経常収支の不均衡は、民間投機家や通貨当局の公的介入によ る資本移動により均衡に向けて調整されると想定されていた。 しかしながら、経済収支の不均衡が長期的に維持される等の現状を考慮すると、現実 の変動相場市場を十分に説明することができないという見方が 1970 年代半ば以降一般 的になり、主流の考えではなくなっている。 2)アセット・アプローチ 短期的には調整速度の速いストックとしての資産市場の需給で決定されるというアセ ット・アプローチが着目されるようになった。 この理論では、資本市場が対外的に十分に開放されている場合、国際資本移動が自由 な国々の間の為替相場は、2 つの通貨で表示された資産間の交換比率と考えられるべき であるとするものである。アセット・アプローチは、さらにマネタリー・アプローチと ポートフォリオ・バランス・アプローチに分類される。 マネタリー・アプローチは、2 種類の通貨建債券の間では先物カバーなしでの完全代 替性を仮定するものである。 ポートフォリオ・バランス・アプローチは、2 種類の通貨建債券は先物カバーなしで の不完全な代替資産と仮定するものである。このアプローチでは、通貨市場だけでなく 債券市場も重視している。経常収支も、国際的な貸借関係を変化されるものとして重視 9 している。また、財政赤字などの債券需給の変化も為替相場に影響を与えると考えてい る。 3)その他 ヘッジ・ファンドのマネージャーとして著名なジョージ・ソロス氏が考案したとされ るもので、2 つの国の中央銀行が供給するマネタリー・ベースの比率と為替レートには 因果関係があるとするものである。ソロスチャートの背景にあるのは、中央銀行におけ る金融政策の積極性の違いがマネタリー・ベースの供給量の違いになり、それが為替レ ートを決定しているという考え方である1。この考えは、実態経済の価格動向等を反映し て為替レートが決定されるというものではなく、通貨供給量のみに着目して為替レート の水準を判断しようとするものである。2005 年以降の日米については、図表 7 のように なる。 図表 7 日米のマネタリーベースの比(日本/米国で 2005 年 1 月=100)とドル円レート (円) 130.0 100.0 90.0 120.0 80.0 110.0 70.0 ドル円レート(左軸) 60.0 日米のマネタリーベースの比 (2005年1月=100 右軸) 100.0 50.0 90.0 40.0 30.0 80.0 20.0 70.0 2012年7月 2012年10月 2012年4月 2012年1月 2011年7月 2011年10月 2011年4月 2011年1月 2010年7月 2010年10月 2010年4月 2010年1月 2009年7月 2009年10月 2009年4月 2009年1月 2008年7月 2008年10月 2008年4月 2008年1月 2007年7月 2007年10月 2007年4月 2007年1月 2006年7月 2006年10月 2006年4月 2006年1月 2005年7月 2005年10月 2005年4月 60.0 2005年1月 10.0 0.0 出所)日本銀行「時系列統計データ検索サイト」 、FRB のホームページのデータベース、三 菱東京 UFJ 銀行「対顧客為替相場」より作成 1 安達誠司(2012) 『円高の正体』光文社新書。 10 特にリーマン・ショック以降に、日米のマネタリーベースの比とドル円レートの動き に類似性が見られる。 4)為替相場の変動の捉え方 経済学者、エコノミストの間では、為替レートの変動を短期・中期・長期の期間の違 いにより、分解して検討することが一般的なようである。すなわち、為替相場の長期的 なトレンドの周りで、中期的な変動があり、さらにその周辺で短期的な変動があるとい うものである。 図表 8 為替レートの分解の考え方 為替 レート 長期のトレンド 中期の変動 短期の変動 時間 出所)三菱東京 UFJ 銀行(2010) 「為替相場変動要因の整理と経常赤字化→円安論の検 証 経済レビュー平成 22 年(2010 年)8 月 26 日」もとに作成 その背景には、長期的には、構造的要因に基づくトレンドの周辺に収れんするという 見方があり、為替レートを検討する際に長期的には購買力平価等が適切であるという考 え方が支配的なように思われる。実勢相場のトレンドからの乖離を中期的に分析するも のとして、金利差や金融政策サイクル等が用いられるようである。また、短期的には、 ニュース、テクニカル、投機的な動きに基づく変動が生じると考えられている。 以上を整理したものが、図表 9 である。 図表 9 為替レートの決定要因の整理例 11 期間 短期 為替レートの決定要因 需給要因:市場のテーマ、需給情報、短期的金利・株価動向、経済指 標の振れ、選挙・政変、テクニカル、投機的な動き 等 中期 循環要因:中長期の金利差。景気サイクル、金融政策サイクル 等 長期 構造要因:インフレ、国際収支、生産性、経済成長等のトレンド 出所)三菱東京 UFJ 銀行(2012) 、広木隆(2011) 「リスク回避の円高 -為替レート 決定のメカニズム-(4) Strategy Report 2011/8/25」等をもとに作成 12 2.経済指標 ここでは、為替レートの水準を判断する経済指標について、購買力平価(Purchasing Power Parity、以下 PPP)と実効為替レート指数を中心に検討を行う。 1) 購買力平価(PPP) 理論的に全く貿易障壁のない世界を想定すると、そこでは国が異なっても、同じ商品 の価格は一つであるという「一物一価の法則」が成立する。この法則が成立する際の二 国間の為替相場を購買力平価(PPP)という。例えば、ある商品が日本では 200 円、米 国では 2 ドルで買えるとすると、1 ドル=100 円が PPP だということになる。これは、1 つの商品をもとに PPP を算定したものであるが、2 国の経済実態に応じた多くの商品を 用いて算定すると 2 国間の経済実態を基づいた PPP を算出したことになると考えられる。 PPP は理論的に支持されることは多いが、その背景は実際の為替レートは為替市場で の需給や、貿易の際のコスト等の両国の購買力以外の様々な要素によって変化するもの の、長期的に見れば PPP から高すぎるあるいは安すぎる水準に一方的に乖離することは ないという考え方に基づいている。 そのため、短期的なレートの変動を除去し、長期的な 2 国間の為替レートの参考する 値として有効であると考えられる。 なお、購買力平価(PPP)には、絶対的 PPP と相対的 PPP が存在する。詳細につい ては、以降で説明する。 (1)絶対的 PPP 絶対的 PPP としては、OECD が 2003 年以降毎年公表しているデータ(GDP に対す る PPP)を取り上げ、ドル円、ユーロ円の実勢相場の為替レートとの比較を行う。 a)ドル円 OECD 公表の絶対的 PPP に基づくドル円レートは、2003 年一貫して円が高くな る動きを示している(年平均 3.4%円高になっている)が、2012 年では 1 ドル= 103.90 円で 100 円を切るような水準にはなっていない。 2006 年、2007 年の円安局面では、東京市場のレートが絶対的 PPP に基づくレー トにかなり接近した時期もあったものの、1 ドル=80 円を切る超円高になった 2011 年、2012 年では、大きな乖離が見られている。 前述のように、PPP は経済構造を捉えたものであり、中長期的には実勢相場のレ 13 ートのその値に収れんするものと考えられているものの、2003 年~2012 年のデー タでは、ドル円の実勢相場のレートは、絶対的 PPP の周辺で変動するという結果は 得られなかった。 図表 10 東京市場と絶対的 PPP に基づくドル円レート (円) 150.00 140.00 130.00 120.00 110.00 100.00 90.00 80.00 実勢相場 70.00 絶対的PPP 60.00 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 出所)ドル円(絶対的 PPP)は OECD ホームページより (http://stats.oecd.org/Index.aspx?DatasetCode=SNA_TABLE4) ドル円(実勢相場)は、日本銀行「時系列統計データ検索サイト」 この原因は、OECD の PPP は、各国の生活水準を比較するために算出されてい るものなので、非貿易財も多く含まれていることにあると考えられる。したがって、 外国為替の取引における外貨との交換比率(交換レート)である為替レートを算出 する際に望ましい品目の構成とは、異なっていると考えられる。 b)ユーロ円 絶対的 PPP に基づくユーロ円レートは、長期的に円が高くなるトレンドを示して いるが、ドルほど顕著ではなく年平均の円高の上昇率は 2.3%である。絶対的 PPP に基づくユーロ円レートよりも東京市場の方が円高の傾向を示すことが多いが、ユ ーロでは 2007 年、2008 年は逆の傾向を示している。 14 図表 11 東京市場と絶対的 PPP に基づくユーロ円レート (円) 180.00 160.00 140.00 120.00 100.00 実勢相場 80.00 絶対的PPP 60.00 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 出所)ユーロ円(絶対的 PPP)は OECD ホームページより (http://stats.oecd.org/Index.aspx?DatasetCode=SNA_TABLE4) ユーロ地域(17 か国)の絶対的 PPP を採用 ユーロ円(実勢相場)は、三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング㈱「東京三菱銀行対顧客 外国為替相場」 (2)相対的 PPP 前述の絶対的 PPP は、各国の多くの商品の価格に基づき共通のウェイトを求めて算 出しているため、それに伴う労力が甚大である。そのため、より簡易的な方法として、 為替レートの水準を判断する材料として相対的 PPP が用いられるケースが多い。 過去の内外不均衡が十分小さかった一時点を起点として、その後の当該国間のイン フレ格差から時系列的に物価を均衡させる為替相場を算出するものを「相対的 PPP」 と呼んでおり、下式より求められる。 相対的 PPP=基準時点の為替レート× A 国の物価指数 / B 国の物価指数 2 つの国の物価指数の比をとり、時系列で為替レートを推計する方法であるが、この 比を採り方がいくつか存在する。一般には、消費者物価指数、企業物価指数、輸出物 価指数をもとに算出される。すなわち、絶対的 PPP のように 2 つの国の個別の財の価 15 格の比とその財の経済に占めるウェイトを考慮して加重平均を行って算出するのでは なく、相対的 PPP は財の価格データを集約した物価指数の比で代用しようとするもの である。ちなみに、どの物価指数を用いるかによって、相対的 PPP の値は異なってく ることが多い。 さらに、指数は異なる時点間の比率を表しているものなので、いつを基準時にする かによって、実勢相場のレートと相対的 PPP との関係が変化することになる。以降で は、ドル円について、1973 年を基準にした場合と 1989 年を基準にした場合について 比較を行うこととする。 a)1973 年基準 基準時点をいつにするかについては、ドル円においては1973年を相対的PPPの起点 にとることが、以下のような理由2から、経済学者、エコノミストの間では一般的で あると言われている。 まず、ブレトンウッズ体制と呼ばれた戦後の国際的な固定相場制度が崩壊した 1971年から2年が経ち、ドル円相場は一旦その頃に日米の実態経済を反映した水準 に落ち着いたであろうという見方に基づいている。実際のところ、その当時の日本 の経常収支はほぼバランスしていたことも有力な根拠となっている。このような理 由から1973年を基準とした相対的PPPを算出した結果は、図表12である。 ① 長期的なトレンド 図表12によると、実勢相場のレート、消費者物価による相対的PPP、企業物価に よる相対的PPP、輸出物価による相対的PPPのいずれもが長期的には円高トレンド を示している。 ② 3 つの指数による水準の違い 3つの物価指数による相対的PPPの水準は、かなり異なっている。消費者物価によ る相対的PPPは、2011年時点では1ドル=130.07円とかなり安い水準である。これに 対し、輸出物価による相対的PPPは、1ドル=62.14円とかなり高い水準にある。企 業物価による相対的PPPは、1ドル=98.35円と消費者物価と輸出物価の間の水準と なっている。 ③ 実勢相場との関係 実勢相場との関係では、消費者物価による相対的PPPは1984年に実勢相場のレー トを下回るものの、それ以外の時点では上回っている。2001年以降でも、消費者物 2 国際通貨研究所ホームページより。 (http://www.iima.or.jp/Docs/ppp/q_a.pdf) 16 価による相対的PPP は、30円弱から60円強も円安の水準を示している。企業物価 による相対的PPPは、1980年代半ばまではその水準よりも実勢相場のレートが上回 ったり下回ったりしていた。近年では下回ることが多いが、2005年、2006年は上回 っていた。最後に、輸出物価による相対的PPPは、その水準のあたりで実勢相場の レートが変動する傾向が2000年以前まではあったが、実勢相場のレートが2000年以 降はそれを上回るようになっている。このように実勢相場のレートとの関係も大き く異なっている。 図表 12 ドル円の実勢相場のレートと相対的 PPP(1973 年基準) (円) 350.00 300.00 250.00 200.00 150.00 100.00 実勢相場 50.00 消費者物価による相対的PPP 企業物価による相対的PPP 輸出物価による相対的PPP 1973 1974 1975 1976 1977 1978 1979 1980 1981 1982 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 0.00 出所)国際通貨研究所 b)1989 年基準 次に、日本において、プラザ合意の影響が収れんするとともに、バブル景気の絶 頂の頃だった1989年を基準にして相対的PPPを算出した結果は、図表13である。こ れについて、1973年の場合と同様な分析を行う。 ① 長期的なトレンド 図表13によると、1973年を基準にした場合と同様に、実勢相場のレート、消費者 17 物価による相対的PPP、企業物価による相対的PPP、輸出物価による相対的PPPの いずれもが長期的には円高トレンドを示している。 ② 3 つの指数による水準の違い 3つの物価指数による相対的PPPの水準は、消費者物価による相対的PPPと企業物 価による相対的PPPはかなり近いが、輸出物価による相対的PPPの水準は他の2つと は離れている。2011年時点の水準は、消費者物価による相対的PPPは1ドル=109.60 円、企業物価による相対的PPPは1ドル=100.62円となっている。これに対し、輸出 物価による相対的PPPは、1ドル=70.58円とかなり高い水準にある。 1973年を基準とした場合と比較して、消費者物価、企業物価、輸出物価の水準の 順位は変わりがないものの、各指数による相対的PPPの開きが小さくなっている。 ③ 実勢相場との関係 実勢相場との関係では、消費者物価による相対的PPP、企業物価指数による相対 的PPPは、その水準の周辺で実勢相場のレートが変動している。これに対し、輸出 物価指数による相対的PPPは、その水準が1995年以前は実勢相場のレートを上回る ものの、1996年以降は下回るようになっている。 1989年を基準にした場合は、1973.年を基準にした場合に比べ、期間を短くしてお り、相対的PPPの水準の周辺で、実勢相場のレートが変動するようになっている。 18 図表 13 ドル円の実勢相場のレートと相対的 PPP(1989 年基準) (円) 150.00 140.00 130.00 120.00 110.00 100.00 90.00 実勢相場 消費者物価による相対的PPP 80.00 企業物価による相対的PPP 70.00 輸出物価による相対的PPP 60.00 出所)国際通貨研究所のデータをもとに 1989 年を基準にしたデータを作成 c)物価指数の推移 前述のように、相対的PPPは、用いる物価指数の種類と基準とする時点において、 算出結果が異なってくる。ここでは、日米の物価指数の推移について検討を行う。 図表14~16において、1973年を100として、日本と米国の消費者物価指数、企業 物価指数、輸出物価指数を比較しているが、いずれの物価指数においても、日本と 米国との差は著しいものになっており、近年になるにつれ両者の乖離が顕著になっ てきている。 バブル経済崩壊した1990年以降の日本経済はデフレ傾向になっているが、物価指 数においてその傾向は読み取れる。消費者物価指数は、1973年を100とすると、日 本では、1990年に232.4となったが、それ以降は横ばいで2012年は245.2であった。 企業物価指数についてはさらに深刻で、ピークの1982年の174.7からそれ以降は長 期的に低下傾向にあり、2011年は154.3となっている。より一層深刻なのは輸出物 価指数で、1983年以降低下傾向で1993年以降は100を下回る水準になり、その傾向 には歯止めがかからず、2012年には67.7にまで落ち込んでいる。 これに対し、米国はいずれの物価指数も長期的に上昇する傾向を示している。 19 図表 14 日米の消費者物価指数の推移 600.0 500.0 400.0 300.0 200.0 日本 米国 100.0 2007 2009 2011 2007 2009 2011 2005 2003 2001 1999 1997 1995 1993 1991 1989 1987 1985 1983 1981 1979 1977 1975 1973 0.0 図表 15 日米の企業物価指数の推移 1981 1987 出所)日本、米国ともに IMF ” International Financial Statistics” 600.0 500.0 400.0 300.0 200.0 100.0 日本 米国 2005 2003 2001 1999 1997 1995 1993 1991 1989 1985 1983 1979 1977 1975 1973 0.0 出所)日本、米国ともに IMF ” International Financial Statistics” 20 図表 16 日米の輸出物価指数の推移 400.0 350.0 300.0 250.0 200.0 150.0 100.0 日本 米国 50.0 2011 2009 2007 2005 2003 2001 1999 1997 1995 1993 1991 1989 1987 1985 1983 1981 1979 1977 1975 1973 0.0 出所)日本、米国ともに IMF ” International Financial Statistics” 1973年=1として、日米の物価指数(米国物価指数/日本物価指数)の比をとると、 長期的には上昇トレンドを示している。 これまでの議論からも明白なように、輸出物価指数の上昇は著しく、2012年には 5.38となっている。一番上昇率が低いものは消費者物価指数で、2012年に2.11であ る。その間に、企業物価指数が位置している。 この傾向は、1989年を基準とした場合にはそれほど顕著ではなく、2007年、2008 年頃までは同じように推移している。しかし、2008年以降は、輸出物価指数の上昇 が著しくなっている。これは、2008年以降に急速に進行した円高に対応するため、 日本の方がコストダウン等により輸出価格を低く抑えようとしたことが原因と考え られる。 21 図表 17 1973 年を基準とした場合の物価指数の日米比の推移 6.00 消費者物価指数 企業物価指数 5.00 輸出物価指数 4.00 3.00 2.00 1.00 2011 2009 2007 2005 2003 2001 1999 1997 1995 1993 1991 1989 1987 1985 1983 1981 1979 1977 1975 1973 0.00 出所)日本、米国ともに IMF ” International Financial Statistics” 図表 18 1989 年を基準とした場合の物価指数の日米比の推移 2.50 消費者物価指数 2.00 企業物価指数 輸出物価指数 1.50 1.00 0.50 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 0.00 出所)日本、米国ともに IMF ” International Financial Statistics” 22 相対的PPPについての検討から、デフレ傾向が顕著な日本経済は、米国等の他の 先進国と比較して、円高に成りやすい特性を有していると言える。特に、輸出向け に特に価格を抑えていることが、逆に円高の要因になっているようである。 なお、輸出物価指数については、日本と米国の輸出の構成の違いが影響を与えて いると考えられる。 図表19は、日本の輸出の構成比であるが、価格が上昇する傾向がある「農業製品、 原材料、 燃料」の割合は小さく、近年やや増加しているが2012年で4.0%に過ぎない。 価格が低下しやすい「機械類、その他」、「電気機器、装置及び器具」、「輸送用機械」 の構成比が大きく、59.6%と6割近くに達している。 図表 19 0% 10% 20% 30% 日本の輸出の構成比 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 1973 1975 1977 1979 1981 1983 1985 1987 1989 1991 1993 1995 1997 1999 2001 2003 2005 2007 2009 2011 農業製品、 原材料、燃料等 化学製品 金属製品、木製品、 ゴム製品等 機械類、 その他 電気機器、 装置及び器具 輸送用機械 雑製品 特殊取扱品 出所)国際連合、” Comtrade” 図表20は、米国の輸出の構成比であるが、価格が上昇する傾向がある「農業製品、 原材料、燃料」の割合は大きく、2011年で22.9%と日本よりかなり多い。価格が低 23 下しやすい「機械類、その他」、「電気機器、装置及び器具」、「輸送用機械」の構成比 が大きく2011年で34.8%と日本に比べその割合が小さくなっている。 図表 20 0% 10% 20% 30% 米国の輸出の構成比 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 1973 1975 1977 1979 1981 1983 1985 1987 1989 1991 1993 1995 1997 1999 2001 2003 2005 2007 2009 2011 農業製品、 原材料、燃料等 化学製品 金属製品、木製品、 ゴム製品等 機械類、 その他 電気機器、 装置及び器具 輸送用機械 雑製品 特殊取扱品 出所)国際連合、” Comtrade” 以上より、日本と米国の輸出の構成比を比較すると、日本の方が価格の低下が起 こりそうな製品が多くなっており、貿易財についての物価指数は日本よりも米国の 方が上昇しやすい構造になっていると言えるであろう。したがって、ドル円レート は、もともと円高傾向になる特性があると考えられる。 24 2) 実効為替レート指数 実質実効レートは、ある国の通貨の価値が他の国々の複数の通貨に対して、どれだけ 上昇しているのか、下落しているのかを示す指標である。 例えば、ドルが基軸通貨になっているため、例えば円がドルに対して上昇すれば、円 高といわれるが、ユーロなどに対して下落していれば、必ずしも円高とは言えないこと になる。すなわち、米国以外の地域とも貿易取引を行っているのであれば、対ドルにお いて円高であっても貿易における痛手を受けない可能性がある。 そこで、通貨の価値を総合的に把握するための指標として、実効為替レートが用いら れる。 (1)名目実効為替レート指数 名目実効為替レートは、特定の 2 通貨間の為替レートをみているだけでは捉えられな い、相対的な通貨の実力を測るための総合的な指標である。具体的には、対象となる全 ての通貨と日本円との間の 2 通貨間為替レートを、貿易額等で計った相対的な重要度で ウエイト付けして集計・算出する。 実効為替レート指数は、日本銀行において算出されているが、国際決済銀行(Bank for International Settlements、BIS)の方針に従っている。実効為替レートのウエイトは、 3 年間の貿易額をベースにして算出しており、2008-2010 年ウエイトとなっている。対 象国・通貨についても、BIS に準拠し、Broad ベースでは 59 か国、Narrow ベースでは 25 か国で使用されている通貨(それぞれ、44 通貨、15 通貨)に対して作成している。 (2)実質実効為替レート指数 実質実効為替レートは、通貨の対外競争力が物価動向(インフレ動向)によっても 変化するため、名目実効為替レートを自国と他国の商品価格で調整したものである。 実質実効為替レート指数は、ある時点を 100 として、指数化して推移を見るもので ある。 25 図表 21 円ドルレートと実効為替レート指数の推移 180.0 160.0 140.0 名目と実 質が乖離 120.0 100.0 名目実効為替レート指数 実質実効為替レート指数 円ドルレート指数 80.0 2012年10月 2012年07月 2012年04月 2012年01月 2011年10月 2011年07月 2011年04月 2011年01月 2010年10月 2010年07月 2010年04月 2010年01月 2009年10月 2009年07月 2009年04月 2009年01月 2008年10月 2008年07月 2008年04月 2008年01月 2007年10月 2007年07月 2007年04月 2007年01月 60.0 出所)日本銀行「時系列統計データ検索サイト」より作成 (3)実質化の是非 2007 年 1 月=100 として、図表 21 の指数の推移をみると、名目実効為替レート指数 は、円ドルレート指数と大きくは乖離していないにもかかわらず、実質実効為替レー ト指数とは乖離が見られる。この原因は、実質化を行っていることにあるという意見 がある。 先にみた物価指数のグラフのように、米国に対して日本はデフレ傾向が見られる。同 様なことは EU 諸国等の他の先進国に対しても見られる。さらに、インフレ傾向にある 新興国に対しては、物価指数ではより一層大きな開きが見られると考えられる。以上の ように実質化によって、実質実効為替レート指数では、ドル円レートでは非常に円高に 時期においても、特に円高ではないという結論となっていた。 なお、実質化については、その是非について識者の間でも賛否が分かれるところであ る。通貨の対外競争力を見るために、物価指数で実質化すべきであるという意見がある 一方で、実質化が不適切であるという意見もある。 為替の取引は名目の価格で行われており、企業収益と直結する為替レートも現実の価 格である名目為替レートで経営計画が作成されている。また、海外旅行の際の買い物も 名目の為替レートで行われている。企業や個人消費者の行動は、名目の為替レートによ り行われており、実質に基づいて行われているわけではない。前述のように、日本経済 26 のデフレに基づく実質化を行った場合には、企業や個人消費者の行動のベースにある名 目レートの実感とは異なる結果になるわけである。3 次に、実質化の方法が適切ではないという意見である。 実質化に用いられるデフレータとしては、本来であれば、対外競争にさらされた個別 商品(貿易財)の価格を個別に国際間で比較を行うことが理想であるが、実際には集計 を行うことが作業として難しい。そのため、一国全体の物価指数を以って代用すること が一般的になっている。 BIS をはじめとする国際機関では、消費者物価指数をもとに実質実効為替レートを算 出することが多い。ただし、消費者物価指数は対外競争力とは直接関係しない非貿易財 を多く含んでいるという問題がある。データの利用可能性の観点からすると、輸出入物 価指数や国内企業物価指数は、国際的な統計作成の標準化が消費者物価指数ほど進んで いないため、新興国を中心に一部の国では消費者物価指数を用いざるを得ないという状 況がある。そのため、国際機関での算出では、輸出入物価指数や国内企業物価指数をデ フレータとして用いてはいない。4 新興国を中心に一部の国では消費者物価指数を用いざるを得ないということは、以下 のような理由から実質実効為替レート指数をより円高にする可能性が指摘されている。5 アジアを中心とした日本の貿易相手国では、消費者物価上昇率は高いものの、輸出物価 等の貿易財物価上昇率は低い可能性があり、その場合は消費者物価指数によりデフレー トされた実質実効為替レート指数は円安になりやすいと考えられる。 なお、実質化の際には物価指数以外に、コスト面から競争状況を捉える指標として単 位労働コスト(Unit Labor Cost、以下 ULC)を用いるという方法もある。ULC の活用 は、素原材料や中間財は貿易によって国際間の移動が比較的可能なため、各国の製造コ ストの差は労働コストの差で概ね説明できるという考えからである。各国間の税制等の 違いによる影響を受けにくいため、実態を反映しやすいという意見もある。しかしなが ら、ULC には速報性に欠けることや、新興国等では作成しにくいというデメリットが存 在する。6 以上より、実質化における問題が存在しているため、実質実効為替レート指数は、そ の利用において留意すべき点が多い。 3 長谷川公敏(2008)「「実質の罠」 ~実効為替レートで見た円の水準~ 第一生命経済研 レポート 2008.4」 4 伊藤雄一郎、稲葉広記、尾崎直子、関根敏隆(2011)「日銀レビュー2011 年 2 月 実質 実効為替レートについて」 5西村陽造・田中順 (2010) 「(財)国際通貨研究所 ニュースレター (2010 年 9 月 1 日 No.32) 円の実質実効為替相場にだまされるな ~円高の深刻度を読み解くヒント~」 6 神田慶司・鈴木準(2010) 「 「実質実効為替レートなら円安」の意味 大和総研経済社会 研究班レポート 2010 年 11 月 10 日」 27 Ⅲ.企業の為替リスク対応 企業における為替リスク対応の実態を把握するため、製造業上場企業に対するアンケート 調査を実施した。 図表 22 アンケート調査の概要 タイトル 外国為替に関するアンケート 対象 旧東京証券取引所一部上場・二部上場の製造業 1,044 社 実施時期 平成 25 年 2 月 18 日(月)~3 月 1 日(金)(消印有効) 実施方法 郵送法 回収数 203 社(回収率:19.4%) 28 1.我が国製造業の海外展開の現状 まず、我が国製造業の海外展開の現状について、アンケート回答企業の海外売上高比 率(日本からの輸出を含む)を、直近会計年度及び 3 会計年度、今後の目標について確 認したところ、直近会計年度では、30%未満とする企業が 51.3%、30%以上 60%未満と する企業が 35.4%、60%以上とする企業 13.3%となっている。 3 会計年度前では、30%未満とする企業が 56.2%、30%以上 60%未満とする企業が 29.9%、60%以上とする企業 13.9%となっており、若干ではあるが海外売上高比率が高 くなっている。 今後の目標については、さらに海外売上高比率を拡大する意向が強まり、30%未満と する企業が 41.3%に対して、30%以上 60%未満とする企業が 45.5%、60%以上とする企 業 13.3%となっている。 図表 23 海外売上高比率の変化 Q 1.貴社グループの直近会計年度の海外売上高比率(日本からの輸出を含む)はどの程度でしょ うか。3 会計年度前の比率及び今後(3~5 年後)の目標についてもお答えください 0% 3会計年度前 20% 24.7% 40% 18.0% 60% 13.4% 80% 10.8% 11.3% 7.7% (N=201) (N=202) 直近会計年度 21.5% 20.0% 9.7% 13.8% 9.7% 11.8% 100% 7.2% 4.1% 2.6% 6.7% 3.6% 3.1% (N=190) 今後の目標 10.5% 15.4% 15.4% (N=143) 13.3% 15.4% 16.8% 7.0% 3.5% 2.8% 10%未満 10%以上 20%以上 30%以上 40%以上 50%以上 60%以上 70%以上 80%以上 20%未満 30%未満 40%未満 50%未満 60%未満 70%未満 80%未満 ※「不明/目標設定していない」と回答したサンプル、および無回答のサンプルを除いて集計 業種別で直近会計年度の状況を見ると、機械・輸送用機械の海外売上高比率が高い。 29 機械・輸送用機械では、海外売上高比率が 30%未満とする企業が 31.8%であるのに対 して、30%以上 60%未満とする企業が 43.2%、60%以上とする企業が 25.0%となってお り、全体と比較しても海外売上高比率が高くなっている。 また、電気機器・精密機械についても、海外売上高比率が 30%未満とする企業が 50.9% 存在するが、30%以上 60%未満とする企業が 26.4%、60%以上とする企業 22.6%となっ ており、海外売上高比率 60%以上の企業割合が高くなっている。 図表 24 直近会計年度の海外売上高比率(業種別) Q 1.貴社グループの直近会計年度の海外売上高比率(日本からの輸出を含む)はどの程度でしょ うか。直近会計年度について答えください。(業種別) (不明/目標設定していない、無回答を除き集計) 0% 20% 素材 (N=77) 40% 26.7% 20.0% 60% 80% 17.3% 16.0% 100% 13.3% 2.7% 1.3% 2.7% 機械・輸送用機械 (N=45) 6.8% 電気機器・精密機械 (N=55) 15.9% 17.0% 9.1% 22.6% その他 (N=26) 10%未満 10%以上 20%未満 13.6% 15.9% 11.3% 5.7% 7.5% 72.7% 20%以上 30%未満 30%以上 40%未満 13.6% 40%以上 50%未満 13.2% 11.4% 6.8% 6.8% 13.2% 5.7% 3.8% 4.5% 13.6% 4.5% 4.5% 50%以上 60%未満 60%以上 70%未満 70%以上 80%未満 80%以上 ※「不明/目標設定していない」と回答したサンプル、および無回答のサンプルを除いて集計 30 2.為替エクスポージャーの状況 1) 通貨別の為替エクスポージャー(全体) 為替エクスポージャーを通貨別にみると、対ドルについては 100 万円未満が 24.8%、 100 万円以上 10 億円未満が 30.6%、10 億円以上 100 億円未満が 28.9%、100 億円以上 が 15.7%となっている。ユーロや元と比べると、保有規模が大きい。 全体では、100 億円以上が 18.4%、10 億円以上 100 億円未満が 35.0%、100 万円以 上 10 億円未満が 28.2%、100 万円未満が 18.4%、となっている。 図表 25 通貨別の為替エクスポージャー Q 5.貴社グループにおける為替エクスポージャーの額は、どの程度でしょうか。直近の 四半期決算における為替エクスポージャーの額を通貨別にご記入ください。 0% ドル (N=121) 20% 24.8% ユーロ (N=81) 80% 68.1% 18.4% 15.7% 35.8% 36.5% 12.3% 12.8% 28.4% 28.2% 10億円以上100億円未満 ※無回答のサンプルを除いて集計 31 9.9% 12.8% 6.4% 27.0% 35.0% 1億円以上10億円未満 100% 28.9% 42.0% その他 (N=74) 1億円未満 60% 30.6% 元 (N=47) 合計 (N=103) 40% 8.1% 18.4% 100億円以上 2) 業種別・通貨別の為替エクスポージャー 通貨ごとの為替エクスポージャーについて、業種別での検討を行う。 (1)対ドル 素材は、為替エクスポージャーが 100 億円以上の企業の割合が 21.7%の一方で、1 億円未満の割合も 28.3%で分布が広く、両極端の企業が存在している。 機械・輸送用機械は 1 億円未満の割合は小さく、14.3%に過ぎない。 その他については、全般的に対ドルのエクスポージャーは尐なく、8 割強の企業が 10 億円未満となっている。 図表 26 0% 20% 素材 (N=46) 機械・輸送用機械 (N=28) 電気機器・精密機械 (N=33) 対ドルの為替エクスポージャー 40% 28.3% 14.3% 21.7% ~1億円未満 80% 28.3% 32.1% 100% 21.7% 39.3% 24.2% その他 (N=14) 60% 33.3% 35.7% 30.3% 50.0% 1~10億円未満 ※無回答のサンプルを除いて集計 32 14.3% 10~100億円未満 12.1% 7.1% 7.1% 100億円~ (2)対ユーロ 対ユーロでは、全般的に対ドルに比べ、為替エクスポージャーの額は小さく、どの 業種でも 7 割以上が 10 億円未満となっている。 また、素材、電気機器・精密機械の回答企業数は、対ドルに比べが大きく減尐して いる。 図表 27 0% 素材 (N=26) 機械・輸送用機械 (N=24) 電気機器・精密機械 (N=21) 対ユーロの為替エクスポージャー 20% 40% 42.3% 38.5% 29.2% 41.7% 38.1% 33.3% その他 (N=10) ~1億円未満 60% 80.0% 1~10億円未満 ※無回答のサンプルを除いて集計 33 80% 100% 3.8% 15.4% 16.7% 12.5% 23.8% 20.0% 10~100億円未満 100億円~ 4.8% (3)対元 全般的に、対ドル、対ユーロと比べて、回答企業数が尐なくなっており、どの業種 も 20 社を切っている。また、どの業種においても 6 割以上が為替エクスポージャーは 1 億円未満となっている。 図表 28 0% 対元の為替エクスポージャー 20% 素材 (N=17) 60% 76.5% 機械・輸送用機械 (N=11) 61.5% その他 (N=6) 27.3% 7.7% 66.7% 1~10億円未満 ※無回答のサンプルを除いて集計 34 80% 100% 5.9% 11.8% 5.9% 63.6% 電気機器・精密機械 (N=13) ~1億円未満 40% 9.1% 0.0% 23.1% 7.7% 16.7% 0.0% 16.7% 10~100億円未満 100億円~ (4)その他 ドル、ユーロ、元以外の通貨の為替エクスポージャーについては、電気機器・精密 機械は 100 億円以上の企業は存在しなかった。後述するが、電気機器・精密機械は、 円建て取引を行っている割合が高い傾向にあり、これが原因の一つとなっていると考 えられる。 図表 29 0% 素材 (N=26) 機械・輸送用機械 (N=20) 電気機器・精密機械 (N=19) その他 (N=9) ~1億円未満 その他の通貨の為替エクスポージャー 20% 40% 26.9% 60% 26.9% 40.0% 80% 34.6% 25.0% 36.8% 10~100億円未満 ※無回答のサンプルを除いて集計 35 10.0% 26.3% 22.2% 1~10億円未満 11.5% 25.0% 36.8% 55.6% 100% 11.1% 11.1% 100億円~ (5)全通貨 素材、機械・輸送用機械、電気機器・精密機械については、為替エクスポージャー の額の分布は似かよっており、2 割前後が 100 億円を超えている。これに対し、1 億円 未満の企業が、いずれも 10%台である。 その他の企業は、為替エクスポージャーの額は尐なく、8 割強が 10 億円未満となっ ている。 図表 30 0% 素材 (N=38) 20% 18.4% 機械・輸送用機械 (N=26) 15.4% 電気機器・精密機械 (N=27) 14.8% その他 (N=12) ~1億円未満 全通貨の為替エクスポージャー 40% 23.7% 19.2% 60% 36.8% 46.2% 33.3% 33.3% 33.3% 50.0% 1~10億円未満 10~100億円未満 ※無回答のサンプルを除いて集計 36 80% 100% 21.1% 19.2% 18.5% 8.3% 8.3% 100億円~ 3.我が国製造業の為替リスク対応 1) 想定為替レート 想定為替レートについては、80 円以上 95 円未満とする回答が 74.6%を占めるが、そ のうち、80 円以上 85 円未満 24.9%、85 円以上 90 円未満 25.9%、90 円以上 95 円未満 23.9%となっており、ほぼ同割合となっている。想定為替レートを設定していないとす る企業は 14.9%となっている。 業種別で見ると、電気機器・精密機械では、相対的に円高のレートを設定していると いえる。機械・輸送用機械に関しては、85 円以上 90 円未満のレート設定の企業が 31.1% ともっとも多くなっている。 図表 31 想定為替レート Q 2.貴社グループにおける想定為替レートについてお答えください。 (上段:全体、下段:業種別) 0% 0.5% 0.0% 8.1% 60円未満 85円以上 90円未満 20% 40% 24.9% 60円以上 65円未満 90円以上 95円未満 60% 25.9% 65円以上 70円未満 95円以上 100円未満 37 80% 23.9% 70円以上 75円未満 100円以上 (N=197) 100% 0.0% 2.5% 14.2% 75円以上 80円未満 想定為替レートを 設定していない 80円以上 85円未満 図表 32 0% 想定為替レート(業種別) 20% 素材 3.9% (N=77) 11.1% 電気機器・精密機械 (N=55) 12.7% 65円以上 70円未満 70円以上 75円未満 23.4% 31.1% 20.0% 36.4% その他 3.8% 3.8% 15.4% (N=26) 60円以上 65円未満 60% 27.3% 20.8% 機械・輸送用機械 (N=45) 60円未満 40% 75円以上 80円未満 80円以上 85円未満 30.8% 85円以上 90円未満 38 3.9% 90円以上 95円未満 95円以上 100円未満 100% 16.9% 20.0% 20.0% 19.2% 80% 3.9% 11.1% 6.7% 21.8% 7.7% 100円以上 9.1% 19.2% 想定為替レートを 設定していない 無回答 2) 為替リスクを軽減させる措置 (1)軽減させる措置の全般論 為替リスクを軽減させる措置としては、「金融手法の活用」がもっとも多く全体の 58.6%、次いで「商品・サービスの購入における外貨建ての取引を増加」が 28.3%、 「商 品・サービス販売における円建ての取引を増加」21.7%、となっている。 業種別でみると、いずれも「金融手法の活用」がもっとも多いが、電気機器・精密機 械では、 「外貨建ての取引を増加」 、 「円建ての取引を増加」させるとする企業の割合が相 対的に高いのが特徴である。 図表 33 為替リスクを軽減させる措置 Q3.貴社グループが為替リスクを軽減させるために講じている対策をお答えください (上段:全体、下段:業種別) 0.0% 20.0% 40.0% 商品・サービスの購入における 外貨建ての取引を増加 60.0% 80.0% 100.0% 28.3% 商品・サービス販売における 円建ての取引を増加 21.7% 金融手法の活用 58.6% その他 11.6% 為替リスクを軽減させる 対策は講じていない 19.2% (N=198) 0.0% 商品・サービスの購入における 外貨建ての取引を増加 20.0% 40.0% 23.4% 28.9% 7.7% 60.0% 41.8% 58.4% 60.0% 54.5% 53.8% 金融手法の活用 その他 0.0% 無回答 100.0% 19.5% 20.0% 27.3% 15.4% 商品・サービス販売における 円建ての取引を増加 為替リスクを軽減させる 対策は講じていない 80.0% 11.7% 20.0% 9.1% 18.2% 13.3% 12.7% 0.0% 4.4% 5.5% 0.0% 39 42.3% 素材 (N=77) 機械・輸送用機械 (N=45) 電気機器・精密機械 (N=55) その他 (N=26) (2)取引の際の通貨建て 取引の際の通貨建てについて、円建て取引の割合は 5%未満が最も多く、23.0%であ ったが、一方で 80%以上も 17.4%を占めており両極化しているといえる。 業種別では、素材では 5%未満が 24.7%、80%以上が 15.6%、機械・輸送用機械では 5%未満が 13.3%、80%以上が 4.4%、電気機器・精密機械では 5%未満が 21.8%、80%以 上が 23.1%となっており、特に電気機器・精密機械では、円建て取引の割合が高い企業 が多くなっている。 図表 34 円建ての取引の割合 Q6.貴社グループの輸出における円建て取引額の割合をお答えください (上段:全体、下段:業種別) 0% 20% 8.4% 23.0% 輸出において 円建て取引は 行っていない 40%以上 50%未満 20%以上 30%未満 50%以上 60%未満 60%以上 70%未満 70%以上 80%未満 80%以上 5%以上 10%未満 20% 24.7% 30%以上 40%未満 40% 60% 80% 1.3%2.6% 5.2% 11.7% 7.8% 9.1% 15.6% 1.3% 2.6% 100% 11.7% 4.4% 11.1% 6.7% 13.3% 4.4% 11.1% 8.9% 6.7%4.4% 11.1% 21.8% 1.8% 1.8% 0.0% 9.1% 7.3% 10.9%3.6% 5.5% 20.0% 3.8% 15.4% 3.8% 11.5% 3.8% 3.8% 23.1% 10%以上 20%未満 100% 円建ての取引の割合(業種別) 機械・輸送用機械 4.4% 13.3% (N=45) 5%未満 (N=178) 4.5% 3.9% 3.4% 17.4% 4.5% 10%以上 20%未満 素材 6.5% (N=77) 輸出において 円建て取引は 行っていない 5.6% 11.2% 9.0% 9.0% 80% 5%以上 10%未満 0% 電気機器・精密機械 3.6% (N=55) 60% 5%未満 図表 35 その他 (N=26) 40% 20%以上 30%未満 30%以上 40%未満 40 40%以上 50%未満 50%以上 60%未満 60%以上 70%未満 23.1% 70%以上 80%未満 14.5% 11.5% 80%以上 無回答 アジアでの取引における通貨建ての状況については、 「ドル等の国際通貨建てでの取引 を行っている」とする企業が最も多く 74.6%を占め、次いで「円建てでの取引を行って いる」68.2%、 「現地通貨建てでの取引を行っている」41.8%となっている。 業種別では、素材や電気機器・精密機械では全体傾向と同様であるが、機械・輸送用 機械の場合、円建てでの取引を行っている」企業が最も多く 80.0%となっている。 図表 36 アジアでの取引における通貨 Q7.貴社グループが、(中国を除く ASEAN 等の)アジアでの取引にお ける通貨についてお答えください(上段:全体、下段:業種別) 0.0% 20.0% 40.0% 現地の通貨建てでの 取引を行っている 60.0% 80.0% 41.8% 円建てでの取引を行っている 68.2% ドル等の国際通貨建 てでの取引を行っている その他 100.0% 74.6% 1.5% アジアでの取引は行っていない 5.0% (N=201) 0.0% 20.0% 現地の通貨建てでの 取引を行っている 40.0% 19.2% 60.0% 46.2% その他 アジアでの取引は行っていない 無回答 67.5% 80.0% 67.3% 61.5% 2.6% 0.0% 1.8% 0.0% 2.6% 2.2% 1.8% 23.1% 0.0% 0.0% 3.6% 0.0% 41 100.0% 46.8% 46.7% 40.0% 円建てでの取引を行っている ドル等の国際通貨建てでの 取引を行っている 80.0% 79.2% 73.3% 72.7% 素材 (N=77) 機械・輸送用機械 (N=45) 電気機器・精密機械 (N=55) その他 (N=26) (3)金融手法の活用 為替リスクの軽減のために活用している金融手法については、 「為替先物予約」が最 も多く 70.0%、通貨オプション、為替スワップは、いずれも 17.0%、14.5%、と活用 している企業は限定的である。「為替リスクを軽減させる金融手法は活用していない」 とする企業は 27.5%と、4 分の 1 以上となっている。 業種別では、機械・輸送用機械については「為替先物予約」の割合が相対的に低く 61.8%、一方で、金融手法は活用していないとする企業の割合が相対的に高く 32.7%と なっている。 図表 37 為替リスクの軽減のために活用している金融手法 Q7.貴社グループが為替リスクの軽減のために活用している金融手 法をお答えください(上段:全体、下段:業種別) 0.0% 20.0% 40.0% 60.0% 為替先物予約 80.0% 100.0% 70.0% 通貨オプション 17.0% 為替スワップ 14.5% その他 7.0% 為替リスクを軽減させる 金融手法は活用していない 27.5% (N=200) 0.0% 20.0% 40.0% 60.0% 為替先物予約 通貨オプション 為替スワップ その他 61.8% 53.8% 100.0% 75.3% 75.6% 14.3% 26.7% 14.5% 11.5% 18.2% 11.1% 14.5% 7.7% 6.5% 4.4% 10.9% 3.8% 23.4% 17.8% 32.7% 42.3% 為替リスクを軽減させる 金融手法は活用していない 無回答 80.0% 0.0% 4.4% 1.8% 0.0% 42 素材 (N=77) 機械・輸送用機械 (N=45) 電気機器・精密機械 (N=55) その他 (N=26) 3) 為替リスクに対応するバリューチェーンの変化 多くの企業が、為替リスクへの対応として、バリューチェーンを変化させることが考 えられる。中には、バリューチェーンを変化させることを中期計画に盛り込んでいる企 業も存在する。自動車メーカーのマツダ株式会社はその一例で、2012 年 2 月に「中長期 施策の枠組み」 を強化するための構造改革プランでは、図表 38 のように、海外生産比率、 国内工場の海外調達比率・外貨建て決済比率、海外生産戦略について言及している。こ のような取り組みにより為替マリー比率を高め、為替リスクに対応しようとしていると 考えられる。 図表 38 マツダの「中長期施策の枠組み」を強化するための構造改革プラン 出所)マツダ株式会社 ホームページ http://www.mazda.co.jp/corporate/investors/policy/mid_term.html 以降では、アンケート調査から、為替リスクに対応したバリューチェーンの変化につ いての全般的な傾向を把握する。 43 (1)海外事業所の展開状況 海外事業所の展開状況については、販売拠点については、中国(76.7%) 、北米(69.3%) 、 ASEAN(60.8%) 、EU(57.1%)の順となっている。また生産拠点については、中国 (74.5%) 、ASEAN(60.4%) 、北米(50.5%) 、EU(39.1%)の順となっている。 図表 39 海外事務所の展開状況 Q8.貴社グループが海外事業所(支店または現地法人)を開設して いる地域についてお答えください(全体) 0.0% 20.0% 40.0% 北米 60.0% 80.0% 69.3% 50.5% 76.7% 74.5% 中国 韓国 42.3% 21.9% 60.8% 60.4% ASEAN 上記以外のアジ ア 38.6% 29.2% EU EU以外の欧州 39.1% 8.3% オセアニア その他の地域 海外事業所は 開設していない 57.1% 17.5% 28.0% 20.3% 中南米 アフリカ 100.0% 4.7% 13.8% 9.4% 25.4% 7.9% 2.6% 販売拠点(N=189) 12.2% 14.1% 生産拠点(N=192) 44 業種別にみると、販売拠点に関しては、素材については、中国(75.3%)、ASEAN (62.3%) 、北米(62.3%) 、の順、機械・輸送用機械については、中国(73.3%)、北米 (73.3%)、EU(66.7%) 、の順、電気機器・精密機器については、中国(76.4%)、北 米(74.5%) 、EU(56.4%)の順となっている。 生産拠点に関しては、 素材については、中国(72.7%) 、 ASEAN(68.8%) 、北米(57.1%) 、 の順、機械・輸送用機械については、中国(75.6%) 、ASEAN(64.4%)、北米(53.3%) 、 の順、電気機器・精密機器については、中国(69.1%) 、ASEAN(41.8%)、北米(34.5%) の順となっている。 図表 40 販売拠点を開設している地域 Q8.貴社グループが海外事業所(支店または現地法人)を開設して いる地域についてお答えください(販売拠点、業種別) 0.0% 20.0% 40.0% 34.6% 中国 31.2% 14.3% 15.6% 0.0% 11.5% 3.8% 50.6% 56.4% 66.7% 素材 (N=77) 33.3% 7.8% 6.7% 9.1% 3.8% 機械・輸送用機械 (N=45) 電気機器・精密機械 (N=55) 6.5% 11.1% 7.3% 6.5% 4.4% 5.5% 52.7% 24.7% 31.1% 30.9% 24.7% 18.2% 15.4% 62.3% 64.4% 27.3% 14.3% 15.6% 12.7% オセアニア 無回答 40.0% 30.8% 中南米 海外事業所は 開設していない 54.5% 7.7% EU その他の地域 52.7% 30.8% 上記以外のアジア 73.3% 74.5% 45.5% 24.4% 19.2% ASEAN 100.0% 75.3% 73.3% 76.4% 46.2% 韓国 アフリカ 80.0% 62.3% 北米 EU以外の欧州 60.0% 34.6% その他 (N=26) 15.4% 45 図表 41 生産拠点を開設している地域 Q8.貴社グループが海外事業所(支店または現地法人)を開設して いる地域についてお答えください(生産拠点、業種別) 0.0% 20.0% 40.0% 北米 34.5% 38.5% 中国 13.3% 20.0% 11.5% 41.8% 42.3% 27.3% 23.6% 19.2% EU 0.0% オセアニア その他の地域 海外事業所は 開設していない 無回答 68.8% 64.4% 41.6% 44.4% 15.6% 19.5% 26.7% 16.4% 11.5% 中南米 アフリカ 72.7% 75.6% 69.1% 37.8% 32.7% 19.2% 6.5% 7.3% 100.0% 28.6% ASEAN 上記以外のアジア 80.0% 57.1% 53.3% 57.7% 韓国 EU以外の欧州 60.0% 0.0% 0.0% 1.8% 7.8% 6.7% 素材 (N=77) 11.7% 8.9% 15.4% 機械・輸送用機械 (N=45) 3.9% 4.4% 0.0% 0.0% 電気機器・精密機械 (N=55) 7.8% 13.3% 10.9% 34.6% その他 (N=26) 6.5% 4.4% 7.3% 0.0% 46 (2)国内、海外の設備投資状況 国内、海外の設備投資状況については、国内については 3 会計年度前から直近会計 年度までに大きな変化はないといえるが、海外については投資規模が拡大している。 海外における設備投資額が 100 億円以上とする回答が、3 会計年度前は 11.0%であっ たのが、直近では 16.2%に、また 10 億円以上 100 億円未満も、3 会計年度前は 28.3% であったものが直近では 33.1%となっている。 図表 42 国内、海外の設備投資状況 Q9.貴社グループの国内、海外における設備投資額についてご記入ください。 0% 国内/3会計年度前 (N=151) 20% 0.7% 5.3% 40% 27.8% 海外/直近会計年度 17.3% 15.0% 14.0% 12.5% 26.1% 28.3% 24.3% 100% 25.8% 43.9% (N=157) (N=127) 80% 40.4% 1.3% 国内/直近会計年度 3.2% 25.5% 海外/3会計年度前 60% 28.3% 33.1% 11.0% 16.2% (N=136) 0円 ~1億円未満 1 億~ 10億円未満 10億~ 100億円未満 100億円以上 ※「不明/目標設定していない」と回答したサンプル、および無回答のサンプルを除いて集計 47 国内、海外の設備投資状況については、国内についてはいずれの分野も、50%未満の 投資にとどまっている企業の割合が高くなっている。 これに対して、海外の場合は、新規投資では 44.4%が 50%以上の投資を行っているな ど、国内と比べて投資意欲が旺盛である。海外では 100%が新規投資とする企業も 10% 存在する。 図表 43 国内、海外の設備投資状況(投資タイプ別) Q10.貴社グループにおける、国内、海外の設備投資の投資タイプ別の構成比をご記入ください。 0% 国内/新規 20% 40% 60% 80% 100% 7.4% 56.5% 36.1% 0.0% 1.7% 68.9% 26.1% 3.4% (N=108) 国内/更新:能力増強・省力化・環境対応 (N=119) 国内/更新:維持・補修 0.8% 57.0% 39.7% 2.5% (N=121) 海外/新規 16.7% (N=90) 海外/更新:能力増強・省力化・環境対応 17.6% 44.4% 28.9% 54.1% 10.0% 25.9% 2.4% (N=85) 海外/更新:維持・補修 (N=89) 0% 13.5% ~49% 67.4% 50~99% 12.4% 6.7% 100% ※「不明/目標設定していない」と回答したサンプル、および無回答のサンプルを除いて集計 48 (3)海外生産 海外生産比率については、3 会計年度前から直近会計年度にかけて若干ではあるが比 率が高まっている。今後の目標についてはさらにこの比率が高まるとする回答企業の割 合が高くなっている。 業種別では、機械・輸送用機械の海外生産比率が相対的に高いといえるが、電機機器・ 精密機械についても海外生産比率が 50%を超える割合が 3 割近くを占めており、両極化 しているといえる。 図表 44 海外生産比率の変化 Q11.貴社グループの直近会計年度における海外生産比率はどの程度でしょうか。 (上段:合計、下段:業種別(直近会計年度のみ)(不明/目標設定していない、無回答を除く) 0% 20% 3会計年度前 40% 60% 44.6% 12.7% 80% 12.1% 11.5% (N=191) 直近会計年度 40.8% 15.3% 11.5% 8.9% (N=191) 今後の目標 20.2% 20.2% 13.8% 11.9% 9.2% 100% 1.9% 7.6% 5.7%3.2% 0.6% 1.9% 9.6% 6.4% 5.1% 0.6% 12.8% 6.4% 3.7% 1.8% (N=186) 10%未満 10%以上 20%未満 20%以上 30%未満 0% 30%以上 40%未満 20% 素材 (N=52) 機械・輸送用機械 (N=37) 40% 27.0% 8.1% 70%以上 80%未満 60% 18.9% 80% 80%以上 100% 9.6% 9.6% 7.7% 3.8% 13.5% 18.9% 8.1% 5.4% 13.0% 6.5%4.3%8.7% 10.9% 8.7% 2.2%6.5% 59.1% 20%以上 30%未満 60%以上 70%未満 25.0% 39.1% その他 (N=22) 10%以上 20%未満 50%以上 60%未満 44.2% 電気機器・精密機械 (N=46) 10%未満 40%以上 50%未満 30%以上 40%未満 9.1% 40%以上 50%未満 50%以上 60%未満 60%以上 70%未満 13.6% 9.1% 9.1% 70%以上 80%未満 80%以上 ※「不明/目標設定していない」と回答したサンプル、および無回答のサンプルを除いて集計 49 また、海外生産を増加させる理由としては、「消費地に近い場所で生産を行うため」と する回答が 66.8%ともっとも多く、次いで、「原材料・部品・部材等の調達コストを下げ るため」(53.7%) 、「人件費を下げるため」(44.2%)の順となっている。 業種別では、機械・輸送用機械に関しては、「為替変動のリスクを軽減させるため」と する回答が多くなっている点に特徴がある。 Q12.貴社のグループにおいて、今後の海外生産を拡大させる場合は、その背景について教えてください (上段:合計、下段:業種別) 0.0% 20.0% 為替変動のリスクを軽減させるため 40.0% 60.0% 80.0% 100.0% 25.3% 消費地に近い場所で生産を行うため 66.8% 現地の趣向等のマーケティングに関する情報を生産に 反映させやすくするため 19.5% 人件費を下げるため 44.2% 原材料・部品・部材等の調達コストを下げるため 53.7% 生産拠点を分散させることで災害等に対応するため 17.4% その他 5.8% 今後は海外生産を拡大させるつもりはない 8.4% (N=190) 0.0% 20.0% 為替変動のリスクを軽減させるため 3.8% 40.0% 18.2% 23.6% 50.9% 46.2% 44.2% 原材料・部品・部材等の調達コストを下げ るため 無回答 68.8% 75.6% 37.7% 35.6% 50.9% 42.3% 人件費を下げるため 今後は海外生産を拡大させるつもりはない 100.0% 24.7% 13.3% 12.7% 19.2% 現地の趣向等のマーケティングに関する 情報を生産に反映させやすくするため その他 80.0% 44.4% 消費地に近い場所で生産を行うため 生産拠点を分散させることで 災害等に対応 するため 60.0% 38.5% 19.5% 8.9% 16.4% 19.2% 9.1% 2.2% 5.5% 0.0% 10.4% 2.2% 3.6% 19.2% 3.9% 4.4% 10.9% 7.7% 50 57.8% 58.2% 素材 (N=77) 機械・輸送用機械 (N=45) 電気機器・精密機械 (N=55) その他 (N=26) (4)海外調達 海外調達比率については、3 会計年度前から直近会計年度にかけて大きな変化はない といえる。 業種別では、機械・輸送用機械の比率が相対的に高いが、海外生産比率と同様に、電 機機器・精密機械については、海外調達比率が 50%以上の企業が 2 割近くあり、他業種 と比べて多い。 図表 45 海外調達比率の変化 Q13.貴社グループの直近会計年度における海外調達比率はどの程度でしょうか。 (上段:合計、下段:業種別(直近会計年度のみ)(不明/目標設定していない、無回答を除く) 0% 20% 3会計年度前 40% 40.4% 60% 18.4% 80% 12.5% 100% 8.1% 7.4% (N=185) 直近会計年度 35.8% 19.0% 13.1% 8.8% 9.5% (N=185) 今後の目標 17.2% 25.3% 14.1% 12.1% 10.1% 3.7% 2.2% 5.1% 2.2% 4.4% 2.2% 3.6% 3.6% 13.1% (N=183) 3.0% 2.0% 3.0% 10%未満 10%以上 20%以上 30%以上 40%以上 50%以上 60%以上 70%以上 80%以上 不明/ 20%未満 30%未満 40%未満 50%未満 60%未満 70%未満 80%未満 目標は設定していない 0% 20% 素材 (N=77) 38.3% 機械・輸送用機械 (N=45) 10%未満 60% 19.1% 34.4% 電気機器・精密機械 (N=55) その他 (N=26) 40% 12.5% 43.2% 19.0% 10%以上 20%未満 14.9% 18.8% 21.6% 23.8% 20%以上 30%未満 80% 14.3% 100% 2.1% 6.4% 8.5% 6.4% 2.1% 2.1% 6.3% 15.6% 3.1% 6.3% 3.1% 5.4%5.4%5.4% 8.1% 5.4% 2.7% 2.7% 23.8% 30%以上 40%未満 9.5% 4.8% 4.8% 40%以上 50%未満 ※「不明/目標設定していない」と回答したサンプル、および無回答のサンプルを除いて集計 51 また、海外調達を増加させる理由としては、「原材料・部品・部材のコストダウンを行 うため」とする回答が 78.0%ともっとも多く、ついで、「調達ルートを多様化させるため」 (40.1%) 、「為替リスクを軽減させるため」(32.4%)の順となっている。 業種別では、機械・輸送用機械では「為替リスクを軽減させるため」とする回答が他 業種よりも多く、素材に関しては「調達ルートを多様化させるため」とする回答が多い のが特徴といえる。 Q14. 貴社のグループにおいて、今後の海外調達を増加させる場合は、その背景について教えてください (上段:合計、下段:業種別) 0.0% 20.0% 為替リスクを軽減させるため 40.0% 60.0% 80.0% 100.0% 32.4% 原材料・部品・部材のコストダウンを行うため 78.0% 原材料・部品・部材の品質を高めるため 8.8% 調達ルートを多様化させるため 40.1% 取引先の海外支出に対応するため 13.2% その他 4.9% 今後は海外調達を増加させるつもりはない 7.7% (N=182) 0.0% 20.0% 為替リスクを軽減させるため 0.0% 40.0% 60.0% 46.2% その他 今後は海外調達を増加させるつもりはない 無回答 74.0% 75.6% 70.9% 10.4% 0.0% 7.3% 15.4% 44.2% 33.3% 27.3% 34.6% 調達ルートを多様化させるため 取引先の海外支出に対応するため 100.0% 26.0% 44.4% 34.5% 原材料・部品・部材のコストダウンを行うため 原材料・部品・部材の品質を高めるため 80.0% 14.3% 11.1% 12.7% 3.8% 3.9% 4.4% 3.6% 7.7% 6.5% 2.2% 3.6% 23.1% 7.8% 6.7% 16.4% 11.5% 52 素材 (N=77) 機械・輸送用機械 (N=45) 電気機器・精密機械 (N=55) その他 (N=26) なお、どのような部品・部材について海外調達を進める予定かという問いに対しては、 「コストダウンになる部品・部材」とする回答が 64.0%ともっとも多くなっており、その 他の選択肢はいずれも 2 割程度の回答割合となっている。コアとなる部品・部材や品質 の優れた部品・部材は国内生産とし、コストダウンになる部品・部材を海外調達する方 向性が読み取れる。 図表 46 海外調達を進める部品・部材 Q15.貴社のグループでは、どのような部品・部材について海外調達を進める予定かについてお答えください (上段:合計、下段:業種別) 0.0% 20.0% 製品のコアとなる部品・部材 40.0% 80.0% 100.0% 23.3% 品質の優れた部品・部材 20.6% コモディティ的な部品・部材 22.2% コストダウンになる部品・部材 その他 60.0% 64.0% 2.1% 特に決まっていない 22.8% (N=189) 0.0% 20.0% 40.0% 60.0% 16.9% 15.6% 20.0% 品質の優れた部品・部材 30.8% 22.1% 20.0% 18.2% 23.1% コモディティ的な部品・部材 55.8% コストダウンになる部品・部材 42.3% 特に決まっていない 無回答 100.0% 24.7% 20.0% 18.2% 23.1% 製品のコアとなる部品・部材 その他 80.0% 1.3% 2.2% 3.6% 0.0% 23.4% 13.3% 20.0% 30.8% 5.2% 8.9% 7.3% 7.7% 53 68.9% 65.5% 素材 (N=77) 機械・輸送用機械 (N=45) 電気機器・精密機械 (N=55) その他 (N=26) 4.今後の為替政策への要望 今後の為替政策への要望としてもっとも回答が多かったのは「金融緩和政策」であり 46.8%と半数近くを占めた。次いで「アジア等における円建て取引拡大の振興」27.7%、 「為替市場への介入」27.1%、となっている。 業種別では、機械・輸送用機械において、「金融緩和政策」が 60.0%と相対的に高い点 に特徴がある。 図表 47 今後期待する為替政策 Q16. 今後の為替政策として期待される項目をお答えください 0.0% 20.0% 為替エクスポージャーの緩和策 40.0% 60.0% 18.1% 為替市場への介入(口先介入、円売り介入) 27.1% アジア等における円建て取引拡大の振興 27.7% 金融緩和政策 46.8% その他 6.4% 為替政策等について特に要望するものはない 14.4% (N=188) 0.0% 20.0% 15.6% 14.5% 為替エクスポージャーの緩和策 3.8% 為替市場への介入 (口先介入、円売り介入) 40.0% 23.4% 26.0% 26.7% 29.1% 11.5% 29.9% 24.4% 21.8% 23.1% アジア等における円建て取引 拡大の振興 36.4% 40.0% 42.3% 金融緩和政策 その他 為替政策等について特に 要望するものはない 無回答 60.0% 5.2% 2.2% 9.1% 7.7% 16.9% 12.7% 19.2% 4.4% 6.5% 8.9% 5.5% 11.5% 54 60.0% 素材 (N=77) 機械・輸送用機械 (N=45) 電気機器・精密機械 (N=55) その他 (N=26) Ⅳ.各国の金融政策・為替政策 ここでは、主要先進国を中心に、金融政策及び為替介入政策について整理する。 1. 為替レートの金融政策 1)為替レートの決定理論 第Ⅰ章におけるデータでは、物価水準が中長期的に為替レートに大きな影響を与えて いるということが分かった。ところがその物価水準は、金融緩和により影響を与えるこ とが可能であれば、結局は金融緩和が為替レートに影響を与えると考えられる。したが って、ここでは金融政策と為替レートとの関係をより深く検討する。 そのために、まず為替レートの古典的な決定理論を改めて整理すると、次のようにな る。第 I 章で述べたように、為替レートの決定理論は、フロー変数に注目するものと、 ストック変数に注目するものとに大別できる。経常収支や資本収支などのフロー変数が 為替レートを決めると考えるアプローチは、1970 年代に注目された。これに対して、貨 幣市場や債券市場に注目するアセット・アプローチは、フロー・アプローチとは逆の結 論となるものもある。 55 図表 48 為替レートの決定理論 考え方 内容 フロー・アプローチ ・ 所得が増えると輸入の増加を通じて通貨安となり、利子率が上 (マンデル・フレミン がると資本が流入して通貨高となると考える。 グ・モデル) 利子率平価 ・ 金利の裁定を通じて為替レートが決まると考える。 ・ 特に短期の決定理論と考えられている。 ・ 通貨供給量が増えると、PPP を通じて自国通貨安となるが、 短期には金利低下によっても自国通貨安が進む(オーバーシュ ート) 。 購買力平価 ・ 各国通貨の購買力が等しくなる水準に決まると考える、一物一 価の法則。 ・ 特に長期の決定理論と考えられている。 ・ 1970 年代半ばには、ドル円の為替レートについてあてはまる 時期もあった。 マネタリー・ モデル ・ 購買力平価説と貨幣数量説を前提とした時、為替レートは相対 的な通貨供給によって決まると考える。 ・ 前掲の「金融緩和が為替レートに与える影響」図の海外要因が 該当する。 ポートフォリオ・バラ ・ 投資家は国内債券と海外債券を代替的とは考えないので、それ ンス・モデル(経常収 ぞれの債券の収益率はリスク・プレミアムの分だけ異なる、と 支によるリスク・プレ 仮定する。 ミアム) ・ 海外債券の発行残高が増えると、自国通貨安となる。 ・ たとえば日本の経常黒字による対外純資産残高の増加がドル 建て資産に対するリスク・プレミアムを拡大し、円高につなが ると考える。 出所:Chinn (2012)、翁(2012)などから作成7 2)為替レートと金融政策 こうした為替レート決定メカニズムに、金融政策(の変更)はどのようにかかわって くるだろうか。金融政策は、いずれのアプローチにも何らかの影響があり、すべてのル ートを析出することはできない。以下では、利子率平価、マネタリー・アプローチ、リ Chinn, M.D. (2012), “Macro approaches to foreign exchange determination,” in J. James et al., eds., The Handbook of Exchange Rates, Wiley. 翁邦雄(2012) 『金融政策のフロンティア』日本評論社。 7 56 スク・プレミアムのうち、シンプルなルートについて述べる。 まず、利子率平価については、金融緩和により通貨供給量が増えると、当該通貨の金 利が下がり、通貨安となると考えられる。 次に、マネタリー・アプローチについては、通貨供給量の相対的拡大がそのまま通貨 安を招くと考えられる。この点を定式化しよう。名目為替レートを E=P/P* と書き、貨幣市場の均衡条件 P=M/L、P*=M*/L* を代入すると、 E=(M/M*)/(L/L*) と書ける(ここで P は物価、M はマネーサプライ、L は貨幣需要、*は他国を表す) 。 よって、流動性選好 L が各国で一定だとすると、相対的な通貨供給量 M/M*がそのまま 為替レートを左右することになる。これは、緩和的な金融政策による自国通貨安の誘導 が近隣諸国の窮乏化を招くという批判の根拠でもある。但し、実際には両国の流動性選 好は一定ではなく、各国の利子率 i と所得 Y に応じて変化する。この点を考慮して、 と表すと、為替レートは対数表示で となる(m は M、y は Y のそれぞれ自然対数)。以上より、相対的に貨幣供給量が多い、 所得が尐ない、利子率が高いと、通貨安を招くことになる。所得が尐ないと貨幣需要が 貨幣供給に比して尐なくなるため、通貨安につながると考えるのである。また利子率が 高いと、やはりお金に対する需要が相対的に尐なく、通貨安につながることになる。 最後に、日本の経常黒字については、エネルギー価格の高止まりを背景にフローベー スでは歯止めがかかっており、今後はリスク・プレミアムを通じた円高要因とはなりに くいと考えられる。 一方で、為替レートの決定理論はいずれも一長一短であり、尐なくとも短期には万能 な説明は存在せず、ランダム・ウォークのほうが当てはまりがよいとさえ言われる。む しろ、金利の裁定、為替のリスク・プレミアム、将来の為替レート等のそれぞれについ て、どのような予想がされているかというストーリーが自己成就する面が大きいと思わ れる。 57 3)非伝統的金融政策 ここまで、金融政策というとき、特にその内容を特定せずに議論を進めてきた。本節 では、政策の具体的な類型化と、各国中央銀行の動きを整理する。 金融政策の伝統的な手段は、よく知られているように、①公開市場操作、②準備率操 作、③公定歩合操作の三つとされている。しかし、日本をはじめとする先進国では、主 要な金融政策手段として②③は使われていない。現在の先進国で使われる金融政策の手 段としては、次の三つが挙げられる。 図表 49 金融政策の手段 金融政策の手段 公開市場操作 概要 中央銀行が金融市場において民間金融機関との間で行う金融資 産の売買や資金貸し付けなどの取引を行うことで、短期市場金利 の誘導を行う。長期国債の買い入れなど長期オペと、レポ取引な どの短期オペとがある 中央銀行当座預金 日々の資金決済需要を安定的に上回る一定の水準を維持するよ の積立制度 うな(法令または契約に基づく)仕組み スタンディング・フ 民間金融機関からの申し込みにより、中央銀行が資金を貸し付け ァシリティ る貸出ファシリティ、預金受け入れを行う預金ファシリティの 2 種がある オペを補完する役割が期待されていたが、米国や英国では、2008 年以降の金融危機の際にファシリティの利用が進まなかった(金 融危機時に貸出ファシリティを利用すると、その銀行は危ないと 市場にみられてしまうスティグマ問題があったため) 出所:翁(2012)などから作成 したがって、ゼロ金利下の非伝統的金融政策とは、上記の三種以外の金融政策であると定 義でき、特に 1998 年以降に日本銀行が、また 2007 年以降に先進主要国の中央銀行がそれ ぞれ採用したようなものが想定されていることが多い。これらは具体的には、時間軸政策、 特定資産の購入、量的緩和(QE)の三つに分けることができる8。 8 植田和男(2012) 「非伝統的金融政策の有効性:日本銀行の経験」 58 図表 50 非伝統的金融政策の政策メニュー 定義と特徴 時間軸政策 適用例 ・ 将来の金融政策方針を示すこと で、現在の中長期金利に影響を もたらす ・ 日銀の金融政策決定会合「新し い金融市場調節方式は、消費者 ・ コミットメントの場合と、情勢 物価指数(全国、除く生鮮食品) の変化に応じて変わることもあ の 前 年 比 上 昇 率 が 安 定的 に ゼ りうるという柔軟な「フォワー ロ%以上となるまで、継続する ド・ガイダンス」の場合とがあ こととする」(2001 年) ・ FRB「FF レートがしばらくの間 る ・ 政策委員の任期と権限、時間非 整合性(デフレ脱却後も約束通 異例に低い水準にとどまる可能 性が高い」 (2008 年) りインフレを続けるとは思われ ない) 、インフレが景気に結びつ くとは限らない 特定資産の 購入 ・ 中央銀行が通常は買わないよう な特定資産の購入により、ポー ・ 2010 年の FRB の大規模資産購 入プログラム(LSAP) トフォリオ・リバランス効果や、 ・ 社債、カバード・ボンド、政府 機能低下した市場での流動性プ 機関債、MBS、証券化商品担保 レミアムの引き下げを狙う 貸し出し、固定金利ターム物無 ・ 中央銀行のバランスシートの拡 制限オペ、ドル供給オペ 大そのものよりも、どんな資産 を買うかが重要 量 的 緩 和 ・ 政府短期証券等、伝統的な資産 (QE) ・ 俗に QE と言われる政策は多い の購入により、長期金利を下げ が、明確な適用例はほとんどな たり、マネーサプライの拡大に い より支出を増大させたり、ポー ・ 2009 年の BOE の資産購入 トフォリオ・リバランス効果を 出したりすることを狙う 出所:植田(2012)などから作成 4)先進各国の昨今の金融政策 それでは先進各国の金融政策は、 近年どのような政策をとっているのだろうか。以下では、 米国、英国等の 2008 年以降を対象に、上記の分類を念頭において検討する。 59 (1)米国 米国の FRB は、2008 年以降、通称 Q1、Q2、Q3 と呼ばれる金融緩和策を相次いで 発表している。報道や一般での議論では「量的緩和」とひとくくりにされるこれらの 政策は、いずれも性格が異なり、また前節の表で掲げた「量的緩和」とも異なる。結 論から言えば、特定資産の購入から時間軸政策にシフトしてきている。 FRB は 2008 年 9 月のリーマン・ショック後に、CP 貸出ファシリティ、通貨スワッ プ、ターム・オークション・ファシリティなどの緊急貸出プログラムを実施、これら は 2008 年末までに総額 1.7 兆ドルに上った。2008 年 12 月には FF レートの誘導目標 をゼロ近辺とした。2009 年に入ると緊急貸付需要は徐々に減尐したものの、経済状態 は相変わらず振るわなかったため、2009 年 3 月に、1,000 億ドルの GSE 債と 5,000 億ドルの GSE の MBS(住宅ローン担保証券)を購入する計画を発表した。バーナン キ議長によれば、住宅ローン金利を低下させ、信用市場の機能を回復させるのが目的 であるため、日銀の QE とは異なる「信用緩和」であると主張された(ただし報道で は、QE と呼ばれた) 。 2009 年 6 月に米経済は不況から脱したものの、回復は依然として弱かったため、2010 年 11 月の FOMC は、大規模資産購入プログラム(LSAP、通称 QE2)を決定した9。 これは、2011 年の第 2 四半期までに 6,000 億ドルの長期国債を購入するというもので ある。バーナンキ議長は 2010 年 8 月の講演で、債券と他の資産が完全代替でないこと により、リスク・プレミアムの押し下げを通じて長期金利を低下させるという狙いを 明確にしている。そのため、前節での分類によれば、TB など伝統的な資産を購入する 量的緩和ではないものの、一般には QE2 と呼ばれた。 2011 年 9 月の FOMC では、償還までの残存期間 6~30 年の米国債を 2012 年 6 月 末までに 4,000 億ドル購入し、残存期間 3 年以下の短期債を同額売却することでバラ ンスシートの構成を変える「オペレーション・ツイスト」が採られた。これはポート フォリオ・リバランス効果を狙ったものであり、さらに中央銀行のバランスシートの 規模を不変にすることで、リスク・プレミアムの低下を狙うという意図が明確である10。 そして 2012 年 9 月の FOMC で、通称 QE3 が採択された。その概要は下記のとおり である11。 ・ 毎月 400 億ドルのペースで MBS を追加的に購入する http://www.federalreserve.gov/newsevents/press/monetary/20101103a.htm 翁(2012) 。 11 http://www.federalreserve.gov/newsevents/press/monetary/20120913a.htm 9 10 60 ・ 債券の平均利回りを延長するプログラム(6 月に発表済み)を年末まで継続する ・ 機関債と MBS の元本を引き続き MBS に再投資する ・ 労働市場の見通しがあまり改善しない場合、物価安定の中で労働市場の見通しが 改善するまで、MBS の購入継続、追加的な資産購入、他の政策ツール適用を行 う ・ FOMC は、雇用の最大化と物価の安定に向けて、景気の回復が強まった後もか なりの期間、とても柔軟な金融政策スタンスをとり続けるのが適当であると予想 する ・ 特に、FF レートのターゲット範囲を 0~0.25%に維持することを決め、FF レー トが例外的に低い水準にある状態が尐なくとも 2015 年中ごろまでは正当であり 続けると予想する 上記の 1~4 点目は、QE1 や QE2 と同様、特定資産購入と読むことができる。FRB のイェレン副議長によれば、この資産購入プログラムは、長期金利を低下させること で、金利に反応しやすい住宅、自動車、耐久消費財などの消費支出を増やすことに狙 いがある12。一方で 5~6 点目は、景気回復後も緩和的な政策をとるというシグナリン グであり、時間軸政策に分類することができる。全体としては、特定資産の購入によ るポートフォリオ・リバランス効果や、機能低下した市場での流動性プレミアムの引 き下げよりは、今後数年間の期待に働きかけることに力点があるといえる。 さらに FRB のバーナンキ議長は、2013 年 3 月の「長期利子率」という演題の講演 で、10 年国債の利回りが上がっていくという複数の予測を紹介した13。中央銀行の総 裁がこうした予測に言及することは異例であり、金利の将来経路について透明性を持 たせることで政策の有効性を高めたいという FRB の意図が見える。さらに同議長は、 こうした政策の透明性は、予想されなかった利子率の動きで生じるリスクを減らすこ とにもつながるとも述べている。 Yellen (2013), “Challenges Confronting Monetary Policy,” http://www.federalreserve.gov/newsevents/speech/yellen20130302a.htm 13 Bernanke (2013), “Long-Term Interest Rates,” http://www.federalreserve.gov/newsevents/speech/bernanke20130301a.htm 12 61 図表 51 10 年国債の利回り予測 出所:Bernanke (2013) 一方で、QE3 以降も FRB のバランスシートは拡大し続けており、2007 年の 9,000 億ドルから、2013 年 3 月現在で 3 兆 1,500 億ドルに膨れ上がっている14。負債サイド の内訳で見ると、 (流通しているお金ではなく)市中銀行が保有する預金が 100 億ドル から 1 兆 7,500 億ドルに増加しており、増分の大半を占めている。景気が本格的に回 復した時に、FRB が 3 兆ドルを超えるバランスシートをどう通常の状態に戻していく かという点に関しては、既に様々なシミュレーションが行われている(図表 52) 。 まとめると、2008 年の金融危機以降、FRB の設立当時の原点に戻った緊急貸出に始 まり、非伝統金融政策である特定資産の購入を採用し、さらに市場の期待に働きかけ る時間軸政策を採用する姿勢を徐々に強めてきた。一連の緩和策を評価するのは現時 点では尚早だが、FRB は Q1~QE3 を通じて、雇用の最大化と緩やかなインフレ基調 の回復(図表 53 参照)というデュアル・マンデートをある程度果たしたという見方も できよう。 Federal Reserve statistical release, Mar. 14, 2013. http://www.federalreserve.gov/releases/h41/Current/ 14 62 図表 52 FRB のバランスシートの負債側内訳の推移と予測 出所:Greenlaw, Hamilton, Hooper, and Mishkin (2013)15 図表 53 2008 年以降の米国の個人消費支出価格指数(PCEPI) 出所:FRED(セントルイス連銀データベース) 注:2008 年 3 月~2013 年 3 月。灰色部分は米国の景気後退期 Greenlaw, Hamilton, Hooper, and Mishkin (2013), “Crunch Time: Fiscal Crises and the Role of Monetary,” U.S. Monetary Policy Forum. 15 63 なお、2012 年 9 月の通称 QE3 では、特定資産の購入よりも、シグナリングが強調 されていた。これに影響を与えた可能性があるのが、2012 年 8 月のジャクソンホール での会合で発表された、コロンビア大学教授のマイケル・ウッドフォード氏の講演で ある16。同氏は、FRB による大規模資産購入は何の効果もないだろうと断じた。理論 的には、中央銀行と民間部門との間で資産が代替されても、消費できる資産の実質的 な量が変わらないとすれば、代表的家計の所得の限界効用は変わらないという考え方 が背景になっている。これに基づくと、中央銀行が資産 x を買って資産 y を売っても、 民間の機関投資家等が同じだけ x を売って y を買おうとするはずなので、中央銀行の 大規模資産購入の効果は相殺されてしまうことになる。この議論はかなり単純化され た仮定に基づいているため、現実に成り立つかどうかは議論の余地があるが、FRB が 時間軸政策を重視した通称 QE3 の政策決定に影響を与えた可能性は高い。 (2)英国 2009 年 3 月、イングランド銀行(BOE)の金融政策委員会(MPC)は、政策金利 を 0.5%引き下げ、同時に、750 億ポンドの中長期国債(ギルト)等を購入することを 決定した17。BOE はこれを量的緩和と呼んでおり、手段は異なるものの、消費者物価 のインフレ率目標 2%を達成するという目的はこれまでと変わらないと述べている18。 そして QE とは、お金を刷ることではなく、電子的にお金を発行しそれを使ってギル トを機関投資家などから購入することであり、そしてその機関投資家が(国債を持っ たままでは収益率が低いので)今度は社債や株式などを購入することで長期の借り入 れコストを下げることが目的であることを明確にしている。 但し、最近では、こうした広義のお金の供給を増やすことによる名目需要の増大よ りも、資産購入のシグナリングを行う時間軸政策としての効果、金融市場がうまく機 能していないときに BOE が資産購入を行うことで流動性プレミアムを下げる効果が強 調されている19。2011 年第 3 四半期のレポートでは、まず資産購入の効果として下記 を指摘している。 ・ 政策シグナリング効果 ・ ポートフォリオ・バランス効果 Woodford, M. (2012), `Methods of policy accommodation at the interest-rate lower bound', 2012 FRB Kansas City Economic Policy Symposium, Jackson Hole, WY. 17 BOE (2009), News Release - Bank of England Reduces Bank Rate by 0.5 Percentage Points to 0.5% and Announces £75 Billion Asset Purchase Programme 18 “Quantitative Easing Explained,” http://www.bankofengland.co.uk/monetarypolicy/Pages/qe/default.aspx 19 Joyce, M., M. Tong, R. Woods (2011), “The United Kingdom’s quantitative easing policy: design, operation and impact,” Quarterly Bulletin 2011 Q3, および翁(2012)の 解説。 16 64 ・ 流動性プレミアム効果 ・ 信頼効果 ・ 銀行貸し出し効果 そのうえで、全体としての効果を、初期のインパクト局面と調整局面とに分けて示 している。インパクト局面では、BOE の資産購入により民間部門が保有するポートフ ォリオの構成が変わり(広義のお金が増えて中長期国債が減る) 、お金と資産の市場が 均衡するまで資産価格が上昇することになる。調整局面では、物価と資産価格の上昇 により貨幣需要と長期資産の供給が増え、お金と資産市場の不均衡は徐々に解消し、 資産価格も元に戻っていき、実質貨幣のバランス、実物資産価格、実質 GDP が均衡水 準に近づくにつれ、物価水準は上がっていくとされている。 図表 54 BOE の説明による量的緩和の定性的な経済効果 出所:Joyce et al. (2011), Quarterly Bulletin 2011 Q3, Bank of England. MPC は資産購入プログラムの規模を、2009 年 5 月に 1,250 億ポンド、同年 8 月に 1,750 億ポンド、同年 11 月に 2,000 億ポンド、2011 年 10 月に 2,750 億ポンド、2012 年 2 月に 3,250 億ポンド、 2012 年 7 月以降は 2013 年 3 月時点まで 3,750 億ポンドに、 それぞれ引き上げることを決定した20。政策金利は 2009 年 3 月以降、2013 年 3 月時 点でも 0.5%に据え置かれている。 BOE (2013), Bank of England maintains Bank Rate at 0.5% and the size of the Asset Purchase Programme at £375 billion, 07 March 2013. 20 65 なお 2012 年 12 月に、BOE の次期総裁に任命されていたマーク・カーニー氏は、名 目 GDP(NGDP)を政策目標とする方がインフレ・ターゲティングより有力であると の考えを示した。名目 GDP をターゲットとすることは、金融政策が「歴史依存性」を 持つことになり、よって過去の経済の動きで失われているものを取り戻すことになる ため、より望ましいとした。BOE は 2%のインフレ・ターゲティングを柔軟に運用し ており、インフレ率が高い時でも緩和的な政策を取っている。しかし、柔軟な運用が いつごろまで続くのかという期待が不明確であり、だからこそ名目 GDP ターゲティン グが必要だとする意見もある21。一方で、GDP の発表には時間がかかるため政策目標 として使いにくい、 「失われた」GDP ギャップを測定するのが難しい、通貨安と資産イ ンフレなど単なるインフレに終わる危険がある、といった短所が指摘されている。 (3)ユーロ圏 リーマン・ショック後の 2008 年 10 月、欧州中央銀行(ECB)は、大量の流動性供 給を行った。それ以降は、日米英とは異なり、ソブリン債務危機に直面した中で金融 政策が選ばれていることに注意が必要である。また当然のことながら、ユーロ圏では 通貨が共通でありながら、金利は各国で異なる。そのため、中央銀行のバランスシー トの内訳上も、大規模な資産購入が行われた英米とは異なり、伝統的な資産が増加し ている。 図表 55 ECB のバランスシートの推移(2008 年~2012 年 5 月) 出所:内閣府(2012) 「世界経済の潮流 2012 年Ⅰ」 The Economist (2013), “Shake ’em up, Mr Carney,” http://www.economist.com/news/leaders/21571138-how-bank-englands-new-governor-an d-chancellor-should-stimulate-british 21 66 2012 年 9 月に ECB 理事会は、1~3 年国債を無制限に購入する用意があることを発 表した。但しその国債購入の条件として、各国政府は、欧州金融安定化基金(EFSF) や欧州安定化メカニズムによる財政改革案に同意し、EFSF や IMF の監視を受けるこ ととされた。また ECB は、国債購入にあたって、購入額と同額のお金を吸い取る不胎 化を行うとも述べた。このように、国債購入によって長期利回りを低下させることは 他の先進諸国と共通するが、貨幣供給を増加させることは直接の目的ではないように 見える。ただユーロ圏は一枚岩ではなく、ドイツのブンデスバンクは「国債の中央銀 行引き受けにあまりにも近い」との声明を発表している。 (4)付論:名目 GDP ターゲティング イングランド銀行の次期総裁が言及している名目 GDP ターゲティングについて、金 融政策と為替という本題からは外れるが、ここで概観しておく。一国の付加価値を表 す名目 GDP を政策目標とすることは、直感的にも分かりやすく、学界では 1970 年代 から議論されてきた。最近注目されているのは、特にインフレ・ターゲティングと比 較して、次のようなメリットがあるとされているためである。 ・ 経済指標の本来あるべき水準とのかい離が、インフレ率よりも分かりやすい22 ・ 雇用所得は、物価上昇率よりは名目所得に依存するので、雇用の安定化につなが る ・ インフレ・ターゲティングでは資産バブルが見逃されるのに対し、資産市場の不 安定性を和らげる ・ マイナスの供給ショックがあっても、影響がインフレと実質 GDP に分散するため、 急激な需要の落ち込みを招かない23 具体的な数値目標の例として、クリスティーナ・ローマー氏は、実質 GDP 成長率 2.5%、インフレ率 2%を念頭に、4.5%の成長率を挙げている24。例えばリーマン・ショ ック前の名目 GDP から 4.5%の成長率を想定すれば、現在の GDP が「あるべき水準」 をどれだけ下回っているかが明確になる。そして、中央銀行が何としてでもその水準 を回復するというシグナルを市場に送ることで、所得に関する期待に働きかけ、消費 や投資を押し上げる効果があるとされている。 Krugman, P., (2011), “Getting Nominal,” Oct. 19, http://krugman.blogs.nytimes.com/2011/10/19/getting-nominal/ 23 Frankel, J. (2011), “The death of inflation targeting,” VoxEU 24 Romer, C. (2011), “Dear Ben: It’s Time for Your Volcker Moment,” New York Times, Oct. 29. 22 67 5)非伝統的金融政策と為替レート 前節までに見た非伝統的金融政策の中では、為替レートはどのような動きを見せるの だろうか。たとえば英国の BOE は、先述したロジックをまとめて、大規模資産購入プ ログラムは下記のようなルートで資産価格、為替レートや実物経済に効果をもたらすと している。これによれば、信用、政策シグナリング、ポートフォリオ・リバランス、市 場流動性、お金の増加が為替レートに直接の影響をもたらす。また銀行貸し出しと資産 価格・為替レートとは相互の影響を持つ。 図表 56 大規模資産購入プログラムの波及ルート 信認 総資産 資産価格と 政策シグナリング 為替レート 支出と所得 資産購入 2%インフレ ポートフォリオ・ リバランス効果 借入コスト 市場流動性 銀行貸出 お金 出所:Joyce et al. (2011), Quarterly Bulletin 2011 Q3, Bank of England. 図表 57 は、リーマン・ショックの前後以降の最近 5 年間を対象として、 (主要貿易 相手国の通貨に対する)米ドル為替価値加重平均指数を示している。 68 図表 57 主要貿易相手国の通貨に対する米ドルの為替価値加重平均指数 出所:FRED(セントルイス連銀データベース) 注:2008 年 3 月~2013 年 3 月。1997 年を 100 とする。灰色部分は米国の景気後退期 2)の議論に従えば、通貨供給量の増加はその通貨の価値を下げることになる。し たがって、量的緩和も通貨安を招くことになるという議論がある。実際米国では、2010 年 11 月の LSAP(通称 QE2)発表のしばらく前から、市場は緩和策を織り込んでいた ため、ドル安が進んでいた。また、自国通貨安を狙った金融緩和は、各国での物価高 だけをもたらすゼロサムゲームとなってしまうと警告するエコノミストもいる。 69 図表 58 米国の非伝統的金融政策と米ドル為替レート指数 出所:The Economist (2012), “Currencies: The weak shall inherit the earth,” Oct 6th. しかしこれは「他の条件が一定であれば」という仮定の下での命題であり、そうな らないことも多い25。例えば 2001 年以降の日銀の量的緩和期では、周知のとおり円高 が進んだ。また図表 58 は、一般には金融緩和策とみられている米国での通称 Q1、Q2、 Q3 期に必ずしもドル安が進んでいないことを表している。2008 年後半以降の通称 QE1 の下では、当初はリーマン・ショック後にドルが安全資産と見られたことから、 ドル高が進んだ。為替レートは、二国間通貨の相対的な価値づけであるため、財政危 機と通貨そのものの存続が危ぶまれたユーロ圏との比較で、投資家心理を通じてドル 高が進んだと考えられる。また通称 QE2 の後は、2011 年上半期ごろまでドル安が進ん だものの、その後はドル高に転じている。こうした緩和策が通貨安を持続させるため には、インフレ期待を変える必要があるとの指摘もある26。インフレが確実に進行する という期待が広まれば、自国通貨の購買力が下がるからである。 2008 年以降の金融緩和が通貨安をもたらすという議論では、非伝統的金融政策の大 きな特徴が見逃されている可能性がある27。「伝統的」な金融政策では、金利を下げる ことと通貨供給量の増加は同時に起こることが多いが、非伝統的な金融政策の下では、 必ずしも通貨供給量は増えない。実際、前節で述べたように、2008 年以降の米国の緩 和策では、流通しているお金ではなく、市中銀行が保有する預金が急増した。 非伝統的金融政策の下では、利子率平価も成立しているようには見えない。このこ The Economist (2012). Wall Street Journal (2013), “QE's Impact Defying Logic,” http://online.wsj.com/article/SB10001424127887323301104578258233022735050.html 2727 Chinn, M. (2013), “Currency Wars in the Era of Unconventional Monetary Policies”, Econbrowser. 25 26 70 とは、過去 30 年間、短期金利が低い通貨で借り入れを行い、短期金利が高い通貨で運 用するという「キャリー取引」が盛んに行われてきたことからも明らかである。短期 金利の低い通貨を返済する時点ではその通貨への需要は増すことから、投資家は、為 替差損のリスクを冒しつつそのような取引を行っていることになる。これもまた、他 のトレーダーがそのような取引を行っている間は、自分も同じ投資をしなければなら ないという心理的な要因が強い。 2008 年以降の先進各国の非伝統的な金融政策は、緊急貸出が一段落すると大規模な 非伝統的資産購入が行われ、さらに時間軸でのコミットメントを示すことで期待に働 きかける政策にシフトしている。そのため伝統的な緩和策が為替レートに与える影響 はますます見えにくくなっている。金融政策と為替レートとの関連も、中央銀行がど のようなシグナルを市場に送り、期待がどれだけ動くかという観点で議論すべきであ ろう。インフレ期待が広まれば、緩和策が通貨安をもたらす可能性がより高くなると いうことは言えそうである。 図表 59 伝統的金融政策 金融政策の手段と為替レートとの関連 政策手段 為替レートとの関連 公開市場操作 金利の低下 中央銀行当座預金の積立制度 スタンディング・ファシリティ 非伝統的金融政策 時間軸政策 特定資産の購入 長期金利の低下 ポートフォリオ・リバラン ス効果 量的緩和 71 2. 為替介入政策 次に、為替レートがファンダメンタルズから乖離していると判断される場合に、通貨当局 が行なう為替介入について検討する。 1)為替介入の意義 為替相場は、基本的には各国経済のファンダメンタルズを反映し、マーケットの需給 により市場において決定されるべきであるが、思惑等により、ファンダメンタルズから 乖離したり、短期間のうちに大きく変動する等、不安定な動きを示すことは好ましくな い。そのため、財務省ホームページ28では、為替相場の安定を目的として、通貨当局が 市場において外国為替取引(介入)を行うとしている。 2)為替介入の形態 為替介入の形態には、以下の不胎化介入と非不胎化介入があり、それぞれについて概 説する。 (1)不胎化介入 不胎化介入とは、金融市場で資金需給変動を相殺するように実行される為替介入であ る。為替介入で自国通貨を大量に売買する際に、中央銀行が公開市場操作をすること で通貨の需給を調節し、市場金利などへの影響を与えないようにするものである。 (2)非不胎化介入 非不胎化介入は、外国為替市場への介入で生じたマネタリー・ベースの変化を、国 債などの売買で相殺せず、放置する為替介入である。これは、自国通貨の放出(また は吸収)による通貨流通量の増加(または減尐)を容認しつつ行う為替介入であり、 その調整のための公開市場操作(国債などの売りオペまたは買いオペ)を行わないも のである。 3)為替介入の効果に関する議論 一般には非不胎化介入の方が不胎化介入より介入効果が高いと言われているが、2000 年頃よりその効果の是非については議論が分かれている。論点は非不胎化介入による市 28 http://www.mof.go.jp/international_policy/reference/feio/ 為替介入は外国為替平衡操作と呼ばれている。 72 財務省ホームページでは、 場参加者の円安期待が生じる効果(貨幣錯覚)の可否に基づいて、意見が分かれている ようである。29 渡辺努・藪友良「量的緩和期の外為介入」の 2003 年からの介入に基づく実証研究30では、 日本が量的緩和政策を行っていたが、非不胎化介入の方が不胎化介入より為替レートへ の影響が大きかったという結論になっている。2003 年からの介入では、円売り介入によ って市場によって供給された円資金のうち、4 割は日本銀行の金融調整によってオフセ ットされず、20 日程度の間市場に滞留した。 日本銀行には、為替介入とそれ以前の財政の支払いを区別して金融調節を行っていたこ とを示唆する証拠があった。 介入資金が市場に恒久的に放置されるという意味での非不胎化介入は通常の介入に比 べて効果が強い傾向があった。 市場参加者が日本銀行の金融調整をどのように予想するかにより効果は異なってくるた め、上記の結論は頑健ではないとしているものの、介入規模に等しい円資金が市場にす べて恒久的に放置されるのであれば、1 兆円の円売りドル買い介入によって円ドルルー トが 1.9%円安方法に動くと見られている。 4) 近年における為替介入 (1)我が国金融当局の為替介入 歴史的に日本はかなりの頻度・金額での介入が実施されてきており、2000 年以降に おける為替介入(介入の金額は月単位で集計)は、図表 60 のとおりである。特に、2003 年には約 15 兆円にも為替介入が実施されている。 翁邦雄・白塚重典(2000)「非不胎化介入の「錯覚」」、『週刊東洋経済(2000 年 1 月 15 日号) 』 30 渡辺努・藪友良(2010)「量的緩和期の外為介入」、 『フィナンシャル・レビュー(平成 22 年第 1 号) 』 29 73 図表 60 2000 年以降における我が国の為替介入 年 月 2000 年 1月 5,753 2000 年 3月 10,689 2000 年 4月 13,854 2000 年 9月 1,435 2001 年 9月 32,107 2002 年 5月 21,174 2002 年 6月 18,988 2003 年 1月 6,781 2003 年 2月 927 2003 年 2月 11,424 2003 年 3月 5,664 2003 年 5月 39,826 2003 年 6月 6,289 2003 年 7月 20,271 2003 年 8月 4,124 2003 年 9月 51,116 2003 年 10 月 16,687 2003 年 11 月 15,872 2003 年 12 月 26,196 2004 年 1月 68,215 2004 年 2月 34,766 2004 年 3月 45,332 2010 年 9月 21,249 2011 年 3月 備考 金額(億円) 東日本大震災による円高 6,925 日、米、加、欧州中銀によるドル買い/円売りの 協調介入実施 2011 年 8月 45,129 海外経済の不安定化による円高 2011 年 10 月 80,722 米国経済不安を背景としたドル下落による円高 2011 年 11 月 10,195 同上 出所)財務省ホームページ http://www.mof.go.jp/international_policy/reference/feio/foreign_exchange_inte rvention_operations.csv また、リーマン・ショック以降では、次の 4 回の為替介入が実施されている。 74 a)2010 年 9 月 2011 年 9 月 15 日、82.80 円台にまでに進行した急激な円高に対し、我が国当局 は 6 年半振りになる単独介入を 2 兆円を超える規模で実施した。その結果、ドル円 為替相場はその日の午後に 85 円台となり 2 円以上円安となった。 b)2011 年 3 月 東日本大震災直後の時期は、震災により外貨資産を円に買い戻すとの思惑等を背 景に一気に円高が進んでいる。3 月 17 日には、1 ドル=76.25 円を記録したが、翌 18 日には日本銀行だけでなく、米国、英国、カナダ当局及び欧州中央銀行との協調 介入が実施され、1 ドル=85 円台の円安水準に戻している。 c)2011 年 8 月 2011 年 8 月には、米国の景気や欧州債務問題に対する市場の懸念が高まり、8 月 3 日には 76 円台後半にまで円高が進行した。 各国当局は協調介入に慎重であったが、 翌 4 日に我が国は単独介入を実施した。 一時 80 円台まで円安水準に振れたものの、 翌 5 日には米国国債の格付けが引き下げられた影響により、一転円高となった。 d)2011 年 8 月 2011 年 10 月後半に欧州当局が債務問題への包括策に合意したこと等をきっかけ に、ドルが主要通貨に対して売られることになった。ドル円レートは戦後最高値を 更新し、一時 75.32 円となった。そのため、10 月 31 日に 1 日では過去最大の 8 兆 円を超える大規模な単独介入を実施した。この介入の結果、79 円台半ばまで円安が 進み、その後は 78 円台前半で推移した。 (2)他国の為替介入 a)日本以外の先進諸国 米国は、1990 年以降は、協調介入を除くとほとんど為替介入の実績はない。英国 は、ポンド危機の際には為替介入を行ったが、それ以降は政府、中央銀行ともに協調 介入以外には実績はない。ユーロ圏については、ユーロ導入直後の 2000 年に数回実 施されたが、それ以降は他国の依頼による協調介入以外には実績はない。ドル、ポン ド、ユーロのような国際的に影響力が大きい通貨を有する先進国・地域では、近年は 為替介入が行なわれていない31。 31 熊倉正修(2012) 「日本の通貨政策とその問題点」日本国際経済学会 75 b)韓国 韓国では、輸出産業振興の観点から国際競争力を維持するために 1 ドル=1,100 ウォンをウォン高の防衛ラインとして為替介入を行っている32。そのため、日本が リーマン・ショック以降に名目実効為替レート指数が円高になったにも関わらず、 韓国では低下を示している。ちなみに、韓国当局は介入の有無や規模については、 一切公表していない。 図表 61 円とウォンの名目実効為替レート指数(1994 年 1 月=100) 150.0 140.0 130.0 120.0 110.0 100.0 90.0 80.0 円 70.0 ウォン 09-2012 02-2012 07-2011 12-2010 05-2010 10-2009 03-2009 08-2008 01-2008 06-2007 11-2006 04-2006 09-2005 02-2005 07-2004 12-2003 05-2003 10-2002 03-2002 08-2001 01-2001 06-2000 11-1999 04-1999 09-1998 02-1998 07-1997 12-1996 05-1996 10-1995 03-1995 08-1994 50.0 01-1994 60.0 出所)Bank for International Settlements (BIS), “effective exchange rate” 1994 年 1 月の水準を 100 にした場合の名目実効為替レート指数(広義)の推移 これに対し、米国財務省が 2012 年 5 月に公表した為替政策報告書において「韓国 当局に介入を制限するように促す」と記載されることになった。 c)スイス 欧州債務危機の影響によるユーロ安の事態を受け、国内の輸出産業が打撃を受ける と考え、スイス国立銀行は、対ユーロ為替について 1 ユーロ=1.2 スイスフランとい 32 日本経済新聞(2012)「ウォンの研究① (2012 年 10 月 25 日朝刊)」 76 う上限を設け、フラン売りユーロ買いの無制限介入を通じてこのラインを死守するこ とを発表した。33 この結果、対ユーロレートは無制限介入の発表以降一年にわたって上限の 1 ユーロ =1.2 スイスフランを突破されたことはなかった。 図表 62 スイスフランの対ユーロレート 出所)上野剛志「わが道を行くスイスフラン ~無制限介入がもたらした光と影」 5)為替介入の評価 国際的にみると、輸出主導による経済成長を進めている新興国や国際的に影響が小さ い通貨の国では、自国通貨を安めに維持するため、為替介入は実施されている。 しかしながら、変動為替相場制となっているのであれば、原則為替介入はすべきでは ないという考えは、先進国の間では一般的である。我が国の為替介入も、変動為替相場 の管理と見なされ、米国から政治的圧力が加わったと言われ、これが 2004 年 5 月以降 6 年半にわたり我が国において為替介入が行われなかった原因といわれている34。 33 上野剛志(2012) 「わが道を行くスイスフラン ~無制限介入がもたらした光と影 基礎 研レポート 2012 年 9 月 10 日」 34 三菱東京 UFJ 銀行 (2010) 「日本の為替介入 ~6 年半ぶりの実施と介入の仕組み~ 平 成 22 年(2010 年)9 月 15 日」 77 為替介入は、特に非不胎化介入の場合には、ファンダメンタルズからの乖離を修正す る一定の効果は認められるものの、このような為替介入は、国際的に影響がある通貨の 場合は、容認されない方向に移ってきていると考えられる。 78 79 参考:外国為替に関するアンケート 調査票 ≪外国為替に関するアンケート≫ - 調 査 票 - ◎本アンケートの目的 本アンケートは、企業の国際展開とそれに伴う為替リスク対応について、その実態 と課題を的確に把握する目的で実施するものでございます。より効果的な政策運営の 検討に向け是非ご協力を賜りたく、ご協力のほどよろしくお願い申し上げます。 なお、本アンケートは東証一部・二部上場企業の製造業の企業にお送りしておりま す。企業の財務・経理部門にご回答いただくようお取りはからいいただければ幸いで ございます。ご面倒ではありますが、ご協力いただければ幸甚でございます。 ◎ご回答の方法 ご回答は、国際展開とそれに伴う為替リスク対応に関連する事項を多数お聞きする ため、財務・経理部門にお願い申し上げます。企業体の範囲については、グループで の情報をご記入下さい。選択肢の設問には、1つだけ選ぶもの、複数回答頂くもの、 数字を記入して頂くもの、自由に記入して頂くものがございますのでご注意下さい。 ◎電子ファイル・メールによるご回答 調査票は電子ファイルでもご用意しております。調査実施機関メールアドレス: [email protected] にご連絡をいただければメールにて調査票をお送りいたします。 ◎ご回答結果の取り扱い 本調査票にご記入頂いた内容は、すべて統計的な処理を行うことのみに用い、今後、 我が国製造業の為替リスク対策の検討等のためのみに使用いたします。 ◎ご回答期限 ご回答いただいた後、本調査票と一緒に同封いたしました返送用封筒(切手丌要) にて平成 25 年 3 月 1 日(金)までにご投函して下さい。回答期間が短期間で大変恐 縮ではございますが、よろしくお願い申し上げます。 ◎お問い合わせ先 本アンケートは、経済産業省経済産業政策局企業行動課より委託を受けた下記の機 関が事務処理を実施しております。アンケートに関するご質問は下記担当までお願い いたします。 (株)野村総合研究所 社会コンサルティング部 (担当)山本・鈴木 〒100-0005 東京都千代田区丸の内 1-6-5 (TEL:03-5533-2858、FAX:03-5533-2900、E-mail: [email protected]) <以下ご記入ください>ご回答者のご連絡先 貴社名 所属部署 ご回答者名 所在地 〒 電話番号 ( E-mail - ) - @ *この欄はお差し支えない範囲でご記入下さい。回収後に回答内容に丌明な点があった場合に限り、ご 連絡を差し上げ、確認させて頂くためのものでございます。 80 Ⅰ.貴社のグループの国際展開の現状について教えてください。 Q1.貴社グループの直近会計年度の海外売上高比率(日本からの輸出を含む)はどの程度でし ょうか。3 会計年度前の比率及び今後(3~5 年後)の目標についてもお答えください。(○は それぞれ一つずつ) 3 会計年度前 直近会計年度 今後の目標 10%未満 1 1 1 10%以上 20%未満 2 2 2 20%以上 30%未満 3 3 3 30%以上 40%未満 4 4 4 40%以上 50%未満 5 5 5 50%以上 60%未満 6 6 6 60%以上 70%未満 7 7 7 70%以上 80%未満 8 8 8 80%以上 9 9 9 不明/目標は設定していない 10 10 10 Q2.貴社グループにおける想定為替レートについてお答えください。(○は一つだけ) 1. 60 円未満 5. 75 円以上 80 円未満 9. 95 円以上 100 円未満 2. 60 円以上 65 円未満 6. 80 円以上 85 円未満 10. 100 円以上 3. 65 円以上 70 円未満 7. 85 円以上 90 円未満 11. 想定為替レートを設定していない 4. 70 円以上 75 円未満 8. 90 円以上 95 円未満 Q3.貴社グループが為替リスクを軽減させるために講じている対策をお答えください。(○はいく つでも) また、選択肢 1.、2.については、具体例があればご記入ください。 1. 商品・サービスの購入における外貨建ての取引を増加 (例: 2. 商品・サービス販売における円建ての取引を増加 (例: 3. 金融手法の活用 4. その他( 5. 為替リスクを軽減させる対策は講じていない ) ) ) Q4.貴社グループが為替リスクの軽減のために活用している金融手法をお答えください。(○は いくつでも) 1. 為替先物予約 2. 通貨オプション 3. 為替スワップ 4. その他( ) 5. 為替リスクを軽減させる金融手法は活用していない 81 Q5.貴社グループにおける為替エクスポージャーの額は、どの程度でしょうか。直近の四半期決 算における為替エクスポージャーの額を通貨別にご記入ください。 ( )年( )四半期決算 直近の決算年月をお答えください 十兆 兆 千億 百億 十億 億 千万 百万 十万 万 千円 1.ドル 2.ユーロ 3.元 4.その他(上記以外の現地通貨等) 5.合計 (千円未満は四捨五入) Q6.貴社グループの輸出における円建て取引額の割合をお答えください。(○は一つだけ) 1. 輸出において円建て取引は行っていない 7. 40%以上 50%未満 2. 5%未満 8. 50%以上 60%未満 3. 5%以上 10%未満 9. 60%以上 70%未満 4. 10%以上 20%未満 10. 70%以上 80%未満 5. 20%以上 30%未満 11. 80%以上 6. 30%以上 40%未満 Q7.貴社グループが、(中国を除く ASEAN 等の)アジアでの取引における通貨についてお答えく ださい。(○はいくつでも) 1. 現地の通貨建てでの取引を行っている 2. 円建てでの取引を行っている 3. ドル等の国際通貨建てでの取引を行っている 4. その他( ) 5. アジアでの取引は行っていない 82 Ⅱ.貴社のグループの生産体制等について教えてください。 Q8.貴社グループが海外事業所(支店または現地法人)を開設している地域についてお答えくだ さい。(○はそれぞれいくつでも) 販売拠点 生産拠点 北米 1 1 中国 2 2 韓国 3 3 ASEAN 4 4 上記以外のアジア 5 5 EU 6 6 EU 以外の欧州 7 7 中南米 8 8 アフリカ 9 9 オセアニア 10 10 その他の地域 11 11 海外事業所は開設していない 12 12 Q9.貴社グループの国内、海外における設備投資額についてご記入ください。 国内 兆 千億 百億 十億 海外 億 千万 百万円 兆 千億 百億 十億 億 千万 百万円 3会計年度前 直近会計年度 (百万円未満は四捨五入) Q10.貴社グループにおける、国内、海外の設備投資の投資タイプ別の構成比をご記入くださ い。 国内 新規 更新 海外 % % 能力増強・省力化・環境対応 % % 維持・補修 % % 100% 100% 合計 83 Q11.貴社グループの直近会計年度における海外生産比率はどの程度でしょうか。また、3 会計 年度前の比率、今後(3~5 年後)の目標についてお答えください。(○はそれぞれ一つずつ) 3 会計年度前 直近会計年度 今後の目標 10%未満 1 1 1 10%以上 20%未満 2 2 2 20%以上 30%未満 3 3 3 30%以上 40%未満 4 4 4 40%以上 50%未満 5 5 5 50%以上 60%未満 6 6 6 60%以上 70%未満 7 7 7 70%以上 80%未満 8 8 8 80%以上 9 9 9 不明/目標は設定していない 10 10 10 Q12.貴社のグループにおいて、今後の海外生産を拡大させる場合は、その背景について教えて ください。(○はいくつでも) 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 8. 為替変動のリスクを軽減させるため 消費地に近い場所で生産を行うため 現地の趣向等のマーケティングに関する情報を生産に反映させやすくするため 人件費を下げるため 原材料・部品・部材等の調達コストを下げるため 生産拠点を分散させることで災害等に対応するため その他( ) 今後は海外生産を拡大させるつもりはない Q13.貴社のグループの直近会計年度における海外調達比率はどの程度でしょうか。また、3 会 計年度前の比率、今後(3~5 年後)の目標についてお答えください。(○はそれぞれ一つず つ) 10%未満 10%以上 20%未満 20%以上 30%未満 30%以上 40%未満 40%以上 50%未満 50%以上 60%未満 60%以上 70%未満 70%以上 80%未満 80%以上 不明/目標は設定していない 3 会計年度前 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 84 直近会計年度 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 今後の目標 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 Q14.貴社のグループにおいて、今後の海外調達を増加させる場合は、その背景について教えて ください。(○はいくつでも) 1. 為替リスクを軽減させるため 2. 原材料・部品・部材のコストダウンを行うため 3. 原材料・部品・部材の品質を高めるため 4. 調達ルートを多様化させるため 5. 取引先の海外支出に対応するため 6. その他( ) 7. 今後は海外調達を増加させるつもりはない Q15.貴社のグループでは、どのような部品・部材について海外調達を進める予定かについてお 答えください。(○はいくつでも) 1. 製品のコアとなる部品・部材 4. コストダウンになる部品・部材 2. 品質の優れた部品・部材 5. その他( 3. コモディティ的な部品・部材 6. 特に決まっていない ) Ⅲ.今後の為替政策等のご要望についてお伺いします。 Q16.今後の為替政策として期待される項目をお答えください。(○はいくつでも) 4. 金融緩和政策 1. 為替エクスポージャーの緩和策 2. 為替市場への介入(口先介入、円売り介入) 3. アジア等における円建て取引拡大の振興 5. その他( ) 6. 為替政策等について特に要望する ものはない Q17.為替政策等に対してのご要望があれば、以下に自由にご記入ください。 これでアンケートは終了でございます。長時間にわたるご協力誠にありがとうござ いました。 85