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東京消防庁救急業務懇話会答申書

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東京消防庁救急業務懇話会答申書
東京消防庁救急業務懇話会答申書
「バイスタンダーとして、誰もが安心して救護の手を
さしのべるための方策はいかにあるべきか」
平成24年3月
第31期東京消防庁救急業務懇話会
目
次
第1章
第1
第2
第3
第2章
第1
1
2
第2
1
2
第3
1
2
3
第3章
第1
1
2
第2
1
2
3
第3
1
2
3
第4
第4章
第1
1
2
第2
第3
1
諮問事項等・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
諮問事項・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
諮問の背景・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
審議経過・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
応急手当に関する現状と課題ついて・・・・・・・・・・・・
都民等への応急手当に関する知識・技術の普及・・・・・・・
救命講習等の実施状況・・・・・・・・・・・・・・・・・・
応急手当奨励制度における事業所の認定状況・・・・・・・・
都民等による応急手当の実施状況と救命効果・・・・・・・・
応急手当実施率の推移・・・・・・・・・・・・・・・・・・
AED使用による救命効果・・・・・・・・・・・・・・・・
応急手当普及促進に係る課題について・・・・・・・・・・・
地域防災力の強化(「自助」
「共助」の重要性)
・・・・・・・・
法的責任への不安・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
災害補償制度への不安・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「自助」
「共助」における地域救護力の強化方策について・・・
先進的な取組み・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
米国(シアトル市)の状況・・・・・・・・・・・・・・・・
東京都杉並区の状況・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
各方面へのアプローチ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
スポーツ関係へのアプローチ・・・・・・・・・・・・・・・
学校教育関係へのアプローチ・・・・・・・・・・・・・・・・・
東京都応急手当普及推進協議会加盟団体へのアプローチ・・・
上級救命講習の受講促進・・・・・・・・・・・・・・・・・
効率的な受講体制の整備・・・・・・・・・・・・・・・・・
継続的な受講体制の整備・・・・・・・・・・・・・・・・・
地域社会で応急手当に取組む体制の整備・・・・・・・・・・
応急手当奨励制度の拡充等・・・・・・・・・・・・・・・・
応急手当を不安感なく実施する方策について・・・・・・・・
現行の災害補償等に対する提言・・・・・・・・・・・・・・
現行の災害補償制度の見直しのための検討・・・・・・・・・
「日本版よきサマリア人法」の提言・・・・・・・・・・・・
感染予防等の教育・普及・・・・・・・・・・・・・・・・・
バイスタンダー保険(仮称)の創設・・・・・・・・・・・・
応急手当実施者が感染等の被害を受けて
しまったかどうか不安な場合・・・・・・・・・・・・・・・
2 応急手当実施者が結果的に相手に損害を
負わせてしまった場合等・・・・・・・・・・・・・・・・・
第4 応急手当実施者の心理的ストレス対策・・・・・・・・・・・
第5 救命技能認定証等の見直しの検討・・・・・・・・・・・・・・
1
1
1
2
3
3
3
4
5
5
5
6
6
7
8
9
9
9
10
11
11
11
14
14
14
15
15
16
16
16
16
17
17
18
18
19
19
おわりに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
20
18
参考資料
1.東京都応急手当推進協議会
2.講習の種別
3.消防に関する世論調査結果
4.米国(シアトル市)の状況と東京の比較
5-1.効率的な救命講習(短時間講習の導入)
5-2.効率的な救命講習(上位講習へのステップアップ)
6.感染予防等の教育・普及
法令集
第31期東京消防庁救急業務懇話会委員名簿
第1章
諮問事項等
本 会 に 対 し て 、平 成 2 3 年 9 月 2 7 日 に 諮 問 さ れ た 事 項 等 は 次 の と
おりである。
第1 諮問事項
「バイスタンダーとして、誰もが安心して救護の手をさしのべるた
めの方策はいかにあるべきか」
第2 諮問の背景
平 成 2 3 年 3 月 に 東 日 本 大 震 災 が 発 生 し 、さ ら に は 、今 後 、首 都 直
下 地 震 や 東 海・南 海・東 南 海 三 連 動 地 震 な ど の 危 険 性 も 懸 念 さ れ る と
こ ろ で あ り 、一 層 、「 自 助 」「 共 助 」と い っ た 救 護 力 の 強 化 が 必 要 と な
っている。
東 京 消 防 庁 で は 、バ イ ス タ ン ダ ー( 救 急 現 場 に 居 合 わ せ た 人 )に よ
る 応 急 手 当 の 実 施 率 や 質 を 高 め る 方 策 と し て 、平 成 1 7 年 7 月 に 発 足
し た「 東 京 都 応 急 手 当 普 及 推 進 協 議 会 」が 定 め た 1 5 歳 か ら 6 9 歳 ま
で の 東 京 都 の 昼 間 人 口 の 2 0 %( 約 2 2 4 万 人 )に A E D を 含 む 救 命
講 習 を 行 う こ と を 目 標 と し 、現 在 、積 極 的 に 応 急 手 当 の 普 及 を 推 進 し
ているところである。
ま た 、 平成 1 6 年 か ら 医 療 従 事 者 以 外 に よ る A E D (自 動 対 外 式 除
細 動 器 )の 使 用 が 認 め ら れ 、バ イ ス タ ン ダ ー に よ る A E D の 使 用 事 案
も増加し、その効果は顕著に現れているところである。
し か し 一 方 で 、救 急 搬 送 人 数 に お け る 応 急 手 当 実 施 率 や 救 命 講 習 全
体 に お け る 上 級 救 命 講 習 受 講 率 に つ い て は 、過 去 5 年 間 、横 ば い で 推
移 し て お り 、 さ ら に は 、 平 成 2 3 年 8 月 、「 消 防 に 関 す る 世 論 調 査 」
の 結 果 に よ る と 、「 応 急 手 当 を 実 施 し な い 理 由 」と し て 、「 誤 っ た 応 急
手 当 を し た ら 責 任 を 問 わ れ そ う だ か ら 」「 感 染 な ど が 心 配 だ か ら 」 と
応急手当を何もしないと回答した人が多くいる現状である。
こ れ ら を 踏 ま え 、バ イ ス タ ン ダ ー の 応 急 手 当 を 推 進 し て い く た め に
は 、地 域 の 救 護 力 を 強 化 す る 方 策 や 、応 急 手 当 を 不 安 感 な く 実 施 す る
方策等について、具体的に検討していく必要がある。
こ う し た こ と か ら 、「 バ イ ス タ ン ダ ー と し て 、 誰 も が 安 心 し て 救 護
の 手 を さ し の べ る た め の 方 策 は い か に あ る べ き か 」に つ い て 諮 問 す る
ものである。
第3 審議経過
上 記 の 諮 問 事 項 に つ い て 、次 頁 表 1 の と お り 、計 4 回 の 審 議 を 行 っ
た。
- 1 -
表1
開催年月日
第31期東京消防庁救急業務懇話会審議経過
審
議
事
項
等
平成23年
9月27日
東京消防庁救急業務懇話会 第1回会合
委員互選により山本会長を選出後、消防総監から会長に
諮問
①諮問事項及び諮問の背景について
②応急手当の普及促進の現況について
③積極的な応急手当実施促進に係る課題等の整理につい
て
平成23年
12月5日
東京消防庁救急業務懇話会 第2回会合
①「 自 助 」「 共 助 」 に お け る 地 域 救 護 力 の 強 化 方 策 に つ い
て
②応急手当を実施した者を保護するための災害補償のあ
り方について
③不安解消のための支援方策について
④第31期東京消防庁救急業務懇話会答申骨子(案)に
ついて
平成24年
2月27日
東京消防庁救急業務懇話会 第3回会合
第31期東京消防庁救急業務懇話会答申(案)について
平成24年
3月23日
東京消防庁救急業務懇話会 第4回会合
第31期東京消防庁救急業務懇話会答申について
- 2 -
第2章
第1
1
応急手当に関する現状と課題について
都民等への応急手当に関する知識・技術の普及
救命講習等の実施状況
現 在 、東 京 消 防 庁 に お い て は 、各 消 防 署 及 び 公 益 財 団 法 人 東 京 防 災
救 急 協 会 と の 連 携 に よ り 、平 成 1 7 年 7 月 に 発 足 し た「 東 京 都 応 急 手
当 普 及 推 進 協 議 会 」 が定 め た 1 5 歳 か ら 6 9 歳 ま で の 東 京 都 の 昼 間 人
口 の 2 0 %( 約 2 2 4 万 人 )に A E D を 含 む 救 命 講 習 を 行 う こ と を 目
標 と し て 、都 民 等 に 対 す る 救 命 講 習 を 開 催 し て い る と こ ろ で あ る( 参
考 資 料 1 )。
救命講習の種別としては、心肺蘇生法(AEDの使用方法を含む)
や 窒 息 の 手 当 等 を 身 に 付 け る た め の 普 通 救 命 講 習 、普 通 救 命 講 習 の 内
容 に 外 傷 の 応 急 手 当 や 搬 送 方 法 等 を 加 え た 上 級 救 命 講 習 、普 通 救 命 講
習 の 指 導 要 領 を 学 ぶ 応 急 手 当 普 及 員 講 習 等 が あ る ( 参 考 資 料 2 )。
各 講 習 を 受 講 し て 、一 定 の 技 能 を 習 得 し た 人 に 対 し 、東 京 消 防 庁 消
防 総 監 の 技 能 認 定 証 が 交 付 さ れ る ( 図 1 参 照 )。
図1
救命講習の種別
普通救命講習
普通救命講習
(自動対外式除細動器業務従事者)講習
上級救命講習
応急手当普及員講習
救 命 講 習 全 受 講 者 は 平 成 2 0 年 に 2 0 万 人 を 超 え 、年 々 増 加 傾 向 に
あ る が 、そ の う ち 、上 級 救 命 講 習 受 講 者 は 平 成 2 2 年 中 約 4 万 人 で あ
り 、講 習 受 講 率 は 、過 去 5 年 間 1 7 % ~ 1 9 % と 横 ば い で あ る( 表 2
参 照 )。
- 3 -
表2
救命講習受講者数・上級救命講習受講者数
H17
H18
H19
H20
H21
H22
164,010
175,245
191,762
207,268
232,842
219,063
上級救命講習受講者数
30,905
30,555
34,511
40,066
39,574
40,739
上級救命講習受講者率
18.8%
17.4%
18.0%
19.3%
17.0%
18.6%
全救命講習受講者数
( 単 位:人 )
2
応急手当奨励制度における事業所の認定状況
東 京 消 防 庁 は 、平 成 1 2 年 に 応 急 手 当 の 普 及 啓 発 推 進 方 策 の 一 つ と
し て 、事 業 所 自 ら が 実 行 性 の あ る 応 急 救 護 体 制 づ く り が で き る よ う に 、
救 命 講 習 に 対 す る 積 極 的 な 取 組 み を 奨 励 す る 「事 業 者 に 対 す る 応 急 手
当 奨 励 制 度 」を 策 定 し 、特 に 集 客 施 設 等 の 公 衆 の 出 入 り が 多 い 事 業 所
における救命講習の普及を推進している。
現 行 の 基 準 は 、事 業 所 内 で 従 業 員 に 対 す る 救 命 講 習 の 普 及 を 推 進 す
る 応 急 手 当 普 及 員 が 養 成 さ れ て お り 、 従業 員 数 の 3 0 % 以 上 が 救 命 講
習 修 了 者 で あ る 事 業 者 に 対 し て 、 消防 署 長 か ら 救 命 講 習 受 講 優 良 証 を
交 付 さ れ る も の で 、平 成 2 4 年 3 月 現 在 9 9 8 事 業 所 に 交 付 さ れ て い
る ( 図 2 参 照 )。
図2
救命講習受講優良証の交付状況
350
300
250
200
150
100
50
0
325
122
148
76
72
47
46
44
- 4 -
38
27
22
19
11
1
第2
1
都民等による応急手当の実施状況と救命効果
応急手当実施率の推移(表3参照)
バ イ ス タ ン ダ ー に よ っ て 目 撃 の あ っ た 心 停 止 傷 病 者 数 の う ち 、応 急
手 当( 胸 骨 圧 迫 、人 工 呼 吸 、A E D 装 着 等 )が 実 施 さ れ て い た 傷 病 者
数は近年30%を超え増加傾向にあるものの、全搬送人員でみると、
何らかの応急手当がされた傷病者の割合(傷病者の応急手当実施率)
は、過去数年間1%台の低率で推移している。
表3
応急手当実施率等の推移
H17
バイスタンダー目 撃 の あ る
H18
H19
H20
H21
H22
3,067
3,231
3,192
3,309
4,647
908
1,045
998
1,541
1,720
29.6
32.3
31.3
46.6
37.0
8,995
10,508
10,798
11,309
11,406
11,984
1,210
2,137
2,336
2,441
3,001
3,460
13.5
20.3
21.6
21.6
26.3
28.9
643,849
626,543
623,012
583,082
581,358
617,819
9,011
8,182
6,804
7,117
10,019
11,142
1.4
1.3
1.1
1.2
1.7
1.8
CPA 傷 病 者 数 (a)
(a)の う ち 、 応 急 手 当
が実施されていた数
バイスタンダー目 撃 あ り の
CPA 傷 病 者 に 対 す る
応 急 手 当 実 施 率 (%)
CPA 傷 病 者 数 (b)
(b)の う ち 、 応 急 手 当
が実施されていた数
CPA 傷 病 者 に 対 す る
応 急 手 当 実 施 率 (%)
全 救 急 搬 送 人 員 (c)
応急手当※が実施さ
れていた傷病者数
(c)に 対 す る 応 急 手 当
※ 実 施 率 (%)
※
都 民 等 に よ る 応 急 手 当 の 内 容 と し て は 、胸 骨 圧 迫( 心 マ ッ サ ー ジ )、観 察 ・ バ イ タ
ル サ イ ン 測 定 等 、止 血 ・ 創 傷 処 置 、体 位 管 理 、保 温 ・ 冷 却 、そ の 他( 人 工 呼 吸 、移 動 、
AED装着など)が実施されている。
2
AED使用による救命効果
平成16年から、医療従事者以外によるAEDの使用が認められ、
平 成 1 7 年 か ら 、A E D の 使 用 方 法 が 救 命 講 習 等 の 内 容 に 組 み 入 れ ら
れ普及啓発されている。
平 成 1 7 年 は 、バ イ ス タ ン ダ ー の A E D に よ る 除 細 動 実 施 件 数 は 9
- 5 -
件で、医療機関到着前に心拍が再開した件数は3件(33%)であっ
たが、平成22年には、AEDによる除細動実施件数は167件、医
療機関到着前心拍再開件数は79件(47.3%)であった。医療機
関到着前の心拍再開数は5年間で約26倍である。バイスタンダーの
A E D に よ る 救 命 効 果 は 着 実 に 増 加 し て い る と 言 え る ( 図 3 参 照 )。
図3
180
160
140
120
100
80
60
40
20
0
AED使用による救命効果
バイスタンダーによる除細動実施件数
医療機関到着前に心拍が再開した件数
110 56.4%
120
56.7%
47.3%
46.7%
79
75
62
41.5%
41
9
68
35
33.3%
17
3
H17
第3
1
167
H18
H19
H20
H21
H22
応急手当普及促進に係る課題について
地 域 防 災 力 の 強 化 の 必 要 性 (「 自 助 」「 共 助 」 の 重 要 性 )
平 成 2 3 年 3 月 1 1 日 に 東 日 本 大 震 災 が 発 生 し 、東 日 本 の 各 地 域 で
甚 大 な 被 害 を 受 け た と こ ろ で あ る 。東 京 都 内 に お い て も 、大 規 模 ホ ー
ル 内 の 天 井 落 下 や 大 型 ス ー パ ー の 駐 車 場 ス ロ ー プ が 崩 壊 し 、多 数 の 死
傷者が発生した。
平 成 2 3 年 3 月 1 1 日 か ら 5 月 2 0 日 ま で の 7 1 日 間 に お い て 、東
京 消 防 庁 管 内 に お け る 地 震 に 伴 う 救 急 搬 送 人 員 は 1 9 5 名 で あ り 、そ
の う ち 、骨 折 や 打 撲 等 の 怪 我 に よ り 搬 送 さ れ た 傷 病 者 は 1 5 4 名( 7
9%)であった。
こ こ で 、救 急 搬 送 さ れ た 1 9 5 名 に 対 す る 応 急 手 当 実 施 状 況 を 調 べ
て み る と 、応 急 手 当 が 実 施 さ れ た 傷 病 者 は 7 名( 3 .6 % )に と ど ま
っ た 。応 急 手 当 を 実 施 し た バ イ ス タ ン ダ ー は 3 名 で 、2 名 は 消 防 職 員
であり、1名は看護師であった。
こ の こ と か ら 、都 民 一 人 ひ と り が 防 災 意 識 の 高 揚 を 図 り 、地 域 の 防
災 力 を よ り 強 化 す る 必 要 が あ る こ と が 再 認 識 さ れ 、そ の 方 策 の 一 つ と
- 6 -
し て 、救 命 処 置 、固 定 法 、搬 送 法 を 習 得 す る 上 級 救 命 講 習 の 受 講 促 進
が必要であると考えられる。
2
法的責任への不安
平 成 2 3 年 度 に 実 施 さ れ た「 消 防 に 関 す る 世 論 調 査 結 果 」で は 、応
急 手 当 を 何 も し な い 理 由 と し て 、「 何 を し た ら よ い か わ か ら な い か ら
( 7 1 .9 % )」、
「 か え っ て 悪 化 さ せ る こ と が 心 配 だ か ら( 5 6 .3 % )」、
「 誤 っ た 応 急 手 当 を し た ら 責 任 を 問 わ れ そ う だ か ら ( 1 8 . 8 % )」、
「 感 染 な ど が 心 配 だ か ら ( 9 . 4 % )」 等 の 回 答 が あ っ た 。
「 何 を す べ き か 」に つ い て は 、現 在 も 普 及 促 進 し て い る 救 命 講 習 に
よ り 解 消 さ れ る と 考 え ら れ る が 、 他 3 項 目 の 回 答 に つ い て は 、「 心 配
だ か ら 」 等 の 不 安 を 訴 え て い る 状 況 で あ っ た ( 参 考 資 料 3 )。
現 在 、我 が 国 に お い て は 、通 常 、応 急 手 当 に 対 す る 民 事 上 、刑 事 上
の責任はないと言われている。
民 事( 損 害 賠 償 )責 任 に 関 し て は 、応 急 手 当 は 、基 本 的 に 法 的 な 義
務 が な い 。第 三 者 が 他 人 に 対 し て 心 肺 蘇 生 法 等 を 実 施 す る 関 係 で あ る
か ら 、 民 法 上 の 「 事 務 管 理 」( 第 6 9 7 条 か ら 第 7 0 2 条 ) に 該 当 す
る た め 、不 法 行 為 責 任 は 該 当 し な い 。特 に 、被 災 者 の 身 体 に 対 す る「 急
迫 の 危 害 」 を 逃 れ さ せ る た め に 実 施 す る 関 係 で あ る こ と か ら 、「 緊 急
事 務 管 理 」( 第 6 9 8 条 ) に な る と 考 え ら れ る 。
し た が っ て 、民 法 的 に は 悪 意 ま た は 重 過 失 が な け れ ば 、応 急 手 当 の
実施者が被実施者等から責任を問われることはないと考えられる。
「 重 過 失 」と は 、ほ と ん ど 故 意 に 近 い 著 し い 注 意 欠 如 の 状 態( 最 高 裁
昭 和 3 2 年 7 月 9 日 判 決 民 集 1 1 巻 1 2 0 3 頁 )と さ れ て お り 、実 際
上 、善 意 で 実 施 し た 応 急 手 当 の 結 果 に つ い て 、民 事 上 責 任 を 問 わ れ る
こ と は な い と 考 え ら れ て い る(「 8 訂 版 例 解 救 急 救 助 業 務 」抜 粋 )。
刑 事 責 任 に 関 し て は 、応 急 手 当 の 実 施 を 原 因 と し て 被 災 者 が 死 亡 も
し く は 重 篤 化 し た 場 合 、応 急 手 当 の 過 失 が 認 め ら れ れ ば「 過 失 傷 害 罪 」
( 刑 法 第 2 0 9 条 )、「 過 失 致 死 罪 」( 刑 法 第 2 1 0 条 )、「 業 務 上 重 過
失 致 死 傷 」( 第 2 1 1 条 ) の 適 用 が 問 題 と な る 。
し か し 、一 般 人 が 行 う 応 急 手 当 は 、一 般 的 に 違 法 性 が 阻 却 さ れ る と
考 え ら れ る 。過 失 の 有 無 は 、個 別 具 体 的 な 事 例 に 応 じ て 判 断 さ れ 、応
急 手 当 実 施 者 に 要 求 さ れ る 注 意 義 務 が 尽 く さ れ て い れ ば 、過 失 は 成 立
しないとされている。
「交通事故現場における市民による応急手当促進方策委員会報告
書 」( 平 成 6 年 3 月 総 務 庁 長 官 官 房 交 通 安 全 対 策 室 )、「 よ き サ マ リ ア
- 7 -
人 法 ( 日 本 版 ) の 検 討 書 」( 平 成 1 1 年 3 月 応 急 手 当 の 免 責 に 係 る 比
較 法 研 究 会 ) 及 び 「 第 2 5 期 東 京 消 防 庁 救 急 業 務 懇 話 会 答 申 」( 平 成
1 7 年 3 月 )な ど に お い て 、応 急 手 当 に 対 す る 法 的 責 任 に 関 し て 検 討
が な さ れ て お り 、現 行 法 規 で 対 応 可 能 と の 判 断 が な さ れ て い る が 、将
来 的 課 題 と し て 、検 討 を 継 続 又 は 法 律 を 制 定 す る こ と が 望 ま し い と の
結論がなされている。
3
災害補償制度への不安
バ イ ス タ ン ダ ー の 災 害 補 償 に 関 し て は 、消 防 法 第 3 6 条 の 3 第 1 項
に よ り 定 め ら れ て い る が 、バ イ ス タ ン ダ ー が 応 急 手 当 等 を 実 施 し た 際
に 、傷 病 者 の 血 液 等 が 身 体 に 付 着 し 、血 液 感 染 が 心 配 と な り 、医 療 機
関 で 検 査 を 受 け る 際 の 検 査 費 用 に 関 し て は 、検 査 の 結 果 、感 染 等 が 無
か っ た 場 合 に は 、そ の 検 査 費 用 は 自 己 負 担 と な っ て い る 。平 成 2 2 年
中に感染等の危険があった事案は51件(特別区内)発生しており、
都内全体では約70件発生している。
今 後 、救 急 出 場 件 数 の 増 加 と と も に 、バ イ ス タ ン ダ ー が 応 急 手 当 を
実 施 す る 可 能 性 も 増 加 が 予 測 さ れ る こ と か ら 、バ イ ス タ ン ダ ー に 対 す
る災害補償のあり方に関する検討が必要である。
(事例)
平成23年○月△□日○△時□○分覚知
60歳台の男性、駅で転倒し後頭部を受傷した。
救急隊到着時、傷病者は、駅通路に仰臥位でおり、バイスタンダーの男性
が後頭部の傷をタオルで直接圧迫止血していた。両手掌に血液が付着してい
た。救急車内の手洗い水で洗浄後、アルコールで消毒した。手に傷等は確認
できなかった。
傷 病 者 を 病 院 に 搬 送 後 、バ イ ス タ ン ダ ー か ら 救 急 隊 に 連 絡 が あ っ た 。
「けが
人 の 血 液 が 手 に 着 い た の で 、 感 染 症 が な い か 心 配 で す 。」 と の こ と で あ っ た 。
医師に状況を説明したところ、 「心配であれば内科外来を受診してくださ
い 。」 と の 見 解 を 得 た 。 救 急 隊 は 、 そ の 旨 、 バ イ ス タ ン ダ ー に 回 答 し た 。
- 8 -
第3章
第1
1
「 自 助 」「 共 助 」 に お け る 地 域 救 護 力 の 強 化 方 策 に つ い て
先進的な取組み
米国(シアトル市)の状況(参考資料4)
世 界 最 高 峰 の 救 命 率 を 誇 り 、高 い 応 急 手 当 講 習 の 普 及 率 で 有 名 な 地
域として、シアトル市があげられる。
シ ア ト ル 市 は 、東 京 都 と 比 べ て 、面 積 が 約 4 % 、人 口 が 約 1 7 % の
規 模 で あ る が 、救 急 隊 1 隊 あ た り が 受 け 持 つ 人 口 や 、救 急 救 命 士 1 人
が受け持つ人口は、東京都に近い数値である。
シ ア ト ル 市 に お い て 、高 い 救 命 率 を 誇 る 基 盤 と な る シ ス テ ム に 、
「M
E D I C - Ⅰ ( メ デ ィ ッ ク ワ ン )」 と 「 M E D I C - Ⅱ ( メ デ ィ ッ ク
ツ ー )」 が あ る 。
「 M E D I C - Ⅰ 」シ ス テ ム と は 、シ ア ト ル 市 が 1 9 7 0 年 代 か ら
設 立 し 運 用 し て お り 、医 師 に よ る メ デ ィ カ ル コ ン ト ロ ー ル 体 制 が 確 立
さ れ 、高 度 な 救 命 処 置 が で き る 救 急 隊( パ ラ メ デ ィ ッ ク )が 養 成 さ れ
て い る 。現 在 で は 、症 例 ご と の プ ロ ト コ ー ル が 作 成 さ れ 、医 師 か ら 直
接 の 指 示 が な く と も 各 種 の 救 命 処 置 が 実 施 さ れ て い る 。ま た 、救 急 資
格 を 持 っ た 消 防 隊 員 が 救 急 現 場 に い ち 早 く 到 着 し 、直 ち に C P R 等 の
初 期 救 命 処 置 が 開 始 で き る よ う に す る た め に 、消 防 隊 を「 M E D I C
-Ⅰ」と同時に出場させる「ファースト・レスポンダー・システム」
( P A 連 携 と 同 じ よ う な シ ス テ ム )を 導 入 し て い る 。さ ら に 、救 急 隊
は約6分以内に救急現場に到着できるよう配置されているという。
「 M E D I C - Ⅱ 」シ ス テ ム と は 、C P R 訓 練 を 受 け た 市 民 グ ル ー
プ に よ る 世 界 初 の 応 急 手 当 実 施 者 を 育 成 す る 専 門 組 織 で あ り 、一 般 市
民 が 傷 病 者 へ の 応 急 手 当 を 行 う た め に 、病 院 前 処 置 、心 肺 蘇 生 法 な ど
を 普 及 さ せ て い る 。こ の M E D I C - Ⅱ シ ス テ ム に よ り 、シ ア ト ル 市
民の60%以上がCPR講習を受講している。
シ ア ト ル 市 で は 、メ デ ィ ア を 活 用 し た 普 及 啓 発 が 盛 ん に 行 わ れ て い
る 。 A H A ( ア メ リ カ 心 臓 病 協 会 )、 ア メ リ カ 赤 十 字 社 が 、 テ レ ビ コ
マ ー シ ャ ル で 疾 病 の 解 説 を 行 い 、バ イ ス タ ン ダ ー C P R 等 で 社 会 復 帰
し た 救 急 事 例 が あ っ た 場 合 に は 、実 施 し た バ イ ス タ ン ダ ー の 同 意 の も
と 、新 聞 や テ レ ビ 等 の 各 報 道 機 関 へ 情 報 提 供 さ れ 、そ の 内 容 が 記 事 や
ニ ュ ー ス に よ り 広 報 さ れ る 仕 組 み に な っ て い る 。こ の こ と に よ り 、広
報 メ デ ィ ア の 協 力 と 有 効 な 活 用 が 更 な る 応 急 手 当 実 施 者 を 育 成 し 、シ
ア ト ル 市 民 に 大 き な 自 信 と 誇 り を 与 え 、「 応 急 手 当 」 の 資 格 を 有 す る
ことは「シアトル市民の義務」という社会常識となっている。
- 9 -
さ ら に 、多 く の 応 急 手 当 実 施 者 を 養 成 す る た め に 、1 9 7 0 年 代 後
半から市内の公立中学校の1年生に対して「BLS(一次救命処置)
教 育 」を 学 校 の 授 業 プ ロ グ ラ ム の 必 須 科 目 と し て 取 り 入 れ て お り 、市
民 の 応 急 手 当 実 施 者 の 普 及 育 成 に 大 き く 貢 献 を し て い る 。ま た 、公 立
小 学 校 に お い て も 、必 須 科 目 の 義 務 化 に は 至 っ て い な い が 、児 童 教 育
プログラムの一環として「BLS教育」の授業が行われている。
市 内 の 各 団 体 は 、業 務 上 C P R を 行 う 可 能 性 が あ る 者( 医 師 、看 護
師 、警 察 官 、教 員 等 )に 対 し 、自 主 的 に 毎 年 の 講 習 を 義 務 付 け て お り 、
C P R 講 習 修 了 証 に つ い て 運 転 免 許 証 並 み の 効 力 を 持 た せ て い る 。就
職採用時に、CPR講習修了証の提示を求める企業もある。
図4
MEDIC-Ⅱ
CPR講習修了証
シ ア ト ル の 救 急 医 療 サ ー ビ ス( シ ア ト ル 市 消 防 局 に お け る 救 命 率 の
統 計 )は 、市 民 の 力 に よ る と こ ろ が 大 き い 。幼 児 期 か ら の 意 識 付 け が 、
そ の 後 の 普 及 活 動 の 基 礎 と な り 、市 民 の 6 0 % 以 上 、二 人 に 一 人 が B
L S 講 習 受 講 者 で あ り 、バ イ ス タ ン ダ ー C P R 実 施 率 は 5 0 % 、平 均
し て 3 0 % を 超 え る 高 い 救 命 率( シ ア ト ル 市 消 防 局 に お け る 救 命 率 の
統計)の裏付けとなっているものである。
2
東京都杉並区の状況
地 域 防 災 力 の 強 化 方 策 と し て 、独 自 の 取 組 み を 実 践 し て い る 区 市 町
村もある。
杉 並 区 で は 、平 成 1 7 年 度 か ら「 普 通 救 命 講 習 」
「上級救命講習」
「応
急 手 当 普 及 員 講 習 」の い ず れ か の 認 定 証 を 取 得 し 、杉 並 区 の 救 命 講 習
制 度 に 関 す る 講 座 を 受 講 し て 区 に 登 録 し た 区 民 を「 救 急 協 力 員( す ぎ
な み 区 民 レ ス キ ュ ー )」 と し て 、 現 在 ま で 1 , 9 7 7 名 ( 平 成 2 4 年
- 10 -
3 月 現 在 )を 登 録 し て お り 、救 急 協 力 員 4 名 以 上 で 結 成 さ れ た「 ま ち
か ど 救 急 隊 」 が 組 織 さ れ て い る 。「 ま ち か ど 救 急 隊 」 は 現 在 1 9 隊 あ
り、そのうち4隊には区からAEDを貸与されている。
こ う し た「 普 通 救 命 講 習 」「 上 級 救 命 講 習 」「 応 急 手 当 普 及 員 」な ど
の 段 階 的 な 教 育 に つ い て は 、地 域 活 動 に 必 要 な 知 識 や 技 術 を 学 ぶ た め
の 仕 組 み と し て「 す ぎ な み 地 域 大 学 」
( 区 民 講 座 )が 活 用 さ れ 、
「救急
協 力 員 講 座 」や「 救 急 協 力 員 指 導 者 講 座 」を 通 じ て 年 間 2 7 0 名 を 目
標 に 区 民 レ ス キ ュ ー が 養 成 さ れ て い る 。な お 、こ の 指 導 者 に は 、東 京
防 災 救 急 協 会 、地 元 消 防 署 の 他 に 、区 事 務 局( 地 域 保 健 課 )の「 応 急
手 当 普 及 員 」が 、積 極 的 に 応 急 手 当 の 普 及 促 進 を 実 施 し て い る 状 況 で
ある。
第2
1
各方面へのアプローチ
スポーツ関係へのアプローチ
応急手当講習の受講促進の必要性を考えた場合、各スポーツ団体や
文部科学省が実施するスポーツ振興政策の一つである総合型地域スポ
ーツクラブ等に働きかけ、スポーツの面から積極的に受講促進する方
策が考えられる。
例えば、東京を拠点にしている日本体育協会、Jリーグや日本サッ
カー協会等各競技における指導者養成を実施している団体に働きかけ、
指導者の資格を取得する際に、応急手当の知識と技術取得を促進する
方法がある。
現 状 に お い て も 、日 本 体 育 協 会 公 認 ス ポ ー ツ 指 導 者 資 格 の な か の 各
資 格 を 取 得 す る た め に は 、共 通 科 目 と し て「 ス ポ ー ツ 指 導 者 に 必 要 な
医 学 的 知 識 Ⅰ ( 7 . 5 h )」 や 「 ス ポ ー ツ 指 導 者 に 必 要 な 医 学 的 知 識
Ⅱ ( 2 0 h )」 の 受 講 を 課 し て い る が 、 自 宅 学 習 や 集 合 講 習 に よ る と
ころが多い。
こ の こ と か ら 、実 践 的 な 講 習 方 法 と し て 、上 級 救 命 講 習 等 を 盛 り 込
む こ と に よ り 、全 て の ス ポ ー ツ 指 導 者 が 共 通 し た 応 急 手 当 の 知 識 と 技
術 を 取 得 す る こ と が 可 能 と な り 、さ ら に 積 極 的 に 継 続( 更 新 )し て 学
んでいくという機会も増え、社会的にも意義があると考えられる。
2
学校教育関係へのアプローチ
平 成 2 2 年 1 0 月 、心 肺 蘇 生 に 関 す る「 J R C( 日 本 版 )ガ イ ド ラ
イン2010」が示された。
こ れ を 受 け 、市 民 が 反 応 の な い 傷 病 者 を 目 の 前 に し て 、何 も で き な
- 11 -
い こ と を 回 避 し 、勇 気 を も っ て 胸 骨 圧 迫 等 の 行 動 を 開 始 し や す い よ う
に と 「 救 急 蘇 生 法 の 指 針 2 0 1 0 ( 市 民 用 )」 が 改 定 さ れ 、 普 及 ・ 教
育 の た め の 方 策 と し て 、市 民 を 対 象 と し た 蘇 生 教 育 の 工 夫 や 、C P R
普及と実践のための方策が示された。
こ の こ と か ら 、ガ イ ド ラ イ ン 2 0 1 0 を 踏 ま え た 講 習 制 度 の 改 正 が
行 わ れ 、 平 成 2 3 年 8 月 3 1 日 、 総 務 省 消 防 庁 に よ り 、「 応 急 手 当 の
普 及 啓 発 活 動 の 推 進 に 関 す る 実 施 要 綱 」が 改 正 さ れ た 。時 間 的 制 約 や
年 齢 に よ り 救 命 講 習 の 受 講 が 困 難 だ っ た 都 民 を 対 象 に 、応 急 手 当 実 施
の 裾 野 を 広 げ る 目 的 で 、短 時 間 講 習 の 新 設 、上 位 講 習 へ の ス テ ッ プ ア
ッ プ 制 度 の 導 入 及 び 電 子 学 習 室( e - ラ ー ニ ン グ )を 活 用 し た 救 命 講
習 が 奨 励 さ れ 、受 講 機 会 の 拡 大 が な さ れ た( 参 考 資 料 5 - 1 、5 - 2 )。
既 に 、東 京 消 防 庁 で は 平 成 2 0 年 4 月 よ り「 電 子 学 習 室 を 活 用 し た
救 命 講 習 」を 実 施 し て い る と こ ろ で あ る が 、短 時 間 講 習 の 導 入 と し て
「 救 命 入 門 コ ー ス ( 9 0 分 ・ 胸 骨 圧 迫 と A E D の 使 用 方 法 )」 を 新 た
に 開 設 し 、小 学 校 高 学 年( 5・6 年 生 )に 対 し て 、総 合 防 災 教 育 の 一
環として実施することとなった。
こ れ を 受 け て 、小 学 校 高 学 年 で は「 救 命 入 門 コ ー ス 」に お い て 心 肺
蘇 生 法 の 基 本 を 学 習 し 、中 学 校 で は「 普 通 救 命 講 習 」に お い て 心 肺 蘇
生法やAEDが使えるように学習し、高等学校では「上級救命講習」
に お い て 心 肺 蘇 生 法 、A E D 、止 血 法 、固 定 法 、搬 送 法 を 学 習 す る と
い っ た 、児 童・生 徒 の 発 達 段 階 に 応 じ た 応 急 手 当 教 育 が 体 系 化 さ れ た 。
我 が 国 の 学 校 に お け る 応 急 手 当 教 育 の 推 移 と し て は 、昭 和 3 3 年 か
ら 応 急 手 当 教 育 が 導 入 さ れ て お り 、平 成 1 4 年 に は 、中 学 校 及 び 高 等
学 校 の 学 習 指 導 要 領 改 訂 に よ り 、応 急 手 当 の 内 容 が 大 幅 に 取 り 入 れ ら
れた経緯がある。
中 学 校 及 び 高 等 学 校 に お け る 救 命 講 習 の 受 講 者 数 は 、年 々 増 加 傾 向
に あ る が( 図 5 参 照 )、東 京 都 内 に お け る 救 命 講 習 の 実 施 率 を み る と 、
中 学 校 で は 4 1 .8 % 、高 等 学 校 で は 2 5 .5 % で あ り 、よ り 積 極 的
な 救 命 講 習 の 促 進 が 求 め ら れ る ( 図 6 参 照 )。
ま た 、学 習 指 導 要 領 に つ い て は 、知 識 を 身 に つ け さ せ る こ と に つ い
て の 記 載 で あ っ て 、実 技 の 習 得 に つ い て は 各 学 校 に 任 さ れ て い る の が
現 状 で あ る 。こ の こ と か ら 、シ ア ト ル 市 の よ う に 、小 学 校 か ら 応 急 手
当 の 知 識 と 技 術 を 習 得 さ せ て 、実 践 で き る と こ ろ ま で 教 育 す る こ と に
つ い て 、学 習 指 導 要 領 等 に 盛 り 込 む こ と を 積 極 的 に 働 き か け 、東 日 本
大 震 災 の 教 訓 な ど も 踏 ま え た 、よ り 応 急 手 当 を 実 践 で き る よ う な 環 境
を整備することが必要である。
- 12 -
図5
東京都内の中学校・高等学校における救命講習受講者数
60,000
50,000
39,605
40,000
40,000
33,776
49,997
47,307
30,000
20,000
10,000
0
平成18年
平成19年
平成20年
平成21年
平成22年
単位:人
図6
東京都内の中学校・高等学校における救命講習の実施率
高等学校
中学校
実施
41.8%
未実施
58.2%
未実施
74.5%
実施
25.5%
実施
未 実施
総数
実施
未 実施
総数
327 校
456 校
783 校
108 校
315 校
423 校
- 13 -
3
東京都応急手当普及推進協議会加盟団体へのアプローチ
第 2 5 期 東 京 消 防 庁 救 急 業 務 懇 話 会 答 申( 平 成 1 7 年 3 月 )を 受 け 、
東 京 都 と し て 総 合 的 な 応 急 手 当 方 法 の 普 及 促 進 を 図 る た め 、消 防 を は
じ め 日 本 赤 十 字 社 、日 本 交 通 福 祉 協 会 等 の 応 急 手 当 普 及 実 施 機 関 に よ
る ネ ッ ト ワ ー ク を 構 築 し 、都 民 が よ り 安 心 し て 正 し い 応 急 手 当 の 指 導
が 受 け ら れ る 環 境 を 整 備 し 、連 絡・調 整・協 議 の 場 と し て「 東 京 都 応
急 手 当 普 及 推 進 協 議 会 」 が 設 置 さ れ た ( 参 考 資 料 1 )。
この協議会の加盟各団体においては、応急手当普及啓発について、
地 域 救 護 力 を 強 化 す る た め に 、そ れ ぞ れ の 立 場 で よ り 一 層 工 夫 す る こ
とが必要である。
例 え ば 、運 転 免 許 証 の 更 新 時 に フ ォ ロ ー ア ッ プ を 実 施 す れ ば 、継 続
し て 応 急 手 当 の 知 識 ・ 技術 の 向 上 に つ な が る と 考 え ら れ る も の で あ る 。
第3
1
上級救命講習の受講促進
効率的な受講体制の整備
東 日 本 大 震 災 を 踏 ま え 、市 民 に 対 す る 救 命 処 置 、固 定 法 、搬 送 法 等
を習得するための上級救命講習の受講促進の必要性が高まっている。
し か し 、現 在 の 上 級 救 命 講 習 の 受 講 状 況 は 、平 成 2 2 年 中 に 約 4 万 人
で あ り 、全 救 命 講 習 に 占 め る 上 級 救 命 講 習 受 講 の 割 合 は 、過 去 5 年 間
で17%~19%と横ばい傾向にある。
そ の 要 因 の 一 つ と し て 、上 級 救 命 講 習 は 8 時 間 と い う 長 い 時 間 を 集
中 し て 受 講 し な け れ ば な ら な い こ と が あ げ ら れ る 。平 日 就 労 し て い る
人 が 、8 時 間 に わ た り 集 中 し て 講 習 を 受 け る こ と は 、企 業 に と っ て も
個人にとっても負担が大きいと考えられる。
今 回 の 講 習 制 度 改 正 に お い て 、上 位 講 習 へ の ス テ ッ プ ア ッ プ 制 度 が
導 入 さ れ た 。こ れ は 、講 習 を 受 講 し た 日 か ら 1 2 か 月 以 内 に 、上 位 講
習 科 目 の う ち 未 履 修 部 分 を 受 講 す る こ と で 、一 つ 上 位 の 救 命 講 習 へ の
ステップアップが可能となる制度である。
こ の 制 度 に よ り 、普 通 救 命 講 習 を 受 講 し た 人 は 、さ ら な る 知 識 と 技
術 の 取 得 を 目 指 し 、1 2 か 月 以 内 に 上 級 救 命 講 習 の 未 履 行 部 分( 5 時
間)を受講することで、上級救命講習修了が認定されることとなる。
通 常 ど お り 8 時 間 の 講 習 も 併 設 さ れ る こ と か ら 、個 人 の 都 合 に 合 っ た
受 講 の 方 法 が 選 択 で き る た め 、上 級 救 命 講 習 の 専 門 性 の 高 さ を 維 持 し
つ つ も 、受 講 機 会 の 拡 大 が な さ れ 、応 急 手 当 実 施 者 の 裾 野 の 広 が り が
期待される。
- 14 -
ま た 、電 子 学 習 室( e - ラ ー ニ ン グ )を 活 用 し た 救 命 講 習 の あ り 方
に つ い て も 改 正 さ れ 、受 講 種 別 が 限 定 さ れ ず 、イ ン タ ー ネ ッ ト 環 境 が
活 用 可 能 な す べ て の 都 民 が 対 象 と な り 、個 人 の 自 由 な 時 間 、環 境 の 下
で 受 講 が 可 能 と な っ た 。電 子 学 習 室 受 講 者 は 、受 講 後 1 ヶ 月 以 内 に 実
技講習を受講することで、救命講習修了が認定されることとなる。
電 子 学 習 室 を 活 用 し た 救 命 講 習 受 講 者 は 、年 々 増 加 傾 向 に あ る 。今
後 も 積 極 的 な 活 用 を 促 進 し 、救 命 講 習 の 効 率 的 な 推 進 を 目 指 す 必 要 が
ある。
2
継続的な受講体制の整備
現 行 の 救 命 講 習 は 3 年 間 の 有 効 期 限 が あ り 、3 年 以 内 毎 の 更 新 を 呼
び か け て い る と こ ろ で あ る が 、応 急 手 当 に 一 定 の 頻 度 で 従 事 す る 者 以
外 は 、一 度 受 講 し て 身 に つ け た 応 急 手 当 の 知 識 と 技 術 が 時 間 と 共 に 忘
れ ら れ て い く の で は な い か と い う 不 安 を 抱 え て い る 。実 際 に 受 講 か ら
3 年 後 の 再 講 習 の 時 点 で は 、記 憶 の 断 片 を 手 繰 り つ つ 再 講 習 を 受 け て
いるという現状である。
こ の こ と か ら 、救 命 講 習 の 受 講 者 が 、継 続 的 に 反 復 訓 練 を 実 施 で き
る環境を整備することは、受講促進の方策の一つと考えられる。
ま た 、電 子 学 習 室 を 反 復 訓 練 と し て 活 用 す る こ と に よ っ て 、一 度 習
っ た 知 識 と 技 術 の 確 認 等 に 活 用 す る こ と が 可 能 で あ り 、再 講 習 時 に 座
学 の 確 認 と し て 活 用 す れ ば 、そ の 分 実 技 講 習 に 時 間 を 割 り 振 る こ と も
可能であり、より質の高い救命講習が実施できると考えられる。
3
地域社会で応急手当に取組む体制の整備
杉 並 区 の よ う に 、積 極 的 に 応 急 手 当 の 普 及 に 取 組 ん で い る 地 域 を 参
考 に し 地 域 社 会 へ の ア プ ロ ー チ 策 と し て 、今 後 は よ り 地 域 に 密 着 し た
形 で の「 消 防 団 」や「 応 急 手 当 普 及 員 」等 を 活 用 す る 体 制 に つ い て 充
実整備する必要がある。
ま た 、地 域 社 会 の 中 で も 救 命 講 習 の よ う に 数 時 間 実 施 す る も の で は
な く 、個 人 の 空 い た 時 間 を 活 用 し て 、実 際 に 訓 練 用 人 形 を 触 っ て 応 急
手 当 手 技 の 確 認 が で き る よ う に 、気 軽 な 気 持 ち で 利 用 で き る 環 境 づ く
り も 必 要 で あ る 。 こ う し た 地 域 の 中 心 と し て 「 消 防 団 」「 応 急 手 当 普
及員」が普及の中核を担う役割は大きいと考える。
今 後 は 、応 急 手 当 普 及 員 等 が 救 命 講 習 を 開 催 す る 際 に 、消 防 署 に 届
け な く て も 普 及 で き る な ど の 工 夫 が で き れ ば 、救 命 講 習 が 今 以 上 に 活
性化するのではないかと考えられる。
- 15 -
第4
第4章
第1
1
応急手当奨励制度の拡充等
現 在 の 応 急 手 当 奨 励 制 度 を さ ら に 普 及 し 、都 民 に よ る 応 急 手 当 実 施
の た め の 環 境 を よ り 充 実 さ せ る た め に は 、応 急 手 当 奨 励 制 度 の 対 象 範
囲 に つ い て 、点 か ら 面 へ の 拡 大 を 図 る べ き で あ る 。事 業 所 に 限 定 せ ず 、
応 急 救 護 体 制 づ く り に 努 力 し て い る 団 体( 町 会・自 治 会 、商 店 街 、コ
ミ ュ ニ テ ィ ー 等 )に つ い て も 制 度 の 対 象 と す る こ と で 、団 体 自 ら の 主
体 的 な 取 組 み を 支 援 し 、地 域 全 体 の 救 護 力 を 強 化 す る こ と が 必 要 で あ
る。
ま た 、病 院 前 救 護 の 国 家 資 格 を 持 つ「 救 急 救 命 士 」の 活 躍 す る 場 を
検討することも地域の救護力を強化していく上で質の向上をもたら
すものとして期待できるものである。
特 に 公 衆 の 出 入 り の 多 い 事 業 所 等 に お い て は 、救 急 救 命 士 資 格 者 の
活 用 に よ っ て 、傷 病 者 発 生 時 の 初 期 対 応 に も 大 き な 効 果 が 期 待 さ れ る 。
応急手当を不安感なく実施する方策について
現行の災害補償等に対する提言
現行の災害補償制度の見直しのための検討
「応急手当を実施した人を保護するための補償をどうしたらいいの
か 」と い う こ と は 、非 常 に 大 き い 問 題 で あ る 。応 急 手 当 の 普 及 促 進 を
し て は い る が 、 いざ と い う と き の 補 償 制 度 に 関 し て は 、 まだ 不 十 分 で
ある。
現 在 の バ イ ス タ ン ダ ー に 対 す る 補 償 制 度 と し て は 、消 防 法 第 3 6 条
の 3 に 規 定 さ れ て お り 、「 救 急 隊 員 ( 消 防 職 員 を 含 む ) か ら 救 急 業 務
に 協 力 す る こ と を 求 め ら れ た 者 」が 、 協力 し た こ と に よ っ て 損 害 を 受
け た 場 合 に そ れ を 補 償 す る も の で あ る 。1 1 9 番 通 報 時 に 行 う 口 頭 指
導 に 関 し て も 、そ の 対 象 と 解 釈 さ れ 、運 用 さ れ て い る 。し か し 、善 意
の 第 三 者 が 救 急 隊 の 到 着 前 に 実 施 し た 応 急 手 当 に 関 し て は 、災 害 補 償
の対象外となる可能性があり、改善の余地がある。
バイスタンダーによる積極的な応急手当の実施を促進するためには、
現行の補償制度の更なる内容充実の検討も必要となってくるのではな
いか。
ま た 、平 成 2 1 年 1 2 月 2 5 日 に 一 般 社 団 法 人 救 急 医 療 総 合 研 究 機
構 救 急 医 療 関 係 3 団 体( 日 本 救 急 医 学 会 、日 本 臨 床 救 急 医 学 会 、日 本
救 急 医 療 財 団 ) か ら 「( 仮 称 ) 救 急 医 療 基 本 法 - 救 急 医 療 整 備 の た め
の 法 的 根 拠 の 確 保 に 向 け て - 」 につ い て 提 言 が な さ れ た 。こ の 提 言 に
- 16 -
よ る と 、「 全 国 民 の 理 解 と 参 画 の 確 保 」 と し て 、 全 国 民 に 救 急 医 療 に
対 す る 理 解 を 促 進 し 、救 急 手 当 講 習 等 を 通 じ て 自 ら が そ の 一 端 を 担 う
と い う 意 識 を 高 揚 す る こ と と 、一 般 市 民 が 救 急 手 当 を 行 っ た 場 合 の 法
的 責 任 の 免 責 や 、救 護 者・被 救 護 者 の 損 害 を 補 償 す る 公 的 制 度 等 を 含
むことを検討することが盛り込まれている。
2
「日本版よきサマリア人法」の提言
「 よ き サ マ リ ア 人 法 」は 、免 責 に つ い て「 実 施 し た 応 急 手 当 に つ い
て 、 責 任 追 及 を 許 さ な い 」 こ と と 、「 責 任 追 及 さ れ た 場 合 に 保 護 し て
あげること」の二つに分かれている。
バ イ ス タ ン ダ ー と し て は 、訴 訟 が 起 き て し ま う こ と 自 体 が 不 安 で あ
る が 、 訴訟 を 起 こ す こ と 自 体 を 否 定 す る と い う 法 整 備 は 、現 在 で は 難
しいものである。
平 成 1 1 年 3 月 応 急 手 当 の 免 責 に 係 る 比 較 法 研 究 会 に よ り 、「 よ き
サマリア人法(日本版)の検討書」が示された。
こ の 検 討 書 で は 、「 救 命 手 当 の 場 面 を 明 示 し て 直 接 的 に 免 責 の 効 果
を 規 定 す る こ と で 、救 命 手 当 を な そ う と す る 者 に 対 し 予 測 可 能 性 を 担
保 す る 。」
「手当を実施した者自身が手当によって被害を被った場合の
補 償 に つ い て 規 定 す る こ と は 、大 き な 意 義 が あ る 。」と し て 、
「日本版
よきサマリア人法」の提言がなされた。
救 命 講 習 の テ キ ス ト 等 に は 、よ き サ マ リ ア 人 法 の 概 要 が 記 載 さ れ て
お り 、 バ イ ス タ ン ダ ー と し て 応 急 手 当 を 実 施 し た 際 に は 、「 善 意 で 実
施 し た 行 為 に 関 し て 責 任 は 問 わ れ な い 。」 と 記 載 さ れ て い る 。
現 在 我 が 国 に お い て は 、通 常 、応 急 手 当 に 対 す る 民 事 上 、刑 事 上 の
責 任 は な い と 言 わ れ て い る が 、バ イ ス タ ン ダ ー の 心 情 や 不 安 要 素 を 排
除 す る 観 点 か ら 、「 日 本 版 よ き サ マ リ ア 人 法 」 を 策 定 す る こ と も 必 要
であると考えられる。
第2
感染予防等の教育・普及
バ イ ス タ ン ダ ー に 対 し て 、不 慮 の 事 故 等 が 起 こ っ て し ま っ た 際 の 補
償 制 度 を 確 立 す る こ と は 、積 極 的 な 応 急 手 当 の 実 施 促 進 に つ な が る こ
と で あ る が 、そ の 応 急 手 当 を 実 施 す る 際 に 、不 慮 の 事 故 等 に 遭 遇 し な
いよう予防策を教育することも重要な課題である。
現 在 、 救 命 講 習 の テ キ ス ト に は 、「 血 液 感 染 防 止 」 の 注 意 事 項 が 記
載されており、
「 救 急 蘇 生 法 の 指 針( 市 民 用 )」に も 同 様 に 記 載 さ れ て
- 17 -
いる。
今 後 も 、不 安 な く バ イ ス タ ン ダ ー に 応 急 手 当 の 実 施 促 進 を す る た め
に 、血 液 等 に お け る 感 染 防 止 に 関 し て の し っ か り と し た 教 育 を 実 施 し 、
感染危険のないように教育をすることが重要である。
第3 バイスタンダー保険(仮称)の創設
1 応急手当実施者が感染等の被害を受けてしまったかどうか不安な
場合
現 行 の 法 制 度 に お い て は 、バ イ ス タ ン ダ ー が 応 急 手 当 の 実 施 に 伴 い 、
感染危険があるとして検査をした結果、応急手当を実施したことによ
って感染等が確認された場合にのみ災害と認められ、補償制度が適用
される。検査の結果、異状がなければ、検査費用はバイスタンダー自
身の負担となる状況であり、バイスタンダーが安心して応急手当を行
える環境にあるとは言い難い。
こ う し た こ と か ら 、応 急 手 当 実 施 者 が 血 液 暴 露 等 の 感 染 危 険 に さ ら
された場合における検査費用等の補償を公約に担保する方法として、
保険制度の活用が考えられる。
2
応急手当実施者が結果的に相手に損害を負わせてしまった場合等
応急手当実施者が、結果的に相手に損害を負わせてしまった場合で
は、個人が日常生活上で負う賠償リスクをカバーする保険として、損
害保険や火災保険の特約の中に既に存在している。
「個人賠償責任補償
特約」等に個人として加入してあるのであれば、これらの特約等でカ
バーできる。
現行法規的には、悪意または重過失がなければ、応急手当実施者が
実施された者から責任を問われることはないと考えられているが、裁
判費用は応急手当実施者自身の負担となり、新たな保険についての検
討が必要とされている。
こ れ ら を 踏 ま え て 、応 急 手 当 を 実 施 し た こ と に よ っ て 生 じ た 検 査 費
用や裁判費用等の負担を補償するという仕組みとしての保険制度に
よ り 、バ イ ス タ ン ダ ー が 不 安 な く 応 急 手 当 の 実 施 を 促 進 で き る 方 策 と
し て 、「 バ イ ス タ ン ダ ー 保 険 ( 仮 称 )」 を 創 設 す る こ と を 提 言 す る 。
- 18 -
第4
応急手当実施者の心理的ストレス対策
バ イ ス タ ン ダ ー は 応 急 手 当 を 実 施 し た こ と に よ り 、大 き く 心 理 的 な
負 担 を 負 う 可 能 性 が あ る 。応 急 手 当 を 実 施 す る こ と は 、多 く の 都 民 に
と っ て 予 期 し な い 出 来 事 で あ り 、救 急 現 場 に よ っ て は 、人 の 死 傷 の 現
場 や 大 き な 事 故 等 を 目 撃 す る こ と に よ っ て 、そ の シ ョ ッ ク が い つ ま で
も 刻 み 込 ま れ 、フ ラ ッ シ ュ バ ッ ク の よ う に よ み が え る こ と も あ る 。こ
う し た こ と に よ る 応 急 手 当 実 施 者 の 精 神 的 な 変 化 と し て は 、気 持 ち の
落 ち 込 み 、意 欲 の 低 下 、集 中 力 の 低 下 な ど が あ り 、そ の 多 く は 一 時 的
な も の で 自 然 に 回 復 す る が 、ス ト レ ス が 長 引 く と 長 期 化 す る こ と も あ
り、うつ病やパニック発作等の精神疾患の診断が付くこともある。
こ の こ と か ら 、応 急 手 当 実 施 者 が 心 理 的 な ス ト レ ス を 発 生 し た 場 合
に 、カ ウ ン セ リ ン グ 等 が で き る 支 援 体 制 を 構 築 す る こ と も 必 要 で あ る 。
東 京 消 防 庁 で は 、心 理 学 の 専 門 家 を 指 導 員 と し て 、平 成 1 2 年 か ら
職 員 に 対 す る ス ト レ ス 対 策 を 実 施 し て お り 、応 急 手 当 実 施 者 に も 適 用
する等の応用的な対応を検討する必要がある。
第5
救命技能認定証等の見直しの検討
前第3,2に示すような不安を解消する制度を周知するためには、
救 命 技 能 認 定 証 等 の 裏 面 に「 応 急 手 当 に 対 す る 問 合 せ 先 」等 を 記 載 す
る こ と で 、積 極 的 な 応 急 手 当 の 実 施 を 促 進 で き る と 考 え ら れ る( 図 7
参 照 )。
ま た 、現 行 の 救 命 技 能 認 定 証 等 は 紙 製 で あ り 耐 久 性 に や や 問 題 が あ
る 。こ れ を 、プ ラ ス チ ッ ク 製 等 耐 久 性 の 高 い も の と し 、署 名 制 に す れ
ば 、印 字 等 の 理 由 で 発 行 ま で 時 間 を 要 し て い た 問 題 も 、即 日 発 効 で き
ることで解消できるものである。
認 定 証 の 色 に つ い て も 、現 行 の「 水 色 」「 ク リ ー ム 色 」「 若 草 色 」か
ら「 ゴ ー ル ド 」
「シルバー」
「 ブ ロ ン ズ 」等 に 変 更 し て 高 級 感 を 持 た せ
ることで、救命講習受講の促進できると考えられる。
救 命 講 習 で 取 得 し た 知 識 と 技 術 は 、知 っ て い れ ば い い と い う も の で
はなく、実際の現場で実践できることが重要である。このことから、
継 続 的 に 反 復 訓 練 を 実 施 で き る 環 境 を 整 備 す る こ と に よ り 、救 命 講 習
の 受 講 促 進 の み な ら ず 、積 極 的 な 応 急 手 当 の 実 施 を 促 進 す る こ と に つ
ながるものである。
- 19 -
図7
救命技能認定証等の見直しの検討
(例)
カードの色
≪氏名欄:自署(署名)≫
不安解消目的の追記
おわりに
本 会 で は 、我 が 国 の 救 命 効 果 の 向 上 方 策 に 関 し て 重 要 な 役 割 を 担 っ て い る
バ イ ス タ ン ダ ー( 救 急 現 場 に 居 合 わ せ た 人 )が 、不 安 な く 安 心 し て 救 護 の 手
をさしのべ、応急手当を実施するための方策について検討を行った。
東日本大震災を踏まえて、
「自助」
「 共 助 」に お け る 地 域 救 護 力 の 強 化 の 重
要 性 が 再 認 識 さ れ 、よ り 積 極 的 に 応 急 手 当 を 実 施 す る 者 の 養 成 を 効 率 的 に 推
進 す る 必 要 性 が あ る 。ま た 、心 肺 蘇 生 に 関 す る「 J R C( 日 本 版 )ガ イ ド ラ
イ ン 2 0 1 0 」が 示 さ れ 、応 急 手 当 普 及 講 習 の 指 導 要 領 等 に つ い て も 改 正 さ
れ た こ と か ら 、今 後 、受 講 者 の ニ ー ズ に あ っ た 講 習 体 制( 短 時 間 講 習 の 導 入 、
上 級 救 命 講 習 へ の ス テ ッ プ ア ッ プ 、上 級 救 命 講 習 の 推 進 ) を提 供 す る と と も
に 、よ り 地 域 救 護 力 を 向 上 す る た め に も 各 方 面 へ の ア プ ロ ー チ 方 策 に つ い て 、
「応急手当奨励制度の拡充」などを総合的に検討した。
さ ら に は 、 バ イ ス タ ン ダ ー が 不 安 な く 応 急 手 当 を 実 施 す る た め に は 、「 感
染 」「 法 的 責 任 」 な ど の 不 安 を 解 消 し て い く 必 要 が あ る 。
本 会 に お い て は 、 そ の た め の 手 段 と し て 「 バ イ ス タ ン ダ ー 保 険 ( 仮 称 )」
の 創 設 や 、「 救 命 技 能 認 定 証 等 の 見 直 し 」 等 を 検 討 し た 。 こ れ に よ り 、 バ イ
ス タ ン ダ ー に よ る 積 極 的 な 応 急 手 当 を 促 進 し 、応 急 手 当 実 施 率 及 び 救 命 効 果
のさらなる向上を目指すよう提言するものである。
- 20 -
東京
京都応急手当
当普及推進協議会
(経
経緯)
○ 第25期東京
京消防庁救急業
業務懇話会答
答申(平成17年
年3月)により提
提言
急手当普及推
推進協議会」設
○ 平成17年7月「東京都応急
設立
3月第7回東京
京都応急手当普
普及推進協議会を開催(毎年
○ 平成23年3
年度1回)
構成団体・機関
(構
関)
○ 区市町村、交
交通機関、医療
療機関、教育機
機関、事業所等
等の26団体で
で構成
参考
考資料1
11
22 東京都
都福祉保健局
局
21 東京都
都都市整備局
局
1 稲城市消防
防本部
12 東京商
商工会議所
23
社団法人
人日本ホテル協会
会
2 関東鉄道協
協会
消防庁
13 東京消
25 日本百
百貨店協会
日本赤十
十字東京都支部
部
(防災担
担当課長幹事)
特別区代
代表
3 警視庁
公益財団法人
人
24
東京防災救急
急協会
15
26
18
東京都
都石油商業組合
東京都青
青少年治安対策本部
東日本旅
旅客鉄道株式会社
社
16 東京都
都港湾局
8 社団法人東
東京都医師会
19
東京都生
生活文化スポーツ局
社団法人東京
京都バス協会
都総務局
20 東京都
17
東京都
都交通局
教育庁
14 東京教
4
公益財団法人
人
東京連合防火
火協会
財団法人東京
京都体育協会
5
6
(東京都市町村防災事務
務連絡協議会幹事)
9
社団法人日本交
交通福祉協会
市町村代表
表
7
10
0
(
(協議会の目標
標等)
ア バイスタン
ンダーによる応急
目指し知識、技術
急手当の実施率
率50%※1を目
術の普及を
推進する。
。
イ 15歳から
ら69歳まで※2の東京都の昼間
間人口(約1,1
0%※3に、
120万人)の20
AEDの使
使用方法を含む応
応急手当講習を
を実施することに
により救命効果
果を高める。
ウ 市町村、医
医療機関、学校
校、事業所それぞ
ぞれの役割分担
担に基づいた応
応急手当実
施体制づ
づくりを推進する
る。
※1 50%
%の根拠・・・アメリカ
カのシアトルのデー
ータを根拠としたもので、心肺機能が
民が心肺蘇生を
が停止した傷病者に
に対して、一般 市民
行って
ていた割合が44%あり、そのうち生存
存退院率が45%という報告から、目標
標設定 したもの。
※2 15歳
歳から69歳の根拠
拠・・・応急手当の普
普及に関しては、義務教育卒業までに
に学ぶことが重要で
であること及び近年の救命講習受
講者の
の動向が、中学卒業
業までに受講する人
人数が増え、70歳
歳以降から極端に減
減少しているために
に、区切りとしたもの
のであり、これら
の対象
象外の年齢層の受講
講がふさわしくない
いとしたものではない。
※3 20%
%の根拠・・・アメリ
リカの統計学者シェ
ェーモスの学説に基
基づくもので、科学的
的知識、教育を有す
する人の割合が社
社会全体の20%
いるとすると、複数の人が
が集まる場面で、科
科学的知識、教養を
を有する人が少なく
くとも1人いる確率が大きくなり、科学
学的教育の普及
目標と
ることから目標設定
とすべきとされている
定したもの。
(講習の種別)
講習名
ー
救
命
手
当
コ
時間
講習内容
普通救命講習 (a)
3時間
心肺蘇生やAEDの使用法、窒息の手当、止血法を学ぶコース
普通救命再講習
2時間20分
(a) の技能認定の継続を希望する人が受講するコース
普通救命(自動対外式除細動器業
務従事者※)講習 (b)
4時間
(a) の内容に知識の確認と実技の評価が加わったコース
上級救命講習 (c)
( )
8時間
時間
((b)) の内容に傷病者管理法、外傷の手当要領、搬送法等を加えた
の内容に傷病者管理法 外傷の手当要領 搬送法等を加えた
コース
上級救命再講習
3時間
(C) の内容に知識の確認と実技の評価が加わったコース
24時間
普通救命講習、普通救命(自動対外式除細動器業務従事者)講習の指導要
普通救命講習
普通救命(自動対外式除細動器業務従事者)講習の指導要
領を学ぶためのコース
ス
応急手当普及員講習 (d)
応急手当普及員再講習
3時間
(d) の内容に知識の確認と実技の評価が加わったコース
事
業 コ
従
事 ス
者
患者等搬送乗務員基礎講習 (e)
24時間
民間の患者等搬送事業の業務に従事する人のコース
3時間
(e) を修了した人の応急手当処置技能の維持・向上を図るため2年毎に受講
するコース
ー
指コ
導
者ス
ー
患者等搬送乗務員再講習
※ 自動対外式除細動器業務従事者とは、一定の頻度で心停止者に対し、応急の対応をすることが期待・想定されている場所等に勤務
する人(一定頻度者)を指す。
参考資料2
法的責任、災害補償のあり方等に不安を抱えている
● 平成23年9月「消防に関する世論調査結果」 では、応急手当を何もしない理
由として、「かえって悪化させることが心配だから」「誤った応急手当をしたら責
任をとわれそう」「感染などが心配だから」の理由が多かった。
複数回答
何をしたらよいかわからないから
71.9 40.0 かえって悪化させることが心配だから
かえ
て悪化させる とが心配だから
誤った応急手当をしたら責任を問われそ
うだから
18.8 25
2.5 9.4 0.0 3.1 その他
12.5 3.1 平成22年(n=40)
5.0 無回答
9.4 0.0 10.0 (%)
20.0 30.0 40.0 50.0 60.0 70.0 80.0 90.0 参考資料3
平成23年(n=32)
56 3
56.3 17.5 感染などが心配だから
三角巾などの資器材がないから
80.0 「自助」「共助」における地域救護力の強化方策
地域救護力を強化するための取組み
米国(シアトル市)の状況と東京の比較
東
シアトル市
京
パラメディック
578,700
578
700
369.2
2 665
2,665
11
1 020
1,020
74
救
急
隊
1
隊
あたりが受け持つ人口
52 609
52,609
人/隊
救
急
隊
1
隊
あたりが受け持つ人口
13,188,925
13
188 925
2,187.7
6 030
6,030
231
5 924
5,924
2,107
57 095
57,095
パラメディック1人
あたりが受け持つ人口
7,820
人/人
救 急 救 命 士 1 人
あたりが受け持つ人口
6,260
人
口
面
積
人
口
密
度
救
急
隊
数
救 急 資 格 者
人
人
口
k
面
積
人/k
人
口
密
度
隊
救
急
隊
数
人
救 急 資 格 者
人
救 急 救 命 士
※ 平成23年10月1日現在
k
人/k
隊
人
人
人/隊
人/人
参考資料4
※ インターネット情報(シアトル市消防局HP等)より
人
効率的な救命講習について
「ガイドライン2010」を踏まえた講習制度の改正
~「ガイドライン2010」を踏まえた講習制度の改正~
短時間講習の導入
◇ 時間的制約や年齢から救命講習の受講が困難だった都民を対象に、応急手当
実施の裾野を広げる。
実施の裾野を広げる
◇ 小学校高学年(概ね10歳以上)に対しては、総合防災教育のカリキュラムの一
環として行う。
◇ カリキュラムは、胸骨圧迫とAEDの使用法を中心とした90分とする。
◇ 応急手当の普及講習の基本は救命講習であり、人工呼吸・異物除去・止血法の
応急
普 講
基本 救命講
あ
物除去
血法
重要性を訴え、救命講習受講につなげる。
◇ 参加者には、救命講習受講を督励する旨を記載した「救命入門コース受講証」を
配布する。
【講習体系】
指導員講習
救命講習
普通救命講習
普及員講習
上級救命講習
応急救護講習
従来の応急救護講習
・外傷の処置や包帯法等
・講習時間は任意で実施
救命入門コース(90分)
東京防災救急協会の自主事業
【受講証】
救命入門コース(90分)
受講証
参考資
資料5-1
を受講
【その他】
・乳幼児事故防止セミナー
・子供の応急手当と事故防止講座
・ホームヘルパー講習
・救命講習インストラクタ
による普及
・救命講習インストラクターによる普及
上位講習へのステップアップ
位講習
ッ
ッ
◇ 現在の制度では、上位の資格を取得するためには、講習の全てを受講しなければ
ならなかった。
◇ 上位講習へのステップアップを希望する場合、12か月以内に、講習科目のうち未履
上位講習へのステップアップを希望する場合 12か月以内に 講習科目のうち未履
修部分を受講することで、修了を認定する。
(受講した講習)
救命入門コース
受講者
(上位の講習)
+
普通救命講習の
未履行部分を受講
120分
普通救命講習
修了
12か月以内
普通救命講習
受講者
+
上級救命講習の
未履行部分を受講
5時間
(一定頻度者は4時間)
上級救命講習
修了
参考資
資料5-2
感染予防、法 責任 教育 普及
感染予防、法的責任の教育・普及について
教育・広報の重要性
参考資料6
公益財団法人東京防災救急協会「上級救命講習テキスト」より
法 令 集 等
消防法(抜粋)
昭和23年7月24日
法律第186号
〔応急消火義務等〕
第25条 火災が発生したときは、当該消防対象物の関係者その他総務省令で定め
る者は 消防隊が火災の現場に到着するまで消火若しくは延焼の防止又は人命の
る者は、消防隊が火災の現場に到着するまで消火若しくは延焼の防止又は人命の
救助を行わなければならない。
2 前項の場合においては、火災の現場附近に在る者は、前項に掲げる者の行う消
火若しくは延焼の防止又は人命の救助に協力しなければならない。
〔消火活動中 緊急措置等〕
〔消火活動中の緊急措置等〕
第29条
5 消防吏員又は消防団員は緊急の必要があるときは、火災の現場附近に在る
消防吏員又は消防団員は緊急の必要があるときは 火災の現場附近に在る
者を消火若しくは延焼の防止又は人命の救助その他の消防作業に従事させるこ
とができる。
とができる
1
消防法(抜粋)
昭和23年7月24日
法律第186号
〔災害補償〕
第36条の3 第25条第2項(第36条第7項において準用する場合を含む。)又は第29条第
5項(第30条の2及び第36条第7項において準用する場合を含む。)の規定により、消火
若しくは延焼の防止若しくは人命の救助その他の消防作業に従事した者又は第35条の
10第1項の規定により市町村が行う救急業務に協力した者が そのため死亡し 負傷し
10第1項の規定により市町村が行う救急業務に協力した者が、そのため死亡し、負傷し、
若しくは疾病にかかり又は障害の状態となつた場合においては、市町村は、政令で定め
る基準に従い条例の定めるところにより その者又はその者の遺族がこれらの原因によ
る基準に従い条例の定めるところにより、その者又はその者の遺族がこれらの原因によ
つて受ける損害を補償しなければならない。
〔協力要請等〕
第35条の10 救急隊員は、緊急の必要があるときは、傷病者の発生した現場付近に在る
者に対し、救急業務に協力することを求めることができる。
2 救急隊員は、救急業務の実施に関しては、常に警察官と密接な連絡をとるものとする。
救急隊員は 救急業務の実施に関しては 常に警察官と密接な連絡をとるものとする
2
民法(抜粋)
明治29年4月27日
法律第89号
(事務管理)
第697条 義務なく他人のために事務の管理を始めた者(以下この章において「管理者」
という )は その事務の性質に従い 最も本人の利益に適合する方法によ
という。)は、その事務の性質に従い、最も本人の利益に適合する方法によって、その事
その事
務の管理(以下「事務管理」という。)をしなければならない。
2 管理者は、本人の意思を知っているとき、又はこれを推知することができるときは、そ
の意思に従って事務管理をしなければならない。
(緊急事務管理)
第698条
第
条 管
管理者は、本人の身体、名誉又は財産に対する急迫の危害を免れさせるため
者 、本
身体、名誉
財産 対す
危害を免
に事務管理をしたときは、悪意又は重大な過失があるのでなければ、これによって生じた
損害を賠償する責任を負わない。
損害を賠償する責任を負わない
3
刑法(抜粋)
明治40年4月24日
法律第45号
(過失傷害)
第209条 過失により人を傷害したものは、30万円以下の罰金又は科料に処する。
2 前項の罪は。告訴がなければ公訴を提起することができない。
前項の罪は 告訴がなければ公訴を提起する とが きない
(過失致死)
第210条 過失により人を死亡させた者は、50万円以下の罰金に処する。
(業務上過失致死傷等)
第211条 業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5年以下の懲役若しく
は禁錮又は100万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様
とする。
2 自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、7年以下の懲役若し
くは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状によ
り、その刑を免除することができる。
4
警察官の職務に協力援助した者の災害給付に関する法律(抜粋)
(国及び都道府県の責任)
昭和27年7月29日
法律第245号
第2条 職務執行中の警察官がその職務執行上の必要により援助を求めた場合その他
れ 協力援助する
相当 認められる場合 、職務 よらな ので当該警察官の
これに協力援助することが相当と認められる場合に、職務によらないので当該警察官の
職務遂行に協力援助した者がそのために災害を受けたとき、又は政令で定める場所以
外の場所において 殺人 傷害 強盗 窃盗等人の生命 身体若しくは財産に危害が及
外の場所において、殺人、傷害、強盗、窃盗等人の生命、身体若しくは財産に危害が及
ぶ犯罪の現行犯がおり、かつ、警察官その他法令に基き当該犯罪捜査の当たるべき者
がその場にいない場に 職務によらないで自ら当該現行犯人の逮捕若しくは当該犯罪に
がその場にいない場に、職務によらないで自ら当該現行犯人の逮捕若しくは当該犯罪に
よる被害者の救助に当たった者(政令で定める者を除く。)がそのため災害をうけたとき
は、国又は都道府県は、この法律に定めるところにより、給付の責に任ずる。
都道府県
法律 定めると
り 給付 責 任ずる
2 前項の場合のほか、水難、山岳における遭難、交通事故その他の変事により人の生
命に危害が及び又は危険が及ぼうとしている場合に、自らの気難をかえりみず、職務に
よらないで人命の救助に当たった者(法令の規定に基づいて救助に当たった者その他政
令で定める者を除く。)がそのため災害を受けたときも、同項と同様とする。
5
救急業務等に関する条例(抜粋)
昭和48年3月31日
昭和
年 月
東京都条例第56号
東京都条例第
号
(救急業務及びこれに関連する業務)
第2条 消防総監は、次に掲げる業務(以下「救急業務」という。)を行うものとする。
(1) 災害により生じた傷病者又は屋外若しくは公衆の出入りする場所において生じた傷
病者で医療機関その他の場所(以下「医療機関等」という。)へ緊急に搬送する必要があ
るものを救急隊(航空機又は船舶によるものを含む。以下同じ。)によつて医療機関等に
搬送すること。
(2) 屋内において生じた傷病者(前号に規定するものを除く。)で医療機関等へ緊急に搬
送する必要があるもの(現に医療機関にある傷病者で当該医療機関の医師が医療上の
理由により、医師の病状管理の下に緊急に他の医療機関等に移送する必要があると認
めたものを含む。)を医療機関等へ迅速に搬送するための適当な手段がない場合に、救
急隊によつて医療機関等に搬送すること。
急隊によつて医療機関等に搬送すること
6
(3) 傷病者を搬送することがその生命に著しく危険を及ぼすおそれがあり、又は傷病者
の救助に当たり 緊急に医療を必要とする場合に 救急隊によつて医師を当該傷病者
の救助に当たり、緊急に医療を必要とする場合に、救急隊によつて医師を当該傷病者
のある場所に搬送すること。
( ) 前3号に掲げる業務を行うに際し、緊急やむを得ない場合に必要な救急処置を行う
(4)
前 号に掲げる業務を行うに際し 緊急やむを得ない場合に必要な救急処置を行う
こと。
2 消防総監は、救急業務に関連する業務として、次に掲げる業務を行うものとする。
(1) 都民の相談に応じて、必要な情報を提供すること。
(2) 傷病者を応急に救護するための必要な知識及び技術を普及すること。
(3) 救急隊の適正な利用について、知識の普及及び意識の啓発を行うこと。
7
( ) 救急業務の対象となる都民生活において生ずる事故を予防するため、必要に応じて、
(4)
救急業務 対象となる都民生活にお
生ずる事故を予防するため 必要に応じ
事故の状況等についての確認、事故に関係のある者に対する当該事故の状況等の通知
並びに事故の状況等の公表等による知識の普及及び意識の啓発を行うこと。
(5) 患者等搬送用自動車(患者等を搬送するために必要な特別の構造及び設備を備え
た自動車をいう。)等を用い、患者等の搬送事業を行う者(以下「患者等搬送事業者」とい
う。)に対し、搬送に係る指導、助言等を行い、及び東京都規則(以下「規則」という。)で
定める患者等搬送に関する基準(以下「認定基準」という。)に適合していることの認定を
行う と。
行うこと。
(救急業務及び救助業務の実施方針)
第4条 救急業務及び救助業務は、傷病者の生命の維持及び症状の悪化の防止に最も
適するように行うものとする。
救急業務の実施に当た ては、当該傷病者の意思を努めて尊重するものとする。
2 救急業務の実施に当たつては、当該傷病者の意思を努めて尊重するものとする。
8
(消防総監の責務)
第7条 消防総監は,救急業務及び救助業務を適正かつ円滑に実施するため、次のこと
に努めなければならない。
に努めなければならない
(1) 救急業務及び救助業務に関する技能の向上を図ること。
(2) 救急業務及び救助業務に必要な設備及び資器材を開発し、整備すること。
び
び
(3) 多数の傷病者又は特異な事故等の発生に備え、必要な計画を樹立する等の措置を
講じておくこと。
(4) 救急隊が救急業務を行うに際し、医師の指導又は助言を受けるための必要な措置
を講ずること。
(都民の責務)
第8条 都民は、傷病者を応急に救護するための必要な知識及び技術の習得に努めな
ければならない。
2 都民は、救急業務の緊急性及び公共性について理解を深め、救急隊を適正に利用
するよう努めなければならない。
するよう努めなければならない
9
(事業者の責務)
第9条 事業者は、第2条第2項第2号から第4号までに規定する業務に協力するよう
努めなければならない。
努めなければならない
(都民等の意見)
第12条 消防総監は、第2条に規定する救急業務及びこれに関連する業務に関して、
都民及び専門の知識又は経験を有する者の意見を聴くことに努めるものとする。
10
逐条解説
消防法
(抜粋)
逐条解説 消防法 第三版
消防基本法制研究会 編著 より
〔応急消火義務等〕①
第25条
【趣 旨】
火災発生時における関係者等の消火、延焼の防止及び人命の救助の義務(応急消火義務)、
これに対する現場附近にある者の協力義務等を規定したものである。
● 応急消火義務者
① 当該消防対象物の関係者(消防対象物の解釈及び関係者の定義については消防法第2条)
当該消防対象物の関係者(消防対象物の解釈及び関係者の定義に いては消防法第 条)
② 次のアからウまでに掲げるもので、応急消火義務の履行が不可能な者を除き、火災の現場
にいる者(ア 火災を発生させた者、イ 火災の発生に直接関係がある者、ウ 火災が発生し
た消防対象物の居住者又は勤務者)
◇ 義務の内容
①消火 ②延焼の防止 ③人命救助
◇ 時期 消防隊が到着するまでの間
(消防隊が到着した後においては消防吏員等から消防作業に従事すべき旨の要求がない限り
消火等の義務はない。)
◇ 災害補償
応急消火義務者が当該義務を果たすことにより、被った被害については、原則として災害補
償の対象とされない。しかし、応急消火義務者であっても、消防対象物の構造等によっては、本
条第2項における応急消火の義務協力者の立場に類似し、災害補償の対象とすることが公平の
観点から見て適当な者がある。
観点から見て適当な者がある
(平成6年の法律改正より、一定の条件のもと適用ありとされた。)
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〔応急消火義務等〕②
第25条
● 応急消火の協力義務
◇ 協力義務者・火災の現場附近に在る者
現場附近に居住していると否とを問わず、火災発生の際現場附近にいる者で応急消火義務
者以外の者をいう。
◇ 義務の内容
応急消火義務者の行う消火、延焼防止又は人命の救助に対する協力
(自分の財産を守るためにした行為は協力と認められない。)
◇ 時期
消防隊が現場に到着するまでの間
◇ 災害補償
協力義務者が「協力」することによって死亡し、負傷し、もしくは疾病にかかり又は障害状態
となった場合には、本人又は遺族は消防法第36条の3により損害補償を受けることができる。
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〔消火活動中の緊急措置等〕①
第29条 第5項
【趣 旨】
火災における国民の応急公用負担について規定したものである。
火災の際に、消防長等は、消防対象物及びこれらのもののある土地の使用権等及び人的労役
の要求の権利を取得し、消防対象物の関係者及び火災の現場附近にある者は、消防長等のこれ
らの権利の行使を受忍し、又は命令等に従う義務を負うこととなる。
これらの制度は古くから、いわゆる 破壊消防」として行われてきたものを主たる内容とするが、
これらの制度は古くから、いわゆる「破壊消防」として行われてきたものを主たる内容とするが、
現在なお、その社会公共的な性格から必要性が認められ、また、緊急性の要件を冠せられ、か
つ、公平負担の見地からする損失補償の措置に裏打ちされて、国民の私有財産制度との調和が
図られた近代的な制度として 存続している
図られた近代的な制度として、存続している。
● 労役の要求
◇ 権限行使者
消防吏員又は消防団員
◇ 権限行使の内容・要件
(内容)消火 延焼の防止又は人命の救助 その他の消防活動に従事させること
(内容)消火、延焼の防止又は人命の救助、その他の消防活動に従事させること。
(要件)緊急の必要があること。
◇ 緊急の必要とは?
事態が差し迫って即刻臨機の措置をとるべき必要のことをいう。
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〔消火活動中の緊急措置等〕②
第29条 第5項
◇ そ
その他の消防作業とは?
他 消防作業とは
連絡、負傷者の手当又は看護、警戒線の維持等消火延焼の防止又は人命の救助に付随
する業務をいう。
◇ 災害補償
消火、延焼の防止又は人命の救助その他の消防業務に従事した者が、そのために死亡
し 負傷し 若しくは疾病にかかり 又は障害状態となった場合においては 市町村は政令
し、負傷し、若しくは疾病にかかり、又は障害状態となった場合においては、市町村は政令
(非常勤消防団員等に係る損害補償の基準を定める政令)で定める基準に従い条例の定め
るところにより、その者又はその者の遺族がこれらの原因によって受ける損害を補償しなけ
ればならない。(法第36条の3)
【運用】
本条のもつ諸権限は、消防機関の持つ権限のうちでも、最も重要であり、かつ、国民の財産権
等に与える影響の大なるものである。したがって、これらの権限の行使に当たっては、濫用にわ
たらぬよう特に注意を払う必要があるが さりとて あまりにも慎重を期する結果 消火活動を消
たらぬよう特に注意を払う必要があるが、さりとて、あまりにも慎重を期する結果、消火活動を消
極化することは、国民の生命、身体及び財産を火災から守るという消防の目的に合致しないこと
となる。これらの権限を迅速機宜に、しかも、誤りなく行うためには、日常の訓練及び消防戦術
の研究が特に必要である。
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〔協力要請等〕
第35条の10
【趣 旨】
救急隊員の事故の現場付近に在る者に対する協力要請等について規定したものである。
救急隊員の事故の現場付近に在る者に対する協力要請等について規定したものである
● 救急隊員の事故の現場付近に在る者に対する協力要請等
◇ 権限行使者
救急隊員
◇ 「救急隊員」は、救急隊を編成する消防職員だけと限定的に解釈する必要はなく、消防機
関において救急業務に係わる消防職員 例えば救急指令に係わる際の指令業務担当員
関において救急業務に係わる消防職員、例えば救急指令に係わる際の指令業務担当員、
救急現場に出場した救急隊以外の消防職員も、本条1項にいう「救急隊員」であると考えら
れる。
◇ 現場附近とは?
どの程度の距離という一概には定めがたいが、求められるべき協力を迅速になしえる場
所ということで自ら定まると考えられている。
◇ 災害補償
本条第1項の規定により救急業務の協力を求められたものが、協力したことにより死亡 し、
負傷し もしくは疾病にかかり又は障害の状態とな た場合には市町村から損害の補償がな
負傷し、もしくは疾病にかかり又は障害の状態となった場合には市町村から損害の補償がな
される。(消防法第36条の3)
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第31期東京消防庁救急業務懇話会委員名簿
(敬称略・五十音順)
庁外委員
阿真
京子
有賀
徹
昭和大学病院院長
石原
哲
白鬚橋病院長
伊東
健次
「知ろう!小児医療 守ろう!子ども達」の会代表
弁護士
宇都木
伸
東海大学法科大学院非常勤講師
海老原
諭
総務省消防庁救急企画室長
尾﨑
治夫
社団法人東京都医師会副会長
坂本
哲也
帝京大学医学部救命救急センター教授
嶋森
好子
社団法人東京都看護協会会長
鈴木
孝雄
東京都町会連合会副会長
田中
秀一
読売新聞東京本社社会保障部長
中川原米俊
東京都福祉保健局医療政策部長
深澤
啓治
杉並保健所長(兼務)健康担当部長
松野
明彦
公益社団法人日本交通福祉協会事業部長
水﨑
保男
公益財団法人東京防災救急協会副理事長
◎ 山本
保博
東京臨海病院長
ヨーコ ゼッターランド
スポーツキャスター
庁内委員
荒井
伸幸
東京消防庁救急部長
西村
隆明
東京消防庁参事兼防災安全課長
凡例
◎:会長
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