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アメリカにおける子どものバスケットボール競技参加に 与える

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アメリカにおける子どものバスケットボール競技参加に 与える
千葉大学教育学部研究紀要 第5
6巻 3
7
7∼3
8
5頁(2
0
0
8)
アメリカにおける子どものバスケットボール競技参加に
与える要因について
村松成司1)*
鈴木良和2)
Peter A. HARMER3)
James GORDIE3)
2)
千葉大学・大学院人文社会科学研究科
Erutluc Ltd. Japan
3)
Willamette University, Oregon, U.S.A.
1)
Factors Influencing Children’
s Basketball Participation in the USA
MURAMATSU Shigeji1)*
SUZUKI Yoshikazu2)
Peter A. HARMER3)
James GORDIE3)
Graduate School of Humanities and Social Sciences, Chiba University, Japan
Erutluc Ltd. Japan
3)
Department of Exercise Science, Willamette University, USA
1)
2)
This study investigated characteristics of early exposure to basketball in young Americans that may be related
to elite ability in the future. A questionnaire was distributed to participants in the annual“Pro Classic Hoop
Camp”for male and female children aged8―1
6, held at Willamette University in Salem, U.S.A. Responses(N=63
4;
7
9% response rate)indicated that the children are readily exposed to basketball at an early age, and have opportunities to play at a younger age compared to children in Japan. Early options for participation are both informal,
such as playing at home or with friends, and formal, such as being able to join school and community teams. In addition, features of the home environment were found to be important: 9
0% of the respondents indicated that they
had a hoop set up at their house and it was reported that the parents demonstrated significant interest in the children’
s basketball activity, often watching their games, and advising them about good nutrition. Moreover, these
children played a variety of sports, including football, soccer and baseball, especially in the off―season, which may
facilitate development of broad―based competence in movement abilities. Finally, findings indicate that because
contact with coaches is prohibited during the off―season in the U.S.A., children have greater freedom to develop
psychological and cognitive attributes, such as identity, imagination, and judgment, which are beneficial to success
in basketball. Early exposure to factors such as those in the present study may be one explanation for the continuing success of the U.S.A. in international competition. If Japan is to close the gap, it may be necessary to provide
more extensive opportunities for young children to be exposed to basketball, including the chance to participate in
team play, and to introduce a season/off―season system in Japan.
キーワード:バスケットボール(Basketball) 子ども(Children) 環境(Environment) 家庭(Family)
緒
言
財団法人中学校体育連盟の平成1
5年度部活動調査集
計1)によると,バスケットボールの中学生競技人口は,
男子2
2,
0
3
4人,女子2
2,
8
0
2人であり,男子では 野 球,
サッカー,テニスについで第4番目,女子ではソフトテ
ニス,バレーの次に競技人口の多い種目となっている。
笹川スポーツ財団スポーツ白書2
0
1
02)では,男子では
6
6%の中学校がバスケットボール部を設置しており,設
置率の高さは軟式野球についで2番目であった。女子に
おいても6
6.
5%が設置しており,こちらもバレーボール,
ソフトテニスについで設置率の高い種目となっている。
さらに,財団法人全国高等学校体育連盟の資料3)では,
平成1
5年度の高校生バスケットボール競技者数は,男子
9
5,
4
9
2人,女子6
4,
1
8
6人となっており,バスケットボー
連絡先著者:
Corresponding Author:
*
*
3
7
7
ルは日本において競技人口の多いスポーツの一つとして
位置づけられている。
一方,日本のバスケットボールの競技力については,
オリンピックの成績から見てみると男子は1
9
7
6年の第2
1
回モントリオール大会の1
1位を最後にオリンピックへの
参加は遠ざかっている。女子は1
9
7
6年のモントリオール
大会からオリンピック種目になり,その年に6チーム中
5位となるが,その後1
9
9
6年第2
6回アトランタ大会まで
出場することが出来ず,2
0
0
4年のアテネ大会で3度目の
出場を果たした。世界選手権の成績をみてみると,1
9
9
8
年第1
3回大会にて,男子が1
4位,女子が9位という成績
であったが,2
0
0
2年第1
4回大会では,男子は出場できず,
女子は1
3位という成績に終わっている。これらの成績か
らも日本のバスケットボール競技は国際的に見て比較的
低い競技力であると言わざるをえない。日本のバスケッ
トボールは国内でも有数の人気種目であるが,国際的な
活躍からは遠ざかっているというのが日本のバスケット
ボールの現状である。
千葉大学教育学部研究紀要 第5
6巻 Á:自然科学系
バスケットボールにおいて国際的に競技力の高い国と
してアメリカが挙げられる。オリンピックで1
9
9
6年,
2
0
0
0年と男女共に2年連続優勝を果たしており,世界選
手権でこそ男子が1
9
9
8年大会で3位,2
0
0
2年大会で6位
と不振に終わったが,女子は2大会とも優勝している。
このことからも,バスケットボール競技においてアメリ
カは世界でもトップクラスの競技力を誇る国であること
が分かる4)5)。日本が競技力を高めていくうえで,競技力
向上のための要因を明らかにする必要があるが,世界
トップクラスの競技力を誇るアメリカのバスケットボー
ル環境には日本が競技力を向上させていくための要因が
隠されていると考えられる。
日本において近年競技力の向上に成功した種目として
サッカーが挙げられる。サッカーが近年世界レベルの選
手を輩出している要因として,ゴールデンエイジ6)7)と呼
ばれる7歳から1
4歳の頃に,専門的な指導を受けさせる
システムの導入が報じられている。このことは,子ども
の頃の競技環境が将来の競技力に与える影響が大きいこ
とを示唆しているものである。バスケットボールにおい
ても,競技力を向上していくためには,子どもの競技環
境に着目し,将来の競技力向上に向けてより長期的な視
点に立った環境作りを工夫していく必要があると思われ
る。そこで今回アメリカにおける子どものバスケット
ボール競技環境についてその実情を調査することにした。
方
写真1
講習会の様子
法
調査は,2
0
0
3年7月7日∼3
1日,アメリカ合衆国のオ
レゴン州セーラムにあるWillamette Universityで行った。
対象は,当大学で行われたGORDIE James氏主催のバ
スケットボールキャンプ「Pro CLASSIC HOOP CAMP」
に参加した1
0∼1
7歳の男女バスケットボール選手とした。
この「Pro CLASSIC HOOP CAMP」はGORDIEと当大
学バスケットボール選手が,当市あるいは近隣の市町村
のジュニア選手たちを対象に行なう3泊4日の合宿講習
会であり,毎年多くの子どもたちが参加している。2
0
0
3
年度も,連続4週にわたり4回開催され,いずれも有料
の講習会である。期間中,延べ約80
0人の子どもが参加
した。今回,参加者のうち,6
3
4名(男子3
7
3名,女子2
6
1
名)の回答を得た。写真1は講習会の様子,写真2はア
ンケート記入の様子である。
アンケート用紙への記入はいずれも夕方の講習会の時
間を利用して行った。対象者へはあらかじめ作成した質
問紙を渡し,その場で回答してもらった。調査項目は,
個人データ(年齢,性別,身長,体重)
,バスケットボー
ル経験と家庭環境(バスケットボールチームへの所属,
チームに所属した年齢,バスケットボールを始めた年齢,
バスケットボールをはじめた頃の相手,あなたのバス
ケットボールに対する両親の興味・関心,あなたの試合
の両親の観戦,両親のバスケットボール競技経験,家庭
におけるバスケットボールリングの設置,バスケット
ボールのための食事・栄養についての両親からのアドバ
イス)
,練習その他(シーズン中およびシーズンオフの
練習日数・練習時間,強い選手になるために食事・栄養
は重要だと思うか,バスケットボール以外の競技スポー
写真2
調査用紙記入の様子
ツ)である。統計処理にはχ2検定を用い,検定結果に
おける有意水準は5%未満とした。
結
果
調査対象者の年齢,身長,体重を表1に示した。今回,
男子は9歳から1
7歳の子供が参加しており,1
2歳から1
4
歳の年齢層が多い様子にあった。女子は1
0歳から1
7歳ま
での子供が参加しており,1
5歳から1
7歳の年齢層が多い
様子にあった。身長は平均値は1
6
6.
3cmであるが,1
5歳
4
0名の平均値がすでに1
8
0cmを超えていた。女子では平
均値は1
6
1cmであるが,1
3歳9
2名の平均値が1
6
3.
4cmに
なっており,かなり高い様子にあると思われる。
チームへの所属状況を表2に示した。参加者の現在の
チーム所属の状況は男子,女子ともに高い割合で所属し
ており,1
0歳から1
7歳までの合計では男子は8
5.
8%,女
子は9
3.
1%であった。男子女子の総計では8
8.
9%の子供
がチームに所属していた。年齢別にみると,男子では1
0
歳から1
1歳ですでにチームに所属しており,1
2歳以降は
8
0%を超える所属率であった。女子では男子とほぼ同様
な傾向にあったが,1
0歳,1
1歳のチーム所属率が男子よ
りも高い割合を示した。全体では1
0歳時,1
1歳時にすで
に7
2%の所属率にあり,それ以降は9
0%を超える所属率
であった。
最初にチームに所属した年齢を表3に示した。今回の
3
7
8
アメリカにおける子どものバスケットボール競技参加に与える要因について
結果からは男子は1歳から1
4歳,女子は2歳から1
5歳に
渡っていた。平均値では男子は7歳,女子は8歳そして
全体では7.
4歳という結果であった。特にその割合が高
い年齢をみると,男子では5歳から8歳までが比較的高
く,女子では6歳から1
0歳における割合が比較的高い様
子にあった。全体では6歳から8歳までが比較的高い様
子にあり,今回講習会に参加した子供たちはかなり早い
時期にチームに所属し,活動していたことが示された。
ゴールデンエイジの開始年齢とされている7歳から8歳
時点のチーム所属割合をみ る と,7歳 時 点 で は 男 子
6
2.
2%,女子4
1.
1%,全体で5
3.
5%の子供が,さらに8
歳時点では男子7
8.
1%,女子6
0.
5%,全体では7
0.
5%の
子供がチームに所属していたことが示された(累積割合
参照)
。
表1
調査対象者の年齢別人数,身長(cm)
,
体重(kg)
。
表2
表3
最初にバスケットボールをしたときの年齢を表4に示
した。男子では3歳から5歳にかけてもっとも多く,こ
の3年齢層で全体の5
7.
3%を占めた。平均では4.
6
3歳で
あった。女子では4歳から6歳にかけて多い様子にあり,
5歳が2
3.
7%と最も多かった。平均では5.
7
0歳であった。
全体では,3歳から5歳にかけて多い様子にあり,その
ピークは5歳(2
1.
0%)にあった。全体の平均は5.
0
7歳
であった。
最初にバスケットボールをプレーしたときに最もよく
相手をしてくれたのは誰かを表5に示した。もっともよ
く相手をしてくれた人は男子女子ともに父が多く,男子
では4
8.
8%,女子では4
9.
6%,全体で4
9.
1%となった。
次に友達との回答が多く,男子では2
7.
7%,女子では
2
4.
4%,全体で2
6.
4%となった。
バスケットボールに対する両親の興味関心,試合観戦
の頻度,両親のバスケットボール競技経験について表6
に示した。この表では男女合計の結果として示した。と
ても興味があるは7
4.
0%,興味があるが1
9.
4%となり,
この両回答で全体の9
3.
4%を占めた。年齢層別に見ると,
1
1歳から1
5歳までがいずれも7
0%を超える高い割合を示
していたが,1
6歳ではとても興味があるが4
7.
4%になり,
興味があるが3
1.
6%,普通が1
5.
8%とその様相が他の年
齢層と異なる結果となっていた。1
7歳は回答数が4名で
あ っ た が,い ず れ も と て も 興 味 が あ る と 回 答 し た
(1
0
0%)
。子どものバスケットボール試合を観戦する割
合は毎回見に来るが6
6.
5%,よく見に来るが2
7.
9%とな
り,この両回答併せて全体の9
4.
4%を占めた。年齢層的
チームへの所属状況
最初にチームに所属した年齢
3
7
9
千葉大学教育学部研究紀要 第5
6巻 Á:自然科学系
表4
表5
には先の両親の興味関心と同様な様相を示し,1
6歳が他
の年齢層と異なる様子にあった。両親のバスケットボー
ル競技経験については父だけが経験ありが5
5.
6%と最も
多く,次いで両親とも経験なしが2
6.
0%と続いた。両親
とも経験ありは1
2.
3%であった。今回講習会に参加した
子どもの7
4.
0%は両親何れかがバスケットボール競技を
経験していたことになる。いずれの年齢時においても父
親が経験者であるが高い割合を占めした。
アメリカの家庭にバスケットボールのリングが設置さ
れている情景をよく見かける。今回の参加者の家庭にお
けるバスケットボールリングの設置状況について質問し
た。その結果を表7に示した。男子では9
1.
4%,女子で
は9
0%,そして全体では9
0.
8%の家庭にバスケットボー
ルリングがあると回答しており,男子女子ともに高い割
合で家庭にリングが設置してあることが示された。
両親からの栄養に関するアドバイスの有無を表8に示
した。子どものバスケットボールに対する両親の期待度
は家庭における食事,栄養指導にも及ぶのではないかと
考え,質問した。今回の質問ではバスケットボールに関
係なく子どもの健やかな成長のために両親が食事,栄養
指導を行うことも考えられるが,その区別は明確にはで
きないので,今回は子どもの判断に任せた。男子女子と
もにかなり高い割合で両親から栄養指導を受けているこ
とが示された。男子では7
5.
5%,女子では8
5.
3%の子ど
もが指導を受けており,全体では7
9.
6%にも及んだ。年
最初にバスケットボールをした年齢
最初にバスケットボールをし始めたときに一緒に
プレイしてくれた人
表6
バスケットボールに対する両親の関心度,観戦および経験について(男女合計)
3
8
0
アメリカにおける子どものバスケットボール競技参加に与える要因について
表7
表8
家庭のリング設置状況
両親の栄養に関するアドバイスの有無
齢層別では男子では1
3歳,女子では1
6歳が他の年齢層に
比べて低い様子にあった。
アメリカのバスケットボールにはシーズン制度があり,
バスケットボールを競技できるシーズンが決められてい
る。2∼3月に大会があり,1
1月からチームとしてコー
チがついた練習を行なうことができる。この1
1月から3
月までの時期をシーズンと呼び,4月から1
0月までをオ
フシーズンとする。そこで,シーズン中とオフシーズン
とで練習日数,練習時間はどう違うのかを質問した。練
習日数については解答が7日を超えているものを除外し,
練習時間の項目については登校時間及び睡眠時間等の生
活時間を考慮して,1回の練習時間が1
0時間を越えるも
のを除外した。その結果は表9,表1
0に示した。練習日
数についてはシーズン中は3日から5日が多く,なかで
も5日は2
9.
2%ともっとも多かった。一方,オフシーズ
ンでは2日,3日が多く,なかでも2日が2
0.
8%ともっ
とも多かった。全体的にはシーズン中の方がオフシーズ
ンに比べて練習日数が増える傾向が見られた。平均する
と,シーズン中では週4.
4日,オフシーズンでは3.
9日で
あった。練習1回あたりの練習時間はシーズン中では1
∼2時 間 が36.
3%と 最 も 多 く,次 い で2∼3時 間 が
2
5.
6%であった。一方,オフシーズンでは0∼1時間が
4
5.
5%と最も多く,次いで1∼2時間が3
3.
2%で,この
両時間帯で約8
0%を占めた。
バスケットボール以外の競技スポーツを行っています
かについての結果を表1
1に示した。男子では8
4.
2%,女
子では8
9.
2%の子どもがバスケットボール以外に競技ス
ポーツを行っていた。全体では8
6.
3%という結果であっ
た。年齢的には男子では1
0歳から1
5歳まで,女子では1
1
歳から1
4歳まで,ほぼ8
0%を超える割合で他の競技種目
をしていることが示された。種目数,種目名については
今回表資料として提示しなかったが,種目数は1種目だ
けが2
1
0名(3
3.
3%)
,2種目が2
2
2名(3
5.
2%)
,3種目
3
8
1
表9
1週間当たりの練習日数
表1
0 練習1回あたりの練習時間
が7
2名(1
1.
4%)となっており,また種目名としては(複
数 回 答 可)Football 2
3
8名(3
7.
8%)が 最 も 多 く,以
下Baseball 1
5
8名(2
4.
3%),Soccer 1
3
4名(2
1.
3%)
,
Track & Field 1
0
8名(1
7.
1%)と続いた。割合にして
は1
0%に は 至 ら な か っ た が ほ か にTennis,Golf,Lacross,Crosscountryなどの回答が見られた。
強い選手になるために栄養は重要だと思いますかとい
う質問の結果を表1
2に示した。食事・栄養指導に関する
両親の指導についての回答は表8に示したが,この質問
はそれらの指導に対して子ども自身はどう受け止めてい
るかを把握するために設問した。この結果は男女合計で
示した。強く思うが6
4.
7%,ややそう思うが2
6.
2%と回
答しており,両回答で9
0.
9%を占める結果であった。年
齢層別に見ても,いずれの年齢層においても強く思う,
ややそう思うの両回答を合わせた割合は9
0%を超える高
千葉大学教育学部研究紀要 第5
6巻 Á:自然科学系
表1
1 バスケットボール以外に競技スポーツを行っているか
表1
2 強い選手になるために栄養は重要だと思いますか?(男女合計)
い値を示した。
ケットボールを始める年齢も,またチームに所属する年
齢もアメリカに比べ遅い状態にあった。この原因として,
日本では1年間を通して絶えず大会が繰り返されており,
考
察
強豪チームになればなるほど試合間隔が短いのが実情で
ある。限られた練習日程の中で,大会における成績を重
アメリカ合衆国がバスケットボール強国であることに
視した練習が繰り返される環境下では7歳,8歳の選手
ついては異論のないところであるが,その理由について
を引き受けるだけの余裕を持ったチームは少ないといえ
は多くの意見がある。バスケットボールの発祥の地であ
る。本調査の結果ではアメリカにはゴールデンエイジの
りこれまで続いている長い歴史,体格・体力・動きを含
めた民族的な問題,選手・コーチにおける技術的な問題, はじまる頃には多くの子供がチームに所属しており,こ
のことはアメリカにおいて子どもがチームに所属できる
国民的なスポーツとしての意識・競技環境の問題,競技
環境が整っていることを示唆するものである。日本にお
人口など多くの点で優位性が論じられてきている。バス
いても子どもの才能を大きく伸ばすためのバスケット
ケットボール競技において多くの面でビハインドにある
ボール競技環境を整備していく必要があると考えられる。
日本が国際的な競技力を高めるためには様々な対策が講
また,日本の調査では最初にバスケットボールをプレー
じられなければならない。我々は現在のバスケットボー
した年齢と最初にチームに所属した年齢が同じ者が
ル強国としてのアメリカ合衆国を支える重要な要因の一
7
2.
9%であったが,アメリカでは2
0.
1%であった。この
つとして子どものバスケットボール競技環境が挙げられ
ことは日本の子どもにはチームに所属してはじめてバス
ると考え,アメリカ合衆国における子どものバスケット
ケットボールを始めるという傾向が高く,アメリカにお
ボール競技環境について調査を行った。中でも,「バス
いてはチームに所属する前にバスケットボールをすでに
ケットボール競技開始年齢とチーム所属」
,「バスケット
行っている子どもが多いということを示している。アメ
ボール競技のための家庭環境」
,「練習とシーズン制の関
リカには家庭の中であるいは公園などでバスケットボー
係」について検討することにした。
ルに親しむ環境が整備されており,チームに所属せずに
バスケットボールを行うことが可能である。また,実際
バスケットボール競技開始年齢とチーム所属(競技開始
にピックアップ・ゲームなどの形で多くの子どもがバス
時の環境)
ケットボールを楽しんでいることも報じられている。バ
アメリカの子どもたちは,男子が平均4.
6
3歳,女子が
スケットボールを子どもに体験させるこのような土台が
平均5.
7
0歳のとき初めてバスケットボールをプレーして
アメリカの子どもにはごく身近に整っており,このこと
いたが,我々が先に行った日本において有料のバスケッ
が小さな頃からバスケットボールに触れる機会を多くも
トボール講習会に参加した子ども達5
1名を対象に行った
たらし,子どものボール操作技術や身体操作技術の自然
調査13)では最初にバスケットボールを行った年齢は男子
な形での向上につながることが十分考えられる。日本に
で平均8.
6
7歳,女子で平均8.
5
0歳であった。また,初め
おいても,ゴールデンエイジを対象とした早期の指導体
てチームに所属した年齢も,アメリカでは男子平均7.
0
制の構築が求められるであろう。
歳,女子平均8.
0歳であったが,先の日本の子どもたち
の調査では男子平均9.
9歳,女子平均8.
8歳であり,バス
3
8
2
アメリカにおける子どものバスケットボール競技参加に与える要因について
の子どもの家庭にはバスケットボールリングが設置して
「バスケットボール競技のための家庭環境」
あることが示された。このことに関しては日米比較をす
子どものスポーツ活動は家庭環境の影響が大きいこと
ることは日本の住宅事情からも全く意味をなさないもの
は明らかである。特に,両親がバスケットボール競技に
であることは明らかであるが,少なくともアメリカにお
興味関心があること,あるいは両親,兄弟がバスケット
ける子どものバスケットボール競技環境の充実(改善)
ボール競技経験者であることは子どもの競技開始年齢に
に一役を担っており,子どもが早期に自然な形でいつで
影響を与え,さらに競技を続ける上にも大きな影響をも
もバスケットボールにふれる機会を提供することで,ア
たらすと考えられる。
メリカのバスケット強国を支える一因になっているとも
今回の調査でも講習会に参加した子どもの親は子ども
のバスケットボール活動に非常に興味関心を持っており, 考えられる。一方,親のバスケットボール競技への関心
が高い場合には家庭内にバスケットボールリングが設置
試合観戦も多く行っていることが示された。実際,小規
してある割合が高いことは容易に推察できるが,今回の
模な学校対抗戦においても多くの家族が駆けつけて応援
調査で親がバスケットボール競技にあまり興味がないあ
している状況をアメリカ滞在中に何度も目にした。子ど
るいは全く興味がないと回答した1
3名中,1
2名の家庭に
ものスポーツ活動を家族が関心を持って応援するという
バスケットボールリングが設置してあるという回答が得
アメリカの生活スタイルに起因するところも大きいと考
られた。親の競技経験の有無や意識の高低に関わらずほ
えられる。子どものスポーツ活動になかなか気が回らな
とんどの家庭にリングが設置されていることは,リング
い,あまり関心がない,子どもの勝手な活動であると
の設置がアメリカでは一般的になっていることを表して
いった感覚の強い日本においては難しい問題であるが,
いると考えられる。つまり,単にいつでもシュートがう
バスケットボール競技に限らずスポーツ活動,スポーツ
てるといったようなことではなく,バスケットボール競
観戦が生活の一部に取り込まれるような環境が定着する
技がアメリカではポピュラーなスポーツであり,家庭の
ような努力も今後必要となると思われる。また,両親の
中にも広く浸透し,日常化しているということを象徴し
バスケットボール競技経験も子どもが早期にバスケット
ていると思われる。
ボールに触れ始めるための大きな要因となっている。今
回の講習会参加者の両親もかなりの高い割合でバスケッ
トボール競技を経験しており,中でも父親のバスケット
「練習とシーズン制の関係」
ボール競技経験は大きいことが示された。今回,両親の
練習時間については,シーズン中とオフシーズンにつ
競技経験の有無と子どもがバスケットボールをはじめて
いてそれぞれ調査したが,オフシーズンもシーズン中と
行った年齢の関係についての資料は掲載していないが,
あまり変わらない練習日数であった。練習の単位時間こ
両親共に競技経験のない子どものバスケットボールを初
そ少なくなっているが,オフシーズンといえどもまった
めて行った年齢は平均で5.
6
5歳であったが,少なくとも
くバスケットボールから離れた時期を過ごしているわけ
両親のいずれかに競技経験のある子どもの平均は4.
8
9歳
ではないということが明らかになった。しかしながら,
であった(p<0.
0
1)
。また,最初にチームに所属した
アメリカではコーチがついた練習を行ってはいけないと
年齢についても,両親共に競技経験のない子どもの平均
いうのがオフシーズンのルールとなっている。今回の調
は7.
5
9歳であったが,少なくとも両親のいずれかに競技
査結果で得たアメリカのオフシーズンの練習時間という
経験のある子どもの平均は7.
3
4歳であった。これらには
のは,今回調査を行ったキャンプのようなものを除けば,
有意な差が認められなかった。これらの結果は,両親の
基本的には指導を受けないで練習する時間があるという
競技経験の有無は子どものバスケットボール開始年齢に
ことであり,その点で日本と大きく環境が異なる。日本
有意な影響を与えるが,チームに所属する年齢には大き
の子ども7
1名を対象とした調査では1週間当たりの被指
な影響を与えなかったことが示していると考えられる。
導競技時間は小学生で平均8.
7時間,中学生で平均1
3.
4
このことは,チームに所属するのは両親が自らの経験か
時間,高校生で平均1
4.
9時間であったのに対し,指導を
ら子どもたちにチームへの所属を促しているということ
受けることなく競技を行った時間は,1週間あたりで小
ではないこと,また,バスケットボールを好きな子ども
学が平均1.
4時間,中学が平均1.
7時間,高校生が平均
が低学年期からチームに所属することを選択できるほど
1.
5時間という結果であった。オフシーズンの概念がな
バスケットボールが社会的に一般化しているということ
い日本では,この「指導を受ける競技時間」
・「指導を受
を示しているともいえる。実際,アメリカでは学童期の
けない競技時間」の比率が年間を通してほとんど変わら
体育の授業でバスケットボールを行っていない。つまり, ないといえる。このことに関しては,「遊びというより
学校体育としてバスケットボールをするまでもなく,も
組織をつくり,教えてもらう,教わるといった塾的なス
8)
うすでにバスケットボール競技がアメリカの一般社会に
ポーツや運動を行っている子どもが多い」
とする浅井ら
根付いているということがうかがえる。
の指摘が当てはまるように思われる。また,賀川12)は
家庭にバスケットボールリングがあるのはアメリカの
「組織に基づくスポーツ活動は,大人の管理下にあるだ
住宅の特徴ともいわれるほどその設置が多いことが想像
けに安全面への配慮・活動の効率化等が促進されている
される。もちろん,都市部住宅かあるいは郊外の住宅か, ともいえるが,逆にその分だけ,子ども達の自発性・主
あるいはバスケットボール競技に対して関心があるかそ
体性を阻害しているとも言える。
」と指摘している。ア
うでないかによっても状況が異なることは当然である。
メリカにおけるオフシーズン制度の利点は多種目のス
今回はバスケットボール講習会に参加した子どもの家庭
ポーツを経験するための環境設定にとどまらず,コーチ
に限って聞いた回答であることが前提であるが,約9
0%
がつかない練習の機会が増えるという効果も考えられる。
3
8
3
千葉大学教育学部研究紀要 第5
6巻 Á:自然科学系
さらに賀川12)は「本来,スポーツ活動は実施者の意思に
よって,自発的・主体的に実施されるべきものである。
」
と述べており,アメリカの競技環境におけるシーズン制
度の適用はオフシーズンには全くバスケットボールを競
技しないのではなく,指導者の管理下ではない,自由な
発想でプレーを許される競技環境が与えられている意味
で結果として賀川の指摘を実践しているように思われる。
年間試合が連続し,かつ成績重視の傾向が強い日本のバ
スケットボール競技環境においては,その組織の指導者
の管理のもと,ある一定の時間的・空間的制約の中で競
技を行っているが,アメリカにおけるシーズン制のメ
リットも考えてみる必要はあるように思われる。
オフシーズンに限らずバスケットボール以外の競技ス
ポーツについて質問したところ,全体では8
6.
3%の子ど
もがバスケットボール以外のスポーツ競技も実践してい
るという結果を得た。中には複数種目を行っている子ど
ももみられた。年齢的には男子では1
0歳から1
5歳まで,
女子では1
1歳から1
4歳まで,ほぼ8
0%を超える割合で他
の競技種目をしていることが示された。バスケットボー
ル競技は「走る」
,「跳ぶ」といった持久力や瞬発力に加
え,多彩な身のこなし,すなわち手足の協応性や調整力
といった能力の高さが要求される。浅井ら8)は「子ども
の頃に多種目を経験することで体のすべての部分を鍛え,
さまざまな動作を習得することが可能になる」と述べ,
多種目の競技を経験することは多彩な身のこなしを可能
にし,バスケットボールにおける競技力の向上にも非常
に効果的であるとしている。また,川原塚9)は,「1つの
種目のみを過剰に行うことによって,筋肉は偏って酷使
され,骨組織に大きな影響を与えて,子どもたちの健全
な身体の成長が阻害される」と指摘している。また,「1
種目への偏りは身体的な問題を引き起こすだけではない。
スポーツ嫌いというメンタル面への悪影響も与えてい
る。
」と述べており,1種目に偏った競技経験を強く否
定している。山岸10)も,「子どもたちのスポーツ活動と
指導者のあり方」という記事の中で,シーズン制を取り
入れて行うことを指導者に求められていることとして列
挙している。福永11)も,「シーズン制は複数の種目を経
験することになり,そうするとバランスのとれた身体発
達,及びドロップアウトやバーンアウトの防止にもつな
がる。また,成人での高度な競技力の発揮につながり,
個人の発育の特性にも無理のないものになる」と指摘し
ている。日本のスポーツ界においては比較的一つの種目
に固まる傾向があるように思われるが,アメリカのシー
ズン制のメリットを考慮し,子ども達に多種目のスポー
ツ競技を体験させ,多様な身のこなしを習得した選手を
育成するシステム導入もその子どもの将来の競技力向上
のために今後必要になるのではないかと考えられる。
バスケットボール以外の競技スポーツを行っています
かについての結果を表1
1に示した。男子では8
4.
2%,女
子では8
9.
2%の子どもがバスケットボール以外に競技ス
ポーツを行っていた。
「競技力向上と栄養の必要性」
スポーツ選手が最高のパフォーマンスを発揮するため
に食事,栄養の取り方が重要であることが近年では広く
3
8
4
認められてきている。特に子どもが競技に参加している
場合はその子の将来を考え,両親がいろいろ食事にアド
バイスを与える報道も多い。今回の調査では両親からの
栄養に関するアドバイスの有無は全体では7
9.
6%の子ど
もが両親からアドバイスを受けたと答えた。この数値か
らも子どもの競技活動に対するアメリカの両親の関心度
が高いことが十分に推察できる。また,両親の指導に対
する子どもの受け止め方については,強く思う,ややそ
う思うを併せて9
0%を超える子どもが両親のアドバイス
に対して肯定的にとらえていることが示された。日本の
スポーツ界においても近年では栄養士等による講習会,
栄養指導が多く行われ,選手(子ども)
,指導者,父兄
の栄養に対する関心度を高めようと努力している。子ど
もの競技者には競技力向上,傷害の防止はもちろん,特
に順調な成長が一番に求められる。競技によっては子ど
もの頃から過激な栄養対策を強いられる場合も少なくな
い。今後の日本バスケットボール競技において優秀なプ
レイヤーを輩出するためにも,子どもの頃からの食事栄
養対策には十分な配慮をしていく必要があると考える。
ま と め
本研究では,アメリカにおける子どものバスケット
ボール競技環境が将来の競技力に大きな影響を与えると
考え,その実情を調査した。アメリカでは低年齢期から
バスケットボールに触れる土台が整っており,ゴールデ
ンエイジ初期の段階での競技環境は日本と大きく環境が
異なっていることが示唆された。この時期の競技環境の
整備がアメリカと日本の競技力の差を決定付けるひとつ
の要因となつていると考えられる。日本においても,低
学年の頃からチームが受け入れられるような環境設定が
必要となるであろう。アメリカでは父親が子どもの競技
開始時に強く影響を与えている。日本においても低年齢
期から子どもたちがボール触れる機会を多くする対策も
検討すべきである。アメリカの子どもはバスケットボー
ルだけでなく,多種目を経験することが高い競技力を形
成している要因の一つと考えられる。子どもの時期には
バスケットボール以外にも多種目を経験できるような競
技環境の整備が必要であると考えられる。また,オフ
シーズン制度の導入はコーチがつかない競技経験を多く
積むことができ,コーチに管理されない練習を積むこと
が,子どもの主体性,想像力,判断力などの能力の向上
に好影響を与えると考えられる。子どもの時期にアメリ
カのシーズン制度のようにオフシーズンを作ること方策
も挙げられる。
参考文献
1)財団法人中学校体育連盟:部活動調査の集計及び加
盟校の集計http://www.japan-sports.or.jp/chutairen/
2)SSF笹川スポーツ財団:スポーツ白書2
0
1
0,2
0
0
2
3)財団法人全国高等学校体育連盟:http://www.zenkoutairen.com/index.htm
4)日 本 バ ス ケ ッ ト ボ ー ル 協 会:http://www.jabbanet.com
アメリカにおける子どものバスケットボール競技参加に与える要因について
5)月刊バスケットボール:集英社
6)梅崎高行,日比野弘,石井信輝:ゴールデン・エイ
ジ期のサッカー選手に重視すべきコーチング項目の探
索的研究,スポーツ方法学研究,1
3,1
1
3―1
2
1(2
0
0
0)
7)鈴木英一,三ツ木直人,鈴木一太,ほか:成長期
サッカー選手における腰部,下肢のスポーツ障害調査
(第1報)とくにゴールデンエイジ後期の競技レベル
サッカー選手について,臨床スポーツ医学,
1
5:1
4
3
2―
1
4
3
5(1
9
9
8)
8)浅井利夫,山崎香:子どものスポーツ,保健の科学,
3
5:2
1―2
5(1
9
9
3)
9)川原塚達樹:子どものスポーツぎらいを生み出すも
7(1
9
9
9)
の,青少年問題,4
6Á,2
2―2
1
0)山岸二三夫:子どものスポーツ活動と指導者のあり
方,青少年問題,4
6Á,1
6―2
1(1
9
9
9)
1
1)福永哲夫:ジュニアスポーツについて考える―子ど
もの全国大会のあり方―part1 身体の発達の面から
筋,筋力の発達から見て子どもの全国大会をどのよう
に考えたらよいか,Coaching Clinic,1,6―1
1
(2
0
0
0)
1
2)賀川昌明:子どものスポーツ,その実態と問題点,
1(1
9
9
6)
青少年問題,4
3Á,1
6―2
1
3)鈴木良和:未発表資料
3
8
5
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