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日系トランスナショナリズムの「再構築」

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日系トランスナショナリズムの「再構築」
日系トランスナショナリズムの「再構築」
―日系アメリカ人学生組織に表出する「日本・JAPAN・Nikkei」―
立命館大学
木下
昭
1:目的と方法
いわゆる日系アメリカ人のエスニシティは、太平洋戦争時の強制収容に対する補償運動の成功
を経て、アメリカ社会における集団的経験の再解釈を基盤としたものへと移行したとされる。そ
の結果、「日本」との関係は、希薄なものとなったと考えられてきた。しかし今日、必ずしもこ
れに沿わない、トランスナショナルな関係も見てとれる。本報告では、現代のアメリカにおける
日系エスニシティの姿を、「日本」との関係に注目して、大学生たちがキャンパスで結成する組
織を例に見てゆきたい。
Filipino や Korean といった言葉を名前に含む学生の団体は、アメリカにおけるエスニック・
グループの代表的組織して、とりわけ 1970 年代以降多くの大学で結成され、いわゆるアイデンテ
ィティ・ポリティクスの主要な担い手となってきた。ここでエスニック学生組織と呼ぶこうした存
在は、エスニック・グループの多様化が全般的に明示される中で、そのエスニシティの一端を切
り取るにあたって、欠かせない視点を提供してくれる。日系に関係する学生組織にもさまざまな
タイプがあるが、本稿で主に扱うのは、各大学でそのエスニック・グループを代表するような存
在である。この種の組織は日系の場合、Nikkei Student Union(以下 NSU と略す)と称するこ
とが多い。エスニック学生組織は、その組織名に表象された集団の社会的問題の解決や、自己文
化の認知を自他に求める活動が、その趣旨に合致しているように思える。しかし、NSU は、必
ずしもこうした性格を保持しているわけではない。
本報告は、1999 年秋から 2000 年春にかけて、そして 2010 年 3 月に行ったカリフォルニア大学サ
ンディエゴ校(University of California, San Diego、以下 UCSD と略す)の NSU におけるアンケ
ート調査およびリーダーに対するインタビュー、そして彼らのイベントへの参与観察、印刷物やイン
ターネットなどからの情報収集に基づいている。調査地のサンディエゴには、日系アメリカ人研究の
中心地であるロサンゼルスやサンフランシスコのように、いわゆる日系コミュニティは存在しない。
今日彼らのコミュニティが存在しない地域が大部分であることを考慮すると、当地での調査は、その
不在の影響を考察する上で重要である。
2:結果と結論
1999 年から 2000 年までの調査で、NSU に見出されたのは、
「日本」との関係が皆無であった
だけではなく、日系アメリカ人組織としての性格の希薄化であった。しかし 2010 年における再
調査において見出されたのは、大きな状況の変化であった。その活動に、「伝統的な」日本の舞
踊や太鼓だけでなく、日本語や J-POP が取り上げられるようになり、10 年前は皆無に近かった
日本人との交流も目に見えるものとなっていた。その結果、明確な区分のない日本、Japan、そ
して Nikkei への関心・関係が媒介する形で、この学生組織には、日系アメリカ人、日本人、そ
してその双方にも血縁関係の皆無な学生たちが緩やかに縫合されていた。そして、日本への複合
的なトランスナショナリズムが表出する一方で、ポスト・エスニックな側面も見出せ、今日のダ
イナミックなエスニシティのありようがうかがえた。
木下昭
2009
『エスニック学生組織に見る「祖国」:フィリピン系アメリカ人のナショナリズムと文化』不二出版
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