Comments
Description
Transcript
本態性振戦がパーキンソン病に変貌を遂げるとき
パーキンソン病診断のコツとPitfall パーキンソン病とパーキンソニズムをきたす疾患の鑑別のポイント 本態性振戦がパーキンソン病に変貌を遂げるとき 福武 敏夫 Toshio Fukutake 亀田メディカルセンター神経内科 部長 学的研究の蓄積によって確からしいとされてきたことで ある。本稿では,特にこの第二の問題点について,自験 はじめに 例を紹介したうえで考察する。 ET として経過観察中に PD を発症した自験例 本態性振戦(essential tremor:ET)とパーキンソン病 (PD)は運動異常症のなかで最も頻度の高い2つの,本 来互いに区別される疾患であるが,その関係については 200年にわたって議論されてきた。振戦は当然ながら ET 筆者は33年の神経内科診療のなかで,以前の勤務地 の根本的な症状であり,PD においても主要症状の1つで (鹿島労災病院,千葉大学医学部附属病院など)で, あって,さらに振戦が目立つ一群(亜型)がある。このた ET として経過追跡中に PD を発症した例を数例経験し, め,2つの疾患は互いに誤診されることがある。特に,振 さらに現在の病院における12年間の外来にて4例を経験 戦が前景に出ている患者では実際は ET である場合も PD した(表1)。これは,この間に一個人として診察して と診断され,抗 PD 薬が開始されることすらある。ET に きた PD 症例のおよそ5%にあたるが,ET 患者総数に おける振戦は4~12Hz で姿勢時・動作時に現れ,PD に 対する割合は残念ながら算出できない。この他に,起立 おける振戦は4~6Hz で静止時に現れるという基本的な 時下肢振戦(orthostatic tremor)の高齢男性が数年後 鑑別法はあるが,実臨床では紛らわしい振戦を呈する患 に PD を発症した例も経験した。 者にときどき遭遇する。ET と PD の振戦を明確に鑑別で きる有用な手段に乏しいために,初期の診断は他の症状 の病歴聴取や家族歴・薬物歴,筋強剛などの診察に頼ら 1.症例1 初診時72歳女性,左利き。 ざるを得ない状況であったが,最近では MIBG 心筋シン 【主訴】両手指のふるえ。 チグラフィ(MIBG 心筋シンチ)や脳ドパミントランス 【既往歴・生活歴】60歳時にめまい症を来し,それ以降 ポーター(DAT)スキャンのような検査法も登場している。 慢性的にふらつき感を覚える。喫煙はせず,飲酒は毎日 ET と PD を鑑別するうえでの以上のような状況に加 日本酒1合程度。 えて,さらに2つの問題点がある。その第一は,ET と 【家族歴】父親が晩年少しふるえを呈していた。 PD との間のつながりを示唆する臨床・生理学的事実が 【現病歴】数ヵ月前から,左優位に両手指のふるえが出 次々と判明していることである。特に,振戦の周波数の 現した。安静時や強く力を入れているときには出現しな 類似性や静止時振戦と姿勢時振戦の重なりの存在である。 いが,コップで飲水するときに目立ち,飲酒でふるえが 第二は,ET 患者の一部が後に PD を発症することが疫 減弱するかはわからないという。近医から PD 疑いで紹 30(206) Frontiers in Parkinson Disease Vol.8 No.4 2015 SAMPLE Copyright(c) Medical Review Co.,Ltd.